説明

対側アレイベースの経頭蓋超音波収差補正

特に透過画像化又は治療における超音波収差を、2次元受信トランスデューサアレイ(104、108)により、受信した超音波の収差の横方向に2次元性をキャプチャすることにより補正する。いくつかの実施形態では、透過超音波(164)は、時間的ウィンドウにより照射され、例えば、一度に1つ以上のリアル又はバーチャルの点音源(160)から放射される。各点音源は1つのトランスデューサ要素、又はパッチ、又は要素又はパッチの集まりのジオメトリカルフォーカスである。一態様では、パッチは近接場における小さなフォーカスされたトランスデューサとして機能する。対側アレイ(104、108)は、一実施例では、点音源よりなる。いくつかの態様では、独立変数的には、受信トランスデューサのアレイ構造に対応するように構成された収差マップは収差推定を化体し、超音波デバイスは、超音波送受信の位置の改善又はビーム形成の補正をするためにデバイス設定を修正することにより、超音波オペレーションを改善するように構成されている。改善には、ビーム配置の可視化、強度とビーム形状の予測が含まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波収差推定と補正に関し、より具体的には、透過超音波による推定に関する。
【背景技術】
【0002】
脳卒中は世界的に見て主要な死因のひとつであり、緊急の脳卒中治療はtPA(tissue plasminogen activator)などの血栓溶解剤しかない。
【0003】
最近の臨床研究によると、tPA治療に加えて超音波を用いると虚血性脳卒中患者の予後が改善することも分かった。
【0004】
脳卒中患者にとって「時間は脳である」なので、早期診断をして、できるだけ早く何らかの治療を開始することが望ましい。救急車内などの緊急の場合に診断、治療、及び治療のモニタリングを行う、医療用超音波などの非侵襲的かつ利用が容易な方法が明らかに必要である。
【0005】
超音波ビームに対して人間の頭蓋は強い周波数依存収差効果を有する。側頭骨(頭蓋の最も薄い部分)でさえその凸性と、表面の粗さと、超音波ビームが脳に入る又は脳から出るときの複数のインピーダンスとのため、超音波ビームを強く回折、反射、及び減衰する。これらの効果は患者毎に大きく違い、頭蓋の位置や超音波トランスデューサの方向に強く依存し、頭蓋を通した音波血栓溶解(sonothrombolysis)の効率と再現性の両面に影響する。
【0006】
従来のパルス・エコーモードにおける適応的収差補正(リフォーカシング)法はこれらの問題を解決する可能性を秘めている。しかし、かかる方法は、超音波画像化アプリケーションでは、今のところほとんど治療には使われていない。これらは、検査している組織により後方散乱されたノイズが多く相関が乏しい信号に依存し、収差の推定がうまくできない。これは、頭蓋の挿入損失が強い経頭蓋超音波画像化にとって特に問題となる。コンピュータトモグラフィにより求めた頭蓋形態に基づくその他の実験的な方法は、緊急の場合には現実的ではない。緊急の脳卒中患者にはコンピュータトモグラフィ(CT)が利用できない場合があり、CTと超音波のコ・レジストレーションが複雑で時間を要するからである。
【0007】
非臨床的場合の実験では、受信リニアアレイへの超音波源としてトランスデューサを用い、人間の頭蓋骨の外側にアレイを当て、頭蓋骨の内側に超音波を入射する。入射波面(arriving wavefront)は、トランスデューサの開口サイズを調節することにより、規則的な形状に、すなわち球面の一部のような形状にできるが、骨により収差を生じる。受信時の遅延を調整して波面に規則性を回復すると、受信側から及び骨を通して適用される超音波補正の基礎となる。臨床アプリケーションでは、収差測定時に照射する超音波は、頭部の両側の骨を通して通過しなければならず、減衰が大きな問題となる。
【0008】
音響周波数の低下は、信号対ノイズ比(SNR)を大きくし、経頭蓋波面のコヒーレンスの収差のインパクトを小さくする方法として見られていた。その結果、波長が長くなるので、これを補償するため、開口を大きくして解像度損失を回復する。しかし、開口サイズを大きくすると、回折限界解像度に近づくために何らかの補償や信号処理が必要となることが分かった。非特許文献1を参照。
【0009】
最近の臨床研究によると、超音波・tPA治療と組み合わせて造影マイクロバブルを追加すると、急性脳卒中患者の予後(outcomes)が改善することが分かった。
【0010】
しかし、現在、マイクロバブルで改善した脳卒中治療の再現性と安全性は、経頭蓋超音波減衰と収差に関する不確実性により非常に評判が落ちている。
【0011】
記録のある先行技術の欠点を後で解決する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】「Sampled Aperture Techniques Applied to B-Mode Echoencephalography」、Phillips D. J., et al.著、Acoustic Holograms 6, 103-120 (1975)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本願発明者の洞察によると、超音波が側頭骨を通る時に受ける収差の2次元(2D)性を考慮するとよい。例えば、入ってくる超音波ビーム波面の一部は、2次元空間の横方向に屈折する。その方向は、超音波プローブにより受信される直前に、その超音波ビームの一部が通過する側頭骨の局所的な表面の不規則性があればそれを含み得る要因に依存する。
【0014】
本提案は、マイクロバブルにより改良した脳卒中治療の現時点での限界を解消し、治療的超音波ビームプロファイル(特に、焦点位置とビーム形状)と超音波強度、すなわち超音波照射線量の正確な制御を可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
ここで提案するものによる発明的デバイスは、不均一媒体を通過した透過超音波を受信するように構成された2次元アレイを含む。このデバイスは、推定結果を超音波オペレーションの改善に用いられるように、受信した超音波に関する収差推定を実行するように構成されている。
【0016】
本発明の一態様において、上記のデバイスは、前記推定結果に基づき、a)超音波送信又は超音波受信の少なくとも一方のロケーションの改善、及びb)超音波のビーム形成の補正のうち少なくとも一方をするために、前記装置の設定を修正するように構成されている。
【0017】
いくつかの実施形態では、修正し位置を改善する段階は、音響ウィンドウの選択された配置及び/又は選択された範囲に基づく。
【0018】
推定結果について、いくつかのバージョンでは、エレベーションとアジマスの両方が独立変数である少なくとも1つの収差マップを含み、修正はそのマップの1つ以上に基づく。
【0019】
他の観点から、推定結果は空間的独立変数を有する収差マップを含む。信号時間遅延、信号振幅、及び信号歪みのうち少なくとも2つは、そのマップのそれぞれの従属変数である。
【0020】
サブバージョンでは、前記結果は信号振幅マップと信号歪みマップのうち少なくとも一方を有し、前記デバイスは前記マップの少なくとも一方を重み付けマップとして利用して、個々のトランスデューサ要素又は個々のパッチのビーム成形に対する貢献を調整するように構成される。
【0021】
いくつかの態様では、上記デバイスは、対側トランスデューサアレイを有し、1つの超音波送信パルスから、両側からビーム波形を受信するように構成される。
【0022】
副態様では、上記デバイスは、さらに、ビーム形成により両側で取得された画像を合成するように構成される。
【0023】
上記デバイスの場合、他の副態様では、透過超音波は対側アレイから放射される。上記デバイスは、ビーム形成において、上記の収差推定と、対側で受信された透過超音波に対する収差推定との両方に基づき、それぞれの受信収差補正を考慮するように、構成される。
【0024】
さらに別の態様では、上記デバイスは、対側トランスデューサアレイに分布した、パッチ又はトランスデューサ要素である点音源から、前記透過超音波を放射し、実行された収差推定に基づき、音響ウィンドウを選択するように構成される。
【0025】
別の態様では、上記デバイスは、前記2次元アレイ又は対側アレイを、そのパッチのサイズより小さい距離だけ並進移動するように構成されたアレイ配置アジャスタを含む。
【0026】
他の一態様では、上記デバイスは、アレイの対側に配置する透過超音波の音源を含む。
【0027】
副態様では、音源は、入力が最初は別々にビーム形成されるパッチを含む。このパッチは、収差推定の実行の場合、アレイに対して点音源として機能する。
【0028】
異なる副態様では、音源は対側アレイを有し、デバイスはその対側アレイからのビームを側頭骨の外側表面にフォーカスするように構成されている。このフォーカスは、収差推定の実行の場合、トランスデューサアレイに対して点音源として機能する。
【0029】
さらに別の一態様では、超音波補正は、透過超音波が通過する不均一媒体の一部の特性に超音波を調整する段階を含む。
【0030】
さらに別の態様では、デバイスは、マルチエレメントトランスデューサアレイとディスプレイとを有するデバイスであって、収差推定の結果に基づいて、対応する収差ビームの形状を予測し、前記ディスプレイに前記予測した形状を表示するように構成される。
【0031】
副態様では、前記収差推定は、不均一媒体を通り、2次元である前記トランスデューサアレイで受信された透過超音波に対して行われる、
ここに提案する発明の方法は、ある瞬間に、2以上の空間次元で、不均一媒体を通過した透過超音波を受信する段階と、前記受信した超音波に、前記2以上の空間次元で横収差を提供する収差推定を実行する段階であって、前記推定の結果は超音波オペレーションの改善に用いることができる段階と、を有する。
【0032】
副態様では、前記改善する段階は、2以上の次元を有する位相遅延マップに基づき位相遅延を修正することにより、収差を補正する。前記マップの要素のペアの間の相対的時間ラグを前記修正に用いる段階を有する。
【0033】
他の方法は、超音波照射量の調整に関し、対側構成のトランスデューサアレイを設ける段階を含む。また、治療領域からオフセットしているがその深さにある参照領域にバブルを供給する段階を含む。さらに、強度を上げながら超音波を印加し、前記アレイの少なくとも1つにより、前記強度の上昇に対する、前記バブルの振動のサブハーモニック周波数成分の振幅の増加をモニターする段階を含む。
【0034】
他の態様では、装置は、2次元トランスデューサアレイにより受信した透過超音波の収差推定の結果を用いて、自動的にかつユーザ介入を必要とせずに、前記デバイスの設定を修正して、少なくともa)超音波送信と超音波受信の少なくとも一方の位置の改善と、b)超音波のビーム成形の補正とのうち少なくとも一方を行うように構成される。
【0035】
さらに別の一態様では、不均一媒体を通過した透過超音波を受信する2次元トランスデューサアレイの使用により、超音波オペレーションの改善を実現するコンピュータソフトウェア製品である。この製品は、コンピュータプログラムを化体するコンピュータ読み取り可能媒体を有し、そのコンピュータプログラムは、受信した透過超音波に対して収差推定を行い、推定の結果が改善に使えるようにする、プロセッサにより実行されうる命令を含む。
【0036】
さらに別の態様として、上記のデバイスは1つ以上の集積回路として実施できる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
新規な、経頭蓋超音波収差推定/補正方法と装置の詳細を、次の図面を参照して、以下に説明する。図面では、同じ構成は同じ又は同様の数字により示した。
【図1】2次元超音波トランスデューサアレイの対側構成であって、アレイの一方の点音源が第2のアレイを透過超音波により照射しているものを示す図である。
【図2】推定される収差に基づく音響ウィンドウの選択と、トランスデューサの開口を選択したウィンドウとのアライメントを示す図である。
【図3】パッチへの分割と異なる位置へのアレイの並進移動を示す2次元超音波トランスデューサアレイを示す図である。
【図4】図1の照射により求まる収差マップを示す図である。
【図5】位相遅延補償と、個々のトランスデューサ要素又は個々のパッチのビーム形成への貢献を重み付けマップとして調整する収差マップの使用とを示す概念図である。
【図6】図1の対側構成の修正例であって、右側頭骨の外側表面にフォーカスするように透過アレイを並進移動させたところを示す図である。
【図7】治療的ビームの治療領域への照射を示す、対側構成の一例を示す図である。
【図8】マイクロバブルベースの強度推定であって、超音波強度を測定するためにテストビームの治療領域への照射例と、同じ深さにある参照領域へのテストビームの照射例とを示す図である。
【図9】ビーム収差を考慮した送信ビームの予測形状を現すパターンを示す図である。
【図10】経頭蓋画像化/治療収差予測/補正プロセスを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0038】
図1は、プローブ112、116にそれぞれ収容された2次元(2D)トランスデューサアレイ104、108の対側構成を有する超音波デバイス110を例示する図である。アレイ104、108は、それぞれアレイ配置アジャスタ120、124に接続されている。アレイ配置アジャスタ120、124は、ヘッドフレーム又はヘッドピース128の各端にそれぞれ接続されている。本発明は特定の生体に限定されないが、ヘッドピース128は、人間の患者や温血哺乳類などの動物など医学的対象の頭蓋132に固定して、ひも、バックル、ベルクロ(登録商標)、その他の調節可能な手段により指示される。この対象はインビトロ又は生体外の医学的サンプルであってもよい。各プローブ112、116は、ケーブル136、140により、超音波装置144に接続されている。超音波装置144はディスプレイ148、プロセッサ152、及びユーザ制御パネル156を有する。プロセッサ152は、波面収差推定/補正、強度制御、及び収差ビームプロファイル予測のためのソフトウェア157、及び/または1つ以上の集積回路158、及びワーキングメモリ(working storage)159を含む。2次元トランスデューサアレイの対側構成を有する超音波装置の別の潜在的特徴は、Browning et al.の共有に係わる国際公開第WO2008/017997A2、「Ultrasound System for Cerebral Blood Flow Imaging and Microbubble-Enhanced Blood Clot Lysis」に記載されている。この文献の開示はすべてここに参照援用する。
【0039】
操作上、ある対象の経頭蓋画像化又は治療において出会う収差の推定は、準備手順において行われる。右側(または対側)アレイ108のトランスデューサやパッチ(すなわち、隣接する複数のトランスデューサ要素の小グループ)などの点音源160から、透過超音波のビーム164が放射される。点音源160は、点音源の音響パワーを増大する隣接する複数のパッチの組み合わせであってもよい。透過超音波は、伝搬方向で受信するために放射された超音波であり、通常は送信デバイスで受信される反射超音波と対照的である。透過超音波は、パルス・エコーモードと反対の、スルー送信モードで照射された超音波としても知られている。ビーム164は、例えば3.2MHzの、例えば4サイクルごとの、短いパルスで形成されている。ビーム164は、左手アレイ104に届くまでに右側頭骨172と次の左側頭骨176を含む不均一媒体168を通過する。「側頭骨」との用語は、1つの頭蓋骨を指して用いられることもあるが、ここでは、左又は右の側頭骨のどちらかを指すものとする。
【0040】
点音源より大きい開口を用いて、右側頭骨172を通る超音波を右から放射すると、骨の表面と形状の不規則性により現れる波面は収差を起こす。頭蓋132のサイズと右側頭骨172により生じる収差の強さに対して、開口のサイズは選択可能であり、そのため収差を生じた波面は頭蓋の反対側に届く時間により安定化される。
【0041】
超音波源をトランスデューサ要素やパッチなどの点音源160にすることにより、近接場においてはかかる収差効果を仮想的に無くなる。規則正しい波面が頭蓋132の反対側に確実に届くことになる。
【0042】
遠隔場では、左側頭骨176は、左手アレイ104に届く超音波に影響する収差特性を有する不均一媒体168の一部である。
【0043】
(本推定手順の後の)補償において、治療用又は画像化ビームの形式で、反対側からのデリバリーのため、すなわち左手アレイ104による、超音波の補正は、その超音波をこれらの特性に合わせることを目的としている。調整(tailoring)は、位相収差補正とビームフォーミングの場合のトランスデューサ要素/パッチの送受信重み付けを含むが、後で詳細に説明する。
【0044】
推定手順に戻るが、左手アレイ104による受信は、いつでも、アレイの2つの空間次元で生じ、それに対応して有利にも収差推定はその2つの空間次元における収差を考慮できる。
【0045】
例えば、左手アレイ104は点音源から超音波を受信する。具体的に、各受信要素180、すなわち左手アレイ104のパッチや単一のトランスデューサ要素は、一連の圧力値(pressure readings)をサンプリングする。この値は、その受信要素180の、振幅と取得時刻のペア値として記録される。これは、最後の点音源が処理されるまで、次の(隣接する)点音源160に対して繰り返される。
【0046】
ある実施形態では、次に収差推定におけるこのプロトコルを逆にして、左手アレイ104の点受信器180(新しい点音源として機能する)からの放射を、点受信器ごとに、右手アレイ108で受信する。換言すると、右側頭骨172の収差特性を推定するために、役割を逆にする。
【0047】
図2は、例示により、推定した収差に基づく音響ウィンドウ204、208、212の選択と、トランスデューサ開口の選択したウィンドウとのアライメント(aligning)とを示す。推定した収差は収差マップの形式を取り、後で説明する。
【0048】
推定した収差は収差マップにより2つの空間次元で得られるが、その推定収差に基づき、音響ウィンドウ204、208、212を選択する。
【0049】
最初に、用語に関して、「側頭ウィンドウ(temporal window)」とは、側頭骨によりその薄さ及び/または空間的滑らかさにより提供される超音波ウィンドウと、その結果の最小の減衰と超音波に対する収差効果とをいう。「音響ウィンドウ」とは、ここでは、超音波ウィンドウをいい、いくつかの実施形態では、側頭ウィンドウ内の超音波ウィンドウをいう。より具体的に、音響ウィンドウは、超音波トランスデューサ104を照射する体表面エリアだけでなく、トランスデューサの開口がアクティブであるエリアの一部も含む。換言すると、音響ウィンドウは、現在の収差推定に基づき、波面収差が最小であると判断される部分である。推定手順は反復的なので、「最良の」、「最適な」、「最も収差が少ない」音響ウィンドウとの用語も用いるが、これらはすべてウォーター(water)(すなわち「軟組織」)パスと比較して減衰、位相ずれ、及び波形歪みが最小の、頭蓋132の部分に関する。音響ウィンドウは、ここでは連続したエリアとみなすが、そのエリアのある(孤立した)点は収差推定において好ましい値を受け取らないことがある。
【0050】
図2の最初の例は、トランスデューサアレイ104が部分的に音響ウィンドウ204と重なっているところを示す。推定手順は行われている。手順の現在の繰り返しに基づき、音響ウィンドウ204を選択した。選択は、音響ウィンドウ204の少なくとも1つの配置と範囲の選択を含む。この例では、配置216はウィンドウ204の中心で特徴付けられる。
【0051】
次に、音響ウィンドウ204を完全に含むようにアレイ104をアライメントする(aligning)することにより、アクティブなトランスデューサの開口がそのフットプリント(footprint)でウィンドウを完全にカバーできる。このように、音響ウィンドウ204は最小の(またはより少ない)波面収差を与え、アクティブなトランスデューサの開口は超音波送信及び/または受信に関してウィンドウを完全にカバーするように構成できるので、超音波送信及び/または超音波受信の位置を改善されている。これは、収差推定を用いた超音波オペレーションの改善となる。
【0052】
さらに、初期開口220は、ここではアレイ104全体を含むが、任意的に音響ウィンドウ204に一致する開口224にカスタマイズすることができる。これは、超音波送信及び/又は受信の位置に関する別の改善となる。少なくともエリアが小さいと超音波処理とオーバーヘッドが少なくなるからである。これも、収差推定を用いた超音波オペレーションの改善となる。ここで、超音波デバイス110に少なくとも2つの設定変更をする。一方はアレイ104の並進移動であり、他方はアクティブトランスデューサ開口の縮小である。変更は、収差マップに反映されている、推定収差に基づき、さらに音響ウィンドウ204の配置216に基づく。
【0053】
図2の第2の例では、トランスデューサアレイ104は偶然に音響ウィンドウ208とサイズが等しい。音響ウィンドウ208は、初期アクティブトランスデューサ開口228とサイズが等しい。したがって、音響ウィンドウ208に一致するようにアレイ104の並進移動を行う。しかし、開口228のサイズ変更やシフトは必要ではなく、望ましくもない。
【0054】
第3の例では、アレイ104は音響ウィンドウ232とは部分的に重なってなく、アレイはウィンドウに完全に含まれている。したがって、アレイ104の並進移動は必要ない。アクティブトランスデューサ開口232は有利にも、音響ウィンドウ212に一致する開口236まで狭めることができる。
【0055】
実際に行ったことは、推定手順の現在の繰り返しに基づき、音響ウィンドウ212を選択したことである。この選択は、音響ウィンドウ212の範囲240の選択を含む。トランスデューサアレイ104の並進移動については設定変更は必要ない。アレイはウィンドウ212をすでにカバーしているからである。しかし、デバイス設定変更により、初期アクティブ開口232をより小さい開口236にダウンサイズした。
【0056】
これらはデバイス110の設定変更の一例であり、インターラクティブに実行できる。
【0057】
上記の例は左手アレイ104のコンテキストで説明したが、右手アレイ108に関しても同様である。これは、収差特性を左手側頭骨176について推定し、次に右側頭骨172について測定し、その逆を行う対側構成のためである。
【0058】
いくつかの実施形態では、各アレイ104、108は、補正アルゴリズムを改善するため、複数のパッチ310に分割される。図3は、代表的な2次元超音波トランスデューサアレイ300の複数のパッチ310への分割を示す図である。各パッチ310は、上記の通り、隣接する個々のトランスデューサ要素の集まりである。それは近接場では小型フォーカストランスデューサとしてモデル化され、遠隔場では点音源としてモデル化される。 パッチ310の構成要素の入出力は、マイクロビーム形状であり、これは(例えば、収差補正ステージにおける)アクティブ開口の各パッチについて行われる。この処理は、例えばプローブ112、116で行える。メインプロセッサ152における第2のビーム形成ステージにより、開口中のパッチ310の結果に基づきビーム形成する。このように、パッチ310の入力は最初は別々にビーム形成されるが、複数のパッチ310の結果は第2ステージにおいて集合的にビーム形成される。パッチを伴う2ステージビーム形成の例は、Powers et al.の共有に係る米国特許第6,623,432号、「Ultrasonic Diagnostic Imaging Transducer with Hexagonal Patches」により詳しく説明されている。この開示は個々にその全体を参照援用する。ここではアレイ300は円形で示したが、四角形など他の形状でもよい。
【0059】
上記の収差推定手順では、受信用のパッチに分割されたアレイ104を繰り返し少しずつ並進移動し、この手順を繰り返すことにより解像度を改善できる。換言すると、収差を推定した後、音響ウィンドウ204、208、212を選択し、超音波デバイス110の1つ以上の設定を変更し、このプロセスを繰り返す。これに関し、アレイ配置アジャスタ120、124は、解像度を微調整するために、並進移動するアジャスタのパッチ310のサイズより短い距離320だけ、繰り返しごとに、横方向に微調整できる。
【0060】
さらに、収差推定手順の一部として、アジャスタ120、124は、最適音響ウィンドウ204、208、212を見つける努力においてなされる、より大きな横方向の並進移動330を処理することができる。
【0061】
後で更に説明するように、アジャスタ120、124はいくつかの実施形態では、軸方向の移動も提供することができる。
【0062】
上記の並進移動又は運動はすべてマニュアルでも電動化してもよい。電動化する場合、収差推定に基づき超音波デバイス110により、自動的にかつユーザの介入の必要無しに行っても良い。
【0063】
収差推定の結果は、透過ビームの形状の表示に基づき、他のインターラクションで利用することもできる。その形状は、収差推定結果を考慮することにより推定可能である。こうしたその他のインターラクションは、デバイス110の他の様々な設定の変更を含み、同様に以下に寄り詳しく説明する。
【0064】
図4は、かかるインターラクションが基づく収差マップ400の3つの例を示す図である。収差マップ400は、図1を参照して説明した原音源・受信アレイ収差推定手順により求められる。図示した収差マップ400は、(信号)位相遅延マップ402と、(信号)振幅損失マップ404と、(信号)波形歪みマップ406である。各マップ402、404、406の右は、対応するスケール408、410、412である。マップ402、404、406とそのスケール408、410、412は、連続スペクトルであり、ここでは白黒で示しているが、カラーコード化されている。よって、例えば、位相遅延マップスケール408の上部は下部と異なる色になっている。これは図4に示した白黒のグラフでは区別できない。とは言え、マップのデザインと機能は図示した白黒のグラフでデモンストレーションできると思われる。
【0065】
3つのマップ402、404、406はすべて空間的には独立な変数であり、すなわち空間次元では独立な変数である。各マップ402、404、406について、その水平次元はアジマス413であり、垂直次元はエレビーション414である。アジマス413とエレベーション414は(空間的な)独立変数である。位相遅れ、振幅損失、及び波形歪みはそれぞれのマップ402、404、406の従属変数である。
【0066】
物理的に、軸方向はトランスデューサアレイ104、108の面に、すなわち皮膚に直交している。アジマス方向は横方向であり、左右であり、エレベーション方向は上下である。
【0067】
したがって、3つのマップ402、404、406は、数学的アレイであり、振幅対時間サンプルを取得した受信要素又はパッチ180に対応するそれぞれのマップの各要素415、416、408は取得され、記憶される。
【0068】
サンプルは、正弦波入力波形またはトレースとしてマップ要素415、416、418のためにモデル化されている超音波圧力のものである。
【0069】
位相遅延マップ402の要素415は時間であり、すなわち、時間、遅延であり、マイクロ秒で現すことができる。時間遅延は要素の点で相対的である。音は軟組織中よりも骨の中の方が速く進む。ある点音源160に対して、側頭骨172、176の比較的薄い部分を通りそれぞれの受信要素180に入る超音波の一部は、他の要因が同じであれば、側頭骨の厚い部分を通る超音波の他の部分より遅く到着する。相対的リード/ラグは、超音波波面の収差を構成し、補正しなければ、超音波の治療的又は診断的照射に潜在的にエラーを生ずるだろう。
【0070】
遠隔場において対側点音源160から受信アレイ104、108に届く規則的な、収差を受けていない波面の場合でも、到着波面は球面であり、点音源を中心とする。したがって、現在の点音源からのそれぞれの距離については、受信要素180は異なる。収差を現さないこのジオメトリ効果を取り消すため、受信要素180に関連する波面を最小にアライメントする(align)。アライメントは均一な音速に基づく。それゆえ、波面のアライメントしたタイムシフトを決定する際は、例えば、ジオメトリのために、ある波面が他の波面よりも長い距離を進む場合、その距離をかかるすべての波面の計算で共通の音速で割る。
【0071】
各受信要素180の波面をアライメントすると、処理は時間領域か、または周波数領域に進む。
【0072】
時間領域において、一実施形態では、波形のペアの間で相互相関サーチを行う。最初に、すべての波形をコヒーレントに合計して、すなわち受信要素180ごとに1を足して、「総ビーム合計」信号を計算する。総ビーム合計信号は参照波形として機能する。相互相関サーチは参照波形と受信要素180の波形との間で行う。これは各受信要素180について行う。そのため、N個の受信要素180があるとき、N個の相互相関サーチを行う。各相互相関サーチにより、それぞれの時間ラグを生じ、これにより位相遅延マップ402の要素415の時間的遅延値を提供する。マップ計算を幾分簡単にするため、アレイ104、108の中心にある受信要素180を選択でき、総ビーム合計信号ではなく、その波形が参照波形として機能する。これは、中心位置が側頭骨172、176の最も薄い部分にあり、そのため減衰と波形歪みが一番小さいということに基づく。さらに別の実施形態であって、計算量が増える代わりによりロバストなものは、波形アライメント後に、波形の各組み合わせペアの間の相互相関サーチ、すなわちN個の要素180があるとき、N×(N−1)回のサーチを行うものである。結果としてN×(N−1)個の異なる時間値が得られる。この一組の値を逆数にして、N個の「絶対」時間値を求める。これは実際には絶対ではないが、一定値まで決まる。これは実際上の目的では問題とならない。
【0073】
周波数領域に進むため、ジオメトリ的にアライメントされた波形を時間次元でフーリエ変換する。背景として、図1の上記の収差推定手順の点音源160からの放射されたビーム164は、1つ以上の伝搬する短いパルスから形成される。このパルスは中心周波数の周りの一定の周波数範囲を含み、中心周波数は変調された正弦波の周波数である。そのため、1つのパルスの送信により複数の周波数が得られる。そのパルスの各周波数成分は振幅と位相を有する。パルスが短ければ短いほど、送出される周波数範囲は広くなる。フーリエ分解により、パルスは周波数が異なる多数の連続定期な正弦波の和である。各正弦波は振幅と位相を有する。
【0074】
フーリエ変換に入力されるアライメントされた波形は「振幅対時間」のシーケンスである。出力は周波数のシーケンスであり、各周波数は振幅と位相が関連している。これらの周波数は上記の周波数成分のものであり、変換によりその振幅と位相が得られる。アライメントされた各波形は変換され、同じ周波数のシーケンスを生じる。各周波数で、波形の振幅と位相が決定される。
【0075】
次に、要素415ごとの位相遅延を抽出する。これらは位相遅延マップを形成する。より具体的に、アライメントされた波形はどれも対応する受信要素180の入力である。各受信要素180は、最終的に形成される位相遅延マップ402のそれぞれの要素415と関連する。したがって、ある周波数について、変換による波形毎に得られる位相の抽出により、その周波数の位相マップができる。これらの位相マップは位相アンラップされたものである。位相アンラップは、このコンテキストでは、隣接する要素間に尋号的な位相の不連続性を無くす数学的手順として知られている。その結果の各位相マップでは、周波数ごとに1つ、位相は角周波数により割られ、時間遅延に変換される。
【0076】
位相アンラップした変換後のマップを平均するが、各マップを対応する周波数におけるトランスデューサのスペクトルの振幅で重み付けする。重みとして利用する周波数ベースの振幅は、上記の波形取得で取得でき、または音源トランスデューサに特有な値であり、各値は対応する周波数をエレクトロニクスが受信した振幅である。
【0077】
要素ごとの重み付け平均により1つのマップ、すなわち位相遅延マップ402が得られる。
【0078】
位相遅延マップ402は、例えばパッチ310を1つずつ順番にオンにすることにより、各点音源160について別々に作れる。そのため、Nこの点音源160を利用するとき、隣接する側頭骨172、176に基づき収差を分析するためにN個の位相遅延マップを利用できる。この手順を対側で繰り返すことにより、すなわち超音波の音源と送り先をひっくり返すことにより、N個の対側点音源160がある場合、さらにN個の位相マップができる。この第2のN個のマップのセットは他の側頭骨172、176に基づき収差を分析するためのものである。
【0079】
位相遅延マップ推定のロバスト性を高めるため、これらのN個の遅延マップ402を平均する。平均する各遅延マップは、対応する各点音源160により放射された信号により、頭蓋を通って減衰した対応する測定波形により重み付けされる。重みは対側で生成した、すなわち反対方向の透過超音波から作成した振幅損失マップ404の要素416に対応する。
【0080】
別のバージョンでは、アレイ104、108の一方を、点音源位置ごとに物理的にスキャンされる点音源として、単一開口、単一要素トランスデューサ160で置き換えても良い。対側側頭骨172、176を分析するために、構成を物理的に逆にしてもよい。
【0081】
位相遅延マップ402をどう使うかについてもっと説明する前に、図4に示した別の2つのタイプの収差マップ404、406を説明する。
【0082】
ある受信要素180において振幅損失マップ404について、受信波形の時間的最大値を抽出する。波形は時間の関数としての振幅の形式である。そのため、時間的最大値は振幅である。これをすべての受信要素180に対して(または、同様に、すべてのマップ要素416に対して)行う。結果として得られる振幅の2次元マップはその最大値で規格化される。換言すると、各振幅を、そのマップのすべての振幅にわたる最大値で割る。その結果の値は、それぞれ10を底とする対数を取り、20をかけて、デシベルに変換される。例えば、振幅のー6dBの減少は約50%の減少である。
【0083】
波形歪みマップ406を構成するとき、各要素418について、波形は参照波形と比較される。参照波形は、一般的には事前に非臨床的設定で、頭蓋が無い不均一媒体における同様の対側構成で取得される。上記の比較は、参照波形がオーバーラップするように参照波形の遅延とスケーリングを含み、歪みを測定する波形の最初の数サイクルを含む。 波形の歪みの尺度は次式で表せる:
【数1】

ここで、sref(t)は遅延しスケーリングした参照波形であり、s(t)は歪みを測定する波形である。
【0084】
歪みが無くs(t)=sref(t)であれば、尺度は1である。例えば、頭蓋内の又はトランスデューサ・頭蓋反響により強い波形伸張があれば、尺度はゼロになる傾向がある。
【0085】
波形歪みマップ406の有用性は、帯域幅を(例えば、ガウスエンベロープで)十分制御した波形を送信し、波形歪みに対する脳組織による減衰の影響が最小化されるようにしなければならないという点にある。
【0086】
位相遅延マップ402に関して上記したように、収差マップ402、404、406は点音源ごとに、また対側側頭骨172、176による収差を考慮するため、その逆に生成できる。
【0087】
同じ側の点音源160は、対側受信要素180に異なるアプローチ角を提供し、対側受信要素に隣接する側頭骨172、176の潜在的に不規則な表面に、対応する異なる入射角を提供する。したがって、アプローチ角の差分が小さくても、同じ側のマップはそれぞれ大きく変化する。また、近接場における側頭骨172、176の厚さの変化により、あるマップが同じ側の他のマップより非常に高い信号対ノイズ比(SNR)に基づき、そのため、複数の対側要素で得られた複数のマップを(例えば、重み付け平均して)合成して、最終的な収差マップの推定の質を改善する利益が得られる。
【0088】
収差マップ402、404、406は、超音波送信及び/又は受信の位置を改善することにより、及び/又は超音波のビーム形成を補正することにより、超音波オペレーションの改善に利用できる。
【0089】
位相遅延マップ402を用いて、受信ビーム形成遅延により、不均一な頭蓋132を横断することによる受信信号の時間的アライメントのずれを補正することができる。これは受信収差補正の一例である。位相遅延マップ402を参照して、受信開口内の要素415を求め、受信ビーム形成遅延を修正して、これらの要素に関連する相対的遅延を補償し、それにより受信超音波ビームラインを補正する。同様に、上記の通り、相対的時間遅延を知ることにより、送信ビーム形成遅延を修正して、送信ビームの補正ができる。
【0090】
図5は、位相遅延補償と、個々のトランスデューサ要素又は個々のパッチのビーム形成への貢献を重み付けマップとして調整する収差マップの使用とを示す概念的に示す。これらは、透過超音波が通過する不均一媒体168の一部176の特性に超音波を調整する例である。この特性は収差マップ402、404、406に反映されている。これらは、次に、音響ウィンドウ204、208、212の選択、及び/又はビーム形成の補正に反映される。その補正は、位相遅延調整の、及び/又はビーム形成に対するトランスデューサ要素/パッチの個々の貢献の増減の形式をとることができる。
【0091】
一トランスデューサアレイ要素508により超音波波面の受信を表す第1の波面504は、同様に第2の要素520による受信を表す第2の波面516より、時間ラグ512だけ速い。ここで、時間ラグ512は収差によるものであり、ジオメトリによるものではないと仮定する。換言すると、この例では、2つの波面504、516はジオメトリとしてはアライメントされていると仮定する。したがって、時間ラグ512は、位相遅延マップ502の対応する要素415の間の差から求められる。ある開口とフィールドポイントについて、時間ラグ512を考慮する前に、例えば現在の超音波が放射される前に、第1の波形504はある受信遅延524を割り当てられている。第2の波形516は、その受信遅延528を割り当てられている。しかし、2つの波形504、516の収差による位相ずれとして時間ラグ512を考慮すると、第2の遅延528をその時間ラグだけ大きくして、それにより収差ベースの位相エラーを除去する。同様に、同じ時間ラグ512を送信ビーム形成に適用する。したがって、2つの空間次元を有する位相遅延マップ402に基づき、マップ要素415のペア間の相対的時間ラグ512を用いて遅延を修正し、それにより位相遅延ベースの収差補正を行う。
【0092】
これらは、デバイス110の設定を、特にビーム形成遅延を修正して、超音波のビーム形成を補正する例である。この修正は収差の推定に基づき、より直接的には、収差推定の結果である収差マップ402に基づく。
【0093】
他の2つの収差マップ404、406は、ビーム形成補正プロセスを支援できる。この支援は、関連するアレイ104、108の場合は、個々のトランスデューサ要素又は個々のパッチの貢献の増減の形式である。
【0094】
ビーム形成は受信では動的に行われ、送信では静的に行われること以外には、ビーム形成の2つの形式は同様に行われる。
【0095】
最初に受信ビーム形成の場合を考え、図5を参照して、パッチPi,j、Pk,l、Pm、n、Po,pは受信開口Aを構成する。フィールドポイント(x,y,z)は患者などの超音波対象中の点であり、その点から測定される超音波エコーが戻る。測定は、エコーが戻るパッチPi,j、Pk,l、Pm、n、Po,pにより行われる。ジオメトリで求めた時間t、t、t、tで取ったそれぞれのサンプルは、そのフィールドポイントにおける音響的反射の異なる「テイク(take)」を与える。したがって、サンプルは、音響圧力を表す電圧振幅vi,j(t)、vk,l(t)、vm,n(t)、vo,p(t)の形式であるが、これを加算し、反射率のよりロバストかつ空間的により完全なビューを求める。和は「ビーム和」532として知られている。これは開口Aとフィールドポイント(xs,ys,zs)の関数である。波形歪みを補正するため、単純和ではなく、重み付けした和を用いる。重みをwi,j、wk,l、wm,n、wo,pとすると、波形歪みマップ406の対応するエントリー417を使える。これは、図5に示したように、歪みマップ406からの流れを示す矢印536により表される。画像の明るさを維持するため、重みwi,j、wk,l、wm,n、wo,pを1単位に規格化して、例えばその平均が1になるようにしてもよい。これにより、開口Aに対して、重みn(wi,j)、n(wk,l)、n(wm,n)、n(wo,p)が得られる。その結果のビーム和532は次式の通りである:
【数2】

【0096】
このビーム和を用いると、歪みマップ406により、歪みが大きくなることが分かった受信パッチPi,j、Pk,l、Pm,n、Po,pの出力は、フォーカシングへの貢献が小さくなる。具体的に、例として、nA(wi,j)は、サンプル取得タイミングt,t,t,tにおける開口Aによるフィールドポイント(x、y、z)に対する受信ビーム形成に対する、i番目の行とj番目の列のトランスデューサ要素の貢献540を表す。
【0097】
パッチ入力の実行可能性(viability)により貢献540を重み付けは、超音波オペレーションを改善し、超音波デバイス110の設定を修正することにより実現できる。ここで、修正される設定は、送信開口Bの電圧振幅重みn(wi,j)、n(wk,i)、n(wm,n)、n(wo,p)である。
【0098】
重みは送信ビーム形成で、一般的には受信開口Aと同じである送信開口BのパッチPi,j、Pk,i、Pm,n、Po,pの駆動で照射する電圧レベルの重み付けに用いることができる。
【0099】
代替案は、振幅損失マップ404を重み付けマップとして用いることである。マップ404は振幅に「マッチドフィルタ(matched filter)」を用いるのにも用いることができる。具体的に、値が比較的低いマップ要素416に対応するトランスデューサ要素/パッチからの、またはそれへの信号は、頭蓋132の粗い部分を横切り、フォーカシングの質に悪い影響を与えると仮定する。これらのトランスデューサ要素/パッチは、したがって、送信時に、より低いパワーで駆動され、及び/又は受信時に、ビーム和において低い重み付けがされ、それにより送受信ビーム形成への相対的な貢献540を小さくする。
【0100】
上記の通り、振幅損失マップ404と歪みマップ406は、両方とも別々に、受信又は送信時に要素ごとのパワー駆動レベルを選択的に補償する、及び/又は小さくするために利用できる。あるいは、2つのマップ404、406の組み合わせを用いても良い。
【0101】
他の可能性として、すべての要素がフォーカシングに等しく貢献するように、振幅損失マップ404の低い値は、送信時のパワーレベルと受信時の重みを大きくすることにより、振幅補償できる。
【0102】
超音波デバイス110は、上記の通り、振幅及び歪みマップ404、406の少なくとも一方を利用して、重み付けマップとして、個々のトランスデューサ要素の、又は個々のパッチのビーム形成への貢献536を調整するように構成されている。
【0103】
(最良の)音響ウィンドウ204、208、212の選択は、どの収差マップ402、404、406に基づくものであってもよい。(音速が速い骨を通る最短経路に対応する)振幅損失が小さく、波形歪みが小さく、飛行時間(time-of-flight)が長いエリアは、例えば画像化とトランステンポラル・エネルギー・デポジション(transtemporal energy deposition)のため、最も薄い骨と最良の音響ウィンドウがあることを示す。
【0104】
このように、位相遅延マップ402の場合、振幅が最大の、すなわち時間遅延が最大のエントリー418は、最も良い音響ウィンドウを示す。これはマップごとに判断する。遅延値は、対側音源点160における側頭骨172、176の厚さによりバイアスを受けるからである。
【0105】
全部で3つのマップ402、404、406のうち1つか2つを用いて、自動的に、ユーザの介入を必要とせずに、又は超音波ユーザにマニュアルで、又は自動化した手段でプローブを再配置できる視覚的なフィードバックを提供することにより、最良の音響ウィンドウの前に側頭骨172、176におけるプローブ112、116の配置を最適化できる。
【0106】
それぞれの周波数に基づいて求めた収差マップ402、404、406を用いることが望ましい。位相マップ402は、上記の通り、それぞれの周波数の位相マップの重み付け平均として生成される。振幅及び歪みマップ404、406も、周波数により、すなわち受信した超音波の中心周波数により別々に生成できる。これらの周波数固有マップ402、404、406を用いて、オペレーションの際に使われる周波数における最適性能を得ることができる。特に、選択された音響ウィンドウにおける周波数ベースの小さな変化は、一般的に、アレイ並進移動及び/またはビーム形成補正への同時調整を示唆する。
【0107】
さらに、点音源160の順次スキャンへの代替案がある。アレイ104、108は両方とも保持されるが、点音源160は連続してスキャンされない。それよりも、複数の点音源160は、一般的に連続していないか、全てが連続しているものではないが、一緒に放射してSNを改善する。複数のスキームを用いることができる。これには、これには空間的(例えば、アダマール)エンコーディングと時間的(例えば、チャープ(chirps))エンコーディングと、右側のアレイからのフォーカスされたビーム(これらは収束ビームと発散ビームを含み、フォーカスは脳の内側でも外側でもよい)の使用が含まれる。ここで、受信した波形の信号処理をする前に、すなわち時間領域又は周波数領域において、側頭骨172の表面にできるだけ近い対側音源160で得られただろう、そして1つ1つ放射されただろう信号を再構成するために受信信号を反転する。これは空間的復号として知られている。空間的復号の一例はアダマールコーディングである。例えば、頭蓋132の反対側に4つの点音源160がある場合、シーケンス1 0 0 0 0 1 0 0 0 0 1 0 0 0 0 1により順番に放射させと決めることができるし、アダマールシーケンス1 1 1 1 1 1 -1 -1 1 -1 -1 1 1 -1 1 -1を用いることができる。ここで、1は「オン」を表し、−1は位相が逆の「オン」を表し、0は「オフ」を表す。受信信号を操作して、最初の、すなわち一度に1つの点音源のシーケンスで得られた受信信号を再生成する。ここで、複数のトランスデューサを用いてある時に送信することにより、SNRを向上する。アダマールコーディングのための点音源160は、一度に1つの点から放射するのと同様に、送信トランスデューサアレイ104、108に分散している。この他の既知の代替的な空間的コーディングスキームも利用できる。
【0108】
図6は、図1の対側構成の修正を示している。右手アレイ108は右側頭骨172の外側表面610にフォーカスするため、並進移動されている。右手アレイ108は、右手側頭骨172から短い距離のところに配置され、そのビームフォーカス620は外側表面610の仮想点音源として利用されるようになっている。こうして、右側頭骨172を通るビーム送信損失を右手アレイ108により受信する反射信号に基づいて計算できる。これにより、経頭蓋送信係数の測定が可能になり、さらに脳内の超音波強度を予測できる。強度の予測は、高密度焦点式超音波(HIFU)ビームなどの治療用ビームの照射の準備で行われる。右手アレイ配置アジャスタ124を、軸を延ばした位置に示した。この位置はマニュアルで、又は電動化移動により到達できる。これは、例えば、装置ディスプレイ148への表示により、又は受信した反射信号の強度により、インターラクティブに実現できる。電動化する場合、例えば強度に基づき、超音波デバイス110により、自動的にかつユーザの介入を要さずに行っても良い。ジェル枕のような接触媒体を使い、延長した位置に連続した超音波伝搬経路を設ける。
【0109】
図7は、治療的ビーム720の治療領域730への照射を示す、対側構成710の一例を示す図である。上記のように、収差マップ402、404、406を用いて、治療的ビーム720の経頭蓋収差を補正できる。
【0110】
両方のアレイ104、108から動的受信フォーカシングビーム形成を適用して、治療的ビーム配置をディスプレイ148に可視化する。特に、入射治療ビーム720からの散乱/反射信号は、デバイス110の対側構成の両アレイ104、108により受信され、3次元動的フォーカシングでビーム形成される。このように、超音波デバイス110は、単一送信超音波パルス740から、及び一連の送信パルスから、両側から、ビーム形成を受信するように構成されている。非送信アレイ104により受信ビーム形成は、ある時点で、霧の中で、あなたに向かって来る右か左かどちらか一方に進んでいる車のヘッドライトを見るのに例えられる。
【0111】
受信ビーム形成は、プローブのフットプリントの下の側頭骨172、176の事前に取得した収差マップ402、404、406に基づいて、受信収差補正を考慮することを含む。位相収差補正は、例えば、受信ビーム形成の一部である。補正は、超音波デバイス110のパッチ重みなどの設定の修正で行うことができた。あるいは、ビーム形成時に、補正は前の修正に基づいて、動的に行える。どの場合も、修正は収差推定の結果に基づいて行われる。
【0112】
治療ビーム720は同じ送信ビーム形成パラメータで維持されるが、2つの対側「単一送信」画像を、側頭骨ウィンドウにロックした両アレイ104、108から連続的に得ることができる。
【0113】
ビーム720の位置と範囲のリアルタイムの改良した可視化は、2つの画像を合成することにより得られる。2つの画像を合成する手段は本技術分野で周知である。
【0114】
治療ビーム可視化により治療ビーム720の焦点位置とサイズの調整をガイドできる。可視化は、造影マイクロバブルがある場合は、それからのサブハーモニクスまたはスーパーハーモニクスを受信して改良できる。
【0115】
図8は、マイクロバブルベースの強度推定であって、超音波強度を測定するためにテストビーム804の治療領域808への印加例と、同じ深さ820にある参照領域816へのテストビーム812の印加例とを示す。
【0116】
マイクロバブルベースの超音波造影剤は、超音波媒介又は超音波エンハンスト脳卒中治療で使われることが多い。(動脈閉塞を起こし虚血性脳卒中を招いている)血栓の近くにあるマイクロバブルを振動させて、その血栓への局所的な超音波照射を大幅に増やすことができるからである。治療(又は閉塞)領域の超音波強度は、その治療領域808内の造影マイクロバブルからの、又は治療領域に近い参照領域816内の造影マイクロバブルからのサブハーモニック放射の始まりの閾値を測定することにより、推定できる。キャビテーションの始まりの測定に治療領域808でなく参照領域816を用いる動機は、超音波を当てたマイクロバブルからのロバストな信号を受信するために、造影マイクロバブルの適当な流れ及び/又は灌流が必要であることによる。一例として、参照領域816は治療領域808の近くに示したが、同じ深さ820にある(そのため、プローブ112、116から参照領域への超音波減衰は、そのプローブから治療領域までの減衰と同様である)。
【0117】
治療又は参照領域816におけるサブハーモニック信号の始まり824は、使用する造影剤により変わるが、テストビーム804、812の強度(又は音響圧力)を、ロバストなサブハーモニック信号が左手アレイ104又は右手アレイ108により(急に)受診されるまで、徐々に強くすることにより決定できる。サブハーモニック信号の振幅832を図8に示した。したがって、強度828の増加に対するバブル振動のサブハーモニック周波数成分の振幅832の増加を、アレイ104、108によりモニタし、安定したキャビテーションの急な始まりを検出する。
【0118】
サブハーモニック信号振幅対音響圧力の測定は、非臨床的、実験的設定の場合について、米国特許第6,302,845(Shi et al.、「Method and System for Pressure Estimation Using Subharmonic Signals from Micro-Bubble Based Ultrasound Contrast Agents」)に説明されている。実験的な詳細は、文献「Shi WT, Forsberg F, Raichlen JS, Needleman L, Goldberg BB. Pressure dependence on subharmonic signals from contrast microbubbles. Ultrasound Biol Med 1999; 25: 275-283」に記載されている。両文献の全開示はここに参照援用する。
【0119】
上記の通り、マイクロバブルエンハンスト脳卒中治療は、治療ビームのより正確な配置と強度予測により、改善される。
【0120】
さらに有利な特徴は、収差を生じた治療ビームの形状を、推定収差と送信ビーム形成パラメータとに基づき、予測する能力と、送信ビームをインターラクティブに調節して収差を減少させる可能性である。
【0121】
図9は、ビーム収差を考慮した送信ビーム930の予測形状920を表すパターン910を示す。
【0122】
パターン910は、治療ビームなどの照射する超音波ビーム930の形状の予測920として、ユーザに表示されるものの一例である。この図では、センチメートル単位の縦軸(z)は、軸方向940であり、ミリメートル単位の水平軸xはアジマス方向850である。実際には、2次元ビームプロファイル(軸×アジマス又は軸×エレベーション)又は3次元ビームプロファイルを表示する。ここで、ビームフォーカスは約5センチメートルである。右側のスケールは、相対的時間的平均強度レベルを表す。再び、レジェンドは元々はカラーであったが、ここでは白黒で示している。特に、強度値は、(表示するスペース全体にわたる)その最大値に基づいて規格化され、デジベル単位で表示されている。関数は必ずしも時間的平均強度ではなく、例えば圧力振幅の時間的最大値、又はメカニカルインデックス(MI)であってもよい。
【0123】
送信ビーム形成パラメータと推定収差に基づきビーム形状を予測する機能は、収差が大きな問題であることが分かっている画像化媒体にとって特に有利であり、超音波の治療的利用のツールとして好適でもある。
【0124】
いくつかの実施形態では、マルチエレメントトランスデューサアレイ104は、超音波を受信し、ソフトウェアやハードウェアが収差を推定し、ソフトウェアが収差を受けた超音波ビームの形状を予測し、その画像が表示される。
【0125】
ビーム形成パラメータと収差推定に基づきビーム形状を予測する具体的な方法は、2次元画像化のための1次元アレイと治療ビームステアリングの簡単な例を用いて、以下に説明する。これらの方法は3次元の場合に容易に一般化できる。
【0126】
側頭骨などの収差源(aberrator)は無限に薄く、無限に測定アレイに近いと仮定する。次に、収差は、要素ごと、周波数ごとに、位相(シフト)と振幅(減衰)により記述できる。この収差を測定する手段を、位相遅延マップ402に関して説明した。そこで、空間次元xに沿って1次元の、角周波数ωにおける収差マップAb(x,ω)は、次式で表せる:
【数3】

ここで、A(x,ω)は振幅(減衰)項であり、φ(x,ω)は位相(収差)項である。ここで、我々の画像化又は治療デバイスが、かかる収差の影響を受けているとする。引き続き、ある深さとあるアジマスにフォーカスして、ある送信アポディゼーション(apodization)Aでそれを行う。すなわち、次の波面
【数4】

を送出するように、送信ビームフォーマをプログラムする。
ここで、θ(x,ω)は媒体中の所望の位置(例えば、血管を閉塞している血栓)にフォーカスするのに必要なジオメトリックな(1次元アレイでは円筒形、2次元アレイでは球形の)フォーカシングフェージングである。深さz、アジマスxにフォーカスするため、送信フェージング(cは音速)は次式である
【数5】

【0127】
収差のため、実際に脳に浸透しているのは、次の波面である
【数6】

【0128】
1.レーリー・ゾンマーフェルトビーム推定
レーリー・ゾンマーフェルト方程式は、Asent(x,ω)に基づき、媒体中の任意の点(x,z)において場Afield(x,z,ω)がどうなるかを直接示している:
【数7】

ここで、
(外1)

は、任意のアレイ要素(アジマス位置x)と、場を決定したい点(x,z)との間の距離である。積分範囲はアレイの開口である。
【0129】
次の式は、音源が単純な場合に式(1)を簡略化したものであるが、実際の場合によい近似となっている:
【数8】

【0130】
まとめると、ある測定収差AAb(x,ω)と既知の照射送信波面AFOC(x,ω)を有する任意の点における場の推定は次を含む:
−収差を送信波面にかけて、
(外2)

を求める。波面は媒体に有効に送信されたものである(式(d))。
−Asent(x,ω)をレーリー・ゾンマーフェルト積分に入力する(式(1)又は(2))。
−媒体中で受信される時間的場を知るために、計算した場Afield(x,z,ω)の逆時間フーリエ変換を実行する。
【0131】
2.フーリエ又は「角スペクトル」再伝搬
送信された場Asent(x,ω)は、その横(空間的)フーリエ変換を取ることにより、その角スペクトル成分に分解できる。
【数9】

【0132】
同様に、深さzにおいて検知される場(z=0において送信した場Asentに基づき予測したいもの)は、次式に分解できる:
【数10】

【0133】
深さzにおける角スペクトルと深さ0における角スペクトルとの間には次の関係がある:
【数11】

【0134】
まとめると、測定した収差と既知の照射した送信波面から深さzにおける場を求めるには、
−収差を送信波面にかけて、
(外3)

を求める。波面は媒体に有効に送信される(式(d))。
−角スペクトルU(kx,z=0)を求めるために、横次元にわたりAsent(x,ω)をフーリエ変換する。
−U(kx,z,ω)を得るため、角スペクトルを伝搬する(式(3))。
−U(kx,z,ω)を逆フーリエ変換して、深さzにおける場A(x,z,ω)を求める(これは式(2)の逆である)。
−媒体中で受信される時間的場を知るため、計算した場A(x,z,ω)の逆時間フーリエ変換を行う。
【0135】
3.時間領域ビーム形成
他の可能性として、すべて時間領域で行うこともできる。s(i,t)をトランスデューサよそiが対側トランスデューサから受信した時間トレース場であるとすると、信号をアライメントするため、ジオメトリによる遅延が除去される(これらの信号は、振幅と位相収差の両方により、及び波面歪みによる影響を受けている)。τ(i)は、送信フォーカシングを達成するために、すなわち、深さz0、アジマスx0、
(外4)

である点にフォーカスするために、すべてのトランスデューサ要素に適用される遅延である。時間領域では、(収差源(aberrator)を通った)送信信号は次式で表せる:
【数12】

(位相・振幅収差はs(i)に含まれる)。次に、(x,z)における場で受信した時間信号はすべてのトランスデューサ要素から来るものの貢献の和である:
【数13】

【0136】
τ(i,x,z)を音がトランスデューサ要素iから場の点(x,z)まで進むのに必要な時間とすると:
【数14】

【0137】
まとめると、測定収差と既知の照射した送信波面から任意の点の場を求めるには、
−すべてのトランスデューサ要素が対側トランスデューサから受信した時間信号を測定し、s(i,t)を求める。
−式(1)のように、所望の送信ビーム形成パラメータ(アポディゼーションと時間遅延)を適用する。
−式(3)のように、測定トレースに遅延を適用して、任意の場の点への伝搬をシミュレーションする。
【0138】
図10は、経頭蓋画像化/治療収差予測/補正プロセス1000を示す。収差推定手順において、超音波164は不均一媒体168を通って送信され、対側で受信される。送信は、点音源ベースである程度順番に行われ、2次元トランスデューサアレイ104、108により受信される。受信アレイ104、108の要素について、相対時間遅延及び/又は振幅減衰及び/又は歪みを推定する。推定は、場合によっては収差マップ402、404、406の形式であり、それを用いて音響ウィンドウ204、208、212の配置/範囲を選択する。推定する側のアレイ104、108は、適当であれば、対応する並進移動をする。上記手順はインターラクティブであり、再び透過超音波を送るなどして繰り返す(ステップS1004)。反対側の側頭骨172、176を収差において考慮するように、収差推定は対側で繰り返される。このステップは、前のステップ、すなわちステップS1004の動作と入り交じってもよい(ステップS1008)。収差マップ402、404、406を構成し、構成したら装置ディスプレイ148に表示できる。ステップSI004と関連して上記したように、収差マップ402、404、406は、すでに構成され利用されている(ステップS1012)。ビーム形状を予測する場合(ステップS1016)、送信ビーム形成パラメータと収差推定に基づいて行い、予測920は装置ディスプレイ148に表示できる(ステップS1020)。収差ビーム930の表示された予測920にインターラクティブに基づき、収差推定及び/又は(ステップS1024)ビーム形状予測で用いる送信ビーム形成パラメータを変更するデバイス110の設定を修正する場合、修正を行う(ステップS1028)。そうでなければ、かかる(さらなる)修正をせず、ビーム形状を予測しない場合、位相遅延補正やビーム形成のためのパッチ貢献重み付けなどの超音波補正を、収差推定の結果に基づいて行う(ステップS1032)。超音波治療ビームの強度を予測するため、トランスデューサアレイ104、108の対側構成を設ける(及び、プロセス1000のこの時点では、一般的には両アレイは設けられている)(ステップS1036)。例えば静脈に、治療又は参照領域808、816に向けてバブルが供給される(ステップS1040)。超音波強度を徐々に上げて、治療領域808内の造影マイクロバブルから、又は治療領域に近い参照領域816内のマイクロバブルからのサブハーモニック放射の始まりをモニタする(ステップS1044)。デバイス設定修正により収差補正した治療ビーム720を、治療領域730に照射する。頭蓋132の両側からの受信ビーム形成は、両側のそれぞれの収差推定結果に基づいて事前に実行されたデバイス修正を利用できる。2つの取得画像は、相関され、合成され、ビーム配置の可視化を改善する(ステップS1052)。
【0139】
特に透過画像化又は治療における超音波収差を、2次元受信トランスデューサアレイにより、受信した超音波の収差の横方向に2次元性をキャプチャすることにより補正する。いくつかの実施形態では、透過超音波は、時間的ウィンドウにより印加され、例えば、一度に1つ以上のリアル又はバーチャルの点音源から放射される。各点音源は1つのトランスデューサ要素、又はパッチ、又は要素又はパッチの集まりのジオメトリカルフォーカスである。一態様では、パッチは近接場における小さなフォーカスされたトランスデューサとして機能する。対側アレイは、一実施例では、点音源よりなる。いくつかの態様では、独立変数的には、受信トランスデューサのアレイ構造に対応するように構成された収差マップは収差推定を化体し、超音波デバイスは、超音波送受信の位置の改善又はビーム成形の補正をするためにデバイス設定を修正することにより、超音波オペレーションを改善するように構成されている。改善には、ビーム配置の可視化、強度とビーム形状の予測が含まれる。
【0140】
もちろん、上記の実施形態は、本発明を例示するものであり、限定するものではなく、当業者は、添付したクレームの範囲を逸脱することなく、別の実施形態を多数設計することができる。例えば、対側構成を患者の頭蓋に固定しつつ、収差を補正された両側の受信ビームを維持して、脳構造の変化をモニタすることもできる。クレームにおいて、括弧の間に入れた参照符号はクレームを限定するものと解釈してはならない。「有する」という動詞及びその変化形を用いたが、請求項に記載された要素または段階以外の要素の存在を排除するものではない。構成要素に付された「1つの」、「一」という前置詞は、その構成要素が複数あることを排除するものではない。本発明は、複数の異なる構成要素を有するハードウェア手段によって、または好適にプログラムされた、コンピュータ読み取り可能媒体を有するコンピュータによって実施してもよい。相異なる従属クレームに手段が記載されているからといって、その手段を組み合わせて有利に使用することができないということではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不均一媒体を通過した透過超音波を受信するように構成された2次元トランスデューサアレイを有する装置であって、
前記受信した超音波の収差推定を行い、前記推定の結果が超音波オペレーションの改善に用いられるようにするように構成された、装置。
【請求項2】
前記結果に基づき、a)超音波送信又は超音波受信の少なくとも一方のロケーションの改善、及びb)超音波のビーム形成の補正のうち少なくとも一方をするために、前記装置の設定を修正するように構成された、
請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記改善をするための修正は、音響ウィンドウの選択された配置及び選択された範囲のうち少なくとも一方に基づく、
請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記結果は、エレベーションとアジマスの両方が独立変数であり、前記修正は前記少なくとも1つのマップに基づく、
請求項2に記載の装置。
【請求項5】
前記結果は、空間的に独立な変数を有する複数の収差マップを含み、信号時間遅延、信号振幅、及び信号歪みのうち少なくとも2つが各マップの従属変数である、
請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記結果は信号振幅マップと信号歪みマップのうち少なくとも一方を有し、前記デバイスは前記マップの少なくとも一方を重み付けマップとして利用して、個々のトランスデューサ要素又は個々のパッチのビーム形成に対する貢献を調整するように構成された、
請求項1に記載の装置。
【請求項7】
さらに、対側トランスデューサアレイを有し、1つの超音波送信パルスから、両側からビーム形成を受けるように構成された、
請求項1に記載の装置。
【請求項8】
さらに前記ビーム形成により両側で取得した画像を合成するように構成された、
請求項7に記載の装置。
【請求項9】
前記透過超音波は前記対側アレイから放射され、前記装置は、前記ビーム形成が、前記収差推定と、対側に受信した透過超音波への収差推定の両方に基づく収差補正を考慮するように構成されている、
請求項7に記載の装置。
【請求項10】
対側トランスデューサアレイに分布した、パッチ又はトランスデューサ要素である点音源から、前記透過超音波を放射し、実行された収差推定に基づき、音響ウィンドウを選択するように構成された、
請求項1に記載の装置。
【請求項11】
前記2次元アレイと対側アレイのうち少なくとも1つを、そのパッチのサイズより小さい距離だけ並進移動するように構成されたアレイ配置アジャスタを更に有する、
請求項1に記載の装置。
【請求項12】
前記トランスデューサアレイに対側配置するために、前記透過超音波の音源を更に有する、請求項1に記載の装置。
【請求項13】
前記音源はパッチを有し、その入力は最初に別々にビーム形成され、前記実行のため、前記アレイに対して点音源として機能する、
請求項12に記載の装置。
【請求項14】
前記音源は対側アレイを有し、前記デバイスは前記対側アレイから側頭骨176の外側表面にビームをフォーカスするように構成され、前記フォーカスは、前記実行のため、前記トランスデューサアレイに対して点音源として機能する、
請求項12に記載の装置。
【請求項15】
前記通過は前記媒体の一部を通り、前記改善は前記超音波を前記部分の特性に調節する、請求項1に記載の装置。
【請求項16】
マルチエレメントトランスデューサアレイとディスプレイとを有する装置であって、収差推定の結果に基づいて、対応する収差ビームの形状を予測し、前記ディスプレイに前記予測した形状を表示するように構成された装置。
【請求項17】
前記収差推定は、不均一媒体を通り、2次元である前記トランスデューサアレイで受信された透過超音波に対して行われる、
請求項16に記載の装置。
【請求項18】
ある瞬間に、2以上の空間次元で、不均一媒体を通過した透過超音波を受信する段階と、
前記受信した超音波に、前記2以上の空間次元で横収差を提供する収差推定を実行する段階であって、前記推定の結果は超音波オペレーションの改善に用いることができる段階と、を有する方法。
【請求項19】
前記改善する段階は、2以上の次元を有する位相遅延マップに基づき位相遅延を修正することにより、収差を補正する段階であって、前記マップの要素のペアの間の相対的時間ラグを前記修正に用いる段階を有する、
請求項18に記載の方法。
【請求項20】
超音波照射線量の調整手順であって、
対側構成のトランスデューサアレイを設ける段階と、
治療領域からオフセットしているがその深さにある参照領域にバブルを供給する段階と、
強度を上げながら超音波を照射し、前記アレイの少なくとも1つにより、前記強度の上昇に対する、前記バブルの振動のサブハーモニック周波数成分の振幅の増加をモニターする段階と
を有する手順。
【請求項21】
2次元トランスデューサアレイにより受信した透過超音波の収差推定の結果を用いて、自動的にかつユーザ介入を必要とせずに、前記デバイスの設定を修正して、少なくともa)超音波送信と超音波受信の少なくとも一方の位置の改善と、b)超音波のビーム形成の補正とのうち少なくとも一方を行うように構成された装置。
【請求項22】
不均一媒体を通過した透過超音波を受信する2次元トランスデューサアレイの使用により、超音波オペレーションの改善を実現するコンピュータソフトウェアであって、プロセッサにより実行されうる、複数の段階を実行する命令を含むコンピュータプログラムを化体するコンピュータ読み取り可能媒体を有し、前記複数の段階は、
前記受信した透過超音波に収差推定を行い、前記推定の結果は前記改善に利用可能である段階を有する、コンピュータソフトウェア。
【請求項23】
製品であって、不均一媒体を通過して2次元トランスデューサアレイにより受信された透過超音波の収差推定を実行し、前記推定の結果は超音波オペレーションの改善に仕様できるプロセスを可能にする命令をエンコードされた機械読み出し可能媒体を有する、製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2013−503681(P2013−503681A)
【公表日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−527421(P2012−527421)
【出願日】平成22年8月25日(2010.8.25)
【国際出願番号】PCT/IB2010/053822
【国際公開番号】WO2011/027264
【国際公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】