説明

寿命評価手法

【課題】簡便にかつ迅速に、より高精度にボイラ等の火炉壁管等の前記亀裂の前記亀裂深さを評価するようにした寿命評価方法を提供する。
【解決手段】検査対象の表面の亀裂長さ分布、亀裂幅分布、亀裂面積比の何れか一つ又はこれらの組合せからなる亀裂評価項目を画像処理により測定し、予め設定された前記亀裂評価項目と亀裂深さの相関関係に基づいて前記測定された亀裂評価項目から亀裂深さを推定する寿命評価方法において、前記相関関係は、予め前記亀裂評価項目と亀裂深さの関係式として複数設定されており、前記検査対象の使用環境、温度条件等を含む環境因子に基づいて前記複数の関係式から選択された関係式を用いて、前記亀裂の表面を撮影した撮影画像から画像処理により検出された前記亀裂評価項目から前記亀裂深さを推定するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検査対象表面に形成される亀裂の亀裂深さを評価する寿命評価手法、又推定した亀裂深さに基づいて寿命評価を行う寿命評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料として重油や石炭をなどを用い、例えば燃焼過程で硫化水素を生じる燃焼器を有するボイラ火炉壁管などでは、使用が進むと溝状腐食又はエレファントスキンと呼ばれる筋状の腐食等といった亀裂が発生し、管材損傷が認められていた。このような管材損傷が進行すると前記火炉壁管等を貫通し、噴破、即ち内部の高温水が流出するという問題が発生していた。
【0003】
そのため、従来ではこうした被害を避けるため管材損傷の生じた前記火炉壁等を個々の検査により検査し、例えば電位差法や、TOFD法、デジタルX線画像等の非破壊検査方法を用いて前記火炉壁管等の表面に発生した前記亀裂深さを(以下、亀裂深さという)を測定し、被害が生じないよう管理していた特許文献(1、2、3)。
【0004】
【特許文献1】 特開平2−47545号公報
【特許文献2】 特開2001−153865号公報
【特許文献3】 特願2006−228339号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の方法として、例えば電位差法により、前記火炉壁管等の表面の前記亀裂深さを測定しようとした場合、前記火炉壁管等の表面の亀裂の形態、発生状況によって、電位と前記亀裂深さとの関係が異なってしまうため、前記亀裂深さを精度よく測定できない、という問題がある。
これは例えば前記火炉壁管等の表面の前記亀裂の亀裂進展方向と直行する前記亀裂の開口幅(以下、「亀裂幅」という)の大きい溝状腐食の亀裂が進展している場合、前記亀裂深さに応じて変化する電位を検出し、検出される電位の変化によって前記亀裂深さを測定する電位差法では、前記火炉表面にある前記亀裂幅の大きい前記亀裂によって、検査時に得られる信号の誤差が大きくなり、前記亀裂深さを精度よく判定できなくなるためである。
【0006】
また、特許文献3(特願2006−228339)のデジタルX線を用いた検査でも問題がある。特許文献3は主として、検査対象に発生した亀裂の亀裂幅、亀裂間隔の何れか一つ又はその組合わせと予め求めた亀裂長さ、亀裂幅亀裂間隔の何れか一つ又はその組合わせと亀裂深さとの関係を示す関係図に、前記得られた亀裂長さ、亀裂幅亀裂間隔の何れか一つ又はその組合わせの値を当てはめて前記検査対象の亀裂深さを推定し、二つ以上の損傷区分に分類し取替えの有無の判断する第一の工程と、デジタルX線画像を取得後、前記画像を画像処理し亀裂の輝度から前記亀裂深さを推定し、取替えの有無を判断する第二の工程からなる。
【0007】
しかしながら、第一の工程では、図4に示すよう、同じ亀裂長さや亀裂幅であっても、亀裂深さにはばらつきがあり精度よく亀裂深さ推定することができない、という問題がある。このばらつきの原因は溝状腐食の発生及び進展には腐食環境や前記検査対象のメタル表面温度差が寄与するため同じ亀裂長さや亀裂幅であっても、亀裂深さが異なることがあるためである。
また、図9及び図10に示すように、亀裂が進展すると隣合う亀裂が連結する場合がある。このような場合、亀裂深さ方向への進展に比べ亀裂長さや亀裂幅が大きく計測されることになるためこれもばらつきの原因となる。
【0008】
また、検査対象の表面には微細な亀裂が複数発生するため、最大亀裂深さを有する亀裂の特定が困難である。
さらに、複数の亀裂を測定するには多くの時間と労力を費やさなければいけない。
第二工程では、デジタルX線画像の撮影する場合、炉内側にイメージングプレートを設置し、炉外側よりX線を放射することにより前記画像を得るが、構造物上の問題があり画像を取得できない場合や、新たに足場を設けるなど付帯作業を強いられる場合がある。
従って、本発明は上記従来技術の問題点に鑑み、簡便にかつ迅速に、より高精度にボイラ等の火炉壁管等の前記亀裂の前記亀裂深さを評価するようにした寿命評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明はかかる課題を解決するために、
検査対象の表面の亀裂長さ分布、亀裂幅分布、亀裂面積比の何れか一つ又はこれらの組合せからなる亀裂評価項目を画像処理により測定し、予め設定された前記亀裂評価項目と亀裂深さの相関関係に基づいて前記測定された亀裂評価項目から亀裂深さを推定する寿命評価方法において、
前記相関関係は、予め前記亀裂評価項目と亀裂深さの関係式として複数設定されており、
前記検査対象の使用環境、温度条件を含む環境因子に基づいて前記複数の関係式から選択された関係式を用いて、前記亀裂の表面を撮影した撮影画像から画像処理により検出された前記亀裂評価項目から前記亀裂深さを推定するようにしたことを特徴とする。
【0010】
また、前記亀裂深さに応じて少なくとも二つ以上に区分した損傷区分に、前記推定された亀裂深さの値を当てはめて、前記検査対象の取替え有無について評価することを特徴とする。
さらに、前記亀裂深さの推定にて、前記検査対象の表面の亀裂長さ分布、亀裂幅分布、亀裂面積比の組合せを用いて行う場合、重回帰分析法、ニューラルネットワーク法の何れかの推定法を用いることを特徴とする。
【0011】
また、前記検査対象がボイラの火炉壁管からなる管材であり、
前記環境因子は、前記検査対象近傍の硫化水素濃度及び前記検査対象のメタル表面温度差であり、前記硫化水素濃度及び前記メタル表面温度差の何れかの一つ又はその組合わせを二つ以上の区分に分類し、その二つ以上の区分に分類した前記硫化水素濃度及び前記メタル表面温度差ごとに、亀裂の亀裂長さ分布、亀裂幅分布、亀裂面積比の何れか一つ又はこれらの組合せと亀裂深さとの関係を示す関係式を作成することを特徴とする。
さらにまた、前記画像処理にて、2値化処理を用いることが好適である。
【発明の効果】
【0012】
以上記載のごとく本発明によれば、二つ以上の区分に分類した硫化水素濃度及びメタル表面温度差の何れかの一つ又はその組合わせごとに予め求めた亀裂長さ分布、亀裂幅分布、亀裂面積比の何れか一つ又はこれらの組合せと亀裂深さとの関係を示す関係式を用いる。検査対象表面の硫化水素濃度及びメタル表面温度差を測定又は過去の計測の際に得られたデータを用い、前記関係式を特定した後、画像処理によって得られた亀裂長さ分布、亀裂幅分布、亀裂面積比の何れか一つ又はこれらの組合せからなる亀裂評価項目を当てはめ、亀裂深さを推定することができ、ボイラ等の火炉壁管等の余寿命を正確に予測することができるため、必要に応じて適切な処置を施すことができるものになる。また、予め設定した亀裂評価項目と亀裂深さとの相関関係を予め複数設定しておき、環境因子(火炉壁管では硫化水素濃度及びメタル表面温度差)から適用する相関関係を選択するようにしているため、より精度の高い亀裂深さ推定が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但しこの実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
本実施形態では、検査対象としてボイラ火炉壁に配設される熱交換又は水冷用のボイラ火炉壁管を例に挙げて説明するが、検査対象はこれに限定されるものではない。
【0014】
本実施形態に係る寿命評価方法について、図面を参照して説明する。図1は、本実施形態に係る寿命評価方法の判定を示すフローチャートである。
図1に示すように、本実施の形態に係る寿命評価方法は、先ず、検査対象部位のボイラ使用時の硫化水素濃度及びメタル表面温度差(環境因子に該当する)を計測する工程(S101)と、この計測により得られた前記硫化水素濃度及び前記検査対象メタル表面温度差より、予め求めておいた亀裂の亀裂長さ分布、亀裂幅分布、亀裂面積比の何れか一つ又はこれらの組合せからなる亀裂評価項目と亀裂深さとの関係を示す関係式を特定する工程(S102)と、検査対象の表面に付着した酸化スケールを除去する工程(S103)と、検査対象表面を画像撮影する工程(S104)と、前記画像撮影により得られた画像に画像処理を施し、検査対象表面の亀裂を認識し、亀裂長さ分布、亀裂幅分布、亀裂面積比などの亀裂評価項目の特徴量を抽出する画像処理工程(S105)と、(S102)の工程により特定された前記関係式に(S105)で得られた亀裂の特徴量を当てはめて、前記亀裂深さを推測する工程(S106)と、(S105)により推測された前記亀裂深さに応じて取替の有無を判定する工程(S107)からなるものである。
【0015】
図2に、本実施形態にて上記した寿命評価方法が適用されるボイラ火炉壁20に示す。ボイラ火炉壁20は、炉外に面する側にケーシング21が配置され、炉内に面する側に火炉壁管10が配置され、該ケーシング21と火炉壁管10の間に保温材22が介装された構成を有する。
図3−1(a)の火炉壁管10の一部拡大図に示すように、本発明実施形態おける亀裂11とは前記火炉壁管10に発生する溝状の腐食のことをいう。該亀裂11は、硫化水素等の腐食性雰囲気、高温雰囲気及び火炉壁管の構造上から周方向に発生することが殆どであるが、その環境条件又は構造、運転期間により火炉壁管10A、11Bによって異なる。
【0016】
ここで、前記亀裂長さLとは、図4(a−2)、(b−2)に示すように、前記火炉壁管の表面の前記亀裂の亀裂進展時のおける亀裂進展方向の長さをいう。
前記亀裂幅Wとは、図3−2、図4(a−1)、(b−1)に示すように、前記火炉壁管の表面の前記亀裂の亀裂進展時のおける亀裂進展方向に直行する前記亀裂の開口幅をいう。
前記亀裂面積比とは、検査対象である管表面の画像撮影を行った際の管表面の面積に占める亀裂の面積比率(画像の全ピクセル数分の亀裂のピクセル数)を示す。
前記亀裂長さ分布又は前記亀裂幅分布とは、複数の亀裂長さ又は亀裂深さから統計的にその分布を求めたものであり、例えば長さ又は幅の平均値と偏差に基づいて算出する方法等が挙げられる。
【0017】
図1に示したボイラ使用時おける硫化水素濃度及びメタル表面温度差を測定する工程(S101)では、前記火炉壁管10内部の硫化水素濃度分布を計測するため前記火炉壁管10の管と管をつなげるために溶接によって接合されたフィン12に複数の穴を開け、そこからガスを吸出し、ガス計測することにより前記硫化水素濃度分布を測定する。
また、前記火炉壁管10のデスラッガ使用時の管メタル表面温度差は前記火炉壁管10の熱電対と呼ばれる温度測定器を用い温度計測を行っている。この熱電対にはパッド型とコーダル型があり、パッドは炉外側の管表面、コーダル型は炉内側の温度計測に用いる。この際、パッドとコーダルの温度差を計測しておき、管表面に付着した灰を落とすために用いるデスラッガ使用時の前記温度差の変化を計測する。
硫化水素濃度分布の測定も管メタル表面温度差も発電所建設後の試運転時及び定期的に計測されるものであるため、別段、溝状腐食の検査に当たって計測する必要性はない。検査対象部付近のデータがない場合は近隣の計測値の平均値を用いることとする。
燃焼石炭、燃焼条件などからシュミレーションで硫化水素濃度を求めてもよい。尚、本実施形態は火炉壁管を検査対象としており、環境因子として硫化水素濃度及びメタル表面温度差を用いているが、他の検査対象においてはその検査対象の亀裂発生の原因となる環境因子を適宜選出して用いるようにする。
【0018】
図1に示す前記亀裂の特徴量及び亀裂深さの関係式を特定する工程(S102)では、S101の工程で得られた前記硫化水素濃度及びメタル表面温度差からなる環境因子に応じて、予め求められた亀裂の亀裂長さ分布、亀裂幅分布、亀裂面積比の何れか一つ又はこれらの組合せからなる亀裂評価項目と亀裂深さとの関係を示す関係式を特定する。尚、該亀裂評価項目と亀裂深さと相関関係をあらわす関係式は、評価試験、経験値(実機から取得したデータ等)、シミュレーションなどにより予め複数設定しておく。
ここで、図5に一例として亀裂幅の分布と亀裂深さの関係図を示す。この際、前記硫化水素濃度及び表面温度は高・低の二段階に分類している。前記硫化水素濃度及びメタル表面温度差を考慮した場合、その組合わせより4つの関係式に分類される。分類した結果を図6の表に示す。
【0019】
図1に示す前記酸化スケール除去工程(S103)では、前記火炉壁管10の表面が酸化スケールで覆われているため、グラインダーによる研磨やブラスト処理等において除去するようにしている。
ここで、前記ブラスト処理とは、前記火炉壁管の表面に鉄、砂、ガラス等の粒子を吹き付けることにより、研削又は研磨する(あるいは表面を粗くする)処理をいう。なお、本実施形態におけるブラスト処理は、乾式ブラスト処理と湿式ブラスト処理の両方が含まれる。
【0020】
検査対象表面画像撮影の工程(S104)ではデジタルカメラやCCDカメラを用いる。
撮影画像から亀裂特徴量を抽出する工程(S105)では、前記検査対象に発生する亀裂の亀裂長さ分布、亀裂幅分布、亀裂面積比を画像処理より求める。画像処理の流れを図7に示す。同図において、まず撮影した原画像を取り込み(S201)、該原画像から溝部分を消去する(S202)。次いで、差分処理により変化する亀裂を抽出し(S203)、該差分処理により得られた差分画像を2値化処理(S204)した後、2値化画像のうち微小部分を除去して(S205)、亀裂を明瞭に検出する。尚、本実施形態では画像処理する方法として2値化処理で行っているが、これに限定されるものではなく2以上の多値化処理を行うようにしてもよい。
そして、亀裂特徴量を抽出する際には、前記2値化処理により検出された亀裂ごとに亀裂長さ及び亀裂幅、亀裂面積比を画像のピクセル数より求める。
亀裂の面積比を求める理由は図8に示すように前記検査対象近辺の硫化水素濃度及び前記検査対象メタル表面温度差によって違いはあるもののボイラの使用時間に応じ増加傾向にあるため、溝状腐食の進展具合を計ることができるためである。
【0021】
次に、亀裂長さにおいて、その最大値を求めるのではなく撮影した画像領域中の亀裂長さ分布を求める理由は、亀裂は図9に示すように亀裂の進展に伴い亀裂と亀裂が進展し連結することがある。同図において、(a)は亀裂発生初期で、(b)〜(d)は亀裂11の進展する状況を示す。この際、亀裂11が連結仕立ての場合、亀裂長さは長いが亀裂深さはあまり大きくないという場合が起こる。また、連結することにより大きな亀裂が発生すると、大きな亀裂に応力集中が起こるため近隣の亀裂の進展が遅くなるという傾向がある。このため、溝状腐食は亀裂の進展が進むにつれて、亀裂長さの分布が広がる傾向がある。このような理由から亀裂長さの最大値ではなく亀裂長さの分布を用いることとした。分布を考慮した値としては偏差を求めてもよい。
【0022】
また、亀裂幅についても亀裂が進展するにつれて分布が広がる傾向がある。図10に示す。同図において、(a)は亀裂発生初期で、(b)、(c)は亀裂11の進展する状況を示す。このように、亀裂が進展すると隣接する亀裂同士が連結すると亀裂幅の分布は拡大する。加えて亀裂進展に伴う亀裂長さの分布の変化を図11に示す。
【0023】
次に、図1に示す亀裂深さ推定の工程(S106)では、S105の工程で得た亀裂長さ分布、亀裂幅分布、亀裂面積比の何れか一つ又はその組合わせを、亀裂長さ分布、亀裂幅分布、亀裂面積比の何れか一つ又はその組合わせと亀裂深さの関係を求めた関係式に当てはめて亀裂深さを推測する。亀裂深さ推定のための関係式は、重回帰分析法、ニューラルネットワーク法の何れかの推定手段を用いることが好適であるが、他にもこれらに該等する解析法を用いることができる。
亀裂深さ推定のための関係式を重回帰分析で求める場合関係式は以下の式(1)になる。この際、yは亀裂深さ、X1は亀裂長さ平均(+3σ)、X2は亀裂幅平均(+3σ)、X3は亀裂面積比、α1からα3、βは重回帰分析によって求まる定数である。
y=α1X1+α2X2+α3X+β ・・・(1)
亀裂深さは一定長さのサンプル管を図12に示すように破面観察し求める。複数求めた亀裂深さの内、最大亀裂深さをこのサンプル管の亀裂深さとする。この際、検査対象の表面の亀裂長さ平均(+3σ)、亀裂幅平均(+3σ)、亀裂面積比は図7の処理により亀裂を検出してから求める。前述では亀裂長さ分布、亀裂幅分布と表現していたが、ここでは平均(+3σ)としている。これは検査対象範囲全体を加味した評価をするために平均を取っている。入力として平均値でなく一定範囲内にある亀裂の中の最大亀裂長さ及び亀裂を用いることも検討できるが前述したように、結合した直後ではその亀裂長さや幅のわりに亀裂深さが浅い場合があるため、+3σ(をとることによりノイズや前記結合直後の亀裂をデータに取り入れないようにしたものである。)
この際、分布に関するデータであれば+3σ以外の値も考慮することとする。
【0024】
次に図1に示す、(S106)の工程で推測された亀裂深さの値に応じて二つ以上の区分に評価し、火炉壁管の取替えの有無を判定する(S107)。例えば、亀裂が発生仕立てでその亀裂深さも非常に浅い場合、損傷区分をAとし対処方法は経過観察とする。亀裂が発生し、損傷区分Bよりも進展しているが、次回の検査まで貫通する危険性のないものは損傷区分Bとし、経過観察とする。現時点では貫通の恐れはないが次回の点検までには貫通する恐れのある場合、損傷区分Cとし早急な取替えを行う。現時点で貫通の恐れが高い場合は、損傷区分Dとし、早急な取替えを行う。
管の取替え工事には多くの費用と時間を費やす。発電所などでは点検や補修工事中その活動を控えなければいけないという問題から、工事期間はかなり限定される。このようなことから、どの部位から優先的に補修工事を行うか判断する際、損傷区分評価が有効な指標となる。
【0025】
このように、前記火炉壁管表面に発生した亀裂の亀裂長さ亀裂幅、亀裂面積比の何れか一つ、又はその組合わせからなる亀裂評価項目を画像処理にて検出し、該亀裂評価項目に基づき亀裂深さを推定しており、前記亀裂の大小に関わらず、より精度の高い亀裂深さの推測ができる寿命評価方法が提案できるため、前記火炉壁管の信頼性の確保及び噴破事故などを未然防止が可能となる。また、予め設定した亀裂評価項目と亀裂深さとの相関関係を予め複数設定しておき、環境因子(火炉壁管では硫化水素濃度及びメタル表面温度差)から適用する相関関係を選択するようにしているため、より精度の高い亀裂深さ推定が可能となる。
【0026】
また、本実施形態は、前記検査対象として、前記火炉壁管を用いて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなくボイラ等の他の配管等に用いられるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明に係る寿命評価方法は、検査対象表面の亀裂幅の大小に関わらず、より精度よく亀裂深さの検出を行うことができるため、ボイラ配管等の火炉壁管の溝状腐食により表面に形成される亀裂深さの測定に適している。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】 本発明の実施形態に係る寿命評価方法のフローチャートである。
【図2】 本発明が適用されるボイラ火炉壁の概略断面図である。
【図3−1】 (a)は火炉壁管表面に形成される亀裂の状態を示した概略図、(b)は他の火炉壁管表面に形成される亀裂の状態を示した概略図である。
【図3−2】 火炉壁管に形成される亀裂の亀裂幅を説明する図である。
【図4】 火炉壁管に形成される亀裂の亀裂長さ、亀裂幅、亀裂深さを説明する図で、(a−1)(b−1)は火炉壁管の側断面図で、(a−2)(b−2)は火炉壁管の平断面図である。
【図5】 亀裂幅の分布と亀裂深さの関係を示す図である。
【図6】 亀裂幅の分布と亀裂深さの関係を示す表である。
【図7】 亀裂検出における画像処理のフローチャートである。
【図8】 ボイラ使用時間と亀裂面積比の関係を示す図である。
【図9】 亀裂進展に伴う亀裂深さ、亀裂幅の変化を説明する図である。
【図10】 亀裂進展に伴う亀裂幅の変化を説明する図である。
【図11】 亀裂進展に伴う亀裂長さの分布の変化を示す図である。
【図12】 サンプル管とその破面(断面)を示す図である。
【符号の説明】
【0029】
10 火炉壁管
11 亀裂
12 フィン
20 ボイラ火炉壁
21 ケーシング
22 保温材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象の表面の亀裂長さ分布、亀裂幅分布、亀裂面積比の何れか一つ又はこれらの組合せからなる亀裂評価項目を画像処理により測定し、予め設定された前記亀裂評価項目と亀裂深さの相関関係に基づいて前記測定された亀裂評価項目から亀裂深さを推定する寿命評価方法において、
前記相関関係は、予め前記亀裂評価項目と亀裂深さの関係式として複数設定されており、
前記検査対象の使用環境、温度条件を含む環境因子に基づいて前記複数の関係式から選択された関係式を用いて、前記亀裂の表面を撮影した撮影画像から画像処理により検出された前記亀裂評価項目から前記亀裂深さを推定するようにしたことを特徴とする寿命評価方法。
【請求項2】
前記亀裂深さに応じて少なくとも二つ以上に区分した損傷区分に、前記推定された亀裂深さの値を当てはめて、前記検査対象の取替え有無について評価することを特徴とする請求項1記載の寿命評価方法。
【請求項3】
前記検査対象がボイラの火炉壁管からなる管材であり、
前記環境因子は、前記検査対象近傍の硫化水素濃度及び前記検査対象のメタル表面温度差であり、前記硫化水素濃度及び前記メタル表面温度差の何れかの一つ又はその組合わせを二つ以上の区分に分類し、その二つ以上の区分に分類した前記硫化水素濃度及び前記メタル表面温度差ごとに、亀裂の亀裂長さ分布、亀裂幅分布、亀裂面積比の何れか一つ又はこれらの組合せと亀裂深さとの関係を示す関係式を作成することを特徴とする請求項1又は2記載の寿命評価方法。
【請求項4】
前記亀裂深さの推定にて、前記検査対象の表面の亀裂長さ分布、亀裂幅分布、亀裂面積比の組合せを用いて行う場合、重回帰分析法、ニューラルネットワーク法の何れかの推定法を用いることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の寿命評価方法。
【請求項5】
前記画像処理にて、2値化処理を用いることを特徴とする請求項1記載の寿命評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−175110(P2009−175110A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−42140(P2008−42140)
【出願日】平成20年1月25日(2008.1.25)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】