説明

射出成形ボンド磁石作製用コンパウンドおよびその製造方法

【課題】 優れた流動性と磁気特性の両方を兼ね備えた射出成形ボンド磁石作製用コンパウンドおよびその製造方法を提供すること。
【解決手段】 所定の粒度分布を有する粒子集合体(個々の粒子のアスペクト比は0.3〜1.0である)で構成されてなるR−Fe−B系磁石粉末と、樹脂バインダとしての熱可塑性樹脂からなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた流動性と磁気特性の両方を兼ね備えた射出成形ボンド磁石作製用コンパウンドおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
射出成形ボンド磁石は、複雑形状に成形可能であることや小型磁石の作製が容易であること、また、樹脂バインダとして用いる熱可塑性樹脂の特性によっては磁石に高耐熱性や耐薬品性などを付与しうることから、近年、車載用モータや電装用モータなどに組み込まれたりして利用されている。
【0003】
射出成形ボンド磁石は、例えば、R−Fe−B系磁石粉末と樹脂バインダとしての熱可塑性樹脂を混練してコンパウンドを製造し、得られたコンパウンドを所定形状に射出成形することで作製される。その際、優れた生産性や成形の容易性の観点から、コンパウンドには高い流動性が要求される。コンパウンドの流動性を高めるための方法の代表例は、磁石粉末を構成する粒子集合体の粒度分布を微粉リッチなものにする方法であり、例えば、特許文献1には、平均粒径が20μm〜50μmで90%質量粒径(D90:粒径の小さい方から積算した合計質量が粒子全体質量の90%になるところの粒径)が50μm以上の粒度分布を有する粒子集合体で構成されてなるR−Fe−B系ナノコンポジット磁石粉末を用いて流動性に優れたコンパウンドを製造し、得られたコンパウンドを用いて射出成形ボンド磁石を作製する方法が記載されている。
【特許文献1】特開2004−273569号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように、従来、コンパウンドの流動性を高めるための検討は、磁石粉末を構成する粒子集合体の粒度分布をいかに微粉リッチなものにするかといった観点からなされてきた。しかしながら、磁石粉末を構成する粒子集合体の粒度分布を微粉リッチなものにしても必ずしもコンパウンドの流動性を高めることができる訳ではなく、用いる樹脂バインダの種類によっては磁石粉末の総表面積の増大に伴う摩擦の増大などに起因する流動性不足により、射出成形時における金型への射出が困難になるといった問題があった。特に、その問題は、樹脂バインダとしてポリフェニレンサルファイド系樹脂などの融点が270℃以上の耐熱性に優れた熱可塑性樹脂を用いた場合、顕著であった。また、磁石粉末を構成する粒子集合体の粒度分布を微粉リッチなものにすると、その製造時やコンパウンドとするための熱可塑性樹脂との混練時に磁石粉末の磁気特性が酸化により低下するといった問題や、それに起因してコンパウンドのリサイクル性が劣るといった問題があった。
そこで本発明は、優れた流動性と磁気特性の両方を兼ね備えた射出成形ボンド磁石作製用コンパウンドおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は上記の点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、これまでのように磁石粉末を構成する粒子集合体の粒度分布を微粉リッチなものにするといった考え方を採用しなくても、粒度分布を調整することで、射出成形時において優れた流動性を発揮するとともに、磁気特性に優れたコンパウンドが得られることを見出した。
【0006】
上記の知見に基づいてなされた本発明の射出成形ボンド磁石作製用コンパウンドは、請求項1記載の通り、以下に規定される粒度分布を有する粒子集合体(個々の粒子のアスペクト比は0.3〜1.0である)で構成されてなるR−Fe−B系磁石粉末と、樹脂バインダとしての熱可塑性樹脂からなることを特徴とする。
(1)平均粒径(Dave)が130μm〜220μmである(Daveは10μで表され、μは以下の式(I)にあてはめて算出した平均粒径の常用対数値である)。
【0007】
【数4】

【0008】
(xjは粒径について700.000μm〜0.030μmまでを対数目盛で51等分(n=51)したときの粒径の大きい方からj番目の粒径(μm)、xj+1はその1つ微粉側の粒径(μm)、qjはxjにおける質量換算の粒子全体に対する相対粒子量(%)を示す)
(2)10%質量粒径(D10:粒径の小さい方から積算した合計質量が粒子全体質量の10%になるところの粒径)が50μm以上である。
(3)50%質量粒径(D50:粒径の小さい方から積算した合計質量が粒子全体質量の50%になるところの粒径)が120μm以上である。
(4)90%質量粒径(D90:粒径の小さい方から積算した合計質量が粒子全体質量の90%になるところの粒径)が250μm以上である。
また、請求項2記載の射出成形ボンド磁石作製用コンパウンドは、請求項1記載の射出成形ボンド磁石作製用コンパウンドにおいて、R−Fe−B系磁石粉末の酸素含有量が0.10mass%未満であることを特徴とする。
また、請求項3記載の射出成形ボンド磁石作製用コンパウンドは、請求項1または2記載の射出成形ボンド磁石作製用コンパウンドにおいて、熱可塑性樹脂がポリフェニレンサルファイド系樹脂であることを特徴とする。
また、請求項4記載の射出成形ボンド磁石作製用コンパウンドは、請求項1乃至3のいずれかに記載の射出成形ボンド磁石作製用コンパウンドにおいて、R−Fe−B系磁石粉末がR−Fe−B系ナノコンポジット磁石粉末であることを特徴とする。
また、本発明の射出成形ボンド磁石作製用コンパウンドの製造方法は、請求項5記載の通り、R−Fe−B系磁石用急冷合金薄帯を粉砕することで以下に規定される粒度分布を有する粒子集合体(個々の粒子のアスペクト比は0.3〜1.0である)で構成されてなるR−Fe−B系磁石粉末を得る工程と、得られたR−Fe−B系磁石粉末を樹脂バインダとしての熱可塑性樹脂と混練する工程を少なくとも含むことを特徴とする。
(1)平均粒径(Dave)が130μm〜220μmである(Daveは10μで表され、μは以下の式(I)にあてはめて算出した平均粒径の常用対数値である)。
【0009】
【数5】

【0010】
(xjは粒径について700.000μm〜0.030μmまでを対数目盛で51等分(n=51)したときの粒径の大きい方からj番目の粒径(μm)、xj+1はその1つ微粉側の粒径(μm)、qjはxjにおける質量換算の粒子全体に対する相対粒子量(%)を示す)
(2)10%質量粒径(D10:粒径の小さい方から積算した合計質量が粒子全体質量の10%になるところの粒径)が50μm以上である。
(3)50%質量粒径(D50:粒径の小さい方から積算した合計質量が粒子全体質量の50%になるところの粒径)が120μm以上である。
(4)90%質量粒径(D90:粒径の小さい方から積算した合計質量が粒子全体質量の90%になるところの粒径)が250μm以上である。
また、本発明のR−Fe−B系磁石粉末は、請求項6記載の通り、以下に規定される粒度分布を有する粒子集合体(個々の粒子のアスペクト比は0.3〜1.0である)で構成されてなることを特徴とする。
(1)平均粒径(Dave)が130μm〜220μmである(Daveは10μで表され、μは以下の式(I)にあてはめて算出した平均粒径の常用対数値である)。
【0011】
【数6】

【0012】
(xjは粒径について700.000μm〜0.030μmまでを対数目盛で51等分(n=51)したときの粒径の大きい方からj番目の粒径(μm)、xj+1はその1つ微粉側の粒径(μm)、qjはxjにおける質量換算の粒子全体に対する相対粒子量(%)を示す)
(2)10%質量粒径(D10:粒径の小さい方から積算した合計質量が粒子全体質量の10%になるところの粒径)が50μm以上である。
(3)50%質量粒径(D50:粒径の小さい方から積算した合計質量が粒子全体質量の50%になるところの粒径)が120μm以上である。
(4)90%質量粒径(D90:粒径の小さい方から積算した合計質量が粒子全体質量の90%になるところの粒径)が250μm以上である。
また、本発明のボンド磁石は、請求項7記載の通り、請求項1乃至4のいずれかに記載の射出成形ボンド磁石作製用コンパウンドを用いて所定形状に射出成形されてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、優れた流動性と磁気特性の両方を兼ね備えた射出成形ボンド磁石作製用コンパウンドおよびその製造方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明におけるR−Fe−B系磁石粉末としては、例えば、Nd2Fe14B相などの硬磁性相と、鉄基硼化物相(Fe236相やFe3B相など)やα−Fe相などの軟磁性相とで構成されるNd−Fe−B系ナノコンポジット磁石粉末に代表されるR−Fe−B系ナノコンポジット磁石粉末が挙げられる。R−Fe−B系ナノコンポジット磁石粉末は、硬磁性相と軟磁性相とがナノメートルスケールの微結晶相として混在して磁気的に結合した組織を有する磁石粉末であり、優れた磁気特性を有する。R−Fe−B系ナノコンポジット磁石粉末の組成としては、例えば、特開2002−175908号公報に記載の、(Fe1-mm100-x-y-zxyz(TはCoおよびNiからなる群から選択された1種以上の金属元素、QはBおよびCからなる群から選択された1種以上の元素、RはLaおよびCeを実質的に含まない1種以上の希土類金属元素、MはTi、Zr、およびHfからなる群から選択された金属元素であって、Tiを必ず含む少なくとも1種の金属元素で、式中のx、y、z、mがそれぞれ10原子%<x≦20原子%、6原子%≦y<10原子%、0.1原子%≦z≦12原子%、0≦m≦0.5)で表されるものが挙げられる。なお、本発明におけるR−Fe−B系磁石粉末は、例えば、Magnequench International社から商品名「MQP」として販売されているような、従来からよく知られているR−Fe−B系急冷磁石粉末であってもよい。
【0015】
目的とする粒度分布を有する粒子集合体で構成されてなるR−Fe−B系ナノコンポジット磁石粉末は、例えば、次のようにして得ることができる。まず、ロール急冷法によって厚さ60μm〜300μmの急冷合金薄帯を製造する。このような薄帯の製造は、例えば、図1に要部の概略を示すストリップキャスト装置を用いて行うことができる。図1に示すストリップキャスト装置は、原料合金を溶解し、貯えることのできる溶解坩堝11と、溶解坩堝11から注がれる合金溶湯12を受けて所定位置までこれを案内するシュート(案内手段)14と、シュート14の先端から注がれる合金溶湯12を急冷する冷却ロール13とを備えている。図1に示すストリップキャスト装置によれば、冷却ロール13の外周表面に接触した合金溶湯12は、回転する冷却ロール13に引きずられるようにしてロール周面に沿って移動し、この過程において冷却され、急冷合金薄帯15となる。
【0016】
次に、上記のようにして製造された急冷合金薄帯を、例えば、ピンディスクミル装置を用いて粉砕する。ピンディスクミル装置とは片面に複数の同心円を描くように多数のピンが配列されたディスク(円盤)2枚をピンが配列された面を内側にしてかつ互いのピンが衝突しないように対向させたものであり、円盤を回転させることで被処理物をピンに衝突させて粉砕するものである。例えば、ピンディスクミル装置の円盤を3000rpm〜6000rpmの回転数で回転させ、35kg/Hr〜45kg/Hrのスループットで急冷合金薄帯を粉砕することで、Daveが130μm〜220μm、D10が50μm以上、D50が120μm以上、D90が250μm以上である粒子集合体で構成されてなるR−Fe−B系ナノコンポジット磁石粉末を得ることができる。こうして得られた磁石粉末を構成する粒子集合体は粒度範囲が5μm〜500μmであり、個々の粒子はアスペクト比(粒子の長軸方向サイズに対する短軸方向サイズの比)が0.3〜1.0の塊状で流動性に優れたものである。また、この粒子集合体は、酸化されやすい小さな粒子の含有割合が少ないことから、酸素含有量が0.10mass%未満であり、耐酸化性に優れたものである。
【0017】
急冷合金薄帯の粉砕は250μmのメッシュを通しながら行うことが望ましい。250μmのメッシュを通らないような大きな粒子の存在をなくすことで、磁石作製過程における磁石粉末の磁気特性の低下を防止することができる。なお、得られた磁石粉末に対して必要に応じて結晶化のための熱処理を施してもよい。また、ピンディスクミル装置を用いて急冷合金薄帯を粉砕する前に、パワーミル装置などを用いて急冷合金薄帯を予め粗粉砕しておいてもよい。
【0018】
上記のようにして得た目的とする粒度分布を有する粒子集合体で構成されてなるR−Fe−B系ナノコンポジット磁石粉末を、ラボプラストミルなどの公知の混練機を用いて樹脂バインダとしての熱可塑性樹脂と混練することで、本発明の射出成形ボンド磁石作製用コンパウンドを製造することができる。本発明によれば、熱可塑性樹脂として、樹脂バインダとして汎用されている融点が270℃までのナイロン系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、液晶ポリマーなどを用いた場合の他、融点が270℃以上の耐熱性に優れたポリフェニレンサルファイド系樹脂(融点285℃)やポリエーテルエーテルケトン系樹脂(融点334℃)などを用いた場合でも、優れた流動性と磁気特性の両方を兼ね備えたコンパウンドを製造することができる。磁石粉末と熱可塑性樹脂との混練は、コンパウンドに含まれる磁石粉末の割合が85mass%〜96mass%となるように行うことが望ましい。磁石粉末の含有割合が85mass%未満であると、優れた磁気特性を有するボンド磁石を製造することができなくなる恐れがある一方、磁石粉末の含有割合が96mass%を超えると、熱可塑性樹脂が少なすぎて優れた流動性を有するコンパウンドが製造できないことで、射出成形が困難になる恐れがあるからである。なお、磁石粉末と熱可塑性樹脂とを混練する際、必要に応じて公知のカップリング剤、潤滑剤、酸化防止剤などの添加剤を添加してもよい。
【0019】
上記のようにして製造された本発明の射出成形ボンド磁石作製用コンパウンドは、優れた磁気特性を有するとともに、優れた流動性を有しており、例えば、磁石粉末の含有割合が90mass%の時にメルトフローレート(MFR)値は射出成形が十分可能な200g/10min〜750g/10minである。また、このコンパウンドは、コンパウンド中に磁石粉末と熱可塑性樹脂が均一に存在しているので、射出成形によってボンド磁石を作製した際、ボンド磁石間での磁気特性のバラツキや磁石の部位間での磁気特性のバラツキがない。なお、射出成形の方法は特段制限されるものではなく、公知の射出成形機を用いた通常採用される条件でよい。
【実施例】
【0020】
本発明を以下の実施例と比較例によってさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定して解釈されるものではない。
【0021】
実施例1:
(工程1)
Nd:9.0原子%、B:12.6原子%、C:1.4原子%、Ti:3.0原子%、Nb:1.0原子%、残部Feの合金組成になるように配合した原料5kgを坩堝内に投入した後、50kPaに保持したAr雰囲気中にて高周波誘導加熱により合金溶湯を得た。
次に、図1に示すストリップキャスト装置を用いて上記の合金溶湯から急冷合金薄帯を製造した。具体的には、坩堝を傾転することによって、合金溶湯をシュートを介して、ロール表面速度15m/秒にて回転する純銅製の冷却ロール(直径250mm)上に直接供給し、合金溶湯を急冷した。なお、ロールに溶湯を供給する際には、シュート上で溶湯を2条に分流し、その際の溶湯の供給速度は坩堝の傾転角を調整することにより、1条あたり1.3kg/分に調整した。得られた急冷合金薄帯について、鋳片100個の厚みをマイクロメータで測定した結果、薄帯の平均厚みは85μmであった。
上記のようにして得られた急冷合金薄帯をパワーミル装置を用いて850μm以下に粗粉砕した。得られた粉砕物に対し、これを長さ500mmの均熱帯を有するフープベルト炉を用い、Ar流気下、ベルト送り速度100mm/分にて700℃に保持した炉内へ粉末を20g/分の供給速度で投入することによって結晶化熱処理を施した。結晶化熱処理を施した粉砕物の結晶構造を粉末X線回折法を用いて解析した結果、硬磁性相としてのNd2Fe14B相と、軟磁性相としてのFe236相やFe3B相などの鉄基硼化物相およびわずかのα−Fe相から構成されるナノコンポジット組織を有していることを確認することができた。
結晶化熱処理を施した粉砕物を、小型ピンディスクミル装置を用いて円盤を3500rpmの回転数で回転させ、250μmのメッシュを通しながら40kg/Hrのスループットで粉砕し、粒度範囲:10μm〜500μm、Dave:198.7μm、D10:103.6μm、D50:214.1μm、D90:318.2μmのNd−Fe−B系ナノコンポジット磁石粉末を得た(粒度分布測定は島津製作所社製のレーザー回折式粒度分布測定装置SALD−3100による)。この磁石粉末を構成する粒子集合体から無作為に粒子100個を選び、それらのアスペクト比を走査型電子顕微鏡(日立製作所社製のS−2150)で調べたところ、全て0.3〜1.0の範囲内にあった。振動試料型磁力計(VSM:東英工業社製のVSM−5−20)を用いて測定したこの磁石粉末の磁気特性、酸素窒素分析装置(堀場製作所社製のEMGA−550W)を用いて測定した酸素含有量を表1に示す。
【0022】
(工程2)
工程1で得たNd−Fe−B系ナノコンポジット磁石粉末をカップリング剤として信越化学工業社製のKBM−303を用いてカップリング処理した後、樹脂バインダとしてのポリフェニレンサルファイド系樹脂(東ソー社製のサスティーン♯100)と混合して混練し、磁石粉末:90mass%、樹脂バインダ:9.95mass%、カップリング剤:0.05mass%からなる射出成形ボンド磁石作製用コンパウンドを得た。なお、コンパウンドを得るための混練は、東洋精機社製のラボプラストミルを用い、混練温度:310℃、混練時間:30分〜60分、混練回転数:150rpmで行った。得られたコンパウンドのJIS K7210 B法に基づいて荷重15kgとして320℃で測定したMFR値は687g/10minであった。
【0023】
(工程3)
卓上小型射出成形機を用い、成形温度:310℃、成形圧力:173kg/cm2の条件で、工程2で得た射出成形ボンド磁石作製用コンパウンドから直径10mm×高さ7mmのボンド磁石を作製した。このボンド磁石の密度と、直流磁化特性測定記録装置(BHトレーサー:メトロン技研社製のSK−130)を用いて測定した磁気特性を表2に、このボンド磁石に含まれる磁石粉末の残留磁束密度(Br)とボンド磁石に成形することによるその低下率を表3に示す。
【0024】
実施例2:
小型ピンディスクミル装置の円盤を4500rpmの回転数で回転させること以外は実施例1と同様にして、粒度範囲:10μm〜500μm、Dave:172.3μm、D10:81.6μm、D50:187.5μm、D90:308.7μmのNd−Fe−B系ナノコンポジット磁石粉末を得た。この磁石粉末を構成する粒子集合体から無作為に粒子100個を選び、それらのアスペクト比を調べたところ全て0.3〜1.0の範囲内にあった。この磁石粉末の磁気特性と酸素含有量を表1に示す。次に、実施例1と同様にして、このNd−Fe−B系ナノコンポジット磁石粉末から射出成形ボンド磁石作製用コンパウンドを得た。得られたコンパウンドのJIS K7210 B法に基づいて荷重15kgとして320℃で測定したMFR値は570g/10minであった。最後に、実施例1と同様にして、この射出成形ボンド磁石作製用コンパウンドからボンド磁石を作製した。その密度と磁気特性を表2に、ボンド磁石に含まれる磁石粉末の残留磁束密度とボンド磁石に成形することによるその低下率を表3に示す。
【0025】
実施例3:
小型ピンディスクミル装置の円盤を5500rpmの回転数で回転させること以外は実施例1と同様にして、粒度範囲:10μm〜500μm、Dave:151.0μm、D10:57.6μm、D50:168.4μm、D90:326.2μmのNd−Fe−B系ナノコンポジット磁石粉末を得た。この磁石粉末を構成する粒子集合体から無作為に粒子100個を選び、それらのアスペクト比を調べたところ全て0.3〜1.0の範囲内にあった。この磁石粉末の磁気特性と酸素含有量を表1に示す。次に、実施例1と同様にして、このNd−Fe−B系ナノコンポジット磁石粉末から射出成形ボンド磁石作製用コンパウンドを得た。得られたコンパウンドのJIS K7210 B法に基づいて荷重15kgとして320℃で測定したMFR値は663g/10minであった。最後に、実施例1と同様にして、この射出成形ボンド磁石作製用コンパウンドからボンド磁石を作製した。その密度と磁気特性を表2に、ボンド磁石に含まれる磁石粉末の残留磁束密度とボンド磁石に成形することによるその低下率を表3に示す。
【0026】
比較例1:
小型ピンディスクミル装置の円盤を6500rpmの回転数で回転させること以外は実施例1と同様にして、粒度範囲:11μm〜250μm、Dave:105.3μm、D10:41.1μm、D50:111.5μm、D90:218.5μmのNd−Fe−B系ナノコンポジット磁石粉末を得た。この磁石粉末を構成する粒子集合体から無作為に粒子100個を選び、それらのアスペクト比を調べたところ全て0.3〜1.0の範囲内にあった。この磁石粉末の磁気特性と酸素含有量を表1に示す。次に、実施例1と同様にして、このNd−Fe−B系ナノコンポジット磁石粉末から射出成形ボンド磁石作製用コンパウンドを得た。得られたコンパウンドのJIS K7210 B法に基づいて荷重15kgとして320℃で測定したMFR値は187g/10minであった。最後に、実施例1と同様にして、この射出成形ボンド磁石作製用コンパウンドからボンド磁石を作製した。その密度と磁気特性を表2に、ボンド磁石に含まれる磁石粉末の残留磁束密度とボンド磁石に成形することによるその低下率を表3に示す。
【0027】
比較例2:
比較例1で得たNd−Fe−B系ナノコンポジット磁石粉末に、別途の工程でDaveが約6.0μmになるまで微粉砕したNd−Fe−B系ナノコンポジット磁石粉末を20mass%混合し、粒度範囲:5μm〜200μm、Dave:45.0μm、D10:6.5μm、D50:66.1μm、D90:163.6μmのNd−Fe−B系ナノコンポジット磁石粉末を得た。この磁石粉末の磁気特性と酸素含有量を表1に示す。次に、実施例1と同様にして、このNd−Fe−B系ナノコンポジット磁石粉末から射出成形ボンド磁石作製用コンパウンドを得た。得られたコンパウンドのJIS K7210 B法に基づいて荷重15kgとして320℃で測定したMFR値は3255g/10minであった。最後に、実施例1と同様にして、この射出成形ボンド磁石作製用コンパウンドからボンド磁石を作製した。その密度と磁気特性を表2に、ボンド磁石に含まれる磁石粉末の残留磁束密度とボンド磁石に成形することによるその低下率を表3に示す。
【0028】
比較例3:
比較例1で得たNd−Fe−B系ナノコンポジット磁石粉末に、別途の工程でDaveが約6.0μmになるまで微粉砕したNd−Fe−B系ナノコンポジット磁石粉末を30mass%混合し、粒度範囲:5μm〜200μm、Dave:31.5μm、D10:4.5μm、D50:46.3μm、D90:149.8μmのNd−Fe−B系ナノコンポジット磁石粉末を得た。この磁石粉末の磁気特性と酸素含有量を表1に示す。次に、実施例1と同様にして、このNd−Fe−B系ナノコンポジット磁石粉末から射出成形ボンド磁石作製用コンパウンドを得た。得られたコンパウンドのJIS K7210 B法に基づいて荷重15kgとして320℃で測定したMFR値は4589g/10minであった。最後に、実施例1と同様にして、この射出成形ボンド磁石作製用コンパウンドからボンド磁石を作製した。その密度と磁気特性を表2に、ボンド磁石に含まれる磁石粉末の残留磁束密度とボンド磁石に成形することによるその低下率を表3に示す。
【0029】
【表1】

【0030】
【表2】

【0031】
【表3】

【0032】
以上の結果から明らかなように、実施例1〜実施例3のNd−Fe−B系ナノコンポジット磁石粉末から得られる射出成形ボンド磁石作製用コンパウンドは磁気特性に優れるとともに射出成形が十分可能なMFR値を有すること、この射出成形ボンド磁石作製用コンパウンドから作製されるボンド磁石は磁気特性に優れることがわかった。一方、比較例1の射出成形ボンド磁石作製用コンパウンドは磁気特性が酸化により低下しているため、このコンパウンドから作製されるボンド磁石の磁気特性は実施例1〜実施例3のコンパウンドから作製されるボンド磁石の磁気特性よりも劣るものであった。また、このコンパウンドは流動性に劣ることから、ボンド磁石の作製時に金型の内部で固化してしまい射出成形できない場合があった。比較例2と比較例3の射出成形ボンド磁石作製用コンパウンドは流動性に優れるので射出成形できないといった場合はなかったが、比較例1のコンパウンドよりもさらに磁気特性が低下していることから、このコンパウンドから作製されるボンド磁石の磁気特性は比較例1のコンパウンドから作製されるボンド磁石の磁気特性よりもさらに劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、優れた流動性と磁気特性の両方を兼ね備えた射出成形ボンド磁石作製用コンパウンドおよびその製造方法を提供できる点において産業上の利用可能性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】R−Fe−B系ナノコンポジット磁石粉末用急冷合金薄帯を製造するためのストリップキャスト装置の一例の要部の概略図である。
【符号の説明】
【0035】
11 溶解坩堝
12 合金溶湯
13 冷却ロール
14 シュート
15 急冷合金薄帯

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下に規定される粒度分布を有する粒子集合体(個々の粒子のアスペクト比は0.3〜1.0である)で構成されてなるR−Fe−B系磁石粉末と、樹脂バインダとしての熱可塑性樹脂からなることを特徴とする射出成形ボンド磁石作製用コンパウンド。
(1)平均粒径(Dave)が130μm〜220μmである(Daveは10μで表され、μは以下の式(I)にあてはめて算出した平均粒径の常用対数値である)。
【数1】

(xjは粒径について700.000μm〜0.030μmまでを対数目盛で51等分(n=51)したときの粒径の大きい方からj番目の粒径(μm)、xj+1はその1つ微粉側の粒径(μm)、qjはxjにおける質量換算の粒子全体に対する相対粒子量(%)を示す)
(2)10%質量粒径(D10:粒径の小さい方から積算した合計質量が粒子全体質量の10%になるところの粒径)が50μm以上である。
(3)50%質量粒径(D50:粒径の小さい方から積算した合計質量が粒子全体質量の50%になるところの粒径)が120μm以上である。
(4)90%質量粒径(D90:粒径の小さい方から積算した合計質量が粒子全体質量の90%になるところの粒径)が250μm以上である。
【請求項2】
R−Fe−B系磁石粉末の酸素含有量が0.10mass%未満であることを特徴とする請求項1記載の射出成形ボンド磁石作製用コンパウンド。
【請求項3】
熱可塑性樹脂がポリフェニレンサルファイド系樹脂であることを特徴とする請求項1または2記載の射出成形ボンド磁石作製用コンパウンド。
【請求項4】
R−Fe−B系磁石粉末がR−Fe−B系ナノコンポジット磁石粉末であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の射出成形ボンド磁石作製用コンパウンド。
【請求項5】
R−Fe−B系磁石用急冷合金薄帯を粉砕することで以下に規定される粒度分布を有する粒子集合体(個々の粒子のアスペクト比は0.3〜1.0である)で構成されてなるR−Fe−B系磁石粉末を得る工程と、得られたR−Fe−B系磁石粉末を樹脂バインダとしての熱可塑性樹脂と混練する工程を少なくとも含むことを特徴とする射出成形ボンド磁石作製用コンパウンドの製造方法。
(1)平均粒径(Dave)が130μm〜220μmである(Daveは10μで表され、μは以下の式(I)にあてはめて算出した平均粒径の常用対数値である)。
【数2】

(xjは粒径について700.000μm〜0.030μmまでを対数目盛で51等分(n=51)したときの粒径の大きい方からj番目の粒径(μm)、xj+1はその1つ微粉側の粒径(μm)、qjはxjにおける質量換算の粒子全体に対する相対粒子量(%)を示す)
(2)10%質量粒径(D10:粒径の小さい方から積算した合計質量が粒子全体質量の10%になるところの粒径)が50μm以上である。
(3)50%質量粒径(D50:粒径の小さい方から積算した合計質量が粒子全体質量の50%になるところの粒径)が120μm以上である。
(4)90%質量粒径(D90:粒径の小さい方から積算した合計質量が粒子全体質量の90%になるところの粒径)が250μm以上である。
【請求項6】
以下に規定される粒度分布を有する粒子集合体(個々の粒子のアスペクト比は0.3〜1.0である)で構成されてなることを特徴とするR−Fe−B系磁石粉末。
(1)平均粒径(Dave)が130μm〜220μmである(Daveは10μで表され、μは以下の式(I)にあてはめて算出した平均粒径の常用対数値である)。
【数3】

(xjは粒径について700.000μm〜0.030μmまでを対数目盛で51等分(n=51)したときの粒径の大きい方からj番目の粒径(μm)、xj+1はその1つ微粉側の粒径(μm)、qjはxjにおける質量換算の粒子全体に対する相対粒子量(%)を示す)
(2)10%質量粒径(D10:粒径の小さい方から積算した合計質量が粒子全体質量の10%になるところの粒径)が50μm以上である。
(3)50%質量粒径(D50:粒径の小さい方から積算した合計質量が粒子全体質量の50%になるところの粒径)が120μm以上である。
(4)90%質量粒径(D90:粒径の小さい方から積算した合計質量が粒子全体質量の90%になるところの粒径)が250μm以上である。
【請求項7】
請求項1乃至4のいずれかに記載の射出成形ボンド磁石作製用コンパウンドを用いて所定形状に射出成形されてなることを特徴とするボンド磁石。

【図1】
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【公開番号】特開2007−158029(P2007−158029A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−351348(P2005−351348)
【出願日】平成17年12月5日(2005.12.5)
【出願人】(000183417)株式会社NEOMAX (121)
【Fターム(参考)】