説明

射出成形機の制御方法

【課題】保圧工程における保持圧力の立ち下がりや立ち上がりの応答特性を最適化できる射出成形機の制御方法、および、特に、保圧工程の開始直後における圧力の立ち下がりの応答特性を最適化できる射出成形機の制御方法を提供する。
【解決手段】保圧工程開始時点または保持圧力の大きさが切り換えられる時点から次の保持圧力に切り換えられる時点までの間を時系列で高応答区間と低応答区間に区分し、高応答区間の少なくとも一部区間では、オペレータが設定した応答特性に対して、応答時間をゼロに設定する応答時間ゼロ設定と、応答時間をゼロ以外の値に下げる応答時間減少設定と、サーボ機構のスプール開度の開度制限を広げる開度制限指令値拡大設定の3種類のうち少なくともいずれか一つの設定を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形機の制御方法に関し、保圧工程における保持圧力の立ち下がりや立ち上がりの応答特性を最適化できる制御方法に関する。特に、保圧工程の開始直後における圧力の立ち下がりの応答特性を最適化できる制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に射出成形機は少なくとも型締装置と射出装置とを備えて、その型締装置で金型装置の開閉や締め付けを行い、その射出装置で可塑化計量した樹脂材料を金型装置のキャビティ内に射出して充填を行う。
そのうち射出装置は、1本のインラインスクリュで可塑化と射出充填の両方を行うインラインスクリュ式射出装置と、可塑化スクリュで可塑化を行うとともに射出プランジャで射出充填を行うスクリュプリプラ式射出装置に大別される。
本明細書中においてはインラインスクリュ及び射出プランジャをまとめて「射出軸」という。
近年、薄肉成形や精密成形などで、高速・高応答に射出充填を行うことが望まれている。そのため、例えば、射出軸を油圧式のピストン・シリンダユニットで駆動する射出装置では、油圧源として油圧ポンプの他にアキュムレータを備えて、そのアキュムレータに高圧多量に蓄圧した作動油を一気にピストン・シリンダユニットに供給して、高速で射出軸を駆動させるとともに、そのアキュムレータとピストン・シリンダユニットとの間にサーボ弁を配置して、このサーボ弁の駆動を制御することでピストン・シリンダユニットへの作動油の供給量および供給方向を調節して、射出軸を高応答および高精密に駆動させるといったものがある。
【0003】
一般的な射出装置では、樹脂材料を金型装置のキャビティ内に射出充填するための射出工程が充填工程と保圧工程とからなり、通常、充填速度が優先して制御される充填工程において、金型のキャビティ内に溶融された樹脂材料(溶融樹脂)を充填したあと、圧力が優先して制御される保圧工程において、そのキャビティ内に充填した溶融樹脂の冷却にともなう熱収縮分を補うために必要な分の溶融樹脂をさらに充填するように制御している。さらに、保圧工程ではキャビティのゲート部分の溶融樹脂が固化するまでキャビティ内の溶融樹脂に圧力を付与する。また、保圧工程では、充填された溶融樹脂に気泡が入り込んだ場合に、そのガス抜きを行う効果もある。
なお、充填工程と保圧工程の間の切り換えを「VP切り換え」という。
射出工程の完了後は冷却工程において溶融樹脂を固化させてから、金型装置を開いてその固化した成形品を取り出すことになる。
【0004】
充填工程においては射出速度が設定値と一致するようにフィードバック制御を行い、保圧工程においては圧力が設定値と一致するようにフィードバック制御を行うことで成形不良、例えば、充填不足、充填過剰、離型不良、ヒケ等を防止している。
また、VP切り換え時点で検出したキャビティ内の実際の圧力値(検出圧力値)は、保圧工程開始時点での設定値(設定圧力値)より相当高いことが多く、このように検出圧力値と設定圧力値との間に大きな偏差があると、フィードバック制御の特性上、あるいは射出装置における駆動部や制御部などの性能上、保圧工程の開始直後から両者が一致するまでに時間差(タイムラグ)が生じてしまい、成形品の品質に悪影響を及ぼすという問題がある。
つまり、成形品の品質を確保するためには、特に、保圧工程の開始直後に検出圧力値を設定圧力値まで減少させるまでのいわゆる立ち下がりの応答特性が重要であることが知られている。
【0005】
例えば特許文献1には、充填工程から保圧工程への切換点の通過後に射出速度が所定の目標値に達するまで射出圧力を開ループ制御する初期区間と、射出速度が目標値に達した場合に対応する射出圧力の目標値を設定し、射出圧力を閉ループ制御する中間区間と、さらに射出圧力が設定目標値となるように閉ループ制御する終期区間を設ける保圧工程制御方法が開示されている。
この方法によれば、検出圧力値と設定圧力値の間に大きな偏差が生じている初期区間ではタイムラグの発生を抑えるべく閉ループ制御(フィードバック制御)を行わずに開ループ制御を行い、偏差が小さくなる中間区間で閉ループ制御に戻すことで速やかに検出圧力値を設定圧力値に近づけることができる。
また、例えば特許文献2には、保圧工程の開始直後におけるオーバーシュートおよびアンダーシュートを防止し、検出圧力値を速やかに設定圧力値に近づけるべく、フィードバック制御の操作量に、充填工程終了時の検出圧力値と設定圧力値とを比較演算して得たフィードフォワード操作量を加えた操作量でサーボ弁を駆動する制御方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9‐277329号公報
【特許文献2】特開平11−77775号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、上記従来技術では以下のような問題があった。
すなわち、近年の成形品形状の複雑化やサーボ機構の更なる高速・高応答化にともない、上述したような保圧工程の開始直後における圧力の立ち下がりの応答特性も成形条件の一部としてできるだけ最適化したいという要求が高まっている。また、それは、保持圧力が切り換えられる毎に生じる立ち下がりや立ち上がりの応答特性にも同様の事が言えるし、場合によっては、保圧工程の開始直後における圧力の立ち上がりの応答特性にも同様の事が言える。
ところが、特許文献1の技術では、初期区間t1で開ループ制御を行い、次の中間区間t2で再び閉ループ制御に戻し、ようやく終期区間t3において検出圧力値が設定圧力値PH1と一致する。つまり、検出圧力値が設定圧力値PH1となるまでにt1+t2の時間がかかるため、上記高速・高応答のサーボ機構の特徴を十分に活かせないという問題がある。
また、特許文献2の技術は保圧工程の開始直後におけるオーバーシュートおよびアンダーシュートを防止できるにすぎず、立ち下がりや立ち上がりの応答特性の最適化を実現するものではない。
【0008】
本発明はこのような問題に鑑み、保圧工程における保持圧力の立ち下がりや立ち上がりの応答特性を最適化できる射出成形機の制御方法、および、特に、保圧工程の開始直後における圧力の立ち下がりの応答特性を最適化できる射出成形機の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、フィードバック制御によりサーボ機構を介して射出軸の駆動を制御しながら樹脂材料を金型のキャビティ内に射出充填する射出成形機の保圧工程において、保圧工程開始直後または保持圧力の大きさが切り換えられる毎に生じる立ち下がりまたは立ち上がりにおける応答特性のパラメータとして少なくとも応答時間を規定し、保圧工程開始時点または保持圧力の大きさが切り換えられる時点から次の保持圧力に切り換えられるまでの間を時系列で高応答区間と低応答区間に区分し、高応答区間の少なくとも一部区間では、オペレータが設定した応答特性に対して、応答時間をゼロに設定する応答時間ゼロ設定と、応答時間をゼロ以外の値に下げる応答時間減少設定と、サーボ機構のスプール開度の開度制限を広げる開度制限指令値拡大設定の3種類のうち少なくともいずれか一つの設定を行うことを特徴とする。
【0010】
また、高応答区間を時系列で第1高応答区間と第2高応答区間に区分し、第1高応答区間では応答時間ゼロ設定と開度制限指令値拡大設定を行い、第2高応答区間では応答時間減少設定を行うことを特徴とする。
また、高応答区間を時系列で第1高応答区間及び第2高応答区間に区分し、第1高応答区間では応答時間ゼロ設定と開度制限指令値拡大設定を行い、第2高応答区間では開度制限指令値拡大設定を行うことを特徴。
また、高応答区間を時系列で第1高応答区間及び第2高応答区間に区分し、第1高応答区間では応答時間ゼロ設定と開度制限指令値拡大設定を行い、第2高応答区間では応答時間減少設定と開度制限指令値拡大設定を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、保圧工程開始時点または保持圧力の大きさが切り換えられる時点から、次の保持圧力に切り換えられる時点までの間において、フィードバック制御の下で目標値に対する追従遅れが生じる区間を高応答区間、追従遅れが生じない区間を低応答区間に区分するものである。そして、各区間に適した制御方法を採用することで、応答時間の長短によらず保圧工程開始直後および保持圧力の大きさが切り換えられた直後からの応答特性を任意に最適化できるという効果を得られる。
特に、高応答区間を第1及び第2高応答区間に区分し、各区間に適した制御方法を採用することで、保圧工程開始直後および保持圧力の大きさが切り換えられた直後からの応答特性の最適化をより精密に行うことができる。
【0012】
各区間に適した制御方法とは、第1高応答区間については応答時間ゼロ設定と開度制限指令値拡大設定が該当する。応答時間ゼロ設定により応答時間をゼロ秒に変更してフィードバック制御を行うことで、フィードバック制御の特性や射出成形機の駆動機構等の性能に起因した応答時間の遅れを最小限の程度まで抑えることができる。また、開度制限指令値拡大設定によりスプール開度を予め設定されている最大値(開度制限指令値)よりも大きくすることで通常の制御の際と比較してより急速に圧力を立ち下げるまたは立ち上げることが可能となる。
また、第2高応答区間については、応答時間減少設定と開度制限指令値拡大設定のうち少なくともいずれか一方を行うことが適している。応答時間減少設定により応答時間を作業者が設定した値から少し下げることで、フィードバック制御の特性や射出成形機の駆動機構等の性能に起因して生じる応答時間の遅れを解消できる。また、開度制限指令値拡大設定によりスプール開度を予め設定されている最大値よりも大きくすることで通常の制御の際と比較してより急速に圧力を立ち下げるまたは立ち上げることが可能となって、上述の応答時間の遅れを解消できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】射出成形機の装置構成を示す概略図である。
【図2】保圧工程の成形条件の設定作業を説明するための図面である。
【図3】応答特性のパターンを示す図面である。
【図4】保圧工程の成形条件の設定作業を説明するための図面である。
【図5】第1高応答区間、第2高応答区間及び低応答区間を説明するための図面である。
【図6】高応答区間及び低応答区間におけるスプール開度を示す図面である。
【図7】開度制限指令値拡大設定の効果を説明するための図面である。
【図8】第1高応答区間におけるスプール開度の他の例を示す図面である。
【図9】応答時間減少設定を説明するための図面である。
【図10】第2高応答区間におけるスプール開度の例を示す図面である。
【図11】第2高応答区間におけるスプール開度の他の例を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[第1の実施の形態]
本発明の射出成形機の制御方法の第1の実施の形態について説明する。
まず、射出成形機の構成について説明するが、構成上はサーボ機構を備える一般的な射出成形機と同様であるため詳しい説明は割愛する。
図1に示すように、射出成形機10はピストン・シリンダユニット20、油圧駆動機構30、コントローラ40等を備える。
油圧駆動機構30はA、B、P及びTの4つのポートからなり、サーボ機構の一部として機能する4ポートサーボ弁31、油圧駆動源32、オイルタンク33を備える。
油圧駆動源32は油圧ポンプ34、油圧ポンプ34を駆動するポンプモータ35、油圧ポンプ34の吸入側に接続したフィルタ36、油圧ポンプ34の吐出側に接続したその吐出方向の流れのみを許容する逆止弁37、及びその逆止弁37の吐出側に接続したアキュムレータ38等を備える。
【0015】
4ポートサーボ弁31はAポートが射出油圧シリンダ21の後油室22(ピストンヘッド側油室)に接続され、Bポートが前油室23(ピストンロッド側油室)に接続され、Pポートがアキュムレータ38に接続され、Tポートがオイルタンク33に接続されている。
また、図示は省略するが、4ポートサーボ弁31は円筒形のスリーブにA、B、P及びTポートが形成されており、その内部に軸方向に変位するスプールを収容している。
コントローラ40は射出成形機10の各種制御を司るものであり、出力側は4ポートサーボ弁31の指令信号入力部39に接続されている。また、シリンダの後油室22には、後油室22の圧力を検出する圧力センサ50が接続され、この圧力センサ50はコントローラ40の入力側に接続されている。さらに、コントローラ40の入力側には射出軸24の位置を検出する位置センサ60が接続されている。
そして、作業者が設定した成形条件に基づき、コントローラ40から指令信号入力部39に指令信号(制御信号)が出力され、4ポートサーボ弁31を介して射出軸24の駆動、すなわちスプールのスリーブ内の位置をフィードバック制御により調整し、溶融樹脂70を金型80のキャビティ81内に射出充填している。
【0016】
次に、射出成形機10の制御方法について説明する。
本実施の形態においては、射出成形機10の射出工程が充填工程と保圧工程とからなり、各工程において上述したフィードバック制御によりサーボ機構を介して射出軸24の駆動を制御している。
充填工程では射出軸24の位置と充填速度を制御し、VP切り換え位置(以下、「VP切り換え時」ともいう)を挟んで続く保圧工程では保圧時間と保持圧力を制御している。なお、そのVP切り換えは、充填を開始してからの時間が設定時間になったら切り換える方法や、充填中の射出圧力が所定圧力となったら切り換える方法など、各種の方法によって切り換えることもできる。
【0017】
作業者による保圧工程の成形条件の設定作業について図2を用いて説明すると、作業者はVP切り換え時から保圧終了時までを1以上の区間(本実施の形態においては3つの区間A〜C)に分割する。
区間A〜Cでは保圧時間をそれぞれT1〜T3に設定しており、各区間に対して保持圧力値P1〜P3を設定することで、成形条件を3段の階段状に設定する。
次に、作業者は保持圧力が変化する時点、すなわち保持圧力がP0からP1に変化する時点Y0、P1からP2に変化する時点Y1及びP2からP3に変化する時点Y2における応答特性を設定する。
【0018】
応答特性のパラメータとして保圧工程では少なくとも応答時間を規定している。
ここで、多くの場合、VP切り換え位置における射出油圧シリンダ21内の検出圧力値P0は保圧工程開始時点での設定圧力値、つまり区間Aの保持圧力値P1より高いため、保圧工程の開始直後から検出圧力値を保持圧力値P1に減少させるまでの応答特性は立ち下がりの形状になる。
保圧工程開始直後からの立ち下がりの応答特性としては図3に示すように開始直後から急激に立ち下がるものから緩やかに立ち下がるものまで多様なパターンが想定される。
作業者は区間Aのみならず、上記各区間A〜Cに対して成形品の形状等を考慮して、最適な応答特性とするべくパラメータである少なくとも応答時間を設定し、図4に実線で示すような成形条件の設定作業が完了する。なお、必ずしも全ての区間に応答特性を設定する必要はない。また、その応答特性は、関数などによる波形パターンが設定され、それに沿って制御される場合もある。
【0019】
図5は保圧工程開始直後に始まる区間Aのみを拡大して示したものであり、本実施の形態では保圧工程の最初の区間Aを保圧工程開始時点(VP切り換え時点)から時系列で高応答区間及び低応答区間に区分しており、更に高応答区間を保圧工程開始時点から時系列で第1高応答区間と第2高応答区間に区分している。
低応答区間は作業者が設定した成形条件のままフィードバック制御を行った場合に、実際の応答時間が設定した応答時間と一致し、応答時間の遅れ(追従遅れ)が生じない区間である。
【0020】
高応答区間は、仮に作業者が設定した成形条件のままフィードバック制御を行った場合に応答時間の遅れが生じてしまう区間である。
このような応答時間の遅れは、制御量と目標値とを比較して両者を一致させるべく訂正動作を行うというフィードバック制御自体の特性や、あるいは射出成形機10を構成する駆動機構(油圧駆動機構30等)、駆動回路、各種センサ(圧力センサ50や位置センサ60等)及びコントローラ40等の性能に起因して生じるものである。
つまり、例えば、射出油圧シリンダ21内の圧力を保圧工程の開始直後から緩やかに立ち下げる場合(低応答の場合 図5の応答特性L1に相当)には、フィードバック制御が完全に機能するため実際の応答時間に遅れは生じないが、急激に立ち下げる場合(高応答の場合 応答特性L2及びL3に相当)には上記理由により応答時間に遅れが生じることになる。
それら区間は、射出成形機10を構成する駆動機構、駆動回路、各種センサ(圧力センサ50や位置センサ60等)及びコントローラ40等の性能等に応じて、予め設定しておいて、成形条件出しを行う毎に設定する必要がないようにしても良い。もちろん、応答時間の遅れが生じるか否かを作業者が設定した成形条件で実際に射出充填作業を行ないながら判断して、応答時間の遅れの有無や遅れの度合い等に基づいて第1高応答区間、第2高応答区間及び低応答区間を設定するようにしてもよい。
【0021】
次に、第1高応答区間について説明する。
例えば、第1高応答区間は射出油圧シリンダ21内の圧力値を保圧工程開始直後から短時間で急激に立ち下げる場合に該当する区間である。
この第1高応答区間では、作業者が応答特性(少なくとも応答時間)を設定した後、コントローラ40の判断により、応答時間をゼロに設定する応答時間ゼロ設定と、サーボ機構のスプール開度の開度制限を広げる開度制限指令値拡大設定が行われる。
応答時間ゼロ設定とは、作業者が応答特性を設定した場合であって、その応答時間が第1高応答区間内であることをコントローラ40が認識した場合に行われるものであり、作業者が設定した応答時間(例えば0.08秒)をゼロ秒に変更し、これを指令信号として出力することをいう。
【0022】
このように応答時間をゼロ秒に変更してフィードバック制御を行った場合には、上述したようなフィードバック制御の特性や駆動機構等の性能に起因した応答時間の遅れを最小限の程度まで抑えることができるが、それでもなおわずかな応答時間の遅れが生じてしまう。
しかし、このわずかな応答時間の遅れはフィードバック制御のもとで生じるものであるため再現性が高く、毎回ほぼ一定値となる。
【0023】
そこで、応答時間ゼロ設定と併せて開度制限指令値拡大設定を行う。以下、開度制限指令値拡大設定について説明する。
上述の通り、射出油圧シリンダ21内の圧力の制御は4ポートサーボ弁31の各ポートに対するスプールの位置を調整し、射出油圧シリンダ21への作動油の供給量および供給方向を調節することで行われる。
つまり、例えば、保圧工程開始直後に圧力を下げる場合には、後油室22に接続しているAポートと、オイルタンク33に接続しているTポートを接続し、後油室22内の作動油をオイルタンク33に戻す必要がある。
【0024】
通常の射出成形機では、射出工程の間を通じてスプール開度の最大値、すなわち作動油の単位時間当たりの最大流量が予め一定値として設定されており、この最大値を超えない範囲でスプールの位置を適宜調節して射出油圧シリンダ21内の圧力を制御している。本実施の形態においても上記低応答区間では予め設定されているスプール開度の最大値の範囲内で圧力制御を行う。
しかし、開度制限指令値拡大設定ではこのスプール開度を予め設定されている最大値よりも大きくする点に特徴がある。なお、その最大値も、4ポートサーボ弁31の機械仕様に起因する絶対限界値があり、その絶対限界値を超えない値の範囲内で設定されている。つまり、その絶対限界値近傍をスプール開度の最大値に設定すれば、応答時間の遅れをより解消することになる。
【0025】
ここで、図6は、高応答区間及び低応答区間におけるスプール開度を示すものである。
スプール開度は、コントローラ40から4ポートサーボ弁31に対して指令信号として出力される電圧値と正比例するように制御される。なお、射出成形機10の構成によっては、スプール開度が電圧値ではなく電流値と正比例するように制御されることもある。
ここで、上記電圧値ゼロでスプールが中立位置、つまり、全てのポートが遮断されるとした際、保圧工程開始直後に射出油圧シリンダ21内の圧力を立ち下げるべくAポートとTポートを接続して後油室22内の作動油をオイルタンク33に戻す場合には、例えば、上記電圧値は負の値となり、また、その中立位置の際の電圧値との差が大きいほどスプール開度は大きくなる。
したがって、この場合、電圧値を負の方向に大きくするほどスプール開度が大きくなり、射出油圧シリンダ21からの作動油の高速排出が可能となる。
ちなみに、本実施の形態において、上記の4ポートサーボ弁31で射出油圧シリンダ21内の圧力を立ち上げるべくAポートとPポートを接続してアキュムレータ38から後油室22に作動油を供給する場合には、上記電圧値は正の値となり、また、その中立位置の際の電圧値との差を大きくすれば、スプール開度が大きくなって、その供給をより高速にもできる。なお、そのスプールの中立位置は、本実施の形態のように、必ずしも上記電圧値ゼロであるとは限らず、上記電圧値の正負のどちらか側にある場合もある。また、電圧値の正負に対するスプールの移動方向が、本実施の形態とは逆の場合もある。
【0026】
ここで、本明細書中において上記電圧値を「指令値」とよぶものとする。したがって「開度制限指令値」とは予め設定されているAポートがPポートとTポートにそれぞれ接続される際の各スプール開度の最大値に対応する電圧値(図6においては−1.5V)と一致する。そして、「開度制限指令値を下げる」ことにより、上記電圧値は負の方向に大きくなる(図6においては-3.0V)ので、射出油圧シリンダ21からの作動油の排出速度を高めて、射出油圧シリンダ21内の圧力を急速に下げることが可能となる。
つまり、開度制限指令値拡大設定により、スプール開度を予め設定されている最大値よりも大きくすることで通常の制御の際と比較してより急速に圧力を立ち下げる(または立ち上げる)ことが可能となる。
【0027】
次に、開度制限指令値拡大設定の効果をグラフを用いて説明する。
図7は、立ち下げの場合を例にしており、縦軸が指令値、横軸が時間である。
図7(a)は従来の通り、予め設定されているスプール開度の最大値を超えない範囲でスプールを制御した場合を示す。符号Mは予め設定されているスプール開度の最大値に相当する開度制限指令値(電圧値)を指す。
例えば、第1高応答区間では圧力を急速に立ち下げる必要があるが、従来の制御法ではスプール開度を上記最大値(開度制限指令値M)より大きくしないために、グラフの水平部分Hにおいて圧力低下速度に制限がかかった状態となる。そして、所定時間が経過して射出油圧シリンダ21内の実際の圧力値が当該区間で設定している保持圧力値に近づくにつれて、オーバーシュートを避けるべく指令値を徐々に大きくして、流量を絞るようにしていき、最終的に保持圧力値と一致した時点でスプールの駆動を停止する。
一方、図7(b)では予め設定されているスプール開度の最大値(開度制限指令値M)を超えてスプールを開く、すなわち、本実施の形態の場合、開度制限指令値を符号Mの値から更に小さくすることで、圧力の急速立ち下げを可能とし、射出油圧シリンダ21内の圧力が保持圧力値と一致するまでの時間を短縮することができる。
なお、図6の実施の形態のように、作業者が設定した応答特性(少なくとも応答時間)が第1高応答区間に該当し、コントローラ40の判断により、その設定された応答特性に関係なく一定の開度制限指令値に変更されることが、前述の応答時間ゼロ設定と合わせて行われた場合には、作業者が第1高応答区間の中で応答特性の設定を変化させても、実際の応答特性は一定となる。そこで、図8に示すように、第1高応答区間において、開度制限指令値を、応答時間を短くする方向に設定するに従って、スプール開度を広くする方向に設定変更していくことにしてもよい。そうすれば、作業者が応答特性の設定を変化させるのに応じて実際の応答特性を変化させることが、開度制限指令値拡大設定でも可能になる。また、図示省略されるが、第1高応答区間の中で、作業者が設定する応答時間に関係なく一定値とする開度制限指令値と、作業者が設定する応答時間に応じて変更される開度制限指令値とを組み合わせた形にしてもよい。
【0028】
次に第2高応答区間について説明する。
図5に示す通り、第2高応答区間は上記第1高応答区間と低応答区間に挟まれる区間であり、第1高応答区間ほど急激な圧力の立ち下げは必要ないが、仮にフィードバック制御を行った場合には応答時間の遅れが生じる区間である。
第2高応答区間では、作業者が応答特性(少なくとも応答時間)を設定した後、コントローラ40の判断により、応答時間をゼロ以外の値に下げる応答時間減少設定が行われる。
応答時間減少設定とは、作業者が応答特性を設定した場合であって、その応答時間が第2高応答区間内にあることをコントローラ40が認識した場合に行われるものであり、図9に示す通り、作業者が設定した応答時間(例えば0.15秒)をゼロ以外の値(例えば0.10秒)に下げて、これを指令信号として出力することをいう。
なお、応答時間減少設定後の応答時間は、当該応答時間減少設定が行われた区間に対して当初定めていた時間範囲を超えるものであってもよい。例えば、図9に示すように、作業者が第1高応答区間を保圧工程開始時点から0.10秒まで、第2高応答区間を0.10秒から0.20秒までに設定しており、更に、作業者が保圧工程開始直後からの立ち下がりの応答時間を0.12秒に設定した場合に、コントローラ40による応答時間減少設定後の応答時間が0.04秒と、第2高応答区間に当初定めていた範囲(0.10〜0.20秒)を下回る値になってもよい。
【0029】
第2高応答区間においてフィードバック制御を行った場合には、上述の通り、フィードバック制御の特性や駆動機構等の性能に起因した応答時間の遅れが生じてしまうため、応答時間を作業者が設定した値から少し下げることで、応答時間の遅れを解消し、実際の応答特性を作業者が設定した理想的な応答特性に近づけることができる。
【0030】
[第2の実施の形態]
本発明の射出成形機の制御方法の第2の実施の形態について説明する。
なお、上記第1の実施の形態と同様の構成となる箇所についてはその説明を省略し、以下、本実施の形態の特徴的部分を中心に説明する。
本実施の形態は第2高応答区間において、上記第1の実施の形態において第1高応答区間で示したものと同様の開度制限指令値拡大設定を行うことを特徴とする。
つまり、作業者が応答特性(少なくとも応答時間)を設定した後、コントローラ40の判断により、サーボ機構のスプール開度の開度制限指令値を下げることで、予め設定されているスプール開度の最大値を超えてスプールを開くような制御を行うものである。
【0031】
図10に示すように、第2高応答区間では開度制限指令値が第1高応答区間の終了時点から連続して徐々に増加していき、第2高応答区間の終了時点では低応答区間において予め設定されているスプール開度の最大値に対応する開度制限指令値(-1.5V)と一致するように設定されている。
なお、図11に示すように、第2高応答区間では第1高応答区間での開度制限指令値(-3.0V)よりも大きく、且つ予め設定されているスプール開度の最大値に対応する開度制限指令値(-1.5V)よりも小さい範囲で一定値(例えば-2.5V)としてもよい。また、図10と図11に限定されず、第1高応答区間と第2高応答区間のそれぞれの開度制限指令値を、一方が区間内を連続して徐々に増加する設定とし、もう一方が区間内を通して一定値とする設定としてもよい。また、同じ区間の中で、開度制限指令値を、連続して徐々に増加する設定と一定値とする設定とを組み合わせた形としてもよい。
本実施の形態に示した発明によれば、第2高応答区間において圧力を急速に立ち下げることが可能となって、上述した応答時間の遅れを解消できる。
【0032】
[第3の実施の形態]
本発明の射出成形機の制御方法の第3の実施の形態について説明する。
なお、上記第1及び第2の実施の形態と同様の構成となる箇所についてはその説明を省略し、以下、本実施の形態の特徴的部分を中心に説明する。
本実施の形態は、第2高応答区間において、上記第1の実施の形態で示したものと同様の応答時間減少設定と、上記第2の実施の形態で示したものと同様の開度制限指令値拡大設定を行うことを特徴とする。
【0033】
つまり、作業者が応答特性を設定した場合であって、その応答時間が第2高応答区間内であることをコントローラ40が認識した場合には、作業者が設定した応答時間(例えば0.15秒)をゼロ以外の値(例えば0.10秒)に下げてこれを指令信号として出力すると共に、サーボ機構のスプール開度の開度制限指令値を下げるような制御を行うものである。
本実施の形態に示した発明によれば、第2高応答区間において開度制限指令値拡大設定を行うことにより圧力を急速に立ち下げることが可能となると共に、応答時間減少設定により応答時間の遅れを解消できるので、実際の応答特性を作業者が設定した理想的な応答特性に近づけることができる。
なお、応答時間減少設定および開度制限指令値拡大設定において、作業者が設定する応答時間に対して、応答時間の遅れを考慮した応答時間の変更および開度制限指令値の変更には、予め応答時間毎に実験で求めた変更後の値などを関数やデータテーブルの形でコントローラ40等に予め記憶させたものを使用しても良い。また、前述のようにコントローラ40が作業者の設定した応答特性を応答時間の遅れを考慮した応答時間および開度制限指令値に自動的に変更するようにしても良いし、コントローラ40でなく作業者自身が応答時間の遅れを考慮した上で、理想の応答特性になるように変更した応答時間および開度制限指令値を直接設定するようにしても良い。
また、上記各実施の形態においては高応答区間を第1高応答区間と第2高応答区間に区分し、第1高応答区間では応答時間ゼロ設定と開度制限指令値拡大設定を行い、第2高応答区間では応答時間減少設定と開度制限指令値拡大設定のうち少なくとも一方を行うものとしたが、これに限らず、高応答区間の少なくとも一部区間において応答時間ゼロ設定、応答時間減少設定及び開度制限指令値拡大設定のうち少なくとも一つを行なうことで本発明の効果を奏することができる。
また、上記各実施の形態では、保圧工程開始直後の立ち下がりにおける応答特性に対して本発明を適用したが、これに限定されることなく、保持圧力が切り換えられた直後の立ち下がりにおいても本発明を適用することができる。また、同様に立ち上がりの応答特性においても、4ポートサーボ弁31のスプールの移動方向が反対であるだけであって、本発明を適用することが可能である。
また、サーボ弁の駆動方式としては高速応答が可能なリニアサーボ式が最も適しているが、他にも油圧式や空気圧式のものであってもよく、また、上記実施の形態で示した4ポート型のサーボ弁以外にも2ポート、3ポートあるいは5ポート型等、周知のサーボ弁を利用できる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は保圧工程における保持圧力の立ち下がりや立ち上がりの応答特性を最適化できる射出成形機の制御方法に関するものであり、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0035】
10 射出成形機
20 ピストン・シリンダユニット
21 射出油圧シリンダ
22 後油室
23 前油室
24 射出軸
30 油圧駆動機構
31 4ポートサーボ弁
32 油圧駆動源
33 オイルタンク
34 油圧ポンプ
35 ポンプモータ
36 フィルタ
37 逆止弁
38 アキュムレータ
39 指令信号入力部
40 コントローラ
50 圧力センサ
60 位置センサ
70 溶融樹脂
80 金型
81 キャビティ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィードバック制御によりサーボ機構を介して射出軸の駆動を制御しながら樹脂材料を金型のキャビティ内に射出充填する射出成形機の保圧工程において、
保圧工程開始直後または保持圧力の大きさが切り換えられる毎に生じる立ち下がりまたは立ち上がりにおける応答特性のパラメータとして少なくとも応答時間を規定し、
前記保圧工程開始時点または前記保持圧力の大きさが切り換えられる時点から次の前記保持圧力に切り換えられる時点までの間を時系列で高応答区間と低応答区間に区分し、
前記高応答区間の少なくとも一部区間では、オペレータが設定した前記応答特性に対して、前記応答時間をゼロに設定する応答時間ゼロ設定と、前記応答時間をゼロ以外の値に下げる応答時間減少設定と、前記サーボ機構のスプール開度の開度制限を広げる開度制限指令値拡大設定の3種類のうち少なくともいずれか一つの設定を行うことを特徴とする射出成形機の制御方法。
【請求項2】
前記高応答区間を時系列で第1高応答区間と第2高応答区間に区分し、
前記第1高応答区間では前記応答時間ゼロ設定と前記開度制限指令値拡大設定を行い、
前記第2高応答区間では前記応答時間減少設定を行うことを特徴とする請求項1に記載の射出成形機の制御方法。
【請求項3】
前記高応答区間を時系列で第1高応答区間及び第2高応答区間に区分し、
前記第1高応答区間では前記応答時間ゼロ設定と前記開度制限指令値拡大設定を行い、
前記第2高応答区間では前記開度制限指令値拡大設定を行うことを特徴とする請求項1に記載の射出成形機の制御方法。
【請求項4】
前記高応答区間を時系列で第1高応答区間及び第2高応答区間に区分し、
前記第1高応答区間では前記応答時間ゼロ設定と前記開度制限指令値拡大設定を行い、
前記第2高応答区間では前記応答時間減少設定と前記開度制限指令値拡大設定を行うことを特徴とする請求項1に記載の射出成形機の制御方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−245716(P2012−245716A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−119927(P2011−119927)
【出願日】平成23年5月30日(2011.5.30)
【特許番号】特許第4809500号(P4809500)
【特許公報発行日】平成23年11月9日(2011.11.9)
【出願人】(301056270)株式会社ソディックプラステック (35)
【Fターム(参考)】