説明

射出成形機

【課題】樹脂の可塑化状態をより高精度に監視できる射出成形機を提供すること。
【解決手段】射出シリンダ20内の樹脂の状態を監視する射出成形機は、樹脂の可塑化のために消費される消費エネルギを検出する消費エネルギ検出部10を備える。また、その射出成形機は、消費エネルギ検出部10が検出した消費エネルギに基づいて成形品質を判別する成形品質判別部11と、消費エネルギ検出部10が検出する消費エネルギの変動を抑制する消費エネルギ変動抑制部12と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂の可塑化状態を監視する射出成形機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、計量時間(成形材料をノズルから金型に射出した後、計量スクリュが回転して射出シリンダ先端のノズル部に成形材料が計量貯留され、計量スクリュが次第に後退して計量完了するまでの時間)を検出し、その計量時間と所定の基準計量時間との間の差に応じて、フィーダスクリュの回転速度を制御する射出成形機が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
これにより、この射出成形機は、計量時間のバラツキを最小限度に抑えることによって、成形品の外観、強度等の品質を向上させることができるとしている。
【0004】
また、射出シリンダを加熱する複数のバンドヒータであり、その射出シリンダに取り付けられた対応する温度センサの出力に応じてフィードバック制御される複数のバンドヒータのそれぞれにおける単位時間当たりの通電率を監視し、その通電率と所定の閾値との間の差に応じて、ホッパ下部分の設定温度を制御する射出成形機が知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【0005】
これにより、この射出成形機は、樹脂材料の種別の違いによって変化する複数のバンドヒータのそれぞれにおける単位時間当たりの通電率に応じて、ホッパ下部分の設定温度を変化させ、様々な樹脂材料のそれぞれに適したホッパ下部分の温度を実現させ、好適な計量動作を実現させることができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平1−171830号公報
【特許文献2】特開2009−119654号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の射出成形機は、計量時間のみを監視することによって射出シリンダ内の樹脂の量を推定することにより、各ショットにおける樹脂の量のバラツキを抑えようとし、また、特許文献2に記載の射出成形機は、複数のバンドヒータのそれぞれにおける単位時間当たりの通電率のみを監視することによって射出シリンダ内の樹脂の状態を推定することにより各ショットにおける樹脂の状態のバラツキを抑えようとしているが、計量スクリュの回転速度等の他の多くの要因の影響を受ける射出シリンダ内の樹脂の状態を推定するには不十分であり、その樹脂の状態に左右される成形品質を高精度に判別することができない。
【0008】
上述の点に鑑み、本発明は、樹脂の可塑化状態をより高精度に監視できる射出成形機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の目的を達成するために、本発明の実施例に係る射出成形機は、射出シリンダ内の樹脂の状態を監視する射出成形機であって、樹脂の可塑化のために消費される消費エネルギを検出する消費エネルギ検出部を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
上述の手段により、本発明は、樹脂の可塑化状態をより高精度に監視できる射出成形機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施例に係る射出成形機に搭載される可塑化状態監視装置の構成例を示す図である。
【図2】本発明の実施例に係る射出成形機における射出・可塑化装置の概略図である。
【図3】可塑化状態監視処理の流れを示すフローチャートである。
【図4】本発明の実施例に係る射出成形機に搭載される成形品質判別装置の構成例を示す図である。
【図5】不良成形品発生通知処理の流れを示すフローチャートである。
【図6】不良成形品発生抑制処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0013】
図1は、本発明の実施例に係る射出成形機に搭載される可塑化状態監視装置100の構成例を示す図であり、本実施例において、可塑化状態監視装置100は、樹脂を可塑化する際に消費されるエネルギの変動を監視し、その消費エネルギに関する情報を可塑化状態に関する情報として表示装置に表示する。
【0014】
具体的には、可塑化状態監視装置100の制御装置1は、電力測定装置2からの測定結果を受信し、その測定結果に基づく各種情報を表示装置4に対して出力する。
【0015】
図2は、本発明の実施例に係る射出成形機における射出・可塑化装置200の概略図であり、射出・可塑化装置200は、主に、シリンダヒータ6(例えば、射出シリンダ20の五つの領域のそれぞれを加熱する五つの部分6a〜6eに分割される。詳細は後述される。)、計量モータ7、射出シリンダ20、計量スクリュ22、及びホッパ24から構成される。
【0016】
制御装置1は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等を備えたコンピュータであって、例えば、消費エネルギ検出部10に対応するプログラムをROMから読み出してRAMに展開しながら、消費エネルギ検出部10に対応する処理をCPUに実行させる。
【0017】
電力測定装置2は、消費電力を測定するための装置であり、例えば、一回の成形サイクルの間にシリンダヒータ6で消費された電力量(kWh)を、樹脂を可塑化する際に消費された電力量として測定する。
【0018】
また、電力測定装置2は、一回の成形サイクルの間にシリンダヒータ6の一部(例えば、シリンダヒータ6eを除く、シリンダヒータ6a〜6dである。)で消費された電力量を、樹脂を可塑化する際に消費された電力量として測定するようにしてもよい。
【0019】
また、電力測定装置2は、可塑化工程中に計量モータ7(計量スクリュ22)を回転させるために計量モータ7で消費された電力量と、一回の成形サイクルの間にシリンダヒータ6で消費された電力量とを合計した電力量を、樹脂を可塑化する際に消費された電力量として測定するようにしてもよい。
【0020】
表示装置4は、各種情報を表示するための装置であり、例えば、成形機本体に取り付けられたディスプレイ、又は、射出成形機の外部に設置されるディスプレイ等であって、制御装置1が出力する制御信号に応じて、射出・可塑化装置200における消費電力等の各種情報を表示する。
【0021】
シリンダヒータ6は、射出シリンダ20を加熱するためのヒータであり、例えば、ホッパ24に最も近い第一シリンダ領域を加熱する第一シリンダヒータ6a、ホッパ24から離れる方向で第一シリンダ領域に隣接する第二シリンダ領域を加熱する第二シリンダヒータ6b、ホッパ24から離れる方向で第二シリンダ領域に隣接する第三シリンダ領域を加熱する第三シリンダヒータ6c、ノズル部20aに最も近い第四シリンダ領域を加熱する第四シリンダヒータ6d、及び、ノズル部20aを加熱する第五シリンダヒータ6eから構成され、シリンダヒータ6a〜6eのそれぞれに対応する目標温度が設定され、商用電源(図示せず。)から電力の供給を受けることによって、射出シリンダ20の各領域をその目標温度まで加熱する。
【0022】
なお、目標温度は、特定の樹脂材料から適当な品質の成形品を生成するために予め設定される温度であり、樹脂材料毎に経験的に或いは樹脂材料の比熱等を考慮した所定の計算式に基づいて導き出される。
【0023】
また、シリンダヒータ6a〜6eのそれぞれは、対応するシリンダ領域の温度を測定する温度センサ(図示せず。)を備えており、その温度センサの出力に応じてオン・オフを自動的に切り替えながら、対応するシリンダ領域の温度が目標温度となるようにフィードバック制御される。
【0024】
計量モータ7は、計量スクリュ22の回転を制御するための装置であり、例えば、ホッパ24から射出シリンダ20内に供給された樹脂材料を溶融しながらノズル部20aの方向に移送するために計量スクリュ22を目標回転速度で回転させ、或いは、射出モータ(図示せず。)によって計量スクリュ22を軸方向に移動させる場合に計量スクリュ22の回転を拘束する。
【0025】
なお、計量スクリュ22の目標回転速度は、特定の樹脂材料から適当な品質の成形品を生成するために予め設定される回転速度であり、樹脂材料毎に経験的に或いは樹脂材料の比熱等を考慮した所定の計算式に基づいて導き出され、好適には、飢餓計量状態を創出するように設定される。
【0026】
また、計量モータ7は、計量スクリュ22に結合されるその駆動軸の回転速度を検出するエンコーダ(図示せず。)を備えており、そのエンコーダの出力に応じて駆動トルクを自動的に調節しながら、計量スクリュ22の回転速度が目標回転速度となるようにフィードバック制御される。
【0027】
消費エネルギ検出部10は、樹脂を可塑化するために消費されるエネルギを可塑化モニタ値として検出するための機能要素であり、例えば、電力測定装置2の出力を受けて、樹脂を可塑化する際に射出・可塑化装置200で消費される電気エネルギ(kWh)を検出し、その検出した値をRAMに記録し、かつ、その検出した値を表示装置4に対して出力する。
【0028】
なお、可塑化モニタ値として検出される、樹脂を可塑化するために消費されるエネルギは、例えば、1成形サイクルで消費されるエネルギ、又は所定の工程(例えば、計量工程である。)で消費されるエネルギ等、その期間又はその測定対象(例えば、計量モータ7である。)を任意に選択・設定され得るものとする。
【0029】
次に、図3を参照しながら、可塑化状態監視装置100が可塑化状態を監視する処理(以下、「可塑化状態監視処理」とする。)について説明する。なお、図3は、可塑化状態監視処理の流れを示すフローチャートであり、可塑化状態監視装置100は、所定周期(例えば、成形サイクル毎である。)で繰り返しこの可塑化状態監視処理を実行するものとする。
【0030】
最初に、可塑化状態監視装置100の制御装置1は、消費エネルギ検出部10により、電力測定装置2の出力に基づいて、樹脂を可塑化する際に射出・可塑化装置200で消費される電力量を検出する(ステップS1)。
【0031】
その後、制御装置1は、検出した消費電力量の値をRAMに記録し、且つ、検出した消費電力量の推移を表示装置4に表示する(ステップS2)。
【0032】
具体的には、制御装置1は、縦軸を消費電力量の軸とし横軸を時間軸としたチャートの形式で、過去及び現在の各成形サイクルにおいて樹脂を可塑化する際に消費された電力量の値を表示装置4の画面上に表示する。
【0033】
或いは、制御装置1は、直近の所定数の成形サイクルにおいて樹脂を可塑化する際に消費された電力量のそれぞれの値を表形式で表示するようにしてもよい。
【0034】
また、制御装置1は、所定期間内に実施された成形サイクルにおける消費電力量の統計値(例えば、最大値、最小値、平均値、標準偏差等である。)を表示装置4の画面上に表示するようにしてもよく、所定期間内に実施された成形サイクルにおける消費電力量のうち、所定の数値範囲から逸脱した消費電力量を抽出し、その抽出した消費電力量に対応する成形サイクルのID番号や成形時刻等を表示装置4の画面上に表示するようにしてもよい。
【0035】
なお、制御装置1は、現に検出した消費電力量の値を含む情報をリアルタイムで表示装置4の画面上に表示するが、入力装置(図示せず。)を介した操作者の求めに応じて消費電力量に関する情報を表示装置4の画面上に表示するようにしてもよい。
【0036】
以上の構成により、本発明の実施例に係る射出成形機は、樹脂を可塑化する際に射出・可塑化装置200で消費される(樹脂の可塑化状態の変化による影響を受け易い)電力量を監視することによって、樹脂の可塑化状態をより高精度に監視することができる。
【0037】
なお、本発明の実施例に係る射出成形機は、消費電力量以外の他の消費エネルギを監視することによって、樹脂の可塑化状態をより高精度に監視するようにしてもよく、また、消費電力量やその他の消費エネルギをkWh以外の他のユニットを用いて監視することによって、樹脂の可塑化状態をより高精度に監視するようにしてもよい。
【実施例2】
【0038】
次に、図4を参照しながら、本発明の実施例に係る射出成形機に搭載される成形品質判別装置100Aについて説明する。
【0039】
図4は、本発明の実施例に係る射出成形機に搭載される成形品質判別装置100Aの構成例を示す図であり、本実施例において、成形品質判別装置100Aは、樹脂を可塑化する際に消費されるエネルギを監視し、その監視した消費エネルギの値に基づいて成形品の品質を判別する。
【0040】
なお、成形品質判別装置100Aは、その制御装置1Aに成形品質判別部11及び消費エネルギ変動抑制部12を備え、記憶装置3に記憶された情報を参照し、音声出力装置5、シリンダヒータ6、及び計量モータ7に対して制御信号を出力する点において、可塑化状態監視装置100と相違するが、その他の点で可塑化状態監視装置100と共通する。
【0041】
そのため、以下では、共通の構成要素に対して共通の参照符号を用い、共通点の説明を省略しながら、その相違点を詳細に説明することとする。
【0042】
具体的には、成形品質判別装置100Aの制御装置1Aは、電力測定装置2からの測定結果を受信し、記憶装置3に記憶された情報を参照しながら、各種演算を実行して成形品質を判別し、その判別結果を表示装置4や音声出力装置5に出力し、また、その判別結果に基づいてシリンダヒータ6や計量モータ7を制御する。
【0043】
制御装置1Aは、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等を備えたコンピュータであって、例えば、消費エネルギ検出部10、成形品質判別部11、及び消費エネルギ変動抑制部12のそれぞれの機能要素に対応するプログラムをROMから読み出してRAMに展開しながら、各機能要素に対応する処理をCPUに実行させる。
【0044】
記憶装置3は、各種情報を記憶するための装置であり、例えば、ハードディスクや半導体メモリ等の不揮発性記憶媒体であって、材質や添加剤の混入量が異なる様々な樹脂材料のそれぞれに対応する基準電力量を参照可能に記憶する判別値参照テーブル30を記憶する。
【0045】
「基準電力量」は、特定の樹脂材料から適当な品質の成形品を生成するために消費される標準的な電力量であり、樹脂材料毎に経験的に或いは樹脂材料の比熱等を考慮した所定の計算式に基づいて導き出される電力量である。
【0046】
また、基準電力量は、射出・可塑化装置200における消費電力量の標準的な値として設定されるが、シリンダヒータ6や計量モータ7といった射出・可塑化装置200の構成要素のそれぞれにおける消費電力量の標準的な値又はそれら構成要素毎の値の合計として設定されてもよい。
【0047】
その場合、シリンダヒータ6に関する基準電力量は、一回の成形サイクルの間にシリンダヒータ6で消費される電力量の標準的な値として設定されてもよく、計量モータ7に関する基準電力量は、可塑化工程中に計量モータ7で消費される電力量の標準的な値として設定されてもよい。
【0048】
音声出力装置5は、各種情報を音声出力するための装置であり、例えば、成形機本体に取り付けられたスピーカやブザー等であって、制御装置1Aが出力する制御信号に応じて、不良成形品が発生したことや、不良成形品の発生を防止するための措置が取られたこと等の情報を音声出力する。
【0049】
次に、制御装置1Aが有する各機能要素の詳細を説明する。
【0050】
成形品質判別部11は、樹脂を可塑化する際に射出・可塑化装置200で消費されたエネルギに基づいて、その可塑化された樹脂材料を用いて製造された成形品の品質の善し悪しを判別する機能要素である。
【0051】
具体的には、成形品質判別部11は、消費エネルギ検出部10が検出した、樹脂を可塑化する際に射出・可塑化装置200で消費された電気エネルギ(消費電力量)と、記憶装置3に予め記憶された基準電力量とを比較し、その消費電力量とその基準電力量との間の差(絶対値)が所定値以上となる場合に、関連する成形品の品質に問題(例えば、樹脂材料の供給不足によるショート、黒点、若しくはガス焼けの発生、又は、樹脂の供給過多によるバリの発生等である。)があるものと判別する。
【0052】
また、成形品質判別部11は、消費エネルギ検出部10が検出した消費電力量に基づいて樹脂材料の可塑化状態(粘度又は密度等である。)を推定し、そのときの成形条件(例えば、射出シリンダ20の各領域の設定温度や計量スクリュ22の設定回転速度である。)が許容する可塑化状態にその推定した可塑化状態が含まれるか否かに基づいて、その樹脂材料を用いて製造された成形品の品質の善し悪しを判別するようにしてもよい。
【0053】
具体的には、成形品質判別部11は、消費エネルギ検出部10が検出した消費電力量と、記憶装置3に予め記憶された消費電力量・樹脂粘度対応テーブル(図示せず。)とに基づいて、使用された樹脂材料の粘度を導き出し、そのときの成形条件が許容する粘度範囲内にその導出された粘度が含まれるか否かに基づいて、その樹脂材料を用いて製造された成形品の品質の善し悪しを判別する。
【0054】
樹脂材料の粘度は、その樹脂材料に混入されている添加剤の混入量に応じて変化し(例えば、添加剤の混入量が多い程、可塑剤効果により樹脂材料の粘度は低下する。)、不適当な添加剤混入量は、成形条件と適合せず、成形不良(例えば、黒点やガス焼けである。)を引き起こす傾向にあるからである。
【0055】
なお、消費電力量・樹脂粘度対応テーブルに記憶される値は、例えば、パージ動作(射出シリンダ内にある樹脂を外部に洗い出す動作)の際にキャピラリーレオメータの原理を射出成形機に適用することによって導き出される射出圧と樹脂粘度との間の関係に基づいて算出・設定されるものとする。成形中の射出圧は、ランナやゲートでの流動抵抗の影響を受けるため、キャピラリーレオメータの原理を適用することができず、そのときの樹脂粘度を導き出すことができないからである。
【0056】
このように、樹脂を可塑化する際に樹脂粘度が低い場合にはシリンダヒータ6及び計量モータ7で消費される電力量が低下するため、成形品質判別部11は、消費電力量の低下を検出することによって樹脂粘度の低下を推定し、ひいては、添加剤の混入量が成形条件に適合していないことを推定して、その樹脂材料を用いて製造された成形品の品質に問題があることを判別する。
【0057】
消費エネルギ変動抑制部12は、射出・可塑化装置200で消費されるエネルギの変動を抑制するための機能要素であり、例えば、消費エネルギ検出部10が検出した、一回の成形サイクルにおいて樹脂を可塑化する際に射出・可塑化装置200で消費された電気エネルギ(消費電力量)に応じて、後の成形サイクルにおいて樹脂を可塑化する際に射出・可塑化装置200で消費される電気エネルギ(消費電力量)と記憶装置3に予め記憶された基準電力量との間の差が所定値未満となるように、シリンダヒータ6や計量モータ7に対して出力する制御信号の内容を変化させる。
【0058】
具体的には、消費エネルギ変動抑制部12は、一回の成形サイクルにおいて樹脂を可塑化する際の射出・可塑化装置200での全体としての消費電力量がその基準電力量に比べて高めに推移していることを検出した場合であって、シリンダヒータ6での消費電力量がシリンダヒータ6に関する基準電力量に比べて高めに推移していることを検出した場合には、後の成形サイクルにおけるシリンダヒータ6での消費電力量を低減させて射出・可塑化装置200での全体としての消費電力量をその基準電力量に近づけるために、シリンダヒータ6の目標温度を低減させるべく、シリンダヒータ6に対して制御信号を出力する。
【0059】
また、消費エネルギ変動抑制部12は、一回の成形サイクルにおいて樹脂を可塑化する際の射出・可塑化装置200での全体としての消費電力量がその基準電力量に比べて高めに推移していることを検出した場合であって、可塑化工程中の計量モータ7での消費電力量が計量モータ7に関する基準電力量に比べて高めに推移していることを検出した場合には、後の成形サイクルの可塑化工程中における計量モータ7での消費電力量を低減させて射出・可塑化装置200での全体としての消費電力量をその基準電力量に近づけるために、計量モータ7の目標回転速度を低減させるべく、計量モータ7に対して制御信号を出力する。
【0060】
なお、消費エネルギ変動抑制部12は、射出・可塑化装置200での全体としての消費電力量がその基準電力量に比べて高めに推移していることを検出した場合であって、シリンダヒータ6での消費電力量がシリンダヒータ6に関する基準電力量に比べて高めに推移していることを検出した場合であっても、シリンダヒータ6の目標温度を低減させることなく(更には、シリンダヒータ6の目標温度を増大させながら)、計量モータ7の目標回転速度を低減させるようにしてもよい。
【0061】
同様に、消費エネルギ変動抑制部12は、射出・可塑化装置200での全体としての消費電力量がその基準電力量に比べて高めに推移していることを検出した場合であって、可塑化工程中の計量モータ7での消費電力量が計量モータ7に関する基準電力量に比べて高めに推移していることを検出した場合であっても、計量モータ7の目標回転速度を低減させることなく(更には、計量モータ7の目標回転速度を増大させながら)、シリンダヒータ6の目標温度を低減させるようにしてもよい。
【0062】
計量モータ7における消費電力量の減少分がシリンダヒータ6における消費電力量の増大分を上回れば、或いは、シリンダヒータ6における消費電力量の減少分が計量モータ7における消費電力量の増大分を上回れば、射出・可塑化装置200の消費電力量は、全体として減少するからであり、高めに推移している消費電力量をその基準電力量に近づけることができるからである。
【0063】
なお、消費エネルギ変動抑制部12による上述の制御は、射出・可塑化装置200での全体としての消費電力量がその基準電力量に比べて高めに推移している場合のものであるが、射出・可塑化装置200での全体としての消費電力量がその基準電力量に比べて低めに推移している場合にも、その制御方向を逆にしながら(消費電力量を増大させるためにシリンダヒータ6の目標温度を増大させたり計量モータ7の目標回転速度を増大させたりすることを意味する。)適用され得るものである。
【0064】
このようにして、消費エネルギ変動抑制部12は、射出・可塑化装置200で消費される電力量の変動を抑制することによって、不良成形品の発生を抑制することができる。
【0065】
消費電力量の変動は、樹脂粘度の変動、ひいては、添加剤の混入量の変動を表すものと考えられるからであり、消費電力量が変動したにもかかわらず、従前と同じ成形条件(変動前の消費電力量に適合するが変動後の消費電力量には適合しない成形条件である。)を維持することは、添加剤混入量と成形条件との間の不適合に起因する問題を引き起こすこととなるからである。
【0066】
次に、図5を参照しながら、成形品質判別装置100Aが不良成形品の発生を操作者に通知する処理(以下、「不良成形品発生通知処理」とする。)について説明する。なお、図5は、不良成形品発生通知処理の流れを示すフローチャートであり、成形品質判別装置100Aは、所定周期(例えば、成形サイクル毎である。)で繰り返しこの不良成形品発生通知処理を実行するものとする。
【0067】
最初に、成形品質判別装置100Aの制御装置1Aは、消費エネルギ検出部10により、電力測定装置2の出力に基づいて、樹脂を可塑化する際に射出・可塑化装置200で消費される電力量を検出する(ステップS11)。
【0068】
次に、制御装置1Aは、成形品質判別部11により、消費エネルギ検出部10が検出した消費電力量と、記憶装置3に予め記憶された基準電力量との間の差(絶対値)が所定値TH1以上となるか否かを判定する(ステップS12)。
【0069】
その差が閾値TH1以上であると判定した場合(ステップS12のYES)、制御装置1Aは、表示装置4及び音声出力装置5に対して制御信号を出力し、不良成形品発生のおそれがあることを示すテキストメッセージを表示装置4に表示させたり、そのことを示す音声メッセージを音声出力装置5に音声出力させたりする(ステップS13)。
【0070】
その差が閾値TH1未満であると判定した場合(ステップS12のNO)、制御装置1Aは、不良成形品発生のおそれを通知することなく、今回の不良成形品発生通知処理を終了させるようにする。
【0071】
なお、制御装置1Aは、消費電力量と基準電力量との間の差に基づいて不良成形品発生のおそれを判別する代わりに、そのときの成形条件に応じて予め設定される樹脂粘度の範囲と消費電力量から導き出される樹脂粘度とに基づいて不良成形品発生のおそれを判別するようにしてもよい。
【0072】
次に、図6を参照しながら、成形品質判別装置100Aが不良成形品の発生を能動的に抑制する処理(以下、「不良成形品発生抑制処理」とする。)について説明する。なお、図6は、不良成形品発生抑制処理の流れを示すフローチャートであり、成形品質判別装置100Aは、所定周期(例えば、成形サイクル毎である。)で繰り返しこの不良成形品発生抑制処理を実行するものとする。
【0073】
最初に、成形品質判別装置100Aの制御装置1Aは、消費エネルギ検出部10により、電力測定装置2の出力に基づいて、直近の一回の成形サイクルにおいてシリンダヒータ6で消費された電力量(ヒータ電力量)を検出する(ステップS21)。
【0074】
また、制御装置1Aは、消費エネルギ検出部10により、電力測定装置2の出力に基づいて、可塑化工程中に計量モータ7で消費された電力量(計量モータ電力量)を検出する(ステップS22)。
【0075】
なお、ヒータ電力量の検出は、計量モータ電力量の検出の後に行われてもよく、計量モータ電力量の検出と同時に行われてもよい。
【0076】
次に、制御装置1Aは、成形品質判別部11により、シリンダヒータ6で消費された電力量と計量モータ7で消費された電力量との合計である合計消費電力量と、そのときの成形条件(例えば、射出シリンダ20の各領域の設定温度や計量スクリュ22の設定回転速度である。)に対応する基準電力量とを比較し、その合計消費電力量がその基準電力量を上回るか否かを判定する(ステップS23)。
【0077】
その合計消費電力量がその基準電力量を上回ると判定した場合(ステップS23のYES)、制御装置1Aは、消費エネルギ変動抑制部12により、シリンダヒータ6の目標温度を低減させたり、計量モータ7の目標回転速度を低減させたりすることによって、後の成形サイクルで消費される合計消費電力量が減少して基準電力量に近づくようにする(ステップS24)。
【0078】
一方、その合計消費電力量がその基準電力量以下であると判定した場合(ステップS23のNO)、制御装置1Aは、その合計消費電力量がその基準電力量を下回るか否かを判定する(ステップS25)。
【0079】
その合計消費電力量がその基準電力量を下回ると判定した場合(ステップS25のYES)、制御装置1Aは、消費エネルギ変動抑制部12により、シリンダヒータ6の目標温度を増大させたり、計量モータ7の目標回転速度を増大させたりすることによって、後の成形サイクルで消費される合計消費電力量が増大して基準電力量に近づくようにする(ステップS26)。
【0080】
なお、その合計消費電力量がその基準電力量に等しいと判定した場合(ステップS25のNO)、制御装置1Aは、その合計消費電力量を変化させるような措置を取ることなく、今回の不良成形品発生抑制処理を終了させるようにする。
【0081】
合計消費電力量を変化させるような措置が取られた場合(ステップS24又はステップS26の後)、制御装置1Aは、表示装置4及び音声出力装置5に対して制御信号を出力し、不良成形品の発生を防止するための措置が取られたことを示すテキストメッセージを表示装置4に表示させたり、そのことを示す音声メッセージを音声出力装置5に音声出力させたりする(ステップS27)。
【0082】
なお、制御装置1Aは、消費電力量と基準電力量との間の差に基づいて不良成形品の発生を防止するための措置を取るか否かを判定する代わりに、そのときの成形条件に応じて予め設定される樹脂粘度の範囲と消費電力量から導き出される樹脂粘度とに基づいて不良成形品の発生を防止するための措置を取るか否かを判定するようにしてもよい。
【0083】
以上の構成により、本発明の実施例に係る射出成形機は、樹脂を可塑化する際に射出・可塑化装置200で消費される(樹脂の可塑化状態の変化による影響を受け易い)電力量を監視することによって、樹脂の可塑化状態をより高精度に監視しながら、その樹脂の可塑化状態の変動の値に基づいて、樹脂の可塑化状態の変化に左右される成形品質をより高精度に判別することができる。
【0084】
また、本発明の実施例に係る射出成形機は、樹脂を可塑化する際に射出・可塑化装置200で消費される電力量を監視することによって、樹脂材料における添加剤の混入量の多寡による影響を受け易い射出シリンダ20内の樹脂の粘度をより高精度に監視することができる。
【0085】
なお、本発明の実施例に係る射出成形機は、消費電力量以外の他の消費エネルギを監視することによって、樹脂の可塑化状態をより高精度に監視しながら、その樹脂の可塑化状態の変動の値に基づいて、樹脂の可塑化状態の変化に左右される成形品質をより高精度に判別するようにしてもよく、また、消費電力量やその他の消費エネルギをkWh以外の他のユニットを用いて監視しながら、その樹脂の可塑化状態の変動の値に基づいて、樹脂の可塑化状態の変化に左右される成形品質をより高精度に判別するようにしてもよい。
【0086】
また、本発明の実施例に係る射出成形機は、樹脂材料における添加剤の混入量の多寡による影響を受け易い射出シリンダ20内の樹脂の粘度を監視することにより、添加剤混入量の変化に左右される成形品質をより高精度に判別することができる。
【0087】
また、本発明の実施例に係る射出成形機は、樹脂を可塑化する際に射出・可塑化装置200で消費される(樹脂の可塑化状態の変化による影響を受け易い)電力量を所定の基準電力量に近づけるように制御するので、樹脂の可塑化状態の変化に起因する不良成形品の発生を抑制することができる。
【0088】
以上、本発明の好ましい実施例について詳説したが、本発明は、上述した実施例に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなしに上述した実施例に種々の変形及び置換を加えることができる。
【0089】
例えば、上述の実施例において、射出・可塑化装置200は、ホッパ24から射出シリンダ20に直接的に樹脂材料を供給するが、射出シリンダ20に対する樹脂の供給量を制御するフィーダを備えるようにしてもよい。飢餓計量状態を安定的に作ることができれば、計量トルク等に対する外乱が抑制され、樹脂の可塑化状態の変化に連動する消費電力量の変化をより高精度に検出することができるからである。
【符号の説明】
【0090】
1、1A・・・制御装置 2・・・電力測定装置 3・・・記憶装置 4・・・表示装置 5・・・音声出力装置 6、6a〜6e・・・シリンダヒータ 7・・・計量モータ 10・・・消費エネルギ検出部 11・・・成形品質判別部 12・・・消費エネルギ変動抑制部 20・・・射出シリンダ 20a・・・ノズル部 22・・・計量スクリュ 24・・・ホッパ 100・・・可塑化状態監視装置 100A・・・成形品質判別装置 200・・・射出・可塑化装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
射出シリンダ内の樹脂の状態を監視する射出成形機であって、
樹脂の可塑化のために消費される消費エネルギを検出する消費エネルギ検出部を備えることを特徴とする射出成形機。
【請求項2】
前記消費エネルギ検出部が検出した消費エネルギに基づいて射出シリンダ内の樹脂の状態を推定することにより、成形品質を判別する成形品質判別部を備える、
ことを特徴とする請求項1に記載の射出成形機。
【請求項3】
前記成形品質判別部は、前記消費エネルギ検出部が検出した消費エネルギに基づいて射出シリンダ内の樹脂の粘度を推定することにより、成形品質を判別する、
ことを特徴とする請求項2に記載の射出成形機。
【請求項4】
前記エネルギ検出部は、射出シリンダを加熱するヒータで消費される電力量と、計量スクリュを回転駆動する計量モータで消費される電力量とを消費エネルギとして検出する、
ことを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の射出成形機。
【請求項5】
前記消費エネルギ検出部が検出する消費エネルギの変動を抑制する消費エネルギ変動抑制部を更に備える、
ことを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項に記載の射出成形機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−91424(P2012−91424A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−241390(P2010−241390)
【出願日】平成22年10月27日(2010.10.27)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】