説明

射出成形用金型及びこれを用いた成形体の製造方法

【課題】既存の金型を用いてより簡便な方法で、リブ形成用溝内の空気の貯留を防止し、シルバーストリークの発生やシワ等の外観不良の発生を防止することが可能な射出成形用金型及びこの金型を用いた成形体の製造方法を提供する。
【解決手段】深さ2〜40mm、厚さ0.5〜3mm、長さ5mm以上のリブ形成用溝を有する射出成形用金型であって、前記リブ形成用溝は、溝内の空気を貯留する空気貯留部と、溶融樹脂を充填してリブを形成するリブ形成部とを有し、前記空気貯留部と前記リブ形成部の間には、前記空気貯留部と前記リブ形成部とを連通する連通路を有する差込部材が介在し、前記差込部材の外郭面は、前記リブ形成用溝を形成する4つの壁面のうちの少なくとも3つの壁面と当接し、前記連通路は、前記溶融樹脂が流入しない寸法の開口部を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形用金型及びこれを用いた成形体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車用のドアトリムのような大型の射出成形体には、製品強度を高めるために、非意匠面にリブが形成されている。一般に、リブは成形体の厚みよりも薄く設計されるため、溶融樹脂をリブ形成用の溝に、十分に充填することができないといった充填不良が起こることがあった。また、溶融樹脂がキャビティ内に流入する際に、キャビティ内に存在する空気が奥に追いやられてリブ形成用溝内に貯留していく場合がある。貯留された空気は、溝内で圧縮されたまま残ってしまったり、溶融樹脂と金型の内周面との隙間から通り抜けようとしたりするため、得られる成形体表面にはシルバーストリークやシワ等の外観不良が発生することがある。
【0003】
上記のような問題を解決するために、特許文献1では、突状部を成形する金型の凹状成形面に対向する金型の製品表面側の成形面箇所に、窪み部を形成して、この窪み部内に通気性金型材を配置すると共に、前記通気性金型材の空孔に連通する吸気孔を前記金型に形成し、前記吸気孔に連結された減圧装置を作動させることにより、前記金型キャビティ内に注入された溶融樹脂を前記肉厚部成形用キャビティの製品表面側の金型成形面に吸い寄せるようにしたことを特徴とする樹脂射出成形装置が開示されている。
また、特許文献2ではコア入子と、このコア入子に設けられるガス抜き用入子を有し、このコア入子にリブを成型するリブ用キャビティと、リブ用キャビティの端部に連通する中空部とが設けられ、この中空部にガス抜き用入子が挿入されて一体となされ、このガス抜き用入子にリブの端部を成型するためのリブ端キャビティと、このリブ端キャビティに連通し、外部に開口されたガス抜き通路が設けられていることを特徴とする射出成形金型が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−280304号
【特許文献2】特開平8-281719号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1及び2に記載されている金型は複雑な構造を有しており、既存の金型を用いることができない。
以上の課題に鑑み、本発明は既存の金型を用いてより簡便な方法で、リブ形成用溝内の空気の貯留を防止し、シルバーストリークの発生やシワ等の外観不良の発生を防止することが可能な射出成形用金型及びこの金型を用いた成形体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、深さ2〜40mm、厚さ0.5〜3mm、長さ5mm以上のリブ形成用溝を有する射出成形用金型であって、前記リブ形成用溝は、溝内の空気を貯留する空気貯留部と、溶融樹脂を充填してリブを形成するリブ形成部とを有し、前記空気貯留部と前記リブ形成部の間には、前記空気貯留部と前記リブ形成部とを連通する連通路を有する差込部材が介在し、前記差込部材の外郭面は、前記リブ形成用溝を形成する4つの壁面のうちの少なくとも3つの壁面と当接し、前記連通路は、前記溶融樹脂が流入しない寸法の開口部を有することを特徴とする射出成形用金型及びこの金型を用いた成形体の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、既存の金型を用いてより簡便な方法で、リブ形成用溝内の空気の貯留を防止し、シルバーストリークの発生やシワ等の外観不良の発生を防止することが可能な射出成形用金型及びこの金型を用いた成形体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明に係る射出成形用金型の第一の実施態様を示す断面図である。
【図2】図1に示す射出成形用金型の開状態を示す図である。
【図3】図1に示す射出成形用金型のリブ形成用溝の拡大斜視図である。
【図4】図1に示す射出成形用金型のリブ形成用溝の拡大断面図である。
【図5】差込部材の他の態様を示す図である。
【図6】リブ形成用溝の形成方法を示す図である。
【図7】第二の実施形態に係る射出成形用金型のリブ形成用溝を示す図である。
【図8】実施例のリブ形成用溝の外観を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
〔射出成形用金型〕
本発明に係る射出成形用金型は、リブ形成用溝を有し、リブ形成用溝には所定の差込部材が差し込まれているものである。
以下、本発明に係る射出成形用金型の好適な実施形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、同一の部分には同一の符号を付して、重複する説明を省略する。また、図面に示すように、X軸及びY軸は水平面上で互いに90度をなし、鉛直方向をZ軸方向と定め、以下必要な場合にX軸、Y軸、Z軸を用いる。
【0010】
(第一の実施形態)
図1及び図2に示されるように、第一の実施形態に係る射出成形用金型1は、熱可塑性樹脂成形体の射出成形に利用される金型であり、X軸方向に対向して配置された固定側取付板2と可動側取付板3とを有している。固定側取付板2は、溶融状態の熱可塑性樹脂を射出する射出装置側に固定されており、可動側取付板3は、図示しない型開閉機構によりX軸方向に往復動する。
【0011】
固定側取付板2と可動側取付板3との間には、固定側型4及び可動側型5がX軸方向に対向して配置されている。固定側型4は、X軸方向に移動可能に構成されており、固定側取付板2の内面から突出する4本のガイドピン6によってガイドされる。また、可動側型5は、後述するスペーサーブロック10及び受け板11を介して可動側取付板3に固定されており、可動側取付板3の移動に伴ってX軸方向に往復動する。
【0012】
固定側型4と可動側型5とは、可動側取付板3の往復動に伴って、固定側型4と可動側型5とが接触した閉状態(図1参照)と、固定側型4と可動側型5とが離間した開状態(図2参照)との間を移行する。固定側型4と可動側型5とは、閉状態において、その内部に矩形板状のキャビティ7を形成する。
【0013】
固定側取付板2の中央には、図示しない射出装置のノズル先端が入り込む略漏斗状のスプルーブッシュ8が設けられている。また、固定側取付板2と固定側型4との間には、ガイドピン6に貫通されたランナストッパプレート9が配置されており、ランナストッパプレート9と固定側型4とは、溶融状態の熱可塑性樹脂の流路を構成するランナ成形部12を形成している。ランナ成形部12は、スプルーブッシュ8の出口側に接続されており、スプルーブッシュ8との接続部を中心としてZ軸方向に延在している。
固定側型4内には、固定側型4をX軸方向に貫通するゲート部13が2箇所形成されている。これらのゲート部13は、Z軸方向におけるランナ成形部12の両端付近に形成されている。
【0014】
可動側型5におけるキャビティ7と反対側の面には、受け板11が固定されている。この受け板11と可動側取付板3との間には、キャビティ7内で固化した熱可塑性樹脂成形体を型から外すための4本のエジェクタピン16を保持するエジェクタプレート17が設けられている。また、受け板11と可動側取付板3との間には、X軸方向に移動するエジェクタプレート17の両側にスペーサーブロック10が配置されている。
【0015】
また、可動側型5のキャビティ7には、リブを形成するリブ形成用溝18設けられている。これらは複数個設けられていてもよい。
図3は可動側型5のリブ形成用溝18の拡大図である。このリブ形成用溝18は、溝内の空気を貯留する空気貯留部181と、溶融樹脂を充填してリブを形成するリブ形成部182を有している。これらの間には差込部材183が介在している。差込部材183の外郭面は、リブ形成用溝18の4つの壁面のうちの少なくとも3つの壁面と当接している。本実施形態では、3つの壁面と当接している。
なお、図3に記載のX軸、Y軸及びZ軸は、図1に記載のX軸、Y軸及びZ軸にそれぞれ対応している。
【0016】
この差込部材183の一部には、空気貯留部181とリブ形成部182とを連通する連通路184が形成されている。なお、空気貯留部181は、リブ形成用溝18内に複数個所あってもよい。
ここで、本発明における「リブ」とは、成形体の縁や側壁において、剛性や強度を向上させたり、また反りやねじれなどの変形を抑えたりするために設けられた突起状をした補強部分をいう。
【0017】
上述のように、リブ形成用溝18は、空気貯留部181とリブ形成部182を有し、これらの間には差込部材183が介在している。得られる成形体のリブ(又はリブ形成部182)の大きさは、リブ形成用溝18と差込部材183の大きさによって決定される。
リブの寸法、即ちリブ形成部182の寸法は、深さ5〜40mm、厚さ0.5〜3mm、長さ5mm以上であることが好ましい。
また、空気貯留部181の体積は、リブ形成用溝18内に圧縮された空気を貯留することができる体積であれば特に限定されるものではないが、1〜2400mmであることが好ましく、10〜1200mmであることがより好ましく、50〜800mmであることが更に好ましい。
【0018】
リブ形成用溝18の寸法は、深さ5〜40mm、厚さ0.5〜3mm、長さ5mm以上であり、深さ5〜20mm、厚さ0.5〜3mm、長さ10mm以上であることが好ましい。リブ形成用溝18の寸法がこの範囲を超えると、差込部材の加工や挿入などが困難となる場合がある。
なお、リブ形成用溝18の形成方法は特に限定されるものではない。例えば、図6(a)のように、可動側型5のキャビティ7に直接リブ形成用溝18を設けても、幾つか分割したパーツを組み合わせて形成してもよい。
【0019】
また、差込部材183の寸法は、リブ形成用溝18の中に挿入可能であり、かつ、所望の大きさのリブを形成することが可能な程度の寸法であれば特に限定されるものではないが、深さ5〜20mm、厚さ0.5〜3mm、長さ20mm以下であることが好ましい。本発明において、リブ形成用溝18の深さは、図1のx軸方向に対応し、厚さは、図1のz軸方向に対応し、長さは、図1のy軸方向に対応するものとする。
差込部材は予め形成したリブ形成用溝の中に挿入され、溝の壁面に密着して固定されていることが好ましい。固定方法としては、締り嵌め、中間嵌め等の形式で嵌め合って固定することが好ましい。
なお、リブ形成用溝と差込部材には、0〜3°の抜き勾配が設けられてあってもよい。抜き勾配は、両者とも同じ勾配してもよいし、異なっていてもよい。リブ形成用溝に設けられた抜き勾配の方が、差込部材に設けられた抜き勾配より0〜0.5°大きくすることが好ましい。
【0020】
また、差込部材183の一部には、空気貯留部181とリブ形成部182を連通する連通路184が少なくとも1箇所設けられている。連通路184は、溶融樹脂が流入せず、空気のみが流入するような開口部が形成されていれば、形状は特に限定されない。本実施形態では略四角形の開口部を有する連通路としているが、開口部の形状が半円や三角形であってもよい。酸通路184は、差込部材183の一部を削ることによって形成される。
【0021】
本実施形態のように、差込部材183が、リブ形成用溝18を形成する壁面の一部を覆うように差し込まれている場合(図4参照)には、リブ形成部182と空気貯留部181が連通路184を介して左右に位置することが好ましい。このとき、連通路184は、差込部材183のリブ形成用溝18の底面に対して垂直な外郭面に設けられる。
連通路184が設けられている位置は、特に限定されるものではないが、本実施形態のように、差込部材183が図4のように差し込まれている場合には、リブ形成用溝18の深さの約半分以上の位置(底面から50%以下の高さ)に設けられていることが好ましい。
そして連通路184の開口部は、連通路184が対向するリブ形成用溝の壁面に対して垂直な方向(図3中、hの方向)に、5〜50μm開口していることがより好ましい。5μm未満の開口幅であると、空気を流入させることが困難となり、50μmを超える開口幅であると、溶融樹脂も流入してしまう場合がある。
【0022】
なお、後述するように、差込部材193が、リブ形成用溝19の底面を覆うように差し込まれている場合(図7参照)には、リブ形成部192と空気貯留部191が連通路194を介して上下に位置することが好ましい。このとき、連通路194は、差込部材193のリブ形成用溝19の底面に対して平行な外郭面に設けられる。
そして連通路194の開口部は、幅方向(図7中のwの方向)に5〜50μm開口していることがより好ましい。5μm未満の開口幅であると、空気を流入させることが困難となり、50μmを超える開口幅であると、溶融樹脂も流入してしまう場合がある。
【0023】
差込部材の外観形状は、その外郭面がリブ形成用溝の4つの壁面のうちの少なくとも3つの壁面と当接できるような形状であれば、特に限定されるものではない。図5(a)(b)で示すように、空気貯留部を形成するための、切欠き部185や凹凸部186があることが好ましいが、図5(c)のようにこれらが設けられていないものであってもよい。
なお、差込部材として図5(c)を用いる場合には、リブ形成用溝の底面を覆うように差し込み、底面との間に空気貯留部となり得る隙間を空けて用いる。
差込部材の材質は、アルミ、鉄、ステンレス等の金属又はこれらの合金材料、耐熱性を有する樹脂材料等が使用できる。中でも収縮率が大きく、加工性が良いアルミや銅等を用いることが好ましい。
【0024】
リブ形成用溝18の形成方法は特に限定されるものではない。例えば、図6(a)のように、可動側型5のキャビティ7に直接リブ形成用溝18を設けても、幾つか分割したパーツを組み合わせて設けてもよい。
【0025】
次に、以上の構成を有する射出成形用金型を用いた射出成形体の製造方法について説明する。
【0026】
本発明で用いられる溶融樹脂は、熱可塑性の樹脂であれば、特に限定されるものではない。例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、アクリル、アクリロニトリルースチレンーブタジエンブロック共重合体、ポリスチレン、ナイロン等のポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、アクリル樹脂、スチレン−ブタジエンブロック共重合体等の一般的な熱可塑性樹脂、EPM、EPDM等の熱可塑性エラストマー、これらの混合物、これらを用いたポリマーアロイ等が挙げられる。
【0027】
また、これらの熱可塑性樹脂には、必要に応じて通常使用されるガラス繊維、各種の無機、有機フィラー等の充填材等が含有されてもよい。また、通常使用される各種の安定剤、分散剤、紫外線吸収剤、離型剤、滑材、帯電防止剤、顔料等の各種添加材が含有されてもよい。
【0028】
本実施形態における射出成形体の製造方法では、先ず溶融状の熱可塑性樹脂を用意し、図1に記載されているような射出成形用金型1を備えた射出成形機に熱可塑性樹脂を投入する。そして、射出成形用金型1の固定側型4と可動側型5とを閉状態にした後、射出装置によって溶融状態の熱可塑性樹脂(溶融樹脂)を矢印A方向に射出して、スプルーブッシュ8内に注入する充填工程を行う。この充填工程によりスプルーブッシュ8内に注入された溶融樹脂は、ランナストッパプレート9と固定側型4との間のランナ成形部12、固定側型4の2箇所のスプル成形部12、及び固定側型4と可動側型5との間の一対のゲート部13を経て、キャビティ7内のリブ形成部に流入する(図1参照)。
【0029】
そして、このとき、キャビティ7内のリブ形成用溝18では、溶融樹脂が流入することにより、キャビティ7内に存在する空気が奥に追いやられてリブ形成用溝18内に貯留していく(図2参照)。リブ形成用溝18内に貯留された空気は、差込部材183の連通路184を通って空気貯留部181に貯留されていく(図3参照)。
その後、キャビティ7内に注入された溶融樹脂を、所定時間冷却して固化させる冷却工程を行う。この冷却工程の後、可動側取付板3を移動させて固定側型4と可動側型5とを開状態とし、エジェクタピン16を用いて射出成形体Hを可動側型5から取り外す(図2参照)。
【0030】
なお、上記充填工程の前に、リブ形成用溝18に、差込部材183を挿入し、その外郭面が前記リブ形成用溝の4つの壁面のうちの少なくとも3つの壁面と当接するような位置に調整する工程を設けてもよい。
また、成形時の樹脂の射出速度や、注入する樹脂の温度、金型の温度は特に限定されず、キャビティの大きさや、樹脂材料等に応じて、適切に管理をすればよい。
【0031】
以上説明した第1の実施形態に係る射出成形用金型及びそれを用いた射出成形体の製造方法によれば、リブ形成用溝内に空気貯留部が設けられている。この空気貯留部は、連通路を介してリブ形成部と連通しているため、キャビティ内に溶融樹脂が流入することにより、キャビティ内に存在する空気が奥に追いやられてリブ形成用溝内に貯留していく。リブ形成用溝内に貯留された空気は、差込部材に設けられた連通路を通って空気貯留部に貯留される。このため、リブ形成部には余分な空気が貯留せず、所謂ショートショットの発生を防止することが可能となる。これによって得られる射出成形体シルバーストリークの発生やシワ等の外観不良の発生を防止することが可能な射出成形体を得ることが可能となる。
【0032】
(第二の実施形態)
図7は第二の実施形態に係る射出成形用金型のリブ形成用溝19の断面を示した図である。本実施形態では、差込部材193の外郭面は、リブ形成用溝19を形成する4つの壁面全てと当接している。この場合、リブ形成部192と空気貯留部191が連通路194を介して上下に位置し、連通路194は、差込部材193のリブ形成用溝19の底面に対して平行な外郭面に設けられる。連通路の断面形状は略四角形である。
そして連通路194の開口部は、リブ形成用溝19の底面に対して垂直な方向(図中のwの方向)に5〜50μm開口していることがより好ましい。5μm未満の開口幅であると、空気を流入させることが困難となり、50μmを超える開口幅であると、溶融樹脂も流入してしまう場合がある。
なお、第二の実施形態に係る差込部材19は、第一の実施形態と同様の大きさ及び材質からなる。リブ形成用溝19に設けられている連通路194及びその開口部の形状も、第一の実施形態と同様の略四角形の形状である。
【0033】
第二の実施形態に係る射出成形用金型においても、第一の実施形態と同様の射出成形体の製造方法を採用することができる。すなわち、まずゲート部からキャビティ内に熱可塑性樹脂を注入する充填工程が行われる。この充填工程でキャビティ内に流入した熱可塑性樹脂は、リブ形成用溝19に流入する。リブ形成用溝19の中の空気は、溶融樹脂によって奥に追いやられ、連通路194を通過して空気貯留部191に貯留される。
このため、第一の実施形態に係る射出成形用金型と同様に、リブ形成部192には余分な空気が貯留せず、所謂ショートショットの発生を防止することが可能となる。これによって得られる射出成形体シルバーストリークの発生やシワ等の外観不良の発生を防止することが可能な射出成形体を得ることができる。
【0034】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定
されるものではない。
【実施例】
【0035】
以下、実施例及び比較例によって本発明を説明する。
〔実施例1〕
射出成形用金型として、深さ10mmのリブ形成用溝に差し込まれた差込部材が図8(a)に示すような形状のものを用いた。この射出成形用金型の金型キャビティは、完成した成形体の外寸が、長さ400mm、幅100mm、厚さ3mmとなるような寸法を有し、長手方向の片端からダイレクトゲートで樹脂を注入する金型である。
差込部材としては、10mm×4mm×2mmのアルミブロックの一部に傾斜をつけ、図8(a)のようにリブ形成用溝に貫入させた。
連通路は、差込部材の一部を削り、リブ形成用溝の壁面と、差込部材の一部とが、約30μm離間するようにした。
【0036】
射出成形機として、日精樹脂工業(株)製のFS160(最大圧力1435Kgf/cm、最大射出率195cm/s)を使用した。射出成形条件としては、射出成形のシリンダー温度を230℃、金型温度を20℃とした。
なお射出成形に用いた樹脂は、住友化学株式会社製AZ864(ブロックポリプロピレン、MFR30g/10min(230℃、荷重2.16kgfで測定)であった。上記の条件で製造した成形体の評価結果を表1に示す。
【0037】
得られた成形体は、リブが形成されている部分周辺の表面に、シルバーストリークが発生しているか否かを目視で確認した。
【0038】
〔実施例2〕
差込部材の材質をアルミから、樹脂製板(20mm×3mm×1.3mm)に変更し、図8(b)に示すように、リブ形成用溝の低面と、差込部材の一部とが、約30μm離間するように貫入させた以外は、実施例1と同様の方法で成形体を製造した。得られた成形体を実施例1と同様に評価し、その評価結果を表1に示す。なお、樹脂製板は、成形体と同じ樹脂からなるものを用いた。
【0039】
〔比較例1〕
実施例1のアルミブロックに、空気貯留部及び連通路を設けないで差込部材とした以外は実施例1と同じ条件で成形体を製造した(図8(c)参照)。得られた成形体を実施例1と同様に評価し、その評価結果を表1に示す。
【0040】
〔比較例2〕
実施例2の樹脂製板に、空気貯留部及び連通路を設けないで差込部材とした以外は実施例1と同じ条件で成形体を製造した。得られた成形体を実施例1と同様に評価し、その評価結果を表1に示す(図8(d)参照)。
【0041】
【表1】

【符号の説明】
【0042】
1 射出成形用金型
2 固定側取付板
3 可動側取付板
4 固定側型
5 可動側型
6 ガイドピン
7 キャビティ
8 スプルーブッシュ
9 ランナストッパプレート
10 スペーサーブロック
11 受け板
12 ランナ形成部
13 ゲート部
16 エジェクタピン
17 エジェクタプレート
18,19 リブ形成用溝
181,191 空気貯留部
182,192 リブ形成部
183,193 差込部材
184,194 連通路
185 切り欠部
186 凹凸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
深さ2〜40mm、厚さ0.5〜3mm、長さ5mm以上のリブ形成用溝を有する射出成形用金型であって、
前記リブ形成用溝は、溝内の空気を貯留する空気貯留部と、溶融樹脂を充填してリブを形成するリブ形成部とを有し、
前記空気貯留部と前記リブ形成部の間には、前記空気貯留部と前記リブ形成部とを連通する連通路を有する差込部材が介在し、
前記差込部材の外郭面は、前記リブ形成用溝を形成する4つの壁面のうちの少なくとも3つの壁面と当接し、
前記連通路は、前記溶融樹脂が流入しない寸法の開口部を有することを特徴とする射出成形用金型。
【請求項2】
前記連通路の開口部は、前記連通路が前記差込部材の前記リブ形成用溝の底面に対して垂直な外郭面に設けられている場合は、前記連通路が対向するリブ形成用溝の壁面に対して垂直な方向に5〜50μm開口している請求項1に記載の射出成形用金型。
【請求項3】
前記連通路の開口部は、前記連通路が前記差込部材の前記リブ形成用溝の底面に対して平行な外郭面に設けられている場合は、前記リブ形成用溝の底面に対して垂直な方向に5〜50μm開口している請求項1に記載の射出成形用金型。
【請求項4】
前記空気貯留部の体積は、1〜2400mmである請求項1から3いずれかに記載の射出成形用金型。
【請求項5】
請求項1から4いずれかに記載の射出成形用金型を用いた成形体の製造方法。
【請求項6】
前記射出成形用金型のキャビティに溶融樹脂を充填する前に、
前記リブ形成用溝に、差込部材を挿入し、その外郭面が前記リブ形成用溝の4つの壁面のうちの少なくとも3つの壁面と当接するような位置に調整する工程を有する請求項5に記載の成形体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−35586(P2012−35586A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−180018(P2010−180018)
【出願日】平成22年8月11日(2010.8.11)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】