説明

射出成形用金型及びそれを用いた射出成形方法、射出成形品、射出成形機

【課題】固定側型板と可動側型板を有し、前記固定側型板と前記可動側型板との間にキャビティが形成され、このキャビティに溶融樹脂を充填することで射出成形品が射出成形される射出成形用金型において、前記射出成形品の円滑な離型を阻害するようなピン部材が存在していたとしても、問題なく、前記射出成形品を前記射出成形用金型から離型させる技術を提供する。
【解決手段】キャビティ8の内壁面のうち、射出成形品26の離型方向に対して直交する内壁面以外の内壁面である第2側壁面28bには、ピン形状のピン部材30を挿入して取り付けるためのピン取り付け孔29が形成されている。第2側壁面28bのうち、ピン取り付け孔29を基準として離型方向と反対側の面領域39には、第2側壁面28bから隆起する隆起部40が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形用金型及びそれを用いた射出成形方法、射出成形品、射出成形機に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、アンダーカット部を有する射出成形品を金型から離型させる手法として、特許文献1はスライドコア式を開示している。即ち、特許文献1は、本願の図28に示すように、固定型100と可動型101、スライドコア102を備えた射出成形用金型103を開示している。可動型101は、鉛直方向に移動可能であって、最も高いところに位置したときに固定型100に組み合わされる。スライドコア102は、可動型101上を水平方向に移動可能である。このスライドコア102には、射出成形品104の一端部に穴105を形成するためのピン部106が設けられている。この構成で、閉じた状態の射出成形用金型103内に溶融樹脂が射出されると射出成形品104が形成される。射出成形品104の形成後、可動型101を鉛直方向に沿って下降させると、射出成形用金型103が開かれると共に、図示しないガイド棒によってスライドコア102が水平方向に沿って後退する。これにより、射出成形品104の穴105からピン部106が引き離され、もって、射出成形品104が可動型101から離型できるようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−127183号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、昨今の射出成形品の小型化に伴い、上記特許文献1のようには射出成形品に意図的なアンダーカット部を設けない場合であっても、射出成形品を射出成形用金型から離型させるに際し、物理的な干渉が生じる可能性が出てきた。以下、この問題を説明すべく、図1〜4を参照しながら、射出成形機や射出成形用金型の一般的な構成を紹介する。
【0005】
(射出成形機1)
図1に示すように、射出成形機1は、機台2を有する。この機台2上に、射出ユニット3(溶融樹脂供給手段)、型締めユニット4(型締め手段)、射出成形用金型5が配置されている。
【0006】
射出ユニット3は、ホッパー6と加熱シリンダ7を有する。ホッパー6は、原料となる樹脂を保持する。加熱シリンダ7は、ホッパー6から供給された樹脂を加熱して溶融樹脂を形成する。加熱シリンダ7内で形成された溶融樹脂は、射出成形用金型5のキャビティ8(図2を併せて参照)に射出される。
【0007】
型締めユニット4は、固定盤9、可動盤10、型締め駆動装置11、エジェクトピン駆動装置12を備えている。固定盤9には、射出成形用金型5の固定側取付板13(図2を併せて参照)が取り付けられる。可動盤10には、射出成形用金型5の可動側取付板14が取り付けられる。型締め駆動装置11は、固定盤9に対して可動盤10を進退させることで射出成形用金型5の型締め及び型開きを行う。エジェクトピン駆動装置12は、射出成形用金型5のエジェクタプレート15を進退させる。
【0008】
(射出成形用金型5)
図1及び図2に示すように、射出成形用金型5は、射出ユニット3側から順に、固定側取付板13、固定側型板16、可動側型板17、受け板18、スペーサブロック19、可動側取付板14が積層されて構成されている。
【0009】
固定側取付板13は、型締めユニット4の固定盤9に取り付けられる。固定側型板16と可動側型板17の間には、所望形状のキャビティ8が形成されている。図2に示すように固定側型板16と可動側型板17は、通常、入れ子構造となっている。スペーサブロック19の内側には、エジェクタプレート15が収容されている。エジェクタプレート15は、上エジェクタプレート20と下エジェクトプレート21によって構成されている。エジェクタプレート15は、複数のエジェクタピン22を支持している。可動側取付板14は、型締めユニット4の可動盤10に取り付けられる。そして、図2に示すように、固定側取付板13及び固定側型板16、可動側型板17には、スプルー23やランナー24、ゲート25が形成されている。
【0010】
(射出成形品26の製造手順)
以上の構成で、図3に示すような射出成形品26を射出成形するには、先ず、型締めユニット4によって射出成形用金型5を型締めする。すると、図2に示すように、射出成形用金型5には、スプルー23、ランナー24、ゲート25、キャビティ8が形成される。次に、射出ユニット3によって射出成形用金型5に溶融樹脂を射出する。射出ユニット3から射出された溶融樹脂は、スプルー23とランナー24、ゲート25を順に流動し、キャビティ8に充填される。そして、図示しない冷却手段により射出成形用金型5を冷却させることでキャビティ8に充填された溶融樹脂を固化させる。
【0011】
冷却開始から所定時間経過したら、型締めユニット4によって射出成形用金型5を型開きする。すると、キャビティ8で固化して形成された射出成形品26は、固定側型板16から引き離され、図4に示す可動側型板17の凹部27の内壁面に付着した状態となる。この状態で、エジェクトピン駆動装置12によってエジェクタプレート15を進出させることで、複数のエジェクタピン22が射出成形品26を突き出し、射出成形品26は可動側型板17から離型する。
【0012】
(課題の所在)
次に、図5〜図7(e)を参照しながら、携帯電話機用のFPC用コネクタ200(Flexible Printed Circuits)の一例を紹介する。ここで、携帯電話機用のFPC用コネクタ200の一例を説明するのは、本願が解決しようとする問題が、特に、携帯電話機用のFPC用コネクタ200のハウジング201のように極めて小さな射出成形品で顕在化するからである。
【0013】
さて、図5に示すようにFPC用コネクタ200のハウジング201には、多数のスリット202が等しい間隔で形成されている。そして、各スリット202には、図6に示すようにコンタクト203が圧入されている。図7(a)〜(e)には、FPC用コネクタ200のハウジング201の平面図、正面図、底面図、左側面図、右側面図が各々示されている。ここで、仮に、FPC用コネクタ200のハウジング201を射出成形する射出成形用金型5のゲート25(図4を併せて参照)に対向するハウジング201の部位が符号Gで示す部位であるとする。すると、ウェルドラインが出現するようなハウジング201の充填末端としては、図7(a)の末端上面P1、図7(c)の末端下面P2、図7(e)の末端側面P3が該当することになる。
【0014】
ところで、溶融樹脂がキャビティ8へスムーズに充填されるよう、キャビティ8の充填末端の内壁面には、充填前からキャビティ8に存在していた空気や溶融樹脂から発生したガスを外部へ排出するためのガス抜き孔が形成される場合がある。このガス抜き孔には、通常、溶融樹脂をキャビティ8に閉じ込めつつ空気やガスだけを外部へ選択的に排出するためのピン部材(通称、ガス抜きピン)が挿入されている。ピン部材のキャビティ8側の先端面は、キャビティ8の充填末端の内壁面に対して可及的に同一面となるように研磨されている。
【0015】
充填促進用のピン部材を、図7(a)の末端上面P1、図7(c)の末端下面P2、図7(e)の末端側面P3のうち何れに対向するように配置するかは、基本的には任意である。
【0016】
しかしながら、図7(a)に示すように、FPC用コネクタ200のハウジング201の上面201UPには多数のスリット202を形成する必要があり、これらのスリット202を形成するには、FPC用コネクタ200のハウジング201の上面201UPに対向する固定側型板16(図2を併せて参照)に多数のコアピンを設ける必要がある。従って、図7(a)の末端上面P1に対向する固定側型板16の内壁面には、もはや上記を目的としたピン部材を設けるスペースがない。
【0017】
同様に、図7(c)に示すように、FPC用コネクタ200のハウジング201の下面201LWに対向する可動側型板17(図2を併せて参照)にも多数のコアピンを設ける必要がある。従って、図7(c)の末端下面P2に対向する可動側型板17の内壁面には、もはや上記を目的としたピン部材を設けるスペースがない。
【0018】
以上の理由から、ガス抜きや充填検知のためのピン部材を設けるスペースは、消去法により、図7(e)の末端側面P3に対向する可動側型板17の内壁面にしか存在しないことになる。
【0019】
次に、図8〜図11を参照しながら、本願が解決しようとする課題を更に詳しく説明する。
【0020】
図8及び図9には、キャビティ8の内壁面のうち図7(e)の末端側面P3に対向する内壁面としての側壁面28にピン取り付け孔29(上記のガス抜き孔に相当。)を形成し、このピン取り付け孔29にピン部材30を挿入して取り付けた様子が示されている。
【0021】
さて、既に述べたように、ピン部材30のキャビティ8(図2を併せて参照)側の先端面31は、キャビティ8の側壁面28に対して可及的に同一面となるように研磨されている。しかしながら、理論上、ピン部材30のキャビティ8側の先端面31と、キャビティ8の側壁面28とを完全に同一面とすることは当然不可能であり、例えば図8に示すようにピン部材30の先端32がキャビティ8に突き出てしまっていたり、図9に示すようにキャビティ8の側壁面28に窪み部33ができてしまったりする。なお、図8及び図9では、説明の便宜上、ピン部材30の先端面31の、キャビティ8の側壁面28からのズレ量は相当誇張している。
【0022】
実際には、このズレ量は、せいぜい50ミクロン程度ではある。しかし、その程度のズレ量であっても、以下のような問題を招くことになる。
【0023】
即ち、図10には、図8に示す可動側型板17を用いて射出成形した射出成形品26を示している。図10に示すように、射出成形品26の外壁面34には、図8に示すピン部材30の先端32が嵌合する窪み部35が形成される。従って、可動側型板17から射出成形品26を離型させる際、射出成形品26がピン部材30の先端32に対して物理的に干渉し、離型そのものが困難となる。また、この物理的干渉に抗して可動側型板17から射出成形品26を強引に離型させると、窪み部35を基準として離型方向と反対側の面領域36は、ピン部材30の先端32と擦れ合うことでササクレ立つことになる。そして、このササクレは樹脂のカスを生じさせる原因となり、FPC用コネクタ200へFPCケーブルを接続する際の接点不良などを誘発することになる。
【0024】
一方、図11には、図9に示す可動側型板17を用いて射出成形した射出成形品26を示している。図11に示すように、射出成形品26の外壁面34には、図9に示す側壁面28の窪み部33に嵌合する突起37が形成される。従って、可動側型板17から射出成形品26を離型させる際、射出成形品26の突起37が可動側型板17に対して物理的に干渉し、離型そのものが困難となる。また、この物理的干渉に抗して可動側型板17から射出成形品26を強引に離型させると、射出成形品26の突起37は離型方向と反対の方向に強引に押し下げられて大変形する。そして、この大変形は樹脂のカスを生じさせる原因となり、FPC用コネクタ200へFPCケーブルを接続する際の接点不良などを誘発することになる。
【0025】
そこで、本願発明の目的は、固定側型板と可動側型板を有し、前記固定側型板と前記可動側型板との間にキャビティが形成され、このキャビティに溶融樹脂を充填することで射出成形品が射出成形される射出成形用金型において、前記射出成形品の円滑な離型を阻害するようなピン部材が存在していたとしても、問題なく、前記射出成形品を前記射出成形用金型から離型させる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本願発明の第1の観点によれば、固定側型板と可動側型板を有し、前記固定側型板と前記可動側型板との間にキャビティが形成され、このキャビティに溶融樹脂を充填することで射出成形品が射出成形される射出成形用金型は、以下のように構成されている。前記キャビティの内壁面のうち、前記射出成形品の離型方向に対して直交する内壁面以外の内壁面である側壁面には、ピン形状のピン部材を挿入して取り付けるためのピン取り付け孔が形成されている。前記ピン取り付け孔が形成されている前記側壁面のうち、前記ピン取り付け孔を基準として前記離型方向と反対側の面領域には、前記側壁面から隆起する隆起部が形成されている。
本願発明の第2の観点によれば、固定側型板と可動側型板を有し、前記固定側型板と前記可動側型板との間にキャビティが形成され、このキャビティに溶融樹脂を充填することで射出成形品が射出成形される射出成形用金型は、以下のように構成されている。前記キャビティの内壁面のうち、前記射出成形品の離型方向に対して直交する内壁面以外の内壁面である側壁面には、ピン形状のピン部材を挿入して取り付けるためのピン取り付け孔が形成されている。前記ピン取り付け孔が形成されている前記側壁面のうち、前記ピン取り付け孔を基準として前記離型方向側の面領域には、前記側壁面から窪んだ窪み部が形成されている。
好ましくは、前記ピン取り付け孔が形成されている前記側壁面は、前記離型方向に対して略平行である。
好ましくは、前記ピン取り付け孔が形成されている前記側壁面は、前記キャビティの前記内壁面のうち充填末端に相当する内壁面である。
好ましくは、前記ピン取り付け孔の中心軸は、前記ピン取り付け孔が形成されている前記側壁面に対して略直交している。
好ましくは、前記ピン部材の断面形状は、円形又は多角形である。
好ましくは、前記ピン取り付け孔に、前記ピン部材が取り付けられている。
好ましくは、前記射出成形品の射出成形は、上記の射出成形用金型を用いて行われる。
好ましくは、射出成形品は、上記の射出成形用金型を用いて射出成形される。
好ましくは、射出成形機は、上記の射出成形用金型と、前記射出成形用金型を型締め及び型開きする型締め手段と、前記射出成形用金型に溶融樹脂を供給する溶融樹脂供給手段と、を備えている。
【発明の効果】
【0027】
本願発明によれば、前記ピン取り付け孔内に挿入した前記ピン部材の前記キャビティ側の先端が前記側壁面から若干突出していたり、前記側壁面よりも若干奥まったところに位置していても、問題なく、前記射出成形品を前記射出成形用金型から離型させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1は、射出成形機の概略構成図である。
【図2】図2は、射出成形用金型の断面斜視図である。
【図3】図3は、射出成形品の斜視図である。
【図4】図4は、射出成形用金型の可動側型板の一部切り欠き斜視図である。
【図5】図5は、FPC用コネクタのハウジングの斜視図である。
【図6】図6は、FPC用コネクタの斜視図である。
【図7】図7(a)はFPC用コネクタのハウジングの平面図である。図7(b)はFPC用コネクタのハウジングの正面図である。図7(c)はFPC用コネクタのハウジングの底面図である。図7(d)はFPC用コネクタのハウジングの左側面図である。図7(e)はFPC用コネクタのハウジングの右側面図である。
【図8】図8は、比較例であって、課題を説明するための射出成形用金型の可動側型板の一部切り欠き断面斜視図である。
【図9】図9は、比較例であって、課題を説明するための射出成形用金型の可動側型板の一部切り欠き断面斜視図である。
【図10】図10は、比較例であって、課題を説明するための射出成形品の斜視図である。
【図11】図11は、比較例であって、課題を説明するための射出成形品の斜視図である。
【図12】図12は、射出成形用金型の可動側型板の一部切り欠き斜視図である(第1実施形態)。
【図13】図13は、図12のA部拡大図である(第1実施形態)。
【図14】図14は、隆起部の正面拡大図である(第1実施形態)。
【図15】図15は、図13のXV-XV線矢視断面図である(第1実施形態)。
【図16】図16は、射出成形品の斜視図である(第1実施形態)。
【図17】図17は、図16のB部拡大図である(第1実施形態)。
【図18】図18は、隆起部の正面拡大図である(第2実施形態)。
【図19】図19は、隆起部の正面拡大図である(第3実施形態)。
【図20】図20は、射出成形用金型の可動側型板の一部切り欠き斜視図である(第4実施形態)。
【図21】図21は、図20のC部拡大図である(第4実施形態)。
【図22】図22は、窪み部の正面拡大図である(第4実施形態)。
【図23】図23は、図21のXXIII-XXIII線矢視断面図である(第4実施形態)。
【図24】図24は、射出成形品の斜視図である(第4実施形態)。
【図25】図25は、図24のD部拡大図である(第4実施形態)。
【図26】図26は、窪み部の正面拡大図である(第5実施形態)。
【図27】図27は、窪み部の正面拡大図である(第6実施形態)。
【図28】図28は、特許文献1の図8に相当する図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
(第1実施形態)
以下、図12〜17を参照しつつ、本願発明の第1実施形態を説明する。ただし、図1〜4を参照して既に行った説明と重複する説明は適宜省略する。
【0030】
図12には、キャビティ8(図2を併せて参照)の内壁面として、第1側壁面28a、第2側壁面28b、第3側壁面28c、底面38が描かれている。第1側壁面28a、第2側壁面28b、第3側壁面28c、底面38は、何れもキャビティ8を区画する面である。
【0031】
底面38は、射出成形品26の可動側型板17(射出成形用金型5)からの離型方向に対して直交する面である。第1側壁面28a、第2側壁面28b、第3側壁面28cは、何れも、実際には射出成形品26の可動側型板17からの離型方向に対して若干の抜け勾配が設定されているが、射出成形品26の可動側型板17からの離型方向に対して略平行ということができる。第1側壁面28aには、ゲート25が接続している。第2側壁面28bは、第1側壁面28aと対向する面である。第2側壁面28bは、キャビティ8の内壁面のうち充填末端に相当する内壁面である。即ち、第2側壁面28bは、他のキャビティ8の内壁面と比較して最も第1側壁面28a(ゲート25)から離れたところに位置する内壁面である。第3側壁面28cは、第1側壁面28aと第2側壁面28bに対して略直交する面である。第3側壁面28cは、第1側壁面28aと第2側壁面28bに対して接続している。
【0032】
第2側壁面28bには、図12及び図13に示すように、ピン形状のピン部材30を挿入して取り付けるためのピン取り付け孔29が形成されている。図13に示すように、ピン取り付け孔29は、若干底面38から離れた位置に形成されている。ピン取り付け孔29の中心軸29Cは、第2側壁面28bに対して略直交している。ピン取り付け孔29には、ピン部材30が挿入されて取り付けられている。本実施形態においてピン部材30の断面形状は円形である。
【0033】
そして、図13及び図14に示すように、第2側壁面28bのうち、ピン取り付け孔29を基準として離型方向と反対側の面領域39には、第2側壁面28bからキャビティ8側に隆起する隆起部40が形成されている。隆起部40は、例えば100ミクロン程度の厚みを有する直方体形状であって、図14のような第2側壁面28bの正面視でピン取り付け孔29と重複する部分には切り欠き41が形成されている。隆起部40の離型方向における先端面42は、ピン取り付け孔29の中心軸29Cと同じ高さに位置している。即ち、隆起部40の先端面42の離型方向における位置と、ピン取り付け孔29の中心軸29Cの離型方向における位置は一致している。また、図14のような第2側壁面28bの正面視で隆起部40は面領域39を包含している。詳しくは、図14のような第2側壁面28bの正面視で離型方向と直交する方向で特定される隆起部40の幅寸法40Wは、図14のような第2側壁面28bの正面視で離型方向と直交する方向で特定されるピン部材30の幅寸法30W以上となるように設定されている。従って、図15に示すように、ピン部材30の先端面31と第2側壁面28bとが同一面となっておらず、ピン部材30の先端部43が第2側壁面28bからキャビティ8側に例えば50ミクロン程度突出していても、図16及び図17に示すように、射出成形品26には所謂アンダーカット部が形成されることはない。なお、図15に示す例では、第2側壁面28bを基準とした隆起部40の隆起量aは、第2側壁面28bを基準としたピン部材30の先端部43の突出量bよりも大きい値に設定される。
【0034】
本実施形態の射出成形用金型5を用いて射出成形された射出成形品26の外壁面34には、図16及び図17に示すように、隆起部40が嵌合していた略直方体状の窪み部44が形成される。また、図15に示すようにピン部材30の先端部43が第2側壁面28bからキャビティ8側に若干突出していた場合、射出成形品26の外壁面34には、図16及び図17に示すように、ピン部材30の先端部43が嵌合していた略円柱状の窪み部45が形成される。図16及び図17の例では、窪み部44と窪み部45は連なって形成されている。このとき、隆起部40が嵌合する窪み部44の窪み量が、ピン部材30の先端部43が嵌合する窪み部45の窪み量よりも大きくなるように、図15に示す隆起部40の厚みは十分大きな値に設定される。なお、ここで言う「窪み量」とは、第2側壁面28bを基準面として特定するものである。
【0035】
以上に本願発明の第1実施形態を説明したが、第1実施形態は、要するに、以下の特長を有している。
【0036】
即ち、固定側型板16と可動側型板17を有し、固定側型板16と可動側型板17との間にキャビティ8が形成され、このキャビティ8に溶融樹脂を充填することで射出成形品26が射出成形される射出成形用金型5は、以下のように構成されている。キャビティ8の内壁面のうち、射出成形品26の離型方向に対して直交する内壁面以外の内壁面である第2側壁面28bには、ピン形状のピン部材30を挿入して取り付けるためのピン取り付け孔29が形成されている。第2側壁面28bのうち、ピン取り付け孔29を基準として離型方向と反対側の面領域39には、第2側壁面28bから隆起する隆起部40が形成されている。以上の構成によれば、ピン取り付け孔29内に挿入したピン部材30のキャビティ8側の先端部43が第2側壁面28bから若干突出していても、問題なく、射出成形品26を射出成形用金型5(可動側型板17)から離型させることができる。
【0037】
なお、溶融樹脂がキャビティ8の充填末端に至るまで充填されたことを検知するために、第2側壁面28bに形成したピン取り付け孔29は、センサ取り付け孔として利用する場合がある。ここで言うセンサとしては、型内圧センサや樹脂温度センサである。型内圧センサはセンサ本体とピン部材から構成されており、型内圧センサを利用する場合は、ピン部材をセンサ取り付け孔に予め挿入し、ピン部材のキャビティ8側の先端面は、キャビティ8の充填末端の内壁面に対して可及的に同一面となるように研磨しておく。この構成で、溶融樹脂がキャビティ8の充填末端に到るまで充填されると、溶融樹脂の充填圧力がピン部材の先端面に作用し、このピン部材を介してセンサ本体が溶融樹脂の充填圧力を検知する。センサ本体が所定値以上の充填圧力を検知したら、溶融樹脂が正常にキャビティ8に充填されたと判定する。一方で、センサ本体が所定値以上の充填圧力を検知しなかったら、溶融樹脂のキャビティ8への充填が異常であったと判定する。同様に、樹脂温度センサはセンサ本体とピン部材から構成されており、樹脂温度センサを利用する場合は、ピン部材をセンサ取り付け孔に予め挿入し、ピン部材のキャビティ8側の先端面は、キャビティ8の充填末端の内壁面に対して可及的に同一面となるように研磨しておく。この構成で、溶融樹脂がキャビティ8の充填末端に到るまで充填されると、高温の溶融樹脂がピン部材の先端面を加熱し、このピン部材の先端面近傍に内蔵されている熱電対に熱起電力が発生することになる。センサ本体が熱電対の所定値以上の電圧を検知したら、溶融樹脂が正常にキャビティ8に充填されたと判定する。一方で、センサ本体が熱電対の所定値以上の電圧を検知しなかったら、溶融樹脂のキャビティ8への充填が異常であったと判定する。このように第2側壁面28bに形成したピン取り付け孔29をガス抜き孔として利用する場合のみならずセンサ取り付け孔として利用する場合であっても、上記の隆起部40を設けた意義が同等にある。
【0038】
なお、本実施形態では、第2側壁面28bにピン取り付け孔29を形成することとしたが、これに代えて、第3側壁面28cにピン取り付け孔29を形成することとしてもよい。
【0039】
また、本実施形態では、ピン部材30が型内圧センサの一部である場合は、ピン部材30の先端部43のキャビティ8内における位置によって型内圧が変化する問題がある。特許文献1に開示のスライドコアにピン部材30を設けると、ピン部材30の先端部43のキャビティ8内における位置は変化し易い。この点、本実施形態においてピン部材30が所謂スライドコア上に搭載されたものではなく可動側型板17に固定することができるので、型内圧の測定精度の向上に寄与する。
【0040】
(第2実施形態)
次に、図18を参照しつつ、本願発明の第2実施形態を説明する。ここでは、本実施形態が上記第1実施形態と異なる点を中心に説明し、重複する説明は適宜省略する。また、上記第1実施形態の各構成要素に対応する構成要素には原則として同一の符号を付すこととする。
【0041】
上記第1実施形態においてピン部材30の断面形状は円形とした。しかし、これに代えて、本実施形態においてピン部材30の断面形状は多角形であり、具体的には正六角形となっている。これに呼応するように、本実施形態においてピン取り付け孔29の断面形状は多角形であり、詳しくは正六角形である。
【0042】
(第3実施形態)
次に、図19を参照しつつ、本願発明の第3実施形態を説明する。ここでは、本実施形態が上記第1実施形態と異なる点を中心に説明し、重複する説明は適宜省略する。また、上記第1実施形態の各構成要素に対応する構成要素には原則として同一の符号を付すこととする。
【0043】
上記第1実施形態においてピン部材30の断面形状は円形とした。しかし、これに代えて、本実施形態においてピン部材30の断面形状は多角形であり、具体的には長方形となっている。これに呼応するように、本実施形態においてピン取り付け孔29の断面形状は多角形であり、詳しくは長方形である。
【0044】
(第4実施形態)
次に、図20〜25を参照しつつ、本願発明の第4実施形態を説明する。ここでは、本実施形態が上記第1実施形態と異なる点を中心に説明し、重複する説明は適宜省略する。また、上記第1実施形態の各構成要素に対応する構成要素には原則として同一の符号を付すこととする。
【0045】
図20〜22に示すように、第2側壁面28bのうち、ピン取り付け孔29を基準として離型方向側の面領域50には、第2側壁面28bから窪んだ窪み部51が形成されている。窪み部51は、例えば100ミクロン程度の深さを有する直方体形状である。窪み部51の離型方向と反対の方向における先端面52は、ピン取り付け孔29の中心軸29Cと同じ高さに位置している。即ち、窪み部51の先端面52の離型方向における位置と、ピン取り付け孔29の中心軸29Cの離型方向における位置は一致している。また、図22のような第2側壁面28bの正面視で窪み部51は面領域50を包含している。詳しくは、図22のような第2側壁面28bの正面視で離型方向と直交する方向で特定される窪み部51の幅寸法51Wは、図22のような第2側壁面28bの正面視で離型方向と直交する方向で特定されるピン部材30の幅寸法30W以上となるように設定されている。従って、図23に示すように、ピン部材30の先端面31と第2側壁面28bとが同一面となっておらず、ピン部材30の先端部43が第2側壁面28bから例えば50ミクロン程度窪んだところに位置していても、図24及び図25に示すように、射出成形品26には所謂アンダーカット部が形成されることはない。なお、図23に示す例では、第2側壁面28bを基準とした窪み部51の窪み量cは、第2側壁面28bを基準としたピン部材30の先端部43の窪み量dよりも大きい値に設定される。
【0046】
本実施形態の射出成形用金型5を用いて射出成形された射出成形品26の外壁面34には、図24及び図25に示すように、窪み部51に嵌合していた略直方体状の隆起部53が形成される。また、図23に示すようにピン部材30の先端部43が第2側壁面28bから窪んだところに位置していた場合、射出成形品26の外壁面34には、図24及び図25に示すように、ピン取り付け孔29に嵌合していた略円柱状の隆起部54が形成される。図24及び図25の例では、隆起部53と隆起部54は連なって形成されている。このとき、窪み部51に嵌合していた隆起部53の隆起量が、ピン取り付け孔29に嵌合していた隆起部54の隆起量よりも大きくなるように、図23に示す窪み部51の窪み量は十分大きな値に設定される。なお、ここで言う「隆起量」とは、第2側壁面28bを基準面として特定するものである。
【0047】
以上に本願発明の第4実施形態を説明したが、第4実施形態は、要するに、以下の特長を有している。
【0048】
即ち、第2側壁面28bのうちピン取り付け孔29を基準として離型方向側の面領域50には、第2側壁面28bから窪んだ窪み部51が形成されている。以上の構成によれば、ピン取り付け孔29内に挿入したピン部材30のキャビティ8側の先端部43が第2側壁面28bよりも若干奥まったところに位置していても、問題なく、射出成形品26を射出成形用金型5から離型させることができる。
【0049】
(第5実施形態)
次に、図26を参照しつつ、本願発明の第5実施形態を説明する。ここでは、本実施形態が上記第4実施形態と異なる点を中心に説明し、重複する説明は適宜省略する。また、上記第4実施形態の各構成要素に対応する構成要素には原則として同一の符号を付すこととする。
【0050】
上記第4実施形態においてピン部材30の断面形状は円形とした。しかし、これに代えて、本実施形態においてピン部材30の断面形状は多角形であり、具体的には正六角形となっている。これに呼応するように、本実施形態においてピン取り付け孔29の断面形状は多角形であり、詳しくは正六角形である。
【0051】
(第6実施形態)
次に、図27を参照しつつ、本願発明の第6実施形態を説明する。ここでは、本実施形態が上記第4実施形態と異なる点を中心に説明し、重複する説明は適宜省略する。また、上記第4実施形態の各構成要素に対応する構成要素には原則として同一の符号を付すこととする。
【0052】
上記第4実施形態においてピン部材30の断面形状は円形とした。しかし、これに代えて、本実施形態においてピン部材30の断面形状は多角形であり、具体的には長方形となっている。これに呼応するように、本実施形態においてピン取り付け孔29の断面形状は多角形であり、詳しくは長方形である。
【0053】
以上に、本願発明の好適な複数の実施形態を説明したが、上記各実施形態は、以下のように変更することができる。
【0054】
第2側壁面28bには、隆起部40と窪み部51を両方同時に設けてもよい。この場合、ピン部材30の先端部43が第2側壁面28bからキャビティ8側に若干突出していても、第2側壁面28bより窪んだところに位置していても、何れの場合でも問題なく射出成形品26を可動側型板17から離型することができるようになる。従って、ピン部材30の先端部43が第2側壁面28bからキャビティ8に突出するか、第2側壁面28bよりも窪んだところに位置するか、キャビティ8の設計時に不明である場合は、とりあえず隆起部40と窪み部51を両方同時に設けておくことが都合よい。
【符号の説明】
【0055】
1 射出成形機
2 機台
3 射出ユニット
4 型締めユニット(型締め手段)
5 射出成形用金型(溶融樹脂供給手段)
6 ホッパー
7 加熱シリンダ
8 キャビティ
9 固定盤
10 可動盤
11 型締め駆動装置
12 エジェクトピン駆動装置
13 固定側取付板
14 可動側取付板
15 エジェクタプレート
16 固定側型板
17 可動側型板
18 受け板
19 スペーサブロック
20 上エジェクタプレート
21 下エジェクトプレート
22 エジェクタピン
23 スプルー
24 ランナー
25 ゲート
26 射出成形品
27 凹部
28 側壁面
28a 第1側壁面
28b 第2側壁面
28c 第3側壁面
29 ピン取り付け孔
29C 中心軸
30 ピン部材
30W 幅寸法
31 先端面
32 先端
33 窪み
34 外壁面
35 窪み
36 面領域
37 突起
38 底面
39 面領域
40 隆起部
40a 上端部
40W 幅寸法
41 切り欠き
42 先端面
43 先端部
44 窪み部
45 窪み部
50 面領域
51 窪み部
51W 幅寸法
52 先端面
53 隆起部
54 隆起部
200 FPC用コネクタ
201 ハウジング
201UP 上面
201LW 下面
202 スリット
P1 末端上面
P2 末端下面
P3 末端側面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定側型板と可動側型板を有し、前記固定側型板と前記可動側型板との間にキャビティが形成され、このキャビティに溶融樹脂を充填することで射出成形品が射出成形される射出成形用金型であって、
前記キャビティの内壁面のうち、前記射出成形品の離型方向に対して直交する内壁面以外の内壁面である側壁面には、ピン形状のピン部材を挿入して取り付けるためのピン取り付け孔が形成されており、
前記ピン取り付け孔が形成されている前記側壁面のうち、前記ピン取り付け孔を基準として前記離型方向と反対側の面領域には、前記側壁面から隆起する隆起部が形成されている、
射出成形用金型。
【請求項2】
固定側型板と可動側型板を有し、前記固定側型板と前記可動側型板との間にキャビティが形成され、このキャビティに溶融樹脂を充填することで射出成形品が射出成形される射出成形用金型であって、
前記キャビティの内壁面のうち、前記射出成形品の離型方向に対して直交する内壁面以外の内壁面である側壁面には、ピン形状のピン部材を挿入して取り付けるためのピン取り付け孔が形成されており、
前記ピン取り付け孔が形成されている前記側壁面のうち、前記ピン取り付け孔を基準として前記離型方向側の面領域には、前記側壁面から窪んだ窪み部が形成されている、
射出成形用金型。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の射出成形用金型であって、
前記ピン取り付け孔が形成されている前記側壁面は、前記離型方向に対して略平行である、
射出成形用金型。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載の射出成形用金型であって、
前記ピン取り付け孔が形成されている前記側壁面は、前記キャビティの前記内壁面のうち充填末端に相当する内壁面である、
射出成形用金型。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載の射出成形用金型であって、
前記ピン取り付け孔の中心軸は、前記ピン取り付け孔が形成されている前記側壁面に対して略直交している、
射出成形用金型。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかに記載の射出成形用金型であって、
前記ピン部材の断面形状は、円形又は多角形である、
射出成形用金型。
【請求項7】
請求項1〜6の何れかに記載の射出成形用金型であって、
前記ピン取り付け孔に、前記ピン部材が取り付けられている、
射出成形用金型。
【請求項8】
請求項7に記載の射出成形用金型を用いて前記射出成形品を射出成形する、
射出成形方法。
【請求項9】
請求項7に記載の射出成形用金型を用いて射出成形された、
射出成形品。
【請求項10】
請求項7に記載の射出成形用金型と、
前記射出成形用金型を型締め及び型開きする型締め手段と、
前記射出成形用金型に溶融樹脂を供給する溶融樹脂供給手段と、
を備えた射出成形機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【公開番号】特開2012−143882(P2012−143882A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−1629(P2011−1629)
【出願日】平成23年1月7日(2011.1.7)
【出願人】(000231073)日本航空電子工業株式会社 (1,081)
【Fターム(参考)】