説明

射出成形部品

【課題】 従来では比較的容易とされていた筒状の内径側に凹凸を形成したアンダーカット形状であって、無理抜きにより離型していたような場合であっても、非石油資源を含有する材料で代替え試験を行うと、金型内に成形品が残って離型出来なかったり、凹凸形状がめくれ又は白化して形状が安定しないばかりか繰り返し成形すると金型そのものに損傷を加えてしまうという問題があった。
【解決手段】 互いを凹部と凸部の嵌合によって連結する射出成形部品であって、その射出成型用部品をポリ乳酸と熱可塑性樹脂とを混合させた成形材料を用いて成形し、その成形材料に滑剤を総重量に対して0.5wt%以上〜5.0wt%以下練り込んだ射出成形部品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、互いを凹部と凸部の嵌合によって連結する射出成形部品に関するものであり、その射出成形部品の1例としては、筆記具の先金や軸筒、頭冠、キャップ及びノックなど筒状の成形部品が挙げられる。
【背景技術】
【0002】
従来、射出成形に用いる成形樹脂は、それぞれの機械的特性、成形加工性、外観等によって、電気・電子部品や自動車、雑貨、各種用途など広範な分野で使用されている。しかしながら、それらの成形樹脂の多くは、石油資源を原料としているため、製造時の大気へのCO排出量や廃棄時の環境負荷が近年問題視されており、環境低負荷低減材料として非石油資源を含有する材料が各社材料メーカーから開発されている。
そこで、筆記具においても、先金や軸筒、頭冠、キャップ及びノックなどの射出成形部品を、非石油資源を含有する材料によって形成することが求められており、近年においては、比較的成形性が容易で一般的な機械的特性であれば充分に満足できる性能が得られるようになってきた。
ところで、従来では比較的容易とされていた筒状の内径側に凹凸を形成したアンダーカット形状であって、複雑な金型構造を用いることなく、樹脂の物性(引張破断伸度100%以上)が適切なものを選択することによって金型から成形部品を無理抜きにより離型していた。しかしながら、その成形手段では、非石油資源を含有する材料で代替え試験を行うと、金型内に成形品が残って離型出来なかったり、凹凸形状がめくれ又は白化して形状が安定しないばかりか繰り返し成形すると金型そのものに損傷を加えてしまうという問題が発生した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3689517号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、非石油資源を含有する材料を使用する場合において、複雑な金型構造を用いることなく、筒状の内径側に凹凸を形成したアンダーカット形状を、金型から無理抜きにより離型するためには、樹脂表面の潤滑性を向上させる必要があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、互いを凹部と凸部の嵌合によって連結する射出成形部品であって、その射出成型用部品をポリ乳酸と熱可塑性樹脂とを混合させた成形材料を用いて成形し、その成形材料に滑剤を総重量に対して0.5wt%以上〜5.0wt%以下練り込んだことを要旨とする。
【発明の効果】
【0006】
互いを凹部と凸部の嵌合によって連結する射出成形部品であって、その射出成型用部品をポリ乳酸と熱可塑性樹脂とを混合させた成形材料を用いて成形し、その成形材料に滑剤を総重量に対して0.5wt%以上〜5.0wt%以下練り込んだことを要旨としているので、成形部品の良好な離型性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】ボールペンの断面図。
【図2】ネジの無理抜き(先金)。
【図3】図2の部分詳細図。
【図4】周状凹凸リブの無理抜き(軸筒)。
【図5】図4の部分詳細図
【図6】図4の部分詳細図。
【図7】部分凹凸リブの無理抜き(ノック)。
【図8】図7の部分詳細図。
【図9】図7のノックの縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1は、本発明を適用させた筆記具の1例である。図中上方を後方と言い、下方を前方と言う。軸筒1の内部には、シャープペンシルの芯繰り出し機構や、ボールペンのリフィルなどが収納・配置されている。本例における軸筒1の内部には、ボールペンのリフィル2が内蔵されており、また、軸筒1は、そのリフィル2の出没動作を行う回転子3や摺動子4、それら回転子3や摺動子4を軸線方向に対し案内するカム溝5、ノック6、並びに、それら回転子3やリフィル2などを後方に向けて付勢するコイルスプリングなどの弾発部材7を備えている。つまり、出没式のボールペンである。前記リフィル2が弾発部材7によって後方に付勢されることにより、そのリフィル2の収納状態が維持される。
ここで、前記摺動子4の後方に取り付けられているノック6を押圧すると、摺動子4が回転子3を押圧してカム溝5の前方に回転子3が係合し、リフィル2のペン先2aが先部材8から突出する。その先部材8は、軸筒1に螺合等によって取り付けられている。
【0009】
前記先部材8の成形にはポリ乳酸10〜50重量部、アクリル樹脂50〜90重量部、滑材0.5〜5重量部を混合してなる熱可塑性プラスティックを用いた。ポリ乳酸とは、乳酸がエステル結合によって重合し、長くつながった高分子でありポリエステルに分類される。前記乳酸は、トウモロコシ、ジャガイモ、ブドウ糖などを発酵させて得るものである。その発酵法としては例えばトウモロコシやジャガイモの澱粉を原料とした場合、まず麦芽で澱粉を糖化し、これにその半量のCaCO2 を加え、次に麦芽汁に培養した純粋の乳酸菌を加えて発酵させる。更に、弱アルカリ性を呈するまで石灰乳を加えて煮沸し、冷却後少量の熱湯から再結晶し、約50%の硫酸を加えて分解して石こうをろ別し、最後にろ液を減圧下で蒸発濃縮することで乳酸を得ることができる。
また、熱可塑性樹脂の1例としては、アクリル樹脂やポリカーボネート樹脂、アクリロニトリルスチレン共重合体樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリメタクリル酸メチル、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体樹脂、エポキシ樹脂、ポリスチレン樹脂などが挙げられる。
さらに、滑剤の1例としては、ステアリン酸、ラウリン酸、オキシ脂肪酸、脂肪酸エステル、パラフィン、低分子量ポリオレフィン、低分子量ポリエチレン、ステアリン酸アミド、パルミチン酸アミド、メチレンビスステアロアミド、ニチレンビスステアロアミド、オレイン酸アミド、エシル酸アミド、セチルアルコール、ステアリルアルコール、ステアリン酸鉛、シリカ、タルク、炭酸カルシウムなどが挙げられる。
特に、脂肪酸系滑剤であるステアリン酸やラウリン酸、オキシ脂肪酸が練り込みによる樹脂の外観、透明性の維持からも適しており、好ましい効果を発揮する。尚、無機物系滑剤であるシリカやタルク、炭酸カルシウムは、外観を損なはさせないために平均粒径を限定する必要が出てきてしまう危険性があるが、見えない部分に使用される部品にあっては、これらを使用しても何ら差支えがない。
【実施例1】
【0010】
図2、図3において第1例を示す。前記先部材8の内径には、凹凸状の雌ネジ部9が形成されており、一方、軸筒1の外径には、その雌ネジ部9に螺合する凹凸状の雄ネジ部10が形成されている。前記先部材8の雌ネジ部9は、射出成形にて形成されており、電動モータを取り付ける等の複雑な金型構造によって成形されてもよいが、本実施例では、成形時にアンダーカットの形状を乗り越えて離型する、所謂、無理抜きによって形成している。
【0011】
一般的に上記のような無理抜き成形を行う場合、樹脂の物性(引張破断伸度)が適切なものを選択することによって金型から成形部品を離型することが可能であり、その場合の引張破断伸度は100%以上であるものが好ましい。例えば、ポリカーボネートやポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ゴム入りアクリルなどが上げられる。また、その場合、乗り越えられるアンダーカットの形状の高さとして、成形部品内径寸法の0.5%以上〜2.0%以下とするのが好ましい。本案に用いるポリ乳酸と熱可塑性樹脂とを混合させた成形材料の引張破断伸度は20%以下と小さく、そのままの物性では成形時にアンダーカットの形状を乗り越えて無理抜きすることが困難なため、前記先部材8の成形材料には滑剤を総重量に対して0.5wt%練り込んで成形を行った。これと同様に、滑剤を総重量に対して1.0wt%練り込んで成形を行ったが、同様の効果が確認された。
なお、滑剤を総重量に対して0.5wt%未満では成形性の向上を得ることができなかった。本実施例に示すような複数の凹凸状のネジ形状の場合、広い範囲での無理抜き成形を行うため、滑剤による安定した樹脂表面の潤滑性が求められる。そのため、滑剤の添加量を総重量に対して0.2wt%、並びに、0.4wt%にした試験では充分な効果が得られず、離型できたりできなかったりと不安定な成形となってしまった。
また、本実施例では先部材8の内径がφ6.5mmで、アンダーカットの高さは内径の1.6%すなわち0.1mmに設定している。なお、螺合が正常に行えて空回りしない凹凸高さは最低でも0.05mmは必要である。
【実施例2】
【0012】
次に、図4乃至図6において第2例を示す。図4は、本発明を適用させた筆記具の2例である。図中上方を後方と言い、下方を前方と言う。軸筒1の内部には、ボールペンのリフィル2が内蔵されており、また、軸筒1は、そのリフィル2の出没動作を行う回転子3や摺動子4、それら回転子3や摺動子4を軸線方向に対し案内するカム溝5を設けたカム筒11、カム筒11を軸筒1内部に固定するカム固定リング12、ノック6、並びに、それら回転子3やリフィル2などを後方に向けて付勢するコイルスプリングなどの弾発部材7を備えている。軸筒1とカム固定リング12の固定は、軸筒1内径部の周状凹凸リブ13とカム固定リング12の嵌合段部14で行っている。本例においては前記周状凹凸リブ13を、成形時にアンダーカットの形状を乗り越えて離型する、所謂、無理抜きによって形成している。
本実施例では軸筒1の内径がφ8.0mmで、アンダーカットの高さは内径の2.0%すなわち0.16mmに設定している。軸筒1にカム固定リング12を確実に固定するためである。ちなみに、アンダーカットの高さを2.5%すなわち0.2mmにした試験では、離型時にめくれが発生してしまった。なお、成形材料には滑剤を総重量に対して3.0wt%練り込んで成形を行った。
【実施例3】
【0013】
次に、図7乃至図9において第3例を示す。図7は、本発明を適用させた筆記具の3例である。図中上方を後方と言い、下方を前方と言う。軸筒1の内部には、シャープペンシルの芯繰り出し機構15が内蔵されており、また、シャープペンシルの芯繰り出し機構15には、芯タンク16、消しゴム受け17、消しゴム18、ノック19を備えている。消しゴム受け17とノック19は着脱自在に嵌合固定しており、消しゴム受け17外径部の周状突起20とノック19の内径部数カ所の部分凹凸リブ21で嵌合している。本例においては前記部分凹凸リブ21を、成形時にアンダーカットの形状を乗り越えて離型する、所謂、無理抜きによって形成している。
【0014】
本実施例ではノック19の内径がφ5.0mmで、アンダーカットの高さは内径の1.0%すなわち0.05mmに設定している。消しゴム受け17とノック19を着脱自在に嵌合させるためである。なお、成形材料には滑剤を総重量に対して5.0wt%練り込んで成形を行った。それは、繰り返し乗り越え嵌合をさせる部品であるためであり、滑剤の量を多くすることで嵌合耐久性を向上させることができた。なお、滑剤を総重量に対して5.1wt%、並びに、5.5wt%練り込んだ試験においては、成形品に黄味が発生してしまい、特に、透明部品では外観の見栄えが悪くなってしまうと言う問題が発生してしまう。
以上説明したように、内径側に凹凸形状を形成した筒状の成形部品であっても、非石油資源を含有する材料を用いて射出成形する場合、複雑な金型構造を用いることなく、樹脂表面における潤滑性を向上させて成形部品を金型から無理抜きにより離型できるようになる。
【符号の説明】
【0015】
1 軸筒
2 リフィル
3 回転子
4 摺動子
5 カム溝
6 ノック
7 弾発部材
8 先部材
9 雌ネジ部
10 雄ネジ部
11 カム筒
12 カム固定リング
13 周状凹凸リブ
14 嵌合段部
15 芯繰り出し機構
16 芯タンク
17 消しゴム受け
18 消しゴム
19 ノック
20 周状突起
21 部分凹凸リブ
t アンダーカット高さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いを凹部と凸部の嵌合によって連結する射出成形部品であって、その射出成型用部品をポリ乳酸と熱可塑性樹脂とを混合させた成形材料を用いて成形し、その成形材料に滑剤を総重量に対して0.5wt%以上〜5.0wt%以下練り込んだことを特徴とする射出成形部品。
【請求項2】
前記射出成形部品の内径側の凹凸形状の高さを内径寸法の0.5%以上〜2.0%以下としたことを特徴とする射出成形部品。
【請求項3】
前記射出成形部品の凹部と凸部の形状を螺旋形状にしたことを特徴とする請求項1、或いは、請求項2に記載の射出成形部品。
【請求項4】
前記射出成形部品の凹部と凸部を円周上に形成したことを特徴とする請求項1〜請求項3の何れかに記載の射出成形部品。
【請求項5】
前記射出成形部品の凹部と凸部を部分的に形成したことを特徴とする請求項1〜請求項4の何れかに記載の射出成形部品。
【請求項6】
前記滑剤を脂肪酸系の滑剤としたことを特徴とする請求項1〜請求項5の何れかに記載の射出成形部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−173262(P2010−173262A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−20731(P2009−20731)
【出願日】平成21年1月30日(2009.1.30)
【出願人】(000005511)ぺんてる株式会社 (899)
【Fターム(参考)】