説明

導電性インキ

【課題】耐熱性及び耐収縮性に優れた寸法安定性の高い導電性薄膜を形成することが可能な導電性インキを提供すること。
【解決手段】本発明の導電性インキは、金属微粒子、無機バインダ及び溶剤を含有し、該無機バインダがTi又はAlを含むカップリング剤又はキレートからなることを特徴とする。インキ中には、金属微粒子100重量部に対して無機バインダが1〜50重量部含まれていることが好ましい。この導電性インキを用い、アディティブ法によって基板上に印刷パターンを形成し、次いで該印刷パターンを100〜950℃で焼成することで導電性薄膜が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属微粒子を含む導電性インキに関する。
【背景技術】
【0002】
各種基板上に導電性の回路パターンを形成する方法として、フォトリソグラフィーやエッチングを利用する方法、スクリーン印刷法が知られている(特許文献1及び2参照)。特に、金属粒子を導電性ペースト又は導電性インクに加工し、スクリーン印刷法の技術を利用して回路パターンの形成を直接行う方法は、銅張積層板の銅箔をエッチング加工して回路パターンを形成する方法に比較して、工程数が少なく、生産コストを削減できる技術として広く普及している。
【0003】
しかしスクリーン印刷法では微細な回路パターンの形成が困難である。そこで近年では、微細な回路パターンを直接形成する方法として、導電性インクをインクジェット印刷法で形成する方法が提案されている(特許文献3参照)。ところがインクジェット印刷法によって形成された印刷パターンは、各種材料の基板に対する密着性が十分とは言えない。この理由は、印刷パターンの密着性が、インクに含まれている有機樹脂類に依存しているからである。
【0004】
印刷パターンの密着性を向上させることを目的として、Mnの中間層を形成することが提案されている(非特許文献1参照)。しかしMn中間層を形成するための工程が必要となることから経済的とは言えない。
【0005】
これとは別に、導電性インク中の金属粉の分散性を高めることを目的として、硫黄化合物であるチオールやチオ尿素を分散剤として添加することが提案されている(特許文献4及び5参照)。しかし硫黄分が金属と反応して金属硫化物を形成してしまうと、これが不導体であることに起因して、回路の電気抵抗が高くなってしまう。また硫黄分はマイグレーションを起こしやすいので、高信頼性が要求される電子材料の用途には不向きである。
【0006】
導電性を確保するためには、金属粉の表面に存在する分散剤や溶媒を焼成によって取り除き、粒子の表面どうしを接触させる必要がある(非特許文献2参照)。しかし、高温下で保護剤を取り除かれた微粒子表面の活性は極めて高く、それに起因して焼成が過度に進行して粒子どうしが完全に融着してしまう。この事に起因して寸法安定性が問題となる。そこで、有機溶剤に金属微粒子が分散された分散液及びシランカップリング剤を含むペーストをガラス基板に塗布し、250〜300℃の低温で焼成を行うことが提案されている(特許文献6参照)。しかしこの方法では、メルカプト基を有するシランカップリング剤を使用しているので、メルカプト基に由来する硫黄分が金属と反応して金属硫化物を形成し不導体化する。その結果、回路の電気抵抗が高くなる。また、SiとAgの反応性に起因して高温では電極形状を維持できず、耐熱耐収縮性に問題がある。更に、焼成によってシランカップリング剤からSiの酸化物が生じるが、その酸化物はガラス転移点が低いので、焼成時の熱によって溶融しやすく、それに起因して金属微粒子どうしの融着を効果的に防止することが困難である。その上この方法では、フォトリソグラフィーを利用したサブトラクティブ法によって導電性薄膜を形成している。それに起因して工程数が非常に多くなり、また材料の使用量も多くなり、経済的とは言えない。更に環境に対する負荷も大きい。
【0007】
【特許文献1】特開平9−246688号公報
【特許文献2】特開平8−18190号公報
【特許文献3】特開2002−324966号公報
【特許文献4】特開2005−60816号公報
【特許文献5】特開2004−311265号公報
【特許文献6】特開2004−179125号公報
【非特許文献1】小田正明、「マスクレス微細配線形成技術の進展」、長野実装フォーラム2005予稿集、2005年6月、p9−30
【非特許文献2】小田正明、「金属ナノ粒子インクとペーストを用いた既存印刷技術による成膜」、工業材料、2005年5月、第53巻、第5号、p54−57
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って本発明の目的は、前述した従来技術が有する欠点を解消し得る導電性インキを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、金属微粒子、無機バインダ及び溶剤を含有し、該無機バインダがTi又はAlを含むカップリング剤又はキレートからなることを特徴とする導電性インキを提供するものである。
【0010】
また本発明は、前記の導電性インキを用い、アディティブ法によって基板上に印刷パターンを形成し、次いで該印刷パターンを100〜950℃で焼成することを特徴とする導電性薄膜の製造方法を提供するものである。
【0011】
更に本発明は、前記の導電性インキの焼成によって形成された導電性薄膜であって、該薄膜においては金属微粒子が略球形の形状を維持しており且つ該微粒子どうしが電気的接触を保っている導電性薄膜を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、焼成後の金属微粒子間の融着が抑制されるので、耐熱性及び耐収縮性に優れた寸法安定性の高い導電性薄膜を形成することができる。また本発明によれば、各種材料からなる基板に対する密着性の高い導電性薄膜を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の導電性インキには、金属微粒子、無機バインダ及び溶剤が含まれている。この導電性インキを用いて、基板上の所定のパターンで塗膜を形成し、該塗膜を焼成することで該パターンに対応するパターンを有する導電性薄膜を形成することができる。この導電性薄膜は、耐熱性及び耐収縮性に優れたものである。また基板との密着性に優れたものでもある。このような優れた特徴を有する導電性薄膜の形成は、前述の各成分を含有する本発明の導電性インキによって達成される。
【0014】
特に本発明の導電性インキにおいては、Ti又はAlを含む無機バインダを用いることで、導電性薄膜の各種特性が向上する。ここで言う無機バインダとは、Ti又はAlを含み、焼成によって金属微粒子の表面にこれらの金属の酸化物等の無機化合物の形成が可能な化合物を意味する。従って、本発明に用いられる無機バインダは、その焼成前の状態においては炭素原子を含む有機の基を有していてもよい。無機バインダの焼成によって金属微粒子の表面に形成されたTiやAlの酸化物等の無機化合物は、金属微粒子どうしの過度の融着を抑制する働きを有する。焼成前の状態の無機バインダは、金属微粒子の表面と基板の表面とを強固に結合し得る反応基を有していることが好ましい。
【0015】
本発明の導電性インキにおいては、無機バインダの配合量が、焼成によって得られる導電性薄膜の各種特性に影響を及ぼす。前述の通り、無機バインダの働きは、金属微粒子と基板との強固な結合の形成、及び金属微粒子どうしの過度の融着の抑制にあることから、無機バインダの配合量は金属微粒子の配合量との関係で決定することが望ましい。この観点から、本発明の導電性インキにおける無機バインダの配合量は、金属微粒子100重量部に対して1〜50重量部、特に3〜30重量部、とりわけ5〜20重量部であることが好ましい。金属微粒子の配合量に対して無機バインダの配合量が少なすぎると、金属微粒子どうしの過度の融着を抑制することが容易でなくなる。一方、金属微粒子の配合量に対して無機バインダの配合量が多すぎると、インキの塗膜を焼成するときに分解物が多量に発生して、得られる導電性薄膜にクラックが生じる等の不具合が起こりやすくなる。
【0016】
金属微粒子に対する無機バインダの配合量は前述の通りであり、またインキ全体に対する無機バインダの配合量は、0.1〜29重量%、特に1〜13重量%であることが好ましい。
【0017】
無機バインダとして本発明において用いられるものとしては、Ti又はAlを含むカップリング剤又はキレートである。これらの剤は、溶剤に相溶する限りにおいて、その種類に特に制限はない。Ti又はAlを含むカップリング剤又はキレートは、それらのうちの1種のみを用いてもよく、或いは2種以上の任意の組み合わせを用いてもよい。
【0018】
Tiを含むカップリング剤又はキレートとしては、例えば、テトライソプロピルチタネート、テトラノルマルブチルチタネート、ブチルチタネートダイマー、テトラ(2−エチルヘキシル)チタネート、テトラメチルチタネート、チタンアセチルアセトネート、チタンテトラアセチルアセトネート、チタンエチルアセトアセテート、チタンオクタンジオレート、チタンラクテート、チタントリエタノールアミネート、ポリヒドロキシチタンステアレート等が挙げられる。また、味の素ファインテクノ社製のプレンアクト(登録商標)KR ETなどの市販品を用いることもできる。
【0019】
Alを含むカップリング剤又はキレートとしては、例えば、アルミニウムイソプロピレート、モノsec−ブトキシアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムsec−ブチレート、アルミニウムエチレート、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、アルキルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)、アルミニウムモノイソプロポキシモノオレオキシエチルアセトアセテート、環状アルミニウムオキサイドイソプロピレート、アルミニウムイソプロキチシアルキルアセトアセテート−2−エチルヘキシルアシッドホスフェート、環状アルミニウムオキサイドオクチレート、環状アルミニウムオキサイドステアレート等が挙げられる。また川研ファインケミカル社製のアルミニウムキレートであるアルミキレートP−1(商品名)を用いることもできる。
【0020】
本発明においては、前述した無機バインダに、Si又はZrを含むカップリング剤又はキレートを併用することもできる。これによって、焼成後の金属微粒子間の融着が一層抑制されるという有利な効果が奏される。これらのカップリング剤やキレートは硫黄を含まないことが好ましい。Siを含むカップリング剤又はキレートとしては、例えば、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、2−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノトリエトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(ビニルベンジル)−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン塩酸塩、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン、ヘキシルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0021】
Zrを含むカップリング剤又はキレートとしては、例えば、ジルコニウムノルマルプロピレート、ジルコニウムノルマルブチレート、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、ジルコニウムモノアセチルアセトネート、ジルコニウムビスアセチルアセトネート、ジルコニウムモノエチルアセトアセテート、ジルコニウムアセチルアセトネートビスエチルアセトアセテート、ジルコニウムアセテート、ジルコニウムモノステアレート等が挙げられる。
【0022】
本発明の導電性インキに含まれる金属微粒子は、その粒子径が好ましくは1〜300nm、更に好ましくは5〜100nmのものである。後述するように、本発明のインキをインクジェット印刷法に適用する場合には、ノズルの目詰まりを防止する観点から、その粒子径は5〜100nm、特に5〜80nmであることが好ましい。前記の範囲の粒子径の金属微粒子は一般にナノ粒子と呼ばれるものである。金属のナノ粒子は、粒子の表面に位置する原子の割合が非常に大きいという特徴を有しており、バルクの金属とは異なる特性を発現するようになる。例えば、金属のナノ粒子は、粒子径に応じて物質固有の融点以下で融着が起こる。この現象を利用して、本発明においてはインキの塗膜を比較的低温で焼成している。低温で焼成できることは、金属微粒子どうしの融着が起こりづらくなる観点から有利である。尤も本発明においては、インキ中に前述の無機バインダが配合されているので、高温で焼成を行っても金属微粒子どうしの融着が起こりづらくなっている。金属微粒子の粒子径は、走査型電子顕微鏡(FEI COMPANY社製FE−SEM)や透過電子顕微鏡(日立製作所社製 H9000−NAR)による粒子径観察、またはサブミクロン粒子アナライザー(ベックマン・コールター社製N5)によって測定される。
【0023】
金属微粒子はその種類に特に制限はなく、例えば各種金属の単体、合金又はそれらの2種以上の混合物を用いることができる。金属としては、例えば金、銀、白金、パラジウム、銅、ニッケル、コバルト、鉄、モリブテン、タングステン、インジウム、錫などが挙げられるが、これらに制限されるものではない。特に銀又は銀合金(例えば銀−白金合金や銀−パラジウム合金など)を用いることが、比抵抗の低さの点から好ましい。金属微粒子はインキ中に均一に分散した状態になっている。
【0024】
インキ中における金属微粒子の配合量は無機バインダの配合量との関係で前述した通りであり、またインキ全体に対する金属微粒子の配合量は、10〜79重量%、特に20〜72重量%であることが好ましい。
【0025】
金属微粒子は従来公知の方法によって調製することができる。例えば、金、銀、パラジウム等の金属の酸化物、水酸化物又は塩からなる固体化合物や液体化合物をポリオールに懸濁させ、少なくとも85℃以上の温度で加熱することで、該化合物を相応する金属微粒子に還元することができる。ポリオールとしては、液状の脂肪族グリコールや、該グリコールのポリエーテルを用いることができる。このような金属微粒子の調製方法は、例えば特公平4−24402号公報に記載されている。
【0026】
また、銀合金の微粒子を調製する場合には、例えば、パラジウム化合物水溶液に水素化ホウ素ナトリウムを加えてパラジウムコロイド液とし、このコロイド液にL−アスコルビン酸又はL−アスコルビン酸塩を加え、更に銀化合物水溶液を加えて銀を還元する方法を採用することができる。この方法は、例えば特許第2550156号明細書に記載されている。
【0027】
銀合金の微粒子を調製する方法の別法として、銀と、パラジウム、金及び白金からなるグループから選ばれた一種または二種以上の金属とを混合溶解して合金母材を製造する工程と、該合金母材を硝酸で溶解して溶液とする工程と、該溶液にアンモニア水溶液を添加することによってpHを調節した上で還元剤としてヒドラジンおよび/またはその化合物を加えて該溶液中の金属イオンを還元する工程とからなる方法が挙げられる。このような銀合金の微粒子の調製方法は、例えば特許第2550586号公報に記載されている。
【0028】
油相中での金属微粒子の調製方法として、例えば酸化銀粉末を減圧下で50〜300℃の温度範囲の熱媒油と接触させる方法が特開昭57−192206号公報に記載されている。熱媒油としては、例えば鉱物油、動植物油、シリコーン油、フッ素油などが用いられる。また、種々の有機溶媒中で、銀セッケン(Cn2n+1COOAg;n=1〜9、11、13、15、17)を50〜150℃で加熱することで銀微粒子が生成することが報告されている(日本化学会誌、1979(6)、p690−696)。
【0029】
本発明のインキに配合される溶剤は、その沸点が好ましくは80℃以上、更に好ましくは150℃以上のものである。ここでいう沸点は、常圧(1気圧)での沸点である。溶剤として沸点が80℃以上のものを用いることで、インキの乾燥速度が過度に速くなることを防止できる。このことは、インキの塗膜形成に不具合が生じることを防止し得る点、ひいては所望とする特性を有する導電性薄膜を得る点から有利である。溶剤の沸点の上限値に特に制限はないが、インキの塗膜の乾燥速度を考慮すると、好ましくは350℃以下、更に好ましくは300℃以下である。
【0030】
インキ全体に対する溶剤の配合量は、14〜89.9重量%、特に22〜79重量%であることが好ましい。
【0031】
溶剤としては、水系のもの及び非水系のものの何れもが用いられる。例えば、水、多価アルコール、多価アルコールアルキルエーテル、多価アルコールアリールエーテル、エステル、含窒素複素環化合物、アミド、アミン、長鎖アルカン、環状アルカン、芳香族炭化水素、モノアルコール等を用いることができる。これらの溶剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0032】
多価アルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール等を用いることができる。
【0033】
多価アルコールアルキルエーテルとしては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル等を用いることができる。
【0034】
多価アルコールアリールエーテルとしては、エチレングリコールモノフェニルエーテル等を用いることができる。エステルとしては、エチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、γ―ブチロラクトン等を用いることができる。含窒素複素環化合物としては、N−メチルピロリドン、1,3−ジメチルー2−イミダゾリジノン等を用いることができる。アミドとしては、ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド等を用いることができる。アミンとしては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン等を用いることができる。
【0035】
長鎖アルカンとしては、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン等を用いることができる。環状アルカンとしては、シクロヘキサン、デカリン等を用いることができる。芳香族炭化水素としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、ドデシルベンゼン、トリメチルベンゼン等を用いることができる。モノアルコールとしては、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、デカノール、シクロヘキサノール、テルピネオール、ベンジルアルコール、2−プロパノール、sec−ブタノール、t−ブタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、2−エチルー1−ブタノール、2−ヘプタノール、3−ヘプタノール、2−オクタノール、3−オクタノール、4−オクタノール、2−エチルヘキサノール、ノナノール等を用いることができる。
【0036】
本発明の導電性インキ中には、前述した各成分に加えて、該インキの各種性能を高める目的で、その他の成分を加えることもできる。そのような成分としては、例えば粘度調整剤、表面張力調整剤、分散助剤、消泡剤等が挙げられる。尤も、本発明においては前述の成分のみを配合してインキを調製するだけで、所望の特性を有する導電性薄膜を形成することができる。
【0037】
本発明の導電性インキは、その粘度を広範に設定することができる。具体的には、本発明の導電性インキの粘度は、20℃において100mPa・s以下、特に50mPa・s以下であることが好ましい。インキの粘度は、それに配合される前述の各成分の配合量を適宜調整すればよい。粘度は振動式粘度計(山一電機社製VM−100A)や粘弾性測定装置(ハーケ社製RS−1)によって測定される。
【0038】
特に本発明の導電性インキを、後述するようにインクジェット印刷法に適用する場合には、その粘度(20℃)を、50mPa・s以下、特に30mPa・s以下に設定することが好ましい。
【0039】
本発明の導電性インキは、例えば次に述べる方法によって調製される。先ず、前述した方法に従い金属微粒子を調製する。この場合、沸点が80℃以上の液相中で金属微粒子を調製する方法を採用すると、当該液相を溶剤としてそのまま用いることができるので好ましい。次に、得られた金属微粒子を溶剤に分散させスラリーを得る。スラリー中の金属微粒子の濃度は、目的とするインキの粘度に応じ、10〜80重量%、特に20〜75重量%とすることが好ましい。このようにして得られたスラリーに、無機バインダを金属微粒子100重量部に対して好ましくは1〜50重量部、更に好ましくは3〜30重量部添加して撹拌混合する。このようにして目的とするインキが得られる。
【0040】
このようにして得られたインキにおいては金属微粒子が溶剤に完全に分散した状態になっている。インキの粘度にもよるが、後述するように、インキをインクジェット印刷法に適用する場合には、該インキは常温(20℃)、常圧(1気圧)下で水のような挙動を示すものとなる。
【0041】
本発明の導電性インキは、積層構造体からなる電子デバイスや、単層又は多層からなる配線板のような回路形成用材料として好適に用いられる。具体的には、公知の印刷法を用いて、本発明のインキを例えばガラス、セラミックス、金属、プラスチック等の種々の材料からなる基板に、所定の印刷パターンで印刷する。次いで、形成された印刷パターンを大気下で焼成する。もちろん不活性雰囲気や真空下に焼成を行ってもよい。これによって目的とする導電性薄膜が形成される。
【0042】
このようにして形成された導電性薄膜はアディティブ法によって形成されたものなので、例えば特許文献1や6に記載されているようなサブトラクティブ法で導電性薄膜を形成する場合に比べて、必要な場所に必要な量のインキを施せばよいので、材料費や加工費を大幅に低減できるという利点がある。
【0043】
アディティブ法によってインキの塗膜を形成する場合には、印刷パターンの具体的な形成方法として、インクジェット印刷法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、オフセット印刷法、ディスペンサ印刷法などを採用することができる。これらの印刷法のうち、微細な印刷パターンを形成できること、基板へのダイレクト印刷が可能であること、コンピュータによって印刷パターンを自由に変えられること等の理由から、インクジェット印刷法を採用することが好ましい。インクジェット印刷法は、ピエゾ方式のノズルを用いる方法と、サーマル方式のノズルを用いる方法とに大別され、本発明のインキはそれらの何れにも適用することができる。
【0044】
本発明のインキを用いると、その塗膜の焼成条件を広範に変化させても満足すべき特性を有する導電性薄膜を得ることができる。例えば焼成温度に関しては好ましくは100〜950℃、更に好ましくは130〜800℃、一層好ましくは150〜600℃とすることができる。焼成時間は数十分から200時間程度という広い範囲から選択することができる。従来のインキを用いた場合、高温焼成したときや長時間にわたり焼成したときには金属微粒子どうしの融着が起こり、得られる導電性薄膜の寸法安定性が良好でないという不都合があったが、本発明のインキを用いれば、高温焼成あるいは長時間焼成した場合であっても寸法安定性の高い導電性薄膜を得ることができる。しかも、高温焼成あるいは長時間焼成しても、比抵抗の過度の上昇は観察されない。その上、高温焼成あるいは長時間焼成しても、該薄膜の表面は、焼成前の塗膜と同程度の表面平滑性を有しており、鏡面状態になっている。
【0045】
焼成によって得られた導電性薄膜の断面を電子顕微鏡観察すると、意外にも、インキに含まれていた金属微粒子の球形の粒子形状がほぼそのまま維持されていることが本発明者らによって確認された。この理由は、インキに含まれている無機バインダが、焼成によって酸化されて金属微粒子の表面を適度に被覆し、その被覆によって金属微粒子どうしの融着が抑制されたためであると推測される。その結果、本発明のインキを用いて形成された導電性薄膜は耐熱性及び耐収縮性(寸法安定性)の高いものとなる。導電性薄膜の耐熱性や耐収縮性が高いことは、該導電性薄膜を有する電子デバイスの信頼性を高める点から重要な要因である。
【0046】
また、本発明の導電性インキを用いて形成された導電性薄膜は、基板との密着性が高いものであることも、本発明者らによって確認された。この理由は、インキに含まれている無機バインダが、金属微粒子の表面と、基板の表面との間に介在して両者間に強固な結合を形成するためであると推測される。
【0047】
このように、本発明の導電性インキを用いて形成された導電性薄膜は、(イ)耐熱性及び耐収縮性並びに(ロ)基板密着性の双方が高いという特筆すべき特徴を有している。この導電性薄膜においては金属微粒子が略球形の形状を維持しており且つ該微粒子どうしが電気的接触を保っている。これに対して、従来の導電性インキ、例えば後述する比較例1のインキは、比抵抗が高く、また焼成によって金属微粒子どうしが融着して元の球形の形状は保たれておらず、それに起因して耐熱性及び耐収縮性を満足するものではなかった。
【実施例】
【0048】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲はかかる実施例に制限されない。以下の例中、特に断らない限り「%」及び「部」はそれぞれ「重量%」及び「重量部」を意味する。
【0049】
〔実施例1〕
(1)インキの調製
油相中で銀微粒子を調製した。銀微粒子の粒子径は10nmであった。得られた銀微粒子をテトラデカンに分散させ73%のスラリーを得た。銀微粒子の濃度は、スラリーを600℃で1時間加熱したときの灼熱減量から求めた。このスラリー50gに、銀粒子100部に対して10部に相当する無機バインダ3.65g(味の素ファインテクノ社製プレンアクトKR ET)を添加した。攪拌脱泡機(シンキー社製)で混合、脱泡し目的とする導電性インキを得た。得られたインキ中の銀微粒子の濃度は68%、無機バインダの濃度は7%、溶剤の濃度は25%であった。粘度(20℃)は24mPa・sであった。
【0050】
(2)導電性薄膜の作製
得られた導電性インキを無アルカリガラス基板(日本電気硝子社製OA−10)上に、スピンコーター(MIKASA社製)を用いて、1000rpmで10秒間の条件で塗工し塗膜を成膜した。塗膜を大気下100℃で10分間加熱乾燥した。次いで大気下で本焼成を行った。本焼成は150℃、200℃、300℃、400℃、500℃、600℃の各温度でそれぞれ1時間行った。これとは別に、焼成温度300℃で、0.5時間、1時間、5時間、10時間、60時間、170時間の各時間でそれぞれ本焼成を行った。これによって目的とする導電性薄膜を得た。
【0051】
(3)評価
得られた導電性薄膜について、以下の方法で耐熱性及び耐収縮性、基板密着性並びに表面平滑性を評価した。その結果を以下の表1に示す。
【0052】
〔耐熱性及び耐収縮性の評価〕
導電性薄膜の断面を、走査型電子顕微鏡(FEI COMPANY社製FE−SEM)で観察し、膜内部粒子形状を観察し、また膜厚を測定した。更に、導電性薄膜の比抵抗を四探針抵抗測定機(三菱化学社製ロレスタGP)で測定した。更に、200℃×1hr、300℃×1hr、600℃×1hrの焼成で得られた導電性薄膜のSEM像を図1に示す。
【0053】
〔基板密着性の評価〕
導電性薄膜とガラス基板との密着性を、JIS K 5600に準じて、クロスカット法により評価した。
【0054】
〔表面平滑性の評価〕
導電性薄膜の表面を目視にて観察し、膜全体が鏡面であるものを○、膜が曇っておりムラが生じているものを×として評価した。
【0055】
【表1】

【0056】
〔実施例2〕
実施例1と同様な操作により調製した銀微粒子を、テトラデカンに分散させ60%のスラリーを得た。このスラリー50gに、銀粒子100部に対して7部に相当する無機バインダ(味の素ファインテクノ社製プレンアクトKR ET)2.10gを添加した。その後は実施例1と同様にして導電性インキを得た。得られたインキ中の銀微粒子の濃度は58%、無機バインダの濃度は4%、溶剤の濃度は38%であった。粘度(20℃)は10mPa・sであった。得られたインキを用い、実施例1と同様の方法で導電性薄膜を得た。本焼成は150℃、200℃、300℃、400℃、500℃、600℃の各温度でそれぞれ1時間行った。この導電性薄膜について、実施例1と同様の方法で評価を行った。その結果を以下の表2に示す。更に、200℃×1hr、600℃×1hrの焼成で得られた導電性薄膜のSEM像を図2に示す。
【0057】
【表2】

【0058】
〔実施例3〕
油相中で銀微粒子を調製した。銀微粒子の粒子径は10nmであった。得られた銀微粒子をデカンに分散させ40%のスラリーを得た。このスラリー50gに、銀粒子100部に対して10部に相当する無機バインダ2.0g(川研ファインケミカル社製アルミキレートP−1)を添加した。その後は実施例1と同様にして目的とする導電性インキを得た。得られたインキ中の銀微粒子の濃度は38%、無機バインダの濃度は4%、溶剤の濃度は58%であった。粘度(20℃)は3mPa・sであった。得られたインキを用い、実施例1と同様の方法で導電性薄膜を得た。本焼成は150℃、200℃、300℃、400℃、500℃、600℃の各温度でそれぞれ1時間行った。この導電性薄膜について、実施例1と同様の方法で評価を行った。その結果を以下の表3に示す。更に、200℃×1hr、600℃×1hrの焼成で得られた導電性薄膜のSEM像を図3に示す。
【0059】
【表3】

【0060】
〔比較例1〕
油相中で銀微粒子を調製した。銀微粒子の粒子径は10nmであった。得られた銀微粒子をテトラデカンに分散させ60%のスラリーを得た。このスラリー50gに、銀粒子100部に対して10部に相当するγ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン3.0g(信越化学工業社製KBM−802)を添加した。その後は実施例1と同様にして目的とする導電性インキを得た。得られたインキ中の銀微粒子の濃度は56.5%、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシランの濃度は5.7%、溶剤の濃度は37.8%であった。粘度(20℃)は15mPa・sであった。得られたインキを用い、実施例1と同様の方法で導電性薄膜を得た。本焼成は200℃、300℃、400℃、500℃、600℃の各温度でそれぞれ1時間行った。この導電性薄膜について、実施例1と同様の方法で評価を行った。その結果を以下の表4に示す。更に、300℃×1hr、600℃×1hrの焼成で得られた導電性薄膜のSEM像を図4に示す。
【0061】
【表4】

【0062】
〔比較例2〕
無機バインダを添加しないこと以外は、実施例1と同じ方法でインキを調製した。得られたインキ中の銀微粒子の濃度は70%、溶剤の濃度は30%であった。粘度(20℃)は80mPa・sであった。得られたインキを用い、実施例1と同様の方法で導電性薄膜を得た。本焼成は200℃、300℃の各温度でそれぞれ1時間行った。これとは別に、焼成温度300℃で、0.5時間、1時間、5時間の各時間でそれぞれ本焼成を行った。この導電性薄膜について、実施例1と同様の方法で評価を行った。本比較例においては、密着性がすべて分類5で、表面平滑性もすべて×であったため、SEM観察、膜厚測定及び比抵抗測定はすべての導電性薄膜に対して行っていない。結果を表5に示す。更に、200℃×1hr、300℃×1hrの焼成で得られた導電性薄膜のSEM像を図5に示す。
【0063】
【表5】

【0064】
表1ないし表3及び図1ないし図3に示す結果から明らかなように、実施例のインキを用いて作製された導電性薄膜は、焼成温度150〜600℃において、導電性薄膜中の金属微粒子は略球形状を保ったままであることが判る。また導電性薄膜の膜厚が変化せず、耐熱性/耐収縮性が高いことが判る。また、焼成温度300℃において170時間までの焼成を行っても、導電性薄膜は膜厚の変化がなく、かつ低抵抗であることが判る。更に、表面平滑性が高く、その上、ガラス基板との密着性が高いことも判る。
【0065】
これに対して、表4及び表5並びに図4及び図5に示す結果から明らかなように、比較例のインキを用いて作製された導電性薄膜は、金属微粒子どうしが融着して膜状になっていることが判る。またガラス基板との密着性が低いことが判る。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】実施例1で得られたインキを用いて作製された導電性薄膜のSEM像である。
【図2】実施例2で得られたインキを用いて作製された導電性薄膜のSEM像である。
【図3】実施例3で得られたインキを用いて作製された導電性薄膜のSEM像である。
【図4】比較例1で得られたインキを用いて作製された導電性薄膜のSEM像である。
【図5】比較例2で得られたインキを用いて作製された導電性薄膜のSEM像である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属微粒子、無機バインダ及び溶剤を含有し、該無機バインダがTi又はAlを含むカップリング剤又はキレートからなることを特徴とする導電性インキ。
【請求項2】
金属微粒子が、粒子径1〜300nmの銀、銀−白金合金又は銀−パラジウム合金からなる請求項1記載の導電性インキ。
【請求項3】
無機バインダとして、Ti又はAlを含むカップリング剤又はキレートの1種又は2種以上の組み合わせを用いる請求項1又は2記載の導電性インキ。
【請求項4】
Si又はZrを含むカップリング剤又はキレートを含有する請求項1ないし3の何れかに記載の導電性インキ。
【請求項5】
溶剤が水系又は非水系のものである請求項1ないし4の何れかに記載の導電性インキ。
【請求項6】
金属微粒子100重量部に対して無機バインダが1〜50重量部含有されている請求項1ないし5の何れかに記載の導電性インキ。
【請求項7】
溶剤中に金属微粒子が10〜80重量%含まれてなるスラリーに、無機バインダを金属微粒子100重量部に対して1〜50重量部添加して得られたものである請求項1ないし6の何れかに記載の導電性インキ。
【請求項8】
金属微粒子の濃度が10〜79重量%、無機バインダの濃度が0.1〜29重量%、溶剤の濃度が14〜89.9重量%である請求項1ないし7の何れかに記載の導電性インキ。
【請求項9】
請求項1記載の導電性インキを用い、アディティブ法によって基板上に印刷パターンを形成し、次いで該印刷パターンを100〜950℃で焼成することを特徴とする導電性薄膜の製造方法。
【請求項10】
インクジェット印刷法によって印刷パターンを形成する請求項9記載の導電性薄膜の製造方法。
【請求項11】
前記基板が、ガラス、セラミックス又は金属からなる請求項9又は10記載の製造方法。
【請求項12】
請求項1記載の導電性インキの焼成によって形成された導電性薄膜であって、該薄膜においては金属微粒子が略球形の形状を維持しており且つ該微粒子どうしが電気的接触を保っている導電性薄膜。
【請求項13】
表面が鏡面になっている請求項12記載の導電性薄膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−257869(P2007−257869A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−77097(P2006−77097)
【出願日】平成18年3月20日(2006.3.20)
【出願人】(000006183)三井金属鉱業株式会社 (1,121)
【Fターム(参考)】