説明

導電性インクによる導体の製造方法

【課題】塗布した導電性インクの導電性を短時間で得ることができる導電性インクによる導体の製造方法を提供すること。
【解決手段】金属ナノ粒子と分散剤を溶剤に混合させた導電性インクを、基板上に塗布し、乾燥させて導電性インク中の溶剤を蒸発させる。次に、酸素とアルゴンの混合ガスによる大気圧プラズマを導電性インクに照射する。これにより、導電性インク中の分散剤を分解除去し、導電性インク中の金属ナノ粒子を凝集させる。その後、水素とアルゴンの混合ガスによる大気圧プラズマを導電性インクに照射し、前工程によって酸化した金属ナノ粒子を還元する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板上に導電性インクを塗布して配線や電極等の導体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、インクジェット印刷やスクリーン印刷などによって導電性インクを基板上に塗布して配線や電極を形成する技術が知られている。導電性インクは、銀ナノ粒子や銅ナノ粒子などの金属ナノ粒子を溶剤に混合分散させたものである。また、溶剤には、溶剤中において金属ナノ粒子同士が融着して凝集すること、および金属ナノ粒子が溶剤中で沈降してしまうこと、を防止するために、分散剤を混合する。導電性インクは塗布したままの状態では導電性がないため、基板に塗布した後に熱処理を行い、導電性インクの溶剤を蒸発させて乾燥させるとともに、分散剤を酸化させて分解させ、金属ナノ粒子を融着させて凝集体を形成させることで導電性を得ている。
【0003】
特許文献1には、導電性インクにカーボンブラック等の還元剤を混合し、酸化性ガス雰囲気中で熱処理することで効率的に分散剤を除去し、この熱処理により酸化した金属を、不活性ガス雰囲気中で熱処理して還元剤により還元することで、導電性を得る方法が示されている。
【0004】
熱処理以外の方法としては、特許文献2の方法がある。特許文献2では、塗布した導電性インクに酸素プラズマ処理を施して分散剤を除去することで、高温での熱処理を行うことなく導電性を得る方法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−262446
【特許文献2】特開2005−135982
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、熱処理によって導電性インクの導電性を得る方法では、その熱処理に数十分の時間が必要であるため製造時間が長く、効率が悪かった。また、熱処理であるため、耐熱性の低い基板、たとえば樹脂フィルム基板などを用いることは難しかった。また、熱処理に用いるリフロー炉が大型で高価である点も問題である。
【0007】
また、特許文献2の方法では、銅などの酸化されやすい金属ナノ粒子を含む導電性インクである場合に、酸素プラズマ処理によって金属ナノ粒子が酸化されてしまい、導電性を得ることはできなかった。
【0008】
そこで本発明の目的は、塗布した導電性インクの導電性を短時間で得ることができる新規な導電性インクによる導体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明は、金属ナノ粒子と分散剤とを溶剤中に混合させた導電性インクを基板上に塗布する第1工程と、導電性インクに、酸化性ガスを含む電離用ガスによる大気圧プラズマを照射する第2工程と、導電性インクに、還元性ガスを含む電離用ガスによる大気圧プラズマを照射する第3工程と、を有することを特徴とする導電性インクによる導体の製造方法である。
【0010】
本発明において大気圧プラズマとは、大気圧下で発生させたプラズマであり、大気圧は1気圧近傍、すなわち0.5〜2atm程度の気圧である。
【0011】
第1工程における導電性インクの塗布は、インクジェット印刷、スクリーン印刷、ディスペンサー、などを用いることができる。
【0012】
導電性インクを塗布する側の基板表面は、親水化処理が施されていることが望ましい。基板への導電性インクの密着性を高めるためである。親水化処理は、たとえば、プラズマ照射、レーザー照射、紫外線照射などにより行うことができる。
【0013】
第2工程を行う前に、塗布された導電性インクの溶剤を、基板を加熱するなどの方法で蒸発させておくことが望ましい。また、基板を加熱しながら導電性インクを塗布することで、効率的に溶剤を蒸発させることができる。また、第2、3工程においても、基板を加熱しながら大気圧プラズマを照射するようにしてもよい。
【0014】
基板には、セラミック、ガラス、樹脂などの絶縁性材料を用いることができ、半導体材料や、金属などの導体であってもよい。特に、本発明では熱処理を行わないため、耐熱性の低い材料も用いることができる。可撓性を有したシート状の樹脂フィルムを基板として用いると、樹脂フィルムを巻き取って大気圧プラズマ照射位置を走査することができるので、効率的に大面積を導電性処理することができる。
【0015】
酸化性ガスには、たとえば、酸素、オゾン、二酸化窒素などを用いることができる。また、還元性ガスには、たとえば、水素、メタン、一酸化炭素、アンモニアなどを用いることができる。電離用ガスに含まれる酸化性ガス、還元性ガス以外のガスとして、ヘリウム、ネオン、アルゴンなどの希ガスや、窒素などを用いることができる。電離用ガスにおける酸化性ガスの割合は、1%以上であることが望ましい。これは、プラズマによる酸化作用が1%以上で飽和すること、および、酸化作用の強い酸素ラジカルの量が1%で最大となり、それを越えると徐々に減少していくことからである。より望ましいのは1〜50%である。また、電離用ガスにおける還元性ガスの割合は、3%以上であることが望ましい。還元性の強い水素ラジカルの量は、還元性ガスの割合が高いほど増加し、3%以上で非常に効果が高くなるためである。より望ましいのは3〜50%である。
【0016】
導電性インクが含有する金属ナノ粒子は、たとえば金、銀、銅、白金、スズ、ニッケルなどや、これらの金属を含む合金や化合物である。金属ナノ粒子の粒径は、1〜100nmであればよく、1〜10nmであるとより望ましい。分散剤が除去された際に金属ナノ粒子を凝集させやすくするためである。導電性インクは、酸化防止剤や還元剤などを含んでいてもよい。
【0017】
第2の発明は、第1の発明において、第2工程の前に、導電性インクを乾燥させる工程を有することを特徴とする導電性インクによる導体の製造方法である。
【0018】
第3の発明は、第1の発明または第2の発明において、第1工程は、基板を加熱しながら行うことを特徴とする導電性インクによる導体の製造方法である。
【0019】
第4の発明は、第1の発明から第3の発明において、第2工程は、絶縁体に囲われた柱状のプラズマ化領域に対し、プラズマ化領域の長手方向に垂直な方向から長手方向に一様に電離用ガスを供給し、プラズマ化領域において長手方向に離間して1対の電極を配置し、その1対の電極間に電圧を印加してプラズマ化領域に大気圧プラズマを発生させ、プラズマ化領域に接続し、プラズマ化領域の長手方向に沿って配列し、大気圧プラズマの流れる方向に長く伸びた孔を通して、大気圧プラズマを排出し、導電性インクに大気圧プラズマを照射する、ことを特徴とする導電性インクによる導体の製造方法である。
【0020】
第5の発明は、第4の発明において、プラズマ化領域への電離用ガスの供給は、電離用ガスをプラズマ化領域の長手方向へ一様に拡散させた後、長手方向に垂直な方向へ案内する、ことを特徴とする導電性インクによる導体の製造方法である。
【0021】
第6の発明は、第4の発明または第5の発明において、孔の長さは、導電性インクに対して放電が生じない長さとする、ことを特徴とする導電性インクによる導体の製造方法である。
【0022】
第7の発明は、第4の発明から第6の発明において、孔の大気圧プラズマ排出側の先端の直径は、0.1〜1mmであることを特徴とする導電性インクによる導体の製造方法である。
【0023】
第8の発明は、第4の発明から第7の発明において、孔の長さは、一対の電極間の距離の1/2以上であることを特徴とする導電性インクによる導体の製造方法である。
【0024】
第9の発明は、第4の発明から第8の発明において、孔の全体または一部は、プラズマ化領域の長手方向に垂直な方向に対して傾斜している、ことを特徴とする導電性インクによる導体の製造方法である。
【0025】
第10の発明は、第4の発明から第9の発明において、一対の電極間の距離は、1〜50cmであることを特徴とする導電性インクによる導体の製造方法である。
【0026】
第11の発明は、第4の発明から第10の発明において、一対の電極の少なくとも一方には、他方と対向する表面に凹凸が形成されている、ことを特徴とする導電性インクによる導体の製造方法である。
【0027】
第12の発明は、第4の発明から第11の発明において、プラズマ化領域の長手方向の長さLcmと、長手方向に垂直な断面積σmm2 との関係は、2≦Lσ≦200かつ3≦σ≦25であることを特徴とする導電性インクによる導体の製造方法である。
【0028】
第13の発明は、第4の発明から第12の発明において、孔のガス流に垂直な断面は、円、楕円、配列方向に垂直な方向に長辺を有する長方形又はスリット状であることを特徴とする導電性インクによる導体の製造方法である。
【0029】
第14の発明は、第1の発明から第13の発明において、酸化性ガスは、酸素であることを特徴とする導電性インクによる導体の製造方法である。
【0030】
第15の発明は、第1の発明から第14の発明において、還元性ガスは、水素であることを特徴とする導電性インクによる導体の製造方法である。
【発明の効果】
【0031】
第1の発明によれば、酸化性ガスによる大気圧プラズマの照射で導電性インクの分散剤を分解除去し、金属ナノ粒子を凝集させることができ、次いで還元性ガスによる大気圧プラズマ照射をすることで、前の大気圧プラズマ照射により酸化した金属を還元することができる。その結果、導電性インクの導電性を短時間で得ることができ、製造時間を短縮することができる。また、本発明は高温での熱処理を行わないため、従来の熱処理では用いることが難しかった耐熱性の低い基板、たとえばPETなどの樹脂フィルム基板上にも、配線や電極などの導体を形成することができる。
【0032】
また、第2の発明のように、塗布した導電性インクを乾燥させてから第2工程を行うようにすれば、より導電性を高めることができる。
【0033】
また、第3の発明によれば、導電性インクの乾燥速度を向上させることができ、導電性インクの塗布速度を向上させることができる。特に、インクジェット法によって導電性インクの液滴を基板に塗布する場合には、第3の発明によってコーヒーステイン現象を抑制することができ、導電性や信頼性をより高めることができる。なお、コーヒーステイン現象とは、液滴の乾燥時に周縁部と内側とで濃度変化が生じ、液が周縁部側へと移動し、その結果、周縁部が盛り上がった形になる現象である。
【0034】
また、第4の発明によれば、柱状に一様に安定して大気圧プラズマを発生させ、導電性インクに対して線状に照射することができる。
【0035】
また、第5の発明によれば、プラズマ化領域に発生する大気圧プラズマの、プラズマ化領域長手方向の一様性をさらに高めることができる。
【0036】
また、第6、8の発明によれば、放電の発生によって導電性インクに損傷を与えることを防止することができる。
【0037】
また、第7の発明によれば、電子を孔の壁面に吸収させることができるので、プラズマ粒子中のラジカルの純度を高めることができる。そのため、酸化性ガスによる大気圧プラズマの照射で導電性インクの分散剤をより効率的に分解除去することができ、還元性ガスによる大気圧プラズマ照射で酸化した金属をより効率的に還元することができる。
【0038】
また、第9の発明によれば、孔の傾斜部の壁面で電子を効率的に吸収させることができるので、プラズマ粒子中のラジカルの純度をさらに高めることができる。また、プラズマ化領域で発生した紫外線や可視光が孔の傾斜部の壁面で遮られ、導電性インクに照射されることが防止されるので、導電性インクの損傷を防止することができる。
【0039】
また、第10の発明のように、一対の電極間の距離を1〜50cmとすることでより安定して大気圧プラズマを発生させることができる。
【0040】
また、第11の発明のよれば、ホローカソード放電により容易に大気圧プラズマを発生させることができる。
【0041】
また、第12の発明のようにLとσの関係を定めれば、プラズマ化領域により安定して柱状の大気圧プラズマを発生させることができる。
【0042】
また、第13の発明のように、孔のガス流に垂直な断面は、円、楕円、配列方向に垂直な方向に長辺を有する長方形又はスリット状とすることができる。
【0043】
また、第14の発明のように、酸化性ガスとして酸素を用いることができ、第15の発明のように、還元性ガスとして水素を用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】導電性インクによる導体の製造工程を示した図。
【図2】大気圧プラズマ発生装置100の構成を示した断面図。
【図3】大気圧プラズマ発生装置100の要部を示した断面図。
【図4】大気圧プラズマ発生装置100の電極の構成を示した断面図。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下、本発明の具体的な実施例について図を参照に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0046】
実施例1は、基板上に塗布した導電性インクによる導体の製造方法である。まず、この製造方法に用いる大気圧プラズマ発生装置100の構成について説明する。図2は、大気圧プラズマ発生装置100のプラズマ化領域Pの長手方向における断面図であり、図3はプラズマ化領域Pの長手方向に垂直な方向における断面の一部を示す図である。
【0047】
大気圧プラズマ発生装置100は、アルミナ(Al2 3 )を原料とする焼結体から成る筐体10を有する。筐体10の内部には、長手方向に直線状に伸びた(以下、この方向をx軸方向という)プラズマ化領域Pが設けられている。筐体10は、直径8mmの孔15と、直径5mmの2つの孔13と、その孔13の形成された拡散板14と、案内部16とを含むガス導入部12を有している。孔13は、x軸方向に長辺を有する長方形状、スリット状であっても良い。ガスは、孔15から導入されて拡散板14によりx軸方向に2分されて、孔13から、プラズマ化領域P領域の方に案内される。案内部16は、プラズマ化領域Pのx軸方向に一様に、x軸方向に垂直な方向(以下、この方向でガスが流れる向きをy軸方向という)にガスを流すための直径1.5mmの多数の孔を有する。案内部16は、多数の孔が格子状に配設されたものの壁面であり、多数の孔とこの壁面とで、拡散部18が構成される。プラズマ化領域Pの下流側には、第1排出部21と第2排出部22とから成る排出部20が形成されている。第1排出部21は、y軸方向に軸方向を有する孔23が、x軸方向に沿って多数配設されている。また、第2排出部22は、y軸方向に軸方向を有する孔24がx軸方向に沿って多数配設されている。孔23、24の直径は、0.5mm、孔23の長さは4mm、孔24の長さは16mmである。孔23、24のx軸方向の間隔は2.5mmで、それぞれ、16個、設けられている。
【0048】
プラズマ化領域Pは、x軸方向とy軸方向に垂直な方向の辺を2mm、y軸方向の辺を5mm、x軸方向の長さを4cmとする直方体状とした。プラズマ化領域Pのx軸方向の両端には、電極2a、2bが約4cm離間して配置されている。電極2a及び2bは、図3に示す形状をしている。電極2a及び2bは図3に示す通り、互いに対向する面が深さ0.5mm程度の凹部(ホロー)Hを多数有した凹凸面となっている。電源は、60Hz、100Vの商用交流電源を用いている。電極2a及び2bの印加電圧は、この商用電源電圧を約9kVに昇圧し、電極2a、2b間の給電電流は、20mAとした。
【0049】
この大気圧プラズマ発生装置100を用いれば、電極2a、2b間に電圧を印加しながら電離用ガスをガス導入部12からx軸方向に導入することで、線状に広い大気圧プラズマを安定して発生させることができ、対象物に大気圧プラズマを線状に広く照射することができる。
【0050】
以上のように大気圧プラズマ発生装置100の具体的な構成について説明したが、大気圧プラズマ発生装置100は上記構成に限るものではない。以下に好ましい大気圧プラズマ発生装置100の構成例を列挙する。
【0051】
筐体10は、内部で発生するプラズマに対して耐性の強い材料を用いることが必要であり、例えば焼結窒化ホウ素(PBN)のようなセラミックスが好ましい。電極2a、2bの材料としては、ステンレス、モリブデン、タンタル、ニッケル、銅、タングステン、白金、又は、これらの合金などを使用することができる。
【0052】
電極2a、2bの凹部Hは、必ずしも必要ではないが、電極2a、2bの少なくとも一方に凹部Hを形成すれば、ホローカソード放電を生じせしめて容易に大気圧プラズマを発生させることができる。電極2a、2bの凹部Hを形成する面の、y軸方向(すなわちガスを流す方向)の長さは、1〜5mm程度とすることが望ましい。凹部Hをy軸方向に多段に形成することができ、ガスの流速を早めてプラズマの生成密度を向上させることができる。凹部Hの深さは、0.5mm程度とするとよい。凹部Hはドット状に不連続に形成されても、溝状に連続して形成されても良いが、連続していた方が望ましい。凹部の形状は、x軸方向から見て、円柱面状、半球面状、角柱面状、角錐状、その他任意に形成できる。電極2a、2bの離間距離は、1〜50cmであるとよい。
【0053】
大気圧プラズマ発生装置100に供給するガスの流速、供給量、あるいは真空度は、任意に設定できる。また、ガスを冷却しておいて、本装置に供給してプラズマ化するのが望ましい。これにより、プラズマの温度が必要以上に上昇することが防止される。また、電極2a、2bに接続する電源は、直流、交流、パルス、その他任意であって、周波数に制限はない。
【0054】
孔24のガス放出口からプラズマを照射する対象物までの距離は、ガスの流速にも関係するが、例えば2mm〜20mmの範囲が望ましい。さらに望ましくは、3mm〜12mmであり、最も望ましくは、4mm〜8mmである。また、プラズマの照射方向は、対象物の照射される面に対して垂直方向である必要はなく、斜め方向に照射してもよい。また、対象物へのプラズマ照射後のガスは、吸引して置くことが望ましい。これにより、照射によって生じた反応後のガスが対象物へ付着するのを抑制することができる。また、対象物のプラズマを照射したくない部分には、プラズマを含まない空気等のガスを吹き付けて、プラズマが拡散しないようにすることができる。また、プラズマの温度と密度をレーザ光の吸収分光分析などを用いて測定し、所定の温度と密度になるように、印加電圧の大きさ、パルス印加であれば、デューティ比、照射時間、ガス流速などをフィードバック制御することが望ましい。
【0055】
また、大気圧プラズマ発生装置100は非常に小型に設計することができ、孔23、24の直径と長さを適正に設定すれば、必要な部分にのみプラズマを照射することが可能となる。
【0056】
また、孔24の軸は、上記の例ではy軸方向であったが、y軸方向に対して任意の方向に傾斜させてもよい。この場合、孔24の全体において軸を傾斜させてもよいし、孔24の一部において軸を傾斜させてもよい。孔24のガス排出側において軸が傾斜していると、プラズマの照射方向を変化させることができる。また、孔24のガス排出側の開口から見て、孔23を見通せないように孔24の軸を傾斜させるとよい。孔24の側面において電子を吸収させることができ、ラジカルのみを照射することができる。また、プラズマ化領域Pで発光した紫外線を孔24の側面で遮られ、対象物に紫外線が照射されないため、紫外線による対象物への損傷が防止される。孔24の軸を傾斜させる場合、y軸に対する傾斜角度は3〜30度とするのがよく、5〜20度とするのがより望ましい。
【0057】
孔23、24は、上記例ではx軸方向に1列に配列したが、多数列であってもよい。また、孔23、24は、一方の開口の直径と、他方の開口の直径とで異なっていてもよい。この場合、直径は連続的に変化するようにしてもよいし、階段状に変化するようにしてもよい。孔24のガス排出側の開口の直径は、0.1〜1mmとするのがよい。孔24の側面により電子を吸収させて、ラジカルのみを対象物に照射することができる。また、孔23、24のガス流に対して垂直な断面形状(y軸方向に垂直な方向における断面形状)は、円形の他、長円、x軸及びy軸に垂直な方向に長手方向を有する長方形、スリットなどであっても良い。
【0058】
孔23、24の合計の長さは、対象物に対して放電が形成されない長さとするのがよい。そのためには、たとえば孔23、24の合計の長さを、電極2a、2bの間隔の1/2以上の長さとすればよい。これにより、対象物に損傷を与えることを抑制することができる。孔23、24の合計の長さは、ラジカルの死活を考えると、放電が形成されない長さの範囲で最小の長さとするのが最もよい。
【0059】
プラズマ化領域Pの、長手方向(x軸方向)の長さをLcm、長手方向に垂直な断面積をσmm2 として、Lとσは、2≦Lσ≦200かつ3≦σ≦25とするのがよい。Lとσがこの範囲であれば、安定してプラズマを発生させることができる。より望ましいのは2≦Lσ≦100かつ3≦σ≦25である。
【0060】
拡散部14、案内部16は必ずしも設ける必要はないが、設けることにより、プラズマ化領域Pのx軸方向に沿って一様にガスを供給することができる。
【0061】
これらの大気圧プラズマ発生装置100を軸方向に、又は、軸に平行に多数段もうけて、大面積の処理が可能となるようにしても良い。軸方向にn個設けると、上記の例では、4ncmの幅で、対象物を処理することができる。また、対象物を軸に垂直な方向(x軸、及びy軸に垂直な方向に)搬送することで、さらに、大面積の処理が可能となる。また、軸に平行に多数設けて、x軸、及びy軸に垂直な方向に対象物を搬送した場合には、プラズマ照射処理を確実に行うことができる。
【0062】
次に、実施例1の基板上に塗布した導電性インクによる導体の製造方法について、図1を参照に以下に説明する。
【0063】
まず、20mm四方のポリイミドからなる基板1を、スピンコータの回転ステージ上に配置した。スピンコータには、回転ステージに加熱装置を備え、基板1を加熱することができるものを用いた。そして、基板1を約100℃に加熱しながら、回転ステージを低速で回転させつつ基板1上に導電性インクを滴下した。その後、所定の回転数で回転ステージを回転させ、基板1上に均一な厚さの導電性インク膜2を成膜した。成膜後もしばらく回転ステージ上に基板1を置いて100℃に加熱し、導電性インク膜2中の溶剤を蒸発させ、乾燥させた(図1(a))。導電性インクには、直径1〜100nmの球状の銀ナノ粒子と、銀ナノ粒子表面を被覆する分散剤とが溶剤中に混合されたものを用いた。
【0064】
なお、基板1の表面は親水化処理が施されていることが望ましい。導電性インクと基板1との密着性を高めるためである。親水化処理は、プラズマ照射、レーザー照射、紫外線照射などにより行うことができる。
【0065】
次に、大気圧プラズマ発生装置100を用いて酸素とアルゴンの混合ガスを電離用ガスとして大気圧プラズマを発生させ、大気圧プラズマを基板1上の導電性インク膜2に照射した(図1(b))。電離用ガスにおける酸素の割合は1%、総流量は10slm、照射時間は30秒とした。これにより、導電性インク膜2中の分散剤を酸素プラズマにより分解除去し、導電性インク膜2中の銀ナノ粒子を凝集させた。この大気圧プラズマ照射により、導電性インク膜2は茶色から黒色に変色した。この黒色は銀が酸素プラズマにより酸化されたためと考えられる。
【0066】
続いて、大気圧プラズマ発生装置100を用いて水素とアルゴンの混合ガスを電離用ガスとして大気圧プラズマを発生させ、大気圧プラズマを導電性インクに照射した(図1(c))。電離用ガスにおける水素の割合は3%、総流量は1.5slm、照射時間は60秒とした。この大気圧プラズマの照射により、導電性インク膜2は銀色に変色した。前工程によって生じた酸化銀が、水素プラズマによって銀に還元されたものと考えられる。
【0067】
上記工程後の導電性インク膜2の抵抗を測定したところ、導電性が得られていることがわかった。以上のように、実施例1の導電性インクによる導体の製造方法によれば、短時間で簡易に導電性インクの導電性を得ることができる。
【0068】
[比較例1]
実施例1の工程において、酸素とアルゴンの混合ガスによる大気圧プラズマの照射を行わず、水素とアルゴンの混合ガスによる大気圧プラズマの照射のみとすると、導電性インク膜2は茶色から多少白っぽく変色したが、導電性は得られなかった。これは、分散剤を十分に除去しきれていないためと考えられる。
【0069】
[比較例2]
実施例1の工程において、酸素とアルゴンの混合ガスによる大気圧プラズマ照射のみとし、その後に水素とアルゴンの混合ガスによる大気圧プラズマを照射しなかったところ、導電性インクは茶色から黒色に変化し、導電性は得られなかった。これは、酸素プラズマによって銀ナノ粒子の凝集体が酸化してしまったためと考えられる。
【0070】
[比較例3]
実施例1の工程において、先に水素とアルゴンの混合ガスによる大気圧プラズマの照射を行い、その後に酸素とアルゴンの混合ガスによる大気圧プラズマの照射したところ、大気圧プラズマ照射領域の導電性インクは茶色から黒色に変色し、照射領域の周囲は銀色に変色したが、導電性は得られなかった。
【0071】
[変形例]
なお、実施例では基板を加熱しながら導電性インクを塗布することで、速やかに導電性インクを乾燥させるようにしているが、基板を加熱しないで導電性インクを塗布し、その後に加熱して導電性インクを乾燥させるようにしてもよい。また、導電性インクを凍結させ、溶剤を昇華させることにより乾燥させてもよい。
【0072】
また、実施例では酸化性ガスとして酸素を用いたが、酸素以外に、オゾン、二酸化窒素などを用いることができる。また、実施例では還元性ガスとして水素を用いたが、水素以外に、メタン、一酸化炭素、アンモニアなどを用いることができる。また、実施例では酸素や水素をアルゴンに混合して電離用ガスとしたが、アルゴン以外にも、ヘリウム、ネオンなどの希ガスや、窒素などを用いてもよい。
【0073】
また、実施例ではスピンコータを用いて基板上に均一に導電性インクを塗布したが、インクジェット印刷、スクリーン印刷などによって導電性インクを塗布するようにしてもよく、その場合は配線や電極などの回路パターンやその他の導体素子の形成に本発明を利用することができる。
【0074】
また、実施例では銀ナノ粒子を混合した導電性インクを用いたが、本発明はこれに限るものではなく、金、銅、白金、スズ、ニッケルなどや、これらの金属を含む合金や化合物などのナノ粒子も用いることができる。特に、銅などの酸化されやすい金属ナノ粒子を用いる場合にも、本発明によれば導電性を得ることができる。
【0075】
また、実施例では基板の材料としてポリイミドを用いたが、本発明は任意の材料の基板に適用可能である。たとえば、セラミック、ガラス、樹脂などの絶縁性材料、Si基板等の半導体材料、金属などの導体を用いることができる。特に、本発明は高温での熱処理を行わないため、耐熱性の低い樹脂フィルム基板なども用いることができる。樹脂フィルム基板を用いる場合には、樹脂フィルム基板を巻き取って移動させることで、大気圧プラズマの照射領域を走査することができるので、導電性インクの導電化を広範囲に行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、耐熱性の低い基板、たとえば樹脂フィルム基板上に配線などを形成する場合に適用することができる。
【符号の説明】
【0077】
1:基板
2:導電性インク膜
10:筐体
12:ガス導入部
16:案内部
18:拡散部
20:排出部
23、24:孔
100:大気圧プラズマ発生装置
P:プラズマ化領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属ナノ粒子と分散剤とを溶剤中に混合させた導電性インクを基板上に塗布する第1工程と、
前記導電性インクに、酸化性ガスを含む電離用ガスによる大気圧プラズマを照射する第2工程と、
前記導電性インクに、還元性ガスを含む電離用ガスによる大気圧プラズマを照射する第3工程と、
を有することを特徴とする導電性インクによる導体の製造方法。
【請求項2】
前記第2工程の前に、前記基板に塗布した前記導電性インクを乾燥させる工程を有することを特徴とする導電性インクによる導体の製造方法。
【請求項3】
前記第1工程は、前記基板を加熱しながら行うことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の導電性インクによる導体の製造方法。
【請求項4】
前記第2工程は、
絶縁体に囲われた柱状のプラズマ化領域に対し、前記プラズマ化領域の長手方向に垂直な方向から長手方向に一様に前記電離用ガスを供給し、
前記プラズマ化領域において前記長手方向に離間して1対の電極を配置し、その1対の電極間に電圧を印加して前記プラズマ化領域に大気圧プラズマを発生させ、
前記プラズマ化領域に接続し、前記プラズマ化領域の長手方向に沿って配列し、前記大気圧プラズマの流れる方向に長く伸びた孔を通して、前記大気圧プラズマを排出し、前記導電性インクに前記大気圧プラズマを照射する、
ことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の導電性インクによる導体の製造方法。
【請求項5】
前記プラズマ化領域への前記電離用ガスの供給は、
前記電離用ガスを前記プラズマ化領域の長手方向へ一様に拡散させた後、長手方向に垂直な方向へ案内する、
ことを特徴とする請求項4に記載の導電性インクによる導体の製造方法。
【請求項6】
前記孔の長さは、前記導電性インクに対して放電が生じない長さとする、ことを特徴とする請求項4または請求項5に記載の導電性インクによる導体の製造方法。
【請求項7】
前記孔の前記大気圧プラズマ排出側の先端の直径は、0.1〜1mmであることを特徴とする請求項4ないし請求項6のいずれか1項に記載の導電性インクによる導体の製造方法。
【請求項8】
前記孔の長さは、前記一対の電極間の距離の1/2以上であることを特徴とする請求項4ないし請求項7のいずれか1項に記載の導電性インクによる導体の製造方法。
【請求項9】
前記孔の全体または一部は、前記プラズマ化領域の長手方向に垂直な方向に対して傾斜している、ことを特徴とする請求項4ないし請求項8のいずれか1項に記載の導電性インクによる導体の製造方法。
【請求項10】
前記一対の電極間の距離は、1〜50cmであることを特徴とする請求項4ないし請求項9のいずれか1項に記載の導電性インクによる導体の製造方法。
【請求項11】
前記一対の電極の少なくとも一方には、他方と対向する表面に凹凸が形成されている、ことを特徴とする請求項4ないし請求項10のいずれか1項に記載の導電性インクによる導体の製造方法。
【請求項12】
前記プラズマ化領域の長手方向の長さLcmと、長手方向に垂直な断面積σmm2 との関係は、2≦Lσ≦200かつ3≦σ≦25であることを特徴とする請求項4ないし請求項11のいずれか1項に記載の導電性インクによる導体の製造方法。
【請求項13】
前記孔のガス流に垂直な断面は、円、楕円、配列方向に垂直な方向に長辺を有する長方形又はスリット状であることを特徴とする請求項4ないし請求項12のいずれか1項に記載の導電性インクによる導体の製造方法。
【請求項14】
前記酸化性ガスは、酸素であることを特徴とする請求項1ないし請求項13のいずれか1項に記載の導電性インクによる導体の製造方法。
【請求項15】
前記還元性ガスは、水素であることを特徴とする請求項1ないし請求項14のいずれか1項に記載の導電性インクによる導体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−77268(P2011−77268A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−226684(P2009−226684)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度採択課題、文部科学省、知的クラスター創成事業「東海広域ナノテクものづくりクラスター構想」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【出願人】(000237271)富士機械製造株式会社 (775)
【Fターム(参考)】