説明

導電性セラミックス材料及びその製造方法

【課題】高い導電性を有する12CaO・7Al多結晶体を製造する。
【解決手段】12CaO・7Al多結晶体中の窒素含有量を0.3〜1.1[wt%]の範囲内に制御することにより12CaO・7Al多結晶体の導電率が100[S/cm]以上となり、窒素含有量を0.5〜0.9[wt%]の範囲内に制御することにより導電率が150[S/cm]以上となることが明らかになった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性セラミックス材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ケージ(籠)状の結晶構造を有する酸化物12CaO・7Al(以下、C12A7と表記)の粉末を加圧成形後、還元雰囲気中で1600[℃]程度に保持,溶融し、徐冷,凝固するというステップを2回繰り返す、又は還元雰囲気中で溶融したガラスを真空雰囲気で結晶化させることにより、5[S/cm]の導電率を有するC12A7多結晶体を製造できるとの報告がなされた(非特許文献1,2参照)。また、溶融,徐冷,凝固を行う際に乾燥窒素雰囲気を用いることにより、ステップ数を1回として100[S/cm]程度の導電率を有するC12A7多結晶体を製造できるとの報告がなされた(特許文献3参照)。
【非特許文献1】Kim et al., J.Am.Chem.Soc., 127, 1370-1371(2005)
【非特許文献2】Kim et al., Chem.Mater., 18, 1938-1944(2006)
【非特許文献3】特開2008-7374号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記製造方法によれば、C12A7多結晶体の室温での導電率は、高々100[S/cm]程度であり、十分な導電性を有するものではない。十分な導電性を有するC12A7多結晶体は還元剤としての利用が期待できる。また、材料がクラーク数の大きな元素から構成されているため、安価な導電材料としても期待できる。また、電界放出型電子エミッターとしての応用も期待できる。また、酸化還元を伴う電気化学デバイスの電極材料や、有機ELデバイスにおける電荷注入材料のように、特殊な接合特性が要求ざれる電極としての応用も期待できる。このことから、十分な導電性を有するC12A7多結晶体の提供が渇望されている。
【0004】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、その目的は、高い導電性を有する導電性セラミックス材料を提供することにある。
【0005】
本発明の他の目的は、高い導電性を有する12CaO・7Al多結晶体を製造可能な導電性セラミックス材料の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明の発明者らは、精力的な研究を重ねてきた結果、12CaO・7Al多結晶体中の窒素量を所定範囲内に制御することにより、高い導電性を有する12CaO・7Al多結晶体を製造できることを知見した。
【0007】
本発明に係る導電性セラミックス材料は、酸化物に換算して概略12CaO・7Alの組成を有し、所定量の窒素を含有する。所定量は、0.3[wt%]以上1.1[wt%]以下の範囲内にあることが望ましく、0.5[wt%]以上0.9[wt%]以下の範囲内にあることがより望ましい。
【0008】
本発明の第1の態様に係る導電性セラミックス材料の製造方法は、カルシウム源粉末とアルミニウム源粉末とを坩堝内に配置する工程と、坩堝の開口部に蓋を載置する工程と、蓋が載置された坩堝を溶融炉内に導入し、乾燥窒素雰囲気で坩堝内の粉末を溶融させた後に冷却凝固させる処理を複数回繰り返し行う工程とを有する。繰り返し回数は、特に限定されることはないが、0.3[wt%]以上1.1[wt%]以下の窒素を導入するためには、2〜8回であることが望ましい。これは、1回では窒素を十分に導入することができず、8回以上であると窒素量が多すぎるためである。本発明の第1の態様に係る導電性セラミックス材料の製造方法によれば、高い導電性を有する12CaO・7Al多結晶体を製造することができる。
【0009】
本発明の第2の態様に係る導電性セラミックス材料の製造方法は、カルシウム源粉末と少なくとも窒化アルミニウムが添加されたアルミニウム源粉末とを坩堝内に配置する工程と、坩堝の開口部に蓋を載置する工程と、蓋が載置された坩堝を溶融炉内に導入し、乾燥窒素雰囲気又は乾燥アルゴン雰囲気において坩堝内の粉末を溶融させた後に冷却凝固させる処理を行う工程とを有する。窒素を導入するための添加物としては、12CaO・7Alの成分であるアルミニウムの窒化物である窒化アルミニウムを用いることが望ましいが、本発明はこれに限定されることはなく、例えば窒化珪素,窒化チタン等の窒化物を用いてもよい。また窒化物の添加量は、特に限定されることはないが、0.3[wt%]以上1.1[wt%]以下の窒素を導入する場合において、窒化アルミニウムに換算して、雰囲気が乾燥窒素雰囲気である場合は0.6[wt%]以上3.5[wt%]以下、雰囲気が乾燥アルゴン雰囲気である場合には1.6[wt%]以上4.8[wt%]以下の範囲内であることが望ましい。また乾燥アルゴン雰囲気はその他の不活性ガス雰囲気でもよいが、コストや取り扱いの面からは乾燥アルゴン雰囲気であることが望ましい。本発明の第2の態様に係る導電性セラミックス材料の製造方法によれば、高い導電性を有する12CaO・7Al多結晶体を製造することができる。
【0010】
本発明の第3の態様に係る導電性セラミックス材料の製造方法は、カルシウム源粉末とアルミニウム源粉末とを坩堝内に配置する工程と、坩堝の開口部に蓋を載置する工程と、蓋が載置された坩堝を溶融炉内に導入し、乾燥窒素雰囲気において坩堝内の粉末を2時間以上溶融させた後に冷却凝固させる処理を行う工程とを有する。粉末の溶融時間は、特に限定されることはないが、0.3[wt%]以上1.1[wt%]以下の窒素を導入するためには、2時間以上8時間以下であることが望ましい。これは、2時間未満では窒素を十分に導入することができず、8時間を超えると窒素量が多すぎるためである。本発明の第3の態様に係る導電性セラミックス材料の製造方法によれば、高い導電性を有する12CaO・7Al多結晶体を製造することができる。また本発明の第3の態様に係る導電性セラミックス材料の製造方法によれば、第1の態様に係る導電性セラミックス材料の製造方法と比較して、溶融凝固を複数回繰り返す必要がないので、昇降温に要する時間を短縮することができる。また本発明の第3の態様に係る導電性セラミックス材料の製造方法によれば、第2の態様に係る導電性セラミックス材料の製造方法と比較して、窒化アルミニウムを添加する必要がないので、工数を削減することができる。
【0011】
本発明の第4の態様に係る導電性セラミックス材料の製造方法は、カルシウム源粉末とアルミニウム源粉末とを坩堝内に配置する工程と、坩堝の開口部に蓋を載置する工程と、蓋が載置された坩堝を溶融炉内に導入し、乾燥窒素雰囲気において坩堝内の粉末を溶融させた後に冷却凝固させる処理を行う工程と、凝固体を乾燥窒素雰囲気において焼鈍させる処理とを有する。凝固体は、凝固後にそのまま焼鈍温度にしてもよいし、一度室温まで下げてから再加熱して焼鈍温度にしてもよい。焼鈍温度は、1450[℃]以上であると凝固体が溶融し、1350[℃]以下では窒素を十分に導入できないので、1400[℃]程度であることが望ましい。焼鈍時間は、特に限定されることはないが、窒素を十分に導入するためには24時間以上、好ましくは48時間以上であることが望ましい。本発明の第4の態様に係る導電性セラミックス材料の製造方法によれば、高い導電性を有する12CaO・7Al多結晶体を製造することができる。また本発明の第4の態様に係る導電性セラミックス材料の製造方法によれば、第1の態様に係る導電性セラミックス材料の製造方法と比較して、溶融凝固を複数回繰り返す必要がないので、昇降温に要する時間を短縮することができる。また本発明の第4の態様に係る導電性セラミックス材料の製造方法によれば、第2,第3の態様に係る導電性セラミックス材料の製造方法と比較して、高温での保持時間を短縮することができる。また本発明の第4の態様に係る導電性セラミックス材料の製造方法によれば、材料に予め形状を付与した状態で窒素を導入することができる。
【0012】
上記カルシウム源としては、炭酸カルシウム,水酸化カルシウム,酸化カルシウム,シュウ酸カルシウム等のカルシウムを含む物質であればよいが、窒素量を制御することを考えると、化学的に安定であるために秤量時に有利であり、且つ、加熱時に水を生成しない、炭酸カルシウムを用いることが望ましい。
【0013】
上記アルミニウム源としては、酸化アルミニウム,水酸化アルミニウム,窒化アルミニウム等のアルミニウムを含む物質であればよいが、窒素量を制御することを考えると、化学的に安定であるために秤量時に有利であり、且つ、加熱時に水を生成しない、酸化アルミニウム又は窒化アルミニウムを用いることが望ましい。
【0014】
上記坩堝の形状は、特に限定されることはないが、気体との界面が広くなることによって効率よく窒素を導入できる平面形状であってもよいし、粉末を容易に配置可能な立体形状であってもよい。また粉末は、工数が少ない粉末の状態で坩堝内に配置してもよいし、一度の工程でより多くの導電性セラミックス材料を製造するために、坩堝内に緻密に配置可能な圧粉体形状にしてもよい。
【0015】
上記乾燥窒素雰囲気における窒素の圧力や純度は、特に限定されることはないが、高い方が好ましく、効率よく窒素を導入するために、例えば大気圧であれば純度は80.0[%]以上、好ましくは99.9[%]以上がよい。また窒素を導入するために雰囲気の圧力をあげてもよい。また雰囲気ガスは、窒素を導入することを目的としたものであればよく、アンモニア等の窒素以外のガスを用いてもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0017】
〔実施例1−1〕
実施例1−1では、始めに、市販の炭酸カルシウム粉末(比表面積5.5[m/g])と市販の酸化アルミニウム粉末(比表面積141[m/g])を12.0:7.0のモル比で秤量し、これら粉末を水媒体により湿式混合,乾燥した後、篩に通すことにより混合粉体を得た。次に、混合粉体を1200[℃]の大気雰囲気下で4時間熱処理することにより固相反応を生じさせ、C12A7粉末を合成した。なお、C12A7であるか否かは、固相合成後の粉体のX線回折図形により確認した(図1参照)。
【0018】
次に、内面に市販のグラファイトシート(商品名:グラフォイル)を敷き詰めたグラファイト坩堝中(内面サイズφ40×H70[mm])にC12A7粉末を一軸プレスしたペレット及び粉末を充填した後、グラファイト坩堝の開口部にグラファイト製の蓋を載置した。なおこの時、グラファイト坩堝と蓋の間の隙間によってグラファイト坩堝内部と外部の通気性は確保されていた。次に、グラファイト坩堝を一回り大きな上記と同様の蓋付きのグラファイト坩堝内に入れ、二重坩堝を市販のカーボン炉に入れ、乾燥窒素雰囲気下、1600[℃],1時間の溶融処理を行った後に室温まで冷却する処理を2回繰り返し行った。カーボン炉の冷却速度は300[℃/h]であった。
【0019】
次に、グラファイト坩堝内より溶融凝固体を取り出した。この際、溶融凝固体とグラファイト坩堝の固着は生じておらず、溶融凝固体は容易に取り出せた。但し、溶融凝固体表面上でグラファイト坩堝と接していた曲面にはグラファイトシートが付着していた。次に、溶融凝固体表面のグラファイトシートを機械加工により除去した後、試料を破砕し、一部試料に関しては更に粉砕し、粉末状とした後にX線回折により相の同定を行った所、C12A7相が確認された(図2参照)。また、この粉末は濃い緑色を呈していた。さらに、破砕した試料の破面に対し市販のテスター又は市販の絶縁抵抗計で導通を調べた所、導通が確認され、導電率は125[S/cm]であった。また、化学分析により窒素含有量を定量した所、窒素含有量は0.34[wt%]であった。
【0020】
〔実施例1−2〕
実施例1−2では、乾燥窒素雰囲気下、1600[℃],1時間の溶融処理を行った後に室温まで冷却する処理を4回繰り返した以外は実施例1−1と同様にして試料を得た。溶融凝固体表面のグラファイトシートを機械加工により除去した後、試料を破砕し、一部試料に関しては更に粉砕し、粉末状とした後にX線回折により相の同定を行った所、C12A7相が確認された。また、この粉末は濃い緑色を呈していた。さらに、破砕した試料の破面に対し市販のテスター又は市販の絶縁抵抗計で導通を調べた所、導通が確認され、導電率は190[S/cm]であった。また、化学分析により窒素含有量を定量した所、窒素含有量は0.79[wt%]であった。
【0021】
〔実施例1−3〕
実施例1−3では、乾燥窒素雰囲気下、1600[℃],1時間の溶融処理を行った後に室温まで冷却する処理を8回繰り返した以外は実施例1−1と同様にして試料を得た。溶融凝固体表面のグラファイトシートを機械加工により除去した後、試料を破砕し、一部試料に関しては更に粉砕し、粉末状とした後にX線回折により相の同定を行った所、C12A7相が確認された。また、この粉末は濃い緑色を呈していた。さらに、破砕した試料の破面に対し市販のテスター又は市販の絶縁抵抗計で導通を調べた所、導通が確認され、導電率は130[S/cm]であった。また、化学分析により窒素含有量を定量した所、窒素含有量は0.96[wt%]であった。
【0022】
〔実施例2−1〕
実施例2−1では、始めに、市販の炭酸カルシウム粉末(比表面積5.5[m/g])と市販の酸化アルミニウム粉末(比表面積141[m/g])と市販の窒化アルミニウム粉末(比表面積2.6[m2/g])を12.0:6.9:0.2のモル比で秤量し、このうち、炭酸カルシウム粉末と酸化アルミニウム粉末を水媒体により湿式混合,乾燥した後、篩に通すことにより混合粉体を得た。次に、混合粉体を1200[℃]の大気雰囲気下で4時間熱処理することにより固相反応を生じさせ、C12A7を含む粉末を合成した。次に、C12A7を含む粉末と窒化アルミニウム粉末を乾式混合することにより混合粉体を得た。
【0023】
次に、内面に市販のグラファイトシート(商品名:グラフォイル)を敷き詰めたグラファイト坩堝中(内面サイズφ40×H70[mm])に混合粉体を一軸プレスしたペレット及び粉末を充填した後、グラファイト坩堝の開口部にグラファイト製の蓋を載置した。なおこの時、グラファイト坩堝と蓋の間の隙間によってグラファイト坩堝内部と外部の通気性は確保されていた。次に、グラファイト坩堝を一回り大きな上記と同様の蓋付きのグラファイト坩堝内に入れ、二重坩堝を市販のカーボン炉に入れ、乾燥窒素雰囲気下、1600[℃],1時間の溶融処理を行った後、室温まで冷却した。カーボン炉の冷却速度は300[℃/h]であった。
【0024】
次に、グラファイト坩堝内より溶融凝固体を取り出した。この際、溶融凝固体とグラファイト坩堝の固着は生じておらず、溶融凝固体は容易に取り出せた。但し、溶融凝固体表面上でグラファイト坩堝と接していた曲面にはグラファイトシートが付着していた。次に、溶融凝固体表面のグラファイトシートを機械加工により除去した後、試料を破砕し、一部試料に関しては更に粉砕し、粉末状とした後にX線回折により相の同定を行った所、C12A7相が確認された(図3参照)。また、この粉末は濃い緑色を呈していた。さらに、破砕した試料の破面に対し市販のテスター又は市販の絶縁抵抗計で導通を調べた所、導通が確認され、導電率は120[S/cm]であった。また、化学分析により窒素含有量を定量した所、窒素含有量は0.32[wt%]であった。
【0025】
〔実施例2−2〕
実施例2−2では、市販の炭酸カルシウム粉末(比表面積5.5[m/g])と市販の酸化アルミニウム粉末(比表面積141[m/g])と市販の窒化アルミニウム粉末(比表面積2.6[m/g])を12.0:6.8:0.4のモル比で秤量した以外は実施例2−1と同様にして試料を得た。溶融凝固体表面のグラファイトシートを機械加工により除去した後、試料を破砕し、一部試料に関しては更に粉砕し、粉末状とした後にX線回折により相の同定を行った所、C12A7相が確認された。また、この粉末は濃い緑色を呈していた。さらに、破砕した試料の破面に対し市販のテスター又は市販の絶縁抵抗計で導通を調べた所、導通が確認され、導電率は150[S/cm]であった。また、化学分析により窒素含有量を定量した所、窒素含有量は0.45[wt%]であった。
【0026】
〔実施例2−3〕
実施例2−3では、市販の炭酸カルシウム粉末(比表面積5.5[m/g])と市販の酸化アルミニウム粉末(比表面積141[m/g])と市販の窒化アルミニウム粉末(比表面積2.6[m/g])を12.0:6.6:0.8のモル比で秤量した以外は実施例2−1と同様にして試料を得た。溶融凝固体表面のグラファイトシートを機械加工により除去した後、試料を破砕し、一部試料に関しては更に粉砕し、粉末状とした後にX線回折により相の同定を行った所、C12A7相が確認された。また、この粉末は濃い緑色を呈していた。さらに、破砕した試料の破面に対し市販のテスター又は市販の絶縁抵抗計で導通を調べた所、導通が確認され、導電率は180[S/cm]であった。また、化学分析により窒素含有量を定量した所、窒素含有量は0.61[wt%]であった。
【0027】
〔実施例2−4〕
実施例2−4では、市販の炭酸カルシウム粉末(比表面積5.5[m/g])と市販の酸化アルミニウム粉末(比表面積141[m/g])と市販の窒化アルミニウム粉末(比表面積2.6[m/g])を24.0:13.1:1.8のモル比で秤量した以外は実施例2−1と同様にして試料を得た。溶融凝固体表面のグラファイトシートを機械加工により除去した後、試料を破砕し、一部試料に関しては更に粉砕し、粉末状とした後にX線回折により相の同定を行った所、C12A7相が確認された。また、この粉末は濃い緑色を呈していた。さらに、破砕した試料の破面に対し市販のテスター又は市販の絶縁抵抗計で導通を調べた所、導通が確認され、導電率は200[S/cm]であった。また、化学分析により窒素含有量を定量した所、窒素含有量は0.73[wt%]であった。
【0028】
〔実施例2−5〕
実施例2−5では、市販の炭酸カルシウム粉末(比表面積5.5[m/g])と市販の酸化アルミニウム粉末(比表面積141[m/g])と市販の窒化アルミニウム粉末(比表面積2.6[m/g])を12.0:6.4:1.2のモル比で秤量した以外は実施例2−1と同様にして試料を得た。溶融凝固体表面のグラファイトシートを機械加工により除去した後、試料を破砕し、一部試料に関しては更に粉砕し、粉末状とした後にX線回折により相の同定を行った所、C12A7相が確認された。また、この粉末は濃い緑色を呈していた。さらに、破砕した試料の破面に対し市販のテスター又は市販の絶縁抵抗計で導通を調べた所、導通が確認され、導電率は110[S/cm]であった。また、化学分析により窒素含有量を定量した所、窒素含有量は1.10[wt%]であった。
【0029】
〔実施例3−1〕
実施例3−1では、市販の炭酸カルシウム粉末(比表面積5.5[m/g])と市販の酸化アルミニウム粉末(比表面積141[m/g])と市販の窒化アルミニウム粉末(比表面積2.6[m/g])を24.0:13.5:1.0のモル比で秤量した点と、溶融処理時の雰囲気を乾燥アルゴン雰囲気にした点以外は実施例2−1と同様にして試料を得た。溶融凝固体表面のグラファイトシートを機械加工により除去した後、試料を破砕し、一部試料に関しては更に粉砕し、粉末状とした後にX線回折により相の同定を行った所、C12A7相が確認された(図4)。また、この粉末は濃い緑色を呈していた。さらに、破砕した試料の破面に対し市販のテスター又は市販の絶縁抵抗計で導通を調べた所、導通が確認され、導電率は105[S/cm]であった。また、化学分析により窒素含有量を定量した所、窒素含有量は0.31[wt%]であった。
【0030】
〔実施例3−2〕
実施例3−2では、市販の炭酸カルシウム粉末(比表面積5.5[m/g])と市販の酸化アルミニウム粉末(比表面積141[m/g])と市販の窒化アルミニウム粉末(比表面積2.6[m/g])を12.0:6.6:0.8のモル比で秤量した以外は実施例3−1と同様にして試料を得た。溶融凝固体表面のグラファイトシートを機械加工により除去した後、試料を破砕し、一部試料に関しては更に粉砕し、粉末状とした後にX線回折により相の同定を行った所、C12A7相が確認された。また、この粉末は濃い緑色を呈していた。さらに、破砕した試料の破面に対し市販のテスター又は市販の絶縁抵抗計で導通を調べた所、導通が確認され、導電率は170[S/cm]であった。また、化学分析により窒素含有量を定量した所、窒素含有量は0.49[wt%]であった。
【0031】
〔実施例3−3〕
実施例3−3では、市販の炭酸カルシウム粉末(比表面積5.5[m/g])と市販の酸化アルミニウム粉末(比表面積141[m/g])と市販の窒化アルミニウム粉末(比表面積2.6[m/g])を12.0:6.2:1.6のモル比で秤量した以外は実施例3−1と同様にして試料を得た。溶融凝固体表面のグラファイトシートを機械加工により除去した後、試料を破砕し、一部試料に関しては更に粉砕し、粉末状とした後にX線回折により相の同定を行った所、C12A7相が確認された。また、この粉末は濃い緑色を呈していた。さらに、破砕した試料の破面に対し市販のテスター又は市販の絶縁抵抗計で導通を調べた所、導通が確認され、導電率は140[S/cm]であった。また、化学分析により窒素含有量を定量した所、窒素含有量は0.92[wt%]であった。
【0032】
〔実施例4−1〕
実施例4−1では、始めに、市販の炭酸カルシウム粉末(比表面積5.5[m/g])と市販の酸化アルミニウム粉末(比表面積141[m/g])を12.0:7.0のモル比で秤量し、これら粉末を水媒体により湿式混合,乾燥した後、篩に通すことにより混合粉体を得た。次に、混合粉体を1200[℃]の大気雰囲気下で4時間熱処理することにより固相反応を生じさせ、C12A7粉末を合成した。なお、C12A7であるか否かは、固相合成後の粉体のX線回折図形により確認した。
【0033】
次に、内面に市販のグラファイトシート(商品名:グラフォイル)を敷き詰めたグラファイト坩堝中(内面サイズφ40×H70[mm])にC12A7粉末を一軸プレスしたペレット及び粉末を充填した後、グラファイト坩堝の開口部にグラファイト製の蓋を載置した。なおこの時、グラファイト坩堝と蓋の間の隙間によってグラファイト坩堝内部と外部の通気性は確保されていた。次に、グラファイト坩堝を一回り大きな上記と同様の蓋付きのグラファイト坩堝内に入れ、二重坩堝を市販のカーボン炉に入れ、乾燥窒素雰囲気下、1600[℃],2時間の溶融処理を行った後に室温まで冷却した。カーボン炉の冷却速度は300[℃/h]であった。
【0034】
次に、グラファイト坩堝内より溶融凝固体を取り出した。この際、溶融凝固体とグラファイト坩堝の固着は生じておらず、溶融凝固体は容易に取り出せた。但し、溶融凝固体表面上でグラファイト坩堝と接していた曲面にはグラファイトシートが付着していた。次に、溶融凝固体表面のグラファイトシートを機械加工により除去した後、試料を破砕し、一部試料に関しては更に粉砕し、粉末状とした後にX線回折により相の同定を行った所、C12A7相が確認された。また、この粉末は濃い緑色を呈していた。さらに、破砕した試料の破面に対し市販のテスター又は市販の絶縁抵抗計で導通を調べた所、導通が確認され、導電率は123[S/cm]であった。また、化学分析により窒素含有量を定量した所、窒素含有量は0.33[wt%]であった。
【0035】
〔実施例4−2〕
実施例4−2では、乾燥窒素雰囲気下、1600[℃],4時間の溶融処理を行った後に室温まで冷却した以外は実施例4−1と同様にして試料を得た。溶融凝固体表面のグラファイトシートを機械加工により除去した後、試料を破砕し、一部試料に関しては更に粉砕し、粉末状とした後にX線回折により相の同定を行った所、C12A7相が確認された。また、この粉末は濃い緑色を呈していた。さらに、破砕した試料の破面に対し市販のテスター又は市販の絶縁抵抗計で導通を調べた所、導通が確認され、導電率は169[S/cm]であった。また、化学分析により窒素含有量を定量した所、窒素含有量は0.49[wt%]であった。
【0036】
〔実施例4−3〕
実施例4−3では、乾燥窒素雰囲気下、1600[℃],8時間の溶融処理を行った後に室温まで冷却した以外は実施例4−1と同様にして試料を得た。溶融凝固体表面のグラファイトシートを機械加工により除去した後、試料を破砕し、一部試料に関しては更に粉砕し、粉末状とした後にX線回折により相の同定を行った所、C12A7相が確認された。また、この粉末は濃い緑色を呈していた。さらに、破砕した試料の破面に対し市販のテスター又は市販の絶縁抵抗計で導通を調べた所、導通が確認され、導電率は130[S/cm]であった。また、化学分析により窒素含有量を定量した所、窒素含有量は0.93[wt%]であった。
【0037】
〔実施例4−4〕
実施例4−4では、乾燥窒素雰囲気下、1600[℃],1時間の溶融処理を行った後に室温まで冷却する処理を2回繰り返し行った以外は実施例4−1と同様にして試料を得た。溶融凝固体表面のグラファイトシートを機械加工により除去した後、試料を破砕し、一部試料に関しては更に粉砕し、粉末状とした後にX線回折により相の同定を行った所、C12A7相が確認された。また、この粉末は濃い緑色を呈していた。さらに、破砕した試料の破面に対し市販のテスター又は市販の絶縁抵抗計で導通を調べた所、導通が確認され、導電率は125[S/cm]であった。また、化学分析により窒素含有量を定量した所、窒素含有量は0.40[wt%]であった。
【0038】
〔実施例4−5〕
実施例4−5では、乾燥窒素雰囲気下、1600[℃],2時間の溶融処理を行った後に室温まで冷却する処理を2回繰り返し行った以外は実施例4−1と同様にして試料を得た。溶融凝固体表面のグラファイトシートを機械加工により除去した後、試料を破砕し、一部試料に関しては更に粉砕し、粉末状とした後にX線回折により相の同定を行った所、C12A7相が確認された。また、この粉末は濃い緑色を呈していた。さらに、破砕した試料の破面に対し市販のテスター又は市販の絶縁抵抗計で導通を調べた所、導通が確認され、導電率は155[S/cm]であった。また、化学分析により窒素含有量を定量した所、窒素含有量は0.47[wt%]であった。
【0039】
〔実施例4−6〕
実施例4−6では、乾燥窒素雰囲気下、1600[℃],4時間の溶融処理を行った後に室温まで冷却する処理を2回繰り返し行った以外は実施例4−1と同様にして試料を得た。溶融凝固体表面のグラファイトシートを機械加工により除去した後、試料を破砕し、一部試料に関しては更に粉砕し、粉末状とした後にX線回折により相の同定を行った所、C12A7相が確認された。また、この粉末は濃い緑色を呈していた。さらに、破砕した試料の破面に対し市販のテスター又は市販の絶縁抵抗計で導通を調べた所、導通が確認され、導電率は122[S/cm]であった。また、化学分析により窒素含有量を定量した所、窒素含有量は1.01[wt%]であった。
【0040】
〔実施例5−1〕
実施例5−1では、始めに、市販の炭酸カルシウム粉末(比表面積5.5[m/g])と市販の酸化アルミニウム粉末(比表面積141[m/g])を12.0:7.0のモル比で秤量し、これら粉末を水媒体により湿式混合,乾燥した後、篩に通すことにより混合粉体を得た。次に、混合粉体を1200[℃]の大気雰囲気下で4時間熱処理することにより固相反応を生じさせ、C12A7粉末を合成した。なお、C12A7であるか否かは、固相合成後の粉体のX線回折図形により確認した。
【0041】
次に、内面に市販のグラファイトシート(商品名:グラフォイル)を敷き詰めたグラファイト坩堝中(内面サイズφ40×H70[mm])にC12A7粉末を一軸プレスしたペレット及び粉末を充填した後、グラファイト坩堝の開口部にグラファイト製の蓋を載置した。なおこの時、グラファイト坩堝と蓋の間の隙間によってグラファイト坩堝内部と外部の通気性は確保されていた。次に、グラファイト坩堝を一回り大きな上記と同様の蓋付きのグラファイト坩堝内に入れ、二重坩堝を市販のカーボン炉に入れ、乾燥窒素雰囲気下で1600[℃],1時間溶融させた後に凝固させ、凝固体を1400[℃]で24時間焼鈍する処理を行った後に室温まで冷却した。カーボン炉の冷却速度は300[℃/h]であった。
【0042】
次に、グラファイト坩堝内より溶融凝固体を取り出した。この際、溶融凝固体とグラファイト坩堝の固着は生じておらず、溶融凝固体は容易に取り出せた。但し、溶融凝固体表面上でグラファイト坩堝と接していた曲面にはグラファイトシートが付着していた。次に、溶融凝固体表面のグラファイトシートを機械加工により除去した後、試料を破砕し、一部試料に関しては更に粉砕し、粉末状とした後にX線回折により相の同定を行った所、C12A7相が確認された。また、この粉末は濃い緑色を呈していた。さらに、破砕した試料の破面に対し市販のテスター又は市販の絶縁抵抗計で導通を調べた所、導通が確認され、導電率は121[S/cm]であった。また、化学分析により窒素含有量を定量した所、窒素含有量は0.32[wt%]であった。
【0043】
〔実施例5−2〕
実施例5−2では、焼鈍時間を48時間にした以外は実施例5−1と同様にして試料を得た。溶融凝固体表面のグラファイトシートを機械加工により除去した後、試料を破砕し、一部試料に関しては更に粉砕し、粉末状とした後にX線回折により相の同定を行った所、C12A7相が確認された。また、この粉末は濃い緑色を呈していた。さらに、破砕した試料の破面に対し市販のテスター又は市販の絶縁抵抗計で導通を調べた所、導通が確認され、導電率は186[S/cm]であった。また、化学分析により窒素含有量を定量した所、窒素含有量は0.71[wt%]であった。
【0044】
〔実施例5−3〕
実施例5−3では、溶融時間を4時間にした以外は実施例5−1と同様にして試料を得た。溶融凝固体表面のグラファイトシートを機械加工により除去した後、試料を破砕し、一部試料に関しては更に粉砕し、粉末状とした後にX線回折により相の同定を行った所、C12A7相が確認された。また、この粉末は濃い緑色を呈していた。さらに、破砕した試料の破面に対し市販のテスター又は市販の絶縁抵抗計で導通を調べた所、導通が確認され、導電率は216[S/cm]であった。また、化学分析により窒素含有量を定量した所、窒素含有量は0.67[wt%]であった。
【0045】
〔実施例5−4〕
実施例5−4では、焼鈍時間を48時間にした以外は実施例5−3と同様にして試料を得た。溶融凝固体表面のグラファイトシートを機械加工により除去した後、試料を破砕し、一部試料に関しては更に粉砕し、粉末状とした後にX線回折により相の同定を行った所、C12A7相が確認された。また、この粉末は濃い緑色を呈していた。さらに、破砕した試料の破面に対し市販のテスター又は市販の絶縁抵抗計で導通を調べた所、導通が確認され、導電率は220[S/cm]であった。また、化学分析により窒素含有量を定量した所、窒素含有量は0.85[wt%]であった。
【0046】
〔比較例1−1〕
比較例1−1では、乾燥窒素雰囲気下、1600[℃],1時間の溶融処理を行った後に室温まで冷却する処理を1回のみにした以外は実施例1−1と同様にして試料を得た。溶融凝固体表面のグラファイトシートを機械加工により除去した後、試料を破砕し、一部試料に関しては更に粉砕し、粉末状とした後にX線回折により相の同定を行った所、C12A7相が確認された。また、この粉末は濃い緑色を呈していた。さらに、破砕した試料の破面に対し市販のテスター又は市販の絶縁抵抗計で導通を調べた所、導通が確認され、導電率は50[S/cm]であった。また、化学分析により窒素含有量を定量した所、窒素含有量は0.23[wt%]であった。
【0047】
〔比較例1−2〕
比較例1−2では、乾燥窒素雰囲気下、1600[℃],1時間の溶融処理を行った後に室温まで冷却する処理を12回にした以外は実施例1−1と同様にして試料を得た。溶融凝固体表面のグラファイトシートを機械加工により除去した後、試料を破砕し、一部試料に関しては更に粉砕し、粉末状とした後にX線回折により相の同定を行った所、C12A7相が確認された。また、この粉末は濃い緑色を呈していた。さらに、破砕した試料の破面に対し市販のテスター又は市販の絶縁抵抗計で導通を調べた所、導通が確認され、導電率は95[S/cm]であった。また、化学分析により窒素含有量を定量した所、窒素含有量は1.15[wt%]であった。
【0048】
〔比較例2−1〕
比較例2−1では、市販の炭酸カルシウム粉末(比表面積5.5[m/g])と市販の酸化アルミニウム粉末(比表面積141[m/g])と市販の窒化アルミニウム粉末(比表面積2.6[m/g])を24.0:13.9:0.2のモル比で秤量した以外は実施例2−1と同様にして試料を得た。溶融凝固体表面のグラファイトシートを機械加工により除去した後、試料を破砕し、一部試料に関しては更に粉砕し、粉末状とした後にX線回折により相の同定を行った所、C12A7相が確認された。また、この粉末は濃い緑色を呈していた。さらに、破砕した試料の破面に対し市販のテスター又は市販の絶縁抵抗計で導通を調べた所、導通が確認され、導電率は65[S/cm]であった。また、化学分析により窒素含有量を定量した所、窒素含有量は0.25[wt%]であった。
【0049】
〔比較例2−2〕
比較例2−2では、市販の炭酸カルシウム粉末(比表面積5.5[m/g])と市販の酸化アルミニウム粉末(比表面積141[m/g])と市販の窒化アルミニウム粉末(比表面積2.6[m/g])を12.0:6.0:2.0のモル比で秤量した以外は実施例2−1と同様にして試料を得た。溶融凝固体表面のグラファイトシートを機械加工により除去した後、試料を破砕し、一部試料に関しては更に粉砕し、粉末状とした後にX線回折により相の同定を行った所、C12A7相が確認された。また、この粉末は濃い緑色を呈していた。さらに、破砕した試料の破面に対し市販のテスター又は市販の絶縁抵抗計で導通を調べた所、導通が確認され、導電率は50[S/cm]であった。また、化学分析により窒素含有量を定量した所、窒素含有量は1.35[wt%]であった。
【0050】
〔比較例3−1〕
比較例3−1では、市販の炭酸カルシウム粉末(比表面積5.5[m/g])と市販の酸化アルミニウム粉末(比表面積141[m/g])と市販の窒化アルミニウム粉末(比表面積2.6[m/g])を12.0:7.0:0.0のモル比で秤量した以外は実施例3−1と同様にして試料を得た。溶融凝固体表面のグラファイトシートを機械加工により除去した後、試料を破砕し、一部試料に関しては更に粉砕し、粉末状とした後にX線回折により相の同定を行った所、C3A(3CaO・Al)相とCA(CaO・Al)相が確認された(図5)。また、この粉末は灰色を呈していた。さらに、破砕した試料の破面に対し市販のテスター又は市販の絶縁抵抗計で導通を調べた所、導通は確認されなかった。また、化学分析により窒素含有量を定量した所、窒素含有量は0.01[wt%]未満であった。
【0051】
〔比較例3−2〕
比較例3−2では、市販の炭酸カルシウム粉末(比表面積5.5[m/g])と市販の酸化アルミニウム粉末(比表面積141[m/g])と市販の窒化アルミニウム粉末(比表面積2.6[m/g])を24.0:13.9:0.2のモル比で秤量した以外は実施例3−1と同様にして試料を得た。溶融凝固体表面のグラファイトシートを機械加工により除去した後、試料を破砕し、一部試料に関しては更に粉砕し、粉末状とした後にX線回折により相の同定を行った所、C12A7相が確認された。また、この粉末は濃い緑色を呈していた。さらに、破砕した試料の破面に対し市販のテスター又は市販の絶縁抵抗計で導通を調べた所、導通が確認され、導電率は13[S/cm]であった。また、化学分析により窒素含有量を定量した所、窒素含有量は0.05[wt%]であった。
【0052】
〔比較例3−3〕
比較例3−3では、市販の炭酸カルシウム粉末(比表面積5.5[m/g])と市販の酸化アルミニウム粉末(比表面積141[m/g])と市販の窒化アルミニウム粉末(比表面積2.6[m/g])を12.0:6.0:2.0のモル比で秤量した以外は実施例3−1と同様にして試料を得た。溶融凝固体表面のグラファイトシートを機械加工により除去した後、試料を破砕し、一部試料に関しては更に粉砕し、粉末状とした後にX線回折により相の同定を行った所、C12A7相が確認された。また、この粉末は濃い緑色を呈していた。さらに、破砕した試料の破面に対し市販のテスター又は市販の絶縁抵抗計で導通を調べた所、導通が確認され、導電率は80[S/cm]であった。また、化学分析により窒素含有量を定量した所、窒素含有量は1.19[wt%]であった。
【0053】
〔比較例3−4〕
比較例3−4では、市販の炭酸カルシウム粉末(比表面積5.5[m/g])と市販の酸化アルミニウム粉末(比表面積141[m/g])と市販の窒化アルミニウム粉末(比表面積2.6[m/g])を12.0:7.0:0.0のモル比で秤量した点と、乾燥窒素雰囲気下、1600[℃],1時間の溶融処理を行った後に室温まで冷却する処理を2回行った以外は実施例3−1と同様にして試料を得た。溶融凝固体表面のグラファイトシートを機械加工により除去した後、試料を破砕し、一部試料に関しては更に粉砕し、粉末状とした後にX線回折により相の同定を行った所、C12A7相が確認された(図4)。また、この粉末は濃い緑色を呈していた。さらに、破砕した試料の破面に対し市販のテスター又は市販の絶縁抵抗計で導通を調べた所、導通が確認され、導電率は5[S/cm]であった。また、化学分析により窒素含有量を定量した所、窒素含有量は0.03[wt%]であった。
【0054】
〔比較例4−1〕
比較例4−1では、乾燥窒素雰囲気下、1600[℃],12時間の溶融処理を行った後に室温まで冷却した以外は実施例4−1と同様にして試料を得た。溶融凝固体表面のグラファイトシートを機械加工により除去した後、試料を破砕し、一部試料に関しては更に粉砕し、粉末状とした後にX線回折により相の同定を行った所、C12A7相が確認された。また、この粉末は濃い緑色を呈していた。さらに、破砕した試料の破面に対し市販のテスター又は市販の絶縁抵抗計で導通を調べた所、導通が確認され、導電率は75[S/cm]であった。また、化学分析により窒素含有量を定量した所、窒素含有量は1.22[wt%]であった。
【0055】
以上の結果を表1〜表3にまとめる。
【表1】

【表2】

【表3】

【0056】
〔評価〕
上記実施例及び比較例のC12A7多結晶体から得られた知見を以下に述べる。
【0057】
(1)実施例1−1〜3と比較例1−1,2のC12A7多結晶体の比較から明らかなように、乾燥窒素雰囲気下、1600[℃],1時間の溶融処理を行った後に室温まで冷却する処理を2〜8回行った場合、C12A7多結晶体の導電率が125[S/cm]以上になることが確認された。
【0058】
(2)実施例2−1〜5と比較例2−1,2のC12A7多結晶体の比較から明らかなように、乾燥窒素雰囲気下で溶融凝固処理を行い、且つ、窒化アルミニウム粉末の添加量を0.6〜3.5[wt%]の範囲内に制御した場合、C12A7多結晶体の導電率が110[S/cm]以上になることが確認された。
【0059】
(3)実施例3−1〜3と比較例3−1〜4のC12A7多結晶体の比較から明らかなように、乾燥アルゴンガス雰囲気下で溶融凝固処理を行い、且つ、窒化アルミニウム粉末の添加量を1.6〜4.8[wt%]の範囲内に制御した場合、C12A7多結晶体の導電率が105[S/cm]以上になることが確認された。
【0060】
(4)実施例1−1〜3と実施例2−1〜5,3−1〜3のC12A7多結晶体の比較から明らかなように、窒化アルミニウム粉末を添加した場合には、雰囲気に関係なく1回の溶融凝固処理により高い導電率を有するC12A7多結晶体が得られることが確認された。従来のC12A7多結晶体の製造方法によれば、溶融凝固処理を2回行わなければならなかった。このため、従来の製造方法によれば、製造コストを低減し、導電性を有するC12A7多結晶体を生産性高く製造することができなかった。従って、本製造方法によれば、溶融凝固処理の回数が1回になることにより、導電性を有するC12A7多結晶体を生産性高く製造することできる。
【0061】
(5)実施例4−1〜6と比較例1−1,1−2,4−1のC12A7多結晶体の比較から明らかなように(図6参照)、乾燥窒素雰囲気下で2〜8時間溶融凝固処理を行った場合、C12A7多結晶体の導電率が122[S/cm]以上になることが確認された。
【0062】
(6)実施例5−1〜4と比較例1−1,実施例4−2のC12A7多結晶体の比較から明らかなように(図7参照)、乾燥窒素雰囲気下で焼鈍処理を行った場合、C12A7多結晶体の導電率が121[S/cm]以上になることが確認された。
【0063】
(7)表1〜表3を参照して実施例と比較例のC12A7多結晶体について窒素含有量と導電率の関係をグラフ化すると図8に示すようになる。この図から明らかなように、窒素含有量を0.3〜1.1[wt%]の範囲内に制御することにより導電率が100[S/cm]以上となり、窒素含有量を0.5〜0.9[wt%]の範囲内に制御することにより導電率が150[S/cm]以上となることが明らかになった。この導電率の値は、従来までに報告されているC12A7多結晶体の導電率よりも明らかに高い。このことから、C12A7多結晶体に窒素を含有させ、さらには窒素含有量を所定範囲内に制御することにより、高い導電性を有する12CaO・7Al多結晶体を製造できることが知見された。
【0064】
以上、本発明者らによってなされた発明を適用した実施の形態について説明したが、この実施の形態による本発明の開示の一部をなす論述及び図面により本発明は限定されることはない。すなわち、上記実施の形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施の形態、実施例及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれることは勿論であることを付け加えておく。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】固相合成後の実施例1−1の粉体から得られたX線回折図形を示す。
【図2】2回の溶融凝固処理後の実施例1−1の粉体から得られたX線回折図形である。
【図3】1回の溶融凝固処理後の実施例2−1の粉体から得られたX線回折図形を示す。
【図4】1回の溶融凝固処理後の実施例3−1の粉体から得られたX線回折図形を示す。
【図5】1回の溶融凝固処理後の比較例3−1の粉体から得られたX線回折図形を示す。
【図6】実施例4−1〜6と比較例1−1,1−2,4−1のC12A7多結晶体の導電率を示す図である。
【図7】実施例5−1〜4と比較例1−1,実施例4−2のC12A7多結晶体の導電率を示す図である。
【図8】実施例及び比較例のC12A7多結晶体の窒素含有量と導電率の関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物に換算して概略12CaO・7Alの組成を有し、所定量の窒素を含有することを特徴とする導電性セラミックス材料。
【請求項2】
請求項1に記載の導電性セラミックス材料において、前記所定量は0.3[wt%]以上1.1[wt%]以下の範囲内にあることを特徴とする導電性セラミックス材料。
【請求項3】
カルシウム源粉末とアルミニウム源粉末とを坩堝内に配置する工程と、
前記坩堝の開口部に蓋を載置する工程と、
蓋が載置された坩堝を溶融炉内に導入し、乾燥窒素雰囲気で坩堝内の粉末を溶融させた後に冷却凝固させる処理を複数回繰り返し行う工程と
を有することを特徴とする導電性セラミックス材料の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の導電性セラミックス材料の製造方法において、乾燥窒素雰囲気で坩堝内の粉末を溶融させた後に冷却凝固させる処理を2乃至8回繰り返し行うことを特徴とする導電性セラミックス材料の製造方法。
【請求項5】
カルシウム源粉末と少なくとも窒化アルミニウムが添加されたアルミニウム源粉末とを坩堝内に配置する工程と、
前記坩堝の開口部に蓋を載置する工程と、
蓋が載置された坩堝を溶融炉内に導入し、乾燥窒素雰囲気又は乾燥アルゴン雰囲気において坩堝内の粉末を溶融させた後に冷却凝固させる処理を行う工程と
を有することを特徴とする導電性セラミックス材料の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の導電性セラミックス材料の製造方法において、乾燥窒素雰囲気において坩堝内の粉末を溶融させた後に冷却凝固させる場合、前記窒化アルミニウムを0.6[wt%]以上3.5[wt%]以下の範囲内で添加することを特徴とする導電性セラミックス材料の製造方法。
【請求項7】
請求項5に記載の導電性セラミックス材料の製造方法において、乾燥アルゴン雰囲気において坩堝内の粉末を溶融させた後に冷却凝固させる場合、前記窒化アルミニウムを1.6[wt%]以上4.8[wt%]以下の範囲内で添加することを特徴とする導電性セラミックス材料の製造方法。
【請求項8】
カルシウム源粉末とアルミニウム源粉末とを坩堝内に配置する工程と、
前記坩堝の開口部に蓋を載置する工程と、
蓋が載置された坩堝を溶融炉内に導入し、乾燥窒素雰囲気において坩堝内の粉末を2時間以上溶融させた後に冷却凝固させる処理を行う工程と
を有することを特徴とする導電性セラミックス材料の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の導電性セラミックス材料の製造方法において、乾燥窒素雰囲気において坩堝内の粉末を2時間以上8時間以下溶融させた後に冷却凝固させることを特徴とする導電性セラミックス材料の製造方法。
【請求項10】
カルシウム源粉末とアルミニウム源粉末とを坩堝内に配置する工程と、
前記坩堝の開口部に蓋を載置する工程と、
蓋が載置された坩堝を溶融炉内に導入し、乾燥窒素雰囲気において坩堝内の粉末を溶融させた後に冷却凝固させる処理を行う工程と、
凝固体を乾燥窒素雰囲気において焼鈍させる処理と
を有することを特徴とする導電性セラミックス材料の製造方法。
【請求項11】
請求項10に記載の導電性セラミックス材料の製造方法において、乾燥窒素雰囲気において凝固体を焼鈍させる時間が24時間以上であることを特徴とする導電性セラミックス材料の製造方法。
【請求項12】
請求項10又は請求項11に記載の導電性セラミックス材料の製造方法において、乾燥窒素雰囲気において凝固体を焼鈍させる温度が1350℃以上1450℃以下の範囲内にあることを特徴とする導電性セラミックス材料の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2009−23899(P2009−23899A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−130855(P2008−130855)
【出願日】平成20年5月19日(2008.5.19)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】