説明

導電性ペースト

【課題】発色性や電気特性を損なうことなく、低コストでもって良好な耐酸性を有する防曇機能に優れた導電性ペーストを実現する。
【解決手段】Ag粒子と、ガラスフリットと、有機ビヒクルとを含み、前記ガラスフリットが、少なくとも45モル%〜60モル%のSiO、5モル%〜25モル%のBi、15モル%未満(0モル%を含む。)のRO(RはNa、Li、及びKの中から選択された少なくとも1種を示す。)、及び1モル%〜15モル%のFを含有し、軟化点が500℃以下である。ガラスフリットが、B、ZnO、CuO及びMnOの中から選択された少なくとも1種の酸化物を25モル%以下の範囲で含有していてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は導電性ペーストに関し、より詳しくは車両用窓ガラス等の防曇に適した導電性ペーストに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車のリアウインドウ等、車両用窓ガラスの防曇対策として、導電性ペーストをガラス基板上で線状に焼き付けた防曇ガラス(ガラス物品)が知られている。該防曇ガラスは、線状の導電膜に通電することにより発熱し、窓ガラスの防曇機能を発揮すると共に、外部からは高級感を漂わせるような暗褐色となるように発色性(意匠性)を有することが要求されている。
【0003】
そして、例えば、特許文献1では、400℃〜650℃の軟化点で比粘性log(eta)が7.6ポアズ、500℃において2〜700℃において5の範囲のlog(eta)比粘性を有し、65〜95重量%のBi、2〜15重量%のSiO、0.1〜9重量%のB、0〜5重量%のAl、0〜5重量%のCaO及び0〜20重量%のZnOより本質的になる無鉛ガラス組成物の微細な粒子と、導電性粒子とからなり、前記無鉛ガラス組成物の微細な粒子及び導電性粒子は、すべて有機媒体中に分散されている硬質基体上に導体パターンを形成させるのに適当なスクリーン印刷可能とされた厚膜ペースト組成物が提案されている。
【0004】
また、特許文献2には、Ag粉末等の導電成分と、B−Bi−O系ガラスフリットと、ビヒクルとを含有した導電性ペーストが提案されている。
【0005】
特許文献2では、ガラスフリットが、B:10.0〜60.0モル%、SiO:50.0モル%以下(ただし、0モル%を含まず。)、Bi:40.0〜90.0モル%を含有した導電性ペーストを使用してガラス基板上に回路を形成することにより、はんだ付け性が良好な自動車窓用防曇ガラスを得ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表平09−501136号公報
【特許文献2】特開2000−48642号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上述した防曇ガラスは、ガラス基板上のスズ皮膜とのはんだ接合性が良好で発色性(意匠性)に優れている他、近年では酸性雨対策として耐酸性に優れていることが要求されている。したがって、発色性等を損なうことなく耐酸性に優れた導電性ペーストを低コストで実現できることが必要となる。
【0008】
しかしながら、特許文献1は、耐酸性を支配するSiOの含有量が2〜15重量%と少ないため、十分な所望の耐酸性を得ることができないという問題点があった。
【0009】
また、特許文献2は、SiOの含有量が50重量%と比較的多く、はんだ耐熱性やはんだ濡れ性の良好な導電性ペーストを得ることは可能であるが、焼成温度が640℃と高いため、コスト高を招いていた。
【0010】
本発明はこのような事情に鑑みなされたものであって、発色性や電気特性を損なうことなく、低コストでもって良好な耐酸性を有する防曇機能に優れた導電性ペーストを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
ガラス組成物は、網目構造を有しガラスを形成することができるガラス形成酸化物と、ガラス化はしないがガラスに取り込まれることにより、ガラス形成酸化物の網目構造を切断する網目修飾酸化物と、ガラス形成酸化物と組み合わされてガラス化を容易にする中間酸化物で構成される。ガラス形成酸化物としては、例えば、SiOやBを挙げることができ、網目修飾酸化物としては、例えば、NaO等のアルカリ酸化物を挙げることができ、中間酸化物としては、例えばBiやAlを挙げることができる。
【0012】
そして、車両用窓ガラス等に使用される防曇ガラスとしては、上述したように耐酸性が求められている。
【0013】
そこで、本発明者らは鋭意研究を行ったところ、導電性ペーストの耐酸性は、ガラスフリットに含有されるSiOに支配され、所望の耐酸性を確保するためには、少なくとも45モル%以上のSiOをガラスフリット中に含有させる必要のあるという知見を得た。
【0014】
一方、より一層の低温焼成化を達成して低コスト化を図るためには、ガラスフリットの軟化点を低下させる必要があり、そのためには、ガラスフリットの主成分であるSiOの網目構造の連結環を切断し、結合エネルギーを低下させる必要がある。
【0015】
しかしながら、網目修飾酸化物として知られているアルカリ酸化物を多量に使用して網目構造を切断した場合、軟化点は低下させることができるものの、耐酸性が著しくて低下することが分かった。
【0016】
そこで、本発明者らが鋭意研究を重ねたところ、ガラスフリット中にF(フッ素)を取り込み、このFでSiOの網目構造を切断することにより、耐酸性を損なうことなく軟化点を500℃以下に低下することができ、これにより低温焼成しても十分なはんだ接合性を有する導電性ペーストを得ることができるという知見を得た。
【0017】
本発明はこのような知見に基づきなされたものであって、本発明に係る導電性ペーストは、Ag粒子と、ガラスフリットと、有機ビヒクルとを含み、前記ガラスフリットが、少なくとも45モル%〜60モル%のSiO、5モル%〜25モル%のBi、15モル%未満(0モル%を含む。)のRO(RはNa、Li、及びKの中から選択された少なくとも1種を示す。)、及び1モル%〜15モル%のFを含有し、軟化点が500℃以下であることを特徴としている。
【0018】
さらに、本発明の導電性ペーストは、前記ガラスフリットが、B、ZnO、CuO及びMnOの中から選択された少なくとも1種の酸化物を25モル%以下の範囲で含有していることを特徴としている。
【0019】
また、発色性の観点からは、モリブデン化合物を含有させるのが好ましい。
【0020】
すなわち、本発明の導電性ペーストは、モリブデン化合物が含有されていることを特徴とするのも好ましく、その含有量はAg粉末及びガラスフリットの総体積に対して2体積%以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明の導電性ペーストによれば、Ag粒子と、ガラスフリットと、有機ビヒクルとを含み、前記ガラスフリットが、少なくとも45モル%〜60モル%のSiO、5モル%〜25モル%のBi、15モル%未満(0モル%を含む。)のRO(RはNa、Li、及びKの中から選択された少なくとも1種を示す。)、及び1モル%〜15モル%のFを含有し、軟化点が500℃以下であるので、耐酸性を向上させつつ、軟化点を低下させることが可能となる。すなわち、耐酸性の良好な導電性ペーストの低温焼成化が可能となり、したがって耐酸性と低コスト化の両立が可能となり、防曇ガラスに好適な導電性ペーストを実現することができる。
【0022】
また、前記ガラスフリットが、B、ZnO、CuO及びMnOの中から選択された少なくとも1種の酸化物を25モル%以下含有しているので、上述した所望の導電性ペーストを得ることができる。
【0023】
また、モリブデン化合物が含有されているので、発色性のより一層の向上を図ることができる導電性ペーストを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る導電性ペーストを使用して製造されたガラス物品の一実施の形態を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
次に、本発明の実施の形態を詳説する。
【0026】
本発明の一実施の形態としての導電性ペーストは、Ag粒子と、ガラスフリットと、有機ビヒクルとを含み、前記ガラスフリットが、45モル%〜60モル%のSiO、5モル%〜25モル%のBi、及び1モル%〜15モル%のFを含有し、軟化点が500℃以下とされている。
【0027】
上記導電性ペーストは、ガラスフリットが上述した組成を有することにより、耐酸性に優れ、かつ自動車のリアウインドウ等の車両用窓ガラスに適した防曇ガラスを得ることができる。
【0028】
また、ガラスフリットの軟化点が500℃以下であるので、当該導電性ペーストをガラス基板上に印刷・焼成して導電膜を形成する場合であっても、より一層の低温焼成を行うことができ、はんだ接続の信頼性を損なうことなく低コスト化を実現することが可能となる。
【0029】
次に、ガラスフリットを上記組成にし、かつ軟化点を500℃以下にした理由を述べる。
【0030】
(1)SiO
防曇ガラスの発熱線となる導電性ペーストの耐酸性を向上させるためには、SiOの含有モル量を増加させるのが好ましく、所望の十分な耐酸性を得るためには、ガラスフリット中に少なくとも45モル%以上含有させる必要である。一方、SiOの含有モル量が60モル%を超えると、軟化点を500℃以下に抑制するのが困難となり、所望の低温焼成を行うことができなくなるおそれがある。
【0031】
そこで、本実施の形態では、SiOの含有量が45モル%〜60モル%となるようにガラスフリットの成分組成を調整している。
【0032】
(2)Bi
Biはガラス形成酸化物であるSiOのガラス化を容易にするために添加される。そして、斯かる作用を奏するためには少なくとも5モル%以上含有させる必要がある。しかしながら、Biの含有モル量が25モル%を超えるとガラスフリットの耐酸性低下を招くおそれがある、
そこで、本実施の形態では、Biの含有モル量が5モル%〜25モル%となるようにガラスフリットの成分組成を調整している。
【0033】
(3)R
SiOの網目構造の連結環を切断することにより結合エネルギーが低下し、これにより導電性ペーストの軟化点を低下させることができる。そして、アルカリ酸化物ROは網目修飾酸化物としての作用を有するため、アルカリ酸化物ROをガラスフリットに添加させ、SiOをアルカリ金属元素化物ROで侵食させて網目構造を切断することができる。
【0034】
しかしながら、アルカリ金属酸化物ROを、15モル%を超えて含有させると、軟化点の低下には効果的であるが、耐酸性の著しい低下を招くおそれがある。
【0035】
そこで、本実施の形態では、アルカリ金属酸化物ROは15モル%未満となるようにガラスフリットの成分組成を調整している。
【0036】
(4)F
上述したように軟化点を低下させるためには、SiOの網目構造の連結環を切断する必要があるが、アルカリ金属元素酸化物ROのみで網目構造を切断して軟化点を低下させたのでは耐酸性が著しく低下する。
【0037】
そこで、本実施の形態では、Fを1モル%以上添加し、このFでSiOの網目構造を切断することにより、耐酸性の低下を抑制しつつ、軟化点を500℃以下に低下させている。
【0038】
ただし、Fの含有モル量が15モル%を超えると、網目構造が過度に切断されて耐酸性が低下するおそれがある。
【0039】
このため本実施の形態では、Fの含有モル量が1〜15モル%となるように調整している。
【0040】
尚、上記ガラスフリットの組成系は特に限定されるものではない。また、ガラスフリットは、SiO、Bi,RO、Fが上述した範囲内であればよく、種々の添加物、例えば、必要に応じてB、ZnO、CuO、及びMnOの中から選択された1種を含んでいてもよい。ただし、B、ZnO、CuO及びMnOの含有モル量が25モル%を超えると、耐酸性の低下を招くおそれがある。したがって、これら酸化物を含有させる場合は、25モル%以下の範囲とするのが好ましい。
【0041】
上記導電性ペーストは以下のようにして製造することができる。
【0042】
まず、ガラスフリットを作製する。すなわち、ガラス素原料として、SiO、Bi、及びNaF、BiF等のフッ素化合物、NaCO、LiCO、KCO等のアルカリ化合物、さらには必要に応じてHBO等のホウ素化合物、ZnCO等の亜鉛化合物、CuO等の銅化合物、MnCO等のマンガン化合物を用意する。
【0043】
そして、これらガラス素原料を所定モル量秤量し、混合した後、アルミナ製の坩堝に入れ、温度1200℃程度で溶融させた後、急冷し、ガラス化させ、ガラス組成物を得る。
【0044】
次いで、この得られたガラス組成物をPSZ(部分安定化ジルコニア)ボールと共にボールミルに投入して粉砕し、平均粒径が0.5〜2.0μmのガラスフリットを作製する。
【0045】
次に、Ag粒子を用意する。Ag粒子の形状は、特に限定されるものではなく、例えば、球形状、扁平状、或いはこれらの混合物を使用することができる。
【0046】
Ag粒子の粒径も特に限定されるものではないが、球形状Ag粒子の場合は、平均粒径が0.1〜5μmが好ましい。Ag粒子の平均粒径が0.1μm未満の場合は、焼結時に導電膜上にガラス成分が浮いてしまい、リード線にはんだ接続する場合、はんだ濡れ不良が生じ易く、接続信頼性が低下するおそれがある。しかも、導電膜表面のAgが過焼結となり、比抵抗が過度に低くなったり断線するおそれが生じる。一方、Ag粒子の平均粒径が5μmを超えると、導電膜の抵抗が過度に大きくなったり、導電膜の凝集破壊が生じて焼結性が低下し、リード線との接続信頼性の低下を招くおそれがある。
【0047】
また、扁平状Ag粒子の場合は、SEM観察により得られた平均粒径が3〜10μmのものが好ましい。平均粒径が3μm未満の場合には、導電膜上のAgによる可視光の反射効果が低下し、暗褐色が薄くなって発色性を損なうおそれがある。一方、平均粒径が10μmを超えると、導電膜の焼結性が低下し、リード線との接続信頼性低下を招くおそれがある。
【0048】
次に、有機ビヒクルを作製する。この有機ビヒクルの組成成分も、特に限定されるものではなく、例えば、エチルセルロース、ニトロセルロース、アルキッド樹脂などを樹脂成分とし、ターピネオール、ブチルカルビトール、カルビトールアセテートなどを有機溶剤とし、樹脂成分が1〜40重量%となるように溶解したものを使用することができる。
【0049】
次いで、Ag粒子及びガラスフリットを、三本ロールミル等を使用して有機ビヒクル中で混練させ、有機ビヒクル中に均一に分散させ、導電性ペーストを作製する。
【0050】
Ag粒子、ガラスフリット、及び有機ビヒクルの各含有量は特に限定されるものではないが、例えば、導電性ペースト中にAg粒子の含有量は、10〜40体積%が好ましい。これは、焼成後の発熱線の抵抗値を好適な値とする必要があるが、含有量が低すぎると膜厚が低下して発熱線の抵抗値が上昇し、含有量が高すぎると膜厚が増加して抵抗値が低下するためである。
【0051】
また、ガラスフリットの含有量は、1〜10体積%が好ましい。ガラスフリットの含有量が1体積%未満になると、はんだ接合性が低下したり、発色性が低下するおそれがある。一方、前記含有量が10体積%を超えると、焼成後の導体表面にガラスが浮き上がり、はんだ濡れ性が低下し、はんだ接合性が低下するおそれがある。
【0052】
また、有機ビヒクルの含有量は、50〜75体積%が好ましい。有機ビヒクルの含有量が50体積%未満になると、導電性ペースト中の固形分に対する有機ビヒクルの濡れが不十分となり、導電性ペーストの粘度が高くなりすぎるおそれがある。また、有機ビヒクルの含有量が75体積%を超えると、導電性ペースト粘度が過度に低くなったり、焼成時に残炭が生じやすく焼結性低下を招くおそれがある。
【0053】
このように本実施の形態の導電性ペーストは、Ag粒子と、ガラスフリットと、有機ビヒクルとを含み、前記ガラスフリットが、少なくとも45モル%〜60モル%のSiO、15モル%未満のRO、5モル%〜25モル%のBi、及び1モル%〜15モル%以下のFを含有し、軟化点が500℃以下であるので、ガラスフリット中のSiOの網目構造をFによって切断させることが可能となる。そして、これにより良好な耐酸性を確保しつつ、軟化点を500℃以下に低下させることができ、低温焼成してもはんだ接合性が良好な車両用窓ガラスに適した防曇ガラスを実現することができる。
【0054】
尚、本発明においては、焼成後の電極膜の比抵抗値を調整するために、焼結抑制剤として、各種酸化物や金属を添加することができる。添加の形態は特に限定されるものでなく、酸化物粉末あるいは金属有機化合物の形態で添加でき、Al、ZrO、TiO、Pt、Rh、Si、Bi、Snなどを用いることができる。この場合の添加量は、金属重量換算でAgと焼結抑制剤の重量比率が100:0.01〜100:1.0の範囲にあるのが望ましい。
【0055】
また、本発明は、発色性向上を目的とし、必要に応じてケイ化モリブデン(MoSi)やホウ化モリブデン(MoB)等のモリブデン化合物などを含有させるのも好ましい。
【0056】
ただし、モリブデン化合物を含有させる場合は、Ag粉末及びガラスフリットの総体積に対して2体積%以下が好ましい。これを超えると耐酸性が劣化するおそれがあるからである。
【0057】
図1は上記導電性ペーストを使用して製造されたガラス物品の一実施の形態を示す正面図であって、該ガラス物品により防曇ガラスが形成される。
【0058】
このガラス物品は、ガラス基板1の表面に形成されたスズ被膜2の表面に、導電膜3が形成されている。
【0059】
該導電膜3は、具体的には、複数の発熱線4が平行状に列設されると共に、該発熱線4の両端部には電極5a、5bが形成されてなる。そして、前記導電膜3は、本発明の導電性ペーストを塗布した後、焼成することにより形成される。
【0060】
本ガラス物品は、導電膜3の形成面が車両の車内側となるように装着され、例えば、自動車のリアウインドウ用防曇ガラスとなる。
【0061】
そして、防曇ガラスに曇りが生じた場合、電極5a、5b間に電圧が印加されると、発熱線4に電流が流れ、発熱線4が発熱する。そして、上記発熱線3の発熱によって、ガラス基板1の曇りが除去され、防曇機能が発揮される。また、リアウインドウを車外より見たときは、導電膜3が暗褐色化されており、良好な発色性を有し、意匠性に優れたものとなる。
【0062】
尚、ガラス物品としては、上述したようなリアウインドウの他、例えば、サイドウインドウなどにも使用することができ、また自動車用以外のガラス物品にも使用することができる。
【0063】
次に、本発明の実施例を具体的に説明する。
【実施例】
【0064】
〔ガラスフリットの作製〕
ガラス素原料として、SiO、Bi、HBO、NaCO、LiCO、KCO、NaFを用意し、作製されるガラスフリットの組成がモル%で表1となるように秤量した。そして、これらを混合してアルミナ製の坩堝に入れ、温度1200℃で溶融させた後、急冷し、ガラス化させガラス組成物を作製した。
【0065】
次いで、この得られたガラス組成物をPSZボールと共にボールミルに投入して粉砕し、平均粒径が1.5μmからなる試料番号A〜Yのガラスフリットを作製した。
【0066】
次に、熱重量示差熱同時測定装置(SEIKO社製TG/DTA6300)を使用して各試料番号A〜Yのガラスフリットの軟化点を測定した。すなわち、アルミナ製容器に各試料20mgを入れ、標準試料をα−アルミナとし、流量100mL/分の空気を20℃/分の昇温速度で加熱しながら、熱重量(TG)曲線と示差熱(DTA)曲線とを作成した。そして、示差熱が急激に低下する点を軟化点とした。
【0067】
表1は試料番号A〜Yのガラスフリットの成分組成と軟化点を示している。
【0068】
【表1】

【0069】
試料番号B〜E、J、K、及びT〜Yのガラスフリットは、SiOの含有モル量が45モル%〜60モル%、F(フッ素)の含有モル量が1モル%〜15モル%、Biの含有モル量が5モル%〜25モル%、RO(Rは、Li、Na、又はK)の含有モル量が15モル%未満、軟化点が500℃以下であり、本発明の範囲のガラスフリットである。しかも、Bの含有モル量も25モル%以下と好ましい範囲に調製されている。
【0070】
これに対し試料番号A、F〜I、L〜Sのガラスフリットは本発明の範囲外である。
【0071】
すなわち、試料番号A、I、Rのガラスフリットは、F(フッ素)が含有されておらず、軟化点は500℃を超えている。
【0072】
また、ガラスフリットF〜H、Mは、F(フッ素)が含有されておらず、15モル%以上のNaOが含有されている。
【0073】
試料番号Lのガラスフリットは、NaOの含有モル量が15モル%である。
【0074】
試料番号Mのガラスフリットは、NaOの含有モル量が15モル%以上であり、F(フッ素)が含有されていない。
【0075】
試料番号Nのガラスフリットは、SiOの含有モル量が45モル%未満であり、F(フッ素)が含有されておらず、Biの含有モル量が25モル%を超えている。
【0076】
試料番号Oのガラスフリットは、SiOの含有モル量が45モル%未満であり、Biの含有モル量が25モル%を超えている。
【0077】
試料番号Pのガラスフリットは、SiOの含有モル量が45モル%未満であり、NaOの含有モル量が15モル%であり、F(フッ素)が含有されていない。
【0078】
試料番号Qのガラスフリットは、SiOの含有モル量が45モル%未満であり、NaOの含有モル量が15モル%である。
【0079】
試料番号Rのガラスフリットは、SiOの含有モル量が45モル%未満と少なく、Biの含有モル量が25モル%を超えており、NaOの含有モル量が15モル%であり、F(フッ素)が含有されておらず、軟化点が500℃を超えている。
【0080】
試料番号Sのガラスフリットは、SiOの含有モル量が60モル%を超えており、軟化点も500℃を超えている。
【0081】
〔導電性ペーストの作製〕
上述のようにして作製されたガラスフリットに平均粒径が1.5μmの球形状のAg粉末、平均粒径が3.0μmのMoSi又はMoB、及び有機ビヒクルを表2に示す体積組成で調合し、三本ロールミルを使用して混練・分散し、試料番号1〜39の導電性ペーストを作製した。尚、有機ビヒクルとしては、テルピネオールにセルロース樹脂を8重量%溶解させたものを使用した。
【0082】
〔比抵抗の測定〕
縦xが260mm、横yが760mm、厚みtが1.4mmのソーダライムガラスを用意した。そして、試料番号1〜39の導電性ペーストを使用し、ライン全長Lが200mm、ライン幅Wが0.4mmのパターンを略S次状に印刷した。そして、150℃の温度で10分間乾燥した後、最高温度560℃で5分間焼成し、導電膜を形成した。
【0083】
次に、導電膜のライン抵抗値ρL(Ω)及び膜厚T(μm)を測定し、数式(1)に基づき比抵抗ρ(μΩ・cm)を算出した。
【0084】
ρ=T×ρL×W/L×100…(1)
ここで、ライン抵抗値ρLは、ヒューレット・パッカード社製マルチメータを使用して測定し、膜厚は、接触式膜厚測定計(東京精密社製Surfcom)を使用して測定した。
【0085】
試料番号1〜39の各導電性ペーストは、いずれも比抵抗ρが5.0μΩ・cm未満であり、防曇ガラスに用いる発熱線に適したものであることが確認された。
【0086】
〔特性評価〕
次に、試料番号1〜39の各導電性ペーストについで、耐酸性、はんだ接合性、及び発色性を評価した。
【0087】
〔耐酸性〕
縦xが260mm、横yが760mm、厚みtが1.4mmのソーダライムガラスを用意した。そして、試料番号1〜39の導電性ペーストを使用し、ライン長Lが35mm、ライン幅Wが0.4mmのパターンを印刷した。そして、150℃の温度で10分間乾燥した後、最高温度560℃で5分間焼成し、導体膜を形成した。
【0088】
次に、このソーダライムガラスを、室温に保持した0.1規定の硫酸水溶液に2時間浸漬した。そして、ソーダライムガラスを硫酸水溶液から引き上げた後、蒸留水で水洗し、85℃の熱風乾燥機で3時間乾燥した。
【0089】
次いで、このソーダライムガラス上にセロハンテープを接着させ、その後、該セロハンテープを剥離した。そして、ソーダライムガラスから導電膜の剥離が認められなかった試料を耐酸性が優「◎」、部分的な剥離が認められるが断線に至らなかった試料を良好「○」、断線に至った試料を不良「×」と判断し、耐酸性を評価した。
【0090】
〔はんだ接合性〕
上述と同様、縦xが260mm、横yが760mm、厚みtが1.4mmのソーダライムガラスを用意した。そして、試料番号1〜39の導電性ペーストを使用し、2mm×2mmの正方形状のパターンをソーダライム上に印刷した。そして、150℃の温度で10分間乾燥した後、最高温度560℃で5分間焼成し、導体膜を形成した。
【0091】
次に、150℃の温度に加熱したプレート上にソーダライムガラスを載置し、導体膜上にリード端子をはんだ付けした。ここで、リード端子としては、直径が0.6mmのL字型の半田引き銅線を使用し、はんだとしては、Sn−Pb−Ag系はんだを使用し、フラックスとしては、ロジンをイソプロピルアルコールに溶解したものを使用した。
【0092】
次に、引っ張り試験機(島津製作所社製オートグラフ)を使用し、リード端子を引っ張りながら、ソーダライムガラスから導体膜が剥離する時点での接合強度を求めた。そして、10N以上の接合強度を有する試料を良好「○」、10N未満の接合強度の試料を不良「×」と判定し、はんだ接合性を評価した。
【0093】
〔発色性〕
上述と同様、縦xが260mm、横yが760mm、厚みtが1.4mmのソーダライムガラスを用意した。そして、周知のフロート法を使用してソーダライムガラスの表面にスズ被膜が形成した。そして、試料番号1〜39の導電性ペーストを使用し、長辺が20mm、短辺が10mmの長方形形状のパターンを印刷した。そして、150℃の温度で10分間乾燥した後、最高温度560℃で5分間焼成し、導体膜を形成した。
【0094】
次いで、島津製作所社製UV−2400を使用して導体膜の裏面(ガラス基板を通して見える導体膜の面)に300nm〜800nmの波長領域の紫外線を照射し、その反射光を測定し、明度L*を求めた。そして、明度L*が30以下の試料を良「○」、明度L*が20以下の試料を優「◎」、明度L*が30を超える試料を不良「×」と判定し、発色性を評価した。
【0095】
〔総合判定〕
上記の耐酸性、はんだ接合性、及び発色性のすべてが「良」以上の試料については総合判定も良「○」とし、一つ以上の特性で不良「×」の試料を不良「×」、全ての特性で「良」以上であった試料の内、発色性が優「◎」の試料を優「◎」と判定し、特性を評価した。
【0096】
表2は、試料番号1〜39の各組成とその評価結果を示している。
【0097】
【表2】

【0098】
試料番号21、25は、良好なはんだ接合性を得ることができなかった。これはF(フッ素)を含有せず、軟化点が500℃を超えるガラスフリットA、Iを使用しているため、560℃の低温焼成では、ソーダライムガラスと導体膜との間の密着性が十分でなかったためと考えられる。
【0099】
試料番号22〜24、26、27は、耐酸性に劣ることが分かった。これはNaOの含有モル量が15モル%以上のガラスフリットF、G、H、L、Mを使用しているため、耐酸性が低下したものと思われる。
【0100】
試料番号28〜30、33も、耐酸性に劣ることが分かった。これはSiOの含有モル量が30モル%と少ないガラスフリットO、P、Q、Nを使用したためと思われる。
【0101】
試料番号31は、接合強度及び耐酸性の双方で劣ることが分かった。これはSiOの含有モル量が38モル%と少なく、かつBiの含有モル量が35モル%と多いガラスフリットRを使用したためと思われる。
【0102】
試料番号32は、良好なはんだ接合性を得ることができなかった。これはSiOの含有モル量が60モル%を超え、軟化点が500℃を超えるガラスフリットSを使用しているため、560℃の低温焼成では、ソーダライムガラスと導体膜との間の密着性が十分でなかったためと考えられる。
【0103】
これに対し試料番号1〜20及び34〜39は、SiOの含有モル量が45モル%〜60モル%、Biの含有モル量が5モル%〜25モル%、ROが15モル%未満、Fの含有モル量が1モル%〜15モル%、軟化点が500℃以下のガラスフリットB〜F、J、K、T〜Yを使用しているので、560℃の低温で焼成しても、耐酸性、はんだ接合性、発色性が良好な防曇ガラスが得られることが分かった。
【0104】
特に、MoSi又はMoBを含有した試料番号7〜20は、明度L*が20以下であり、発色性が極めて優れていることが確認された。また、MoSi又はMoBの添加量が1.4体積%である試料番号19〜20は、0.7体積%の7〜18と比べて耐酸性の劣化が認められた。したがって、MoSiまたはMoBの添加量のより好ましい範囲は、0.7体積%以下であることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0105】
意匠性や電気特性を損なうことなく、耐酸性に優れた防曇対策に適した導電性ペーストを低コストで得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ag粒子と、ガラスフリットと、有機ビヒクルとを含み、
前記ガラスフリットが、少なくとも45モル%〜60モル%のSiO、5モル%〜25モル%のBi、15モル%未満(0モル%を含む。)のRO(RはNa、Li、及びKの中から選択された少なくとも1種を示す。)、及び1モル%〜15モル%のFを含有し、軟化点が500℃以下であることを特徴とする導電性ペースト。
【請求項2】
前記ガラスフリットが、B、ZnO、CuO及びMnOの中から選択された少なくとも1種の酸化物を25モル%以下の範囲で含有していることを特徴とする請求項1記載の導電性ペースト。
【請求項3】
モリブデン化合物が含有されていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の導電性ペースト。
【請求項4】
前記モリブデン化合物の含有量は、Ag粉末及びガラスフリットの総体積に対し2体積%以下であることを特徴とする請求項3記載の導電性ペースト。

【図1】
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【公開番号】特開2011−18561(P2011−18561A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−162439(P2009−162439)
【出願日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】