説明

導電性ポリマー組成物

【課題】イオン導電性添加塩を含む導電性ポリマー組成物において、電界を加えた時の塩の析出や、連続通電時における抵抗上昇を防止するとともに電気抵抗値の環境依存性、経時変化等にも優れた、安定した電気特性を提供する。
【解決手段】連続相1’と1相の非連続相2’とからなり、該連続相と非連続相とを海−島構造となし、非連続相には陽イオンと陰イオンとに解離可能な塩を偏在させ、該非連続相を構成するポリマーは連続相を構成するポリマーよりも上記陽イオンと陰イオンとに解離可能な塩との親和性を高くし、塩の相外への移動を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性ポリマー組成物に関し、詳しくは、イオン導電性添加塩を含むイオン導電性ポリマー組成物において、電界を加えた時の塩の析出や連続通電時における抵抗上昇等を防止し、さらには、電気抵抗値の環境依存性・経時変化等も改良し、安定した電気特性を得るためのものである。
【背景技術】
【0002】
各種導電性部材に導電性を付与する方法として、ポリマー中に金属酸化物の粉末やカーボンブラック等の導電性充填剤を配合した電子導電性ポリマー組成物を用いる方法と、ウレタン、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、エピクロルヒドリンゴム等のイオン導電性ポリマー組成物を用いる方法とがある。
【0003】
金属酸化物の粉末やカーボンブラック等の導電性充填剤を配合することによって得られる電子導電性ポリマー組成物を用いた場合、特に要求される半導電の領域では、添加量のわずかな変化により電気抵抗値が急激に変化するため、その制御が非常に困難になる。このため、ポリマー組成物中で導電性充填剤が均一に分散し難いことから、ローラやベルト状の導電性部材とした際に、ローラの周方向や長手方向、ベルトの面内で抵抗値がばらつきを持つという問題を生じる。
【0004】
上記電気抵抗値のばらつきは1つの製品内だけでなく、製品間のばらつきも非常に大きくなるという問題も生じる。更には、導電性ポリマー組成物より得られる導電性ローラや導電性ベルトの電気抵抗値は印加電圧に依存し、一定の抵抗値を示さない。特に、導電性充填剤としてカーボンブラックを使用した場合、これらの傾向が顕著に現れる。かかる現象は、例えば、帯電・現像・転写・定着といった画像形成過程においては、機械的な制御を難しくし、コストアップにつながる場合がある。また、カーボンを用いた場合、自由に着色出来ないという問題もある。以上の点から、イオン導電性の導電性部材が好まれる傾向にあり、従来から種々の提案がなされている。
【0005】
例えば、特開平10−169641号では、基材である高分子材料に第4級アンモニウム塩を添加し、使用環境を考慮しながら、連続通電時の抵抗値を規定した半導電性高分子弾性部材が提案されている。
【0006】
【特許文献1】特開平10−169641号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特開平10−169641号では、特定の陰イオンを有する第4級アンモニウム塩を配合することによって、イオン導電性部材において発生する連続通電時の抵抗値の上昇を低減することを図っているが、電気抵抗値の環境依存性(温度依存性+湿度依存性)を十分に低減できないという問題がある。さらに、配合する塩が表面に移行して、感光体等の接触物質を汚染する場合がある。
このように、導電性部材においては、連続通電時の抵抗値の上昇を低減するだけでなく、電気抵抗の環境依存性や、配合する塩等の感光体等の接触物質への移行汚染の問題も考慮する必要がある。
【0008】
イオン導電性の導電剤として、ポリエチレンオキサイド等のポリエーテル構造を含む導電性オリゴマーや導電性可塑剤(いずれもMn<10000)があるが、これらはポリマー組成物中で固定されていないために、ブリードやブルームを起こしてしまう問題がある。特に、複写機やプリンタ用の導電性ローラや導電性ベルト等の場合、これらが移行して感光体を汚染し、画像を汚し、最悪、感光体を変質し破壊してしまう場合もある。
【0009】
また、過塩素リチウム等の金属塩や各種第4級アンモニウム塩等のイオン導電性添加塩を用いた系では、配合量や基材ポリマーとの相容性にもよるが、塩が解離したイオンが、連続通電時に電極に向かって移動してしまうため、長時間たつと抵抗値がかなり上昇してしまうことがある。また、添加塩等が導電性部材の表面に析出し、物質によっては感光体を汚染する場合もある。
特に、添加塩を分散させるのに、低分子量のポリエーテル化合物や低分子量極性化合物からなる媒体を用いると、塩がポリマー中を移動しやすくなり導電性が向上する反面、連続通電時に表面層に析出しやすくなる。さらには用いたこれら低分子量媒体も表面に移行し、長時間使用した場合に、移行汚染やトナーの固着が起き、実用性を失うという問題が生じる場合がある。実際の製品として、長時間連続して用いた場合、これらの点が問題となる場合が多い。
【0010】
本発明は上記した問題に鑑みてなされたものであり、充分に低い抵抗値を維持しながら、電気抵抗の環境依存性(温度依存性+湿度依存性)を小さくし、かつ連続通電時の抵抗上昇を小さくしたイオン導電性ポリマー組成物を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明は、イオン導電性添加塩を含む導電性ボリマー組成物であって、
連続相と1相または2相以上の非連続相とからなり、該連続相と非連続相とを海−島構造となし、
上記非連続相のうちの少なくとも1相は、陽イオンと陰イオンとに解離可能な塩を偏在させた第1非連続相とし、該第1非連続相を構成するポリマーは上記連続相を構成するポリマーよりも上記陽イオンと陰イオンとに解離可能な塩との親和性を高くし、塩の相外への移動を抑制していることを特徴とする導電性ポリマー組成物を提供している。
【0012】
本発明は、発明者が鋭意研究の結果、低電気抵抗を実現できる塩の配置及び塩とポリマーとの親和性に着目し、ポリマー材料や配合されるイオン導電性添加塩について検討、実験を積み重ね、イオンによる良好な電気特性を維持しながら、塩の組成物外への移行を防止できる相構造を見出したことに基づくものである。
【0013】
上記のように、連続相と1相以上の非連続相とからなる海−島構造を備え、陽イオンと陰イオンに解離可能な塩を非連続相に偏在させ、かつ、高導電度で電気抵抗低下能力が大きい上記陽イオンと陰イオンに解離可能な塩を偏在させた非連続相を構成するポリマーは連続相を構成するポリマーよりも上記塩との親和性を高くしているため、該非連続相中での塩の自由度を高められ、低い電気抵抗を維持しながら、電界を加えたときの塩の系外への移行を抑制できる。このように、塩の移行を抑制できることにより、連続動電時の抵抗上昇や系外への移行汚染を防ぐことができる。更には、塩が非連続相中に存在するため温度や湿度等の環境の影響も受けにくい。しかも、イオン導電によるため、電気抵抗のばらつきや電圧依存性も小さい。
【0014】
なお、従来は、組成物全体の抵抗値を極力低下させるために、連続相に塩が分配される試みがなされていたが、本発明は、塩とポリマーとの親和性や、塩の配置に着目し、上記構成としたことにより、充分に低い抵抗値を維持しながら、電気抵抗の環境依存性(温度依存性+湿度依存性)を小さくし、かつ連続通電時の抵抗上昇を小さくすることを可能とした。
特に、本発明では、イオンの解離度が高く高電導度を発揮する塩を用い、かつ、電界をかけ続けても上記塩を系外に移行させにくくしたため、塩が表面に析出したり、抵抗値を大きく上昇させずに、導電性に優れた塩の少量の配合で優れた導電性を得ることができる。よって、圧縮永久ひずみや硬度等の他の物性に及ぼす影響も極力低減することができる。
【0015】
連続相、非連続相等のポリマー組成物の相構造は、例えば、原子間力顕微鏡(AFM)式の走査型プローブ顕微鏡(SPM)の位相モード等で観察することができる。
【0016】
上記非連続相として上記第1非連続相と第2非連続相の2相を設け、第2非連続相および連続相は上記塩を殆ど添加していない。
かつ、上記各相のポリマーの塩との親和性は第1非連続相>連続相>第2非連続相とし、各相の電気抵抗値(体積抵抗率)は第1非連続相>連続相>第2非連続相としていることが好ましい。各相のポリマーと塩との親和性は、各相のポリマーの後述する体積抵抗率や、塩を含んだ状態での各相のポリマーの体積抵抗率から評価し、これらの体積抵抗率が低い程、ポリマーと塩の親和性が高いと言える。
上記構成とすることにより、導電性をあまり大きく損なうことなく、解離可能な塩を偏在させる第1非連続相の割合を抑えることができる。その結果、解離可能な塩の配合量を少なくしても組成物全体として低い体積抵抗率を維持することができる。
上記第1非連続相で第2非連続相を取り囲むように存在させることが好ましい。
また、第1非連続相、第2非連続相および連続相が各々2種以上のポリマーからなっていても良いし、各々が細かく複数の相に分かれていても、本発明の趣旨と効用が満たされていれば構わない。
【0017】
陽イオンと陰イオンに解離可能な塩を偏在させた第1非連続相を構成するポリマーの体積抵抗率をR1、連続相を構成するポリマーの体積抵抗率をR2とすると、0.2≦log10R2−log10R1≦5であれば良いが、このlog10R2−log10R1は好ましくは0.5以上4以下、最も好ましくは1以上3以下であればよい。
上記値が0.2より小さいと連続相に解離可能な塩が移行しやすくなるためである。一方、上記値が5より大きいと全体として低抵抗を実現しにくくなるためである。なお、1つの相を構成するポリマーが2種類以上のポリマーのブレンドとしている場合は、そのブレンドされたポリマーの体積抵抗率とする。また、ここでの体積抵抗率は、塩を含んでいないポリマーのみの体積抵抗率である。
【0018】
非連続相を構成するポリマーと連続相を構成するポリマーとの重量比は、(非連続相を構成するポリマー:連続相を構成するポリマー)=(5:95)〜(75:25)であることが好ましい。
非連続相を構成するポリマーの配合比率が、上記範囲より少ないと、非連続相の体積分率が低すぎるため、組成物全体の体積抵抗率、或いは該組成物から成形するローラやベルト等の抵抗値を十分に下げることが出来なくなる。一方、連続相を構成するポリマーの配合比率が上記範囲より少ないと、動的架橋等の手法を用いても、連続相として存在し得なくなる。
上記重量比は、さらに好ましくは(10:90)〜(60:40)、より好ましくは(20:80)〜(45:55)が良い。
また、本発明では、解離可能な塩の配合量を固定したまま、連続相と非連続相の比率を変えることによっても、電気抵抗値の制御がある程度可能である。なお、動的架橋を用いれば比較的分率の高い成分を非連続相にもってくることができ、非連続相を構成するポリマーの比率を高めることができる。
なお、上記連続相、第1非連続相、第2非連続相の体積分率は、連続相>第2非連続相>第1非連続相とすることが好ましい。
【0019】
上記陽イオンと陰イオンに解離可能な塩は、全ポリマー成分100重量部に対して0.01重量部以上20重量部以下の割合で配合されていることが好ましい。
これは、0.01重量部より小さいと十分な電気抵抗の低減効果が得られないためであり、20重量部より大きいとコスト高を招く割には配合量増加による電気抵抗の低減効果の向上が得にくくなるためである。なお、より好ましくは0.2重量部以上10重量部以下、さらに好ましくは0.4重量部以上6重量部以下である。
【0020】
また、陽イオンと陰イオンに解離可能な塩はプロピレンカーボネート(PC)/ジメチルカーボネート(DME)系混合溶媒(体積分率1/2)中、25℃で0.1mol/lの塩濃度で測定した導電率が2.3mS/cm以上、好ましくは3.5mS/cm以上である。この導電率は解離したイオンの濃度とその移動度に比例するものである。なお、上記導電率は大きい程、好ましいが、実際に存在する塩の導電率の上限は4.5mS/cm程度である。
このような範囲の塩としては、CF3SO3Li、C49SO3Li、(CF3SO22NLi、(C2SO22NLi、(C49SO2)(CF3SO2)NLi、(FSO24)(CF3SO2)NLi、(C17SO2)(CF3SO2)NLi、(CF3CH2OSO22NLi、(CF3CF2CH2OSO22NLi、(HCF2CF2CH2OSO22NLi、((CF32CHOSO22NLi、(CF3SO23CLi、(CF3CH2OSO2)3CLi、LiPF等がある。
【0021】
上記した導電率の高い塩を用いると、少量の添加で非常に低い電気抵抗値を得ることが出来るが、他方で、このような導電率の高い塩を用いた場合、塩は系内で特に移動しやすくなる。そのため、上記導電率の高い塩を用いて、本発明の塩の移行を抑制する構成としない場合には、連続使用時の抵抗上昇が導電率の低い塩に比べて著しく大きくなりやすくなる。よって、導電率の良い塩を用いた場合、特に、本発明の塩の移行を抑制する構成とした場合、顕著な効果を発揮できる。
【0022】
また、上記陽イオンと陰イオンに解離可能な塩として、フルオロ基及びスルホニル基を有する陰イオンを備えた塩が好適に用いられる。この様な塩は、フルオロ基、スルホニル基等の官能基が電子吸引性を有するため、陰イオンがより安定化され、イオンがより高い解離度を示す。これにより、少量の添加で、非常に低い電気抵抗値を得ることが出来る。
【0023】
上記フルオロ基及びスルホニル基を有する陰イオンは、ビス(フルオロアルキルスルホニル)イミドイオン、トリス(フルオロアルキルスルホニル)メチドイオン、フルオロアルキルスルホン酸イオンからなる群の内の少なくとも1つから選ばれたイオンであることが好ましい。これにより体積抵抗率等の環境依存性を良好とすることができ、解離度が非常に大きい点や、EO−PO−AGE共重合体やエピクロルヒドリンゴム等の非連続相を構成するポリマーとの相容性が高い点からも好ましい。特に、ビス(フルオロアルキルスルホニル)イミドイオン、トリス(フルオロアルキルスルホニル)メチドイオンからなる塩を用いると、体積抵抗率等の環境依存性を非常に小さく出来る。
【0024】
上記フルオロ基及びスルホニル基を有する陰イオンを備えた塩の陽イオンは、アルカリ金属、2A族、遷移金属、両性金属のいずれかの陽イオンであることが好ましい。アルカリ金属は、特に、イオン化エネルギーが小さいため安定な陽イオンを形成しやすいため好ましい。その他、金属の陽イオン以外にも、下記の化学式(化1、化2)で示されるような陽イオンを備えた塩とすることもできる。式中R1〜R6は、各々炭素数1〜20のアルキル基またはその誘導体であり、R1〜R4、および、R5とR6は同じものでも別々のものでも良い。これらの中でも、R1〜R4の内の3つがメチル基、その他の1つが炭素数7〜20のアルキル基またはその誘導体からなる、トリメチルタイプの第4級アンモニウム陽イオンからなる塩は電子供与性の強い3つのメチル基により窒素原子上の正電荷を安定化でき、他のアルキル基またはその誘導体によりポリマーとの相容性を向上できることから特に好ましい。また、化2の形式の陽イオンにおいては、R5あるいはR6は電子供与性を有する方が同じく窒素原子上の正電荷を安定しやすいことからメチル基あるいはエチル基であることが望ましい。このように、窒素原子上の正電荷を安定化させることにより、陽イオンとしての安定度を高め、より解離度が高く、よって導電性付与性能に優れた塩にすることができる。
【0025】
【化1】

【0026】
【化2】

【0027】
上述した理由により、フルオロ基及びスルホニル基を有する陰イオンを備えた塩は、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドのアルカリ金属塩、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチドのアルカリ金属塩、トリフルオロメタンスルホン酸のアルカリ金属塩からなる群の内の少なくとも1つから選ばれた塩であるのが最適である。
【0028】
陰イオンがビス(フルオロアルキルスルホニル)イミドイオン、トリス(フルオロアルキルスルホニル)メチドイオンからなる塩、特には、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムは、非常に高温に渡っても安定なため、従来、用いられていた過塩素酸リチウムや過塩素酸第4級アンモニウム塩等と異なり、防爆仕様にする等の処置が不要である。この点からも、製造コストを減じたり、安全性を確保したりでき、非常に優れている。
【0029】
陽イオンと陰イオンに解離可能な塩は、分子量1万以下の低分子量ポリエーテル化合物や低分子量極性化合物からなる媒体を介さずに配合されていることが好ましい。このような媒体を用いると、長時間連続して用いた場合に電気抵抗値が大きく上昇したり、媒体がイオンとともに析出し、感光体汚染を起こしやすくなったりする場合がある。
上記した媒体を介さずに、解離可能な塩を配合する方法は、公知の手法を用いることが出来る。例えば、ヘンシェルミキサー、タンブラー等でドライブレンドを行った後、解離可能な塩とポリマーを含むブレンド物を、単軸または二軸押出機、バンバリーミキサー、ニーダー等で溶融混合を行う等の方法を用いることが出来る。この他、熱可塑性樹脂や熱可塑性エラストマーのポリマー系で、解離可能な塩を高温で配合する場合、ポリマーの劣化を防ぐ等の目的で、必要に応じて、窒素などの不活性ガス雰囲気下で配合(混合)を行うことも出来る。
【0030】
本発明の導電性ポリマー組成物は、適度な弾性等を付与できるため、加硫ゴム組成物、ウレタンゴム組成物あるいは熱可塑性エラストマー組成物であることが好ましいが、その他、ポリマーとして樹脂を用いても良い。
【0031】
上記陽イオンと陰イオンに解離可能な塩を偏在させた第1非連続相を構成するポリマーは、エーテル結合やシアン基により、かかる塩から生じる陽イオンを強く安定化できることから、塩とポリマーとの親和性を高く出来るという理由により、ポリオキシアルキレン系共重合体、シアン基を有するポリマー、エピハロヒドリン系ポリマーの少なくとも1つを主成分としていることが好ましい。
このように、第1非連続相を構成するポリマーと塩との親和性を高くすることにより、組成物全体の抵抗値を効果的に下げることが出来ると共に、塩の系外への析出や連続使用時の抵抗値の上昇を防ぐことができる。
具体的には、上記第1非連続相を構成するポリマーとしては、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル共重合体(EO−PO−AGE共重合体)あるいは/及びエピクロルヒドリンゴムを用いることが好ましい。エピクロルヒドリンゴムとしては、エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド共重合体、エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル共重合体、エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル共重合体、エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド共重合体、エピクロルヒドリン−アリルグリシジルエーテル共重合体等が挙げられる。
この他、ポリエチレンオキサイドブロックポリアミド共重合体、ポリエーテルエステルアミド共重合体も、本発明で用いられる塩との親和性が大きく、第1非連続相を構成するポリマーとして好適に用いられる。
【0032】
上記EO−PO−AGE共重合体を用いた場合、組成物の物性(圧縮永久ひずみ、硬度)を維持しながら、体積抵抗率を低減できるように共重合比率を設定することができる。共重合体中、エチレンオキサイド比率は55モル%以上95モル%以下であるのが好ましい。イオン導電性が発揮されるのは、ポリマー中のオキソニウムイオンや金属陽イオン等(例えば、添加した塩中のリチウムイオン等の陽イオン等)が、エチレンオキサイドユニットやプロピレンオキサイドユニットで安定化され、その部分の分子鎖のセグメント運動により運搬されることによる。尚、一般には、エチレンオキサイドユニットの方がプロピレンオキサイドユニットよりも上記安定性が高い。よって、エチレンオキサイドユニットの比率が高い方が多くのイオンを安定化でき、より低抵抗化を実現できる。
【0033】
上記連続相を構成するポリマーは、低ニトリルNBRあるいは/及び中高ニトリルNBR、または、ポリエステル系熱可塑性エラストマーとしていることが好ましい。これにより、全体として極力低い抵抗値とすることができる上に、解離可能な塩の組成物外への移行や連続通電時の抵抗上昇を防ぐことができる。なお、連続相の材料としては、ある程度電気抵抗値が低く、かつ、Tgが低いため室温付近での粘弾性の温度依存性が小さく、それによって体積抵抗率の環境依存性を小さくすることの出来る、低ニトリルNBR等が特に好ましい。また、これらのポリマーのTgとしては、−40℃以下、より好ましくはー50℃以下である。
【0034】
陽イオンと陰イオンに解離可能な塩を偏在させない上記第2非連続相は、低極性ゴムを主成分としていることが好ましい。具体的には、低極性ゴムが、エチレンプロピレンジエン共重合ゴム(EPDM)、エチレンプロピレンゴム(EPM)、ブチルゴム(IIR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)から選択される1種以上のゴムであることが好ましい。これにより、組成物に耐オゾン性を付与することができる。例えば、画像形成装置に用いられる導電性部材等に用いた場合でも、装置内に生じるオゾンに対して、耐オゾン性を確保することができる。
さらに、系全体の室温付近での粘弾性の温度依存性を小さくして、電気抵抗値の環境依存性を小さくするために、連続相に用いるポリマーだけでなく、第2非連続相に用いるポリマーも、よりTgの低いものが好ましい。これは第1非連続相に用いるポリマーについても同様である。尚、これらのポリマーのTgとしては−40℃以下であることが好ましく、さらにはー50℃以下であることがより好ましい。
【0035】
本発明では、添加する塩から生じるイオンの一部を、陰イオン吸着剤等を用いてシングルイオン化し、導電性の安定や、少量添加時の導電性向上をはかることができる。陰イオン吸着剤としては、MgとAlを主成分とする合成ハイドロタルサイト、Mg−Al系,Sb系,Ca系等の無機イオン交換体やアニオンを連鎖中に固定するイオン席を有する(共)重合体等の公知の化合物が有用である。具体的には、合成ハイドロタルサイト(協和化学工業(株)製、商品名キョーワード2000、キョーワード1000)、アニオン交換性イオン交換樹脂(日本錬水(株)製、商品名ダイアノンDCA11)等が挙げられる。
【0036】
ポリマーとして塩素等のハロゲンを含むポリマーを使用する場合、ポリマーの脱塩化水素反応による劣化や、混練機が錆びるのを防ぐため、ハイドロタルサイト等の受酸剤を配合することが好ましい。配合量としては、合成ハイドロタルサイトの場合、ハロゲン含有ポリマー100重量部に対して、1重量部以上15重量部以下、好ましくは3重量部以上12重量部以下とすると良い。
【0037】
添加する加硫剤としては、特に、低電気抵抗を実現できるため、硫黄が好ましい。また、硫黄、有機含硫黄化合物の他、過酸化物なども使用可能であり、これらを併用することもできる。特に、EPDM、EPMを上記第2非連続相を形成する低極性ゴムとして用いた場合、過酸化物によれば、これらのゴムからなる相を効果的に加硫することができる。
有機含硫黄化合物としては、例えば、テトラエチルチウラムジスルフィド、N,N−ジチオビスモルホリンなどが挙げられる。過酸化物としてはジクミルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド等を挙げることができる。なお、これらのうち、加硫とともに発泡を行う場合には、加硫速度と発泡速度のバランスが良くなる点から硫黄を用いるのが好ましい。加硫剤の添加量は、ポリマー成分100重量部に対して、0.5重量部以上5重量部以下、好ましくは1重量部以上3重量部以下がよい。
【0038】
また、加硫促進剤を配合してもよく、消石灰、マグネシア(MgO)、リサージ(PbO)等の無機促進剤や以下に記す有機促進剤を用いることができる。
有機促進剤としては、2−メルカプト・ベンゾチアゾール、ジベンゾチアジルジスルフィド等のチアゾール系、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド等のスルフェンアミド系、テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド等のチウラム系、チオウレア系等を適宜組み合わせて用いることができる。
また、加硫促進剤は、ポリマー成分100重量部に対して、1重量部以上5重量部以下、さらには2重量部以上4重量部以下が好ましい。
【0039】
また、加硫促進助剤を配合しても良く、例えば亜鉛華等の金属酸化物、ステアリン酸、オレイン酸、綿実脂肪酸等の脂肪酸、その他従来公知の加硫促進助剤が挙げられる。
柔軟性等の付与のためポリマー成分100重量部に対して、化学発泡剤を3重量部以上12重量部以下の割合で配合しても良い。その他、オイル等の軟化剤、老化防止剤等を配合しても良い。
また、機械的強度を向上させる等の目的のために、電気特性や他の物性を損なわない範囲で必要に応じて充填剤を配合することができる。充填剤としては、例えば、シリカ、カーボンブラック、クレー、タルク、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化アルミニウム等の粉体を挙げることができる。充填剤はポリマー100重量部に対し60重量部以下とするのが良い。
【0040】
なお、本発明の導電性ポリマー組成物は、塩素あるいは臭素を有する塩を用いないで、非塩素系、非臭素系とすると、より好ましい。
具体的には、ポリマーとして塩素・臭素を含まない材料を用いると共に、過塩素酸リチウム、過塩素酸ナトリウムあるいは過塩素酸第4級アンモニウム塩等の塩素・臭素を含む塩を用いず、組成物全体として非塩素、非臭素系の組成物とすることで、導電性ローラのシャフト等の金属表面を腐食したり、発錆させたり、あるいは汚染したりする恐れがなくなる。さらに、使用後の焼却処理等も非常に行いやすく、環境に優しい組成物とすることができる。
【0041】
上記した本発明の導電性ポリマー組成物は、JIS K6262に記載の加硫ゴム及び熱可塑性ゴムの永久ひずみ試験法において、測定温度70℃、測定時間22〜24時間、圧縮率25%で測定した圧縮永久ひずみの大きさが30%以下であることが好ましい。これは、30%より大きいと、上記組成物を成形してローラやベルト等の導電性部材として使用した時に寸法変化が大きくなりすぎて実用に適さないためである。なお、より好ましくは25%以下であり、小さければ小さいほど良い。
【0042】
また、印加電圧100Vのもとで測定したJIS K6911に記載の体積抵抗率が1010.0[Ω・cm]未満であるのが好ましい。これは、体積抵抗率が1010.0Ωcmより大きいと、導電性部材等とした際に、良好な導電性が得られず、実用に適さなくなるためである。また、該組成物を成形してローラやベルト等とした際に転写や帯電、トナー供給等の効率が低下しやすいためである。なお、体積抵抗率は、104.0Ωcm以上109.5Ωcm以下であるのがより好ましい。
【0043】
さらに、23℃、相対湿度55%の環境下で、厚みが0.25mmのサンプルに対し1000Vの定電圧を5時間連続印加した場合の体積抵抗率ρ[Ω・cm]を測定し、体積抵抗率の上昇量Δlog10ρ=log10ρ(t=5hr.)−log10ρ(t=0hr.)の値を0.5以下としているのが好ましい。これは、上記体積抵抗率の上昇量の指標値が0.5より大きいと導電性部材等に成形した場合に、連続使用時の抵抗上昇が大きくなり、実用に支障をきたす恐れが生じるためである。
【0044】
さらに、10℃相対湿度15%、32.5℃相対湿度90%の条件下での体積抵抗率ρ[Ω・cm]を測定し、体積抵抗率の環境依存性Δlog10ρ=log10ρ(10℃相対湿度15%)−log10ρ(32.5℃相対湿度90%)の値を1.7以下、好ましくは1.4以下、より好ましくは1.2以下、最も好ましくは1.1以下とするのが良い。
これは、上記体積抵抗率の環境依存性の指標値が1.7より大きいと導電性部材等に成形した場合に、環境の変化による抵抗値の変化が大きく、より大きな電源を必要とし、かかる導電性部材を用いた画像形成装置の消費電力や製品コストが上昇したりするためである。
【0045】
上記した導電性ポリマー組成物を用いて導電性部材を成形しているが、特に、導電性ローラや導電性ベルト等に好適に用いられる。
【発明の効果】
【0046】
以上の説明より明らかなように、本発明によれば、連続相と1相以上の非連続相とからなる相構造を有し、陽イオンと陰イオンに解離可能な塩を非連続相に偏在させ、かつ、陽イオンと陰イオンに解離可能な塩を偏在させた非連続相を構成するポリマーは、連続相を構成するポリマーよりも、陽イオンと陰イオンに解離可能な塩との親和性を高くしている。このため、非連続相中での塩の自由度を高め低い電気抵抗を維持しながら、電界を加えたときの塩の系外への流出を抑制できるため、塩の組成物外への移行や連続動電時の抵抗上昇等を防ぐことができる。更には、塩が非連続相中に偏在するため温度や湿度等の環境の影響も受けにくく、かつ、イオン導電によるため、電気抵抗のばらつきや電圧依存性も小さい。
【0047】
また、電界をかけ続けても塩が移行して表面に出たり、抵抗値が上昇することが抑制されているため、導電性に優れた塩の使用が可能となり、導電性に優れた塩の少量の配合でも優れた導電性を得ることができる。よって、ブリード、ブルームや感光体汚染・移行汚染等の問題点を生じることもない上に、圧縮永久ひずみや硬度等の他の物性に及ぼす影響も極力低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0048】
以下、本発明の実施形態を説明する。
図1は導電層を形成する本発明の第1実施形態のイオン導電性ポリマー組成物の構造を示す模式図であって、イオン導電性ポリマーは、連続相1と、第1非連続相2、第2非連続相3とからなり、3つの相は海−島構造を呈している。第1非連続相2および第2非連続相3は連続相1中にほぼ均一に存在し、かつ、第1非連続層2は第2非連続相3を取り囲むように存在している。
なお、第2非連続相3は後述する第2実施形態についての記載に見られるように、かならずしも存在しなくともよい。
【0049】
図2は、上記導電性ポリマー組成物を原子間力顕微鏡(AFM)式の走査型プローブ顕微鏡(SPM)において位相モードで観察したモルフォロジー(1辺10μm)を示す。図2において、連続相1は最も薄い色を呈し、第1非連続相2は最も濃い色を呈し、第2非連続相3は中程度の色濃度を呈しいる。図中で色の濃い部分は弾性率が高く、色の薄い部分は弾性率が低くなっている。
また、図2で示すように、体積分率は、連続相1〉第2非連続相3〉第1非連続相2となっている。
【0050】
前記図1および図2に示すような海−島構造を呈するように、各相のポリマーの種類、量を規定すると共に、添加する塩の量および添加法を規定している。
上記イオン導電性ポリマー組成物には、全ポリマー100重量部に対して0.01〜20重量部の陽イオンと陰イオンとに解離可能な塩を添加しており、上記第1非連続相2に上記塩を優先的に分配して偏在させ、第2非連続相3および連続相1には殆ど塩を添加していない。
【0051】
上記第1非連続相2のポリマーは、連続相1を構成するポリマーよりも、解離可能な塩との親和性が高く、かつ、連続相1を構成するポリマーは、解離可能な塩を添加しない第2非連続相3を構成するポリマーよりも解離可能な塩との親和性が高いものとしている。即ち、上記各相のポリマーの塩との親和性は第1非連続相2>連続相1>第2非連続相3としている。
【0052】
具体的には、後述の実施例2に示すように、本第1実施形態では、例えば、第1非連続相2を構成するポリマーとしてEO−PO−AGE共重合体(EO:PO:AGE=90:4:6)を10重量部用い、連続相1を構成するポリマーとして低ニトリルNBRを63重量部用い、解離可能な塩を殆ど添加しない第2非連続相3を構成するポリマーとして低極性の耐オゾン性ゴムであるEPDMを27重量部用いている。即ち、解離可能な塩との親和性は、EO−PO−AGE共重合体>低ニトリルNBR>EPDMである。
【0053】
第1非連続相2のEO−PO−AGE共重合体の体積抵抗率をR1、連続相1の低ニトリルNBRの体積抵抗率をR2、第2非連続相3のEPDMの体積抵抗率をR3とすると、log10R1は7.9、log10R2は10.2、log10R3は14.8であり、(logR2−logR1)の値を2.3としている。
上記第1、第2非連続相2、3を構成するポリマーと連続相1を構成するポリマーとの重量比は37:63としている。
【0054】
上記導電性ポリマーに添加する陽イオンと陰イオンに解離可能な塩として、フルオロ基及びスルホニル基を有する陰イオンを備えた塩であるリチウム−ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを1.1重量部用いている。この塩は、PC/DME系混合溶媒(体積分率1/2)中,25℃で0.1mol/lの塩濃度で測定した導電率が4.0mS/cmである。また、分子量1万以下の低分子量ポリエーテル化合物や低分子量極性化合物からなる媒体を介さずに配合している。
尚、リチウムービス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドは、特公平1−38781号公報(アンバール社等の出願)、或いは、特開平9−173856号公報((財)野口研究所と旭化成工業(株)の出願)、或いは、特許3117369号公報・特開平11−209338号公報(セントラル硝子(株)出願)、或いは、特開2000−86617号公報・特開2001−139540号公報(関東電化工業(株)出願)、或いは、特開2001−288193号公報(森田化学工業(株)出願)等、従来公知の方法により合成されたものを用いた。
また、リチウムートリス(トリフルオロメタンスルホニル)メタンは、米国特許第5554664号公報、或いは、特開2000−219692号公報((財)野口研究所と旭化成工業(株)の出願)、或いは、特開2000−226392号公報(関東電化工業(株)出願)等、従来公知の方法により合成されたものを用いた。
【0055】
上記導電性ポリマー組成物は、充填剤としてカーボンブラック9重量部、酸化亜鉛5重量部、ステアリン酸を1重量部、加硫剤として粉末硫黄1.5重量部、2種の加硫促進剤を各々1.5重量部、0.5重量部配合した加硫ゴム組成物からなる。
【0056】
図3は上記導電性ポリマー組成物から形成した導電層11を有する導電性ローラ10を示す。該導電性ローラ10は、導電性を有する円柱状の金属製の芯金12と、芯金12の表面側に上記導電層11を備え、円筒状の導電層11の中空部に芯金12を圧入して取り付けている。
【0057】
上記導電性ローラ10は以下の方法により製造している。
まず、解離可能な塩とEO−PO−AGE共重合体とを混練機を用いて60℃、3分混練し、ここで得られた混練物に、低ニトリルNBR、EPDM、その他各種配合剤を配合し、再度、60℃、4分オープンロール、密閉式混練機等で混練し導電性ポリマー組成物を作製する。
【0058】
この導電性ポリマー組成物をφ60mmの単軸押出機に投入し60℃で中空チューブ状に押し出して予備成形し、この生ゴムチューブを所定寸法に裁断して予備成形体を得ている。この予備成形体を加圧水蒸気式加硫缶に投入し、発泡させる場合は化学発泡剤がガス化して発泡すると共に、ゴム成分が架橋する温度(160℃で15〜70分)で加硫して加硫ゴムチューブを得ている。
加硫条件はキュラストメーター等により測定し、95%トルク上昇時間t95[分]程度を目安に適宜調整している。
なお、感光体汚染と圧縮永久歪みを低減させるため、なるべく充分な加硫量を得られるように条件を設定した方が望ましい。
【0059】
芯金12を用意し、その外周面にホットメルト接着剤を塗布した後、先に得られた加硫ゴムチューブに芯金を挿入し、加熱し接着した後、表面を研磨して導電層11を目標寸法に仕上げた。導電性ローラ10の導電層11の寸法は、内径6mm、外径14mm、長さ218mmとしている。
【0060】
上記導電層11は、JISK6262に記載の加硫ゴム及び熱可塑性ゴムの永久歪み試験法において、測定温度70℃、測定時間24時間で測定した圧縮永久歪みの値が17%であり、印加電圧100Vのもとで測定したJIS K6911に記載の体積固有抵抗率が109.0[Ω・cm]である。
【0061】
また、導電性ローラ10の導電層を構成する例えば実施例2記載の導電性ポリマー組成物は、印加電圧100Vでの体積抵抗率を109.0Ω・cmとし、23℃、相対湿度55%の環境下で、厚みが0.25mmのサンプルに対し1000Vの定電圧を5時間連続印加した場合の体積抵抗率ρ[Ω・cm]を測定し、体積抵抗率の上昇量Δlog10ρ=log10ρ(t=5hr.)−log10ρ(t=0hr.)の値を0.08とし、10℃相対湿度15%、32.5℃相対湿度90%の条件下での体積抵抗率ρ[Ω・cm]を測定し、体積抵抗率の環境依存性Δlog10ρ=log10ρ(10℃相対湿度15%)−log10ρ(32.5℃相対湿度90%)の値を0.8としている。
【0062】
上記方法で製造された導電性ローラ10の導電層11は、上記連続相1、第1非連続相2、第2非連続相3を備え、第1非連続相2で第2非連続相3を取り囲むように存在させている。このように、モルフォルジーを制御すると共に、少量で抵抗値を下げ得る高性能の塩をEO−PO−AGE共重合体を主成分とする第1非連続相2に偏在させているため、電界を加えた時に起こる塩の製品外への移行や連続通電時の抵抗上昇等を防ぎながら、実用に必要な低電気抵抗値を得ることが出来る。
【0063】
よって、低電気抵抗を維持しながら、電気抵抗の環境による変化や連続使用による変化を小さくすると共に、ローラの部位による電気抵抗のばらつきを低減し、安定して良好な画像を形成でき、環境に優しい導電性ローラを得ることができる。よって、現像ローラ、帯電ローラ、転写ローラ等に好適である。特に、高画質を要求されるカラー複写機あるいはカラープリンタ用のこれらの導電性ローラとして適している。
なお、発泡剤を配合し、発泡倍率が100%以上500%以下、好ましくは150%以上300%以下であり、JIS K6253に記載のタイプEデュロメータで測定した硬度が60度以下、好ましくは40度以下の発泡層を有する発泡ローラとすることもできる。
【0064】
かつ、上記導電層11では、塩を殆ど分配していない第2非連続相3を設け、該第2非連続相3を塩を偏在させた第1非連続相2で取り囲むように存在させているため、導電性をあまり大きく損なうことなく、塩を偏在させた第1非連続相1の体積分率を抑えることができる。これにより、塩やそれを積極的に分配する第1非連続相1のポリマーの添加量を少なくしても、全体として低い体積抵抗率、ローラの製品抵抗値を得ることができる。かつ、上記陽イオンと陰イオンに解離可能な塩として用いるフルオロ基及びスルホニル基を有する陰イオンを備えた塩は高価であることより、この塩の添加量を少なくすることで、コスト上昇を抑えることができる。
【0065】
図4及び図5は第2実施形態を示し、本発明の導電性ポリマー組成物を用いて形成される導電性ベルト13を転写ベルトとして用いた形態を示す。
上記導電性ベルト13は、2個のプーリー14によって張架状態とされ、回転移動する導電性ベルト13の上側の直線状部分15に紙等のシート材16を担持して搬送し、また感光体上に作られたトナー像をシート材16に転写するものである。
【0066】
上記導電性ベルト13は、このような形態のみに限定されないがシームレスなベルト状の1層の導電性ポリマー組成物から形成した導電層21のみからなる。該導電層21は、図5に示すように、1相の連続相1’と、1相の第1非連続相2’とからなり、連続相1’と第1非連続相2’とは海−島構造を呈している。
第1非連続相2’にのみ陽イオンと陰イオンに解離可能な塩を偏在させ、該第1非連続相2’を構成するポリマーは、連続相1’を構成するポリマーよりも、解離可能な塩との親和性が高いものとしている。
【0067】
具体的には、解離可能な塩を偏在させた第1非連続相2’を構成するポリマーとしてポリエチレンオキサイドブロックナイロン12共重合体からなる樹脂型帯電防止剤30重量部用い、連続相1’を構成するポリマーとしてポリエーテルからなるソフトセグメントとポリエステルからなるハードセグメントから構成されるポリエステル系熱可塑性エラストマー100重量部用いている。
【0068】
第1非連続相を構成する樹脂型帯電防止剤の体積抵抗率をR1、連続相を構成するポリエステル系熱可塑性エラストマーの体積抵抗率をR2とするとlog10R1は9.0、log10R2は13.4であり、(log10R2−log10R1)の値を4.4としている。第1非連続相2’を構成するポリマーと連続相1’を構成するポリマーとの重量比は23:77としている。
【0069】
陽イオンと陰イオンに解離可能な塩としては、フルオロ基及びスルホニル基を有する陰イオンを備えた塩であるリチウム−ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを1.5重量部用いている。この塩は、PC/DME系混合溶媒(体積分率1/2)中、25℃で0.1mol/リットルの塩濃度で測定した導電率が4.0mS/cmであり、分子量1万以下の低分子量ポリエーテル化合物や低分子量極性化合物からなる媒体を介さずに配合している。
【0070】
導電性ベルト13は以下の方法により製造している。
解離可能な塩と樹脂型帯電防止剤とをタンブラーを用いてドライブレンドする。このドライブレンド物を速やかに2軸押出機に送り込む。170〜210℃で、2分混練した後、冷却してペレット化する。ここで得られた混練物のペレットに、ポリエステル系熱可塑性エラストマーのペレットを上記と同様にドライブレンドし、再度、2軸押出機を用いて210〜270℃で2分混練し、冷却して導電性ポリマー組成物のペレットを作製する。この導電性ポリマー組成物のペレットを樹脂用の押出成形機によりベルト状に成形している。
【0071】
導電性ベルト13は、印加電圧100Vのもとで測定したJIS K6911に記載の体積固有抵抗率が109.6[Ω・cm]である。
【0072】
また、導電性ベルト13は、23℃、相対湿度55%の環境下で、厚みが0.25mmのサンプルに対し、1000Vの定電圧を5時間連続印加した場合の体積抵抗率ρ[Ω・cm]を測定し、体積抵抗率の上昇量Δlog10ρ=log10ρ(t=5hr.)−log10ρ(t=0hr.)の値を0.36とし、10℃相対湿度15%、32.5℃相対湿度90%の条件下での体積抵抗率ρ[Ω・cm]を測定し、体積抵抗率の環境依存性Δlog10ρ=log10ρ(10℃相対湿度15%)−log10ρ(32.5℃相対湿度90%)の値を1.4としている。
【0073】
上記導電性ベルト13は、陽イオンと陰イオンに解離可能な塩を第1非連続相2’に偏在させた導電層21を備え、かつ、この添加する塩として少量で抵抗値を低下できる塩を用い、さらには各相に用いるポリマーを適切に選択しているため、電界を加えたときに起こる塩の系外への移行や連続通電時の抵抗上昇等を防ぎながら、かつ、実用に必要な低電気抵抗値を得ることができる。また、厚み方向には適度な柔軟性を有する一方、長さ方向には伸びにくい。かつ、実施例9、10のように非塩素、非臭素系の組成物とした場合には、環境にも良い、実用性に非常に優れた導電性ベルトである。
【0074】
上記実施形態では、本発明の導電性ベルトを特に転写ベルトとして用いた場合について詳しく記載したが、その他、例えば、画像形成装置に用いられる中間転写ベルト、定着ベルト、現像ベルト、搬送ベルト等としても用いることができる。特に、白色のベルトとすると、トナーの付着が簡単に目視可能となるため、クリーニング性能の評価に適し、中間転写ベルトとして好適に用いることができる。
【0075】
上記実施形態以外にも、連続相を構成するポリマー、非連続相を構成するポリマー、解離可能な塩は、前記したように種々の材料を用いることができる。必要に応じて各種配合材料を変更し要求性能に合わせて電気特性を最適化することができる。各種配合材料の配合種や配合量は適宜設定することができる。上記以外の方法により混練等を行うこともでき、従来公知の方法等により導電性ポリマー組成物を作製し、導電性部材を成形することができる。
【0076】
以下、本発明の導電性ポリマー組成物を用いて形成される導電性部材の実施例、比較例について詳述する。
まず、導電性ローラの実施例、比較例について示す。
実施例1〜6、比較例1〜5については、表1、表2に記載の各配合材料を上記実施形態と同様の方法により混練、押出、加硫、成形加工、研磨して導電性ローラを作製した。ヒューレットパッカード社製Laser Jet4050型レーザービームプリンタ搭載の転写ローラ用の導電性ローラとした。
【0077】
これと並行して、混練機からリボン取りしたゴムをローラヘッド押出機により押し出してシート状に成形し、それを160℃で最適時間加硫缶にて加硫したあと、厚さが約2mmとなるようにスライスし、体積抵抗率(体積固有抵抗値)評価用の加硫ゴムスラブシートを得た。これらのローラやゴムスラブシートを用いて行った評価結果及び後述するローラとしての各種評価を表1、表2に示す。
尚、連続通電時の抵抗上昇の測定に際しては、導電性ベルトの例と条件を合わせるために、さらに厚さが0.25mm前後になるようにスライスしたものを作成して用いた。
【0078】
【表1】

【0079】
【表2】

【0080】
(実施例1〜6)
非連続相を構成するポリマーとしてEO−PO−AGE共重合体あるいはエピクロルヒドリンゴムを用い、これに陽イオンと陰イオンに解離可能な塩であるリチウム−ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドあるいはリチウム−トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メタンを偏在させた。連続相として低ニトリルNBRを用い、他の非連続相としてEPDMを用いた。実施例2以外は発泡ローラとした。
【0081】
(実施例7)
エピクロルヒドリンゴム50phr分とNBR、炭酸カルシウム、ハイドロタルサイト、亜鉛華、ステアリン酸を混入し、120℃に予熱した密閉式混練機で混練した。混練しながら予め作製したエピクロルヒドリンゴム(10phr分)のチオウレア架橋剤(加硫剤2)マスターバッチおよびチオウレア架橋剤用の架橋促進剤(加硫促進剤3)を入れ動的架橋した。練りトルクのチャートを見ながら架橋が進み、トルクピーク付近で混練を一旦完了した。続いて50℃まで冷却し、混練機により、硫黄、加硫促進剤1、加硫促進剤2を混入し、動的架橋組成物を得た。これを、実施例1〜6と同様にチューブ状に押し出して予備成形し、そのチューブを裁断したものを160℃で10〜70分加硫して導電層を得た。
【0082】
(比較例1〜5)
比較例1は陽イオンと陰イオンに解離可能な塩を用いなかった。比較例2、3は低ニトリルNBRからなる連続相とEPDMからなる非連続相の2相構造とし、連続相に陽イオンと陰イオンに解離可能な塩を偏在させた。比較例4、5は1種のポリマーから構成される1相のみの構造とし、その1相に陽イオンと陰イオンに解離可能な塩を配合した。比較例1、2は発泡ローラとした。
【0083】
EO−PO−AGE共重合体あるいはエピクロルヒドリンゴムは、解離可能な塩と予め混練したものを用いた。カーボンブラックとEPDMの併用系では、カーボンブラックをEPDMに予め練りこんでマスターバッチ化したものを用いた。実施例6ではカーボンブラックをNBRに予め練りこんでマスターバッチ化したものを用いた。加硫促進剤1はジベンゾチアジルジスルフィド、加硫促進剤2はテトラメチルチウラムモノスルフィドとし、発泡剤1は4,4’−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)とした。
【0084】
陽イオンと陰イオンに解離可能な塩を偏在させた非連続相を構成するポリマーの体積抵抗率R1、連続相を構成するポリマーの体積抵抗率R2、陽イオンと陰イオンに解離可能な塩を偏在させない非連続相を構成するポリマーの体積抵抗率R3の測定は塩を入れずに行った。
例えば、実施例1あるいは実施例2では、ZSN8030を100重量部、シースト3を9重量部、銀嶺Rを5重量部、ステアリン酸4931を1重量部、粉末硫黄を1.5重量部、ノクセラーDMを1.5重量部、ノクセラーTSを0.5重量部配合した組成物の体積抵抗率を測定した。測定時に印加電圧は100V、測定環境は23℃、相対湿度55%とした。
【0085】
また、ウレタン組成物を用いた導電性ローラの実施例、比較例について詳述する。実施例8および比較例6〜8について、各々下記の表3、表4に記載の配合からなる材料を用い導電層を作製した。
【0086】
【表3】

【0087】
【表4】

【0088】
(実施例8)
2種のポリエーテルポリオール1、2を用い、陽イオンと陰イオンに解離可能な塩であるリチウム−ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを用いた。
なお、ポリエーテルポリオール1とポリエーテルポリオール2はどちらもPPG系ポリオールで水酸基価も同一であり、基本構造はほぼ同一のものである。よって、これらは均一に相溶し、1つの相を形成する。
連続相は塩との親和性がかなり低い液状ポリブタジエンポリマー(端末イソアソアネートプレポリマー1)からなり、log10R2は14.1である。
非連続相は上記のように塩との親和性が比較的高いPPG系ポリオールからなる構成とした。log10R1は11.1であり、log10R2ーlog10R1は3.0となる。
以上により、イソシアネートプレポリマーとポリオール等が反応して出来たポリウレタン組成物中では、非連続相と連続相の比率は40:60程度となり、本発明の導電性ポリマー組成物とすることが出来る。
具体的には、以下のようにして導電層を作製した。
ポリエーテルポリオール1とポリエーテルポリオール2、及び、芳香族ジアミン、消泡剤、レベリング剤等を計量した後、室温下で回転式の撹拌機等を用いて撹拌して、均一に混合する。その後、その混合液を減圧下で脱泡した。同じく、減圧下で脱泡した末端イソシアネートプレポリマーを、先に調整した混合液と混ぜて、再び撹拌・脱泡した後、物性評価用のスラブや導電性ローラ作製用各種金型に流し込む。金型に流し込んだ後、150℃で60分加熱することにより、硬化反応を起こして、所望のスラブや導電性ローラが得られる。
尚、導電性ローラに用いる場合は、金属製シャフトにウレタン用プライマーを塗ったものをセットした金型に、ポリオールを含む上記混合液と、イソシアネートプレポリマーとを均一に混合したものを、流し込むと良い。
ウレタン用プライマーとしては、例えば住化バイエルウレタン(株)製、スミジュール44V20と同じく住化バイエルウレタン(株)製SBUポリオール0759とを重量比で1:2に混合したもの等が好適に用いられる。
ウレタン組成物の体積抵抗率およびその環境依存性は130×130×2mmのスラブを用いて測定しているが、連続通電時の抵抗上昇は130×130×0.25mmのものを用いた。
【0089】
(比較例6〜8)
比較例6,7は解離可能な塩を配合しなかった。比較例8は、PPGポリオール(ポリエーテルポリオール1、2)とPPGプレポリマー(末端イソシアネートプレポリマー2)を用いたが、塩との親和性がPPGよりも低い液状ポリブタジエンプレポリマー等は用いずに、基本的には、解離可能な塩との親和性が、比較的高い相のみからなる構成とした。いずれも実施例と同様の方法により導電層を作製した。
【0090】
(体積抵抗率の測定)
上記の様に作製した測定用シートに対して、アドバンテストコーポレーション社製の超高抵抗微小電流計R−8340Aを用いて、23℃相対湿度55%の恒温恒湿条件下で測定した。測定方法は、JIS K6911に記載の体積抵抗率(体積固有抵抗)の測定方法に従い、また測定時の印加電圧は100Vとした。表中にその常用対数値を表示する。また、導電性ベルトの実施例・比較例については、得られた導電性ベルトをそのまま用いて、ベルトの周方向4点×長手方向5点の計20点で上記と同様に測定し、log10ρ[Ω.cm]の平均値を表中に記載した。
【0091】
(ローラ抵抗値)
温度23℃、相対湿度55%雰囲気下で、図6に示すように、芯金42を通した導電層41をφ30のアルミドラム43上に当接搭載し、電源44の+側に接続した内部抵抗r(100Ω〜10kΩ)の導線の先端をアルミドラム43の一端面に接続すると共に電源44の−側に接続した導線の先端を導電層41の他端面に接続して通電を行った。芯金42の両端部に500gずつの荷重Fをかけ、芯金42とアルミドラム43間に1000Vの電圧をかけながらアルミドラム43を回転させることで間接的に導電性ローラ40を回転させた。このとき周方向に36回抵抗測定を行い、その平均値を求めた。内部抵抗の値は、ローラの抵抗値のレベルにあわせて、測定値の有効数字が極力大きくなるように調節した。この図6の装置で、印加電圧をEとすると、ローラ抵抗値RはR=r×E/V−rとなるが、今回−rの項は微小とみなし、R=r×E/Vとし、内部抵抗rにかかる検出電圧Vより、ローラ抵抗値Rを算出した。表中には、そのローラ抵抗値の平均値の常用対数値を用いて示している。
【0092】
(体積固有抵抗値環境依存性)
導電性ベルトの実施例・比較例について、10℃相対湿度15%(LL環境)と、32,5℃相対湿度90%(HH環境)の環境下においても、上記と同様にして、100V印加時の導電性ベルトの体積抵抗率を測定した。
そして、体積抵抗率の環境依存性:Δlog10ρ(LL-HH)[Ω.cm]= log10ρ(10℃,15%rh.)-log10ρ(32,5℃,90%rh.)
の式に従い、環境依存性の数値を計算し、その値を表5、表6に記載する。この値が1.7を越えると好ましくない。
【0093】
(ローラ抵抗値の周ムラ)
図6に示す装置を用い、温度23℃、相対湿度55%雰囲気下で、芯金の両端に500gずつの荷重Fをかけ、アルミドラムを回転数30rpmで回転させることで導電性ローラを回転させた状態で、1000Vの印加電圧をかけたとき、1周内の周むら((周方向の電気抵抗の最大値/周方向の電気抵抗の最小値)の比率)を求めた。周むらは1.0〜1.3、より好ましくは、1.0〜1.2、さらに好ましくは、1.0〜1.15であるのが良い。
【0094】
(連続通電時の抵抗上昇)
ローラ抵抗値の測定による。
[実施例1〜7]、[比較例1〜5]
23℃、相対湿度55%の環境下で、ローラ抵抗値[Ω]の測定時と同様の状態で、ローラに1000Vの定電圧を96時間連続印加した。このときの、電圧印加直後のローラ抵抗値R(t=0)と、96時間印加後のローラ抵抗値R(t=96hr.)の値を上記と同様にして測定し、これらの値を用いて連続通電時の抵抗上昇量:Δlog10R(t=96-0hr.)[Ω]=log10R(t=96hr.)-log10R(t=0)を計算した。数値は表1〜4中に示す。尚、アルミドラムの回転数が30rpm、径が30mmφのため、回転時の線速度は、94mm/分となる。
【0095】
(連続通電時の抵抗上昇)
体積抵抗率の測定による。
23℃、相対湿度55%の環境下で、体積固有抵抗値の測定時と同様の状態で、導電性ベルト内あるいは厚み0.25mmのスラブのある1点において、アドバンテストコーポレーション社製のデジタル超高抵抗微小電流計R-8340Aを用いて、1000Vの定電圧を5時間連続印加した。このときの、電圧印加直後のベルトあるいはスラブの体積固有抵抗値ρV(t=0)と、5時間印加後のベルトあるいはスラブの体積固有抵抗値ρV(t=5hr.)の値を、上記と同様にして測定し、これらの値を用いて連続通電時の抵抗上昇量:Δlog10ρ(t=5-0hr.)[Ω.cm]=log10ρ(t=5hr.)-log10ρ(t=0)を計算した。数値は各表中に示す。
【0096】
(面内むら)
導電性ベルトの面内むらの測定は、上記導電性ベルトの体積固有抵抗値の測定において、1本のベルト内で得られた20点の体積固有抵抗値について、その最大値を最小値で除した値を計算し、それを表5、表6中に記載した。これにより、実施例・比較例中のいずれのベルトも、むらがほとんどなく非常に均一であることがわかる。他方、カーボン導電のベルトでは、この値が2から10程度、大きいものでは、100程度になることもあり得る。
導電性ローラ用ゴム組成物およびウレタン組成物の体積抵抗率の面内むらについては、作製した130×130×2mmのスラブ中の縦5点×横4点の計20点において、三菱化学株式会社製ハイレスタUPとURSタイプのプローブを用いて測定し、その最大値を最小値で除した値を計算し、それを各表中に記載した。
【0097】
(圧縮永久ひずみ)
上記で得られた導電性ローラを10mm幅で端面に平行にカットした試験片を用いて、JIS K6262に記載の加硫ゴム及び熱可塑性ゴムの永久ひずみ試験方法に従い、測定温度70℃、測定時間22〜24時間、圧縮率25%で測定した。この圧縮永久ひずみの値が30%を越える場合は、ローラになったときの寸法変化が大きくなりすぎて実用に適さなくなる可能性が高い。
【0098】
(感光体汚染試験)
実施例1〜実施例8、比較例1〜比較例8においては、以下の方法で試験した。
ヒューレットパッカード社製のLaser Jet4050型レーザービームプリンタのカートリッジ(カートリッジタイプ C4127X)にセットされている感光体に、実施例・比較例の加硫ゴムスラブシートを押しつけた状態で、32.5℃,相対湿度90%の条件下で2週間保管する。その後、感光体から加硫ゴムスラブシートを除去し、当該感光体を用いて上記プリンターにてハーフトーンの印刷を行い、印刷物に汚れが出るかどうかを次の基準で調査した。
○:印刷物を目で見る限り汚染なし
△:軽度の汚染(5枚以内の刷り込みにより、目で見て判らない程度にまでとれる使用上問題ない汚染)
×:重度の汚染(5枚以上刷り込んでも、印刷物を目で見て異常が判る汚染)
尚、実施例9,10、比較例9,10の導電性ベルトについては、得られた導電性ベルトの切片と、富士ゼロックス株式会社製のレーザービームプリンタDocuPrint 180及び、それのカートリッジ(商品コード CT350035)にセットされている感光体を用い、上記と同様にして評価した。但し、保管条件は、45℃,相対湿度80%とした。
【0099】
(硬度の測定)
導電性ローラについて、JIS K6253に記載のタイプEデュロメータを用いて500gの荷重をかけたもとでの硬度を測定した(デュロメータE硬度)。但し、ソリッドローラについては、荷重を1000gとした。
【0100】
表1、表2に示すように、実施例1〜7の導電性ポリマー組成物から得られた導電性ローラは、所要の1相の第1非連続相に解離可能な塩を偏在させているため、いずれも電気特性に優れると共に移行汚染等の問題も生じなかった。特に、電気抵抗の環境依存性が小さい上に、連続通電時の抵抗上昇も少なかった。また、発泡により低硬度化された導電性ポリマー組成物、あるいはそれを用いた発泡ローラとしても通電時の抵抗上昇が小さく、良好であった。
【0101】
一方、比較例1は解離可能な塩を配合しなかったため体積固有抵抗値、及びローラ抵抗値が高すぎた。比較例2、3は連続相に解離可能な塩が偏在されたため連続通電時の抵抗上昇が大きく不適であった。比較例4、5は1相の系で解離可能な塩を用いたため連続通電時の抵抗上昇が大きく不適であった。
【0102】
また、上述した図2は、実施例2を原子間力顕微鏡(AFM)式の走査型プローブ顕微鏡(SPM)において位相モードで観察したモルフォロジーであった。また、比較例3のモルフォロジー(1辺10μm)を図7に示す。比較例3は1つの連続相と1つの非連続相からなり、解離可能な塩は連続相に偏在させたものである。
【0103】
さらに、図8は、実施例1と比較例2の導電性ポリマー組成物からなる導電性ローラの連続通電時の抵抗変化を示している。横軸を通電時間、縦軸をローラ抵抗値とした。実施例1と比較例2では初期状態でのローラ抵抗値はほぼ同等であるが、図8に示すように、連続通電により比較例2は抵抗が著しく上昇するのに対して、実施例1はごくわずかに上昇するのみであった。
【0104】
表3、表4に示すように、実施例8の導電性ウレタンゴム組成物及び、それを用いた導電性ローラは、所要の1相の第1非連続相にのみ解離可能な塩を偏在させているため、いずれも電気特性に優れると共に移行汚染等の問題も生じなかった。特に、電気抵抗の環境依存性が小さい上に、連続通電時の抵抗上昇も少なかった。
【0105】
一方、比較例6、7は解離可能な塩を含まないため、抵抗値が高く不適であった。比較例8は、基本的にはほぼ1相の系で解離可能な塩を用いたため、連続通電時の抵抗上昇が大きく不適であった。
【0106】
次に、導電性ベルト用の導電性ポリマー組成物の実施例、比較例について示す。
表5、表6に記載の各配合材料を上述した方法によりタンブラー、2軸押出機を用いて配合、混練した後に、樹脂用の押出成形機により押出して、内径168mm、平均厚み0.25mm、幅350mmの中間転写ベルト用の導電性ベルトを作製した。評価結果及び上記したベルトとしての各種評価を表5、表6に示す。
【0107】
【表5】

【0108】
【表6】

【0109】
(実施例9、10)
非連続相を構成するポリマーとして本発明で用いる陽イオンと陰イオンに解離可能な塩との親和性が非常に高い、ポリエチレンオキサイドブロックナイロン12共重合体やポリエーテルエステルアミド共重合体からなる樹脂型帯電防止剤を用い、これに陽イオンと陰イオンに解離可能な塩であるリチウム−ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを偏在させた。連続相として上記の樹脂型帯電防止剤よりは塩との親和性は小さいが、多少の親和性は有するポリエーテルのソフトセグメントとポリエステルのハードセグメントからなるポリエステル系熱可塑性エラストマーを用いた。リチウム−ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドの濃度が5wt%となるような上記の樹脂型帯電防止剤とのマスターバッチを作製し、それを用いた。尚、比較例10のデータ中のR2の値や組成物の体積固有抵抗値が、それなりに低い値を示していることから、これら実施例で用いた熱可塑性エラストマー(ペルプレン)は、本発明で用いる塩とはそれなりの親和性を有することがわかる。
【0110】
(比較例9、10)
比較例9は、リチウム−ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドをアジピン酸ジブトキシエトキシエチルに20wt%溶解したものを、ポリエステル系熱可塑性エラストマー(ポリエーテル−ポリエステルブロック共重合体ペルプレンP90BD)に配合して用いた。塩の量は0.5重量部とした。比較例10はリチウム−ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを低分子量のポリユーテル化合物や低分子量極性化合物からなる媒体を用いずにポリエステル系熱可塑性エラストマー1相中に直接分散させて用いた。
【0111】
樹脂型帯電防止剤1は、ポリエチレンオキサイドブロックナイロン12共重合体を主成分とする。樹脂型帯電防止剤2は、ポリエーテルエステルアミド共重合体を主成分として含んでいる。
【0112】
表5、表6に示すように、実施例9、10は所要の1相の第1非連続相に解離可能な塩を偏在させているため、いずれも電気特性に優れると共に移行汚染等の問題も生じなかった。特に、電気抵抗の環境依存性が小さい上に、連続通電時の抵抗上昇も少なかった。
【0113】
一方、比較例9は、1相の系で解離可能な塩を用い、またかかる塩を低分子量極性化合物からなる媒体を用いて分散させたため連続時の抵抗上昇が非常に大きく、感光体汚染も生じ不適であった。比較例10は、連続通電時の抵抗上昇が大きく、環境依存性もやや大きかった。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】本発明の第1実施形態の導電性ポリマー組成物の構造を示す模式図である。
【図2】第1実施形態の実施例2の導電性部材を形成する導電性ポリマーの相構造(モルフォロジー)を示す図である。
【図3】第1実施形態の導電性ポリマーより形成した導電層を備えた導電性ローラの概略図である。
【図4】本発明の第2実施形態の導電性ポリマー組成物を用いて形成される導電性ベルトの概略図である。
【図5】第2実施形態の導電性ポリマー組成物の構造を示す模式図である。
【図6】ローラ抵抗値等のローラの電気特性の測定装置の概略図である。
【図7】比較例3の導電性部材を形成する導電性ポリマーの相構造(モルフォロジー)を示す図である。
【図8】実施例1と比較例2のローラの連続通電時の抵抗変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0115】
1、1’連続相
2,2’第1非連続相
3 第2非連続相
10 導電性ローラ
11、21 導電層
12 芯金
13 導電性ベルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン導電性添加塩を含む導電性ポリマー組成物であって、
連続相と1相の非連続相からなり、該連続相と非連続相とが海−島構造をなし、
上記連続相を構成するポリマーをポリエステル系熱可塑性エラストマーとし、上記非連続相を構成するポリマーをポリオキシアルキレン系共重合体として、上記非連続相を構成するポリマーに電気抵抗低下能力を有する陽イオンと陰イオンに解離可能な塩を配合し、該非連続相を構成するポリマーは上記連続相を構成するポリマーよりも上記陽イオンと陰イオンとに解離可能な塩との親和性を高くし、該非連続相に該塩を偏在させ、上記連続相には上記塩を殆ど分散させず、塩の相外への移動を抑制しており、
上記非連続相を構成するポリマーと上記連続相を構成するポリマーとの重量比は、(上記非連続相を構成するポリマー:上記連続相を構成するポリマー)=(20:80)〜(45:55)とし、
上記陽イオンと陰イオンとに解離可能な塩は、全ポリマー成分100重量部に対して0.01重量部以上20重量部以下の割合で配合しており、熱可塑性エラストマー組成物としていることを特徴とする導電性ポリマー組成物。
【請求項2】
上記ポリオキシアルキレン系共重合体が、ポリエチレンオキサイドブロックナイロン共重合体あるいはポリエーテルエステルアミド共重合体である請求項1に記載の導電性ポリマー組成物。
【請求項3】
上記第1非連続相を構成するポリマーの体積抵抗率をR1、上記連続相を構成するポリマーの体積抵抗率をR2とすると、
2.3≦log10R2−log10R1≦4.4としている請求項1または請求項2に記載の導電性ポリマー組成物。
【請求項4】
上記陽イオンと陰イオンに解離可能な塩は、プロピレンカーボネート(PC)ジメチルカーボネート(DME)系混合溶媒(体積分率1/2)中,25℃で0.1mol/lの塩濃度で測定した導電率が2.3[mS/cm]以上である請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の導電性ポリマー組成物。
【請求項5】
上記陽イオンと陰イオンに解離可能な塩が、フルオロ基及びスルホニル基を有する陰イオンを備えた塩である請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の導電性ポリマー組成物。
【請求項6】
上記フルオロ基及びスルホニル基を有する陰イオンが、ビス(フルオロアルキルスルホニル)イミドイオン、トリス(フルオロアルキルスルホニル)メチドイオン、フルオロアルキルスルホン酸イオンからなる群の内の少なくとも1つから選ばれたイオンである請求項5に記載の導電性ポリマー組成物。
【請求項7】
上記フルオロ基及びスルホニル基を有する陰イオンを備えた塩の陽イオンは、アルカリ金属、2A族、遷移金属、両性金属のいずれかの陽イオンである請求項5または請求項6に記載の導電性ポリマー組成物。
【請求項8】
上記フルオロ基及びスルホニル基を有する陰イオンを備えた塩が、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドのアルカリ金属塩、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチドのアルカリ金属塩、トリフルオロメタンスルホン酸のアルカリ金属塩からなる群の内の少なくとも1つから選ばれた塩である請求項5乃至請求項7のいずれか1項に記載の導電性ポリマー組成物。
【請求項9】
上記陽イオンと陰イオンに解離可能な塩は、数平均分子量(Mn)が1万以下の低分子量ポリエーテル化合物や低分子量極性化合物である導電性可塑剤からなる媒体を介さずに配合されている請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載の導電性ポリマー組成物。
【請求項10】
請求項1乃至請求項9のいずれか1項に記載の導電性ポリマー組成物から形成されてなる導電性ローラあるいは導電性ベルトからなる導電性部材。
【請求項11】
導電性を有する円柱状の金属製の芯金と、該芯金の表面に上記導電性ポリマー組成物が円筒状に成形されてなる1層の導電層とを備えてなる導電性ローラからなる請求項10に記載の導電性部材。
【請求項12】
上記導電性ポリマー組成物がシームレスな1層のベルト状に成形された導電性ベルトからなる請求項10に記載の導電性部材。
【請求項13】
請求項1または請求項2に記載の導電性ポリマー組成物の製造方法であって、
上記ポリオキシアルキレン系共重合体に上記陽イオンと陰イオンに解離可能な塩を混練し、
得られた混練物に上記ポリエステル系熱可塑性エラストマーを混練して製造していることを特徴とする導電性ポリマー組成物の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2008−274286(P2008−274286A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−137046(P2008−137046)
【出願日】平成20年5月26日(2008.5.26)
【分割の表示】特願2002−344499(P2002−344499)の分割
【原出願日】平成14年11月27日(2002.11.27)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【出願人】(398033921)三光化学工業株式会社 (16)
【Fターム(参考)】