説明

導電性成形加工品

【課題】加熱成形可能なシート基材に帯電防止のためにポリピロールよりなる導電性高分子を被覆し、成形加工された帯電防止機能および低発塵性を併せ持つ導電性シートおよび成形加工品を提供する。
【解決手段】150℃以下の温度において加熱成形可能なシート基材に、少なくとも部分的にドーパントを含む導電性高分子が被覆され、そのシート基材の表面抵抗率が1011Ω/□のオーダー以下であることを特徴とする加熱成形可能な導電性シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯電防止のためにポリピロールのような導電性高分子を被覆した成形可能なシート基材に関し、特にその使用においてトレーのような形状に成形して使用する帯電防止トレーとして有用である。
【背景技術】
【0002】
例えば、精密電子部品を取扱う場合にトレーなどに入れて搬送する場合がある。その際にトレーとの摩擦・接触・剥離による静電気が発生し精密電子部品が破壊される場合がある。その対応策として樹脂にカーボンを練り混んで成形して作られたトレーに代表される帯電防止容器を使用している。しかし、カーボンを練り混んだものは、カーボンが容器の表面から脱落し、精密電子部品に付着しショートの原因となる。カーボンファイバーを練り混んで容器の表面からの脱落を防止するなどの対応策があるが、表面の摩擦や傷などによる脱落が生じると体積固有抵抗の高いカーボンでは、精密電子部品のショートの原因となる。このようなカーボンを練り混んで容器に成形するいくつかの試みが報告されている。
【0003】
【特許文献1】特開平5−339482
【特許文献2】特開平14−104574
【0004】
カーボンを練り混んだ方法を用いて帯電防止用容器を作製する場合、均一にカーボンを分散させなければ不均一な導電性になる。また、帯電防止に必要な導電性を発現させるためには、相当量のカーボンを混在する必要があり、カーボンの脱落による汚染の確率が高くなる。
界面活性剤を練り混んだものも同様の問題を抱えており、さらにイオン成分による汚染も懸念される。
導電性高分子分散体を成形体の表面にコーティングする試みもあるが、樹脂との密着性・生産性・R部分のコーティングむらなど問題点が多い。
また、帯電防止に必要な導電性を発現させるには、導電性高分子同士の物理的接触による導電性なので、相当量の導電性高分子粒子をコーティングする必要があり、発塵量も多くなる。
いずれの方法を用いても、問題が多く有効な対策が望まれる。
【発明の開示】
【0005】
本発明は、導電性高分子で被覆された成形可能なシート基材およびその成型品を提供する。本発明によれば、シート基材をピロールモノマー溶液であらかじめ処理し、これをドーパントを含む酸化剤溶液で処理することにより、基材をドーパントを含むポリピロール導電性高分子で被覆させるか、もしくはドーパントを含む酸化剤溶液であらかじめ処理し、これをピロールモノマー溶液または気相のピロールモノマーと接触させることにより基材をドーパントを含むポリピロール導電性高分子で被覆させた後、洗浄・乾燥させて、加熱プレスにより帯電防止機能を有する成型品が得られる。
【0006】
このように処理された基材は1011Ω/□のオーダー以下の抵抗率を持つことが望ましい。
【0007】
シート基材をピロールモノマー溶液であらかじめ処理し、これをドーパントを含む酸化剤溶液で処理することにより、基材をドーパントを含むポリピロール導電性高分子で被覆させるか、もしくはドーパントを含む酸化剤溶液であらかじめ処理し、これをピロールモノマー溶液で重合させても良いが、より低発塵性を有する導電性シート基材にするためには、気相でのピロールモノマーの重合反応を採用し生成する導電性高分子をナノサイズに留めるようにコントロールすることが重要である。
【0008】
さらに成形可能なシート基材を熱成形加工してトレーに代表される容器に加工されるが、このましくはガラス転移点が150℃以下であり、さらに好ましくは20℃〜100℃の範囲内にあるシート成形材料が良い。
【0009】
ここで本出願において使用するいくつかの術語について定義する。
【0010】
「シート基材」とは、天然繊維、合成もしくは半合成化学繊維、またそれらの混合物によって構成される成形可能なシート状のウエブもしくはフィルム状をいう。シートの構造もしくは形状は、例えば織物、ニットなどの布帛、不織布、紙、フィルムなどであるが、本発明による処理剤の受入れを許容するため繊維間に微細な間隙を持っていなければならない。
【0011】
「ポリピロール」とは、ピロールのホモポリマーのみならず、ピロールと小割合の共重合可能なピロール同族体もしくは誘導体、例えばN−メチルピロール、3−メチルピロール、3,5−ジメチルピロール、2,2’−ビピロールとの共重合体をいう。
【0012】
「酸化剤」は、ピロールモノマーの酸化的重合によって導電性のポリピロールを与えることができる化学的酸化剤をいう。使用し得る酸化剤の具体例は米国特許Nos.4,604,427、4,521,450および4,617,228を含む多数の文献に記載されており、過硫酸アンモニウム、塩化鉄(III)、硫酸鉄(III)、過酸化水素、過ホウ酸アンモニウム、塩化銅(II)などを含む。ドーパントとして使用するスルホン酸、例えばパラトルエンスルホンの第2鉄塩も酸化剤として使用することができる。
【0013】
「ドーパント」とは、ポリピロールの導電性を向上させるアニオンを指し、その具体例はやはり前出の米国特許を含む多数の特許文献に記載されている。パラトルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、ドテシルベンゼンスルホン酸、スルホン化ポリスチレンなどのスルホン酸が好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の特徴部分は、成型可能なシート基材の表面上で液中及び気相重合で導電性高分子を生成させることにより、シート基材と導電性高分子の相互作用による密着性向上が期待され、導電性高分子分散体をコートする場合と比較して、同じ導電性を発現させるのに薄くコートでき、低発塵性の成形品が得られる。
【0015】
先に述べたように、本発明の重要な局面の一つは、液中及び気相重合で生成する導電性高分子をシート基材上で重合させることにより、低発塵性を有する導電性を付与したシート基材を得ることにある。より好ましいのは気相重合の採用により、一次粒子の90%以上が100nm以下のサイズのポリピロールをもってシート基材を被覆することである。シート基材上でポリピロールを形成させるため密着強度に優れ、ポリピロール粒子同士の物理的接触以外の相互作用により薄くコートすることができ、気相重合の採用によりポリピロールがナノ粒子レベルに形成された低発塵性の導電性成形加工品を得ることができる。
この成型品は、ポリピロールのナノレベルの粒子で形成されていることとポリピロール粒子同士の物理的接触以外による相互作用の働きにより、成形時の極端な曲げ加工に対しても導電性が分断されないという特徴も併せ持っている。
【0016】
ピロールモノマーの重合反応速度はドーパントを含む酸化剤溶液のpHに依存し、通常は酸性側、特にpH1〜3の範囲にコントロールされる。より好ましい実施態様によれば、この溶液のpHは3〜11、さらに好ましいのはpH4〜9の範囲にコントロールされる。先に挙げた酸化剤の中には、塩化第2鉄、硫酸第2鉄のように水溶液が本来酸性を呈するものがあり、中和によってFe3+イオンが溶液中に安定に存在し得なくなるものがある。このことを考慮に入れて、この場合は例えば過硫酸アンモニウム、過ホウ酸アンモニウムのようなpH4〜9において安定な酸化剤を選ぶ必要がある。重合反応速度をコントロールするための他の方法は、ピロール自体より反応速度の遅いコモノマーを共重合する方法である。例えばN−メチルピロールはピロールより反応速度が遅いことが知られている。そこで少割合、例えば10モル%以下のN−メチルピロールを含むピロールを重合反応に使用する。
【0017】
基材はドーパントを含む酸化剤溶液で含浸されるが、含浸は浸漬、噴霧、塗布などによって行うことができる。過剰の溶液はマングルロールなどによって絞り出すことが望ましい。ドーパントおよび酸化剤の濃度はあまり重要でなく、それぞれ0.1〜10%、好ましくは0.5〜5%、特に約1%が好適である。
【0018】
このようにドーパントを含む酸化剤溶液で含浸した基材は、例えば、より低発塵性を有するシート基材を得るのには、気相のピロールモノマーと接触させる。モノマーはドーパントを含む酸化剤溶液で濡れた基材と接触し、その上にポリピロールの導電性高分子の被覆を形成する。この気相重合反応は、ドーパントを含む酸化剤で含浸したシート基材を仕切られた反応室に入れ、その中にモノマーを気相の状態で導入し、モノマーがそれ以上反応しなくなるまでその状態に放置することによって実施することができる。場合により含浸工程をも含めて、気相重合反応を連続式に実施することも可能である。
【0019】
ピロールの大気圧における沸点は130℃であるが、それ以下の温度においても飽和蒸気圧に達するまで空気中で気化する。そのため反応室内に液体ピロールのエバポレータを設置し、気化したピロールと液体ピロールとを平衡状態に維持し、この状態の雰囲気にドーパントを含む酸化剤水溶液で含浸した基材を保持する。代りに、液体ピロールを収容したエバポレータを室外に設置し、窒素のような不活性キャリアーガスでバブリングし、気化したピロールをキャリアーガスと共に室内へ供給することもできる。エバポレータをどちらに設置するにせよ、液体ピロールの温度は5℃から100℃の範囲でよく、好ましくは20℃〜50℃、特に好ましくは常温でよい。液相法と違って気相法では反応に必要な酸化剤の量が限られているので、反応時間を厳密にコントロールする必要はない。
【0020】
ピロールの酸化重合は含浸した基材に含まれる酸化剤の消費につれて平衡に達し、自然に停止する。このような処理によってシート基材の表面抵抗率を1011Ω/□のオーダー以下とすることができる。もし抵抗率がこの値に達しなければ、再び上に記載した含浸および気相重合のステップを所望の抵抗率に達するまで繰り返せば良い。処理した基材は洗浄して残っているドーパントを除去した後次工程に用いる。
【0021】
導電性高分子の付着率、すなわち処理前の基材に対する導電性高分子の重量%は、基材の性質、特に基材の比表面積によって大幅に変動するが、一般に0.1〜5%であろう。
【0022】
このように基材へ付着した導電性ポリピロールは、機械的衝撃によって基材から脱落し、それ自体粉塵の供給源となり得る。本発明は、そのためバインダー樹脂を使用して導電性高分子の基材への接着を強化することもできる。
【実施例】
【0023】
以下の実施例および比較例は限定を意図するものではなく、また「部」および「%」は特記しない限り重量基準による。
【0024】
表面抵抗率の測定は、三菱化学社製表面抵抗計Hiresta−UP MCP−Hi450を用いて行った。
【0025】
脱粒子数は、リオン社製パーティクルカウンターKM−33を用いて測定した。測定条件は、米国IES−RP−CC−003の基準タンブラー法に準拠し、24×24cmの試料5枚について測定し、5点の平均値を求め、1枚あたりの発生粒子数とした。
【0026】
シート基材上のポリピロール粒子径の観察には、パシフィックナノテクノロジー社製 走査型プローブ顕微鏡 NANO−Rステージを用いて行った。
【0027】
実施例1
マージンを除いて幅24cm、長さ120cm、厚み0.3mm、目付100g/m、ガラス転移点80℃の加熱プレス成形加工ができるポリエステル不織布を、過硫酸アンモニウム1%、パラトルエンスルホン酸1%の水溶液(pH1.40)に浸漬し、マングルにて過剰の溶液を除去した。その後湿った不織布を平坦に広げた状態で反応室に入れ、室内に設置したエバポレーターからピロールの蒸気を室内に充満させ、1時間放置してピロールの気相重合を行った。反応終了後不織布を反応室から取出し、10Lの蒸留水で3回洗浄し、水切りした後、105℃で1時間乾燥した。処理前および処理後の重量差から、ポリピロールの付着率は1.0%と計算された。
【0028】
得られた不織布をマージンを残して24×24cm大の5枚にホットカットし、5枚の平均表面抵抗率と5枚の平均脱粒子数を測定したところ、それぞれ5×10Ω/□および73個/枚であった。尚、導電未処理の同不織布、同測定による平均脱粒子数は85個/枚であった。
また、ポリピロールの1次粒子径を観察すると、90%以上が10〜50nmのサイズであった。
この24cm×24cmの加熱プレス成形加工できる導電処理された不織布の4端を4cm×4cm、高さ5cmの真鍮の角棒にて不織布を上下に挟み込んで動かないように固定した。
その後150℃にセットされた乾燥機に入れて、1分間放置し、不織布の中心に直径10cm、高さ8cmの真鍮の丸棒で不織布が2cm厚み方向に変形するまで、耐熱性手袋を装着した手で押し込んだ。真鍮の角棒及び丸棒を取り除き、乾燥機から取り出した。取り出したトレーは5×10Ω/□の表面抵抗および平均脱粒子数46個/トレーを有する帯電防止トレーができた。
【0029】
実施例2
基材を目付80g/mの加熱成形加工できるポリエステル不織布に変更したことを除き、実施例1の操作を繰り返した。得られたポリエステル不織布の平均表面抵抗率および平均脱粒子数は、それぞれ1×10Ω/□および50個/枚であった。尚、導電未処理の同不織布、同測定による平均脱粒子数は60個/枚であった。
ポリピロールの付着率は1.2%であった。
また、ポリピロールの1次粒子径を観察すると、90%以上が10〜50nmのサイズであった。
その後、実施例1と同様の操作を繰り返した。
取り出したトレーは3×10Ω/□の表面抵抗および平均脱粒子数32個/トレーを有する帯電防止トレーができた。
【0030】
実施例3
重合方法を気相重合からピロールモノマーの20%エタノール溶液に10分間浸漬する液中重合に変更した以外は、実施例1の操作を繰り返した。
得られたポリエステルの平均表面抵抗率および平均脱粒子数は、それぞれ3×10Ω/□および95個/枚であった。
ポリピロールの付着率は1.5%と計算された。また、ポリピロールの1次粒子径を観察すると、90%以上が10〜80nmのサイズであった。
その後、実施例1と同様の操作を繰り返した。
取り出したトレーは1×10Ω/□の表面抵抗および平均脱粒子数76個/トレーを有する帯電防止トレーができた。
【0031】
実施例4
ドーパントを含む酸化剤含浸溶液を、過硫酸アンモニウム1%、パラトルエンスルホン酸1%、アンモニアでpH9.0に調節した水溶液に変更したことを除き、実施例2の操作を繰り返した。得られたポリエステル不織布の平均表面抵抗率および平均脱粒子数は、それぞれ7×10Ω/□および30個/枚であった。
ポリピロールの付着率は0.8%と計算された。
また、ポリピロールの1次粒子径を観察すると、90%以上が10〜40nmのサイズであった。
その後、実施例1と同様の操作を繰り返した。
取り出したトレーは4×10Ω/□の表面抵抗および平均脱粒子数32個/トレーを有する帯電防止トレーができた。
【0032】
比較例
熱成形加工可能な、ガラス転移点170℃のポリエステル不織布に変更したことを除き、実施例1の操作を繰り返した。
得られたポリエステル不織布の平均表面抵抗率および平均脱粒子数は、それぞれ3×10Ω/□および53個/枚であった。
また、加熱成形プレスにおいて、ガラス転移点より高温である200℃にセットされた乾燥機に入れることを除いて実施例1の操作を繰り返した。
得られたトレーは5×1012Ω/□の表面抵抗を有する帯電防止トレーができた。
加熱加工することにより、急激に導電性が悪くなり、帯電防止に必要な表面抵抗値が得られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
150℃以下の温度において加熱成形可能なシート基材に、少なくとも部分的にドーパントを含む導電性高分子が被覆され、そのシート基材の表面抵抗率が1011Ω/□のオーダー以下であることを特徴とする加熱成形可能な導電性シート。
【請求項2】
導電性高分子がポリピロールである請求項1の導電性シート。
【請求項3】
表面抵抗率が10Ω/□のオーダー以下である請求項1または2の導電性シート。
【請求項4】
導電性高分子による被覆は、ドーパントを含む酸化剤溶液で含浸した基材に対してピロールモノマーの気相重合によって行われる請求項1ないし3のいずれかの導電性シート。
【請求項5】
加熱成形できる基材のガラス転移点が150℃以下である請求項1ないし4のいずれかの導電性シート。
【請求項6】
加熱成形できる基材のガラス転移点が20℃〜100℃の範囲内である請求項1ないし4のいずれかの導電性シート。
【請求項7】
加熱成形できる基材が、低結晶配向性のポリエステルで構成され、かつガラス転移点が20℃〜100℃の範囲内である請求項1ないし6のいずれかの導電性シート。
【請求項8】
多孔質であることを特徴とする請求項1ないし7のいずれかの導電性シート。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれかの導電性シートを加熱成形加工した導電性成型加工品。
【請求項10】
トレー状の成型物であることを特徴とする請求項9の導電性成型加工品。

【公開番号】特開2008−108444(P2008−108444A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−287511(P2006−287511)
【出願日】平成18年10月23日(2006.10.23)
【出願人】(000215800)テイカ株式会社 (108)
【Fターム(参考)】