説明

導電性成形加工物の製造方法、導電性成形加工物、及びこれに用いる銀ペースト

【課題】 簡便な方法で、銀ナノ粒子成分と有機成分とを含有する構造体が密着されてなる成形加工物を得ることができ、且つ、150℃以下の低温焼成において高導電性を示す導電性成形加工物、その製造方法、ならびにこれに用いる低温焼結可能な銀ペーストを提供すること
【解決手段】 ポリエチレンイミンにポリエチレングリコールが結合してなる化合物(x1)、ポリエチレンイミンに線状エポキシ樹脂(c)が結合してなる化合物(x2)及びポリエチレンイミンにポリエチレングリコールと線状エポキシ樹脂とが結合してなる化合物(x3)からなる群から選ばれる1種以上の化合物(X)と、銀ナノ粒子(Y)と、を主構成成分とする銀含有構造体の水性分散体と、前記化合物(X)中のポリエチレンイミンの窒素原子と反応可能な官能基を有する化合物(Z)とを含有し、乾燥状態の融点が100〜150℃の銀ペースト、これを用いる導電性成形加工物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエチレンイミン骨格を含有する高分子化合物と銀ナノ粒子と特定の添加剤とを含有する、低温で焼結可能な銀ペーストと、これを用いて得られる低温焼結型の導電性成形加工物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属ナノ粒子は1〜数百ナノメートルの粒径を有するナノ粒子であり、その比表面積が著しく大きいことから、金属ナノ粒子を用いた成形加工物は多分野から着目され、触媒、電子材料、磁気材料、光学材料、各種センサー、色材、医療検査用途等への応用が期待されている。しかしながら、金属がナノサイズまで小さくなると表面エネルギーが増大するため、粒子表面での融点降下が生じ、その結果、金属ナノ粒子同士の融着が起こりやすくなるため、保存安定性が悪くなる。金属ナノ粒子を安定化させるためには、該融着を防止するために保護剤で保護する必要がある。
【0003】
本発明者らは既にポリアルキレンイミン鎖と親水性セグメントと疎水性セグメントとを含有する高分子化合物が溶媒中で形成する分散体に金属ナノ粒子が含有されてなる金属ナノ粒子分散体、及び該金属ナノ粒子分散体の製造方法について報告している(例えば、特許文献1参照。)。該金属ナノ粒子分散体は、用いる高分子化合物中のポリアルキレンイミン鎖の強い還元能力、配位結合力や静電的な相互作用によって金属イオンを還元するとともに金属をナノ粒子として分散体中に固定化してなる分散体である。このようなポリアルキレンイミン鎖の特有な機能により該ポリアルキレンイミン鎖の収縮等に伴う分散体のモルフォロジーに変化が生じても、当該高分子化合物中の親水性セグメントと疎水性セグメントとが、溶媒との高い親和力と、前記セグメント間の相互作用による強い会合力によって優れた自己組織化能力を発現するため、分散体としての分散安定性を損なうことがなく、溶媒中で長期に渡り安定な分散状態を保持している。
【0004】
また、前述した金属ナノ粒子分散体を用いた成形加工物についても報告している(例えば、特許文献2参照。)。該成形加工物は、当該金属ナノ粒子分散体をそのまま使用することで得られ、煩雑な操作が必要でないものの電気的特性が不十分である。例えば200℃で30分の熱処理を行なっても7.8×10−4Ω・cmの抵抗値を示すにとどまり、バルク銀の抵抗値である1.6×10−6Ω・cmより二桁も数値が高い上に、高温処理が必要であり、フレキシブルディスプレイ等に用いられるプラスチック基板への応用が難しく、汎用性に欠け改良が必要である。
【0005】
200℃以下の低温焼成で高導電性(低抵抗値)を示す導電性ペーストの例としては、例えば保護剤として炭素数5〜20のアミン化合物と、炭素数4〜30のアミド化合物、アルデヒド化合物、エステル化合物及びケトン化合物から選ばれる1種とを併用し、これらの存在下、貴金属イオンを含む溶液中で該イオンを還元することにより得られる導電性インキ組成物が提供されている(例えば、特許文献3参照。)。前記特許文献3によれば、80〜150℃の低温焼成によっても、低抵抗率の薄膜が得られると記載されているが、実際には80〜100℃で30分の焼成では1×10−6Ω・cmオーダーの抵抗率にはなっておらず、導電性成形加工物として使用可能なレベルにするには、やはり180〜200℃での焼成を必要とするものである。また、前記特許文献3では、用いる保護剤として分子量の小さいものを選択し、これらを焼結時に揮発させることによって金属薄膜を得ようとするものであるが、本来貴金属等とプラスチック基板とは密着性が悪いため、焼結して金属薄膜を得たとしても、保護剤の揮発に伴って該薄膜が基板からはがれたりクラックが入ったりすることがある。これを防ぐためには基板の表面を処理する必要や、密着性を付与させるための接着剤などの第三成分が必要となり(例えば、特許文献4参照)、簡便な手法で任意形状のプラスチック基板等に実用レベルの導電性被膜を形成させうる素材はいまだ見出されていないのが現状である。
【0006】
【特許文献1】特開2006−213887号公報
【特許文献2】特開2008−045024号公報
【特許文献3】特開2006−183072号公報
【特許文献4】特開2003−183616号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、簡便な方法で、銀ナノ粒子成分と有機成分とを含有する構造体が密着されてなる成形加工物を得ることができ、且つ、150℃以下の低温焼成においても高導電性を示し、電子材料、磁気材料、光学材料、各種センサー、医療検査用途等といった多くの応用分野に広く利用することが可能な導電性成形加工物、その製造方法、ならびにこれに用いる低温焼結可能な銀ペーストを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、ポリエチレンイミン骨格を含有する化合物を保護剤として得られる銀ナノ粒子分散体と、当該ポリエチレンイミン中の窒素原子と反応可能な官能基を有する化合物とを含有し、融点が特定範囲にある銀ペーストを基材に塗布することによって、煩雑な処理等を行なわなくても、低温焼成において高導電性を示す任意形状の成形加工物が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち本発明は、
(1)数平均分子量が500〜50,000のポリエチレンイミン(a)中のアミノ基に数平均分子量が500〜5,000のポリエチレングリコール(b)が結合してなる化合物(x1)、
数平均分子量が500〜50,000のポリエチレンイミン(a)中のアミノ基に線状エポキシ樹脂(c)が結合してなる化合物(x2)、及び
数平均分子量が500〜50,000のポリエチレンイミン(a)中のアミノ基に、数平均分子量が500〜5,000のポリエチレングリコール(b)と、線状エポキシ樹脂(c)とが結合してなる化合物(x3)
からなる群から選ばれる1種以上の化合物(X)と、銀ナノ粒子(Y)と、
を主構成成分とする銀含有構造体の水性分散体と、
前記化合物(X)中のポリエチレンイミン(a)の窒素原子と反応可能な官能基を有する化合物(Z)と、を含有し、乾燥状態の融点が100〜150℃の銀ペーストを、固体基材上に塗布する工程、
(2)前記工程(1)で得られた銀ペースト塗布後の固体基材を25℃〜150℃で乾燥する工程、
を有することを特徴とする導電性成形加工物の製造方法および該製造方法で得られる任意形状の導電性成形加工物を提供するものである。
【0010】
また本発明は、数平均分子量が500〜50,000のポリエチレンイミン(a)中のアミノ基に数平均分子量が500〜5,000のポリエチレングリコール(b)が結合してなる化合物(x1)、
数平均分子量が500〜50,000のポリエチレンイミン(a)中のアミノ基に線状エポキシ樹脂(c)が結合してなる化合物(x2)、及び
数平均分子量が500〜50,000のポリエチレンイミン(a)中のアミノ基に、数平均分子量が500〜5,000のポリエチレングリコール(b)と、線状エポキシ樹脂(c)とが結合してなる化合物(x3)
からなる群から選ばれる1種以上の化合物(X)と、銀ナノ粒子(Y)と、を主構成成分とする銀含有構造体の水性分散体と、前記化合物(X)中のポリエチレンイミン(a)の窒素原子と反応可能な官能基を有する化合物(Z)と、を含有し、乾燥状態における融点が100〜150℃の範囲であることを特徴とする銀ペーストを提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の導電性成形加工物は、固体基材上に導電性の被膜を形成してなるものであり、当該固体基材のガラス転移温度が180℃以下の耐熱性に不足するものであってもよく、また平面状の基材には勿論、棒状、チューブ状、繊維状、微細加工が施された立体成形物などの任意形状の基材を用いることができる。又その製造方法としては、本発明の銀ペーストを塗布し乾燥すればよく、塗布方法にも特に限定はないことから、様々な応用分野に用いることが可能である。更に、比表面積が大きい、表面エネルギーが高い、プラズモン吸収を有する等の金属ナノ粒子を含有することによる特徴と、種々の化学的、電気的、磁気的、光学的性能を兼備し、多岐にわたる分野、例えば触媒、電子材料、磁気材料、光学材料、各種センサー、色材、医療検査用途等への応用が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の導電性成形加工物の製造方法は、(1)数平均分子量が500〜50,000のポリエチレンイミン(a)中のアミノ基に数平均分子量が500〜5,000のポリエチレングリコール(b)が結合してなる化合物(x1)、
数平均分子量が500〜50,000のポリエチレンイミン(a)中のアミノ基に線状エポキシ樹脂(c)が結合してなる化合物(x2)、及び
数平均分子量が500〜50,000のポリエチレンイミン(a)中のアミノ基に、数平均分子量が500〜5,000のポリエチレングリコール(b)と、線状エポキシ樹脂(c)とが結合してなる化合物(x3)
からなる群から選ばれる1種以上の化合物(X)と、銀ナノ粒子(Y)と、
を主構成成分とする銀含有構造体の水性分散体と、
前記化合物(X)中のポリエチレンイミン(a)の窒素原子と反応可能な官能基を有する化合物(Z)と、を含有し、乾燥状態の融点が100〜150℃の銀ペーストを、固体基材上に塗布する工程、
(2)前記工程(1)で得られた銀ペースト塗布後の固体基材を25℃〜150℃で乾燥する工程、と
を有することを特徴とする。
【0013】
本発明における銀ナノ粒子(Y)とは、透過型電子顕微鏡写真で観測される平均粒子径(100個の粒子を無作為に抽出し、その平均をとった値)が100ナノメートル以下であることを意味するものであり、その形が完全な球体であることを必要としない。又、化合物(X)を構成する各セグメントの数平均分子量は、ゲルパーミュエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定した、ポリスチレン換算値である。更に、前記化合物(X)と銀ナノ粒子(Y)とを主構成成分とする銀含有構造体は、精製工程における精製が不十分であることによって混入する不純物以外に、意図的に添加剤等の第三成分を配合しない限り、前記化合物(X)と銀ナノ粒子(Y)とからなるものであり、ナノメートルオーダーの構造を有する。添加剤等を配合する場合においても、銀含有構造体中の前記化合物(X)と銀ナノ粒子(Y)との合計質量割合は90質量%以上である。更に又、乾燥状態の融点とは、銀ペースト中にある溶剤等が揮発し、流動性を有しない状態におけるDSC測定で求めた融点を言うものである。
【0014】
本発明において使用する化合物(X)を構成するポリエチレンイミン(a)は、該鎖中のエチレンイミン単位が銀およびそのイオンと配位結合可能であり、更に銀イオンの還元を促して銀ナノ粒子(Y)とし、該銀ナノ粒子(Y)を安定化し保持する高分子鎖である。その構造はエチレンイミン単位を主な繰り返し単位とし、直鎖状、分岐状のいずれであっても良く、市販品・合成品のいずれでも良い。
【0015】
本発明で用いる銀含有構造体の大きさは、用いる化合物(X)の分子量だけではなく、該化合物(X)を構成する各成分、即ち、ポリエチレンミン(a)、ポリエチレングリコール(b)、および線状エポキシ樹脂(c)の構造や組成比、また原料として用いる銀化合物の種類によっても影響を受ける。同じ分子量のポリエチレンイミン(a)である場合には、分岐度が小さいと得られる構造体の粒径が大きく、分岐度の向上に伴って粒径が小さくなる傾向がある。また、銀ナノ粒子(Y)の含有率を上げるためには、分岐状のポリエチレンイミンを用いることが好ましい。
【0016】
一般に市販されている分岐状ポリエチレンイミンは3級アミンによって分岐状となっており、本発明で使用する化合物(X)の原料として用いることができる。保存安定性に優れ、好ましい粒径の銀含有構造体の水性分散体が得られる点からは、分岐度を(3級アミン)/(全てのアミン)のモル比で示すと(1〜49)/(100)の範囲の分岐度であることが好ましく、工業的な製造面、入手のし易さ等も鑑みるとより好ましい分岐度の範囲は(15〜40)/(100)である。
【0017】
前記ポリエチレンイミン(a)部分の数平均分子量としては、低すぎると、化合物(X)による銀ナノ粒子(Y)の保持能力が低下しやすく、保存安定性が不十分になることがあり、高すぎると化合物(X)が巨大な会合体となるため、該分散体の保存安定性に支障をきたすことがある。従って、得られる銀含有構造体の水性分散体中の銀ナノ粒子(Y)の固定化能力や分散体の粒径の巨大化を防ぐ能力等がより優れた銀含有構造体の水性分散体を得るためには、該ポリエチレンイミン(a)の数平均分子量としては500〜50,000の範囲であることを必須とし、1,000〜40,000の範囲であることが好ましく、1,800〜30,000の範囲であることが最も好ましい。
【0018】
本発明において使用する化合物(x1)および化合物(x3)を構成するポリエチレングリコール(b)は、親水性セグメントとして親水性溶媒に分散安定化を促すものである。該ポリエチレングリコール(b)の分子量としては、親水性溶媒に分散させる場合は、分子量が低すぎると分散安定性が悪化し、高すぎると構造体同士が凝集してしまう可能性が考えられる。従って、保存安定性がより優れた銀含有構造体の水性分散体を得るためには、ポリエチレングリコール(b)の数平均分子量としては500〜5,000の範囲であることを必須とし、1,000〜3,000であることが好ましい。
【0019】
前記ポリエチレングリコール(b)は一般的に市販されているものであっても、合成品でも良い。また、他の親水性ポリマーとの共重合体等であっても良い。このとき使用できる親水性ポリマーとしては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリイソプロピルアクリルアミド、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。得られる銀含有構造体の銀含有率を高める点から、共重合体を使用する場合においても、全体の分子量が500〜5,000の範囲であることが好ましい。
【0020】
本発明において使用する化合物(x2)および化合物(x3)中には、疎水性セグメントとして線状エポキシ樹脂(c)を結合してなるものである。化合物(x2)および化合物(x3)中に線状エポキシ樹脂(c)由来の構造を含有させることにより、該化合物(x2)および化合物(x3)を水または親水性溶媒中に分散した場合には、分子内又は分子間相互の強い会合力により、ミセルのコアを形成し、安定なミセルを形成してその中に銀ナノ粒子(Y)を取り込んで安定な分散体を得ることができる。
【0021】
前記線状エポキシ樹脂(c)は一般的に市販、又は合成可能な構造であれば特に限定されることなく使用することができる。例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、特開2003−201333号記載のキサンテン型エポキシ樹脂等が挙げられ、単独で用いてもよく、2種以上を混合してもよい。これらの中でも、得られる銀含有分散体を銀ペーストとして用いる際に、基板との密着性に優れる等の観点から、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を用いることが好ましい。また、これらの線状エポキシ樹脂は、そのまま化合物(x2)または化合物(x3)の原料としても良く、更には目的とする化合物(x2)または化合物(x3)の構造等に応じて、種々の変性を加えたものであっても良い。
【0022】
また、前記線状エポキシ樹脂(c)の分子量としては特に限定されるものではないが、親水性有機溶剤中に分散させる場合は、低すぎると分散安定性が悪化し、高すぎるとミセル同士が凝集してしまう可能性が考えられる。これらの観点から、線状エポキシ樹脂(c)の数平均分子量としては通常350〜20,000であり、400〜10,000であることが好ましい。
【0023】
本発明で用いる化合物(X)の製造方法としては、特に限定されるものではないが、設計どおりの化合物を容易に合成可能である点から、下記の方法によるものが好ましい。
【0024】
ポリエチレンイミン(a)は前述したとおり、市販又は合成したものを好適に用いることができる。まず、分岐状ポリエチレンイミンを用いる場合について説明する。
【0025】
分岐状ポリエチレンイミンの末端は1級アミンとなっているため、ポリエチレングリコール(b)の末端を1級アミンと反応する官能基に予め変性させて、反応させることによって、本発明で用いる事ができる化合物(x1)を合成することができる。1級アミンと反応する官能基としては、特に限定されるものではなく、例えば、アルデヒド基、カルボキシ基、イソシアネート基、トシル基、エポキシ基、グリシジル基、イソチオシアネート基、ハロゲン、酸クロライド、スルホン酸クロライド等が挙げられる。中でもカルボキシ基、イソシアネート基、トシル基、エポキシ基、グリシジル基は反応性、取扱い易さ等、製法上有利であり、好ましい官能基である。
【0026】
また1級アミンと直接反応する官能基でなくとも、種々の処理を行うことによって1級アミンと反応可能な官能基にできるものであれば良く、例えば、ヒドロキシ基を有するポリエチレングリコールを用いるのであれば、これをグリシジル化する等の手法でポリエチレンイミンと反応させても良い。更には、分岐状ポリエチレンイミンの1級アミンを、官能基を有するポリエチレングリコールと反応可能な他の官能基に変換する処理を施した後、これらを反応させて化合物(x1)を合成することも可能である。
【0027】
ポリエチレンイミン(a)が直鎖状ポリエチレンイミンの場合は、リビング重合によって、まずポリアシル化エチレンイミン鎖を合成し、引き続き、ポリエチレングリコールを導入することによって高分子化合物を得た後、ポリアシル化エチレンイミン鎖を加水分解して直鎖状ポリエチレンイミンとする方法が挙げられる。
【0028】
また、本発明で用いる化合物(x2)の合成方法については、特開2007−197503公報等にて、既に本発明者らにより提供しているので、それを参照し、規定の範囲の分子量を有する化合物を合成すれば良い。
【0029】
本発明で用いる化合物(x3)の合成方法については、前記特許文献1、2等にて、既に本発明者らにより提供しているので、それを参照し、規定の範囲の分子量を有する化合物を合成すれば良い。
【0030】
本発明で用いる化合物(x1)中のポリエチレンイミン(a)とポリエチレングリコール(b)の各成分の鎖を構成するポリマーのモル比(a):(b)としては特に限定されるものではないが、得られる銀含有構造体の水性分散体の分散安定性及び保存安定性に優れる点から、通常(2):(b)=1:1〜100の範囲であり、特に1:1〜30になるように設計することが好ましい。
【0031】
また、化合物(x2)を用いる場合、ポリエチレンイミン(a)と線状エポキシ樹脂(c)の各成分の鎖を構成するポリマーのモル比(a):(c)としては特に限定されるものではないが、得られる銀含有構造体の水性分散体の分散安定性及び保存安定性に優れる点から、通常(a):(c)=1:1〜100の範囲であり、特に1:1〜30になるよう設計することが好ましい。
【0032】
化合物(x3)を用いる場合、ポリエチレンイミン(a)とポリエチレングリコール(b)、線状エポキシ樹脂(c)の各成分の鎖を構成するポリマーのモル比(a):(b):(c)としては特に限定されるものではないが、得られる銀含有構造体の水性分散体の分散安定性及び保存安定性に優れる点から、通常(a):(b):(c)=1:1〜100:1〜100の範囲であり、特に1:1〜30:1〜30になるよう設計することが好ましい。
【0033】
本発明に使用する化合物(X)は、銀ナノ粒子(Y)を安定に存在させることが出来るポリエチレンイミン(a)とは別に、化合物(x1)ではポリエチレングリコール(b)、化合物(x2)では線状エポキシ樹脂(c)、化合物(x3)ではポリエチレングリコール(b)および線状エポキシ樹脂(c)に由来する構造を有する。上記したように、ポリエチレングリコール(b)の部分は、親水性有機溶剤中では溶媒と高い親和性を示し、また、線状エポキシ樹脂(c)の部分は親水性有機溶剤中で強い会合力を示す。さらには、線状エポキシ樹脂(c)中に芳香環を有する場合には、該芳香環の有するπ電子が銀と相互作用することによって、さらに銀含有構造体の水性分散体を安定化することに寄与するとも考えられる。
【0034】
本発明の製造方法では、まず前述の化合物(X)を水性媒体、即ち水又は水と親水性有機溶剤との混合溶剤に溶解又は分散させる。化合物(x1)の場合は、ポリエチレンイミン(a)とポリエチレングリコール(b)、化合物(x2)の場合はポリエチレンイミン(a)と線状エポキシ樹脂(c)、化合物(x3)の場合にはポリエチレンイミン(a)とポリエチレングリコール(b)、および線状エポキシ樹脂(c)の組合せにより、水性媒体への溶解性・分散性が異なるが、均一に溶解または分散させることが必要となる。ここで用いることができる親水性有機溶剤としては、25〜35℃で、水100質量部に対して、少なくとも5質量部混和し、均一な混合溶剤が得られるものであればよく、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n−プロピルアルコール、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコール、グリセリン、ジメチルスルフォンオキシド、ジオキシラン、N−メチルピロリドン、ジメチルイミダゾリジノン、スルホラン等を挙げることができ、単独でも、2種以上を混合して用いても良い。また、各種イオン液体を用いても良い。
【0035】
前記化合物(X)と、水性媒体との使用割合としては、取り扱い上の容易性と、銀イオンの還元反応の容易性の観点、得られる銀含有構造体の銀含有率の向上の観点から、化合物(X)の濃度が1〜20質量%になるように用いることが好ましく、2〜15質量%であることがより好ましい。この時、化合物(X)の溶解性・分散性が不足する場合には、例えば、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等を併用した混合溶剤を用いることで溶解性・分散性を調整することができる。化合物(X)を溶解または分散させるには、通常、室温(25℃)で静置、又は攪拌を行えばよく、必要に応じて超音波処理、加熱処理等を行ってもよい。また化合物(X)の結晶性等により、水性媒体とのなじみが低い場合には、例えば、化合物(X)を少量の良溶媒で、溶解又は膨潤させた後、目的とする水性媒体中へ分散させる方法でもよい。このとき、超音波処理又は加熱処理(〜80℃程度)を行うとより効果的である。
【0036】
化合物(X)の溶液又は分散液を調製した後、銀化合物を混合するが、このとき、得られる銀含有構造体中の銀含有率を高める観点から、化合物(X)100質量部に対して、銀として400〜9900質量部になるよう用いることが好ましい。さらに水性媒体の使用量を削減することによって生産性を高めることと、還元反応の制御を容易に行なうことができる観点から、不揮発分として2〜80質量%になるよう混合することが好ましい。より好ましくは、化合物(X)100質量部に対して、銀として900〜9900質量部、不揮発分として3〜50質量%となるように用いることである。
【0037】
この時、用いることができる銀化合物としては、還元反応によって銀ナノ粒子(Y)が得られるものであればよく、例えば、硝酸銀、酸化銀、酢酸銀、フッ化銀、銀アセチルアセトナート、安息香酸銀、炭酸銀、クエン酸銀、銀ヘキサフルオロフォスフェート、乳酸銀、亜硝酸銀、ペンタフルオロプロピオン酸銀等が挙げられ、取り扱い容易性、工業的入手容易性の観点から、硝酸銀または酸化銀を用いることが好ましい。
【0038】
前記工程において、化合物(X)が溶解又は分散している水性媒体と銀化合物とを混合する方法としては、特に限定されるものではなく、該化合物(X)が溶解又は分散している媒体に銀化合物を加える方法、その逆の方法、或いは別の容器に同時に投入しながら混合する方法でもよい。攪拌等の混合方法についても、特に限定されない。
【0039】
この時、還元反応を早めるために、必要に応じて30〜70℃程度に加温しても良く、また、還元剤を併用しても良い。
【0040】
前記還元剤としては、特に限定されるものではないが、還元反応を容易にコントロールすることができるとともに、後の精製工程で容易に反応系から除去可能である点から、例えば、水素、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素アンモニウム等のホウ素化合物、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルコール類、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド等のアルデヒド類、アスコルビン酸、クエン酸、クエン酸ナトリウム等の酸類、ヒドラジン、炭酸ヒドラジン等のヒドラジン類等を用いることが好ましい。これらの中でも、工業的入手のし易さ、取扱い面等からより好ましいものとしては、水素化ホウ素ナトリウム、アスコルビン酸、クエン酸ナトリウム等である。
【0041】
前記還元剤の添加量は、銀イオンを還元するのに必要な量以上であれば特に限定されるものではなく、上限は特に規定するものではないが、銀イオンの10モル倍以下であることが好ましく、2モル倍以下であることがより好ましい。
【0042】
また、還元剤の添加方法は限定されるものではなく、例えば、還元剤をそのまま、又は水溶液やその他の溶媒に溶解、分散させて混合させることができる。また還元剤を加える順序についても限定されることはなく、予め化合物(X)の溶液または分散液に還元剤を添加しておいても、銀化合物を混合するときに同時に還元剤を加えてもよく、さらには、化合物(X)の溶液とまたは分散液と銀化合物とを混合した後、数時間経過した後、還元剤を混合する方法であってもよい。
【0043】
特に酸化銀や塩化銀等の水性媒体に溶解しない、または溶解しにくい原料を用いる場合には、錯化剤を併用しても良い。前記錯化剤としては、例えば、プロピルアミン、ブチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、トリエチルアミン、アンモニア、エチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,3−ジアミノプロパン、トリエチレンテトラミン、メチルアミノエタノール、ジメチルアミノエタノール、エタノールアミン、ジエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、プロパノールアミン、ブタノールアミン、ジメチルアミノプロパノールなどが挙げられる。
【0044】
上記錯化剤の添加量は、酸化銀等に配位されて錯体をつくるのに充分な量であればよく、上限は特に規定するものではないが、用いる酸化銀等の40モル倍以下であることが好ましく、20モル倍以下であることがより好ましい。また、該錯化剤の添加方法は限定されるものではなく、例えば、錯化剤をそのまま、又は水溶液やその他の溶媒に溶解、分散させて混合させることができる。
【0045】
還元反応にかかる時間は、還元剤の有無や用いる化合物(X)の種類等によって異なるが、通常0.5〜48時間であり、工業的生産の観点から0.5〜24時間に調製することが好ましい。調製する方法としては、加温する温度、還元剤や錯化剤の投入量およびその時期等による方法が挙げられる。
【0046】
還元反応を行った後、精製工程に入るが、このとき有機溶剤を加えてから濃縮を行なうことが好ましい。濃縮方法としては特に限定されるものではなく、透析、遠心分離、沈殿法などのいずれを用いても良く、また同時に用いても良い。このとき使用できる有機溶剤としては、特に限定されるものではないが、濃縮工程にかかる時間を短縮できる観点、該有機溶剤の再利用が可能である点、前工程で得られた混合物との混合が容易である点から、沸点が120℃以下、好ましくは100℃以下の有機溶剤であることが好ましい。その使用量としても特に限定されるものではないが、前工程で得られた混合物に対して1.5〜5倍量、好ましくは2〜3倍量になるよう混合することが好ましい。また、濃縮法としては工業的生産性に優れる点から、遠心分離法を用いることが好ましい。この遠心濃縮工程においては、前工程で用いた媒体の一部のほか、必要に応じて添加した還元剤や錯化剤、および銀イオンの対イオン等を除去することを目的とするものである。従って、前工程で用いた原料に応じた濃縮方法を用いることが好ましく、不揮発分が30質量%以上、好ましくは50質量%以上まで濃縮する。
【0047】
一般に数十nmのサイズ領域にある金属ナノ粒子は、その金属種に応じて、表面プラズモン励起に起因する特徴的な光学吸収を有する。従って、得られる分散体のプラズモン吸収を測定することによって、該分散体中には、銀がナノメートルオーダーの微粒子として存在していることを確認することが出来、更には、該分散体をキャストして得られる膜のTEM(透過電子顕微鏡)写真等にて、その平均粒径や分布幅等を観測することも可能である。
【0048】
前記で得られた濃縮物は、そのまま次の工程に、「銀含有構造体の水性分散体」として供することができる。更に、1度濃縮したものに、所望の水性媒体を適宜加え、攪拌・混合して銀含有構造体の水性分散体とする方法、濃縮物を真空乾燥・凍結乾燥等によって粉末状にしてから、所望の水性媒体に分散させて新たに「水性分散体」とする方法のいずれであっても良い。
【0049】
前述で得られた銀含有構造体の水性分散体に、ポリエチレンイミン(a)中の窒素原子と反応可能な官能基を有する化合物(Z)を添加することによって、本発明の銀ペーストを得ることができる。添加方法としては特に限定されるものではなく、例えば、前記化合物(Z)をそのまま、又は水溶液やその他の溶媒に溶解、分散させて混合させることができる。
【0050】
本発明で使用する前記化合物(Z)は、一般的に市販、又は合成可能な構造であれば特に限定されることなく使用することができ、具体的にはポリエチレンイミン(Z)中の窒素原子と反応してアルコールを生成したり、アミド結合を形成したり、4級アンモニウムイオンを形成するアルデヒド化合物、エポキシ化合物、酸無水物、カルボン酸、無機酸等を挙げることができる。例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、アクロレイン、ベンズアルデヒド、シンナムアルデヒド、ペリルアルデヒド、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、2,3−ブチレンオキシド、イソブチレンオキシド、1−メトキシ−2−メチルプロピレンオキシド、酪酸−グリシジル、グリシジルメチルエーテル、1,2−エポキシヘキサン、1,2−エポキシヘプタン、1,2−エポキシオクタン、1,2−エポキシデカン、1,2−エポキシドデカン、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,2−エポキシ‐5−ヘキセン、1,2−エポキシ−9−デセン、2−フェニルプロピレンオキシド、スチルベンオキシド、グリシジルメチルエーテル、エチルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、グリシジルイソプロピルエーテル、tert−ブチルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、グリシジルフェニルエーテル、ベンジルグリシジルエーテル、ステアリン酸グリシジル、エポキシこはく酸、1,5−ヘキサジエンジエポキシド、1,7−オクタジエンジエポキシド、2,2−ビス(4−グリシジルオキシフェニル)プロパン、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールグリシジルエーテル、無水酢酸、無水マレイン酸、シトラコン酸無水物、ジアセチル−酒石酸無水物、フタル酸無水物、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸無水物、1−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、o−アセチル−りんご酸無水物、(2−メチル−2−プロペニル)こはく酸無水物、1,2−ナフタル酸無水物、2,3−ナフタレンジカルボン酸無水物、2,3−アントラセンジカルボン酸無水物、2,3−ジメチルマレイン酸無水物、3−メチルグルタル酸無水物、3−メチルフタル酸無水物、4−メトキシ安息香酸無水物、4−メチルフタル酸無水物、安息香酸無水物、こはく酸無水物、ブチルこはく酸無水物、デシルこはく酸無水物、ドデシルこはく酸無水物、ヘキサデシルこはく酸無水物、オクタデシルこはく酸無水物、オクタデセニルこはく酸無水物、イソオクタデセニルこはく酸無水物、テトラデセニルこはく酸無水物、ノネニルこはく酸無水物、トリメリット酸無水物、酪酸無水物、プロピオン酸無水物、ヘプタン酸無水物、デカン酸無水物、n−オクタン酸無水物、ノナン酸無水物、オレイン酸無水物、吉草酸無水物、パルミチン酸無水物、フェノキシ酢酸無水物、ピバル酸無水物、ステアリン酸無水物、クロトン酸無水物、ジグリコール酸無水物、グルタル酸無水物、exo−3,6−エポキシ−1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸無水物、イタコン酸無水物、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、アスコルビン酸、クエン酸、酒石酸、マレイン酸、フマル酸、コハク酸、シュウ酸、安息香酸、パラトルエンスルホン酸、グルクロン酸、ヒアルロン酸、グルコン酸、過酸化水素、リン酸、硝酸、亜硝酸、ホウ酸等が挙げられ、単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いても良い。
【0051】
前記化合物(Z)の添加量としては特に限定されるものではないが、得られる銀ペーストの保存安定性に優れる点から、通常ポリエチレンイミン(a)中のエチレンイミン単位に対して0.1〜5倍モル当量の範囲であり、特に0.25〜1倍モル当量になるよう用いることが好ましい。
【0052】
前記化合物(X)と銀ナノ粒子(Y)を主構成成分とする銀含有構造体の融点は130℃〜160℃である。しかしながら銀含有構造体の水性分散体にポリエチレンイミン(a)の窒素原子と反応可能な官能基を有する化合物(Z)を添加することにより、乾燥状態における融点が20〜30℃も低下した本発明の銀ペーストを得ることができる。当該銀ペーストの乾燥状態における融点は100℃〜150℃の範囲であり、好ましくは100℃〜130℃の範囲である。
【0053】
引き続き、得られた銀ペーストを固体基材上に塗布するが、その塗布方法は特に限定されるものではない。例えば、塗布を施す方法には、スピンコータ、バーコータ、アプリケータ、各種印刷機、プリンター、ディスペンサー等を用いた方法、銀ペーストへのディッピングによる方法、フローガンやフローコータ等を用いた方法、スプレー等による吹き付け法、刷毛塗りやパフ塗り、ローラー塗り等による方法等が挙げられる。塗布によってできる形はベタ状のものから、種々の太さの線、微細なパターン状、或いは模様等を、目的に応じて種々の方法から選択することによって施すことができる。
【0054】
本発明の銀ペーストは、それ自体で固体基材との密着性に優れるものであるが、目的に応じて選択された任意の成分を混合しても良い。混合されうる成分としては特に限定されるものではなく、電子材料用であれば、種々の導電性材料成分や、電子材料との親和性や密着性を向上させる成分等であり、塗料用であれば、基材との親和性や密着性を向上させる成分や、表面を平滑、或いは凹凸を制御する成分、各種の沸点を有する溶剤等であり、接合用であれば、種々の接合物との密着性や接着性を向上させる成分や、粘度調節剤等であり、色材用であれば、各種ポリマー、セラミック等といった種々の被着色成分であり、容器や構造物等の立体成形物用であれば、各種ポリマー、カップリング剤、架橋剤等である等、様々な目的に適した原料、材料、溶剤、或いはカップリング剤、架橋剤、レベリング剤等の各種添加剤等を挙げることができる。
【0055】
本発明の導電性成形加工物は、前記で得られた銀ペースト塗布後の固体基材を乾燥することによって得られるものであるが、その方法は特に限定されるものではない。例えば、該銀ペーストを基材上にキャスト等によって塗膜化、被覆化、積層状態にしたものや、型や型枠等を用いて該銀ペーストを充填させた成形物等を、電気炉、乾燥機、オーブン、恒温槽、ホットステージ等の各種加熱装置を用いて乾燥する方法、或いは射出成形機、押し出し成形機、圧縮成形機、ブロー成形機等を用いて該銀ペーストを加熱しながら同時に成形する方法、さらには25℃〜30℃の室温で自然乾燥させる方法等が挙げられる。乾燥条件は特に限定されるものではなく、用途、用いる固体基板や添加剤等といった目的に応じて適宜選択されることが望ましい。本発明で用いる固体基材としてはガラス転移温度が比較的低い、例えば180℃以下である場合でも使用可能である点と、乾燥時の温度が低すぎると銀ペースト中に残っている溶剤等の除去が不十分であり導電性等の特性が十分に発現できない場合がある点から、乾燥温度は25〜150℃の範囲であることを必須とし、好ましくは80〜150℃の範囲である。尚、本発明の導電性成形加工物の被膜は、前記銀ペーストを乾燥したものであるが、この中には、前記化合物(X)と前記化合物(Z)とが一部反応して新たな化合物となっている場合〔特に、前記化合物(Z)としてエポキシ化合物等の比較的分子量が大きく、揮発性の少ないものを使用したとき〕や、前記化合物(Z)が焼成温度によって一部分解された状態で含有している場合(特に、低分子量の有機酸や無機酸を使用したとき)もあり、本願ではこれらの変性物も含むものである。
【0056】
本発明の導電性成形加工物に用いられる固体基材は、上記銀ペーストを塗布しこれを吸着できるものであれば、形状、素材等、特に限定されるものではない。形状はフィルム状、シート状、板状の他、立体的成形物等、単純な形状のものから彫刻等を施した複雑な形状のもの等を用いることができる。基材表面の形状も平滑性表面、エンボス調の表面、複雑な凹凸表面等、種々の表面形状の基材が使用可能である。素材は、ポリマー等の有機材料からなる基材、ガラスや金属、セラミック等の無機材料からなる基材、或いはこれらを混合したハイブリッド材料からなる基材等を用いることができる。該基材の代表例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリスチレン、不飽和ポリエステル樹脂、塩化ビニル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、AS樹脂、ABS樹脂、ポリ(メタ)アクリレート、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリビニルアルコール、塩化ビニリデン樹脂、アセタール樹脂、ポリアミド、ポリウレタン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタラート、ポリイミド、液晶ポリマー、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン等といった種々のポリマー、或いは木材等を用いた有機基材、或いはこれら有機材料を混合して得られた基材、アルミニウム、鉄、ステンレス、銅、鉛、チタン、鋳物、種々の金属の組み合わせによって得られた各種の合金、シリコン、セラミック、ガラス等といった半導体を含む無機基材等が挙げられる。本発明の銀ペーストは、150℃以下の低温で導電性が発現するという特徴を有するため、特に、ガラス転移温度が180℃以下の固体基材であっても好適に用いることができる。
【0057】
本発明の導電性成形加工物は、上記基材の上に、上記銀ペーストを塗布して得られるものであり、基材の上に銀ペースト層、或いは銀ナノ粒子が熱処理、乾燥の処理によって融着、又は結晶化等した有機無機複合体層が積層したものである。また該銀ペースト層、及び該有機無機複合体層は基材の上に、同じ、或いは異なる銀ペースト層、及び該有機無機複合体層を、複数回繰り返し塗布することによって得られる金属積層板であってもよい。その際、塗布する形、面積、厚さ、条件、方法等は同じであっても、または異なっていても良い。さらに繰り返し塗布する、同じ、或いは異なる銀ペースト層、及び該有機無機複合体層の間に、銀ナノ粒子及び上記処理によって融着又は結晶化等を生じた成分を含まない材料によって塗布された層を挟むことも可能である。
【0058】
前述の種々の成形加工の前工程、又は途中、後工程等において、脱水、脱溶剤、自然乾燥、凍結乾燥、加熱、紫外線照射、電子線照射等の処理を種々の目的に応じて好適に施すことも可能であり、これらの処理方法は特に限定されることなく用いることができる。
【0059】
上記製造方法によって得られる、本発明の成形加工物の形態は、特に限定されるものではない。特に上述した代表例によって得られた成形加工物の形態の例としては、塗膜、被覆膜、被覆物、接合物、積層板、封止物、フィルム、シート、ボード、繊維状成形加工物、チューブ状成形加工物、立体成形加工物、ゲル状成形加工物、固体ゾル状成形加工物等が挙げられる。
【0060】
本発明の導電性成形加工物の導電性は、固有体積抵抗率1×10−3Ω・cm以下であり、好ましくは1×10−4Ω・cm以下、より好ましくは1×10−5Ω・cm以下である。従来、このような導電性を得るためには、金属ナノ粒子分散体中の保護剤〔本発明では化合物(X)に相当する〕は除去しなければならないと考えられていた。そのために、特開2004−218055号公報や特開2004−273205号公報等では、保護剤の除去を容易にするために低分子量の保護剤を使用したり、煩雑な分散溶媒(有機溶媒)の調製を施したりすることによって、金属ナノ粒子を含有するペーストを調製し、これを塗布してから該保護剤や溶媒を加熱等により除去する方法を採用している。しかしながら、本発明においては、上述した銀含有構造体の水性分散体に、ポリエチレンイミン(a)中の窒素原子と反応可能な官能基を有する化合物(Z)を配合することによって、銀ナノ粒子の表面チャージを変化させ、溶媒中では分散安定化を促し、かつ溶媒除去によりポリエチレンイミン中の窒素原子と反応可能な官能基を有する化合物と結合したポリエチレンイミン鎖が銀ナノ粒子表面から脱離し、銀ペーストの融点が低下することから、上記特開2004−218055号公報や特開2004−273205号公報等に記載のような溶媒変換等の煩雑な工程を用いなくても、成形加工物に導電性を発現させることが可能となり、更には、化合物(X)が該成形加工物の被膜中に残っていることから、各種基材への接着性等が良好で、又、該加工物の被膜中にヒビや割れ等の発生を抑制するといった、付加価値をも発現させた物である。
【0061】
本発明の成形加工物は、ポリエチレンイミン(a)骨格を有する化合物(X)が溶媒中で形成する分散体中に銀ナノ粒子(Y)を含有する銀含有構造体の水性分散体に、ポリエチレンイミン(a)中の窒素原子と反応可能な官能基を有する化合物(Z)を用いて得られる有機無機複合体を含有したものである。従来、銀ペーストを用いた成形加工物を得る際、有機成分を除去し易くする等のために行われる、様々な原料成分の交換操作等の大変煩雑な処理等をする必要がないことが大きな特徴である。さらに本発明の銀ペーストを用いて得られる有機無機複合体を含有する導電性成形加工物は、銀ナノ粒子が有する種々の化学的、電気的、磁気的、光学的、色材特性等といった特性に加えて、有機成分が有する成形性、製膜性、接着性、柔軟性等の特性を併せもっている。その用途は限定されるものではなく、例えば、触媒、電子材料、磁気材料、光学材料、各種センサー、色材、医療検査用途等の非常に幅広い分野で使用可能である。含有させうる銀の割合も、容易に調整可能である点から、目的に応じた効果を効率的に発現可能であり、複雑な工程や緻密な条件設定等をほとんど必要としないため、工業的製法として優位性が高いものである。
【実施例】
【0062】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。尚、特に断わりがない限り「%」は「質量%」を表わす。
【0063】
以下の実施例中、用いた機器類は下記の通りである。
H−NMR:日本電子株式会社製、AL300、300Hz
粒子径測定:大塚電子株式会社製、FPAR−1000
TEM観察:日本電子株式会社製、JEM−2200FS
TGA測定:SIIナノテクノロジー株式会社製、TG/DTA6300
プラズモン吸収スペクトル:日立製作所株式会社製、UV−3500
体積抵抗率:三菱化学株式会社製、低抵抗率計ロレスタEP
DSC測定:SIIナノテクノロジー株式会社製、DSC7200
【0064】
<化合物(X)と銀含有構造体の水性分散体の合成>
合成例1 化合物(x1)の合成 及び これを用いた銀含有構造体の水性分散体の合成
1−1〔ポリエチレングリコールのトシル化反応〕
窒素雰囲気下、メトキシポリエチレングリコール[Mn=2,000]20.0g(10.0mmol)、ピリジン8.0g(100.0mmol)、クロロホルム20mlの混合溶液に、p−トルエンスルホン酸クロライド9.6g(50.0mmol)を含むクロロホルム(30ml)溶液を、氷冷撹拌しながら30分間滴下した。滴下終了後、浴槽温度40℃でさらに4時間攪拌した。反応終了後、クロロホルム50mlを加えて反応液を希釈した。引き続き、5%塩酸水溶液100ml、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液100ml、そして飽和食塩水溶液100mlで順次に洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥し、濾過、減圧濃縮した。得られた固形物をヘキサンで数回洗浄した後、濾過、80℃で減圧乾燥して、トシル化された生成物22.0gを得た。
【0065】
得られた生成物のH−NMRの測定結果を以下に示す。
H−NMR(CDCl)測定結果:
δ(ppm):7.82(d),7.28(d),3.74〜3.54(bs),3.41(s),2.40(s)
【0066】
1−2 〔化合物(x1)の合成〕
上記で合成した末端にp−トルエンスルホニルオキシ基を有するメトキシポリエチレングリコール化合物5.39g(2.5mmol)、分岐状ポリエチレンイミン(アルドリッチ社製、分子量25,000)を20.0g(0.8mmol)、炭酸カリウム0.07g及びN,N−ジメチルアセトアミド100mlを、窒素雰囲気下、100℃で6時間攪拌した。得られた反応混合物に酢酸エチルとヘキサンの混合溶液(V/V=1/2)300mlを加え、室温で強力攪拌した後、生成物の固形物を濾過した。その固形物を酢酸エチルとヘキサンの混合溶液(V/V=1/2)100mlを用いて2回繰り返し洗浄した後、減圧乾燥して、分岐状ポリエチレンイミンにポリエチレングリコールが結合した化合物(x1)の固体を24.4g得た。
【0067】
得られた生成物のH−NMRの測定結果を以下に示す。
H−NMR(CDCl)測定結果:
δ(ppm):3.50(s),3.05〜2.20(m)
【0068】
1−3 〔銀含有構造体の水性分散体の合成〕
1−2で得た化合物(x1)を0.592g用いた水溶液138.8gに酸化銀10.0gを加えて25℃で30分間攪拌した。引き続き、ジメチルエタノールアミン46.0gを攪拌しながら徐々に加えたところ、反応溶液は黒赤色に変わり、若干発熱したが、そのまま放置して25℃で30分間攪拌した。その後、10%アスコルビン酸水溶液15.2gを攪拌しながら徐々に加えた。その温度を保ちしながらさらに20時間攪拌を続けて、黒赤色の分散体を得た。
【0069】
上記で得られた反応終了後の分散液にイソプロピルアルコール200mlとヘキサン200mlの混合溶剤を加えて2分間攪拌した後、3000rpmで5分間遠心濃縮を行った。上澄みを除去した後、沈殿物にイソプロピルアルコール50mlとヘキサン50mlの混合溶剤を加えて2分間攪拌した後、3000rpmで5分間遠心濃縮を行った。上澄みを除去した後、沈殿物にさらに水20gを加えて2分間攪拌して、減圧下有機溶剤を除去して銀含有構造体の水性分散体を得た。
【0070】
得られた分散体をサンプリングし、10倍希釈液の可視吸収スペクトル測定により400nmにプラズモン吸収スペクトルのピークが認められ、銀ナノ粒子の生成を確認した。また、TEM観察より球形の銀ナノ粒子(平均粒子径17.5nm)が確認された。TG−DTAを用いて、固体中の銀含有率を測定した結果、97.2%を示した。
【0071】
合成例2 化合物(x2)の合成 及び これを用いた銀含有構造体の水性分散体の合成
2−1 〔単官能エポキシ樹脂の合成〕
ビスフェノールA型線状エポキシ樹脂EPICLON AM−040−P(DIC株式会社製、エポキシ当量933)18.7g(20m当量)、4−フェニルフェノール1.28g(7.5mmol)、65%酢酸エチルトリフェニルホスホニウムエタノール溶液0.26ml(0.12mol%)及びN,N−ジメチルアセトアミド50mlを混合し、窒素雰囲気下、120℃で6時間反応させた。放冷後、水150ml中に滴下し、得られた沈殿物をメタノールで2回洗浄した後、60℃で減圧乾燥して、単官能性のエポキシ樹脂を得た。得られた生成物の収量は19.6g、収率は98%であった。
【0072】
H−NMR測定を行いエポキシ基の積分比考察結果、ビスフェノールA型線状エポキシ樹脂1分子にエポキシ環は0.95個残ってあり、単官能性のエポキシ樹脂であることが確認された。
【0073】
得られた単官能性のエポキシ樹脂のH−NMRの測定結果を以下に示す。
H−NMR(CDCl)測定結果:
δ(ppm):7.55〜6.75(m),4.40〜3.90(m),3.33(m),2.89(m),2.73(m),1.62(s)
【0074】
2−2 〔化合物(x2)の合成例〕
上記合成より得られた単官能性のエポキシ樹脂3.0g(1.5mmol)、分岐ポリエチレンイミン(アルドリッチ社製、分子量25,000)7.5g(0.3mmol)及びクロロホルム60mlを窒素雰囲気下、50℃で2時間攪拌しながら反応させた。反応終了後、40℃で減圧乾燥してビスフェノールA型のエポキシ変性ポリエチレンイミン化合物(x2)を10.5g得た。
【0075】
上記で得られた化合物(x2)30mgに純水10mlを加えて攪拌し溶解させた。その溶液での化合物(x2)の分布状態を観測するために散乱強度分布を測定したところ、平均粒径110nmの測定結果が得られ、水中で良好にミセルを形成していることが示された。
【0076】
〔銀含有構造体の水性分散体の合成〕
2−2で得た化合物(x2)を0.250g用いた水溶液77.0gに酸化銀5.0gを加えて25℃で30分間攪拌した。引き続き、ジメチルエタノールアミン23.0gを攪拌しながら徐々に加えたところ、反応溶液は黒赤色に変わり、若干発熱したが、そのまま放置して25℃で30分間攪拌した。その後、10%アスコルビン酸水溶液7.6gを攪拌しながら徐々に加えた。その温度を保ちしながらさらに16時間攪拌を続けて、黒赤色の分散体を得た。
【0077】
上記で得られた反応終了後の分散液にイソプロピルアルコール100mlとヘキサン100mlの混合溶剤を加えて2分間攪拌した後、3000rpmで5分間遠心濃縮を行った。上澄みを除去した後、沈殿物にイソプロピルアルコール25mlとヘキサン25mlの混合溶剤を加えて2分間攪拌した後、3000rpmで5分間遠心濃縮を行った。上澄みを除去した後、沈殿物に水10gを加えて2分間攪拌して、減圧下有機溶剤を除去して銀含有構造体の水性分散体を得た。
【0078】
得られた分散体をサンプリングし、10倍希釈液の可視吸収スペクトル測定により400nmにプラズモン吸収スペクトルのピークが認められ、銀ナノ粒子の生成を確認した。また、TEM観察より球形の銀ナノ粒子(平均粒子径23.6nm)が確認された。そして、TG−DTAを用いて、固体中の銀含有量を測定した結果、96.8%を示した。
【0079】
合成例3 化合物(x3)の合成 及び これを用いた銀含有構造体の水性分散体の合成
3−1 〔化合物(x3)の合成例〕
合成例2−1で得られた単官能性のエポキシ樹脂3.0g(1.5mmol)、アセトン50mlの溶液に合成例1−2で得られた化合物(x1)14.4g(0.48mmol)、メタノール60mlの溶液を加えて、窒素雰囲気下、60℃で2時間攪拌した。反応終了した後、脱溶剤することにより、分岐状ポリエチレンイミンにポリエチレングリコールとエポキシ樹脂とが結合してなる化合物(x3)を得た。
【0080】
3−2 〔銀含有構造体の水性分散体の合成〕
上記3−1で得た化合物(x3)を0.263g用いた水溶液77.0gにジメチルエタノールアミン23.0gを攪拌しながら徐々に加えたところ、若干発熱した。引き続き、反応温度を45℃にして硝酸銀5.0gに徐々に加えたところ、反応溶液は黒赤色に変わった。その後、反応温度を50℃にして4.5時間攪拌して反応を終了し、黒赤色の分散体を得た。
【0081】
上記で得られた反応終了後の分散液にイソプロピルアルコール100mlとヘキサン100mlの混合溶剤を加えて2分間攪拌した後、3000rpmで5分間遠心濃縮を行った。上澄みを除去した後、沈殿物にイソプロピルアルコール25mlとヘキサン25mlの混合溶剤を加えて2分間攪拌した後、3000rpmで5分間遠心濃縮を行った。上澄みを除去した後、沈殿物に水10gを加えて2分間攪拌して、減圧下有機溶剤を除去して銀含有構造体の水性分散体を得た。
【0082】
得られた分散体をサンプリングし、10倍希釈液の可視吸収スペクトル測定により400nm付近にプラズモン吸収スペクトルのピークが認められ、銀ナノ粒子の生成を確認した。また、TEM測定より球形の銀ナノ粒子(平均粒子径18.8nm)が確認された。また、TG−DTAを用いて、固体中の銀含有量を測定した結果、96.6%を示した。
【0083】
実施例1
合成例1で得た銀含有構造体の水性分散体に水を加え、固形分率30%の分散液を得た。この分散液にポリエチレンイミン中エチレンイミンユニットの0.1当量に相当するプロピオンアルデヒドを加え、撹拌することにより銀ペーストを得た。この銀ペーストをスライドグラス上にバーコータ(RDS08)で塗布し、銀被膜を作製した。20℃〜30℃の室温で1時間乾燥させてから、被膜の一部を剥がしDSC測定を行ったところ、融点が123℃であった。銀被膜をスライドグラスごと150℃で30分間加熱した後、それら被膜の4端子法測定による体積抵抗率を測定したところ、5.6μΩ・cmであった。
【0084】
実施例2
実施例1において、加熱温度を120℃にした以外は実施例1と同様にして処理した後の体積抵抗率は9.8μΩ・cmであった。
【0085】
実施例3
合成例1で得た銀含有構造体の水性分散体にエタノールを加え、固形分率30%の分散液を得た。この分散液にポリエチレンイミン中エチレンイミンユニットの0.5当量に相当する硝酸とエチレンイミンユニットの0.3当量に相当する無水酢酸を加え、撹拌することにより銀ペーストを得た。この銀ペーストを実施例1と同様の方法でスライドグラス上に塗布し、銀被膜を作製した。DSC測定による融点は、123℃であった。銀被膜をスライドグラスごと150℃で30分間加熱したところ、体積抵抗率は4.7μΩ・cmであった。
【0086】
実施例4
実施例3において、加熱温度を120℃にした以外は実施例3と同様にして処理した後の体積抵抗率は24μΩ・cmであった。
【0087】
実施例5
合成例1で得た銀含有構造体の水性分散体に水とエタノールを80:20になるように加え、固形分率30%の分散液を得た。この分散液にポリエチレンイミン中エチレンイミンユニットの0.5当量に相当する硝酸とエチレンイミンユニットの0.5当量に相当する酢酸を加え、撹拌することにより銀ペーストを得た。この銀ペーストを実施例1と同様の方法でスライドグラス上に塗布し、銀被膜を作製した。DSC測定による融点は、122℃であった。銀被膜を150℃で30分間加熱したところ、体積抵抗率は3.0μΩ・cmであった。
【0088】
実施例6
実施例5において、加熱温度を120℃にした以外は実施例5と同様にして処理した後の体積抵抗率は4.6μΩ・cmであった。
【0089】
実施例7
実施例5において、加熱温度を100℃にした以外は実施例5と同様にして処理した後の体積抵抗率は7.7μΩ・cmであった。
【0090】
実施例8
実施例5において、加熱温度を80℃とし、処理時間を8日間にした以外は実施例5と同様にして処理した後の体積抵抗率は13μΩ・cmであった。
【0091】
実施例9
実施例5において、加熱温度を60℃とし、処理時間を8日間にした以外は実施例5と同様にして処理した後の体積抵抗率は18μΩ・cmであった。
【0092】
実施例10
実施例5において、25℃の室温下で14日間静置した以外は実施例5と同様にして処理した後の体積抵抗率は18μΩ・cmであった。
【0093】
実施例11
実施例5で得た銀ペーストをポリエチレンテレフタレートフィルム(ガラス転移温度:約70℃)にバーコータ(RDS08)で塗布し、120℃で30分間加熱したところ、体積抵抗率は5.2μΩ・cmであった(基材であるフィルムは若干の変形をしていたが、銀被膜の剥離等は認められなかった。)。
【0094】
実施例12
実施例11において、加熱温度を100℃にした以外は実施例11と同様にして処理した後の体積抵抗率は、8.2μΩ・cmであった(基材であるフィルムは若干の変形をしていたが、銀被膜の剥離等は認められなかった。)。
【0095】
実施例13
実施例5で得たナノ銀ペーストをポリエチレンナフタレートフィルム(ガラス転移温度:約110℃)にバーコータ(RDS08)で塗布し、120℃で30分間加熱したところ、体積抵抗率は、5.1μΩ・cmであった(基材であるフィルムは若干の変形をしていたが、銀被膜の剥離等は認められなかった。)。
【0096】
実施例14
実施例13において、加熱温度を100℃にした以外は実施例13と同様にして処理した後の体積抵抗率は、8.0μΩ・cmであった。
【0097】
実施例15
実施例5で得た銀ペーストを光沢紙(MC光沢紙)にバーコータ(RDS08)で塗布し、120℃で30分間加熱したところ、表面抵抗率は1.7×10−1Ω/□であった。塗布した部分全てにおいて、被膜に亀裂等は認められず、又剥離もしていなかった。
【0098】
実施例16
実施例15において、加熱温度を100℃にした以外は実施例15と同様にして処理した後の表面抵抗率は8.3×10−1Ω/□であった。塗布した部分全てにおいて、被膜に亀裂等は認められず、又剥離もしていなかった。
【0099】
実施例17
実施例5で得たナノ銀ペースト中に1cm×1cmの四角柱のポリメタクリル酸メチル樹脂(ガラス転移温度:約110℃)を1分間浸漬し、120℃で30分間加熱したところ、表面抵抗率が6.0×10−2Ω/□であった。基材として用いた四角柱の樹脂の前面において、銀被膜が形成され、剥離・亀裂等は認められなかった。
【0100】
実施例18
実施例15において、加熱温度を100℃にした以外は実施例15と同様にして処理した後の表面抵抗率は1.1×10Ω/□であった。
【0101】
実施例19
実施例5で得た銀ペーストを内径1cmのポリカーボネートチューブ(ガラス転移温度:約150℃)に注射器を用いて注入し、1分後に内液を注射器で取り除いた。内壁に銀ペーストが塗布されたチューブを120℃で30分間加熱し、チューブを切断して表面抵抗率を測定したところ、6.3×10−2Ω/□であった。チューブ内部の全面において銀被膜が形成されており、剥離・亀裂等は認められなかった。
【0102】
実施例20
実施例19において、加熱温度を100℃にした以外は実施例19と同様にして処理した後の表面抵抗率は1.0×10Ω/□であった。チューブ内部の全面において銀被膜が形成されており、剥離・亀裂等は認められなかった。
【0103】
実施例21
合成例2で得た銀含有構造体の水性分散体に水を加え、固形分率30%の分散液を得た。この分散液にポリエチレンイミン中エチレンイミンユニットの0.5当量に相当する硝酸とエチレンイミンユニットの0.25当量に相当する酢酸を加え、撹拌することにより銀ペーストを得た。この銀ペーストを実施例1と同様の方法でスライドグラス上に塗布し、銀被膜を作製した。DSC測定による融点は、132℃であった。銀被膜をスライドグラスごと150℃で30分間加熱した後の体積抵抗率は、6.7μΩ・cmであった。
【0104】
実施例22
実施例21において、加熱温度を120℃にする以外は実施例21と同様にして処理した後の体積抵抗率は、9.8μΩ・cmであった。
【0105】
実施例23
合成例3で得た銀含有構造体の水性分散体に水とエタノールを80:20になるように加え、固形分率30%の分散液を得た。この分散液にポリエチレンイミン中エチレンイミンユニットの0.25当量に相当する硝酸を加え、撹拌することにより銀ペーストを得た。この銀ペーストを実施例1と同様の方法でスライドグラス上に塗布し、銀被膜を作製した。DSC測定による融点は、135℃であった。銀被膜をスライドグラスごと150℃で30分間加熱した後の体積抵抗率は、6.6μΩ・cmであった。
【0106】
実施例24
実施例23において、加熱温度を120℃にした以外は実施例23と同様にして処理した後の体積抵抗率は、16μΩ・cmであった。
【0107】
比較例1
合成例1で得た銀含有構造体の水性分散体に水とエタノールを80:20になるように加え、その他の添加物なしに、固形分率30%の分散液を得た。この分散液を実施例1と同様の方法でスライドグラス上に塗布し、銀被膜を作製した。DSC測定による融点は、157℃であった。150℃で30分間加熱した後の被膜の体積抵抗率は、30μΩ・cmであった。
【0108】
比較例2
比較例1で得られた銀被膜の120℃で30分加熱した後の体積抵抗率は、340μΩ・cmであった。
【0109】
比較例3
比較例1で得られた銀被膜の100℃で30分加熱した後の体積抵抗率は、測定不能であった。
【0110】
尚、実施例1、3、5、21、23で得られた銀ペースト、および比較例1の分散液は20℃〜30℃の室温に静置した1ヵ月後でも凝集、沈降することはなく、TEM観察によりナノ銀粒子の大きさにも変化が無いことを確認した。
【図面の簡単な説明】
【0111】
【図1】実施例5で得られた銀ペーストと比較例1で得られた分散液を用いて得られた銀被膜のDSC測定結果である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)数平均分子量が500〜50,000のポリエチレンイミン(a)中のアミノ基に数平均分子量が500〜5,000のポリエチレングリコール(b)が結合してなる化合物(x1)、
数平均分子量が500〜50,000のポリエチレンイミン(a)中のアミノ基に線状エポキシ樹脂(c)が結合してなる化合物(x2)、及び
数平均分子量が500〜50,000のポリエチレンイミン(a)中のアミノ基に、数平均分子量が500〜5,000のポリエチレングリコール(b)と、線状エポキシ樹脂(c)とが結合してなる化合物(x3)
からなる群から選ばれる1種以上の化合物(X)と、銀ナノ粒子(Y)と、
を主構成成分とする銀含有構造体の水性分散体と、
前記化合物(X)中のポリエチレンイミン(a)の窒素原子と反応可能な官能基を有する化合物(Z)と、を含有し、乾燥状態の融点が100〜150℃の銀ペーストを、固体基材上に塗布する工程、
(2)前記工程(1)で得られた銀ペースト塗布後の固体基材を25℃〜150℃で乾燥する工程、
を有することを特徴とする導電性成形加工物の製造方法。
【請求項2】
前記ポリエチレンイミン(a)中の窒素原子と反応可能な官能基を有する化合物(Z)が、アルデヒド化合物、エポキシ化合物、酸無水物、カルボン酸及び無機酸からなる群から選ばれる1種以上の化合物である請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記ポリエチレンイミン(a)中の窒素原子と反応可能な官能基を有する化合物(Z)が無機酸である請求項1記載の製造方法。
【請求項4】
前記化合物(X)と、前記ポリエチレンイミン(a)中の窒素原子と反応可能な官能基を有する化合物(Z)とを、前記化合物(X)中のエチレンイミンユニット1モルに対して、前記化合物(Z)中の窒素原子と反応可能な官能基のモル数が0.25〜1モルとなるように用いる請求項1〜3のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項5】
前記固体基材のガラス転移温度が180℃以下である請求項1〜4の何れか1項記載の製造方法。
【請求項6】
固体基材上に、
数平均分子量が500〜50,000のポリエチレンイミン(a)中のアミノ基に数平均分子量が500〜5,000のポリエチレングリコール(b)が結合してなる化合物(x1)、
数平均分子量が500〜50,000のポリエチレンイミン(a)中のアミノ基に線状エポキシ樹脂(c)が結合してなる化合物(x2)、及び
数平均分子量が500〜50,000のポリエチレンイミン(a)中のアミノ基に、数平均分子量が500〜5,000のポリエチレングリコール(b)と、線状エポキシ樹脂(c)とが結合してなる化合物(x3)
からなる群から選ばれる1種以上の化合物(X)と、銀ナノ粒子(Y)と、前記化合物(X)中のポリエチレンイミン(a)の窒素原子と反応可能な官能基を有する化合物(Z)とを含有し、且つ融点が100〜150℃の被膜を有することを特徴とする導電性成形加工物。
【請求項7】
前記ポリエチレンイミン(a)の窒素原子と反応可能な官能基を有する化合物(Z)が、アルデヒド化合物、エポキシ化合物、酸無水物、カルボン酸及び無機酸からなる群から選ばれる1種以上の化合物である請求項6記載の導電性成形加工物。
【請求項8】
前記固体基材のガラス転移温度が180℃以下である請求項6又は7記載の導電性成形加工物。
【請求項9】
数平均分子量が500〜50,000のポリエチレンイミン(a)中のアミノ基に数平均分子量が500〜5,000のポリエチレングリコール(b)が結合してなる化合物(x1)、
数平均分子量が500〜50,000のポリエチレンイミン(a)中のアミノ基に線状エポキシ樹脂(c)が結合してなる化合物(x2)、及び
数平均分子量が500〜50,000のポリエチレンイミン(a)中のアミノ基に、数平均分子量が500〜5,000のポリエチレングリコール(b)と、線状エポキシ樹脂(c)とが結合してなる化合物(x3)
からなる群から選ばれる1種以上の化合物(X)と、銀ナノ粒子(Y)と、
を主構成成分とする銀含有構造体の水性分散体と、
前記ポリエチレンイミン(a)中の窒素原子と反応可能な官能基を有する化合物(Z)と、
を含有する銀ペーストであって、該銀ペーストの乾燥状態における融点が100〜150℃の範囲であることを特徴とする銀ペースト。
【請求項10】
前記ポリエチレンイミン(a)中の窒素原子と反応可能な官能基を有する化合物(Z)が、アルデヒド化合物、エポキシ化合物、酸無水物、カルボン酸及び無機酸からなる群から選ばれる1種以上の化合物である請求項9記載の銀ペースト。

【図1】
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【公開番号】特開2010−118168(P2010−118168A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−288651(P2008−288651)
【出願日】平成20年11月11日(2008.11.11)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】