説明

導電性接着剤組成物、導電性接着剤シート及びそれを用いた電磁波シールド材料ならびに電磁波シールド性フレキシブルプリント基板。

【課題】 本発明は、良好な導電性を損なうことなく優れた難然性を有する、特にフレキシブルプリント基板(FPC)の電磁波シールド用に好適な、屈曲性と耐折性を有する導電性接着剤組成物、導電性接着剤シート及びこれらを導電性繊維シート又は金属箔と一体化した電磁波シールド材料を提供するものである。
【解決手段】 (a)アクリロニトリル−ブタジエン共重合体100重量部と、(b)フェノール樹脂及び/又はエポキシ樹脂20〜500重量部と、(a)と(b)を合計した100重量部に対して(c)導電性フィラー1〜100重量部と、(a)と(b)を合計した100重量部に対して(d)臭素系難然剤1〜50重量部を少なくとも含有することを特徴とする導電性接着剤組成物、このシート状物及びこれらを用いた電磁波シールド材料。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、フレキシブルプリント基板(FPC)の電磁波シールド用に好適な、屈曲性と耐折性を有する導電性接着剤組成物、導電性接着剤シート及びこれらを導電性シートと一体化した電磁波シールド材料に関する。
【0002】
【従来の技術】電子機器間を結ぶためのケーブルの電磁波シールドについては、従来は導体の1本ずつに編組処理を施したシールド線群が使用されていたが、多数のシールド線群を束ねて使うので、小型、薄型化が困難であった。しかし、最近電子機器及びその周辺機材の小型、薄型化が進み、それに伴ってケーブル自体の小型、薄型化が求められてきた。特にノートパソコンでは、多機能、高性能化と共に、小型、薄型化の傾向が著しく、それに伴い本体と画面とを結ぶインターフェイスケーブルは、束ねたシールド線群の方式からフラットケーブル、更に厚みの薄いフレキシブルプリント基板(FPC)の方式へと変わりつつある。それに加えて、情報の高速伝達のために、より高周波帯域の周波数を使うようになってきており、FPCには今まで以上の電磁波シールド特性が要求されている。具体的にはFPC内部からの不要電磁波は基本クロック用のパターンから発射され、現在のところ周波数として150〜400MHzが中心になっている。これらのFPCの電磁波シールド対策としてはFPCの片面又は両面に銅箔を貼り付ける、いわゆるベタアース板としていることが多い。しかし銅箔の貼り付けには通常電気抵抗として体積抵抗率が107Ωcm以上の絶縁体レベルの接着剤を用いるため、電磁波シールド特性が不良となり、かつ銅箔が多数回の屈曲テストに耐えられず、脆性破壊してしまうという問題があった。
【0003】このように電子機器の小型、薄型化に伴うFPCの使用が増え、それに伴いFPCには屈曲性、軽量性、薄さ、電気特性の他に高い電磁波シールド特性も要求されてきている。そこで、本願発明者等はFPCの屈曲性を損なうことなく有効な電磁波シールド性を得る方法として、特願平10−279318、特願平10−344854において柔軟な金属繊維シートに導電性接着剤を含浸・充填、または片面もしくは両面に積層した電磁波シールド用金属繊維シートを提案し、特願平10−325829ではその電磁波シールド用金属繊維シート付フレキシブルプリント基板及びその製造方法を、更に特願平10−282094でフレキシブルプリント配線板における電磁波シールド材の処理方法を提案してきた。
【0004】このような電磁波シールド方法は優れたものであったが、難燃性の点からは十分とは言えなかった。すなわち、上記電磁波シールド材料が適用される電子機器には部品用プラスチック材料の燃焼性試験規格であるUL94が適用され、V−1,V−0レベルの難燃グレードが求められている。よって、かかる規格を満足するような優れた難然性を有する電磁波シールド方法が求められている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明は良好な導電性を損なうことなく優れた難然性を有する、特にフレキシブルプリント基板(FPC)の電磁波シールド用に好適な、屈曲性と耐折性を有する導電性接着剤組成物、導電性接着剤シート及びこれらを導電性繊維シート又は金属箔と一体化した電磁波シールド材料並びに電磁波シールド性フレキシブルプリント基板を提供するものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明は、(a)アクリロニトリル−ブタジエン共重合体100重量部と、(b)フェノール樹脂及び/又はエポキシ樹脂20〜500重量部と、(a)と(b)を合計した100重量部に対して(c)導電性フィラー1〜100重量部と、(a)と(b)を合計した100重量部に対して(d)臭素系難燃剤1〜50重量部を少なくとも含有することを特徴とする導電性接着剤組成物である。
【0007】また本発明は、上記導電性接着剤組成物を、厚さ5〜500μmのシート形状にしたことを特徴とする導電性接着剤シートである。また本発明は、上記導電性接着剤組成物を、表面抵抗率1Ω/□以下である導電性繊維シートに含浸又は塗布したことを特徴とする電磁波シールド材料である。 更に本発明は、上記導電性接着剤シートを、表面抵抗率1Ω/□以下である導電性繊維シート又は金属箔の片面もしくは両面に積層したことを特徴とする電磁波シールド材料である。更に又、上記電磁波シールド材料を、フレキシブルプリント基板の片面もしくは両面に貼り合わせてなることを特徴とする電磁波シールド性フレキシブルプリント基板である。
【0008】
【発明の実施の形態】本発明の導電性接着剤組成物を構成する成分についてまず説明する。(a)アクリロニトリル−ブタジエン共重合体は屈曲性付与に必須の成分であると共に基材への密着性を高める働きもあり、多くのエラストマー材料の中から耐寒性、耐油性、耐老化性、耐摩耗性、耐折性及びコストの点から選ばれたものである。具体的にはニトリル含有量が10〜45%、好ましくは20〜45%の比較的高ニトリル含有量であって、分子量2〜100万、好ましくは5〜50万のものが本発明においては好適である。なおこのアクリロニトリル−ブタジエン共重合体には、加熱時に自己架橋出来るように例えばキノン類、ジアルキルパーオキサイド類及びパーオキシケタール類等の架橋剤を含有させることが出来る。
【0009】(b)フェノール樹脂及び/又はエポキシ樹脂は、熱硬化性樹脂で基材との接着機能を有するものである。フェノール樹脂としてはレゾール型のフェノール樹脂が好ましく、更にレゾール型フェノール樹脂としては、ビスフェノールA及びアルキルフェノールから選択された1種又は2種以上、又はそれらの共縮合型のフェノール樹脂が好ましい。ビスフェノールA型のレゾール型フェノール樹脂はビスフェノールAを出発原料として合成されたもので、環球法による軟化点が70〜90℃のものが好適に使用される。アルキルフェノール型のレゾール型フェノール樹脂は、フェノール性水酸基に対して主にp−及び/又はo−位にアルキル基を有する化合物を出発物質として合成されたもので、アルキル基としてはメチル基、エチル基、プロピル基、t−ブチル基、ノニル基等を有するものが挙げられ、例えばp−t−ブチルフェノール型のレゾール型フェノール樹脂では環球法による軟化点が80〜100℃のものが好適に使用される。なお上記レゾール型フェノール樹脂には、フェノール成分としてp−フェニルフェノールやハロゲン化フェノール等の上記以外のフェノール成分が含まれても良い。またレゾール型フェノール樹脂と共に、少量のノボラック型フェノール樹脂が配合されても良い。
【0010】エポキシ樹脂としてはビスフェノールA型、ノボラック型、ビスフェノールF型、環式脂肪族系、グリシジルエステル系等の各種のものが使用可能である。なお本発明でエポキシ樹脂をフェノール樹脂と併用する場合は、加熱により反応してより高い耐熱性の硬化物を得ることが出来る。またフェノール樹脂を併用しない場合は、エポキシ樹脂には通常各種硬化剤が配合されるが、本発明では2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール、2,4−ジアミノ−6−[2−メチルイミダゾリル−(1)]−エチル−S−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−[2−エチル−4−メチルイミダゾリル−(1)]−エチル−S−トリアジン等のイミダゾール系硬化剤が好ましい。
【0011】(c)導電性フィラーとしては、Al,Au,Pt,Pd,Cu,Fe,Ni、ハンダ、ステンレス、ITO、フェライト等の金属、合金類、金属酸化物等の金属系粉末や導電性カーボン(グラファイトを含む)粉末が使用出来るが、コストの点から特に導電性カーボン粉末が好ましい。導電性カーボン粉末としては、アセチレンブラックやグラファイトカーボン等が用いられるが、JIS−K6221に依るDBP吸油量が20〜200ml/100gであることが好ましい。吸油量が20ml/100g未満であると粉末粒子が大きすぎて本発明の接着剤組成物に所望の導電性が得られ難い。一方200ml/100gを超えるとカーボンの分散不良に伴う導電性が低下する。また導電性を上げるためには、導電性カーボン粉末と上記金属系材料の粉末を併用することも出来る。更に又、金属繊維、カーボン繊維、金属メッキ繊維等の導電性繊維を使用することもできる。
【0012】本発明の導電性接着剤組成物、導電性接着剤シート及び電磁波シールド材料に難燃性を付与するための(d)臭素系難燃剤は、各種難燃剤の比較検討の中から最も難燃効果が高いことで選ばれたものである。具体的には、ヘキサブロモベンゼン、ヘキサブロモシクロドデカン、トリブロモフェノール、ヘキサブロモビフェニルエーテル、オクタブロモビフェニルエーテル、デカブロモビフェニルエーテル、ジブロモクレジルグリシジルエーテル、テトラブロモビスフェノールA、テトラブロモ無水フタル酸、ポリ(ペンタブロモベンジル)アクリレート、臭素化エポキシ樹脂等が挙げられるがこれに限定されるものではない。またビス(2,3−ジブロモプロピル)2,3−ジブロモプロピルホスフェート、トリス(2,3−ジブロモプロピル)ホスフェート、トリス(トリブロモネオペンチル)ホスフェート等のように同一分子中に臭素と共にリンを含むものも使用できる。これらの難燃剤は単独で、又は2種以上を混合して使用することもできる。
【0013】本発明ではこれらの臭素系難燃剤の中でも、臭素を50重量%以上含有していることが好ましく、臭素を55重量%以上含有し、かつ、融点が150℃以上であるものが特に好ましい。この臭素含有量が55%未満であれば、本発明の難燃剤含有量では前記UL規格のV−0の難燃性は得られにくい。また融点が150℃未満のものでは、本発明の電磁波シールド材料とFPCとの貼り合わせ物の初期の接着強度が低かったり、該貼り合わせ物を高温や高温高湿環境に放置した場合に接着力が極度に低下するという問題を生じるおそれがある。
【0014】本発明においては上記(a)〜(d)成分に加えて(e)安定剤が使用されることが好ましい。
(e)安定剤は、上記(a)及び(b)成分が、空気中の酸素やオゾンによる酸化劣化や熱劣化、老化を生じるのを防止することを目的として添加するものである。具体的にはフェノール系酸化防止剤として、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノール、ステアリル―β―(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,2−メチレン−ビス−(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス−(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデン−ビス−(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、1,1,3−トリス−(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、テトラキス−[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、硫黄系酸化防止剤としては、ジラウリル−3,3’−チオジプロピオネート、ジステアリル−3,3’−チオジプロピオネート、リン系酸化防止剤として、トリフェニルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(オクタデシルホスファイト)、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト等が使用可能である。またゴムの老化防止剤として、ポリ(2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン)、6−エトキシ−1,2−ジヒドロ−2,2,4−トリメチルキノリン、1−(N−フェニルアミノ)−ナフタレン、ジアルキルジフェニルアミン、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N’−イソプロピル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミン、2,5−ジ−t−ブチルハイドロキノン、2−メルカプトベンズイミダゾール、ニッケルジブチルジチオカルバメート、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト等も使用できる。
【0015】以上の成分(a)〜(e)の組成比は、(a)アクリロニトリル−ブタジエン共重合体の100重量部に対して、(b)フェノール樹脂及び/又はエポキシ樹脂を20〜500重量部、好ましくは50〜300部である。またこの(a)と(b)を合計した100重量部に対して、(c)導電性フィラーは1〜100重量部、好ましくは5〜70重量部であり、(d)臭素系難燃剤は1〜50重量部、好ましくは5〜40重量部であり、更に必要に応じて用いられる(e)安定剤としての酸化防止剤は1〜10重量部である。(b)の含有量が20重量%より少ない場合は、接着剤表面の粘着性が増大し、シートの取り扱いが難しくなるばかりでなく、硬化物の耐熱性が低下する。また含有量が500重量部より多い場合は、屈曲性及び接着力が損なわれる。(c)が1重量部より少ないと、所定の導電性を得ることが出来ず、100重量部を超えると屈曲性や接着力が低下する。更に(d)についても、1重量%より少ないと十分な難燃性が得られず、50重量%を超えると同様に接着力の低下を生じてしまう。又(e)が1重量%より少ないと接着剤の熱劣化等に対する安定性が不十分であるおそれがあり、10重量%より多いと接着力の低下を生じる。
【0016】本発明の導電性接着剤組成物は、(a)〜(e)の各成分が均一に溶解又は分散した状態で存在すべきであるが、そのために各種有機溶剤を使用することが出来る。好ましい有機溶剤としては(a)及び(b)成分を溶解することの出来る、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)等のケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶剤が挙げられる。更に希釈溶剤としてメタノールやプロパノール等のアルコール系溶剤、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤、リグロイン、ゴム揮発油等の脂肪族炭化水素系溶剤等を使用することが出来る。
【0017】本発明の導電性接着剤組成物の体積抵抗率は、熱硬化後で2×10-2〜2×103Ω・cmであることが好ましい。接着剤がこのような導電性を必要とする根拠は、接着剤を介して導電性繊維シートまたは金属箔をFPCに貼り付けて良好な電磁波シールド特性を得るためであり、更に詳細には導電性繊維シートまたは金属箔でキャッチした電磁波を渦電流に変えて接着剤を通じてFPC層内にあるグランドアースにリークさせるためである。従って導電性接着剤組成物の体積抵抗率が2×103Ω・cmを超えると、電磁波により発生した渦電流を有効にFPC層内のグランドアースにリークさせることが難しく、電磁波シールド効果が不十分となる。一方体積抵抗率を2×10-2Ω・cm未満にするには、導電性フィラーの配合量を本発明の配合量以上に増やす必要があり、その場合上記(a)や(b)のバインダー中へのフィラーの均一な分散が困難となり、またFPCとの接着力が極端に低下する。
【0018】本発明の導電性接着剤組成物の製造方法は、(a)及び(b)成分を上記有機溶剤に溶解し、(c)は(a)及び(b)の溶液中に分散させて作製される。(d)及び(e)は溶解、分散のいずれの形態でも構わない。分散工程は溶剤中又は他の成分の溶液中に、単独又は複数の成分をアトライター、サンドミル、パールミル等の適当な分散装置を利用して行われる。これらの溶液及び分散液は最終的にその組成比が前記の範囲になるように計量・混合される。
【0019】本発明の請求項4で特定する導電性接着剤シートは、上記導電性接着剤組成物を離型紙や離型フィルム等の支持体上に塗工・乾燥して厚さ5〜500μmのシート形状にしたものである。この厚さは、後述する金属繊維シート又は金属箔に適用するために必要なものであり、5μm未満では必要な接着力を得られず、一方導電性接着剤シートの厚さが500μmを超えると、金属繊維シート又は金属箔とFPCとの間の導電性が不足して電磁波シールド効果が低減するだけでなく屈曲性も低下する。なおこの導電性接着剤シートは、導電性接着剤組成物中に含まれる有機溶剤を揮発させるために加熱を行うが、次の金属繊維シートまたは金属箔との積層やその後のFPCとの貼り合わせの必要から接着剤成分は半硬化の状態に保つ必要があり、配合組成や加熱条件を適宜コントロールして半硬化シートとする。
【0020】本発明の導電性接着剤シートの形態としては、■接着剤単独のシート形態、■上述の塗工時に使用した離型紙や離型フィルム等の支持体上にシート(層)状に形成した形態、■の塗工表面に更に別の離型離型紙や離型フィルム等の支持体を積層させた形態の3種類があり、そのいずれも使用可能である。
【0021】本発明の請求項5で特定する電磁波シールド材料は、前記導電性接着剤組成物を表面低効率1Ω/□以下の導電性繊維シートに含浸又は塗布したものである。本願発明者は、各種の導電性繊維をシート形状に成形してその電磁波シールド性を詳細に調べた結果、導電性繊維シート形状で測定した表面抵抗率がシールド特性と良好な相関を有することを見出した。すなわち、導電性繊維シートの表面抵抗率が1Ω/□よりも小さい場合に繊維の種類に関係なく有効な電磁波シールド性を示すことが分かった。
【0022】導電性繊維シートを形成する導電性繊維としては、金属繊維、カーボン繊維、金属メッキ繊維等が使用できる。この内金属繊維としては、ステンレス繊維、チタン繊維、ニッケル繊維、真鍮繊維、銅繊維、アルミニウム繊維、各種合金繊維あるいはこれらの複合金属繊維等が挙げられる。また金属メッキ繊維は、金属繊維やカーボン繊維の他に必ずしも導電性を有しない有機繊維の表面に、無電界及び/又は電界メッキの技術によりAl,Au,Pt,Pd,Cu,Fe,Ni、ハンダ、ステンレス、ITO等の導電性の高い金属を付着させたものである。これらの導電性繊維自体の体積抵抗率は通常10-2Ω・cm以下であるが、シートの表面抵抗率は導電性繊維の種類や空隙率、繊維同士の絡み合い状態により大きく異なる。しかし、シートとして上述の範囲の表面抵抗率を有するものであれば繊維の種類は制約を受けるものではなく、また、2種以上の繊維からなるシートでもよい。
【0023】このような導電性繊維をシート状に形成する方法としては、織布、ネット(編み物)、不織布、抄造等の製造技術が使用できるが、本発明はこれらのシート化技術に制約されるものではなく、あくまで先に述べたように形成されたシートの電気的特性が重要である。なお導電性繊維シートの厚さは、10〜500μm、好ましくは20〜300μmであり、10μm以下では、電磁波シールド性が不足するだけでなく引っ張り強度が小さいために取り扱いが困難である。また厚さが500μmを超えると屈曲性が低下して好ましくない。
【0024】本発明の電磁波シールド材料を作製するには、通常の含浸、塗工又は印刷の技術を使い導電性接着剤組成物を導電性繊維シートに塗布、含浸、印刷後乾燥することで行われる。ただし空隙率が大きく、また引っ張り強度も低い導電性繊維シートをロール形状で直接含浸することが難しい場合は、離型紙や離型フィルム、金属箔等の可撓性支持体を利用することも行われる。例えば導電性繊維シートと可撓性支持体を重ねた状態で導電性繊維シート上に導電性接着剤組成物を塗工または印刷法で設ける。また、本発明の請求項6の電磁波シールド材料のように支持体の上に塗工または印刷法で設けた導電性接着剤組成物層(導電性接着剤シート)に導電性繊維シートを積層せしめるもので、これらはその後所定の加熱・乾燥工程を経て、本発明の電磁波シールド材料を得ることが出来る。ただし、この際の加熱条件はその後FPCと貼り合わせるために半硬化状態を保つ程度にする必要がある。なお本発明の電磁波シールド材料には、その作製時に使用した離型紙や離型フィルム、金属箔等の可撓性支持体を片面または両面に積層させた構成のものも含まれる。
【0025】本発明では請求項6に示すように導電性繊維シートと同様の材質の金属箔も使用することが出来る。この金属薄膜の厚さとしては5〜100μmが好ましく、更に10〜50μmがより好ましい。5μmより薄いと取り扱いが困難であり、100μmを超えると屈曲性が低下する。また屈曲性を上げるために、金属箔にエッチングやプレスにより全面に多数の微細な貫通孔を設けたパンチングメタルや、切れ目を入れて引っ張ったエキスパンドメタル、プリーツ加工、エンボス加工等を施したものも使用可能である。
【0026】導電性接着剤シートを導電性繊維シート及び金属箔に積層するには、通常のラミネート技術により両者を加熱圧着して貼り合わせることにより行われる。なお加工前の導電性接着剤シートの両面に離型紙や離型フィルム等が積層されている場合は、少なくともその一方を剥離した上で貼り合わせることは言うまでもない。更にこの工程でも次のFPCと貼り合せるために、接着剤成分は半硬化の状態に保つ必要がある。
【0027】本発明の電磁波シールド性フレキシブルプリント基板は、上述の電磁波シールド材料をFPCの片面もしくは両面に貼り合わせて作製されるが、この貼り合わせには通常のラミネート技術が使用される。なお本発明で使用されるFPCは、ベース基材としてのポリイミドフィルム、回路を形成する銅箔層、その上に設けるカバーフィルム共に各種の厚さのものを使用できる。更に回路の一部は上述のグランドアースの機能を有し、そのグランドアースの基材側またはカバーレイフィルム側には直径1mmから10mm程度の円形または必要な形状の開孔部が設けられ、グランドアースが露出した構造になっている。導電性接着剤組成物とグランドアースとの導通を確実にするために、また熱硬化性の導電性接着剤組成物を介して導電性繊維シート又は金属箔とFPCとの接着力を向上させるために、必要に応じてプレス装置により加熱・加圧が行われる。
【0028】導電性繊維シートを積層構成に有する電磁波シールド材料を使用する場合、FPCとの一体化後にその導電性繊維シート表面からの導電性繊維の脱離や毛羽立ちが心配されることがある。これを防ぐためには、導電性繊維シートの坪量、空隙率と、導電性接着剤組成物の含浸又は塗布量、又は導電性接着剤シートの厚さとを最適化して、FPCとの貼り合わせ後に、導電性接着剤成分が導電性繊維シート表面までうまく浸透させることが行われる。また他の方法としては、FPCとの一体化後に導電性繊維の脱離や毛羽立ちが心配される導電性繊維シート表面に、スプレーコート、スクリーン印刷、ロールコート等の方式で柔軟性のある適当な樹脂を被覆することも可能である。
【0029】
【実施例】実施例1下記処方の導電性接着剤組成物の塗料を調製した。なお「部」は「重量部」を意味する。
・アクリロニトリル−ブタジエン共重合体 100部 (商品名:NIPOL1001、日本ゼオン社製)
・ビスフェノールA型レゾール型フェノール樹脂 100部 (商品名:ショウノールCKM−908、昭和高分子社製)
・導電性カーボン 60部 (商品名:デンカブラックHS−100、電気化学工業社製)
・高分子量ヒンダードフェノール系酸化防止剤 6部 (商品名:アデカスタブAO−60、旭電化工業社製)
・臭素系難燃剤:臭素化芳香族化合物 30部 (商品名:ピロガードSR−600A、第一工業製薬社製)
・MEK 400部・MIBK 300部
【0030】上記の接着剤組成物塗料を38μmの離型PETフィルム上に塗布し、熱風循環型乾燥機で130℃、3分間乾燥し乾燥後の接着剤層の厚さが30μmの導電性接着剤シートを得た。
【0031】一方、繊維径8μm、繊維長5mmのステンレス繊維75部と結着用繊維(商品名:クラレビニロンフィブリッドVPA、クラレ社製)25部をスラリー化したものを湿式抄造して金属繊維高配合シートを作製し、更にこれを焼結することにより、坪量50g/m2、空隙率78%、厚み35μmのステンレス繊維シートを作製した。
【0032】上記の導電性接着剤シートの接着剤面とステンレス繊維シートとを熱ラミネーターを使用して、ラミネート速度1m/min、温度120℃の条件で貼り合わせ本発明の電磁波シールド材料を作製した。
【0033】その後、FPCのカバーレイフィルム面に、離型PETフィルムを剥離した電磁波シールド材料の接着剤面を貼り合わせ、170℃、30kg/cm2、15分間加熱圧着して硬化させ電磁波シールド性フレキシブルプリント基板を作製した。なお使用したFPCは、ポリイミドフィルム(25μm)/接着剤層(20μm)/銅箔(25μm)/カバーレイフィルム(50μm)の構成である。
【0034】実施例2〜10実施例1の臭素系難燃剤の種類を表1に示す材料に変えた以外はすべて実施例1と同様にして導電性接着剤シート、電磁波シールド材料及びそれを付与したFPCを作製した。
【0035】実施例11〜15実施例1のステンレス繊維シートを表2に示す各種導電性繊維シートに置き換えた以外は全て実施例1と同様にして導電性接着剤シート、電磁波シールド材料及び電磁波シールド性フレキシブルプリント基板を作製した。
【0036】比較例1実施例1において臭素系難燃剤を除いた他はすべて実施例1と同様にして導電性接着剤シート、電磁波シールド材料及び電磁波シールド性フレキシブルプリント基板を作製した。
比較例2実施例1の臭素系難燃剤を表1に示す材料に変えた以外はすべて実施例1と同様にして導電性接着剤シート、電磁波シールド材料及び電磁波シールド性フレキシブルプリント基板を作製した。
比較例3〜4実施例1のステンレス繊維シートを表2に示す各種導電性繊維シートに置き換えた以外は全て実施例1と同様にして導電性接着剤シートを作製した後、実施例1と同様にして比較用の電磁波シールド材料及び電磁波シールド性フレキシブルプリント基板を作製した。
【0037】<評価方法>■難燃性:電磁波シールド性フレキシブルプリント基板について、UL94の20mm垂直燃焼試験に準拠して燃焼試験を行った。
■接着力:電磁波シールド性フレキシブルプリント基板では正確な接着力を測ることが出来ないため、導電性接着剤シートを介して105μmの銅箔と25μmのポリイミドフィルムとを、実施例の加熱圧着条件で貼り合わせたものをサンプルとし、90°ピール強度を25℃、ピール速度50mm/minの条件で測定した。なおピール強度としては1kgf/cm以上を目標とした。
【0038】■体積抵抗率:導電性接着剤シートの接着剤層をポリミドフィルムに転写し170℃で15分間加熱して硬化させたものを、三菱化学社製低抵抗率計ロレスターGPを用いて測定した。
■表面抵抗率:導電性繊維シートについて、三菱化学社製低抵抗率計ロレスターGPを用いて測定した。
■電磁波シールド特性:電磁波シールド材料をサンプルとし、アドバンテスト法により1GHzの電界の減衰率を測定した。なお電磁波シールド特性として40dB以上を目標とした。
【0039】実施例1〜10及び比較例1〜2の難然性及び接着力の評価結果を表1に示す。
【表1】


【0040】以上の結果から、臭素系難燃剤の効果は明らかで、特に臭素含有量が55%以上の場合にV−0レベルの優れた難燃性を示している。また臭素系難燃剤の融点は接着力に大きく影響し、150℃以上の融点では目標の1kgf/cmの接着力を有するが、150℃以下では接着力がやや劣ることが分かった。
【0041】また実施例1及び11〜15,比較例3〜4の表面抵抗率及び電磁波シールド特性の評価結果を表2に示す。
【表2】


【0042】これにより表面抵抗率が1Ω/□以下の導電性繊維シートを使用することにより、電磁波シールド特性として50dB以上という優れた値を得ることが出来た。 なお以上の実施例、比較例で作製した導電性接着剤シートの体積抵抗率は15〜25Ω・cmであった。また屈曲性についても、全て良好であった。
【0043】実施例16下記処方の導電性接着剤組成物の塗料を調製した。なお「部」は「重量部」を意味する。
・アクリロニトリル−ブタジエン共重合体 75部 (商品名:NIPOL1001、日本ゼオン社製)
・ビスフェノールA型エポキシ樹脂 100部 (商品名:エピコート1004、油化シェルエポキシ社製) ・硬化剤:1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール 5部 (商品名:キュアゾール2E4MZ−CN、四国化成工業社製)
・導電性カーボン 50部 (商品名:デンカブラックHS−100、電気化学工業社製)
・酸化防止剤:テトラキス−〔メチレン−3−(3’,5’−ジ− 5部 t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニルプロピオネート〕メタン (商品名:アデカスタブAO−60、旭電化工業社製)
・臭素系難燃剤:ヘキサブロモベンゼン 30部 (商品名:プラセフテイHBB(融点320℃、臭素含有量84%)、 マナック社製)
・MEK 500部・MIBK 300部
【0044】38μm離型PETフィルム上に実施例11で使用した導電性繊維シートを重ね、その上に上記処方の塗料を塗布し、熱風循環型乾燥機で130℃、5分間乾燥した。これにより導電性繊維シートに導電性接着剤組成物が実質的に含浸された電磁波シールド材料を得ることができた。この電磁波シールド材料の電磁波シールド特性は62dBであった。更にこれを実施例1と同様の方法でFPCと貼り合わせたものの難然性はV−0を示した。一方、上記導電性接着剤組成物を離型PETフィルムに塗工、乾燥して得られた導電性接着剤シートは、体積抵抗率22Ω・cmであり、その接着力はピール強度1.7kgf/cmが得られた。
【0045】
【発明の効果】本発明の導電性接着剤組成物、導電性接着剤シートは、良好な接着性と導電性を有し、かつ優れた難然性を有するものである。そして、これを用いた電磁波シールド材料は、FPCに対して優れた電磁波シールド特性を示すだけでなく、FPCとの接着性や屈曲性も優れており、更にV−1〜V−0レベルの高い難燃性を備えたものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】(a)アクリロニトリル−ブタジエン共重合体100重量部と、(b)フェノール樹脂及び/又はエポキシ樹脂20〜500重量部と、(a)と(b)を合計した100重量部に対して(c)導電性フィラー1〜100重量部と、(a)と(b)を合計した100重量部に対して(d)臭素系難燃剤1〜50重量部を少なくとも含有することを特徴とする導電性接着剤組成物。
【請求項2】前記臭素系難燃剤が臭素を55重量%以上含有し、融点が150℃以上であることを特徴とする請求項1記載の導電性接着剤組成物。
【請求項3】前記(a)と(b)を合計した100重量部に対して更に(e)安定剤1〜10重量部を含有することを特徴とする請求項1または2記載の導電性接着剤組成物。
【請求項4】請求項1乃至3のいずれかに記載の導電性接着剤組成物を、厚さ5〜500μmのシート形状にしたことを特徴とする導電性接着剤シート。
【請求項5】請求項1乃至3のいずれかに記載の導電性接着剤組成物を、表面抵抗率1Ω/□以下である導電性繊維シートに含浸又は塗布したことを特徴とする電磁波シールド材料。
【請求項6】請求項4記載の導電性接着剤シートを、表面抵抗率1Ω/□以下である導電性繊維シート又は金属箔の片面もしくは両面に積層したことを特徴とする電磁波シールド材料。
【請求項7】請求項5又は6に記載の電磁波シールド材料を、フレキシブルプリント基板の片面もしくは両面に貼り合わせてなることを特徴とする電磁波シールド性フレキシブルプリント基板。

【公開番号】特開2000−290616(P2000−290616A)
【公開日】平成12年10月17日(2000.10.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−98500
【出願日】平成11年4月6日(1999.4.6)
【出願人】(000153591)株式会社巴川製紙所 (457)
【Fターム(参考)】