説明

導電性正極活物質粉末の製造方法

【課題】これまでの正極活物質粉末に比して、高い電流レートにおいてより高出力を示すことが可能な非水電解質二次電池を与える導電性正極活物質粉末を提供する。
【解決手段】平均粒径が0.05μm以上1μm以下の正極活物質粉末と、導電粉末と、第1の溶媒とを混合し、第1の溶媒を除去することを特徴とする導電性正極活物質粉末の製造方法。前記混合時の正極活物質粉末、導電粉末および第1の溶媒の総重量に対する正極活物質粉末および導電粉末の重量が、5重量%以上30重量%以下である前記の製造方法。混合時に超音波を与える前記の製造方法。前記製造方法により得られる導電性正極活物質粉末。前記導電性正極活物質粉末とバインダーと第2の溶媒とを混合することを特徴とする正極合剤の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は正極活物質に関し、さらに詳しくは非水電解質二次電池に好適に用いることのできる導電性正極活物質粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
正極活物質粉末は、リチウム二次電池などの非水電解質二次電池の正極に用いられている。非水電解質二次電池は、既に携帯電話やノートパソコン等の電源として実用化されており、更に自動車用途や電力貯蔵用途などの中・大型用途においても、適用が試みられている。
【0003】
従来の正極活物質粉末として、例えば特許文献1には平均粒径が9.1μm〜20.5μmの正極活物質粉末が具体的に記載されており、この正極活物質粉末と、平均粒径が3.3μm〜51.5μmの導電性の黒鉛粉末と、平均粒径0.04μmの導電性の非黒鉛炭素粉末とを混合し、さらにバインダーおよび溶媒を混合して正極合剤を得て、これを集電体に塗布して得られる正極を得て、非水電解質二次電池を得ている。しかしながら、得られる非水電解質二次電池は、前記正極の内部抵抗値が高く、高い電流レートにおける高出力を要求される用途、すなわち自動車用途や電動工具等のパワーツール用途においては、十分なものではなかった。一方で、高い電流レートにおいて高出力を示すことのできる二次電池の正極活物質粉末として、特許文献2には、例えば、平均粒径が0.1μm〜3μmの正極活物質粉末が記載されており、この正極活物質粉末と、平均粒径が1μm〜6μmの導電性の黒鉛粉末と、導電性の非黒鉛炭素粉末とを用い、これらとバインダーおよび溶媒とを混合して、正極合剤を得ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−40140号公報
【特許文献2】特開2008−084826号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2に示されている正極合剤を用いて得られる非水電解質二次電池正極においても、高い電流レートにおいて高出力を示すことのできる電池を得る観点で未だ改善の余地があった。本発明の目的は、これまでの正極活物質粉末に比して、高い電流レートにおいてより高出力を示すことが可能な非水電解質二次電池を与える導電性正極活物質粉末を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、特許文献2における正極活物質粉末のように、これを構成する粒子が微粒であると、炭素材料も多量必要となることから、正極合剤における正極活物質粉末の分散状態に限界が生じ、また、正極合剤を集電体に塗布して得られる正極における正極活物質密度を上げるにも限界が生じ、さらには得られる非水電解質二次電池の上記特性、すなわち高電流レートにおける高出力特性にも限界が生じていることを見出した。そこで、この点に着目して、炭素材料を多量必要としない正極の製造工程について、抜本的に検討し、本発明に至った。
【0007】
すなわち本発明は、以下の発明を提供する。
<1>平均粒径が0.05μm以上1μm以下の正極活物質粉末と、導電粉末と、第1の溶媒とを混合し、第1の溶媒を除去することを特徴とする導電性正極活物質粉末の製造方法。
<2>導電粉末が非黒鉛炭素粉末である前記<1>記載の製造方法。
<3>導電粉末を構成する粒子の平均粒径が、0.01μm以上0.1μm以下である前記<1>または<2>記載の製造方法。
<4>正極活物質粉末100重量部に対する導電粉末の混合割合が2重量部以上50重量部以下である前記<1>〜<3>のいずれかに記載の製造方法。
<5>前記混合時の正極活物質粉末、導電粉末および第1の溶媒の合計重量に対する正極活物質粉末および導電粉末の合計重量が、5重量%以上30重量%以下である前記<1>〜<4>のいずれかに記載の製造方法。
<6>正極活物質粉末が、NiおよびMnを含有するリチウム複合金属酸化物である前記<1>〜<5>のいずれかに記載の製造方法。
<7>リチウム複合金属酸化物が、以下の式(A)で表される前記<6>記載の製造方法。
Liα(Ni1-x-y-zMnxFeyCoz)O2 (A)
(ここで、0<x<1、0≦y<1、0≦z<1、0<x+y+z<1、0.5≦α≦1.5である。)
<8>混合時に超音波を与える前記<1>〜<7>のいずれかに記載の製造方法。
<9>前記<1>〜<8>のいずれかに記載の製造方法により得られる導電性正極活物質粉末。
<10>前記<9>記載の導電性正極活物質粉末とバインダーと第2の溶媒とを混合することを特徴とする正極合剤の製造方法。
<11>黒鉛粉末および/または非黒鉛炭素粉末をさらに混合する前記<10>記載の正極合剤の製造方法。
<12>前記<10>または<11>に記載の製造方法により得られる正極合剤。
<13>前記<12>記載の正極合剤を集電体に塗布して、第2の溶媒を除去して得られる正極。
<14>前記<13>記載の正極と、負極と、電解質を有する非水電解質二次電池。
<15>さらにセパレータを有する前記<14>記載の非水電解質二次電池。
<16>セパレータが、耐熱多孔層と多孔質フィルムとが積層されてなる積層フィルムからなるセパレータである前記<15>記載の非水電解質二次電池。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、従来のリチウム二次電池に比し、高い電流レートにおいてより高出力を示す非水電解質二次電池を得ることができ、該二次電池は、殊に、高い電流レートにおける高出力を要求される用途、すなわち自動車や電動工具等のモーターの駆動用など、大電流が要求される用途、急速充放電が要求される用途に好適に使用することができ、本発明は工業的に極めて有用である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の導電性正極活物質粉末の製造方法は、平均粒径が0.05μm以上1μm以下の正極活物質粉末と、導電粉末と、第1の溶媒とを混合し、得られる混合物から第1の溶媒を除去することを特徴とする。本発明においては、正極活物質粉末の平均粒径が0.05μm以上1μm以下という小さな粒径であっても、導電粉末が、得られる混合物からの第1の溶媒除去時に、正極活物質粉末を構成する粒子を囲むように効率的に付着することから、炭素材料を多量必要とせず、正極合剤における正極活物質粉末の分散状態も良好となり、また、正極における正極活物質密度を容易に向上することができ、さらには得られる非水電解質二次電池の高電流レートにおける高出力特性向上を達成することができる。また、炭素材料を多量使用した場合にも、従来に比し、正極の内部抵抗をより低くすることができ、得られる非水電解質二次電池の高電流レートにおける高出力特性向上を達成することができる。
【0010】
本発明において、導電粉末としては、非黒鉛炭素粉末、黒鉛粉末などの炭素材料を挙げることができ、より効率的に正極活物質粉末に付着させる意味で、非黒鉛炭素粉末が好ましい。非黒鉛炭素粉末としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなどのカーボンブラックを挙げることができる。
【0011】
導電粉末は、これを構成する粒子の平均粒径が、0.01μm以上0.1μm以下であることが好ましく、より好ましくは、0.02μm以上0.07μm以下である。導電粉末の平均粒径をこのように選択することで、効率的に、平均粒径が0.05μm以上1μm以下の正極活物質粉末を構成する粒子を囲むように導電粉末を付着させることができる。
【0012】
また、導電粉末の使用量、すなわち混合割合に関しては、正極活物質粉末100重量部に対して導電粉末が2重量部以上50重量部以下であることが好ましく、より好ましくは、5重量部以上30重量部以下である。これらの範囲は、導電粉末が、非黒鉛炭素粉末である場合に、より効果的である。
【0013】
本発明において、第1の溶媒としては、N,N―ジメチルアミノプロピルアミン、ジエチレントリアミン等のアミン系溶媒、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒、酢酸メチル等のエステル系溶媒、ジメチルアセトアミド、1−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPということがある。)等のアミド系溶媒、エタノール、イソプロパノール等のアルコール系溶媒、水等を挙げることができる。また、水とアルコールを混合した水系溶媒を挙げることもできる。これらの中でも、除去しやすい溶媒が好ましく、具体的には、水、水系溶媒、アルコール系溶媒、アミド系溶媒が好ましい。
【0014】
本発明において、正極活物質粉末は、一次粒子および一次粒子の凝集粒子から構成される。非水電解質二次電池の放電容量と出力特性を高次元でバランスさせる観点から、正極活物質粉末の平均粒径は、0.08μm以上0.8μm以下であることが好ましく、より好ましくは、0.1μm以上0.5μm以下である。また、正極活物質粉末のBET比表面積は、2m2/g以上30m2/g以下であることが好ましい。出力特性をより高める意味で、正極活物質粉末のBET比表面積は3m2/g以上であることが好ましく、5m2/g以上であることがより好ましい。また、充填性の観点で好ましい正極活物質粉末のBET比表面積は15m2/g以下であり、10m2/g以下であることがより好ましい。
【0015】
より容量を高める非水電解質二次電池を得る意味で、正極活物質粉末は、NiおよびMnを含有するリチウム複合金属酸化物であることが好ましく、該リチウム複合金属酸化物は、以下の式(A)で表わされることが好ましい。
Liα(Ni1-x-y-zMnxFeyCoz)O2 (A)
(ここで、0<x<1、0≦y<1、0≦z<1、0<x+y+z<1、0.5≦α≦1.5である。)
【0016】
前記式(A)において、好ましいαの値は、0.95以上1.5以下であり、より好ましくは1.0以上1.4以下である。また、Coの入手困難性などの観点から、z=0であることが好ましく、本発明においては正極活物質粉末がCoを含むことなくても、高い放電容量を達成することが可能である。この場合、リチウム複合金属酸化物は、以下の式(B)で表される。
Liα(Ni1-x-yMnxFey)O2 (B)
(ここで、0<x<1、0≦y<1、0<x+y<1、0.5≦α≦1.5である。)
【0017】
前記式(B)において、好ましいαの値は、0.95以上1.5以下であり、より好ましくは1.0以上1.4以下である。また、好ましいx+yの値は、0.2以上0.7以下であり、より好ましくは0.3以上0.6以下である。また、好ましいyの値は、0以上0.1以下、より好ましくは0.005以上0.1以下である。
【0018】
また、式(A)および式(B)において、非水電解質二次電池のサイクル性を高める観点では、リチウム複合金属酸化物におけるMnの量(モル)は、Niの量(モル)より大きいことが好ましい。
【0019】
本発明の効果をより高める意味で、前記リチウム複合金属酸化物は、その構造がα−NaFeO2型結晶構造、すなわちR−3mの空間群に帰属される結晶構造であることが好ましい。結晶構造は、リチウム複合金属酸化物について、CuKαを線源とする粉末X線回折測定により得られる粉末X線回折図形から同定することができる。
【0020】
また、前記リチウム複合金属酸化物におけるLi、Ni、Mn、Fe、Coの一部を、他元素で置換してもよい。ここで、他元素としては、B、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Mg、Sc、Y、Zr、Hf、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Tc、Ru、Rh、Ir、Pd、Cu、Ag、Zn等の元素を挙げることができる。
【0021】
また、前記リチウム複合金属酸化物を構成する粒子の表面に、前記リチウム複合金属酸化物とは異なる化合物を付着させてもよい。該化合物としては、B、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Mgおよび遷移金属元素からなる群より選ばれる1種以上の元素を含有する化合物、好ましくはB、Al、Mg、Ga、InおよびSnからなる群より選ばれる1種以上の元素を含有する化合物、より好ましくはAlの化合物を挙げることができ、化合物として具体的には、前記元素の酸化物、水酸化物、オキシ水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、有機酸塩を挙げることができ、好ましくは、酸化物、水酸化物、オキシ水酸化物である。また、これらの化合物を混合して用いてもよい。これら化合物の中でも、特に好ましい化合物はアルミナである。また、付着後に加熱を行ってもよい。本発明において、これら化合物を付着させる場合には、付着させた後の正極活物質粉末を、正極活物質粉末として扱う。
【0022】
なお、正極活物質粉末、導電粉末および後述の黒鉛粉末のそれぞれの平均粒径は、レーザー回折粒度分布測定により求められるD50の値を用いる。レーザー回折粒度分布測定の測定装置としては、マルバーン社製のレーザー回折式粒度分布測定装置(型式:マスターサイザー2000)を挙げることができる。
【0023】
次に本発明における正極活物質粉末を製造する方法として、NiおよびMnを含有するリチウム複合金属酸化物を製造する方法を例に挙げて、具体的に説明する。
NiおよびMnを含有するリチウム複合金属酸化物はNi、MnおよびCl、必要に応じてFe、Coを含有する水溶液(以下、「第1水溶液」ともいう。)とアルカリとを接触させて共沈物を得て、該共沈物およびリチウム化合物の混合物を900℃未満の温度で保持して焼成することにより製造することができる。前記接触時には、第1水溶液におけるNi、Mn、Fe、Coの濃度、第1水溶液と接触させるアルカリの形態(水溶液状または固体)によっては、共沈物は、粉体として得られる場合もあるが、共沈物スラリーとして得られることが好ましい。なお、第1水溶液、アルカリ、第1水溶液と該アルカリとの接触方法、リチウム化合物、共沈物との混合方法、混合物の焼成方法などについては、後述のもの、あるいは方法を用いることができる。また、焼成により正極活物質粉末となり得る金属化合物混合物を焼成することにより製造することもできる。すなわち、対応する金属元素を含有する化合物を、所定の組成となるように秤量し、混合した後に得られる金属化合物混合物を焼成することにより製造することができる。本発明に使用する正極活物質粉末としてのリチウム複合金属酸化物の製造方法としては、前記の共沈物を得る工程を経る方法のほうが、目的の粉末特性を得られやすく、より好ましい。
【0024】
以下、リチウム複合金属酸化物の好ましい製造方法である共沈物を得る工程を経てリチウム複合金属酸化物を製造する方法について説明する。すなわち、本発明におけるリチウム複合金属酸化物の製造方法としては、以下の(1)、(2)および(3)の工程をこの順で含む製造方法であることが好ましい。
(1)第1水溶液とアルカリとを接触させて共沈物スラリーを得る工程。
(2)該共沈物スラリーから、共沈物を得る工程。
(3)該共沈物とリチウム化合物とを混合して得られる混合物を900℃未満の温度で保持して焼成してリチウム複合金属酸化物を得る工程。
【0025】
上記(1)の工程において、第1水溶液は、Ni、Mn、必要に応じてFe、Coを含有するそれぞれの原料としてそれぞれの塩化物を用い、Niの塩化物、Mnの塩化物、必要に応じてFeの塩化物、Coの塩化物を水に溶解して得られる水溶液であることが好ましい。Feの塩化物としては、2価のFeの塩化物であることが好ましい。また、それぞれの原料が水に溶解し難い場合、例えば、これらの原料が、酸化物、水酸化物、金属材料である場合には、これらの原料を、塩酸もしくはこれを含有する水溶液に溶解させて、第1水溶液を得ることができる。なお、第1水溶液においては、Ni、Mn、必要に応じてFe、Coが、所定のモル比、すなわち、前記式(A)または前記式(B)におけるモル比となるように含まれる。
【0026】
工程(1)において、アルカリとしては、LiOH(水酸化リチウム)、NaOH(水酸化ナトリウム)、KOH(水酸化カリウム)、Li2CO3(炭酸リチウム)、Na2CO3(炭酸ナトリウム)、K2CO3(炭酸カリウム)および(NH42CO3(炭酸アンモニウム)からなる群より選ばれる1種以上の無水物および/または該1種以上の水和物を挙げることができ、工程(1)においては、上記アルカリの水溶液を用いることが好ましい。アルカリ水溶液として、アンモニア水を挙げることもできる。アルカリ水溶液におけるアルカリの濃度は、通常0.5〜10M程度、好ましくは1〜8M程度である。また、製造コストの面から、用いるアルカリとしてNaOH、KOHの無水物および/または水和物を用いることが好ましい。また、上述のアルカリを2つ以上併用してもよい。
【0027】
工程(1)における接触の方法としては、第1水溶液にアルカリ水溶液を添加して混合する方法、アルカリ水溶液に第1水溶液を添加して混合する方法、水に第1水溶液およびアルカリ水溶液を添加して混合する方法を挙げることができる。これらの混合時には、攪拌を伴うことが好ましい。また、上記の接触の方法の中では、アルカリ水溶液に第1水溶液を添加して混合する方法は、pH変化を保ちやすい点で好ましく用いることができる。この場合、アルカリ水溶液に、第1水溶液を添加混合していくに従い、混合された液のpHが低下していく傾向にあるが、このpHが9以上、好ましくは10以上となるように調節しながら、第1水溶液を添加するのがよい。また、第1水溶液およびアルカリ水溶液のうち、いずれか一方または両方の水溶液を40℃〜80℃の温度に保持しながら接触させると、より均一な組成の共沈物を得ることができ、好ましい。工程(1)においては、上記のようにして、共沈物が生成し、共沈物スラリーを得ることができる。
【0028】
工程(2)においては、上記共沈物スラリーから、共沈物を得る。共沈物を得ることができれば、工程(2)は如何なる方法によってもよいが、操作性の観点では、ろ過などの固液分離による方法が、好ましく用いられる。共沈物スラリーを用いて、噴霧乾燥するなど、加熱して液体を揮発させる方法によっても共沈物を得ることができる。
【0029】
工程(2)において、固液分離により共沈物を得る場合には、前記(2)の工程は、以下の(2´)の工程であることが好ましい。
(2´)該共沈物スラリーを固液分離後、洗浄、乾燥して、共沈物を得る工程。
【0030】
工程(2´)において、洗浄することにより、固液分離後に得られる固形分にアルカリ、Clが過剰に存在する場合には、これを除去することができる。固形分を効率よく洗浄する意味では、洗浄液として水を用いることが好ましい。なお、必要に応じてアルコール、アセトンなどの水溶性有機溶媒を洗浄液に加えても良い。また、洗浄は2回以上行ってもよく、例えば、水洗浄を行った後、前記のような水溶性有機溶媒で再度洗浄することもできる。
【0031】
工程(2´)において、洗浄後、乾燥して、共沈物を得る。乾燥は、通常、熱処理によって行うが、送風乾燥、真空乾燥等によってもよい。熱処理によって行う場合には、通常50〜300℃で行い、好ましくは100℃〜200℃程度である。
【0032】
工程(3)において、上記により得られる共沈物とリチウム化合物とを混合して得られる混合物を焼成してリチウム複合金属酸化物、すなわち正極活物質粉末を得る。リチウム化合物としては、水酸化リチウム、塩化リチウム、硝酸リチウムおよび炭酸リチウムからなる群より選ばれる1種以上の無水物および/または該1種以上の水和物を挙げることができる。混合は、乾式混合、湿式混合のいずれによってもよいが、簡便性の観点では、乾式混合が好ましい。混合装置としては、攪拌混合、V型混合機、W型混合機、リボン混合機、ドラムミキサー、ボールミル等を挙げることができる。
【0033】
前記焼成における保持温度は、リチウム複合金属酸化物、すなわち正極活物質粉末のを平均粒径を調整する意味で重要な因子である。通常、保持温度が高くなればなるほど、平均粒径は大きくなる傾向にある。保持温度としては、650℃以上900℃以下の範囲であることが好ましい。前記保持温度で保持する時間は、通常0.1〜20時間であり、好ましくは0.5〜8時間である。前記保持温度までの昇温速度は、通常50℃〜400℃/時間であり、前記保持温度から室温までの降温速度は、通常10℃〜400℃/時間である。また、焼成の雰囲気としては、大気、酸素、窒素、アルゴンまたはそれらの混合ガスを用いることができるが、大気雰囲気が好ましい。
【0034】
前記焼成の際に、混合物は、フッ化アンモニウムやホウ酸などの反応促進剤を含有していてもよい。反応促進剤として、より具体的には、NaCl、KCl、NH4Clなどの塩化物、LiF、NaF、KF、HN4Fなどのフッ化物、ホウ酸、好ましくは前記塩化物を挙げることができ、より好ましくはKClである。混合物が反応促進剤を含有することで、混合物の焼成時の反応性を向上させ、得られるリチウム複合金属酸化物、すなわち正極活物質粉末の平均粒径を調整することが可能な場合がある。通常、焼成の保持温度が同じ場合には、混合物における反応促進剤の含有量が多くなればなるほど、平均粒径は大きくなる傾向にある。また、反応促進剤を2種以上併用することもできる。反応促進剤は、共沈物とリチウム化合物との混合時に、添加して混合すればよい。また、反応促進剤は、リチウム複合金属酸化物に残留していてもよいし、洗浄、蒸発等により除去されていてもよい。
【0035】
また、前記焼成後において、得られるリチウム複合金属酸化物、すなわち正極活物質粉末を、ボールミルやジェットミルなどを用いて粉砕してもよい。粉砕によって、正極活物質粉末の平均粒径を調整することが可能な場合がある。また、粉砕と焼成を2回以上繰り返してもよい。また、正極活物質粉末は必要に応じて洗浄あるいは分級することもできる。上記手法により、平均粒径が0.05μm以上1μm以下の正極活物質粉末を得ることができる。
【0036】
本発明においては、上記の平均粒径が0.05μm以上1μm以下の正極活物質粉末と、導電粉末と、第1の溶媒とを混合し、第1の溶媒を除去して、導電性正極活物質粉末を製造する。ここで、混合は、これらを混合することができれば、いかなる混合手法によってもよく、攪拌や混練を行ってもよい。また、混合時には、超音波を与えることが好ましく、超音波を与えることにより、得られる導電性正極活物質粉末における導電粉末の分散をより効率的に進めることができる。
【0037】
また、混合時の正極活物質粉末、導電粉末および第1の溶媒の合計重量に対する正極活物質粉末および導電粉末の合計重量は、5重量%以上30重量%以下であることが好ましく、より好ましくは、15重量%以上30重量%以下である。
【0038】
混合装置としては、攪拌装置、混練装置のほか、V型混合機、W型混合機、リボン混合機、ドラムミキサー、ボールミル等の装置を挙げることができる。
【0039】
また、混合した後に行う第1の溶媒の除去は、これを除去することができれば、いかなる除去手法によってもよい。除去方法としては、濾過、乾燥などを挙げることができ、また、これらを組み合わせてもよい。乾燥は、熱処理によってもよいし、送風乾燥、真空乾燥等によってもよい。熱処理によって第1の溶媒の除去を行う場合の熱処理温度は、第1の溶媒の沸点にもよるが、例えば、30〜90℃程度、好ましくは50〜70℃、より好ましくは55〜65℃である。
【0040】
また、本発明の導電性正極活物質粉末の製造方法においては、(1)あらかじめ、導電粉末と第1の溶媒とを予備混合して、これと正極活物質粉末とを混合してもよいし、また、(2)あらかじめ、正極活物質粉末と第1の溶媒とを予備混合して、これと導電粉末とを混合してもよい。また、これらの予備混合時においても、前記と同様に超音波を与えることが好ましい。より効率的に、正極活物質粉末を構成する粒子の表面に、より効率的に導電粉末を付着させる観点からは、上記のうち(1)による方法がより好ましい。
【0041】
本発明の導電性正極活物質粉末の製造方法により得られる導電性正極活物質粉末を、正極合剤に用いれば、正極合剤における正極活物質粉末の分散状態も良好となり、また、正極における正極活物質密度を容易に向上することができ、さらには得られる非水電解質二次電池の高電流レートにおける高出力特性向上を達成することができる。
【0042】
次に、本発明における導電性正極活物質粉末を用いて、正極合剤を製造する方法について述べる。本発明の正極合剤の製造方法は、本発明における導電性正極活物質粉末とバインダーと第2の溶媒とを混合することを特徴とする。混合の際には、黒鉛粉末および/または非黒鉛炭素粉末を、さらに混合することが好ましい。
【0043】
正極合剤におけるバインダーとしては、熱可塑性樹脂を用いることができ、具体的には、ポリフッ化ビニリデン(以下、PVdFということがある。)、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEということがある。)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン・フッ化ビニリデン系共重合体、六フッ化プロピレン・フッ化ビニリデン系共重合体、四フッ化エチレン・パーフルオロビニルエーテル系共重合体などのフッ素樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂等が挙げられる。また、これらの二種以上を混合して用いてもよい。また、バインダーとしてフッ素樹脂およびポリオレフィン樹脂を用い、正極合剤に対する該フッ素樹脂の割合が1〜10重量%、該ポリオレフィン樹脂の割合が0.1〜2重量%となるように含有させることによって、集電体との結着性に優れた正極合剤を得ることができるので好ましい。なお、バインダーは、第2の溶媒に溶解または分散させて用いることができる。
【0044】
また、正極合剤における第2の溶媒としては、N,N―ジメチルアミノプロピルアミン、ジエチレントリアミン等のアミン系溶媒、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒、酢酸メチル等のエステル系溶媒、ジメチルアセトアミド、1−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPということがある。)等のアミド系溶媒等が挙げられる。
【0045】
正極合剤の製造に際して用いる黒鉛粉末は、平均粒径が0.01μm以上20μm以下であることが好ましく、より好ましい平均粒径は1μm以上10μm以下である。黒鉛粉末の平均粒径をこのように設定することで、正極におけるより効率的な電気伝導経路を確保することができる。また、黒鉛粉末を構成する黒鉛粒子は、燐片状であることが好ましい。黒鉛粒子の形状が燐片状であることにより、正極において、その導電性をより高めることができる。
【0046】
黒鉛粉末を使用する場合は、導電性正極活物質粉末100重量部に対する黒鉛粉末の重量割合は、例えば、1重量部以上30重量部以下の範囲である。
【0047】
正極合剤の製造に際して用いる非黒鉛炭素粉末は、上述のもの、すなわちアセチレンブラック、ケッチェンブラックなどのカーボンブラックなどを挙げることができる。カーボンブラックなどの非黒鉛炭素粉末は、微粒で表面積が大きいため、これを有することにより正極内部の導電性を高め、充放電効率及びレート特性を向上させることができるが、多く入れすぎると正極合剤と後述の正極集電体との結着性を低下させ、かえって内部抵抗を増加させる原因となる。よって、正極合剤の製造の際に黒鉛粉末および非黒鉛炭素粉末を用いる場合には、導電性正極活物質粉末100重量部に対して、黒鉛粉末および非黒鉛炭素粉末の合計の使用割合が、2重量部以上20重量部以下であることが好ましい。また、正極合剤の製造の際に、黒鉛粉末を使用せずに、非黒鉛炭素粉末を用いる場合には、導電性正極活物質粉末100重量部に対して、非黒鉛炭素粉末の使用割合が2重量部以上20重量部以下であることが好ましい。
【0048】
また、正極合剤の製造時に、繊維状炭素材料をさらに混合してもよい。繊維状炭素材料として、具体的には、黒鉛化炭素繊維、カーボンナノチューブを挙げることができる。カーボンナノチュ−ブは、シングルウォール、マルチウォールのいずれでもよい。繊維状炭素材料は、市販されているものを、適宜、粉砕して用いてもよい。粉砕は、乾式、湿式のいずれによってもよく、乾式粉砕としては、ボールミル、ロッキングミル、遊星ボールミルによる粉砕が挙げられ、湿式粉砕としては、ボールミル、デイスパ−マットによる粉砕が挙げられる。繊維状炭素材料を有する際の割合は、正極活物質粉末100重量部に対して、通常、0.1重量部以上10重量部以下である。
【0049】
また、正極合剤製造の際の混合時に用いる混合装置としては、攪拌装置、混練装置のほか、V型混合機、W型混合機、リボン混合機、ドラムミキサー、ボールミル等の装置を挙げることができる。また、各種分散機を用いることもできる。
【0050】
本発明の正極合剤の製造方法により得られる正極合剤は、上記の導電性正極活物質粉末とバインダーと第2の溶媒を有する。該正極合剤を用いて正極を製造すれば、正極における正極活物質密度を容易に向上することができ、さらには得られる非水電解質二次電池の高電流レートにおける高出力特性向上を達成することができる。
【0051】
次に、本発明における正極合剤を用いて、正極を製造する方法について述べる。本発明における正極合剤を用いて、これを集電体に塗布して、第2の溶媒を除去して、正極を得ることができる。前記集電体(以下、正極集電体ともいう。)としては、Al、Ni、ステンレスなどを用いることができるが、薄膜に加工しやすく、安価であるという点でAlが好ましい。また、正極合剤を正極集電体に塗布して、第2の溶媒を除去した後プレスするなどして固着してもよい。正極合剤を正極集電体に塗布する方法としては、例えば、ダイ塗工法、スクリーン塗工法、カーテン塗工法、ナイフ塗工法、グラビア塗工法、静電スプレー法等が挙げられる。また、第2の溶媒を除去する方法としては、乾燥などを挙げることができ、乾燥は熱処理によってもよいし、送風乾燥、真空乾燥等によってもよい。熱処理によって第2の溶媒の除去を行う場合の熱処理温度は、第2の溶媒の沸点にもよるが、例えば、30〜200℃程度である。
【0052】
次に、上記正極を有する非水電解質二次電池について、説明する。非水電解質二次電池は、正極と、負極と、電解質を有し、さらに必要に応じてセパレータを有する。該電池の例としてリチウム二次電池を挙げて説明する。
リチウム二次電池は、セパレータ、負極、および上述の正極を、積層または積層・巻回することにより得られる電極群を、電池缶などの電池ケース内に収納した後、電解質を含有する有機溶媒からなる電解液を含浸させて製造することができる。
【0053】
前記の電極群の形状としては、例えば、該電極群を巻回の軸と垂直方向に切断したときの断面が、円、楕円、長方形、角がとれたような長方形等となるような形状を挙げることができる。また、電池の形状としては、例えば、ペーパー型、コイン型、円筒型、角型などの形状を挙げることができる。
【0054】
前記負極は、正極よりも低い電位でリチウムイオンのドープ・脱ドープが可能であればよく、負極材料を含む負極合剤が負極集電体に担持されてなる電極、または負極材料単独からなる電極を挙げることができる。負極材料としては、炭素材料、カルコゲン化合物(酸化物、硫化物など)、窒化物、金属または合金で、正極よりも低い電位でリチウムイオンのドープ・脱ドープが可能な材料が挙げられる。また、これらの負極材料を混合して用いてもよい。
【0055】
前記の負極材料につき、以下に例示する。前記炭素材料として、具体的には、天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛、コークス類、カーボンブラック、熱分解炭素類、炭素繊維、有機高分子化合物焼成体などを挙げることができる。前記酸化物として、具体的には、SiO2、SiOなど式SiOx(ここで、xは正の実数)で表されるケイ素の酸化物、TiO2、TiOなど式TiOx(ここで、xは正の実数)で表されるチタンの酸化物、V25、VO2など式VOx(ここで、xは正の実数)で表されるバナジウムの酸化物、Fe34、Fe23、FeOなど式FeOx(ここで、xは正の実数)で表される鉄の酸化物、SnO2、SnOなど式SnOx(ここで、xは正の実数)で表されるスズの酸化物、WO3、WO2など一般式WOx(ここで、xは正の実数)で表されるタングステンの酸化物、Li4Ti512、LiVO2(たとえばLi1.10.92)などのリチウムとチタンおよび/またはバナジウムとを含有する複合金属酸化物などを挙げることができる。前記硫化物として、具体的には、Ti23、TiS2、TiSなど式TiSx(ここで、xは正の実数)で表されるチタンの硫化物、V34、VS2、VSなど式VSx(ここで、xは正の実数)で表されるバナジウムの硫化物、Fe34、FeS2、FeSなど式FeSx(ここで、xは正の実数)で表される鉄の硫化物、Mo23、MoS2など式MoSx(ここで、xは正の実数)で表されるモリブデンの硫化物、SnS2、SnSなど式SnSx(ここで、xは正の実数)で表されるスズの硫化物、WS2など式WSx(ここで、xは正の実数)で表されるタングステンの硫化物、Sb23など式SbSx(ここで、xは正の実数)で表されるアンチモンの硫化物、Se53、SeS2、SeSなど式SeSx(ここで、xは正の実数)で表されるセレンの硫化物などを挙げることができる。前記窒化物として、具体的には、Li3N、Li3-xxN(ここで、AはNiおよび/またはCoであり、0<x<3である。)などのリチウム含有窒化物を挙げることができる。これらの炭素材料、酸化物、硫化物、窒化物は、併用して用いてもよく、結晶質または非晶質のいずれでもよい。また、これらの炭素材料、酸化物、硫化物、窒化物は、主に、負極集電体に担持して、電極として用いられる。
【0056】
また、前記金属として、具体的には、リチウム金属、シリコン金属、スズ金属が挙げられる。また、前記合金としては、Li−Al、Li−Ni、Li−Siなどのリチウム合金、Si−Znなどのシリコン合金、Sn−Mn、Sn−Co、Sn−Ni、Sn−Cu、Sn−Laなどのスズ合金のほか、Cu2Sb、La3Ni2Sn7などの合金を挙げることもできる。これらの金属、合金は、主に、単独で電極として用いられる(例えば箔状で用いられる)。
【0057】
上記負極材料の中で、電位平坦性が高い、平均放電電位が低い、サイクル性が良いなどの観点からは、天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛を主成分とする炭素材料が好ましく用いられる。炭素材料の形状としては、例えば天然黒鉛のような薄片状、メソカーボンマイクロビーズのような球状、黒鉛化炭素繊維のような繊維状、または微粉末の凝集体などのいずれでもよい。
【0058】
前記の負極合剤は、必要に応じて、バインダーを含有してもよい。バインダーとしては、熱可塑性樹脂を挙げることができ、具体的には、PVdF、熱可塑性ポリイミド、カルボキシメチルセルロース(以下、CMCともいう。)、ポリエチレン、ポリプロピレンなどを挙げることができる。
【0059】
前記の負極集電体としては、Cu、Ni、ステンレスなどを挙げることができ、リチウムと合金を作り難い点、薄膜に加工しやすいという点で、Cuを用いればよい。該負極集電体に負極合剤を担持させる方法としては、正極の場合と同様であり、加圧成型による方法、溶媒などを用いてペースト化し負極集電体上に塗布、乾燥後プレスし圧着する方法等が挙げられる。
【0060】
セパレータは、好ましくは、熱可塑性樹脂を含有する多孔質フィルムを有する。非水電解質二次電池においては、通常、正極−負極間の短絡等が原因で電池内に異常電流が流れた際に、電流を遮断して、過大電流が流れることを阻止(シャットダウン)する機能を有することが好ましい。ここで、シャットダウンは、通常の使用温度を越えた場合に、セパレータにおける多孔質フィルムの微細孔を閉塞することによりなされる。そしてシャットダウンした後、ある程度の高温まで電池内の温度が上昇しても、その温度により破膜することなく、シャットダウンした状態を維持することが好ましい。かかるセパレータとしては、耐熱多孔層と多孔質フィルムとが積層されてなる積層フィルムが挙げられ、該フィルムをセパレータとして用いることにより、本発明における二次電池の耐熱性をより高めることが可能となる。ここで、耐熱多孔層は、多孔質フィルムの両面に積層されていてもよい。
【0061】
以下、前記の耐熱多孔層と多孔質フィルムとが積層されてなる積層フィルムについて説明する。
【0062】
前記積層フィルムにおいて、耐熱多孔層は、多孔質フィルムよりも耐熱性の高い層であり、該耐熱多孔層は、無機粉末から形成されていてもよいし、耐熱樹脂を含有していてもよい。耐熱多孔層が、耐熱樹脂を含有することにより、塗工などの容易な手法で、耐熱多孔層を形成することができる。耐熱樹脂としては、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリサルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルケトン、芳香族ポリエステル、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルイミドを挙げることができ、耐熱性をより高める観点で、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルイミドが好ましく、より好ましくは、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミドである。さらにより好ましくは、芳香族ポリアミド(パラ配向芳香族ポリアミド、メタ配向芳香族ポリアミド)、芳香族ポリイミド、芳香族ポリアミドイミド等の含窒素芳香族重合体であり、とりわけ好ましくは芳香族ポリアミド、製造面で、特に好ましいのは、パラ配向芳香族ポリアミド(以下、「パラアラミド」ということがある。)である。また、耐熱樹脂として、ポリ−4−メチルペンテン−1、環状オレフィン系重合体を挙げることもできる。これらの耐熱樹脂を用いることにより、積層フィルムの耐熱性、すなわち、積層フィルムの熱破膜温度をより高めることができる。これらの耐熱樹脂のうち、含窒素芳香族重合体を用いる場合には、その分子内の極性によるためか、電解液との相性、すなわち、耐熱多孔層における保液性も向上する場合があり、非水電解質二次電池製造時における電解液の含浸の速度も高く、非水電解質二次電池の充放電容量もより高まる。
【0063】
かかる積層フィルムの熱破膜温度は、耐熱樹脂の種類に依存し、使用場面、使用目的に応じ、選択使用される。より具体的には、耐熱樹脂として、上記含窒素芳香族重合体を用いる場合は400℃程度に、また、ポリ−4−メチルペンテン−1を用いる場合は250℃程度に、環状オレフィン系重合体を用いる場合は300℃程度に、夫々、熱破膜温度をコントロールすることができる。また、耐熱多孔層が、無機粉末からなる場合には、熱破膜温度を、例えば、500℃以上にコントロールすることも可能である。
【0064】
上記パラアラミドは、パラ配向芳香族ジアミンとパラ配向芳香族ジカルボン酸ハライドの縮合重合により得られるものであり、アミド結合が芳香族環のパラ位またはそれに準じた配向位(例えば、4,4’−ビフェニレン、1,5−ナフタレン、2,6−ナフタレン等のような反対方向に同軸または平行に延びる配向位)で結合される繰り返し単位から実質的になるものである。具体的には、ポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)、ポリ(パラベンズアミド)、ポリ(4,4’−ベンズアニリドテレフタルアミド)、ポリ(パラフェニレン−4,4’−ビフェニレンジカルボン酸アミド)、ポリ(パラフェニレン−2,6−ナフタレンジカルボン酸アミド)、ポリ(2−クロロ−パラフェニレンテレフタルアミド)、パラフェニレンテレフタルアミド/2,6−ジクロロパラフェニレンテレフタルアミド共重合体等のパラ配向型またはパラ配向型に準じた構造を有するパラアラミドが例示される。
【0065】
前記の芳香族ポリイミドとしては、芳香族の二酸無水物とジアミンの縮重合で製造される全芳香族ポリイミドが好ましい。該二酸無水物の具体例としては、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’−ビス(3,4―ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物などがあげられる。該ジアミンの具体例としては、オキシジアニリン、パラフェニレンジアミン、ベンゾフェノンジアミン、3,3’−メチレンジアニリン、3,3’−ジアミノベンソフェノン、3,3’−ジアミノジフェニルスルフォン、1,5’−ナフタレンジアミンなどがあげられる。また、溶媒に可溶なポリイミドが好適に使用できる。このようなポリイミドとしては、例えば、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物と、芳香族ジアミンとの重縮合物のポリイミドが挙げられる。
【0066】
前記の芳香族ポリアミドイミドとしては、芳香族ジカルボン酸および芳香族ジイソシアネートを用いてこれらの縮合重合から得られるもの、芳香族二酸無水物および芳香族ジイソシアネートを用いてこれらの縮合重合から得られるものが挙げられる。芳香族ジカルボン酸の具体例としてはイソフタル酸、テレフタル酸などが挙げられる。また芳香族二酸無水物の具体例としては無水トリメリット酸などが挙げられる。芳香族ジイソシアネートの具体例としては、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、オルソトリランジイソシアネート、m−キシレンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0067】
また、イオン透過性をより高める意味で、耐熱多孔層の厚みは、1μm以上10μm以下、さらには1μm以上5μm以下、特に1μm以上4μm以下という薄い耐熱多孔層であることが好ましい。また、耐熱多孔層は微細孔を有し、その孔のサイズ(直径)は通常3μm以下、好ましくは1μm以下である。また、耐熱多孔層が、耐熱樹脂を含有する場合には、さらに、耐熱多孔層は、後述のフィラーを含有することもできる。
【0068】
前記積層フィルムにおいて、多孔質フィルムは、微細孔を有し、シャットダウン機能を有することが好ましい。この場合、多孔質フィルムは、熱可塑性樹脂を含有する。多孔質フィルムにおける微細孔のサイズは通常3μm以下、好ましくは1μm以下である。多孔質フィルムの空孔率は、通常30〜80体積%、好ましくは40〜70体積%である。非水電解質二次電池において、通常の使用温度を越えた場合には、熱可塑性樹脂を含有する多孔質フィルムは、それを構成する熱可塑性樹脂の軟化により、微細孔を閉塞することができる。
【0069】
前記熱可塑性樹脂は、非水電解質二次電池における電解液に溶解しないものを選択すればよい。具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、熱可塑性ポリウレタン樹脂を挙げることができ、これらの2種以上の混合物を用いてもよい。より低温で軟化してシャットダウンさせる意味で、ポリエチレンを含有することが好ましい。ポリエチレンとして、具体的には、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状ポリエチレン等のポリエチレンを挙げることができ、分子量が100万以上の超高分子量ポリエチレンを挙げることもできる。多孔質フィルムの突刺し強度をより高める意味では、該フィルムを構成する熱可塑性樹脂は、少なくとも超高分子量ポリエチレンを含有することが好ましい。また、多孔質フィルムの製造面において、熱可塑性樹脂は、低分子量(重量平均分子量1万以下)のポリオレフィンからなるワックスを含有することが好ましい場合もある。
【0070】
また、積層フィルムにおける多孔質フィルムの厚みは、通常、3〜30μmであり、さらに好ましくは3〜25μmである。また、本発明において、積層フィルムの厚みとしては、通常40μm以下、好ましくは、20μm以下である。また、耐熱多孔層の厚みをA(μm)、多孔質フィルムの厚みをB(μm)としたときには、A/Bの値が、0.1以上1以下であることが好ましい。
【0071】
また、耐熱多孔層が、耐熱樹脂を含有する場合には、耐熱多孔層は、1種以上のフィラーを含有していてもよい。フィラーは、その材質として、有機粉末、無機粉末またはこれらの混合物のいずれから選ばれるものであってもよい。フィラーを構成する粒子は、その平均粒子径が、0.01μm以上1μm以下であることが好ましい。
【0072】
前記有機粉末としては、例えば、スチレン、ビニルケトン、アクリロニトリル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレート、アクリル酸メチル等の単独あるいは2種類以上の共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、4フッ化エチレン−6フッ化プロピレン共重合体、4フッ化エチレン−エチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライド等のフッ素系樹脂;メラミン樹脂;尿素樹脂;ポリオレフィン;ポリメタクリレート等の有機物からなる粉末が挙げられる。該有機粉末は、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いることもできる。これらの有機粉末の中でも、化学的安定性の点で、ポリテトラフルオロエチレン粉末が好ましい。
【0073】
前記無機粉末としては、例えば、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属水酸化物、炭酸塩、硫酸塩等の無機物からなる粉末が挙げられ、これらの中でも、導電性の低い無機物からなる粉末が好ましく用いられる。具体的に例示すると、アルミナ、シリカ、二酸化チタン、または炭酸カルシウム等からなる粉末が挙げられる。該無機粉末は、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いることもできる。これらの無機粉末の中でも、化学的安定性の点で、アルミナ粉末が好ましい。ここで、フィラーを構成する粒子のすべてがアルミナ粒子であることがより好ましく、さらにより好ましいのは、フィラーを構成する粒子のすべてがアルミナ粒子であり、その一部または全部が略球状のアルミナ粒子である実施形態である。因みに、耐熱多孔層が、無機粉末から形成される場合には、上記例示の無機粉末を用いればよく、必要に応じてバインダーと混ぜて用いればよい。
【0074】
耐熱多孔層が耐熱樹脂を含有する場合のフィラーの含有量としては、フィラーの材質の比重にもよるが、例えば、フィラーを構成する粒子のすべてがアルミナ粒子である場合には、耐熱多孔層の総重量を100としたとき、フィラーの重量は、通常5以上95以下であり、20以上95以下であることが好ましく、より好ましくは30以上90以下である。これらの範囲は、フィラーの材質の比重により、適宜設定できる。
【0075】
フィラーの形状については、略球状、板状、柱状、針状、ウィスカー状、繊維状等が挙げられ、いずれの粒子も用いることができるが、均一な孔を形成しやすいことから、略球状粒子であることが好ましい。略球状粒子としては、粒子のアスペクト比(粒子の長径/粒子の短径)が1以上1.5以下の範囲の値である粒子が挙げられる。粒子のアスペクト比は、電子顕微鏡写真により測定することができる。
【0076】
本発明において、セパレータは、イオン透過性との観点から、ガーレー法による透気度において、透気度が50〜300秒/100ccであることが好ましく、50〜200秒/100ccであることがさらに好ましい。また、セパレータの空孔率は、通常30〜80体積%、好ましくは40〜70体積%である。セパレータは空孔率の異なるセパレータを積層したものであってもよい。
【0077】
二次電池において、電解液は、通常、電解質を含有する有機溶媒からなる。電解質としては、LiClO4、LiPF6、LiAsF6、LiSbF6、LIBF4、LiCF3SO3、LiN(SO2CF32、LiN(SO2252、LiN(SO2CF3)(COCF3)、Li(C49SO3)、LiC(SO2CF33、Li210Cl10、LiBOB(ここで、BOBは、bis(oxalato)borateのことである。)、低級脂肪族カルボン酸リチウム塩、LiAlCl4などのリチウム塩が挙げられ、これらの2種以上の混合物を使用してもよい。リチウム塩として、通常、これらの中でもフッ素を含むLiPF6、LiAsF6、LiSbF6、LiBF4、LiCF3SO3、LiN(SO2CF32およびLiC(SO2CF33からなる群から選ばれた少なくとも1種を含むものを用いる。
【0078】
また前記電解液において、有機溶媒としては、例えばプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、4−トリフルオロメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、1,2−ジ(メトキシカルボニルオキシ)エタンなどのカーボネート類;1,2−ジメトキシエタン、1,3−ジメトキシプロパン、ペンタフルオロプロピルメチルエーテル、2,2,3,3−テトラフルオロプロピルジフルオロメチルエーテル、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランなどのエーテル類;ギ酸メチル、酢酸メチル、γ−ブチロラクトンなどのエステル類;アセトニトリル、ブチロニトリルなどのニトリル類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどのアミド類;3−メチル−2−オキサゾリドンなどのカーバメート類;スルホラン、ジメチルスルホキシド、1,3−プロパンサルトンなどの含硫黄化合物、または上記の有機溶媒にさらにフッ素置換基を導入したものを用いることができるが、通常はこれらのうちの二種以上を混合して用いる。中でもカーボネート類を含む混合溶媒が好ましく、環状カーボネートと非環状カーボネート、または環状カーボネートとエーテル類の混合溶媒がさらに好ましい。環状カーボネートと非環状カーボネートの混合溶媒としては、動作温度範囲が広く、負荷特性に優れ、かつ負極の活物質として天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛材料を用いた場合でも難分解性であるという点で、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネートおよびエチルメチルカーボネートを含む混合溶媒が好ましい。また、特に優れた安全性向上効果が得られる点で、LiPF6等のフッ素を含むリチウム塩およびフッ素置換基を有する有機溶媒を含む電解液を用いることが好ましい。ペンタフルオロプロピルメチルエーテル、2,2,3,3−テトラフルオロプロピルジフルオロメチルエーテル等のフッ素置換基を有するエーテル類とジメチルカーボネートとを含む混合溶媒は、大電流放電特性にも優れており、さらに好ましい。
【0079】
上記の電解液の代わりに固体電解質を用いてもよい。固体電解質としては、例えばポリエチレンオキサイド系の高分子化合物、ポリオルガノシロキサン鎖もしくはポリオキシアルキレン鎖の少なくとも一種以上を含む高分子化合物などの有機系高分子電解質を用いることができる。また、高分子化合物に非水電解質溶液を保持させた、いわゆるゲルタイプのものを用いることもできる。またLi2S−SiS2、Li2S−GeS2、Li2S−P25、Li2S−B23、Li2S−SiS2−Li3PO4、Li2S−SiS2−Li2SO4などの硫化物を含む無機系固体電解質を用いてもよい。これら固体電解質を用いて、安全性をより高めることができることがある。また、本発明の非水電解質二次電池において、固体電解質を用いる場合には、固体電解質がセパレータの役割を果たす場合もあり、その場合には、セパレータを必要としないこともある。
【実施例】
【0080】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。なお、特に断らない限り、各粉末における粒度分布測定、BET比表面積の測定など各種評価は下記の方法により行った。
【0081】
(1)正極活物質粉末の平均粒径測定
正極活物質粉末について、レーザー回折式粒度分布測定装置(型式:マスターサイザー2000、マルバーン社製)を用いて、D50(μm)を測定し、この値を平均粒径とした。
(2)導電粉末(非黒鉛炭素粉末)の平均粒径測定
導電粉末について、レーザー回折式粒度分布測定装置(型式:マスターサイザー2000、マルバーン社製)を用いて、D50(μm)を測定し、この値を平均粒径とした。
(3)黒鉛粉末の平均粒径測定
黒鉛粉末について、レーザー回折式粒度分布測定装置(型式:マスターサイザー2000、マルバーン社製)を用いて、D50(μm)を測定し、この値を平均粒径とした。
【0082】
(4)正極活物質粉末及び黒鉛粉末のBET比表面積の測定
粉末1gを窒素気流中150℃、15分間乾燥した後、マイクロメトリックス製フローソーブII2300を用いて測定した。
【0083】
(5)正極活物質粉末の粉末X線回折測定
正極活物質粉末の粉末X線回折測定は株式会社リガク製RINT2500TTR型を用いて行った。測定は、粉末を専用の基板に充填し、CuKα線源を用いて、回折角2θ=10°〜90°の範囲にて行い、粉末X線回折図形を得た。
【0084】
実施例1
正極活物質粉末(Li1.3(Ni0.41Mn0.49Fe0.10)Oで表されるリチウム複合金属酸化物、α−NaFeO2型結晶構造)として、平均粒径が0.2μmのものを用いた。
導電粉末として、平均粒径が0.05μmの非黒鉛炭素粉末(アセチレンブラック、電気化学工業株式会社製、商品名デンカブラックHS100)を用いた。
黒鉛粉末として、平均粒径が3μmのものを用いた。
バインダーとして、PVdFを用いた。
第1の溶媒として、NMPを用いた。
第2の溶媒として、NMPを用いた。
集電体(正極集電体)として、厚さ20μmのAl箔を用いた。
【0085】
正極活物質粉末、導電粉末および第1の溶媒を用いて、正極活物質粉末、導電粉末および第1の溶媒が、それぞれ重量比で、100:12.5:450となるように秤量し、超音波分散機を用いて、20kHzの超音波を与えながら、まず、導電粉末と第1の溶媒とを予備混合した。さらに、超音波を与えながら、正極活物質粉末を添加、混合することにより、正極活物質粉末と、導電粉末と、第1の溶媒とを混合した。混合後、加熱装置内に入れ、60℃で第1の溶媒を除去して、導電性正極活物質粉末を得た。
【0086】
上記のバインダー3重量部に対して、第2の溶媒55重量部を混合して、バインダー溶液(PVdF/NMP)を作成した。導電性正極活物質粉末および非黒鉛炭素粉末が、それぞれ重量比で、100:5.6となるように秤量し、これらとバインダー溶液を用いて、ディスパーマット(VMA-GETZMANN GMBH製、商品名DISPERMAT CN10F2)により、混合・混練して、さらに、粘度が2000〜3000cP(せん断速度13s−1)となるようにNMPを適量添加して、正極合剤を得た。なお、このときPVdFの重量比は、導電性正極活物質粉末および非黒鉛炭素粉末の合計105.6重量部に対し、5.6重量部となるようにした。
【0087】
リバースコーター(ヒラノテクシード株式会社製、商品名TM-MC)により、前記正極集電体である厚さ20μmのAl箔の両面に、得られた正極合剤を塗布した。塗布した後、60℃で12時間真空乾燥を行うことにより、第2の溶媒を除去し、ロールプレス機を用いて塗布層の圧密化を行い、正極を得た。また、この正極に、Al箔を超音波溶接機にて溶接し、これを電極リード線とした。
【0088】
次に、負極活物質として、天然黒鉛および人造黒鉛を用い、バインダーとしてCMCを用いて、天然黒鉛:人造黒鉛:バインダーの重量比が、58.8:39.2:2の割合になりように秤量し、溶媒である水中で混合・混練して、負極合剤を得た。混合・混練には、ディスパーマット(VMA-GETZMANN GMBH製、商品名DISPERMAT CN10F2)を用いた。混合・混練の際には、粘度が1600〜2600cP(せん断速度13s−1)になるように水を適量添加した。この負極合剤を用いて、正極と同様にして、リバースコーター(ヒラノテクシード株式会社製、商品名TM-MC)により、厚さ12μmの銅箔(負極集電体)上に、負極合剤を塗布した。塗布した後、60℃で12時間真空乾燥を行うことにより、溶媒を除去し、ロールプレス機を用いて塗布層の圧密化を行い、負極を得た。この負極に、Ni箔を超音波溶接機にて溶接し、これを電極リード線とした。
【0089】
次に、セパレータとして、後述の製造例1により得られる積層フィルムを用いて、正極/セパレータ/負極/セパレータとなるように積層して、巻回して、電極群を得た。電極群を10μmの厚さのフィルムからなる電池ケース(Alラミネートパック)内に挿入した。
【0090】
電解液としては、エチレンカーボネート(以下、ECということがある。)とジメチルカーボネート(以下、DMCということがある。)とエチルメチルカーボネート(以下、EMCということがある。)との16:10:74(体積比)混合有機溶媒に、電解質であるLiPF6を1.3モル/リットルとなるように溶解したもの(以下、LiPF6/EC+DMC+EMCと表すことがある。)を用いて、前記の電極群挿入後の電池ケース内、前記電解液を注液し、真空ラミネートシールをすることによって、実施例1の非水電解質二次電池を作製した。
【0091】
比較例1
正極活物質粉末、非黒鉛炭素粉末、バインダー溶液(PVdF/NMP)を用いて、正極活物質粉末、非黒鉛炭素粉末およびバインダー溶液が、それぞれ重量比で80:15:97(正極活物質粉末:非黒鉛炭素粉末:PVdFの重量比では、80:15:5)となるように秤量し、ディスパーマット(VMA-GETZMANN GMBH製、商品名DISPERMAT CN10F2)により、混合・混練して、さらに、粘度が2000〜3000cP(せん断速度13s−1)となるようにNMPを適量添加して、正極合剤を得て、実施例1と同様にして正極、非水電解質二次電池を作製した。
【0092】
(非水電解質二次電池の評価)
非水電解質二次電池を用いて、25℃保持下、以下に示す条件で放電レート試験を実施した。放電レート試験は、放電時の放電電流を変えて放電容量を測定し、以下に従い、放電容量維持率を計算した。
<放電レート試験>
充電最大電圧4.2V、充電時間4時間(1C)
放電時は放電最小電圧を2.5Vで一定とし、各サイクルにおける放電電流を下記のように変えて放電を行った。10C、20Cにおける放電(高い電流レート)による放電容量が高ければ高いほど、高い電流レートにおいて高出力を示すことを意味する。
1、2サイクル目の放電:0.2C
3サイクル目の放電:1C
4サイクル目の放電:5C
5サイクル目の放電:10C
6サイクル目の放電:20C
<放電容量維持率>
放電容量維持率(%)=各サイクル(各放電レート)における放電容量/2サイクル目(0.2Cレート)の放電容量×100
【0093】
実施例1の非水電解質二次電池を用いて、上記評価により、放電容量維持率を計算した結果、1Cの放電容量維持率は88%、5Cの放電容量維持率は69%、10Cの放電容量維持率は60%、20Cの放電容量維持率は30%であり、比較例1の非水電解質二次電池に比して、極めて高い値を得た。
【0094】
比較例1の非水電解質二次電池を用いて、上記評価により、放電容量維持率を計算した結果、1Cの放電容量維持率は82%、5Cの放電容量維持率は57%、10Cの放電容量維持率は23%、20Cの放電容量維持率は7%であり、低い値であった。
【0095】
製造例1(積層フィルムの製造)
(1)塗工液の製造
NMP4200gに塩化カルシウム272.7gを溶解した後、パラフェニレンジアミン132.9gを添加して完全に溶解させた。得られた溶液に、テレフタル酸ジクロライド243.3gを徐々に添加して重合し、パラアラミドを得て、さらにNMPで希釈して、濃度2.0重量%のパラアラミド溶液(A)を得た。得られたパラアラミド溶液100gに、アルミナ粉末(a)2g(日本アエロジル社製、アルミナC、平均粒子径0.02μm)とアルミナ粉末(b)2g(住友化学株式会社製スミコランダム、AA03、平均粒子径0.3μm)とをフィラーとして計4g添加して混合し、ナノマイザーで3回処理し、さらに1000メッシュの金網で濾過、減圧下で脱泡して、スラリー状塗工液(B)を製造した。パラアラミドおよびアルミナ粉末の合計重量に対するアルミナ粉末(フィラー)の重量は、67重量%となる。
【0096】
(2)積層フィルムの製造および評価
多孔質フィルムとしては、ポリエチレン製多孔質膜(膜厚13μm、透気度140秒/100cc、平均孔径0.1μm、空孔率50%)を用いた。厚み100μmのPETフィルムの上に上記ポリエチレン製多孔質膜を固定し、テスター産業株式会社製バーコーターにより、該多孔質膜の上にスラリー状塗工液(B)を塗工した。PETフィルム上の塗工された該多孔質膜を一体にしたまま、貧溶媒である水中に浸漬させ、パラアラミド多孔質膜(耐熱多孔層)を析出させた後、溶媒を乾燥させて、耐熱多孔層と多孔質フィルムとが積層された積層フィルム1を得た。積層フィルム1の厚みは17μmであり、パラアラミド多孔質膜(耐熱多孔層)の厚みは4μmであった。積層フィルム1の透気度は180秒/100cc、空孔率は50%であった。積層フィルム1における耐熱多孔層の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察をしたところ、0.03μm〜0.06μm程度の比較的小さな微細孔と0.1μm〜1μm程度の比較的大きな微細孔とを有することがわかった。尚、積層フィルムの評価は以下の方法で行った。
【0097】
<積層フィルムの評価>
(A)厚み測定
積層フィルムの厚み、多孔質フィルムの厚みは、JIS規格(K7130−1992)に従い、測定した。また、耐熱多孔層の厚みとしては、積層フィルムの厚みから多孔質フィルムの厚みを差し引いた値を用いた。
(B)ガーレー法による透気度の測定
積層フィルムの透気度は、JIS P8117に基づいて、株式会社安田精機製作所製のデジタルタイマー式ガーレー式デンソメータで測定した。
(C)空孔率
得られた積層フィルムのサンプルを一辺の長さ10cmの正方形に切り取り、重量W(g)と厚みD(cm)を測定した。サンプル中のそれぞれの層の重量(Wi(g))を求め、Wiとそれぞれの層の材質の真比重(真比重i(g/cm3))とから、それぞれの層の体積を求めて、次式より空孔率(体積%)を求めた。
空孔率(体積%)=100×{1−(W1/真比重1+W2/真比重2+・・+Wn/真比重n)/(10×10×D)}

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径が0.05μm以上1μm以下の正極活物質粉末と、導電粉末と、第1の溶媒とを混合し、第1の溶媒を除去することを特徴とする導電性正極活物質粉末の製造方法。
【請求項2】
導電粉末が非黒鉛炭素粉末である請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
導電粉末を構成する粒子の平均粒径が、0.01μm以上0.1μm以下である請求項1または2記載の製造方法。
【請求項4】
正極活物質粉末100重量部に対する導電粉末の混合割合が2重量部以上50重量部以下である請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記混合時の正極活物質粉末、導電粉末および第1の溶媒の合計重量に対する正極活物質粉末および導電粉末の合計重量が、5重量%以上30重量%以下である請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
正極活物質粉末が、NiおよびMnを含有するリチウム複合金属酸化物である請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
リチウム複合金属酸化物が、以下の式(A)で表される請求項6記載の製造方法。
Liα(Ni1-x-y-zMnxFeyCoz)O2 (A)
(ここで、0<x<1、0≦y<1、0≦z<1、0<x+y+z<1、0.5≦α≦1.5である。)
【請求項8】
混合時に超音波を与える請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の製造方法により得られる導電性正極活物質粉末。
【請求項10】
請求項9記載の導電性正極活物質粉末とバインダーと第2の溶媒とを混合することを特徴とする正極合剤の製造方法。
【請求項11】
黒鉛粉末および/または非黒鉛炭素粉末をさらに混合する請求項10記載の正極合剤の製造方法。
【請求項12】
請求項10または11に記載の製造方法により得られる正極合剤。
【請求項13】
請求項12記載の正極合剤を集電体に塗布して、第2の溶媒を除去して得られる正極。
【請求項14】
請求項13記載の正極と、負極と、電解質を有する非水電解質二次電池。
【請求項15】
さらにセパレータを有する請求項14記載の非水電解質二次電池。
【請求項16】
セパレータが、耐熱多孔層と多孔質フィルムとが積層されてなる積層フィルムからなるセパレータである請求項15記載の非水電解質二次電池。

【公開番号】特開2011−34866(P2011−34866A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−181341(P2009−181341)
【出願日】平成21年8月4日(2009.8.4)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】