説明

導電性炭化珪素質多孔体の製造方法

【課題】簡易な工程で、フィルタに適した大きさの気孔を形成できると共に、比抵抗値を広い範囲内の任意の値に、容易に調整することが可能な導電性炭化珪素質多孔体の製造方法を提供する。
【解決手段】製造方法は、窒化珪素粉末と平均粒子径10μm〜50μmの炭素質物質とからなり珪素と炭素のモル比が0.5〜1.5の炭化珪素生成原料、及び、骨材としての炭化珪素粉末を60質量%〜95質量%含む混合原料を成形する成形工程と、成形工程で得られた成形体を、窒素ガスの濃度が5体積%以上100体積%以下である非酸化性ガス雰囲気下で、2000℃〜2350℃の温度で一度のみ焼成する焼成工程とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自己発熱型フィルタの基体として適した導電性炭化珪素質多孔体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素は、熱伝導率が高いことに加えて熱膨張率が小さいことから、耐熱衝撃性に優れる。そのため、炭化珪素質セラミックスの多孔体は、高温下で使用されるフィルタの基体として用いられると共に、通電により発熱させる自己発熱型のフィルタ基体としても用いられている。例えば、ディーゼルエンジンから排出されるガスに含まれる粒子状物質を捕集除去するディーゼルパティキュレートフィルタ(以下、「DPF」と称することがある)では、捕集された粒子状物質がある程度堆積した時点で、粒子状物質を燃焼させる再生処理が行われる。その際、通電によりフィルタ基体を自己発熱させて、粒子状物質を燃焼・除去すれば、外部加熱により粒子状物質を燃焼させる場合とは異なり、バーナーやヒーター等の加熱装置が不要となる。また、外部加熱の場合は、局所的な加熱によりフィルタ基体が溶損するおそれや、大きな温度勾配によってフィルタ基体に亀裂や割れが発生するおそれがあるところ、自己発熱型のフィルタ基体の場合は、そのようなおそれが少ないという利点も有している。
【0003】
ここで、高純度の炭化珪素は電気抵抗が高く絶縁体に近いが、微量の不純物を添加することにより半導体とする方法が公知である。また、炭化珪素を除く炭化物、窒化物、ホウ化物、酸化物から選ばれる少なくとも一種の添加剤を、炭化珪素に添加することにより、導電性を有すると共に粒子状物質の捕集に適した気孔を有するDPFを製造する「排気ガスフィルタの製造方法」が提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
一方、本出願人は、骨材としての炭化珪素粉末に、炭化珪素を反応生成させる珪素源としての窒化珪素粉末と、炭素源としての炭素質物質の混合粉末とを加え、成形し焼成することにより、導電性が高められた炭化珪素質多孔体を製造する方法を提案している(例えば、特許文献2参照)。この製造方法によれば、炭化珪素粉末の圧縮成形体を蒸発凝縮及び表面拡散機構によって焼結させる場合に比べて、低温で焼結させることができる。また、特許文献2の技術では、反応生成させる炭化珪素の炭素源としての炭素質物質に加えて、ハニカム構造体の隔壁の壁厚の20〜50%に相当する粒度の黒鉛粉末を、造孔剤として添加することにより、フィルタとして適した大きさの気孔を安定的に形成することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の技術では、窒化アルミニウム、窒化チタン、二ホウ化チタンなどの添加剤を、炭化珪素100重量部に対して5〜15重量部と多量に添加しており、これらの添加材によってフィルタ基体の耐酸化性が低下するおそれがあった。また、特許文献1の技術では、原料の炭化珪素粉末と添加剤とを水で混練するために、予め撥水性を有する樹脂で添加剤を被覆しておく工程が必要であり、製造工程が複雑で手間がかかるという問題があった。
【0006】
これに対し、特許文献2の技術は、導電性付与物質を添加剤として加える必要なく、炭化珪素の導電性を高めることができるという利点を有する。ところが、特許文献2の技術は、珪素源と炭素源とを反応させて炭化珪素を生成させるために非酸化性ガス雰囲気下で行われる一次焼成工程、造孔剤である黒鉛を除去して気孔を形成させるために酸化性ガス雰囲気下で行われる脱炭工程、更に、一次焼成工程で生成した炭化珪素の微細な粒子を成長させると共に粒子間のネックを成長させて機械的強度を高めるために、非酸化性ガス雰囲気下で二次焼成工程を行うものであった。そのため、製造工程が複雑で手間がかかると共に、昇温と降温の繰り返しにより電気炉設備の傷みが早く、電気代等のコストが嵩むなど、改善の余地のあるものであった。
【0007】
加えて、特許文献1により製造された炭化珪素質多孔体の比抵抗値は10−2〜1Ω・cmと小さく、応用範囲が限定されると考えられた。一方、特許文献2で製造された炭化珪素質多孔体の比抵抗は、0.1〜10Ω・cmと特許文献1より大きな値であるが、実際には、より大きな値まで広い範囲で比抵抗を調整できることが必要である。これは、取付け対象の車体の大きさや構造によってDPFのサイズが規定されることにより、求められるフィルタ基体のサイズが極めて多種類となるためであり、これに伴い、再生処理の際に所定時間内で所定温度まで昇温させるために必要とされる比抵抗値も、多様となる。そのため、比抵抗値をより広い範囲内で、任意の値に、容易に調整できる製造方法が要請されていた。
【0008】
そこで、本発明は、上記の実情に鑑み、簡易な工程で、フィルタに適した大きさの気孔を形成できると共に、比抵抗値を広い範囲内の任意の値に、容易に調整することが可能な導電性炭化珪素質多孔体の製造方法の提供を、課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明にかかる導電性炭化珪素質多孔体の製造方法は、「窒化珪素粉末と平均粒子径10μm〜50μmの炭素質物質とからなり珪素と炭素のモル比が0.5〜1.5の炭化珪素生成原料、及び、骨材としての炭化珪素粉末を60質量%〜95質量%含む混合原料を成形する成形工程と、該成形工程で得られた成形体を、窒素ガスの濃度が5体積%以上100体積%以下である非酸化性ガス雰囲気下で、2000℃〜2350℃の温度で一度のみ焼成する焼成工程とを」具備している。
【0010】
なお、本発明における「導電性炭化珪素質多孔体」は、「導電性を有する、多孔質の炭化珪素質セラミックスの焼結体」と同意である。また、「炭化珪素質」は、炭化珪素を主成分とするという意味で用いているが、上記構成の本発明により製造される炭化珪素質多孔体は、窒素が固溶した炭化珪素を含有する。
【0011】
焼成工程で反応生成させる炭化珪素の珪素源は「窒化珪素粉末」であり、炭素源は「炭素質物質」である。従って、化学量論的には珪素及び炭素のモル比(Si/C)が1のときに過不足なく炭化珪素が生成する。ここで、Si/Cが0.5より小さいと、残存する炭素分が多すぎ、粗大気孔の原因となると共に生成した炭化珪素の粒子成長が阻害される。一方、Si/Cが1.5より大きい場合は、炭化珪素の反応生成量が少なく、反応焼結が不十分となる。なお、Si/Cは0.8〜1.2であれば、珪素及び炭素の過剰分または不足分が少なく、より望ましい。
【0012】
「平均粒子径10μm〜50μmの炭素質物質」としては、黒鉛、石炭、コークス、木炭などを使用可能であるが、純度の高い黒鉛が望ましい。黒鉛としては、鱗片状、粒状、塊状、不定形、球状等の種々の粒子形状の天然または合成の黒鉛を使用することができる。ここで、炭素質物質の平均粒子径が10μmより小である場合は形成される気孔が小さ過ぎ、逆に平均粒子径が50μmより大である場合は形成される気孔が大き過ぎ、ともにフィルタの基体として適さないものとなる。なお、上記のように炭素質物質の形状は球状に限らないが、「平均粒子径」は回折散乱径(直径)として求めることができる。
【0013】
骨材としての炭化珪素粉末が少ない場合は、製造される導電性炭化珪素質多孔体の強度が低いものとなり易く、多い場合は焼結が不十分となるおそれがあるところ、本発明では、成形される混合原料に対する炭化珪素粉末の割合を60〜95質量%とすることにより、後述のように、炭化珪素の粒子が相互に強固に焼結しており、実用的な強度を有している焼結体を得ることができる。
【0014】
「成形工程」における成形方法は特に限定されず、例えば、押出成形、乾式加圧成形、鋳込成形とすることができる。
【0015】
「焼成工程」における「窒素ガスの濃度が5体積%以上100体積%以下である非酸化性ガス雰囲気」は、窒素ガスと、アルゴンやヘリウム等の不活性ガスとの混合ガス雰囲気とすることができるが、窒素ガスの濃度が100体積%の場合は、もちろん窒素ガス雰囲気である。
【0016】
「焼成工程」の温度が低いと焼結が不十分となって、十分な機械的強度の焼結体が得られないが、本発明では雰囲気中に窒素ガスを含むため、温度が2000℃より低い場合は焼結性が低下する。一方、焼成温度が2350℃を超えると、生成した炭化珪素が昇華するおそれがある。そのため、本発明の焼成温度を2000〜2350℃としており、2100℃〜2300℃であれば、過度に加熱することなく3〜5時間程度の短時間で十分に焼結させることができるため、より望ましい。
【0017】
本発明者らは、非酸化性ガス雰囲気における窒素ガスの濃度を5体積%以上100体積%以下の範囲内で調整することにより、自己発熱型のフィルタ基体として実用的な比抵抗値を有する炭化珪素質多孔体を製造できること、及び、比抵抗値を実用的な広い範囲内で、任意の値に調整できることを見出した。ここで、炭化珪素質多孔体の比抵抗値を調整するために、成形工程の前に原料粉末を調製する段階で、添加剤の種類や添加量を調整するという製造方法も想定し得る。しかしながら、このような製造方法では、多種類の比抵抗値を有する導電性炭化珪素質多孔体が求められるのに応じて、多種類の原料を調製しなくてはならず、多大な労力を要すると共に経済性にも劣る。これに対して、本発明によれば、同一組成の原料を用いて成形体を作製し、焼成する際のガス雰囲気を調整するのみの極めて簡易な方法で、導電性炭化珪素質多孔体の比抵抗値を、広い範囲内の任意の値に調整することができる。
【0018】
非酸化性ガス雰囲気における窒素ガス濃度を変化させることによって、炭化珪素質多孔体の比抵抗を簡易に調整できる理由については、次のように考えられる。窒素ガスを含む雰囲気下で炭化珪素を焼結すると、炭化珪素に不純物として窒素がドープされ、n型半導体となる。ここで、本発明では、焼結工程において、珪素源と炭素源とから炭化珪素を反応生成(反応焼結)させている。その結果、骨材としての炭化珪素の周りに新たに生成される炭化珪素、及び、炭化珪素の粒子間に形成され成長するネック部分に、雰囲気中の窒素が取り込まれやすい。そして、セラミックス焼結体においては、粒界部分の導電性が高められれば、焼結体全体の導電性が高められると考えられる。従って、本発明の製造方法では、焼結工程のガス雰囲気における窒素ガス濃度が、焼結体の比抵抗値に敏感に反映し、窒素ガス濃度によって比抵抗を簡易に調整できるものと考えられた。
【0019】
加えて、本発明では、炭化珪素を生成させる珪素源として窒化珪素を用いているため、窒化珪素の分解により生じた窒素も、炭化珪素内にドープされる。即ち、反応焼結の珪素源としての窒化珪素から、不純物としてドープされる窒素が供給されている上で、更に、ガス雰囲気からも窒素が供給されるため、ガス雰囲気における窒素ガス濃度による比抵抗値の調整が、容易なものとなっていると考えられる。
【0020】
また、従来、珪素源と炭素源とから炭化珪素を反応焼結させる場合、炭素源として微細な粒子を用いた方が珪素源と反応しやすい、というのが当業者の常識であった。そのため、本出願人も上記の特許文献2において、炭素源として微細なカーボンブラック(平均粒子径約80nm)を使用して、炭化珪素を反応生成させる方法を提案している。これに対し、本発明では、従来の常識に反し、平均粒子径が10〜50μmの粒径の大きな炭素質物質を炭素源として用いている。これにより、炭素源が微細な粒子である場合に比べて、炭化珪素の生成反応の開始は遅くなるものの、生成した炭化珪素がネック形成できるほどに粒子成長するのが早く、強固なネックを早期に形成させることができる。
【0021】
従って、従来では炭化珪素を反応生成させるための一次焼成と、生成した炭化珪素を粒子成長させネックを成長させる二次焼成という二つの焼成工程が必要であったところ、本発明によれば、一度の焼成工程で炭化珪素を生成させると共に粒子間に強固なネックを形成させ、高強度の焼結体を得ることができる。ここで、従来のように焼成工程を複数回行う場合は、それぞれに昇温過程と降温過程があるため全工程には長時間を要する。また、加熱する総時間が長くなることに加えて、昇温と降温の繰り返し回数が多くなるため、電気炉設備の傷みも早く、電気代等の経費も嵩む。これに対し、本発明では焼成工程は一度で足りるため、上述の従来の問題が大幅に軽減され、少ない工程で簡易に、炭化珪素質多孔体を製造することができる。
【0022】
加えて、本発明では、焼結工程において“珪素源と炭素源からの炭化珪素の生成”、“炭素源である10〜50μmの炭素質物質の消失による気孔の形成”、及び、“炭化珪素への窒素のドープによる導電性の付与”が、同時に行われる。これにより、極めて簡易な工程で効率よく、導電性炭化珪素質多孔体を製造することができる。そして、焼結工程で生成する炭化珪素は、炭素質物質の消失により形成された気孔を多く含む多孔質体であるため、窒素ガスを含むガス雰囲気下で行われる焼結工程において、反応生成した炭化珪素と窒素ガスとの接触面積が極めて大きい。これにより、窒素ガスから炭化珪素に窒素が固溶し易く、ガス雰囲気における窒素ガス濃度によって比抵抗を調整し易いと考えられる。
【0023】
また、本発明では、炭素質物質が炭化珪素を反応生成させる炭素源であると同時に、気孔を形成させる造孔剤を兼ねている。そのため、簡易な組成の原料を使用して、炭化珪素を反応生成させるのと同時に、反応に使用された炭素質物質の跡に、フィルタに適した大きさの気孔を形成することができる。なお、未反応の炭素質物質が残留するおそれがある場合は、焼成工程の後に酸化性ガス雰囲気下で脱炭工程を行っても良い。その場合、焼成工程において炭素質物質の消失跡に形成される気孔に加えて、脱炭工程においても炭素質物質が燃焼した跡に気孔が形成される。
【0024】
本発明にかかる炭化珪素質多孔体の製造方法は、「前記成形体は、単一の方向に延びて列設された複数の隔壁により区画された複数のセルを備えるハニカム構造に成形され、前記焼成工程を経て得られたハニカム構造の焼結体の複数を接着剤で接合する接合工程と、該接合工程後に酸化性ガス雰囲気で行われ、残留する炭素質物質を燃焼させると共に接着剤を加熱硬化させる脱炭・接合部熱処理工程とを具備する」ものである。
【0025】
一般的に、ハニカム構造の焼結体を接合してDPFのフィルタ基体を製造する場合、接合に用いた接着剤を加熱硬化させ、接合を強固なものとする接合部熱処理工程が必要である。そのため、一次焼成と二次焼成との間で脱炭工程が行われる従来法では、脱炭工程と接合部熱処理工程とを兼ねて行うことは不可能であり、一次焼成、脱炭工程、二次焼成、接合部熱処理工程という四つの加熱工程が必要であった。これに対し、本発明では、焼成工程が一度のみ行われるものであるため、その後に酸化性ガス雰囲気下で行われる脱炭工程は、接合部熱処理工程を兼ねることができる。
【0026】
従って、本発明によれば、上述のように、“炭化珪素の反応生成(反応焼結)”、“炭素質物質の消失による気孔の形成”、及び、“炭化珪素への窒素のドープ”を単一の焼成工程で同時に行うことができることに加え、焼成工程が単一であるが故に、脱炭工程と接合部熱処理工程を同時に行うことが可能となる。これにより、加熱する工程としては、焼成工程と脱炭・接合部熱処理工程との二つのみ、という極めて簡易な工程で、DPFの自己発熱型フィルタ基体としての導電性炭化珪素質多孔体を製造することができる。
【0027】
なお、ハニカム構造の焼結体が複数接合された外周面に、更に被覆剤を塗布して被覆層を設けることもでき、その場合は、脱炭・接合部熱処理工程において、被覆剤の熱処理も同時に行うことができる。また、接着剤及び被覆剤としては、例えば、炭化珪素粉末、酸化珪素粉末、繊維質材料、水の混合物を使用することができる。
【発明の効果】
【0028】
以上のように、本発明の効果として、簡易な工程で、フィルタに適した大きさの気孔を形成できると共に、比抵抗値を広い範囲内の任意の値に、容易に調整することが可能な導電性炭化珪素質多孔体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の一実施形態の製造方法を従来法と対比した工程図である。
【図2】焼結時の非酸化性ガス雰囲気における窒素ガス濃度と焼結体の比抵抗値との関係を示すグラフである。
【図3】図2における比抵抗値が100Ω・cm以下の範囲を縦軸方向に拡大したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の一実施形態である導電性炭化珪素質多孔体の製造方法について説明する。本実施形態の導電性炭化珪素質多孔体の製造方法(以下、単に「製造方法」と称する)は、窒化珪素粉末と平均粒子径(直径)10〜50μmの炭素質物質とからなり珪素と炭素のモル比(Si/C)が0.5〜1.5の炭化珪素生成原料、及び、骨材としての炭化珪素粉末を60質量%〜95質量%含む混合原料を成形する成形工程P1と、成形体を窒素ガスの濃度が5体積%以上100体積%以下である非酸化性ガス雰囲気下で、2000〜2350℃の温度で一度のみ焼成する焼成工程P3とを具備している。ここで、炭素質物質の平均粒子径は、レーザー光回折散乱法により求めたものである。
【0031】
より詳細には、本実施形態の成形工程P1では、単一の方向に延びて列設された隔壁により区画された複数のセルを備えるハニカム構造の成形体を成形している。また、成形工程P1の後に、成形体を乾燥する乾燥工程P2を備えている。なお、ハニカム構造の成形体において、一方向に開放したセルと他方向に開放したセルとが交互となるようにセルの一端を封止する場合は、成形工程P1と乾燥工程P2との間、或いは乾燥工程P2の後に、封止工程を設けることができる。
【0032】
また、本実施形態では、焼成工程P3を経て得られたハニカム構造の焼結体の複数を接着剤で接合すると共に、外周を加工し、外周面に被覆剤を塗布して被覆層を形成する接合工程P4と、残留する未反応の炭素質物質を燃焼させると共に、接着剤及び被覆剤を加熱硬化させるために、酸化性ガス雰囲気下で行われる脱炭・接合部熱処理工程P5とを備えている。
【0033】
即ち、ハニカム構造の焼結体が複数接合されたDPFを製造する場合、従来(特許文献2参照)では、図1(b)に示すように、成形工程P11、乾燥工程P12、一次焼成工程P13、脱炭工程P14、二次焼成工程P15、接合工程P16、接合部熱処理工程P17が必要であったところ、本実施形態では図1(a)に示すように、成形工程P1、乾燥工程P2、焼成工程P3、接合工程P4、脱炭・接合部熱処理工程P5という少ない工程数で足りる。
【0034】
各工程を具体的に説明すると、成形工程P1では、窒化珪素粉末と炭素質物質とからなる炭化珪素生成原料、及び、骨材としての炭化珪素粉末の混合原料に、メチルセルロース等の有機バインダーや水等の添加剤を添加し、混合・混錬した混錬物を押出成形することにより、ハニカム構造の成形体を得ることができる。
【0035】
乾燥工程P2は、調温調湿槽内での送風乾燥、外部加熱乾燥、マイクロ波照射による内部加熱乾燥等により行うことができる。
【0036】
焼成工程P3では、加熱炉を窒素ガス濃度が所定値の非酸化性ガス雰囲気として、成形体に熱衝撃を与えない速度で昇温し、2000〜2350℃の所定の焼成温度で一定時間保持する。焼成時間は、成形体のサイズにもよるが、例えば、3〜5時間とすることができる。この焼成工程P3において、珪素源の窒化珪素と炭素源の炭素質物質とが反応して炭化珪素が生成し、骨材としての炭化珪素を取り囲むように反応焼結する。
【0037】
これと同時に、炭化珪素の生成反応に使用された炭素質物質の跡に、気孔が形成される。そして、更に、炭化珪素の粒子がネック形成できるほどに成長してネックが形成され、更に粒子間でネックが成長する。ここで、炭素質物質の平均粒子径は10〜50μmと大きく、炭素質物質の消失跡に大きな気孔が生じているため、炭化珪素の粒子成長及びネック成長によっても、生じた気孔が塞がることなく、フィルタの基体として適した大きさの気孔が形成される。
【0038】
また、焼成工程P3では、炭化珪素の反応焼結、及び気孔の形成と同時に、窒化珪素の分解により生じた窒素が炭化珪素中に固溶すると共に、非酸化性ガス雰囲気に含まれる窒素が炭化珪素中に固溶し、炭化珪素がn型半導体となる。このとき、窒素は、骨材としての炭化珪素より、反応焼結によりその周囲に新たに生成された炭化珪素、及び、炭化珪素の粒子間に成長するネック部分に、主に固溶すると考えられる。また、反応生成した炭化珪素は、炭素質物質の消失跡に気孔が形成された多孔質体であり表面積が大きいため、窒素ガスと炭化珪素との接触面積が大きく、窒素が炭化珪素に固溶し易い。なお、焼成温度で所定時間保持した後は、熱衝撃を与えない速度で降温する。
【0039】
脱炭・接合部熱処理工程では、酸化性ガス雰囲気の加熱炉で焼結体を熱衝撃を与えない速度で昇温し、650〜1200℃で1〜3時間保持した後、熱衝撃を与えない速度で降温する。この工程において、炭化珪素の生成反応に使用されずに残留した炭素質物質が燃焼し除去され、その跡に気孔が形成すると同時に、接着剤及び被覆剤が加熱硬化する。
【実施例】
【0040】
次に、具体的な実施例について説明する。表1に示す組成1,組成2,組成3,及び組成4の混合原料に、それぞれ有機バインダー及び水を添加し、混合・混練して得た混練物をそれぞれ押出成形し、サイズ36mm×36mm×高さ100mm、セル密度300cpsi、隔壁の壁厚12mil(約0.3mm)のハニカム構造の成形体を作製した。なお、本実施例では、反応焼結させる炭化珪素の炭素源である黒鉛として、平均粒子径25μmの鱗片状の黒鉛を使用している。また、骨材としての炭化珪素として、組成1及び組成4では、平均粒子径11μmの炭化珪素一種類を使用しているのに対し、組成2及び組成3では、平均粒子径11μm(粗粒)の炭化珪素と平均粒子径1μm(微粒)の炭化珪素との混合物を使用しており、骨材としての炭化珪素は組成2では計85質量%、組成3では95質量%である。
【0041】
【表1】

【0042】
得られた組成1〜組成4の成形体を乾燥させた後、表2に示すように、窒素ガス濃度(体積%)の異なる非酸化性ガス雰囲気下において、それぞれ約2300℃で4時間焼成することにより、組成1の成形体から8種類の焼結体を、組成2〜組成4の成形体からそれぞれ4種類の焼結体を得た。なお、窒素ガスの濃度が100体積%以外の場合は、非酸化性ガス雰囲気は窒素ガスとアルゴンガスとの混合ガス雰囲気とした。
【0043】
得られた各焼結体について、長軸方向の両端のそれぞれから10mmの位置に銀ペーストを焼き付けて電極とし、室温で60V印加したときの電圧値/電流値の初期値から比抵抗値を算出した。その結果を表2に併せて示す。
【0044】
【表2】

【0045】
組成1について窒素ガス濃度が3体積%の場合に得られた焼結体は、比抵抗値が1000Ω・cmを超えており、自己発熱型のフィルタ基体としては適さないものであった。一方、組成1〜組成4について窒素ガス濃度を5体積%〜100体積%の間で変化させた場合、比抵抗値は約1Ω・cmから約400Ω・cmの範囲であり、自己発熱型のフィルタ基体として実用的な値であった。これらの比抵抗値を窒素ガス濃度に対してグラフ化し、図2及び図3に示す。ここで、図3は、図2における比抵抗値が100Ω・cm以下の範囲を縦軸方向に拡大したグラフである。
【0046】
図3から、窒素ガス濃度が7体積%〜100体積%の範囲では、窒素ガス濃度の変化に伴って、比抵抗値は一定方向に滑らかに湾曲する一つの曲線上に、ほぼのっていることが分かる。従って、この曲線(以下、「窒素ガス濃度−比抵抗値曲線」と称する)を利用し、上記濃度範囲で焼成時の非酸化性ガス雰囲気における窒素ガス濃度を定めることにより、1〜約100Ω・cmという広い範囲内で、所望する任意の比抵抗値を有する導電性炭化珪素質多孔体を製造することができると考えられた。例えば、導電性炭化珪素質多孔体の比抵抗値として20Ω・cmを所望する場合は、破線で図示したように、窒素ガス濃度を約20体積%と設定すれば良い。
【0047】
また、窒素ガス濃度が7体積%より小さくなると、図2に示すように、比抵抗値は急激に上昇することから、窒素ガス濃度が5体積%と7体積%の間の範囲では、窒素ガス濃度が5体積%のときの比抵抗値と窒素ガス濃度が7体積%の比抵抗値から得られる直線(以下、「窒素ガス濃度−比抵抗値直線」と称する)を利用して、所望する任意の比抵抗値を得るための窒素ガス濃度を設定できると考えられた。
【0048】
なお、水銀圧入法により各焼結体の平均気孔直径及び見掛け気孔率を測定したところ、組成1〜組成4の焼結体は、何れもDPFのフィルタ基体として適した平均気孔直径を有し、見掛け気孔率もDPFのフィルタ基体として好適な値と考える30〜60%の範囲内であった。加えて、各焼結体について三点曲げ強度を測定したところ、55〜160MPaという実用的な強度を有していた。各組成の焼結体の平均気孔直径、見掛け気孔率、及び三点曲げ強度を、表3に示す。
【0049】
ここで、平均気孔直径は、水銀ポロシメータ(micromeritics社製, オートポアIV9500)を使用して測定した気孔径分布から、メディアン径(累積気孔体積が全気孔体積の50%のときの直径)として求め、見掛け気孔率は、各試料に圧入された水銀体積と試料体積とから算出した。また、三点曲げ強度は、JIS R1601に準拠し、支点間距離40mm、クロスヘッドスピード0.5mm/minの条件下で常温で測定した。
【0050】
【表3】

【0051】
更に、各焼結体の端面を走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製、JXA−840型)で観察したところ、何れの試料においても、ネックの数が多いと共に、ネックが太くしっかりと成長していることが観察された。これは、本実施形態では、粒径の大きな黒鉛粒子を炭素源としていることにより、反応生成された炭化珪素がネック形成できるほどに粒子成長するのが早く、ネック自体の成長が早いためと考えられた。
【0052】
以上のように、本実施形態の製造方法によれば、堆積した粒子状物質を自己発熱により燃焼・除去するDPFのフィルタ基体として、極めて実用的な比抵抗値を有する導電性炭化珪素質多孔体を製造することができる。
【0053】
加えて、同一組成の原料を用いて成形体を作製し、焼成する際に非酸化性ガス雰囲気における窒素ガス濃度を調整するのみの極めて簡易な方法で、導電性炭化珪素質多孔体の比抵抗値を実用的かつ広い範囲内で、任意の値に調整することが可能である。
【0054】
そして、焼成時の非酸化性ガス雰囲気における窒素ガス濃度を5体積%以上100体積%以下として得られた窒素ガス濃度−比抵抗値曲線及び窒素ガス濃度−比抵抗値直線を利用し、上記範囲で焼成時の非酸化性ガス雰囲気における窒素ガス濃度を設定することにより、導電性炭化珪素質多孔体の比抵抗値を1〜約400Ω・cmという範囲で調整することができると考えられた。
【0055】
更に、焼成時の非酸化性ガス雰囲気における窒素ガス濃度を7体積%以上100体積%以下として得られた窒素ガス濃度−比抵抗値曲線は、一定方向に緩やかに湾曲する曲線であるため、この曲線を利用し上記範囲で焼成時の非酸化性ガス雰囲気における窒素ガス濃度を設定することにより、導電性炭化珪素質多孔体の比抵抗値を、1〜約100Ω・cmの範囲で、高い確度で調整できると考えられた。
【0056】
また、本実施形態の製造方法では、炭化珪素に不純物としてドープされる窒素が、反応焼結の珪素源としての窒化珪素から供給されている上で、更に、焼成時のガス雰囲気からも窒素が供給されているため、ガス雰囲気における窒素ガス濃度が焼結体の比抵抗値に反映されやすく、窒素ガス濃度による比抵抗値の調整が容易なものとなっている。
【0057】
加えて、本実施形態の製造方法では、“炭化珪素の反応焼結”、“黒鉛粒子の消失による気孔の形成”、及び、“炭化珪素への窒素のドープ”が単一の焼結工程P3において同時に行われるため、製造工程が極めて簡易である。また、本実施形態の製造方法は本発明をDPFのフィルタ基体を製造する場合に適用したものであるが、焼結工程P3が単一であるが故に、脱炭工程と接合部熱処理工程を同時に行うことができるため、DPFのフィルタ基体の製造方法として、極めて簡易なものとなっている。
【0058】
以上、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、以下に示すように、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計の変更が可能である。
【0059】
例えば、上記の実施形態では、ディーゼルエンジンから排出されるガスを浄化するDPFの基体として使用される導電性炭化珪素質多孔体の製造方法に、本発明を適用する場合を例示したが、これに限定されず、その他の内燃機関や蒸気タービン等で排ガスの浄化に使用される自己発熱型フィルタの基体、加熱により触媒を活性化させる触媒担体、或いは、連続気孔中を流通する流体の加熱装置として使用される導電性炭化珪素質多孔体の製造に、本発明を適用することが可能である。
【符号の説明】
【0060】
P1 成形工程
P2 乾燥工程
P3 焼成工程
P4 接合工程
P5 脱炭・接合部熱処理工程
【先行技術文献】
【特許文献】
【0061】
【特許文献1】特許第3431670号公報
【特許文献2】特許第3642836号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化珪素粉末と平均粒子径10μm〜50μmの炭素質物質とからなり珪素と炭素のモル比が0.5〜1.5の炭化珪素生成原料、及び、骨材としての炭化珪素粉末を60質量%〜95質量%含む混合原料を成形する成形工程と、
該成形工程で得られた成形体を、窒素ガスの濃度が5体積%以上100体積%以下である非酸化性ガス雰囲気下で、2000℃〜2350℃の温度で一度のみ焼成する焼成工程と
を具備することを特徴とする導電性炭化珪素質多孔体の製造方法。
【請求項2】
前記成形体は、単一の方向に延びて列設された隔壁により区画された複数のセルを備えるハニカム構造に成形され、
前記焼成工程を経て得られたハニカム構造の焼結体の複数を接着剤で接合する接合工程と、
該接合工程後に酸化性ガス雰囲気下で行われ、残留する炭素質物質を燃焼させると共に接着剤を加熱硬化させる脱炭・接合部熱処理工程とを具備する
ことを特徴とする請求項1に記載の導電性炭化珪素質多孔体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−84451(P2011−84451A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−240404(P2009−240404)
【出願日】平成21年10月19日(2009.10.19)
【出願人】(000220767)東京窯業株式会社 (211)
【Fターム(参考)】