説明

導電性積層体及び導電性積層体の製造方法

【課題】燃料電池等における集電体(導電膜)を形成するのに好適な、即ち、生産性良好に製造できる新規な構成の導電性積層体及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】無機下地3と、導電性金属を含有する導電膜2とを備えた導電性積層体1。前記導電膜2が、該無機下地に直接的に密着された膜厚10〜1000μmの多孔質構造体である。該多孔質構造体は、表面側から前記無機下地に連通する空隙を有する連続三次元網状骨格を備えている。そして、導電性積層体1は、導電性金属及び有機成分を含有するスラリー組成物を準備する工程と、該スラリー組成物を任意の無機下地に塗布する工程と、前記スラリー組成物及び無機下地を加熱又は焼成して前記有機成分を消失させる工程を経て製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機下地と、導電層(導電膜)とを備えた新規な構成の導電性積層体およびその製造方法に関する。特に、固体酸化物形の燃料電池における集電体を形成するのに好適な導電性積層体およびその製造方法に係る発明である。
【0002】
ここでは、燃料電池における集電体を例に採り説明するが、本発明の導電性積層体の適用はこれに限られるものではなく、同様な構成を有する電気化学リアクターには、勿論、他の導電性積層体構造を有する製品にも適用可能である。
【0003】
本明細書においては、特に断らない限り、「%」は「質量%」を、「部」は「質量部」をそれぞれ意味する。
【背景技術】
【0004】
従来、固体酸化物形の燃料電池(SOFC)における集電体(集電層)は、金属を含有する多孔質構造体で形成された導電膜で形成されていた(例えば、特許文献1・2等参照)。その理由は、下記の如くである。
【0005】
上記のような燃料電池における電極の抵抗は、三相界面(電解質・ガス・電極)の電極反応で発生する電荷が界面を跨いで移動する過程で生ずる過電圧と電極の有効反応面積に依存する面内方向での抵抗が問題となる。
【0006】
例えば、ハニカム型のインターコネクタが電極の端面にしか形成できない場合は遠い距離にある電子が走れず、IR損を生じ電流が流れ難くなる。
【0007】
そして、多孔質構造体である導電膜を集電体として電極に積層し、該集電体をインターコネクタと結線しておけば、三相界面で発生する電荷を電極材に頼ることなく集電できる。
【0008】
なお、アノード側(通常、燃料極)の電極材(例えば、酸化ニッケル)は発電時に還元されて金属となりその抵抗は小さくなるため、電極がある程度の厚みを有すればその省略も考えられる。しかし、カソード側(通常、空気極)の電極材は酸化物(例えば、ランタンマンガナイト)でありその抵抗は大きく、通常、集電体を積層する必要がある。
【0009】
そして、SOFCにおける集電体は、下記のような特性が必要とされている。
【0010】
1)空気(酸素)、若しくは燃料ガスの透過が容易でなければならない。即ち、良好なガス透過性が要求される。
【0011】
2)電極材と密着していなければならない。
【0012】
3)SOFCの運転温度(600〜800℃)に耐えられる耐熱性を有するものでなければならない
4)低コストで製造できること。
【0013】
なお、特許文献3に、三次元網目構造(多孔質)の導電性構造体に関する下記技術が記載されている。
【0014】
当該導電性構造体は、白金等の貴金属を含み構成される三次元網目状の骨格を有し、且つ該骨格の横切断面の直径の最大長さが100nm以下である。その構造体は、貴金属を含み構成される第1の材料が、第2の材料に分散している膜を用意する第1の工程、及び前記膜中の前記第2の材料をドライエッチングにより除去する第2の工程を経て製造される。
【0015】
しかし、導電性構造体は、本発明のμmレベルの多孔質構造体ではなく、燃料電池における触媒能と電子導電性が要求されるnmレベルの膜電極への適用を予定している導電性微細構造体に係るものであり、異質である。
【0016】
また、特許文献2には、粒子状銀化合物と樹脂バインダーを含む導電性組成物の発明が開示されている。該導電性組成物は、任意の対象物に塗布した後、加熱することで導電性被膜となる。
【0017】
しかし、本発明の如く、連続三次元網状骨格を有する多孔質構造体を形成することを予定していない。
【特許文献1】特開2008−53095号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献2】特開2004−303478号(特許請求の範囲等)
【特許文献3】特開2007−44675号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献4】特許第3949658号(特許請求の範囲等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、上記にかんがみて、前記特許文献等に記載されていない燃料電池等における集電体(導電膜)を形成するのに好適な、即ち、生産性良好に製造できる新規な構成の導電性積層体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明に係る導電性積層体は、無機下地と、導電膜とを備えた導電性積層体において、前記導電膜が、該無機下地に直接的に密着された膜厚10〜1000μmの多孔質構造体であって、該多孔質構造体は、表面側から前記無機下地に連通する空隙を有する連続三次元網状骨格を備えていることを特徴とする。
【0020】
本発明における導電性積層体における導電膜は、表面側から前記無機下地に連通する空隙を有する連続三次元網状骨格を備えている多孔質構造体であるため、該導電膜で無機下地の表面の一部又は全部を覆ったとしても、気体又は液体は該導電膜を透過することができる。
【0021】
本発明に係る導電性積層体は、1)無機下地を、固体酸化物形の燃料電池において固体電解質上に形成される燃料極及び/又は空気極とし、前記導電膜を集電体とした構成としたり、2)無機下地を、固体酸化物形の電気化学リアクターにおいて固体電解質上に形成された酸化電極及び/又は還元電極とし、前記導電膜を集電体又は配電体とした構成としたりすることができる。
【0022】
なお、上記集電体や配電体は、燃料極又は空気極(酸化電極又は還元電極)に接合されており、これらの電極に電子を配る機能、又は電子を集める機能を有していなければならない。また、前記集電体や配電体は、それらの電極に供給される気体、又はそれらの電極で発生する気体を透過するものでなくてはならない。本発明における導電膜は前記した集電体に必要な機能を備えている。
【0023】
前記導電膜が含有する導電性金属として、銀、白金、ニッケルから選択される1種類、又は2種類以上の金属及び/又は合金を含んだものとすることが望ましい。これらの金属は、導電性や耐蝕性に優れているためである。
【0024】
また、本願に係る導電性積層体の導電膜が、表層に幅10〜500μm(望ましくは20〜300μm、さらに望ましくは50〜200μm)の複数のクラックを有するものとすることが望ましい。導電膜の表層がクラックとなる部分は、クラックでない部分より層の厚みが薄くなり、気体を透過しやすくなって、導電膜は気体透過性に優れたものとなる。
【0025】
即ち、クラックを有する導電膜を前記集電体や配電体とした場合、ガス透過性が良好となって、燃料電池の発電反応や電気化学リアクターの酸化還元反応が促進される。
【0026】
なお、クラックの幅が小さ過ぎると、導電膜は気体透過性に劣るものとなりやすく、逆にクラックの幅が大き過ぎると、導電膜の連続性が損なわれ導電性が低下する。
【0027】
導電膜の表面積(クラック部分の面積も含む)におけるクラック部分の面積比率は、5〜60%であることが望ましい。さらに望ましくは10〜50%、最適には15〜45%とする。クラック部分の面積比率が過少であるとクラックによる効果が十分ではなく、過多であると十分な導電性が得られないおそれがある。
【0028】
なお、クラックは導電膜の表層に発生するものであって、導電膜は深層部において連続性を保っているため、導電膜がクラックを有するものであっても導電性積層体の導電性は損なわれない。
【0029】
前記導電性積層体の製造方法は、1)導電性金属粒子及び有機高分子を溶媒中に分散させて含有するスラリー組成物を準備する工程と、2)該スラリー組成物を無機下地に塗布して塗膜を形成する工程と、3)該塗膜を加熱又は焼成して前記と塗膜中の有機高分子を消失させる工程と、を有することを特徴とするものである。この製造方法によれば、導電性金属を含有し、連続する三次元網状の骨格からなる多孔質な導電膜の形成と、該導電膜の無機下地への接合とを同時に行うことができる。なお、前記の方法で形成された導電性積層体の導電膜は、有機高分子を含まず、導電性金属及び有機高分子が加熱分解されて生じた無機成分などの無機成分のみで形成されている。
【0030】
また、前記導電性積層体の他の製造方法は、1)導電性金属粒子及び有機高分子を溶媒中に分散させて含有するスラリー組成物を準備する工程と、2)該スラリー組成物を無機下地に塗布して塗膜を形成する工程と、3)該塗膜を乾燥して、スラリー組成物の乾燥塗膜を得る工程と、4)該乾燥塗膜を加熱又は焼成して前記有機高分子を消失させる工程と、を有するとともに、前記有機高分子を、加熱又は焼成時にクラック発生可能な造膜性の高いものとして該乾燥塗膜にクラックを発生させることを特徴とするものである。
【0031】
ここで、造膜性とは、前記スラリー組成物の塗膜を乾燥や加熱させたとき、該有機高分子の成分相互が融着した均一相(膜)を形成する特性をいう。
【0032】
また、前記スラリー組成物に含有される導電性金属として、銀、白金、ニッケルから選択される1種類又は2種類以上の金属及び/又は合金を用いることによって、導電性や耐蝕性に優れた導電膜を有する導電性積層体を形成方法することができる。また、前記金属及び/又は合金として、平均粒子径が1〜200μm、純度85%以上の銀粒子を用いれば、導電膜は、特に導電性に優れたものとなる。
【0033】
また、前記スラリー組成物に無機バインダーを含有させることによって、導電膜と無機下地の密着が強固なものとなる。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、無機下地に多孔質な導電膜が直接的に接合して積層された導電性積層体、及び、多孔質な導電膜の形成と該導電膜の無機下地への接合とを同時に行うことができる導電性積層体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
本発明の導電性積層体は、無機下地と、導電性金属を含有する導電膜とを備えた導電性積層体において、前記導電膜が、該無機下地に直接的に密着された膜厚10〜1000μmの多孔質構造体であって、該多孔質構造体は、表面側から前記無機下地に連通する空隙を有する連続三次元網状骨格を備えているものである。
【0036】
本発明者は、無機下地としてのセラミック板の表面に、導電性金属としての銀を含有し、幅30mm×長さ50mm×厚み100μm程度の大きさの導電膜を積層させた導電性積層体を作製した。該導電膜は導電性を有しており、セラミック板に直接的に接合されたものであった。また、該導電膜を顕微鏡によって100倍に拡大して観察したところ、該多孔質体の形状は、連続する三次元網状の骨格を有する多孔質体であった。なお、前記セラミック板は、セラミック粉末としてのジルコニアを焼成して形成した板状の焼結体であった。
【0037】
前記導電膜は、厚み100μm程度で形成したが、その厚みは特に限定されるものではなく、通常、上記10〜1000μm、望ましくは20〜500μmの範囲とする。
【0038】
しかし、導電膜の厚みが薄すぎると、三次元網状の骨格の連続性が保てず、所要の導電性が得がたくなる。導電膜の厚みが厚すぎると、三次元網状の骨格が気体の透過の抵抗になって、十分な気体の透過性を得がたくなる。
【0039】
前記導電膜に含有される導電性金属は、銀に限定されるものではなく、銀、白金、金、銅、パラジウム、イリジウム、アルミニウム 、クロム、インジウム、ニッケル、銅、鉄、亜鉛などの各種金属、各種金属を含有する合金があげられる。その中でも、導電性や耐蝕性を考慮すると、銀、白金、ニッケルから選択される金属、又は、銀、白金、ニッケルから選択される金属を含有する合金であることが好ましい。さらに、その中でも、特に導電性に優れていることを考慮すると、銀又は銀を含有する合金であることが特に好ましい。また、導電膜中には、導電性の見地から、導電性金属を90%以上(さらには95%以上)含有していることが好ましい。
【0040】
前記無機下地は、前記導電膜を設置する基盤となるものであって、前記ジルコニア焼結体のセラミック板に限定されるものではない。例えば、アルミナ、ムライト、コージェライトなどの酸化物系セラミック、窒化ケイ素、窒化アルミ、窒化ホウ素などの窒化物系セラミック、又は炭化ケイ素に代表される炭化物系セラミックなどを用いたセラミック組成物等の焼結体で形成したセラミック板、さらには、セラミック構造体を挙げることができる。さらには、ガラス、金属、または、セメント、石膏、ガラス、金属等を無機結合材として含有する無機組成物で形成した無機板や無機構造体あってもよい。
【0041】
また、前記導電膜は、例えば、固体酸化物形燃料電池(SOFC)の固体電解質上に形成された燃料極又は空気極の表面、又は電気化学リアクターにおいて固体電解質上に形成された酸化電極又は還元電極の表面に設置してもよい。
【0042】
SOFCとは、固体電解質を挟んで一方の側に燃料極を備え、他方の側に空気極を備え、燃料極側には燃料ガスを、空気極側には酸化剤ガスを供給し、電解質を介して燃料と酸化剤を電気化学的に反応させることにより発電する発電装置である。燃料極側には燃料ガスを、空気極側には酸化剤ガスを供給し、燃料極と空気極を電気回路で接続することで、該電気回路に電流が流れる。
【0043】
例えば、前記燃料ガスとして水素、前記酸化剤ガスとして酸素を用いて発電すると、燃料極と空気極では次のような反応が起こる。
【0044】
燃料極 H+O2−→ HO+2e
空気極 1/2O+2e → O2−
この反応において、燃料極で発生した電子(e)は、電気回路を通って空気極に移動し、空気極での反応に使われる。また、空気極で発生した酸素イオン(O2−)は固体電解質を透過して燃料極に移動し、燃料極での反応に使われる。こうして電気回路に電子が流れて発電が行われる。空気極や燃料極は、前記の反応の触媒となる物質からなる層である。
【0045】
前記の燃料極及び空気極での反応は、触媒と固体電解質とガスとの3種類の物質の界面で行われる。この反応は、燃料極と空気極の層を設けた部分の面全体で行われるものであるから、燃料電池の発電の効率を高めるためには、燃料極で発生した電子を集め、空気極全体に電子を配る必要がある。そこで、燃料極や空気極の表面に集電体と呼ばれる導電体を配置することがある。集電体を設置することで、燃料極層の各所で発生した電子は、集電体を通って集められ、電子回路を通過した後、集電体を通って空気極層全体に配られる。これによって、燃料電池の発電効率を高めることができる。ただし、集電体は燃料極及や空気極の表面を覆うように設置されるため、燃料極や空気極への燃料ガスや酸化剤ガスの供給を妨げず、また、燃料極で発生した気体の排出を妨げるものであってはならない。本発明の導電性積層体における導電膜は、導電性を有する層を燃料極や空気極の表面に形成することができ、かつ、気体の透過性に優れたものであるので、固体酸化物形燃料電池における集電体として用いるのに適している。このため、固体酸化物形燃料電池の燃料極又は空気極を下地として、導電膜を接合させることによって、導電性を有し、気体の透過性に優れた集電体を得ることができる。
【0046】
無機下地としての燃料極及び空気極上に集電体としての導電膜が積層された固体酸化物形燃料電池(SOFC)5の断面の概略の一例を図1に示す。
【0047】
燃料電池5は、固体電解質の平板6の一方の側に燃料極7が形成され、他方の側に空気極8が形成されており、前記燃料極7及び空気極8の上には導電膜2が積層されている。そして、前記した燃料極7上の導電膜2と空気極8上の導電膜2は、電気回路9に接続されている。図符号「9」は、電気回路である。なお、図1においては、燃料極7と空気極8の双方に導電膜2を積層しているが、燃料極7と空気極8の片方にのみ導電膜2を積層したものであってもよい。また、前記固体電解質の形状は適宜設定されるものであって、平板に限定されるものではなく、例えば、曲面を有する板であってもよく、筒型、ハニカム型などの構造体であってもよい。
【0048】
電気化学リアクターとは、固体酸化物形燃料電池と同じ構造からなるものであって、固体電解質を挟んで一方の側に酸化電極を備え、他方の側に還元電極を備えたものである。なお、前記酸化電極とは、固体酸化物形燃料電池における燃料極に相当し、前記還元電極とは、固体酸化物形燃料電池における空気極に相当するものであって、電気化学リアクターと固体酸化物形燃料電池の呼び名が変わったものである。固体酸化物形燃料電池が発電に用いられるのに対し、電気化学リアクターは、外部の電源によって、酸化電極と還元電極とに電圧を加えて使用する。
【0049】
電気化学リアクターは、ディーゼル排ガスの浄化などへの利用が研究されている。例えば、電気化学リアクターを、NOXと固体炭素系化合物が含まれる排ガスの中に設置し、該電気化学リアクターの酸化電極と還元電極とに、外部電源によって電圧を加えると、酸化電極と還元電極では次のような反応が起こる。
【0050】
酸化電極 C+2O2− → CO+4e
還元電極 2NO+4e → N+2O2−
酸化電極と還元電極とに電圧を加えることによって電流が生じ、酸化電極で発生した電子(e)は前記外部電源に移動し、還元電極には外部電源から電子が供給される。また、還元電極で発生した酸素イオン(O2−)は固体電解質を透過して酸化電極に移動し、酸化電極での反応に使われる。この反応によって、排ガスからNOXと固体炭素系化合物を除去することができる。酸化電極と還元電極は、前記の反応の触媒となる物質からなる層である。
【0051】
前記の酸化電極及び還元電極での反応において、酸化電極で発生した電子を集め、還元電極全体に電子を配るために、酸化電極と還元電極の表面に集電体又は配電体と呼ばれる導電体を配置することがある。前記集電体又は配電体は、固体酸化物形燃料電池における集電体にあたるものであって、固体酸化物形燃料電池における集電体と同様に、導電性を有すると共に、酸化電極及び還元電極への排ガスの供給を妨げないものでなくてはならない。本発明の導電性積層体における導電膜は、導電性を有する層を酸化電極や還元電極の表面に形成することができ、気体の透過性に優れたものであるので、電気化学リアクターにおける集電体又は配電体として用いるのに適している。このため、電気化学リアクターの酸化電極又は還元電極を下地として、導電膜を接合させることによって、導電性を有し、気体の透過性に優れた集電体又は配電体を得ることができる。
【0052】
無機下地としての酸化電極又は還元電極上に集電体又は配電体としての導電膜を積層された電気化学リアクターの断面の概略の一例を図2に示す。電気化学リアクター10は、固体電解質の平板6の一方の側に酸化電極11が形成され、他方の側に還元電極12が形成されており、前記酸化電極11及び還元電極12の上には導電膜2が積層されている。そして、前記した酸化電極11上の導電膜2と還元電極12上の導電膜2は、電源装置13に接続されている。図中「13」は、電源装置である。なお、図2においては、酸化電極11と還元電極12の双方に導電膜2を積層しているが、酸化電極11と還元電極12の片方にのみ導電膜2を積層したものであってもよい。また、前記固体電解質の形状は適宜設定されるものであって、前記燃料電池の場合と同様、平板に限定されるものではなく、構造体であってもよい。
【0053】
また、固体酸化物形燃料電池もしくは電気化学リアクターに形成された導電性積層体の導電膜が、複数のクラックを有するものであれば、この導電膜の表層がクラックとなる部分は,電極材などの被塗装面が露出すことになるため、この部分を通して燃料ガスや酸素ガスなどの気体が送込まれるため,集電抵抗を下げながら、かつ電池反応を妨げることなく高効率で燃料電池の発電反応やリアクターの酸化還元反応を促進させることができる。また、該導電膜のクラックでない部分が樹枝状に枝分れした三次元網状の骨格からなる多孔質体となることで、該導電膜中の金属が、微細に分散しているのではなく、凝集力により該枝状部分に巨大集団として集合することとなり、全体の表面積は小さくてすみ、該導電膜中の金属が熱などを原因として拡散する現象や、ポーラスな被塗面である電極内に進入する現象が起こりにくくなる。このため、固体酸化物形燃料電池もしくは電気化学リアクターの長時間運転時に発生しやすい電池反応の効率を低下する現象を抑制することができる。
【0054】
次に、導電性積層体の製造方法について説明する。
【0055】
導電性積層体は、1)導電性金属粒子及び有機高分子を溶媒中に分散させて含有するスラリー組成物を準備する工程と、2)該スラリー組成物を無機下地に塗布して塗膜を形成する工程と、3)該塗膜を加熱又は焼成して有機高分子を消失させる工程を経て製造する。なお、上記2)の工程と3)の工程との間に、塗膜を乾燥して乾燥塗膜を形成する工程を入れてもよい。乾燥塗膜を更に加熱乃至焼成することにより、クラックが発生し易くなる。
【0056】
加熱(焼成)することで、加熱(焼成)によって消失しない無機成分のみが残り、スラリー組成物(又はスラリー組成物の乾燥体)の中に存在した気泡と有機高分子の消失跡が空隙として残る。このため、無機下地3上の導電膜2は、表面側から無機下地に連通する空隙を有する連続三次元網状の骨格を有する多孔質体となる。
【0057】
前記導電性金属粒子は、前述の導電性金属の粒子を使用することができる。その中でも、純度85%以上の銀粒子であることが好ましい。なお、銀粒子の純度は、銀と不純物からなる金属において、銀/該金属の質量比である。また、不純物とは、銅、パラジウム、亜鉛などの銀以外の金属である。また、前記金属及び/又は合金は、平均粒子径が1〜200μm(さらには、10〜100μm)であることが好ましい。前記平均粒子径が上記範囲内であれば、スラリー組成物を加熱又は焼成することによって連続三次元網状の骨格を有し、クラックを有する多孔質体を形成し易くなる。
【0058】
スラリー組成物に含有される有機高分子としては、熱可塑性(非架橋性)又は熱硬化性(架橋性)を問わない。例えば、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、澱粉、水溶性セルロース類(メチルセルロース:MC 、ヒドロキシセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース 、カルボキシメチルセルロース等)などの水溶性高分子;ポリ酢酸ビニル系、アクリル樹脂系、ポリウレタン系、ポリエステル系、エポキシ樹脂系、フッ素樹脂系等の各種熱可塑性・熱硬化性合成樹脂、さらには、木粉、天然繊維、合成繊維などを挙げることができる。
【0059】
また、水系塗料分野において樹脂バインダーとして一般的に使用されている合成樹脂エマルション・サスペンションさらには合成樹脂溶液などを用いてスラリー組成物を調製することもできる。
【0060】
なお、上記有機高分子は、有機高分子中に造膜性を有するものを高比率(例えば、70%以上、望ましくは75%以上)で含有するものを使用することが望ましい。
【0061】
有機高分子としてそのようなものを使用することにより、塗膜厚みの均一で導電性金属粒子を良好に保持した乾燥塗膜を形成し易くなり、結果的に、厚みが均一な導電膜を容易に得ることができる。更に、乾燥後の加熱乃至焼成によりクラックを形成しやすくなる。
【0062】
熱可塑性合成樹脂の場合、溶媒に溶ければ乃至加熱溶融させれば、造膜性を有するが、溶媒に溶解しなかったり加熱溶融しなければ造膜性を有しない。したがって、溶媒として水を使用する場合(有機溶剤のような環境問題を発生しない)には、造膜性を有する有機高分子としては、前記水溶性高分子が望ましい。
【0063】
また、熱硬化性合成樹脂は、未硬化のもの(モノマーまたはオリゴマー)を使用すれば、反応硬化や湿気硬化により造膜して造膜性を有するが、硬化後のものを使用すれば、造膜性を有しない。
【0064】
前記溶媒としては、前記の如く、水が望ましい。それ以外にも、有機溶剤、アルコール、動植物油などを用いてもよい。これらは、単独で用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0065】
また、スラリー組成物には、前記の成分以外に、無機バインダーを添加することもできる。無機バインダーを添加することで、無機下地に塗装したスラリー組成物を加熱した後に冷却して、導電性積層体を得る過程において、前記無機バインダーが、一度軟化した後に再び硬化して、導電膜と無機下地とが強固に接着(固着)される。無機バインダーとしては、非晶質であって、ガラス転移点が導電性金属の融点以下の無機材を用いることが望ましく、ガラス転移点が900℃以下の無機材を用いることがより望ましい。ガラス転移点が導電性金属の融点以下の無機バインダーを添加すれば、スラリー組成物を該無機バインダーのガラス転移点以上の温度で加熱することで導電膜を形成することができる。このため、無機バインダーを添加しない場合に比して、低い加熱温度で導電膜を形成することができる。そして、ガラス転移点900℃以下であれば、より低い加熱温度での導電膜の形成が可能となる。このような無機バインダーとしては、硼珪酸系ガラス、ジルコンフリット、SiO−Al−CaO−NaO、SiO−Al−B−CaO−NaO、SiO−Al−B−CaO−F、SiO−Al−B−ZrO2−Fなどがあげられる。該無機バインダーの含有量は、導電性金属の特性により若干異なるが、導電性金属粒子100部に対して1〜9部であることが望ましく、1〜5部であることがより望ましい。前記含有量が少なすぎると、密着に対する効果があまり期待できない。また、前記含有量が多すぎると、導電膜の導電性が損なわれる。そして、前記含有量が前記導電性金属粒子100部に対して1〜5部であれば、優れた密着性と優れた導電性をもった導電膜が得られる。
【0066】
また、前記スラリー組成物には、上記成分以外に、界面活性剤、湿潤剤、消泡剤などの添加剤を添加することができる。界面活性剤、湿潤剤、消泡剤などの添加剤の種類は特に限定されるものではない。スラリー組成物の性状安定や塗装作業性の向上などの目的に応じて、それらを適宜選択し、添加量を適宜に設定する。
【0067】
また、前記塗膜(スラリー組成物)の乾燥・加熱温度、乾燥・加熱・焼成時間などの条件は、使用するスラリー組成物の組成、及び無機下地の組成や形状などに合わせて適宜に設定するものである。例えば、乾燥温度は、10〜80℃、加熱(焼成)温度は、700〜1300℃とする。
【0068】
次に、導電膜の表層に複数のクラックを有する導電性積層体の形成方法について説明する。
【0069】
前記した導電性積層体1の形成方法において、下記の配合のスラリー組成物を用いることで、複数のクラック4を有する導電膜を形成することができる。なお、下記の配合における%とは、スラリー組成物全量を100%とした場合における各配合物の配合量である。
【0070】
導電性金属粒子 35〜70%(望ましくは45〜65%)
有機高分子 10〜25%(望ましくは12〜20%)
溶媒 15〜50%(望ましくは20〜40%)
無機バインダー 1〜 3%(望ましくは1.5〜2.5%)
添加剤 0〜 3%(望ましくは0.3〜2.5%)
導電性積層体の導電膜の表層に複数のクラックを発生させるためには、該スラリー組成物中における各配合物の含有量は、前記した範囲であることが望ましい。
【0071】
前記導電性金属の含有量が過少であると、導電膜の連続性が損なわれて十分な導電性が得られない場合がある。また、前記導電性金属の含有量が過多であると、クラックが発生しない場合がある。
【0072】
前記有機高分子中に造膜性を有するものの比率が過少(例えば、70%未満)であると、クラックが発生しない場合がある。また、前記有機塗膜形成成分の含有量が過多であると、クラックは発生しない場合がある。
【0073】
前記溶媒の含有量が過少であると、クラックが発生しない場合がある。また、前記溶媒の含有量が過多であると、導電膜の連続性が損なわれて十分な導電性が得られず、また、クラックも発生しない場合がある。
【0074】
前記無機バインダーの含有量が過少であると、無機下地との十分な密着性が得られない場合がある。また、前記無機バインダー含有量が過多であると、導電膜の電気抵抗が大きくなって十分な導電性が得られない場合があり、また、クラックが発生しない場合がある。
【実施例】
【0075】
以下、本発明を、実施例に基づいて、更に詳細に説明する。
【0076】
なお、各実施例で使用した各材料は、次の通りである。
【0077】
無機下地(基材)・・・アルミナ及びジルコニアを焼成して形成したセラミック板、
導電性金属粒子・・・(実施例1・2)純度93%、平均粒径75μmの銀粒子;(実施例3〜18)純度90%、表示の平均粒径の銀粒子、
無機バインダー・・・SiO−Al−CaO−NaO(実施例1・2)、硼珪酸系ガラス(実施例3〜18)
添加剤・・・アニオン系界面活性剤
<実施例1>
まず、下記組成のスラリー組成物を準備した。なお、本実施例の有機高分子中の造膜性有機高分子の比率は、約64%である。
【0078】
銀粒子 60部
MC(水溶性高分子) 9部
熱可塑性アクリル樹脂粉末 5部
無機バインダー 2部
添加剤 0.5部
水(溶媒) 20部
次に、前記スラリー組成物を、セラミック板の表面の幅30mm×長さ50mmの部分に、塗装して厚みが250μm程度の塗膜を得た。該塗膜を、温度20℃、湿度65%の環境下で24時間静置して乾燥(常温乾燥)した。
【0079】
続いて、該乾燥塗膜が形成されたセラミック板を900℃で10分加熱(焼成)した後、温度20℃、湿度65%の環境下で1時間静置した。
【0080】
こうして調製した、無機下地3上に導電膜2を備えた導電性積層体1の断面の概略モデル図を図3に示す。
【0081】
前記多孔質体は導電性を有しており、また、顕微鏡によって100倍に拡大して観察したところ、該多孔質体の形状は、連続三次元網状の骨格を有する多孔質体であった。
【0082】
<実施例2>
導電膜の表層に幅50〜200μmの複数のクラックを有する導電性積層体を製造した実施例である。なお、本実施例の有機高分子中の造膜性有機高分子の比率は、約78%である。
【0083】
まず、下記組成のスラリー組成物を準備した。
【0084】
銀粒子 60部
MC(水溶性高分子) 18部
熱可塑性アクリル樹脂粉末 5部
無機バインダー 2部
界面活性剤(添加剤) 0.5部
水(溶媒) 24.5部
次に、前記スラリー組成物を、実施例1と同様にして、スラリー組成物の乾燥塗膜が表面に形成されたセラミック板を得、更に、同様にして焼成後、常温冷却して導電性積層体を調製した。
【0085】
そして、乾燥塗膜は、表層にはクラック発生していなかったが、焼成後、常温放冷却後は、該多孔質体の表層に幅70〜150μmの複数のクラックを有するものとなった。導電性積層体の断面の概略断面モデル図を図4に示す。そして、顕微鏡によって100倍に拡大して観察したところ、該多孔質体の形状は、連続する三次元網状の骨格を有する多孔質体であった。図5にその顕微鏡写真を示す。
【0086】
<実施例3〜18>
表1・2に示す配合処方に基づいて、実施例3〜18の各スラリー組成物を調製した。
【0087】
【表1】

【0088】
【表2】

次に、前記各スラリー組成物を、実施例1と同様の条件で(乾燥塗膜厚みを除く。)、乾燥工程、焼成工程を経て、各実施例の導電性積層体を調製した。なお、塗膜厚は、±5%以内の誤差を有する。
【0089】
また、前記工程によって得られた、セラミック板と導電膜からなる導電性積層体を試験体として、各試験体について下記試験項目で評価した。
【0090】
1)クラックの有無:完成した試験体を目視によって観察し、導電膜の表層のクラックの有無を確認した。
【0091】
2)導電性:回路計(日置電機(株)製 商標名:ハイテスタ3030−10)を用いて、矩形に形成された導電膜の対角となる2つの角間の電流の流れ(抵抗値)を測定した。回路計のレンジ切替スイッチを「Ω/×1」に設定し、回路計のプラス(+)端子とマイナス(−)端子を直接接触させたときの抵抗値を基準として、該抵抗値の上昇幅を下記基準により判定した。
【0092】
○・・・+5Ω以内、△・・・+5Ω超、×・・・針動かず
3)下地との密着性:導電膜に粘着テープ(ニチバン(株)製 粘着テープ:幅24mm)を貼り付け、次にその粘着テープを剥がした後、導電膜の剥離の有無を確認した。
【0093】
各試験体の評価結果を表3及び表4に示す。各実施例は、導電性において、殆ど実用化レベル(△)以上であることが確認できた。また、実施例3を除いて、実用化レベルの密着性を有することが確認できた。
【0094】
【表3】

【0095】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】固体酸化物形燃料電池の概略を示すモデル図
【図2】電気化学リアクターの概略を示すモデル図
【図3】導電性積層体の断面の概略を示すモデル図
【図4】導電膜の表層に複数のクラックを有する導電性積層体の断面の概略を示すモデル図
【図5】導電膜の表層に複数のクラックを有する導電性積層体の顕微鏡写真
【符号の説明】
【0097】
1 導電性積層体
2 連続する三次元網状の骨格を有する多孔質体である導電膜
3 無機下地

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機下地と、導電性金属を含有する導電膜とを備えた導電性積層体において、
前記導電膜が、該無機下地に直接的に密着された膜厚10〜1000μmの多孔質構造体であって、
該多孔質構造体は、表面側から前記無機下地に連通する空隙を有する連続三次元網状骨格を備えていることを特徴とする導電性積層体。
【請求項2】
前記無機下地が、固体酸化物形の燃料電池において固体電解質上に形成される燃料極及び/又は空気極とされ、前記導電膜が集電体とされることを特徴とする請求項1記載の導電性積層体。
【請求項3】
前記無機下地が、固体酸化物形の電気化学リアクターにおいて固体電解質上に形成された酸化電極及び/又は還元電極であり、前記導電膜が集電体又は配電体とされることを特徴とする請求項1記載の導電性積層体。
【請求項4】
前記導電性金属が、銀、白金、ニッケルから選択される1種類、又は2種類以上の金属又は合金を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の導電性積層体。
【請求項5】
前記導電膜が、表層に幅10〜500μmの複数のクラックを有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の導電性積層体。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の導電性積層体を製造する方法であって、
導電性金属粒子及び有機高分子を溶媒中に分散させて含有するスラリー組成物を準備する工程と、
該スラリー組成物を無機下地に塗布して塗膜を形成する工程と、
該塗膜を加熱又は焼成して前記塗膜中の有機高分子を消失させる工程と、を有することを特徴とする導電性積層体の製造方法。
【請求項7】
請求項5に記載の導電性積層体を製造する方法であって、
導電性金属粒子及び有機高分子を溶媒中に分散させて含有するスラリー組成物を準備する工程と、
該スラリー組成物を無機下地に塗布して塗膜を形成する工程と、
該塗膜を乾燥して乾燥塗膜を得る工程と、
該乾燥塗膜を加熱又は焼成して前記有機高分子を消失させる工程と、を有するとともに、
前記有機高分子を、加熱又は焼成時にクラック発生可能な塗膜形成能の高いものとして該乾燥塗膜にクラックを発生させることを特徴とする導電性積層体の製造方法。
【請求項8】
前記導電性金属粒子が、銀、白金、ニッケルから選択される1種類又は2種類以上の金属及び/又は合金を含有することを特徴とする請求項6又は7記載の導電性積層体の製造方法。
【請求項9】
前記導電性金属粒子が、純度85%以上の銀粒子であって、該銀粒子の平均粒子径が1〜200μmであることを特徴とする請求項8記載の導電性積層体の製造方法。
【請求項10】
前記スラリー組成物が、さらに、無機バインダーを含有することを特徴とする請求項6〜9のいずれかに記載の導電性積層体の製造方法。
【請求項11】
無機下地に塗布して塗膜を形成し、該塗膜を加熱又は焼成して導電膜を形成するに際して使用するスラリー組成物であって、該組成が、
導電性金属粒子 35〜70質量%、
有機高分子 10〜25質量%、
無機バインダー 1〜3質量%、
添加剤 0〜3質量%
溶媒 15〜50質量%、
であることを特徴とする導電膜形成用スラリー組成物。
【請求項12】
前記有機高分子が、該有機高分子中に造膜性を有するものを70質量%以上含有することを特徴とする請求項11記載の導電膜形成用スラリー組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−123297(P2010−123297A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−293773(P2008−293773)
【出願日】平成20年11月17日(2008.11.17)
【出願人】(000159032)菊水化学工業株式会社 (121)
【Fターム(参考)】