説明

導電性組成物及び電子デバイスの製造方法

【課題】本発明の課題は、導電性の高い導体パターンを形成するのに適した導電性組成物、それを用いた電子デバイス、及び、電子デバイスの製造方法を提供することである。本発明のもう一つの発明は、銀マイグレーション、及び、銅使用時の酸化を防止することのできる導電性組成物、それを用いた電子デバイス、及び、電子デバイスの製造方法を提供することである。
【解決手段】本発明に係る導体パターン用導電性組成物は、樹脂と、導電性金属粒子を含む。前記導電性粒子は、高融点金属粒子と、低融点金属粒子とを含む。前記高融点金属粒子は、Ag、Cu、Au、Pt、Ti、Zn、Al、Fe、Si、または、Niの群から選択された少なくても1種を含む。前記低融点金属粒子は、Sn、In、Biの群から選択された少なくても1種を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導体パターン用導電性組成物、それを用いた電子デバイス、及び電子デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
導体パターンを形成するために用いられる導電性ペーストは、導電成分となる金属粉末又は合金粉末を、有機ビヒクル中に分散させたものである。有機ビヒクルは、熱硬化性樹脂、又は、熱可塑性樹脂などの絶縁樹脂と、溶剤などを含んでいる。場合によっては、金属粉末の分散性向上、或いは、難燃性確保のために、第3成分が添加されることもある。
【0003】
導電性ペーストを用いて、導体パターンを形成するには、一般に、スクリーン印刷などの手段によって、回路基板などの絶縁支持体上に導電性ペーストを塗布した後、熱処理する工程が採用される。こうして得られた配線などの導体パターンは、絶縁樹脂中に金属粉末が分散した構成になる。
【0004】
上述したように、導電性ペーストを用いて形成した導体パターンは、絶縁樹脂中に、金属粉末を分散させた構成となるので、金属導体そのものによる場合と比較して、導電性が悪くなる。
【0005】
そこで、導電性を向上させるために、粒径の小さい金属粉末を用いて、充てん率を増加させることが考えられる。しかし、金属粉末は、粒径の小さいほど凝集しやすいため、導電性ペースト中に均一に分散させるのが難しい上、隣り合う金属粒子間の接触部分が増加して、接続抵抗が増加する分、充てん率の増加に見合う導電性向上の効果が得られない。
【0006】
また、上記金属粉末として、銀粉または銅粉を用いると、導電性の良好な導体パターンが得られることが知られている。
【0007】
しかし、銀粉を含有する導電性ペーストは、高温多湿の雰囲気下で電界が印加されると、電気回路や電極にマイグレーションと称する銀の電析を生じ、導体パターンによって形成される電極間または配線間に短絡現象が発生するという欠点が生じる。このマイグレーションを防止するための対策手段として、例えば、銀粉の表面に防湿塗料を塗布することや、導電性ペーストに含窒素化合物などの腐食抑制剤を添加する等の手法が知られているが、十分な効果の得られるものではなかった(特許文献1参照)。また、導電性の高い導体を得るには銀粉の配合量を増加しなければならず、銀粉が高価であることから導電性ペーストも高価になるという欠点があった。
【0008】
また、銅粉を含有する導電性ペーストは、加熱硬化後の銅の被酸化性が高いため、空気中及びバインダ中に含まれる酸素と銅粉が反応し、その表面に酸化膜を形成し、導電性を著しく低下させる。その対策として、特許文献2には、各種添加剤を加えて、銅粉の酸化を防止し、導電性を安定させた銅ペーストが開示されている。しかし、その導電性が銀ペーストには及ばず、また保存・安定性にも欠点があった。
【0009】
更に、マイグレーションを改善し、安価な導電性ペーストを得るために、銀メッキ銅粉を使用した導電性ペーストが提案されている(特許文献3、特許文献4参照)。しかし、銀を均一に、かつ、厚く被膜すると、マイグレーションの改善効果が十分に得られない場合がある。逆に、薄く被膜すると、良好な導電性確保のために導電粉の充てん量を増加させる必要があり、その結果、相対的なバインダ成分の減少に伴う接着力(接着強度)の低下が起こるという問題が生じる場合があった。
【0010】
また、従来の導電性ペーストでは、特に、フレキシブル配線を作成する際に、そのしなりに対応することができず、割れが生じることがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2001−189107号公報
【特許文献2】特開平5−212579号公報
【特許文献3】特開平7−138549号公報
【特許文献4】特開平10−134636号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、導電性の高い導体パターンを形成するのに適した導電性組成物、それを用いた電子デバイス、及び、電子デバイスの製造方法を提供することである。
【0013】
本発明のもう一つの課題は、銀マイグレーション、及び、銅の酸化による導電性低下を防止することのできる導電性組成物、それを用いた電子デバイス、及び、電子デバイスの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、上述した課題を解決するのに適した導電性組成物、それを用いた電子デバイス、及び、電子デバイスの製造方法を開示する。
【0015】
<導電性組成物>
本発明は、導体パターン用導電性組成物について、2つの態様を開示する。
【0016】
<第1の態様に係る導体パターン用導電性組成物>
第1の態様に係る導体パターン用導電性組成物は、樹脂と、導電性金属粒子を含む。前記導電性粒子は、高融点金属粒子と、低融点金属粒子とを含む。前記高融点金属粒子は、Ag、Cu、Au、Pt、Ti、Zn、Al、Fe、Si、または、Niの群から選択された少なくても1種を含む。前記低融点金属粒子は、コンポジット構造を有し、Sn、In、Biの群から選択された少なくても1種を含む。
【0017】
本発明において、コンポジット構造とは、単結晶、多結晶、アモルファスから選択された少なくとも1種が含有された複合体を指す。好ましくは、多結晶、及び、単結晶を含む複合体である。
【0018】
上述したように、第1の態様に係る導電性組成物は、樹脂と、導電性金属粒子を含むから、導電性ペーストとして、基板等に塗布すると、比重の大きい導電性金属粒子が沈降し、導電層と、樹脂層の2層に分かれる。
【0019】
次に、基板に塗布した後、熱処理を施す。熱処理にあたっては、低融点金属粒子の融点より高く、高融点金属粒子の融点より低い温度で加熱する。この熱処理により、低融点金属粒子のみが溶解する。これにより、導電性金属粒子でなる導電層は、高融点金属粒子の間隙が、溶解した低融点金属粒子によって埋められた充てん構造を形成し、樹脂を含有しない導電層となるので、金属間結合により導電性が飛躍的に向上する。
【0020】
樹脂は、導電層の一面上に絶縁層として存在し、保護膜を構成する。したがって、保護膜を塗布するための別工程が不要である。
【0021】
第1の態様に係る高融点金属粒子は、Ag、Cu、Au、Pt、Ti、Zn、Al、Fe、Si、または、Niのうち少なくても1種を含むもので構成される。
【0022】
従来、Agを金属粒子として導電性ペースト中に含有させた場合、マイグレーションによる導電性の低下が問題とされていた。これに対して、第1の態様に係る導電性組成物を導電性ペーストとして使用した際には、絶縁層と導電層の2層に分かれるため、高融点金属粒子としてAgを使用した場合も、導電層では、Agの表面を低融点金属粒子が被覆し、更に、導電性組成物全体では、導電層を絶縁層が被覆する。この構成により、Agのマイグレーションを確実に防止することができる。
【0023】
また、Cuを金属粒子として導電性ペースト中に含有させた場合、従来は、酸化による導電性低下が問題とされていた。この点については、既に述べたとおりである。
【0024】
これに対して、本発明によれば、高融点金属粒子としてCuを使用した場合にも、Agを用いたときと同様に、低融点金属粒子の溶融によってCuが被覆され、更に絶縁層によって導電層が被覆される。これにより、加熱硬化後の銅の酸化が防止される。
【0025】
第1の態様に係る導電性金属粒子において、低融点金属粒子は、コンポジット構造を有する。コンポジット構造を有する低融点金属粒子は、導体パターンとして用いるとき、溶融時にも、異なる結晶構造が混合せずに共存するため、割れによる断線を防止することができる。
【0026】
第1の態様に係る導電性組成物は、粉状、または、ペースト状であってもよい。導電性組成物が粉状の場合、溶剤を添加することによって、導電性ペーストとして使用することができる。また、熱硬化性樹脂として低融点のものを使用し、使用時に加熱して溶解させることで、導電性ペーストとして使用してもよい。
【0027】
第1の態様に係る導電性組成物がペースト状の場合は、導電性ペーストとして使用することが可能である。導電性ペーストは、粉体に溶剤を添加して製造されたものでもよく、樹脂として液状のものを添加されたものでもよい。
【0028】
好ましくは、導電性粒子全量に対し、高融点金属粒子の割合は、50〜80重量パーセントであり、低融点金属粒子の割合は、20〜50重量パーセントである。導電性粒子全量に対する高融点金属粒子の割合は、50重量パーセント未満であると、その高い導電性を、導電性組成物全体に寄与することができない。また、導電性粒子全量に対する高融点金属粒子の割合が、80重量パーセントより大きいと、低融点金属粒子の割合が少ないため、高融点金属粒子が低融点金属粒子によって被膜されないこと、及び、導電層に隙間や生じる等の問題が生じ、Agマイグレーションや、銅の酸化を防止することができない。
【0029】
好ましくは、樹脂100重量部に対し、導電性金属粒子の割合は、80〜98重量パーセントである。樹脂100重量部に対する導電性金属粒子の割合は、98重量パーセントよりも大きいと、導電性金属粒子が凝集し、導電性組成物中に均一に分散させることができない。また、樹脂100重量部に対する導電性金属粒子の割合は、80重量パーセントより小さいと、導電性ペーストとして使用したとき、全体として有効な導電性を得ることができない。
【0030】
高融点金属粒子として、好ましい粒径は、20μm未満である。この範囲の粒径を持つ高融点金属粒子を、導体パターン用導電性組成物に用いることによって、2つのメリットが生じる。第1のメリットとして、印刷法を用いて導体パターンを形成する場合、要求される導体パターンの形状を正確に作成することができることである。なぜなら、微小で込み入った形状の導体パターンを形成するとき、粒径が大きいと、スクリーンの目も大きくならざるを得ないから、高精度のパターンを形成することができないからである。
【0031】
第2のメリットとして、高融点金属粒子の粒径を微小なサイズとすることによって、薄い導体パターンを作成できることが挙げられる。粒径が20μmより大きい高融点金属粒子を使用すると、厚みのある配線となるため、フレキシブル配線を作成する際に、そのしなりに対応することができず、割れが生じる。そこで、高融点金属粒子の粒径を微小なサイズとすることで、配線の厚みを薄くし、割れを防止する。
【0032】
本発明に係る樹脂は、熱硬化性樹脂、または、熱可塑製樹脂のうち少なくても1種を含むもので構成される。熱硬化性樹脂を使用する場合、その硬化点は、低融点金属粒子の融点より高く、高融点金属粒子の融点より低いものが好ましい。
【0033】
好ましくは、樹脂は、エポキシ樹脂、アクリレート樹脂、フェノール樹脂のうち少なくても1種を含むものである。エポキシ樹脂、アクリレート樹脂、フェノール樹脂、のうち少なくても1種を含むものを使用することにより、本発明に係る導電性組成物は、高い導電性を示す。本発明に係る導電性組成物は、導電性酸化物を含有していてもよい。
【0034】
第1の態様に係る導電性組成物において、樹脂として熱硬化性樹脂を用いた場合、前記熱硬化樹脂の硬化点は、前記低融点金属粒子の融点より高く、前記高融点金属粒子の融点より低い値に設定する。この場合、低融点金属粒子、又は、高融点金属粒子は、限定されるものではなく、上述したものの他からも選択することができる。
【0035】
<第2の態様に係る導体パターン用導電性組成物>
第2の態様に係る導体パターン用導電性組成物は、熱硬化性樹脂と、導電性金属粒子を含む。前記導電性粒子は、高融点金属粒子と、低融点金属粒子とを含んでいる。前記低融点金属粒子は、コンポジット構造を有し、前記熱硬化樹脂の硬化点は、前記低融点金属粒子の融点より高く、前記高融点金属粒子の融点より低い。
【0036】
上述したように、第2の態様に係る導体パターン用導電性組成物は、熱硬化性樹脂と、導電性金属粒子を含むから、導電性ペーストとして、導体パターンの形成に当たり、基板等に塗布した際に、比重の大きい導電性金属粒子が沈降する。
【0037】
また、前記導電性粒子は、高融点金属粒子と、低融点金属粒子とを含み、前記熱硬化性樹脂の硬化点は、前記低融点金属粒子の融点より高く、前記高融点金属粒子の融点より低い。そのため、加熱していくと、まず、沈降した導電性金属粒子中、低融点金属粒子のみが溶解し、高融点金属粒子を被覆し、導電層を形成する。更に加熱すると、熱硬化性樹脂の硬化が開始され、導電層の一面上に絶縁層を形成する。この構成により、導電層は、絶縁物が含有されない層となるため、導電性ペーストとして使用すると、導電性の高い導体パターンを得ることができる。
【0038】
第2の態様に係る導電性組成物も粉状、または、ペースト状であってもよく、導電性ペーストとして使用することができる。
【0039】
溶剤としてブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート、ブチルセロソルブ、メチルイソブチルケトン、トルエン、または、キシレンのような公知の有機溶媒を使用してもよい。
【0040】
<電子デバイス>
本発明に係る電子デバイスは、回路基板と、導体パターンとを含む。前記導体パターンは、前記回路基板上に設けられ導電層と、絶縁層の2層を含み、前記絶縁層は、前記導電層の一面上に存在し、前記導電層は、高融点金属粒子と、低融点金属粒子とを含み、前記高融点金属粒子は、Ag、Cu、Au、Pt、Pd、Ir、Al、または、Niのうち少なくても1種を含んでおり、前記低融点金属粒子は、コンポジット構造を有し、Sn、In、Biの群から選択された少なくても1種を含む。
【0041】
本発明に係る電子デバイスは、本発明に係る導電性組成物を使用した構造であるため、導電性組成物の有する作用効果をそのまま奏することができる。
【0042】
本発明における好ましい導体パターンの例として、フレキシブル配線パターンが挙げられる。好ましい回路基板として、PETフィルムが挙げられる。
【0043】
本発明における導電性組成物は、低融点金属粒子がコンポジット構造を有するため、溶融時にも異なる結晶構造が混合せずに共存するため、フレキシブル配線パターンに使用しても、そのしなりに対応し、断線を防止する。
【0044】
本発明に係る電子デバイスには、センサモジュール、光電気モジュール、ユニポーラトランジスタ、MOS、FET、CMOS、FET、メモリーセル、FC(Field Complementary)のチップ、もしくは、それらの集積回路部品(IC)、または、各種スケールのLSI等、凡そ、電子回路を機能要素とするほとんどのものが含まれ得る。
【0045】
本発明に係る電子デバイスの製造方法は、回路基板上に、本発明に係る導電性組成物を塗布し、次に、100〜300℃で熱処理を行う工程を含む。上記製造方法によれば、上述した本発明に係る電子デバイスを製造できることは明らかである。
【0046】
また、100〜300℃で熱処理を行う工程を含むことにより、回路基板として、PETフィルムを使用する際にも、熱による損傷を防止することができる。
【0047】
本発明の他の目的、構成及び利点については、添付図面を参照し、更に詳しく説明する。添付図面は、単に、例示に過ぎない。
【発明の効果】
【0048】
以上述べたように、本発明によれば、次のような効果を得ることができる。
(1)導電性の高い導体パターンを形成するのに適した導電性組成物、及び、これを用いた電子デバイスを提供することができる。
(2)銀マイグレーション、及び、銅の酸化による導電性低下を防止することのできる導電性組成物、及び、これを用いた電子デバイスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明に係る導電性組成物の一部拡大図である。
【図2】図1に示した導電性組成物を塗布した構造の断面図である。
【図3】図2に示した製造物の加熱処理の後を示す図である。
【図4】図3の一部拡大図である。
【図5】本発明に係る高融点金属粒子、又は、低融点金属粒子を製造する際に用いられる遠心式粒状化装置の構成を概略的に示す図である。
【図6】実施例1で得られた電子デバイスの断面写真である。
【図7】比較例で得られた電子デバイスの断面写真である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0050】
図1は、本発明に係る(第1の態様)導電性組成物の一部拡大図である。図1を参照すると、本発明に係る導電性組成物1は、樹脂2と、導電性金属粒子3を含み、導電性粒子3は、高融点金属粒子4と、低融点金属粒子5とを含み、高融点金属粒子4は、前記高融点金属粒子は、Ag、Cu、Au、Pt、Pd、Ir、Al、または、Niのうち少なくても1種を含んでおり、低融点金属粒子5は、コンポジット構造を有し、Sn、In、Biの群から選択された少なくても1種を含む。
【0051】
本発明に係る導電性組成物は、電子デバイスの製造に用いることができる。製造に当たっては、まず、回路基板上に本発明に係る導電性組成物を導電性ペーストとして塗布する。図2は図1に示した導電性ペーストを塗布した直後の電子デバイスの一部を示す断面図である。図2に示すように、回路基板上に塗布された導体パターン7は、樹脂2と、導電性金属粒子3を含む。樹脂2と導電性金属粒子3とでは、導電性金属粒子3の方が比重が大きいから、回路基板6に塗布した際に、比重の大きい導電性金属粒子3が沈降する。
【0052】
次に、導電性ペーストを塗布した回路基板を、100℃〜300℃で加熱する。図3は、図2に示した電子デバイスの加熱処理の後を示す図であり、図4は、図3の一部拡大図である。導電性金属粒子3は、高融点金属粒子4と、低融点金属粒子5とを含むから、100℃〜300℃で加熱すると、低融点金属粒子5のみが溶解する。すると、沈降した導電性金属粒子3は、溶解した低融点金属粒子5によって、高融点金属粒子4の間隙が埋められた充てん構造を形成し、樹脂2を含有しない導電層8となるので、金属間結合により導電性が飛躍的に向上する。上述した構成により、樹脂2は、導電層8の一面上に絶縁層9として存在する。
【0053】
又、焼成温度を100℃〜300℃に設定することで、基板であるPETフィルムにダメージを与えることなく、導体パターンを製造することができる。
【0054】
また、高融点金属粒子4としてAgを使用すると、導電層8では、Agの表面を低融点金属粒子5が被覆し、更に、導体パターン7全体では、導電層8を絶縁層9が被覆する。この構成により、Agのマイグレーションを防止することができる。
【0055】
また、高融点金属粒子4としてCuを使用した際にも、同様に、低融点金属粒子5と、絶縁層9によるCuの被覆によって、加熱硬化後の銅の酸化を防止することができる。
図5は、本発明に係る低融点金属粒子を製造する際に用いられる遠心式粒状化装置の構成を概略的に示す図である。この遠心式粒状化装置では、アルゴン不活性ガス雰囲気中で、高融点金属粒子、又は、低融点金属粒子の原料となる金属、又は、合金の溶融物を高速回転する皿ディスク上に供給し、遠心力を作用させて小滴として飛散させ、ガス雰囲気との接触により急冷して球状粒子とする第1の工程が実行される。図を参照し、更に具体的に説明すると、粒状化室40は上部が円筒状、下部がコーン状になっており、上部に蓋41を有する。蓋41の中心部には垂直にノズル42が挿入され、ノズル42の直下には皿形回転ディスク43が設けられている。符号44は皿形回転ディスク43を上下に移動可能に支持する機構である。また、粒状化室40のコーン部分の下端には生成した粒子の排出管45が接続されている。ノズル42は、粒状化する原料(金属、又は、合金)を溶融する電気炉(高周波炉)46と、高周波加熱機47を接続し、更に、高周波加熱機47と、粒状化室40を接続する。
【0056】
電気炉(高周波炉)46は、原料供給器48から金属、又は、合金の供給を受け、融解を行う。混合ガスタンク49、50、51で所定の成分に調整された雰囲気ガスは配管により粒状化室40内部及び電気炉46上部にそれぞれ供給される。
【0057】
粒状化室40内の圧力は弁52、53及び排気装置54、電気炉46内の圧力は弁55及び排気装置56によりそれぞれ制御される。電気炉46の内圧を大気圧より若干高めに、粒状化室40の内圧を大気圧より若干低めに維持すれば、電気炉46で溶融した金属は差圧によりノズル42から皿形回転ディスク43上に供給される。供給された金属は皿形回転ディスク43による遠心力の作用で微細な液滴状になって飛散し、冷却されて固体粒子になる。生成した固体粒子は排出管45から自動フィルター57に供給され分別される。符号58は微粒子回収装置である。
【0058】
高速回転体が円盤状又は円錐状の場合は、溶融金属が回転体のどの位置に供給されるかによって溶融金属にかかる遠心力が大きく異なるので、粒の揃った球状粉体を得にくい。高速回転する皿形ディスク上に供給した場合は、その皿形の周縁位置における均一な遠心力を受け粒の揃った小滴に分散して飛散する。飛散した小滴は雰囲気ガス中で急速に冷却し、固化した小粒となって落下し、回収される。得られた生成物は、20μm以下の粒子である。
【0059】
上記のような装置を用いて溶融物を粉末化する研究を行うことにより、溶融物は急速冷却固化中に自己組織化され、個々の微小粒子が点在物、或いは空隙などにより相互に隔離され、単結晶体、多結晶体、アモルファスから選択される少なくとも1種を含むコンポジット構造を有する微小粒子の集合体になること、及び原料の組成及び雰囲気ガスの種類によって、個々の微小粒子は、点在物、或いは空隙などにより相互に隔離されたものとなることが知られている。なお自己組織化とは、均一相である溶融物が、その分散、急速冷却固化過程で、自動的にコンポジット構造を形成することを言う。
【0060】
皿形ディスクの回転数が高くなるほど、得られた粒子の径は小さくなる。内径35mm、深さ5mmの皿形ディスクを用いた場合、平均粒径200μm以下の粒子を得るためには毎分30,000回転以上とすることが望ましい。
【0061】
粒状化室に供給する雰囲気ガスの温度は室温でよいが、長時間連続操業する場合には、溶融物の小滴の急冷効果を維持するため、粒状化室内温度が100℃以下になるように通気量を制御することが望ましい。尚、遠心式粒状化装置は、本発明に係る高融点金属粒子の作成にも用いられる。
【0062】
1.実施例1
(1)導電性組成物の製造
まず、図5に記載された遠心式粒状化装置を用いて、高融点金属粒子、及び、低融点金属粒子を製造した。高融点金属粒子の原料としてはCuを使用し、低融点金属粒子として、In/Sn合金を使用した。In/Sn合金は、In50wt%、Sn50wt%の組成のものを用いた。
次に、樹脂としてエポキシ樹脂、高融点金属粒子として、前工程で得られたCu粒子、低融点金属粒子として、コンポジット構造を有するIn/Sn合金粒子(粒径20μm)を混合し導電性ペーストを製造した。
導電性粒子全量に対する高融点金属粒子の割合は、50重量パーセントであり、低融点金属粒子の割合は、50重量パーセントであった。
また、樹脂100重量部に対し、導電性金属粒子の割合は、95重量パーセントであった。
【0063】
(2)電子デバイスの製造
基板として、合成樹脂(例えばPET)を基材とする厚さ50μmのものを使用した。
次に、得られた導電性ペーストをパターン幅0.35mm、ギャップ幅0.15mmにスクリーン印刷し、その後150〜210度で30分熱処理を行い、電極を製造した。又、
熱処理を、150〜210度で行ったため、基板であるPETフィルムにダメージがないことが確認できた。
【0064】
更に、得られた電極の比抵抗値(Ω・cm)を、膜厚、パターン幅及びパターン長さより算出した。
【0065】
図6は、実施例1で得られた電子デバイスの断面写真である。得られた電子デバイスは、基板と、配線パターンを含む。配線パターンは、絶縁層、導電層の2層に分かれ、導電層の表面を絶縁層が被膜している。又、導電層では、低融点金属が融解して固化したため、隙間や断線等がない構造を取ることが分かる。又、高融点金属粒子の融点未満の温度で熱処理を行ったにも関わらず、その形状が確認できないため、高融点金属粒子は、融解した低融点金属粒子に被膜されていることが確認できる。
【0066】
2.実施例2
実施例1で用いた高融点金属粒子、低融点金属粒子、及び、エポキシ樹脂を使用して同様に導電性ペーストを作成した。得られた導電性ペーストの組成は、表1に記載されたものであった。
【0067】
更に、得られた導電性ペーストを用いて、実施例1と同様の方法で電子デバイスを製造し、得られた電極の比抵抗値(Ω・cm)を算出した。
【0068】
3.実施例3
実施例1で用いた高融点金属粒子、低融点金属粒子、及び、エポキシ樹脂を使用して同様に導電性ペーストを作成した。得られた導電性ペーストの組成は、表1に記載されたものであった。
【0069】
更に、得られた導電性ペーストを用いて、実施例1と同様の方法で電子デバイスを製造し、得られた電極の比抵抗値(Ω・cm)を算出した。
【0070】
4.比較例1
銀粒子、及び、エポキシ樹脂を使用して導電性ペーストを作成した。得られた導電性ペーストの組成は、表1に記載されたものであった。
更に、得られた導電性ペーストを用いて、実施例1と同様の方法で電子デバイスを製造した。
【0071】
図7は、比較例で得られた電子デバイスの断面写真である。この断面写真により、銀粒子は、その表面を被膜されることなく、個々に存在することが分かる。更に、樹脂に断線部が見られ、銀マイグレーションが起こったことが確認できる。
【0072】
5.比較例2
高融点金属粒子としてCu粒子、低融点金属粒子として粒径20μmのIn/Sn合金、及び、実施例1で用いたエポキシ樹脂を使用して導電性ペーストを作成した。得られた導電性ペーストの組成は、実施例1と同様であった。又、In/Sn合金は、コンポジット構造を含有しないものを使用した。
【0073】
【表1】

【0074】
A:導電性粒子全量に対する高融点金属粒子の割合(重量パーセント)
B:導電性粒子全量に対する低融点金属粒子の割合(重量パーセント)
C:樹脂100重量部に対する導電性金属粒子の割合(重量パーセント)
表1は、実施例1〜3、及び、比較例で製造した導電性ペーストの組成を示したものである。
<導電性試験>
【0075】
【表2】

【0076】
表2は、実施例1〜3で製造された電子デバイスの導電性を示す表である。表に示したように、実施例1〜3で製造された全ての電子デバイスは良好な導電性を示した。
【0077】
<実施例、及び、比較例の対比>
表1、及び、表2より、実施例1〜3は、良好な導電性を示した。このことにより、実施例1〜3では、銅の酸化を防止できたことが分かる。更に、図5の断面写真により、実施例1〜3では、樹脂層と、導電層の2層に分かれ、絶縁層の表面を樹脂層が被膜している。又、絶縁層では、低融点金属が融解して固化したため、隙間や断線等がない構造を取ることが分かる。
【0078】
これに対して、比較例では、図6の断面写真に示されたように、銀粒子が、その表面を被膜されることなく、個々に存在しているため、銀マイグレーションが起こったことが分かる。図6の中間部に現れた暗色部分が銀マイグレーションによる断線部分を示している。
【0079】
<強度試験>
次に、実施例1〜3で製造された導電性ペーストと、比較例2で製造された導電ペーストをそれぞれPETフィルムに塗布し、そのPETフィルムを何回折り曲げると、断線が生じるかを測定する強度試験を行った。加える荷重や、塗布する厚さ、室温等の実験条件は同一とした。
【0080】
比較例2の導電性ペーストを塗布したPETフィルムは、50回を超過する折り曲げを行うと、断線が生じた。
【0081】
実施例1〜3は、50回の折り曲げでは断線を生じることはなく、5000回を超過する折り曲げによって、初めて断線が生じた。
【0082】
以上の結果から、本発明に係る導体パターン用導電性組成物は、Ag、Cu、Au、Pt、Ti、Zn、Al、Fe、Si、または、Niの群から選択された少なくても1種を含む高融点金属粒子と、Sn、In、Biの群から選択された少なくても1種を含む低融点金属粒子とを含有していても、低融点金属粒子がコンポジット構造を含有していないと、フレキシブル配線を作成する際に、そのしなりに対応し、断線を防止することができないことが分かった。
【0083】
以上、好ましい実施例を参照して本発明の内容を具体的に説明したが、本発明の基本的技術思想及び教示に基づいて、当業者であれば、種々の変形態様を採り得ることは自明である。
【符号の説明】
【0084】
1 導電性組成物
2 樹脂
3 導電性金属粒子
4 高融点金属粒子
5 低融点金属粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂と、導電性金属粒子とを含む導体パターン用導電性組成物であって、
前記導電性粒子は、高融点金属粒子と、低融点金属粒子とを含んでおり、
前記高融点金属粒子は、Ag、Cu、Au、Pt、Ti、Zn、Al、Fe、Si、または、Niの群から選択された少なくても1種を含んでおり、
前記低融点金属粒子は、コンポジット構造を有し、Sn、In、Biの群から選択された少なくても1種を含む、
導体パターン用導電性組成物。
【請求項2】
請求項1に記載された導体パターン用導電性組成物であって、
前記樹脂は、熱硬化性樹脂であり、硬化点が、前記低融点金属粒子の融点より高く、前記高融点金属粒子の融点より低い、
導体パターン用導電性組成物。
【請求項3】
熱硬化性樹脂と、導電性金属粒子を含む導体パターン用導電性組成物であって、
前記導電性粒子は、高融点金属粒子と、低融点金属粒子とを含んでおり、
前記低融点金属粒子は、コンポジット構造を有し、
前記熱硬化樹脂の硬化点は、前記低融点金属粒子の融点より高く、前記高融点金属粒子の融点より低い、
導体パターン用導電性組成物。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れかに記載された導電性組成物であって、粉状又はペースト状である、導電性組成物。
【請求項5】
回路基板と、導体パターンとを含む電子デバイスであって、
前記導体パターンは、前記回路基板上に設けられ、導電層と、絶縁層とを含んでおり、
前記絶縁層は、前記導電層の一面上に存在しており、
前記導電層は、高融点金属粒子と、低融点金属粒子とを含んでおり、
前記高融点金属粒子は、Ag、Cu、Au、Pt、Ti、Zn、Al、Fe、Si、または、Niの群から選択された少なくても1種を含んでおり、
前記低融点金属粒子は、コンポジット構造を有し、Sn、In、Biの群から選択された少なくても1種を含む、
電子デバイス。
【請求項6】
回路基板と、導体パターンとを含む電子デバイスの製造方法であって、
回路基板上に、請求項1乃至4のいずれかに記載された導電性組成物を塗布し、
次に、100〜300℃で熱処理を行う、
工程を含む、製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−142093(P2011−142093A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−12071(P2011−12071)
【出願日】平成23年1月24日(2011.1.24)
【分割の表示】特願2007−227516(P2007−227516)の分割
【原出願日】平成19年9月3日(2007.9.3)
【出願人】(504034585)有限会社ナプラ (55)
【Fターム(参考)】