説明

導電性被膜およびその製造方法、ならびにフレキシブル配線基板

【課題】 優れた導電性を有する導電性被膜、その製造方法、およびこの導電性被膜を用いたフレキシブル配線基板を提供する。
【解決手段】 銀酸化物粒子と三級脂肪酸銀塩のいずれか一方または両方を含む導電性組成物からなる膜を可撓性基板5上に形成し、この導電性組成物を加熱して導電性被膜7とし、導電性被膜7を押圧部材10によって押圧することにより押し固める。導電性被膜7を押圧することによって、導電性被膜7の導電性を高めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレキシブル配線基板などの配線基板に用いられる導電性被膜、その製造方法、およびフレキシブル配線基板に関する。
【背景技術】
【0002】
配線基板の製造方法としては、基板上に導電性組成物を塗布し、これを加熱することによって、回路パターンをなす導電性被膜を形成する方法がある(例えば、特許文献1を参照)。
導電性組成物は、銀などの金属からなる導電性粒子を含むものであり、この製造方法では、加熱により導電性粒子どうしを融着させることによって導電性被膜を形成することができる。
高い導電性を有する導電性被膜を形成するには、充分な加熱時間が必要となる。例えば加熱温度が150〜180℃である場合は、加熱時間30分以上が好ましい。このため、一般に、ボックス型の加熱炉を用いた回分式の処理が採用されている。
【特許文献1】特開2003−308730号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
近年、可撓性基板を用いた配線基板が多く用いられている。この種の配線基板は、長尺の可撓性基板上に導電性被膜を形成した後、この長尺の配線基板を所定の大きさに切断することによって製造することができる。
この製造方法をとる場合には、連続処理が可能な加熱炉を使用し、導電性組成物を塗布した可撓性基板を連続的に加熱炉に導入して加熱処理することによって導電性被膜を形成する。加熱処理時間は、基板の導入速度と加熱炉の長さによって定められる。
【0004】
しかしながら、従来の製造方法では、製造コストを考慮すると、導入速度を極端に低くすることはできず、長大な加熱炉を使用することも困難である。このため、加熱処理の時間が不十分となり、導電性被膜の導電性が不十分となることがあった。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、高い導電性を有し、かつ低コストで製造できる導電性被膜、その製造方法、およびこの導電性被膜を用いたフレキシブル配線基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の請求項1に係る導電性被膜の製造方法は、銀酸化物粒子と三級脂肪酸銀塩のいずれか一方または両方を含む導電性組成物を膜状に形成し、この導電性組成物を加熱して導電性被膜とする加熱工程と、前記導電性被膜を押し固める押圧工程とを含むことを特徴とする。
本発明の請求項2に係る導電性被膜の製造方法は、請求項1において、前記押圧工程では、銀に比べ表面硬度が高い押圧部材によって前記導電性被膜を押圧することにより押し固めることを特徴とする。
本発明の請求項3に係る導電性被膜の製造方法は、請求項2において、前記押圧工程では、前記押圧部材を用いて導電性被膜をラビング処理することを特徴とする。
本発明の請求項4に係る導電性被膜の製造方法は、請求項2または3において、前記押圧部材の、少なくとも導電性被膜に当接する部分が、ステンレス鋼、ニッケル、クロムのうち1または2以上からなることを特徴とする。
本発明の請求項5に係る導電性被膜は、請求項1〜4のうちいずれか1項に記載の導電性被膜の製造方法によって形成されたものであることを特徴とする。
本発明の請求項6に係るフレキシブル配線基板は、請求項5に記載の導電性被膜が可撓性基板上に形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明の導電性被膜の製造方法は、導電性被膜を押し固める押圧工程を有するので、導電性被膜内の銀粒子が密に充填された状態となり、銀粒子どうしの接触面積が大きくなる。このため、銀粒子間の電気抵抗が低くなり、導電性被膜の導電性が高められる。
さらには、加熱工程における加熱時間を短縮できるため、大型の加熱炉を使用することなく生産性を高めることができる。従って、製造コストの点で有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の導電性被膜の第1の例は、銀酸化物粒子と三級脂肪酸銀塩とを分散媒に加えたものである。
銀酸化物粒子は、加熱により還元されて単体の銀(金属銀)となる性質を有する。銀酸化物粒子は、酸化銀(I)、酸化銀(II)、酢酸銀、炭酸銀などからなるものが好ましい。これらは単独で使用してもよいし、2以上を併用することもできる。
銀酸化物粒子の平均粒径は、0.01〜10μmが好ましい。特に、0.5μm以下であることが望ましい。平均粒径をこの範囲とすることによって、分散媒に対する分散性を高めるとともに、加熱時の還元反応速度を高めることができる。
銀酸化物粒子は、銀化合物と他の化合物とを反応させる液相法によって製造できる。例えば酸化銀からなる銀酸化物粒子は、硝酸銀水溶液にアルカリ水溶液(水酸化ナトリウム水溶液など)を滴下する方法により製造できる。
【0008】
三級脂肪酸銀塩は、総炭素数が5〜30、好ましくは10〜30の三級脂肪酸の銀塩である。三級脂肪酸銀塩の具体例としては、ピバリン酸銀、ネオヘプタン酸銀、ネオノナン酸銀、ネオデカン酸銀などが挙げられる。これらは単独で使用してもよいし、2以上を併用することもできる。
【0009】
銀酸化物粒子と三級脂肪酸銀塩との配合割合は、銀酸化物粒子の重量をAとし、三級脂肪酸銀塩の重量をBとしたときに、重量比率(A/B)が1/4〜3/1であることが好ましい。
【0010】
分散媒としては、銀酸化物粒子および三級脂肪酸銀塩と反応を起こさず、銀酸化物粒子および三級脂肪酸銀塩を良好に分散するものであれば特に限定されない。
分散媒としては、エタノール、エタノール、プロパノール、テトラヒドロフラン、イソホロン、テルピネオール、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、ブチルセロソルブアセテートなどの有機溶剤を用いてもよいし、水を用いてもよい。
【0011】
上記第1の例の導電性被膜は銀酸化物粒子と三級脂肪酸銀塩の両方を含むが、本発明の導電性被膜は、銀酸化物粒子と三級脂肪酸銀塩のうちいずれか一方のみを使用してもよい。
【0012】
本発明の導電性被膜の第2の例は、銀酸化物粒子と三級脂肪酸銀塩とを分散媒に加え、さらに還元剤を添加したものである。
還元剤は、上記銀化合物(銀酸化物粒子と三級脂肪酸銀塩)を還元するものであり、この還元剤としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、エチレングリコールジアセチレート、ホルマリン、ヒドラジン、アスコルビン酸、各種アルコールなどが使用できる。これらは単独で用いてもよいし、2以上を併用してもよい。
還元剤の使用量は、上記銀化合物1モルに対し20モル以下、好ましくは0.5〜10モルとするのが好ましい。
【0013】
本発明の導電性被膜の第3の例は、銀酸化物粒子と三級脂肪酸銀塩とを分散媒に加え、さらに還元剤とバインダを添加したものである。
バインダとしては、多価フェノール化合物、フェノール樹脂、アルキッド樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂のうち1または2以上を使用することができる。
バインダの使用量は、銀化合物(銀酸化物粒子および/または三級脂肪酸銀塩)100重量部に対して0.2〜10重量部、好ましくは0.5〜5重量部が好適である。使用量がこの範囲より少ないと被膜の柔軟性が低下し、この範囲より多いと導電性が低下する。
【0014】
銀酸化物粒子を用いる場合には、セルロース誘導体を配合することもできる。
セルロース誘導体の配合によって、導電性組成物の保存安定性を高めることができる。
セルロース誘導体は、銀酸化物粒子を均一に分散する分散安定剤、および銀酸化物粒子の還元剤としても機能する。セルロース誘導体は、所定温度未満では銀酸化物粒子を還元せず、加熱により所定温度以上となると還元作用を示す。
セルロース誘導体としては、例えば、セルロース(C10を変性したヒドロキシプロピルセルロース;セルロースを変性したエチルヒドロキシエチルセルロース;セルロースの水酸基の水素が部分的にエチル基によって置換されたエチルセルロースなどが挙げられる。
セルロース誘導体は、銀酸化物粒子1モルに対し1モル以上に相当する量を配合するのが好ましい。
【0015】
長尺の可撓性基板上に、必要に応じてプライマ層を形成し、その上に上記導電性組成物を塗布し、膜状に形成する。この導電性組成物は、所定の回路パターンをなすように形成することができる。導電性組成物の塗布には、スクリーン印刷などの印刷法を採用できる。
可撓性基板としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)などのポリエステル、ポリイミドなどの樹脂からなるものを例示できる。
プライマ層は、導電性被膜の剥離を防止するためのもので、ポリエステル樹脂などからなる。
以下、この導電性組成物からなる膜を形成した可撓性基板を積層体と呼ぶ。
【0016】
図2に示すように、この積層体8を、連続的に加熱炉9に導入しつつ加熱処理する。
加熱炉9の加熱温度は、150℃以上とするのが好ましい。加熱温度をこの範囲とすることによって、導電性被膜の導電性を高めることができる。
可撓性基板の耐熱性およびコストの観点から、加熱温度は180℃以下が好ましい。
加熱処理は長時間行うのが好ましいが、生産性を考慮すると、長い加熱時間を確保するのが難しい場合がある。加熱時間は、例えば6〜12分とすることができる。
【0017】
積層体8が加熱炉9内を通過する過程で、導電性組成物中の銀酸化物粒子は還元され、銀粒子が生成する。三級脂肪酸銀塩は分解され、銀粒子が生成する。生成した銀粒子は、溶融や銀の析出により少なくとも一部が相互に融着し、高導電性の導電性被膜が形成される。
以下、このように、加熱により導電性被膜を形成する工程を加熱工程という。
【0018】
次に、可撓性基板上に形成した導電性被膜を押圧し、押し固める。導電性被膜を押圧する方法の一例を次に示す。
図1に示すように、可撓性基板5上にプライマ層6(接着剤層)を介して形成した導電性被膜7を、押圧部材10で押圧する。
導電性被膜7を押圧することによって、導電性被膜7は圧縮され、押し固められる。これによって、導電性被膜7内の銀粒子が密に充填された状態となり、銀粒子どうしの接触面積が大きくなる。このため、銀粒子間の電気抵抗が低くなり、導電性被膜7の導電性が高められる。
【0019】
押圧部材10としては、銀に比べ表面硬度が高いものを用いるのが好ましい。押圧部材10の表面硬度が銀の硬度以下である場合には、押圧部材10の一部が剥がれて導電性被膜7に付着し、汚れの原因となるおそれがある。
【0020】
押圧部材10は、少なくとも導電性被膜7に当接する部分が、ステンレス鋼、ニッケル、クロムのうち1または2以上からなるものを例示できる。これらの材料は、表面に不動態被膜を形成することができるため、押圧部材10の一部が剥がれて導電性被膜7に付着するのを防ぐことができる。
押圧部材10は、全体が上記材料からなるものを使用してもよいし、他の材料からなる本体の表面に、ニッケルまたはクロムからなるメッキ膜を形成したものを使用してもよい。
【0021】
押圧部材10の形状は、特に限定されないが、球状または円柱状が好適である。
押圧部材10が導電性被膜7を押圧する際の押圧力は、0.1N以上が好ましく、1N以上がさらに好ましい。
以下、このように、押圧部材10により導電性被膜7を押圧する工程を押圧工程という。
【0022】
この際、導電性被膜7を押圧した状態で押圧部材10を導電性被膜7に対して相対的に移動させることによって、導電性被膜7をラビング処理するのが好ましい。
例えば、図1に示すように、導電性被膜7を形成した可撓性基板5を、押圧部材10により押圧された状態で、この基板5に沿って移動させる方法によってラビング処理を行うことができる。ラビング処理とは、導電性被膜の表面を擦ることをいう。
ラビング処理によって、導電性被膜7内の銀粒子どうしの接触面積を大きくし、導電性をさらに高めることができる。また、ラビング処理により導電性被膜7の表面は平滑になり金属光沢が増す。
【0023】
導電性被膜7を押圧する方法は、上記方法に限定されない。
例えば、図3に示すように、導電性被膜7を形成した可撓性基板5を、2つの円筒状の押圧ローラ11、12(押圧部材)の間に通過させることによって、押圧ローラ11により導電性被膜7を押圧する方法も可能である。
【0024】
図4は、上記製造方法によって得られた導電性被膜7を備えたフレキシブル配線基板1を示すものである。
このフレキシブル配線基板1は、可撓性基板5上にプライマ層6を介して導電性被膜7を形成した基材2上に、接着剤層3を介してカバー部材4を形成した構成を有する。
カバー部材4は、可撓性を有する樹脂材料、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル、ポリイミドなどの樹脂からなるものを例示できる。
接着剤層3には、エポキシ樹脂などからなる接着剤が使用できる。
【0025】
導電性被膜7は、例えばRF−ID方式(RF:Radio-frequency、ID:Identification)のアンテナ回路を有する配線基板に適用することができる。
【実施例】
【0026】
[実施例1]
PETからなる可撓性基板5(厚さ75μm)(東レ製:ルミラーS10)の上に、プライマペースト(藤倉化成製:XB−3028)を印刷し、これを加熱炉9に導入し、乾燥させることによってプライマ層6(厚さ6μm)を形成した(加熱温度175℃、導入速度1m/min)。
酸化銀とネオデカン酸銀とを含む導電性組成物(藤倉化成製:XA−9053)を、幅1mm、長さ103cmのテスト回路をなすようにプライマ層6上に印刷し、積層体8を得た。
図2に示すように、この積層体8を、導入速度1m/minで連続的に加熱炉9(有効長さ7m)に導入し、加熱温度175℃で加熱処理した。加熱時間は7分とした(加熱工程)。
図1に示すように、ステンレス鋼からなる球状の押圧部材10(直径35mm)を押圧力20Nで導電性被膜7に押し当てた状態で、この導電性被膜7を形成した可撓性基板5を、この基板5に沿って移動させるラビング処理を10回行った(押圧工程)。
導電性被膜7の特性を調べた結果を表1に示す。
【0027】
[実施例2]
押圧部材10を用いたラビング処理を行わず、図3に示す押圧ローラ11、12(ステンレス鋼製)を用いて導電性被膜7を押圧する方法を採用すること以外は実施例1と同様にして導電性被膜7を処理した。
導電性被膜7を形成した積層体8を押圧ローラ11、12間に導入する際の導入速度は0.5m/minとし、押圧ローラ11、12による押圧力は5kg/cmとした。導電性被膜7の特性を調べた結果を表1に示す。
【0028】
[比較例1]
押圧工程を行わないこと以外は実施例1と同様にして積層体8を作製した。導電性被膜7の特性を調べた結果を表1に示す。
【0029】
[比較例2]
押圧工程を行わないこと以外は実施例1と同様にして積層体8を作製した。この積層体8を、ボックス型加熱炉を用いて、銀が融着する温度で加熱処理した(加熱温度は150℃とし、加熱時間は60分とした)。導電性被膜7の特性を調べた結果を表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
表1より、押圧を行わない比較例1に比べ、押圧を行った実施例1、2では、加熱時間が短いにもかかわらず、長時間の加熱を行った比較例2と同レベルの高い導電性を有する導電性被膜7を形成することができた。
実施例1、2の導電性被膜7は、金属光沢を有し、外観の点でも優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、フレキシブル配線基板、例えばメンブレン回路を有するメンブレン配線基板を備えた各種電子機器に適用できる。
特に、RF−ID方式(RF:Radio-frequency、ID:Identification)のアンテナ回路を有する配線基板に好適に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の導電性被膜の製造方法の一例を説明する説明図である。
【図2】本発明の導電性被膜の製造方法の一例を説明する説明図である。
【図3】本発明の導電性被膜の製造方法の他の例を説明する説明図である。
【図4】本発明のフレキシブル配線基板の一例を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0034】
1…フレキシブル配線基板、5…可撓性基板、7…導電性被膜、9…加熱炉、10…押圧部材、11、12…押圧ローラ(押圧部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀酸化物粒子と三級脂肪酸銀塩のいずれか一方または両方を含む導電性組成物を膜状に形成し、この導電性組成物を加熱して導電性被膜とする加熱工程と、
前記導電性被膜を押し固める押圧工程とを含むことを特徴とする導電性被膜の製造方法。
【請求項2】
前記押圧工程において、銀に比べ表面硬度が高い押圧部材によって前記導電性被膜を押圧することにより押し固めることを特徴とする請求項1に記載の導電性被膜の製造方法。
【請求項3】
前記押圧工程において、前記押圧部材を用いて導電性被膜をラビング処理することを特徴とする請求項2に記載の導電性被膜の製造方法。
【請求項4】
前記押圧部材は、少なくとも導電性被膜に当接する部分が、ステンレス鋼、ニッケル、クロムのうち1または2以上からなることを特徴とする請求項2または3に記載の導電性被膜の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のうちいずれか1項に記載の導電性被膜の製造方法によって形成されたものであることを特徴とする導電性被膜。
【請求項6】
請求項5に記載の導電性被膜が可撓性基板上に形成されていることを特徴とするフレキシブル配線基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−314913(P2006−314913A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−139575(P2005−139575)
【出願日】平成17年5月12日(2005.5.12)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】