説明

導電性高分子合成用酸化剤兼ドーパント、そのアルコール溶液、それらを用いて合成した導電性高分子およびその導電性高分子を固体電解質として用いた固体電解コンデンサ

【課題】 アルコール溶液の状態でも、一定期間以上沈澱が生じない導電性高分子合成用酸化物兼ドーパントを提供し、該酸化剤兼ドーパントまたはそのアルコール溶液を用いて、導電性が高く、耐熱性が優れた導電性高分子を提供し、また、それを固体電解質として用いて高温・高湿条件下における信頼性が高い固体電解コンデンサを提供する。
【解決手段】 一般式(1)
【化1】


(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基またはアルコキシ基を表す)
で表わされ、ベンゼン環におけるR基とSOH基とがパラ位に位置するものが、全体の90モル%以上であるベンゼンスルホン酸誘導体の第二鉄塩で、水分含率が5質量%以下のもので酸化物兼ドーパントを構成し、また、上記酸化剤兼ドーパント、あるいはそのメタノール、エタノールまたはn−ブタノール溶液を用いて、チオフェンまたはその誘導体を重合させて導電性高分子を合成し、それを固体電解質として用いた固体電解コンデンサを構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性高分子合成用酸化剤兼ドーパント、そのアルコール溶液、それらを用いて合成した導電性高分子およびその導電性高分子を固体電解質として用いた固体電解コンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
導電性高分子は、その高い導電性により、例えば、アルミニウムコンデンサ、タンタルコンデンサの固体電解コンデンサなどの固体電解質として用いられている。
【0003】
この用途における導電性高分子としては、例えば、チオフェンまたはその誘導体などを化学酸化重合または電解酸化重合することによって得られたものが用いられている。
【0004】
上記チオフェンまたはその誘導体などの化学酸化重合を行う際のドーパントとしては、主に有機スルホン酸が用いられ、その中でも、芳香族スルホン酸が適しているといわれており、酸化剤としては、遷移金属が用いられ、その中でも第二鉄が適しているといわれて、通常、芳香族スルホン酸の第二鉄塩がチオフェンまたはその誘導体などの化学酸化重合にあたって酸化剤兼ドーパント剤として用いられている。
【0005】
そして、その芳香族スルホン酸の第二鉄塩の中でも、トルエンスルホン酸第二鉄塩やメトキシベンゼンスルホン酸第二鉄塩などが特に有用であるとされている(特許文献1、特許文献2)。
【0006】
しかしながら、トルエンスルホン酸第二鉄塩を酸化剤兼ドーパントとして用いて得られた導電性高分子は、初期抵抗値や耐熱性において、充分に満足できる特性が得られていなかった。また、メトキシベンゼンスルホン酸第二鉄を酸化剤兼ドーパントとして用いて得られた導電性高分子は、トルエンスルホン酸第二鉄塩を用いた導電性高分子に比べて、初期抵抗値が低く、耐熱性も優れているが、それでも、充分に満足できる特性は得られなかった。
【0007】
これは、トルエンスルホン酸第二鉄塩やメトキシベンゼンスルホン酸第二鉄塩は、固体であるため、一般にアルコールに溶解された状態で用いられるが、これらの溶液は、保存している間に沈殿が生じるからである。
【0008】
すなわち、沈殿が生じてしまったトルエンスルホン酸第二鉄塩やメトキシベンゼンスルホン酸第二鉄塩のアルコール溶液を用いると、均一性が低下して、得られた導電性高分子を固体電解質として用いた固体電解コンデンサが、ESR(等価直列抵抗)や高温安定性などが低下するという問題があった。
【0009】
【特許文献1】特開2003−160647号公報
【特許文献2】特開2004−265927号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のように、ESRや高温安定性などの低下がない固体電解コンデンサを得るための導電性高分子としては、その化学酸化重合にあたって用いる酸化剤兼ドーパントのアルコール溶液が少なくとも6カ月程度の長期間沈殿を生じないものであることが必要とされる。
【0011】
従って、本発明は、アルコール溶液の状態でも、一定期間以上沈殿が生じない酸化剤兼ドーパントを提供し、その酸化剤兼ドーパントまたはそのアルコール溶液を用いてチオフェンまたはその誘導体などのモノマーを重合させて合成することにより、導電性が高く、耐熱性が優れた導電性高分子を提供し、かつ、それを固体電解質として用いて高温・高湿条件下における信頼性が高い固体電解コンデンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決するため、鋭意研究を重ねた結果、特定のベンゼンスルホン酸誘導体の第二鉄塩で酸化剤兼ドーパントを構成し、かつ、その水分含率を小さくするときは、上記課題を解決できることを見出し、それに基づいて、本発明を完成するにいたった。
【0013】
すなわち、本発明は、一般式(1)
【化1】

(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基またはアルコキシ基を表す)
で表わされるベンゼンスルホン酸誘導体であって、ベンゼン環におけるR基とSOH基とがパラ位に位置するものが、全体の90モル%以上であるベンゼンスルホン酸誘導体の第二鉄塩からなり、水分含率が5質量%以下であることを特徴とする導電性高分子合成用酸化剤兼ドーパントに関するものである。
【0014】
また、本発明は、上記一般式(1)中のRがアルキル基である酸化剤兼ドーパントをメタノールまたはエタノールに溶解してなり、上記酸化剤兼ドーパントの濃度が50質量%以上で、水分含率が5質量%以下、より好ましくは1質量%以下である導電性高分子合成用酸化剤兼ドーパントのメタノールまたはエタノール溶液に関するものである。
【0015】
また、本発明は、上記一般式(1)中のRがアルコキシ基である酸化剤兼ドーパントをメタノールまたはエタノールに溶解してなり、上記酸化剤兼ドーパントの濃度が50質量%以上で、水分含率が2.5質量%以下、より好ましくは1質量%以下である導電性高分子合成用酸化剤兼ドーパントのメタノールまたはエタノール溶液に関するものである。
【0016】
また、本発明は、上記酸化剤兼ドーパントをn−ブタノールに溶解してなり、上記酸化剤兼ドーパントの濃度が50質量%以上で、かつ水分含率が1質量%以下である導電性高分子合成用酸化剤兼ドーパントのn−ブタノール溶液に関するものである。
【0017】
また、本発明は、上記酸化剤兼ドーパント、あるいはそのメタノールまたはエタノール溶液、あるいはそのn−ブタノール溶液を用いて、チオフェンまたはその誘導体を重合させて合成した導電性高分子に関するものである。
【0018】
さらに、本発明は、上記導電性高分子を固体電解質として用いた固体電解コンデンサに関するものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明の導電性高分子合成用酸化剤兼ドーパントによれば、導電率が高く、耐熱性が優れた導電性高分子を合成することができる。また、本発明の導電性高分子合成用酸化剤兼ドーパントを用いて合成した導電性高分子を固体電解質として用いて高温・高湿条件下における信頼性が高い固体電解コンデンサを提供することができる。
【0020】
さらに、本発明の導電性高分子合成用酸化剤兼ドーパントのメタノールまたはエタノール溶液やn−ブタノール溶液は、保存安定性が優れ、長期間沈殿を生じず、従って、これを用いて、長期間にわたり、安定して、導電率が高く、耐熱性が優れた導電性高分子を合成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明において、酸化剤兼ドーパントとして用いるベンゼンスルホン酸誘導体の第二鉄塩におけるベンゼンスルホン酸誘導体としては、一般式(1)で表されるベンゼンスルホン酸誘導体であって、そのベンゼン環におけるR基とSOH基とがパラ位に位置するものが全体の90モル%以上であるものが用いられるが、本発明において、そのようなパラ体の含有率が高いベンゼンスルホン酸誘導体を用いるのは、導電率が高い導電性高分子を得るためである。
【0022】
ベンゼンスルホン酸誘導体には、それぞれ、構造上、オルト体、メタ体、パラ体が存在するが、本発明において、上記のようにパラ体含有率が高いベンゼンスルホン酸誘導体を用いることによって、導電率が高い導電性高分子が得られるようになる理由は、現在のところ必ずしも明確ではないが、パラ体含有率が高い場合、導電性高分子が形成された後の立体規則性が向上し、その結果として導電率が高くなるものと考えられる。言い換えると、アルコキシ基やアルキル基が、パラ体以外の場所に結合しているベンゼンスルホン酸誘導体が導電性高分子のドーパントとして存在していると、立体的な障害により高分子の導電性を阻害し、導電率を低下させるものと考えられる。
【0023】
上記ベンゼンスルホン酸誘導体におけるパラ体の含有率としては、ベンゼンスルホン酸誘導体全体に対して90モル%以上であることが必要であるが、これはパラ体の含有率が90モル%より低い場合は、得られる導電性高分子の導電率が低くなるからであり、このパラ体の含有率としては特に93モル%以上が好ましい。前述したように、従来からも、メトキシベンゼンスルホン酸やトルエンスルホン酸の第二鉄塩が酸化剤兼ドーパントとして用いられているが、これらにおけるメトキシベンゼンスルホン酸やトルエンスルホン酸のパラ体の含有率は、高々、85モル%程度であり(メトキシベンゼンスルホン酸やトルエンスルホン酸を通常の手法で製造すると、それらのパラ体の含有量は、高々、85モル%程度になる)、そのため、それらの第二鉄塩を酸化剤兼ドーパントとして用いて得られた導電性高分子は、初期抵抗値が高く、耐熱性が悪くなるが、本発明では、上記ベンゼンスルホン酸誘導体を製造するにあたって、反応温度を高くしたり、再結晶化を繰り返すことなどによってパラ体の含有率が90モル%以上のものを得ている。
【0024】
本発明における一般式(1)で表されるベンゼンスルホン酸誘導体において、Rは炭素数が1〜4のアルキル基またはアルコキシ基であるが、これらの好適な具体例を挙げると、Rがアルキル基のものとしては、例えば、トルエンスルホン酸、エチルベンゼンスルホン酸、プロピルベンゼンスルホン酸、ブチルベンゼンスルホン酸などが挙げられ、Rがアルコキシ基のものとしては、例えば、メトキシベンゼンスルホン酸、エトキシベンゼンスルホン酸、プロポキシベンゼンスルホン酸、ブトキシベンゼンスルホン酸などが挙げられる。なお、Rの炭素数が3以上の場合、アルキル基の部分は分岐していても構わない。そして、上記ベンゼンスルホン酸誘導体としては、その一般式(1)において、炭素数が1のもの、すなわち、メトキシベンゼンスルホン酸やトルエンスルホン酸が好ましい。
【0025】
本発明において、酸化剤兼ドーパントとしての一般式(1)で表されるベンゼンスルホン酸誘導体の第二鉄塩の水分含率を5質量%以下にするが、これは、上記水分含率が高くなると、導電率が高く、耐熱性の優れた導電性高分子を合成することができなくなったり、後述のように、アルコール溶液にしたときに、その保存安定性を低下させ、沈殿を生じさせる要因になるからであり、この水分含率は低いほど好ましく、可能であれば、0質量%にすることが好ましい。
【0026】
また、本発明者は、上記導電性高分子の製造にあたり、酸化剤兼ドーパントとして用いるベンゼンスルホン酸誘導体の第二鉄塩を特定組成のアルコール溶液にして用いた場合に、導電率が高い導電性高分子が得られることも見出した。
【0027】
すなわち、本発明において酸化剤兼ドーパントとして用いる一般式(1)で表されるベンゼンスルホン酸誘導体の第二鉄塩を、導電性高分子の合成にあたり、アルコール溶液にして使用する際に、その水分含量を調整することによって、保存安定性を高め、長期間にわたって沈殿が生じるのを防止することができ、その結果として、得られる導電性高分子の導電率を高くすることができる。これを詳しく説明すると、導電性高分子を生産性高く合成するには、酸化剤兼ドーパントとしてのベンゼンスルホン酸誘導体の第二鉄塩のアルコール溶液中の濃度を高くすることが必要であり、ユーザーからは濃度を50質量%以上にすることが要望されているが、そのように酸化剤兼ドーパントとしてのベンゼンスルホン酸誘導体の第二鉄塩の濃度を高くすると、保存安定性が悪くなり、沈殿が生じやすくなる。そこで、本発明者らは、その原因を探求し、使用するアルコールの種類やベンゼンスルホン酸誘導体の種類に応じて、そのアルコール溶液の水分含率を後記に示すように、特定値以下にすることによって、アルコール溶液の保存安定性を高め、長期間にわたって沈殿が生じないようにしたのである。
【0028】
まず、酸化剤兼ドーパントとしてのベンゼンスルホン酸誘導体の第二鉄塩をアルコール溶液にするためのアルコールとして、メタノールやエタノールを用い、上記ベンゼンスルホン酸誘導体を示す一般式(1)中のRがアルキル基のものを50質量%以上の濃度にする場合は、その水分含率を5質量%以下にすることが好ましく、1質量%以下にすることがより好ましい。また、アルコールとして、上記同様にメタノールやエタノールを用い、ベンゼンスルホン酸誘導体を示す一般式(1)中のRがアルコキシ基のものを50質量%以上の濃度にする場合は、その水分含率を2.5質量%以下にすることが好ましく、1質量%以下にすることが好ましい。また、アルコールとしてn−ブタノールを用い、上記酸化剤兼ドーパントとしてのベンゼンスルホン酸誘導体の第二鉄塩の濃度を50質量%以上にする場合は、その水分含率を1質量%以下にすることが好ましい。また、酸化剤兼ドーパントをアルコール溶液にするためのアルコールとしては、上記メタノール、エタノール、n−ブタノール以外にも、n−プロパノールも用いることができるが、このn−プロパノールを用いて酸化剤兼ドーパントの濃度が50質量%以上のアルコール溶液にする場合、その水分含率はn−ブタノールの場合と同様に1質量%以下にしておくことが好ましい。
【0029】
上記のように、アルコール溶液の水分含率を一定値以下にしておく必要があるのは、アルコール溶液中の水分含率が保存安定性に影響を与え、水分含率が高いと、沈殿を生じやすくさせ、ひいては、それを用いて合成した導電性高分子の導電率を低くさせるのを防止するためである。アルコール溶液中の水分含量が高い場合、保存安定性が悪くなり、沈殿が生じやすくなる理由としては、現在のところ必ずしも明確ではないが、次のように考えられる。本発明において酸化剤兼ドーパントとして用いるベンゼンスルホン酸誘導体の第二鉄塩は、アルコール溶媒中ではほとんど解離していないが、水分が多くなると鉄塩が解離しやすくなり、その解離によるイオン化によって鉄が酸化されやすくなって酸化鉄や水酸化鉄などになり、それらが結果的に沈殿して行くために保存安定性が悪くなっていくものと考えられる。また、上記ベンゼンスルホン酸誘導体の第二鉄塩の中で、前記一般式(1)のRが炭素数1のアルコキシ基のものは、水分含量の増加により、メトキシ基が加水分解されてフェノールスルホン酸鉄塩に変わりやすい。そして、フェノールスルホン酸鉄塩が形成されると、フェノール性のOH基は、鉄と反応しやすいため、周りに存在する鉄イオンまたはアルコキシベンゼンスルホン酸第二鉄塩と架橋構造を形成し、高分子化して沈殿するので、その結果として、保存安定性が悪くなるものと考えられる。このように、一般式(1)中のRがアルコキシ基のものは、Rがアルキル基のものの場合より、保存安定性が悪くなる傾向があるため、前記のように、アルコールとして同じメタノールやエタノールを用いる場合でも、Rがアルキル基の場合は、その水分含率を5質量%以下にすることにより、保存安定性の良好なアルコール溶液が得られるものの、一般式(1)中のRがアルコキシ基の場合は、アルコールとしてメタノールやエタノールを用いる場合でも、その水分含率を2.5質量%以下にすることが好ましい。
【0030】
アルコールとしてn−ブタノールを用いた場合、メタノールやエタノールより揮発性や引火性が低く、安全であるという長所を有するものの、n−ブタノールが、メタノールやエタノールに比べて、水と混和しにくいため、部分的に水分濃度が高くなるおそれがあり、その水分濃度が高くなったところの含有水分により保存安定性の低下が生じるおそれがあるため、n−ブタノール溶液の場合、良好な保存安定性を確保するために水分含率を1質量%以下にすることが好ましい。
【0031】
本発明において、酸化剤兼ドーパントとして用いるベンゼンスルホン酸誘導体の第二鉄塩の水分含率を低くしたり、そのアルコール溶液の水分含率を低くするにあたっては、蒸留による濃縮とメタノールやエタノールなどの水と共沸する有機溶媒の添加を繰り返しつつ水分含率を低下させると、酸化剤兼ドーパントとしての機能の優れたものを得ることができる。
【0032】
本発明において酸化剤兼ドーパントとして用いるベンゼンスルホン酸誘導体の第二鉄塩の酸部分を構成するベンゼンスルホン酸誘導体は、炭素数が1〜4のアルキルベンゼンまたはアルコキシベンゼンと濃硫酸とを混合し、スルホン化した後、晶析分離などの精製処理を施すことにより合成することができる。そして、このベンゼンスルホン酸誘導体の第二鉄塩は、硫酸第二鉄や塩化第二鉄などの3価の鉄塩を水に溶解させ、水酸化ナトリウム水溶液やアンモニア水溶液などのアルカリ水溶液で中和して、生成させ、かつ精製した水酸化第二鉄と、上記一般式(1)で表されるベンゼンスルホン酸誘導体とをアルコール溶媒中で反応させることによって合成することができる。
【0033】
本発明の酸化剤兼ドーパントのアルコール溶液においては、前記のように、その酸化剤兼ドーパントを構成するベンゼンスルホン酸誘導体の第二鉄塩の濃度を50質量%以上にするが、このベンゼンスルホン酸誘導体の第二鉄塩の濃度は、溶媒として用いるアルコールの種類によっても異なるが、メタノール溶液やエタノール溶液の場合、65質量%程度まで高くすることができ、n−ブタノール溶液の場合、60質量%程度まで高くすることができる。
【0034】
導電性高分子を合成するためのモノマーとしては、チオフェンまたはその誘導体を用いることが適しているが、このチオフェンまたはその誘導体におけるチオフェンの誘導体としては、例えば、3,4−エチレンジオキシチオフェン、3−アルキルチオフェン、3−アルコキシチオフェン、3−アルキル−4−アルコキシチオフェン、3,4−アルキルチオフェン、3,4−アルコキシチオフェンなどが挙げられ、そのアルキル基やアルコキシ基の炭素数は1〜16が適しているが、特に3,4−エチレンジオキシチオフェンが好ましい。
【0035】
そして、このチオフェンまたはその誘導体は、液状なので、その重合にあたっては、そのまま使用することができるが、重合反応をよりスムーズに進行させるためには、チオフェンまたはその誘導体を、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、アセトン、アセトニトリルなどの有機溶媒で希釈して溶液(有機溶媒溶液)状にしておくことが好ましい。
【0036】
導電性高分子の合成にあたっては、一般式(1)で表されるベンゼンスルホン酸誘導体の第二鉄塩を酸化剤兼ドーパントとして用いて、チオフェンまたはその誘導体の化学酸化重合を行う。その際、チオフェンまたはその誘導体はあらかじめ前記のような有機溶媒溶液にしておき、また、酸化剤兼ドーパントとしての一般式(1)で表されるベンゼンスルホン酸誘導体の第二鉄塩もあらかじめ前記のようなアルコール溶液にしておき、それらの溶液同士を混合して一定時間反応させるようにすることが好ましく、反応後は、洗浄、乾燥することによって導電性高分子を得ることができる。このチオフェンまたはその誘導体の化学酸化重合において、酸化剤兼ドーパントとして用いた一般式(1)で表されるベンゼンスルホン酸誘導体の第二鉄塩のうち、鉄塩部分は、重合に際しての酸化剤(酸化重合剤)として働き、ベンゼンスルホン酸誘導体部分は高分子マトリックス中に含有され、いわゆるドーパントの役割を果たすことになる。また、反応時に用いる有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、n−ブタノールなどを用いることができ、洗浄の際にも上記溶媒のいずれかを用いればよい。通常、上記酸化剤兼ドーパントとして用いた一般式(1)で表されるベンゼンスルホン酸誘導体の第二鉄塩の鉄塩部分は、重合に際して酸化剤としての役割を果たした後、洗浄によって、導電性高分子から取り除かれるが、得られた導電性高分子をアルミコンデンサの固体電解質として用いる場合、その鉄塩が残っていてもよい。
【0037】
本発明の酸化剤兼ドーパントは、モノマーとして上記のようなチオフェンまたはその誘導体を用いて導電性高分子を合成する場合に適するように開発したものであるが、チオフェンまたはその誘導体以外にも、例えば、ピロールまたはその誘導体、アニリンまたはその誘導体、イソチアナフテンまたはその誘導体などをモノマーとして導電性高分子を合成する場合に、その酸化剤兼ドーパントとして適用することもできる。
【0038】
本発明によって合成される導電性高分子は、導電率が高く、耐熱性が優れていることから、前記のアルミコンデンサをはじめ、タンタルコンデンサ、ニオブコンデンサなどの固体電解コンデンサの固体電解質として好適に用いられ、高温・高湿条件下における信頼性が高い固体電解質コンデンサを提供することができる。
【0039】
また、本発明の導電性高分子は、その導電率が高く、耐熱性が優れているという特性を利用して、上記の固体電解質コンデンサの固体電解質以外にも、バッテリーの正極活物質、帯電防止シート、耐腐食用塗料の基材樹脂などとしても好適に用いることができる。
【実施例】
【0040】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はそれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0041】
実施例1〜4および比較例1〜3
まず、これらの実施例および比較例の酸化剤兼ドーパントを構成するベンゼンスルホン酸誘導体の第二鉄塩のベンゼンスルホン酸誘導体部分(サンプル1〜5)の製造について説明する。なお、以下において、溶液、分散液などの濃度や水分含量を示す%は、特にその基準を付記しないかぎり、質量%を示す。
【0042】
サンプル1(パラ体の含有率が全体中の98モル%であるメトキシベンゼンスルホン酸)
98%硫酸560gをメトキシベンゼン600gに攪拌しながら滴下した。その後、攪拌を続けながら80〜85℃に温度を上げた後、3時間、反応させた。反応終了後、蒸留水を加え、濃度が55%になるように調整後、約40℃の状態から徐々に温度を下げてゆき、20℃になったところで、あらかじめ作製しておいたパラメトキシベンゼンスルホン酸の結晶を微量添加し、系中のパラメトキシベンゼンスルホン酸分を結晶析出させた。得られた結晶物を濾過により回収し、そこに蒸留水を添加し、液温が40℃になるまで加温して再び溶解させ、濃度が55%になるように調整した。そして、約40℃の状態から徐々に温度を下げ、20℃になったところで、再びあらかじめ作製しておいたパラメトキシベンゼンスルホン酸の結晶を微量添加して、結晶を析出させた。結晶物を濾過で回収し、パラメトキシベンゼンスルホン酸がメトキシベンゼンスルホン酸全体中の98モル%を占めるメトキシベンゼンスルホン酸を得た。
【0043】
サンプル2(パラ体の含有量が全体中の93モル%であるメトキシベンゼンスルホン酸)
98%硫酸560gをメトキシベンゼン600gに攪拌しながら滴下した。その後、攪拌を続けながら80〜85℃に温度を上げた後、3時間、反応させた。反応終了後、500gの蒸留水を加えた。次いで、エーテル200gを添加し、2層に分離した下層(水相)を取り出し、さらに、蒸留による濃縮と水を添加する操作を2回繰り返し、メトキシベンゼンスルホン酸を得た。分析の結果、このメトキシベンゼンスルホン酸中のパラメトキシベンゼンスルホン酸の含有率はメトキシベンゼンスルホン酸全体中の93モル%であった。
【0044】
サンプル3(パラ体の含有率が全体中の86モル%であるメトキシベンゼンスルホン酸であって、比較例に用いるもの)
98%硫酸560gをメトキシベンゼン600gに攪拌しながら滴下した。その後、攪拌を続けながら45〜55℃に温度を上げた後、12時間、反応させた。反応終了後、500gの蒸留水を加えた。次いで、エーテル200gを添加し、2層に分離した下層を取り出し、さらに、蒸留による濃縮と水を添加する操作を2回繰り返し、メトキシベンゼンスルホン酸を得た。分析の結果、このメトキシベンゼンスルホン酸のパラメトキシベンゼンスルホン酸の含有率はベンゼンスルホン酸誘導体全体中の86モル%であった。
【0045】
サンプル4(パラ体の含有率が全体中の99モル%であるトルエンスルホン酸)
98%硫酸560gをトルエン600gに攪拌しながら滴下した。その後、攪拌を続けながら110〜120℃に温度を上げた後、5時間、反応させた。反応終了後、温度を下げながら、蒸留水を加え、温度が約20℃になったところで、あらかじめ作製しておいたパラトルエンスルホン酸の結晶を微量添加し、系中のパラトルエンスルホン酸分を結晶析出させた。得られた結晶物を濾過により回収し、そこに蒸留水を添加し、液温が60℃になるまで加温して再び溶解させた後、再び徐々に温度を下げ、約20℃になったところで、再びあらかじめ作製しておいたパラトルエンスルホン酸の結晶を微量添加して、結晶を析出させた。結晶物を濾過で回収し、パラトルエンスルホン酸がトルエンスルホン酸体全体中の99モル%を占めるトルエンスルホン酸を得た。
【0046】
サンプル5(パラトルエンスルホン酸の含有率が全体中の85モル%であるトルエンスルホン酸であって、比較例に用いるもの)
98%硫酸560gをトルエン560gに攪拌しながら滴下した。その後、攪拌を続けながら60〜70℃に温度を上げた後、5時間、反応させた。反応終了後、500gの蒸留水を加えた。次いで、エーテル200gを添加し、2層に分離した下層(水相)を取り出し、さらに、蒸留による濃縮と水を添加する操作を2回繰り返し、トルエンスルホン酸を得た。分析の結果、このトルエンスルホン酸のパラトルエンスルホン酸の含有率はトルエンスルホン酸全体中の85モル%であった。
【0047】
つぎに、上記サンプル1〜5に示すベンゼンスルホン酸誘導体を用いて、以下に示すように、実施例1〜4および比較例1〜3の酸化剤兼ドーパントのアルコール溶液を製造した。該アルコール溶液の製造にあたり、まず、上記サンプル1〜5のベンゼンスルホン酸誘導体と反応させるための水酸化第二鉄のn−ブタノール分散液を次に示すように製造した。
【0048】
25℃で、1000mlの蒸留水にFe(SO・8HOを108.6g(0.2モル)溶解した溶液を激しく攪拌しながら、その中に濃度が5モル/リットルの水酸化ナトリウム水溶液をゆっくりと添加してpH7に調整した後、遠心分離により上澄みを取り除いて水酸化第二鉄の沈殿を得た。余分の水溶性塩を取り除くため、4000mlの蒸留水に沈殿を分散させた後、遠心分離で上清を取り除く操作を2回繰り返した。得られた沈殿を500gのn−ブタノールに分散させた。
【0049】
上記とは別に、表1に示す各ベンゼンスルホン酸誘導体(サンプル1〜5およびそれらの混合物)をあらかじめ500gのn−ブタノールにそれぞれ0.56モル溶解しておき、その溶液中に前記の水酸化第二鉄のn−ブタノール分散液を添加した。室温下、一晩かきまぜて反応させた後、蒸留して濃縮することとn−ブタノールを添加する操作を繰り返し、ベンゼンスルホン酸誘導体の第二鉄塩の濃度が50%のn−ブタノール溶液(水分含量1%)をそれぞれ得た。
【0050】
【表1】

【0051】
上記表1から明らかなように、実施例1の酸化剤兼ドーパントはパラ体含有率が99モル%のトルエンスルホン酸の第二鉄塩で構成されるものであり、実施例2の酸化剤兼ドーパントはパラ体含有率が98モル%のメトキシベンゼンスルホン酸の第二鉄塩で構成されるものであり、実施例3の酸化剤兼ドーパントはパラ体含有率が93モル%のメトキシベンゼンスルホン酸の第二鉄塩で構成されるものであり、実施例4の酸化剤兼ドーパントはパラ体含有率が99モル%のトルエンスルホン酸とパラ体含有率が98モル%のメトキシベンゼンスルホン酸とを質量比9:1で混合したパラ体含有率が90モル%以上のベンゼンスルホン酸誘導体の第二鉄塩で構成されるものである。そして、比較例1の酸化剤兼ドーパントはパラ体含有率が85モル%のトルエンスルホン酸の第二鉄塩で構成されるものであり、比較例2の酸化剤兼ドーパントはパラ体含有率が86モル%のメトキシベンゼンスルホン酸の第二鉄塩で構成されるものであり、比較例7の酸化剤兼ドーパントはパラ体含有率が85モル%のトルエンスルホン酸とパラ体含有率が86モル%のメトキシベンゼンスルホン酸とを質量比9:1で混合したパラ体含有率が90モル%より低いベンゼンスルホン酸誘導体の第二鉄塩で構成されるものである。
【0052】
酸化剤兼ドーパントのn−ブタノール溶液の保存安定性評価:
上記のように製造した実施例1〜4および比較例1〜3の酸化剤兼ドーパントのn−ブタノール溶液を、それぞれ50mlのバイアル2本ずつに入れ、密栓後、一方は5℃の条件下、もう一方は25℃の条件下で6カ月間静置し、沈殿発生の有無を目視にして観察した。その結果を表2に示す。
【0053】
【表2】

【0054】
表2に示すように、実施例1〜4および比較例1〜3の酸化剤兼ドーパントのn−ブタノール溶液は、25℃で6カ月経過しても沈殿が生じず、保存安定性が優れていた。
【0055】
導電性高分子を合成したときの評価:
導電性高分子の合成にあたり、モノマーとしてチオフェン誘導体である3,4−エチレンジオキシチオフェンを用い、前記のように製造した実施例1〜4および比較例1〜3の酸化剤兼ドーパントのn−ブタノール溶液のそれぞれ500μlに、3,4−エチレンジオキシチオフェンを60μl添加し、充分かき混ぜることにより、3,4−エチレンジオキシチオフェンの酸化重合を開始させ、それらを直ちに、3cm×5cmのセラミックプレート上に180μl滴下した。湿度60%、温度25℃で3時間重合させた後、上記セラミックプレートを水中に浸して洗浄し、130℃で30分間乾燥して、セラミックプレート上にポリエチレンジオキシチオフェンをシート状に形成した。次に上記セラミックプレート上のポリエチレンジオキシチオフェンのシートに1.5トンの荷重をかけたまま5分間静置してシートにかかる圧力を均等にした後、該ポリエチレンジオキシチオフェンの導電率を4探針方式の測定器(三菱化学社製MCP−T600)により測定した。その結果を表3に示す。
【0056】
【表3】

【0057】
表3に示すように、実施例1〜4の導電性高分子(ポリエチレンオキシジオキシチオフェン)は、比較例1〜3の導電性高分子(ポリエチレンオキシジオキシチオフェン)に比べて、導電率が高く、この結果から、パラ体含有率が90モル%以上のトルエンスルホン酸の第二鉄塩またはパラ体含有率が90モル%以上のメトキシベンゼンスルホン酸の第二鉄塩を酸化剤兼ドーパントとして用いて製造した導電性高分子は、高い導電率を有することが明らかであった。
【0058】
次に、上記実施例1〜4および比較例1〜3のポリエチレンジオキシチオフェンの各シートについて、導電率を測定した後、各シートを150℃の恒温槽中に静置しておき、経時的にシートを取り出して導電率を測定した。その際の各シートの24時間経過後および48時間経過後の導電率の保持率を表4に示す。
【0059】
なお、導電率の保持率は、経時後の導電率を初期導電率(表3記載の導電率)で割り、パーセント(%)表示したものである。これを式で表すと、次のようになる。保持率の高い方が、熱に対する導電率の低下が起こりにくいことになり、耐熱性が優れていることを示す。
経時後の導電率
導電率の保持率(%)= ――――――――――― × 100
初期導電率
【0060】
【表4】

【0061】
表4に示すように、実施例1〜4の導電性高分子は、比較例1〜3の導電性高分子に比べて、導電率の保持率が高く、耐熱性が優れていた。すなわち、パラ体含有率が90モル%以上のトルエンスルホン酸の第二鉄塩またはパラ体含有率が90モル%以上のメトキシベンゼンスルホン酸の第二鉄塩を酸化剤兼ドーパントとして用いて製造した導電性高分子は、耐熱性が優れていた。
【0062】
実施例5〜7および比較例4
パラ体含有率が99モル%のトルエンスルホン酸を用い、アルコールとしてはエタノールを用い、前記実施例1と同様の操作で、酸化剤兼ドーパントとなるトルエンスルホン酸の第二鉄塩の濃度55%のエタノール溶液を製造した。ただし、該溶液の水分含率に関しては、水分含率を1.0%(実施例5)、2.5%(実施例6)、5.0%(実施例7)および10.0%(比較例4)とした。
【0063】
このようにして得た実施例5〜7および比較例4の酸化剤兼ドーパントのエタノール溶液について、実施例1と同様に、沈殿が生じるまでの保存安定性を調べた。その結果を表5に示す。
【0064】
【表5】

【0065】
表5に示すように、水分含率を5.0%以下に規制した実施例5〜7の酸化剤兼ドーパントのエタノール溶液は、トルエンスルホン酸の第二鉄塩の濃度が55%と高いにもかかわらず、5℃の保存条件下では、6カ月以上沈殿が生じず、保存安定性が優れていた。
【0066】
実施例8〜9および比較例5〜6
パラ体含有率が98モル%のメトキシベンゼンスルホン酸を用い、アルコールとしては、エタノールを用い、前記実施例1と同様の操作で、酸化剤兼ドーパントとなるメトキシベンゼンスルホン酸誘導体の第二鉄塩の濃度55%のエタノール溶液を製造した。ただし、該溶液の水分含率に関しては、水分含率を1.0%(実施例8)、2.5%(実施例9)、5.0%(比較例5)および10.0%(比較例6)とした。
【0067】
このようにして得た実施例8〜9および比較例5〜6の酸化剤兼ドーパントのエタノール溶液について、実施例1などと同様に、沈殿が発生するまでの保存安定性を調べた。その結果を表6に示す。
【0068】
【表6】

【0069】
表6に示すように、水分含率を2.5%以下に規制した実施例8〜9の酸化剤兼ドーパントのエタノール溶液は、メトキシベンゼンスルホン酸の第二鉄塩の濃度が55%と高いにもかかわらず、5℃の保存条件下では、6カ月以上沈殿が生じず、保存安定性が優れていた。
【0070】
なお、一般式(1)中のRがアルキル基のトルエンスルホン酸の第二鉄塩の場合は、水分含率が5%でも、表5に実施例7として示すように、保存安定性が優れていたが、一般式(1)中のRがアルコキシ基のメトキシベンゼンスルホン酸の第二鉄塩の場合は、水分含率が5%のときは、表6に比較例5として示すように、保存安定性が低下した。
【0071】
つぎに、上記実施例5〜9および比較例4〜6の酸化剤兼ドーパントのエタノール溶液を用い、実施例1と同様の条件下で、3,4−エチレンジオキシチオフェンを重合させて導電性高分子(ポリエチレンジオキシチオフェン)を合成し、その導電率および導電率の保持率を調べた。その結果を表7に示す。
【0072】
【表7】

【0073】
表7に示すように、実施例5〜9の導電性高分子は、導電率が高く、かつ導電率の保持率も実施例1〜4と同程度の高いレベルを維持していて、耐熱性が優れていた。
【0074】
実施例10〜12および比較例7
パラ体含有率が99モル%のトルエンスルホン酸を用い、アルコールとしてはメタノールを用い、前記実施例1と同様の操作で、酸化剤兼ドーパントとなるトルエンスルホン酸の第二鉄塩の濃度55%のメタノール溶液を製造した。ただし、該溶液の水分含率に関しては、水分含率を1.0%(実施例10)、2.5%(実施例11)、5.0%(実施例12)および10.0%(比較例7)とした。
【0075】
このようにして得た実施例10〜12および比較例7の酸化剤兼ドーパントのメタノール溶液について、実施例1と同様に、沈殿が生じるまでの保存安定性を調べた。その結果を表8に示す。
【0076】
【表8】

【0077】
表8に示すように、水分含率を5.0%以下に規制した実施例10〜12の酸化剤兼ドーパントのメタノール溶液は、トルエンスルホン酸の第二鉄塩の濃度が55%と高いにもかかわらず、5℃の保存条件下では、6カ月以上沈殿が生じず、保存安定性が優れていた。
【0078】
実施例13〜14および比較例8〜9
パラ体含有率が98モル%のメトキシベンゼンスルホン酸を用い、アルコールとしてはメタノールを用い、前記実施例1と同様の操作で、酸化剤兼ドーパントとなるメトキシベンゼンスルホン酸誘導体の第二鉄塩の濃度55%のメタノール溶液を製造した。ただし、該溶液の水分含率に関しては、水分含率を1.0%(実施例13)、2.5%(実施例14)、5.0%(比較例8)および10.0%(比較例9)とした。
【0079】
このようにして得た実施例13〜14および比較例8〜9の酸化剤兼ドーパントのメタノール溶液について、実施例1と同様に、沈殿が生じるまでの保存安定性を調べた。その結果を表9に示す。
【0080】
【表9】

【0081】
表9に示すように、水分含率を2.5%以下に規制した実施例13〜14の酸化剤兼ドーパントのメタノール溶液は、メトキシベンゼンスルホン酸の第二鉄塩の濃度が55%と高いにもかかわらず、5℃の保存条件下では、6カ月以上沈殿が生じず、保存安定性が優れていた。
【0082】
なお、一般式(1)中のRがアルキル基のトルエンスルホン酸の第二鉄塩の場合は、水分含率が5%でも、表8に実施例12として示すように、保存安定性が優れていたが、一般式(1)中のRがアルコキシ基のメトキシベンゼンスルホン酸の第二鉄塩の場合は、水分含率が5%のとき、表9に比較例8として示すように、保存安定性が悪くなっていた。
【0083】
つぎに、上記実施例10〜14および比較例7〜9の酸化剤兼ドーパントのメタノール溶液を用い、実施例1と同様の条件下で、3,4−エチレンジオキシチオフェンを重合させて導電性高分子(ポリエチレンジオキシチオフェン)を合成し、その導電率および導電率の保持率を調べた。その結果を表10に示す。
【0084】
【表10】

【0085】
表10に示すように、実施例10〜14の導電性高分子は、導電率が高く、かつ導電率の保持率も実施例1〜4と同程度の高いレベルを維持していて、耐熱性が優れていた。
【0086】
実施例15および比較例10〜12
パラ体含有率が99モル%のトルエンスルホン酸を用い、アルコールとしてはn−ブタノールを用い、前記実施例1と同様の操作で、酸化剤兼ドーパントとなるトルエンスルホン酸の第二鉄塩の濃度55%のn−ブタノール溶液を製造した。ただし、該溶液の水分含率に関しては、水分含率を1.0%(実施例15)、2.5%(比較例10)、5.0%(比較例11)および10.0%(比較例12)とした。
【0087】
このようにして得た実施例15および比較例10〜12の酸化剤兼ドーパントのn−ブタノール溶液について、実施例1と同様に、沈殿が生じるまでの保存安定性を調べた。その結果を表11に示す。
【0088】
【表11】

【0089】
表11に示すように、水分含率を1.0%にした実施例15の酸化剤兼ドーパントのn−ブタノール溶液は、トルエンスルホン酸の第二鉄塩の濃度が55%と高いにもかかわらず、5℃の保存条件下では、6カ月以上沈殿が生じず、保存安定性が優れていた。
【0090】
実施例16および比較例13〜15
パラ体含有率が98モル%のメトキシベンゼンスルホン酸を用い、アルコールとしては、n−ブタノールを用い、前記実施例1と同様の操作で、酸化剤兼ドーパントとなるメトキシベンゼンスルホン酸誘導体の第二鉄塩の濃度55%のn−ブタノール溶液を製造した。ただし、該溶液の水分含率に関しては、水分含率を1%(実施例16)、2.5%(比較例13)、5%(比較例14)および10%(比較例15)とした。
【0091】
このようにして得た実施例16および比較例13〜15の酸化剤兼ドーパントのn−ブタノール溶液について、実施例1と同様に、沈殿が生じるまでの保存安定性を調べた。その結果を表12に示す。
【0092】
【表12】

【0093】
表12に示すように、水分含率を1%にした実施例16の酸化剤兼ドーパントのn−ブタノール溶液は、メトキシベンゼンスルホン酸の第二鉄塩の濃度が55%と高いにもかかわらず、5℃の保存条件下では、6カ月以上沈殿が生じず、保存安定性が優れていた。
【0094】
つぎに、上記実施例15〜16および比較例10〜15の酸化剤兼ドーパントのn−ブタノール溶液を用い、実施例1と同様の条件下で、3,4−エチレンジオキシチオフェンを重合させて導電性高分子(ポリエチレンジオキシチオフェン)を合成し、その導電率および導電率の保持率を調べた。その結果を表13に示す。
【0095】
【表13】

【0096】
表13に示すように、実施例15〜16の導電性高分子は、導電率が高く、かつ導電率の保持率も実施例1〜4と同程度の高いレベルを維持していて、耐熱性が優れていた。
【0097】
つぎに、本発明の酸化剤兼ドーパントについて、アルミ巻回型コンデンサによる評価について示す。評価にあたって使用する酸化剤兼ドーパントのアルコール溶液については以下の実施例17および比較例16〜18に示すものを準備した。
【0098】
実施例17
パラ体含有率が98モル%のメトキシベンゼンスルホン酸を用い、アルコールとしてエタノールを用いて、実施例1と同様の操作で、酸化剤兼ドーパントとなるメトキシベンゼンスルホン酸の第二鉄塩の濃度が50%で、水分含率が1.0%の酸化剤兼ドーパントのエタノール溶液を製造した。
【0099】
比較例16
パラ体含有率が98モル%のメトキシベンゼンスルホン酸を用い、アルコールとしてエタノールを用いて、実施例1と同様の操作で、酸化剤兼ドーパントとなるメトキシベンゼンスルホン酸の第二鉄塩の濃度が50%で、水分含率が5.0%の酸化剤兼ドーパントのエタノール溶液を製造した。
【0100】
比較例17
パラ体含有率が85モル%のトルエンスルホン酸を用い、アルコールとしてn−ブタノールを用いて。実施例1と同様の操作で、酸化剤兼ドーパントとなるトルエンスルホン酸の濃度が50%で、水分含率が1.0%の酸化剤兼ドーパントのn−ブタノール溶液を製造した。
【0101】
比較例18
パラ体含有率が85モル%のトルエンスルホン酸を用い、アルコールとしてn−ブタノールを用いて、実施例1と同様の操作で、酸化剤兼ドーパントとなるトルエンスルホン酸の第二鉄塩の濃度が50%で、水分含率が5.0%の酸化剤兼ドーパントのn−ブタノール溶液を製造した。
【0102】
つぎに、それらの酸化剤兼ドーパントのアルコール溶液を用い、モノマーとして3,4−エチレンジオキシチオフェンを用い、その重合を以下に示すようなアルミ巻回型コンデンサの作製工程中で行った。
【0103】
アルミニウム箔の表面をエッチング処理した後、化成処理を行って誘電体層を形成した陽極にリード端子を取り付け、また、アルミニウム箔からなる陰極にリード端子を取り付け、それらのリード端子付き陽極と陰極とをセパレータを介して巻回して、コンデンサ素子を作製した。
【0104】
次に、上記コンデンサ素子を濃度が30%の3,4−エチレンジオキシチオフェンのエタノール溶液に浸漬し、引き出した後、前記実施例17および比較例16〜18の酸化剤兼ドーパントのアルコール溶液のそれぞれに、上記コンデンサ素子をそれぞれ別々に浸漬し、引き出した後、60℃で2時間加熱することによって、3,4−エチレンジオキシチオフェンを重合させてポリエチレンジオキシチオフェンからなる固体電解質層を形成した。これを外装材で外装して、アルミ巻回型コンデンサを作製した。
【0105】
上記のようにして作製したアルミ巻回型コンデンサについて、そのESRを、HEWLETT PACKARD社製のLCRメーター(4284A)を用い、25℃の条件下、100kHzで測定を行った。その結果を表14に示す。
【0106】
【表14】

【0107】
表14から明らかなように、実施例17のアルミ巻回型コンデンサは、比較例16〜18のアルミ巻回型コンデンサに比べて、ESRが低く、優れた電気特性を示すことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】



(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基またはアルコキシ基を表す)
で表わされるベンゼンスルホン酸誘導体であって、ベンゼン環におけるR基とSOH基とがパラ位に位置するものが、全体の90モル%以上であるベンゼンスルホン酸誘導体の第二鉄塩からなり、水分含率が5質量%以下であることを特徴とする導電性高分子合成用酸化剤兼ドーパント。
【請求項2】
一般式(1)中のRの炭素数が1である請求項1記載の導電性高分子合成用酸化剤兼ドーパント。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載で、かつ、その一般式(1)中のRがアルキル基である酸化剤兼ドーパントをメタノールまたはエタノールに溶解してなり、上記酸化剤兼ドーパントの濃度が50質量%以上で、水分含率が5質量%以下である導電性高分子合成用酸化剤兼ドーパントのメタノールまたはエタノール溶液。
【請求項4】
水分含量が1質量%以下である請求項3記載の導電性高分子合成用酸化剤兼ドーパントのメタノールまたはエタノール溶液。
【請求項5】
請求項1または請求項2記載で、かつ、その一般式(1)中のRがアルコキシ基である酸化剤兼ドーパントをメタノールまたはエタノールに溶解してなり、上記酸化剤兼ドーパントの濃度が50質量%以上で、水分含率が2.5質量%以下である導電性高分子合成用酸化剤兼ドーパントのメタノールまたはエタノール溶液。
【請求項6】
水分含量が1質量%以下である請求項5記載の導電性高分子合成用酸化剤兼ドーパントのメタノールまたはエタノール溶液。
【請求項7】
請求項1または請求項2記載の酸化剤兼ドーパントをn−ブタノールに溶解してなり、上記酸化剤兼ドーパントの濃度が50質量%以上で、かつ水分含率が1質量%以下である導電性高分子合成用酸化剤兼ドーパントのn−ブタノール溶液。
【請求項8】
請求項1または2記載の酸化剤兼ドーパントを用いて、チオフェンまたはその誘導体を重合させて合成したことを特徴とする導電性高分子。
【請求項9】
請求項3〜7のいずれかに記載の酸化剤兼ドーパントのメタノールまたはエタノール溶液を用いて、チオフェンまたはその誘導体を重合させて合成したことを特徴とする導電性高分子。
【請求項10】
請求項7記載の酸化剤兼ドーパントのn−ブタノール溶液を用いて、チオフェンまたはその誘導体を重合させて合成したことを特徴とする導電性高分子。
【請求項11】
請求項8〜10のいずれかに記載の導電性高分子を固体電解質として用いたことを特徴とする固体電解コンデンサ。

【公開番号】特開2007−23090(P2007−23090A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−204022(P2005−204022)
【出願日】平成17年7月13日(2005.7.13)
【出願人】(000215800)テイカ株式会社 (108)
【Fターム(参考)】