説明

導電性高分子溶液の製造方法

【課題】導電性が充分に高い導電性塗膜が得られる導電性高分子溶液を製造できる導電性高分子溶液の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の導電性高分子溶液の製造方法は、反応溶媒中でπ共役系導電性高分子の前駆体モノマーとポリアニオンとを混合してモノマー分散液を調製する工程と、モノマー分散液中のπ共役系導電性高分子の前駆体モノマーを酸化重合して導電性高分子予備溶液を調製する工程とを有する導電性高分子溶液の製造方法であって、前記モノマー分散液および/または導電性高分子予備溶液を高圧分散処理する工程をさらに有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、π共役系導電性高分子を含有する導電性高分子を製造するための製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリパラフェニレン、ポリアニリンなどのπ共役系導電性高分子に、ドーパント(例えば、電子供与性化合物、電子受容性化合物)を添加した導電性材料が開発され、種々の用途への展開が検討されている。特に、π共役系導電性高分子が高い透明性を有することから、透明導電体として広く使用されているITO(インジウム・錫酸化物)の代替が検討されている。しかしながら、π共役系導電性高分子自体はいかなる溶媒にも溶解しないため、加工性が低い上に、塗膜の形成やパターニングが困難であった。
そこで、π共役系導電性高分子を含む導電性塗膜を形成する方法として、質量平均分子量が2,000〜500,000のポリスチレンスルホン酸(ポリアニオン)の存在下で、酸化剤を用いて、3,4−ジアルコキシチオフェンを化学酸化重合してポリ(3,4−ジアルコキシチオフェン)溶液を製造し、その溶液を基材に塗布する方法が提案されている(特許文献1参照)。
しかし、特許文献1に記載の方法で得た導電性高分子溶液から形成した導電性塗膜は、導電性が不充分であった。そこで、特許文献2では、特定の化合物を添加して導電性を高めることが提案されている。
【特許文献1】特許第2636968号公報
【特許文献2】特許第2916098号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
導電性塗膜としては、適用できる範囲が広くなることから、できるだけ導電性の高いものが要求されている。そのため、特許文献2に記載の方法によって得た導電性塗膜でも、その要求を満足させることができないことがあった。
本発明は、前記事情を鑑みてなされたものであり、導電性が充分に高い導電性塗膜が得られる導電性高分子溶液を製造できる導電性高分子溶液の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者が調べた結果、導電性高分子溶液中では、π共役系導電性高分子はポリアニオンを介して粒子状に分散しており、その粒子径が大きいと、分散性が低くなるため、導電性塗膜の導電性が低くなることを見出した。また、ポリアニオンの量を増やすと、粒子径を小さくできるが、ポリアニオンは導電性を持たないため、導電性が低くなることを見出した。これらの知見に基づき、ポリアニオンの量を増やさずに、粒子径を小さくして分散性を向上させる方法について検討した結果、以下の導電性高分子溶液の製造方法を発明した。
【0005】
すなわち、本発明は以下の態様を含む。
[1] 反応溶媒中でπ共役系導電性高分子の前駆体モノマーとポリアニオンとを混合してモノマー分散液を調製する工程と、
モノマー分散液中のπ共役系導電性高分子の前駆体モノマーを酸化重合して導電性高分子予備溶液を調製する工程とを有する導電性高分子溶液の製造方法であって、
前記モノマー分散液および/または導電性高分子予備溶液を高圧分散処理する工程をさらに有することを特徴とする導電性高分子溶液の製造方法。
[2] モノマー分散液または導電性高分子予備溶液に導電性向上成分を添加する工程を有することを特徴とする[1]に記載の導電性高分子溶液の製造方法。
[3] 導電性向上成分が、窒素含有芳香族性環式化合物、2個以上のヒドロキシル基を有する化合物、2個以上のカルボキシル基を有する化合物、1個以上のヒドロキシル基及び1個以上のカルボキシル基を有する化合物、アミド基を有する化合物、イミド基を有する化合物、ラクタム化合物、グリシジル基を有する化合物からなる群より選ばれる1種以上の導電性向上剤であることを特徴とする[2]に記載の導電性高分子溶液の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明の導電性高分子溶液の製造方法は、導電性が充分に高い導電性塗膜が得られる導電性高分子溶液を製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の導電性高分子溶液の製造方法は、モノマー分散液を調製する工程(以下、モノマー分散液調製工程という。)と、モノマー分散液から導電性高分子予備溶液を調製する工程(以下、導電性高分子予備溶液調製工程という。)と、前記工程により得られたモノマー分散液および/または導電性高分子予備溶液を高圧分散処理する工程(以下、高圧分散処理工程という。)とを有する方法である。
【0008】
(モノマー分散液調製工程)
モノマー分散液調製工程は、反応溶媒中でπ共役系導電性高分子の前駆体モノマーとポリアニオンとを混合して、モノマー分散液を調製する工程である。
【0009】
<反応溶液>
反応溶媒としては、例えば、水、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチレンホスホルトリアミド等の極性溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート化合物、ジオキサン、ジエチルエーテル等のエーテル化合物、3−メチル−2−オキサゾリジノン等の複素環化合物、アセトニトリル、グルタロジニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル化合物等が挙げられる。これらの溶媒は、1種を単独で用いてもよいし、2種類以上の混合物としてもよいし、他の有機溶媒との混合物としてもよい。
【0010】
<π共役系導電性高分子の前駆体モノマー>
π共役系導電性高分子の前駆体モノマー(以下、前駆体モノマーと略す。)としては、例えば、ピロール類、チオフェン類、アセチレン類、フェニレン類、アニリン類が挙げられる。重合の容易さ、空気中での安定性の点からは、ピロール類、チオフェン類及びアニリン類が好ましい。
前駆体モノマーは無置換であってもよいが、導電性をより高くできることから、置換基を有することが好ましい。置換基としては、例えば、アルキル基、カルボキシル基、アルコキシル基、ヒドロキシル基、シアノ基等が挙げられる。
【0011】
前駆体モノマーの具体例としては、ピロール、N−メチルピロール、3−メチルピロール、3−エチルピロール、3−n−プロピルピロール、3−ブチルピロール、3−オクチルピロール、3−デシルピロール、3−ドデシルピロール、3,4−ジメチルピロール、3,4−ジブチルピロール、3−カルボキシルピロール、3−メチル−4−カルボキシルピロール、3−メチル−4−カルボキシエチルピロール、3−メチル−4−カルボキシブチルピロール、3−ヒドロキシピロール、3−メトキシピロール、3−エトキシピロール、3−ブトキシピロール、3−ヘキシルオキシピロール、3−メチル−4−ヘキシルオキシピロール、3−メチル−4−ヘキシルオキシピロール、チオフェン、3−メチルチオフェン、3−エチルチオフェン、3−プロピルチオフェン、3−ブチルチオフェン、3−ヘキシルチオフェン、3−ヘプチルチオフェン、3−オクチルチオフェン、3−デシルチオフェン、3−ドデシルチオフェン、3−オクタデシルチオフェン、3−ブロモチオフェン、3−クロロチオフェン、3−ヨードチオフェン、3−シアノチオフェン、3−フェニルチオフェン、3,4−ジメチルチオフェン、3,4−ジブチルチオフェン、3−ヒドロキシチオフェン、3−メトキシチオフェン、3−エトキシチオフェン、3−ブトキシチオフェン、3−ヘキシルオキシチオフェン、3−ヘプチルオキシチオフェン、3−オクチルオキシチオフェン、3−デシルオキシチオフェン、3−ドデシルオキシチオフェン、3−オクタデシルオキシチオフェン、3,4−ジヒドロキシチオフェン、3,4−ジメトキシチオフェン、3,4−ジエトキシチオフェン、3,4−ジプロポキシチオフェン、3,4−ジブトキシチオフェン、3,4−ジヘキシルオキシチオフェン、3,4−ジヘプチルオキシチオフェン、3,4−ジオクチルオキシチオフェン、3,4−ジデシルオキシチオフェン、3,4−ジドデシルオキシチオフェン、3,4−エチレンジオキシチオフェン、3,4−プロピレンジオキシチオフェン、3,4−ブテンジオキシチオフェン、3−メチル−4−メトキシチオフェン、3−メチル−4−エトキシチオフェン、3−カルボキシチオフェン、3−メチル−4−カルボキシチオフェン、3−メチル−4−カルボキシエチルチオフェン、3−メチル−4−カルボキシブチルチオフェン、アニリン、2−メチルアニリン、3−イソブチルアニリン、2−アニリンスルホン酸、3−アニリンスルホン酸等が挙げられる。
【0012】
これら中でも、ピロール、チオフェン、N−メチルピロール、3−メチルチオフェン、3−メトキシチオフェン、3,4−エチレンジオキシチオフェンから選ばれる1種又は2種が、導電性、反応性の点から好適に用いられる。さらには、ピロール、3,4−エチレンジオキシチオフェンは、得られるπ共役系導電性高分子の導電性がより高い上に、耐熱性が向上する点から、より好ましい。
また、3−メトキシチオフェン、3,4−エチレンジオキシチオフェン、チエノチオフェンは、得られるπ共役系導電性高分子の透明性に優れる点で好ましい。
また、N−メチルピロール、3−メチルチオフェンなどのアルキル置換化合物は溶媒溶解性や、疎水性樹脂を添加した場合の相溶性および分散性が向上する点で、好ましい。また、アルキル置換化合物のアルキル基の中では、導電性の低下を防ぐことから、メチル基が好ましい。
【0013】
<ポリアニオン>
ポリアニオンは、置換若しくは未置換のポリアルキレン、置換若しくは未置換のポリアルケニレン、置換若しくは未置換のポリイミド、置換若しくは未置換のポリアミド、置換若しくは未置換のポリエステル及びこれらの共重合体であって、少なくともアニオン基を有する構成単位を有するものである。
このポリアニオンは、π共役系導電性高分子を可溶化させ、その上、π共役系導電性高分子に対するドーパントとして機能して、π共役系導電性高分子の導電性と耐熱性を向上させる。
【0014】
ポリアルキレンとは、主鎖がメチレンの繰り返しで構成されているポリマーである。ポリアルキレンとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリペンテン、ポリヘキセン、ポリビニルアルコール、ポリビニルフェノール、ポリ(3,3,3−トリフルオロプロピレン)、ポリアクリロニトリル、ポリアクリレート、ポリスチレン等が挙げられる。
【0015】
ポリアルケニレンとは、主鎖に不飽和結合(ビニル基)が1個以上含まれる構成単位からなるポリマーである。ポリアルケニレンの具体例としては、プロペニレン、1−メチルプロペニレン、1−ブチルプロペニレン、1−デシルプロペニレン、1−シアノプロペニレン、1−フェニルプロペニレン、1−ヒドロキシプロペニレン、1−ブテニレン、1−メチル−1−ブテニレン、1−エチル−1−ブテニレン、1−オクチル−1−ブテニレン、1−ペンタデシル−1−ブテニレン、2−メチル−1−ブテニレン、2−エチル−1−ブテニレン、2−ブチル−1−ブテニレン、2−ヘキシル−1−ブテニレン、2−オクチル−1−ブテニレン、2−デシル−1−ブテニレン、2−ドデシル−1−ブテニレン、2−フェニル−1−ブテニレン、2−ブテニレン、1−メチル−2−ブテニレン、1−エチル−2−ブテニレン、1−オクチル−2−ブテニレン、1−ペンタデシル−2−ブテニレン、2−メチル−2−ブテニレン、2−エチル−2−ブテニレン、2−ブチル−2−ブテニレン、2−ヘキシル−2−ブテニレン、2−オクチル−2−ブテニレン、2−デシル−2−ブテニレン、2−ドデシル−2−ブテニレン、2−フェニル−2−ブテニレン、2−プロピレンフェニル−2−ブテニレン、3−メチル−2−ブテニレン、3−エチル−2−ブテニレン、3−ブチル−2−ブテニレン、3−ヘキシル−2−ブテニレン、3−オクチル−2−ブテニレン、3−デシル−2−ブテニレン、3−ドデシル−2−ブテニレン、3−フェニル−2−ブテニレン、3−プロピレンフェニル−2−ブテニレン、2−ペンテニレン、4−プロピル−2−ペンテニレン、4−ブチル−2−ペンテニレン、4−ヘキシル−2−ペンテニレン、4−シアノ−2−ペンテニレン、3−メチル−2−ペンテニレン、4−エチル−2−ペンテニレン、3−フェニル−2−ペンテニレン、4−ヒドロキシ−2−ペンテニレン、ヘキセニレン等から選ばれる1種以上の構成単位を含む重合体が挙げられる。
これらの中でも、不飽和結合とπ共役系導電性高分子との相互作用があること、置換若しくは未置換のブタジエンを出発物質として合成しやすいことから、置換若しくは未置換のブテニレンが好ましい。
【0016】
ポリイミドとしては、ピロメリット酸二無水物、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−テトラカルボキシジフェニルエーテル二無水物、2,2’−[4,4’−ジ(ジカルボキシフェニルオキシ)フェニル]プロパン二無水物等の無水物とオキシジアミン、パラフェニレンジアミン、メタフェニレンジアミン、ベンゾフェノンジアミン等のジアミンとからのポリイミドが挙げられる。
ポリアミドとしては、ポリアミド6、ポリアミド6,6、ポリアミド6,10等が挙げられる。
ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等が挙げられる。
【0017】
ポリアニオンが置換基を有する場合、その置換基としては、アルキル基、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基、シアノ基、フェニル基、フェノール基、エステル基、アルコキシル基等が挙げられる。溶媒への溶解性、耐熱性及び樹脂への相溶性等を考慮すると、アルキル基、ヒドロキシル基、フェノール基、エステル基が好ましい。
アルキル基は、極性溶媒又は非極性溶媒への溶解性及び分散性、樹脂への相溶性及び分散性等を高くすることができ、ヒドロキシル基は、他の水素原子等との水素結合を形成しやすくでき、有機溶剤への溶解性、樹脂への相溶性、分散性、接着性を高くすることができる。また、シアノ基及びヒドロキシフェニル基は、極性樹脂への相溶性、溶解性を高くすることができ、しかも、耐熱性も高くすることができる。
上記置換基の中では、アルキル基、ヒドロキシル基、エステル基、シアノ基が好ましい。
【0018】
ポリアニオンのアニオン基としては、共役系導電性高分子への化学酸化ドープが起こりうる官能基であればよいが、中でも、製造の容易さ及び安定性の観点からは、一置換硫酸エステル基、一置換リン酸エステル基、リン酸基、カルボキシル基、スルホ基等が好ましい。さらに、官能基のπ共役系導電性高分子へのドープ効果の観点より、スルホ基、一置換硫酸エステル基、カルボキシル基がより好ましい。
【0019】
ポリアニオンの具体例としては、ポリビニルスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリアクリル酸エチルスルホン酸、ポリアクリル酸ブチルスルホン酸、ポリ(2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸)、ポリイソプレンスルホン酸、ポリビニルカルボン酸、ポリスチレンカルボン酸、ポリアリルカルボン酸、ポリアクリルカルボン酸、ポリメタクリルカルボン酸、ポリ(2−アクリルアミド−2−メチルプロパンカルボン酸)、ポリイソプレンカルボン酸、ポリアクリル酸等が挙げられる。これらの単独重合体であってもよいし、2種以上の共重合体であってもよい。
これらのうち、π共役系導電性高分子の熱分解を緩和できることから、ポリスチレンスルホン酸、ポリイソプレンスルホン酸、ポリアクリル酸エチルスルホン酸、ポリアクリル酸ブチルスルホン酸が好ましい。
【0020】
ポリアニオンの重合度は、モノマー単位が10〜100,000個の範囲であることが好ましく、溶媒溶解性及び導電性の点からは、50〜10,000個の範囲がより好ましい。
【0021】
モノマー分散液における反応溶媒の含有量は99.99〜10.00質量%であることが好ましく、99.5〜30.0質量%であることがより好ましい。反応溶媒量が10.00質量%以上であれば、モノマー分散液の粘度を低くすることができ、99.99質量%以下であれば、1回の重合当たりのπ共役系導電性高分子の生成量を多くできる。
モノマー分散液における前駆体モノマーの含有量は0.01〜90質量%であることが好ましい。前駆体モノマーの含有量が0.01質量%以上であれば、1回の重合当たりのπ共役系導電性高分子の生成量を多くでき、90質量%以下であれば、得られる導電性高分子溶液中のπ共役系導電性高分子の分散性をより高くできる。
モノマー分散液におけるポリアニオンの含有量は、後述するように、π共役系導電性高分子1モルに対して0.1〜10モルになる量にすることが好ましい。
【0022】
(導電性高分子予備溶液調製工程)
導電性高分子予備溶液調製工程は、モノマー分散液中の前駆体モノマーを酸化重合して、導電性高分子予備溶液を調製する工程である。この工程では、ポリアニオンに沿ってπ共役系導電性高分子が生成して、ポリアニオンとπ共役系導電性高分子との複合体(以下、複合体と略す。)を形成する。
【0023】
<酸化剤>
上記前駆体モノマーの酸化重合に際しては、酸化剤が使用される。酸化剤としては、例えば、ぺルオキソ二硫酸アンモニウム(過硫酸アンモニウム)、ぺルオキソ二硫酸ナトリウム(過硫酸ナトリウム)、ぺルオキソ二硫酸カリウム(過硫酸カリウム)等のぺルオキソ二硫酸塩、塩化第二鉄、硫酸第二鉄、硝酸第二鉄、塩化第二銅等の遷移金属化合物、三フッ化ホウ素などの金属ハロゲン化合物、酸化銀、酸化セシウム等の金属酸化物、過酸化水素、オゾン等の過酸化物、過酸化ベンゾイル等の有機過酸化物、酸素等が挙げられる。
【0024】
酸化剤の添加量は、前駆体モノマー1モルに対して、0.5〜10モルであることが好ましく、1〜5モルであることがより好ましい。酸化剤の添加量が0.5モル以上であれば、充分な重合速度を確保できる。ただし、酸化剤の添加量が10モルを超えると、添加量に応じた効果が得られないため、実益がない。
【0025】
酸化重合の際には、重合を促進するために、塩酸、硫酸等の強酸を添加してもよい。
重合を終了させる際には、重合反応を停止させるための反応停止剤を添加してもよい。
重合終了後には、過剰な酸化剤および反応副生物を除去することが好ましい。重合終了後に過剰な酸化剤および反応副生物を除去すれば、より高い導電性の塗膜が得られる導電性高分子溶液となる。
過剰な酸化剤および反応副生物を除去する方法としては、イオン交換樹脂を用いたイオン交換法、透析法、限外ろ過法等が挙げられる。これらの中でも、作業が容易な点から透析法、限外ろ過法が好ましい。
【0026】
導電性高分子予備溶液調製工程によって得られる導電性高分子予備溶液は、π共役系導電性高分子1モルに対するポリアニオンの量を、好ましくは0.1〜10モル、より好ましくは1〜7モルとすることが好ましい。ポリアニオンの量を0.1モル以上とすれば、π共役系導電性高分子へのドーピング効果がより高くなって導電性がより高くなる。一方、ポリアニオンの量を10モル以下とすれば、π共役系導電性高分子の量が多くなるので、導電性がより高くなる。
【0027】
(高圧分散処理工程)
高圧分散処理は、高圧分散機を用いて、モノマー分散液または導電性高分子予備溶液を高圧で対向衝突させたり、オリフィスやスリットに高圧で通したりして、ポリアニオンまたは複合体を分散する処理のことである。
【0028】
高圧分散機としては、例えば、高圧ホモジナイザー等の市販の高圧分散機を好適に使用できる。
高圧ホモジナイザーは、例えば、分散処理する溶液などを加圧する高圧発生部と、分散を行う対向衝突部やオリフィス部あるいはスリット部とを備える装置である。高圧発生部としては、プランジャーポンプ等の高圧ポンプが好適に用いられる。高圧ポンプには、一連式、二連式、三連式などの各種の形式があるが、いずれの形式も本発明において採用できる。
【0029】
高圧分散処理においてモノマー分散液または導電性高分子予備溶液を高圧で対向衝突させる場合には、高圧分散処理効果がより発揮されることから、その処理圧力は50MPa以上であることが好ましく、100MPa以上であることがより好ましく、130MPa以上であることが特に好ましい。また、300MPaを超える処理圧力では高圧分散機の耐圧性や耐久性に問題が生じやすいため、処理圧力は300MPa以下であることが好ましい。
【0030】
前記オリフィスとは、円形状等の微細な穴を持つ薄板(オリフィス板)が直管内に挿入されて、直管の流路を急激に絞る機構をいう。
前記スリットとは、金属やダイヤモンドなど強固な材料製の一対の部材がわずかな隙間を有して配置された機構をいう。
高圧分散処理においてモノマー分散液または導電性高分子予備溶液をオリフィスやスリットに通す場合には、高圧分散処理効果がより発揮されることから、上流側と下流側の差圧が50MPa以上であることが好ましく、100MPa以上であることがより好ましく、130MPa以上であることが特に好ましい。また、300MPaを超える差圧では、高圧分散機の耐圧性や耐久性に問題が生じやすいため、差圧は300MPa以下であることが好ましい。
【0031】
高圧ホモジナイザーの具体例としては、吉田機械興業製の商品名ナノマイザー、マイクロフルイディクス製の商品名マイクロフルイダイザー、スギノマシン製のアルティマイザーなどが挙げられる。
【0032】
高圧分散処理の処理回数は特に制限されないが、1〜数十回の範囲が好ましい。分散処理回数が多すぎる場合には、処理回数を増やしても処理回数に応じた効果が発揮されないからである。
【0033】
上記高圧分散処理では、対向衝突の際に、または、急激に絞られた流路を通過する際に高い剪断力が生じることにより、モノマー分散液または導電性高分子予備溶液に含まれるポリアニオンまたは複合体の分散性を高めることができる。
【0034】
高圧分散機により高圧分散処理を施すと、原理上、処理した後の液の温度が高くなる。そのため、分散処理前のモノマー分散液および導電性高分子予備溶液の温度をあらかじめ、好ましくは−20〜60℃、より好ましくは−10〜40℃、特に好ましくは−5〜30℃とすることが好ましい。分散処理前のモノマー分散液および導電性高分子予備溶液の温度を−20℃以上にすれば、凍結を防止でき、60℃以下にすれば、π共役系導電性高分子またはポリアニオンの変性を防止できる。
さらに、高圧分散処理後の溶液を、冷媒温度−30〜20℃の熱交換器に通して冷却しても構わない。
【0035】
なお、モノマー分散液を高圧分散処理した場合には、導電性高分子予備溶液をそのまま導電性高分子溶液として用いることができる。
【0036】
(導電性向上成分添加工程)
上記導電性高分子溶液の製造方法では、モノマー分散液または導電性高分子予備溶液に導電性向上成分を添加する工程(以下、導電性向上成分添加工程)を有することが好ましい。導電性向上成分添加工程を有していれば、導電性高分子溶液から得られる導電性塗膜の導電性をより高くすることができる。
導電性向上成分としては、以下に示す導電性向上剤、導電性向上溶媒を使用できる。
【0037】
<導電性向上剤>
導電性向上剤は、π共役系導電性高分子又はπ共役系導電性高分子のドーパントと相互作用して、π共役系導電性高分子の電気伝導度を向上させるものである。導電性向上剤としては、得られる導電性塗膜の導電性がより向上するため、窒素含有芳香族性環式化合物、2個以上のヒドロキシル基を有する化合物、2個以上のカルボキシル基を有する化合物、1個以上のヒドロキシル基及び1個以上のカルボキシル基を有する化合物、アミド基を有する化合物、イミド基を有する化合物、ラクタム化合物、グリシジル基を有する化合物からなる群より選ばれる1種類以上の化合物であることが好ましい。
【0038】
[窒素含有芳香族性環式化合物]
窒素含有芳香族性環式化合物とは、少なくとも1個以上の窒素原子を含む芳香族性環を有し、芳香族性環中の窒素原子が芳香性環中の他の原子と共役関係を持つものである。共役関係となるためには、窒素原子と他の原子とが不飽和結合を形成している。あるいは、窒素原子が直接的に他の原子と不飽和結合を形成していなくても、不飽和結合を形成している他の原子に隣接していればよい。窒素原子上に存在している非共有電子対が、他の原子同士で形成されている不飽和結合と擬似的な共役関係を構成できるからである。
窒素含有芳香族性環式化合物においては、他の原子と共役関係を有する窒素原子と、不飽和結合を形成している他の原子に隣接している窒素原子を共に有することが好ましい。
【0039】
このような窒素含有芳香族性環式化合物としては、例えば、一つの窒素原子を含有するピリジン類及びその誘導体、二つの窒素原子を含有するイミダゾール類及びその誘導体、ピリミジン類及びその誘導体、ピラジン類及びその誘導体、三つの窒素原子を含有するトリアジン類及びその誘導体等が挙げられる。溶媒溶解性等の観点からは、ピリジン類及びその誘導体、イミダゾール類及びその誘導体、ピリミジン類及びその誘導体が好ましい。
また、窒素含有芳香族性環式化合物は、アルキル基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、シアノ基、フェニル基、フェノール基、エステル基、アルコキシル基、カルボニル基等の置換基が環に導入されたものでもよいし、導入されていないものでもよい。また、環は多環であってもよい。
【0040】
ピリジン類及びその誘導体の具体的な例としては、ピリジン、2−メチルピリジン、3−メチルピリジン、4−メチルピリジン、4−エチルピリジン、N−ビニルピリジン、2,4−ジメチルピリジン、2,4,6−トリメチルピリジン、3−シアノ−5−メチルピリジン、2−ピリジンカルボン酸、6−メチル−2−ピリジンカルボン酸、4−ピリジンカルボキシアルデヒド、4−アミノピリジン、2,3−ジアミノピリジン、2,6−ジアミノピリジン、2,6−ジアミノ−4−メチルピリジン、4−ヒドロキシピリジン、4−ピリジンメタノール、2,6−ジヒドロキシピリジン、2,6−ピリジンジメタノール、6−ヒドロキシニコチン酸メチル、2−ヒドロキシ−5−ピリジンメタノール、6−ヒドロキシニコチン酸エチル、4−ピリジンメタノール、4−ピリジンエタノール、2−フェニルピリジン、3−メチルキノリン、3−エチルキノリン、キノリノール、2,3−シクロペンテノピリジン、2,3−シクロヘキサノピリジン、1,2−ジ(4−ピリジル)エタン、1,2−ジ(4−ピリジル)プロパン、2−ピリジンカルボキシアルデヒド、2−ピリジンカルボン酸、2−ピリジンカルボニトリル、2,3−ピリジンジカルボン酸、2,4−ピリジンジカルボン酸、2,5−ピリジンジカルボン酸、2,6−ピリジンジカルボン酸、3−ピリジンスルホン酸等が挙げられる。
【0041】
イミダゾール類及びその誘導体の具体的な例としては、イミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−プロピルイミダゾール、2−ウンデジルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、N−メチルイミダゾール、N−ビニルイミダゾール、N−アリルイミダゾール、1−(2−ヒドロキシエチル)イミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール、1−アセチルイミダゾール、4,5−イミダゾールジカルボン酸、4,5−イミダゾールジカルボン酸ジメチル、ベンズイミダゾール、2−アミノべンズイミダゾール、2−アミノべンズイミダゾール−2−スルホン酸、2−アミノ−1−メチルべンズイミダゾール、2−ヒドロキシべンズイミダゾール、2−(2−ピリジル)べンズイミダゾール等が挙げられる。
【0042】
ピリミジン類及びその誘導体の具体的な例としては、2−アミノ−4−クロロ−6−メチルピリミジン、2−アミノ−6−クロロ−4−メトキシピリミジン、2−アミノ−4,6−ジクロロピリミジン、2−アミノ−4,6−ジヒドロキシピリミジン、2−アミノ−4,6−ジメチルピリミジン、2−アミノ−4,6−ジメトキシピリミジン、2−アミノピリミジン、2−アミノ−4−メチルピリミジン、4,6−ジヒドロキシピリミジン、2,4−ジヒドロキシピリミジン−5−カルボン酸、2,4,6−トリアミノピリミジン、2,4−ジメトキシピリミジン、2,4,5−トリヒドロキシピリミジン、2,4−ピリミジンジオール等が挙げられる。
【0043】
ピラジン類及びその誘導体の具体的な例としては、ピラジン、2−メチルピラジン、2,5−ジメチルピラジン、ピラジンカルボン酸、2,3−ピラジンジカルボン酸、5−メチルピラジンカルボン酸、ピラジンアミド、5−メチルピラジンアミド、2−シアノピラジン、アミノピラジン、3−アミノピラジン−2−カルボン酸、2−エチル−3−メチルピラジン、2−エチル−3−メチルピラジン、2,3−ジメチルピラジン、2,3−ジエチルピラジン等が挙げられる。
【0044】
トリアジン類及びその誘導体の具体的な例としては、1,3,5−トリアジン、2−アミノ−1,3,5−トリアジン、3−アミノ−1,2,4−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−フェニル−1,3,5−トリアジン、2,4,6−トリアミノ−1,3,5−トリアジン、2,4,6−トリス(トリフルオロメチル)−1,3,5−トリアジン、2,4,6−トリ−2−ピリジン−1,3,5−トリアジン、3−(2−ピリジン)−5,6−ビス(4−フェニルスルホン酸)−1,2,4―トリアジン二ナトリウム、3−(2−ピリジン)−5,6−ジフェニル−1,2,4−トリアジン、3−(2−ピリジン)−5,6−ジフェニル−1,2,4―トリアジン−ρ,ρ’−ジスルホン酸二ナトリウム、2−ヒドロキシ−4,6−ジクロロ−1,3,5−トリアジン等が挙げられる。
【0045】
窒素含有芳香族性環式化合物における窒素原子には非共有電子対が存在しているため、窒素原子上には置換基又はプロトンが配位又は結合されやすい。窒素原子上に置換基又はプロトンが配位又は結合された場合には、窒素原子上にカチオン電荷を帯びる傾向がある。ここで、窒素原子と他の原子とは共役関係を有しているため、窒素原子上に置換基又はプロトンが配位又は結合されたことによって生じたカチオン電荷は窒素含有芳香族性環中に拡散されて、安定した形で存在するようになる。
このようなことから、窒素含有芳香族性環式化合物は、窒素原子に置換基が導入されて窒素含有芳香族性環式化合物カチオンを形成していてもよい。さらに、そのカチオンとアニオンとが組み合わされて塩が形成されていてもよい。塩であっても、カチオンでない窒素含有芳香族性環式化合物と同様の効果を発揮する。
窒素含有芳香族性環式化合物の窒素原子に導入される置換基としては、水素、アルキル基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、シアノ基、フェニル基、フェノール基、エステル基、アルコキシル基、カルボニル基等が挙げられる。置換基の種類は前記に示される置換基を導入することができる。
【0046】
窒素含有芳香族性環式化合物の含有量は、ポリアニオンのアニオン基単位1モルに対して0.1〜100モルの範囲であることが好ましく、0.5〜30モルの範囲であることがより好ましく、得られる導電性塗膜の物性及び導電性の観点からは、1〜10モルの範囲が特に好ましい。窒素含有芳香族性環式化合物の含有率が0.1モルより少なくなると、窒素含有芳香族性環式化合物とポリアニオン及びπ共役系導電性高分子との相互作用が弱くなる傾向にあり、導電性が不足することがある。また、窒素含有芳香族性環式化合物が100モルを超えて含まれるとπ共役系導電性高分子の含有量が少なくなり、やはり充分な導電性が得られにくく、導電性塗膜の物性が変化することがある。
【0047】
[2個以上のヒドロキシル基を有する化合物]
2個以上のヒドロキシル基を有する化合物としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、D−グルコース、D−グルシトール、イソプレングリコール、ジメチロールプロピオン酸、ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、チオジエタノール、グルコース、酒石酸、D−グルカル酸、グルタコン酸等の多価脂肪族アルコール類;
ポリビニルアルコール、セルロース、多糖、糖アルコール等の高分子アルコール;
1,4−ジヒドロキシベンゼン、1,3−ジヒドロキシベンゼン、2,3−ジヒドロキシ−1−ペンタデシルベンゼン、2,4−ジヒドロキシアセトフェノン、2,5−ジヒドロキシアセトフェノン、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,6−ジヒドロキシベンゾフェノン、3,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、3,5−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフォン、2,2’,5,5’−テトラヒドロキシジフェニルスルフォン、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフォン、ヒドロキシキノンカルボン酸及びその塩類、2,3−ジヒドロキシ安息香酸、2,4−ジヒドロキシ安息香酸、2,5−ジヒドロキシ安息香酸、2,6−ジヒドロキシ安息香酸、3,5−ジヒドロキシ安息香酸、1,4−ヒドロキノンスルホン酸及びその塩類、4,5−ヒドロキシベンゼン−1,3−ジスルホン酸及びその塩類、1,5−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、2,3−ジヒドロキシナフタレン、1,5−ジヒドロキシナフタレン−2,6−ジカルボン酸、1,6−ジヒドロキシナフタレン−2,5−ジカルボン酸、1,5−ジヒドロキシナフトエ酸、1,4−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸フェニルエステル、4,5−ジヒドロキシナフタレン−2,7−ジスルホン酸及びその塩類、1,8−ジヒドロキシ−3,6−ナフタレンジスルホン酸及びその塩類、6,7−ジヒドロキシ−2−ナフタレンスルホン酸及びその塩類、1,2,3−トリヒドロキシベンゼン(ピロガロール)、1,2,4−トリヒドロキシベンゼン、5−メチル−1,2,3−トリヒドロキシベンゼン、5−エチル−1,2,3−トリヒドロキシベンゼン、5−プロピル−1,2,3−トリヒドロキシベンゼン、トリヒドロキシ安息香酸、トリヒドロキシアセトフェノン、トリヒドロキシベンゾフェノン、トリヒドロキシベンゾアルデヒド、トリヒドロキシアントラキノン、2,4,6−トリヒドロキシベンゼン、テトラヒドロキシ−p−ベンゾキノン、テトラヒドロキシアントラキノン、ガーリック酸メチル(没食子酸メチル)、ガーリック酸エチル(没食子酸エチル)、ヒドロキノンスルホン酸カリウム等の芳香族化合物等が挙げられる。
【0048】
2個以上のヒドロキシル基を有する化合物の含有量は、ポリアニオンのアニオン基単位1モルに対して0.05〜50モルの範囲であることが好ましく、0.3〜10モルの範囲であることがより好ましい。2個以上のヒドロキシル基を有する化合物の含有量が、ポリアニオンのアニオン基単位1モルに対して0.05モルより少なくなると、導電性及び耐熱性が不足することがある。また、2個以上のヒドロキシル基を有する化合物の含有量が、ポリアニオンのアニオン基単位1モルに対して50モルより多くなると、導電性塗膜中のπ共役系導電性高分子の含有量が少なくなり、やはり充分な導電性が得られにくく、導電性塗膜の物性が変化することがある。
【0049】
導電性向上剤として2個以上のヒドロキシル基を有する化合物を含む場合には、以下の理由から、得られる導電性塗膜の導電性及び熱安定性をより高くすることができる。すなわち、導電性高分子溶液中のπ共役系導電性高分子は高度な酸化状態にあるため、熱等によりその一部が酸化劣化しやすくなっている。そのため、ラジカルが発生し、ラジカル連鎖によって劣化が進行すると考えられる。ところが、2個以上のヒドロキシル基を有する化合物は、ヒドロキシル基のラジカル捕捉によって、ラジカル連鎖が遮断され、劣化の進行を抑制でき、熱安定性が向上するものと推測される。
【0050】
[2個以上のカルボキシル基を有する化合物]
2個以上のカルボキシル基を有する化合物としては、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、マロン酸、1,4−ブタンジカルボン酸、コハク酸、酒石酸、アジピン酸、D−グルカル酸、グルタコン酸、クエン酸等の脂肪族カルボン酸類化合物;
フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、5−スルホイソフタル酸、5−ヒドロキシイソフタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、4,4’−オキシジフタル酸、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ナフタレンジカルボン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の、芳香族性環に少なくとも一つ以上のカルボキシル基が結合している芳香族カルボン酸類化合物;ジグリコール酸、オキシ二酪酸、チオ二酢酸、チオ二酪酸(チオ二プロピオン酸)、イミノ二酢酸、イミノ酪酸等が挙げられる。
【0051】
2個以上のカルボキシル基を有する化合物は、ポリアニオンのアニオン基単位1モルに対して0.1〜30モルの範囲であることが好ましく、0.3〜10モルの範囲であることがより好ましい。2個以上のカルボキシル基を有する化合物の含有量が、ポリアニオンのアニオン基単位1モルに対して0.1モルより少なくなると、導電性及び耐熱性が不足することがある。また2個以上のカルボキシル基を有する化合物の含有量が、ポリアニオンのアニオン基単位1モルに対して30モルより多くなると、導電性塗膜中のπ共役系導電性高分子の含有量が少なくなり、やはり充分な導電性が得られにくく、導電性塗膜の物性が変化することがある。
【0052】
[1個以上のヒドロキシル基及び1個以上のカルボキシル基を有する化合物]
1個以上のヒドロキシル基及び1個以上のカルボキシル基を有する化合物としては、酒石酸、グリセリン酸、ジメチロールブタン酸、ジメチロールプロパン酸、D−グルカル酸、グルタコン酸等が挙げられる。
【0053】
1個以上のヒドロキシル基及び1個以上のカルボキシル基を有する化合物の含有量は、ポリアニオンとπ共役系導電性高分子の合計100質量部に対して1〜5000質量部であることが好ましく、50〜500質量部であることがより好ましい。1個以上のヒドロキシル基及び1個以上のカルボキシル基を有する化合物の含有量が1質量部より少なくなると、導電性及び耐熱性が不足することがある。また、1個以上のヒドロキシル基及び1個以上のカルボキシル基を有する化合物の含有量が5000質量部より多くなると、導電性塗膜中のπ共役系導電性高分子の含有量が少なくなり、やはり充分な導電性が得ることが難しい。
【0054】
[アミド化合物]
アミド基を有する化合物は、−CO−NH−(COの部分は二重結合)で表されるアミド結合を分子中に有する単分子化合物である。すなわち、アミド化合物としては、例えば、上記結合の両末端に官能基を有する化合物、上記結合の一方の末端に環状化合物が結合された化合物、上記両末端の官能基が水素である尿素及び尿素誘導体などが挙げられる。
アミド化合物の具体例としては、アセトアミド、マロンアミド、スクシンアミド、マレアミド、フマルアミド、ベンズアミド、ナフトアミド、フタルアミド、イソフタルアミド、テレフタルアミド、ニコチンアミド、イソニコチンアミド、2−フルアミド、ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、プロピオンアミド、プロピオルアミド、ブチルアミド、イソブチルアミド、メタクリルアミド、パルミトアミド、ステアリルアミド、オレアミド、オキサミド、グルタルアミド、アジプアミド、シンナムアミド、グルコールアミド、ラクトアミド、グリセルアミド、タルタルアミド、シトルアミド、グリオキシルアミド、プルブアミド、アセトアセトアミド、ジメチルアセトアミド、ベンジルアミド、アントラニルアミド、エチレンジアミンテトラアセトアミド、ジアセトアミド、トリアセトアミド、ジベンズアミド、トリベンズアミド、ローダニン、尿素、1−アセチル−2−チオ尿素、ビウレット、ブチル尿素、ジブチル尿素、1,3−ジメチル尿素、1,3−ジエチル尿素及びこれらの誘導体等が挙げられる。
【0055】
アミド化合物の分子量は46〜10000であることが好ましく、46〜5,000であることがより好ましく、46〜1000であることが特に好ましい。
【0056】
アミド化合物の含有量は、ポリアニオンとπ共役系導電性高分子の合計100質量部に対して1〜5000質量部であることが好ましく、50〜500質量部であることがより好ましい。アミド化合物の含有量が1質量部より少なくなると、導電性及び耐熱性が不足することがある。また、アミド化合物の含有量が5000質量部より多くなると、導電性塗膜中のπ共役系導電性高分子の含有量が少なくなり、やはり充分な導電性が得ることが難しい。
【0057】
[イミド化合物]
アミド化合物としては、導電性がより高くなることから、イミド結合を有する単分子化合物(以下、イミド化合物という。)が好ましい。イミド化合物としては、その骨格より、フタルイミド及びフタルイミド誘導体、スクシンイミド及びスクシンイミド誘導体、ベンズイミド及びベンズイミド誘導体、マレイミド及びマレイミド誘導体、ナフタルイミド及びナフタルイミド誘導体などが挙げられる。
【0058】
また、イミド化合物は両末端の官能基の種類によって、脂肪族イミド、芳香族イミド等に分類されるが、溶解性の観点からは、脂肪族イミドが好ましい。
さらに、脂肪族イミド化合物は、分子内の炭素間に不飽和結合を有する飽和脂肪族イミド化合物と、分子内の炭素間に不飽和結合を有する不飽和脂肪族イミド化合物とに分類される。
飽和脂肪族イミド化合物は、R−CO−NH−CO−Rで表される化合物であり、R,Rの両方が飽和炭化水素である化合物である。具体的には、シクロヘキサン−1,2−ジカルボキシイミド、アラントイン、ヒダントイン、バルビツル酸、アロキサン、グルタルイミド、スクシンイミド、5−ブチルヒダントイン酸、5,5−ジメチルヒダントイン、1−メチルヒダントイン、1,5,5−トリメチルヒダントイン、5−ヒダントイン酢酸、N−ヒドロキシ−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボキシイミド、グルタルイミド、セミカルバジド、α,α−ジメチル−6−メチルスクシンイミド、ビス[2−(スクシンイミドオキシカルボニルオキシ)エチル]スルホン、α−メチル−α−プロピルスクシンイミド、シクロヘキシルイミドなどが挙げられる。
不飽和脂肪族イミド化合物は、R−CO−NH−CO−Rで表される化合物であり、R,Rの一方又は両方が1つ以上の不飽和結合である化合物である。具体例は、1,3−ジプロピレン尿素、マレイミド、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−ヒドロキシマレイミド、1,4−ビスマレイミドブタン、1,6−ビスマレイミドヘキサン、1,8−ビスマレイミドオクタン、N−カルボキシヘプチルマレイミドなどが挙げられる。
【0059】
イミド化合物の分子量は60〜5,000であることが好ましく、70〜1,000であることがより好ましく、80〜500であることが特に好ましい。
【0060】
イミド化合物の含有量は、π共役系導電性高分子とポリアニオンの合計100質量部に対して10〜10000質量部であることが好ましく、50〜5000質量部であることがより好ましい。アミド化合物及びイミド化合物の添加量が前記下限値未満であると、アミド化合物及びイミド化合物添加による効果が低くなるため好ましくない。また、前記上限値を超えると、π共役系導電性高分子濃度の低下に起因する導電性の低下が起こるため好ましくない。
【0061】
[ラクタム化合物]
ラクタム化合物とは、アミノカルボン酸の分子内環状アミドであり、環の一部が−CO−NR−(Rは水素又は任意の置換基)である化合物である。ただし、環の一個以上の炭素原子が不飽和やヘテロ原子に置き換わっていてもよい。
ラクタム化合物としては、例えば、ペンタノ−4−ラクタム、4−ペンタンラクタム−5−メチル−2−ピロリドン、5−メチル−2−ピロリジノン、ヘキサノ−6−ラクタム、6−ヘキサンラクタム等が挙げられる。
【0062】
[グリシジル基を有する化合物]
グリシジル基を有する化合物としては、例えば、エチルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、t−ブチルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、ベンジルグリシジルエーテル、グリシジルフェニルエーテル、ビスフェノールA、ジグリシジルエーテル、アクリル酸グリシジルエーテル、メタクリル酸グリシジルエーテル等のグリシジル化合物などが挙げられる。
【0063】
<導電性向上溶媒>
導電性向上溶媒としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチレンホスホルトリアミド、N−ビニルピロリドン、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド等の極性溶媒、クレゾール、フェノール、キシレノール等のフェノール類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、D−グルコース、D−グルシトール、イソプレングリコール、ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、ネオペンチルグリコール等の多価脂肪族アルコール類、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート化合物、ジオキサン、ジエチルエーテル、トリエチレングルコール・ジメチルエーテル、テトラエチレングリコール・ジメチルエーテル、ジエチレングリコール・ジメチルエーテル、ジエチレングリコール・ジエチルエーテル、ジエチレングリコール・ジブチルエーテル等のエーテル化合物、ジアルキルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル、ポリエチレングリコールジアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールジアルキルエーテル等の鎖状エーテル類、3−メチル−2−オキサゾリジノン等の複素環化合物、アセトニトリル、グルタロジニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル化合物等が挙げられる。これらの溶媒は、単独で用いてもよいし、2種類以上の混合物としてもよい。
【0064】
さらに、導電性が特に向上し、また、乾燥速度を制御しやすくなることから、圧力0.1MPaにて100℃以上の沸点を有するものがより好ましい。
圧力0.1MPaにて100℃以上の沸点を有する溶媒としては、上記例示のうち、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチレンホスホルトリアミド、N−ビニルピロリドン、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド等の極性溶媒、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、D−グルコース、D−グルシトール、イソプレングリコール、ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、ネオペンチルグリコール等の多価アルコールが挙げられる。これらは1種で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0065】
導電性向上溶媒の含有量は、ポリアニオンとπ共役系導電性高分子の合計100質量部に対して1〜10000質量部であることが好ましく、50〜3000質量部であることがより好ましい。
【0066】
以上説明した導電性高分子溶液の製造方法において、モノマー分散液を高圧分散処理することにより、モノマー分散液中のポリアニオンの粒子径を小さくできるため、分散性を高くできる。したがって、高い分散性のポリアニオン存在下で前駆体モノマーを重合できる。前駆体モノマーはポリアニオンに沿って重合するため、前駆体モノマー重合によって得られる複合体も粒子径が小さくなり、導電性高分子溶液中での分散性を高くできる。
また、導電性高分子予備溶液を高圧分散処理することにより、複合体の粒子径を小さくでき、分散性を高くできる。
π共役系導電性高分子の分散性が高くなる程、導電性高分子溶液から形成した導電性塗膜の導電性が高くなるから、π共役系導電性高分子の分散性を向上させる上記製造方法によれば、導電性が充分に高い導電性塗膜が得られる導電性高分子溶液を製造できる。
このようにして得た導電性高分子溶液から形成された導電性塗膜は、導電性に充分に優れ、しかも透明であるため、例えば、ITO膜の代替材料として使用できる。
【実施例】
【0067】
(実施例1)
14.2g(0.1mol)の3,4−エチレンジオキシチオフェンと、2000mlのイオン交換水に27.5g(0.15mol)のポリスチレンスルホン酸(質量平均分子量;約150,000)を溶かした溶液とを20℃で混合して、モノマー分散液を得た。
これにより得られたモノマー分散液を20℃に保ち、掻き混ぜながら、200mlのイオン交換水に溶かした29.64g(0.13mol)の過硫酸アンモニウムと8.0g(0.02mol)の硫酸第二鉄の酸化触媒溶液とを添加し、12時間攪拌して反応させた。
得られた反応液を透析して、未反応モノマー、酸化剤、酸化触媒を除去して、約1.5質量%の青色のポリスチレンスルホン酸ドープポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)を含む溶液を得た。
そして、この溶液を温度25℃に調節し、スリットに液を通す高圧分散機であるナノマイザー(吉田機械興業社製NM2−L200)により、圧力150MPaで高圧分散処理を2回施して、導電性高分子溶液を得た。この導電性高分子溶液におけるポリアニオンと複合体のキュムラント平均粒子径を大塚電子製FPAR1000により測定した(以下の例も同様)。その結果を表1に示す。
【0068】
得られた導電性高分子溶液をNo.8のバーコーターを用いてガラス板上に塗布し、120℃の熱風乾燥機中で乾燥させて導電性塗膜を形成した。その導電性塗膜の電気伝導度をロレスタ(三菱化学社製)により測定した。その結果を表1に示す。
【0069】
【表1】

【0070】
(実施例2)
14.2g(0.1mol)の3,4−エチレンジオキシチオフェンと、2000mlのイオン交換水に9.2g(0.05mol)のポリスチレンスルホン酸(質量平均分子量;約550,000)を溶かした溶液とを20℃で混合して、モノマー分散液を得た。
これにより得られたモノマー分散液を20℃に保ち、掻き混ぜながら、200mlのイオン交換水に溶かした29.64g(0.13mol)の過硫酸アンモニウムと8.0g(0.02mol)の硫酸第二鉄の酸化触媒溶液とを添加し、12時間攪拌して反応させた。
得られた反応液を透析して、未反応モノマー、酸化剤、酸化触媒を除去して、約1.5質量%の青色のポリスチレンスルホン酸ドープポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)を含む溶液を得た。
そして、この溶液を温度10℃に調節し、実施例1と同様のナノマイザーにより、圧力180MPaで高圧分散処理を3回施して、導電性高分子溶液を得た。そして、実施例1と同様にして、導電性塗膜を形成し、その電気伝導度を測定した。その結果を表1に示す。
【0071】
(実施例3)
6.7gのピロール(0.1mol)と、2000mlのイオン交換水に18.3g(0.1mol)のポリスチレンスルホン酸(質量平均分子量;約400,000)を溶かした溶液とを20℃で混合して、モノマー分散液を得た。
これにより得られたモノマー分散液を20℃に保ち、掻き混ぜながら、200mlのイオン交換水に溶かした29.64g(0.13mol)の過硫酸アンモニウムと8.0g(0.02mol)の硫酸第二鉄の酸化触媒溶液とを添加し、12時間攪拌して反応させた。
得られた反応液を透析して、未反応モノマー、酸化剤、酸化触媒を除去して、約1.5質量%の青色のポリスチレンスルホン酸ドープポリピロールを含む溶液を得た。
次いで、この溶液を温度0℃に調節し、液を対向衝突させる高圧分散機であるアルティマイザー(スギノマシン社製HJP−25)により、圧力100MPaで高圧分散処理を1回施して、導電性高分子溶液を得た。
そして、実施例1と同様にして、得られた導電性高分子溶液から導電性塗膜を形成し、その電気伝導度を測定した。その結果を表1に示す。
【0072】
(実施例4)
14.2g(0.1mol)の3,4−エチレンジオキシチオフェンと、2000mlのイオン交換水に27.5g(0.15mol)のポリスチレンスルホン酸(質量平均分子量;約150,000)を溶かした溶液とを20℃で混合して、モノマー分散液を得た。
これにより得られたモノマー分散液を20℃に保ち、掻き混ぜながら、200mlのイオン交換水に溶かした29.64g(0.13mol)の過硫酸アンモニウムと8.0g(0.02mol)の硫酸第二鉄の酸化触媒溶液とを添加し、12時間攪拌して反応させた。
得られた反応液を透析して、未反応モノマー、酸化剤、酸化触媒を除去して、約1.5質量%の青色のポリスチレンスルホン酸ドープポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)を含む溶液を得た。
そして、この溶液を温度20℃に調節し、実施例1と同様のナノマイザーにより、圧力150MPaで高圧分散処理を2回施した後、溶液100gに対してジメチルスルホキシドを5g添加して、導電性高分子溶液を得た。そして、実施例1と同様にして、導電性塗膜を形成し、その電気伝導度を測定した。その結果を表1に示す。
【0073】
(実施例5)
高圧分散処理後にジメチルスルホキシド5gの代わりにイミダゾールを2g添加したこと以外は実施例4と同様にして、導電性高分子溶液を得た。そして、実施例1と同様にして、導電性塗膜を形成し、その電気伝導度を測定した。その結果を表1に示す。
【0074】
(実施例6)
高圧分散処理後にジメチルスルホキシド5gの代わりにN−ヒドロキシエチルアセトアミドを3g添加したこと以外は実施例4と同様にして、導電性高分子溶液を得た。そして、実施例1と同様にして、導電性塗膜を形成し、その電気伝導度を測定した。その結果を表1に示す。
【0075】
(実施例7)
14.2g(0.1mol)の3,4−エチレンジオキシチオフェンと、2000mlのイオン交換水に27.5g(0.15mol)のポリスチレンスルホン酸(質量平均分子量;約150,000)を溶かした溶液とを20℃で混合して、モノマー分散液を得た。このモノマー分散液を温度20℃に調節し、実施例1と同様のナノマイザーにより、圧力150MPaで高圧分散処理を2回施した。
これにより得られた溶液を20℃に保ち、掻き混ぜながら、200mlのイオン交換水に溶かした29.64g(0.13mol)の過硫酸アンモニウムと8.0g(0.02mol)の硫酸第二鉄の酸化触媒溶液とを添加し、12時間攪拌して反応させた。
得られた反応液を透析して、未反応モノマー、酸化剤、酸化触媒を除去して、約1.5質量%の青色のポリスチレンスルホン酸ドープポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)を含む導電性高分子溶液を得た。
そして、実施例1と同様にして、得られた導電性高分子溶液から導電性塗膜を形成し、その電気伝導度を測定した。その結果を表1に示す。
【0076】
(実施例8)
高圧分散処理後ではなく、高圧分散処理前にイミダゾール2gを添加したこと以外は実施例5と同様にして、導電性高分子溶液を得た。
そして、実施例1と同様にして、得られた導電性高分子溶液から導電性塗膜を形成し、その電気伝導度を測定した。その結果を表1に示す。
【0077】
(実施例9)
9.3gのアニリン(0.1mol)と、2000mlのイオン交換水に27.5g(0.15mol)のポリスチレンスルホン酸(質量平均分子量;約150,000)を溶かした溶液とを20℃で混合して、モノマー分散液を得た。
これにより得られたモノマー分散液を20℃に保ち、掻き混ぜながら、200mlのイオン交換水に溶かした29.64g(0.13mol)の過硫酸アンモニウムと8.0g(0.02mol)の硫酸第二鉄の酸化触媒溶液とを添加し、12時間攪拌して反応させた。
得られた反応液を透析して、未反応モノマー、酸化剤、酸化触媒を除去して、約1.5質量%の青色のポリスチレンスルホン酸ドープポリアニリンを含む溶液を得た。この溶液を温度20℃に調節し、実施例1と同様のナノマイザーにより、圧力150MPaで高圧分散処理を2回施して、導電性高分子溶液を得た。
そして、実施例1と同様にして、得られた導電性高分子溶液から導電性塗膜を形成し、その電気伝導度を測定した。その結果を表1に示す。
【0078】
(実施例10)
高圧分散処理時の溶液の温度を−10℃、圧力を200MPa、処理回数を25回としたこと以外は実施例4と同様にして導電性高分子溶液を得た。
そして、実施例1と同様にして、得られた導電性高分子溶液から導電性塗膜を形成し、その電気伝導度を測定した。その結果を表1に示す。
【0079】
(比較例1)
14.2g(0.1mol)の3,4−エチレンジオキシチオフェンと、2000mlのイオン交換水に27.5g(0.15mol)のポリスチレンスルホン酸(質量平均分子量;約150,000)を溶かした溶液とを20℃で混合して、モノマー分散液を得た。
これにより得られたモノマー分散液を20℃に保ち、掻き混ぜながら、200mlのイオン交換水に溶かした29.64g(0.13mol)の過硫酸アンモニウムと8.0g(0.02mol)の硫酸第二鉄の酸化触媒溶液とを添加し、12時間攪拌して反応させた。
得られた反応液を透析して、未反応モノマー、酸化剤、酸化触媒を除去して、約1.5質量%の青色のポリスチレンスルホン酸ドープポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)を含む溶液を得た。
この溶液を導電性高分子溶液として、導電性塗膜を形成し、その電気伝導度を測定した。その結果を表1に示す。
【0080】
(比較例2)
14.2g(0.1mol)の3,4−エチレンジオキシチオフェンと、2000mlのイオン交換水に27.5g(0.15mol)のポリスチレンスルホン酸(質量平均分子量;約550,000)を溶かした溶液とを20℃で混合して、モノマー分散液を得た。
これにより得られたモノマー分散液を20℃に保ち、掻き混ぜながら、200mlのイオン交換水に溶かした29.64g(0.13mol)の過硫酸アンモニウムと8.0g(0.02mol)の硫酸第二鉄の酸化触媒溶液とを添加し、12時間攪拌して反応させた。
得られた反応液を透析して、未反応モノマー、酸化剤、酸化触媒を除去して、約1.5質量%の青色のポリスチレンスルホン酸ドープポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)を含む溶液を得た。
この溶液を導電性高分子溶液として、導電性塗膜を形成し、その電気伝導度を測定した。その結果を表1に示す。
【0081】
(比較例3)
14.2g(0.1mol)の3,4−エチレンジオキシチオフェンと、2000mlのイオン交換水に27.5g(0.15mol)のポリスチレンスルホン酸(質量平均分子量;約150,000)を溶かした溶液とを20℃で混合して、モノマー分散液を得た。
これにより得られたモノマー分散液を20℃に保ち、掻き混ぜながら、200mlのイオン交換水に溶かした29.64g(0.13mol)の過硫酸アンモニウムと8.0g(0.02mol)の硫酸第二鉄の酸化触媒溶液とを添加し、12時間攪拌して反応させた。
得られた反応液を透析して、未反応モノマー、酸化剤、酸化触媒を除去して、約1.5質量%の青色のポリスチレンスルホン酸ドープポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)を含む溶液を得た。
そして、この溶液100gに対してジメチルスルホキシドを5g添加して、導電性高分子溶液を得た。そして、実施例1と同様にして、導電性塗膜を形成し、その電気伝導度を測定した。その結果を表1に示す。
【0082】
(比較例4)
6.7gのピロール(0.1mol)と、2000mlのイオン交換水に18.3g(0.1mol)のポリスチレンスルホン酸(質量平均分子量;約400,000)を溶かした溶液とを20℃で混合して、モノマー分散液を得た。
これにより得られたモノマー分散液を20℃に保ち、掻き混ぜながら、200mlのイオン交換水に溶かした29.64g(0.13mol)の過硫酸アンモニウムと8.0g(0.02mol)の硫酸第二鉄の酸化触媒溶液とを添加し、12時間攪拌して反応させた。
得られた反応液を透析して、未反応モノマー、酸化剤、酸化触媒を除去して、約1.5質量%の青色のポリスチレンスルホン酸ドープポリピロールを含む溶液を得た。
この溶液から、実施例1と同様にして、導電性塗膜を形成し、その電気伝導度を測定した。その結果を表1に示す。
【0083】
(比較例5)
9.3gのアニリン(0.1mol)と、2000mlのイオン交換水に27.5g(0.15mol)のポリスチレンスルホン酸(質量平均分子量;約150,000)を溶かした溶液とを20℃で混合して、モノマー分散液を得た。
これにより得られたモノマー分散液を20℃に保ち、掻き混ぜながら、200mlのイオン交換水に溶かした29.64g(0.13mol)の過硫酸アンモニウムと8.0g(0.02mol)の硫酸第二鉄の酸化触媒溶液とを添加し、12時間攪拌して反応させた。
得られた反応液を透析して、未反応モノマー、酸化剤、酸化触媒を除去して、約1.5質量%の青色のポリスチレンスルホン酸ドープポリアニリンを含む溶液を得た。
そして、この溶液から、実施例1と同様にして、導電性塗膜を形成し、その電気伝導度を測定した。その結果を表1に示す。
【0084】
ポリマー分散液または導電性高分子予備溶液を高圧分散処理した実施例1〜10の製造方法により得た導電性高分子溶液では、複合体の粒子径が小さくなっており、複合体の分散性が高くなっていた。そのため、これらの導電性高分子溶液から形成された導電性塗膜の導電性は高かった。
これに対し、高圧分散処理しなかった比較例1〜5の製造方法により得た導電性高分子溶液では、複合体の粒子径が、高圧分散処理したものより大きく、分散性が低かった。そのため、これらの導電性高分子溶液から形成された導電性塗膜の導電性は低かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応溶媒中でπ共役系導電性高分子の前駆体モノマーとポリアニオンとを混合してモノマー分散液を調製する工程と、
モノマー分散液中のπ共役系導電性高分子の前駆体モノマーを酸化重合して導電性高分子予備溶液を調製する工程とを有する導電性高分子溶液の製造方法であって、
前記モノマー分散液および/または導電性高分子予備溶液を高圧分散処理する工程をさらに有することを特徴とする導電性高分子溶液の製造方法。
【請求項2】
モノマー分散液または導電性高分子予備溶液に導電性向上成分を添加する工程を有することを特徴とする請求項1に記載の導電性高分子溶液の製造方法。
【請求項3】
導電性向上成分が、窒素含有芳香族性環式化合物、2個以上のヒドロキシル基を有する化合物、2個以上のカルボキシル基を有する化合物、1個以上のヒドロキシル基及び1個以上のカルボキシル基を有する化合物、アミド基を有する化合物、イミド基を有する化合物、ラクタム化合物、グリシジル基を有する化合物からなる群より選ばれる1種以上の導電性向上剤であることを特徴とする請求項2に記載の導電性高分子溶液の製造方法。

【公開番号】特開2008−171761(P2008−171761A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−5933(P2007−5933)
【出願日】平成19年1月15日(2007.1.15)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】