導電複合粒子、エラストマー複合材料、および変形センサ
【課題】 母材に配合された場合に、母材との界面における応力集中を低減可能な導電複合粒子を提供する。また、そのような導電複合粒子を用いて、変形センサ材料等として有用なエラストマー複合材料を提供する。
【解決手段】 導電複合粒子は、エラストマーまたは樹脂中に配合され、絶縁性の有機物粒子と、該有機物粒子の表面にメカノケミカル反応により複合化されている導電性微粒子と、を有する。このような導電複合粒子を含んだ導電性フィラーをエラストマーに配合し、エラストマー複合材料とする。
【解決手段】 導電複合粒子は、エラストマーまたは樹脂中に配合され、絶縁性の有機物粒子と、該有機物粒子の表面にメカノケミカル反応により複合化されている導電性微粒子と、を有する。このような導電複合粒子を含んだ導電性フィラーをエラストマーに配合し、エラストマー複合材料とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エラストマーまたは樹脂中に配合する導電性フィラーとして用いられる導電複合粒子に関する。また、部材の変形等を検出可能なセンサ材料等として好適なエラストマー複合材料、およびそれを用いた変形センサに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、部材の変形や部材に作用する荷重の大きさ、分布を検出する手段として、感圧導電性樹脂や感圧導電性エラストマーを用いたセンサが提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。感圧導電性樹脂等は、母材となる樹脂やエラストマー中に導電性フィラーを分散させて構成されている。感圧導電性樹脂等は、変形すると電気抵抗が減少するという特性を有する。つまり、変形前は、導電性フィラー同士が離れているため電気抵抗が大きい。圧縮等により変形すると、導電性フィラー同士が接触して導電し、電気抵抗が減少する。
【0003】
導電性フィラーには、通常、金属材料や炭素材料からなる粉末、繊維、箔片等が用いられる。導電性フィラーについては、導電性の向上や、母材への混合における問題等を解消するため、様々な改良がなされている(例えば、特許文献3、4参照)。
【特許文献1】特開平9−5014号公報
【特許文献2】特開平4−349301号公報
【特許文献3】特開平9−171714号公報
【特許文献4】特開平4−14703号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、市販の導電性フィラーには、粒子径が1μm前後の小さなものはほとんどない。導電性フィラーは、粒子径や導電性等のバリエーションに乏しいのが現状であり、エラストマー等に配合した場合、所望の特性を得ることが難しい。特に、炭素系フィラーについては、金属系フィラーに比べて表面処理が難しいため、使用上の制約が大きい。また、金属材料や炭素材料の弾性率は高い。このため、粒子径の大きなフィラーを母材(樹脂、エラストマー)に分散させると、歪みが加えられた時にフィラーと母材との界面に応力が集中しやすい。よって、繰り返し使用すると母材が破壊され、外部からの刺激に対する応答性が低下するおそれがある。
【0005】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、母材に配合された場合に、母材との界面における応力集中を低減可能な導電複合粒子を提供することを課題とする。また、そのような導電複合粒子を配合することにより、耐久性が高く、変形センサ材料等として有用なエラストマー複合材料を提供することを課題とする。さらには耐久性に優れた変形センサを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明の導電複合粒子は、エラストマーまたは樹脂中に配合され、絶縁性の有機物粒子と、該有機物粒子の表面にメカノケミカル反応により複合化されている導電性微粒子と、を有することを特徴とする(請求項1に対応)。
【0007】
本発明の導電複合粒子では、有機物粒子の表面への導電性微粒子の複合化に、メカノケミカル反応が用いられる。メカノケミカル反応によると、衝突力を主体とした機械的エネルギーが各々の粒子に加えられ、導電性微粒子が有機物粒子の表面を覆うような状態で複合化する。メカノケミカル反応を採用することで、有機物粒子の成分、粒子径、弾性率等によらず、有機物粒子の表面を導電性微粒子で被覆することができる。したがって、有機物粒子と導電性微粒子との組み合わせに応じて、様々な特性を持つ導電複合粒子を得ることができる。
【0008】
例えば、有機物粒子として、弾性率の低い高分子等を用いた場合には、柔軟な導電複合粒子を得ることができる。柔軟な導電複合粒子を、エラストマーまたは樹脂(母材)中に配合すると、歪みが加えられた時に生じる、母材との界面における応力の集中が緩和される。このため、母材が破壊されにくく、外部からの刺激に対する応答性が低下しにくい。
【0009】
また、粒子径の小さな有機物粒子を用いることにより、導電複合粒子の粒子径を小さくすることができる。さらに、使用する有機物粒子の粒度分布を調整すれば、導電複合粒子の粒度分布も容易に調整することができる。導電複合粒子の粒子径を小さくすることで、母材との界面における応力の集中が緩和され、母材の破壊を抑制することができる。
【0010】
また、有機物粒子の表面を被覆している導電性微粒子の種類、量を調整することにより、任意の粉体抵抗(導電性)を持つ導電複合粒子を得ることができる。さらに、導電性微粒子に加えて、母材との相溶性が良好な微粒子を複合化すると、母材と導電複合粒子との接着力を向上させることができる。これにより、歪みが加わっても、導電複合粒子と母材との剥離が抑制され、耐久性がより向上する。
【0011】
(2)本発明のエラストマー複合材料は、エラストマーと、該エラストマー中に配合されている導電性フィラーと、を有し、該導電性フィラーは、上記本発明の導電複合粒子を含むことを特徴とする(請求項6に対応)。
【0012】
すなわち、本発明のエラストマー複合材料には、エラストマー中に上記本発明の導電複合粒子が配合されている。本明細書において、「エラストマー」は、ゴムおよび熱可塑性エラストマーを含む。上述したように、有機物粒子と導電性微粒子との組み合わせに応じて、本発明の導電複合粒子は様々な特性を持つ。このため、目的に応じて好適な導電複合粒子を選択することで、所望の特性を持つエラストマー複合材料を実現することができる。
【0013】
例えば、エラストマー中に配合される本発明の導電複合粒子が、柔軟なものである場合、あるいは粒子径が小さい場合には、導電複合粒子とエラストマーとの界面における応力集中が緩和される。よって、繰り返し変形してもエラストマーが破壊されにくく、耐久性が高い。このような本発明のエラストマー複合材料は、変形センサ材料として好適である。
【0014】
(3)好ましくは、上記(2)の構成において、前記導電性フィラーは、前記エラストマー中に略単粒子状態でかつ高充填率で配合されており、弾性変形可能であって、弾性変形量が増加するに従って電気抵抗が増加する構成とするとよい(請求項7に対応)。
【0015】
上記本発明のエラストマー複合材料の一態様として、導電性フィラーが、エラストマー中に略単粒子状態でかつ高充填率で配合されている場合には、弾性変形量が増加するに従って電気抵抗が増加する。ここで、「略単粒子状態」とは、導電性フィラーの全重量を100重量%とした場合の50重量%以上が、凝集した二次粒子としてではなく、単独の一次粒子の状態で存在していることをいう。また、「高充填率」とは、導電性フィラーが最密充填に近い状態で配合されていることをいう。また、「弾性変形」には、圧縮、伸張、曲げ等による変形がすべて含まれる。
【0016】
導電性フィラーが、略単粒子状態で、かつ高充填率で配合されると、エラストマー分を介した導電性フィラー同士の接触により、三次元的な導電パスが形成される。これにより、荷重が印加されていない状態(以下、適宜「無荷重状態」と称す。)、言い換えると、変形していない自然状態で、本発明のエラストマー複合材料は高い導電性を有する。一方、本発明のエラストマー複合材料が弾性変形すると、弾性変形量が増加するに従って電気抵抗が増加する。この理由は、次のように考えられる。
【0017】
図1、図2に、本発明のエラストマー複合材料の、荷重の印加前後における導電パスの変化をモデルで示す。ただし、図1、図2に示すのは、本発明のエラストマー複合材料の一例であり、導電性フィラーの充填状態、形状等を何ら限定するものではない。
【0018】
図1に示すように、エラストマー複合材料100において、導電性フィラー102の多くは、エラストマー101中に一次粒子の状態(略単独の状態)で存在している。また、導電性フィラー102の充填率は高く、最密充填に近い状態で配合されている。これにより、無荷重状態において、エラストマー複合材料100には、導電性フィラー102による三次元的な導電パスPが形成されている。よって、無荷重状態では、エラストマー複合材料100の電気抵抗は小さい。一方、図2に示すように、エラストマー複合材料100に荷重が印加されると、エラストマー複合材料100は弾性変形する(図2中の点線枠は、図1の無荷重状態を示している。)。ここで、導電性フィラー102は最密充填に近い状態で配合されているため、導電性フィラー102が移動できるスペースはほとんどない。よって、エラストマー複合材料100が弾性変形すると、導電性フィラー102同士が反発し合い、導電性フィラー102同士の接触状態が変化する。その結果、三次元的な導電パスPが崩壊し、電気抵抗が増加する。
【0019】
ここで、エラストマー中に配合される導電性フィラーは、上記本発明の導電複合粒子を含む。導電複合粒子が柔軟なものである場合、あるいは粒子径が小さい場合には、導電複合粒子とエラストマーとの界面における応力集中が緩和される。このため、弾性変形を繰り返しても、エラストマーが破壊されにくく、初期の三次元的な導電パスを維持することができる。すなわち、本態様のエラストマー複合材料は、繰り返し使用しても外部からの刺激に対する応答性が低下しにくく、耐久性に優れる。
【0020】
(4)また、本発明の変形センサは、上記(3)の構成のエラストマー複合材料からなるセンサ本体と、該センサ本体に接続され、該電気抵抗を出力可能な電極と、該センサ本体の少なくとも一部の弾性変形を拘束する拘束部材と、を備えてなることを特徴とする(請求項9に対応)。
【0021】
上記(3)の構成のエラストマー複合材料からなるセンサ本体を備えた本発明の変形センサは、電極から出力されるセンサ本体の電気抵抗の増加に基づいて、対象となる部材、部位に作用する荷重、および部材、部位の様々な変形を検出することができる。また、センサ本体は、エラストマーを母材とするため、弾性変形可能である。このため、本発明の変形センサは、部材、部位に生じる圧縮、伸張、曲げ等の様々な変形を検出することができる。また、本発明の変形センサは、加工性に優れ、形状設計の自由度が高い。よって、部材、部位の広い領域における荷重、変形を検出することができる。
【0022】
本発明の変形センサでは、エラストマーの種類、導電性フィラーの構成、充填率等を調整することにより、無荷重状態における電気抵抗値を所定の範囲に設定することができる。このため、検出可能な荷重、弾性変形量の範囲、つまり、検出レンジを大きくすることができる。加えて、弾性変形量に対する電気抵抗の増加挙動を調整することができるため、所望の応答感度を実現することができる。
【0023】
また、センサ本体(エラストマー複合材料)には、上記本発明の導電複合粒子が配合されている。したがって、導電複合粒子の粒子径、弾性率等を最適化することにより、弾性変形を繰り返しても、外部からの刺激に対する応答性が低下しにくく、耐久性に優れた変形センサを実現することができる。
【0024】
また、本発明の変形センサは、無荷重状態において高い導電性を有する。つまり、本発明の変形センサは、無荷重状態において導電状態にある。このため、無荷重状態において、導電性の低いセンサ(例えば、従来の感圧導電性樹脂等を用いたセンサ)と比較して、作動診断が容易である。すなわち、無荷重状態において導電性の低いセンサの場合、無荷重状態のままでは、正常なのか異常なのか(例えば回路に断線等が生じているのか)判別し難い。このため、導電性が低いセンサに、敢えて、比較的高い電圧を印加して、通電させてみる必要がある。あるいは、センサを試験的に作動させて通電状態をチェックする必要がある。したがって、作動診断が煩雑である。これに対して、本発明の変形センサの場合、無荷重状態において高い導電性を有している。このため、無荷重状態のままで、正常、異常の判別がし易い。したがって、作動診断が容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の導電複合粒子、エラストマー複合材料、および変形センサについて、それぞれ詳細に説明する。
【0026】
<導電複合粒子>
本発明の導電複合粒子は、絶縁性の有機物粒子と、その表面に複合化されている導電性微粒子と、を有する。有機物粒子の種類は、特に限定されるものではなく、目的とする特性に応じて適宜選択すればよい。有機物粒子の弾性率が低いと、柔軟な導電複合粒子を得ることができる。この場合、有機物粒子を、弾性率が20GPa以下の材料から構成するとよい。例えば、エラストマーや樹脂からなる粒子を用いるとよい。エラストマーや樹脂の場合、弾性率として、JIS K6911に準じて測定された曲げ弾性率の値を採用する。
【0027】
具体的には、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合樹脂(ABS樹脂)、アクリロニトリル−スチレン共重合樹脂(AS樹脂)、メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン共重合樹脂(MBS樹脂)、ポリアミド、エポキシ樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンオキサイド、ポリフェニレンエーテル等の樹脂、アクリルゴム、シリコーンゴム等のゴムが挙げられる。
【0028】
有機物粒子の形状は、特に限定されるものではない。エラストマーや樹脂(母材)との界面における応力集中を低減するためには、アスペクト比(最短径に対する最長径の比)が1以上2以下のものが望ましい。また、アスペクト比が2より大きくなると、母材に配合した時の導電複合粒子の分散性が低下する。例えば、球状の粒子を採用することが望ましい。「球状」には、真球、略真球状の他、楕円球状、長円球状(一対の対向する半球を円柱で連結した形状)、部分球状、部分毎に半径の異なる球状、水滴形状等が含まれる。また、後述するように、母材中の導電複合粒子の充填状態を、より最密充填状態に近づけたい場合には、真球あるいは極めて真球に近い形状(略真球状)の粒子を採用するとよい。
【0029】
また、導電複合粒子と母材との界面における応力集中を低減するためには、有機物粒子の粒子径は小さい方が望ましい。例えば、導電複合粒子の製造に、平均粒子径が100μm以下の粉体を使用するとよい。平均粒子径が60μm以下、さらには20μm以下の粉体がより好適である。一方、粒子径が小さすぎると、後述する複合化処理の際の分散性が悪くなり、個々の有機物粒子の表面に導電性微粒子を均一に固定させることが難しくなる。よって、平均粒子径が1μm以上の粉体を採用するとよい。3μm以上の粉体がより好適である。なお、平均粒子径としては、累積粒度曲線において積算重量が50%となる粒子径(D50)を採用する。また、使用する有機物粒子の粉体の粒度分布は狭い方が望ましい。例えば、D90/D10の値が1以上30以下であることが望ましい。D90/D10の値が10以下であるとより好適である。ここで、D90は、累積粒度曲線において積算重量が90%となる粒子径であり、D10は、同積算重量が10%となる粒子径である。D90/D10の値が30を超えると、粒度分布がブロードになるため、目的とする粒子径範囲以外の粒子の割合が大きくなる。
【0030】
導電性微粒子は、導電性を有する粒子であれば、その種類が特に限定されるものではない。例えば、カーボンブラック、グラファイト、アセチレンブラック等の炭素材料、金、銀、パラジウム、ニッケル、銅等の金属、錫酸化物、アンチモン酸化物、鉄酸化物、マンガン酸化物等の酸化物の微粒子が挙げられる。これらのうち、一種を単独で、あるいは二種以上を併せて用いることができる。なかでも、導電性が良好で低価格であるという理由から、炭素材料が好適である。
【0031】
単独の一次粒子の状態で存在する導電性微粒子の平均粒子径(平均一次粒子径)は、10nm以上100nm以下とすることが望ましい。100nmを超えると有機物粒子の表面に複合化される導電性微粒子の量が少なくなり、得られる導電複合粒子の導電性が低下するおそれがある。なお、導電性微粒子の平均一次粒子径としては、電子顕微鏡の観察により測定された導電性微粒子の粒子径の算術平均値を採用する。
【0032】
導電性微粒子は、有機物粒子の表面のすべてを覆っていてもよく、一部を覆っていてもよい。また、有機物粒子の表面には、導電性微粒子に加えて、エラストマーまたは樹脂(母材)との相溶性が良好な微粒子が、メカノケミカル反応により複合化されていてもよい。このような微粒子が複合化されていると、母材との相溶性が向上するため、導電複合粒子と母材との接着力が大きくなる。これにより、歪みが加わった場合でも、導電複合粒子と母材との剥離が抑制され、耐久性がより向上する。
【0033】
このような微粒子としては、例えば、母材がシリコーンゴムの場合には、シリカ等が好適である。また、母材がエチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体(EPDM)、アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴム(NBR)等の場合には、母材のポリマーと反応する重合性のビニル基を有するモノマーが好適である。例えば、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、メタリルスルホン酸ナトリウム、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、N,N−メチレンビス(アクリルアミド)、およびこれらの混合物等が挙げられる。また、これらのモノマーと、アクリル酸エステル、メタアクリル酸エステル、アクリロニトリル、塩化ビニル、スチレン、酢酸ビニル等の重合性モノマーとの共重合体も好適である。
【0034】
導電複合粒子の製造、すなわち、導電性微粒子の有機物粒子の表面への複合化処理には、メカノケミカル反応を用いる。メカノケミカル反応を行う方法としては、噴射圧力や衝突力等の機械的エネルギーを利用する公知の方法を用いればよい。例えば、ハイブリダイゼーション法、メカノフュージョン法、シータコンポーザ法、メカノミル法、ボールミル法等が挙げられる。有機物粒子、導電性微粒子等の原料粉末を、複合化処理を行う装置に収容し、所定の条件下にて処理すればよい。
【0035】
複合化処理を行う諸条件は、使用する装置に応じて、また、有機物粒子、導電性微粒子等の種類や量等を考慮して、適宜決定すればよい。例えば、ハイブリダイゼーション法を採用する場合には、回転速度は6000〜8000rpm程度、処理時間は1〜5分間程度とするとよい。複合化処理は、室温、大気圧下で行えばよい。また、空気中、あるいは使用する粒子が酸化性のものである場合には窒素中で行うことが望ましい。なお、母材との相溶性が良好な微粒子をも複合化する場合には、使用する材料に応じて、還元雰囲気、酸化雰囲気等、適宜調整すればよい。
【0036】
有機物粒子と導電性微粒子との配合比は、使用する粒子の粒子径、真比重等により異なるため、所望の特性が得られるよう適宜調整すればよい。例えば、樹脂からなる有機物粒子と、炭素材料からなる導電性微粒子との組み合わせの場合、有機物粒子と導電性微粒子との重量比は、100:0.5〜5とすることが望ましい。
【0037】
<エラストマー複合材料>
本発明のエラストマー複合材料は、エラストマーと、該エラストマー中に配合されている導電性フィラーと、を有し、該導電性フィラーは、上記本発明の導電複合粒子を含む。導電性フィラーには、本発明の導電複合粒子の一種を単独で、あるいは二種以上を混合して用いることができる。また、炭素材料等の単一粒子からなる従来のフィラーを併用してもよい。エラストマーは、ゴムおよび熱可塑性エラストマーから適宜選択すればよい。例えば、弾性変形量が増加するに従って電気抵抗が増加するという特性を発現させるためには、導電性フィラーとの関係を考慮して選択することが望ましい。
【0038】
例えば、ゴムとしては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴム(NBR)、スチレン−ブタジエン共重合ゴム(SBR)、エチレン−プロピレン共重合ゴム[エチレン−プロピレン共重合体(EPM)、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体(EPDM)等]、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(Cl−IIR、Br−IIR等)、水素化ニトリルゴム(H−NBR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリルゴム(AR)、クロロスルフォン化ポリエチレンゴム(CSM)、ヒドリンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム、合成ラテックス等が挙げられる。また、熱可塑性エラストマーとしては、スチレン系、オレフィン系、ウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、フッ素系等の各種熱可塑性エラストマー、およびこれらの誘導体が挙げられる。これらのうち、一種を単独で、あるいは二種以上を併せて用いればよい。例えば、導電性フィラーとして炭素材料が使用されている場合には、該導電性フィラーと相溶性が良好なEPDM、NBR、シリコーンゴムが好適である。
【0039】
また、導電性フィラーをエラストマー中に略単粒子状態でかつ高充填率で配合し、弾性変形量が増加するに従って電気抵抗が増加するよう、本発明のエラストマー複合材料を構成することができる。この場合、導電性フィラーの充填率は、エラストマー複合材料の全体の体積を100vol%とした場合の30vol%以上であることが望ましい。30vol%未満の場合には、導電性フィラーが最密充填に近い状態で配合されにくく、所望の導電性が発現しない。また、エラストマー複合材料の弾性変形に対する電気抵抗の変化が緩慢になり、電気抵抗の増加挙動を制御することが難しくなる。35vol%以上であるとより好適である。反対に、導電性フィラーの充填率は、エラストマー複合材料の全体の体積を100vol%とした場合の65vol%以下であることが望ましい。65vol%を超えると、エラストマーへの混合が困難となり、成形加工性が低下する。また、エラストマー複合材料が弾性変形しにくくなる。55vol%以下であるとより好適である。
【0040】
本発明のエラストマー複合材料は、エラストマー、導電性フィラーに加え、各種添加剤が配合されていてもよい。添加剤としては、例えば、架橋剤、加硫促進剤、加工助剤、加硫助剤、老化防止剤、可塑剤、軟化剤、着色剤等が挙げられる。本発明のエラストマー複合材料は、例えば、次のようにして製造することができる。まず、エラストマーに、加工助剤、軟化剤等の添加剤を添加して、混練りする。続いて、導電性フィラーを加えて混練りした後、さらに、架橋剤、加硫促進剤を加えて混練りし、エラストマー組成物とする。次に、エラストマー組成物を所定の形状に成形し、それを金型に充填して、所定の条件下でプレス架橋する。
【0041】
<変形センサ>
上記本発明のエラストマー複合材料を用いて、変形センサを構成することができる。以下、本発明のエラストマー複合材料を用いた変形センサ、すなわち本発明の変形センサの一実施形態について説明する。
【0042】
まず、本実施形態の変形センサの構成について説明する。図3に、変形センサの正面図を示す。図4に、図3のIV−IV断面図を示す。なお、図4では、説明の便宜上、導線を省略して示す。図3、図4に示すように、変形センサ2は、電極フィルム部20とセンサ本体21と拘束フィルム部22とを備えている。
【0043】
電極フィルム部20は、基材フィルム200とカバーフィルム201とを備えている。基材フィルム200は、ポリイミド製であって、左右方向に延びる帯状を呈している。基材フィルム200は、基材900の表面に固定されている。基材フィルム200の右端には、コネクタ23が取り付けられている。カバーフィルム201は、ポリイミド製であって、左右方向に延びる帯状を呈している。カバーフィルム201は、基材フィルム200の表面を覆っている。カバーフィルム201の幅方向(上下方向)中央には、左右方向に延びてセンサ本体21に対応する長孔201aが開設されている。
【0044】
センサ本体21は、左右方向に延びる長尺板状を呈している。センサ本体21は、カバーフィルム201の長孔201aに収容された状態で、基材フィルム200の表面に固定されている。センサ本体21は、EPDM中に導電性フィラー(導電複合粒子)が略単粒子状態でかつ高充填率で配合されたエラストマー複合材料からなる。導電性フィラーの充填率は、センサ本体21の体積を100vol%とした場合の60vol%である。
【0045】
センサ本体21の左端には電極Aが、右端には電極Bが、各々取り付けられている。詳しく説明すると、電極A、Bは、共に、上下に延びる短冊状を呈しており、センサ本体21と基材フィルム200との間、およびカバーフィルム201と基材フィルム200との間に、介装されている。電極Aとコネクタ23とは導線24Aにより、電極Bとコネクタ23とは導線24Bにより、各々、結線されている。
【0046】
拘束フィルム部22は、ポリイミド製であって、左右方向に延びる帯状を呈している。拘束フィルム部22は、センサ本体21の基材フィルム200側と反対の表面(後面)に固定されている。基材フィルム200および拘束フィルム部22は、本発明における拘束部材に含まれる。
【0047】
次に、変形センサ2の動きについて説明する。荷重が基材900側から加わると、基材900は、後方に撓むように変形する。基材900の変形は、基材フィルム200を介して、センサ本体21に伝達される。このため、センサ本体21も、前方に開口するC字状に、弾性的に湾曲する。無荷重状態においては、前出図1に示すように、導電性フィラー102は、最密充填に近い状態で充填されている。このため、多数の導電パスPが形成されている。したがって、検出される電極A、B間の電気抵抗値は、比較的小さい。これに対して、荷重が加わった後においては、前出図2に示すように、導電性フィラー102同士が反発し合う。このため、導電パスPが崩壊してしまう。したがって、検出される電極A、B間の電気抵抗値は、無荷重状態に対して、大きくなる。
【0048】
加えて、センサ本体21の表面(後面)には、拘束フィルム部22が固定されている。このため、センサ本体21後面付近の伸長変形は、拘束フィルム部22により拘束される。すなわち、拘束フィルム部22により、センサ本体21後面付近の伸長変形は規制され、センサ本体21は剪断変形する。このように、センサ本体21の両面を拘束することによって、大きな歪み集中を誘起でき、より一層、電極A、B間の電気抵抗値は大きくなる。
【0049】
次に、本実施形態の変形センサ2の作用効果について説明する。本実施形態の変形センサ2では、センサ本体21が弾性変形すると、電気抵抗が増加する。このため、電極A、Bから出力されるセンサ本体21の電気抵抗の増加に基づいて、基材900に作用する荷重、および圧縮、曲げ等の変形を容易に検出することができる。また、センサ本体21は、エラストマー(EPDM)を母材とするため、加工性に優れている。このため、配置場所の自由度も高い。
【0050】
また、エラストマーの種類、導電性フィラーの構成、充填率等を調整することにより、無荷重状態における電気抵抗値を所定の範囲に設定することができる。このため、検出可能な荷重、弾性変形量の範囲、つまり、検出レンジを大きくすることができる。加えて、弾性変形量に対する電気抵抗の増加挙動を調整することができるため、所望の応答感度を実現することができる。
【0051】
また、センサ本体21(エラストマー複合材料)には、本発明の導電複合粒子が配合されている。このため、弾性変形を繰り返しても、エラストマーが破壊されにくい。したがって、変形センサ2は、繰り返し使用した場合でも、外部からの刺激に対する応答性が低下しにくく、耐久性に優れる。
【0052】
また、本実施形態の変形センサ2は、変形していない自由状態で、導電状態にある。よって、変形センサ2が組み込まれている回路に電流を流すことにより、変形センサ2が作動可能か否かの自己診断を容易に行うことができる。
【0053】
なお、本発明の変形センサの実施形態は上記形態に限定されるものではない。当業者が行いうる種々の変形的形態、改良的形態で実施することも可能である。例えば、センサ本体21を、基材フィルム200を介することなく、直接、基材900の表面に固定してもよい。また、センサ本体21の表面には、拘束フィルム部22を配置しなくてもよい。この場合、基材900が拘束部材となる。また、基材900側からではなく、センサ本体21の表面から、直接、荷重が入力されてもよい。
【実施例】
【0054】
<導電複合粒子>
(1)導電複合粒子の製造
(1−a)有機物粒子として、シリコーン樹脂粉体(信越化学工業社製「KMP−601」、平均粒子径10μm)またはアクリル樹脂粉体(綜研化学社製「MX−300」、平均粒子径3μm)を用い、導電性微粒子としてケッチェンブラック(一次粒子径34nm)を用いて、導電複合粒子を六種類製造した。
【0055】
まず、下記表1に示す配合割合で、シリコーン樹脂粉体またはアクリル樹脂粉体と、ケッチェンブラックと、を配合し、さらに適宜シリカ粉体を配合して、予備混合した。シリカ粉体は、後述するエラストマー複合材料の母材との相溶性が良好なシリカ微粒子(一次粒子径34nm)からなる。得られた予備混合物を、ハイブリダイゼーション装置(株式会社奈良機械製作所製「ハイブリダイゼーションシステムNHS−1型」)に投入し、3分間処理した。処理は、空気雰囲気、室温下(摩擦等による温度上昇あり)で行い、回転速度は6400rpm、8000rpmの二種類とした。得られた導電複合粒子を実施例1〜6の導電複合粒子とした。下記表1に、原料の配合割合、ハイブリダイゼーション処理の条件等を示す。
【0056】
(1−b)上記シリコーン樹脂粉体の種類を平均粒子径0.8μmのもの(信越化学工業社製「X−52−7030」)に変更し、それ以外は上記同様にして、導電複合粒子を二種類製造した(配合割合等は同表1に示す通り)。得られた導電複合粒子を参考例1、2の導電複合粒子とした。
【0057】
(1−c)比較のため、上記(1−a)のシリコーン樹脂粉体(平均粒子径10μm)またはアクリル樹脂粉体と、ケッチェンブラックと、を各々ビニール袋に入れて混合したものを、比較例1、2の混合粉体とした。
【表1】
【0058】
(2)電子顕微鏡観察
製造した実施例3、4の導電複合粒子について、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。これらのSEM写真を図5、図6に示す。比較のため、有機物粒子として用いたアクリル樹脂粒子単体の写真を図7に示す。各図において、上は粒子全体の写真であり、下は粒子表面の拡大写真である。図7の写真によると、アクリル樹脂粒子は、なめらかな表面を有していることがわかる。一方、図5の写真からわかるように、実施例3の導電複合粒子では、アクリル樹脂粒子の表面がケッチェンブラックにより被覆されている。また、図6の写真によると、実施例4の導電複合粒子では、アクリル樹脂粒子の表面がケッチェンブラックにより被覆されていると共に、同表面にシリカ微粒子も点在して固定されている。
【0059】
(3)電気抵抗の測定
製造した実施例1〜6、参考例1、2の導電複合粒子からなる粉体、比較例1、2の混合粉体について、それぞれ電気抵抗値を測定した。電気抵抗の測定は、次のように行った。すなわち、各々の粉体をフッ素樹脂製の円筒容器に収容し、その上底面および下底面にアルミニウム電極を配置した。上底面側から40kgの荷重を加えて粉体を圧縮しながら、10Vの電圧を印加して、電気抵抗を測定した。
【0060】
電気抵抗の測定結果を、上記表1に併せて示す。表1に示すように、比較例1、2の混合粉体の電気抵抗は、1012〜1013Ω・cm程度と大きいのに対して、実施例1〜6の導電複合粒子からなる粉体については、いずれも電気抵抗が小さく、導電性が良好であることがわかる。つまり、実施例1〜6の導電複合粒子は、導電性フィラーとして好適であることが確認された。一方、参考例1、2の導電複合粒子からなる粉体については、電気抵抗が大きくなった。これは、有機物粒子(シリコーン樹脂粉体)の粒子径が小さかったため、ハイブリダイゼーション処理の際に分散しにくく、表面に導電性微粒子(ケッチェンブラック)が均一に固定されなかったためと考えられる。
【0061】
<エラストマー複合材料および変形センサ>
製造した実施例1〜6の導電複合粒子を導電性フィラーとして使用して、エラストマー複合材料を製造した。また、製造したエラストマー複合材料を用いて変形センサを作製し、その応答性および耐久性を評価した。
【0062】
エラストマー複合材料は、EPDMを母材として三種類(実施例7〜9)、シリコーンゴムを母材として四種類(実施例10〜13)製造した。EPDMを母材としたエラストマー複合材料は、各原料を下記表2に示す配合割合でロール練り機にて混合、分散させて、エラストマー組成物を調製した。また、シリコーンゴムを母材としたエラストマー複合材料は、各原料を下記表3に示す配合割合でロール練り機にて混合、分散させて、エラストマー組成物を調製した。表2、表3中、各原料については以下のものを使用した。
(A)エラストマー
EPDM:住友化学社製「エスプレン(登録商標)524」、シリコーンゴム:GE東芝シリコーン社製「XE21−B3761」。
(B)可塑剤
パラフィン系プロセスオイル:日本サン石油社製「サンパー(登録商標)110」。
(C)加硫助剤
酸化亜鉛(亜鉛華)二種:白水化学工業社製。
(D)加工助剤
ステアリン酸:花王社製「ルナック(登録商標)S30」。
(E)加硫促進剤
ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛:大内新興化学社製「ノクセラー(登録商標)PZ−P」、テトラメチルチウラムジスルフィド:三新化学社製「サンセラー(登録商標)TT−G」、2−メルカプトベンゾチアゾール:大内新興化学社製「ノクセラーM−P」。
(F)架橋剤
硫黄:鶴見化学工業社製「サルファックスT−10」。
(G)硬化剤
過酸化物:GE東芝シリコーン社製「TC−8」。
【表2】
【表3】
【0063】
調製した各々のエラストマー組成物を、縦100mm、横5mm、厚さ2mmの長尺板状に成形して成形体とした。この成形体を金型に充填し、長手方向両端に一対の電極を配置して、170℃で20分間プレス加硫することにより、一対の電極が取り付けられたエラストマー複合材料(センサ素子)を得た。ここで、実施例7〜9のエラストマー複合材料における導電性フィラーの充填率は、同エラストマー複合材料の体積を100vol%とした場合の約60vol%であった。同様に、実施例10〜13のエラストマー複合材料における導電性フィラーの充填率は、55vol%であった。得られたセンサ素子の一方の表面に拘束板を固定して、変形センサとした。製造した変形センサを、使用したエラストマー複合材料の番号に対応させて実施例7〜13の変形センサとした。
【0064】
一方、各々の母材に対して、カーボンビーズ(日本カーボン社製「ニカビーズMC0520」、平均粒子径約5μm)のみからなる導電性フィラーを配合したエラストマー複合材料を製造し、上記同様に変形センサを作製した(表2中の比較例3、表3中の比較例4参照)。これらを比較例3、4の変形センサとした。
【0065】
図8に、作製した変形センサの正面図を示す。図8に示すように、変形センサ3は、センサ素子30と拘束板32とを備えている。拘束板32は、ポリイミド製の薄膜とポリプロピレン製の薄膜との積層体であって、縦120mm、横10mm、厚さ0.4mmの帯状を呈している。センサ素子30は、拘束板32の表面に固定されている。センサ素子30の両端には電極31a、31bが各々固定されている。電極31a、31bは、共に短冊状を呈しており、センサ素子30と拘束板32との間に、介装されている。電極31a、31bには、各々導線(図略)が接続されている。
【0066】
変形センサの応答性および耐久性は、以下の加振試験により評価した。図9に、試験装置の模式図を示す。図9に示すように、試験装置4は、上端ホルダ40と下端ホルダ41と基盤42とを備えている。上端ホルダ40は、変形センサ3の長手方向一端(上端)を把持している。上端ホルダ40は、上下方向に繰り返し移動する加振ジグ(図略)に接続されている。下端ホルダ41は、上端ホルダ40に対して、下方に離間して配置されている。下端ホルダ41は、基盤42に固定されており不動である。下端ホルダ41は、変形センサ3の長手方向他端(下端)を把持している。
【0067】
加振ジグを上下方向に動かすと、上下方向に上端ホルダ40が移動し、上端ホルダ40〜下端ホルダ41間の間隔が収縮、拡大する。これにより、変形センサ3は湾曲変形する。センサ素子30の電気抵抗値は、電極31a、31b等から外部回路(図略)に出力される。上端ホルダ40の変位量が0mm→0.5mm→1mm→1.5mm→2mm→2.5mm→0mmというサイクルを繰り返し、この変位量における電気抵抗の変化を測定した。電気抵抗測定時の加振周波数は、2.5mm/5Hzとした。
【0068】
加振試験の結果の一例として、実施例7および比較例3の各変形センサにおける電気抵抗の変化を、図10、図11にそれぞれ示す。図10中、縦軸の「E+05」は「×105」を意味する。よって、例えば「3.0×105」は「3.0E+05」と示されている。図10、図11には、最初の1サイクル目における電気抵抗の変化と、5万サイクル繰り返した後に測定された電気抵抗の変化と、併せて示す。また、実施例および比較例の全ての変形センサについて、1サイクル目の抵抗変化率を算出し、先の表2、表3に併せて示す。ここで、抵抗変化率は、次式(1)により算出した。
抵抗変化率(%)=(R2.5−R0)/R0)×100・・・(1)
式中、R0は初期(変位量0mm)の時の電気抵抗値、R2.5は最大変位量2.5mmの時の電気抵抗値である。さらに、5万サイクル後における抵抗変化保持率を算出し、先の表2、表3に併せて示す。ここで、抵抗変化保持率は、次式(2)により算出した。
抵抗変化保持率(%)=ΔR’/ΔR×100・・・(2)
式中、ΔR’は5万サイクル後に測定された抵抗変化量(R2.5−R0)、ΔRは1サイクル目の抵抗変化量(R2.5−R0)である。
【0069】
図10に示すように、実施例7の変形センサによると、変位量、つまり変形センサの変形量が増加するに従って、大きく電気抵抗が増加した。これより、実施例7の変形センサの応答性は良好であることがわかる。また、図10と図11とを比較して明らかなように、実施例7の変形センサによると、サイクル数を重ねても、すなわち、繰り返し湾曲変形しても、比較例3の変形センサと比較して、電気抵抗の増加挙動の変化が小さい。この点、表2に示すように、実施例7の変形センサの抵抗変化保持率は85%であるのに対し、比較例3の変形センサの抵抗変化保持率は50%であることからも明らかである。また、表2、表3に示すように、実施例の変形センサは、同じ母材の比較例の変形センサと比較して、抵抗変化率、抵抗変化保持率ともに大きい値となった。つまり、本発明の導電複合粒子を配合した実施例の変形センサは、カーボンビーズを配合した比較例の変形センサよりも、変形に対する抵抗増加量が大きく、かつ、弾性変形を繰り返しても、その大きな抵抗変化を維持することができる。以上より、本発明の変形センサは、変形に対する応答性が良好で、かつ、弾性変形を繰り返しても応答性が低下しにくく、耐久性に優れることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明のエラストマー複合材料における荷重印加前の導電パスを示す模式図である。
【図2】同エラストマー複合材料における荷重印加後の導電パスを示す模式図である。
【図3】本発明の第一実施形態の変形センサの正面図である。
【図4】図3のIV−IV断面図である。
【図5】実施例3の導電複合粒子のSEM写真である。
【図6】実施例4の導電複合粒子のSEM写真である。
【図7】アクリル樹脂粒子単体のSEM写真である。
【図8】実施例における加振試験で使用した変形センサの正面図である。
【図9】同加振試験の試験装置の模式図である。
【図10】実施例7の変形センサにおける変形量に対する電気抵抗の変化を示すグラフである。
【図11】比較例3の変形センサにおける変形量に対する電気抵抗の変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0071】
2:変形センサ 20:電極フィルム部 200:基材フィルム
201:カバーフィルム 201a:長孔 21:センサ本体 22:拘束フィルム部
23:コネクタ 24A、24B:導線
3:変形センサ 30:センサ素子 31a、31b:電極 32:拘束板
4:試験装置 40:上端ホルダ 41:下端ホルダ 42:基盤
100:エラストマー複合材料 101:エラストマー 102:導電性フィラー
900:基材 A:電極 B:電極 P:導電パス
【技術分野】
【0001】
本発明は、エラストマーまたは樹脂中に配合する導電性フィラーとして用いられる導電複合粒子に関する。また、部材の変形等を検出可能なセンサ材料等として好適なエラストマー複合材料、およびそれを用いた変形センサに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、部材の変形や部材に作用する荷重の大きさ、分布を検出する手段として、感圧導電性樹脂や感圧導電性エラストマーを用いたセンサが提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。感圧導電性樹脂等は、母材となる樹脂やエラストマー中に導電性フィラーを分散させて構成されている。感圧導電性樹脂等は、変形すると電気抵抗が減少するという特性を有する。つまり、変形前は、導電性フィラー同士が離れているため電気抵抗が大きい。圧縮等により変形すると、導電性フィラー同士が接触して導電し、電気抵抗が減少する。
【0003】
導電性フィラーには、通常、金属材料や炭素材料からなる粉末、繊維、箔片等が用いられる。導電性フィラーについては、導電性の向上や、母材への混合における問題等を解消するため、様々な改良がなされている(例えば、特許文献3、4参照)。
【特許文献1】特開平9−5014号公報
【特許文献2】特開平4−349301号公報
【特許文献3】特開平9−171714号公報
【特許文献4】特開平4−14703号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、市販の導電性フィラーには、粒子径が1μm前後の小さなものはほとんどない。導電性フィラーは、粒子径や導電性等のバリエーションに乏しいのが現状であり、エラストマー等に配合した場合、所望の特性を得ることが難しい。特に、炭素系フィラーについては、金属系フィラーに比べて表面処理が難しいため、使用上の制約が大きい。また、金属材料や炭素材料の弾性率は高い。このため、粒子径の大きなフィラーを母材(樹脂、エラストマー)に分散させると、歪みが加えられた時にフィラーと母材との界面に応力が集中しやすい。よって、繰り返し使用すると母材が破壊され、外部からの刺激に対する応答性が低下するおそれがある。
【0005】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、母材に配合された場合に、母材との界面における応力集中を低減可能な導電複合粒子を提供することを課題とする。また、そのような導電複合粒子を配合することにより、耐久性が高く、変形センサ材料等として有用なエラストマー複合材料を提供することを課題とする。さらには耐久性に優れた変形センサを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明の導電複合粒子は、エラストマーまたは樹脂中に配合され、絶縁性の有機物粒子と、該有機物粒子の表面にメカノケミカル反応により複合化されている導電性微粒子と、を有することを特徴とする(請求項1に対応)。
【0007】
本発明の導電複合粒子では、有機物粒子の表面への導電性微粒子の複合化に、メカノケミカル反応が用いられる。メカノケミカル反応によると、衝突力を主体とした機械的エネルギーが各々の粒子に加えられ、導電性微粒子が有機物粒子の表面を覆うような状態で複合化する。メカノケミカル反応を採用することで、有機物粒子の成分、粒子径、弾性率等によらず、有機物粒子の表面を導電性微粒子で被覆することができる。したがって、有機物粒子と導電性微粒子との組み合わせに応じて、様々な特性を持つ導電複合粒子を得ることができる。
【0008】
例えば、有機物粒子として、弾性率の低い高分子等を用いた場合には、柔軟な導電複合粒子を得ることができる。柔軟な導電複合粒子を、エラストマーまたは樹脂(母材)中に配合すると、歪みが加えられた時に生じる、母材との界面における応力の集中が緩和される。このため、母材が破壊されにくく、外部からの刺激に対する応答性が低下しにくい。
【0009】
また、粒子径の小さな有機物粒子を用いることにより、導電複合粒子の粒子径を小さくすることができる。さらに、使用する有機物粒子の粒度分布を調整すれば、導電複合粒子の粒度分布も容易に調整することができる。導電複合粒子の粒子径を小さくすることで、母材との界面における応力の集中が緩和され、母材の破壊を抑制することができる。
【0010】
また、有機物粒子の表面を被覆している導電性微粒子の種類、量を調整することにより、任意の粉体抵抗(導電性)を持つ導電複合粒子を得ることができる。さらに、導電性微粒子に加えて、母材との相溶性が良好な微粒子を複合化すると、母材と導電複合粒子との接着力を向上させることができる。これにより、歪みが加わっても、導電複合粒子と母材との剥離が抑制され、耐久性がより向上する。
【0011】
(2)本発明のエラストマー複合材料は、エラストマーと、該エラストマー中に配合されている導電性フィラーと、を有し、該導電性フィラーは、上記本発明の導電複合粒子を含むことを特徴とする(請求項6に対応)。
【0012】
すなわち、本発明のエラストマー複合材料には、エラストマー中に上記本発明の導電複合粒子が配合されている。本明細書において、「エラストマー」は、ゴムおよび熱可塑性エラストマーを含む。上述したように、有機物粒子と導電性微粒子との組み合わせに応じて、本発明の導電複合粒子は様々な特性を持つ。このため、目的に応じて好適な導電複合粒子を選択することで、所望の特性を持つエラストマー複合材料を実現することができる。
【0013】
例えば、エラストマー中に配合される本発明の導電複合粒子が、柔軟なものである場合、あるいは粒子径が小さい場合には、導電複合粒子とエラストマーとの界面における応力集中が緩和される。よって、繰り返し変形してもエラストマーが破壊されにくく、耐久性が高い。このような本発明のエラストマー複合材料は、変形センサ材料として好適である。
【0014】
(3)好ましくは、上記(2)の構成において、前記導電性フィラーは、前記エラストマー中に略単粒子状態でかつ高充填率で配合されており、弾性変形可能であって、弾性変形量が増加するに従って電気抵抗が増加する構成とするとよい(請求項7に対応)。
【0015】
上記本発明のエラストマー複合材料の一態様として、導電性フィラーが、エラストマー中に略単粒子状態でかつ高充填率で配合されている場合には、弾性変形量が増加するに従って電気抵抗が増加する。ここで、「略単粒子状態」とは、導電性フィラーの全重量を100重量%とした場合の50重量%以上が、凝集した二次粒子としてではなく、単独の一次粒子の状態で存在していることをいう。また、「高充填率」とは、導電性フィラーが最密充填に近い状態で配合されていることをいう。また、「弾性変形」には、圧縮、伸張、曲げ等による変形がすべて含まれる。
【0016】
導電性フィラーが、略単粒子状態で、かつ高充填率で配合されると、エラストマー分を介した導電性フィラー同士の接触により、三次元的な導電パスが形成される。これにより、荷重が印加されていない状態(以下、適宜「無荷重状態」と称す。)、言い換えると、変形していない自然状態で、本発明のエラストマー複合材料は高い導電性を有する。一方、本発明のエラストマー複合材料が弾性変形すると、弾性変形量が増加するに従って電気抵抗が増加する。この理由は、次のように考えられる。
【0017】
図1、図2に、本発明のエラストマー複合材料の、荷重の印加前後における導電パスの変化をモデルで示す。ただし、図1、図2に示すのは、本発明のエラストマー複合材料の一例であり、導電性フィラーの充填状態、形状等を何ら限定するものではない。
【0018】
図1に示すように、エラストマー複合材料100において、導電性フィラー102の多くは、エラストマー101中に一次粒子の状態(略単独の状態)で存在している。また、導電性フィラー102の充填率は高く、最密充填に近い状態で配合されている。これにより、無荷重状態において、エラストマー複合材料100には、導電性フィラー102による三次元的な導電パスPが形成されている。よって、無荷重状態では、エラストマー複合材料100の電気抵抗は小さい。一方、図2に示すように、エラストマー複合材料100に荷重が印加されると、エラストマー複合材料100は弾性変形する(図2中の点線枠は、図1の無荷重状態を示している。)。ここで、導電性フィラー102は最密充填に近い状態で配合されているため、導電性フィラー102が移動できるスペースはほとんどない。よって、エラストマー複合材料100が弾性変形すると、導電性フィラー102同士が反発し合い、導電性フィラー102同士の接触状態が変化する。その結果、三次元的な導電パスPが崩壊し、電気抵抗が増加する。
【0019】
ここで、エラストマー中に配合される導電性フィラーは、上記本発明の導電複合粒子を含む。導電複合粒子が柔軟なものである場合、あるいは粒子径が小さい場合には、導電複合粒子とエラストマーとの界面における応力集中が緩和される。このため、弾性変形を繰り返しても、エラストマーが破壊されにくく、初期の三次元的な導電パスを維持することができる。すなわち、本態様のエラストマー複合材料は、繰り返し使用しても外部からの刺激に対する応答性が低下しにくく、耐久性に優れる。
【0020】
(4)また、本発明の変形センサは、上記(3)の構成のエラストマー複合材料からなるセンサ本体と、該センサ本体に接続され、該電気抵抗を出力可能な電極と、該センサ本体の少なくとも一部の弾性変形を拘束する拘束部材と、を備えてなることを特徴とする(請求項9に対応)。
【0021】
上記(3)の構成のエラストマー複合材料からなるセンサ本体を備えた本発明の変形センサは、電極から出力されるセンサ本体の電気抵抗の増加に基づいて、対象となる部材、部位に作用する荷重、および部材、部位の様々な変形を検出することができる。また、センサ本体は、エラストマーを母材とするため、弾性変形可能である。このため、本発明の変形センサは、部材、部位に生じる圧縮、伸張、曲げ等の様々な変形を検出することができる。また、本発明の変形センサは、加工性に優れ、形状設計の自由度が高い。よって、部材、部位の広い領域における荷重、変形を検出することができる。
【0022】
本発明の変形センサでは、エラストマーの種類、導電性フィラーの構成、充填率等を調整することにより、無荷重状態における電気抵抗値を所定の範囲に設定することができる。このため、検出可能な荷重、弾性変形量の範囲、つまり、検出レンジを大きくすることができる。加えて、弾性変形量に対する電気抵抗の増加挙動を調整することができるため、所望の応答感度を実現することができる。
【0023】
また、センサ本体(エラストマー複合材料)には、上記本発明の導電複合粒子が配合されている。したがって、導電複合粒子の粒子径、弾性率等を最適化することにより、弾性変形を繰り返しても、外部からの刺激に対する応答性が低下しにくく、耐久性に優れた変形センサを実現することができる。
【0024】
また、本発明の変形センサは、無荷重状態において高い導電性を有する。つまり、本発明の変形センサは、無荷重状態において導電状態にある。このため、無荷重状態において、導電性の低いセンサ(例えば、従来の感圧導電性樹脂等を用いたセンサ)と比較して、作動診断が容易である。すなわち、無荷重状態において導電性の低いセンサの場合、無荷重状態のままでは、正常なのか異常なのか(例えば回路に断線等が生じているのか)判別し難い。このため、導電性が低いセンサに、敢えて、比較的高い電圧を印加して、通電させてみる必要がある。あるいは、センサを試験的に作動させて通電状態をチェックする必要がある。したがって、作動診断が煩雑である。これに対して、本発明の変形センサの場合、無荷重状態において高い導電性を有している。このため、無荷重状態のままで、正常、異常の判別がし易い。したがって、作動診断が容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の導電複合粒子、エラストマー複合材料、および変形センサについて、それぞれ詳細に説明する。
【0026】
<導電複合粒子>
本発明の導電複合粒子は、絶縁性の有機物粒子と、その表面に複合化されている導電性微粒子と、を有する。有機物粒子の種類は、特に限定されるものではなく、目的とする特性に応じて適宜選択すればよい。有機物粒子の弾性率が低いと、柔軟な導電複合粒子を得ることができる。この場合、有機物粒子を、弾性率が20GPa以下の材料から構成するとよい。例えば、エラストマーや樹脂からなる粒子を用いるとよい。エラストマーや樹脂の場合、弾性率として、JIS K6911に準じて測定された曲げ弾性率の値を採用する。
【0027】
具体的には、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合樹脂(ABS樹脂)、アクリロニトリル−スチレン共重合樹脂(AS樹脂)、メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン共重合樹脂(MBS樹脂)、ポリアミド、エポキシ樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンオキサイド、ポリフェニレンエーテル等の樹脂、アクリルゴム、シリコーンゴム等のゴムが挙げられる。
【0028】
有機物粒子の形状は、特に限定されるものではない。エラストマーや樹脂(母材)との界面における応力集中を低減するためには、アスペクト比(最短径に対する最長径の比)が1以上2以下のものが望ましい。また、アスペクト比が2より大きくなると、母材に配合した時の導電複合粒子の分散性が低下する。例えば、球状の粒子を採用することが望ましい。「球状」には、真球、略真球状の他、楕円球状、長円球状(一対の対向する半球を円柱で連結した形状)、部分球状、部分毎に半径の異なる球状、水滴形状等が含まれる。また、後述するように、母材中の導電複合粒子の充填状態を、より最密充填状態に近づけたい場合には、真球あるいは極めて真球に近い形状(略真球状)の粒子を採用するとよい。
【0029】
また、導電複合粒子と母材との界面における応力集中を低減するためには、有機物粒子の粒子径は小さい方が望ましい。例えば、導電複合粒子の製造に、平均粒子径が100μm以下の粉体を使用するとよい。平均粒子径が60μm以下、さらには20μm以下の粉体がより好適である。一方、粒子径が小さすぎると、後述する複合化処理の際の分散性が悪くなり、個々の有機物粒子の表面に導電性微粒子を均一に固定させることが難しくなる。よって、平均粒子径が1μm以上の粉体を採用するとよい。3μm以上の粉体がより好適である。なお、平均粒子径としては、累積粒度曲線において積算重量が50%となる粒子径(D50)を採用する。また、使用する有機物粒子の粉体の粒度分布は狭い方が望ましい。例えば、D90/D10の値が1以上30以下であることが望ましい。D90/D10の値が10以下であるとより好適である。ここで、D90は、累積粒度曲線において積算重量が90%となる粒子径であり、D10は、同積算重量が10%となる粒子径である。D90/D10の値が30を超えると、粒度分布がブロードになるため、目的とする粒子径範囲以外の粒子の割合が大きくなる。
【0030】
導電性微粒子は、導電性を有する粒子であれば、その種類が特に限定されるものではない。例えば、カーボンブラック、グラファイト、アセチレンブラック等の炭素材料、金、銀、パラジウム、ニッケル、銅等の金属、錫酸化物、アンチモン酸化物、鉄酸化物、マンガン酸化物等の酸化物の微粒子が挙げられる。これらのうち、一種を単独で、あるいは二種以上を併せて用いることができる。なかでも、導電性が良好で低価格であるという理由から、炭素材料が好適である。
【0031】
単独の一次粒子の状態で存在する導電性微粒子の平均粒子径(平均一次粒子径)は、10nm以上100nm以下とすることが望ましい。100nmを超えると有機物粒子の表面に複合化される導電性微粒子の量が少なくなり、得られる導電複合粒子の導電性が低下するおそれがある。なお、導電性微粒子の平均一次粒子径としては、電子顕微鏡の観察により測定された導電性微粒子の粒子径の算術平均値を採用する。
【0032】
導電性微粒子は、有機物粒子の表面のすべてを覆っていてもよく、一部を覆っていてもよい。また、有機物粒子の表面には、導電性微粒子に加えて、エラストマーまたは樹脂(母材)との相溶性が良好な微粒子が、メカノケミカル反応により複合化されていてもよい。このような微粒子が複合化されていると、母材との相溶性が向上するため、導電複合粒子と母材との接着力が大きくなる。これにより、歪みが加わった場合でも、導電複合粒子と母材との剥離が抑制され、耐久性がより向上する。
【0033】
このような微粒子としては、例えば、母材がシリコーンゴムの場合には、シリカ等が好適である。また、母材がエチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体(EPDM)、アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴム(NBR)等の場合には、母材のポリマーと反応する重合性のビニル基を有するモノマーが好適である。例えば、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、メタリルスルホン酸ナトリウム、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、N,N−メチレンビス(アクリルアミド)、およびこれらの混合物等が挙げられる。また、これらのモノマーと、アクリル酸エステル、メタアクリル酸エステル、アクリロニトリル、塩化ビニル、スチレン、酢酸ビニル等の重合性モノマーとの共重合体も好適である。
【0034】
導電複合粒子の製造、すなわち、導電性微粒子の有機物粒子の表面への複合化処理には、メカノケミカル反応を用いる。メカノケミカル反応を行う方法としては、噴射圧力や衝突力等の機械的エネルギーを利用する公知の方法を用いればよい。例えば、ハイブリダイゼーション法、メカノフュージョン法、シータコンポーザ法、メカノミル法、ボールミル法等が挙げられる。有機物粒子、導電性微粒子等の原料粉末を、複合化処理を行う装置に収容し、所定の条件下にて処理すればよい。
【0035】
複合化処理を行う諸条件は、使用する装置に応じて、また、有機物粒子、導電性微粒子等の種類や量等を考慮して、適宜決定すればよい。例えば、ハイブリダイゼーション法を採用する場合には、回転速度は6000〜8000rpm程度、処理時間は1〜5分間程度とするとよい。複合化処理は、室温、大気圧下で行えばよい。また、空気中、あるいは使用する粒子が酸化性のものである場合には窒素中で行うことが望ましい。なお、母材との相溶性が良好な微粒子をも複合化する場合には、使用する材料に応じて、還元雰囲気、酸化雰囲気等、適宜調整すればよい。
【0036】
有機物粒子と導電性微粒子との配合比は、使用する粒子の粒子径、真比重等により異なるため、所望の特性が得られるよう適宜調整すればよい。例えば、樹脂からなる有機物粒子と、炭素材料からなる導電性微粒子との組み合わせの場合、有機物粒子と導電性微粒子との重量比は、100:0.5〜5とすることが望ましい。
【0037】
<エラストマー複合材料>
本発明のエラストマー複合材料は、エラストマーと、該エラストマー中に配合されている導電性フィラーと、を有し、該導電性フィラーは、上記本発明の導電複合粒子を含む。導電性フィラーには、本発明の導電複合粒子の一種を単独で、あるいは二種以上を混合して用いることができる。また、炭素材料等の単一粒子からなる従来のフィラーを併用してもよい。エラストマーは、ゴムおよび熱可塑性エラストマーから適宜選択すればよい。例えば、弾性変形量が増加するに従って電気抵抗が増加するという特性を発現させるためには、導電性フィラーとの関係を考慮して選択することが望ましい。
【0038】
例えば、ゴムとしては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴム(NBR)、スチレン−ブタジエン共重合ゴム(SBR)、エチレン−プロピレン共重合ゴム[エチレン−プロピレン共重合体(EPM)、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体(EPDM)等]、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(Cl−IIR、Br−IIR等)、水素化ニトリルゴム(H−NBR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリルゴム(AR)、クロロスルフォン化ポリエチレンゴム(CSM)、ヒドリンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム、合成ラテックス等が挙げられる。また、熱可塑性エラストマーとしては、スチレン系、オレフィン系、ウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、フッ素系等の各種熱可塑性エラストマー、およびこれらの誘導体が挙げられる。これらのうち、一種を単独で、あるいは二種以上を併せて用いればよい。例えば、導電性フィラーとして炭素材料が使用されている場合には、該導電性フィラーと相溶性が良好なEPDM、NBR、シリコーンゴムが好適である。
【0039】
また、導電性フィラーをエラストマー中に略単粒子状態でかつ高充填率で配合し、弾性変形量が増加するに従って電気抵抗が増加するよう、本発明のエラストマー複合材料を構成することができる。この場合、導電性フィラーの充填率は、エラストマー複合材料の全体の体積を100vol%とした場合の30vol%以上であることが望ましい。30vol%未満の場合には、導電性フィラーが最密充填に近い状態で配合されにくく、所望の導電性が発現しない。また、エラストマー複合材料の弾性変形に対する電気抵抗の変化が緩慢になり、電気抵抗の増加挙動を制御することが難しくなる。35vol%以上であるとより好適である。反対に、導電性フィラーの充填率は、エラストマー複合材料の全体の体積を100vol%とした場合の65vol%以下であることが望ましい。65vol%を超えると、エラストマーへの混合が困難となり、成形加工性が低下する。また、エラストマー複合材料が弾性変形しにくくなる。55vol%以下であるとより好適である。
【0040】
本発明のエラストマー複合材料は、エラストマー、導電性フィラーに加え、各種添加剤が配合されていてもよい。添加剤としては、例えば、架橋剤、加硫促進剤、加工助剤、加硫助剤、老化防止剤、可塑剤、軟化剤、着色剤等が挙げられる。本発明のエラストマー複合材料は、例えば、次のようにして製造することができる。まず、エラストマーに、加工助剤、軟化剤等の添加剤を添加して、混練りする。続いて、導電性フィラーを加えて混練りした後、さらに、架橋剤、加硫促進剤を加えて混練りし、エラストマー組成物とする。次に、エラストマー組成物を所定の形状に成形し、それを金型に充填して、所定の条件下でプレス架橋する。
【0041】
<変形センサ>
上記本発明のエラストマー複合材料を用いて、変形センサを構成することができる。以下、本発明のエラストマー複合材料を用いた変形センサ、すなわち本発明の変形センサの一実施形態について説明する。
【0042】
まず、本実施形態の変形センサの構成について説明する。図3に、変形センサの正面図を示す。図4に、図3のIV−IV断面図を示す。なお、図4では、説明の便宜上、導線を省略して示す。図3、図4に示すように、変形センサ2は、電極フィルム部20とセンサ本体21と拘束フィルム部22とを備えている。
【0043】
電極フィルム部20は、基材フィルム200とカバーフィルム201とを備えている。基材フィルム200は、ポリイミド製であって、左右方向に延びる帯状を呈している。基材フィルム200は、基材900の表面に固定されている。基材フィルム200の右端には、コネクタ23が取り付けられている。カバーフィルム201は、ポリイミド製であって、左右方向に延びる帯状を呈している。カバーフィルム201は、基材フィルム200の表面を覆っている。カバーフィルム201の幅方向(上下方向)中央には、左右方向に延びてセンサ本体21に対応する長孔201aが開設されている。
【0044】
センサ本体21は、左右方向に延びる長尺板状を呈している。センサ本体21は、カバーフィルム201の長孔201aに収容された状態で、基材フィルム200の表面に固定されている。センサ本体21は、EPDM中に導電性フィラー(導電複合粒子)が略単粒子状態でかつ高充填率で配合されたエラストマー複合材料からなる。導電性フィラーの充填率は、センサ本体21の体積を100vol%とした場合の60vol%である。
【0045】
センサ本体21の左端には電極Aが、右端には電極Bが、各々取り付けられている。詳しく説明すると、電極A、Bは、共に、上下に延びる短冊状を呈しており、センサ本体21と基材フィルム200との間、およびカバーフィルム201と基材フィルム200との間に、介装されている。電極Aとコネクタ23とは導線24Aにより、電極Bとコネクタ23とは導線24Bにより、各々、結線されている。
【0046】
拘束フィルム部22は、ポリイミド製であって、左右方向に延びる帯状を呈している。拘束フィルム部22は、センサ本体21の基材フィルム200側と反対の表面(後面)に固定されている。基材フィルム200および拘束フィルム部22は、本発明における拘束部材に含まれる。
【0047】
次に、変形センサ2の動きについて説明する。荷重が基材900側から加わると、基材900は、後方に撓むように変形する。基材900の変形は、基材フィルム200を介して、センサ本体21に伝達される。このため、センサ本体21も、前方に開口するC字状に、弾性的に湾曲する。無荷重状態においては、前出図1に示すように、導電性フィラー102は、最密充填に近い状態で充填されている。このため、多数の導電パスPが形成されている。したがって、検出される電極A、B間の電気抵抗値は、比較的小さい。これに対して、荷重が加わった後においては、前出図2に示すように、導電性フィラー102同士が反発し合う。このため、導電パスPが崩壊してしまう。したがって、検出される電極A、B間の電気抵抗値は、無荷重状態に対して、大きくなる。
【0048】
加えて、センサ本体21の表面(後面)には、拘束フィルム部22が固定されている。このため、センサ本体21後面付近の伸長変形は、拘束フィルム部22により拘束される。すなわち、拘束フィルム部22により、センサ本体21後面付近の伸長変形は規制され、センサ本体21は剪断変形する。このように、センサ本体21の両面を拘束することによって、大きな歪み集中を誘起でき、より一層、電極A、B間の電気抵抗値は大きくなる。
【0049】
次に、本実施形態の変形センサ2の作用効果について説明する。本実施形態の変形センサ2では、センサ本体21が弾性変形すると、電気抵抗が増加する。このため、電極A、Bから出力されるセンサ本体21の電気抵抗の増加に基づいて、基材900に作用する荷重、および圧縮、曲げ等の変形を容易に検出することができる。また、センサ本体21は、エラストマー(EPDM)を母材とするため、加工性に優れている。このため、配置場所の自由度も高い。
【0050】
また、エラストマーの種類、導電性フィラーの構成、充填率等を調整することにより、無荷重状態における電気抵抗値を所定の範囲に設定することができる。このため、検出可能な荷重、弾性変形量の範囲、つまり、検出レンジを大きくすることができる。加えて、弾性変形量に対する電気抵抗の増加挙動を調整することができるため、所望の応答感度を実現することができる。
【0051】
また、センサ本体21(エラストマー複合材料)には、本発明の導電複合粒子が配合されている。このため、弾性変形を繰り返しても、エラストマーが破壊されにくい。したがって、変形センサ2は、繰り返し使用した場合でも、外部からの刺激に対する応答性が低下しにくく、耐久性に優れる。
【0052】
また、本実施形態の変形センサ2は、変形していない自由状態で、導電状態にある。よって、変形センサ2が組み込まれている回路に電流を流すことにより、変形センサ2が作動可能か否かの自己診断を容易に行うことができる。
【0053】
なお、本発明の変形センサの実施形態は上記形態に限定されるものではない。当業者が行いうる種々の変形的形態、改良的形態で実施することも可能である。例えば、センサ本体21を、基材フィルム200を介することなく、直接、基材900の表面に固定してもよい。また、センサ本体21の表面には、拘束フィルム部22を配置しなくてもよい。この場合、基材900が拘束部材となる。また、基材900側からではなく、センサ本体21の表面から、直接、荷重が入力されてもよい。
【実施例】
【0054】
<導電複合粒子>
(1)導電複合粒子の製造
(1−a)有機物粒子として、シリコーン樹脂粉体(信越化学工業社製「KMP−601」、平均粒子径10μm)またはアクリル樹脂粉体(綜研化学社製「MX−300」、平均粒子径3μm)を用い、導電性微粒子としてケッチェンブラック(一次粒子径34nm)を用いて、導電複合粒子を六種類製造した。
【0055】
まず、下記表1に示す配合割合で、シリコーン樹脂粉体またはアクリル樹脂粉体と、ケッチェンブラックと、を配合し、さらに適宜シリカ粉体を配合して、予備混合した。シリカ粉体は、後述するエラストマー複合材料の母材との相溶性が良好なシリカ微粒子(一次粒子径34nm)からなる。得られた予備混合物を、ハイブリダイゼーション装置(株式会社奈良機械製作所製「ハイブリダイゼーションシステムNHS−1型」)に投入し、3分間処理した。処理は、空気雰囲気、室温下(摩擦等による温度上昇あり)で行い、回転速度は6400rpm、8000rpmの二種類とした。得られた導電複合粒子を実施例1〜6の導電複合粒子とした。下記表1に、原料の配合割合、ハイブリダイゼーション処理の条件等を示す。
【0056】
(1−b)上記シリコーン樹脂粉体の種類を平均粒子径0.8μmのもの(信越化学工業社製「X−52−7030」)に変更し、それ以外は上記同様にして、導電複合粒子を二種類製造した(配合割合等は同表1に示す通り)。得られた導電複合粒子を参考例1、2の導電複合粒子とした。
【0057】
(1−c)比較のため、上記(1−a)のシリコーン樹脂粉体(平均粒子径10μm)またはアクリル樹脂粉体と、ケッチェンブラックと、を各々ビニール袋に入れて混合したものを、比較例1、2の混合粉体とした。
【表1】
【0058】
(2)電子顕微鏡観察
製造した実施例3、4の導電複合粒子について、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。これらのSEM写真を図5、図6に示す。比較のため、有機物粒子として用いたアクリル樹脂粒子単体の写真を図7に示す。各図において、上は粒子全体の写真であり、下は粒子表面の拡大写真である。図7の写真によると、アクリル樹脂粒子は、なめらかな表面を有していることがわかる。一方、図5の写真からわかるように、実施例3の導電複合粒子では、アクリル樹脂粒子の表面がケッチェンブラックにより被覆されている。また、図6の写真によると、実施例4の導電複合粒子では、アクリル樹脂粒子の表面がケッチェンブラックにより被覆されていると共に、同表面にシリカ微粒子も点在して固定されている。
【0059】
(3)電気抵抗の測定
製造した実施例1〜6、参考例1、2の導電複合粒子からなる粉体、比較例1、2の混合粉体について、それぞれ電気抵抗値を測定した。電気抵抗の測定は、次のように行った。すなわち、各々の粉体をフッ素樹脂製の円筒容器に収容し、その上底面および下底面にアルミニウム電極を配置した。上底面側から40kgの荷重を加えて粉体を圧縮しながら、10Vの電圧を印加して、電気抵抗を測定した。
【0060】
電気抵抗の測定結果を、上記表1に併せて示す。表1に示すように、比較例1、2の混合粉体の電気抵抗は、1012〜1013Ω・cm程度と大きいのに対して、実施例1〜6の導電複合粒子からなる粉体については、いずれも電気抵抗が小さく、導電性が良好であることがわかる。つまり、実施例1〜6の導電複合粒子は、導電性フィラーとして好適であることが確認された。一方、参考例1、2の導電複合粒子からなる粉体については、電気抵抗が大きくなった。これは、有機物粒子(シリコーン樹脂粉体)の粒子径が小さかったため、ハイブリダイゼーション処理の際に分散しにくく、表面に導電性微粒子(ケッチェンブラック)が均一に固定されなかったためと考えられる。
【0061】
<エラストマー複合材料および変形センサ>
製造した実施例1〜6の導電複合粒子を導電性フィラーとして使用して、エラストマー複合材料を製造した。また、製造したエラストマー複合材料を用いて変形センサを作製し、その応答性および耐久性を評価した。
【0062】
エラストマー複合材料は、EPDMを母材として三種類(実施例7〜9)、シリコーンゴムを母材として四種類(実施例10〜13)製造した。EPDMを母材としたエラストマー複合材料は、各原料を下記表2に示す配合割合でロール練り機にて混合、分散させて、エラストマー組成物を調製した。また、シリコーンゴムを母材としたエラストマー複合材料は、各原料を下記表3に示す配合割合でロール練り機にて混合、分散させて、エラストマー組成物を調製した。表2、表3中、各原料については以下のものを使用した。
(A)エラストマー
EPDM:住友化学社製「エスプレン(登録商標)524」、シリコーンゴム:GE東芝シリコーン社製「XE21−B3761」。
(B)可塑剤
パラフィン系プロセスオイル:日本サン石油社製「サンパー(登録商標)110」。
(C)加硫助剤
酸化亜鉛(亜鉛華)二種:白水化学工業社製。
(D)加工助剤
ステアリン酸:花王社製「ルナック(登録商標)S30」。
(E)加硫促進剤
ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛:大内新興化学社製「ノクセラー(登録商標)PZ−P」、テトラメチルチウラムジスルフィド:三新化学社製「サンセラー(登録商標)TT−G」、2−メルカプトベンゾチアゾール:大内新興化学社製「ノクセラーM−P」。
(F)架橋剤
硫黄:鶴見化学工業社製「サルファックスT−10」。
(G)硬化剤
過酸化物:GE東芝シリコーン社製「TC−8」。
【表2】
【表3】
【0063】
調製した各々のエラストマー組成物を、縦100mm、横5mm、厚さ2mmの長尺板状に成形して成形体とした。この成形体を金型に充填し、長手方向両端に一対の電極を配置して、170℃で20分間プレス加硫することにより、一対の電極が取り付けられたエラストマー複合材料(センサ素子)を得た。ここで、実施例7〜9のエラストマー複合材料における導電性フィラーの充填率は、同エラストマー複合材料の体積を100vol%とした場合の約60vol%であった。同様に、実施例10〜13のエラストマー複合材料における導電性フィラーの充填率は、55vol%であった。得られたセンサ素子の一方の表面に拘束板を固定して、変形センサとした。製造した変形センサを、使用したエラストマー複合材料の番号に対応させて実施例7〜13の変形センサとした。
【0064】
一方、各々の母材に対して、カーボンビーズ(日本カーボン社製「ニカビーズMC0520」、平均粒子径約5μm)のみからなる導電性フィラーを配合したエラストマー複合材料を製造し、上記同様に変形センサを作製した(表2中の比較例3、表3中の比較例4参照)。これらを比較例3、4の変形センサとした。
【0065】
図8に、作製した変形センサの正面図を示す。図8に示すように、変形センサ3は、センサ素子30と拘束板32とを備えている。拘束板32は、ポリイミド製の薄膜とポリプロピレン製の薄膜との積層体であって、縦120mm、横10mm、厚さ0.4mmの帯状を呈している。センサ素子30は、拘束板32の表面に固定されている。センサ素子30の両端には電極31a、31bが各々固定されている。電極31a、31bは、共に短冊状を呈しており、センサ素子30と拘束板32との間に、介装されている。電極31a、31bには、各々導線(図略)が接続されている。
【0066】
変形センサの応答性および耐久性は、以下の加振試験により評価した。図9に、試験装置の模式図を示す。図9に示すように、試験装置4は、上端ホルダ40と下端ホルダ41と基盤42とを備えている。上端ホルダ40は、変形センサ3の長手方向一端(上端)を把持している。上端ホルダ40は、上下方向に繰り返し移動する加振ジグ(図略)に接続されている。下端ホルダ41は、上端ホルダ40に対して、下方に離間して配置されている。下端ホルダ41は、基盤42に固定されており不動である。下端ホルダ41は、変形センサ3の長手方向他端(下端)を把持している。
【0067】
加振ジグを上下方向に動かすと、上下方向に上端ホルダ40が移動し、上端ホルダ40〜下端ホルダ41間の間隔が収縮、拡大する。これにより、変形センサ3は湾曲変形する。センサ素子30の電気抵抗値は、電極31a、31b等から外部回路(図略)に出力される。上端ホルダ40の変位量が0mm→0.5mm→1mm→1.5mm→2mm→2.5mm→0mmというサイクルを繰り返し、この変位量における電気抵抗の変化を測定した。電気抵抗測定時の加振周波数は、2.5mm/5Hzとした。
【0068】
加振試験の結果の一例として、実施例7および比較例3の各変形センサにおける電気抵抗の変化を、図10、図11にそれぞれ示す。図10中、縦軸の「E+05」は「×105」を意味する。よって、例えば「3.0×105」は「3.0E+05」と示されている。図10、図11には、最初の1サイクル目における電気抵抗の変化と、5万サイクル繰り返した後に測定された電気抵抗の変化と、併せて示す。また、実施例および比較例の全ての変形センサについて、1サイクル目の抵抗変化率を算出し、先の表2、表3に併せて示す。ここで、抵抗変化率は、次式(1)により算出した。
抵抗変化率(%)=(R2.5−R0)/R0)×100・・・(1)
式中、R0は初期(変位量0mm)の時の電気抵抗値、R2.5は最大変位量2.5mmの時の電気抵抗値である。さらに、5万サイクル後における抵抗変化保持率を算出し、先の表2、表3に併せて示す。ここで、抵抗変化保持率は、次式(2)により算出した。
抵抗変化保持率(%)=ΔR’/ΔR×100・・・(2)
式中、ΔR’は5万サイクル後に測定された抵抗変化量(R2.5−R0)、ΔRは1サイクル目の抵抗変化量(R2.5−R0)である。
【0069】
図10に示すように、実施例7の変形センサによると、変位量、つまり変形センサの変形量が増加するに従って、大きく電気抵抗が増加した。これより、実施例7の変形センサの応答性は良好であることがわかる。また、図10と図11とを比較して明らかなように、実施例7の変形センサによると、サイクル数を重ねても、すなわち、繰り返し湾曲変形しても、比較例3の変形センサと比較して、電気抵抗の増加挙動の変化が小さい。この点、表2に示すように、実施例7の変形センサの抵抗変化保持率は85%であるのに対し、比較例3の変形センサの抵抗変化保持率は50%であることからも明らかである。また、表2、表3に示すように、実施例の変形センサは、同じ母材の比較例の変形センサと比較して、抵抗変化率、抵抗変化保持率ともに大きい値となった。つまり、本発明の導電複合粒子を配合した実施例の変形センサは、カーボンビーズを配合した比較例の変形センサよりも、変形に対する抵抗増加量が大きく、かつ、弾性変形を繰り返しても、その大きな抵抗変化を維持することができる。以上より、本発明の変形センサは、変形に対する応答性が良好で、かつ、弾性変形を繰り返しても応答性が低下しにくく、耐久性に優れることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明のエラストマー複合材料における荷重印加前の導電パスを示す模式図である。
【図2】同エラストマー複合材料における荷重印加後の導電パスを示す模式図である。
【図3】本発明の第一実施形態の変形センサの正面図である。
【図4】図3のIV−IV断面図である。
【図5】実施例3の導電複合粒子のSEM写真である。
【図6】実施例4の導電複合粒子のSEM写真である。
【図7】アクリル樹脂粒子単体のSEM写真である。
【図8】実施例における加振試験で使用した変形センサの正面図である。
【図9】同加振試験の試験装置の模式図である。
【図10】実施例7の変形センサにおける変形量に対する電気抵抗の変化を示すグラフである。
【図11】比較例3の変形センサにおける変形量に対する電気抵抗の変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0071】
2:変形センサ 20:電極フィルム部 200:基材フィルム
201:カバーフィルム 201a:長孔 21:センサ本体 22:拘束フィルム部
23:コネクタ 24A、24B:導線
3:変形センサ 30:センサ素子 31a、31b:電極 32:拘束板
4:試験装置 40:上端ホルダ 41:下端ホルダ 42:基盤
100:エラストマー複合材料 101:エラストマー 102:導電性フィラー
900:基材 A:電極 B:電極 P:導電パス
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エラストマーまたは樹脂中に配合され、
絶縁性の有機物粒子と、該有機物粒子の表面にメカノケミカル反応により複合化されている導電性微粒子と、を有することを特徴とする導電複合粒子。
【請求項2】
前記有機物粒子は球状を呈し、該有機物粒子の平均粒子径は、1μm以上100μm以下である請求項1に記載の導電複合粒子。
【請求項3】
前記導電性微粒子の平均一次粒子径は、10nm以上100nm以下である請求項1または請求項2に記載の導電複合粒子。
【請求項4】
前記有機物粒子は、弾性率が20GPa以下の材料からなる請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の導電複合粒子。
【請求項5】
さらに、前記有機物粒子の表面には、前記エラストマーまたは前記樹脂との相溶性が良好な微粒子がメカノケミカル反応により複合化されている請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の導電複合粒子。
【請求項6】
エラストマーと、該エラストマー中に配合されている導電性フィラーと、を有し、
該導電性フィラーは、請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の導電複合粒子を含むことを特徴とするエラストマー複合材料。
【請求項7】
前記導電性フィラーは、前記エラストマー中に略単粒子状態でかつ高充填率で配合されており、
弾性変形可能であって、弾性変形量が増加するに従って電気抵抗が増加する請求項6に記載のエラストマー複合材料。
【請求項8】
前記導電性フィラーの充填率は、エラストマー複合材料全体の体積を100vol%とした場合の30vol%以上65vol%以下である請求項7に記載のエラストマー複合材料。
【請求項9】
請求項7または請求項8に記載のエラストマー複合材料からなるセンサ本体と、
該センサ本体に接続され、該電気抵抗を出力可能な電極と、
該センサ本体の少なくとも一部の弾性変形を拘束する拘束部材と、
を備えてなる変形センサ。
【請求項1】
エラストマーまたは樹脂中に配合され、
絶縁性の有機物粒子と、該有機物粒子の表面にメカノケミカル反応により複合化されている導電性微粒子と、を有することを特徴とする導電複合粒子。
【請求項2】
前記有機物粒子は球状を呈し、該有機物粒子の平均粒子径は、1μm以上100μm以下である請求項1に記載の導電複合粒子。
【請求項3】
前記導電性微粒子の平均一次粒子径は、10nm以上100nm以下である請求項1または請求項2に記載の導電複合粒子。
【請求項4】
前記有機物粒子は、弾性率が20GPa以下の材料からなる請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の導電複合粒子。
【請求項5】
さらに、前記有機物粒子の表面には、前記エラストマーまたは前記樹脂との相溶性が良好な微粒子がメカノケミカル反応により複合化されている請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の導電複合粒子。
【請求項6】
エラストマーと、該エラストマー中に配合されている導電性フィラーと、を有し、
該導電性フィラーは、請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の導電複合粒子を含むことを特徴とするエラストマー複合材料。
【請求項7】
前記導電性フィラーは、前記エラストマー中に略単粒子状態でかつ高充填率で配合されており、
弾性変形可能であって、弾性変形量が増加するに従って電気抵抗が増加する請求項6に記載のエラストマー複合材料。
【請求項8】
前記導電性フィラーの充填率は、エラストマー複合材料全体の体積を100vol%とした場合の30vol%以上65vol%以下である請求項7に記載のエラストマー複合材料。
【請求項9】
請求項7または請求項8に記載のエラストマー複合材料からなるセンサ本体と、
該センサ本体に接続され、該電気抵抗を出力可能な電極と、
該センサ本体の少なくとも一部の弾性変形を拘束する拘束部材と、
を備えてなる変形センサ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図5】
【図6】
【図7】
【図2】
【図3】
【図4】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図5】
【図6】
【図7】
【公開番号】特開2009−140865(P2009−140865A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−318552(P2007−318552)
【出願日】平成19年12月10日(2007.12.10)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年12月10日(2007.12.10)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】
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