説明

小グリア細胞活性化および全身炎症性反応を抑制する方法

【課題】中枢神経系(CNS)中の小グリア細胞の活性化を抑制する、または脳虚血や脳炎症の神経学的影響を緩和若しくは治療するペプチドの提供、該ペプチドにより敗血症などの末梢の炎症状態の治療、および小グリア細胞受容体に結合するか小グリア細胞の活性化を予防または軽減する該ペプチドの投与によってCNSに影響を与える特異的疾患と戦う方法の提供。
【解決手段】ApoE受容体結合ペプチド、更に抗炎症性サイトカインおよびモノクローナル抗体からなる群から選択される1つまたは複数の化合物を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願情報)
本出願は、1998年3月11日出願の米国特許仮出願第60/077,551号(現在放棄されている)の利益を主張する、1999年3月1日出願の米国特許出願第09/260,430号(現在放棄されている)の一部継続出願である、2001年9月21日出願の米国特許出願第09/957,909号の一部継続出願である。これらの出願の開示全体が本明細書中で参考として援用される。
【0002】
(政府援助)
本発明は、NIH助成金NS368087−01A2、K08NS01949、およびRO3 AG16507−01の政府援助の下で行なわれた。政府は、本発明について一定の権利を有する。
【0003】
(発明の分野)
本発明は、中枢神経系(CNS)中の小グリア細胞の活性化を抑制する方法、グリア細胞または小グリア細胞の活性化を軽減または抑制する方法、脳虚血または脳炎症の神経学的影響を緩和または治療する方法、小グリア細胞受容体に結合して小グリア細胞の活性化を予防または軽減する化合物の投与によってCNSに影響を与える特異的疾患と戦う方法、および小グリア細胞の活性化を予防または軽減する能力について化合物をスクリーニングする方法に関する。本発明は、さらに、グルタミン酸興奮毒性およびN−メチル−D−アスパラギン酸(NMDA)曝露に関する神経細胞死の抑制方法ならびに敗血症で認められるような全身炎症性反応の抑制方法に関する。
【背景技術】
【0004】
(発明の背景)
中枢神経系(CNS)は、長い間、相対的免疫特権部位(relative immune privilege)であると考えられている。しかし、急性および慢性神経疾患におけるCNS組織損傷はCNS炎症反応によって媒介され得ると認識されつつある。CNS炎症反応は、主に、炎症性サイトカインによって媒介される。
【0005】
小グリア細胞は、中枢神経系における主な免疫担当細胞である。小グリア細胞は、単球/マクロファージ系統細胞と形態学的、免疫表現型的、および機能的に関連する(Gehrmennら、1995)。急性CNS損傷ならびにHIV脳症、癲癇、およびアルツハイマー病(AD)などの慢性病態は、小グリア細胞活性と関連する(McGeerら、1993;RothwellおよびRelton、1993;Giulianら、1996;Shengら、1994)。小グリア細胞活性により、一酸化窒素(NO)および他のフリーラジカル種が産生され、プロテアーゼ、炎症性サイトカイン(IL−1β、IL−6、およびTNFαが含まれる)、およびNMDA受容体を介して作用する神経毒素(Giulianら、1996)が放出される。小グリア細胞の活性化を、亜硝酸塩(一酸化窒素形成の安定な産生物)産生の測定によって評価することができる(BargerおよびHarmon、1997)。
【0006】
アポリポタンパク質E(ApoE)は、コレステロール代謝に関与し、免疫調整性を有することも報告されている。例えば、ApoEは、リンパ球増殖の抑制およびマイトジェン攻撃誘発後の免疫グロブリン合成を含むin vitroでの免疫調整効果を有することが証明されている(Avilaら、1982;EdgingtonおよびCurtiss、1981)。末梢神経損傷後のマクロファージならびにCNS損傷後の星状細胞および乏突起膠細胞(グリア細胞)によってApoEが大量に分泌される(Stollら、1989;StollおよびMueller、1986)。しかし、ApoEがグリア細胞活性化およびCNS損傷で作用する役割については、議論の余地がある。
【0007】
ApoEの大部分は肝臓で産生される。しかし、そのサイズが大きいために、ApoEは容易に血液脳関門を通過しない。実際、肝臓移植後、末梢ApoE表現型はドナー肝臓のそれに変化するが、CSF(脳脊髄液)のApoE表現型は変化しないままである(Lintonら、1991)。したがって、神経系内に局在するApoEは、周囲で産生されたタンパク質から離れたプールを示す(Laskowitzら、2001、1月)。
【0008】
ApoEは、公知の配列を有する299アミノ酸脂質担持タンパク質である(Rallら、J.Biol.Chem.、257、4174、1982;McLeanら、J.Biol.Chem.、259、6498、1984)。ヒトApoEの完全な遺伝子も配列決定されている(Paikら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、82、3445、1985)。少なくとも10種由来のApoE配列が決定されており、アミノ末端よびカルボキシ末端以外は種間で高い保存度を示す。Weisgraber、Advances in Protein Chemistry、45、249、1994。
【0009】
ヒトApoEは、3つの主なイソ型(ApoE2、ApoE3、およびApoE4)が見出されており、これらのイソ型は、112位および158位でのアミノ酸置換によって異なる。最も一般的なイソ型は、残基112にシステイン、残基158にアルギニンを含むApoE3であり、ApoE2は最も少ないイソ型であって、残基112および158にシステインを含み、ApoE4は残基112および158にアルギニンを含む。ヒトApoEのさらに稀な配列変異も公知である(例えば、Weisgraber、Advances in Protein Chemistry、45、249、1994、268〜269ページを参照のこと)。
【0010】
ApoEは、2つの異なる機能ドメイン(10kDaのカルボキシル末端および22kDaのアミノ末端)を有する(Wetterauら、1988)。カルボキシ末端は、脂質に高い親和性を示し、コレステロール輸送におけるApoEの役割を媒介する。アミノ末端は、受容体結合領域を含む4つの逆平行αヘリックスから構成される(Weisbargerら、1983;Innerarityら、1983)。ApoEは、細胞表面受容体ファミリー(LDL、VLDL、LRP/α2M、ER−2、LR8受容体、ApoE受容体2(ApoER2)、およびメガリン/gp330が含まれる)に結合することが公知である(Kimら、1996;Novakら、1996;Veinbergsら、2001)。アポリポタンパク質EとLDL受容体との相互作用は、リポタンパク質代謝において重要である。ApoEのLDL受容体結合活性の研究では、典型的にはリン脂質と複合体化する。無脂質状態で本質的に不活性なタンパク質が記載されている(Innerarityら、1979)。
【0011】
LDL受容体との相互作用に重要なApoEの1つの領域は、残基140と160との間に存在し(Mahley、1988)、この領域の部位特異的変異誘発研究により、電荷および立体配座に影響を与える変異により結合が欠如し得ることが証明されている(Lalazar、1988)。ApoEの受容体結合領域(すなわち、アミノ酸残基135〜160)は、アルギニンおよびリジンを含む塩基性アミノ酸に富む。ApoE−LDL受容体結合に対する効果についてApoEの受容体結合領域における種々のアミノ酸置換が研究されている。残基136、142、145、および146でのアルギニンまたはリジンの中性残基への置換により、正常なApoE結合活性が減少した(Weisgraber、1988)。ApoEの受容体結合領域内の塩基性残基置換により、LDL受容体結合は完全に破壊されず、これにより、この相互作用には残基は重要でないことが示唆される。活性な結合立体配座中の受容体結合領域を維持するためにLDL結合領域外にApoE領域が必要であると仮定されている(Weisgraber、1994)。Dyerら(1991)は、ApoEの残基141〜155を含む無脂質合成ペプチドフラグメント(この配列の二量体ペプチド)を研究した。このペプチドの単量体では結合活性は認められなかったが、二量体では低レベルの結合が認められた(約1%のLDL活性)。
【0012】
ApoEに結合する受容体は、高配列類似性領域を有する。スカベンジャー受容体は、小グリア細胞上に存在し、アセチル化および酸化LDLに結合することが好ましいことが公知である。スカベンジャー受容体は、炎症(酸化)条件下で特に関連し得る。スカベンジャー受容体はまた、損傷後の小グリア細胞で上方制御されることが公知である(Bellら、1994)。
【0013】
LRP受容体は、マクロファージ上に存在することが公知である。概要として、リポタンパク質リパーゼによる修飾およびアポリポタンパク質の結合後、超低比重リポタンパク質(VLDL)およびキロミクロンが残存し、受容体媒介機構によって肝臓でクリアランスされる。低比重リポタンパク質(LDL)受容体と異なることが認識されているにもかかわらず、レムナント受容体はまたApoEに高い親和性を示し、組み込まれたApoE部分を介してレムナント粒子を認識する。1988年に、このレムナント受容体がクローン化され、LDL受容体関連タンパク質(すなわち、「LRP」)と名づけられた。
【0014】
LRPは巨大な受容体であり、4525アミノ酸一次配列を有し、LDL受容体ファミリーの他のメンバーと多数の類似の構造を有する。LDL受容体のように、LRPの細胞外ドメインには、受容体由来のリガンドの酸依存性解離に関与すると考えられているシステイン富化リガンド結合ドメインおよびEGF前駆体相同ドメインが含まれる。しかし、LDL受容体と異なり、O並び(O−lined)の糖ドメインは、膜に隣接する細胞外部分に存在しない。LDL受容体ファミリーの全メンバーと同様に、LRPは、膜貫通タンパク質であり、1つの膜貫通セグメントによって固定されている。タンパク質の細胞質テールは100アミノ酸であり(LDLレセプターよりも約2倍長い)、ターゲティングコート−ピット媒介エンドサイトーシスに必要であると考えられているNPxYモチーフを含む(KriegerおよびHerz、1994;Misraら、1994)。
【0015】
脂質結合に加えて、ApoEはまた、マクロファージ由来サイトカイン産生の誘導によってグラム陰性敗血症を媒介する内毒素であるリポ多糖類(LPS)に結合する。これらのサイトカイン(TNFα、IL−1α、IL−1β、およびIL−6が含まれる)は、最終的に疾患を誘導する代謝および生理学的変化を担う(Waageら、1987;Chensueら、1991;Hendersonら、1996)。ApoEは、結合LSPをマクロファージから不活化された場合の胆汁への続くLPS分泌を媒介する肝臓実質細胞に再指向する(Harrisら、1993;Harrisら、1998)。したがって、マクロファージの活性化は減少し、炎症性メディエータ産生が低下する。
【0016】
Laskowitzら(June、1997)は、apoE欠損マウス由来の混合神経−グリア細胞培養物をリポ多糖類(LPS)で刺激した実験を記載していた。細胞培養物のapoEとのプレインキュベーションにより用量依存性様式でTNFαのグリア細胞分泌が遮断されることが見出された。より最近では、Van Oostenらは、ApoEの致死量のLPSとの同時投与によりLPS誘導死からマウスが保護されたことを証明した(Van Oostenら、2001)。Rensenらは、apoEのアルギニン残基に対する正電荷の選択的消滅によってApoEへのLPSの結合が大いに減少してin vivoでのLPSの挙動に対するApoEの効果が消滅するので、おそらくアルギニン残基を含む露呈した親水性ドメインによって遊離ApoE分子はおそらく2分子のLPSに結合することを証明した(Rensenら、1997)。興味深いことに、ラクトフェリンは、ApoEの受容体結合部位(アミノ酸142〜148)に類似する25〜31位でアルギニン/リジン豊富な配列を有する糖タンパク質であり、LPSに結合することも示された(Huettingerら、1988;Cohenら、1992;Miyazawaら、1991)。しかし、Laskowitzは、ApoEの神経−グリア細胞培養物とのプレインキュベーションによりLPS誘導TNFαチオン(tion)が遮断されるが、ApoEのLPSとの同時投与では遮断されないことを示し、これにより、LPS結合以外の他のいくつかの機構が関与することが示唆される(Laskowitzら、June、1997)。
【0017】
コレステロール代謝および内毒素クリアランスにおけるその役割に加えて、ApoEはまた、神経疾患において重要な役割を果たし得る。ApoE4の存在は、散発性および遅発性アルツハイマー病の発症リスクと関連している(Strittmatterら、1993)。BargerおよびHarmon(August、1997)は、βアミロイド前駆体タンパク質の分泌誘導体(sAPP−α)での小グリア細胞の治療により小グリア細胞が活性化され、小グリア細胞における炎症反応が誘導され、小グリア細胞による神経毒の産生が増強されることを報告した。sAPP−αの小グリア細胞を活性化する能力は、sAPP−αタンパク質のアポリポタンパク質E3とのプレインキュベーションによって遮断されたが、アポリポタンパク質E4では遮断されなかった。より最近では、何人かの研究者は、τリン酸化制御におけるApoEの関与を提案しており、ApoEはアルツハイマー病に関連する神経原線維の発達においていくつかの経路で関与することが示唆される(Flahertyら、1999;Tesseurら、2000)。しかし、ApoEとτとの間の関連には議論の余地が残されている(Lovestone、2001)。
【0018】
ApoEが脳の急性損傷反応を改変することを示す多数の臨床および実験所見も存在している。例えば、臨床所見により、ApoE4対立遺伝子が、急性および慢性閉鎖性頭部損傷後の死亡率および機能欠損の増加に関連することが示唆される(Sorbiら、1995;Teasdaleら、1997;Jordanら、1997;Fiedmanら、1999)。ApoE4対立遺伝子はまた、頭部損傷後のアミロイドβタンパク質沈着範囲に関与していた(Mayeuxら、1995;Nicollら、1995)。
【0019】
脳虚血に関連する種々の臨床的状況において神経学的予後に対するapoE4イソ型の悪影響もまた認められた。これらには、脳卒中(Slooterら、1997)、頭蓋内出血(Albertsら、1995;McCarronら、1998)、心肺バイパス後の認知力欠如(Tardiffら、1997)、および心停止蘇生後の低酸素脳損傷(Schiefermeierら、2000)が含まれる。局所虚血後のApoEの役割はあまり明白ではないが、少なくとも1つの臨床研究では脳卒中後の機能的予後に対するapoE遺伝型の効果を報告できなかった(Broderickら、2001)。
【0020】
虚血に対する中枢神経系反応の改変におけるapoEの役割に関与する臨床所見を、最近、動物モデルに拡大した。ApoE欠損マウスは、局所虚血および再灌流後に年齢、性別、および遺伝的背景が適合するコントロール動物と比較してより大きな梗塞およびより悪い機能の予後を示す(Laskowitzら、1997年7月)。この結果は、脳血管流または脳血管の解剖学と独立している(Bartら、1998)。一過性前脳虚血モデルでは、apoE欠損動物はまた、海馬被殻尾部(caudoputamen)、および皮質を含む脳低灌流に対して選択的脆弱性を示す神経集団の損傷が増大する(Shengら、1999;Horsburghら、1999)。虚血に対するこの感受性の増大を、ヒト組換えapoEの脳室内投与によって逆転することができる(Horsburgh、2000)。さらに、臨床文献と一致して、ヒトapoE3導入遺伝子を発現するマウスよりもヒトapoE4導入遺伝子を発現するするapoE欠損マウスの梗塞がより拡大し、機能的予後が悪化する(Shengら、1998)。
【0021】
apoE遺伝子型がイソ型特異的様式で神経の回復に影響を与えることを示す複数の臨床報告が存在するにもかかわらず、これが起こる機構の定義は不十分なままである。内因性apoEは、酸化ストレス(MiyataおよびSmith、1996)、直接神経栄養効果の発揮(Holtzmanら、1995)、CNS炎症反応の下方制御(Lynchら、2001)、または脳アミロイド沈着の促進による病理学的シャペロンとしての作用(WisniewskiおよびFrangione、1992)によって損傷に対するCNS応答に影響を与え得ることが提案されている。しかし、より最近の研究では、インタクトなApoEタンパク質由来のいかなる神経保護効果も証明できなかった(Jordanら、1998;Lendonら、2000)。
【0022】
さらに、いくつかの研究により、ApoE誘導性ペプチドフラグメントにより神経が損傷し得ることが示唆された。例えば、おそらく細胞内プロセシングの結果としてapoEのカルボキシル末端短縮形態がAD患者の脳で発生することが最近証明された。これらのフラグメントは生物活性を示し、細胞骨格タンパク質と相互作用して、培養ニューロン中に神経原線維変化に類似する封入体を誘導することができる(Huangら、2001)。Moulderらは、最近、ApoE由来ペプチド141〜155から構成される二量体が神経毒性効果を有することを報告し、著者らはApoE自体がアルツハイマー病脳における毒性の供給源であり得ることを示唆している(Moulderら、1999)。残基141〜149の縦列反復から構成されるペプチドを使用して、Tolarらは、初代海馬ニューロンのこのペプチドへの曝露により神経細胞死を誘導する(MK−801(NMDAアンタゴニスト)とのプレインキュベーションによって遮断される効果)ことを証明した(Tolarら、1999)。これらの結果により、この縦列反復ペプチドへの曝露は直接または間接的機構によってNMDA誘導性興奮毒性が増幅されることが予想される。
【0023】
まとめると、ApoEは、異なる生物学的過程において役割が変化する。ApoEはマクロファージからのLPSの除去によって末梢で保護効果を示すようであるが、そのCNS損傷およびアルツハイマー病などの神経疾患で果たす役割は全く明確にされていない。どのようにしてApoEがCNS炎症応答に寄与するのか、神経損傷および神経疾患の治療において使用するための試薬の処方において助けとなるのかをより深く理解することが必要である。
【発明の概要】
【0024】
(発明の要旨)本発明は、アポリポタンパク質Eの受容体結合部位配列を含むペプチドを使用して小グリア細胞活性を軽減または抑制することができるという所見に基づく。したがって、本発明は、グリア細胞または小グリア細胞が活性化し、グリア細胞または小グリア細胞の活性化が特異的病態に関連する有害な徴候および/または症状に寄与するCNS病態を治療するための方法および組成物を提供する。
【0025】
本発明は、さらに、ApoEの受容体結合領域由来のペプチドがN−メチル−D−アスパラギン酸曝露に関連する神経細胞死およびカルシウム流入を完全に抑制するという予期せぬ所見に基づく。この結果は、ApoEがNMDA誘導性興奮毒性を増強するという最近の文献報告と対照的であり、ApoEベースの処方物およびNMDA受容体などのグルタミン酸受容体の活性化に関連する損傷および疾患の治療の基礎を提供する驚くべき結果である。
【0026】
本発明は、さらに、ApoEの受容体結合領域由来のペプチドがin vivo敗血症モデルにおいてTNFαおよびIL−6のLPS誘導産生から保護するという予期せぬ所見および本発明の受容体結合フラグメントがインタクトなタンパク質の小部分のみを含むという事実に関する驚くべき所見に基づく。したがって、本発明は、本発明のペプチドを使用した敗血症を治療するための方法および組成物ならびに本発明のペプチドと同一の受容体に結合する本明細書中に開示の方法を使用して同定された任意の化合物を提供する。
【0027】
本発明は、さらに、高親和性アポリポタンパク質E受容体としてのLRP/α2Mの同定および特徴づけ、本明細書中に開示のいくつかの診断アッセイおよびキットの基礎となる特徴づけに基づく。本発明のアッセイを任意のApoE受容体(LRP/α2M、LDL、VLDL、ER−2、LR8、アポER、およびメガリン/gp330の受容体が含まれるが、これらに限定されない)を使用して実施することができる。
【0028】
上記を考慮して、本発明の1つの態様は、本発明のペプチド(特に、配列番号3、4、5、6、および10のペプチド)によって結合した受容体でグリア細胞もしくは小グリア細胞または星状細胞などの他の効果細胞に結合する化合物または化合物を含む組成物の投与による、in vitroまたは哺乳動物被験体でのグリア細胞または小グリア細胞活性化の抑制方法である。化合物または組成物を、化合物の非存在下で起こる活性化と比較してグリア細胞または小グリア細胞の活性を軽減する量で投与する。適切な化合物には、1つまたは複数のペプチドのみを含むかグリア細胞または小グリア細胞の活性化の抑制に関連する他の医薬化合物と組み合わせた医薬組成物に処方することができる本発明のペプチドが含まれる。
【0029】
本発明のさらなる態様は、本発明のペプチド(特に、配列番号3、4、5、6、および10のペプチド)によって結合した受容体でグリア細胞もしくは小グリア細胞に結合する化合物または化合物を含む組成物の投与による、CNS炎症に関連する症状を緩和する方法である。化合物または組成物を、化合物の非存在下と比較してCNS炎症を軽減する量で投与する。適切な化合物には、1つまたは複数のペプチドのみを含むかCNS炎症の抑制に関連する他の医薬化合物と組み合わせた医薬組成物に処方することができる本発明のペプチドが含まれる。
【0030】
本発明のさらなる態様は、LRP/α2M受容体で、または本発明のペプチド(特に、配列番号3、4、5、6、および10のペプチド)によって結合した受容体でグリア細胞もしくは小グリア細胞に結合する化合物または化合物を含む組成物の投与による、被験体におけるCNSまたは脳虚血に関連する症状を緩和する方法である。化合物または組成物を、化合物の非存在下で起こる活性化と比較してCNS虚血に関する症状を緩和する量で投与する。適切な化合物には、1つまたは複数のペプチドのみを含むかCNS虚血の緩和に関連する他の医薬化合物と組み合わせた医薬組成物に処方することができる本発明のペプチドが含まれる。
【0031】
本発明のさらなる態様は、本発明のペプチド(特に、配列番号3、6、および10のペプチド)によって結合した受容体でグリア細胞もしくは小グリア細胞に結合する化合物または化合物を含む組成物の被験体への投与による、哺乳動物被験体のグルタミン酸興奮毒性またはNMDA曝露に関連する神経細胞死を軽減する方法である。化合物または組成物を、化合物の非存在下で起こる軽減と比較してグルタミン酸毒性に関する神経細胞死を軽減するする量で投与する。適切な化合物には、1つまたは複数のペプチドのみを含むかグルタミン酸毒性の抑制に関連する他の医薬化合物と組み合わせた医薬組成物に処方することができる本発明のペプチドが含まれる。
【0032】
本発明のさらなる態様は、LRP/α2M受容体で、または本発明のペプチド(特に、配列番号3、6、および10のペプチド)によって結合した受容体でマクロファージ細胞に結合する化合物または化合物を含む組成物の投与による、哺乳動物被験体におけるマクロファージ活性化を抑制する方法である。化合物または組成物を、化合物の非存在下で起こる活性化と比較してマクロファージ活性化を抑制する量で投与する。適切な化合物には、1つまたは複数のペプチドのみを含むかマクロファージ活性化の抑制に関連する他の医薬化合物と組み合わせた医薬組成物に処方することができる本発明のペプチドが含まれる。
【0033】
本発明のさらなる態様は、本発明のペプチド(特に、配列番号3、4、5、6、および10のペプチド)によって結合した受容体でマクロファージ細胞に結合する化合物または化合物を含む組成物の投与を含む、アテローム性動脈硬化症を治療するかアテローム斑の形成を軽減する方法である。化合物または組成物を、化合物の非存在下と比較してアテローム斑の形成を軽減する量で投与する。適切な化合物には、1つまたは複数のペプチドのみを含むかアテローム斑形成の軽減に関連する他の医薬化合物と組み合わせた医薬組成物に処方することができる本発明のペプチドが含まれる。
【0034】
本発明のさらなる態様は、本発明のペプチド(特に、配列番号3、4、5、6、および10のペプチド)によって結合した受容体でマクロファージ細胞に結合する化合物または化合物を含む組成物の投与を含む、細菌性敗血症に関連する炎症を治療または軽減する方法である。化合物または組成物を、化合物の非存在下と比較して敗血症関連炎症を軽減する量で投与する。適切な化合物には、1つまたは複数のペプチドのみを含むか敗血症治療に関連する他の医薬化合物と組み合わせた医薬組成物に処方することができる本発明のペプチドが含まれる。
【0035】
本発明のさらなる態様は、配列番号3の治療ペプチドまたは各ペプチドが配列番号2、配列番号4、配列番号5、配列番号6のペプチド、もしくは配列番号10のペプチドおよびその医薬組成物を含む2つのペプチドの二量体である。本発明のペプチドによって結合された受容体に結合し、本明細書中に開示の機能効果を媒介する本発明に開示のアッセイを使用して同定した化合物も含まれる。一貫して、本発明はまた、本明細書中で考察した種々の疾患および障害を治療するための薬物の作製方法における開示のペプチドおよび化合物ならびにその官能性変異型の使用を含む。このような薬物は、本発明の主題であるペプチドおよび化合物を単独または他の公知の医薬品と組み合わせて含み得る。
【0036】
本発明のさらなる態様は、活性化グリア細胞または小グリア細胞培養物を化合物とインキュベーションし、その後一酸化窒素などの小グリア細胞活性化マーカーを測定することによってグリア細胞または小グリア細胞の活性化を抑制する能力について化合物をスクリーニングする方法である。
【0037】
本発明のさらなる態様は、グリア細胞または小グリア細胞培養物を化合物とプレインキュベーションし、細胞培養物を公知のグリア細胞または小グリア細胞のアクチベーターとインキュベーションし、その後グリア細胞または小グリア細胞活性化マーカーを測定することによってグリア細胞または小グリア細胞の活性化を抑制する能力について化合物をスクリーニングする方法である。
【0038】
本発明のさらなる態様は、化合物が、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、または配列番号10のペプチドが結合する同一の受容体(例えば、LRP/α2M受容体)でグリア細胞または小グリア細胞に結合するかどうかの決定による、グリア細胞または小グリア細胞の活性化を抑制する能力について試験化合物をスクリーニングする方法である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】リポ多糖類(LPS)への曝露後のApoE欠損マウス(ソリッドのバー)、ApoE3トランスジェニックマウス(斜線のバー)、およびコントロールマウス(白のバー)由来のグリア細胞培養による亜硝酸塩の産生を示すグラフである。LPSによる細胞培養物の刺激の24時間および60時間後に反応を測定した。
【図2】LPSでの刺激およびそれに続く配列番号3のペプチド(縦列反復ペプチド)の添加後のApoE欠損マウス由来の富化小グリア細胞初代培養物による亜硝酸塩の産生を示すグラフである。ペプチドを0μMから1000μMの用量で添加し、亜硝酸塩産生の用量依存性減少が認められた。コントロールとして、配列番号2のペプチドを培養物に添加し(ソリッドのバー)、亜硝酸塩産生の減少は認められなかった。
【図3A】ApoE3(四角形)またはApoE4(円形)への曝露後のマウス腹膜マクロファージにおける長期間の細胞内カルシウム含有量を示すグラフである。
【図3B】ApoE3(四角形)またはApoE4(円形)のいずれかに曝露したマウス腹膜マクロファージにおけるイノシトール三リン酸(IP3)を示すグラフである。グラフは、賦形剤に曝露したがApoEに曝露していないコントロール細胞と比較した処置細胞中のIP3含有量の変化の割合を示す。
【図4】配列番号6のペプチドの添加後(四角形)、配列番号6のペプチドおよびLPS(100ng/ml)の添加後(円形)のApoE欠損マウス由来の小グリア細胞初代培養物によるTNFα(pg/ml)の産生を示すグラフである。10μM、100μM、および1000μMの用量でペプチドを添加した。
【図5】細胞生存度の基準としての、細胞培養物の光学密度のグラフである。ApoE欠損マウス由来の小グリア細胞培養物を、配列番号6のペプチド(四角形)または配列番号6のペプチドおよびLPS(100ng/ml)(円形)のいずれかに曝露した。10μM、100μM、および1000μMの用量でペプチドを添加した。
【図6】配列番号6のペプチドの添加後(四角形)または配列番号6のペプチドおよびLPS(100ng/ml)の添加後(円形)ApoE欠損マウス由来の小グリア細胞初代培養物によるTNFα(pg/ml)の産生を示すグラフである。10μM、100μM、および1000μMの用量でペプチドを添加した。
【図7】細胞生存度の基準としての、細胞培養物の光学密度のグラフである。ApoE欠損マウス由来の小グリア細胞培養物を、配列番号6のペプチド(四角形)または配列番号6のペプチドおよびLPS(100ng/ml)(円形)のいずれかに曝露した。10μM、100μM、および1000μMの用量でペプチドを添加した。
【図8】apoEで処置したマクロファージの[Ca2+の変化を示す図である。パネルA:apoE(100pM)での刺激に対する1つのFura−2/AM負荷腹腔マクロファージの[Ca2+の変化。[Ca2+測定の詳細を、実施例に記載する。示したグラフは、それぞれ20〜30細胞を使用した代表的な5つの各実験を示す。約70〜80%のマクロファージが、apoEでの刺激時に[Ca2+の変化を示した。矢印は、apoEの添加時間を示す。パネルB:[Ca2+の変化に対するapoE濃度の効果。各細胞における[Ca2+の変化を、種々の濃度のapoEへの曝露前および曝露後に測定した。データを、平均(S.E.)として示し、データは代表的な2つの独立した実験であり、それぞれの場合、研究あたり25〜30細胞を分析した。
【図9】apoEで処置したマクロファージのIPの変化を示す図である。パネルA:マクロファージにおけるIP合成および百日咳毒素による調整に対するapoEの効果。これらの結果は、二連で行った2つの独立した実験の代表であり、百日咳毒素の存在下(白円形)および非存在下(黒円形)でのapoE(100pM)で刺激したミオ−[2−H]イノシトール標識細胞の異なる時間でのIP形成の変化を%で示す。パネルB:[H]標識マクロファージにおけるIP形成に対するapoE濃度の効果。細胞を、種々の濃度のapoEで60秒間刺激し、IPを決定した。結果を、平均(S.E.)で示し、これは、二連で行った2つの各実験の代表である。
【図10A】閉鎖性頭部外傷後のrotorod潜伏時間に対する処置および非処置のマウスの能力を示す図である。
【図10B】閉鎖性頭部外傷後の処置および非処置のマウスの体重増加を示す図である。
【図10C】閉鎖性頭部外傷後の水迷路(water maze)潜伏時間試験における処置および非処置のマウスの能力を示す図である。
【図10D】閉鎖性頭部外傷後の処置および非処置のマウスの生存を示す図である。
【図11】NMDA誘導性細胞損傷に対するヒト組換えApoE3の用量反応効果を示す図である。値=平均±s.d.、N=6培養ウェル/病態。ApoE3を使用しないNMDAと比較して=P<0.05。NMDA誘導性細胞損傷測定の詳細を、実施例に示す。
【図12A】全長ApoEおよびApoE模倣ペプチドの図である。ApoEを、白抜きのボックスで示す。10kDaの脂質結合ドメインはカルボキシル末端に存在し、影をつけた領域で示す。ApoE LDL受容体結合ドメインに対応するおよその領域を、黒べたのボックスで示し(アミノ酸130〜150、配列番号13)、その後にこれらの研究で使用した3つの短縮apoE模倣ペプチド配列を示す(配列番号10〜12)。
【図12B】光路長0.1cmのキュベットを使用したAviv Model 202CD分光計によってApoEペプチドの円偏光二色性スペクトルを記録した。3つのペプチドのCDスペクトルは、ヘリックスとランダムコイル構造との混合物と一致した。
【図13】(A)100μM NMDAまたは(B)300μM NMDAでの初代混合ニューロン−グリア細胞培養物のNMDA誘導性細胞損傷に対するApoEペプチド(133〜149)(配列番号10)の用量反応効果を示すグラフである。値=平均±s.d.、N=6〜8培養ウェル/病態。ペプチドを使用しないNMDAと比較して=p<0.05。
【図14】NMDA誘導性細胞損傷に対するApoEペプチドの短縮効果を示すグラフである。値=平均±s.d.、N=8培養ウェル/病態。ペプチドを使用しないNMDAと比較して=p<0.05。
【図15】初代混合ニューロン細胞−グリア細胞培養物によるNMDA誘導性Ca++取り込みに対するApoEペプチド(133〜149)の効果を示すグラフである。値=平均±s.d.、N=8培養ウェル/病態。ペプチドを使用しないNMDAと比較して=p<0.05。
【図16】NMDA誘導性細胞損傷に対するApoEペプチド(133〜149)曝露タイミングの効果を示す図である。培養物を、6μMのapoEペプチド(133〜149)で予備処置するか(24時間前にペプチドを添加し、NMDA曝露直前に除去した)、同時に処置するか(直前にペプチドを添加し、NMDA曝露直後に除去した)、後処置した(NMDA曝露直後にペプチドを添加し、24時間後に損傷細胞から放出されたLDHの決定まで培地中に維持した)。値=平均±s.d.、N=8培養ウェル/病態。ペプチドを使用しないNMDAと比較して=p<0.05。
【図17】ApoEペプチド(133〜149)によるTNFα(A)およびIL−6(B)のLPS誘導性血清レベルの抑制を示すグラフである。暗色のバーは賦形剤処置動物群を示し、淡色のバーはペプチド処置動物群を示す。
【発明を実施するための形態】
【0040】
(発明の詳細な説明)
本発明者らは、apoEがCNS中のグリア細胞の活性化を調整することを決定し、小グリア細胞の活性化を抑制するいくつかのペプチドをさらに同定した。1つの理論に拘束されることを望まないが、本発明者らは、小グリア細胞受容体へのApoE結合は小グリア細胞の表現型に影響を与え、種々のアクチベーターに対する小グリア細胞の反応性を減少させ、それによりこのようなアクチベーターの存在下で起こる小グリア細胞からの炎症性化合物の放出を減少させると仮定した。ApoEは活性化化合物によって結合されるのと同一の受容体に結合することができるか、アクチベーターと結合した化合物から独立して受容体に結合することができる。
【0041】
リンパ球では、ApoEは、種々の化合物(LPS、レクチンPHA、および抗CD3抗体が含まれる)によって活性化が遮断されることが示されており、これらのアクチベーターはリンパ球上の異なる受容体に結合することが公知である。本発明の方法および化合物を、小グリア細胞の受容体媒介活性化を予防または抑制し、それにより活性化小グリア細胞に関連する有害な神経学的効果を予防または軽減するようにデザインする。本発明のペプチドおよび他の治療分子は、グリア細胞上の受容体に結合し、種々のアクチベーターに対する細胞の応答性を減少させることができる。この様式では、本発明の方法および化合物を使用して、急性および/または慢性CNS損傷の一定の徴候、症状、および/または有害な神経学的効果を治療、緩和、または予防することができる。
【0042】
グルタミン酸および関連興奮性アミノ酸が、哺乳動物脳のシナプスによって放出され、NMDA受容体、AMPA(α−アミノ−ヒドロキシ−5−メチル−イソキサゾール−4−プロピオネート)受容体、およびカイニン酸受容体を含むイオンチャネルグルタミン酸受容体を活性化する。イオンチャネル型グルタミン酸受容体(特に、NMDA受容体)の過剰刺激により、ニューロン変性が意図される。虚血前のNMDA受容体アンタゴニストMK−801などの非競合インヒビターの全身投与により、小グリア細胞活性化の予防およびニューロン死の遅延が認められ、グルタミン酸カスケードの初期遮断により虚血損傷に関与する小グリア細胞活性化が予防されることが示唆される(Streitら、1992)。しかし、ApoEの受容体結合領域由来のペプチド(141〜149)を使用した最近の研究により、このようなペプチドによりNMDA誘導性興奮毒性が増幅され、神経細胞死が誘導されることが示唆される(Tolarら、1999)。他の最近の研究では、インタクトなapoEタンパク質由来のNMDA誘導性神経毒性に対するいかなる神経保護効果も証明できなかった(Jordanら、1998;Ledonら、2000)。
【0043】
文献での最近の報告と対照的に、本発明者らは、インタクトなApoEはNMDA誘導性細胞傷害性を最も穏やかに用量依存的に減少させることを見出した。比較すると、17残基のApoE模倣ペプチド(配列番号10)は、驚いたことに、天然のApoEと比較して有意により強力な神経保護を示し、NMDA受容体アンタゴニストMK−801ほど完全にNMDA曝露に関するカルシウム流および細胞死を遮断した。アミノ末端ペプチドのさらなる短縮により、NMDA興奮毒性からの神経保護の喪失がさらに進行した。これらの結果により、ApoEが脳傷害後の虚血損傷からのニューロン細胞の回復に影響を与える1つの方法はグルタミン酸毒性からの細胞の保護であることが示唆される。さらに、この結果は、脳虚血後の有益な治療ストラテジーとしてのApoE模倣ペプチドの使用を支持する。
【0044】
ApoEペプチドがN−メチル−D−アスパラギン酸曝露に関連するニューロン細胞死およびカルシウム流入を完全に抑制するという予期せぬ所見により、本発明前に明らかではなかったグルタミン酸受容体活性化に関与する障害および疾患のためのApoEベースの処方物および治療の基礎が得られる。この所見により、NMDA興奮毒性に関連する疾患の治療のための公知の試薬と組み合わせた1つまたは複数の本発明のペプチドまたはNMDAアンタゴニスト化合物を含む併用療法用組成物の基本も得られる。
【0045】
例えば、NMDA興奮毒性は、HIV痴呆および脳症(encephalopy)に関連していた(Perezら、2001;Haugheyら、2001;Doble、1999)。ApoEペプチドがNMDAアンタゴニストとして作用するという事実は、apoE遺伝子型に関してHIV痴呆またはHIV脳炎のリスク間で統計的に有意な相関が認められなかったので、特に驚くべき所見である(Dunlopら、1997)。したがって、ApoEがNMDA興奮毒性を増強するという最近の報告なしで、ApoEまたはそのフラグメントがNMDA拮抗活性を示すことは予想されないだろう。
【0046】
NMDA興奮毒性はまた、ヒトの神経ラチリスム、筋萎縮性側索硬化症(ALS)(Doble、1999;Nguimfack、2002)、精神分裂病、ハンティングトン舞踏病、パーキンソン病(Nguimfack、2002;Mytilineouら、1997;KlopmanおよびSedykh、2002;LeおよびLipton、2001)、双極性障害(Farberら、2002)、多発性硬化症、および動物の実験的アレルギー性脳脊髄炎(EAE)(PaulおよびBolton、2002)、アルツハイマー病(Biら、2002;BiおよびSze、2002)および外傷性脳損傷(Raoら、2001;Regnerら、2001;XuおよびLuo、2001)に加えて、うつ病、脳卒中(LeおよびLipton、2001)、癲癇、および遺伝性神経代謝疾患d−2−ヒドロキシグルタル酸酸性尿症(Kolkerら、2002)と関連していた。NMDAアンタゴニストは、臨床麻酔でも使用されており(Farberら、2002)、動物モデルにおける慢性疼痛(McKennaおよびMelzack、2001;LeおよびLipton、2001)、薬物耐性(Cady、2001)、およびアルコール依存症の阻害が認められている(Kotlinska、2001)。
【0047】
したがって、本発明は、任意の上記疾患または障害の治療のための方法および医薬処方物における開示のペプチドおよびNMDAアンタゴニスト化合物の使用ならびに種々の障害の治療に有用な他の公知の化合物を含む麻酔用処方物および併用療法用組成物中の成分としての使用を含む。例えば、本発明のペプチドおよび他の化合物を、ウイルス複製の阻害およびHIV痴呆の予防または治療にあわせた併用療法での治療計画において任意の公知のHIV薬(HIV逆転写酵素およびプロテアーゼインヒビターが含まれる)と組み合わせることができるか、単独で投与するか補助的処方物において他のNMDAアンタゴニストと共に投与することができる。ある著者は、CNSの抗レトロウイルス療法がAIDS痴呆複合を示す患者の機能および予後の改善が不可欠である場合でさえも、毒性の有意な部分が抗レトロウイルス治療時でさえも継続する間接的機構によって媒介されるようであるので、二次神経毒性機構を遮断するさらなる神経保護を得るために長期間を必要とし得るとコメントしていた(Clifford、2002)。
【0048】
リルゾールは、筋萎縮性側索硬化症の神経保護治療に使用され、ハンティングトン病およびパーキンソン病治療について現在臨床試験で試験されているグルタミン酸拮抗性を有する物質である(Schieferら、2002;Doble、1999)。Schieferとその共同研究者は、最近、ハンティングトン病のトランスジェニックマウスモデルにおいて、リルゾールが生存期間を延長し、核封入体形成を変化させることを証明した。したがって、本発明のペプチドおよび化合物のNMDAのアンタゴニストとしての役割を仮定すると、これらのペプチドおよび化合物を、単独またはリルゾールなどの他のグルタミン酸アンタゴニストと組み合わせて、ALS、ハンティングトン病、およびパーキンソン病の治療のための医薬処方物で使用することができる。
【0049】
L−デプレニールは、障害の出現ならびにパーキンソン病の徴候および症状の進行を遅延させ、グルタミン酸受容体の活性化由来の下流で起こる事象に対して保護効果を発揮すると予想されるモノアミンオキシダーゼ(MAO)−Bのインヒビターである(Mytilineouら、1997)。MAO−Bインヒビター、レボドパなどのドーパミン受容体アンタゴニストおよびNMDA受容体アンタゴニストは全て抗パーキンソン効果を示し、多剤組み合わせは、薬物の抗パーキンソン効果を相乗的に増強することが示されている(KlopmanおよびSedykh、2002)。したがって、本発明のペプチドおよび化合物のNMDAアンタゴニストの役割を与えられた場合、これらのペプチドおよび化合物を、単独または他のNMDA受容体アンタゴニスト(L−デプレニールなどのMAO−Bインヒビターおよびレボドペラなどのドーパミン受容体アンタゴニスト)と組み合わせてパーキンソン病治療のための医薬処方物で使用することができる。
【0050】
グルタミン酸興奮毒性の結果としてのフリーラジカルの産生は、神経分裂症の病因に関連していると見なされている(Nguimfack、2002)。したがって、研究者らは、ALS、パーキンソン病、およびハンティングトン病などの他の神経疾患で使用された抗酸化剤での神経分裂症の治療を試験し始めた。本発明のNMDA受容体拮抗ペプチドおよび化合物を使用してグルタミン酸興奮毒性の結果としてのフリーラジカルの産生を阻害することができる場合、これらのペプチドおよび化合物を、単独または他の抗酸化剤と組み合わせて精神分裂症治療のための医薬処方物で使用することができる。
【0051】
NMDA受容体機能低下を阻害する抗痙攣薬、抗癲癇薬は、双極性障害で臨床的に有用であることが見出された(Farberら、2002)。このような薬剤には、フェニトイン、カルバマゼピン、バルプロ酸、ラモトリジン、リルゾール、テトロドトキシン、フェルバメート、ガバペンチン、およびエトスクシミドが含まれる。本発明の化合物のペプチドもまたNMDA受容体関連神経毒性を阻害するならば、本発明のペプチドおよび化合物を双極性障害または癲癇の治療用医薬品及び方法中で単独または医薬品中での他のNMDA受容体アンタゴニストまたはNMDA受容体機能低下のインヒビターと組み合わせて使用することができる。
【0052】
多発性硬化症(MS)は、免疫療法に対する応答および動物モデルの存在(実験的自己免疫脳炎)の観察によって判断したところ、免疫学的に媒介された疾患である。インターフェロン(IFN)β−1b、IFNβ−1a、および酢酸ガラティラメル(再発または寛解を繰り返すMSに使用される現在の療法)は、MSの免疫学的病態生理学に取り組む作用機構を有する(Dhib−Jalbut、2002)。例えば、IFNは、細胞表面特異的受容体に結合し、抗ウイルス性、抗増殖性、および免疫調整性の遺伝子産物の分泌で終了するシグナル伝達経路のカスケードを開始する。酢酸ガラティラメル(合成分子)は、ミエリン塩基性タンパク質反応性T細胞の活性化を阻害し、抗炎症効果によって特徴付けられるT細胞レパートリーを誘導する。いくつかの現在市販されている治療薬(IV免疫グロブリン、メトトレキセート、およびアザチオプリンが含まれる)は、承認された治療と組み合わせた再発と寛解を繰り返す多発性硬化症(RRMS)の治療薬として評価されている(Calabresi、2002)。NMDA受容体アンタゴニストであるメマンチンが血液脳関門を予防、破壊、および修復し、in vivoでEAEの病因に関連する症状を軽減する(PaulおよびBolton、2002)ことが示されるならば、本発明のペプチドおよび化合物を、単独または他のNMDA受容体アンタゴニストと組み合わせるかヒトMS治療用のインターフェロンまたは酢酸ガラティラメルに加えて使用することができる。
【0053】
ヒトの持続痛の動物モデルを使用して、McKennaおよびMelzackは、最近、疼痛挙動はNMDA受容体アンタゴニストであるAP5での治療により有意に軽減されることを示した(MckennaおよびMelzack、2001)。同様に、Von Bergenと共同研究者は、最近、LY293558(競合性非N−メチル−D−アスパラギン酸興奮性アミノ酸受容体アンタゴニスト)の髄腔内投与により、180分間ラットの感覚および運動応答が遮断され、翌日に完全な回復が認められることを証明した。LY293558の効果は、ブピバカインの効果より顕著かつ持続されるので、著者らは、グルタミン酸受容体を遮断するLY293558のような薬物はヒトの脊髄麻酔用の局所麻酔薬の代替物であり得ると結論付けている(Von Bergenら、2002)。したがって、本発明のペプチドおよび化合物を、単独または他のNMDA受容体アンタゴニストと組み合わせるかヒトおよび動物の局所麻酔薬として他の麻酔化合物に加えて使用することができる。
【0054】
NMDA受容体はまた、物質使用の病態生理学において主要な役割を果たすと考えられている(Kotlinska、2001;Soykaら、2000)。例えば、Kotlinskaは、エタノール投与前に投与したNMDA受容体アンタゴニストであるメマンチンによりラットのエタノール依存症の発症が予防されたことを示した。Jonesと共同研究者は、モルヒネ離脱症候群の強度がNMDA受容体アンタゴニストLY235959で前処置した幼若ラットで軽減されたことを証明した。LY2359559で前処置した子供において、頭部の揺れ(head moves)、足の揺れ、ローリング、および徘徊(walking)などの脱離挙動が減少し、発声は完全に無くなった(Jonesら、2002)。最近の概説によれば、基本的嗜癖機構のターゲティングを目的とするストラテジーは、嗜癖は中枢神経系の適応変化によって発症し、再発の主な原因である渇望はドーパミン作動機構に依存し、高い全身興奮性を必要とするという仮定に依存する。したがって、薬理学的アプローチは、電位型チャネル(例えば、ニモジピン)およびNMDA受容体(例えば、メマンチン)の両方を介したニューロンへのカルシウム流入の阻害によってニューロン順応性を軽減させる薬物ならびに阻害性GABA性系を刺激する薬物(γ−ビニル−GABA、バクロフェン)を含んでいた。したがって、本発明のペプチドおよび化合物を、ヒトのアルコールおよび薬物嗜癖の予防および治療のための組成物および方法において単独またはメマンチンなどの他のNMDA受容体アンタゴニストと組み合わせるかニモジピン、γ−ビニル−GABA、およびバクロフェンなどの他の神経順応性化合物に加えて使用することができる。
【0055】
ApoEペプチドが小グリア細胞の活性化を阻害する1つの方法がグルタミン酸興奮毒性の阻害であるという本発明者らによる所見は、CNS損傷治療のための本発明のこれらのペプチドおよび他のNMDA受容体拮抗性化合物の価値をさらに支持する。例えば、Raoらは、ラットの外傷性脳損傷後のメマンチン(別のNMDA受容体アンタゴニスト)による神経保護を報告した(Raoら、2001)。他の著者は、最近、NMDA受容体の過剰な活性化は二次的脳障害を誘導する最も重要な因子の1つであり、AP5などのNMDA受容体アンタゴニストは脳損傷後の浮腫から脳を保護することができるとコメントした。したがって、本発明のペプチドおよび化合物を、ヒトおよび動物の脳損傷および関連する二次的脳障害の治療のための組成物および方法において単独または他のNMDA受容体アンタゴニストと組み合わせて使用することができる。
【0056】
本発明の方法および化合物は、急性CNS損傷に関連する神経学的徴候および症状の予防、治療、または緩和に有用である。本明細書中で使用される、「急性CNS損傷」には、脳卒中(血栓症、塞栓症、または血管収縮によって発症する)、閉鎖性頭部外傷、全脳虚血(例えば、心筋梗塞、不整脈、出血性ショック、および冠状動脈バイパス移植後脳損傷を含む任意の原因の全脳低血圧症による虚血)、局所性虚血、および頭蓋内出血が含まれるが、これらに限定されない。中枢神経系に対する虚血損傷は、全脳または局所的虚血条件のいずれかに起因し得る。一定期間(心停止中など)に脳全体への血流が停止した場合に全脳虚血が起こる。脳血管の血栓塞栓性閉塞、外傷性脳損傷、浮腫、および脳腫瘍などの間に脳の一部が正常な血流が枯渇した場合に局所的虚血が起こる。脳虚血によるCNS損傷の多くは、虚血状態から数時間または数日の間に起こり、損傷組織による細胞傷害性産生物の放出は二次的である。
【0057】
本発明の方法および化合物はまた、慢性神経疾患(アルツハイマー病(AD)およびHIV関連脳症が含まれるが、これらに限定されない)に関連する神経学的徴候および症状の予防、治療、または緩和に有用である。ApoEペプチドを使用してグリア細胞活性化を抑制することができるという本発明者らによる所見により、小グリア細胞活性化を含む任意の神経疾患治療における本発明のペプチドおよび化合物の役割が得られる。例えば、小グリア細胞はADにおける活性化マーカーを発現し、これにより、ADにおける重大な炎症に小グリア細胞が関与することが示唆される。これによりアミロイド斑付近の小グリア細胞クラスターが活性化された(Griffinら、1995)。癲癇においても小グリア細胞が活性化される(Shengら、1994)。
【0058】
アミロイドβペプチドの取り込みおよび病原的影響がNMDA受容体アンタゴニストによって遮断されることが最近示されているので(Biら、2002)、ApoEペプチドがグリア細胞の活性化を阻害する1つの方法がグルタミン酸興奮毒性の阻害であるという本発明者らによる驚くべき所見は、AD治療のための本発明のペプチドおよび他の化合物の価値をさらに支持する。他の研究は、抗炎症薬は疾患の発症または進行を遅延させることができることを示す(Breitnerら、1995;Rogersら、1993)。したがって、本発明のペプチドおよび化合物を、ヒトのAD治療のための組成物および方法において単独または他のNMDA受容体アンタゴニストまたは他の公知の医薬品(特に、AD治療で使用されている抗炎症薬)と組み合わせて使用することができる。
【0059】
本発明の方法および化合物はまた、CNSを含む神経系に影響を与える炎症病態(多発性硬化症、脈管炎、急性散在性脳脊髄炎、およびギヤン−バーレー症候群が含まれるが、これらに限定されない)に関連する神経学的徴候および症状の予防、治療、または緩和に有用である。これに関して、本発明のApoEペプチドおよび他の化合物を、単独またはCNS炎症病態の治療のための医薬組成物を処方するために他の公知の抗炎症薬またはサイトカインと組み合わせて使用することができる。
【0060】
本発明の方法および化合物は、急性または慢性CNS疾患の一部として発症するCNSにおけるグリア細胞の活性化の予防、治療、または軽減に有用である。本発明の方法および化合物の効果を、細胞もしくは組織レベル(例えば、組織学的または体系測定的)または被験体の神経学的状態の評価によって評価することができる。グリア細胞活性化の抑制または軽減を、当業者に明らかである種々の方法によって評価することができ、このような1つの方法は、活性化グリア細胞によって産生されることが公知の化合物の産生または存在の測定およびコントロールにおけるこの化合物のレベルとこの測定値との比較である。あるいは、小グリア細胞活性化の抑制、軽減、または予防における本発明の方法および化合物の効果を、処置被験体およびコントロール被験体におけるCNS疾患の徴候および/または症状(このような徴候および/または症状は小グリア細胞の活性化に関連するか二次的に関連する)の比較によって評価することができる。
【0061】
本発明はまた、ApoE受容体結合ペプチドが敗血症の末梢およびin vivo動物モデルにおいてサイトカインのLPS誘導性産生から保護するという本発明者の驚くべき所見に基づく。最近、インタクトなApoEが細菌性LPS誘導死からマウスを保護することが示されているにもかかわらず(Van Oostenら、2001)、ApoEがLPSをマクロファージから肝臓実質細胞に向け直すことによって保護を媒介すると考えられるならば、ApoEの受容体結合領域のみを含むペプチドにより保護が付与されることは驚くべきことである。敗血症の他の可能な治療は、抗炎症性サイトカイン(IL−10が含まれる)、形質転換成長因子β、顆粒球コロニー刺激因子、IFN−φ、マクロファージ遊走阻止因子、および高速移動性1群(high mobility group 1)タンパク質(Zanottiら、2002)、およびモノクローナル抗体(抗内毒素抗体、抗腫瘍壊死因子抗体、および抗CD14抗体が含まれる)の投与を含む(Matsubaraら、2002)。したがって、本発明のペプチドおよび化合物を、敗血症治療のための組成物および方法において単独または他の公知の抗炎症性サイトカインおよび抗体と組み合わせて使用することができる。
【0062】
本明細書中で使用される、用語「戦う」、「治療する」、および「改善する」は、必ずしも治療を受ける被験体のCNSまたは罹患している敗血症の基本となる疾患過程の逆転または停止を示すことを意味しない。このような用語は、治療なしと比較して治療される病態に関連する有害な徴候および/または症状が減少または軽減するか、進行度が減少することを示す。疾患の徴候または症状の変化を、被験体レベル(例えば、被験体の機能または病態を評価する)または組織もしくは細胞レベル(例えば、グリア細胞またはマクロファージ活性化マーカーの産生が減少または軽減する)で評価することができる。本発明の方法を使用して、慢性CNS病態(アルツハイマー病など)を治療する場合、この方法は、痴呆などの症状の発症を遅くするか遅延することができるが、根底となる疾患の過程に必ずしも影響を与えることも逆転することもない。
【0063】
本発明の方法を実施するための適切な被験体には、雄および雌の哺乳動物被験体(ヒト、非ヒト霊長類、および非霊長類哺乳動物が含まれる)が含まれる。被験体には、ペット(veterinary)(コンパニオンアニマル)被験体ならびに家畜および外来種が含まれる。
【0064】
本発明の方法で使用することができる活性な化合物には、LRP/α2M受容体または本発明のApoEペプチドによって結合した任意の受容体に特異的および/または選択的に結合するリガンドまたはアゴニストが含まれる。このような化合物の例には、以下が含まれるが、これらに限定されない:1)α2マクログロブリン;2)シュードモナス外毒素;3)リポタンパク質リパーゼ;4)アポリポタンパク質E;5)酸化および/またはアセチル化LDL;6)受容体関連タンパク質(RAP);7)レムナント粒子;8)低比重リポタンパク質(LDL);9)高比重リポタンパク質(HDL);10)ラクトフェリン;11)組織プラスミノゲンアクチベーター(tPA);12)尿素プラスミノゲンアクチベーター(uPA)などおよびその受容体結合フラグメント。
【0065】
本明細書中で使用される、「ApoEペプチド」または「ApoEのペプチド」は、ApoEによって結合した受容体に結合し、且つ本明細書中に記載の機能的効果を媒介するApoEの任意のペプチドまたはその機能的変異型をいう。ApoE分子の各イソ型のアミノ酸残基100〜200は、公知のApoE受容体結合領域を含む。より詳細には、ApoEの受容体結合領域は、ApoE分子の各イソ型(配列番号4および配列番号5)のアミノ酸残基130〜160内に存在し、より詳細には、アミノ酸残基140〜155(HLRKLRKRLLRDADDL)(配列番号10)内に存在する。例えば、Weisgraber、「アポリポタンパク質E:構造−機能の関係」、Advances in Protein Chemistry、45、249、1994を参照のこと。E2、E3、およびE4イソ型を定義するアミノ酸交換は、アミノ酸残基140〜155の領域内で認められないが、アポリポタンパク質分子の構造全体に影響を与えない。ApoE2およびApoE3分子は、共有結合したホモ二量体を形成するが、ApoE4分子は形成しない。
【0066】
本明細書中で使用される、用語「ホモ二量体」は、同一の化学組成の2つの分子から構成される分子をいい、用語「ヘテロ二量体」は、異なる化学組成の2つの分子から構成される分子をいう。
【0067】
本発明者らは、アミノ酸配列LRKLRKRLL(配列番号2)を有する九量体を使用した。この9つのアミノ酸配列は、上記で同定されたより大きなApoE受容体結合配列領域内で見出され、ApoEのアミノ酸141〜149位で見出される。本発明者らは、配列番号2の二量体(すなわち、LRKLRKRLL LRKLRKRLL(配列番号3)のアミノ酸配列を有するペプチド)を構築した。配列番号3のペプチドは、用量依存様式で小グリア細胞活性化を抑制した。単量体(配列番号2の単量体ペプチド)の使用では、小グリア細胞活性化を抑制されなかった(図2を参照のこと)。
【0068】
本発明者らは、さらに、アミノ酸配列TEELRVRLAS HLRKLRKRLL(配列番号6)を有する20量体を使用した。この20個のアミノ酸配列は、ApoEのアミノ酸130〜149位で見出され、配列番号2の九量体を含む。配列番号6のペプチドは、用量依存様式で小グリア細胞活性化を抑制した(図4〜7を参照のこと)。
【0069】
本発明者らは、さらに、ApoEのアミノ酸133〜149位由来のアミノ酸配列LRVRLAS HLRKLRKRLL(配列番号10)を有する17量体はマウス頭部損傷モデルおよびマウスLPS誘導性敗血症モデルで保護作用を示すことを示した。このペプチドはまた、初代ラットニューロン/グリア細胞培養物においてNMDA興奮毒性を阻害することが示された。
【0070】
対照的に、Clayら、Biochemistry、34、11142、1995は、アミノ酸141〜155または141〜149の二量体ペプチドは共に培養物においてTリンパ球に対して細胞静止性および細胞傷害性を示すと報告している。Cardinら、Biochem.Biophys.Res.Commun.、154、741、1998は、apoE141〜155ペプチドによりリンパ球の増殖が阻害されると報告している。アミノ酸141〜155の縦列反復からなるペプチドおよび141〜155領域を含むより長い単量体ペプチドは、in vitroでの幼鳥胚由来の神経突起の広範且つ特異的な変性を起こすことが見出された(Crutcherら、Exp.Neurol.、130、120、1994)。これらの著者らは、apoEに関連するペプチド配列は神経変性過程に直接寄与し、それにより本発明のペプチドを使用して神経保護効果の予期せぬ性質が支持されると示唆した。
【0071】
本発明のペプチドを、当該分野で公知の標準的技術によって産生することができる。本発明で有用なペプチドには、ApoE LDL受容体結合配列(その複数の反復物を含み、二量体および三量体が含まれるがこれらに限定されない)、2つまたはそれ以上のペプチドの抱合体(それぞれ本明細書中に記載のペプチドまたはLDL受容体結合配列を含むペプチドを含む)を含むペプチドが含まれる。1つのApoE受容体結合配列を、配列番号1に示す。好ましいペプチドは、配列番号2の複数の反復(好ましくは、その二量体)を含むか、これからなる。したがって、本発明で有用な好ましいペプチドは、配列番号3(LRKLRKRLLの縦列反復)または配列番号3を含むペプチドである。さらに好ましいペプチドは、配列番号4、配列番号5、配列番号6、または配列番号10を含むか、これからなる。
【0072】
これらのペプチドに関連する機能活性を増強するための本明細書中に開示のペプチドの修飾を、当業者は容易に実施することができる。例えば、アミノ酸141〜155の線状縦列反復(141〜155の二量体)のLDL受容体に結合する能力は、Dyerら、J.Lipid Research、36、80、1995によって研究されていた。一連の修飾ペプチドを構築し、LDL結合能について評価した。これらの著者らは、145〜155または144〜150の二量体における荷電アミノ末端残基の欠失(arg142およびlys143を含む)により、ペプチドのLDL受容体活性が消滅したと報告している。これらの著者らは、141〜155二量体のLDL−受容体結合活性は、141〜155、141〜150、141〜155(lys143→ala)、および141〜155(arg150→ala)二量体ペプチドの両親媒性αヘリックスの親水性表面上に存在する塩基性アミノ酸の少なくとも2つのクラスターに依存すると結論付けている。Dyerら、J.Biol.Chem.、266、15009、1991は、ペプチド141〜155の自己抱合体および141〜155の縦列反復からなるペプチドはリンパ球増幅および卵巣アンドロゲン産生の両方を阻害することができると報告している。Dyerら、J.Biol.Chem.、266、22803、1991は、二量体141〜155縦列ペプチドおよび三量体141〜155ペプチドのLDL結合能力を調査した。Lys143→Ala、Leu144→Pro、およびArg150→Alaのアミノ酸置換によって結合が減少した。Lalazarら、J.Biol.Chem.、263、3542、1988は、LDL受容体の結合についてApoEの変異型を調査した。136位、140位、143位、および150位で塩基性残基を中性アミノ酸に置換した場合、結合活性は減少した。ロイシン144またはアラニン152をプロリンに置換した場合、結合は減少した。しかし、セリン139をアルギニンに置換し、ロイシン149をアラニンに置換した変異型によって受容体結合がわずかに増強された。
【0073】
本発明の方法で有用な活性化合物(または「有効成分」)には、小グリア細胞受容体または星状細胞などの周辺の効果細胞上の受容体への結合、それによる小グリア細胞を活性化する分子による小グリア細胞の活性化の予防または抑制における配列番号3のペプチド、および/または配列番号6のペプチド、および/または配列番号10のペプチドと競合する化合物が含まれる。本発明の方法で有用な化合物には、配列番号3および/または配列番号6および/または配列番号10のペプチドによって結合した受容体のアンタゴニストとして作用する化合物も含まれる。この受容体を選択的にターゲティングおよび結合する抗体を、本発明の小グリア細胞活性化のアンタゴニストとして使用することもできる。このような抗体は、配列番号3のペプチド、および/または配列番号6のペプチド、および/または配列番号10のペプチドによって結合した受容体に選択的または特異的に結合する。
【0074】
配列番号3、配列番号6、配列番号10のペプチド、またはその立体配座アナログは、本発明の態様である。このような化合物は、水溶液中でグリア細胞上の受容体分子と相互作用してグリア細胞の活性化を遮断するかさもなければ急性または慢性CNS損傷またはLPSなどの小グリア細胞の公知のアクチベーターへの曝露と同時に発生する立体配座を有するアミノ酸のコア配列を有するペプチドまたはペプチド模倣物である。別の言い方をすれば、このような化合物を、小グリア細胞の結合について配列番号3および/または配列番号6および/または配列番号10のペプチドと競合する能力およびLPSなどの公知のアクチベーターによって小グリア細胞の活性化を抑制する能力によって特徴付ける。
【0075】
本発明の治療ペプチドの別の変形形態は、治療ペプチドのN末端またはC末端アミノ酸の1〜5アミノ酸またはアナログの結合である。本発明のペプチドのアナログを、活性ペプチドのN末端、C末端、またはN末端とC末端の両方への1から5個のさらなるアミノ酸の付加によって調製することもでき、このようなアミノ酸の付加は、ペプチドが配列番号3および/または配列番号6および/または配列番号10のペプチドによって結合した部位での小グリア細胞に結合する能力に悪影響を与えない。
【0076】
電荷密度、疎水性、親水性、サイズ、および形状などの物理的性質におけるアミノ酸および他の分子または置換基の公知の類似性によって、ペプチドのアミノ酸配列を変化させることができる。例えば、アミノ酸Thrを、Serに置換するかその逆を行うことができ、LeuをIleに置換するかその逆を行うことができる。さらに、当業者に公知の質量スクリーニング技術(例えば、配列番号3および/または配列番号6および/または配列番号10のペプチドによって結合した受容体で小グリア細胞に結合する化合物のスクリーニング)によってアナログを選択することができる。好ましい交換は、ペプチドのアルギニン含有量を増加させるためのSerのArgへの置換であり、例には、配列番号7、配列番号8、または配列番号9からなるかこれらを含むペプチドが含まれる。さらに好ましい交換は、ロイシン149のアラニンへの置換である。
【0077】
本発明のペプチドを、ペプチドが18アミノ酸配列LRKLRKRLL LRKLRKRLL(配列番号3)または配列番号3のペプチドの受容体結合能力を保持するその変異型を含む場合、約20アミノ酸、約22アミノ酸、約24アミノ酸、約26アミノ酸、約28アミノ酸、約30アミノ酸、約35アミノ酸、または約40アミノ酸、約22アミノ酸まで、約24アミノ酸まで、約26アミノ酸まで、約28アミノ酸まで、約30アミノ酸まで、約35アミノ酸まで、約40アミノ酸まで、約45アミノ酸まで、約50アミノ酸まで、またはそれ以上の短いペプチドとして特徴付けることもできる。本発明で有用な好ましいペプチドは、配列番号3からなるかこれを含むペプチドである。より長いペプチドを使用する場合、アミノ酸残基141〜149を直接取り囲むApoE配列由来のアミノ酸配列を組み込んだペプチドが好ましい。18アミノ酸より長いペプチドを使用する場合、得られたペプチドが小グリア細胞に結合して急性および慢性CNS炎症における小グリア細胞の活性化を抑制する能力を維持する限り、実質的に任意の他のアミノ酸配列を含むことができることが意図される。本発明は、LDL受容体結合能力を保持することが公知の141〜149位のApoE配列の変形形態を含む。例えば、L型アミノ酸の代わりに1つまたは複数のD型アミノ酸を使用するか、アシル化またはアミノ化などによるN末端またはC末端への基の付加によって合成ペプチドをさらに使用することができる。
【0078】
本発明のペプチドを、ペプチドが9アミノ酸配列LRKLRKRLL(配列番号2)または配列番号3および/または配列番号6および/または配列番号10のペプチドの受容体結合能力を保持するその変異型を含む場合、約10アミノ酸、約12アミノ酸、約14アミノ酸、約15アミノ酸、約18アミノ酸、約20アミノ酸、約22アミノ酸、約24アミノ酸、26アミノ酸、28アミノ酸、30アミノ酸、35アミノ酸まで、または40アミノ酸、約15アミノ酸まで、約22アミノ酸まで、約24アミノ酸まで、約26アミノ酸まで、約28アミノ酸まで、約30アミノ酸まで、約35アミノ酸まで、約40アミノ酸まで、約45アミノ酸まで、約50アミノ酸まで、またはそれ以上の短いペプチドとして特徴付けることもできる。本発明で有用な好ましいペプチドは、apoE受容体結合領域からなるかこれを含むペプチドであり、特に好ましいペプチドは、配列番号6および/または配列番号10からなるかこれを含む。より長いペプチドを使用する場合、apoE受容体結合領域内に由来するアミノ酸配列またはapoE受容体結合領域を直接取り囲むApoE配列を組み込んだペプチドが好ましいにもかかわらず、得られたペプチドが小グリア細胞に結合して急性および慢性CNS炎症における小グリア細胞の活性化を抑制する能力を維持する限り、これらのペプチドは、実質的に任意の他のアミノ酸配列を含むことができることが意図される。本発明は、LDL受容体結合能力を保持することが公知の141〜149位のApoE配列の変形形態を含む。例えば、L型アミノ酸の代わりに1つまたは複数のD型アミノ酸を使用するか、アシル化またはアミノ化などによるN末端またはC末端への基の付加によって合成ペプチドをさらに使用することができる。
【0079】
本発明のペプチドには、天然のアミノ酸配列だけでなく、そのアナログ、化学的誘導体、または塩であるペプチドも含まれる。用語「アナログ」または「保存的変形形態」は、本明細書中で同定した治療ペプチドと実質的に同一のアミノ酸配列を有し、1つまたは複数のアミノ酸が化学的に類似したアミノ酸に置換されている任意のポリペプチドをいう。例えば、グリシンまたはセリンなどの極性アミノ酸を別の極性アミノ酸に置換することができるか、塩基性アミノ酸を別の塩基性アミノ酸に置換することができるか、酸性アミノ酸を別の酸性アミノ酸に置換することができるか、非極性アミノ酸を別の非極性アミノ酸に置換することができる。本明細書中で使用される、用語「アナログ」または「保存的変形形態」はまた、本発明のポリペプチドに1つまたは複数のアミノ酸置換または付加を有するが、ペプチドが本明細書中に記載の小グリア細胞活性化を抑制する能力を保持する場合に、実質的な配列類似性(少なくとも約85%の配列類似性、好ましくは、少なくとも90%、92%、94%、95%、96%、98%、またはさらに99%の配列類似性を有する)を保持するペプチドをいう。
【0080】
本発明のペプチドを構成するアミノ酸は、L型立体配座またはD型立体配座のいずれかであり得る。本発明の治療ペプチドは、塩が薬学的に許容可能である場合、遊離形態でも塩形態でもよい。
【0081】
本明細書中で使用される、用語「被験体の脳に投与する」は、化合物を治療を受ける被験体の中枢神経系組織、特に脳に提供する当該分野で公知の治療経路の使用をいう。
【0082】
好ましくは、本発明の化合物を、薬学的に許容可能なキャリアと組み合わせて使用する。したがって、本発明はまた、哺乳動物被験体への投与に適切な医薬組成物を提供する。このような組成物は、薬学的に許容可能なキャリアと組み合わせた有効量の本発明の化合物を含む。キャリアは、組成物が経口投与に適合するような液体または固体(すなわち、経口投与のために処方した錠剤または丸薬)であり得る。さらに、キャリアは、組成物を吸入用に適合させた噴霧可能な液体または固体の形態であり得る。非経口投与する場合、組成物は、発熱物質を含まず、且つ許容可能な非経口キャリア中に存在すべきである。あるいは、活性な化合物を、公知の方法を使用したリポソーム中へのカプセル化形態に処方することができる。さらに、CNS病態の治療のためのペプチドの鼻腔内投与が当該分野で公知である(例えば、AD治療のためのペプチドTの鼻腔内投与に関するPertに付与された米国特許第5,567,682号を参照のこと)。(本明細書中で参照された全ての特許書類全体が、本明細書中で参考として援用されることが意図される)。当該分野で公知の技術を使用して、鼻腔内投与のための本発明の化合物を調製することができる。
【0083】
本発明の化合物の薬学的調製物は、任意選択的に、薬学的に許容可能な希釈剤または賦形剤を含み得る。本発明の敗血症に関連する実施形態のために、開示したペプチドを、当業者に公知の方法を使用して薬学的に許容可能なキャリアと抱合させて血清の半減期を延長することができる。例えば、米国特許第6,423,685号(その全体が本明細書中で参考として援用される)を参照のこと。
【0084】
本発明の化合物の有効量は、化合物の非存在下と比較して小グリア細胞の活性化を減少させる量、言い換えれば、化合物の非存在下と比較して小グリア細胞による神経毒性化合物の産生を減少させる量である。有効量(および投与様式)を、個体を基本として決定し、これは、使用される特異的治療分子、被験体の検討材料(サイズ、年齢、身体全体の健康)、治療される病態(AD、急性頭部外傷、脳炎など)、治療すべき症状の重症度、考えられる結果、使用される特定のキャリアまたは医薬処方物、投与経路、および当業者に明らかな他の要因に基づく。当該分野で公知の技術を使用して当業者が有効量を決定することができる。本明細書中に記載の化合物の治療有効量を、当該分野で公知のin vitro試験、動物モデル、または他の用量反応研究を使用して決定することができる。
【0085】
本発明の化合物を、起こり得る症状の進行の軽減または緩和のために、緊急に(すなわち、脳炎または虚血を引き起こす事象の発生時または直後)投与するか、予防的に(例えば、計画手術前または神経の徴候または症状の発生前)投与するか、変性疾患の過程で投与することができる。投与のタイミングまたは間隔は、被験体の症状によって変化し、数時間から数日、数時間、数日、数週間、またはそれ以上にわたって投与することができ、これを当業者が決定する。
【0086】
典型的な毎日の処方計画は、約0.01μg/kg体重/日、約10μg/kg体重/日、約100μg/kg体重/日、約1000μg/kg体重/日、約10,000μg/kg体重/日、約100,000μg/kg体重/日であり得る。
【0087】
血液脳関門は、血流から種々のCNS領域に物質を受動拡散する関門を提供する。しかし、一定の薬剤の能動輸送は、いずれかの方向で血液脳関門を通過することが公知である。血流から脳への通過を制限し得る物質を、脳脊髄液に直接注射することができる。脳虚血および炎症はまた、血液脳関門を改変し、血流中の物質の通過を増大させることが公知である。
【0088】
化合物の脳への直接投与は、当該分野で公知である。髄腔内注射により、薬剤を脳室および脊髄液に直接投与する。薬剤の脊髄液への持続的直接投与を行うために外科的に移植可能な輸液ポンプを利用可能である。医薬化合物の脳脊髄液への注射(「脊髄注射」)を使用した腰椎穿刺は当該分野で公知であり、本発明の化合物の投与に適切である。
【0089】
親水性化合物の液体可溶性薬物への変換を含む、血液脳関門の回避のための薬理学ベースの手順も当該分野で公知である。活性な薬剤を、脂質小胞またはリポソーム中にカプセル化することができる。
【0090】
一過性に開いた血液脳関門への高張物質の動脈内注入および脳への親水性薬物の通過は、当該分野で公知である。Kozarichらに付与された米国特許第5,686,416号は、血液脳関門の透過性を増大させて脳への化合物の送達を増大させるための、受容体媒介透過剤(permeabilizer)(RMP)ペプチドと脳の間質液区画に送達すべき化合物との同時投与を開示している。静脈内投与または腹腔内投与を使用して、本発明の化合物を投与することもできる。
【0091】
血液脳関門を通過する活性な薬剤の1つの輸送方法は、血液脳関門を透過して血液脳関門を通過して活性な薬剤を輸送する能力について選択したペプチドまたは非タンパク質部分である第2の分子(「キャリア」)への活性な薬剤の結合または抱合である。適切なキャリアの例には、ピリジニウム、脂肪酸、イノシトール、コレステロール、およびグルコース誘導体が含まれる。キャリアは、脳内皮細胞中の特定の輸送系を介して脳に侵入する化合物であり得る。血液脳関門を介した受容体媒介トランスサイトーシスによる脳への神経薬理学的因子の送達に適合したキメラペプチドは、Pardridgeらに付与された米国特許第4,902,505号に開示されている。これらのキメラペプチドは、トランスサイトーシスによって血液脳関門を通過することができる輸送可能なペプチドに抱合した医薬品を含む。Pardridgeらによって開示された特異的輸送可能ペプチドには、ヒストン、インスリン、およびトランスフェリンなどが含まれる。血液脳関門を通過させるための化合物とキャリア分子との抱合体もまた、Podusloらに付与された米国特許第5,604,198号に開示されている。開示されている特異的キャリア分子には、ヘモグロビン、リゾチーム、シトクロムc、セルロプラスミン、カルモジュリン、ユビキチンおよび物質Pが含まれる。Bodorに付与された米国特許第5,017,566号も参照のこと。
【0092】
本発明のペプチドの別の投与方法を、ペプチドが発現および分泌され、それにより小グリア細胞に利用可能となるように脳細胞に侵入することができる、ペプチドをコードする核酸配列を保有するベクターの被験体への投与によって実施する。適切なベクターは、典型的には、ウイルスベクター(DNAウイルス、RNAウイルス、およびレトロウイルスが含まれる)である。ベクター送達系を使用して遺伝子治療を行う技術は、当該分野で公知である。ヘルペスウイルスベクターは、本発明の化合物の投与に使用することができる特定のベクター型である。
【0093】
(スクリーニング法)脳虚血または脳炎における小グリア細胞活性化を予防または軽減する能力について化合物をスクリーニングする方法もまた本明細書中に開示する。このような方法は、活性化小グリア細胞を試験化合物に接触させる工程と、試験化合物が配列番号3および/または配列番号6および/または配列番号10のペプチドが結合する同一の受容体で小グリア細胞に結合するかどうかを検出する工程とを含む。in vitro(例えば、細胞培養物中)で接触工程を行うことができる。競合結合アッセイを使用して、例えば、放射性同位体もしくは蛍光分子などの検出可能な標識または当該分野で公知であり且つ一般的に使用されている任意の他の検出可能な標識と抱合または結合する本発明のペプチドの受容体結合の阻害の検出によって、試験化合物が配列番号3および/または配列番号6および/または配列番号10のペプチドによって結合した同一の受容体に結合するかどうかを検出することができる。
【0094】
小グリア細胞の活性化を抑制する能力についての試験化合物をスクリーニングするさらなる方法は、活性化した小グリア細胞培養物を試験化合物にインキュベーションさせる工程と、小グリア細胞活性化の少なくとも1つのマーカーを測定する工程とを含む。小グリア細胞活性化マーカーの減少(試験化合物の非存在下でのマーカーレベルと比較)は、試験化合物が小グリア細胞の活性化を抑制、予防、または軽減させることができることを示す。小グリア細胞活性化マーカーの例は、一酸化窒素の産生である。
【0095】
小グリア細胞の活性化を抑制する能力についての試験化合物をスクリーニングするさらなる方法は、小グリア細胞培養物を試験化合物とプレインキュベーションする工程と、小グリア細胞培養物を小グリア細胞を活性化することが公知の化合物とインキュベーションする工程を含む。少なくとも1つの小グリア細胞活性化マーカーを測定し、活性化マーカーの減少(プレインキュベーション工程を行わない場合と比較)は、試験化合物が小グリア細胞の活性化に影響を与えることができることを示す。小グリア細胞活性化マーカーの例は、一酸化窒素の産生である。
【0096】
(アテローム性動脈硬化症)炎症過程は、アテローム性動脈硬化症の過程の態様を媒介することが公知である。例えば、Hansson1994;Berlinerら、1995;Watanabeら、1997を参照のこと。ApoEは、(個体のマクロファージによる分泌量は肝臓によって産生されるApoEの量と比較してわずかであるにもかかわらず)局所的に血管壁でマクロファージによって分泌されることが公知である。古典的なアテローム性動脈硬化症モデルでは、ApoEは、血流からコレステロールを除去し、これをマクロファージまたは肝臓に送達させるように機能する。しかし、血管壁でマクロファージによって分泌されるApoEはいかなる脂質代謝効果からも独立してアテローム斑形成を減少させることが明らかとなりつつある。例えば、ApoE欠損マウスは、高コレステロール血症およびアテローム硬化性疾患のモデルとして認められている。このようなマウスへのApoE分泌マクロファージの投与により、アテローム斑形成が劇的に減少する。Lintonら、1995。対照的に、野生型マウスのマクロファージのApoE欠損マクロファージへの置換により、動物が肝臓によるApoEの産生を継続していてもアテローム動脈硬化性への変化が加速される。Fazioら、1997。
【0097】
アテローム性動脈硬化症では、ApoEは、受容体媒介事象を介して、血管壁周辺でのマクロファージ活性化を下方制御すると仮定される。マクロファージ活性化のこのような下方制御は、アテローム斑形成に関連する事象のカスケードを遮断または妨害し、それによりアテローム動脈硬化性病変の形成を軽減または遅延させる。アテローム性動脈硬化症に関連することが公知の事象のカスケードには、平滑筋細胞および内皮細胞増殖、および泡沫細胞形成が含まれる。ApoEがこれらの各過程を下方制御する証拠が存在する。したがって、ApoEは、その脂質に対する影響から独立してin vivoでのアテローム性動脈硬化症の存在および進行に影響を与える。アテローム性動脈硬化症の進行を、アテローム斑の量もしくはサイズまたはアテローム性動脈硬化症病変によって遮断された血管の割合、またはこのような斑の成長率の測定によって評価することができる。
【0098】
本発明者らは、ApoEはマクロファージにおけるカルシウム媒介シグナルを伝達する(Ca2+/イノシトール三リン酸シグナル伝達)ことをはじめて証明し、これはApoEがマクロファージ活性化の下方制御によってマクロファージ機能を改変し、その後の炎症を改変することを示す。したがって、小グリア細胞およびCNS疾患に関して本明細書中に記載のペプチド、化合物、方法、および医薬処方物は、アテローム性動脈硬化症を抑制、予防、または遅延するためのマクロファージの活性化の抑制方法で有用である。
【0099】
アテローム性動脈硬化症は、動脈内膜の肥厚およびアテローム斑中の脂質の蓄積をいう。アテローム性動脈硬化症を治療または予防するための本発明の化合物の投与を、本明細書中で考察した任意の手段および当該分野で公知の他の適切な方法によって行うことができる。アテローム性動脈硬化症の変化を予防、遅延、または治療するために本発明の化合物を使用した場合、血液脳関門を通過させるように化合物を処方する必要が無いことが明らかである。本発明の方法によって治療することができる病態には、冠状動脈、頚動脈などの中枢神経系に供給する動脈、末梢循環または内臓循環の動脈のアテローム性動脈硬化症、および腎動脈疾患が含まれる。非経口投与などの投与は、部位特異的であるか、全身血流への投与であり得る。
【実施例】
【0100】
以下の実施例は、本発明の例示を目的とし、本発明を制限するとい解釈されない。
【実施例1】
【0101】
小グリア細胞の一酸化窒素産生:材料と方法
本研究は、小グリア細胞のリポ多糖類(LPS)刺激後の亜硝酸塩蓄積によって測定した、小グリア細胞の一酸化窒素(NO)産生の調節における内因性apoEの役割を試験した。
【0102】
(培養物の調製および特徴づけ)混合グリア細胞培養物を、以下から調整した:(a)野生型(C57/B16;Jackson Laboratories)幼若マウス、(b)ApoE欠損変異幼若マウス(ApoE欠損マウス)、および(c)ヒトApoEを発現するがマウスApoEを発現しないトランスジェニック幼若マウス(ApoE3マウス)。トランスジェニックマウスの作製および特徴づけについては、Xuら、Neurobiol.Dis.、3、229、1996を参照のこと。混合グリア細胞培養物を、記載のように調製した。McMillian、Neurochem.、58、1308、1992;Laskowitzら、J.Neuroimmunol.、76、70、1997を参照のこと。簡単に述べれば、2〜4日齢の幼若マウスから脳を取り出し、膜および血管を除去し、無Ca+2培地中に機械的に分散させ、遠心分離によって回収した。次いで、25cmのフラスコあたり1つの脳の細胞を、DMEM/F12(10%ウシ胎児血清、1%ペニシリン/ストレプトマイシン、Gbco番号15070を含む)にプレートした。混合ニューロン/グリア細胞調製物を、加湿インキュベーターでコンフルエントまで成長させた(3〜5週間)。
【0103】
ApoE欠損マウスおよびApoE3マウスから調製した培養物が類似のグリア細胞集団を有することを証明するために小グリア細胞、星状細胞、およびニューロンの比率を定量した。星状細胞およびニューロンの数を評価するために神経膠線維酸性タンパク質(GFAP;SIGMA(登録商標);500倍希釈)およびτタンパク質(SIGMA(登録商標)、500倍希釈)に対する抗体を使用して免疫染色を行い、ペルオキシダーゼ結合Bandeiraea simplifolica B4イソレクチンおよび酢酸ナフチルエステラーゼ染色を使用して小グリア細胞を検出した。Laskowitzら、J.Neuroimmunol.、76、70、1997。正常なCNS環境および炎症カスケードに関連するグリア細胞−グリア細胞相互作用に最も密接に近づけるので、混合ニューロン−グリア細胞培養系を使用した。
【0104】
星状細胞(αGFAP;SIGMA(登録商標))、ニューロン(ατ;SIGMA(登録商標))、および小グリア細胞(Bandeiraea simplifolica B4イソレクチン;SIGMA(登録商標))について実施した半定量的ウェスタンブロット分析を使用して類似のグリア細胞集団を確認した。実験終了時に細胞タンパク質を採取し、各サンプル由来の50μgタンパク質を、ポリアクリルアミドゲル電気泳動によって分離し、タンパク質をナイロンメンブレンに移した。抗血清およびレクチンの非特異的結合を、4%粉乳、0.1%TritonX−100中でのメンブレンのプレインキュベーションによってブロックした。メンブレンを、抗体または1μg/mlB4イソレクチンと一晩インキュベーションした。リン酸緩衝化生理食塩水での強力な洗浄後、結合した抗体またはレクチンを、基質としてジアミノベンジジンを使用したABCキット(Vector、Burlingame、CA)によって視覚化した。
【0105】
(培養物の刺激)この培地で1回細胞を洗浄した後、培養物を無血清培地にプレートし、LPS100ng/ml(SIGMA(登録商標))で刺激した。亜硝酸塩アッセイの24時間および60時間後にアリコートを分注した。
【0106】
(亜硝酸塩の定量)グリース試薬(0.1%N−1−ナフチルエチレンジアミン二塩酸、1%スルファニルアミド、および2.5%HPO)での比色反応を使用して定量した亜硝酸塩蓄積の測定によって、NO産生を評価した。分光測光法によって570nmの吸光度を測定した。このアッセイの感度は、約0.5μMである。
【0107】
(統計分析)データを、ANOVAおよびFischerLSD多重範囲検定によって比較した。p<0.05で有意と見なした。
【実施例2】
【0108】
小グリア細胞の一酸化窒素産生:結果
(培養物の特徴づけ)ApoE欠損マウス、ApoE3マウス、および野生型マウスから調製した培養物のグリア細胞集団において有意差は認められなかった。培養物は、約70%星状細胞、15%小グリア細胞、および15%ニューロンを含んでいた。野生型マウス、ApoE欠損マウス、およびApoE3マウス由来の細胞調製物の比較により、グリア細胞集団における差は認められなかった。特に、小グリア細胞レベル(NO産生についての初代効果細胞)は、レクチン結合で検出したところ、3つ全ての培養物集団で類似していた(データ示さず)。
【0109】
ApoE欠損マウス培養物は、LPS曝露の最初の24時間に強力な亜硝酸反応を示した。この増強された反応は、コントロール動物由来の小グリア細胞で認められた反応の6倍であった(p=0.0001;図1)。マウスapoEをヒトApoE3に置換したトランスジェニックマウス由来の培養物は、LPSに対して弱い反応を示すが、野生型動物の反応と有意に異ならなかった(24時間および60時間でそれぞれp=0.64およびp=0.2)。60時間まで、野生型およびApoEトランスジェニックマウス調製物中でLPSの反応における亜硝酸塩の蓄積の増加が認められたが、コントロールと比較して、apoE欠損培養物中の亜硝酸塩の量は依然として有意に多かった(p=0.04%;図1)。
【0110】
上記の研究は、ApoE欠損混合ニューロン−グリア細胞培養物は、天然のマウスApoE3を発現するマウスから調製したグリア細胞培養物またはヒトApoEイソ型を発現する培養物よりもLPS刺激に異なって反応することを示す。これらの結果は、ApoEが損傷に対するCNS反応の生物学的に関連するメディエーターであることと一致する。これらの研究は、内因性ApoEはLPS刺激一酸化窒素産生のグリア細胞分泌を調整することを証明し、これにより、脳内で産生された内因性ApoEの1つの機能は、小グリア細胞反応性を抑制し、それにより急性および慢性損傷に対するCNS反応を変化させることが示唆される。
【実施例3】
【0111】
配列番号3のペプチドによる小グリア細胞活性化の抑制
富化小グリア細胞初代培養物を、上記の実施例1に記載のapoE欠損幼若マウスの脳から調製した。小グリア細胞を、リポ多糖類(100ng/ml)で刺激して、実施例1に記載の小グリア細胞を活性化した。活性化小グリア細胞は、炎症性サイトカインおよび一酸化窒素を分泌し、一酸化窒素分泌を、小グリア細胞活性化のマーカーとして本実験で使用した。一酸化窒素産生を、実施例1に記載のように評価した。
【0112】
配列番号3のペプチドを、0μMから1000μMの用量範囲で活性化小グリア細胞の培養物に添加した。48時間後に一酸化窒素分泌の用量依存性減少が認められた(図2)。2mMの用量での配列番号2のペプチドの投与により、一酸化窒素分泌のいかなる明らかな減少も認められなかった(図2)。認められた結果を確立するためのコントロールとして作用する配列番号2の単量体ペプチドは、いかなる非特異的ペプチド効果にも起因しない。
【実施例4】
【0113】
マクロファージに対するApoEの効果
腹腔マクロファージを使用して、ApoEの細胞内シグナル伝達経路を調査した。
【0114】
チオグリコール酸誘発腹腔マクロファージを、8週齢のC57−BL6マウスから採取し、カバーガラス上に4×10細胞の密度でプレートし、2.5μMFura−2/AMで30分間負荷し、75μMカルシウムを含むハンクス緩衝化溶液で洗浄した。5nMヒト組換えapoEまたはE4への曝露後、Zeissデジタル顕微鏡によって細胞内カルシウムを測定した。図3Aに示すように、ApoEは、マクロファージ中の細胞内カルシウム動員を引き起こした。100モル過剰の受容体関連タンパク質(RAP)とのプレインキュベーションにより、この効果は遮断されなかった;RAPは、LRPの生理学的アンタゴニストであり、LRP機能を遮断する。
【0115】
マクロファージも2×10細胞/ウェルの密度でプレートし、H−ミオイノシトール(8μC/m)にて37℃で16時間標識し、ヒトApoE3またはApoE4(5nM)に曝露した。コントロール細胞を賦形剤に曝露するが、ApoEに曝露しなかった。結果を、図3Bに示し、値を、コントロール細胞と比較した処置細胞におけるイノシトール三リン酸の変化の割合として示す。
【0116】
腹腔マクロファージのApoEへの曝露によって、イノシトール三リン酸の代謝回転に関連する細胞内カルシウムの増加を誘導した(図3Aおよび3B)。この結果は、ApoEがマクロファージ機能に影響を与えて改変するシグナル伝達経路を開始させることを示す。このデータにより、ApoEはマクロファージ活性化および炎症を下方制御することが示唆される;マクロファージ活性化および炎症は、アテローム性動脈硬化症過程に寄与することが公知である。
【実施例5】
【0117】
配列番号6のペプチドを使用した小グリア細胞活性化の抑制
アミノ酸130〜149(配列番号6)を含むapoEの受容体結合領域由来の20アミノ酸ペプチドを、当該分野で公知の方法に従って調製した。
【0118】
初代マウス小グリア細胞培養物を、実施例1に記載のようにapoE欠損幼若マウスから調製した。いくつかの培養物では、小グリア細胞を、実施例1に記載のようにリポ多糖類(100ng/ml)で活性化した。
【0119】
配列番号6のペプチドを、0μM(コントロール)、10μM、100μM、および1000μMの投薬量で活性化および非活性化小グリア細胞の培養物に添加した(図4)。ペプチドの各投薬量レベルを、単独(四角形)およびLPS(100ng/ml;円形)と組み合わせて試験した。TNFαの産生を、ペプチド添加から24時間後に測定した。各用量のペプチドの使用によって(コントロール培養物と比較して)活性化小グリア細胞によるTNFα産生の減少が認められた(図4、円形)。図4のデータを、各用量で少なくとも三連で示し、エラーバーは、標準誤差を示す。
【0120】
これらの結果は、配列番号6のペプチドは活性化グリア細胞からのサイトカインの放出を抑制することを示す。
【実施例6】
【0121】
配列番号6のペプチドの細胞傷害性
配列番号6のペプチドの中毒作用を調査した。実施例5に記載の活性化(LPS)および非活性化小グリア細胞の培養物を使用した。配列番号6を有するペプチドを、0μM(コントロール)、10μM、100μM、および1000μMの量で細胞培養物に添加し、各投薬量レベルのペプチドを、単独(四角形)およびLPS(100ng/ml)と組み合わせて試験した。次いで、ペプチド添加から24時間後の光学密度によって、細胞生存度を測定した。
【0122】
図5に示すように、光学密度は、0μMおよび10μMのペプチドを投与した培養物でほぼ同一であったが、100μMまたは1000μMを投与した培養物で減少した。実施例5の結果とあわせたこれらの結果は、非毒性濃度の配列番号6のペプチドはグリア細胞サイトカイン放出の抑制に十分であることを示す。
【実施例7】
【0123】
グリア細胞サイトカインの抑制および配列番号6のペプチドの細胞傷害性
0μM(コントロール)、1μM、10μM、100μM、および1000μMのペプチド用量を使用して、実施例5および6に記載の実験を繰り返した。各投薬量レベルのペプチドを、単独(四角形)およびLPS(100ng/ml;円形)と組み合わせて試験した。ペプチド投与から24時間後にTNFαの産生を測定し、結果を図6に示す。細胞生存度を評価するために、細胞培養物の光学密度も測定した(24時間);結果を図7に示す。
【0124】
これらの結果は、たった1μMのペプチドを投与した細胞培養物で小グリア細胞のサイトカイン放出が抑制されるが、より用量の多いペプチドを投与した培養物のみで細胞傷害性が認められたことを示す。実施例5〜7の結果は、apoEの受容体結合領域を含む非毒性濃度のペプチドは活性化小グリア細胞からのサイトカイン放出を抑制することができることを示す。
【実施例8】
【0125】
局所虚血のin vivo処置
局所虚血再灌流のマウスモデルを使用して、apoE LDL受容体領域を含む小治療ペプチド(30アミノ酸長未満)の髄腔内、静脈内、または腹腔内投与の効果を評価する。1つのこのようなペプチドは、配列番号6を有する。
【0126】
当該分野で公知の技術にしたがって、野生型マウスを中大脳動脈閉塞および再灌流に供する(例えば、Laskowitzら、J.Cereb.Blood Flow Metab.、17、753、1997年7月を参照のこと)。1つのマウス群(野生型コントロール)には大脳動脈閉塞後に処置を施さず、類似の群(野生型処置群)では、各マウスに治療ペプチドを髄腔内、腹腔内、または静脈内に注射する。最初の指針として上記のin vitroデータを使用して、種々の用量で治療ペプチドを注射することができる。
【0127】
再灌流後の所定の時間で(例えば、再灌流の24時間後)各動物を神経学的に評価する(例えば、Laskowitzら、J.Cereb.Blood Flow Metab.、17、753、1997年7月を参照のこと)。神経学的試験後、各マウスを麻酔し、屠殺し、脳を切り出して染色し、梗塞体積を測定する。神経学的予後および梗塞サイズを、コントロール群と処置群との間で比較する。
【0128】
apoE欠損マウスを使用して、上記試験を繰り返すことができる。
【実施例9】
【0129】
全脳虚血のin vivo処置
全脳虚血の2匹の血管梗塞モデルから適合した全脳虚血のマウスモデルを使用して、apoE LDL受容体領域を含む小治療ペプチド(30アミノ酸長未満)の髄腔内投与の効果を評価する。1つのこのようなペプチドは、配列番号6のペプチドを有する。
【0130】
野生型マウス(21±1g)を一晩絶食させ、ハロタンまたは別の適切な麻酔薬で麻酔し、挿管し、機械的に通気する。右内頚静脈および大腿動脈にカニューレを挿入する。頭蓋骨膜温度を、37.0℃に保持する。頚動脈を閉塞し、0.3mg動脈内トリメタファンおよび静脈貧血を使用して平均動脈圧を35mmHgに減少させる。10分後、虚血を逆転させる。コントロールマウスにはさらなる処置を施さず、試験マウスには治療ペプチドを、髄腔内、静脈内、または腹腔内に注射する。指針として本明細書中に記載のin vitroデータを使用して、種々の用量のペプチドを注射することができる。
【0131】
公知の神経学的試験手順(例えば、Laskowitzら、J.Cereb.Blood Flow Metab.、17、753、1997年7月を参照のこと)を使用して、所定の時間で(例えば、再灌流後1、3、または5日)各動物を神経学的に評価する。神経学的評価後、各動物を麻酔し、屠殺し、当該分野で公知の方法を使用して脳損傷を評価する。例えば、脳は、in situで灌流固定し、切り出し、染色し、例えば、海馬のCA1領域の損傷を同定するために光学顕微鏡で試験し、視覚可能および視覚不可能なニューロンを計数し、比較する。
【0132】
神経学的予後および脳損傷を、コントロール群と治療群との間で比較する。
【実施例10】
【0133】
アポリポタンパク質EおよびApoE模倣ペプチドは、マクロファージにおけるカルシウム依存性シグナル伝達反応を開始させる
この実施例は、apoEにより、イノシトール三リン酸産生の増大後の細胞内Ca2+貯蔵物の動員に関連するマウスの腹腔マクロファージのシグナル伝達カスケードが開始されることを示す。受容体結合タンパク質およびNi2+との前処置によって、このカスケードを阻害した。百日咳毒素感受性Gタンパク質によって、シグナル伝達が媒介された。これらは、リポタンパク質受容体関連タンパク質(LRP)受容体に結合するリガンドを介して誘導されるシグナル伝達の特性である。apoEの受容体結合領域由来のペプチドにより、インタクトなタンパク質と同一の様式でシグナル伝達が開始された。交差脱感作の存在により、apoEおよびapoE模倣ペプチドは、同一の結合部位で競合することが示唆される。放射性標識apoE模倣ペプチドはインタクトなタンパク質と受容体結合について競合するという本発明の所見によってこれを確認した。これらのデータは、ApoE依存性シグナル伝達がこのリポタンパク質の免疫調整特性を媒介することを示す。
【0134】
(材料と方法)(材料)醸造用のチオグリコール酸ブロスを、Difco Laboratories(Baltimore、MD)から購入した。RPMI培地1640、ウシ胎児血清、ハンクス平衡塩溶液、および他の細胞培養試薬を、Life Technologies,Inc.(Grand Island、NY)から購入した。ウシ血清アルブミン(BSA)、百日咳毒素、およびHEPESを、Sigma Chemical Co.(St.Louis、MO)から購入した。Fura−2AMおよびBAPTA/AMを、Molecular Probes(Eugene,OR)から入手した。Myo−[2−H]イノシトール(比活性10〜20Ci/mmol)を、Amercan Radiolabeled Biochemicals(St.Louis、MO)から購入した。RAPcDNAを含むプラスミドは、Joachim Herz博士(University of Texas、Southwestern、Dallas TX)から贈呈された。以前に記載のようにRAP産生のために使用した[21]。ヒト組換えapoE2を、Panvera Corp(Madison、WI)から購入した。SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動で判断したところ、調製物は内毒度を含まず、均一であった。[H]チミジン(比活性70Ci/mmol)およびヨウ素125(比活性440mCi/mg)を、Amercan Radiolabeled Chemicals(St.Louis、MO)から購入した。アミノ末端にチロシンを含むか含まない20アミノ酸のApoE模倣ペプチド(Ac−TEELRVRLASHLRKLRKRLL−アミド)ならびに同一のサイズ、アミノ酸組成、および純度のスクランブルコントロールペプチドを、QCB Biochemicals, Inc.(Hopkinson、MA)によって純度95%に合成した。全アミノ末端をアセチル化し、全カルボキシ末端をアミド部分でブロックした。滅菌等張リン酸緩衝化生理食塩水中で、ペプチドを再構成した。同一のサイズ、アミノ酸組成、および純度のスクランブルコントロールペプチドも合成した。使用した全ての他の試薬は、市販されているもので最高の品質であった。
【0135】
(マクロファージ採取)動物を含む全実験を、所内動物実験委員会によって最初に承認を受けた。無病原体雌C57BL/6マウスおよび以前にC57BL/6系統に10回戻し交配しているApoE欠損マウスを、Jackson Laboratory(Bar Harbor、Maine)から入手した。10mM HEPESおよび3.5mM NaHCOを含む10mlの氷冷ハンクス平衡塩溶液(HHBSS)(pH7.4)を使用した腹腔洗浄法によって、チオグリコール酸誘発腹腔マクロファージを採取した。4℃、約800×gで10分間の遠心分離によってマクロファージをペレット化し、25mM HEPES、12.5U/mlペニシリン、6.5mg/mlストレプトマイシン、および5%ウシ胎児血清を補足したRPMI1640培地に再懸濁した。細胞生存度を、トリパンブルー排除法で決定し、これは一貫して95%を超えていた。
【0136】
(受容体結合研究)マクロファージを、48ウェル細胞培養プレート(Costar)に2.5×10細胞/ウェルでプレートし、加湿した5%COのインキュベーターにて37℃で3時間インキュベーションした。次いで、プレートを4℃に冷却し、20mM Hepesおよび5%BSAを含む氷冷ハンクス平衡塩溶液(pH7.4)(結合緩衝液)での3回連続リンスによって非結合細胞を除去した。125I−apoE模倣ペプチドの直接結合を定量するために、種々の量の放射性標識ペプチドを、200倍モル過剰の非標識ペプチドの存在下および非存在下で各ウェルに添加した。過剰な非標識ペプチドの非存在下で結合した125I−apoEペプチドの量(全結合)から過剰な非標識ペプチドの存在下で結合した125I−apoEペプチドの量(非特異的結合)を引くことによって、細胞への特異的結合を同定した。競合研究のために、50nMの放射性標識ペプチドを、種々の量(31.25nM〜4M)の非標識ApoE2またはRAPの存在下または非存在下で各ウェルに添加した。次いで、細胞を、4℃で12〜16時間インキュベーションした。非結合リガンドを、ウェルから除去し、細胞の単層を氷冷結合緩衝液で3回リンスした。次いで、細胞を、1M NaOH、0.5%SDSと室温で5時間より多く可溶性にし、各ウェルの内容物を、ポリスチレンチューブに添加し、LKB−Wallac、CliniGamma1272カウンタ(Finland)で計数した。
【0137】
(apoEおよびペプチド処置マクロファージの[Ca2+の測定)Fura−2/AM処置単細胞の[Ca2+レベルの変化を、公知の技術にしたがってデジタル画像顕微鏡を使用して定量した。マクロファージを、35mmのペトリ皿中のカバーガラスに1.5×10細胞/cmの密度でプレートし、加湿5%COインキュベーターにて37℃で2時間接着させた。非接着細胞を吸引し、単層をHHBSSで2回洗浄した。4μMのFura−2/AMを、細胞と室温の暗所で30分間インキュベーションし、その後、公知の技術にしたがってデジタル画像顕微鏡を使用して[Ca2+を測定した。5分間でベースラインを得た後、リガンド(apoE、apoE模倣ペプチド、またはスクランブルペプチド)を添加し、複数の[Ca2+基準を得た。シグナル伝達がリガンドのLRPへのライゲーションに起因するかどうかを決定するために、細胞を1000倍モル過剰のRAPまたは10mM NiCl(共にLRPへのリガンド結合を阻害する)と共にapoEまたはペプチドでの刺激前に5分間プレインキュベーションを行った。Gタンパク質の関与を評価する実験で、単層を1μg/mlの百日咳毒素と37℃で12時間インキュベートし、上記のようにCa2+基準を得た。
【0138】
(apoE処置マクロファージにおけるIPの測定および百日咳毒素の効果)種々の実験条件下でのミオ−[2−H]イノシトール標識マクロファージ中のIPの形成を、公知の技術にしたがって定量した。マクロファージを、6ウェルプレート(4×10細胞/ウェル)にプレートし、加湿5%CO2インキュベーターにて37℃で2時間接着させた。単細胞から培地を吸引し、0.25%BSAおよびミオ−[2−H]イノシトール(比活性10〜20Ci/mmol)を含むRPMI1640培地を各ウェルに添加した。細胞を、37℃でさらに16〜18時間インキュベートした。単層を、1mM CaCl、1mM MgCl、10mM LiClを含む25mM HHBSS(pH7.4)で3回リンスした。体積0.5mlのこの溶液を、各ウェルに添加し、細胞を、37℃で3分間プレインキュベーションを行い、その後リガンドで刺激した。リガンドを含む培地の吸引および6.25%過塩素酸の添加によって、反応を停止させた。細胞を、ウェルから掻き取り、1mlのオクチルアミン/Freon(1:1vol/vol)および5mM EDTAを含むチューブに移し、4℃、5600×gで20分間遠心分離した。上相の溶液を、1mlDowex樹脂カラム(AG1−X8ギ酸;Bio Rad Laboratories、Richmond、CA)に適用し、0.1Mギ酸を含むHO、50、200、400、800、および1200mMギ酸アンモニウムを使用したバッチで連続的に溶離した[26]。放射能を測定するための液体シンチレーションカウンターにアリコートを配置することによって、放射能を測定した。Gタンパク共役受容体の活性化およびホスファチジルイノシトール4,5−二リン酸(PIP)加水分解の百日咳毒素感受性を評価するために、上記のように細胞をプレートし、40mM DTTにて30℃で20分間予備活性化した1μg/ml百日咳毒素とインキュベートした。IP形成に対する効果を、上記のように測定した。
【0139】
(受容体上の結合部位についてのapoEおよびapoE模倣ペプチドの競合)これらのリガンドが同一の受容体に結合するかを決定するために、apoEおよびapoE模倣ペプチドでの刺激時のマクロファージ[Ca2+の変化を研究した。Fura−2/AM負荷マクロファージを一晩インキュベートし、カバーガラスにプレートし、第1のリガンドで刺激し、[Ca2+の変化を定量した。次いで、細胞を、第2のリガンドで刺激し、Ca2+測定を繰り返した。
【0140】
(結果)(マクロファージ[Ca2+に対するapoEの効果)遊離細胞質Ca2+濃度の調整は、遍在シグナル伝達反応である。多数の細胞型では、原形質膜受容体へのリガンドの結合は、膜結合ホスホリパーゼCによってPIPの加水分解が活性化されて、IPを生成する。IPは、Ca2+チャネルでもあるコグネイト受容体への結合によって小胞体からCa2+を放出させる。非興奮性細胞では、[Ca2+シグナル伝達は、細胞内Ca2+貯蔵物からのCa2+放出およびCa2+流入の両方に関連する。ヒト組換えapoEでのマクロファージの処置により、緩衝液で処理したマクロファージと比較して、[Ca2+レベルが2〜4倍に増加した(図8A)。非刺激細胞およびapoE処置細胞における典型的な実験[Ca2+レベルは、それぞれ95.33±7.37nMおよび180.25±14.57nMであった。ApoEでの刺激時の[Ca2+の増加が、試験した細胞の70〜80%で認められた。apoE誘導性[Ca2+増加は、外因性、非同期性且つ振動性または持続性であった。マクロファージ[Ca2+のApoE誘導増加は、用量依存性であった(図8B)。マクロファージによって分泌された天然のapoEにより外因性ヒト組換えapoEに対する応答が変化する可能性に取り組むために、apoE欠損マウスから調製したマクロファージを使用してこれらの実験を繰り返した。apoEでの刺激後のカルシウム応答は、野生型マクロファージおよびapoE欠損マウス由来のマクロファージで同一であった(データ示さず)。
【0141】
(apoE誘導性IP3合成に対する百日咳毒素の効果)apoEへのミオ−[2−H]イノシトール標識マクロファージの曝露によって、IP3レベルが1.5〜2.0倍に増加した(図9A)。この効果は、用量依存性であった(図9B)。百日咳毒素でのマクロファージの前処置により、IPのこの増加が完全に消滅した(図9A)。これらの研究は、apoE刺激細胞における膜PIPのホスホリパーゼC触媒加水分解は百日咳感受性Gタンパク質と関連することを証明している。
【0142】
(マクロファージ[Ca2+のApoE誘導増加は、Ni2+およびRAPによって減少する)以前の研究で、ApoEがLRPに結合して内在化することが証明された。さらに、ラクトフェリン、Pseudomonas外毒素A、リポタンパク質リパーゼ、およびトロンボスポンジンのLRPへの結合により、セカンドメッセンジャーの生成に関与するシグナル伝達カスケードを開始させる。LRPがapoEによって誘導されたシグナルカスケードに関与する可能性を調査するために、マクロファージをRAPおよびNi2+とプレインキュベーションを行い、その後apoE2またはapoE2模倣ペプチドで刺激した。RAPは、全ての公知のリガンドのLRPへの結合を遮断する39kDaのタンパク質である。Ni2+もまた、リガンドのLRPとの相互作用を遮断する。RAPおよびNi2+の両方とのプレインキュベーションにより、その後のapoEへの曝露に関連する[Ca2+増加が顕著に減少する(データ示さず)。これらの結果は、apoEはLRPとの特異的相互作用を介してシグナル伝達カスケードを誘導するという仮説と一致する。百日咳毒素でのマクロファージの前処置もまた、ApoE依存性Ca2+応答を顕著に減少させ、これは、apoEによって誘導されたシグナル伝達が百日咳毒素感受性Gタンパク質に共役することを示す。これは、LRP依存性シグナル伝達の公知の性質と一致する。
【0143】
(マクロファージ[Ca2+に対するapoE模倣ペプチドの効果)apoE受容体結合領域の残基130〜149由来のペプチドでのマクロファージの刺激により、[Ca2+が2〜3倍に増加する一方で、同一のサイズおよび組成のスクランブルコントロールペプチドでは効果が無かった(データ示さず)。この[Ca2+の増加は、試験した細胞の約60〜70%で認められた。apoE応答と同様に、マクロファージ[Ca2+のペプチド誘導増加は、外因性且つ非同性であった。これらの結果は、インタクトなapoEおよびapoE受容体結合領域由来のペプチドの両方により、シグナル伝達カスケードの開始と一致する[Ca2+の増加を誘導することを証明する。しかし、モル濃度ベースでは、インタクトなapoEと比較して、[Ca2+応答を得るためにより高濃度のペプチドが必要であった。この相違は、ペプチドとapoEとの間の受容体親和性の相違(インタクトなタンパク質の効果をペプチドリガンドの効果と比較した場合に一般的に認められる性質)に起因するようである。
【0144】
([Ca2+に対するapoEおよびapoE模倣ペプチドの反復刺激効果)受容体ライゲーションに対する[Ca2+の結果の変化の定量による、apoEとその模倣ペプチドの間の受容体上の結合部位についての競合の可能性を評価した。apoEへの反復曝露後、[Ca2+が顕著に減少し、タキフィラキシーが示唆される(データ示さず)。ヒト組換えapoEへの最初の曝露に関連する[Ca2+の増加後、その後のペプチド曝露に対する[Ca2+応答が顕著に減少した(データ示さず)。同様に、ペプチドへの最初の曝露後にapoE添加に対する[Ca2+応答が喪失した(データ示さず)。スクランブルペプチドの曝露によってカルシウム応答の脱感作は認められなかった(データ示さず)。この認められたタキフィラキシーにより、受容体リガンドに対する二次的な受容体脱感作が示唆され、これはインタクトなapoEタンパク質および20残基のペプチドの両方が同一の受容体に結合するという仮説と一致する。
【0145】
(考察)本実施例の主な所見は、以下である:1)ヒト組換えapoE(pMからnMの濃度)のマクロファージ細胞表面上の受容体への結合により、[Ca2+およびIPの増加に関連するシグナル伝達事象が開始されること、2)apoEの受容体結合領域由来の20残基ペプチドによりマクロファージ[Ca2+の変化は同一であるが、スクランブルコントロールペプチドでは異なること、3)[Ca2+およびIPの変化は特異的且つ用量依存性であること、4)細胞IP3のapoE誘導増加は百日咳毒素感受性であること、および5)[Ca2+の変化がRAPおよびNi2+によって遮断されること。さらに、酵素脱感作の存在に基づいて、apoEおよびapoE模倣ペプチドは同一の受容体に結合するようである。
【実施例11】
【0146】
アポリポタンパク質E模倣ペプチドは、マウス頭部外傷モデルで保護性を示す
本実施例は、頭部外傷後の17アミノ酸apoE模倣ペプチド(アミノ酸133〜149を含むApoEのフラグメント)の静脈内投与の保護効果を証明する。
【0147】
マウスに気管内挿管し、酸素部分圧30%での1.6%イソフルレンでその肺を機械的に通気した。マウスに、ニューマティックインパクターによって6.8m/sのスピードで正中線に沿って閉鎖性頭部外傷を負わせた。閉塞性頭部外傷から30分後、マウスを無作為に3つの群に分けた(n=16マウス/群:高用量ペプチド群(406μg/kg)、低用量ペプチド群(203μg/kg)、および生理食塩水コントロール溶液群)。全てのペプチド溶液を、滅菌等張生理食塩水(100μl)中で調製し、尾静脈注射によって静脈内投与した。外傷後5日間連続して回転棒時間(rotorod time)および重量を測定した。21日目に、モリス水迷路の隠されたプラットフォームを見出すための学習能力を試験した。
【0148】
外傷前は回転棒潜伏時間(latency)および重量は、全ての動物で類似していた。外傷後、生理食塩水注射動物は回転棒試験で顕著な障害が認められ、これは体重減少に関連していた。高用量ペプチドおよびより狭い範囲の低用量ペプチドにより、この運動障害から動物が保護され(図10A)、体重減少が同時に起こっていた(図10b)。単回用量のペプチドのこの保護効果は、外傷後5日間持続した(p<0.05、3回反復測定ANOVA)。
【0149】
さらに、ペプチドは、モリス水迷路における隠されたプラットフォーム(図10c)を見出すための学習障害を保護するようであった(p<0.05、3回反復測定ANOVA)。ペプチドでの治療により、Kaplan−Meier分析で証明されるように、ペプチドでの処置により急性(acute)生存率も有意に改善された(図10d)。
【0150】
前述の実施例は、本発明を例示するが、制限と解釈されない。本発明は、以下の特許請求の範囲、本明細書中に含まれる特許請求の範囲の等価物によって説明される。
【実施例12】
【0151】
初代ラットニューロン/グリア細胞培養物におけるN−メチル−D−アスパラギン酸興奮毒性に対するアポリポタンパク質E模倣ペプチドの保護効果
本発明者らは、apoEが虚血に対する脳の応答を改変する役割を果たす1つの機構がグルタミン酸興奮毒性からの保護によるという仮説を立てた。グルタミン酸は、虚血環境における神経損傷に寄与すると考えられている。異なるクラスのグルタミン酸活性化チャネルのうち、N−メチル−D−アスパラギン酸(NMDA)受容体の特異的活性化は、主にカルシウム流入および種々のニューロン型におけるニューロン損傷の悪化の媒介を担うと考えられている(MeldrumおよびGarthwaite、1990)。
【0152】
脳虚血の実験環境におけるApoEのin vivo効果をモデル化するために、NMDAに曝露した初代ラット新皮質ニューロンおよびグリア細胞の細胞培養モデルにおける天然のヒトApoEおよびApoEの受容体結合領域由来のペプチドの生物学的に関連する濃度の効果を試験した。インタクトなApoEは、NMDA誘導細胞傷害性を最も穏やかに用量依存性に減少させた。比較すると、17残基のApoE模倣ペプチドでは天然のApoEと比較して神経保護を増強し、NMDA曝露に関連するカルシウム流入および細胞死の両方を完全に遮断した。ペプチドのアミノ末端のさらなる短縮により、NMDA興奮毒性からの神経保護の喪失が進行した。これらの結果により、ApoEは、グルタミン酸毒性からの細胞の保護による脳傷害後の虚血損傷からニューロン細胞の回復に影響を与えることが示唆される。さらに、脳虚血ならびにグルタミン酸毒性に関連する他の疾患および傷害後の治療ストラテジーとしてのApoE模倣ペプチドの使用が意図される。
【0153】
(実験手順)全動物の手順を、動物の不快感および数を最少にするようにデザインし、Duke大学の所内動物実験委員会(Animal Care and Use Committee)によって承認された。
【0154】
(初代ニューロン−グリア細胞培養物の調製)初代ニューロン−グリア細胞培養物を、以前に記載のように(Pearlsteinら、1998)、妊娠18日目のSprague−Dawleyラット胎児の脳から調製した。10〜15匹の幼若ラットから脳を採取し、解剖学的目印(landmark)を使用して、髄膜および皮質下組織から皮質を分離するように切り出した。皮質をプールし、0.25%トリプシンを含む20mM HEPES緩衝液(pH7.4)を補足した緩衝化塩溶液中で2mmに刻んだ。組織を、37℃の5%CO/95%室温雰囲気下で20分間インキュベートし、15mMグルコース、5%ウシ胎児血清(GIBCO)、5%ウマ血清(GIBCO)、および1%DNアーゼI(Sigma Chemical Co.、St.Louis、MO、USA)を含む氷冷無グルタミン最小必須培地(MEM;Life Technologies)で2回洗浄した。組織片を、火造り(fire−polished)の9インチパスツールピペット(直径0.7mm)での粉砕によって分散させた。得られた懸濁液を、50×gで10分間遠心分離し、上清を破棄し、ペレットを成長培地(15mMグルコース、5%ウシ胎児血清、および5%ウマ血清で補足したMEM)に再懸濁した。分散させた細胞を、ポリ−D−リジンコートした24ウェル培養プレート(Falcon3047;Becton Dickinson Co.、Lincoln Park、NJ、USA)中のウェルあたり4×10細胞を使用して、コンフルエントな単層が得られるようにプレートした。培養物を、使用前に37℃の加湿5%CO/95%室温雰囲気で13〜16日間静置したままにした。このプロトコールにしたがって調製した培養物は、NF−160および神経膠線維酸性タンパク質についての免疫組織学的染色によって同定したところ(Kudoら、2001)、54%のニューロンおよび46%のグリア細胞を含むことが見出された。
【0155】
(ApoE−ペプチドの合成)QCB Biochemicals(Hopkinton、MA)に純度95%のペプチドを合成させ、滅菌等張リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)中で再構成した。各ペプチドについて、アミノ末端をアセチル化し、カルボキシ末端をアミド部分でブロックした。17残基親ペプチドApoE(133〜149)(配列番号10)は、apoEの受容体結合領域に由来した。同一のサイズ、アミノ酸組成、および純度のスクランブルコントロールペプチド(Ac−LARKLRSRLVHLRLKLR−アミド)(配列番号14)を、同様に作製した。親(133〜149)(配列番号12)ペプチドのアミノ末端の漸増的短縮によって、14残基の配列(136〜149)および11残基の配列(139〜149)(配列番号11)を作製した。
【0156】
(NMDAへの曝露/細胞傷害性の評価)成熟培養物(in vitroで13〜16日)を、NMDAの添加前に20mM HEPES緩衝液(pH7.4)および1.8mMCaCl2を含む無Mg2+緩衝化塩溶液(BSS)で洗浄した。NMDA曝露後、培養物を、37℃の5%CO/95%空気雰囲気下で30分間保持した。次いで、NMDAを含む培地を除去し、20mMグルコースを補足したMEMで置換した。培養物をインキュベーターに24時間戻した。全ての実験において、下記のように培地に放出された乳酸脱水素酵素(LDH)活性の測定により、NMDAへの曝露から24時間後に細胞損傷を評価した。非競合性NMDA受容体アンタゴニストであるMK−801(Tocris Cookson Ins.、St.Louis、MO)を、10μMの濃度で正のコントロールとして使用した。用量依存性予備研究を実施して、本研究で使用される最大付近のLDH放出(ED90)に必要なNMDA濃度(100μM)を決定した。
【0157】
(NMDA毒性に対するapoEおよびapoE模倣ペプチドの効果の評価)100μM NMDA誘導性LDH放出に対するヒト組換えapoE(Panverra、Madison、WI)の効果を評価し、用量反応曲線を得た(apoE:最終濃度0.1〜10μM)。ApoE3(最も一般的なヒトイソ型)を、30分前に培養物に添加し、NMDA曝露前に除去した。次いで、NMDA(100Mまたは300M)誘導性LDH放出に対するapoEペプチド(133〜149)の効果を評価し、以下の条件の1つの下で同時に処置した姉妹培養物の個別の組における用量反応曲線を得た:(1)NMDAの曝露直前に培養物に種々の用量のペプチド(最終濃度0.3M、1μM、3μM、6μM、10μM)を添加し、曝露終了後に除去した;(2)ペプチドなし、NMDA曝露;(3)ペプチドなし、NMDA曝露なし;(4)ペプチドなし、10μMのMK−801で30分間のNMDA曝露。NMDA誘導LDH放出に対するスクランブルコントロールペプチドの効果を、同様に評価した。
【0158】
NMDA誘導LDH放出に対するapoEペプチド(133〜149)の投与時間の効果を、以下の条件の1つの下で同時に処置した姉妹培養物の個別の組において評価した:(1)NMDA曝露の24時間前に培養培地にペプチドを添加し、曝露直前に除去する;(2)NMDA曝露の直前にペプチドを添加し、曝露終了時に除去した;(3)30分のNMDA曝露の直後にペプチドを添加した;(4)ペプチドなし、NMDA曝露;(5)ペプチドなし、NMDA曝露なし。全ての場合において、ペプチド濃度は6μMであり、培養物を、上記のように100μMのNMDAに37℃で30分間曝露し、処置/曝露効果をNMDA曝露から24時間後に試験した。
【0159】
(LDH放出の測定)損傷細胞によって重複培地に放出された乳酸脱水素酵素(LDH)量の測定によって、細胞傷害性ストレスの24時間後に細胞損傷を定量的に評価した。以前に記載の方法(Amadorら、1963)の修正形態によってLDH活性を同定した。簡単に述べれば、200μlの培養培地サンプルを、24℃で10mM乳酸および5μmolのNADを2.75mlの50mMグリシン緩衝液(pH9.2)中に含むポリスチレンキュベットに添加した。キュベット由来の蛍光シグナル(340nm励起、450nm発光)の一時的変化の線形最小二乗法曲線フィットを使用して計算したNADの還元初速度からLDH活性を同定し、酵素活性単位(1分あたりに乳酸をピルビン酸に変換する量(nmol))で示した。蛍光分光光度計(Perkin Elmer Model LS50B;Bodenseeweak GmbH、Uberlinger、Germany)によって分析を行った。
【0160】
(細胞カルシウム取り込みに対するペプチドの効果)細胞外空間からの細胞カルシウム取り込みを、45CaCl(American Radiolabeled Chemicals、St.Louis、MO)を使用して評価した。20mM HEPES緩衝液を含む無Mg2+BSSでの培養物の洗浄後、6μMペプチド、または10μM MK−801を100μM NMDA曝露前に各ウェルに添加し、曝露終了時に除去した。45Ca(0.28μCi/ml、0.9μCi/ウェル)を、NMDA曝露の直前に各ウェルに添加した。培養物を、インキュベーターに戻し、37℃で維持した。20分後、曝露培地を除去し、各ウェルを、20mMHEPES緩衝液を含む氷冷無Mg2+BSSで3回洗浄した。次いで、細胞を、0.2%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)の添加によって溶菌した。各ウェル由来のアリコートを、10mlCytoscint(商標)(ICN、Biochemical Research Product、CA)を含む液体シンチレーションバイアルに添加し、シンチレーションカウンティングによって放射能を同定し、細胞数を正規化した。
【0161】
(円偏光二色性)光路長1mmの石英キュベットを使用したAviv Model 202CD分光計によって円偏光二色性スペクトルを記録した。PBS緩衝液中のペプチド濃度は、約50μMであった。273Kでスペクトルを取った。サンプルは、50μMのペプチドを含むリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)を含み、4℃でスペクトルを記録した。以前に記載の式(Myersら、1997)を使用して、222nmでのシグナルかららせん度(helicity)%を計算した。ロックフェラー(Rockfeller)大学のタンパク質/DNAテクノロジーセンターで行った定量的アミノ酸分析によって、ペプチドストック溶液の濃度を同定した。
【0162】
(結果)ApoEの脳虚血の実験的組織培養モデルにおけるグルタミン酸興奮毒性から細胞を保護する能力を調査するために、初代ラットニューロン/グリア細胞培養物を、NMDAへの細胞の曝露前にヒト組換えApoEとプレインキュベーションを行った。本発明者らの研究所で以前に行った実験では、初代げっ歯類ニューロン/グリア培養物におけるNMDA誘導興奮毒性に対するヒト組換えApoEの効果に特異的なイソ型を検出できなかった(Aonoら、2002)。このために、ApoE3(最も一般的なイソ型)(Corderら、1993)を、本明細書中に記載の全ての実験で使用した。
【0163】
NMDA誘導細胞損傷に対するApoE3の用量反応を同定するために、初代培養物を、最初に、100μM NMDAでの曝露前に種々の濃度のapoE3と30分間プレインキュベーションを行った(図11)。培地への損傷細胞によって放出されたLDH量の測定によって興奮毒性ストレスから24時間後に細胞損傷を評価した(LDH放出=1分あたりに乳酸をピルビン酸に変換する量(nmol);実験手順を参照のこと)。培養物のNMDAのみへの曝露により、コントロール非処置細胞(1.01+/−0.06;p<0.05)と比較してLDH放出が有意に増加した(2.82+/−0.19)。培養物のapoEとのプレインキュベーションにより、NMDAのみと比較して1〜10μMの濃度のApoEで有意である(p<0.05、ANOVAおよびその後のダネットの検定)、穏やかな用量依存性のLDH放出の減少が認められた。したがって、ApoE3は、初代ラットニューロン/グリア培地にグルタミン酸興奮毒性に対する穏やかであるが有意な神経保護を付与する。
【0164】
小ApoE模倣ペプチドが同様にNMDA興奮毒性からニューロン/グリア細胞培養物を保護するという仮説を試験するために、apoEの受容体結合領域由来の3つの短縮apoEペプチドのパネルを作製した(図12A;ApoE133〜149、136〜149、139〜149)。ペプチドの構造特性およびヘリックス含有量を評価するために、最初に、円偏光二色性(CD)実験を行った(図12B)。3つのペプチドのCDスペクトルは、222nmおよび208nmでの有意な最小値によって証明される有機なヘリックス構造が証明された。これらのデータから、3つのペプチドが、類似のらせん度を有する(溶液中に12〜14%のヘリックス集団を含む)ことが計算された。本発明者らの研究所で行われた以前の沈降平衡実験では、これらのペプチドは溶液中で単量体として存在することが証明されており、これは、認められたヘリックス構造はヘリックスオリゴマーへのペプチドの自己会合に起因しないことを示す(Laskowitzら、2001)。
【0165】
初代ニューロン/グリア細胞培養物におけるNMDA誘導細胞損傷に対するペプチドApoE(133〜149)の効果を最初に調査した(図13)。このペプチドは、以前に本発明者らのグループによって、マウス小グリア細胞機能を調整することができる生物活性を有することが示された(Laskowitzら、2001)。初代ラットニューロン/グリア細胞培養物を、最初に、NMDA曝露の30分前にApoE(133〜149)とプレインキュベーションを行い、24時間後にLDH放出を評価した。培養物のApoE(133〜149)の非存在下での100μM NMDAへの曝露により、非曝露コントロール細胞(0.88+/−0.10;p<0.05)と比較してLDH放出が2倍に増加した(1.74+/−0.06)(図3A)。穏やかにしか保護しないインタクトなApoEと対照的に、17残基のApoEペプチドの添加により、100μM NMDA毒性に対して強力な用量依存性保護を示した。
【0166】
6μM apoE(133〜149)で認められた最大保護(p<0.05、ANOVAおよびその後のダネットの検定)を有する3μmApoE(133〜149)ペプチド濃度を使用して、グルタミン酸毒性からの保護が最初に認められた。予想されるように、スクランブルコントロールペプチドの存在下では保護は認められなかった。驚いたことに、培養物を300μM NMDAに曝露した場合、apoE(133〜149)での培養物の処置では、いかなるペプチド濃度でも細胞を保護できなかった(図13B)。これらの結果は、ApoEの受容体結合ドメイン由来の17アミノ酸残基を含むApoE模倣ペプチドは、NMDA誘導興奮毒性後に神経保護性を示すことを証明する。さらに、このペプチドはインタクトホロタンパク質よりも培養物に保護を付与した。
【0167】
本発明者らの初代培養系における神経保護を必要とするペプチドドメインをさらに定義するために、NMDA誘導性細胞損傷に対する短縮ApoEペプチドの効果を比較した(図14)。17残基のペプチドからの3つのアミノ末端残基の除去により、ApoE(136〜149)(14アミノ酸ペプチド)が得られた(図12A)。6μM ApoE(136〜149)での処置により、100μM NMDA誘導性細胞死を完全に遮断する17残基の親ペプチド(ApoE(133〜149))と比較してNMDA毒性からの穏やかな保護が付与された(図14)。対照的に、3つのさらなるアミノ末端残基の欠失により、検出可能な生物活性を保有しない11残基のペプチド(ApoE(139〜149))が得られた(ANOVAおよびその後のダネットの検定;p<0.05)。これらの結果は、17残基のペプチドApoE(133〜149)のアミノ末端からの短縮により、NMDA興奮毒性に対する神経保護が段階的に喪失し、アミノ酸ドメインApoE(133〜136)は、ApoEペプチドの生物活性の保持に必要であることを示す。
【0168】
親ApoE模倣ペプチドがNMDA曝露に関するカルシウム流入の調整によってその保護効果を発揮するかどうかを調査するために、細胞のApoE(133〜149)および100μM NMDAとのインキュベーション後のカルシウム取り込みを測定した(図15)。培養物の45Ca++への曝露から20分後にカルシウム取り込みを測定した(実験手順を参照のこと)。NMDAの非存在下での培養物の6μM ApoEへの曝露をコントロールとして使用し、カルシウム流入に対する直接的効果は認められなかった(図15)。ペプチドの非存在下での100μM NMDAへの培養物の曝露により、カルシウム流入が誘導され、これは、10μM MK−801との前処置によって完全に逆になった(図15)。6μM ApoE(133〜149)での処置により、NMDAのみと比較してカルシウム流入が有意に減少するが、6μMスクランブルコントロールペプチドでの処置ではカルシウム流入に対する効果はなかった(ANOVAおよびその後のダネットの検定;p<0.05)。したがって、apoEの受容体結合ドメイン由来の17残基のペプチドは、NMDA誘導興奮毒性に関連するカルシウム流入の副作用から細胞を保護することができる。
【0169】
次に、ApoE模倣ペプチドの投与とNMDA曝露後の保護との間の一過性の関係を試験することを所望した。この目的のために、ApoE(133〜149)を、NMDA曝露の24時間前、NMDAと同時、またはNMDA曝露後に細胞に添加した(図16;実験手順を参照のこと)。既に述べたように、100μM NMDAと同時に6μM ApoE(133〜149)を投与した場合に強い保護が認められた(図16)。NMDA曝露の24時間前の培養物のペプチドとの前処置により、穏やかであるが有意な保護が得られるが、NMDA曝露後のApoE(133〜149)の添加により保護は認められなかった。したがって、NMDA曝露の24時間前に添加した場合にApoE(133〜149)は穏やかな保護が得られるにもかかわらず、ペプチドの同時投与により最良の保護が認められた(ANOVAおよびその後のダネットの検定;p<0.05)。まとめると、これらの結果は、ApoE残基133〜149から構成される単量体ペプチドは脳虚血の実験的組織培養モデルにおいてグルタミン酸興奮毒性から細胞を保護することができることを証明する。
【0170】
(C.考察)本研究では、ApoEの受容体結合領域由来のペプチド配列が脳虚血の組織培養モデルにおいてNMDA媒介ニューロン興奮毒性からの保護効果を発揮することが証明される。ApoEペプチドのこの神経保護効果は、特異的且つ用量依存性であった。6μMの濃度では、17残基ペプチドであるApoE(133〜149)は、初代ニューロン−グリア細胞培養物の100μM NMDAの曝露に関連する神経毒性およびカルシウム流入を、NMDA受容体アンタゴニストMK−801ほど完全に遮断した。
【0171】
apoE遺伝子型がイソ型特異的様式で神経の回復に影響を与えることを示す複数の臨床報告が存在するにもかかわらず、これが起こる機構の定義は不十分なままである。内因性apoEは、酸化ストレス(MiyataおよびSmith、1996)、直接神経栄養効果の発揮(Holtzmanら、1995)、CNS炎症反応の下方制御(Lynchら、2001)、または脳アミロイド沈着の促進による病理学的シャペロンとしての作用(WisniewskiおよびFrangione、1992)によって損傷に対するCNS応答に影響を与え得ることが提案されている。本報告では、インタクトなApoEタンパク質もNMDA誘導毒性に対して穏やかな程度の神経保護を付与することを見出した。これは、インタクトなApoEタンパク質からいかなる神経保護効果も証明できなかった他の最近の研究と対照的である(Jordanら、1998;Lendonら、2000)。これらの不一致の結果は、方法および実験デザインの相違に一部起因し得る。例えば、Lendonらは、5μg/ml濃度のApoEでは、これ自体でNMDA誘導神経毒性に対して穏やかな利点を付与するHDLのみを超えるさらなる神経保護を証明できないことを見出した。不運なことに、この研究では、ApoEのみでの結果を研究していなかった(Lendonら、2000)。Jordanらはまた、NMDA誘導神経毒性モデルにおいてApoEからの保護を証明できなかった。しかし、これらの実験では、ヒト組換えApoEよりもむしろならし培地由来のApoEを使用し、本研究での30分間と比較してApoEをNMDA曝露の5日前にプレインキュベーションしていることに注目すべきである。
【0172】
本発明者らの結果により、生物学的に関連する濃度のApoEは、興奮毒性細胞死に対して穏やかな程度の神経保護を付与することが示唆される。興味深いことに、ApoEの受容体結合領域由来のペプチドはインタクトなホロタンパク質よりもさらにより強力な神経保護効果を発揮し、100μM NMDAへの新皮質ニューロンの曝露に関連する細胞死およびカルシウム流入を完全に遮断した。本発明者らの所見についての1つの説明は、ApoEおよびペプチドフラグメントがNMDA受容体に結合することである。NMDA受容体の競合性アンタゴニストがより高い興奮毒性負荷でのペプチドの神経保護の損失を説明することができるにもかかわらず、NMDA受容体での競合では、ApoEまたはApoE由来のペプチドフラグメントを決して証明されない。
【0173】
別のもっともらしい説明は、インタクトなApoEホロタンパク質と同一の様式での特異的細胞表面受容体との相互作用によって、これらのペプチドが、NMDA毒性に対する生物活性を間接的に発揮するということである。ApoEは、細胞表面受容体ファミリー(LDL、VLDL、LRP/α2M、ER−2、およびLR8受容体が含まれる)に結合することが公知である(Kimら、1996;Novakら、1996)。LDL受容体との相互作用に重要なApoEの1つの領域は、残基140と160との間に存在し(Mahley、1988)、この領域の部位特異的変異誘発研究により、電荷および立体配座に影響を与える変異により結合が欠如し得ることが証明されている(Lalazar、1988)。本発明者らは、以前に、本研究で使用したものと同一の受容体結合領域由来のペプチドがApoEと受容体結合を競合することを証明した(Misraら、2001)。実際、ApoEは、ニューロンおよびマクロファージの両方のシグナル伝達カスケードを開始させることが証明されている(Misraら、2001;Mullerら、1998)。
【0174】
最近の報告で、LRP受容体がNMDA受容体によって媒介されるカルシウムシグナル伝達応答を開始することができることが証明されている(Bacskaiら、2000)。これが起こる正確な機構は定義されないままであるにもかかわらず、著者らは、リガンド結合およびLRP受容体の二量体化後にNMDA活性を調整するニューロン特異的細胞内アダプタータンパク質の存在を推測しており、これがNMDA受容体から下流で保護応答を誘導することができると推測している。興味深いことに、最近の所見により、公知の全てのLRP相互作用を遮断する受容体関連タンパク質(RAP)の存在は、NMDA興奮毒性の細胞培養パラダイムにおいてApoEの神経保護効果を逆転しないことが示唆されている(Aonoら、2002)。
【0175】
天然のホロタンパク質では、受容体結合領域は、αヘリックス立体配座で存在する。本発明者らの研究で使用したペプチドフラグメントがこの構造を選択することができることを確認するために、円偏光二色性(CD)実験を行った。3つの各試験ペプチドは、溶液中で有意にヘリックス集団を有していた(約12〜14%)。さらに、これらのペプチドは、溶液中で単量体として振る舞い、任意のヘリックス構造はペプチド固有のものであり、ヘリックスオリゴマーへの自己会合に起因しない(Laskowitzら、2001)。本発明者らの結果は、遊離ペプチドが、受容体結合時に安定となり得るヘリックス立体配座をとることができるという可能性と一致する。
【0176】
明らかに、機能的(apoE133〜149;apoE136〜149)および非機能的(apoE139〜149)ペプチドは共に類似のらせん度を有するので、らせん度は生物活性の唯一の決定要因ではない。したがって、これらのApoE模倣ペプチドの神経保護効果はまた、特異的なアミノ酸配列およびサイズに依存するようである。特に、apoE受容体結合領域の残基133〜149由来の17アミノ酸ペプチドはNMDA曝露の毒性を完全に遮断するが、14アミノペプチド(apoE136〜149)では有効性が減少し、11アミノ酸配列(apeE139〜149)ではこれに関する生物活性は全て喪失していた。これにより、残基133〜139は生物活性に重要であることが示唆される。興味深いことに、このドメインは、グリア細胞活性化の下方制御に必要なドメインと同一である(Laskowitzら、2001)。
【0177】
本研究で使用したペプチドは受容体結合領域に由来し、異なるヒトapoEイソ型に関連する多型領域である残基112および158を含まないことは注目に値する。したがって、本研究はapoEイソ型とヒト疾患との間の関連に直接取り組んでいないが、受容体結合領域から離れたアミノ酸の置換がこの領域の立体配座およびその後のapoE受容体相互作用に影響を与え得ることが確実なようである。例えば、158位のアルギニンのシステインの置換により、この多型が受容体結合領域の外側に存在している場合でさえも、ApoE2がLDL受容体に結合する能力が顕著に減少する(Weisgraberら、1982)。
【0178】
本発明者らの結果は、ApoEペプチドフラグメントが神経損傷を引き起こし得ることを最近示唆した他のグループの報告と対照的である。例えば、最近、ApoEのカルボキシル末端短縮形態が、おそらく細胞内プロセシングの結果として、AD患者の脳内に存在することが証明されている。これらのフラグメントは、培養ニューロンにおいて生物活性を示し、細胞骨格タンパク質と相互作用して神経原線維変化に類似する封入体を誘導することができる(Huangら、2001)。
【0179】
ApoEタンパク質由来のペプチドがNMDA誘導興奮毒性に対する神経保護を付与することができるという本発明者らの所見もまた、他の最近の所見と対照的である。これらの研究の大部分は、apoEの受容体結合領域由来の縦列反復を使用していた。特に、残基141〜149の縦列反復から構成される18アミノ酸ペプチドは、細胞内Ca2+を増加させ、2つの異なる機構(細胞表面Ca2+チャネルの活性化および百日咳毒素感受性経路を介した細胞内C2+貯蔵物(stores)の放出)を介したτリン酸化を調節する(WangおよびGruenstein、1997)。残基141〜149の縦列反復から構成されるペプチドを使用して、Tolarらは、初代海馬ニューロンのこのペプチドへの曝露によりニューロン細胞死(MK−801とのプレインキュベーションによって遮断される効果)が誘導されことを証明した(Tolarら、1999)。これらの結果により、縦列反復ペプチドへの曝露が、直接または間接的機構によってNMDA誘導興奮毒性を増幅させるということが予想される。しかし、この縦列反復ペプチドは、本研究で使用したペプチドと実質的に異なることは価値のあることである。最近の報告(Moulderら、1999)で、この縦列反復によって誘導されたニューロン細胞死はホロタンパク質によって誘導されるニューロン細胞死と異なる機構を介して起こり得ることが認められ、この縦列反復はインタクトなApoEタンパク質の生物学的に関連するモデルではないかもしれないと示唆される。
【0180】
まとめると、本発明者らは、ApoEの受容体結合領域由来の小ペプチドが初代新皮質培養物のNMDAへの曝露に関連するカルシウム流入および神経毒性を遮断することを報告する。これらの所見のin vivoでの妥当性は、ApoEが虚血および出血性脳卒中ならびに心肺バイパスおよび心停止後蘇生に関連する全脳低灌流からの神経の回復を調整するようであるという臨床所見と一致する。これらのペプチドで認められる神経保護がインタクトなApoEタンパク質への曝露後認められる穏やかな利点よりも高いにもかかわらず、これらの所見により、内因性ApoEが虚血損傷の回復に影響を与えることができる1つの機構はグルタミン酸興奮毒性からの保護によることが示唆される。これらのApoE模倣ペプチドの使用は、治療と密接にかかわり、虚血または外傷を負った脳内のこのタンパク質の神経生物学にさらなる洞察を与える。
【実施例13】
【0181】
ApoE模倣ペプチドによるLPS誘導TNFαおよびIL−6産生の抑制
敗血症ショックは、集中治療室での最も一般的な死因であり、有意に対処されていない医学上の難問である。リポ多糖類(LPS)は、グラム陰性敗血症の主なメディエーターであり、LPSによって誘導された炎症性サイトカインの上方制御は、敗血症に関連する全身性炎症反応の媒介で重要な役割を果たす。LPSの静脈内投与は、グラム陰性敗血症ショックの一般的な動物モデルであり、臨床的に関連する全身性炎症反応を複製する。特に、LPSの静脈内投与により、全身性炎症の媒介で重要な役割を果たすマクロファージ由来サイトカインであるTNFαおよびIL−6が初期に上方制御される。
【0182】
本発明者らは、ApoE(133〜149)の注射によりLPS投与後TNFαおよびIL−5の血清レベルが抑制されることを証明する。これらの方法では、14〜16週齢の雄C57−BL6マウスに、尾静脈を介してLPS(150μl滅菌等張生理食塩水中11.25μ含まれる、すなわち375μg/kg)を注射し、その直後に賦形剤(等張滅菌生理食塩水)またはApoE(133〜149)(200μl用量、100μl、または6.6mg/kg(等張生理食塩水で調製))を注射した。LPS+賦形剤群およびLPS+ペプチド群(n=10動物/群)から以下の測定点における血清サンプルを得た:注射後0(注射前)、1時間、3時間、および24時間。心臓を介した(transcardial)穿刺によって採血し、30分間凝血させた。16,000gで5分間の遠心分離後に得た血清サンプルを、固相ELISAによって、TNFαおよびIL−6についてスクリーニングした。測定点あたり20匹存在した。
【0183】
1時間の注射後、血清TNFαは、動物がLPS+賦形剤またはLPS+apoEペプチドを投与されたかどうかの関数として有意に減少した(図17A)。3時間およびベースラインで、TNFαレベルは測定不可能であった。注射から1時間および3時間後で、血清IL−6レベルは、動物がLPS+賦形剤またはLPS+apoEペプチドを投与されたかどうかの関数として有意に減少した(図17B)。24時間およびベースラインで、IL−6レベルは測定不可能であった。このデータにより、ApoE(133〜149)はLPSの存在下でTNFαおよびIL−6産生を抑制することが明らかとなり、したがって、ApoE模倣ペプチドは初期敗血症患者の薬物使用状況で治療潜在性を有し得ることが示唆される。
【0184】
(参考文献)
本明細書中で引用された全ての引例および特許書類は、その全体が本明細書中で参考として援用され、以下の文献が含まれるが、これらに限定されない。
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
麻酔組成物の製造のためのApoEペプチドの使用。
【請求項2】
前記ApoEペプチドが、受容体結合ペプチドである、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記ペプチドが、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、および配列番号10からなる群から選択される配列を有する、請求項1に記載の使用。
【請求項4】
慢性疼痛の緩和または軽減のための薬物の製造のためのApoEペプチドの使用。
【請求項5】
前記ApoEペプチドが受容体結合ペプチドである、請求項4に記載の使用。
【請求項6】
前記ペプチドが、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、および配列番号10からなる群から選択される配列を有する、請求項4に記載の使用。
【請求項7】
薬物乱用の矯正または予防のための薬物の製造のためのApoEペプチドの使用。
【請求項8】
前記ApoEペプチドが受容体結合ペプチドである、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
前記ペプチドが、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、および配列番号10からなる群から選択される配列を有する、請求項7に記載の使用。
【請求項10】
敗血症に関連する炎症の治療または軽減のための薬物の製造のためのApoEペプチドの使用。
【請求項11】
前記薬物の被験体への投与により、前記化合物の非存在下と比較して炎症性サイトカインが減少する、請求項10に記載の使用。
【請求項12】
前記炎症性サイトカインには、TNFまたはIL−6が含まれる、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
前記薬物が、抗炎症性サイトカインおよびモノクローナル抗体からなる群から選択される1つまたは複数の化合物をさらに含む、請求項10に記載の使用。
【請求項14】
前記抗炎症性サイトカインが、IL−10、形質転換成長β因子、顆粒球コロニー刺激因子、IFN−φ、マクロファージ遊走阻止因子、および高速移動性1群タンパク質からなる群から選択される、請求項13に記載の使用。
【請求項15】
前記モノクローナル抗体が、抗内毒素抗体、抗腫瘍壊死因子抗体、および抗CD14抗体からなる群から選択される、請求項13に記載の使用。
【請求項16】
前記ApoEペプチドが受容体結合ペプチドである、請求項10に記載の使用。
【請求項17】
前記ペプチドが、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、および配列番号10からなる群から選択される配列を有する、請求項16に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10A】
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【図10B】
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【図10C】
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【図10D】
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【図11】
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【図12A】
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【図12B】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2009−161548(P2009−161548A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−49399(P2009−49399)
【出願日】平成21年3月3日(2009.3.3)
【分割の表示】特願2003−530125(P2003−530125)の分割
【原出願日】平成14年9月23日(2002.9.23)
【出願人】(504111462)コグノッシ, インコーポレイテッド (5)
【Fターム(参考)】