説明

小型アンテナ

【課題】 制約されたスペース内で直線偏波に変わる別の偏波形式で電磁波を放射する小型アンテナを提供する。
【解決手段】 高周波信号を給電する高周波回路4と、前記高周波信号の給電を受けて、電流値が変化しない定在波が生じる給電アンテナ素子5と、前記給電アンテナ素子5に対して電磁結合され、電流値が変化する定在波が生じる無給電アンテナ素子6を有している。さらに前記給電アンテナ素子5と前記無給電アンテナ素子6は、前記両アンテナ素子5,6による合成電界が電磁波の進行方向に対して時間の変化に伴って回転する姿勢関係に配置されている。前記給電アンテナ素子5から放射される電磁波の電界と、前記無給電アンテナ素子6から放射される電磁波の電界が合成され、その合成電界Eは、電磁波の進行方向に対して時間の変化に伴って回転し、楕円偏波を発生させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばキーレスエントリシステムのキー側に組み込むのに最適な小型アンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のドアに設けた鍵を離れた位置から開閉するシステムとして、キーレスエントリシステムが開発されている(特許文献1〜8)。前記キーレスエントリシステムは、自動車のエンジンを始動させるためのキー側に送信機を組み込み、自動車の車体側に受信機を組み込んでいる。ドライバが前記キーに組み込んだ送信機から電磁波を自動車の車体側に向けて放射させると、前記受信機が前記電磁波を受信し、その受信信号でドアの鍵を開閉させている。
【0003】
前記送信機は、鍵の開閉指令に基づいて高周波信号を出力する高周波回路と、前記高周波回路から前記高周波信号の給電を受けて電磁波を放射する小型アンテナを含む構成として構築されている。
【0004】
前記キーは、ドライバが自動車から離れる際に携帯するものであるから、その寸法は必要最小限度に抑えられている。前記アンテナは、寸法が制限された前記キーに組み込まれるものであり、前記アンテナの寸法も必然的に制約されるという事情がある。
【0005】
【特許文献1】特開2004−363929号公報
【特許文献2】特開2003−227255号公報
【特許文献3】特開2002−339611号公報
【特許文献4】特開平11―59331号公報
【特許文献5】特開平10−317753号公報
【特許文献6】特開平8−120988号公報
【特許文献7】特開平7−317397号公報
【特許文献8】特開平6−132714号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したキーレスエントリシステムに用いられるアンテナの組込先であるキーが寸法の制約を受けるため、それに従って前記アンテナは、その寸法が制約されることとなる。
【0007】
上述した特許文献においても、以上の事情を考慮して、基板上に形成したループアンテナ或いはダイポールアンテナなどを用い、これらのアンテナから直線偏波による電磁波を放射するようにしている。
【0008】
従来開発されているキーレスエントリシステムでは、車体に対する方向によって、車体から要求される距離での操作ができない、いわゆる不感帯が生じるという問題が発生している。その大きな理由は、キー側から直線偏波が送信されていること、及び操作者の個性によるものと考えられる。
【0009】
本発明の目的は、制約されたスペース内で直線偏波に変わる別の偏波形式で電磁波を放射する小型アンテナを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するため、本発明に係る小型アンテナは、高周波信号を給電する高周波回路と、前記高周波信号の給電を受けて、電流値が変化しない定在波が生じる給電アンテナ素子と、前記給電アンテナ素子に対して電磁結合され、電流値が変化する定在波が生じる無給電アンテナ素子を有し、
前記給電アンテナ素子と前記無給電アンテナ素子は、前記両アンテナ素子による合成電界が電磁波の進行方向に対して時間の変化に伴って回転する姿勢関係に配置されていることを特徴とするものである。
【0011】
本発明によれば、給電アンテナ素子が高周波回路から高周波信号の給電を受けると、前記給電アンテナ素子には、電流値が変化しない定在波が生じ、無給電アンテナ素子には、前記給電アンテナ素子から電磁結合により高周波電流が誘導され、前記無給電アンテナ素子には、電流値が変化する定在波が生じる。それに伴って、前記給電アンテナ素子と前記無給電アンテナ素子からの合成電界が、電磁波の進行方向に対して時間の変化に伴って楕円形状に回転し、楕円偏波による電磁波が放射される。
【0012】
以上のように、本発明においては、一方向に偏らない電界が発生することにより、電波の不感帯を減少させ、操作者の個性を打ち消すこととなる。
【0013】
また本発明においては、前記給電アンテナ素子及び前記無給電アンテナ素子は、その長さが波長に比べて短い点波源であることが望ましいものである。この場合、前記点波源である前記給電アンテナ素子と前記給電アンテナ素子は、1/50〜1/100波長の寸法に設定することが望ましいものである。
【0014】
また本発明においては、前記給電アンテナ素子と前記無給電アンテナ素子による合成電界が電磁波の進行方向に対して時間の変化に伴って回転する姿勢関係にするため、前記給電アンテナ素子と前記無給電アンテナ素子は、10°付近〜90°付近の角度をもつ姿勢に配置されていることが望ましいものである。
【0015】
また本発明においては、前記給電アンテナ素子は、前記高周波回路の一部に組み込まれた構成としてもよいものである。また、前記高周波回路の一部に組み込まれた給電アンテナ素子と、前記高周波回路は、基板上に形成してもよいものである。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように本発明によれば、一方向に偏らない電界を発生させるため、電波の不感帯を減少することができ、かつ操作者の個性を打ち消すことにより、電波の感応範囲を拡大することができる。
【0017】
また本発明は、電波の不感帯を減少させるための電界を発生させるものであるが、アンテナが点波源として構成されているため、設置スペースを拡大することなく、狭い空間内に組み込むことができ、キーレスエントリシステムのキー以外にも、設置スペースが制約される対象物に組み込むことができ、その適用範囲が広い小型アンテナを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図に基づいて詳細に説明する。
【0019】
本発明に係る小型アンテナをキーレスエントリシステムのキーに組み込んだ例を本発明の実施形態として説明する。
【0020】
キーレスエントリシステムのキー1は図1に示すように、キーホルダ2がキー頭部に取り付けられている。本発明の実施形態に係る小型アンテナ3は、前記キーホルダ2の内部に組み込まれる。
【0021】
本発明の実施形態に係る小型アンテナ3は図1に示すように、高周波信号を給電する高周波回路4と、前記高周波信号の給電を受けて、電流値が変化しない定在波が生じる給電アンテナ素子5と、前記給電アンテナ素子5に対して空間により電磁結合され、電流値が変化する定在波が生じる無給電アンテナ素子6とを有している。
【0022】
次に、本発明の実施形態に係る小型アンテナ3をキーレスエントリシステムのキーに付随するキーホルダ2に組み込んだ構造について説明する。
【0023】
図1及び図2に示すように、前記給電アンテナ素子5を前記高周波回路4の一部に組み込み、図1に示すように前記給電アンテナ素子5及び前記高周波回路4を基板7上に形成し、前記基板7をキーホルダ2の内部空間に組み付けている。
【0024】
さらに、前記無給電アンテナ素子6は、前記基板7の後方に位置させて、前記給電アンテナ素子5との間に誘電体及び空隙を挟んで電磁結合させている。さらに電磁結合する前記給電アンテナ素子5と前記無給電アンテナ素子5は、前記両アンテナ素子5,6による合成電界が電磁波の進行方向に対して時間の変化に伴って回転する姿勢関係に配置している。
【0025】
具体的に説明すると、前記両アンテナ素子5,6による合成電界が電磁波の進行方向に対して時間の変化に伴って回転する姿勢関係に配置するために、前記給電アンテナ素子5と前記無給電アンテナ素子6は図2に示すように、前記無給電アンテナ素子6側から見た場合、互いに10°付近〜90°付近の角度θをもつ姿勢に誘電体或いは空隙を挟んで配置されている。つまり、前記給電アンテナ素子5と前記無給電アンテナ素子6は、それぞれの長さ方向の中央位置付近で誘電体或いは空隙を挟んでクロスする姿勢に配置されている。
【0026】
次に、前記給電アンテナ素子5及び前記無給電アンテナ素子6の寸法について詳細に説明する。
【0027】
前記給電アンテナ素子5及び前記無給電アンテナ素子6は基本的構成として、その長さが波長に比べて短い点波源として設定されている。具体的には、前記給電アンテナ素子5及び前記無給電アンテナ素子6は、1/50〜1/100波長の寸法に設定されている。
【0028】
次に、本発明の実施形態に係る小型アンテナ3を組み込んだキーレスエントリシステムのキー1を用いて、車体の鍵を開閉する動作について説明する。なお、図では、車体の鍵は特開平7−317397号公報に開示されているように公知であるため、図示を省略している。
【0029】
キーホルダ2には、特開平8−120988号公報に開示されているように車体の鍵を開閉する指令を発するための図示しないスイッチが設けられている。操作者は、キーホルダ2を握ったままで前記スイッチを操作して、車体の鍵を開く或いは閉じるための指令を発すると、キーホルダ2に内蔵した高周波回路4にトリガが入力する。
【0030】
前記高周波回路2は、前記トリガを受け取ると、高周波信号を生成し、その高周波信号を給電アンテナ素子5に給電する。
【0031】
前記高周波信号が前記給電アンテナ素子5に給電されると、前記給電アンテナ素子5には図3(a)に示すように、電流値が変化しない高周波電流の定在波T1が生じる。前記給電アンテナ素子5は、高周波回路4の一部に組み込まれていること、及び素子の長さが波長に比べて極めて短いため、前記給電アンテナ素子5には、電流値が変化しない定在波T1が生じることとなる。
【0032】
前記高周波電流が前記給電アンテナ素子2に流れると、前記給電アンテナ素子2に電磁結合する無給電アンテナ素子6に高周波の誘導電流が誘導される。図3(b)に示すように、前記誘導電流で前記無給電アンテナ素子6に、電流値が変化する定在波T2が生じる。前記無給電アンテナ素子6に誘導される前記誘導電流によって前記無給電アンテナ素子6から放射される電磁波の電界は、前記給電アンテナ素子5から放射される電磁波の電界と向きが90°異なる成分を有し、かつ位相も異なっている。
【0033】
通常の線状アンテナ8は図5に示すように、ほぼ1/2波長程度の長さを有している。これに対して、本発明の実施形態に係る給電アンテナ素子5及び無給電アンテナ素子6は、1/50〜1/100波長程度の長さを有するものであるため、図5に示す線状アンテナ8と比較すると、その長さが波長に比べて極めて短い点波源と見なせる。
【0034】
前記給電アンテナ素子5と前記無給電アンテナ素子6との異なる定在波T1,T2が生じ、前記給電アンテナ素子5と前記無給電アンテナ素子6とは電磁結合しているため、前記給電アンテナ素子5から放射される電磁波の電界と、前記無給電アンテナ素子6から放射される電磁波の電界が合成され、その合成電界Eは図4に示すように、電磁波の進行方向に対して時間の変化に伴って回転し、楕円偏波を発生させる。
【0035】
したがって、本発明の実施形態では、車体の鍵を開閉するための指令は、楕円偏波により車体側の受信機に伝送されることとなる。
【0036】
以上のように本発明の実施形態によれば、一定方向に偏らない電界をもつ電磁波を発生させるため、送信側の状況、例えば操作者の個性と受信側の状況によって生じる、電界方向に関する受信感度の変化を減少させることができ、信号の授受が成立する電波感応範囲を拡大することができる。
【0037】
なお、以上の実施形態では、前記給電アンテナ素子5及び前記無給電アンテナ素子6の全体を直線状に形成したが、これに限られるものではない。すなわち、図6に示すように、前記給電アンテナ素子5、前記無給電アンテナ素子6の双方或いは、いずれか一方の端部5a、6aを屈曲させて形成してもよいものである。このように、前記給電アンテナ素子5、前記無給電アンテナ素子6の一部を屈曲させて形成することにより、前記給電アンテナ素子5と前記無給電アンテナ素子6を組み合わせた際の高さ方向Hの寸法を短くすることができ、本発明の実施形態に係る小型アンテナ3を組み込むために必要なスペースを更に縮小することができる。
【0038】
なお、以上の説明では、本発明に係る小型アンテナ3をキーレスエントリシステムのキー1に組み込む例を説明したが、これに限られるものではない。本発明に係る小型アンテナ3は、点波源として構成されているため、設置スペースを拡大することなく、キーレスエントリシステムのキー以外にも、設置スペースが制約される対象物に組み込むことができ、その適用範囲が広い小型アンテナを提供することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0039】
以上説明したように本発明によれば、点波源として構成されているため、設置スペースを拡大することなく、設置スペースが制約される対象物に組み込むことができ、その適用範囲が広い小型アンテナを提供することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の実施形態に係る小型アンテナをキーレスエントリシステムのキーに組み込んだ状態を示す断面斜視図である。
【図2】給電アンテナ素子と無給電アンテナ素子の関係を示す図であって、無給電アンテナ素子側から見た図である。
【図3】給電アンテナ素子と無給電アンテナ素子に生じる定在波を示す図である。
【図4】楕円偏波が生じる状態を示す特性図である。
【図5】従来のアンテナを示す図である。
【図6】本発明の他の実施形態に係る小型アンテナを示す図である。
【符号の説明】
【0041】
1 キー
2 キーホルダ
3 小型アンテナ
4 高周波回路
5 給電アンテナ素子
6 無給電アンテナ素子
7 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高周波信号を給電する高周波回路と、
前記高周波信号の給電を受けて、電流値が変化しない定在波が生じる給電アンテナ素子と、
前記給電アンテナ素子に対して電磁結合され、電流値が変化する定在波が生じる無給電アンテナ素子を有し、
前記給電アンテナ素子と前記無給電アンテナ素子は、前記両アンテナ素子による合成電界が電磁波の進行方向に対して時間の変化に伴って回転する姿勢関係に配置されていることを特徴とする小型アンテナ。
【請求項2】
前記給電アンテナ素子及び前記無給電アンテナ素子は、その長さが波長に比べて短い点波源であることを特徴とする請求項1に記載の小型アンテナ。
【請求項3】
前記点波源である前記給電アンテナ素子と前記給電アンテナ素子は、1/50〜1/100波長の寸法に設定されていることを特徴とする請求項2に記載の小型アンテナ。
【請求項4】
前記給電アンテナ素子と前記無給電アンテナ素子は、10°付近〜90°付近の角度をもつ姿勢に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の小型アンテナ。
【請求項5】
前記給電アンテナ素子は、前記高周波回路の一部に組み込まれていることを特徴とする請求項1に記載の小型アンテナ。
【請求項6】
前記給電アンテナ素子と前記高周波回路は、基板上に形成されていることを特徴とする請求項5に記載の小型アンテナ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−306412(P2007−306412A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−134252(P2006−134252)
【出願日】平成18年5月12日(2006.5.12)
【出願人】(801000027)学校法人明治大学 (161)
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【Fターム(参考)】