説明

小径孔あけ加工用あて板

【課題】 基板と潤滑層との密着性に優れるとともに潤滑層の割れを防止する。
【解決手段】 板に小径の孔を形成するのに使用される小径孔あけ加工用あて板1は、アルミニウム製基板2の片面に、ポリ酢酸ビニルの部分ケン化物からなる下塗り層3を介して潤滑層4が形成されているものである。ポリ酢酸ビニルの部分ケン化物のケン化度が15〜70モル%、平均分子量が9000〜50000となされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえばプリント配線板を製造するにさいし、配線板用素板にスルーホール等に用いられる小径の孔を形成するのに使用される小径孔あけ加工用あて板に関する。
【0002】
なお、この明細書において、「アルミニウム」という語には、純アルミニウムの他にアルミニウム合金を含むものとする。また、「板」という語には、箔を含むものとする。
【背景技術】
【0003】
プリント配線板を製造するさいに、プリント配線板用素板に小径孔を形成する方法として、すて板上に複数の素板を積層状に乗せ、最上位の素板の上面にあて板を配し、この状態でドリルを用いて上方からあて板に貫通孔を形成するとともに、全ての素板に小径の孔を一挙に形成する方法が知られている。
【0004】
あて板としては、従来、プリント配線板用素板の孔あけ加工時の傷防止およびバリ発生の抑制を主目的として、アルミニウム板、たとえばAA1100−H18材からなるアルミニウム板が用いられていた。ところで、近年、プリント配線板の高密度化に伴って、直径0.3mm以下の小径孔を形成することが要求されているが、この場合、アルミニウム板からなるあて板を用いると、ドリルビットがあて板表面で滑り、ドリルビットの折れが多発するという問題があった。しかも、ドリルビットの折れが多発するため、孔あけ作業のさいに、プリント配線板用素板の重ね枚数を多くすることができず、効率が悪いという問題があった。また、ドリルビットがあて板表面で滑るので、形成される小径孔の位置精度が低くなるという問題があった。さらに、形成される小径孔の内周面に荒れが発生するという問題があった。
【0005】
そこで、これらの問題を解決し、ドリルビットの破損防止、素板に形成される小径孔内周面の荒れ防止、および素板に形成される小径孔の位置精度の向上等を図るために、小径孔あけ加工用あて板として、アルミニウム製基板の少なくとも片面に潤滑シートを貼り付けることにより潤滑層を形成したものを用いることが考えられた。潤滑シートとしては、たとえば特許文献1に記載されているような、平均分子量10000以上のポリエチレングリコール20〜90重量%と、水溶性潤滑剤80〜10重量%との混合物で厚さ0.1〜3mmに形成されたものがある。
【特許文献1】特開平4−92494号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1記載のあて板では、アルミニウム製基板と潤滑シートとの密着性が悪く、潤滑シートが基板から部分的に剥離して、潤滑シートの厚さに不均一が生じたり、あるいは孔あけ加工時に素板側を向く面に凹凸が発生したりし、その結果ドリル折損の原因となり、小径孔の位置精度も低下する。また、潤滑シートが割れることもある。
【0007】
本発明の目的は、上記問題を解決し、基板と潤滑層との密着性に優れるとともに潤滑層の割れを防止しうる小径孔あけ加工用あて板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明による小径孔あけ加工用あて板は、アルミニウム製基板の少なくとも片面に、ポリ酢酸ビニルの部分ケン化物からなる下塗り層を介して潤滑層が形成されているものである。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1記載の小径孔あけ加工用あて板において、ポリ酢酸ビニルの部分ケン化物のケン化度が15〜70モル%、平均分子量が9000〜50000となされているものである。
【0010】
ポリ酢酸ビニルの部分ケン化物は、潤滑層のアルミニウム製基板に対する密着性を向上させる性質を有するが、その平均分子量が9000未満であれば潤滑層の基板に対する密着性を向上させる効果が得られず、50000を超えると潤滑層の基板に対する密着性を向上させるものの、高粘度となり潤滑性を低下させる。また、用いられるポリ酢酸ビニルの部分ケン化物のケン化度が15モル%未満であれば水溶性が低下して孔あけ加工後の洗浄を水洗により簡単に行うことができず、70モル%を超えると潤滑性を低下させる。したがって、ポリ酢酸ビニルの部分ケン化物のケン化度は15〜70モル%の範囲内で選ぶことが好ましい。
【0011】
請求項3の発明は、請求項1または2記載の小径孔あけ加工用あて板において、下塗り層の厚さが0.1〜3.0μmとなされているものである。
【0012】
下塗り層の厚さが0.1μm未満では潤滑層の基板に対する密着性が低下し、3.0μmを超えるとコストアップとなる。
【発明の効果】
【0013】
本発明による小径孔あけ加工用あて板によれば、下塗り層の働きにより、潤滑層の剥離が防止されるとともに、潤滑層の割れが防止される。また、基板の働きにより、小径孔の孔あけ加工時のバリの発生を防止することができる。そして、バリの発生を防止することにより、一度の孔あけ加工時に重ね合わせる素板の枚数を多くすることができ、生産性を高めることができる。しかも、バリの発生を防止することにより、素板から製造されるプリント配線板の金属層の損傷を防止することが可能になり、得られたプリント配線板の回路の断線を未然に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。
【0015】
図1は、本発明による小径孔あけ加工用あて板の実施形態を示す。
【0016】
図1において、小径孔あけ加工用あて板(1)は、アルミニウム製基板(2)と、アルミニウム製基板(2)の片面に、下塗り層(3)を介して形成された潤滑層(4)とからなる。
【0017】
アルミニウム製基板(2)は、たとえばAA1100−H18材、AA1050−H18材、AA3003−H18材、AA3004−H18材等で形成されたアルミニウム単板からなる。また、基板(2)は、Al99.30重量%以上を含み、SiとFeの合計含有量が0.7重量%以下、Cu含有量0.10重量%以下、Mn含有量0.05重量%以下、Mg含有量0.05重量%以下、Zn含有量0.05重量%以下である合金(たとえば、JIS A1N30)のH18材から形成される。なお、基板(2)の厚さは0.1〜0.25mm程度であることが好ましい。また、基板(2)としては、ビッカース硬さが20〜50である厚さ5〜100μmの軟質アルミニウム板と、ビッカース硬さが50〜140である厚さ30〜200μmの硬質アルミニウム板とを貼り合わせたものを用いてもよい。この場合、硬質アルミニウム板側の面に下塗り層(3)を介して潤滑層(4)を形成する。
【0018】
下塗り層(3)の厚さは0.1〜3.0μmである。下塗り層(3)は、ケン化度15〜70モル%、平均分子量が9000〜50000であるポリ酢酸ビニルの部分ケン化物からなる。
【0019】
潤滑層(4)は、平均分子量3000以上10000未満のポリエチレングリコール(PEG)10〜70重量部と、平均分子量10000以上のPEG30〜90重量部と、両PEGの合計100重量部に対してトリメチロールプロパン0.5〜20重量部とからなる混合物を用いてロールコートにより形成されたものであり、その厚さは10〜100μmである。
【0020】
図1に示すあて板(1)を用いてプリント配線板用素板に小径孔あけ加工を施す場合、まずすて板上に、複数のプリント配線板用素板を積層状に重ねたものを乗せる。ついで、最上位の素板上に、あて板(1)を、その基板(2)が下側、すなわち素板側を向くとともに潤滑層(4)が上を向くように配する。この状態で、ドリルのドリルビットにより上方からあて板(1)に貫通孔を形成するとともに、全ての素板に小径孔(図示略)を形成する。こうして、全ての素板に、一度の作業でスルーホール等に用いられる小径孔があけられる。
【0021】
上記孔あけ加工時には、基板(2)の働きにより、バリの発生を防止することができる。そして、バリの発生を防止することにより、一度の孔あけ加工時に重ね合せる素板の枚数を多くすることができ、生産性を高めることができる。しかも、バリの発生を防止することにより、素板から製造されるプリント配線板の金属層の損傷を防止することが可能になり、得られたプリント配線板の回路の断線を未然に防止することができる。
【0022】
次に、本発明の実施例について、比較例とともに説明する。
実施例1
【0023】
AA3004−H18材からなる厚さ150μmの基板の片面に、平均分子量38000でかつケン化度35モル%であるポリ酢酸ビニルの部分ケン化物(SMR、商品名、信越化学社製)からなる下塗り層を、厚さ1.5μmとなるように形成した。ついで、下塗り層上に、平均分子量9000のPEG70重量部と、平均分子量20000のPEG30重量部と、両PEGの合計100重量部に対してトリメチロールプロパン15重量部とからなる混合物を用いて、厚さ30μmとなるように潤滑層を形成することによりあて板を作製した。
実施例2
【0024】
潤滑層の厚さを80μmとした他は、上記実施例1と同様にしてあて板を作製した。
比較例1
【0025】
AA3004−H18材からなる厚さ150μmの基板の片面に、平均分子量9000のPEG70重量部と、平均分子量20000のPEG30重量部と、両PEGの合計100重量部に対してトリメチロールプロパン15重量部とからなる混合物を用いて、厚さ30μmとなるように潤滑層を形成することによりあて板を作製した。
比較例2
【0026】
潤滑層の厚さを80μmとした他は、上記比較例1と同様にしてあて板を作製した。
評価試験
【0027】
実施例1〜2および比較例1〜2のあて板を使用し、潤滑層を形成した面を外側にして180度折り曲げたさいの潤滑層の状態を観察した。その結果を表1に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
表1おいて、○は潤滑層に異常が発生していなかったことを表し、×は潤滑層に割れが発生したり、剥離が発生したことを表す。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1は、本発明による小径孔あけ加工用あて板を示す拡大垂直断面図である。
【符号の説明】
【0031】
(1) 小径孔あけ加工用あて板
(2) 基板
(3) 下塗り層
(4) 潤滑層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム製基板の少なくとも片面に、ポリ酢酸ビニルの部分ケン化物からなる下塗り層を介して潤滑層が形成されている小径孔あけ加工用あて板。
【請求項2】
ポリ酢酸ビニルの部分ケン化物のケン化度が15〜70モル%、平均分子量が9000〜50000となされている請求項1記載の小径孔あけ加工用あて板。
【請求項3】
下塗り層の厚さが0.1〜3.0μmとなされている請求項1または2記載の小径孔あけ加工用あて板。

【図1】
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【公開番号】特開2008−55598(P2008−55598A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−243603(P2007−243603)
【出願日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【分割の表示】特願2002−526561(P2002−526561)の分割
【原出願日】平成13年9月10日(2001.9.10)
【出願人】(594156709)大智化学産業株式会社 (11)
【出願人】(501428187)昭和電工パッケージング株式会社 (110)
【Fターム(参考)】