説明

小胞体ストレス誘導性及び/又はアミロイド−β誘導性アポトーシスに作用しうる物質の評価方法

【課題】ミトコンドリアにおけるアポトーシスシグナル伝達経路とは異なる経路に基づきアポトーシスに作用(例えば、抑制、促進)させうる手段を提供すること。
【解決手段】小胞体ストレス誘導性アポトーシス及び/又はアミロイド−β誘導性アポトーシスに作用しうる物質の評価方法、該物質の評価系並びに前記小胞体ストレス誘導性アポトーシス及び/又はアミロイド−β誘導性アポトーシスに関連して引き起こされる疾患又はその進行を阻害しうる医薬組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小胞体ストレス誘導性アポトーシス及び/又はアミロイド−β誘導性アポトーシスに作用しうる物質の評価方法、該物質の評価系並びに前記小胞体ストレス誘導性アポトーシス及び/又はアミロイド−β誘導性アポトーシスに関連して引き起こされる疾患又はその進行を阻害しうる医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
生体におけるアポトーシスによる細胞死は、発生過程、正常細胞の交替等の生理的事象、ウイルス感染等の病理的事象に見られることが知られている。かかるアポトーシスによる細胞死は、例えば、紫外線、放射線、過剰な又は長期の小胞体ストレス等によっても、引き起こされることが示されている。
【0003】
前記アポトーシスにおいては、例えば、アンフォールディングタンパク質応答が、細胞死に密接に関連するCHOPの転写を増加させること{非特許文献1}、活性化IRE1αへのTNFレセプター関連因子2(TRAF2)の補充が、c−Jun N末端キナーゼ(JNK)の活性化を誘導すること{非特許文献2}、あるいはカルパインが、下流カスパーゼ−カスケードを活性化すること{非特許文献3}が報告されている。
【0004】
また、アポトーシスによる細胞死プロセスにおいては、特定のアスパラギン酸残基で基質を切断するシステインプロテアーゼのファミリーであるカスパーゼの活性化が、主要な機構の1つであると考えられている{非特許文献4及び非特許文献5を参照のこと}。
【0005】
既知カスパーゼのうち、マウスカスパーゼ−12は、小胞体ストレス誘導性アポトーシスに特異的なシグナル伝達経路に関与すると考えられている{非特許文献6}。
【0006】
一方、前記マウスカスパーゼ−12に対応するヒトカスパーゼ−12に関して、ヒト第11染色体q22.3上のカスパーゼ−1/ICE(インターロイキン−1β変換酵素)遺伝子クラスター内の遺伝子座に、該マウスカスパーゼ−12をコードする核酸と高度に相同な配列が存在することが同定されている。しかしながら、前記配列は、フレームシフト及び未成熟ストップコドンにより中断されており、カスパーゼ活性に重要な部位におけるアミノ酸置換も有しているため、機能を発揮していないことが示唆されている{非特許文献7}。
【0007】
また、ヒトにおけるカスパーゼ−12は、白人人種及びアジア人人種では、不完全なポリペプチドがみられるにすぎず、黒人人種において、全長カスパーゼ−12の多型が発現し、小胞体ストレス媒介アポトーシスに関与しないことが示唆されている{非特許文献8}。
【非特許文献1】ブリューワー(Brewer J.W.)ら、「哺乳動物アンフォールディングタンパク質応答とは異なる経路が、非ストレス細胞における小胞体シャペロンの発現を制御する」,EMBO J.,16:7207−7216(1997)
【非特許文献2】ウラノ(Urano,F)ら、「ERにおけるストレスとトランスメンブランプロテインキナーゼIRE1によるJNKプロテインキナーゼの活性化との共役」,Science,287,664−666(2000)
【非特許文献3】ナカガワ(Nakagawa)ら,「2つのシステインプロテアーゼファミリー間のクロス−トーク。アポトーシスにおけるカルパインによるカスパーゼ−12の活性化」,J.Cell Biol.,150:887−894(2000)
【非特許文献4】サルブセン(Salvesen,G.S.)ら,「カスパーゼ:タンパク質分解による細胞内シグナル伝達」,Cell,91:443−446(1997)
【非特許文献5】ゾーンベリー(Thornberry,N.)ら,「カスパーゼ:内なる敵」,Science,281:1312−1316(1998)を参照のこと
【非特許文献6】ナカガワ(Nakagawa,T.)ら,「カスパーゼ−12は、小胞体ストレス特異的アポトーシス及びアミロイド−βによる細胞傷害性を媒介する」,Nature,403:98−103(2000)を参照のこと
【非特許文献7】フィッシャー(Fischer H.)ら、「ヒトカスパーゼ−12は、有害な変異を獲得している」,Biochem.Biophys.Res.Commun.,293:722−726(2002)を参照のこと
【非特許文献8】マヤ(Maya Saleh)ら、「ヒトカスパーゼ−12多型によるエンドトキシン応答性のディファレンシャルモデュレーション」,Nature,429,75−79(2004)を参照のこと
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の1つの側面は、ミトコンドリアにおけるアポトーシスシグナル伝達経路とは異なる経路に基づくアポトーシスに作用(例えば、抑制又は促進)する物質、特に、小胞体ストレス誘導性及び/又はアミロイド−β誘導性アポトーシスに特異的に作用する物質のスクリーニング及び/又はバリデーションを行なうこと、小胞体ストレス誘導性及び/又はアミロイド−β誘導性アポトーシスに関連して引き起こされる疾患又はその進行を阻害しうる物質のスクリーニング及び/又はバリデーションを行なうこと、小胞体ストレス誘導性及び/又はアミロイド−β誘導性アポトーシスにより引き起こされる疾患の治療又は予防手段を開発すること等の少なくとも1つを可能にする、小胞体ストレス誘導性及び/又はアミロイド−β誘導性アポトーシスに作用しうる物質の評価方法を提供することにある。また、本発明の他の側面は、迅速に、簡便に、再現性よく、あるいは精度よく前記評価方法を行なうこと、生体における状態により反映させて前記評価方法を行なうこと等の少なくとも1つを可能にする、小胞体ストレス誘導性及び/又はアミロイド−β誘導性アポトーシスに作用しうる物質の評価系、例えば、評価用キットを提供することにある。本発明のさらに別の側面は、小胞体ストレス誘導性及び/又はアミロイド−β誘導性アポトーシスにより引き起こされる疾患又はその進行を阻害することを可能にする、医薬組成物を提供することにある。なお、さらなる課題は、本明細書により明らかである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明の要旨は、
〔1〕 被検物質と、プロカスパーゼ−4を発現する細胞とを接触させ、それにより、小胞体ストレスを引き起こす物質又はアミロイド−βの存在下での該細胞内におけるカスパーゼ−4を介した動態を調べるステップを含む、小胞体ストレス誘導性アポトーシス及び/又はアミロイド−β誘導性アポトーシスに作用しうる物質の評価方法、
〔2〕 該プロカスパーゼ−4を発現する細胞が、SK−N−SH細胞、HeLa細胞、HepG2細胞、SY−5Y細胞及びプロカスパーゼ−4をコードする核酸を導入したトランスフェクト細胞からなる群より選ばれた細胞である、前記〔1〕記載の評価方法、
〔3〕 該プロカスパーゼ−4を発現する細胞が、HEK293細胞又はHEK293T細胞に、プロカスパーゼ−4をコードする核酸を導入して得られたトランスフェクト細胞である、前記〔1〕又は〔2〕記載の評価方法、
〔4〕 (1)被検物質と、プロカスパーゼ−4を発現する細胞とを接触させるステップ、
(2)前記ステップ(1)で得られた細胞を、小胞体ストレスを引き起こす物質又はアミロイド−βの存在下に培養するステップ、及び
(3)前記ステップ(2)を行なった後の細胞について、アポトーシスに特異的な変化を調べるステップ、
を含む、前記〔1〕〜〔3〕いずれか1項に記載の評価方法、
〔5〕 (A)プロカスパーゼ−4を発現する細胞を、被検物質と、小胞体ストレスを引き起こす物質又はアミロイド−βとの存在下に培養するステップ、及び
(B)前記ステップ(A)を行なった後の細胞について、アポトーシスに特異的な変化を調べるステップ、
を含む、前記〔1〕〜〔4〕いずれか1項に記載の評価方法、
〔6〕 カスパーゼ−4の基質の存在下に、被検物質の存在により引き起こされる動態の変化の有無を調べる、前記〔1〕〜〔5〕いずれか1項に記載の評価方法、
〔7〕 該被検物質が、
a)プロカスパーゼ−4と結合する物質をスクリーニングするステップ、
b)前記ステップa)で得られた物質について、小胞体ストレスを引き起こす物質又はアミロイド−βの存在下に、プロカスパーゼ−4に接触させ、切断産物を生じる物質をスクリーニングするステップ、及び
c)前記ステップb)で得られた物質のカスパーゼ−4による切断部位に基づき、該物質の切断部位周辺を含む誘導体として被検物質を作製するステップ、
を行なうことにより得られた物質である、前記〔1〕〜〔6〕いずれか1項に記載の評価方法、
〔8〕 該被検物質が、カスパーゼ−4の基質の誘導体、該基質のミミック及び該カスパーゼ−4に結合しうる物質からなる群より選ばれた物質である、前記〔1〕〜〔7〕いずれか1項に記載の評価方法、
〔9〕 該動態が、核凝縮、染色体の断片化、細胞凝縮、MTSの放出、プロカスパーゼ−4の切断、乳酸脱水素酵素の放出及びカスパーゼ−4の基質から生じる産物の生成からなる群より選ばれた少なくとも1種の事象である、前記〔1〕〜〔8〕いずれか1項に記載の評価方法、
〔10〕 プロカスパーゼ−4を発現する細胞と、小胞体ストレスを引き起こす物質又はアミロイド−βと、被検物質と該細胞との接触に適した試薬とを含有してなる、前記〔1〕〜〔9〕いずれか1項に記載の評価方法を行なうための、小胞体ストレス誘導性アポトーシス及び/又はアミロイド−β誘導性アポトーシスに作用しうる物質の評価用キット、
〔11〕 前記〔1〕〜〔9〕いずれか1項に記載の評価方法により評価された物質であって、かつ小胞体ストレス誘導性アポトーシス及び/又はアミロイド−β誘導性アポトーシスに作用しうる物質を有効成分として含有してなる、医薬組成物、並びに
〔12〕 該物質が、プロカスパーゼ−4又はカスパーゼ−4に特異的なsiRNA又はカスパーゼ−4をコードする核酸に対するアンチセンス核酸である、前記〔11〕記載の医薬組成物、
に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の評価方法によれば、小胞体ストレス誘導性及び/又はアミロイド−β誘導性アポトーシスに特異的に作用する物質のスクリーニング及び/又はバリデーションを行なうことができるという優れた効果を奏する。また、本発明の評価方法によれば、小胞体ストレス誘導性及び/又はアミロイド−β誘導性アポトーシスに関連して引き起こされる疾患又はその進行を阻害しうる物質のスクリーニング及び/又はバリデーションを行なうことができ、該疾患の治療又は予防手段を開発することができるという優れた効果を奏する。さらに、本発明の評価用キットによれば、迅速に、簡便に、再現性よく、かつ精度よく、生体における状態により反映させて前記評価方法を行なうことができるという優れた効果を奏する。また、本発明の医薬組成物によれば、小胞体ストレス誘導性及び/又はアミロイド−β誘導性アポトーシスにより引き起こされる疾患又はその進行を阻害することが可能になるという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、小胞体ストレス及び/又はアミロイド−βにより、プロカスパーゼ−4が切断されて、カスパーゼ−4が生じるという本発明者らの驚くべき知見に基づく。さらに、本発明は、前記カスパーゼ−4をコードする配列が、マウスにおける小胞体ストレス誘導性アポトーシスに特異的に作用するマウスカスパーゼ−12に対応すると考えられていた第11染色体q22.3上のカスパーゼ−1/ICE(インターロイキン−1β変換酵素)遺伝子クラスター内の遺伝子座に局在する配列ではないにもかかわらず、予想外にも、カスパーゼ−4が、小胞体ストレス誘導性及び/又はアミロイド−β誘導性アポトーシスに特異的に作用するという本発明者らの驚くべき知見に基づく。
【0012】
本発明の1つの側面は、被検物質と、プロカスパーゼ−4を発現する細胞とを接触させ、小胞体ストレスを引き起こす物質(小胞体ストレスインデューサーともいう)又はアミロイド−βの存在下における該細胞におけるカスパーゼ−4を介した動態を調べる、小胞体ストレス誘導性アポトーシス及び/又はアミロイド−β誘導性アポトーシスに作用しうる物質の評価方法に関する。
【0013】
本発明の評価方法では、細胞におけるカスパーゼ−4を介した動態が調べられているため、本発明の評価方法によれば、簡便な手順により、迅速に、小胞体ストレス誘導性及び/又はアミロイド−β誘導性アポトーシスに特異的に作用する物質をスクリーニングすることができるという優れた効果を発揮する。また、本発明の評価方法は、薬理評価等におけるバリデーションにも用いることができる。
【0014】
また、本発明の評価方法では、細胞におけるカスパーゼ−4を介した動態が調べられているため、本発明の評価方法によれば、特に、小胞体ストレス誘導性及び/又はアミロイド−β誘導性アポトーシスに関連して引き起こされる疾患又はその進行を特異的に阻害しうる物質のスクリーニング及び/又はバリデーションを行なうことができる。
【0015】
さらに、本発明の評価方法では、細胞におけるカスパーゼ−4を介した動態が調べられているため、本発明の評価方法によれば、生体における状態をより反映させてカスパーゼ−4により引き起こされる事象を評価することができる。
【0016】
したがって、本発明の評価方法によれば、前記疾患の治療又は予防手段を開発することができる。
【0017】
本発明に用いられるカスパーゼ−4は、哺乳動物由来カスパーゼ−4であり、ヒトにおける疾患の治療に用いる場合、好ましくは、ヒトカスパーゼ−4であることが望ましい。ヒトプロカスパーゼ−4をコードする核酸としては、(A)配列番号:1に示される塩基配列を含有する核酸が挙げられる。また、ヒトプロカスパーゼ−4としては、(a)配列番号:2に示されるアミノ酸配列を含有するポリペプチドが挙げられる。ヒトカスパーゼ−4をコードする核酸としては、(I)配列番号:1の塩基番号:318〜1173に示される配列からなる塩基配列を含有する核酸等が挙げられる。ヒトカスパーゼ−4としては、(i)配列番号:2のアミノ酸番号:94〜377に示される配列からなるアミノ酸配列を含有するポリペプチド等が挙げられる。
【0018】
なお、生体では、個体の種類、局在組織等により、前記配列番号に示される塩基配列又はアミノ酸配列中に変異が天然に生じているにもかかわらず、当該変異を有する塩基配列からなる核酸(その翻訳産物)、又は当該変異を有するアミノ酸配列からなるポリペプチドが、機能的活性を示す場合がある。したがって、本発明に用いられるプロカスパーゼ−4をコードする核酸、プロカスパーゼ−4、カスパーゼ−4をコードする核酸及びカスパーゼ−4には、機能活性を有するものであれば、前記(A)、(a)、(I)及び(i)それぞれのバリアントも含まれる。
【0019】
なお、本明細書において、前記「機能活性」の用語は、プロカスパーゼ−4に関して用いられる場合、小胞体ストレス及び/又はアミロイド−βにより、システインプロテアーゼ活性を有する切断産物を生じる機能活性を意味し、カスパーゼ−4に関して用いられる場合、システインプロテアーゼ活性を意味する。また、本明細書において、前記核酸に関する「機能活性」は、該核酸によりコードされるポリペプチド(すなわち、翻訳産物)を介して発現する活性をも包含する。
【0020】
前記機能活性は、プロカスパーゼ−4のバリアントの場合、
− 試験対象のバリアントをコードする核酸を細胞に導入して、該バリアントを細胞内で発現させ、
− 小胞体ストレス及び/又はアミロイド−βの存在下に、当該細胞を維持する
ことにより評価される。ここで、プロカスパーゼ−4のバリアントが切断され、システインプロテアーゼ活性を示す切断産物を生じることが、前記バリアントが、前記機能活性を有することの指標となる。
【0021】
前記機能活性は、カスパーゼ−4のバリアントの場合、試験対象のバリアントをコードする核酸を細胞に導入して、該バリアントを細胞内で発現させることにより評価される。ここで、前記バリアントが、システインプロテアーゼ活性を示すことが、前記バリアントが、前記機能活性を有することの指標となる。前記システインプロテアーゼ活性は、例えば、カスパーゼ−4が特異的に認識するテトラペプチドWHED(Trp−His−Glu−Asp;配列番号:9)に蛍光色素7−アミノ−4−メチルクマリン(AMC)が共有結合したAc−WEHD−AMCを基質として用いて測定される。具体的には、前記システインプロテアーゼ活性は、カスパーゼ−4のシステインプロテアーゼ活性により前記基質が切断され、遊離したAMCを定量することにより測定され得る。なお、かかるシステインプロテアーゼ活性の測定には、例えば、組成:0.1M HEPES、pH7.0、10重量% ポリエチレングリコール、0.1体積% 3−((3−コラミドプロピル)−ジメチルアンモニオ)−1−プロパンスルホン酸(CHAPS)、10mM ジチオスレイトール、pH7.0の反応液等が用いられうる。なお、本明細書において、前記システインプロテアーゼ活性の1Uは、室温(25℃)で飽和濃度の基質を使用した場合に1pmol AMC/分を産生するために必要な酵素量として定義される。
【0022】
プロカスパーゼ−4をコードする核酸のバリアントとしては、
(B)配列番号:1に示される配列において、少なくとも1ヌクレオチド残基の変異(置換、欠失、付加又は挿入)を有する塩基配列を含有し、該塩基配列によりコードされるポリペプチドが、小胞体ストレス及び/又はアミロイド−βにより、システインプロテアーゼ活性を有する切断産物を生じうるポリペプチドである核酸、
(C)配列番号:1に示される配列からなる核酸のアンチセンス鎖とストリンジェントな条件下にハイブリダイズしうる核酸の塩基配列を含有し、該塩基配列によりコードされるポリペプチドが、小胞体ストレス及び/又はアミロイド−βにより、システインプロテアーゼ活性を有する切断産物を生じうるポリペプチドである核酸、
(D)配列番号:1に示される配列と少なくとも90%の配列同一性を有する塩基配列であり、該塩基配列によりコードされるポリペプチドが、小胞体ストレス及び/又はアミロイド−βにより、システインプロテアーゼ活性を有する切断産物を生じうるポリペプチドである核酸、
(E)前記(A)の核酸とは、縮重を介して異なる核酸、
等が挙げられる。
【0023】
プロカスパーゼ−4のバリアントとしては、
(b)配列番号:2に示される配列において、少なくとも1アミノ酸残基の変異(置換、欠失、付加又は挿入)を有するアミノ酸配列を含有し、小胞体ストレス及び/又はアミロイド−βにより、システインプロテアーゼ活性を有する切断産物を生じうるものであるポリペプチド、
(c)配列番号:1に示される配列からなる核酸のアンチセンス鎖とストリンジェントな条件下にハイブリダイズしうる核酸によりコードされ、小胞体ストレス及び/又はアミロイド−βにより、システインプロテアーゼ活性を有する切断産物を生じうるものであるポリペプチド、
(d)配列番号:2に示される配列と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含有し、小胞体ストレス及び/又はアミロイド−βにより、システインプロテアーゼ活性を有する切断産物を生じうるものであるポリペプチド、
等が挙げられる。
【0024】
カスパーゼ−4をコードする核酸のバリアントとしては、
(II)配列番号:1の塩基番号:318〜1173に示される配列において、少なくとも1ヌクレオチド残基の変異(置換、欠失、付加又は挿入)を有する塩基配列を含有し、該塩基配列によりコードされるポリペプチドが、システインプロテアーゼ活性を有するポリペプチドである核酸、
(III)配列番号:1の塩基番号:318〜1173に示される配列からなる核酸のアンチセンス鎖とストリンジェントな条件下にハイブリダイズしうる核酸の塩基配列を含有し、該塩基配列によりコードされるポリペプチドが、システインプロテアーゼ活性を有するポリペプチドである核酸、
(IV)配列番号:1の塩基番号:318〜1173に示される配列と少なくとも90%の配列同一性を有する塩基配列であり、該塩基配列によりコードされるポリペプチドが、システインプロテアーゼ活性を有するポリペプチドである核酸、
(V)前記(I)の核酸とは、縮重を介して異なる核酸、
等が挙げられる。なお、前記カスパーゼ−4のバリアント(II)〜(V)には、前記プロカスパーゼ−4(A)及びそのバリアント(B)〜(D)は包含されないものとする。
【0025】
カスパーゼ−4のバリアントとしては、
(ii)配列番号:2のアミノ酸番号:94〜377に示される配列において、少なくとも1アミノ酸残基の変異(置換、欠失、付加又は挿入)を有するアミノ酸配列を含有し、システインプロテアーゼ活性を有するポリペプチド
(iii)配列番号:1の塩基番号:318〜1173に示される配列からなる核酸のアンチセンス鎖とストリンジェントな条件下にハイブリダイズしうる核酸によりコードされ、システインプロテアーゼ活性を有するポリペプチド、
(iv)配列番号:2のアミノ酸番号:94〜377に対応する配列からなる核酸のアンチセンス鎖とストリンジェントな条件下にハイブリダイズしうる核酸によりコードされ、システインプロテアーゼ活性を有するポリペプチド、
(v)配列番号:2に示される配列と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含有し、システインプロテアーゼ活性を有するポリペプチド、
等が挙げられる。なお、前記カスパーゼ−4のバリアント(ii)〜(v)には、前記プロカスパーゼ−4(a)及びそのバリアント(b)〜(d)は包含されないものとする。
【0026】
本明細書において、「少なくとも1ヌクレオチド残基」は、コードされるポリペプチドが機能活性を有する範囲(すなわち、該ポリペプチドが機能活性を示す範囲)のヌクレオチド残基数であればよい。具体的には、「少なくとも1ヌクレオチド残基」とは、例えば、1個又は複数個、好ましくは、1個又は数個のヌクレオチド残基をいう。また、本明細書において、「少なくとも1アミノ酸残基」とは、ポリペプチドが機能活性を有する範囲のアミノ酸残基数であればよい。具体的には、「少なくとも1アミノ酸残基」とは、例えば、1個又は複数個、好ましくは、1個又は数個のアミノ酸残基をいう。
【0027】
前記(B)若しくは(II)の核酸又は前記(b)若しくは(ii)のポリペプチドは、
− 慣用の部位特異的変異導入方法により、配列番号:1に示される塩基配列又は該配列番号:1の塩基番号:318〜1173に示される塩基配列からなる核酸に変異を導入すること、前記塩基配列を参照して、変異を有する核酸を合成すること等により、候補となる核酸を得、
− 得られた核酸を、適切なベクターに組込み、適切な細胞で該核酸によりコードされるポリペプチドを発現させ、
− 前記のように、機能活性を評価して、当該機能活性を有する核酸(すなわち、その発現産物)又はポリペプチドを選別すること
により得られうる。
【0028】
前記ベクターとしては、用いられる細胞の種類等に応じて適宜選択されうるが、例えば、プラスミドベクター、ウイルスベクター等が挙げられる。かかるベクターは、用いる細胞により適宜選択されうる。また、前記ベクターは、細胞内直接発現型ベクター、分泌発現型ベクター及び融合タンパク質発現型ベクターのいずれであってもよい。具体的には、前記ベクターとしては、pKCR、pEFBOS、cDM8、pCEV4、pcDNA3.1、pcDNA3、pcDNA4、pcDNA6、pSFV、pCAGSS等が挙げられる。かかるベクターは、誘導可能なプロモーター、選択用マーカー遺伝子、ターミネーター等の因子を適宜有していてもよい。また、前記ベクターは、融合タンパク質として発現させるための、タグ配列等も適宜含有していてもよい。また、前記ベクターのかわりに、リポソーム、DEAE−デキストラン等の担体に導入対象となる核酸を保持させて得られた構築物を用いてもよい。
【0029】
前記細胞としては、例えば、SK−N−SH細胞、HeLa細胞、SY−5Y細胞、HEK293細胞、HEK293T細胞等が挙げられる。
【0030】
なお、細胞への核酸の導入は、エレクトロポレーション法、DEAE−デキストラン法、リン酸カルシウム法、リポフェクション法、トランスフェクション法、パーティクルガンによる導入法等の慣用の遺伝子導入手段により行なわれうる。
【0031】
本明細書において、「ストリンジェントな条件」としては、モレキュラー・クローニング:ア・ラボラトリーマニュアル第3版(Molecular Cloning: A Laboratory Manual 3rd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press (2001))等の記載の条件が挙げられる。機能活性を有する核酸又はポリペプチドである蓋然性を高める観点から、前記「ストリンジェントな条件」は、好ましくは、中ストリンジェンシーの条件、より好ましくは、高ストリンジェンシーの条件であることが望ましい。前記ストリンジェントな条件としては、より具体的には、例えば、20×SSC(1×SSCの組成:0.15M NaCl、0.015M クエン酸ナトリウム、pH7.0)と0.1% SDSと5×デンハルトと100mg/ml ニシン精子DNAとを含む溶液中、65℃で一晩インキュベーションし、2×SSCと0.1% SDSとを含む溶液を用い、室温で15分間洗浄するという条件が挙げられる。
【0032】
また、かかるストリンジェントな条件下におけるハイブリダイゼーションにおいて、より精度を高める観点から、より低イオン強度、例えば、5×SSC、よりストリンジェントには、3×SSC等の条件及び/又はより高温、例えば、用いられる核酸のTm値の25℃下、よりストリンジェントには、22℃下、さらにストリンジェントには、20℃下、具体的には、用いられる核酸のTm値により異なるが、65℃以上、よりストリンジェントには、67℃以上、さらにストリンジェントには、70℃以上等の条件下でのインキュベーションが行なわれる。また、同様の観点から、よりストリンジェントな洗浄条件、具体的には、低イオン強度の緩衝液、例えば、2×SSC、よりストリンジェントには、1×SSC、さらにストリンジェントには、0.5×SSC等を使用し、より高い温度、例えば、用いられる核酸のTm値の40℃下、よりストリンジェントには、30℃下、さらにストリンジェントには、25℃下、具体的には、用いられる核酸のTm値により異なるが、30℃以上、よりストリンジェントには、37℃以上、さらにストリンジェントには、42℃以上、よりさらにストリンジェントには、45℃以上等の条件下での洗浄等が行なわれる。かかるハイブリダイゼーションにより、例えば、配列番号:1に示される塩基配列と少なくとも90%、好ましくは、90%以上、より好ましくは、97%以上の配列同一性を有する核酸を得ることが可能になる。なお、Tmは、前記モレキュラー・クローニング:ア・ラボラトリーマニュアル第3版等の記載に従って、算出されうる。
【0033】
前記(C)若しくは(III)の核酸又は前記(c)若しくは(iii)のポリペプチドは、
− 前記ストリンジェントな条件下に、配列番号:1に示される塩基配列又は該配列番号:1の塩基番号:318〜1173に示される塩基配列からなる核酸と試験対象の核酸とのハイブリダイゼーションを行ない、
− 得られた核酸を、適切なベクターに組込み、適切な細胞で発現させ、
− 前記のように、機能活性を評価して、当該機能活性を有する核酸又はポリペプチドを選別すること
により得られうる。また、前記(iv)のポリペプチドは、配列番号:2のアミノ酸番号:94〜377に対応する配列からなる核酸を用い、前記(C)若しくは(III)の核酸又は前記(c)若しくは(iii)のポリペプチドと同様の手法により得られうる。
【0034】
ここで、ベクター、細胞、細胞への核酸の導入方法は、前記と同様である。また、前記ハイブリダイゼーションは、前記モレキュラー・クローニング:ア・ラボラトリーマニュアル第3版等に記載の方法により行なわれうる。
【0035】
なお、本明細書において、前記「配列番号:1の塩基番号:318〜1173に示される配列からなる核酸のアンチセンス鎖とストリンジェントな条件下にハイブリダイズしうる核酸」は、好ましくは、前記配列番号:1の塩基番号:318〜1173に示される配列からなる核酸と実質的に同等の鎖長の配列からなる核酸であることが望ましい。また、前記「配列番号:2のアミノ酸番号:94〜377に対応する配列からなる核酸のアンチセンス鎖とストリンジェントな条件下にハイブリダイズしうる核酸」は、好ましくは、前記配列番号:2のアミノ酸番号:94〜377に対応する配列からなる核酸と実質的に同等の鎖長の配列からなる核酸であることが望ましい。ここで、「実質的に同等の長さ」とは、特定の配列との鎖長の差が、0〜400ヌクレオチド長、好ましくは、0〜200ヌクレオチド長、より好ましくは、0〜100ヌクレオチド長であることをいう。
【0036】
本明細書において、配列同一性は、BLASTアルゴリズムで、塩基配列について、Cost to open gap 5、Cost to extend gap 2、Penalty for nucleotide mismatch −3、reward nucleotide match 1、expect value 10、wordsize 11、gap existence 10、gap extension 1のパラメーター値、アミノ酸配列について、Cost to open gap 5、Cost to extend gap 2、Penalty for nucleotide mismatch −3、reward nucleotide match 1、expect value 10、wordsize 11、gap existence 10、gap extension 1のパラメーター値で、参照配列に対して、適切にアライメントされ、例えば、両方の配列に存在する同一の残基を決定して、適合部位の数を決定し、ついで、比較対象の配列領域内の残基の総数で、前記適合部位の数を割、得られた数値に100をかけること算出された値をいう。なお、前記BLASTアルゴリズムは、米国国立衛生研究所(National Institutes of Health)のホームページを介して利用可能である。
【0037】
本発明の評価方法を適用しうる被検物質としては、例えば、カスパーゼ−4の基質の誘導体、該基質のミミック、該カスパーゼ−4に結合しうる物質等が挙げられる。前記被検物質としては、具体的には、化合物、ペプチド、ペプチドミミック、各種タンパク質、核酸、核酸アナログ、抗体、抗体断片等が挙げられる。
【0038】
前記化合物は、コンビナトリアルケミストリーにより得られたコンビナトリアルライブラリーの化合物であってもよい。
【0039】
前記核酸及び核酸アナログには、センス核酸、アンチセンス核酸、リボザイム、siRNA等が含まれる。なお、特に、DNAについて、安定性を向上させる観点から、ペプチド骨格を有するPNAとしてもよい。
【0040】
前記核酸及び核酸アナログは、既知配列のデータベースを参照し、既知配列に対する配列同一性が低い配列、例えば、BLASTアルゴリズムに基づき、前記と同様のパラメーター値で、参照配列に対して、適切にアライメントされて、算出された配列同一性が、好ましくは、15%以下、より好ましくは、10%以下、さらに好ましくは、5%以下、よりさらに好ましくは、0%である配列に基づきデザインされうる。
【0041】
前記核酸及び核酸アナログの鎖長は、該核酸又は核酸アナログの種類等に応じて適宜設定されうる。
【0042】
センス核酸又はアンチセンス核酸の鎖長は、特に限定されるものではなく、適宜設定されうる。
【0043】
前記siRNAの配列は、RNAiに無関係な結合因子影響を減少させる観点から、5’非翻訳領域、3’非翻訳領域、開始コドン周辺領域等を含まない配列であることが望ましい。前記siRNAの配列は、例えば、慣用のsiRNAデザインツール(例えば、Dharmacon社製のsiRNAデザインツール等)によりデザインされうる。
【0044】
前記siRNAは、特に限定されないが、例えば、プロカスパーゼ−4又はカスパーゼ−4をコードする核酸における機能を阻害する標的となる配列の開始コドンから、好ましくは、50〜100ヌクレオチド以上下流、より好ましくは、少なくとも75ヌクレオチド下流の領域に対応する配列であることが望ましい。また、前記siRNAは、前記領域において、好ましくは、2つの連続したアデニル酸残基と任意の19ヌクレオチド残基とからなる配列又は2つの連続したアデニル酸残基と任意の21ヌクレオチド残基の配列、さらに好ましくは、2つのアデニル酸残基と1つのグアニル酸残基と任意の18ヌクレオチド残基とからなる配列又は2つのアデニル酸残基と1つのシチジル酸残基と任意の18ヌクレオチド残基とからなる配列であることが望ましい。さらに、前記siRNAのGC含量は、好ましくは、30%〜70%、より好ましくは、40%前後〜50%前後、さらに好ましくは、50%前後であることが望ましい。かかるsiRNAは、既知配列のデータベース中の配列に対する配列同一性が低く、標的となる配列に対して特異的である配列であることが望ましい。
【0045】
また、前記リボザイムは、例えば、tRNA連結型リボザイムの場合、プロカスパーゼ−4又はカスパーゼ−4をコードする核酸の機能を阻害する標的となる配列中におけるリボザイムにより切断可能な配列とその隣接の両側の6〜9ヌクレオチドとを有する認識配列に相補的なリボザイムであることが望ましい。また、前記リボザイムは、例えば、tRNAの構造を正しく形成し、構造が安定であり、標的となるmRNAにおいて、ステム構造を形成しない核酸であることが望ましい。
【0046】
なお、前記被検物質は、
a)プロカスパーゼ−4又はカスパーゼ−4と結合する物質をスクリーニングするステップ、
b)前記ステップa)で得られた物質を、小胞体ストレスを引き起こす物質又はアミロイド−βの存在下に、カスパーゼ−4に接触させ、産物を得るステップ、及び
c)前記ステップb)で得られた産物のカスパーゼ−4による切断部位に基づき、該産物の切断部位周辺を含む誘導体として被検物質を作製するステップ、
を行なうことにより得られた物質であってもよい。
【0047】
前記ステップa)において、プロカスパーゼ−4又はカスパーゼ−4と結合する物質のスクリーニングは、two−hybrid法、共免疫沈降法、pull−down法、共鳴プラズモン相互作用解析等により行なわれうる。
【0048】
前記two−hybrid法は、例えば、
1) プロカスパーゼ−4又はカスパーゼ−4をコードする核酸を、preyベクターに組込み、preyプラスミドを得るステップ、
2) 得られたpreyプラスミドを酵母(EGY48(p8op lacZ))に導入して、preyプラスミド保持クローンを得るステップ、
3) 被検物質(ポリペプチド)をコードする核酸を、baitベクターに組込み、baitプラスミドを得るステップ、
4) ステップ3)で得られたbaitプラスミドを、前記ステップ2)で得られたpreyプラスミド保持クローンに導入し、クローンを得るステップ、及び
5) 前記ステップ4)で得られたクローンを、ロイシン欠失プレート上で3日間培養し、酵母細胞内における該被検物質(ポリペプチド)とプロカスパーゼ−4又はカスパーゼ−4との結合能をロイシン欠失プレート上でのコロニー形成能により評価するステップ、
により行なわれる。かかる方法では、ロイシン欠失プレート上でコロニーが形成されることを、プロカスパーゼ−4又はカスパーゼ−4と被検物質(ポリペプチド)とが結合することの指標として用いて評価される。
【0049】
前記共免疫沈降法は、例えば、
1) シグナル配列の下流にFLAG配列を有する被検物質(ポリペプチド)を発現する被検物質(ポリペプチド)−FLAG発現プラスミドを得るステップ、
2) N末端側にHA配列を有するプロカスパーゼ−4又はカスパーゼ−4を発現しうるHA−(プロ)カスパーゼ−4発現プラスミドを得るステップ、
3) 細胞に、前記ステップ1)で得られた被検物質(ポリペプチド)−FLAG発現プラスミドと前記ステップ2)で得られたHA−(プロ)カスパーゼ−4発現プラスミドとを、一過的にコトランスフェクトして、コトランスフェクタントを得るステップ、
4) 前記ステップ3)で得られたコトランスファクタントを培養して、培養細胞を得るステップ、
5) 前記ステップ4)で得られた培養細胞から、細胞抽出物を得るステップ、
6) 前記ステップ5)で得られた細胞抽出物に抗FLAG抗体又は抗HA抗体を加えて共免疫沈降を行なうステップ、及び
7) 共免疫沈降を、ウエスタンブロット解析により検出するステップ
により行なわれる。かかる方法では、抗FLAG抗体及び抗HA抗体のいずれの場合においても、被検物質(ポリペプチド)−プロカスパーゼ−4又は被検物質(ポリペプチド)−カスパーゼ−4の複合体の沈降がみられることを、プロカスパーゼ−4又はカスパーゼ−4と被検物質(ポリペプチド)とが結合することの指標として用いて評価される。
【0050】
前記pull−down法は、例えば、
1) GSTとプロカスパーゼ−4又はカスパーゼ−4とからなる融合タンパク質(GST−(プロ)カスパーゼ−4)と、被検物質(ポリペプチド)とを接触させるステップ、
2) グルタチオンビーズで融合タンパク質を、回収するステップ、及び
3) 抗被検物質(ポリペプチド)抗体を用いたウエスタンブロット解析を行ない、GST−(プロ)カスパーゼ−4と、被検物質(ポリペプチド)との複合体を検出するステップ、
により行なわれる。かかる方法では、GST−(プロ)カスパーゼ−4と被検物質(ポリペプチド)との複合体の存在を、プロカスパーゼ−4又はカスパーゼ−4と被検物質(ポリペプチド)とが結合することの指標として用いて評価される。
【0051】
前記共鳴プラズモン相互作用解析は、
1) 被検物質又はプロカスパーゼ−4(若しくはカスパーゼ−4)を固定化したチップに、対応して、プロカスパーゼ−4(若しくはカスパーゼ−4)又は被検物質を一定の流速で、送液するステップ、及び
2) 適切な検出手段(例えば、光学的検出(蛍光度、蛍光偏向度など)、質量分析計との組み合わせ(マトリックス支援レーザー脱離イオン化−飛行時間型質量分析計:MALDI−TOF MS、エレクトロスプレー・イオン化質量分析計:ESI−MSなど))により相互作用を検出するステップ、
により行なわれる。かかる方法では、プロカスパーゼ−4又はカスパーゼ−4と被検物質とからなる複合体の形成を示すセンサーグラムが呈示されることを、プロカスパーゼ−4又はカスパーゼ−4と被検物質とが結合することの指標として用いて評価される。なお、前記共鳴プラズモン相互作用解析は、種々の物質に適用できる点で有利である。
【0052】
前記プロカスパーゼ−4又はカスパーゼ−4は、例えば、カマダ(Kamada S.)ら、Oncogene、15、285−290(1997)、ハナ ブルチョバ(Hana Bruchova)ら、Leuk.Lymphoma、43、1289−1295(2002)等に記載の方法で得られうる。
【0053】
なお、本発明の評価方法では、前記ステップa)で得られた物質について、プロカスパーゼ−4又はカスパーゼ−4と該物質との結合領域の形状並びに該結合領域及びその近傍に存在するアミノ酸残基の立体座標を側鎖レベルで同定し、同定された結合領域の形状と該結合領域及びその近傍に存在するアミノ酸残基の立体座標とに適合する化合物をデザインしてもよい。
【0054】
立体座標の側鎖レベルでの同定は、例えば、プロカスパーゼ−4又はカスパーゼ−4と前記ステップa)で得られた物質との複合体について、3次元NMRにより、立体構造を解析すること;該複合体を結晶化させて、得られた結晶について、X線結晶構造解析法により、立体構造を解析し、重原子置換法、同型置換法、重波長異常分散法、分子置換法等により解析すること等により行なわれうる。また、化合物のデザインは、慣用のコンピュー支援ドラッグデザインにより行なわれうる。
【0055】
なお、本明細書において、前記「結合領域の近傍に存在するアミノ酸残基」とは、一次構造上の連続したアミノ酸配列における位置関係に限定されるものではなく、アミノ酸残基に対して、静電相互作用、疎水性相互作用、ファンデルワールス相互作用、水素結合等に関与する領域範囲内にある残基をいい、結合領域の立体構造において、結合領域に空間的に隣接する残基を意味する。
【0056】
ついで、前記ステップb)において、前記ステップa)で得られた物質について、小胞体ストレスを引き起こす物質又はアミロイド−βの存在下に、カスパーゼ−4に接触させ、産物を得る。
【0057】
前記ステップb)において、切断産物は、電気泳動、HPLC、MELD−MASS、免疫染色(ウエスタンブロッティング)等により検出され得、所望により分取されうる。
【0058】
その後、前記ステップc)において、前記ステップb)で得られた産物のカスパーゼ−4による切断部位に基づき、該産物の切断部位周辺を含む誘導体として被検物質を作製する。
【0059】
前記ステップc)において、前記ステップb)で得られた産物におけるカスパーゼ−4の切断部位は、産物が、ペプチドである場合、例えば、慣用のエドマン分解法、アミノ末端ペプチダーゼ等による分解と質量分析との組み合わせ等のアミノ酸配列解析法により解析されうる。
【0060】
前記ステップb)で得られた産物の切断部位周辺を含む誘導体は、慣用の合成方法等、例えば、コンビナトリアルケミストリー等により網羅的に作製されうる。
【0061】
プロカスパーゼ−4を発現する細胞としては、例えば、SK−N−SH細胞、HeLa細胞、SY−5Y細胞、プロカスパーゼ−4をコードする核酸を導入したトランスフェクト細胞等が挙げられる。前記トランスフェクト細胞における宿主細胞としては、HEK293細胞、HEK293T細胞等が挙げられる。なお、前記HEK293細胞及びHEK293T細胞は、内因性のカスパーゼ−4を発現しない細胞である。したがって、該HEK293細胞又はHEK293T細胞に、プロカスパーゼ−4をコードする核酸を導入して得られたトランスフェクト細胞は、カスパーゼ−4を介した動態をより特異的に検出できる点で有利である。
【0062】
本発明においては、前記プロカスパーゼ−4をコードする核酸を導入したトランスフェクト細胞としては、
A)内因性カスパーゼ−4を実質的に欠損した細胞又は変異により内因性カスパーゼ−4が実質的に機能しない細胞に、プロカスパーゼ−4をコードする核酸を外的に導入することにより得られた細胞、
B)内因性カスパーゼ−4を保持した細胞に、プロカスパーゼ−4をコードする核酸をさらに外的に導入した細胞、
C)相同組換え等により内因性カスパーゼ−4をコードする核酸を改変若しくは変異させた細胞であって、プロカスパーゼ−4の機能活性を有する細胞
等が挙げられる。前記A)〜C)の細胞においては、プロカスパーゼ−4又はカスパーゼ−4をコードする核酸は、プロカスパーゼ−4又はカスパーゼ−4を適切な融合パートナー、例えば、GFP、β−ガラクトシダーゼ、フラッグタグ、ポリヒスチチジンタグ等との融合タンパク質として発現させうるような改変が加えられた核酸であってもよい。
【0063】
前記プロカスパーゼ−4をコードする核酸を細胞に導入する場合、該核酸を適切なベクターに作動可能に連結させて得られた発現ベクターを細胞に導入すればよい。ここで、ベクター、細胞への核酸の導入法は、前記と同様であればよい。
【0064】
小胞体ストレスを引き起こす物質としては、ツニカマイシン、タプシガーギン、カルシウムイオノフォアA23187、2−デオキシグルコース等が挙げられる。前記物質を用いて、小胞体ストレスを引き起こさせる場合、例えば、該物質を、最終濃度0.1μM以上、好ましくは、1μM以上、100μM以下、好ましくは、10μM以下となるように用いればよい。また、本発明においては、小胞体ストレスは、前記物質を用いる代わりに、グルコース飢餓、低酸素曝露(Brefeldin A、ジチオスレイトール等)、低血清等の条件により引き起こされたものであってもよい。
【0065】
アミロイド−βを用いる場合、全長のアミロイド−βを用いてもよく、該アミロイド−βの部分ペプチド、例えば、Aβ25-35等を用いてもよい。前記アミロイド−βは、最終濃度0.1μM以上、好ましくは、1μM以上、100μM以下、好ましくは、10μM以下となるように用いればよい。なお、本発明においては、前記アミロイド−βと同等の機能を有するペプチド、例えば、6−ヒドロキシドーパミン等の神経毒を用いてもよい。
【0066】
本明細書において、「被検物質と、プロカスパーゼ−4を発現する細胞との接触」とは、被検物質存在下で細胞を培養又は維持すること、被検物質を細胞内に直接的又は間接的に導入すること等を含む概念を意味する。
【0067】
被検物質と、プロカスパーゼ−4を発現する細胞との接触は、具体的には、該被検物質が、化合物、ペプチド、ペプチドミミックである場合、例えば、プロカスパーゼ−4を発現する細胞を、被検物質を含有した適切な培地又は緩衝液中で培養又は維持すること等により行なわれうる。被検物質が、ペプチド等の高分子化合物の場合には、マイクロインジェクション法等により、プロカスパーゼ−4を発現する細胞に被検物質を導入することによっても行なわれうる。
【0068】
前記培地としては、前記細胞を培養又は維持するに適した培地であればよく、例えば、MEM、DMEM、αMEM、F12等が挙げられる。前記培地は、単独で、又は適切に混合して用いられうる。また、前記培地は、必要に応じて、各種成長因子、血清、抗生物質等を含有していてもよい。被検物質存在下に細胞を培養するための培養気相は、細胞に応じて適宜設定されうる。前記培養気相としては、例えば、34〜37℃、0〜5体積% CO2等が挙げられる。具体的には、例えば、SK−N−SH細胞の場合、10重量% ウシ胎仔血清を含有したαMEM中、37℃、5体積% CO2で培養すること、HeLa細胞の場合、10重量% ウシ胎仔血清を含有したDMEM中、37℃、5体積% CO2で培養すること、0体積% O2、5体積% CO2、95体積% N2で低酸素培養すること等が挙げられる。
【0069】
前記緩衝液としては、ハンクス平衡塩溶液、クレブスリンゲル溶液、HEPES緩衝液、Tris緩衝液、リン酸緩衝液等が挙げられる。前記緩衝液は、細胞の生理的生存条件を維持する観点から、pH7.0以上、好ましくは、pH7.2以上、より好ましくは、pH7.4以上であることが望ましく、pH8.5以下、好ましくは、pH7.8以下、より好ましくは、pH7.6以下であることが望ましい。
【0070】
培養又は維持時間は、アポトーシスを引き起こす条件(例えば、小胞体ストレス、アミロイド−β)、細胞の種類等に応じて適宜設定されうる。具体的には、ツニカマイシンの場合、例えば、6〜72時間、好ましくは、24〜48時間、タプシガーギンの場合、例えば、1〜72時間、好ましくは、24〜48時間であればよい。また、アミロイド−βの場合、例えば、8〜72時間、好ましくは、8〜24時間であればよい。
【0071】
また、被検物質が、ペプチド又はタンパク質の場合、該ペプチド又はタンパク質をコードする核酸を、適切なベクターに作動可能に連結させ、得られた発現ベクターを細胞に導入すればよい。ここで、ベクター、細胞への核酸の導入法等は、前記と同様であればよい。被検物質が、核酸又は核酸アナログの場合、該核酸又は核酸アナログを直接細胞に導入してもよい。前記核酸又は核酸アナログは、適切なベクターに作動可能に連結させ、得られた発現ベクターを介して細胞に導入してもよい。
【0072】
細胞への被検物質(核酸等)の導入は、前記と同様の遺伝子導入手段により行われうる。なお、被検物質が核酸である場合、該核酸を適切なベクターに連結させて、細胞に導入してもよく、該核酸をそのまま細胞に導入してもよい。用いられるベクターは、前記と同様のベクターであればよい。
【0073】
また、前記siRNAを細胞に導入する場合、用いられうるベクターとしては、特に限定されないが、例えば、商品名:pSilencer.1.0−U6(アンビオン(Ambion)社製)等が挙げられる。
【0074】
また、本発明の評価方法において、被検物質が、siRNAである場合、in vitroでsiRNAを合成し、慣用の手法により、細胞に該siRNAを導入することができる。
【0075】
なお、本発明の評価方法において、被検物質が、siRNAである場合、siRNAの効果は、用いられたsiRNAと同じ塩基組成を有するsiRNAを陰性対照として用いることにより評価されうる。
【0076】
リボザイムを、細胞に導入する場合、用いられるベクターとしては、例えば、商品名:piGENEtRNA(タカラバイオ社製)等が挙げられる。
【0077】
前記カスパーゼ−4を介した動態としては、プロカスパーゼ−4の切断によるカスパーゼ−4の生成、クロマチン凝縮、染色体の断片化、細胞縮小、MTSの放出、乳酸脱水素酵素(LDH)の放出、カスパーゼ−4の基質から生じる産物の生成等が挙げられる。
【0078】
前記プロカスパーゼ−4の切断によるカスパーゼ−4の生成は、例えば、細胞から細胞抽出物を調製し、プロカスパーゼ−4に反応し、かつカスパーゼ−4に反応しない抗体と、カスパーゼ−4に反応し、かつプロカスパーゼに反応する抗体とを用い、該細胞抽出物について、ウエスタンブロット解析、ELISA、その他の免疫学的検出方法等を行なうことにより検出されうる。前記クロマチン凝縮は、DNAに特異的に結合する蛍光色素で染色後、蛍光顕微鏡等で観察することにより検出できる。染色体の断片化は、細胞から染色体含有試料を抽出し、慣用の電気泳動法により泳動することにより、ラダーとして検出されうる。細胞縮小は、細胞のサイズ分布の測定装置、フローサイトメトリー等で測定されうる。MTSの放出は、慣用の測定キット等により測定できる。具体的には、例えば、MTS溶液(プロメガ(Promega)社製)を用い、細胞から放出されたMTS量を、分光光度計を用いて、490nmの吸光度を測定することにより、MTSの放出を評価することができる。また、TUNEL法により細胞の動態を検出することもできる。
【0079】
本発明の評価方法は、具体的には、例えば、
(1)被検物質と、プロカスパーゼ−4を発現する細胞とを接触させるステップ、
(2)前記ステップ(1)で得られた細胞を、小胞体ストレスを引き起こす物質又はアミロイド−βの存在下に培養するステップ、及び
(3)前記ステップ(2)を行なった後の細胞について、アポトーシスに特異的な変化を調べるステップ、
を含むプロセス(プロセス1という)、
(A)プロカスパーゼ−4を発現する細胞を、被検物質と、小胞体ストレスを引き起こす物質又はアミロイド−βとの存在下に培養するステップ、及び
(B)前記ステップ(A)を行なった後の細胞について、アポトーシスに特異的な変化を調べるステップ、
を含むプロセス(プロセス2という)等により行なわれうる。前記プロセス1においては、ステップ(2)の前後における細胞について、アポトーシスに特異的な変化として、細胞におけるカスパーゼ−4を介した動態が評価され、前記プロセス2においては、ステップ(A)の後、アポトーシスに特異的な変化として、経時的に、細胞におけるカスパーゼ−4を介した動態が評価される。
【0080】
前記アポトーシスに特異的な変化としては、クロマチン凝縮、染色体の断片化、細胞縮小、MTSの放出、LDHの放出等が挙げられる。
【0081】
また、本発明の評価方法においては、さらに、カスパーゼ−4の基質の存在下に、被検物質の存在により引き起こされる動態の変化の有無を調べてもよい。
【0082】
本発明の評価方法によれば、I)プロカスパーゼ−4の発現を阻害する物質、プロカスパーゼ−4と基質との結合を阻害する物質、プロカスパーゼ−4の切断を阻害し、それにより、小胞体ストレス誘導性及び/又はアミロイド−β誘導性アポトーシスを阻害する物質、II)プロカスパーゼ−4に作用して、カスパーゼ−4の生成を促進し、それにより、小胞体ストレス誘導性及び/又はアミロイド−β誘導性アポトーシスを引き起こす物質等が評価されうる。
【0083】
前記I)の物質は、本発明の評価方法により、例えば、当該物質の非存在下では、プロカスパーゼ−4が切断され、小胞体ストレス誘導性及び/又はアミロイド−β誘導性アポトーシスを引き起こすが、当該物質の存在下では、プロカスパーゼ−4の切断が、実質的に阻害又は減少し、小胞体ストレス誘導性及び/又はアミロイド−β誘導性アポトーシスを実質的に引き起こさないか、あるいは減少させることを指標として評価されうる。
【0084】
また、前記II)の物質は、本発明の評価方法により、例えば、当該物質の非存在下の場合に比べ、当該物質の存在下において、プロカスパーゼ−4の切断が増加し、小胞体ストレス誘導性及び/又はアミロイド−β誘導性アポトーシスの発生が増加することを指標として評価されうる。前記II)の物質は、例えば、癌(慢性骨髄性白血病等)の治療にも有用である。
【0085】
なお、本発明の評価方法においては、プロカスパーゼ−4の切断、カスパーゼ−4を介したアポトーシス、被検物質の作用等が、小胞体ストレス誘導性及び/又はアミロイド−β誘導性アポトーシスに特異的であるかどうかは、小胞体ストレスを引き起こす物質、アミロイド−β若しくはそれと同等の神経毒以外の物質、例えば、エトポシド、スタウロスポリン等による動態又は小胞体ストレスを引き起こさない条件、例えば、UV照射等による動態を対照として評価すればよい。
【0086】
また、本発明の評価方法には、アポトーシスのシグナル伝達におけるカスパーゼ−4の作用の細胞内での阻害又は促進を指標として評価する態様も含まれる。この場合、カスパーゼ−4の作用としては、システインプロテアーゼ活性等が挙げられる。
【0087】
本発明の他の側面は、1)プロカスパーゼ−4を発現する細胞と、
2)小胞体ストレスを引き起こす物質又はアミロイド−βと、
3)被検物質と該細胞との接触に適した試薬と
を含有した、本発明の評価方法を行なうための、小胞体ストレス誘導性アポトーシス及び/又はアミロイド−β誘導性アポトーシスに作用しうる物質の評価用キットである。
【0088】
本発明の評価用キットは、前記1)〜3)を含有しているため、本発明の評価用キットによれば、迅速に、簡便に、再現性よく、かつ精度よく、本発明の評価方法により、小胞体ストレス誘導性アポトーシス及び/又はアミロイド−β誘導性アポトーシスに作用しうる物質を評価することができる。また、本発明の評価用キットは、前記1)〜3)を含有しているため、本発明の評価用キットによれば、生体における状態をより反映させて、本発明の評価方法を行なうことができる。
【0089】
本発明の評価用キットにおいて、前記1)プロカスパーゼ−4を発現する細胞は、該細胞を維持するに適した培地中に保存された状態であってもよい。前記培地としては、MEM、DMEM、αMEM、F12等が挙げられる。
【0090】
本発明の評価用キットにおいて、前記2)の小胞体ストレスを引き起こす物質又はアミロイド−βは、粉末状、液状等のいずれの形態であってもよく、該物質又はアミロイド−βを保存するに適した溶液、例えば、緩衝液等中に保存された状態であってもよい。前記緩衝液としては、リン酸緩衝化食塩水、Tris緩衝液、HEPES緩衝液等が挙げられる。かかる緩衝液は、細胞の生理的生存条件を維持する観点及び前記物質又はアミロイド−βの生物学的活性を維持する観点から、pH7.0以上、好ましくは、pH7.2以上、より好ましくは、pH7.4以上であることが望ましく、pH8.5以下、好ましくは、pH7.8以下、より好ましくは、pH7.6以下であることが望ましい。
【0091】
前記3)の被検物質と該細胞との接触に適した試薬としては、前記培地、前記緩衝液等が挙げられる。
【0092】
なお、本発明の評価用キットは、本発明の評価方法を行なうのに適した希釈律の細胞量又は本発明の評価方法を行なうのに適した希釈律の小胞体ストレスを引き起こす物質若しくはアミロイド−βの量となるように予め分注された試薬群としても提供されうる。
【0093】
本発明の評価用キットは、培養に適した容器、細胞抽出物の調製用試薬等をさらに含有してもよい。
【0094】
本発明の別の側面は、本発明の評価方法により評価された物質であって、かつ小胞体ストレス誘導性アポトーシス及び/又はアミロイド−β誘導性アポトーシスに作用しうる物質を有効成分として含有した、医薬組成物に関する。本発明の医薬組成物は、小胞体ストレス誘導性アポトーシス及び/又はアミロイド−β誘導性アポトーシスに作用しうる物質を有効成分として含有しているため、本発明の医薬組成物によれば、小胞体ストレス誘導性及び/又はアミロイド−β誘導性アポトーシスにより引き起こされる疾患又はその進行を阻害することが可能になる。したがって、アポトーシスのシグナル伝達において、カスパーゼ−4による作用が、疾患の発症又は進行に役割を果たす場合、本発明の医薬組成物は、特に有用である。
【0095】
前記「小胞体ストレス誘導性及び/又はアミロイド−β誘導性アポトーシスにより引き起こされる疾患」としては、てんかん;神経変性疾患、例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、前頭側頭型痴呆、大脳皮質基低核変性病、ハンチントン病等;虚血性疾患、例えば、脳虚血、心筋梗塞、脳卒中等;I型糖尿病等が挙げられる。
【0096】
本発明の医薬組成物は、具体的には、本発明の評価方法により得られた前記I)、II)等の物質を有効成分として含有する。
【0097】
本発明の医薬組成物の有効成分が、前記I)の物質である場合、かかる医薬組成物は、例えば、てんかん、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、脳虚血、前頭側頭型痴呆、大脳皮質基低核変性症、ハンチントン病等に適用されうる。
【0098】
前記I)の物質としては、上記被検物質から、本発明の評価方法を用いて得られる物質であり、例えば、プロカスパーゼ−4又はカスパーゼ−4に特異的なsiRNA、プロカスパーゼ−4又はカスパーゼ−4をコードする核酸に対するアンチセンス核酸、プロカスパーゼ−4又はカスパーゼ−4をコードする核酸に対するリボザイム等が挙げられる。
【0099】
前記siRNAとしては、特に限定されないが、具体的には、配列番号:3に示される配列からなる核酸と配列番号:4に示される配列からなる核酸とからなる二本鎖核酸、配列番号:5に示される配列からなる核酸と配列番号:6に示される配列からなる核酸とからなる二本鎖核酸等が挙げられる。
【0100】
また、本発明の医薬組成物の有効成分が、前記II)の物質である場合、本発明の医薬組成物は、例えば、ウイルス感染、癌等に適用されうる。この場合、本発明の医薬組成物は、好ましくは、前記II)の物質を、適用部位、例えば、ウイルス感染部位、癌組織等へ送達するに適した成分をさらに含有していることが望ましい。前記II)の物質を適用部位へ送達するに適した成分としては、例えば、適用部位に特異的に発現する因子に対するリガンド、レセプター、抗体等が挙げられる。
【0101】
本発明の医薬組成物の有効成分は、個体、器官、局所部位、組織等に導入するに適した薬学的に許容されうる担体に保持させてもよい。
【0102】
本発明の医薬組成物は、適用対象となる疾患又は適用対象となる個体、器官、局所部位若しくは組織に応じて、他の助剤をさらに含有していてもよい。具体的には、有効成分が、核酸、核酸アナログ、ペプチド又はペプチドミミックである場合、有効成分の効果を発現させる対象となる部位に到達するまでの間に、該核酸、核酸アナログ、ペプチド又はペプチドミミックの分解を抑制する性質を呈する薬学的に許容されうる助剤、賦形剤、結合剤、安定剤、緩衝剤、溶解補助剤、等張剤等を含有してもよい。
【0103】
本発明の医薬組成物中の有効成分の含有量は、治療上有効量であればよく、有効成分となる物質の種類、適用対象となる個体、該個体の体重、該個体の年齢等により適宜設定されうる。具体的には、有効成分が、核酸である場合、前記有効成分の含有量は、活性、溶解性、吸収性、生物学的半減期等の観点から、1日あたり、約0.001mg/kg以上、好ましくは、約0.005mg/kg以上、より好ましくは、約0.01mg/kg以上であり、約2.0mg/kg以下、好ましくは、約1.0mg/kg以下、より好ましくは、約0.5mg/kg以下であることが望ましい。また、有効成分が、ペプチド又はペプチドミミックである場合、前記有効成分の含有量は、活性、溶解性、吸収性、生物学的半減期等の観点から、1日あたり、約0.001mg/kg以上、好ましくは、約0.005mg/kg以上、より好ましくは、約0.01mg/kg以上であり、約2.0mg/kg以下、好ましくは、約1.0mg/kg以下、より好ましくは、約0.5mg/kg以下であることが望ましい。さらに、有効成分が、前記核酸とペプチドとを除く化合物である場合、前記有効成分の含有量は、活性、溶解性、吸収性、生物学的半減期等の観点から、1日あたり、約0.001mg/kg以上、好ましくは、約0.005mg/kg以上、より好ましくは、約0.01mg/kg以上であり、約2.0mg/kg以下、好ましくは、約1.0mg/kg以下、より好ましくは、約0.5mg/kg以下であることが望ましい。
【0104】
本発明の医薬組成物の投与形態及び投与量は、有効成分の種類、適用対象となる疾患、適用対象となる個体、器官、局所部位、組織、適用対象となる個体の年齢、体重等に応じて、適宜選択される。前記投与形態としては、局所投与;皮下注射;筋肉内注射;静脈内注射;錠剤、カプセル剤、顆粒剤、シロップ剤等による経口投与等が挙げられる。
【0105】
また、本発明の医薬組成物の有効成分が、核酸成分である場合、該医薬組成物を、有効成分の核酸を保持したウイルスベクター又はリポソームとして、直接体内に導入してもよく、適用対象の個体等のある種の細胞に、体外で導入し、得られた細胞を体内に戻すことにより該医薬組成物を体内に導入してもよい。具体的には、例えば、アルツハイマー病等の場合、本発明の医薬組成物を脳内の特定の部位に局所注入すること、アストロサイト等の細胞に本発明の医薬組成物を導入し、得られた細胞を脳内に移植すること等により投与されうる。
【0106】
本発明の医薬組成物の効果の評価は、例えば、本発明の医薬組成物の投与及び非投与の前記疾患に対するモデル動物(例えば、β−アミロイド脳室内投与モデル、中大脳動脈閉塞モデル、6−ヒドロキシドーパミンパーキンソンモデル)、ヒトカスパーゼ−4をコードする核酸を導入したノックイン動物等において、非投与動物に比べ、投与動物において、疾患の症状の軽減又は治癒、病理学的特徴の減少又は消滅等が見られた場合を指標とすること等により行なわれうる。
【0107】
本発明のさらに別の側面は、本発明の評価方法により評価された物質であって、かつ小胞体ストレス誘導性アポトーシス及び/又はアミロイド−β誘導性アポトーシスに作用しうる物質を、前記小胞体ストレス誘導性及び/又はアミロイド−β誘導性アポトーシスにより引き起こされる疾患に罹患した個体に投与する、該疾患の治療又は予防方法に関する。本発明の治療又は予防方法においては、前記「本発明の評価方法により評価された物質であって、かつ小胞体ストレス誘導性アポトーシス及び/又はアミロイド−β誘導性アポトーシスに作用しうる物質」が用いられているため、かかる治療又は予防方法によれば、小胞体ストレス誘導性及び/又はアミロイド−β誘導性アポトーシスにより引き起こされる疾患に対し、特にカスパーゼ−4の作用に基づく治療又は予防が可能になる。
【0108】
前記「本発明の評価方法により評価された物質であって、かつ小胞体ストレス誘導性アポトーシス及び/又はアミロイド−β誘導性アポトーシスに作用しうる物質」の投与量は、治療上有効量であればよく、前記医薬組成物の場合と同様に適宜設定されうる。また、前記物質の投与形態も、前記医薬組成物の場合と同様である。
【0109】
本発明の治療又は予防方法の治療又は予防効果は、適用対象の個体における疾患に特徴的な事象の減少、学習能力低下等を指標として評価されうる。例えば、アルツハイマー病の場合、本発明の治療又は予防方法を適用することにより、個体における変性神経細胞の発生の減少等、学習障害の遅延、痴呆進行度の減少(停滞)等が見られた場合、前記治療又は予防効果が見られたことの指標となる。また、脳虚血の場合、虚血部位の縮小、麻痺の改善等が見られた場合、効果が見られたことの指標となる。
【0110】
さらに、本発明の別の側面は、前記小胞体ストレス誘導性及び/又はアミロイド−β誘導性アポトーシスにより引き起こされる疾患に罹患した個体に投与して、該疾患を治療又は予防するための医薬の製造のための、本発明の評価方法により評価された物質であって、かつ小胞体ストレス誘導性アポトーシス及び/又はアミロイド−β誘導性アポトーシスに作用しうる物質の使用に関する。
【0111】
また、本発明の他の側面は、プロカスパーゼ−4の切断により生じるカスパーゼ−4の増加若しくは減少又はカスパーゼ−4の生体内基質から生じる反応産物の増加若しくは減少に基づく、前記小胞体ストレス誘導性及び/又はアミロイド−β誘導性アポトーシスにより引き起こされる疾患の診断方法に関する。なお、かかる診断方法は、前記小胞体ストレス誘導性及び/又はアミロイド−β誘導性アポトーシスにより引き起こされる疾患に罹患した個体に由来する試料の検出方法にも応用されうる。
【0112】
本発明の診断方法は、例えば、
1. プロカスパーゼ−4に反応しないが、カスパーゼ−4には反応する抗体若しくはその抗体断片及び/又はプロカスパーゼ−4に反応するが、カスパーゼ−4には反応しない抗体若しくはその抗体断片を用いて、プロカスパーゼ−4の切断により生じるカスパーゼ−4について、疾患が発生しうる組織又は器官に由来する試料における増加若しくは減少を検出すること、
2. カスパーゼ−4の作用により生体内基質から生じる反応産物に反応する抗体を用いて、カスパーゼ−4の作用により生体内基質から生じる反応産物について、疾患が発生しうる組織又は器官に由来する試料における増加若しくは減少を検出すること、
3. カスパーゼ−4の作用により生体内基質から生じる反応産物をコードする核酸に特異的に結合する核酸を用いて、疾患が発生しうる組織又は器官に由来する試料から抽出された核酸含有試料について、カスパーゼ−4の生体内基質から生じる反応産物をコードする核酸(例えば、mRNA等の増加又は減少を検出すること、
等により行われうる。ここで、正常個体の場合に比べ、診断対象の個体の場合において、プロカスパーゼ−4の切断により生じるカスパーゼ−4、該カスパーゼ−4をコードする核酸、カスパーゼ−4の生体内基質から生じる反応産物、該反応産物をコードする核酸等の量が有意に変化したことが、該試験対象の個体が、胞体ストレス誘導性及び/又はアミロイド−β誘導性アポトーシスにより引き起こされる疾患に罹患している可能性があることの指標となる。
【0113】
前記試料としては、個体、具体的には、例えば、痴呆患者、パーキンソン病患者等由来の滲出液、血液、組織生検、脳脊髄液等が挙げられる。
【0114】
前記抗体は、ポリクローナル抗体であってもよく、モノクローナル抗体であってもよい。さらに、本発明においては、前記抗体は、公知技術によって修飾された抗体や抗体の誘導体、例えば、ヒト化抗体、キメラ抗体、単鎖抗体等であってもよい。また、前記抗体断片としては、前記抗体を、ペプチダーゼ、例えば、パパイン、ペプシン等で消化することにより得られる産物であればよい。前記抗体断片としては、例えば、モノクローナル抗体を、パパインで消化することにより得られるFabフラグメント、モノクローナル抗体を、ペプシンで消化することにより得られるF(ab’)2フラグメント等が挙げられる。前記抗体は、例えば、1992年、ジョン・ワイリー&サンズ社(John Wiley & Sons, Inc.)発行、ジョン・E・コリガン(John E. Coligan)編集、カレント・プロトコルズ・イン・イムノロジー(Current Protocols in Immunology)に記載の方法により、容易に作製され得る。なお、抗体作製時における動物の免疫には、プロカスパーゼ−4、カスパーゼ−4、プロカスパーゼ−4に存在するが、カスパーゼ−4には存在しない領域からなるペプチド、カスパーゼ−4の作用により生体内基質から生じる反応産物等を用いればよい。また、前記抗体は、遺伝子工学的に作製することもできる。さらに、得られた抗体を精製後、ペプチダーゼ等によって処理することにより、抗体の断片が得られる。本発明に用いられる抗体又はその断片は、酵素、蛍光物質、放射性物質等により標識されていてもよい。
【0115】
前記プロカスパーゼ−4に反応しないが、カスパーゼ−4には反応する抗体、又はその抗体断片と、プロカスパーゼ−4に反応するが、カスパーゼ−4には反応しない抗体、又はその抗体断片とは、例えば、プロカスパーゼ−4、カスパーゼ−4、プロカスパーゼ−4に存在するが、カスパーゼ−4には存在しない領域からなるペプチド等を用いて、ELISA、オクタロニー法等を行ない、プロカスパーゼ−4とカスパーゼ−4とに対する交差反応性を調べることにより評価される。
【0116】
また、カスパーゼ−4の作用により生体内基質から生じる反応産物に反応する抗体は、該反応産物等を用いて、ELISA、オクタロニー法等を行ない、該反応産物に対する反応性を調べることにより、評価される。
【0117】
本発明の診断方法において、抗体又は抗体断片を用いる場合、例えば、ウエスタンブロッティング法、抗体カラム法、ELISA、免疫沈降法等の方法により、カスパーゼ−4又は前記反応産物の量を検出すればよい。
【0118】
前記核酸は、例えば、カスパーゼ−4の作用により生体内基質から生じる反応産物をコードする核酸の塩基配列等において、既知配列に対する配列同一性が低い配列、例えば、BLASTアルゴリズムに基づき、前記と同様のパラメーター値で、参照配列に対して適切にアライメントされて、算出された配列同一性が、好ましくは、15%以下、より好ましくは、10%以下、さらに好ましくは、5%以下、よりさらに好ましくは、0%である配列に基づきデザインされうる。なお、本発明の診断方法に用いられる核酸は、反応産物をコードする核酸又はその一部を特異的に増幅するプライマー対(すなわち、カスパーゼ−4の作用により生体内基質から生じる反応産物をコードする核酸の塩基配列において、既知配列に対する配列同一性が低い配列を特異的に増幅しうるプライマー対)等であってもよい。
【0119】
ここで、前記プライマーの鎖長は、特に限定されないが、例えば、好ましくは、連続した少なくとも10ヌクレオチド長、さらに好ましくは、連続した10〜50ヌクレオチド長、より好ましくは、連続した15〜25ヌクレオチド長であることが望ましい。
【0120】
本発明の診断方法において、核酸を用いる場合、サザンブロット解析、ノーザンブロット解析、DNAアレイによるハイブリダイゼーション、PCR、RT−PCR等により、定量的に、カスパーゼ−4をコードする核酸又は前記反応産物をコードする核酸を検出すればよい。
【0121】
また、本発明によれば、前記プロカスパーゼ−4に反応しないが、カスパーゼ−4には反応する抗体若しくはその抗体断片、前記プロカスパーゼ−4に反応するが、カスパーゼ−4には反応しない抗体若しくはその抗体断片、前記カスパーゼ−4の作用により生体内基質から生じる反応産物に反応する抗体、プロカスパーゼ−4をコードする核酸に特異的に結合し、かつカスパーゼ−4をコードする核酸に結合しない核酸、プロカスパーゼ−4とカスパーゼ−4との間で相違する領域を特異的に増幅するプライマー対、カスパーゼ−4の作用により生体内基質から生じる反応産物をコードする核酸に特異的に結合する核酸及び反応産物をコードする核酸又はその一部を特異的に増幅するプライマー対からなる群より選ばれた少なくとも1種を含有した、前記小胞体ストレス誘導性及び/又はアミロイド−β誘導性アポトーシスにより引き起こされる疾患の診断用キットも提供されうる。
【0122】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例により限定されるものではない。
【実施例1】
【0123】
各種ヒトDNAライブラリーについて、小胞体ストレス誘導性アポトーシスを引き起こす因子をスクリーニングしたところ、ヒト大腸cDNAライブラリー(ストラタジーン(Stratagene)社製)において、候補となる因子をコードする核酸が見出された。また、前記核酸は、マウスカスパーゼ−12遺伝子の部分配列に相同的な配列を有していることがわかった。
【0124】
その後、得られた核酸について、配列を解析した。その結果、前記核酸は、ヒトカスパーゼ−4をコードする核酸として同定された。すなわち、前記カスパーゼ−4の発現量がカスパーゼ−5の発現量よりも低い大腸のcDNAライブラリーから見出されたにもかかわらず、意外にも、マウスカスパーゼ−12と同様な作用を示す因子の存在が見出された。
【0125】
ついで、前記ヒトカスパーゼ−4の細胞における局在を調べた。
【0126】
ミトコンドリアを染色しうる商品名:Mitotracker(モレキュラープローブ社製)の存在下又は非存在下、ヒト神経芽細胞腫SK−N−SH細胞を、10重量% ウシ胎仔血清を含有したαMEM(インビトロジェン(Invitrogen)社製)中、37℃、5体積% CO2で20分間培養した。また、同様に、ヒト癌HeLa細胞を、10重量% ウシ胎仔血清を含有したDMEM(インビトロジェン(Invitrogen))中、37℃、5体積% CO2で20分間培養した。
【0127】
培養後のSK−N−SH細胞及びHeLa細胞を、それぞれ、4重量% パラホルムアルデヒドを含有した0.1M リン酸緩衝液中、4℃で2時間維持して、固定した。
【0128】
ついで、固定後の細胞を、抗ヒトカスパーゼ−4モノクローナル抗体(商品名:4B9,MBL医学生物研究所製)とともに、小胞体マーカーであるGRP78とGRP94との両方を検出することができる抗ヒトKDELモノクローナル抗体(10C3,ストレスゲン(Stressgen)社製)の存在下又は非存在下にインキュベーションした。前記細胞のそれぞれを、FITC結合抗ヤギIgG抗体(ジャクソン(Jackson)社製)又はAlexa588結合抗マウスIgG抗体(モレキュラープローブズ(Molecular Probes)社製)とともにインキュベーションした。その後、染色された細胞を、共焦点顕微鏡(商品名:LSM510、カールツァイス(Carl Zeiss)社製)で、内因性カスパーゼ−4の細胞局在を観察した。結果を図1のパネルa〜パネルlに示す。
【0129】
また、生細胞におけるカスパーゼ−4の局在を決定するために、HeLa細胞を、pcDNA3.1−GFP−タグプラスミド(インビトロジェン(Invitrogen)社製)にサブクローン化されたカスパーゼ4をコードする核酸をトランスフェクションした。24時間後、トランスフェクト細胞を、商品名:ER−trackerとともに30分間インキュベーションし、その後、蛍光顕微鏡下に観察した。結果を図1のパネルm〜パネルoに示す。
【0130】
その結果、図1のパネルa〜パネルcに示されるように、カスパーゼ−4に対する免疫反応が、GRP78、GRP94等の小胞体マーカーに対する免疫反応と厳密に共局在することがわかる。しかしながら、前記結果は、図1のパネルd〜パネルfに示されるように、商品名:Mitotrackerによる染色の結果とは一致しないことがわかる。また、図1のパネルg〜パネルlに示されるように、HeLa細胞を用いた場合にも、同様の結果が得られた。
【0131】
一方、GFPと融合させたカスパーゼ−4は、HeLa細胞で過剰発現させて、生細胞における細胞局在を見た場合、図1のパネルm〜パネルoに示されるように、多くのカスパーゼ−4/GFP融合タンパク質由来の蛍光シグナルが、商品名:ER−tracker由来のものと重複することがわかる。これらの結果により、カスパーゼ−4は、SK−N−SH細胞及びHeLa細胞の両方において、ミトコンドリアよりも小胞体に優先的に局在することがわかる。
【実施例2】
【0132】
SK−N−SH細胞を、ツニカマイシン(シグマ(SIGMA)社製)、タプシガーギン(シグマ(SIGMA)社製)、エトポシド(シグマ(SIGMA)社製)、スタウロスポリン(シグマ(SIGMA)社製)、UV等の各種アポトーシスインデューサーで処理し、カスパーゼ−4の変化を評価した。具体的には、10重量% ウシ胎仔血清を含有したαMEM(インビトロジェン(Invitrogen)社製)中、37℃、5体積% COの条件下、小胞体ストレスインデューサーであるツニカマイシン(1μg/ml)又はタプシガーギン(0.5μM)への曝露、非小胞体ストレスインデューサーであるエトポシド(100μM)若しくはスタウロスポリン(0.1μM)への曝露及び150J/m UV照射のいずれかにより、SK−N−SH細胞を処理した。なお、ツニカマイシン、タプシガーギン及びエトポシドへの曝露は、16又は24時間、スタウロスポリンへの曝露は、8時間、UV照射は、8時間とした。
【0133】
その後、得られた細胞を、リン酸緩衝化生理食塩水で洗浄し、回収した。得られた細胞を、0.5重量% NP−40(商品名:Nonidet P−40)を含有したTNE緩衝液(組成:10mM Tris−HCl、pH7.8、1mM EDTA、150mM NaCl、1mM フェニルメチルスルホニルフルオリド)を用いて、溶解させ、細胞抽出物を得た。等量の細胞抽出物(15μgタンパク質相当量)を、12重量% SDS−PAGEに供した。SDS−PAGE後、ゲル上のタンパク質を、PVDF膜(ミリポア(Millipore)社製)に転写した。前記膜を、5重量% ウシ血清アルブミン(BSA)により、ブロックした。得られた膜を、一次抗体(抗カスパーゼ−4抗体、抗カスパーゼ−3抗体、抗カスパーゼ−7抗体又は抗β−アクチン抗体)とともにインキュベーションし、ついで、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)結合二次抗体とともにインキュベーションした。その後、商品名:ECL detection system(アマシャム(Amersham−Pharmacia)社製)により、カスパーゼ−4、カスパーゼ−3、カスパーゼ−7又はβ−アクチンを検出した。
【0134】
また、前記と同様に、各種アポトーシスインデューサーにより処理したSK−N−SH細胞について、位相差顕微鏡下に、細胞の形態学的変化を評価した。同様に処理したSK−N−SH細胞について、10μM Hoechst33342で細胞を染色した。ついで、染色後の細胞について、蛍光顕微鏡下に、核形態変化を評価した。細胞が、形態学的変化を示し、核が形態学的変化を示すことを指標として、細胞死を検出した。少なくとも500細胞をカウントし、3回の独立した実験から、平均値±SEMとして、データを表わし、P値を、Studentのt検定で算出した。
【0135】
さらに、前記と同様に処理した細胞を、MTS溶液(プロメガ(Promega)社製)とともに、37℃で1時間インキュベーションした。その後、分光光度計を用いて490nmの吸光度を測定することにより、生存細胞から放出されたMTS量を定量した。結果を、上記したように、対照における死細胞に対する処理後の死細胞の割合(%)として表わした。結果を図2のパネルAに示す。
【0136】
その結果、図2のパネルAに示されるように、小胞体ストレスインデューサーであるツニカマイシン又はタプシガーギンにより、SK−N−SH細胞を処理した場合、プロカスパーゼ−4の切断が誘導されることがわかる。
【0137】
一方、図2のパネルAに示されるように、エトポシド、スタウロスポリン、UV等の非小胞体ストレスインデューサーによる細胞死の程度は、ツニカマイシン及びタプシガーギンそれぞれによる細胞死の程度と類似するが、細胞を前記非小胞体ストレスインデューサーに曝露した場合、プロカスパーゼ−4は、切断されないことがわかる。
【0138】
また、図2のパネルAに示されるように、アポトーシス刺激にもかかわらず、前記プロカスパーゼ−4の場合と同条件下、カスパーゼ−7の切断が観察された。
【0139】
これらの結果により、カスパーゼ−4が、小胞体ストレスを誘導するアポトーシス刺激により特異的に活性化されるが、小胞体ストレスを引き起こさない他の刺激により特異的に活性化されないことが示唆される。
【0140】
ついで、アミロイド−β(Aβ)(シグマアルドリッチ社製)若しくはその部分ペプチド又はそれらの誘導体ペプチドによる処理後のSK−N−SH細胞におけるカスパーゼ−4の切断を調べた。
【0141】
SK−N−SH細胞を、10重量% ウシ胎仔血清を含有したαMEM(インビトロジェン(Invitrogen)社製)中、37℃、5体積% CO2の条件下、25μM Aβ25-35、5μM Aβ1-40、25μM Aβ35-25又は5μM Aβ40-1とともにインキュベーションした。その後、前記と同様に、細胞抽出物中のカスパーゼ−4、カスパーゼ−7またはβ−アクチンを検出した。結果を図2のパネルB及び図2のパネルCに示す。
【0142】
その結果、図2のパネルBに示されるように、25μM アミロイド−β(Aβ)25-35又は5μM Aβ1-40とともに細胞をインキュベーションした場合、カスパーゼ−4の切断が観察された。対照的に、図2のパネルCに示されるように、アミノ酸配列の方向が逆のペプチド(それぞれ、Aβ35-25又はAβ40-1)とともに細胞をインキュベーションした場合、カスパーゼ−4の切断が観察されなかった。これらの結果により、カスパーゼ−4が、小胞体ストレス誘導性アポトーシスに似た神経毒のAβ処理により活性化されることが示される。
【実施例3】
【0143】
慣用の方法で、pCAGGS−hBcl−2(イワハシ(Iwahashi,H.)ら、Nature,390,413−417(1997))でSK−N−SH細胞を安定的にトランスフェクトした。ついで、得られた細胞を、10重量% ウシ胎仔血清を含有したαMEM(インビトロジェン(Invitrogen)社製)中、37℃、5体積% COで培養して、Bcl−2を過剰発現させた。同様に、pCAGGS−hBcl−2でHeLa細胞を安定的にトランスフェクトした。ついで、得られた細胞を、10重量% ウシ胎仔血清を含有したDMEM(インビトロジェン(Invitrogen)社製)中、37℃、5体積% CO2で48時間培養して、Bcl−2を過剰発現させた。なお、対照として、商品名:pCAGGS(ニワ(Hitoshi Niwa)ら、Gene、108、193−200(1991))で、前記と同様に、SK−N−SH細胞及びHeLa細胞を安定的にトランスフェクトした。
【0144】
得られた各トランスフェクタントを、ツニカマイシン(1μg/ml)存在下又は非存在下に、16時間インキュベーションした。その後、得られた細胞から、前記実施例2と同様に、細胞抽出物を調製し、該細胞抽出物を、12重量% SDS−PAGEに供した。SDS−PAGE後、ゲル上のタンパク質を、PVDF膜(ミリポア(Millipore)社製)に転写した。前記膜を、5重量% ウシ血清アルブミン(BSA)により、ブロックした。得られた膜を、一次抗体(抗カスパーゼ−4抗体、又は抗Bcl−2抗体(カタログ番号100、ファーミンゲン(Pharmingen)社製))とともにインキュベーションし、ついで、HRP結合二次抗体とともにインキュベーションした。その後、商品名:ECL detection system(アマシャム−ファルマシア(Amersham−Pharmacia)社製)により、カスパーゼ−4又はBcl−2を検出した。結果を図3のパネルAに示す。
【0145】
また、前記トランスフェクタントのそれぞれを、ツニカマイシン(1μg/ml)で30時間処理し、Hoechst33342で染色し、蛍光顕微鏡下で観察した。結果を図3のパネルBに示す。
【0146】
その結果、アポトーシスによる核形態変化は、図3のパネルBに示されるように、ベクターを導入した細胞(SK−N−SH細胞及びHeLa細胞)を、ツニカマイシンにより30時間処理することにより誘導されるが、かかる変化は、Bcl−2の過剰発現により完全に抑制されることが分かる。したがって、下流のアポトーシスシグナル伝達経路は、これらの抗アポトーシスタンパク質の過剰発現により細胞において、働いていないことが示される。
【0147】
しかしながら、ツニカマイシン処理後16時間におけるカスパーゼ−4の切断は、図3のパネルAに示されるように、Bcl−2の過剰発現によりわずかに影響を受けるに過ぎなかった。これらの結果により、カスパーゼ−4の大部分が、小胞体ストレス誘導細胞死の間におけるエフェクターカスパーゼの活性化の前に活性化されることが示唆される。
【0148】
なお、pCAGGS−hBcl−XL(タガミ(Tagami,S.)ら、Oncogene,19,5736−5746(2000))を用いて、前記pCAGGS−hBcl−2の場合と同様に、Bcl−XL過剰発現によるカスパーゼ−4の切断及び核形態変化への影響を調べた。その結果も、前記Bcl−2の場合と同様であった。
【0149】
したがって、カスパーゼ−4の切断が、他のカスパーゼにより活性化された下流のミトコンドリア経路によるものではないことが示唆される。
【実施例4】
【0150】
カスパーゼ−4に対するsiRNA、又は対照としてGFPに対するsiRNAを用い、カスパーゼ−4が、小胞体ストレス誘導細胞死に必要であるかどうかを調べた。アニールさせた二本鎖siRNA(ダルマコン(Dharmacon)社製)を、カスパーゼ−4遺伝子又はGFP遺伝子の発現を減少させるために用いた。前記アニールさせた二本鎖siRNAは、カスパーゼ−4について、
5'-AAGUGGCCUCUUCACAGUCAUdTdT-3'(配列番号:3(センス))と、
5'-AAAUGACUGUGAAGAGGCCACdTdT-3'(配列番号:4(アンチセンス))とからなるsiRNA−a、及び
5'-AAGAUUUCCUCACUGGUGUUUdTdT-3'(配列番号:5(センス))
5'-AAAAACACCAGTGAGGAAATCdTdT-3'(配列番号:6(アンチセンス))とからなるsiRNA−bであり、緑色蛍光タンパク質(GFP)について、
5'-PGGCUACGUCCAGGAGCGCACC-3'(配列番号:7(センス))と、
5'-PUGCGCUCCUGGACGUAGCCUU-3’(配列番号:8(アンチセンス))とからなるsiRNAである。
【0151】
なお、前記配列番号:3〜8に示される配列は、BLASTサーチ(NCBI、2004年5月19日付更新データ)により、カスパーゼ−4遺伝子又はGFP遺伝子以外の遺伝子に顕著に相同的でない配列である。
【0152】
商品名:Oligofectamine(インビトロジェン(Invitrogen)社製)を用いて、製造者のプロトコールにしたがい、10重量% ウシ胎仔血清を含有したαMEM(インビトロジェン(Invitrogen)社製)が入った24ウェルプラスチックプレート(ヌンク社製)中、37℃、5体積% CO、50%のコンフルエンスのSK−N−SH細胞に、前記siRNA 1.0μgを導入した。培地を換えることなく、トランスフェクトSK−N−SH細胞を、37℃で60時間培養した。
【0153】
培養後のSK−N−SH細胞を、4重量% パラホルムアルデヒドを含有した0.1M リン酸緩衝液中、4℃で2時間維持して、固定した。ついで、固定後の細胞を、前記抗ヒトカスパーゼ−4 モノクローナル抗体、又は対照として、前記抗β−アクチン抗体とともにインキュベーションし、前記細胞を、Alexa588結合抗マウスIgG抗体(モレキュラープローブ(Molecular Probes)社製)とともにインキュベーションした。その後、染色された細胞中における内因性カスパーゼ−4を、共焦点顕微鏡(商品名:LSM510、カールツァイス(Carl Zeiss)社製)で観察して、RNAi(RNA干渉)の効率を評価した。結果を、図4のパネルAに示す。
【0154】
その結果、図4のパネルAに示されるように、トランスフェクト細胞においては、カスパーゼ−4に対するsiRNAによるトランスフェクション後60時間のインキュベーションにより、カスパーゼ−4の量が、実質的に減少するが、非トランスフェクト細胞と比べて、カスパーゼ−4の免疫反応性が、GFP siRNAによるトランスフェクションにより影響を受けないことがわかる。
【0155】
また、前記培養後のSK−N−SH細胞を10重量% ウシ胎仔血清を含有したαMEM(インビトロジェン(Invitrogen)社製)中、37℃、5体積% COの条件下、0.5μM タプシガーギンの存在下又は非存在下に40時間インキュベーションした。インキュベーション後に得られたタプシガーギン処理SK−N−SH細胞から、実施例2と同様に、細胞抽出物を得、該細胞抽出物(10μgタンパク質相当量)を、12重量% SDS−PAGEに供した。SDS−PAGE後、ゲル上のタンパク質を、PVDF膜(ミリポア(Millipore)社製)に転写した。前記膜を、5重量% BSAにより、ブロックした。得られた膜を、一次抗体(抗カスパーゼ−4抗体、又は抗β−アクチン抗体(カタログ番号100、ファーミンゲン(Pharmingen)社製))とともにインキュベーションし、ついで、HRP結合二次抗体とともにインキュベーションした。その後、ECL detection system(アマシャム−ファルマシア(Amersham−Pharmacia)社製)により、カスパーゼ−4又はβ−アクチンを検出した。結果を図4のパネルBに示す。
【0156】
その結果、図4のパネルBに示されるように、カスパーゼ−4の量が、カスパーゼ−4に対するsiRNAにより減少することがわかる。また、図4のパネルBに示されるように、タプシガーギンによる24時間の処理は、GFP siRNAをトランスフェクトした細胞よりも、カスパーゼ−4 siRNAをトランスフェクトした細胞において、カスパーゼ−4の切断が、より低レベルであることがわかる。
【0157】
さらに、前記タプシガーギン処理SK−N−SH細胞の形態学的変化を観察することにより、siRNAでカスパーゼ−4レベルを減少させた場合の細胞における小胞体ストレス誘導性アポトーシスを調べた。その結果を、図4のパネルCに示す。
【0158】
形態学的変化に基づき、細胞死を評価した結果、図4のパネルCのcに示されるように、非トランスフェクト細胞の約60%が、タプシガーギンによる40時間の処理により死に至ることがわかる。なお、カスパーゼ−4 siRNAトランスフェクト細胞における細胞死は、対照(GFP siRNAトランスフェクト細胞)における細胞死の場合とは、有意に異なる(p<0.01)。
【0159】
また、図4のパネルCに示されるように、細胞死の程度は、GFPに対するsiRNAによるトランスフェクションにより影響を受けないが、細胞の約30%のみが、カスパーゼ−4 siRNAによりトランスフェクトされ、タプシガーギンによる同じ刺激に曝露された後、死に至ることがわかる。
【0160】
図4のパネルBに示される切断されたカスパーゼ−4の量は、図4のパネルCに示される細胞死の程度とよく相関関係を示した。したがって、カスパーゼ−4 siRNAのトランスフェクションにより、細胞死が不完全に阻害されたことは、おそらく、カスパーゼ−4の残存活性によるものであると考えられる。これらの結果は、カスパーゼ−4の発現を減少した細胞は、小胞体ストレス誘導細胞死に対して、より耐性になることを示す。
【0161】
さらに、前記タプシガーギン処理SK−N−SH細胞及び当該SK−N−SH細胞と同様の条件でタプシガーギン処理したHeLa細胞について、前記実施例2と同様に、細胞から放出されたMTS量を定量した。その結果を図4のパネルD(SK−N−SH細胞)及び図4のパネルE(HeLa細胞)に示す。
【0162】
その結果、図4のパネルD及び図4のパネルEに示されるように、GFP siRNAでトランスフェクトした細胞に比べ、カスパーゼ−4 siRNAでトランスフェクトした細胞では、小胞体ストレス誘導細胞死に対する抵抗性が、より増加した。一方、非小胞体ストレスインデューサーであるエトポシドでの処理により誘導された細胞死の効率は、カスパーゼ−4 siRNAのトランスフェクションにより影響を受けなかった。なお、カスパーゼ−4 siRNAトランスフェクト細胞における細胞死は、対照(GFP siRNAトランスフェクト細胞)における細胞死の場合とは、有意に異なる(p<0.05)。したがって、カスパーゼ−4は、小胞体ストレス誘導細胞死に特異的に関連することが示唆される。
【0163】
また、GFP siRNA又はカスパーゼ−4 siRNAをトランスフェクトしたSK−N−SH細胞について、実施例2と同様に、以下のように、Aβ誘導細胞死を調べた。GFP siRNA又はカスパーゼ−4 siRNAでSK−N−SH細胞をトランスフェクトした。その後、得られた細胞を、10重量% ウシ胎仔血清を含有したαMEM(インビトロジェン(Invitrogen)社製)中、37℃、5体積% CO2の条件下、60時間インキュベーションした。得られた細胞を、10重量% ウシ胎仔血清を含有したαMEM(インビトロジェン(Invitrogen)社製)中、37℃、5体積% COの条件下、25μM Aβ25-35ペプチドとともに40時間インキュベーションした。その後、生存率を評価した。その結果を図4のパネルFに示す。
【0164】
図4のパネルFに示されるように、Aβ25-35により処理した場合、カスパーゼ−4 siRNAによりトランスフェクトされたSK−N−SH細胞は、GFP siRNAによりトランスフェクトした細胞に比べ、細胞死の顕著な減少を示した。なお、カスパーゼ−4 siRNAトランスフェクト細胞における細胞死は、対照(GFP siRNAトランスフェクト細胞)における細胞死の場合とは、有意に異なる(**p<0.01)。これらの結果から、カスパーゼ−4が、Aβ誘導細胞死及び小胞体ストレス誘導細胞死に本質的に関与することが示される。
【実施例5】
【0165】
アルツハイマー病患者の海馬CA1−2領域の錐体細胞層の組織を、以下のように、抗体により免疫染色し、錐体細胞層におけるカスパーゼ4の発現を確認した。なお、対照として、他の神経変性疾患患者の組織を用いた。
【0166】
パラフィン包埋した脳切片10μlから、500ml キシレンと1体積% H22とを含有したメタノールでパラフィンを除いた。得られた切片を、リン酸緩衝化生理食塩水で洗浄した。洗浄後の切片をスライドグラスに乗せ、ブロッキング液(組成:リン酸緩衝化生理食塩水 50ml、3重量% ウシ血清アルブミン(1.5ml)、3重量% ヤギ血清(1.5ml))を該切片にかけ、室温で1時間放置した。
【0167】
その後、前記ブロッキング液で200〜500倍に希釈した抗ヒトカスパーゼ4抗体(商品名:4B9、MBL医学生物研究所製) 32μlを前記スライドグラス上の切片に添加し、該切片を4℃で2日間インキュベーションした。
【0168】
ついで、前記スライドグラス上の切片を、リン酸緩衝化生理食塩水により室温で洗浄した。洗浄後の切片に、ブロッキング液 20mlと、ビオチン標識2次抗体(商品名:ベクタステインABCキット、フナコシ社製)とを添加した。その後、得られた混合物を、室温で一晩インキュベーションした。インキュベーション後の切片を、リン酸緩衝化生理食塩水で、5分間洗浄した。
【0169】
ブロッキング液 20mlと、精製アビジン溶液と、ビオチン化アルカリホスファターゼ溶液とを混合して、30分以上反応させた。ついで、得られた混合物を前記切片にかけた。その後、前記切片を、室温で30〜60分間放置した。
【0170】
その後、前記切片を、リン酸緩衝化生理食塩水で5分間、3回以上洗浄し、最後に、100mM Tris−塩酸緩衝液で洗浄した。前記切片に発色液(100ml Tris−塩酸緩衝液 50ml、DABタブレット1個、H22 33μl)を添加した。その後、スライドグラス上の切片を、Tris−塩酸緩衝液で洗浄し、顕微鏡観察を行なった。
【0171】
その結果、図5に示されるように、アルツハイマー患者の脳切片において、顕著にカスパーゼ−4が発現していることがわかる。したがって、アポトーシスは、アルツハイマー病の発症原因であることから、生体内においてアポトーシスが誘導される際にカスパーゼ−4が発現していることが確認できる。
【産業上の利用可能性】
【0172】
本発明により、神経変性疾患、虚血性疾患等の小胞体ストレス誘導性アポトーシス及び/又はアミロイド−β誘導性アポトーシスに関連して引き起こされる疾患の治療又は予防が可能になる。また、本発明により、前記疾患の治療又は予防手段、前記疾患に有効な薬剤等のスクリーニングや薬理評価が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0173】
【図1】図1は、SK−N−SH細胞及びHeLa細胞におけるカスパーゼ−4の局在を示す。パネルa〜パネルfは、SK−N−SH細胞を示し、パネルg〜パネルlは、HeLa細胞を示す。また、パネルa及びパネルgは、抗カスパーゼ−4抗体による染色を示し、パネルb及びパネルhは、抗KDEL抗体による染色を示し、パネルc及びパネルiは、抗カスパーゼ−4抗体による染色の結果と抗KDEL抗体による染色の結果とを重ねて表示した結果を示す。さらに、パネルd及びパネルjは、抗カスパーゼ−4抗体による染色を示し、パネルe及びパネルkは、商品名:Mitotrackerによる染色を示し、パネルf及びlは、抗カスパーゼ−4抗体による染色の結果と商品名:Mitotrackerによる染色の結果とを重ねて表示した結果を示す。パネルm〜パネルoは、カスパーゼ−4−GFP融合遺伝子をトランスフェクトしたHeLa細胞を示す。パネルmは、抗カスパーゼ−4抗体による染色を示し、パネルnは、商品名:ER−trackerによる染色を示し、パネルoは、抗カスパーゼ−4抗体による染色の結果と商品名:ER−trackerによる染色の結果とを重ねて表示した結果を示す。図中、スケールバーは、5μmを示す。
【0174】
【図2】図2は、小胞体ストレス及びAβ処理によるカスパーゼ−4の特異的切断を示す。図2のパネルAは、1μg/ml ツニカマイシン(TM)、0.5μM タプシガーギン(TG)、100μM エトポシド(Etop)若しくは0.1μM スタウロスポリン(STS)で示された期間、SK−N−SH細胞を処理し、その後、示された期間インキュベーションした結果、又は150J/m2UVを照射し、その後、示された期間インキュベーションした結果を示す。前記図2のパネルAは、各種抗体を用いてウエスタンブロッティングにより解析した結果である。前記図2のパネルAの上部パネルは、抗カスパーゼ−4抗体、中央パネルは、抗カスパーゼ−3抗体及び抗カスパーゼ−7抗体を示し、下部パネルは、抗β−アクチン抗体を示す。図2のパネルA中のゲルの上部は、示された時間のインキュベーション後、MTSアッセイにより評価した細胞死の程度を示す。図2のパネルBは、25μM Aβ25-35又は5μM Aβ1−40ペプチドで、示された時間、SK−N−SH細胞を処理した結果を示す。前記図2のパネルBは、各種抗体を用いてウエスタンブロッティングにより解析した結果である。前記図2のパネルBの上部パネルは、抗カスパーゼ−4抗体を示し、下部パネルは、抗β−アクチン抗体を示す。図2のパネルCは、アミノ酸配列の方向が逆であるペプチド{Aβ35-25(25μM)及びAβ40-1(5μM)}で、示された期間、SK−N−SH細胞を処理し、カスパーゼ−4の切断を試験した結果を示す。
【0175】
【図3】図3は、カスパーゼ−4の小胞体ストレス誘導切断におけるBcl−2過剰発現の影響を調べた結果を示す。図3のパネルAのaは、ベクター又はBcl−2発現系を安定的にトランスフェクトしたSK−N−SH細胞、図3のパネルAのbは、ベクター又はBcl−2発現系を安定的にトランスフェクトしたHeLa細胞を示す。また、図3のパネルAのa及び図3のパネルAのbにおいて、「+」は、1μg/ml ツニカマイシン存在下での結果、「−」は、ツニカマイシン非存在下での結果を示す。また、前記図3のパネルAのa及び図3のパネルAのbは、各種抗体を用いたウエスタンブロッティングの結果を示す。前記図3のパネルAのa及び図3のパネルAのbにおいて、上部パネルは、抗カスパーゼ−4抗体、下部パネルは、抗Bcl−2抗体を示す。図3のパネルBは、示された細胞を、ツニカマイシン(1μg/ml)で30時間処理し、Hoechst33342で染色し、蛍光顕微鏡下で観察した結果を示す。スケールバーは、25μmを示す。
【0176】
【図4】図4は、siRNAによるカスパーゼ−4発現減少後の小胞体ストレス誘導細胞死又はAβ誘導細胞死における減少を示す。図4のパネルAは、SK−N−SH細胞に、GFP(対照)に対するカスパーゼ(図中、「GFP siRNA−a」)又はカスパーゼ−4に対するsiRNA(図中、「カスパーゼ siRNA」)(各1μg siRNA/24ウェルプレート)を導入し、カスパーゼ−4が減少した結果を示す。スケールバーは、5μmを示す。図4のパネルBは、前記siRNAをトランスフェクトした細胞において、小胞体ストレスを誘導した場合のカスパーゼ−4を示す。図4のパネルBにおいて、「+」は、0.5μM タプシガーギンの存在下での結果、「−」は、タプシガーギン非存在下での結果を示す。また、図4のパネルBは、各種抗体を用いたウエスタンブロッティングの結果を示す。図4のパネルBにおいて、上部パネルは、抗カスパーゼ−4抗体を示し、下部パネルは、抗β−アクチン抗体を示す。図4のパネルCのaは、0.5μM タプシガーギンで40時間の処理後のGFP siRNAトランスフェクト細胞の代表的な位相差顕微鏡写真を示し、図4のパネルCのbは、カスパーゼ−4 siRNAトランスフェクト細胞の代表的な位相差顕微鏡写真を示す。図4のパネルCのcは、3回の実験の平均±SEMとして表された細胞死の程度を示す。スケールバーは、50μmである。図4のパネルD及び図4のパネルEは、各siRNAをトランスフェクトした細胞を、0.5μM タプシガーギン又は100μM エトポシドで処理した場合の細胞生存率を示す。図4のパネルDは、SK−N−SH細胞を示し、図4のパネルEは、HeLa細胞を示す。結果を、3回の実験の平均±SEMとして表す。図4のパネルFは、各siRNAをトランスフェクトしたSK−N−SH細胞において、Aβにより細胞死を誘導した場合の生存率を示す図である。各値は、3回の実験の平均±SEMとして表わされたものである。
【0177】
【図5】図5は、脳におけるカスパーゼ−4の発現を調べた結果を示す図である。図中、「AD」は、アルツハイマー病患者の脳組織の結果を示し、「DC」は、他の神経変性疾患患者の脳組織の結果を示す。スケールバーは、9.52μmである。
【配列表フリーテキスト】
【0178】
配列番号:3は、Caspase−4遺伝子に対するsiRNAのセンス鎖の配列である。
【0179】
配列番号:4は、Caspase−4遺伝子に対するsiRNAのアンチセンス鎖の配列である。
【0180】
配列番号:5は、GFP遺伝子に対するsiRNAのセンス鎖の配列である。
【0181】
配列番号:6は、GFP遺伝子に対するsiRNAのアンチセンス鎖の配列である。
【0182】
配列番号:7は、カスパーゼ−4が特異的に認識するテトラペプチドWHED(Trp−His−Glu−Asp)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検物質と、プロカスパーゼ−4を発現する細胞とを接触させ、それにより、小胞体ストレスを引き起こす物質又はアミロイド−βの存在下での該細胞内におけるカスパーゼ−4を介した動態を調べるステップを含む、小胞体ストレス誘導性アポトーシス及び/又はアミロイド−β誘導性アポトーシスに作用しうる物質の評価方法。
【請求項2】
該プロカスパーゼ−4を発現する細胞が、SK−N−SH細胞、HeLa細胞、HepG2細胞、SY−5Y細胞及びプロカスパーゼ−4をコードする核酸を導入したトランスフェクト細胞からなる群より選ばれた細胞である、請求項1記載の評価方法。
【請求項3】
該プロカスパーゼ−4を発現する細胞が、HEK293細胞又はHEK293T細胞に、プロカスパーゼ−4をコードする核酸を導入して得られたトランスフェクト細胞である、請求項1又は2記載の評価方法。
【請求項4】
(1)被検物質と、プロカスパーゼ−4を発現する細胞とを接触させるステップ、
(2)前記ステップ(1)で得られた細胞を、小胞体ストレスを引き起こす物質又はアミロイド−βの存在下に培養するステップ、及び
(3)前記ステップ(2)を行なった後の細胞について、アポトーシスに特異的な変化を調べるステップ、
を含む、請求項1〜3いずれか1項に記載の評価方法。
【請求項5】
(A)プロカスパーゼ−4を発現する細胞を、被検物質と、小胞体ストレスを引き起こす物質又はアミロイド−βとの存在下に培養するステップ、及び
(B)前記ステップ(A)を行なった後の細胞について、アポトーシスに特異的な変化を調べるステップ、
を含む、請求項1〜4いずれか1項に記載の評価方法。
【請求項6】
カスパーゼ−4の基質の存在下に、被検物質の存在により引き起こされる動態の変化の有無を調べる、請求項1〜5いずれか1項に記載の評価方法。
【請求項7】
該被検物質が、
a)プロカスパーゼ−4と結合する物質をスクリーニングするステップ、
b)前記ステップa)で得られた物質について、小胞体ストレスを引き起こす物質又はアミロイド−βの存在下に、プロカスパーゼ−4に接触させ、切断産物を生じる物質をスクリーニングするステップ、及び
c)前記ステップb)で得られた物質のカスパーゼ−4による切断部位に基づき、該物質の切断部位周辺を含む誘導体として被検物質を作製するステップ、
を行なうことにより得られた物質である、請求項1〜6いずれか1項に記載の評価方法。
【請求項8】
該被検物質が、カスパーゼ−4の基質の誘導体、該基質のミミック及び該カスパーゼ−4に結合しうる物質からなる群より選ばれた物質である、請求項1〜7いずれか1項に記載の評価方法。
【請求項9】
該動態が、核凝縮、染色体の断片化、細胞凝縮、MTSの放出、プロカスパーゼ−4の切断、乳酸脱水素酵素の放出及びカスパーゼ−4の基質から生じる産物の生成からなる群より選ばれた少なくとも1種の事象である、請求項1〜8いずれか1項に記載の評価方法。
【請求項10】
プロカスパーゼ−4を発現する細胞と、小胞体ストレスを引き起こす物質又はアミロイド−βと、被検物質と該細胞との接触に適した試薬とを含有してなる、請求項1〜9いずれか1項に記載の評価方法を行なうための、小胞体ストレス誘導性アポトーシス及び/又はアミロイド−β誘導性アポトーシスに作用しうる物質の評価用キット。
【請求項11】
請求項1〜9いずれか1項に記載の評価方法により評価された物質であって、かつ小胞体ストレス誘導性アポトーシス及び/又はアミロイド−β誘導性アポトーシスに作用しうる物質を有効成分として含有してなる、医薬組成物。
【請求項12】
該物質が、プロカスパーゼ−4又はカスパーゼ−4に特異的なsiRNA又はカスパーゼ−4をコードする核酸に対するアンチセンス核酸である、請求項11記載の医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−34288(P2006−34288A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−180950(P2005−180950)
【出願日】平成17年6月21日(2005.6.21)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 
【出願人】(000002819)大正製薬株式会社 (437)
【Fターム(参考)】