説明

小豆飲料及びその製造方法

【課題】 製造時間を短縮し、風味が良好で小豆由来成分を豊富に含んだ小豆飲料を提供する。
【解決手段】 小豆粉砕物、水及び調味料を含有する飲料原料を容器に収容して封止し、レトルト加熱することにより小豆飲料を製造する。小豆飲料は、小豆由来成分、調味料及び水を含有し、小豆由来成分はポリフェノール、リン及びカリウムを含み、ポリフェノールの含有量は、30〜80mg/(100g小豆飲料)であり、カリウム含有量/リン含有量の比率が3〜4である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小豆飲料及びその製造方法、より詳細には、製造に要する時間が短かく、得られる小豆飲料の風味を損なうことなく原料が本来有する機能成分を無駄なく飲料に利用できる小豆飲料の製造方法、及び、風味が良好で小豆由来の成分を豊富に含んだ小豆飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、お汁粉は、乾燥生小豆を熱水で蒸煮して餡粒子を形成した膨潤小豆を砂糖等の調味料と共に炊くことによって得られる。蒸煮において、小豆の種皮や子葉部に含まれるタンニン、サポニン、ゴム質等の風味を損なう有機・無機成分(あく)が溶出するので、これを煮汁と共に取り除いた後に調味する。
【0003】
缶飲料としての小豆飲料についても、同様の製法が採られ、蒸煮した小豆から得られるお汁粉を、ドリンクとして適した濃度及び風味に適宜調製し、缶に封入してレトルト殺菌処理を行った後、缶入り小豆飲料として市場に提供される。製品の風味改善や機能成分の有効利用等を目的として、幾つかの製造方法が提案されており、例えば、下記特許文献1には、雑味成分をあん細胞内に取り込むことを目的として、蒸煮した小豆を一旦急冷するお汁粉タイプ飲料の製造方法(参照)が記載され、下記特許文献2では、所定の加熱条件で小豆から抽出される抽出液を用いて飲料を調製する健康飲料の製造方法が記載されている。
【特許文献1】特開昭53−133673号公報
【特許文献2】特開2002−171948号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のように、小豆を利用したドリンクの製造においては、乾燥生小豆をそのまま蒸煮又は加熱する。しかし、小豆の蒸煮には時間がかかり、通常、数時間を必要とする。しかも、蒸煮した小豆を用いて工業的に製造した缶飲料のお汁粉は、香りが弱い。また、あくを除去するために、煮汁は捨てられて蒸煮した小豆のみが利用されるので、煮汁に含まれる有用な成分を無駄にしているという面もある。上記特許文献2のような抽出の場合も、小豆の成分の一部のみを利用し、抽出されない成分は無駄になる。
【0005】
本発明の課題は、製造に要する時間を短縮可能な小豆飲料の製造方法を提供するとともに、小豆に含まれる有用な成分を無駄にすることなく有効利用できる小豆飲料の製造方法、及び、風味が良好で小豆由来の成分を豊富に含んだ小豆飲料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、製造時間を短縮でき、風味を損ねることなく、小豆由来成分を豊富に含んだ小豆飲料を製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明の一態様によれば、小豆飲料の製造方法は、小豆粉砕物、水及び調味料を含有する飲料原料を容器に収容して封止し、レトルト加熱することを要旨とする。
【0008】
また、本発明の一態様によれば、小豆飲料は、小豆由来成分、調味料及び水を含有する小豆飲料であって、前記小豆由来成分はポリフェノール、リン及びカリウムを含み、前記ポリフェノールの含有量は、30〜80mg/(100g小豆飲料)であり、カリウム含有量/リン含有量の比率が2.5〜4であることを要旨とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、小豆飲料の製造に要する時間を従来より短縮でき、小豆に含まれる有用成分を無駄にすることなく有効に利用できる小豆飲料の製造を提供できる。又、風味が良好で、小豆由来の成分を豊富に含有した小豆飲料を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
小豆から小豆飲料を調製する一般的な方法では、乾燥生小豆を蒸煮する際に、風味を損なう渋味等を煮汁から除去するために渋切りが行われる。渋切りは、煮汁を捨てる工程であり、費用や手間がかかる。また、渋味の成分は、小豆から溶出するタンニンやサポニンなどであると考えられるが、これらと共に、他のポリフェノール類等を含む多種の有効成分も煮汁に溶出するので、渋切りによって様々な有用な成分が失われる。従って、小豆の蒸煮においては、長時間を要する点だけでなく、有用成分が十分に利用できず無駄になる点も問題となる。
【0011】
本発明では、小豆の蒸煮及び渋切りを行わずに小豆飲料を製造するために、乾燥生小豆を粉砕して得られる小豆粉砕物を用いる。小豆粉砕物は、水に分散した状態で、砂糖、塩、澱粉等の調味料と共に缶等の飲料用容器に収容して封止し、レトルト加熱(封止加熱)処理を施すことによって小豆の加熱と殺菌とを容器中で同時に行う。小豆粉砕物は、レトルト加熱によって、蒸煮の場合と同様に餡粒子を形成し、これと共に、渋味、苦味等を呈する不快呈味も低減する。不快呈味の低減は、小豆サポニンやタンニン等の不快呈味成分がレトルト加熱によって構造変化することによるもので、大豆の場合に加熱条件下で大豆サポニンの構造が変化して苦味が低減することと同様の反応を起こすものと考えられる。
【0012】
以下に、本発明の小豆飲料の製造方法について詳細に説明する。
【0013】
本発明では、まず、乾燥生小豆を粉砕した小豆粉砕物の水性分散液を用意する。レトルト加熱において良好な餡が形成される好適な水性分散液は、分散する小豆粉砕物の粒径によって形成される餡の滑らかさや食感が異なり、滑らかな餡を形成するには、小豆粉砕物の粒径が約3mm未満、好ましくは5〜300μ程度の微小なものを用い、約3mm以上の粗い粒を使用すると、飲料の食感に厚みが付与される。但し、粒径が大き過ぎると加熱後も不快呈味成分が残留し易くなり、餡形成に要する時間も長くなるので、7mm程度以下の粉砕物が好ましい(尚、本願において、小豆粉砕物の粒径は、分析ふるいを用いて決定した値を用いる)。小豆粉砕物は、ミル等のような一般的な粉砕装置を用いて乾燥生小豆を粉砕することによって得られるので、上述のような粒径に粉砕された乾燥生小豆に水を添加して攪拌混合することによって、好適な小豆粉砕物の水分散液が得られる。また、黒豆、おたふく豆、花豆、コーヒー豆等のポリフェノール含有量が高い他の豆類を小豆と共に用いることもでき、その場合、小豆と同様に粉砕して使用すればよい。
【0014】
小豆粉砕物の水性分散液は、調味料の添加及び水を用いた濃度調整を行って最終飲料製品の組成に対応した飲料原料とし、容器に充填される。調味料としては、上白糖、グラニュー糖、果糖、麦芽糖、オリゴ糖等の糖質、食塩等の塩分や、糖脂肪酸エステル等の乳化剤、レシチン、澱粉、デキストリン、キサンタンガムなどの添加剤を用いてもよく、これら以外に、通常の飲料・食品製造に用いられる添加剤を必要に応じて適宜使用することができ、調味料及び添加剤の使用量は必要に応じて適宜設定すればよい。添加剤を用いる場合は、上記の調味料と同時に配合しても別途加えても良い。調味料及び添加剤は、水又は熱水に分散・溶解して調味液を調製した後に小豆粉砕物の分散液に添加すると、均一に混合し易く、作業効率上好ましい。70〜75℃程度の熱水を用いると糖質等が溶解し易いので有利である。調味料及び添加剤を必要に応じて添加した水性分散液は、最終飲料製品に対応した濃度となるように水又は熱水を用いて小豆粉砕物の含有割合を調整して飲料原料とする。飲料原料100g中の小豆粉砕物の割合が3〜10g程度、好ましくは3.5〜9gとなるように調整すると、従来の小豆飲料の場合と同様に好適な濃度の飲料が得られる。小豆粉砕物(特に粒径が3mm未満の微粉砕物)の量が少ないと風味が不足し、過剰であると飲料の粘度が高く容器から出難くなるので、3mm未満の微粉砕物が飲料原料100g中0.5〜6g程度であることが好ましく、より好ましくは2〜5gである。また、粒径が3mm以上の小豆粉砕物の量が過剰であると不快呈味成分が残留し易くなるので、3mm以上の粒子は飲料原料100g中約5g以下であることが好ましい。
【0015】
小豆粉砕物等の配合割合を調整した飲料原料は、飲料用の容器に充填して封止し、レトルト加熱により殺菌処理する。小豆粉砕物、調味料・添加剤及び水の配合及び飲料原料の調整を容器内で行ってもよい。容器は、缶、レトルト食品用パッケージ等の封止加熱が可能な耐熱・耐圧性のものであれば特に限定することなく使用できる。レトルト加熱によって、内容物は加圧状態で加熱され、常圧での加熱の場合より煮込み・餡形成等の調理が容易になる。殺菌を目的とするレトルト加熱はF値が50以上、好ましくは70〜100程度となる加熱条件が適切であり、本発明の小豆飲料の製造の場合は、更に、餡形成及び渋味成分等の分解を考慮して、加熱温度を105℃超、好ましくは約110〜140℃、より好ましくは125〜130℃程度に設定する。加熱時間は、約20分以上が適切であり、好ましくは30〜60分程度とする。加熱温度を低く設定する場合は加熱時間を長くすることが望ましく、加熱温度が105℃以下であると、餡形成及び殺菌に要する時間が長くなって小豆飲料の製造時間の短縮が困難になり、渋味成分等も残り易くなる。125〜130℃での加熱温度では、40〜45分程度の加熱時間で小豆飲料が完成し、殺菌にも十分である。小豆が粉砕物であることによって吸水及び熱伝導が促進され、餡形成も均一に進行するので、餡形成後の加工・処理が不要である。又、上述のような高温で加熱されることによって、通常の100℃以下での蒸煮の場合よりも餡形成が促進され、渋味成分等の構造変化が起こる。この結果、本発明においては、殺菌、小豆の加熱による餡形成及び不快呈味成分の消失がレトルト加熱によって同時に達成される。
【0016】
小豆粉砕物の水性分散液から製造される小豆飲料は、微小な小豆粉砕物を用いれば、均一で滑らかな食感になり、粗い粉砕物を用いれば固形物の食感が得られる。小豆飲料に小豆粒の食感を加えるには、生小豆の粒又は種皮形状が残るサイズに小豆粒を破断した破断粒を飲料原料に配合することが有効である。小豆粒又は破断粒は、乾燥したものであっても吸水したものであってもよく、容器の封止以前の何れの時点において添加しても良いが、水性分散液の摩砕を行う場合は、摩砕後から容器封止前において添加する。例えば、調味液と共に小豆粉砕物の水性分散液に添加したり、調味及び濃度調整後の小豆粉砕物分散液を容器に充填する際に加えることができる。
【0017】
容器中でのレトルト加熱による餡形成では、小豆粉砕物が沈降すると、容器下部の内容物の粘性が過度に高くなって固まりが生じたり内容物が不均質になるおそれがある。これを防止して容器中で好適な餡を均一に形成するのに有効な方法として以下の2つの方法があり、適宜選択して採用することができる。
【0018】
第一の方法として、レトルト加熱を行う際に回転レトルト機、振とう機等を使用して、容器を回転又は揺動しながら加熱する方法がある。このように容器を動かすことにより、小豆粉砕物の沈降が抑制され、内容物の粘度が局所的に上昇することを防止できる。この際、容器内の内容物に粒のままの小豆が含まれていると、これが攪拌子として機能して、容器の回転・振とうによる小豆粉砕物の沈殿防止及び均一分散を促進する。但し、攪拌子としての機能については、小豆を比較的大きい粒径に破断した粗粉砕粒を用いても有効であり、小豆粒自体は不快呈味成分が残留し易いので使用は少量に止め、粒径が約3mm以上の粗粉砕粒を使用することが望ましい。破断粒の量は、小豆粉砕物総量に対して3/10〜9/10程度(乾燥物質量比)、好ましくは4/10〜8/10とすると好適である。
【0019】
第二の方法として、飲料原料を容器に充填する前に、飲料原料又は小豆粉砕物の水性分散液を攪拌しながら予備加熱する方法がある。予備加熱は、レトルト加熱より低い温度で行い、これによって穏やかな餡形成が僅かに進行して分散液の粘度が若干増加し、小豆粉砕物が沈降し難くなる。従って、容器に収容した後のレトルト加熱で餡形成が均一に進行し易くなる。また、加熱によって澱粉が膨潤することも、小豆粉砕物の沈降を抑制する上で有効に作用する。予備加熱の温度は85〜110℃程度、加熱時間は10〜15分程度が好ましい。予備加熱は、小豆粉砕物の分散液の摩砕前、摩砕中、摩砕後、調味液の配合前又は配合後の何れであっても良い。増粘剤を飲料原料に配合して粘性を付与することによっても、予備加熱と同様に小豆粉砕物の沈降を防止できる。
【0020】
上記第一の方法及び第二の方法を組み合わせて採用してもよい。この場合、第一の方法における容器の揺動の程度及び第二の方法の予備加熱による粘度の増加程度をある程度小さくすることが可能となるので、容器への充填に用いる装置やレトルト加熱装置の選択肢が性能上の都合によって制限されることを避けられる。
【0021】
上記のような製造方法によって、渋切りなどの手間を省くことができ、製造時間を短縮できる。また、煮汁に溶出する成分を捨てることがなく、小豆に含まれる全ての成分が容器中に収容されるので、小豆の有用成分が効率的に利用されると共に、廃液処理が不要になり、渋切りに使用される燐酸塩の残留もない。また、小豆の全成分が容器に投入されるので、得られるお汁粉の風味が強くなり、渋味成分はレトルト加熱によって変化して不快風味は顕著に軽減される。
【0022】
このようにして得られる小豆飲料は、原料小豆に含まれる成分が外部へ流出する処理を一切経ていないので、従来製法(渋切りによる)に比べてカリウム、鉄、マグネシウム等のミネラルやビタミンB1等のビタミン類、ポリフェノール化合物等の含有量が高く、種皮を除いていないので食物繊維も豊富である。特に、渋切りによって流出し易いカリウムが保持されるので、カリウム含有量/リン含有量の比率(以下、K/P比と称する)が従来製法の飲料より高い。各成分の含有量を具体的に示すと、生小豆10gを用いて飲料190gを製造した場合、本発明の小豆飲料100g中の総ポリフェノール含有量は30mg以上(30〜80mg程度)で、従来製法による場合の15〜20mg程度よりかなり高い。カリウム含有量も60mg以上(60〜150mg程度)と高く、リン含有量は20〜50mg程度である。K/P比は約3以上(3〜4程度)になり、従来製法による場合の1.8程度に比べて高い。理論的には、小豆由来成分の含有量は、使用する小豆の割合を増加すれば高くなるが、実際には、飲料の粘度上昇等により使用割合に限界があり、飲料製品として可能な総ポリフェノールの含有量の最大値は85mg/100g程度となる。また、使用する原料小豆の量が同じである飲料の官能評価において、本発明の製法で得られる小豆飲料は、従来製法による飲料より風味が強くなるので、本発明の製法によって、小豆の使用量を節約しつつ、小豆由来成分を豊富に含んだ飲料を提供できる。
【0023】
小豆飲料の官能試験による評価を調べると、風味の濃さ、厚みが良好に感じられる小豆飲料は、総ポリフェノール含有量/(K/P値)の比率(以下、χ比と称する)が12.5〜26の範囲にある傾向が見られ、特に12.6〜20の範囲が好適である。原料小豆の使用量が同じ場合に、従来製法による飲料のχ比は、本発明製法による飲料より低く、風味が弱い。従来製法よってχ比を高めるには、使用小豆量を増加するか、又は、カテキン製剤等の添加剤による調整が必要となる。本発明の製法では、小豆粉砕物の粒径を小さくするとχ比が増加するので、小豆粉砕物の粒径を飲料の風味調整に利用することができる。本発明の製法においてこのようなχ比の小豆飲料を調製すると、K/P値が約2.5〜4、総ポリフェノール含有量が約30〜80mg/100gの範囲になる。
【0024】
渋味やえぐみは、小豆飲料の粘度を調整することによって軽減でき、飲料の経時的な性状保持性も向上する。この点において好ましい粘度は約30〜1500mPa・sである。また、小豆飲料中の粒子は食感に影響を与え、粒径が3〜7mm程度の小豆粒子の含有割合が飲料質量の8.5〜25.0%であると好適である。飲料原料中の小豆粉砕物は、レトルト加熱中に膨潤して粒径が180〜250%程度増大し、その程度は加熱条件によって調節可能であるので、飲料原料に配合する小豆粉砕物の粒径及び加熱条件によって小豆飲料の粒度を調節可能である。
【0025】
以下、実施例を参照して、本発明の小豆飲料の製造方法について具体的に説明する。
【実施例1】
【0026】
粉砕度の異なる2種類のミルを用いて乾燥生小豆(北海小豆)を粉砕して、粒径が3〜7mmの粗粉砕小豆と、粒径が5〜300μm(平均粒度30μm)の微粉砕小豆とを用意した。これらを1:1の質量比で混合した粉砕小豆混合物10gを飲料用缶に投入した。
【0027】
グラニュー糖27gを75℃程度の温水に溶解して、更に、食塩0.3g、澱粉(商品名:グルメスター・フードスターチF403、松谷化学工業(株)社製)3g及びキサンタンガム(商品名:ミニットGR、大日本製薬(株)社製)0.2gを添加して均一に混合した後、温水を加えて全量が180.25gになるように濃度を調整した調味液を得た。これを、上記粉砕小豆混合物の入った缶に投入して缶中で飲料原料を調製した後、缶を封止した。
【0028】
上記缶を回転レトルト機にセットし、缶を回転させながら128℃で44分間レトルト加熱した。この後、缶を回転レトルト機から外して室温まで冷却し、缶を開封して内容物を取り出したところ、均一で滑らかな液状の小豆飲料が得られ、高粘性沈殿物は見られなかった。小豆飲料の比重は、1.0741であった。小豆飲料の成分分析を、カリウムは原子吸光光度法により、鉄、マグネシウム、亜鉛及びリンはICP発光分析法により、ビタミンB1はHPLC法により、総ポリフェノールはFOLIN-DENIS法によって行い、各々の含有量を測定した。その結果、カリウム:724.59mg/L、鉄:3.01mg/L、マグネシウム:66.44mg/L、亜鉛:1.14mg/L、リン:197.24mg/L、ビタミンB1:0.10mg/L、総ポリフェノール:0.62mg/Lであった。
【0029】
(比較例)
乾燥生小豆(北海小豆)5gに、水を加えて加熱蒸煮した後に水を除去して小豆を水洗することによって渋切りを行った。この渋切り操作を再度行って、得られた小豆を半分ずつに分け、一方の半量を粒用煮小豆とし、他の半量の小豆に更に水切り操作を施してベース用煮小豆とした。
【0030】
ベース用煮小豆にグラニュー糖30g及び数倍容量の温水を加えて攪拌混合し、マスコロイダーを用いて磨砕した後、食塩0.3g、澱粉3.0g、環状オリゴ糖2.0g及び微量のpH調整剤を温水に混合溶解した調味液を加えた。これに粒用煮小豆を加えて均一に混合し、使用した乾燥生小豆の質量に基づいて、190g中に含まれる小豆量が使用乾燥小豆10gに相当するように水を加えて濃度を調整して飲料原料とした。
【0031】
上記飲料原料190gを飲料用缶に投入して缶を封止し、回転レトルト機にセットし、缶を回転させながら128℃で40分間レトルト加熱により殺菌した。この後、缶を回転レトルト機から外して室温まで冷却し、缶を開封して内容物を取り出したところ、小豆粒を含む滑らかな液状の小豆飲料が得られ、高粘性沈殿物は見られなかった。小豆飲料の比重は1.0654であった。小豆飲料の成分分析を実施例1と同様に行ったところ、カリウム:244.99mg/L、鉄:2.08mg/L、マグネシウム:66.44mg/L、亜鉛:1.04mg/L、リン:155.72mg/L、総ポリフェノール:0.21mg/Lであった。
【0032】
(官能評価)
下記の6つの項目について、29人のパネラーにより、実施例1及び比較例で調製した小豆飲料の官能評価を行ったところ、結果は以下の通りであった。
【0033】
1)どちらの小豆飲料がおいしいか。
【0034】
実施例1:10名、比較例:13名、差はない:6名
2)小豆の香りはどちらが強いか。
【0035】
実施例1:10名、比較例1:11名、差はない:8名
3)苦味はどちらが強いか。
【0036】
実施例1:6名、比較例:3名、差はない:20名
4)渋味はどちらが強いか。
【0037】
実施例1:5名、比較例:3名、差はない:21名
5)液色はどちらがよいか。
【0038】
実施例1:15名、比較例:12名、差はない:2名
6)小豆の食感はどちらがよいか。
【0039】
実施例1:7名、比較例:13名、差はない:9名
上記の結果から、風味及び食感において、既存の製法による小豆飲料とはさほど差が見られないことが解る。また、甘味、塩味、粘性の強さ及び好みについて採ったアンケートの結果においても、実施例1と比較例とで特に差は見られなかった。
【実施例2】
【0040】
実施例1と同じ粗粉砕小豆及び微粉砕小豆を用いて以下の試料を作成した。
【0041】
<試料1〜8>
グラニュー糖160gに純水を加え、攪拌して溶解した後、更に、澱粉(商品名:グルメスター、松谷化学工業(株)社製)10g、キサンタンガム(商品名:ミニットGR、)1.0g及び食塩2.0gを添加して均一に混合して調味液Aを得た。
【0042】
次に、表1に示す量の上記微粉砕小豆を上記調味液Aに加えて均一に分散させ、75℃以上の熱水に乳化剤(商品名:シュガーエステルP1670、三菱化学フーズ(株)社製)1.0gを溶解した液を添加した。この液に、更に、純水を加えてバーミックスミキサーで粉砕した黒豆20g(水分を除いた量)を添加した後に1Lにメスアップして調整したものを80℃に昇温し、表1に示す量の粗粉砕小豆を投入した飲料用缶に投入し、缶内の内容量が190gになるように純水を加えて調整することによって試料1〜8の飲料原料を各々缶内で調製し、各缶を封止した。上記缶をレトルト機にセットし、128℃で40分間レトルト加熱して各々の小豆飲料を調製した。
【0043】
<試料9>
前記比較例において、ベース用煮小豆と粒用煮小豆の割合を8.5:2.5とし、飲料原料190g中に含まれる小豆量が使用乾燥小豆11gに相当するように濃度を変更したこと以外は同様にして小豆飲料を調製した。
【0044】
<試料10>
前記比較例において、飲料原料に塩化カリウム18mg/100gを添加し、飲料原料190g中に含まれる小豆量が使用乾燥小豆11gに相当するように濃度を変更したこと以外は同様にして小豆飲料を調製した。
【0045】
<試料の評価>
各缶を回転レトルト機から外して室温まで冷却し、缶を開封して缶を45度下に傾けて、得られた小豆飲料を300mlトールビーカーに注ぎ出した。この際、小豆飲料の缶口からの出具合及び状態、注ぎ出して5分後の小豆飲料の状態を観察した。
【0046】
得られた小豆飲料の成分分析を行い、ナトリウム、、カリウム、鉄、マグネシウム、リン及び総ポリフェノールの含有量(mg/100g)を測定した。この際、ナトリウムは原子吸光光度法により、その他の成分は実施例1と同様に原子吸光光度法、ICP発光分析法、FOLIN-DENIS法によって行った。結果を表1に示す。尚、表1中、「−」が記載される項目は、測定を行っていない。
【0047】
また、パネラー10名により、得られた小豆飲料の官能評価を行った。良好と判断したパネラーの人数が5名以上の場合を○、2〜4名の場合を△、1名以下の場合を×として表1に示す。
【表1】

【実施例3】
【0048】
飲料原料中の小豆粉砕物の割合を9.75g/190gに変更したこと以外は実施例1と同様にして小豆飲料を調製し、カリウム、鉄、マグネシウム、亜鉛及びビタミンB1の含有量を測定した。ビタミンB1の測定はHPLC法によって、他の成分については実施例1と同様に行った。その結果、カリウム:726.67mg/L、鉄:2.80mg/L、マグネシウム:62.29mg/L、亜鉛:1.25mg/L、ビタミンB1:0.21mg/Lであった。尚、小豆飲料の比重は,1.0741であった。
【実施例4】
【0049】
原料小豆を異なる種類の小豆に変更したこと以外は実施例1と同様にして小豆飲料を調製し、カリウム、鉄、マグネシウム、亜鉛及びビタミンB1の含有量を測定した。ビタミンB1の測定はHPLC法によって、他の成分については実施例1と同様に行った。その結果、カリウム:1297.63mg/L、鉄:5.81mg/L、マグネシウム:120.32mg/L、亜鉛:2.08mg/L、ビタミンB1:0.10mg/Lであった。尚、小豆飲料の比重は,1.0741であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
小豆粉砕物、水及び調味料を含有する飲料原料を容器に収容して封止し、レトルト加熱することを特徴とする小豆飲料の製造方法。
【請求項2】
前記レトルト加熱は、105℃を超える温度で20分間以上行う請求項1記載の小豆飲料の製造方法。
【請求項3】
前記小豆粉砕物は、粒子サイズが3mm未満の微粉砕物を含み、前記飲料原料100g中の前記微粉砕物の量は0.5〜6gであることを特徴とする請求項1又は2記載の小豆飲料の製造方法。
【請求項4】
前記水性分散液を、前記容器に収容する前に、摩砕することを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の小豆飲料の製造方法。
【請求項5】
前記水性分散液を、前記容器に収容する前に、攪拌しながら85〜110℃に10〜15分間予備加熱することを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の小豆飲料の製造方法。
【請求項6】
前記レトルト加熱は、前記容器を動かしながら行うことを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の小豆飲料の製造方法。
【請求項7】
前記小豆粉砕物は、粒子サイズが3mm以上の粗粉砕物を含有し、前記飲料原料100g中の前記粗粉砕物の量は5g以下である請求項1〜6の何れかに記載の小豆飲料の製造方法。
【請求項8】
前記飲料原料は、粒小豆を含有する請求項1〜7の何れかに記載の小豆飲料の製造方法。
【請求項9】
小豆由来成分、調味料及び水を含有する小豆飲料であって、前記小豆由来成分はポリフェノール、リン及びカリウムを含み、前記ポリフェノールの含有量は、30〜80mg/(100g小豆飲料)であり、カリウム含有量/リン含有量の比率が3〜4である小豆飲料。
【請求項10】
前記カリウム含有量/リン含有量の比率に対するポリフェノール含有量の割合は、12.5〜26である請求項9記載の小豆飲料。

【公開番号】特開2007−61023(P2007−61023A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−252837(P2005−252837)
【出願日】平成17年8月31日(2005.8.31)
【出願人】(591014972)株式会社 伊藤園 (213)
【Fターム(参考)】