説明

少なくとも1層のプライマー層を有する鋼材、及び鋼材用プライマー組成物

【課題】溶接性に優れる、少なくとも1層のプライマー層を有する鋼材を提供すること。
【解決手段】少なくとも1層のプライマー層を有する鋼材であって、上記プライマー層が、テトラアルキルシリケートの縮合物10〜30質量%と、アルミ粉末および亜鉛粉末からなる粉末計20〜40質量%と、導電性顔料および体質顔料からなる顔料計30〜70質量%とからなること、上記粉末において、アルミ粉末:亜鉛粉末の比率が、質量で5:95〜20:80であること、そして
上記顔料において、導電性顔料:体質顔料の比率が、質量で50:50〜99:1であることを特徴とするプライマー層を有する鋼材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接後の溶接ビード中の欠陥が非常に少なく溶接性に優れる、少なくとも1層のプライマー層を有する鋼材を提供することに関する。本発明はまた、溶接後の溶接ビード中の欠陥が非常に少ない溶接性に優れる、少なくとも1層のプライマー層を有する鋼材を提供することができるプライマー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、船舶、橋梁、プラント等の鉄鋼構造物を製造する場合、加工、組み立て期間中の鋼材の発錆を防止するために、防錆処理を施した鋼材が用いられている。ごく一般的な防錆処理としては、鋼材をブラスト処理などで表面清浄したのち、一次防錆プライマーを塗装することなどが挙げられる。
【0003】
こうした一次防錆プライマーに求められる機能としては、一般的には、(1)得られたプライマー層が少なくとも3か月程度の暴露防食性を有すること(2)プライマー層が鋼材と強固に密着し、さらに上塗り塗膜との付着性にも優れることなどに加え、(3)プライマー層を有する鋼材を溶接する際に、ピット、ブローホール等の溶接欠陥を生じさせないことが挙げられる。
【0004】
このような一次防錆プライマーとしては、防錆性に優れるジンクリッチプライマーが多く用いられている。一般のジンクリッチプライマーは、大量の亜鉛末を有機系または無機系の結合剤と混合することにより得られ、塗膜中の亜鉛と鋼材面との間の電気化学作用による犠牲防食作用、亜鉛の酸化生成物被膜層による酸素、水等の遮断作用により優れた防錆効果がもたらされる。
【0005】
しかしながら、このジンクリッチプライマーは、皮膜中の亜鉛末含有率が30〜95質量%と高いため、溶接時に亜鉛ヒュームが多く発生し、この亜鉛ヒュームガスにより、ブローホール、ピット等の溶接欠陥が発生し、溶接性が低下してしまう。
この溶接欠陥の抑制を目的とする検討はこれまでにも多くなされ、複数の文献に開示されている。
【0006】
特許文献1には、珪酸エステル初期縮合物、亜鉛末、およびモリブデン含有顔料を含有する無機ジンクショッププライマー塗膜が開示されている。しかし、特許文献1に記載のプライマー塗膜は、防錆性及び溶接性に優れ、ピット、ブローホールが非常に少ないとされているが、ピット、ブローホールの発生を完全に抑制することはできない。
【0007】
特許文献2には、塗膜の密着性、耐熱性に優れ、溶接時の高温にさらされても防錆性が低下しない耐熱性一次防錆プライマー組成物を得ることを目的し、テトラアルキルシリケートの加水分解縮合物からなる結合剤、亜鉛末、フェロシリコンを配合してなる耐熱性一次防錆プライマー組成物が開示されている。しかし、特許文献2のプライマー組成物は、耐熱防錆性が主目的であり、溶接性が不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5−339521号公報
【特許文献2】特開平5−117553号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来のジンクリッチプライマーでは、屋外での防錆性と溶接性との両立が考慮されているが、特に防錆性が重視される傾向にあって、非常に高い防錆性を有するものの、溶接性に関しては必ずしも満足のいく性能が得られていない。一方、例えば、橋梁製作等のように、屋内で構造材の組み立が行われるような場合には、防錆性が顕著であることよりも、溶接性に優れること、例えば、溶接欠陥がほとんどないことが重要である。
従って、本発明は、防錆性を有し、且つ溶接欠陥がほとんどない優れた溶接性を有する、少なくとも1層のプライマー層を有する鋼材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、溶接時の欠陥を発生させるガスの生成を抑制するために、ガス発生の原因となる亜鉛粉末に着目し、防錆効果および亜鉛の蒸発を抑制する効果を有するアルミ粉末を添加することで、亜鉛含有率を低減させ、また、水素や炭素元素含有率の少ないバインダー樹脂の選定、樹脂含有率の抑制、などについて検討すると共に亜鉛量の低下による導電性低下と防食性の低下を補うための代替添加剤等について鋭意検討し、本発明の構成を見出した。
【0011】
すなわち、本発明の要旨は、
(1)少なくとも1層のプライマー層を有する鋼材であって、
上記プライマー層が、テトラアルキルシリケートの縮合物10〜30質量%と、アルミ粉末および亜鉛粉末からなる粉末計20〜40質量%と、導電性顔料および体質顔料からなる顔料計30〜70質量%とを含むこと、
上記粉末において、アルミ粉末:亜鉛粉末の質量比が、5:95〜20:80であること、そして
上記顔料において、導電性顔料:体質顔料の質量比が、50:50〜99:1であること、
を特徴とする少なくとも1層のプライマー層を有する鋼材、
【0012】
(2)上記導電性顔料が、リン鉄、フェロシリコン、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、(1)に記載の少なくとも1層のプライマー層を有する鋼材、
(3)上記体質顔料が、シリカ、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、(1)または(2)に記載の少なくとも1層のプライマー層を有する鋼材、
【0013】
(4)テトラアルキルシリケート、当該テトラアルキルシリケートの加水分解物及び/又は当該テトラアルキルシリケートの縮合物10〜40質量部と、アルミ粉末および亜鉛粉末からなる粉末計20〜40質量部と、導電性顔料および体質顔料からなる顔料30〜70質量部とを含む鋼材用プライマー組成物であって、
上記粉末において、アルミ粉末:亜鉛粉末の質量比が、5:95〜20:80であること、そして
上記顔料において、導電性顔料:体質顔料の質量比が、50:50〜99:1であること、
を特徴とする鋼材用プライマー組成物、
である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の溶接性に優れる、プライマー層を有する鋼材は、従来のジンクリッチプライマーを有する鋼材に比べ溶接性に優れ、溶接欠陥が非常に少なく、また、手入れ補修作業機会が減るために効率よく溶接作業をおこなうことができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0016】
上記プライマー層には、バインダー樹脂としてテトラアルキルシリケートの縮合物が含まれている。バインダー樹脂としてテトラアルキルシリケートの縮合物を用いると、他の有機系ポリマーを用いる場合と比べ、プライマー層中の水素及び炭素の含有率を低くする事ができ、溶接時におけるガス発生量が抑制され、溶接時の欠陥を防止できる。
【0017】
本明細書において、「テトラアルキルシリケート」としては、4つのC1〜4のアルキル基、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル基を有するシリケート、例えば、テトラメチルシリケート、テトラエチルシリケート、テトラn−プロピルシリケート、テトライソプロピルシリケート、テトラn−ブチルシリケートが挙げられる。なお、上記テトラアルキルシリケート1分子における4つのアルキル基は、同一であってもよく、又は異なっていてもよい。
【0018】
本明細書において、「テトラアルキルシリケートの縮合物」は、上記テトラアルキルシリケートを、水と、塩酸、硫酸、硝酸、酢酸等の触媒とのもとで加水分解し、そして縮合反応させた反応物である。その中でも、テトラエトキシシリケート、テトラプロポキシシリケートの縮合物が、特に安定性に優れ、さらに水素量、炭素量が少なく好適である。
上記テトラアルキルシリケートの縮合物の市販品としては、例えば、日本コルコート社製のメチルシリケートシリーズ、エチルシリケートシリーズ(例えば、エチルシリケート40)等が挙げられ、そのまま、又はさらに縮合させて高分子量化して用いることができる。
【0019】
上記プライマー層中のテトラアルキルシリケートの縮合物の含有率は、10〜30質量%、好ましくは15〜30質量%である。10質量%未満では、十分な塗装性、塗膜形成性が得られず、また30質量%を超えると、耐熱性、防錆性が低下し、溶接時にもガス発生によるブローホールなどの欠陥が多くなり、好ましくない。
【0020】
上記プライマー層において、安定した溶接性を提供するためには、亜鉛の含有率は少ない方が有利であるが、防錆性確保のための最低量は確保する必要がある。そのため、本願発明においては、亜鉛粉末とアルミ粉末とを併用する。上記亜鉛粉末及びアルミ粉末の総含有率は、プライマー層中で20〜40質量%、好ましくは25〜30質量%である。
上記プライマー層中の含有率が20質量%未満の場合には、十分な防錆性が得られず、またプライマー層の含有率が40質量%を超えると、溶接時に亜鉛蒸発による溶接欠陥が多くなるため好ましくない。
【0021】
本明細書において、アルミ粉末:亜鉛粉末の質量比は、5:95〜20:80であり、10:90〜15:85であることが好ましい。安定的に塗布可能なプライマー層の厚さ10〜20μmにおいて、亜鉛粉末の比率が80を下回ると、犠牲防食性が相対的に低下する可能性があり、そして亜鉛粉末の比率が95を超えると、亜鉛の蒸発による溶接欠陥の抑制効果が十分ではなくなる。すなわち、作業性の良好なプライマー層厚みと、防食性と、溶接性とを適度に満足するためには、上記質量比が好適である。
【0022】
亜鉛粉末およびアルミ粉末は、2〜20μmの平均粒径を有することが望ましい。2μm未満では粉末の体積に対する表面積割合が大きくなるため、表面酸化されやすく、防食性が劣る。20μmを超えると、平滑性を確保するために塗装厚みを増す必要があり、ガス発生量が増えることになり、溶接欠陥が増える。
なお、上記亜鉛粉末及びアルミ粉末の平均粒径は、メディアン径(D50)、質量の粒径分布の累積値が50%を示す粒径により定義される粒径を意味する。
【0023】
亜鉛粉末およびアルミ粉末の製造方法には、特に制限はなく、例えば、アトマイズ法、粉砕法を挙げることができる。アトマイズ法では、球状又は楕円球状の粉末を容易に製造でき、一方、粉砕法では、球状又は楕円球状から逸脱した粒子が生成しやすいので、両者の比較ではアトマイズ法が適当である。
【0024】
上記プライマー層には、導電性顔料及び体質顔料からなる顔料が含まれている。
上記導電性顔料は、上記亜鉛粉末およびアルミ粉末量だけでは不十分な、溶接に必要な導電性を確保するための成分である。上記導電性顔料及び体質顔料はいずれも、1〜20μmの平均粒径を有することが望ましい。平均粒径が1μm未満の場合には、顔料同士が凝集しやすく、20μmを超えると膜強度が低下するため好ましくない。
なお、上記導電性顔料及び体質顔料の平均粒径は、メディアン径(D50)、質量の粒径分布の累積値が50%を示す粒径により定義される粒径を意味する。
【0025】
上記プライマー層中の顔料の含有率は、30〜70質量%であり、好ましくは35〜50質量%である。顔料の含有率が30質量%を下回ると、亜鉛又はアルミ粉末、又はエチルシリケートの含有量が多くなるために溶接欠陥が増加することとなり、そして70質量%を上回ると、亜鉛又はアルミ粉末の含有量減るために防食性が低下することとなる。
【0026】
上記顔料において、上記導電性顔料:体質顔料の質量比は、50:50〜99:1、好ましくは60:40〜90:10である。導電性顔料の比率が50を下回ると、プライマー層の導電性が低下して、溶接時のスパッタや欠陥が多くなる原因となる。上記体質顔料は、プライマー層中の亜鉛粉末とアルミ粉末と導電性顔料との含有割合を調整するとともに、骨材として用いられる成分である。
【0027】
上記導電性顔料としては、分解温度が高く且つ溶接欠陥が出難いものを用いることが好ましく、特にフェロシリコン、リン鉄が好適である。
【0028】
上記体質顔料としては、溶接欠陥の出難い熱的に安定な顔料が望ましく、シリカ、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、モリブデン酸亜鉛などを用いることができる。
【0029】
本発明に用いられる鋼材としては、特に制限されず、例えば、JISのSM又はSMA鋼材などの溶接用鋼材を用いることができる。
なお、本明細書において、単に「鋼材」と表現する場合には、上記プライマーが塗装されていない素材としての鋼材を意味するが、表面にめっき処理がなされているものも含む。本明細書において、「少なくとも1層のプライマー層を有する鋼材」と表現する場合には、少なくとも1層のプライマー層が塗装されている鋼材を意味する。
【0030】
本発明の少なくとも1層のプライマーを有する鋼材は、少なくとも1層のプライマー層を含む。当該少なくとも1層のプライマー層とは、例えば、上記鋼材の上又は下に1層のプライマー層が存在する態様、鋼材の上に1層と下に1層との計2層のプライマー層が存在する態様、鋼材の上又は下に2層以上のプライマー層が存在する態様、又は鋼材の上下に計3層以上のプライマー層が存在する態様を意味する。
【0031】
本発明のプライマー組成物は、テトラアルキルシリケート、当該テトラアルキルシリケートの加水分解物及び/又は当該テトラアルキルシリケートの縮合物と、アルミ粉末および亜鉛粉末からなる粉末と、導電性顔料および体質顔料からなる顔料とを含む。本明細書において、「テトラアルキルシリケート」、「アルミ粉末」、「亜鉛粉末」、「導電性顔料」および「体質顔料」の用語は、上述の「少なくとも1層のプライマー層を有する鋼材」の項で説明したものと同一である。
【0032】
本発明のプライマー組成物において、テトラアルキルシリケート、当該テトラアルキルシリケートの加水分解物及び/又は当該テトラアルキルシリケートの縮合物と、アルミ粉末および亜鉛粉末からなる粉末と、導電性顔料および体質顔料からなる顔料とは、それぞれ、10〜40質量部と、20〜40質量部と、30〜70質量部との比率になるように配合されている。
【0033】
本明細書において、「テトラアルキルシリケート、当該テトラアルキルシリケートの加水分解物及び/又は当該テトラアルキルシリケートの縮合物」の用語は、(i)上述のテトラアルキルシリケートそのもの、(ii)上述のテトラアルキルシリケートの加水分解物、(iii)上述のテトラアルキルシリケートの縮合物のいずれの組み合わせをも含むことを意味する。
【0034】
本発明のプライマー組成物において、テトラアルキルシリケート、当該テトラアルキルシリケートの加水分解物及び/又は当該テトラアルキルシリケートの縮合物と、アルミ粉末および亜鉛粉末並びに顔料とは、混合された状態で保存すると、アルミ粉末および亜鉛粉末並びに顔料が凝集し、再分散することが難しくなるため、テトラアルキルシリケート、当該テトラアルキルシリケートの加水分解物及び/又は当該テトラアルキルシリケートの縮合物成分と、アルミ粉末および亜鉛粉末並びに顔料成分とを、別に保管する、いわゆる、2液型とすることが好ましい。
上記プライマー組成物の2つの成分を使用直前に混合し、エアレススプレー、エアースプレー、刷毛等の通常の塗装手段で、上記鋼材に塗付することができる。
【0035】
なお、上記プライマー層及びプライマー組成物は、着色顔料、耐湿顔料、触媒、防錆顔料、金属粉末、高周波損失剤、骨材等を含ませることも可能である。顔料としては、Ti、Al等の酸化物や複合酸化物などが挙げられる。防錆顔料としては、環境汚染物質を含まないモリブデン酸カルシウム、リンモリブデン酸カルシウム、リンモリブデン酸アルミニウムをはじめとしたリン酸塩、カルシウム塩、アルミニウム塩等の非クロム酸顔料を用いることが好ましい。また、高周波損失剤としてはZn−Niフェライトが、骨材としてはチタン酸カリウム繊維などがあげられる。
【実施例】
【0036】
以下、本発明を実施例に基づいて、具体的に説明する。
【0037】
[製造例1]
テトラエトキシシリケートの縮合物であるエチルシリケート40(日本コルコート社製、商品名)36質量部と、イソプロピルアルコール64質量部とを40℃で攪拌混合して、混合攪拌物を生成させた。次いで、この混合攪拌物96質量部に対し、1N−塩酸25質量部と水75質量%とからなる混合溶液4質量部を90分かけて滴下し、滴下後40℃でさらに4時間攪拌して、高分子量化されたテトラエチルシリケートの縮合物の溶液No.1を得た。
【0038】
[実施例1〜13及び比較例1〜9]
上記テトラエチルシリケートの縮合物の溶液No.1と、アルミ粉末および亜鉛粉末(それぞれ、平均粒径8μm)と、導電性顔料及び体質顔料(市販のフェロシリコン、リン鉄、シリカ、酸化亜鉛及び酸化鉄の粉末)をイソプロピルアルコール及びキシレン中に分散させた後に粘度調整したものとを混合して、塗装及び乾燥後のプライマー層の組成が、表1に示す組成となるように、プライマー組成物No.1〜No.22を製造した。
【0039】
【表1】

【0040】
プライマー組成物No.1〜No.22を、下記方法により評価した。結果を表2に示す。
【0041】
【表2】

【0042】
(1)防錆性試験
試験材として70×150×4mmのサンドブラスト厚鋼板(JIS SM490相当)を用い、各プライマー溶液をエアースプレーによって乾燥膜厚15μmになるように塗装し、JIS K 5600−7−1の耐中性塩水噴霧性試験を行った。
溶接性を重視する観点から、72時間後の白錆を、下記基準に従って評価した。
○:白錆発生率が10%未満である
×:白錆発生率が10%以上である
【0043】
(2)溶接性試験
試験材として100×500×12mmのショットブラスト厚鋼板(JIS SM490相当)を用い、各プライマー組成物をエアースプレーによって乾燥膜厚15μmになるように塗装し、20℃で1週間乾燥させて試験板を得た。ついで、上記試験板2枚を一組とし、下記の溶接条件で水平隅肉溶接を行なった。溶接は第1ビードを溶接後、放冷して第2ビードを溶接する順番で行ない、第2溶接ビードについて、下記基準に従って、ピット及びブローホールを評価した。
【0044】
[溶接条件]
溶接ワイヤー:SF−1 φ1.4mm,フラックス入(日鐵住金溶接工業(株)商品名)
溶接方法:炭酸ガスシールドアーク溶接
溶接速度:1000mm/min
電流:350A
電圧:35V
【0045】
[ピットの評価]
○:ピットが確認されなかった
×:ピットが確認された
【0046】
[ブローホールの評価]
X線透過撮影を行って溶接ビード内のブローホール発生率を調べ、ブロー発生率(=溶接部破断面における全気泡断面の最大幅の合計長さ/溶接長さ×100%)を測定した。
○:ブロー発生率が1%未満であった
×:ブロー発生率が1%以上であった
【0047】
表2から、テトラアルキルシリケートの縮合物と、アルミ粉末および亜鉛粉末と、導電性顔料および体質顔料とを本発明の範囲で組み合わせることにより、良好な溶接性及び防錆性が達成できることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の溶接性に優れる、少なくとも1層のプライマー層を有する鋼材は、多くの溶接を必要とする用途に用いることができ、特に屋内環境の組み立て作業に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1層のプライマー層を有する鋼材であって、
前記プライマー層が、テトラアルキルシリケートの縮合物10〜30質量%と、アルミ粉末および亜鉛粉末からなる粉末計20〜40質量%と、導電性顔料および体質顔料からなる顔料計30〜70質量%とを含むこと、
前記粉末において、アルミ粉末:亜鉛粉末の質量比が、5:95〜20:80であること、そして
前記顔料において、導電性顔料:体質顔料の質量比が、50:50〜99:1であること、
を特徴とする少なくとも1層のプライマー層を有する鋼材。
【請求項2】
前記導電性顔料が、リン鉄、フェロシリコン、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の少なくとも1層のプライマー層を有する鋼材。
【請求項3】
前記体質顔料が、シリカ、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1または2に記載の少なくとも1層のプライマー層を有する鋼材。
【請求項4】
テトラアルキルシリケート、当該テトラアルキルシリケートの加水分解物及び/又は当該テトラアルキルシリケートの縮合物10〜40質量部と、アルミ粉末および亜鉛粉末からなる粉末計20〜40質量部と、導電性顔料および体質顔料からなる顔料30〜70質量部とを含む鋼材用プライマー組成物であって、
前記粉末において、アルミ粉末:亜鉛粉末の質量比が、5:95〜20:80であること、そして
前記顔料において、導電性顔料:体質顔料の質量比が、50:50〜99:1であること、
を特徴とする鋼材用プライマー組成物。

【公開番号】特開2010−269497(P2010−269497A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−122452(P2009−122452)
【出願日】平成21年5月20日(2009.5.20)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】