説明

少量の液体の定量投与のための装置及び方法

【課題】ナノリットル程度の液体量を定量的に投与することが可能な投与装置及び投与方法を提供する。
【解決手段】投与装置において、本体1に取り付けられたフレキシブルベローズ5は、投与される液体で満たされた液体スペース15を形成し、投与チップ19と連通している。ベローズにはその動作のためのアクチュエータ7が設けられ、液体スペースを圧縮して、投与チップから液体ドーズを排出させる。アクチュエータ7は、磁石8と、電流コイル9から形成され、アクチュエータのこれら部材の一方は装置の本体に取り付けられ、他方の部材はベローズの可動端部6に移動可能に接続されている。磁気アクチュエータは、電流コイルを通過する電流の強さを変化させることによりベローズの移動を生じさせる。ベローズの端部の動きを直線化するために、等間隔をおいて配置された螺旋状ばね14から形成されるセントラライザを、投与装置の本体と可動部との間に配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少量の液体の定量投与のための投与装置であって、本体と、本体に取り付けられ液体スペースを形成するフレキシブルベローズと、液体スペースに連通する投与チップ(先端部)と、ベローズを移動させて液体スペースを圧縮することにより液体ドーズ(1回の投与分)を投与チップから排出させるためのアクチュエータとを有する投与装置に関する。
【0002】
また、本発明は、アクチュエータにより移動されるフレキシブルベローズと、ベローズと連通する投与チップにより少量の液体を定量的に投与する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
従来の液体投与装置においては、液体ドーズを排出するためのアクチュエータとして、シリンダー内で移動するピストンが用いられていた。このような投与装置の主な欠点は、シリンダーとピストンとの間の摺動摩擦と、ピストンの移動及び停止の設定の不正確さであり、その結果、少量の液体ドーズの正確な投与に必要な再現性が保障されない。
【0004】
フィンランド公報FI94675号(特許文献1)には、アクチュエータにより移動されるフレキシブルベローズにより形成される液体スペースを有するディスペンサーが開示されている。この公報において、アクチュエータは、旋回シャフトや圧電ロッドを介してベローズに連結されたステッピングモータ、又は、ベローズに対して直接作用するサーボモータである。シリンダ内で移動するピストンよりも、上記解決手段が大きく優れているのは、ベローズが、機械部分における摺動摩擦なしに移動し得るという点ある。この公報によれば、ベローズは、投与チップを介してディスペンサーの液体スペースに液体を吸引し、次に、投与工程において、ベローズを反対方向に移動することにより、液体ドーズが、この液体ドーズを受ける別の液体に浸漬された投与チップから排出される。
【0005】
フィンランド公報FI94675号(特許文献1)において実施例として記載されているディスペンサーにおいて、アクチュエータとして機能するステッピングモータの1ステップにおいて生じるベローズの容積変化は、約10マイクロリットルであり、これは、この場合に投与し得る理論上最少の液体量である。ステッピングモータは、多数のステップ位置を有し、上記最少量よりも多い液体量を投与する際には、モータは一つのステップ位置から他方のステップ位置に直接移行することはできず、各ステップ間隔において定められた速度変化を伴って、いくつかの連続するステップを通過しなければならない。これにより、本発明によるごく少量の液体ドーズの投与において重要な役割を果たすと見られる、投与動作の加速及び減速が制限されることになる。
【0006】
上記公報には、ナノリットル単位の液体量を投与することや、一度に一滴ずつ、液体を投与チップから空中に排出する液滴投与については記載されていない。
【0007】
フィンランド公報FI94675号(特許文献1)には、アクチュエータとして動作するサーボモータや圧電ロッドについては、シャフトを介してベローズに連結されたステッピングモータほど十分には記載されていない。しかし、動作の加速に関しては、サーボモータにもステッピングモータにも共に同様な制限が課される。特に、圧電ロッドの欠点は、連続的に多数の液体ドーズを投与するのに必要なベローズの行程のために、長い圧電ロッド及びユーザにとって危険な高電圧電源が必要となることである。この場合、ロッドと補助的な可動装置類の質量ならびにその操作時間もまた、動作の十分な加速に対する障害となる。
【0008】
ベローズにより移動される投与チップから空中に液体ドーズを投与することは、例えばフィンランド公報FI104891号(特許文献2)により知られている。この公報は、ベローズを用いて吸引チップに液体を吸い上げ、次いで、ベローズを反対方向に投与移動させることによって一度に一つずつ分包を充填することにより、液体ドーズを連続的に分包に投与することに関する。フィンランド公報FI94675号(特許文献1)とは異なり、液体は投与チップ内にのみ存在し、ベローズは空気で満たされている。この公報に記載されているように、この技術により達成される精度はあまり高くはなく、わずかに1%程度であり、上記公報によれば、投与されるドーズの量は5〜500マイクロリットルである。このように、上記公報は、ナノリットル単位の液体量を正確に投与することを可能にする手段を教示するものではない。
【0009】
印刷機において、インクジェットをピコリットル単位の量の液滴として排出することを利用した技術が知られている。しかしこの技術は、いくつかの連続した液滴を同一の点に集中させることに基づき、個々の液滴のサイズは正確には制御されない。印刷機に応用されるこの技術は、液体の定量投与のための適切な解決手段ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】フィンランド公報FI94675号
【特許文献2】フィンランド公報FI104891号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
このように、先行技術の欠点は、わずかにナノリットル程度の液体量を定量的に投与することを可能とする技術を欠いていることである。このような技術は、受容液体の表面と接触するか又はその中に浸漬されて上記受容液体中に投与量を直接排出する投与チップを用いた液体の投与において知られていないし、小さな液滴として空中に排出することにより液体を投与する技術においてももちろん知られていない。本発明の目的は、これらの欠点を排除する解決手段を見出すことである。本発明は、特に、臨床化学及び環境化学などの生物化学の分野における投与の需要に好適な、新たな投与技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、アクチュエータにより移動されるベローズと投与チップを有する本発明の投与装置は、アクチュエータが、相対的に移動して互いに磁気的に作用する2つの部材から成り、一方の部材は装置の本体に接続され、他方の部材はフレキシブルベローズに接続され、これら部材のうちのひとつは電流コイルであり、ベローズのフレキシブルな動きは、そのコイルを通過する電流の強さを変化させることにより生じることを特徴とする。
【0013】
磁性部材からなる、ベローズのアクチュエータの特徴は、コイルを通過する電流を連続的に制御できることである。このことにより、アクチュエータ及びアクチュエータに直接接続されたベローズの行程の選択された長さを、伝達手段なしに正確に調整することが可能となり、その結果、ベローズを備えた従来技術の投与手段に用いられるステッピングモータのステップの長さによる制限を受けることなく、投与される液体ドーズの選択された量を正確に調整することができる。この目的に適した、変化する電流により変動する磁界をベローズに作用する吸引力又は反発力に変換するコイルは、それ自体知られており、例えば、音響スピーカー用の音声コイルとして市販されている。通常、コイルの重量は数グラムで最大反発力は数キロポンドであり、このコイルは、これらのパラメータに対して非常に高い加速度で精度よく設定した微細な動きを生じさせることができる。このような高速動作は、数百もの連続する液体ドーズの長く連続した投与を行なうための装置を用いる場合に有用であり、特に、本発明の投与方法の説明に関して以下に詳細に説明するように、液体を投与チップから微小液滴として空中に投与することを可能とする。
【0014】
ベローズを駆動するアクチュエータは、装置の本体に取り付けた永久磁石と、ベローズのフレキシブル端部に配置した電流コイルから構成することができる。コイルを固定して配置し、永久磁石をコイルに対して移動させる逆の配置もまた有用である。
【0015】
本発明の投与装置は、好ましくは、ベローズの端部の動きに追従して、アクチュエータの可動部とベローズの端部の動きを直線化するフレキシブルセントラライザを備える。特に、液体を同量ずつ長く連続して正確に投与することは、実際にベローズの直線的な動きを必要とし、そこで、アクチュエータ自身がその移動の方向を制御しない場合には、セントラライザが必要となる。セントラライザは、好ましくは、三つ以上の螺旋状ばね(ヘリカルスプリング)から成り、これら螺旋状ばねは、一端において装置の本体に対して固定接続され、アクチュエータの可動部又はベローズの可動端部のまわりに、互いに等間隔をおいて並んで配置されている。
【0016】
ベローズとセントラライザのばね力が互いに反対方向に作用する場合には、ベローズの端部に対して、ばね力が互いに相殺される均衡点が見出される。このポイントは、アクチュエータの電流コイルに電流が流れていない場合にベローズの端部が静止するポイントである。ベローズの端部のこのゼロ位置はその行程上にあり、好ましくは、上記行程の中央付近か、正確にその中央にあり、これにより、電流コイルを通過する電流の方向によって、ベローズの端部がこのゼロ位置の両側を移動することが可能となる。この配置は、たとえば、多数の連続する液体ドーズを長く連続的に投与する場合に有用である。すなわち、液体スペースが投与される液体で満たされ、ベローズ端部の最端位置から投与を開始し、連続する液体ドーズを段階を追って投与する。まず、電流コイルを通過する電流を徐々に減少させてアクチュエータの磁気吸引力を弱め、ゼロ位置の通過の後、電流コイルを通過する電流の方向を逆転させアクチュエータの磁気反発力を徐々に高めることにより投与を続け、ベローズの端部がその移動行程の反対側の端部に到達すると連続的投与を完了する。上記ゼロ位置及び、その位置における電流の方向の変更により、アクチュエータに抗して作用するばね力を連続投与中に可能な限り小さくとどめることができる。ばねの作用に打ち勝つのに必要なコイルの吸引力及び反発力の比率が低くなればなるほど、少量の液体の正確な投与に必要な加速に用いられる力はより強くなる。
【0017】
本発明の装置の簡単な構造において、装置本体は円筒状ジャケットを有する。ベローズ及びそれに接続したアクチュエータの可動部は、ジャケットによって形成されたスペース内に、その中心軸上に連続配置される。この配置により、セントラライザをばねから形成し、その一端をジャケットの内表面に接続し、他端を装置の可動部に接続することが可能となる。
【0018】
上記装置において、ベローズにより形成される液体スペースは、ベローズ内部にあっても外部にあってもよい。液体スペースには、投与される液体のための充填チャネルが別に設けられているため、投与チップの役割は、液体ドーズを排出することのみである。これは、投与に必要な移動動作を減少させ、投与チップの有効使用を促進する。
【0019】
少量の液体を定量的に投与するための本発明の方法において、投与される液体を含む液体スペースを形成するフレキシブルベローズは、それに接続されたアクチュエータによって移動され、液体スペースを圧縮して液体スペースと連通する投与チップから液体ドーズを排出する。
【0020】
磁石と、磁石と協働する電流コイルからなるアクチュエータを備え、上記部材の一つは固定接続され、他方はベローズの端部を移動させる本発明の投与装置の本発明の使用において、コイルを通過する電流の強さを変化させ、その結果、磁石とコイルを互いに相対的にシフトさせてベローズの投与動作を生じさせることにより投与が行なわれる。投与は、ドーズを受ける液体中に直接排出することにより行なうことができ、この場合には、投与チップは上記受容液体と接触している。あるいは、液体を液滴として空中に投与してもよい。
【0021】
特に、投与チップを用いて液滴を投与するためには、本発明にかかる投与は、アクチュエータに送られる電流の強さを変化させてベローズの端部を加速動作に設定することにより投与チップから排出される液体に特定の初期加速を与える第一のステップと、上記電流の強さを逆方向に変化させてベローズの端部の動きを減速し、液滴を投与チップから鋭く分離させる第二のステップとを有する。このような手順は、磁石と電流コイルを有する上述のアクチュエータ、又は、アクチュエータに送られる電流を調節することによりベローズの端部の加速・減速動作を設定することが可能な同等のアクチュエータによって行なうことができる。
【0022】
液滴の投与は、例えば、まず電流コイルに、所望の液体量の数倍が生じるような磁界の変化ひいてはベローズの容量の変化を起こさせるだけの電流を流すことにより行なわれる。これにより、ベローズ内の液体が高加速で加圧され運動状態に設定される。高速投与動作の開始時において、フレキシブルベローズの弾性により、高圧が作用してふくらんだ折り目の中に液体が残り、投与チップへの液体の流れを形成する。つぎに、折り目のばね力が緩和されると、投与動作が、電流の方向の変更による減速が動作を中断させベローズがばねのように振動するようになるまで続けられる。このように急速に動作を中断することにより、液体の粘度によって1〜2m/sの速度で液滴がすばやく分離され、毛管力のもとで自由に形成し得る液滴のサイズ(水の場合、約40マイクロリットル)より数倍小さい量の液滴の投与が可能となる。予備試験によると、本発明によれば、10ナノリットルから40マイクロリットルのサイズの液滴の投与が可能となり、好ましくは、液滴の容積は20ナノリットルから1マイクロリットルの間である。上記範囲の容積を持つ個々の液滴を定量的に投与することは、これまでのところ、先行技術における投与手段によっては不可能であった。
【0023】
上述の液滴投与を連続的投与に適用するにあたって、第二のステップにおいて電流を変化させてベローズを減速させる場合の数値は、第一のステップにおける変化の数値よりも小さくなければならない。また、個々の液滴を投与する前にベローズを用いて投与チップに若干の空気を吸引して、小滴の分離を加速することもできる。
【0024】
本発明によれば、ベローズの連続的投与動作に応じた単一の投与チップに加えて、ベローズを動かす共通アクチュエータによりマトリックス型の投与を実行する、投与チップを設けたいくつかの並列するベローズチップを連続投与に用いることもできる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、わずかにナノリットル程度の液体量を定量的に投与することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】ベローズと、磁気アクチュエータと、試験片上に液体を投与する投与チップを有する本発明の投与装置を示す図である。
【図2】図1のII−II線断面図であり、ベローズの端部に中心配置するばねを示す図である。
【図3】本発明の他の投与装置を示す、図1に対応する図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に、添付図面を用いて本発明をより詳細に説明する。
【0028】
図1に示す投与装置は、カバー2と、底部3と、それらの間に位置する円筒状ジャケット4とを有する本体1を備えている。フレキシブルベローズ5は、ジャケット4によって形成されるスペースの軸上に配置され、このベローズは、例えば、電鋳された(electrofabricated)ニッケル・コバルトベローズ又は繊維強化プラスチックベローズなどである。ベローズ5の下端は本体の底部3に取り付けられ、その反対側の端部6はベローズと本体のジャケット4の軸方向に直線移動するように配置されている。ベローズの端部6は、本体のカバー2に取り付けられた永久磁石8と、それと磁気的に協働する環状の電流コイル9により形成されたアクチュエータ7によって駆動される。適切な電流コイル9は、例えば、市販の音声コイルアクチュエータであり、例えばKimco Magnetics,USA製のLA08−10又はLA13−12等の製品である。電流コイル9は、ベローズの可動端部6に直接取り付けられ、磁石8に形成された環状溝10内を、磁石に接触することなく、ジャケット4の軸方向に移動できるように配置されている。電流はコンダクタ11を介して電流コイル9に送られ、電流の強さはデジタルアナログ(DA)コンバータ12によって調整される。電流の方向により、コイルと磁石8は互いに引き合うか又は反発し合う。DAコンバータには、64,000個の異なる電流値を有し、20マイクロ秒ごとに電流値を変化させることができる16ビットコンバータか、又は、さらに高い分解能を持つ20又は24ビットコンバータを用いることができる。本装置において、電流は、調節可能な範囲内においてほぼ連続的に調節することができる。ベローズの端部と電流コイル9をジャケット4の軸上に中心配置し、それらの運動を直線化するために、セントラライザ13がジャケットとベローズの端部の間に配置されている。セントラライザは、ベローズの端部の周囲に等間隔をおいて配置された3つの螺旋状ばね14から構成される。それぞれのばね14は、一端において本体のジャケット4の内表面に取り付けられ、他端においてベローズ5の可動端部6に取り付けられている。ばね14はプレートばねであり、螺旋状シートの幅はその厚みの数十倍であり、したがってばねの横方向剛性が高く、一方、軸方向においてはばねは自由に屈曲する。ばねを断面で示した図1には、ばね14のシート状形態が示されている。概略図の図2には、ばね14は単純な線で示されているが、螺旋形状とベローズの端部6の周囲のその位置は、本図にもっとも明確に示されている。
【0029】
投与装置の構成において、ベローズ5のばね力及びセントラライザの螺旋状ばね14は、互いに抗して作用し、電流コイル9に電流が流れていない場合に、ベローズの端部6をある位置で均衡させる。そこで、ベローズの端部6はコイル9を通過する電流の方向にしたがってこの均衡位置の両側を移動することができる。ベローズの端部6は所定の軸方向移動範囲を持ち、上記均衡点またはゼロ位置は、好ましくはその中央付近にある。
【0030】
投与する液体で満たされた液体スペース15がベローズ5によって形成され、本装置により行なわれる投与動作は、この液体スペースの容積変動に基づいている。液体スペース15は、スペースを閉鎖する弁の役割をも果たすポンプ17を備えた充填チャネル26を有する。投与チャネル18が、液体スペース15から、投与される液滴20を排出する投与チップ19へ続いている。図1に示すように、本装置は、化学分析のための試験片を作成するために用いることができる。微小な液滴20は、投与チップ19から液滴として空中を通って試験片上に射出される。液滴投与に有用な投与チップ19において、液滴を排出するオリフィスの内径は0.2〜0.5mmの範囲内が最適である。
【0031】
図示の投与装置は、生産的な連続的投与に用いることができる。すなわち、ベローズ5により形成される液体スペース15を投与される液体で満たし、その後、液体スペース15を圧縮して投与動作を行なわせるアクチュエータ7を用いて、同一容積をもつ微小な液体ドーズを数十あるいは数百個、投与する。初期位置において、磁石8及び電流コイル9は、ベローズ5及びセントラライザ13の合計ばね力に抗して互いに引き合う。次いで、段階を追って、電流の強さを低下させて磁石8とコイル9の吸引力を減少させ、コイル9とベローズの端部6は磁石から後退し、ベローズによって形成される液体スペースを段階的に圧縮する。各段階は、投与チップ19から予め定められた量の液体20を排出することに対応する。コイル9の電流の強さがゼロ値に到達すると、ベローズの端部6の上記均衡位置すなわちゼロ位置が達成される。ここから、電流の方向を逆転させその強さを段階を追って増加させることにより、磁石8とコイル9の反発力によってベローズの端部6をベローズとセントラライザ13の合計ばね力に抗して押し、液体スペース15をさらに圧縮して投与が続けられる。このようにして連続投与は完了し、ベローズの端部6はその行程の終点に到達する。その後、コイル9は、電流を調節することによりその初期位置に戻り、その初期容積まで拡張した液体スペース15を充填チャネル16から汲み上げた液体で満たし、次の連続投与動作に備える。
【0032】
図3に示す投与装置は図1の装置とは異なり、液体スペース15がベローズ5の外側に配置され、アクチュエータの一部である永久磁石がスライドするように配置されている。さらに、この装置は、往復ベローズの、水平軸を有する好ましい動作位置において図示されている。したがって、本装置の円筒状本体1は水平であり、電流により制御される環状電流コイル9は、本体の周囲に固定配置されている。電流によって移動される永久磁石8は、コイル9の内側に、コイルと接触することなく配置されている。永久磁石8は、ベローズを移動させるため、シャフト22を介してベローズ5の自由端6に接続されている。永久磁石8の両側において、シャフト22には、シャフトと本体1の内表面の間でセントラライザとして機能する螺旋状ばね14が設けられている。投与する液体を収容した液体スペース15は、シャフト22のための開口を有する壁23により、装置の内部構成要素と分離されている。シャフト22を囲むベローズ5の固定端は、上記壁23に取り付けられ、ベローズの外側の液体スペース15を装置の内部部品の残りから隔離している。永久磁石8を図3の右側に本装置の端部3に向かって移動させてベローズ5の端部6を移動させ、これにより液体スペース15を圧縮し、この圧縮に相当する液体量を投与チャネル18から試験片21上に排出することにより投与が実行される。図3に示す装置は、全ての動作に関して、図1のものに対応する。
【実施例1】
【0033】
本発明を、断面積50mmの内部液体スペースを形成するニッケル/コバルトベローズを用いて試験した。ベローズの端部の行程長さは1.5mmであった。ベローズの端部は、0.9kgの瞬間圧縮力を発生する音声コイルLA08−10を用いて移動させた。コイルは、Omega Engineering CIO−DAC02−16コントローラカードとその制御プログラムを用いた16ビットDAコンバータにより制御した。ベローズの有効投与量は約60マイクロリットルであり、上記コイルとDAコンバータについて、投与し得る最小の液体量は約1ナノリットルと計算される。試験において、それぞれ250ナノリットル(250マイクログラム)の容積の水20ドーズと、それぞれ15ナノリットル(15マイクログラム)の容積の水20ドーズとを、連続的に、2mlの容積を持つ受容液体中に、液体接触を用いて直接投与した。ドーズは、メトラーMT4天秤で受容液体重量を各投与の前後に計測し、増加量を計算することにより判定された。250ナノリットルのドーズの標準偏差は0.7ナノリットルであり、15ナノリットルのドーズの標準偏差は0.5ナノリットルであった。
【実施例2】
【0034】
試験において、直径12.5mmのニッケル/コバルトベローズを用いた。ベローズの端部の行程長に相当する最高投与量は約100マイクロリットルである。ベローズは、実施例1のDAコンバータによって制御される音声コイルLA13−12によって移動させた。投与チップのオリフィスは0.35mmであった。投与される液体は、固体粒子を含み、水と比較して7倍の粘度を持つ、濃い不均質の液体試薬である。
【0035】
投与は、上述の技術を用いた液滴投与として行なわれた。まず、液体の動きを加速し次に減速して投与チップから液滴をすばやく分離した。それぞれ1.5マイクロリットルの容積を持つ20個の液体ドーズを連続して投与し、各回とも、投与スペースの6マイクロリットルの変化に対応する値だけ、コイルを流れる電流の強さを変えて投与を開始した。そこで、コイルの反発力は、充分な加速を発生させる力と比較して4倍となった。開始から約8ms後にコイルの電流を、投与スペースの1.5マイクロリットルの容積変化に対応する強さに調節して、ベローズを減速させ、液滴を1.5m/sの速度で排出した。この手順により1.5マイクロリットルの投与が可能となり、標準偏差は約15ナノリットルであった。投与の頻度は、毎秒5ドーズであった。
【実施例3】
【0036】
水と比較して2.5倍の粘度を持つ希釈ジメチルスルホキシド(DMSO)溶液を実施例2の投与装置を用いて投与した。ただし、より小さい投与チップを使用した。DMSOは薬物研究に幅広く用いられる溶剤であり、その少量投与はこれまで困難であった。
【0037】
実施例2の液滴投与技術を用いて、それぞれ250ナノリットルの容積の試験溶液の20ドーズを、0.30mmのオリフィスを持つ投与チップを用いて連続的に投与した。コイルの初期加速は12倍を超えたが、3ms後に投与量に相当する電流の強さへの減速補正を行なった。ドーズは、メトラーMT5天秤を用いて重量計測し、標準偏差は2ナノリットル、すなわち投与量の1%未満であった。
【0038】
次の20ドーズの連続投与において、投与量は30ナノリットル、投与チップのオリフィスは0.24mmであった。その他の手順は上記と同様であった。計量したドーズの標準偏差は3ナノリットルであり、すなわち、投与量の10%であった。
【0039】
本発明は、上述の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲内で変更が可能であることは当業者にとって明らかである。例えば、図1の投与チップ19は、通常、液滴を空中に投与することを意図しているが、別の液体中にドーズを直接排出するために用いることもできる。後者の場合、ベローズからドーズのための受容器や液体スペースへ通じる様々な投与チャネルや同様の流通接続部を用いることもできる。この場合、本発明に係る投与チップは、液体ドーズを排出するこのような投与チャネルや同様の流通接続部のオリフィスとして理解される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体(1)と、前記本体に取り付けられ液体スペース(15)を形成するフレキシブルベローズ(5)と、前記液体スペースに連通する投与チップ(19)と、前記ベローズを移動させて前記液体スペースを圧縮することにより前記投与チップからドーズを排出させるためのアクチュエータ(7)とを有する、少量の液体の定量投与のための投与装置において、前記アクチュエータ(7)は、相対的に移動して互いに磁気的に作用する2つの部材(8,9)から成り、一方の部材は前記装置の本体(1)に接続され他方の部材はベローズ(5)に接続されて前記ベローズ(5)を移動範囲内で移動させ、前記アクチュエータは、前記2つの部材の一つとしてコンバータ(12)と動作可能に接続された電流コイル(9)を有し、前記コイル(9)は、前記コイルを通過する直流電流の強さが前記コンバータによって変化されながら前記ベローズ(5)の移動を生じさせ、前記電流は調節可能範囲内で調節可能であり、移動範囲内で選択された長さにわたってベローズを移動させることにより、選択された投与量を生成し、前記本体(1)及び前記装置の可動部の間に、前記ベローズの端部(6)の移動を直線化するためのフレキシブルセントラライザ(13)を備えたことを特徴とする装置。
【請求項2】
前記アクチュエータは、前記装置の本体(1)に取り付けられた永久磁石(8)と、前記ベローズ(5)の可動端部(6)に配置された電流コイル(9)から成ることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記アクチュエータは、前記装置の本体(1)に取り付けられた電流コイル(9)及び前記ベローズ(5)の可動端部(6)に配置された永久磁石(8)から成ることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記セントラライザ(13)は、装置の可動部を囲む等間隔に配置された平行な3つ以上の螺旋状ばね(14)から成ることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記セントラライザ(13)及び前記ベローズ(5)のばね力は、ある位置において前記ベローズの端部(6)を均衡させる合力を持ち、前記端部(6)が前記電流コイルの電流の方向に応じてその位置の両側で移動できることを特徴とする請求項1又は4に記載の装置。
【請求項6】
前記ベローズの端部(6)の均衡位置はその直線行程の中央にあることを特徴とする請求項5に記載の装置。
【請求項7】
装置の本体(1)は、円筒状ジャケット(4)を有し、前記ベローズ(5)と前記アクチュエータ(7)の可動部は、前記ジャケットにより形成されたスペース内に、軸上に連続して配置されることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の装置。
【請求項8】
前記ベローズ(5)により形成される前記液体スペース(15)に、投与する液体のための充填チャネル(16)を別に設けたことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の装置。
【請求項9】
液体スペース(15)を形成するフレキシブルベローズ(5)を、前記ベローズに接続されたアクチュエータ(7)によって移動させ、前記液体スペースを圧縮して、前記液体スペースに連通する投与チップからドーズを排出する、少量の液体の定量投与のための方法において、前記アクチュエータ(7)は、磁石(8)と、前記磁石と協働する電流コイル(9)から構成され、これら2つの部品(8,9)の一方は固定された本体(1)に設置され、他方の部材は前記ベローズ(5)に接続されて前記ベローズ(5)を投与のための移動範囲内で移動させ、前記2つの部品は互いに接触することなく移動し、前記電流コイルは、コンバータ(12)によって前記電流コイルを通過する電流に関して調節範囲内で調節可能であり、選択された投与量の投与は、前記コイルを通過する直流電流の強さを選択的に変化させ、その結果、前記磁石及び前記コイル間に制御されたシフトを生じ、これによりベローズの制御された長さにわたる移動が前記移動範囲の一部を構成し、前記本体(1)及び前記装置の可動部の間に、前記ベローズの端部(6)の移動を直線化するためのフレキシブルセントラライザ(13)を設けたことを特徴とする方法。
【請求項10】
前記投与は、前記投与チップ(19)から空中に液滴として行なわれることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記コイルを通過する電流の強さを変化させてベローズの端部(6)を加速動作に設定し、その後、二回目の変化として一回目の変化よりも小さく電流を反対方向に変化させることにより前記ベローズの端部の動きを減速し、これにより第一のステップにおいて前記投与チップ(19)から投与される液体に特定の初期加速を与え、第二のステップにおいて制動動作により前記投与チップから液滴をシャープに分離することを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項12】
投与される液滴の容積は10ナノリットル〜40マイクロリットル、好ましくは20ナノリットル〜1マイクロリットルであることを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記投与は、前記ベローズ(5)の一方向への移動の繰返しにより行なわれる連続的投与であることを特徴とする請求項9〜12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記連続的投与の間に、フレキシブルセントラライザ(14)が、前記アクチュエータ(7)によって移動される前記ベローズの端部(6)に作用して、前記ベローズと前記セントラライザのばね力の合力を生じ、前記コイル(9)を通過する電流の方向が逆転するゼロ位置を通ることを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項15】
いくつかの並列する投与ベローズ(5)が、前記アクチュエータ(7)によって同時に移動され、マトリックス型の連続投与を実行することを特徴とする請求項9〜14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記投与は、電流によって駆動されるアクチュエータ(7)によって、前記投与チップ(19)から空中に液滴を投与することとして行なわれ、前記アクチュエータに送られる電流の強さを変化させて前記ベローズの端部を加速動作に設定することにより前記投与チップから排出される液体に特定の初期加速を与える第一のステップと、上記電流の強さを逆方向に変化させて前記ベローズの端部の動きを減速し、液滴を前記投与チップからシャープに分離させる第二のステップとを有することを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項17】
前記投与は連続的投与であり、各第二ステップにおける反対方向の電流の変化は、各第一ステップにおける先行する変化よりも小さいことを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項18】
投与される液滴の容積は10ナノリットルから40マイクロリットル、好ましくは20ナノリットルから1マイクロリットルであることを特徴とする請求項16あるいは17に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−117359(P2010−117359A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−287181(P2009−287181)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【分割の表示】特願2002−579750(P2002−579750)の分割
【原出願日】平成14年3月21日(2002.3.21)
【出願人】(503351663)
【Fターム(参考)】