説明

尿素化合物、尿素化合物の自己集合体ならびに自己集合体を含有するオルガノゲル及びその製造方法

【課題】フルオラス溶媒の種類に応じて、オルガノゲルに求める物性を予測性高く実現できると共に、比較的容易に製造できる尿素化合物を提供する。
【解決手段】尿素結合のN原子が置換基を有するフェニル基に結合し、更にもう一方の尿素結合のN原子がメタ位にO原子を持つフェニル基に結合し、該O原子は分子の中心構造をなす1,3,5−トリメチルベンゼンのメチル基とベンジルエーテルを形成する尿素化合物、該尿素化合物の自己集合体又は自己集合体を含有するオルガノゲルからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、尿素化合物、尿素化合物の自己集合体ならびに自己集合体を含有するオルガノゲル及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゲルとは、ゲル形成能力を有する物質(ゲル化剤)により形成された三次元網目構造中に有機溶剤や水等の流体が含まれている構造体をいい、流体が有機溶剤である場合をオルガノゲル、水である場合をハイドロゲルという。オルガノゲルは、化粧品、医薬品、農薬、食品、接着剤、塗料、樹脂等の分野において、化粧品や塗料の流動性の調整に利用されている。また、例えば、廃油をゲル化して固形物として水質汚染を防止したりする等、環境保全の分野においても幅広く利用されている。
【0003】
ゲル化剤についての研究は、主に高分子化合物について行われてきたが、近年では、高分子化合物に比べて、多様な機能の導入が容易な低分子化合物についての研究開発が進められている。上述したように、オルガノゲルは幅広い分野での利用がされており、今後も利用分野の拡大が期待されている。このため、低分子化合物のゲル化剤(以下、低分子ゲル化剤ということがある)には、オルガノゲルの用途拡大に当たり、広範な種類の有機溶剤に対するゲル形成能力が求められている。
こうした課題に対し、これまでにも、種々の有機溶剤に対して少量の添加量で安定性に優れるゲルを形成できる低分子ゲル化剤として、尿素化合物が開示されている(例えば、特許文献1)。
【0004】
有機溶剤の中でも、フルオラス溶媒は、熱安定性、電気絶縁性、低表面張力等の特異な性質を有しており、冷媒や精密部品の洗浄等へ利用されているものの、水とも他の有機溶剤とも親和性が低いため、その応用範囲が限られ、潜在的な機能が十分に利用されていない。特許文献1に記載の尿素化合物は、種々の有機溶剤に対してゲル化剤として機能するものの、フルオラス溶媒をゲル化しにくかった。
こうした問題に対し、これまでにも、フルオラス溶媒のゲル化に関して、種々の研究がなされてきた。
例えば、非特許文献1には、テトラヒドロキシルジエステルにより、ある種のフッ素化溶媒をゲル化できることが開示されている。
また、非特許文献2には、長鎖パーフルオロアルキル基を2つ有するカルボン酸から得られるジアミドによりパーフルオロトリブチルアミンをゲル化できることが開示されている。
また、非特許文献3には、N−アルキルパーフルオロアルカンアミドにより、ある種のフッ素化溶媒をゲル化できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−189559号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】P.C.Griffiths et al.、「Gelation of fluorinated liquids by non−fluorinated low−molecular−mass molecules」、Chem.Commun.、2005、3998−4000
【非特許文献2】Julien Loiseau et al.、「A fluoroponytails containing organogelator:gelation of perfuluorotributylamine and isopropanol」、Tetrahedron 58(2002)、4049−4052
【非特許文献3】Mathew George et al.、「Gelation of Perfluorinated Liquids by N−Alkyl Perfluoroalkanamides」、Langmuir 2005,21,9970−9977
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非特許文献1〜3の技術では、特定のフルオラス溶媒をゲル化することができるものの、未だ汎用性の面で十分ではない。オルガノゲルのゲル化剤には、フルオラス溶媒の種類に応じて、ゲルの物性を制御できる機能が求められている。
そこで、本発明は、フルオラス溶媒の種類に応じて、オルガノゲルに求める物性を予測性高く実現できる尿素化合物を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1にかかる発明は、下記一般式(I)で表される尿素化合物であることを特徴とする。
【0009】
【化1】

【0010】
[式(I)中、X、Y、Zは、それぞれ独立に、炭化水素基の水素の一部もしくは全部がフッ素に置換された基又は下記(1)式で表される基であり、p、q、rはそれぞれ独立に1〜5の整数である。pが2以上の場合、全てのXは同一であってもよいし、Xはそれぞれ異なっていてもよく、qが2以上の場合、全てのYは同一であってもよいし、Yはそれぞれ異なっていてもよく、rが2以上の場合、全てのZは同一であってもよいし、Zはそれぞれ異なっていてもよい。]
−A−Rf ・・・(1)
[式(1)中、Rfは、炭化水素基の水素の一部又は全部がフッ素に置換された基を示し、Aは、−O−、−NH−、−(CH−又は−(CH−O−を表す。u又はvは、1以上の整数である。]
【0011】
請求項2にかかる発明は、請求項1に記載の発明において、X、Y、Zは、それぞれ独立に、炭素数3〜12のパーフルオロアルキル基又は(1)で表される基であってRfが炭素数3〜12のパーフルオロアルキル基であることを特徴とする。
【0012】
請求項3にかかる発明は、請求項1又は2に記載の尿素化合物が自己集合化により形成した自己集合体である。
【0013】
請求項4にかかる発明は、請求項3に記載の自己集合体及びフルオラス溶媒を含有するオルガノゲルである。
【0014】
請求項5にかかる発明は、請求項1又は2に記載の尿素化合物及びフルオラス溶媒の混合物を得る混合工程と、前記混合物に超音波を照射する照射工程とを有するオルガノゲルの製造方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の尿素化合物によれば、フルオラス溶媒の種類に応じて、オルガノゲルに求める物性を予測性高く実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例1で得られたゲルのSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[尿素化合物]
(構成)
本発明の尿素化合物は、下記一般式(I)で表される尿素化合物(以下、尿素化合物(I)という)である。
【0018】
【化2】

【0019】
式(I)中、X、Y、Zとしては、それぞれ独立に、炭化水素基の水素の一部もしくは全部がフッ素に置換された基(以下、官能基(A)ということがある)又は下記(1)式で表される基(以下、官能基(B)ということがある)であり、p、q、rはそれぞれ独立に1〜5の整数である。
【0020】
−A−Rf ・・・(1)
【0021】
官能基(A)の元となる炭化水素基は、例えば、直鎖状又は分岐鎖状アルキル基もしくはアルケニル基等が挙げられ、中でも直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基が好ましい。このような炭化水素基であれば、フルオラス溶媒の種類、オルガノゲルに求める物性に応じて、より予測性の高い設計ができる。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、n−ドデシル基、n−トリデシル基、n−テトラデシル基、n−ペンタデシル基、n−ヘキサデシル基等が挙げられる。
【0022】
また、炭化水素基の炭素数は、フルオラス溶媒の種類等を勘案して決定でき、1以上であれば特に限定されないが、例えば、3〜12が好ましく、4〜8がより好ましい。炭素数が1以上であれば、フルオラス溶媒の種類に応じて、フルオラス溶媒への親和性を制御できる。加えて、炭素数が3〜12であれば、フルオラス溶媒との親和性とゲル形成とのバランスを取りやすい。
【0023】
炭化水素基の水素基に対するフッ素の置換の程度は、フッ素の数が多いほどフルオラス溶媒への親和性が高くなる一方、尿素化合物(I)は、自己集合しにくくなり、フルオラス溶媒を含むオルガノゲルを形成しにくくなる傾向にある。従って、炭化水素基へのフッ素の置換数は、炭化水素基の炭素数や、フルオラス溶媒の種類を勘案して決定でき、例えば、炭化水素基の水素基の全てがフッ素に置換されていることが好ましい。官能基(A)を炭化水素基の全ての水素基がフッ素に置換されたものとすることで、フルオラス溶媒の種類、オルガノゲルに求める物性に応じて、より予測性の高い設計ができる。
以上のように、官能基(A)としては、炭素数3〜12のアルキル基の全ての水素基をフッ素に置換したパーフルオロアルキル基であることが特に好ましい。
【0024】
官能基(B)は、上記(1)式で表されるものであり、式(1)中のRfは、炭化水素基の水素の一部又は全部がフッ素に置換された基である。
Rfの元となる炭化水素基は、官能基(A)の元となる炭化水素基と同様である。
【0025】
上記(1)式中のAは、−O−、−NH−、−(CH−又は−(CH−O−の連結基であり、フルオラス溶媒の種類や、オルガノゲルに求める物性等を勘案して決定できる。
【0026】
また、−(CH−中のuは、1以上の整数であり、フルオラス溶媒の種類やオルガノゲルに求める物性等を勘案して決定でき、好ましくは1〜5、より好ましくは1〜2とされる。uが5超であると溶解性が高まり、ゲル化しにくいためである。
−(CH−O−中のvは、−(CH−中のuと同様である。
【0027】
pは1〜5の整数であり、1〜3が好ましく、1〜2がより好ましい。pが1〜2であれば、フルオラス溶媒の種類、オルガノゲルに求める物性に応じて、より予測性の高い設計ができる。
【0028】
pが2以上の場合、全てのXは同一であってもよいし、Xはそれぞれ異なっていてもよい。例えば、pが2の場合、2つのXは、共に官能基(A)又は官能基(B)であってもよいし、一方のXが官能基(A)、他方のXが官能基(B)であってもよい。また、2つのXは、双方が官能基(A)である場合、フッ素化される炭化水素基の炭素数が同じであってもよいし、それぞれ異なっていてもよい。あるいは、2つのXは、双方が官能基(B)である場合、同じであってもよいし、互いに異なっていてもよく、例えば、一方のXが−(CH−O−、他方のXが、−(CH−である組み合わせとしてもよい。
【0029】
また、例えば、pが3〜5の場合、全てのXは同一であってもよいし、全てのXが、互いに異なるものであってもよいし、任意の1つのXのみが異なるものであってもよい。
このように、pが2以上の場合、Xは、尿素化合物(I)の用途等を勘案して、単一種の官能基であってもよいし、複数種の官能基の組み合わせであってもよい。
【0030】
qは、pと同様に、1〜5の整数であり、1〜3が好ましく、1〜2がより好ましい。加えて、qが2以上の場合、Xと同様に、全てのYは同一であってもよいし、Yはそれぞれ異なっていてもよい。
rは、pと同様に、1〜5の整数であり、1〜3が好ましく、1〜2がより好ましい。加えて、rが2以上の場合、Xと同様に、全てのZは同一であってもよいし、Zはそれぞれ異なっていてもよい。
【0031】
例えば、官能基(A)が炭素数3〜12のアルキル基の全てを水素基に置換したパーフルオロアルキル基である場合、尿素化合物(I)のフルオラス溶媒への溶解性及びゲル形成のバランスを考慮すると、p+q+rは、3〜9が好ましく、3〜6がより好ましく、3が最も好ましい。
【0032】
(製造方法)
本発明の尿素化合物(I)は、例えば、アニリン誘導体をホスゲンで処理してイソシアネート化し(第一工程)、イソシアネート化した前記アニリン誘導体(以下、イソシアネート化アニリンということがある)とトリスアミンとを有機溶剤中で加熱する(第二工程)ことで製造できる。
【0033】
<第一工程>
第一工程は、アニリン誘導体をホスゲンで処理してイソシアネート化し、イソシアネート化アニリンを調製する工程である。
第一工程は、例えば、アニリン誘導体とアミン化合物とを有機溶剤に分散してアニリン分散液とし、アルゴン等の不活性ガスの雰囲気下で、アニリン分散液にトリホスゲンを有機溶剤に分散したトリホスゲン分散液を加えて、アニリン誘導体のアミノ基をイソシアネート化するものが挙げられる。
【0034】
アニリン誘導体としては、下記一般式(II−1)〜(II−3)で表されるもの(以下、総じてアニリン誘導体(II)ということがある)が挙げられる。
【0035】
【化3】

【0036】
上記式(II−1)〜(II−3)中、X、Y、Zは、それぞれ式(I)中におけるX、Y、Zと同じであり、式(II−1)〜(II−3)中のp、q、rは、それぞれ式(I)中のp、q、rと同じである。即ち、アニリン誘導体(II)の種類は、目的とする尿素化合物(I)に応じて、選択することができる。
【0037】
上記(II−1)〜(II−3)式で表されるアニリン誘導体(II)は、例えば、「Yoshino,N.;Kitamura,M.;Seto,T.;Shibata,Y.;Abe,M.;Ogino,K.Bull.Chem.Soc.Jpn.1992,65,2141−2144」に示された公知の方法で調製できる。
【0038】
本工程で用いるアミン化合物としては、トリホスゲンを分解しホスゲンを発生できるものであれば特に限定されず、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン等の3級アンモニウム塩等が挙げられ、中でもトリエチルアミンが好ましい。
【0039】
アニリン分散液又はトリホスゲン分散液に用いられる有機溶剤は、アニリン誘導体(II)やトリホスゲンの溶解性と反応温度とを勘案して決定でき、例えば、1,2−ジクロロエタン、ジクロロメタン等の塩素含有有機溶剤や、ヘキサン等の炭化水素が挙げられ、中でも1,2−ジクロロエタンが好適に用いられる。
【0040】
なお、上述の例では、トリホスゲンとアミン化合物とを組み合わせて用いたが、例えば、トリホスゲンとアミン化合物とに換えてホスゲンを用いてもよい。
【0041】
アニリン分散液中のアニリン誘導体(II)の濃度は、特に限定されず、例えば、0.05〜1.0mmol/mLとされる。また、アニリン分散液中のアミン化合物の濃度は、特に限定されず、例えば、0.1〜20mmol/mLとされる。
トリホスゲン分散液中のトリホスゲンの濃度は、アニリン分散液中のアニリン誘導体(II)の濃度を勘案して決定でき、例えば、0.05〜1.0mmol/mLとされる。
【0042】
アニリン分散液とトリホスゲン分散液との反応温度は、例えば、10〜30℃とされる。
また、アニリン分散液とトリホスゲン分散液との反応時間は、例えば、10分間〜10時間、好ましくは30分間〜5時間とされる。
【0043】
<第二工程>
第二工程は、第一工程で得られたイソシアネート化アニリンと、トリスアミンとを有機溶剤中で加熱して、尿素化合物(I)を得る工程である。
第二工程は、例えば、第一工程で得られたイソシアネート化アミンを有機溶剤に分散してイソシアネート化アミン分散液とし、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で、イソシアネート化アミン分散液に、トリスアミンが有機溶剤に分散されたトリスアミン分散液を加え、加熱して、尿素化合物(I)を調製するものが挙げられる。
【0044】
本工程に用いられるトリスアミンは、下記一般式(III)で表されるもの(以下、トリスアミン(III)ということがある)が挙げられる。
【0045】
【化4】

【0046】
イソシアネート化アミン分散液中のイソシアネート化アミンの濃度は、特に限定されないが、例えば、0.05〜1.0mmol/mLとされる。
トリスアミン分散液中のトリスアミン(III)の濃度は、イソシアネート化アミン分散液中のイソシアネート化アミンの濃度を勘案して決定でき、例えば、0.05〜1.0mmol/mLとされる。
【0047】
本工程における反応温度は、イソシアネート化アミンの種類等に応じて決定でき、例えば、20〜80℃とされる。
本工程における反応時間は、イソシアネート化アミンの種類等に応じて決定でき、例えば、1〜48時間、好ましくは5〜24時間とされる。
【0048】
<その他の工程>
第一工程と第二工程とにより、尿素化合物(I)が有機溶剤に分散された尿素化合物分散液が得られるが、第二工程の後に、尿素化合物分散液から有機溶剤を除去し、固体の尿素化合物(I)を調製する工程を加えてもよい。
本工程としては、例えば、第二工程で得られた尿素化合物分散液を5〜20℃程度に冷却して、尿素化合物(I)を析出させ、析出した尿素化合物(I)を濾取するものが挙げられる。さらに、濾取した尿素化合物(I)を有機溶剤で洗浄してもよい。
【0049】
尿素化合物(I)の濾取方法としては、従来公知の方法が挙げられ、例えば、吸引濾過等が挙げられる。
濾取した尿素化合物(I)の洗浄に用いる有機溶剤としては、未反応のトリスアミン(III)、アミン化合物、トリホスゲン等が溶解しやすく、尿素化合物(I)が溶解しないものが好ましく、例えば、ヘキサン、ジクロロエタン、アセトン等が好適に用いられる。
【0050】
[自己集合体]
(構成)
本発明における自己集合体とは、尿素化合物(I)が分子間の相互作用によって自己集合化し、ファイバー状の自己集合体、粒子状の自己集合体、チューブ状の自己集合体等の様々な高次構造が形成されたものである。
本発明の自己集合体は、ウレア基の水素原子と酸素原子が、他のウレア基の水素原子又は酸素原子と水素結合することにより、例えばファイバー状の自己集合体を形成していると考えられる。
【0051】
[オルガノゲル]
(構成)
本発明のオルガノゲルは、尿素化合物(I)の自己集合により形成された自己集合体のネットワークの中に、フルオラス溶媒が保持されたものである。
【0052】
ここで、フルオラス溶媒は、パーフルオロカーボン等のフッ素を多く含む部位を有するものである。フッ素を多く含む部位としては、パーフルオロアルキル基、パーフルオロアリール基、パーフルオロアラルキル基等が挙げられる。このようなフルオラス溶媒としては、パーフルオロヘキサン、パーフルオロヘプタン、パーフルオロオクタン等、C2n+1で表されるパーフルオロアルカン類、パーフルオロメチルシクロヘキサン、パーフルオロ−1,2−ジメチルシクロヘキサン、パーフルオロデカリン等のパーフルオロシクロアルカン類、パーフルオロ−2−ブチルテトラヒドロフランや高分子量のポリエーテル類をパーフルオロ化した誘導体等のパーフルオロエーテル類、パーフルオロトリブチルアミン(FC−43)、パーフルオロトリペンチルアミン等のパーフルオロアミン類、C13COCH等のパーフルオロ脂肪酸アルキルエステル等が挙げられる。
例えば、尿素化合物(I)は、その官能基(A)が、炭素数3〜12のアルキル基の全ての水素をフッ素に置換したパーフルオロアルキル基である場合、パーフルオロ脂肪酸アルキルエステル類を好適にゲル化できる。
【0053】
なお、オルガノゲルには、本発明の効果を損なわない範囲で、フルオラス溶媒に加えて、他の有機溶剤等を配合できる。
他の有機溶剤は特に限定されず、例えば、ヘキサン等の炭化水素、酢酸エチル等の酢酸エステル、アセトン等のケトン類、テトラヒドロフラン等のエーテル類、クロロホルム等のハロゲン物質類及びこれらの混合物が挙げられる。
オルガノゲルに有機溶剤を配合する場合、フルオラス溶媒に対する有機溶剤の配合量は、オルガノゲルの用途等を勘案して決定でき、例えば、1〜50質量%が好ましく、5〜20質量%がより好ましい。1質量%以上であれば、配合する有機溶剤の機能が発揮されやすく、50質量%以下であれば、フルオラス溶媒の機能が損なわれにくい。
【0054】
(製造方法)
本発明のオルガノゲルの製造方法は、尿素化合物(I)及びフルオラス溶媒の混合物を得る混合工程と、前記混合物に超音波を照射する照射工程とを有するものである。
【0055】
混合工程はフルオラス溶媒に尿素化合物(I)を混合する工程である。前記混合物中における尿素化合物(I)の割合は、フルオラス溶媒の種類やオルガノゲルに求める物性等に応じて決定することができ、例えば、前記混合物中の尿素化合物(I)の濃度を0.1〜30mmol/Lの範囲とすることが好ましく、1〜15mmol/Lの範囲とすることがより好ましい。上記範囲内であれば、オルガノゲルを良好に形成できるためである。
【0056】
混合の方法は、特に限定されず、例えば、攪拌翼が備えられた混合装置を用いた混合等、公知の混合方法を用いることができる。
【0057】
照射工程は、前記混合物に超音波を照射し、尿素化合物(I)をフルオラス溶媒に溶解、又は均一に分散する工程である。
超音波照射の条件としては、前記混合物中の尿素化合物(I)を溶解又は均一に分散できる条件であればよい。例えば、超音波発振機における定格出力は、超音波発振機の単位面積あたり0.2〜0.5W/cmが好ましく、より好ましくは0.3〜0.4W/cmの範囲であり、発振周波数は30〜100kHzが好ましく、より好ましくは40〜60kHzの範囲で行うのが良い。また、処理の時間は1分〜24時間が好ましく、より好ましくは1時間〜12時間である。
【0058】
オルガノゲルの製造方法においては、照射工程中、又は照射工程の前後で、混合物を加熱することが好ましい(加熱操作)。混合物を加熱することで、フルオラス溶媒への尿素化合物(I)の溶解、又は分散の均一化を促進できるためである。
加熱温度は、フルオラス溶媒の沸点等を勘案して決定でき、例えば、50〜100℃とされる。
【0059】
前述の混合工程及び照射工程、必要に応じて加熱操作の後、混合物を任意の温度に冷却することで、尿素化合物を自己集合化させ、フルオラス溶媒を含有するオルガノゲルを製造できる。ゲル化させる温度は、尿素化合物(I)の種類やフルオラス溶媒の種類、これらの組み合わせ等を勘案して決定でき、例えば、0〜30℃とされる。
【0060】
上述の通り、尿素化合物(I)は、フッ素を有するX、Y、Zの基が尿素化合物(I)の末端に位置するため、フルオラス溶媒に対する親和性が高まると共に、ウレア基同士の水素結合により容易に自己集合体を形成し、フルオラス溶媒を含有するオルガノゲルを形成できる。
加えて、尿素化合物(I)は、トリスアミンに由来する基本母核を変えずに、X、Y、Zの基の種類や数により、種々のフルオラス溶媒に適応できる。このため、フルオラス溶媒の種類やオルガノゲルの物性を勘案して、X、Y、Zのフッ素の数や炭素数を変えることで、任意のフルオラス溶媒に適する尿素化合物(I)を予測性高く設計できる。
【0061】
本発明の尿素化合物(I)は、フルオラス溶媒と混合した後、超音波照射、場合によっては加熱することで、容易にフルオラス溶媒に溶解又は均一に分散し、オルガノゲルを形成できる。
【0062】
本発明の尿素化合物(I)は、化粧品、医薬品、農業分野の基剤、製剤として、また、塗料、インク、潤滑油、充填剤等に利用できる。
特に、これまで物性調整を適切に行えないために特殊な技術や装置を用いてフルオラス溶媒を塗布していた分野において、塗布物(塗料、被膜形成剤等)の粘度を適切なものとし、塗布作業を容易なものにできる。
また、本発明のオルガノゲルの塗布は、超撥水性、防汚性、耐指紋性付与といった表面改質にも有用である。
【実施例】
【0063】
本発明について実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0064】
(実施例1)
下記一般式(I−1)の尿素化合物Aを、トリスアミン(III)に下記一般式(II−4)で表される4−perfluorooctylaniline(4−パーフルオロオクチルアニリン)を導入して合成した。
【0065】
【化5】

【0066】
<4−パーフルオロオクチルアニリンの合成>
アルゴン雰囲気下、4−ヨードアニリン1000mg(4.56mmol)と、銅粉末974mg(15.06mmol)と、C17I2.74g(5.02mmol)と、DMSO5.0mLとの懸濁液を120℃にて9時間加温した。その後、懸濁液を室温(25℃)まで放冷し、水を加え5分間室温にて撹拌した。その後、濾過にて析出物を除き、エーテル抽出をした。抽出物を水、ブラインにて順次洗浄し、減圧留去にて溶媒を除いた。残渣をヘキサンにて抽出し、減圧留去にて溶媒を除いた。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィ(キャリア:ヘキサン)にて精製し、その後残渣を110℃にて昇華して、1570mgの白色結晶を得た。
得られた白色結晶のNMRでの分析結果は、以下の通りであった。
H−NMR(600MHz、CDCl、25℃):δ7.34(2H,d,J=8.93Hz),6.71(2H,d,J=8.93Hz),3.97(2H,s)
上記の結果より、得られた白色結晶は、前記一般式(II−4)の4−パーフルオロオクチルアニリンであることが確認された。そして、4−パーフルオロオクチルアニリンの収率は67%であった。
なお収率は、得られた4−パーフルオロオクチルアニリンのモル数を、4−ヨードアニリンのモル数で除して得られる値に100を乗したものである。
【0067】
<尿素化合物Aの合成>
アルゴン雰囲気下、氷冷した4−パーフルオロオクチルアニリン840mg(1.64mmol)と、トリエチルアミン1.2mL(8.22mmol)とを1,2−ジクロロエタン4.1mLに分散したアニリン分散液に、トリホスゲン488mg(1.64mmol)を1,2−ジクロロエタン4.1mLに分散したトリホスゲン分散液を滴下し、室温にて1時間撹拌した。溶媒を減圧留去し、残渣に1,2−ジクロロエタン4.1mLを加えた。トリスアミン(III)202.6mg(0.47mmol)を1,2−ジクロロエタン4.1mLに分散したトリスアミン分散液を滴下し、17時間加熱還流した。室温に冷却した後、析出した固体を吸引濾過にて濾取した。濾取した固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィ(キャリア:ヘキサン/EtOAc=10/1)にて精製し、続いてジクロロエタン、アセトンにて順次再結晶を行い、429mgの白色固体を得た。
得られた白色固体のNMRでの分析結果は、以下の通りであった。
【0068】
H−NMR(600MHz、アセトン−d、25℃):δ8.57(3H,s)、8.31(3H,s),7.79(6H,d,J=8.2Hz),7.59−7.56(9H,m),7.41(3H,s),7.19(3H,t,J=8.2Hz),7.06(3H,d,J=8.2Hz),6.72−6.70(3H,m),5.19(6H,s);HRMS(ESI,M+Na)calcd for C723951NaO:2075.2014,found:2075.2014.
【0069】
上記の結果より、得られた白色固体は、前記一般式(I−1)の尿素化合物A(1,3,5−Tris[3−(4−perfluorooctylphenylureido)phenoxymethyl]benzene)であることが確認された。そして、尿素化合物Aの収率は45%であった。
なお収率は、得られた尿素化合物Aのモル数を、トリスアミン(III)のモル数で除して得られる値に100を乗したものである。
【0070】
<オルガノゲルの調製>
フルオラス溶媒であるC13COCHと、尿素化合物Aとをスクリュー管内で混合し、混合物を調製した。混合物中の尿素化合物の濃度は、10mmol/Lとした。この混合物を超音波洗浄機(B2510J−DTH Branson社製)を用い、周波数:42kHz、出力:0.39W/cmで超音波を照射した。超音波照射後、混合物を90℃まで加温し、その後、室温でまで放冷した。放冷後のスクリュー管を逆さにしたところ、混合物はゲル化され、流下しなかった。このゲルについて、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、ゲルを形成する自己集合体を観察(倍率:×12000)したところ、図1に示すようなファイバー構造の自己集合体が確認された。
【0071】
(実施例2)
下記一般式(I−2)の尿素化合物Bを、トリスアミン(III)に下記一般式(II−5)で表される3,5−bis(perfluorooctyl)aniline(3,5−ビス(パーフルオロオクチル)アニリン)を導入して合成した。
【0072】
【化6】

【0073】
<3,5−ビス(パーフルオロオクチル)アニリンの合成>
アルゴン雰囲気下、3,5−ジヨードアニリン742mg(2.16mmol)と、銅粉末684mg(10.80mmol)と、C17I2.58g(4.74mmol)と、DMSO7.2mLとの懸濁液を125℃にて18時間加温した。その後、懸濁液を室温まで放冷し、水を加え5分間室温にて撹拌した。その後、濾過にて析出物を除き、エーテル抽出をした。抽出物を水、ブラインにて順次洗浄し、MgSOを加えて乾燥した後、減圧留去にて溶媒を除いた。得られた残渣をCHClに溶解し、その後濾過して不純物を除去した。得られた濾液を減圧留去にて溶媒を除き、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィ(キャリア:ヘキサン)にて精製した後、CHClで熱再結晶して、1148mgの無色針状結晶を得た。
得られた無色針状結晶のNMRでの分析結果は、以下の通りであった。
H−NMR(600MHz、CDCl、25℃):δ7.14(1H,d),7.03(2H,s),4.09(2H,s)
上記の結果より、得られた無色針状結晶は、前記一般式(II−5)の3,5−ビス(パーフルオロオクチル)アニリンであることが確認された。そして、3,5−ビス(パーフルオロオクチル)アニリンの収率は57%であった。
なお収率は、得られた3,5−ビス(パーフルオロオクチル)アニリンのモル数を、3,5−ジヨードアニリンのモル数で除して得られる値に100を乗したものである。
【0074】
<尿素化合物Bの合成>
アルゴン雰囲気下、氷冷した3,5−ビス(パーフルオロオクチル)アニリン1000mg(1.08mmol)と、トリエチルアミン0.75mL(5.38mmol)とをテトラヒドロフラン(THF)3.5mLに分散したアニリン分散液に、トリホスゲン319mg(1.08mmol)をTHF3.5mLに分散したトリホスゲン分散液を滴下し、室温下にて1時間攪拌した。その後、溶媒を減圧留去し、再びTHF4.0mLを加えた。ここに、トリスアミン(III)137mg(0.32mmol)をTHF4.0mLに分散したトリスアミン分散液を加え、1時間室温にて攪拌した後、80℃で18時間加熱還流した。その後、室温まで放冷し、ヘキサンを加えて固体を析出させ、吸引濾過にて析出した固体を濾取した。濾取した固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィ(キャリア:ヘキサン/EtOAc=5/1)にて精製した後、アセトンにて熱再結晶を行い、67mgの白色固体を得た。
得られた白色固体のNMRでの分析結果は、以下の通りであった。
【0075】
H−NMR(600MHz、アセトン−d、25℃):δ8.89(s,3H),8.43(s,3H),8.24(s,6H),7.58(s,3H),7.51(s,3H),7.35(s,3H),7.20(t,J=8.2Hz,3H),7.85(d,J=8.2Hz,3H),6.73(d,J=8.2Hz,3H),5.18(s,6H)
【0076】
上記の結果より、得られた白色固体は、前記一般式(I−2)の尿素化合物B(1,3,5−Tris{3−[3,5−bis(perfluorooctyl)phenylureido]phenoxymethyl}benzene)であることが確認された。そして、尿素化合物Bの収率は13%であった。
なお収率は、得られた尿素化合物Bのモル数を、トリスアミン(III)のモル数で除して得られる値に100を乗したものである。
【0077】
<オルガノゲルの調製>
尿素化合物Aに換えて尿素化合物Bとした以外は、実施例1と同様にしてオルガノゲルを調製した。実施例1と同様に、放冷後のスクリュー管を逆さにしたところ、混合物はゲル化して流化しなかったものの、実施例1よりも軟質なゲルであった。
【0078】
(比較例1)
特許文献1の記載に従って、下記一般式(I’)で表される尿素化合物aを合成した。尿素化合物Aに換えて尿素化合物aを用いた以外は、実施例1と同様にオルガノゲルの調製を試みたところ、全くゲル化しなかった。
【0079】
【化7】

【0080】
実施例1〜2の結果から、6個のパーフルオロアルキル基を有する尿素化合物Bを用いた実施例2は、3個のパーフルオロアルキル基を有する尿素化合物Aよりも、ゲルが軟質であった。これは、パーフルオロアルキル基の多い尿素化合物Bの方がフルオラス溶媒への溶解性が高く、自己集合体の形成量が少なかったためと推測する。これらの結果から、一般式(I)における、X、Y、Zの数や、X、Y、Zにおけるフッ素基の数を変えることで、オルガノゲルの物性を制御できることが判った。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表される尿素化合物。
【化1】

[式(I)中、X、Y、Zは、それぞれ独立に、炭化水素基の水素の一部もしくは全部がフッ素に置換された基又は下記(1)式で表される基であり、p、q、rはそれぞれ独立に1〜5の整数である。pが2以上の場合、全てのXは同一であってもよいし、Xはそれぞれ異なっていてもよく、qが2以上の場合、全てのYは同一であってもよいし、Yはそれぞれ異なっていてもよく、rが2以上の場合、全てのZは同一であってもよいし、Zはそれぞれ異なっていてもよい。]
−A−Rf ・・・(1)
[式(1)中、Rfは、炭化水素基の水素の一部又は全部がフッ素に置換された基を示し、Aは、−O−、−NH−、−(CH−又は−(CH−O−を表す。u又はvは、1以上の整数である。]
【請求項2】
X、Y、Zは、それぞれ独立に、炭素数3〜12のパーフルオロアルキル基又は(1)式で表される基であってRfが炭素数3〜12のパーフルオロアルキル基である、請求項1に記載の尿素化合物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の尿素化合物が自己集合化により形成した自己集合体。
【請求項4】
請求項3に記載の自己集合体及びフルオラス溶媒を含有するオルガノゲル。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の尿素化合物及びフルオラス溶媒の混合物を得る混合工程と、前記混合物に超音波を照射する照射工程とを有するオルガノゲルの製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2011−184407(P2011−184407A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−53750(P2010−53750)
【出願日】平成22年3月10日(2010.3.10)
【出願人】(304023318)国立大学法人静岡大学 (416)
【出願人】(000003986)日産化学工業株式会社 (510)
【Fターム(参考)】