局在表面プラズモン共鳴(LSPR)を使用するセンサ
本発明は、局在表面プラズモン共鳴(LSPR)を補助する少なくとも1つの感知ナノ粒子と、少なくとも1つの感知材料と、少なくとも1つの感知ナノ粒子を少なくとも1つの感知材料から分離する少なくとも1つの分離層とを含む構成体に関するものである。この構成体は、感知ナノ粒子によって、感知材料の表面内及び表面上又は環境の変化を間接的に感知調査することができる。この構成体はまた、水素の貯蔵、触媒反応の調査、又はNOxの感知のために、光学温度測定及び熱量測定、光学示差走査熱量測定(DSC)に使用することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感知用のナノ粒子を含む構成体に関するものである。より詳細には、本発明は、局在表面プラズモン共鳴を補助するナノ粒子と感知材料とを含み、ナノ粒子と感知材料とが分離層によって分離されている構成体に関するものである。さらに、本発明は、そのような構成体を備えるシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
過程及び現象をナノスケールで調査するために新規な技法を開発することは、ナノサイエンス及びナノテクノロジーにとって非常に重要である。ナノスケールの過程、並びにナノ粒子及びナノ構造の物理学及び材料科学を完全に理解することによってのみ、適切なリスク管理のもとで、ナノテクノロジーの解決策を広く適用することができる。「ナノテクノロジー」を通じて想定される技術的な進歩の中心は、ナノ粒子及びナノ構造の広い範囲の新規な物理的特性及び化学的特性にある。ナノテクノロジーを定義するために使用されるナノ粒子/ナノ構造の典型的な寸法範囲は1〜数百ナノメートル(nm)である。この寸法範囲の上限は、厳密には調査される特性及び意図する応用分野に応じて決められる。ナノ粒子系の新規で興味深い特性は、新規なセンサと科学的なツールの両方の開発に都合がよいため、ナノ粒子系の物理学及び材料科学に関してより多くの特性を示して確認することができる。加えて、バイオテクノロジー、医学、クリーン・テクノロジー、工学などの応用分野に用いられる新技術の開発にも都合がよい。
【0003】
金属ナノ粒子の固有の特徴は、伝導電子の集合的なコヒーレント発振、局在表面プラズモン共鳴(LSPR)である。LSPRは、外部の光子によって励起することができる。言い換えれば、LSPRとは、金属ナノ粒子の電子系の可能な励起状態であり、光子によって励起することができるし、これと同等に、粒子に入射する光の電磁界によって励起することもできる。LSPRの励起は、電子の電子間(集合的)相互作用と、ナノ粒子の体積内の伝導帯電子系を空間的に閉じ込めることとを組み合わせた結果である。ナノ粒子の電子構造、幾何形状、寸法、及び誘電体環境に依存する周波数/波長/エネルギーによって、電子密度波が形成される。
【0004】
ナノ粒子の表面上でナノ粒子に近接して起こる事象に対するLSPRのスペクトル感度、すなわち波長/周波数/エネルギー軸に沿ったLSPRのスペクトル・シフト量(別法として、LSPRのスペクトル感度はまた、ピーク高さ、ピーク半値全幅(FWHM)の変化に関して、又はLSPR周波数にスペクトル的に近接する光減衰若しくは透過の変化として測定可能である)によって、広くセンサ内の変換器として「プラズモン」のナノ粒子を使用する可能性が開かれており、バイオセンサとして最もよく利用されてきた。前の文の「事象」とは、たとえば生体分子がナノ粒子の表面上へ吸着することによって引き起こされる周囲の媒体内の屈折率の変化である。プラズモン・バイオセンサにおけるLSPRのこれらの報告されている応用の大部分は、周囲の媒体の誘電率に対するナノ粒子のLSPRの感度に依存している。これにより、「屈折率感知」への道が開かれ、局部的な誘電体環境下において吸着物質によって引き起こされる変化を利用して、たとえばナノ粒子の表面上及び粒子のナノ環境内で分子結合事象が検出される。典型的なナノプラズモン屈折率センサでは、検出すべき事象は表面上、例えばプラズモン的に活性状態にある金ナノ粒子の表面上、で直接に発生する。この現象は、ナノ粒子の表面に密接(粒子の寸法及び材料及び幾何形状に応じて、約50nm未満)した電界を強く増強することによって発生する。実際の感知中には、たとえば分子が溶液から感知ナノ粒子の表面へ吸着又は化学結合することによって引き起こされるナノ粒子と周囲の媒体の間の境界面における局部的な屈折率の変化が、粒子の光学応答の変化として検出される。
【0005】
さらに、変換器、すなわちプラズモンのナノ粒子の寸法が小さいため、ナノLSPRセンサによってセンサを小型化できる。他にも、検出体積が小さいため、極めて少量の被検体を測定できるという利点がある。寸法が小さいことにより、ナノスケールのセンサによって、多重化(すなわち、各センサが異なる感度を有するセンサ・アレイの作製)させることもできる。多重化の1つの応用分野に、指紋照合がある。指紋照合では、感度がわずかに異なる多数のセンサがセンサ・アレイ内で使用される。それぞれの個々のセンサの特定性及び選択性が低く、単独ではあまり有益ではない場合でも、パターン認識を使用して、すべてのセンサからの応答を組み合わせると、非常に正確且つ有益な応答を提供することができる。
【0006】
プラズモン屈折率(バイオ)センサ内で場合によっては使用するために、ディスク、三角形、棒、長円、ワイア、球、立方体、星形、金属薄膜内の孔、ナノシェル及びコアシェル粒子、ナノライス、並びにナノリングを含めて、多くの異なるナノ粒子形状が調べられてきた。
【0007】
ナノ粒子に基づいた感知構造を含み、LSPRのような限られた光励起を示し、かつ、光励起に依拠するプラズモン屈折率感知のプラットホームは、すでに知られている。
【0008】
プラズモン屈折率感知に対する代替手段として、「直接感知」手法を使用することによって、プラズモン・ナノ粒子内への原子の吸収時に引き起こされる構造(たとえば、寸法及び/又は幾何形状)の変化、並びにプラズモンのナノ粒子の電子構造の変化を測定することが可能であることもわかった。具体的には、この手法は、Pdナノ粒子内の水素吸収量の測定に対して実証されている。したがって、直接感知事象中、感知ナノ粒子自体が、感知すべきプロセスによって影響を受ける/変化する。後者のプロセスは最終的に、ナノ粒子の物性を変化させ、光応答、すなわちLSPRの変化(の測定)を招くことがある。通常、感知すべき事象によって、スペクトル・シフト、並びに/又はナノ粒子の測定された光励起のスペクトル線幅及び/若しくは光断面の変化が生じる。これは、ナノ粒子の光透過及び/又は減衰及び/又は吸収及び/又は散乱及び/又は反射といった指標の著しい変化として検出されることがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、改善された感知用の構成体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、公知の感知プラットホームの問題に対処すると同時に、さらなる測定の可能性を提供する構成体を提供する。
【0011】
本発明の第1の態様では、局在表面プラズモン共鳴(LSPR)を補助する少なくとも1つの感知ナノ粒子と、少なくとも1つの感知材料と、少なくとも1つの感知ナノ粒子を少なくとも1つの感知材料から分離する少なくとも1つの分離層とを主に特徴とする構成体が提供される。
【0012】
本明細書では、ナノ粒子という用語は、少なくとも1つの寸法が500nm以下、好ましくは300nm以下、より好ましくは100nm以下である粒子を意味するものとする。
【0013】
したがって、この構成体は、(i)プラズモン的に活性状態にある少なくとも1つの感知ナノ粒子と、(ii)周囲の媒体との相互作用又は加熱及び冷却によって何らかの変化を受ける、以下感知材料と呼ぶ材料と、(iii)光学活性の感知ナノ粒子(複数可)を媒体/環境及び感知材料から分離する薄層とを含む。前記薄層を、以下、分離層と呼ぶ。プラズモン的又は光学活性の感知ナノ粒子とは、ナノ粒子が局在表面プラズモン共鳴を補助することを意味するものとする。
【0014】
本発明による構成体によれば、媒体又は環境を間接的に感知することが可能になる。間接的に感知するとは、感知ナノ粒子が分離層によって環境及び感知材料から分離されることを意味するものとする。
【0015】
感知材料は、感知材料が露出される温度、媒体、又は環境と相互に作用したり、又は変化を受けたりすることを理解されたい。さらに、光学活性の感知ナノ粒子(複数可)自体は、感知材料内の変化又は感知すべき媒体若しくは環境と相互に作用したり、又は変化を受けたりしないことを理解されたい。例外は、例えば化学反応中の電子の移動による感知ナノ粒子(複数可)の帯電及び放電の監視、又は、例えば感知材料上/感知材料の発熱/吸熱反応によって引き起こされる温度変化の監視である。後者の温度変化は、感知ナノ粒子内で体積及び電子の変化を引き起こすが、この変化が光応答の変化として検出される可能性がある。本発明による構成体を使用すると、感知材料内で引き起こされる構造変化、化学変化、及び/又は電子の変化、或いはたとえば感知材料上/感知材料の化学/触媒反応によって、又は感知材料内/感知材料の相転移によって、又は周囲の媒体内の温度変化によって引き起こされる温度変化を、超高感度で測定することができる。感知材料は、ナノ粒子、薄膜、又は固体、液体、ソフトマター、若しくは気体から作られたバルク材料を含む。引き起こされた変化は、感知ナノ粒子(複数可)の変化した光応答を読み出すことによって、光学活性の感知ナノ粒子(複数可)の光応答の変化として検出される。これは、感知ナノ粒子が周囲の媒体/環境及び感知すべき実体に直接に接触し、又は感知ナノ粒子自体が感知事象中で構造変化若しくは電子変化若しくは化学変化を受けるような、公知の屈折率感知及び直接感知とは対照的である。
【0016】
センサのLSPR励起の変化を監視する読出信号として、波長/周波数/エネルギー軸に沿ったスペクトルLSPRピーク・シフト(減衰、散乱、若しくは吸収)、又はピーク高さ、ピークスペクトル線幅、ピーク半値全幅(fwhm)の変化、又はLSPRピークにおける、若しくはLSPRピークにスペクトル的に近接する光減衰/散乱/吸収、若しくは透過の変化を使用することができる。
【0017】
読出し信号はまた、表面増強ラマン散乱(SERS)信号又は表面増強赤外吸収分光(SEIRAS)信号とすることができる。
【0018】
驚くべきことに、感知材料をセンサ粒子自体の上へ直接配置することを防止する分離層を導入するにもかかわらず、本発明による構成体では、公知のLSPRに基づくセンサの超高感度が維持され、光場の増強すなわち感度が最大になると見込まれることがわかった。分離層を用いるこの構造は、光学活性の感知ナノ粒子(複数可)が感知材料から物理的に保護及び分離されるため、この装置が厳しい環境で、高い温度で、酸化/還元する大気で、及び普通なら可能でない材料の組合せ(例えば合金の形成のような混合のため)でも、動作することができる。このようにして、LSPRを支える感知ナノ粒子が感知環境に直接露出される公知の屈折率及び直接感知とは対照的に、本発明による構成体は、光学活性の感知ナノ粒子を感知材料から分離する。多くの場合、これは有利である。本発明の特有の利点としては、光感知の遠隔特性、リアルタイム(即時)測定、透過測定又は反射測定を使用して複雑なプロセスを原則的に簡単に検出する可能性、並びに多重化(指紋照合)及び急速材料選別の可能性がある。特に、本発明の1つの利点として多用性がある。なぜなら、感知ナノ粒子(複数可)が感知材料と反応することから保護している分離層上に、基本的にいかなる材料であっても塗布できるためである。後者の分離層はまた、厳しい環境内において感知ナノ粒子(複数可)を厳しい環境から物理的に保護する。さらに、分離層は、i)センサの表面の化学的性質を調整する手段(非金属である限り自由に選択できるため)を提供し、またその役割において、ii)調査すべきナノ材料に対して不活性の基質であってもよいし、iii)調査される過程に積極的に関与してもよく、例えば補助されるナノ触媒からの波及効果をもたらすことができる。
【0019】
感知ナノ粒子が感知材料も構成する(すなわち、ナノ粒子が何らかの光励起を補助しなければならない)直接感知の場合には、ナノ粒子の粒子寸法及び形状及び誘電体特性はかなり制限されるのに対して、本発明による構成体の感知ナノ粒子の場合には、そのような制限はほとんどない。例えば、本発明による手法を用いると、(薄膜のような)連続する媒体内の変化、又はLSPRを一切維持しない、若しくは可視スペクトル範囲内でLSPRを維持するには小さすぎる粒子内の変化であっても感知することができる。
【0020】
さらに、驚くべきことに、LSPRを使用すると、LSPR励起の本質的な温度感度を使用することによって、局所的な温度をナノスケールで、遠隔及びリアルタイムで測定することもできる。このようにして、LSPRは、ナノ温度計として利用することができ、たとえば触媒反応及び化学反応又は相転移を調査する光学ナノ熱量測定方法を提供する。言い換えれば、LSPRセンサの温度依存性を事前に較正することによって、感知材料及び/又は周囲の媒体内のプラズモン・感知ナノ粒子の非常に局所的な温度変化、及び/又はプラズモン・感知ナノ粒子に近接する非常に局所的な温度変化を測定することが可能な高感度のナノ温度計が得られる。この光学ナノ熱量測定の概念は、たとえば示差走査熱量測定(DSC)のような一般的な材料科学技法に直接広げることができ、極めて少ない量の試料で、さらには単一のナノ粒子上において局所的なDSC測定をナノスケールで可能にすることができる。
【0021】
しかし、光学ナノ温度計として使用するには、分離層及び感知材料の存在が厳密に必要であるというわけではなく、すなわちむき出しの金属感知ナノ粒子(複数可)による「直接感知」手法でも温度を測定できることを理解されたい。後者は、わずかな適用分野(たとえば、超高真空)でしか、魅力的な解決策とはなりえない。しかし、感知ナノ粒子(複数可)が周囲の媒体に露出される大部分の応用分野では、主として保護的な機能をもつ分離層は都合がよい。なぜなら、分離層は、感知ナノ粒子の構造上の再成形、摩耗、汚損を防止するためである。さらに、大部分の金属感知ナノ粒子上では、周囲の条件に露出されると直ちに、分離層として作用する固有の、たとえば酸化物層が形成される。
【0022】
本発明の第2の態様では、少なくとも1つの感知ナノ粒子が、前記感知材料及び/又は周囲の媒体の構造変化、化学変化、屈折率の変化、温度変化、及び/又は電子の変化時にLSPRの変化を示す、本発明の前述の態様による構成体が提供される。
【0023】
感知材料上/感知材料との発熱/吸熱による化学/触媒反応、又は感知材料内/感知材料上の相転移は、感知材料及び/又は感知ナノ粒子(複数可)の温度変化を引き起こし、その結果、少なくとも1つの感知ナノ粒子のLSPR応答の変化を生じさせることがある。
【0024】
本発明の第3の態様では、少なくとも1つの感知ナノ粒子が、周囲の媒体及び/又は感知材料及び/又は少なくとも1つの感知ナノ粒子の温度変化時にLSPR応答の変化を示す、本発明の前述の態様のいずれかによる構成体が提供される。
【0025】
本発明の第4の態様では、光応答の変化が、LSPRのスペクトル・シフト、減衰、吸収度、透過、吸収、散乱、若しくは反射などの光断面の変化、スペクトル線幅の変化、及び/又はLSPRにスペクトル的に近接する光断面の変化である、本発明の前述の態様のいずれかによる構成体が提供される。
【0026】
光学活性の感知ナノ粒子(複数可)は、LSPRを補助するという条件で、任意の形状のものとすることができる。複数の感知ナノ粒子は、同じであっても異なってもよい。光学活性の感知ナノ粒子の読出しは、光学的又は電子的に行うことができる。
【0027】
本発明のさらなる態様では、前記少なくとも1つの感知ナノ粒子が、棒、ワイア、長円、多角形、ディスク、三角形、球、立方体、星形、金属薄膜内の孔、ナノシェル、コアシェル粒子、ナノライス、又はナノリングである、本発明の前述の態様のいずれかによる構成体が提供される。複数の感知ナノ粒子は、同じであっても異なってもよい。
【0028】
本発明のさらなる態様では、少なくとも前記1つの感知ナノ粒子が金属を含む、本発明の前述の態様のいずれかによる構成体が提供される。
【0029】
本発明のさらなる態様では、前記金属が、Ag、Au、Cu、Al、Mg、Ni、Sn、Hf、Ru、Rh、Ir、Cr、Pd、及びPtから選択される、本発明の前述の態様のいずれかによる構成体が提供される。
【0030】
感知材料は、分離層と同じ材料とすることができる。この場合、分離層は、光学活性の感知ナノ粒子に最も近い材料のうち、感知事象中にいかなる変化も受けない部分である。しかし、材料の活性部分と不活性部分の間で実際に厳密な境界を引くのは非常に困難であることを理解されたい。さらに、感知材料上に、触媒として機能するナノ粒子を配置することができる。感知材料はまた、より一般的には、分離層とは異なる材料とすることができる。
【0031】
光学活性感知ナノ粒子(複数可)によって検出される感知材料の変化は、「反応」によって引き起こされることがある。この「反応」とは、(i)周囲の気相又は液相又は固相と感知材料の間の境界面で起こる化学反応でありうる。反応が化学反応である場合、たとえば解離、化学吸着、物理吸着、感知材料上/感知材料内の1つ/いくつかの新しい化合物(複数可)の形成でありうる。「反応」とは、(ii)感知材料上及び/又は感知材料内で起こる相転移でもありうる。「反応」によって引き起こされ、光学活性の感知ナノ粒子(複数可)によって検出される感知材料の変化は、屈折率の変化、又は光学活性の感知ナノ粒子の光励起と感知材料の間の近接場結合、又は感知材料の形状/寸法の変化、又は感知ナノ粒子(複数可)と感知材料の間の電子及び/若しくは正孔の移動、又はこれらの組合せでありうる。さらに、感知材料上/感知材料内の反応は、分離層内で電子/化学変化を引き起こすことがあり、この変化は、感知ナノ粒子によって検出される。
【0032】
本発明のさらなる態様では、前記感知材料が、粒子、ナノ粒子、ナノワイア、ナノファイバ、ナノチューブ、薄膜、及び/又は固相、液相、若しくは気相のバルク材料の形態になっている、本発明の前述の態様のいずれかによる構成体が提供される。
【0033】
前述の態様はすべて、本明細書で前述又は後述する本発明の任意の特許請求の範囲、態様、又は実施例とともに使用することもできる。
【0034】
本発明のさらなる態様では、前記分離層が、遷移金属酸化物、硫化物、窒化物、炭化物、アルカリ土類金属酸化物、及びヒドロゲルから選択される、本発明の前述の態様のいずれかによる構成体が提供される。
【0035】
本発明のさらなる態様では、前記分離層が固体又は液体である、本発明の前述の態様のいずれかによる構成体が提供される。
【0036】
本発明のさらなる態様では、前記分離層が、酸化アルミニウムAl2O3、酸化マグネシウムMgO、酸化ベリリウムBeO、酸化バリウムBaO、酸化セリウムCeO、Ce2O3などの金属酸化物、二酸化ケイ素SiO2などの半導体酸化物、絶縁体、炭化物、窒化物、硫化物、及びポリ(水素メチルシロキサン)PHMS、ポリ(ジメチルシロキサン)PDMS、又はポリ(メチルメタクリレート)PMMAなどの高分子から作られる、本発明の前述の態様のいずれかによる構成体が提供される。
【0037】
分離層は、光学活性の感知ナノ粒子によって感知材料の変化を光学的に感知するために、十分薄い(通常、1000nm未満)任意の膜とすることができる。
【0038】
本発明のさらなる態様では、前記分離層の厚さが、1000nm以下、0.25〜1000nm、400〜1000nm、75〜500nm、10〜100nm、及び5〜50nm、又は0.25〜10nmである、本発明の前述の態様のいずれかによる構成体が提供される。
【0039】
光学活性の感知ナノ粒子(複数可)は、ソフトマター内若しくは固形物内に分散して配置することができ、又は基板上に配置することができる。光学活性の感知ナノ粒子(複数可)を基板上に配置する場合には、後者は分離層とは見なされず、不活性(すなわち、反応に関与しない)であってもよいし、化学的に活性で反応に関与してもよい。
【0040】
本発明のさらなる態様では、基板上に配置され、又はソフトマター若しくは固形物内に分散される、本発明の前述の態様のいずれかによる構成体が提供される。このソフトマター又は固形物の例としては、それだけに限定されるものではないが、それぞれ水、有機溶剤、脂質、ヒドロゲル、又は液晶、及び酸化物、窒化物、炭化物、金属酸化物、ガラス、溶融石英、又は半導体がある。
【0041】
本発明は、様々な化学的及び/又は物理的及び/又は機械的特性を測定するシステム内で使用することができる。前記システムは、制御及び測定電子機器、演算デバイス(パーソナル・コンピュータ(PC)など)、及び物理検出器(たとえば、光検出器、電子検出器、粒子検出器など)を備える。
【0042】
本発明のさらなる態様では、制御及び測定電子機器、演算デバイス、並びに/又は物理検出器をさらに備える、本発明の前述の態様のいずれかによる構成体を備えるシステムが提供される。
【0043】
本発明は、湿度センサ、温度センサ、水素センサ、水素貯蔵材料の特徴付け、自動車の排気ガスセンサ(たとえば、酸化窒素NOx、酸化炭素COx、酸化硫黄SOx。ここで、xは0.5、1、2、3、又は4である)、触媒作用/触媒反応センサ、及び光学熱量計又は光学示差走査熱量計(DSC)を含む様々な分野で使用することができる。
【0044】
前述の態様のいずれかによる構成体では、前記感知材料の前記構造変化、化学変化、屈折率の変化、及び/又は電子の変化が、水素の吸収/脱離、NOxの蓄積、及び/又は化学/触媒反応によって引き起こされる。
【0045】
本発明のさらなる態様では、水素の貯蔵、触媒反応の感知、又はNOxの感知のための、本発明の前述の態様のいずれかによる構成体又はシステムの使用が提供される。NOxは、NO、NO2、及びN2Oの総称である。
【0046】
本発明のさらなる態様では、表面増強ラマン散乱分光法(SERS)及び/又は表面増強赤外吸収分光法(SEIRAS)のための、本発明の前述の態様のいずれかによる構成体又はシステムの使用が提供される。
【0047】
前述の態様はすべて、本明細書で前述又は後述する本発明の任意の特許請求の範囲、態様、又は実施例とともに使用することもできる。
【0048】
以下、本発明について、添付の図を参照してより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1a】本発明による構成体の断面図である。
【図1b】本発明による構成体の断面図である。
【図2a】本発明による構成体の断面図である。
【図2b】本発明による構成体の断面図である。
【図3】LSPRの水素吸収及び水素脱離の等温線を示すグラフである。
【図4】LSPRピーク位置のシフト(nm単位)を、本発明による構成体がNOx及びH2の周期パルスに露出された時間の関数として示すグラフである。
【図5a】LSPRピーク・シフトを、気体供給原料中のNO2濃度の関数として示すグラフである。
【図5b】LSPRシフトのピーク値と供給流中のNO2濃度の関係をグラフ化することによって得られる較正曲線を示すグラフである。
【図6】反応物質濃度(α)の走査中のLSPRピーク・シフト及び温度の変動を示すグラフである。
【図7】AuセンサのナノディスクのLSPRピークの温度依存性を示すグラフである。
【図8】Arキャリアガス中の3つの異なる相対的なH2及びO2濃度に対して、平均直径が18.6nmに等しいPdナノ粒子の場合に得られる触媒活性化トレース(catalytic light−off traces)を示すグラフである。
【図9】Arキャリアガス中の3つの異なる相対的なH2及びO2濃度に対する触媒活性化トレースの低温領域のアレニウス分析を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0050】
図1は、本発明による構成体1aの断面図であり、直径D及び高さhを有する円環状のナノディスク2が、基板4上に配置される。このナノディスクは、分離層3によって覆われる。分離層上には、感知材料がナノ粒子5の形で配置される。1つの特有の実施例では、ナノディスク2はAuから作られ、分離層はSiO2であり、ナノ粒子5はパラジウムから作られる。別の実施例では、ナノディスクはAuから作られ、分離層はBaOから作られ、ナノ粒子5は白金から作られる。さらなる実施例では、円形のナノディスク2は金から作られ、直径D=76nm及び高さh=30nmを有し、分離層はSiO2であり、厚さ10nmを有し、感知材料は、直径約12nmを有する白金ナノ粒子であり、基板はガラスから作られる。
【0051】
図1bは、本発明による構成体のアセンブリ1bの断面図であり、直径Dを有する球状のナノ粒子7が、分離層3によって覆われる。分離層上に、感知材料がナノ粒子5の形で配置される。構成体1bは、ソフトマター(柔らかい物質、soft matter)内又は固形物(solid matter)内に分散させることができる。
【0052】
図2aは、本発明による構成体2aの断面図であり、直径D及び高さhを有する円環状のナノディスク2が、基板4上に配置される。ナノディスクは、分離層3によって覆われる。分離層上に、感知材料が層6の形で配置される。層6は、分離層3と同じ材料から作っても、異なる材料から作ってもよい。本発明の一実施例では、ナノディスクはAuから作られ、分離層はBaOから作られ、層6はBaOから作られる。
【0053】
図2bは、本発明による構成体のアセンブリ2bの断面図であり、直径Dを有する球状のナノ粒子7が、分離層3によって覆われる。分離層上には、感知材料が層6の形で配置される。層6は、分離層3と同じ材料から作っても、異なる材料から作ってもよい。構成体2bは、ソフトマター又は固形物内に分散させることができる。
【0054】
図3は、LSPRの水素吸収及び水素脱離の等温線を示すグラフである。上下を指す三角形は、それぞれ水素の吸収及び水素の脱離を表す。LSPRピークの半値全幅(Δfwhm、nm単位)のシフトは、本発明の構成体が段階的に増減するH2ガスの圧力に露出された時間の関数として示されている。図3については、実施例で詳細に説明する。
【0055】
図4は、LSPRピーク位置(nm単位)のシフトを、本発明による構成体がNOx+O2及びH2の周期パルスに露出された時間の関数として示すグラフである。図4については、実施例で詳細に説明する。
【0056】
図5aは、LSPRピーク・シフトを、気体供給原料中のNO2濃度の関数として示すグラフである。図5aについては、実施例で詳細に説明する。
【0057】
図5bは、LSPRシフトのピーク値と供給流中のNO2濃度の関係をグラフ化することによって得られる較正曲線を示すグラフである。図5bについては、実施例で詳細に説明する。
【0058】
図6は、反応物質濃度(α)を走査している間のLSPRピーク・シフト(Δλmax)及び温度の変動を示すグラフである。上下を指す三角形は、それぞれ相対的なH2濃度が増加及び減少する際の曲線を表す。Δλmaxの増減は、動的相転移を受けたときの表面被覆率の変化を示している。Δλmaxの左側では、感知材料は酸素によって覆われている。Δλmaxの右側では、感知材料は水素によって覆われている。図6については、実施例で詳細に説明する。
【0059】
図7は、AuセンサのナノディスクのLSPRピークの温度依存性を示すグラフである。例えば、この曲線を較正曲線として使用して、例えば発熱触媒反応によって引き起こされるセンサ内の局部的な温度上昇を測定することができる。このようにして、ナノ熱量測定を確立することができる。
【0060】
図8は、Arキャリアガス中の3つの異なる相対的なH2及びO2濃度(α=[H2]/([H2]+[O2]))に対して、平均直径が18.6nmに等しいPdナノ粒子の場合に得られる触媒活性化トレース(反応器の加熱速度は、4℃/min)を示すグラフである。表示したΔλmax値は、反応器の外部からの加熱によって引き起こされるピーク・シフトに対して補正されており(図7の較正曲線)、Pd触媒ナノ粒子上で起こる化学反応H2+1/2O2→H2O(ΔH=250kJ/mol)によって生成される局部的な熱によって引き起こされる。
【0061】
図9は、図8に示す触媒活性化トレースの低温領域のアレニウス分析を示すグラフである。3つの異なる反応物質濃度αに対して得られた見掛け上の活性化エネルギーは、文献に非常によく合致している。
【実施例】
【0062】
「水素の感知」
正孔−マスク・コロイダル・リソグラフィを使用して、光学的に透過性の基板上に、Auナノディスクをもつ間接的なプラズモン・センサを製作した。Auナノディスクを、厚さ10〜30ナノメートル(nm)のSiO2分離層で覆った。すなわち、これらのAuナノディスクは、間接的感知方式による活性センサであった。SiO2スペーサは、調査されるナノ粒子の実体(すなわち、感知材料)から感知ナノ粒子を物理的に分離する目的を果たした。この概念実証実験では、厚さ1nmの連続しない粒状のPd膜の蒸着後に形成された直径D≒5nmを有するパラジウム(Pd)粒子を、感知材料として使用した。10nm未満のPd粒子の場合、ここで使用されるスペクトル範囲ではLSPR励起が生じないことに留意されたい。様々な温度で水素の収着/脱離の等温線を測定し、増減するH2圧力に対する光減衰スペクトルを測定することによって、センサの機能を試験した。図3では、厚さ10nmのSiO2分離層及びD≒5nmのPdナノ粒子からなる感知材料で覆われた、直径D=120nm及び高さh=20nmのAuナノディスクで、一連の吸収/脱離等温線を測定した。ピーク半値全幅(Δfwhm)のシフトを、水素圧力の関数として監視した。驚くべきことに、典型的なα、α+β、及びβの相領域を示す等温線が得られた。これらの小さいPdナノ粒子の場合、α+β平坦域の観察された傾斜と、データから抽出された水素化物形成のエンタルピーとはどちらも、水素貯蔵特性に関して著しい寸法効果を示すのに十分なほど小さく、熱力学は大きくないことを示した。
【0063】
驚くべきことに、この測定によって、分離層の存在にもかかわらず、Auディスク内のLSPRの感度は、α相とβ/水素化物相の両方で水素を吸収しているとき、ディスクに蒸着している小さいPdナノ粒子の誘電体特性の非常に小さい変化を検出するのに十分であったことがはっきりと示された。これにより、この感知手法は、熱力学的及び運動力学的寸法効果を予期できる1〜10nmの寸法範囲内で、ナノスケールの水素貯蔵システムを特徴付けるのに非常に有用になる。驚くべきことに、水晶膜厚計(QCM)を使用する相補型の実験測定を用いて、間接的なLSPRセンサからの光応答の尺度を感知材料中の水素濃度で較正する実験によれば、光応答と水素濃度の線形従属性が示唆される。
【0064】
「ナノプラズモンNOxの感知」
驚くべきことに、本発明者らは、間接的な感知方式に基づいて、厳しい環境内で動作すると同時に超高感度でリアルタイム(即時応答)NOx検出を可能にすることができる新しいタイプの光学NOxセンサを見出した。この解決策は、簡単にいえば、酸化物(たとえば、BaO)内に埋め込まれた感知ナノ粒子を含み、酸化物の誘電体特性は、酸化物層内にNOxが結合すると変化する。この特定の実施例では、酸化物層の大半の部分は、感知ナノ粒子を厳しいNOx環境から保護するための不活性の分離層として働いた。次いで、この酸化物層の(NOx環境の方へ)最も外側の部分だけがNOxと相互に作用し、化学反応を受けた。この化学変化によって、分離酸化物層の最も外側の領域の誘電体特性が変化した。
【0065】
概念センサの実証で最も重要な部分は、透過性基板上で正孔−マスク・コロイダル・リソグラフィを使用して製作されたAuナノ粒子からなり、面積約100mm2を覆う厚さ20〜100nmのBaO層と、触媒として作用するPtナノ粒子(直径2nm〜7nm、すなわち2nm<D<7nm)とで覆われている。Auナノ粒子を覆ってBaOの薄層(下記の実例では30nm)が蒸着して誘電体環境を作っており、この環境によってAuナノ粒子の幾何形状ともに、LSPRのスペクトル位置が決定された。白色光を検出器に当て、検出器構造を透過した信号の強度を波長の関数として測定するという簡単な光学的実験によって後者を測定した。
【0066】
小型の流れ反応器内で、NO2+O2及びH2の周期的サイクルにセンサを露出させることによって、センサの機能を試験した。流れ反応器内の動作条件は、自動車の排気システム内の条件のいくつかを模倣して、1000ml/minの体積流量で動作温度230℃の30〜1000百万分率(ppm)のNO2+6%のO2を、同じ体積流量の2%のH2とともに周期的に循環させた。図4は、Au感知ナノ粒子のLSPR信号内で結果として得られた可逆性(NOx貯蔵及び解放時)のシフトを時間の関数として示す。図5aは、キャリアガス中の様々なNO2濃度に露出させた場合のAu感知ナノ粒子のLSPR内で結果として得られた可逆性のシフトを示す。試料は、0〜8分及び38分〜50分、水素に露出された。8分〜38分の間は、試料は、30〜1000ppmのNO2+6%のO2に露出された。LSPRピーク・シフト内で得られた周期性が、BaOからBa(NO3)2(及び関連する種)の変換、並びに逆のプロセスに関係しているのは明らかであった。LSPRピーク位置の総シフトが約6nmであったのに対して、本発明者らの光学測定の分解能がほとんど100倍高いため、この方法の驚くほど高い感度は強い印象を与える。硝酸塩形成プロセスの時間応答は、反応(表面とバルクの両方)の反応速度によって決まった。図5bは、供給流中のNO2濃度にNO2+O2を30分(min)露出させた後のLSPRピーク・シフトの依存性を示す。
【0067】
「ナノプラズモン触媒作用の感知」
正孔−マスク・コロイダル・リソグラフィを使用して、光学透過性の基板上に、Auナノディスク(D=76nm、h=30nm、λmax=570nm)をもつ間接的なプラズモン・センサが製作された。Auナノディスクは、厚さ10ナノメートル(nm)のSiO2分離層で覆われた。すなわち、これらのAuナノディスクは、間接的な感知方式による活性感知ナノ粒子であった。SiO2層上には2nmの粒状のPt膜が堆積配置され、感知材料として働いた。Ptの堆積量は小さく、したがって個々のPtナノ粒子の寸法は5〜20nmの範囲であり、実際に補助(サポート)されるPt触媒の寸法範囲を模倣している。アレイ分光計を使用して、試料を通った白色光の透過が波長の関数として検出された。
【0068】
本発明者らは、Ptの触媒作用を受けた水素の酸化を調べた。この実験は、相対的なH2濃度、α=[H2]/([H2]+[O2])を、水素を多く含む濃度から酸素を多く含む濃度へ、そして再びその逆へゆっくりと変動させながら、λmaxを連続して記録することによって実行された。サンプル温度は、サンプル表面に接触している熱電対を用いて測定された。その結果を図6に示す。反応物質(H2+O2)濃度は、16.7ml/s(3.4cm/sの栓流速度)の気体の流れを使用して、大気圧のアルゴン(Ar)キャリアガス中で4%に一定に保たれた。サンプル温度T(ケルビンKで測定)は、反応がない状態で、509Kであった。
【0069】
最も驚くべき結果は、αcr=0.5の臨界反応物質混合物におけるΔλmaxの不連続的な階段状の上昇(減少)である(図6に上向黒三角及び下向黒三角で示す曲線)。この階段状の増減は、Pt粒子をもたない同一の構造上での制御測定にはまったく存在しないものである。Δλmaxの階段状の増減は、発熱反応によって引き起こされる同時に測定されたサンプル温度(図6に下向白三角及び上向白三角で示す曲線)のピーク(ΔTmax=16K)と一致している。Δλmaxは、αcrの上下においてはゆっくりとしか変動しない。このデータは、反応物質ガスとSiO2表面の相互作用によって引き起こされた小さい背景信号に対して訂正されている。この訂正によって、Δλmaxの階段状の増減の位置又は大きさは影響を受けなかった。
【0070】
Δλmaxのステップ(階段状の増減)は、臨界気体混合物αcrで発生するH2+O2反応における周知の動的相転移が原因であり、αが小さい酸素で覆われた表面からαが大きい部分的に水素で覆われた表面へと突然の転移が発生する。この転移は、全体的な反応が速度最大値を有する場合に発生し、これが温度のピーク値が生じる理由である。
【0071】
α=αcrでの動的相転移は、本質的に酸素で飽和した表面から部分的に水素で覆われた表面への転移を伴うため、この実例は、驚くべきことに、LSPRが、(i)小さいサポートされたPtナノ粒子上で単分子層以下のレベルの表面被覆率の変化を検出することができ、(ii)触媒反応の動力学に従うことができることを実証する。このデータ及び較正データから、本発明者らは、LSPRを使用して、0.1より(はるかに)小さい酸素の単分子層に対応する感度で、「実際的な」サポートされる触媒上の吸着物質の被覆率の変化を監視できると予測する。
【0072】
動的相転移の両側のLSPRピーク位置の傾斜は、反応によって引き起こされた温度の変動(発熱反応)に起因し、Δλmaxに影響を与える。この効果を使用して、化学/触媒反応中に発生(消費)される熱を測定することができる。
【0073】
「ナノプラズモン温度の感知及び光学熱量測定」
体積の大きい触媒システム上の熱量測定及び微細熱量測定は、触媒反応を調べるのに広く使用されている。一般に、(発熱反応に対する)エネルギー散逸を測定することによって、反応速度を温度又は反応物質混合物の関数として求めることができ、また触媒反応の全体的な速度最大値を求めることができる。さらに、発熱触媒反応から放散される熱は、たとえば自動車の排気ガスを清浄にするための触媒変換器内の触媒点火及び消火のような現象に対する重要なパラメータである。したがって、場合によっては単一粒子の分解能で、熱量測定を局部的にナノスケールで実行できることは、触媒作用及び表面科学界にとって大きな価値がある。
【0074】
典型的な触媒反応の場合、触媒温度が低いと、質量輸送によって制限されないのに十分なほど反応がゆっくりであるとき、反応速度及び関連する散逸した化学的なパワーは動力学的に制限され、一般に、アレニウス的な動力学によって左右される。さらに温度が増大すると、システムは、過渡領域に到達して、過渡領域を通過する。過渡領域では、動力学的に制御される条件(すなわち、濃度勾配に左右される)から質量輸送的に制御される条件への転移が起こるため、反応速度と温度の関係に関して典型的なS字状曲線がもたらされる。
【0075】
光学ナノ熱量測定に対する本実例では、間接的なナノプラズモン・センサ(AuセンサのナノディスクD=76nm、h=30nm、厚さ10ナノメートル(nm)のSiO2分離層)上に堆積されたPdナノ粒子上の発熱H2+O2反応によって生成される化学的パワーは、サンプル表面上の温度上昇及び感知するAuナノディスクの温度上昇を引き起こし、LSPRピークのスペクトル・シフトを引き起こす。後者、及びAuのLSPRピーク(図7)の較正された温度依存性によって、反応によって引き起こされる局部的な温度上昇が得られる。すなわち、本発明者らは、ナノ熱量測定を確立したのである。
【0076】
図8は、Arキャリアガス中の3つの異なる相対的なH2及びO2濃度(α=[H2]/([H2]+[O2]))に対して、<D>=18.6nmをもつPdナノ粒子の場合に得られる触媒活性化トレース(反応器の加熱速度は、4℃/分)を示す。図8に表示したΔλmax値は、反応器の外部からの加熱によって引き起こされるピーク・シフトに対して補正されている(図7の較正曲線)。外部からの加熱以外の加熱/電源がない場合、3つの異なるH2/O2混合物(α=0.15、0.25、及び0.35)に対応する3つの曲線はすべて、横座標上で平坦になるはずである。横座標を超えて上昇するのは、Pd触媒粒子上の発熱H2+1/2O2→H2O反応(ΔH=250kJ/mol)から放散された熱のために、Auセンサのナノディスクが局部的に加熱されることによって引き起こされるLSPRピーク・シフトに起因する。反応によって引き起こされた温度上昇は、反応のアレニウス型の温度依存性のため、反応器温度(Tramp)の増大とともに増大する。
【0077】
(3つのα値に対する)これらの曲線の通常の形は、上記の一般的な考察(S曲線)から予期される通りである。第1のゆっくりとした温度上昇(すなわち、反応速度の上昇)は、速い上昇(力学的制限から質量輸送制限への転移)が始まるまで続き、次いで、反応が質量輸送制限領域に到達すると平坦になり、したがってさらなる温度上昇に対して反応しなくなる。
【0078】
これらの測定を定量化して、測定されたLSPRシフトと局部的な触媒温度の直接的な相関関係を証明するために、低温領域のアレニウス分析を図9に示す。3つの異なる反応物質濃度に対して得られた見掛け上の活性化エネルギーは、文献に非常によく合致している。
【0079】
上述した実施例によれば、(間接的な)ナノプラズモン感知によって、触媒反応を調査するための固有かつ包括的なナノ熱量測定方法が提供されることが実証された。本発明者らは、この光学ナノ熱量測定の概説的なコンセプトを、示差走査熱量測定(DSC)のような一般的な材料科学技法にまで直接拡張することができることや、ナノスケールの極めて少ない量の試料でもDSC測定できることに注目している。本発明者らはまた、この手法によって可能となる非常に局部的な温度測定を単一のチップ上で多重化して組み合わせることや、平均試料温度の測定よりも信頼性が高い局部的な温度測定を提供することにも注目している。
【技術分野】
【0001】
本発明は、感知用のナノ粒子を含む構成体に関するものである。より詳細には、本発明は、局在表面プラズモン共鳴を補助するナノ粒子と感知材料とを含み、ナノ粒子と感知材料とが分離層によって分離されている構成体に関するものである。さらに、本発明は、そのような構成体を備えるシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
過程及び現象をナノスケールで調査するために新規な技法を開発することは、ナノサイエンス及びナノテクノロジーにとって非常に重要である。ナノスケールの過程、並びにナノ粒子及びナノ構造の物理学及び材料科学を完全に理解することによってのみ、適切なリスク管理のもとで、ナノテクノロジーの解決策を広く適用することができる。「ナノテクノロジー」を通じて想定される技術的な進歩の中心は、ナノ粒子及びナノ構造の広い範囲の新規な物理的特性及び化学的特性にある。ナノテクノロジーを定義するために使用されるナノ粒子/ナノ構造の典型的な寸法範囲は1〜数百ナノメートル(nm)である。この寸法範囲の上限は、厳密には調査される特性及び意図する応用分野に応じて決められる。ナノ粒子系の新規で興味深い特性は、新規なセンサと科学的なツールの両方の開発に都合がよいため、ナノ粒子系の物理学及び材料科学に関してより多くの特性を示して確認することができる。加えて、バイオテクノロジー、医学、クリーン・テクノロジー、工学などの応用分野に用いられる新技術の開発にも都合がよい。
【0003】
金属ナノ粒子の固有の特徴は、伝導電子の集合的なコヒーレント発振、局在表面プラズモン共鳴(LSPR)である。LSPRは、外部の光子によって励起することができる。言い換えれば、LSPRとは、金属ナノ粒子の電子系の可能な励起状態であり、光子によって励起することができるし、これと同等に、粒子に入射する光の電磁界によって励起することもできる。LSPRの励起は、電子の電子間(集合的)相互作用と、ナノ粒子の体積内の伝導帯電子系を空間的に閉じ込めることとを組み合わせた結果である。ナノ粒子の電子構造、幾何形状、寸法、及び誘電体環境に依存する周波数/波長/エネルギーによって、電子密度波が形成される。
【0004】
ナノ粒子の表面上でナノ粒子に近接して起こる事象に対するLSPRのスペクトル感度、すなわち波長/周波数/エネルギー軸に沿ったLSPRのスペクトル・シフト量(別法として、LSPRのスペクトル感度はまた、ピーク高さ、ピーク半値全幅(FWHM)の変化に関して、又はLSPR周波数にスペクトル的に近接する光減衰若しくは透過の変化として測定可能である)によって、広くセンサ内の変換器として「プラズモン」のナノ粒子を使用する可能性が開かれており、バイオセンサとして最もよく利用されてきた。前の文の「事象」とは、たとえば生体分子がナノ粒子の表面上へ吸着することによって引き起こされる周囲の媒体内の屈折率の変化である。プラズモン・バイオセンサにおけるLSPRのこれらの報告されている応用の大部分は、周囲の媒体の誘電率に対するナノ粒子のLSPRの感度に依存している。これにより、「屈折率感知」への道が開かれ、局部的な誘電体環境下において吸着物質によって引き起こされる変化を利用して、たとえばナノ粒子の表面上及び粒子のナノ環境内で分子結合事象が検出される。典型的なナノプラズモン屈折率センサでは、検出すべき事象は表面上、例えばプラズモン的に活性状態にある金ナノ粒子の表面上、で直接に発生する。この現象は、ナノ粒子の表面に密接(粒子の寸法及び材料及び幾何形状に応じて、約50nm未満)した電界を強く増強することによって発生する。実際の感知中には、たとえば分子が溶液から感知ナノ粒子の表面へ吸着又は化学結合することによって引き起こされるナノ粒子と周囲の媒体の間の境界面における局部的な屈折率の変化が、粒子の光学応答の変化として検出される。
【0005】
さらに、変換器、すなわちプラズモンのナノ粒子の寸法が小さいため、ナノLSPRセンサによってセンサを小型化できる。他にも、検出体積が小さいため、極めて少量の被検体を測定できるという利点がある。寸法が小さいことにより、ナノスケールのセンサによって、多重化(すなわち、各センサが異なる感度を有するセンサ・アレイの作製)させることもできる。多重化の1つの応用分野に、指紋照合がある。指紋照合では、感度がわずかに異なる多数のセンサがセンサ・アレイ内で使用される。それぞれの個々のセンサの特定性及び選択性が低く、単独ではあまり有益ではない場合でも、パターン認識を使用して、すべてのセンサからの応答を組み合わせると、非常に正確且つ有益な応答を提供することができる。
【0006】
プラズモン屈折率(バイオ)センサ内で場合によっては使用するために、ディスク、三角形、棒、長円、ワイア、球、立方体、星形、金属薄膜内の孔、ナノシェル及びコアシェル粒子、ナノライス、並びにナノリングを含めて、多くの異なるナノ粒子形状が調べられてきた。
【0007】
ナノ粒子に基づいた感知構造を含み、LSPRのような限られた光励起を示し、かつ、光励起に依拠するプラズモン屈折率感知のプラットホームは、すでに知られている。
【0008】
プラズモン屈折率感知に対する代替手段として、「直接感知」手法を使用することによって、プラズモン・ナノ粒子内への原子の吸収時に引き起こされる構造(たとえば、寸法及び/又は幾何形状)の変化、並びにプラズモンのナノ粒子の電子構造の変化を測定することが可能であることもわかった。具体的には、この手法は、Pdナノ粒子内の水素吸収量の測定に対して実証されている。したがって、直接感知事象中、感知ナノ粒子自体が、感知すべきプロセスによって影響を受ける/変化する。後者のプロセスは最終的に、ナノ粒子の物性を変化させ、光応答、すなわちLSPRの変化(の測定)を招くことがある。通常、感知すべき事象によって、スペクトル・シフト、並びに/又はナノ粒子の測定された光励起のスペクトル線幅及び/若しくは光断面の変化が生じる。これは、ナノ粒子の光透過及び/又は減衰及び/又は吸収及び/又は散乱及び/又は反射といった指標の著しい変化として検出されることがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、改善された感知用の構成体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、公知の感知プラットホームの問題に対処すると同時に、さらなる測定の可能性を提供する構成体を提供する。
【0011】
本発明の第1の態様では、局在表面プラズモン共鳴(LSPR)を補助する少なくとも1つの感知ナノ粒子と、少なくとも1つの感知材料と、少なくとも1つの感知ナノ粒子を少なくとも1つの感知材料から分離する少なくとも1つの分離層とを主に特徴とする構成体が提供される。
【0012】
本明細書では、ナノ粒子という用語は、少なくとも1つの寸法が500nm以下、好ましくは300nm以下、より好ましくは100nm以下である粒子を意味するものとする。
【0013】
したがって、この構成体は、(i)プラズモン的に活性状態にある少なくとも1つの感知ナノ粒子と、(ii)周囲の媒体との相互作用又は加熱及び冷却によって何らかの変化を受ける、以下感知材料と呼ぶ材料と、(iii)光学活性の感知ナノ粒子(複数可)を媒体/環境及び感知材料から分離する薄層とを含む。前記薄層を、以下、分離層と呼ぶ。プラズモン的又は光学活性の感知ナノ粒子とは、ナノ粒子が局在表面プラズモン共鳴を補助することを意味するものとする。
【0014】
本発明による構成体によれば、媒体又は環境を間接的に感知することが可能になる。間接的に感知するとは、感知ナノ粒子が分離層によって環境及び感知材料から分離されることを意味するものとする。
【0015】
感知材料は、感知材料が露出される温度、媒体、又は環境と相互に作用したり、又は変化を受けたりすることを理解されたい。さらに、光学活性の感知ナノ粒子(複数可)自体は、感知材料内の変化又は感知すべき媒体若しくは環境と相互に作用したり、又は変化を受けたりしないことを理解されたい。例外は、例えば化学反応中の電子の移動による感知ナノ粒子(複数可)の帯電及び放電の監視、又は、例えば感知材料上/感知材料の発熱/吸熱反応によって引き起こされる温度変化の監視である。後者の温度変化は、感知ナノ粒子内で体積及び電子の変化を引き起こすが、この変化が光応答の変化として検出される可能性がある。本発明による構成体を使用すると、感知材料内で引き起こされる構造変化、化学変化、及び/又は電子の変化、或いはたとえば感知材料上/感知材料の化学/触媒反応によって、又は感知材料内/感知材料の相転移によって、又は周囲の媒体内の温度変化によって引き起こされる温度変化を、超高感度で測定することができる。感知材料は、ナノ粒子、薄膜、又は固体、液体、ソフトマター、若しくは気体から作られたバルク材料を含む。引き起こされた変化は、感知ナノ粒子(複数可)の変化した光応答を読み出すことによって、光学活性の感知ナノ粒子(複数可)の光応答の変化として検出される。これは、感知ナノ粒子が周囲の媒体/環境及び感知すべき実体に直接に接触し、又は感知ナノ粒子自体が感知事象中で構造変化若しくは電子変化若しくは化学変化を受けるような、公知の屈折率感知及び直接感知とは対照的である。
【0016】
センサのLSPR励起の変化を監視する読出信号として、波長/周波数/エネルギー軸に沿ったスペクトルLSPRピーク・シフト(減衰、散乱、若しくは吸収)、又はピーク高さ、ピークスペクトル線幅、ピーク半値全幅(fwhm)の変化、又はLSPRピークにおける、若しくはLSPRピークにスペクトル的に近接する光減衰/散乱/吸収、若しくは透過の変化を使用することができる。
【0017】
読出し信号はまた、表面増強ラマン散乱(SERS)信号又は表面増強赤外吸収分光(SEIRAS)信号とすることができる。
【0018】
驚くべきことに、感知材料をセンサ粒子自体の上へ直接配置することを防止する分離層を導入するにもかかわらず、本発明による構成体では、公知のLSPRに基づくセンサの超高感度が維持され、光場の増強すなわち感度が最大になると見込まれることがわかった。分離層を用いるこの構造は、光学活性の感知ナノ粒子(複数可)が感知材料から物理的に保護及び分離されるため、この装置が厳しい環境で、高い温度で、酸化/還元する大気で、及び普通なら可能でない材料の組合せ(例えば合金の形成のような混合のため)でも、動作することができる。このようにして、LSPRを支える感知ナノ粒子が感知環境に直接露出される公知の屈折率及び直接感知とは対照的に、本発明による構成体は、光学活性の感知ナノ粒子を感知材料から分離する。多くの場合、これは有利である。本発明の特有の利点としては、光感知の遠隔特性、リアルタイム(即時)測定、透過測定又は反射測定を使用して複雑なプロセスを原則的に簡単に検出する可能性、並びに多重化(指紋照合)及び急速材料選別の可能性がある。特に、本発明の1つの利点として多用性がある。なぜなら、感知ナノ粒子(複数可)が感知材料と反応することから保護している分離層上に、基本的にいかなる材料であっても塗布できるためである。後者の分離層はまた、厳しい環境内において感知ナノ粒子(複数可)を厳しい環境から物理的に保護する。さらに、分離層は、i)センサの表面の化学的性質を調整する手段(非金属である限り自由に選択できるため)を提供し、またその役割において、ii)調査すべきナノ材料に対して不活性の基質であってもよいし、iii)調査される過程に積極的に関与してもよく、例えば補助されるナノ触媒からの波及効果をもたらすことができる。
【0019】
感知ナノ粒子が感知材料も構成する(すなわち、ナノ粒子が何らかの光励起を補助しなければならない)直接感知の場合には、ナノ粒子の粒子寸法及び形状及び誘電体特性はかなり制限されるのに対して、本発明による構成体の感知ナノ粒子の場合には、そのような制限はほとんどない。例えば、本発明による手法を用いると、(薄膜のような)連続する媒体内の変化、又はLSPRを一切維持しない、若しくは可視スペクトル範囲内でLSPRを維持するには小さすぎる粒子内の変化であっても感知することができる。
【0020】
さらに、驚くべきことに、LSPRを使用すると、LSPR励起の本質的な温度感度を使用することによって、局所的な温度をナノスケールで、遠隔及びリアルタイムで測定することもできる。このようにして、LSPRは、ナノ温度計として利用することができ、たとえば触媒反応及び化学反応又は相転移を調査する光学ナノ熱量測定方法を提供する。言い換えれば、LSPRセンサの温度依存性を事前に較正することによって、感知材料及び/又は周囲の媒体内のプラズモン・感知ナノ粒子の非常に局所的な温度変化、及び/又はプラズモン・感知ナノ粒子に近接する非常に局所的な温度変化を測定することが可能な高感度のナノ温度計が得られる。この光学ナノ熱量測定の概念は、たとえば示差走査熱量測定(DSC)のような一般的な材料科学技法に直接広げることができ、極めて少ない量の試料で、さらには単一のナノ粒子上において局所的なDSC測定をナノスケールで可能にすることができる。
【0021】
しかし、光学ナノ温度計として使用するには、分離層及び感知材料の存在が厳密に必要であるというわけではなく、すなわちむき出しの金属感知ナノ粒子(複数可)による「直接感知」手法でも温度を測定できることを理解されたい。後者は、わずかな適用分野(たとえば、超高真空)でしか、魅力的な解決策とはなりえない。しかし、感知ナノ粒子(複数可)が周囲の媒体に露出される大部分の応用分野では、主として保護的な機能をもつ分離層は都合がよい。なぜなら、分離層は、感知ナノ粒子の構造上の再成形、摩耗、汚損を防止するためである。さらに、大部分の金属感知ナノ粒子上では、周囲の条件に露出されると直ちに、分離層として作用する固有の、たとえば酸化物層が形成される。
【0022】
本発明の第2の態様では、少なくとも1つの感知ナノ粒子が、前記感知材料及び/又は周囲の媒体の構造変化、化学変化、屈折率の変化、温度変化、及び/又は電子の変化時にLSPRの変化を示す、本発明の前述の態様による構成体が提供される。
【0023】
感知材料上/感知材料との発熱/吸熱による化学/触媒反応、又は感知材料内/感知材料上の相転移は、感知材料及び/又は感知ナノ粒子(複数可)の温度変化を引き起こし、その結果、少なくとも1つの感知ナノ粒子のLSPR応答の変化を生じさせることがある。
【0024】
本発明の第3の態様では、少なくとも1つの感知ナノ粒子が、周囲の媒体及び/又は感知材料及び/又は少なくとも1つの感知ナノ粒子の温度変化時にLSPR応答の変化を示す、本発明の前述の態様のいずれかによる構成体が提供される。
【0025】
本発明の第4の態様では、光応答の変化が、LSPRのスペクトル・シフト、減衰、吸収度、透過、吸収、散乱、若しくは反射などの光断面の変化、スペクトル線幅の変化、及び/又はLSPRにスペクトル的に近接する光断面の変化である、本発明の前述の態様のいずれかによる構成体が提供される。
【0026】
光学活性の感知ナノ粒子(複数可)は、LSPRを補助するという条件で、任意の形状のものとすることができる。複数の感知ナノ粒子は、同じであっても異なってもよい。光学活性の感知ナノ粒子の読出しは、光学的又は電子的に行うことができる。
【0027】
本発明のさらなる態様では、前記少なくとも1つの感知ナノ粒子が、棒、ワイア、長円、多角形、ディスク、三角形、球、立方体、星形、金属薄膜内の孔、ナノシェル、コアシェル粒子、ナノライス、又はナノリングである、本発明の前述の態様のいずれかによる構成体が提供される。複数の感知ナノ粒子は、同じであっても異なってもよい。
【0028】
本発明のさらなる態様では、少なくとも前記1つの感知ナノ粒子が金属を含む、本発明の前述の態様のいずれかによる構成体が提供される。
【0029】
本発明のさらなる態様では、前記金属が、Ag、Au、Cu、Al、Mg、Ni、Sn、Hf、Ru、Rh、Ir、Cr、Pd、及びPtから選択される、本発明の前述の態様のいずれかによる構成体が提供される。
【0030】
感知材料は、分離層と同じ材料とすることができる。この場合、分離層は、光学活性の感知ナノ粒子に最も近い材料のうち、感知事象中にいかなる変化も受けない部分である。しかし、材料の活性部分と不活性部分の間で実際に厳密な境界を引くのは非常に困難であることを理解されたい。さらに、感知材料上に、触媒として機能するナノ粒子を配置することができる。感知材料はまた、より一般的には、分離層とは異なる材料とすることができる。
【0031】
光学活性感知ナノ粒子(複数可)によって検出される感知材料の変化は、「反応」によって引き起こされることがある。この「反応」とは、(i)周囲の気相又は液相又は固相と感知材料の間の境界面で起こる化学反応でありうる。反応が化学反応である場合、たとえば解離、化学吸着、物理吸着、感知材料上/感知材料内の1つ/いくつかの新しい化合物(複数可)の形成でありうる。「反応」とは、(ii)感知材料上及び/又は感知材料内で起こる相転移でもありうる。「反応」によって引き起こされ、光学活性の感知ナノ粒子(複数可)によって検出される感知材料の変化は、屈折率の変化、又は光学活性の感知ナノ粒子の光励起と感知材料の間の近接場結合、又は感知材料の形状/寸法の変化、又は感知ナノ粒子(複数可)と感知材料の間の電子及び/若しくは正孔の移動、又はこれらの組合せでありうる。さらに、感知材料上/感知材料内の反応は、分離層内で電子/化学変化を引き起こすことがあり、この変化は、感知ナノ粒子によって検出される。
【0032】
本発明のさらなる態様では、前記感知材料が、粒子、ナノ粒子、ナノワイア、ナノファイバ、ナノチューブ、薄膜、及び/又は固相、液相、若しくは気相のバルク材料の形態になっている、本発明の前述の態様のいずれかによる構成体が提供される。
【0033】
前述の態様はすべて、本明細書で前述又は後述する本発明の任意の特許請求の範囲、態様、又は実施例とともに使用することもできる。
【0034】
本発明のさらなる態様では、前記分離層が、遷移金属酸化物、硫化物、窒化物、炭化物、アルカリ土類金属酸化物、及びヒドロゲルから選択される、本発明の前述の態様のいずれかによる構成体が提供される。
【0035】
本発明のさらなる態様では、前記分離層が固体又は液体である、本発明の前述の態様のいずれかによる構成体が提供される。
【0036】
本発明のさらなる態様では、前記分離層が、酸化アルミニウムAl2O3、酸化マグネシウムMgO、酸化ベリリウムBeO、酸化バリウムBaO、酸化セリウムCeO、Ce2O3などの金属酸化物、二酸化ケイ素SiO2などの半導体酸化物、絶縁体、炭化物、窒化物、硫化物、及びポリ(水素メチルシロキサン)PHMS、ポリ(ジメチルシロキサン)PDMS、又はポリ(メチルメタクリレート)PMMAなどの高分子から作られる、本発明の前述の態様のいずれかによる構成体が提供される。
【0037】
分離層は、光学活性の感知ナノ粒子によって感知材料の変化を光学的に感知するために、十分薄い(通常、1000nm未満)任意の膜とすることができる。
【0038】
本発明のさらなる態様では、前記分離層の厚さが、1000nm以下、0.25〜1000nm、400〜1000nm、75〜500nm、10〜100nm、及び5〜50nm、又は0.25〜10nmである、本発明の前述の態様のいずれかによる構成体が提供される。
【0039】
光学活性の感知ナノ粒子(複数可)は、ソフトマター内若しくは固形物内に分散して配置することができ、又は基板上に配置することができる。光学活性の感知ナノ粒子(複数可)を基板上に配置する場合には、後者は分離層とは見なされず、不活性(すなわち、反応に関与しない)であってもよいし、化学的に活性で反応に関与してもよい。
【0040】
本発明のさらなる態様では、基板上に配置され、又はソフトマター若しくは固形物内に分散される、本発明の前述の態様のいずれかによる構成体が提供される。このソフトマター又は固形物の例としては、それだけに限定されるものではないが、それぞれ水、有機溶剤、脂質、ヒドロゲル、又は液晶、及び酸化物、窒化物、炭化物、金属酸化物、ガラス、溶融石英、又は半導体がある。
【0041】
本発明は、様々な化学的及び/又は物理的及び/又は機械的特性を測定するシステム内で使用することができる。前記システムは、制御及び測定電子機器、演算デバイス(パーソナル・コンピュータ(PC)など)、及び物理検出器(たとえば、光検出器、電子検出器、粒子検出器など)を備える。
【0042】
本発明のさらなる態様では、制御及び測定電子機器、演算デバイス、並びに/又は物理検出器をさらに備える、本発明の前述の態様のいずれかによる構成体を備えるシステムが提供される。
【0043】
本発明は、湿度センサ、温度センサ、水素センサ、水素貯蔵材料の特徴付け、自動車の排気ガスセンサ(たとえば、酸化窒素NOx、酸化炭素COx、酸化硫黄SOx。ここで、xは0.5、1、2、3、又は4である)、触媒作用/触媒反応センサ、及び光学熱量計又は光学示差走査熱量計(DSC)を含む様々な分野で使用することができる。
【0044】
前述の態様のいずれかによる構成体では、前記感知材料の前記構造変化、化学変化、屈折率の変化、及び/又は電子の変化が、水素の吸収/脱離、NOxの蓄積、及び/又は化学/触媒反応によって引き起こされる。
【0045】
本発明のさらなる態様では、水素の貯蔵、触媒反応の感知、又はNOxの感知のための、本発明の前述の態様のいずれかによる構成体又はシステムの使用が提供される。NOxは、NO、NO2、及びN2Oの総称である。
【0046】
本発明のさらなる態様では、表面増強ラマン散乱分光法(SERS)及び/又は表面増強赤外吸収分光法(SEIRAS)のための、本発明の前述の態様のいずれかによる構成体又はシステムの使用が提供される。
【0047】
前述の態様はすべて、本明細書で前述又は後述する本発明の任意の特許請求の範囲、態様、又は実施例とともに使用することもできる。
【0048】
以下、本発明について、添付の図を参照してより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1a】本発明による構成体の断面図である。
【図1b】本発明による構成体の断面図である。
【図2a】本発明による構成体の断面図である。
【図2b】本発明による構成体の断面図である。
【図3】LSPRの水素吸収及び水素脱離の等温線を示すグラフである。
【図4】LSPRピーク位置のシフト(nm単位)を、本発明による構成体がNOx及びH2の周期パルスに露出された時間の関数として示すグラフである。
【図5a】LSPRピーク・シフトを、気体供給原料中のNO2濃度の関数として示すグラフである。
【図5b】LSPRシフトのピーク値と供給流中のNO2濃度の関係をグラフ化することによって得られる較正曲線を示すグラフである。
【図6】反応物質濃度(α)の走査中のLSPRピーク・シフト及び温度の変動を示すグラフである。
【図7】AuセンサのナノディスクのLSPRピークの温度依存性を示すグラフである。
【図8】Arキャリアガス中の3つの異なる相対的なH2及びO2濃度に対して、平均直径が18.6nmに等しいPdナノ粒子の場合に得られる触媒活性化トレース(catalytic light−off traces)を示すグラフである。
【図9】Arキャリアガス中の3つの異なる相対的なH2及びO2濃度に対する触媒活性化トレースの低温領域のアレニウス分析を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0050】
図1は、本発明による構成体1aの断面図であり、直径D及び高さhを有する円環状のナノディスク2が、基板4上に配置される。このナノディスクは、分離層3によって覆われる。分離層上には、感知材料がナノ粒子5の形で配置される。1つの特有の実施例では、ナノディスク2はAuから作られ、分離層はSiO2であり、ナノ粒子5はパラジウムから作られる。別の実施例では、ナノディスクはAuから作られ、分離層はBaOから作られ、ナノ粒子5は白金から作られる。さらなる実施例では、円形のナノディスク2は金から作られ、直径D=76nm及び高さh=30nmを有し、分離層はSiO2であり、厚さ10nmを有し、感知材料は、直径約12nmを有する白金ナノ粒子であり、基板はガラスから作られる。
【0051】
図1bは、本発明による構成体のアセンブリ1bの断面図であり、直径Dを有する球状のナノ粒子7が、分離層3によって覆われる。分離層上に、感知材料がナノ粒子5の形で配置される。構成体1bは、ソフトマター(柔らかい物質、soft matter)内又は固形物(solid matter)内に分散させることができる。
【0052】
図2aは、本発明による構成体2aの断面図であり、直径D及び高さhを有する円環状のナノディスク2が、基板4上に配置される。ナノディスクは、分離層3によって覆われる。分離層上に、感知材料が層6の形で配置される。層6は、分離層3と同じ材料から作っても、異なる材料から作ってもよい。本発明の一実施例では、ナノディスクはAuから作られ、分離層はBaOから作られ、層6はBaOから作られる。
【0053】
図2bは、本発明による構成体のアセンブリ2bの断面図であり、直径Dを有する球状のナノ粒子7が、分離層3によって覆われる。分離層上には、感知材料が層6の形で配置される。層6は、分離層3と同じ材料から作っても、異なる材料から作ってもよい。構成体2bは、ソフトマター又は固形物内に分散させることができる。
【0054】
図3は、LSPRの水素吸収及び水素脱離の等温線を示すグラフである。上下を指す三角形は、それぞれ水素の吸収及び水素の脱離を表す。LSPRピークの半値全幅(Δfwhm、nm単位)のシフトは、本発明の構成体が段階的に増減するH2ガスの圧力に露出された時間の関数として示されている。図3については、実施例で詳細に説明する。
【0055】
図4は、LSPRピーク位置(nm単位)のシフトを、本発明による構成体がNOx+O2及びH2の周期パルスに露出された時間の関数として示すグラフである。図4については、実施例で詳細に説明する。
【0056】
図5aは、LSPRピーク・シフトを、気体供給原料中のNO2濃度の関数として示すグラフである。図5aについては、実施例で詳細に説明する。
【0057】
図5bは、LSPRシフトのピーク値と供給流中のNO2濃度の関係をグラフ化することによって得られる較正曲線を示すグラフである。図5bについては、実施例で詳細に説明する。
【0058】
図6は、反応物質濃度(α)を走査している間のLSPRピーク・シフト(Δλmax)及び温度の変動を示すグラフである。上下を指す三角形は、それぞれ相対的なH2濃度が増加及び減少する際の曲線を表す。Δλmaxの増減は、動的相転移を受けたときの表面被覆率の変化を示している。Δλmaxの左側では、感知材料は酸素によって覆われている。Δλmaxの右側では、感知材料は水素によって覆われている。図6については、実施例で詳細に説明する。
【0059】
図7は、AuセンサのナノディスクのLSPRピークの温度依存性を示すグラフである。例えば、この曲線を較正曲線として使用して、例えば発熱触媒反応によって引き起こされるセンサ内の局部的な温度上昇を測定することができる。このようにして、ナノ熱量測定を確立することができる。
【0060】
図8は、Arキャリアガス中の3つの異なる相対的なH2及びO2濃度(α=[H2]/([H2]+[O2]))に対して、平均直径が18.6nmに等しいPdナノ粒子の場合に得られる触媒活性化トレース(反応器の加熱速度は、4℃/min)を示すグラフである。表示したΔλmax値は、反応器の外部からの加熱によって引き起こされるピーク・シフトに対して補正されており(図7の較正曲線)、Pd触媒ナノ粒子上で起こる化学反応H2+1/2O2→H2O(ΔH=250kJ/mol)によって生成される局部的な熱によって引き起こされる。
【0061】
図9は、図8に示す触媒活性化トレースの低温領域のアレニウス分析を示すグラフである。3つの異なる反応物質濃度αに対して得られた見掛け上の活性化エネルギーは、文献に非常によく合致している。
【実施例】
【0062】
「水素の感知」
正孔−マスク・コロイダル・リソグラフィを使用して、光学的に透過性の基板上に、Auナノディスクをもつ間接的なプラズモン・センサを製作した。Auナノディスクを、厚さ10〜30ナノメートル(nm)のSiO2分離層で覆った。すなわち、これらのAuナノディスクは、間接的感知方式による活性センサであった。SiO2スペーサは、調査されるナノ粒子の実体(すなわち、感知材料)から感知ナノ粒子を物理的に分離する目的を果たした。この概念実証実験では、厚さ1nmの連続しない粒状のPd膜の蒸着後に形成された直径D≒5nmを有するパラジウム(Pd)粒子を、感知材料として使用した。10nm未満のPd粒子の場合、ここで使用されるスペクトル範囲ではLSPR励起が生じないことに留意されたい。様々な温度で水素の収着/脱離の等温線を測定し、増減するH2圧力に対する光減衰スペクトルを測定することによって、センサの機能を試験した。図3では、厚さ10nmのSiO2分離層及びD≒5nmのPdナノ粒子からなる感知材料で覆われた、直径D=120nm及び高さh=20nmのAuナノディスクで、一連の吸収/脱離等温線を測定した。ピーク半値全幅(Δfwhm)のシフトを、水素圧力の関数として監視した。驚くべきことに、典型的なα、α+β、及びβの相領域を示す等温線が得られた。これらの小さいPdナノ粒子の場合、α+β平坦域の観察された傾斜と、データから抽出された水素化物形成のエンタルピーとはどちらも、水素貯蔵特性に関して著しい寸法効果を示すのに十分なほど小さく、熱力学は大きくないことを示した。
【0063】
驚くべきことに、この測定によって、分離層の存在にもかかわらず、Auディスク内のLSPRの感度は、α相とβ/水素化物相の両方で水素を吸収しているとき、ディスクに蒸着している小さいPdナノ粒子の誘電体特性の非常に小さい変化を検出するのに十分であったことがはっきりと示された。これにより、この感知手法は、熱力学的及び運動力学的寸法効果を予期できる1〜10nmの寸法範囲内で、ナノスケールの水素貯蔵システムを特徴付けるのに非常に有用になる。驚くべきことに、水晶膜厚計(QCM)を使用する相補型の実験測定を用いて、間接的なLSPRセンサからの光応答の尺度を感知材料中の水素濃度で較正する実験によれば、光応答と水素濃度の線形従属性が示唆される。
【0064】
「ナノプラズモンNOxの感知」
驚くべきことに、本発明者らは、間接的な感知方式に基づいて、厳しい環境内で動作すると同時に超高感度でリアルタイム(即時応答)NOx検出を可能にすることができる新しいタイプの光学NOxセンサを見出した。この解決策は、簡単にいえば、酸化物(たとえば、BaO)内に埋め込まれた感知ナノ粒子を含み、酸化物の誘電体特性は、酸化物層内にNOxが結合すると変化する。この特定の実施例では、酸化物層の大半の部分は、感知ナノ粒子を厳しいNOx環境から保護するための不活性の分離層として働いた。次いで、この酸化物層の(NOx環境の方へ)最も外側の部分だけがNOxと相互に作用し、化学反応を受けた。この化学変化によって、分離酸化物層の最も外側の領域の誘電体特性が変化した。
【0065】
概念センサの実証で最も重要な部分は、透過性基板上で正孔−マスク・コロイダル・リソグラフィを使用して製作されたAuナノ粒子からなり、面積約100mm2を覆う厚さ20〜100nmのBaO層と、触媒として作用するPtナノ粒子(直径2nm〜7nm、すなわち2nm<D<7nm)とで覆われている。Auナノ粒子を覆ってBaOの薄層(下記の実例では30nm)が蒸着して誘電体環境を作っており、この環境によってAuナノ粒子の幾何形状ともに、LSPRのスペクトル位置が決定された。白色光を検出器に当て、検出器構造を透過した信号の強度を波長の関数として測定するという簡単な光学的実験によって後者を測定した。
【0066】
小型の流れ反応器内で、NO2+O2及びH2の周期的サイクルにセンサを露出させることによって、センサの機能を試験した。流れ反応器内の動作条件は、自動車の排気システム内の条件のいくつかを模倣して、1000ml/minの体積流量で動作温度230℃の30〜1000百万分率(ppm)のNO2+6%のO2を、同じ体積流量の2%のH2とともに周期的に循環させた。図4は、Au感知ナノ粒子のLSPR信号内で結果として得られた可逆性(NOx貯蔵及び解放時)のシフトを時間の関数として示す。図5aは、キャリアガス中の様々なNO2濃度に露出させた場合のAu感知ナノ粒子のLSPR内で結果として得られた可逆性のシフトを示す。試料は、0〜8分及び38分〜50分、水素に露出された。8分〜38分の間は、試料は、30〜1000ppmのNO2+6%のO2に露出された。LSPRピーク・シフト内で得られた周期性が、BaOからBa(NO3)2(及び関連する種)の変換、並びに逆のプロセスに関係しているのは明らかであった。LSPRピーク位置の総シフトが約6nmであったのに対して、本発明者らの光学測定の分解能がほとんど100倍高いため、この方法の驚くほど高い感度は強い印象を与える。硝酸塩形成プロセスの時間応答は、反応(表面とバルクの両方)の反応速度によって決まった。図5bは、供給流中のNO2濃度にNO2+O2を30分(min)露出させた後のLSPRピーク・シフトの依存性を示す。
【0067】
「ナノプラズモン触媒作用の感知」
正孔−マスク・コロイダル・リソグラフィを使用して、光学透過性の基板上に、Auナノディスク(D=76nm、h=30nm、λmax=570nm)をもつ間接的なプラズモン・センサが製作された。Auナノディスクは、厚さ10ナノメートル(nm)のSiO2分離層で覆われた。すなわち、これらのAuナノディスクは、間接的な感知方式による活性感知ナノ粒子であった。SiO2層上には2nmの粒状のPt膜が堆積配置され、感知材料として働いた。Ptの堆積量は小さく、したがって個々のPtナノ粒子の寸法は5〜20nmの範囲であり、実際に補助(サポート)されるPt触媒の寸法範囲を模倣している。アレイ分光計を使用して、試料を通った白色光の透過が波長の関数として検出された。
【0068】
本発明者らは、Ptの触媒作用を受けた水素の酸化を調べた。この実験は、相対的なH2濃度、α=[H2]/([H2]+[O2])を、水素を多く含む濃度から酸素を多く含む濃度へ、そして再びその逆へゆっくりと変動させながら、λmaxを連続して記録することによって実行された。サンプル温度は、サンプル表面に接触している熱電対を用いて測定された。その結果を図6に示す。反応物質(H2+O2)濃度は、16.7ml/s(3.4cm/sの栓流速度)の気体の流れを使用して、大気圧のアルゴン(Ar)キャリアガス中で4%に一定に保たれた。サンプル温度T(ケルビンKで測定)は、反応がない状態で、509Kであった。
【0069】
最も驚くべき結果は、αcr=0.5の臨界反応物質混合物におけるΔλmaxの不連続的な階段状の上昇(減少)である(図6に上向黒三角及び下向黒三角で示す曲線)。この階段状の増減は、Pt粒子をもたない同一の構造上での制御測定にはまったく存在しないものである。Δλmaxの階段状の増減は、発熱反応によって引き起こされる同時に測定されたサンプル温度(図6に下向白三角及び上向白三角で示す曲線)のピーク(ΔTmax=16K)と一致している。Δλmaxは、αcrの上下においてはゆっくりとしか変動しない。このデータは、反応物質ガスとSiO2表面の相互作用によって引き起こされた小さい背景信号に対して訂正されている。この訂正によって、Δλmaxの階段状の増減の位置又は大きさは影響を受けなかった。
【0070】
Δλmaxのステップ(階段状の増減)は、臨界気体混合物αcrで発生するH2+O2反応における周知の動的相転移が原因であり、αが小さい酸素で覆われた表面からαが大きい部分的に水素で覆われた表面へと突然の転移が発生する。この転移は、全体的な反応が速度最大値を有する場合に発生し、これが温度のピーク値が生じる理由である。
【0071】
α=αcrでの動的相転移は、本質的に酸素で飽和した表面から部分的に水素で覆われた表面への転移を伴うため、この実例は、驚くべきことに、LSPRが、(i)小さいサポートされたPtナノ粒子上で単分子層以下のレベルの表面被覆率の変化を検出することができ、(ii)触媒反応の動力学に従うことができることを実証する。このデータ及び較正データから、本発明者らは、LSPRを使用して、0.1より(はるかに)小さい酸素の単分子層に対応する感度で、「実際的な」サポートされる触媒上の吸着物質の被覆率の変化を監視できると予測する。
【0072】
動的相転移の両側のLSPRピーク位置の傾斜は、反応によって引き起こされた温度の変動(発熱反応)に起因し、Δλmaxに影響を与える。この効果を使用して、化学/触媒反応中に発生(消費)される熱を測定することができる。
【0073】
「ナノプラズモン温度の感知及び光学熱量測定」
体積の大きい触媒システム上の熱量測定及び微細熱量測定は、触媒反応を調べるのに広く使用されている。一般に、(発熱反応に対する)エネルギー散逸を測定することによって、反応速度を温度又は反応物質混合物の関数として求めることができ、また触媒反応の全体的な速度最大値を求めることができる。さらに、発熱触媒反応から放散される熱は、たとえば自動車の排気ガスを清浄にするための触媒変換器内の触媒点火及び消火のような現象に対する重要なパラメータである。したがって、場合によっては単一粒子の分解能で、熱量測定を局部的にナノスケールで実行できることは、触媒作用及び表面科学界にとって大きな価値がある。
【0074】
典型的な触媒反応の場合、触媒温度が低いと、質量輸送によって制限されないのに十分なほど反応がゆっくりであるとき、反応速度及び関連する散逸した化学的なパワーは動力学的に制限され、一般に、アレニウス的な動力学によって左右される。さらに温度が増大すると、システムは、過渡領域に到達して、過渡領域を通過する。過渡領域では、動力学的に制御される条件(すなわち、濃度勾配に左右される)から質量輸送的に制御される条件への転移が起こるため、反応速度と温度の関係に関して典型的なS字状曲線がもたらされる。
【0075】
光学ナノ熱量測定に対する本実例では、間接的なナノプラズモン・センサ(AuセンサのナノディスクD=76nm、h=30nm、厚さ10ナノメートル(nm)のSiO2分離層)上に堆積されたPdナノ粒子上の発熱H2+O2反応によって生成される化学的パワーは、サンプル表面上の温度上昇及び感知するAuナノディスクの温度上昇を引き起こし、LSPRピークのスペクトル・シフトを引き起こす。後者、及びAuのLSPRピーク(図7)の較正された温度依存性によって、反応によって引き起こされる局部的な温度上昇が得られる。すなわち、本発明者らは、ナノ熱量測定を確立したのである。
【0076】
図8は、Arキャリアガス中の3つの異なる相対的なH2及びO2濃度(α=[H2]/([H2]+[O2]))に対して、<D>=18.6nmをもつPdナノ粒子の場合に得られる触媒活性化トレース(反応器の加熱速度は、4℃/分)を示す。図8に表示したΔλmax値は、反応器の外部からの加熱によって引き起こされるピーク・シフトに対して補正されている(図7の較正曲線)。外部からの加熱以外の加熱/電源がない場合、3つの異なるH2/O2混合物(α=0.15、0.25、及び0.35)に対応する3つの曲線はすべて、横座標上で平坦になるはずである。横座標を超えて上昇するのは、Pd触媒粒子上の発熱H2+1/2O2→H2O反応(ΔH=250kJ/mol)から放散された熱のために、Auセンサのナノディスクが局部的に加熱されることによって引き起こされるLSPRピーク・シフトに起因する。反応によって引き起こされた温度上昇は、反応のアレニウス型の温度依存性のため、反応器温度(Tramp)の増大とともに増大する。
【0077】
(3つのα値に対する)これらの曲線の通常の形は、上記の一般的な考察(S曲線)から予期される通りである。第1のゆっくりとした温度上昇(すなわち、反応速度の上昇)は、速い上昇(力学的制限から質量輸送制限への転移)が始まるまで続き、次いで、反応が質量輸送制限領域に到達すると平坦になり、したがってさらなる温度上昇に対して反応しなくなる。
【0078】
これらの測定を定量化して、測定されたLSPRシフトと局部的な触媒温度の直接的な相関関係を証明するために、低温領域のアレニウス分析を図9に示す。3つの異なる反応物質濃度に対して得られた見掛け上の活性化エネルギーは、文献に非常によく合致している。
【0079】
上述した実施例によれば、(間接的な)ナノプラズモン感知によって、触媒反応を調査するための固有かつ包括的なナノ熱量測定方法が提供されることが実証された。本発明者らは、この光学ナノ熱量測定の概説的なコンセプトを、示差走査熱量測定(DSC)のような一般的な材料科学技法にまで直接拡張することができることや、ナノスケールの極めて少ない量の試料でもDSC測定できることに注目している。本発明者らはまた、この手法によって可能となる非常に局部的な温度測定を単一のチップ上で多重化して組み合わせることや、平均試料温度の測定よりも信頼性が高い局部的な温度測定を提供することにも注目している。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの感知ナノ粒子と、少なくとも1つの感知材料と、前記少なくとも1つの感知ナノ粒子を前記少なくとも1つの感知材料から分離する少なくとも1つの分離層とを含み、
前記少なくとも1つの感知ナノ粒子が、局在表面プラズモン共鳴、すなわちLSPRを補助するようになっている構成体。
【請求項2】
前記少なくとも1つの感知ナノ粒子によって、前記感知材料の構造変化、化学変化、屈折率の変化、及び/又は電子の変化に対するLSPR光応答の変化が示されるようになっている請求項1に記載の構成体。
【請求項3】
前記少なくとも1つの感知ナノ粒子によって、周囲の温度変化及び/又は前記感知材料の温度変化及び/又は前記少なくとも1つの感知ナノ粒子の温度変化に対するLSPR光応答の変化が示されるようになっている請求項1又は請求項2に記載の構成体。
【請求項4】
前記LSPR光応答の変化が、光励起のスペクトル・シフト、減衰、透過、吸収、散乱、又は反射などの光断面の変化、スペクトル線幅の変化、及び前記光励起にスペクトル的に近接する前記光断面の変化の少なくとも1つである請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の構成体。
【請求項5】
前記少なくとも1つの感知ナノ粒子が、ディスク、棒、ワイア、長円、多角形、三角形、球、立方体、星形、金属薄膜内の孔、ナノシェル、コアシェル粒子、ナノライス、又はナノリングである請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の構成体。
【請求項6】
前記少なくとも1つの感知ナノ粒子が金属である請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載の構成体。
【請求項7】
前記金属が、Ag、Au、Cu、Al、Mg、Ni、Pd、及びPtから選択される請求項6に記載の構成体。
【請求項8】
前記金属が、Sn、Hf、Ru、Rh、Ir、及びCrから選択される請求項6に記載の構成体。
【請求項9】
前記感知材料が、粒子、ナノ粒子、ナノワイア、ナノファイバ、ナノチューブ、薄膜、及び/又は固相、液相、若しくは気相のバルク材料の形態になっている請求項1から請求項8までのいずれか一項に記載の構成体。
【請求項10】
前記感知材料が、金属、金属酸化物、遷移金属酸化物、硫化物、窒化物、炭化物、アルカリ土類金属酸化物、高分子、及びヒドロゲルから選択される請求項1から請求項9までのいずれか一項に記載の構成体。
【請求項11】
前記分離層が固体又は液体である請求項1から請求項10までのいずれか一項に記載の構成体。
【請求項12】
前記分離層の厚さが、1000nm以下、0.25〜1000nm、400〜1000nm、75〜500nm、10〜100nm、5〜50nm、又は0.25〜10nmである請求項1から請求項11までのいずれか一項に記載の構成体。
【請求項13】
前記構成体が基板上に配置され、又はソフトマター若しくは固形物内に分散されるようになっている請求項1から請求項12までのいずれか一項に記載の構成体。
【請求項14】
制御及び測定電子機器、演算デバイス、並びに/又は物理検出器をさらに備える請求項1から請求項13までのいずれか一項に記載の構成体を備えるシステム。
【請求項15】
水素の貯蔵、水素の感知、触媒反応の感知、又はNOxの感知のために前記構成体を使用する請求項1から請求項13までのいずれか一項に記載の構成体の使用。
【請求項16】
表面増強ラマン散乱分光法及び/又は表面増強赤外吸収分光法のために前記構成体を使用する請求項1から請求項13までのいずれか一項に記載の構成体の使用。
【請求項17】
光学示差走査熱量測定、すなわちDSCのために前記構成体を使用する請求項1から請求項13までのいずれか一項に記載の構成体の使用。
【請求項1】
少なくとも1つの感知ナノ粒子と、少なくとも1つの感知材料と、前記少なくとも1つの感知ナノ粒子を前記少なくとも1つの感知材料から分離する少なくとも1つの分離層とを含み、
前記少なくとも1つの感知ナノ粒子が、局在表面プラズモン共鳴、すなわちLSPRを補助するようになっている構成体。
【請求項2】
前記少なくとも1つの感知ナノ粒子によって、前記感知材料の構造変化、化学変化、屈折率の変化、及び/又は電子の変化に対するLSPR光応答の変化が示されるようになっている請求項1に記載の構成体。
【請求項3】
前記少なくとも1つの感知ナノ粒子によって、周囲の温度変化及び/又は前記感知材料の温度変化及び/又は前記少なくとも1つの感知ナノ粒子の温度変化に対するLSPR光応答の変化が示されるようになっている請求項1又は請求項2に記載の構成体。
【請求項4】
前記LSPR光応答の変化が、光励起のスペクトル・シフト、減衰、透過、吸収、散乱、又は反射などの光断面の変化、スペクトル線幅の変化、及び前記光励起にスペクトル的に近接する前記光断面の変化の少なくとも1つである請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の構成体。
【請求項5】
前記少なくとも1つの感知ナノ粒子が、ディスク、棒、ワイア、長円、多角形、三角形、球、立方体、星形、金属薄膜内の孔、ナノシェル、コアシェル粒子、ナノライス、又はナノリングである請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の構成体。
【請求項6】
前記少なくとも1つの感知ナノ粒子が金属である請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載の構成体。
【請求項7】
前記金属が、Ag、Au、Cu、Al、Mg、Ni、Pd、及びPtから選択される請求項6に記載の構成体。
【請求項8】
前記金属が、Sn、Hf、Ru、Rh、Ir、及びCrから選択される請求項6に記載の構成体。
【請求項9】
前記感知材料が、粒子、ナノ粒子、ナノワイア、ナノファイバ、ナノチューブ、薄膜、及び/又は固相、液相、若しくは気相のバルク材料の形態になっている請求項1から請求項8までのいずれか一項に記載の構成体。
【請求項10】
前記感知材料が、金属、金属酸化物、遷移金属酸化物、硫化物、窒化物、炭化物、アルカリ土類金属酸化物、高分子、及びヒドロゲルから選択される請求項1から請求項9までのいずれか一項に記載の構成体。
【請求項11】
前記分離層が固体又は液体である請求項1から請求項10までのいずれか一項に記載の構成体。
【請求項12】
前記分離層の厚さが、1000nm以下、0.25〜1000nm、400〜1000nm、75〜500nm、10〜100nm、5〜50nm、又は0.25〜10nmである請求項1から請求項11までのいずれか一項に記載の構成体。
【請求項13】
前記構成体が基板上に配置され、又はソフトマター若しくは固形物内に分散されるようになっている請求項1から請求項12までのいずれか一項に記載の構成体。
【請求項14】
制御及び測定電子機器、演算デバイス、並びに/又は物理検出器をさらに備える請求項1から請求項13までのいずれか一項に記載の構成体を備えるシステム。
【請求項15】
水素の貯蔵、水素の感知、触媒反応の感知、又はNOxの感知のために前記構成体を使用する請求項1から請求項13までのいずれか一項に記載の構成体の使用。
【請求項16】
表面増強ラマン散乱分光法及び/又は表面増強赤外吸収分光法のために前記構成体を使用する請求項1から請求項13までのいずれか一項に記載の構成体の使用。
【請求項17】
光学示差走査熱量測定、すなわちDSCのために前記構成体を使用する請求項1から請求項13までのいずれか一項に記載の構成体の使用。
【図1a】
【図1b】
【図2a】
【図2b】
【図3】
【図4】
【図5a】
【図5b】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図1b】
【図2a】
【図2b】
【図3】
【図4】
【図5a】
【図5b】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【公表番号】特表2012−528310(P2012−528310A)
【公表日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−512339(P2012−512339)
【出願日】平成22年5月25日(2010.5.25)
【国際出願番号】PCT/EP2010/057136
【国際公開番号】WO2010/136440
【国際公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【出願人】(511285303)インスプリオン エービー (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年5月25日(2010.5.25)
【国際出願番号】PCT/EP2010/057136
【国際公開番号】WO2010/136440
【国際公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【出願人】(511285303)インスプリオン エービー (1)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]