説明

屈折率測定方法、屈折率測定装置および屈折率測定プログラム

【課題】光学素子の厚み測定を不要としつつ高い精度で光学素子の屈折率を測定する。
【解決手段】屈折率測定装置20は、被検光と参照光とを互いに干渉させる光学系であり、被検光の光路内に被検光学素子の設置が可能で、かつ被検光および参照光のうち一方の光路長を変更する光路長変更手段3を含む干渉光学系とともに用いられる。該装置は、被検光および参照光の波長帯域に含まれる互いに異なる第1の波長と第2の波長のそれぞれにおいて、光路内に設置された被検光学素子を透過した被検光と参照光とが干渉するときの光路長変更手段3の干渉設定値と、被検光学素子が光路から取り除かれた状態で被検光と参照光とが干渉するときの干渉設定値との差を求める。そして、第1の波長における上記差、第2の波長における上記差および被検光学素子の分散を用いて被検光学素子の屈折率を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光の干渉を利用してレンズ等の光学素子の屈折率を測定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
光学素子の屈折率の測定には、低コヒーレンス干渉法が用いられることが多い。低コヒーレンス干渉法の1つとして、光学素子(試料)の表裏面の反射光と参照光との干渉および基準面の反射光と参照光との干渉を検出して該光学素子の屈折率を測定する方法が提案されている。また、低コヒーレンス干渉法を用いて測定した光学素子の分散曲線と、別途計測した光学素子の厚みとを用いて、該光学素子の屈折率を測定する方法が非特許文献1にて開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】High-precision indexmeasurement in anisotropic crystals using white-light spectral interferometry;著者H. Delbarre 掲載Applied Physics B
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した光学素子の表面での反射光と参照光との干渉を検出して該光学素子の屈折率を測定する手法は、光学素子の表面形状の影響を受けやすく、測定精度が低い。これは、光学素子の表面での反射光の波面が非常に大きな収差を持つことが原因である。
【0005】
また、非特許文献1にて開示された方法は光学素子の表面の反射光と参照光との干渉を測定しないものの、予め光学素子の厚みを測定しておく必要がある。しかし、レンズ形状等を有する光学素子の厚みを必要な精度で測定することは非常に難しい。
【0006】
本発明は、光学素子の厚み測定を不要としつつ、高い測定精度で光学素子の屈折率を測定できるようにした屈折率測定方法、屈折率測定装置および屈折率測定プログラムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面としての屈折率測定装置は、被検光と参照光とを互いに干渉させる光学系であり、被検光の光路内に被検光学素子の設置が可能で、かつ被検光および参照光のうち一方の光路長を変更する光路長変更手段を含む干渉光学系とともに用いられ、被検光学素子の屈折率を測定する。該装置は、光路長変更手段により被検光と参照光とが干渉する光路長が得られたときの該光路長変更手段の設定を示す値を干渉設定値とするとき、被検光および参照光の波長帯域に含まれる互いに異なる第1の波長と第2の波長のそれぞれにおいて、光路内に設置された被検光学素子を透過した被検光と参照光とが干渉するときの干渉設定値と、被検光学素子が光路から取り除かれた状態で被検光と参照光とが干渉するときの干渉設定値との差を求める。そして、該装置は、第1の波長における上記差、第2の波長における上記差および被検光学素子の分散を用いて被検光学素子の屈折率を算出することを特徴とする。
【0008】
また、本発明の一側面としての屈折率測定装置は、被検光と参照光とを互いに干渉させる光学系であり、被検光の光路内に被検光学素子を浸すことが可能な液体が配置され、かつ被検光および参照光のうち一方の光路長を変更する光路長変更手段を含む干渉光学系とともに用いられ、被検光学素子の屈折率を測定する。該装置は、光路長変更手段により被検光と参照光とが干渉する光路長が得られたときの該光路長変更手段の設定を示す値を干渉設定値とするとき、被検光および参照光の波長帯域に含まれる互いに異なる第1の波長と第2の波長のそれぞれにおいて、液体に浸された被検光学素子を透過した被検光と参照光とが干渉するときの干渉設定値と、被検光学素子が浸されていない液体を透過した被検光と参照光とが干渉するときの干渉設定値との差を求め、第1および第2の波長のそれぞれにおいて、被検光学素子が浸されていない液体を透過した被検光と参照光とが干渉するときの干渉設定値と、被検光学素子および液体が光路から取り除かれた状態で被検光と参照光とが干渉するときの干渉設定値とを用いて液体の屈折率を求める。そして、該装置は、第1の波長における上記差、第2の波長における上記差、第1および第2の波長のそれぞれにおける液体の屈折率および被検光学素子の分散を用いて被検光学素子の屈折率を算出することを特徴とする。
【0009】
また、本発明の他の一側面としての屈折率測定方法(屈折率測定プログラム)は、被検光と参照光とを互いに干渉させる光学系であり、被検光の光路内に被検光学素子の設置が可能で、かつ被検光および参照光のうち一方の光路長を変更する光路長変更手段を含む干渉光学系を用いて、被検光学素子の屈折率を測定する。該測定方法(測定プログラム)は、光路長変更手段により被検光と参照光とが干渉する光路長が得られたときの該光路長変更手段の設定を示す値を干渉設定値とするとき、被検光および参照光の波長帯域に含まれる互いに異なる第1の波長と第2の波長のそれぞれにおいて、光路内に設置された被検光学素子を透過した被検光と参照光とが干渉するときの干渉設定値と、被検光学素子が光路から取り除かれた状態で被検光と参照光とが干渉するときの干渉設定値との差を求めるステップと、第1の波長における上記差、第2の波長における上記差および被検光学素子の分散を用いて被検光学素子の屈折率を算出するステップとを有することを特徴とする。
【0010】
さらに、本発明の他の一側面としての屈折率測定方法(屈折率測定プログラム)は、被検光と参照光とを互いに干渉させる光学系であり、被検光の光路内に被検光学素子を浸すことが可能な液体が配置され、かつ被検光および参照光のうち一方の光路長を変更する光路長変更手段を含む干渉光学系を用いて、被検光学素子の屈折率を測定する。該測定方法(測定プログラム)は、光路長変更手段により被検光と参照光とが干渉する光路長が得られたときの該光路長変更手段の設定を示す値を干渉設定値とするとき、被検光および参照光の波長帯域に含まれる互いに異なる第1の波長と第2の波長のそれぞれにおいて、液体に浸された被検光学素子を透過した被検光と参照光とが干渉するときの干渉設定値と、被検光学素子が浸されていない液体を透過した被検光と参照光とが干渉するときの干渉設定値との差を求めるステップと、第1および第2の波長のそれぞれにおいて、被検光学素子が浸されていない液体を透過した被検光と参照光とが干渉するときの干渉設定値と、被検光学素子および液体が光路から取り除かれた状態で被検光と参照光とが干渉するときの干渉設定値とを用いて液体の屈折率を求めるステップとを有する。そして、第1の波長における上記差、第2の波長における上記差、第1および第2の波長のそれぞれにおける液体の屈折率および被検光学素子の分散を用いて被検光学素子の屈折率を算出するステップとを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、測定精度を低下させる光学素子での反射光の検出や、光学素子の厚みの高精度な測定を必要とすることなく、光学素子を透過する被検光と参照光との低コヒーレンス干渉を利用して精度良く光学素子の屈折率を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施例1である屈折率測定装置を含む屈折率測定システムの構成を示す図。
【図2】実施例1における屈折率測定方法を説明するフローチャート。
【図3】本発明の実施例2である屈折率測定装置を含む屈折率測定システムの構成を示す図。
【図4】実施例2における屈折率測定方法を説明するフローチャート。
【図5】実施例におけるターゲット板を示す図。
【図6】実施例の効果を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施例について図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0014】
図1には、本発明の実施例1である屈折率測定装置を含む屈折率測定システムの構成を示している。
【0015】
1は白色光源(以下、単に光源という)であり、コヒーレンス長を短くするために波長帯域が広い光を出力する。光源1としては、例えば、紫外から赤外までの光を出力するスーパーコンティニウム(SC)光源または互いに異なる波長を出力する2つのスーパールミネッセントダイオード(SLD)が用いられる。
【0016】
18はフォーカス調整器であり、被検光学素子としての被検レンズに光源1からの光の焦点が合うようにフォーカシングを行う機能を有する。フォーカス調整器18は、予め被検レンズに焦点が合うように調整され、測定中は常に一定の状態を保つ。
【0017】
2は分波器であり、光源1(フォーカス調整器18)からの光を2分割し、一方の光を参照光路に、他方の光を被検光路にそれぞれ伝搬させる。分波器2としては、例えば、波長依存性がないビームスプリッターであって、裏面反射光が干渉信号に混入しないようにウエッジをつけたものが用いられる。
【0018】
参照光路には、光路長調整器(光路長変更手段)3が設けられている。光路長調整器3は、2つの反射面を備えた駆動ステージを有し、該駆動ステージを移動させることで2つの反射面で反射する参照光の光路長を調整(変更)可能とする。光路長調整器3は、駆動ステージとともに移動する2つの反射面の位置(つまりは駆動ステージの位置)、すなわち光路長調整器3の設定を示す値としての設定値の出力が可能である。設定値は、駆動ステージの移動、つまりは参照光の光路長の変更に伴って変化する値である。
【0019】
以下の説明において、光路長調節器3の設定値をステージ値といい、そのうち被検光と参照光とが干渉する参照光の光路長が得られたときの設定値を干渉ステージ値(干渉設定値)という。
【0020】
なお、本実施例では、光路長調整器3を参照光路に配置しているが、被検光路に配置してもよい。すなわち、光路長調整器3は、参照光路と被検光路のうち一方に設けられればよい。
【0021】
被検光路には、被検レンズ6を設置可能な被検ステージ15が設けられている。被検ステージ15には、被検レンズ6の設置と取り外しが可能であるとともに、設置された被検レンズ6の平行偏心と傾きの調整が可能な構造を有する。
【0022】
被検レンズ6の偏心は、偏心調整用ターゲット板14を指標にして調整する。ターゲット板14には、例えば白色の紙が用いられる。図5に示すように、ターゲット板14上には被検光と参照光の輝点が形成される。被検光の輝点が参照光の輝点と空間的に重畳するように被検レンズ6の偏心が調整される。
【0023】
被検レンズ6は、その分散が既知であり、かつその中心部を被検光が透過可能な光学素子である。なお、被検レンズ6の中心とは、該被検レンズ6の一方のレンズ面の曲率中心と他方のレンズ面の曲率中心とを結んだ線を意味する。また、被検レンズ6の中心部は、上記中心とその近傍を含む領域を意味する。
【0024】
7は合波器であり、被検光路と参照光路をそれぞれ伝搬してきた光を空間的に重ね合わせる。合波器7としては、例えば、波長依存性がないビームスプリッターであって、裏面反射光が干渉信号に混入しないようにウエッジをつけたものが用いられる。
【0025】
波長分割器8は、波長帯域が広い光を、互いに波長が異なる2つの光に空間的に分割する。波長分割器8としては、例えばダイクロイックミラーが用いられる。
【0026】
9と10は波長選択器であり、波長分割器8により分割された2つの光のそれぞれに含まれる(つまりは被検光および参照光に含まれていた)互いに異なる特定波長帯域の光成分のみを透過させる(すなわち、バンドパスフィルタリングを行う)。特定波長帯域の幅は、およそ40nm以下に設定することが望ましい。図1では、波長選択器9を透過する光の中心波長をλ(第1の波長)として示し、波長選択器10を透過する光の中心波長をλ(第2の波長)として示す。
【0027】
11と12は光強度検出器であり、それぞれ波長選択器9,10を透過した光の強度を検出する。光強度検出器11,12としては、例えば、フォトダイオードが用いられる。以上説明した光源1〜光強度検出器11,12によって、干渉光学系を含む干渉計が構成される。
【0028】
20は屈折率測定装置であり、コンピュータプログラムとしての屈折率測定プログラムによって動作するパーソナルコンピュータにより構成されている。屈折率測定装置20には、光路長調整器3からのステージ値と、光強度検出器11,12からの出力とが入力される。屈折率測定装置20は、光強度検出器11,12の出力をモニタしながら被検光と参照光とが干渉するように光路長調整器3の駆動ステージの位置を調整(制御)する。
【0029】
屈折率測定装置(以下、単に測定装置という)20は、図3のフローチャートに示す屈折率測定プログラム(屈折率測定方法)を実行して、被検レンズ6の中心の屈折率(群屈折率)を測定する。ここでは、被検レンズ6は、被検ステージ15上に設置されて被検光路中に配置されているものとし、また平行偏心と傾きも調整されているものとする。
【0030】
ステップ1では、測定装置20は、光強度検出器11,12の出力として、波長λと波長λの参照光と被検光の干渉を示す信号(以下、干渉信号という)が得られるように光路長調整器3の駆動ステージの位置を調整する。そして、波長λと波長λのそれぞれの干渉信号が得られるときの光路長調整器3の干渉ステージ値S1,S2を取得する。
【0031】
次に、被検レンズ6が被検ステージ15(被検光路)から取り除かれ、被検光が被検レンズ6を透過しない状態となる。この状態で、ステップ2では、測定装置20は、光強度検出器11,12から波長λと波長λの干渉信号が得られるように光路長調整器3の駆動ステージの位置を調整する。そして、波長λと波長λのそれぞれの干渉信号が得られるときの光路長調整器3の干渉ステージ値S3,S4を取得する。
【0032】
波長λと波長λの参照光と被検光とが互いに干渉するのは、それぞれの波長において参照光と被検光の光路長が一致するときである。理想的な干渉光学系においては、空気の分散を0に近似すると、干渉ステージ値S3,S4は互いに同じ値になり、S3のみを取得すればよい。しかし、実際はビームスプリッターの厚み差等のシステムエラーによって干渉ステージ値S3,S4は互いに異なる値になる。したがって、干渉ステージ値S3,S4の両方を取得した方がよい。
【0033】
また、干渉ステージ値S3,S4はそれぞれ、被検レンズ6の有無によって被検光路の光路長が変化するので、干渉ステージ値S1,S2とは異なる値になる。
【0034】
ステップ1〜4の処理は、測定システムの環境変化による影響を低減するために迅速に行うことが望ましい。このためには、被検レンズ6の設置姿勢を調整する時間を省くために、干渉ステージ値S1,S2を干渉ステージ値S3,S4よりも先に取得する方がよい。
【0035】
次にステップ3では、測定装置20は、λとλの波長ごとに、被検光路中に被検レンズ6が配置されている場合と配置されていない場合の干渉ステージ値の差α,βを以下のように算出する。
α=S1−S3
β=S2−S4
差α,βは、Dを被検レンズ6の中心厚みとし、n(λ)を波長λにおける被検レンズの群屈折率とし、空気の群屈折率をng_airとし、その分散を0とするとき、
【0036】
【数1】

【0037】
と表すことができる。なお、空気の群屈折率ng_airは、測定装置内の気温と気圧と湿度を計測することにより、エドレンの式を用いて算出することができる。
【0038】
ステップ4では、測定装置20は、ステップ3で求めた差α,βと、被検レンズ6の既知の分散とから、被検レンズ6の中心厚みDを求める。被検レンズ6の分散である、
【0039】
【数2】

【0040】
は予め測定することで既知となる。
【0041】
厚みDは以下の式で求まる。
【0042】
【数3】

【0043】
ステップ5では、測定装置20は、差αと差βと被検レンズ6の中心厚みDとから波長λと波長λにおける被検レンズ6の中心の群屈折率を算出する。ここで算出する群屈折率は、被検レンズ6の中心を光線が透過した方向に平均化されたものである。
【0044】
【数4】

【0045】
また、測定装置20は、必要に応じて以下の式を用いて、群屈折率から位相屈折率への変換を行う。Nは群屈折率の文献値であり、Nは位相屈折率の文献値である。nは上記(a)式で求めた群屈折率の実測値であり、nは求めるべき位相屈折率の実測値である。NとNは、例えば被検レンズ6の材料である硝材を製造したメーカーのカタログ値等を用いる。
【0046】
【数5】

【0047】
図6を用いて、本実施例の効果について説明する。被検レンズ6のレンズ表面の法線に対する入射光線の傾きをθとし、該入射光線に対する透過光線の傾きをθtとし、入射光線に対する反射光線の傾きをθとする。さらに、被検レンズ6の屈折率をnとし、被検レンズ6の周りの媒質の屈折率をn′とする。このとき、スネルの法則から、θとθtとの間には以下の関係が成り立つ。
n′sinθ=nsin(θ-θt)
θは十分に小さいと仮定できるので、傾きθtは、
【0048】
【数6】

【0049】
と表すことができる。また、反射光線の傾きθrは、θの2倍であるから、
【0050】
【数7】

【0051】
という関係が成り立つ。ここで、被検レンズ6の屈折率は1<n<2であるため、これを透過する光線の傾きは、反射する光線に比べて小さくなる。したがって、光線の傾きが小さく波面収差が小さい透過光のみを測定することで、屈折率の測定精度が向上する。
【0052】
発明者による実験(シミュレーション)結果によれば、本実施例の測定方法を用いることで、最適な波長λ,λ(例えば、λ=400nm、λ=800nm)の選択により、1.2×10-4の精度で被検レンズ6の屈折率の測定が可能となった。
【実施例2】
【0053】
図2には、本発明の実施例2である屈折率測定装置を含む屈折率測定システムの構成を示している。本実施例において、実施例1と共通する構成要素については、実施例1中の符号と同符号を付して説明に代える。
【0054】
本実施例では、干渉光学系の被検光路中に、被検レンズ6を浸すことが可能な液体17を満たした液槽16が配置されている。液漕16の壁面のうち被検光が透過する部分は窓ガラスとして形成されている。窓ガラスは、その表裏面の平行度が高いガラス材を用いて形成され、さらに液漕16における入射側の窓ガラスと射出側の窓ガラスは互いに平行に配置されている。これら入射側の窓ガラスと射出側の窓ガラスの間隔(液漕間隔)Lは、予め測定される。
【0055】
液体17は、空気よりも屈折率が高く、被検光を完全には吸収せず、かつ被検レンズ6の屈折率の測定中に屈折率が変化しない液体である。本実施例では、空気よりも被検レンズ6に対して屈折率が近い液体17を用いる。このような液体17に被検レンズ6を浸すと、被検光のレンズ面での屈折を小さくすることができる。
【0056】
実施例1にて説明した式(b)によると、n′がnに近いほど透過光線の傾きtが小さくなり、被検レンズ6の中心の屈折率の測定精度が向上する。
【0057】
30は屈折率測定装置であり、コンピュータプログラムとしての屈折率測定プログラムによって動作するパーソナルコンピュータにより構成されている。屈折率測定装置30には、光路長調整器3からのステージ値と、光強度検出器11,12からの出力とが入力される。屈折率測定装置30は、光強度検出器11,12の出力をモニタしながら被検光と参照光とが干渉するように光路長調整器3の駆動ステージの位置を調整(制御)する。
【0058】
本実施例の屈折率測定装置(以下、単に測定装置という)30は、図4のフローチャートに示す屈折率測定プログラム(屈折率測定方法)を実行して、被検レンズ6の中心の屈折率(群屈折率)を測定する。ここでは、被検レンズ6は、被検ステージ15上に設置され、該被検ステージ15とともに液漕16内に満たされた液体17に浸されて被検光路中に配置されているものとし、また平行偏心と傾きも調整されているものとする。
【0059】
ステップ11では、測定装置30は、光強度検出器11,12の出力として、波長λと波長λの参照光と被検光の干渉を示す干渉信号が得られるように光路長調整器3の駆動ステージの位置を調整する。そして、波長λと波長λのそれぞれの干渉信号が得られるときの光路長調整器3の干渉ステージ値S1,S2を取得する。
【0060】
次に、被検レンズ6が被検ステージ15(被検光路)から取り除かれ、被検光が被検レンズ6を透過せず、液漕16内の液体17を透過する状態となる。この状態で、ステップ12では、測定装置30は、光強度検出器11,12から波長λと波長λの干渉信号が得られるように光路長調整器3の駆動ステージの位置を調整する。そして、波長λと波長λのそれぞれの干渉信号が得られるときの光路長調整器3の干渉ステージ値S3,S4を取得する。
【0061】
さらに、被検光路(液漕16)内から液体17も取り除かれ、被検光が被検レンズ6と液体16を透過しない状態となる。この状態で、ステップ13では、測定装置30は、光強度検出器11,12から波長λと波長λの干渉信号が得られるように光路長調整器3の駆動ステージの位置を調整する。そして、波長λと波長λのそれぞれの干渉信号が得られるときの光路長調整器3の干渉ステージ値S5,S6を取得する。
【0062】
続いてステップ14では、測定装置30は、先のステップで取得した干渉ステージ値S3,S4,S5,S6および液漕間隔Lから、波長λと波長λにおける液体17の屈折率(群屈折率)を算出する。具体的には、まず干渉ステージ値S3,S4,S5,S6の差γ,εを以下のように算出する。
γ=S3−S5
ε=S4−S6
そして、波長λにおける液体17の群屈折率ng_oil(λ)を、以下の式で算出する。
【0063】
【数8】

【0064】
次にステップ15では、測定装置30は、波長λ,λごとに、被検光路内に被検レンズ6が配置されている場合と配置されていない場合の干渉ステージ値の差α,βを算出する。
α=S1−S3
β=S2−S4
差α,βは、Dを被検レンズ6の中心厚みとし、n(λ)を波長λにおける被検レンズの群屈折率とし、ng_oil(λ)を波長λにおける液体17の群屈折率とするとき、
【0065】
【数9】

【0066】
と表すことができる。
【0067】
次にステップ16では、測定装置30は、ステップ15で求めた差α,βと、被検レンズ6の既知の分散とから、被検レンズ6の中心厚みDを求める。被検レンズ6の分散νは、実施例で説明したように既知である。
【0068】
そして、厚みDは以下の式で求まる。
【0069】
【数10】

【0070】
続いてステップ17では、測定装置30は、差α,βと、被検レンズ6の中心厚みDと、液体17の群屈折率ng_oil(λ)とから、波長λと波長λにおける被検レンズ6の中心の群屈折率を算出する。ここで算出する群屈折率は、被検レンズ6の中心を光線が透過した方向に平均化されたものである。
【0071】
【数11】

【0072】
また、測定装置30は、必要に応じて以下の式を用いて、群屈折率から位相屈折率への変換を行う。Nは群屈折率の文献値であり、Nは位相屈折率の文献値である。nは上記(c)式で求めた群屈折率の実測値であり、nは求めるべき位相屈折率の実測値である。NとNは、例えば被検レンズ6の材料である硝材を製造したメーカーのカタログ値等を用いる。
【0073】
【数12】

【0074】
上記各実施例では、測定精度を低下させる被検レンズ6での反射光の検出や、被検レンズ6の厚みの高精度な測定を必要としない。したがって、各実施例によれば、被検レンズ6を透過する被検光と参照光との低コヒーレンス干渉を利用して、精度良く被検レンズ6の屈折率を測定することができる。
【0075】
なお、実施例1,2において、波長分割器8としてビームスプリッターを用いてもよい。また、実施例1,2において、干渉計(干渉光学系)としてマッハツェンダー型を用いているが、これ以外の干渉計、例えばリング干渉計を用いてもよい。
【0076】
以上説明した各実施例は代表的な例にすぎず、本発明の実施に際しては、各実施例に対して種々の変形や変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0077】
光の干渉を利用して精度良く光学素子の屈折率を測定する屈折率測定技術を提供できる。
【符号の説明】
【0078】
3 光路長調整器
6 被検レンズ
17 液体
20,30 屈折率測定装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検光と参照光とを互いに干渉させる光学系であり、前記被検光の光路内に被検光学素子の設置が可能で、かつ前記被検光および前記参照光のうち一方の光路長を変更する光路長変更手段を含む干渉光学系とともに用いられ、前記被検光学素子の屈折率を測定する屈折率測定装置であって、
前記光路長変更手段により前記被検光と前記参照光とが干渉する前記光路長が得られたときの該光路長変更手段の設定を示す値を干渉設定値とするとき、
前記被検光および前記参照光の波長帯域に含まれる互いに異なる第1の波長と第2の波長のそれぞれにおいて、前記光路内に設置された前記被検光学素子を透過した前記被検光と前記参照光とが干渉するときの前記干渉設定値と、前記被検光学素子が前記光路から取り除かれた状態で前記被検光と前記参照光とが干渉するときの前記干渉設定値との差を求め、
前記第1の波長における前記差、前記第2の波長における前記差および前記被検光学素子の分散を用いて前記被検光学素子の屈折率を算出することを特徴とする屈折率測定装置。
【請求項2】
被検光と参照光とを互いに干渉させる光学系であり、前記被検光の光路内に被検光学素子を浸すことが可能な液体が配置され、かつ前記被検光および前記参照光のうち一方の光路長を変更する光路長変更手段を含む干渉光学系とともに用いられ、前記被検光学素子の屈折率を測定する屈折率測定装置であって、
前記光路長変更手段により前記被検光と前記参照光とが干渉する前記光路長が得られたときの該光路長変更手段の設定を示す値を干渉設定値とするとき、
前記被検光および前記参照光の波長帯域に含まれる互いに異なる第1の波長と第2の波長のそれぞれにおいて、前記液体に浸された前記被検光学素子を透過した前記被検光と前記参照光とが干渉するときの前記干渉設定値と、前記被検光学素子が浸されていない前記液体を透過した前記被検光と前記参照光とが干渉するときの前記干渉設定値との差を求め、
前記第1および第2の波長のそれぞれにおいて、前記被検光学素子が浸されていない前記液体を透過した前記被検光と前記参照光とが干渉するときの前記干渉設定値と、前記被検光学素子および前記液体が前記光路から取り除かれた状態で前記被検光と前記参照光とが干渉するときの前記干渉設定値とを用いて前記液体の屈折率を求め、
前記第1の波長における前記差、前記第2の波長における前記差、前記第1および第2の波長のそれぞれにおける前記液体の屈折率および前記被検光学素子の分散を用いて前記被検光学素子の屈折率を算出することを特徴とする屈折率測定装置。
【請求項3】
被検光と参照光とを互いに干渉させる光学系であり、前記被検光の光路内に被検光学素子の設置が可能で、かつ前記被検光および前記参照光のうち一方の光路長を変更する光路長変更手段を含む干渉光学系を用いて、前記被検光学素子の屈折率を測定する屈折率測定方法であって、
前記光路長変更手段により前記被検光と前記参照光とが干渉する前記光路長が得られたときの該光路長変更手段の設定を示す値を干渉設定値とするとき、
前記被検光および前記参照光の波長帯域に含まれる互いに異なる第1の波長と第2の波長のそれぞれにおいて、前記光路内に設置された前記被検光学素子を透過した前記被検光と前記参照光とが干渉するときの前記干渉設定値と、前記被検光学素子が前記光路から取り除かれた状態で前記被検光と前記参照光とが干渉するときの前記干渉設定値との差を求めるステップと、
前記第1の波長における前記差、前記第2の波長における前記差および前記被検光学素子の分散を用いて前記被検光学素子の屈折率を算出するステップとを有することを特徴とする屈折率測定方法。
【請求項4】
被検光と参照光とを互いに干渉させる光学系であり、前記被検光の光路内に被検光学素子を浸すことが可能な液体が配置され、かつ前記被検光および前記参照光のうち一方の光路長を変更する光路長変更手段を含む干渉光学系を用いて、前記被検光学素子の屈折率を測定する屈折率測定方法であって、
前記光路長変更手段により前記被検光と前記参照光とが干渉する前記光路長が得られたときの該光路長変更手段の設定を示す値を干渉設定値とするとき、
前記被検光および前記参照光の波長帯域に含まれる互いに異なる第1の波長と第2の波長のそれぞれにおいて、前記液体に浸された前記被検光学素子を透過した前記被検光と前記参照光とが干渉するときの前記干渉設定値と、前記被検光学素子が浸されていない前記液体を透過した前記被検光と前記参照光とが干渉するときの前記干渉設定値との差を求めるステップと、
前記第1および第2の波長のそれぞれにおいて、前記被検光学素子が浸されていない前記液体を透過した前記被検光と前記参照光とが干渉するときの前記干渉設定値と、前記被検光学素子および前記液体が前記光路から取り除かれた状態で前記被検光と前記参照光とが干渉するときの前記干渉設定値とを用いて前記液体の屈折率を求めるステップと、
前記第1の波長における前記差、前記第2の波長における前記差、前記第1および第2の波長のそれぞれにおける前記液体の屈折率および前記被検光学素子の分散を用いて前記被検光学素子の屈折率を算出するステップとを有することを特徴とする屈折率測定方法。
【請求項5】
コンピュータに、
被検光と参照光とを互いに干渉させる光学系であり、前記被検光の光路内に被検光学素子の設置が可能で、かつ前記被検光および前記参照光のうち一方の光路長を変更する光路長変更手段を含む干渉光学系を用いて、前記被検光学素子の屈折率の測定を実行させるる屈折率測定プログラムであって、
前記光路長変更手段により前記被検光と前記参照光とが干渉する前記光路長が得られたときの該光路長変更手段の設定を示す値を干渉設定値とするとき、
前記被検光および前記参照光の波長帯域に含まれる互いに異なる第1の波長と第2の波長のそれぞれにおいて、前記光路内に設置された前記被検光学素子を透過した前記被検光と前記参照光とが干渉するときの前記干渉設定値と、前記被検光学素子が前記光路から取り除かれた状態で前記被検光と前記参照光とが干渉するときの前記干渉設定値との差を求めるステップと、
前記第1の波長における前記差、前記第2の波長における前記差および前記被検光学素子の分散を用いて前記被検光学素子の屈折率を算出するステップとを有することを特徴とする屈折率測定プログラム。
【請求項6】
コンピュータに、
被検光と参照光とを互いに干渉させる光学系であり、前記被検光の光路内に被検光学素子を浸すことが可能な液体が配置され、かつ前記被検光および前記参照光のうち一方の光路長を変更する光路長変更手段を含む干渉光学系を用いて、前記被検光学素子の屈折率の測定を実行させる屈折率測定プログラムであって、
前記光路長変更手段により前記被検光と前記参照光とが干渉する前記光路長が得られたときの該光路長変更手段の設定を示す値を干渉設定値とするとき、
前記被検光および前記参照光の波長帯域に含まれる互いに異なる第1の波長と第2の波長のそれぞれにおいて、前記液体に浸された前記被検光学素子を透過した前記被検光と前記参照光とが干渉するときの前記干渉設定値と、前記被検光学素子が浸されていない前記液体を透過した前記被検光と前記参照光とが干渉するときの前記干渉設定値との差を求めるステップと、
前記第1および第2の波長のそれぞれにおいて、前記被検光学素子が浸されていない前記液体を透過した前記被検光と前記参照光とが干渉するときの前記干渉設定値と、前記被検光学素子および前記液体が前記光路から取り除かれた状態で前記被検光と前記参照光とが干渉するときの前記干渉設定値とを用いて前記液体の屈折率を求めるステップと、
前記第1の波長における前記差、前記第2の波長における前記差、前記第1および第2の波長のそれぞれにおける前記液体の屈折率および前記被検光学素子の分散を用いて前記被検光学素子の屈折率を算出するステップとを有することを特徴とする屈折率測定プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−24720(P2013−24720A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−159605(P2011−159605)
【出願日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】