説明

屋外塗料用ポリエステル樹脂組成物及びその水分散体

【課題】塗膜外観、耐候性、耐加水分解性が非常に優れ、大幅に有機溶剤を減少でき、なおかつ耐衝撃性、耐傷つき性などが良好な塗膜を得ることができる屋外塗料用ポリエステル樹脂とその水分散体を提供する。
【解決手段】ポリエステル樹脂を含有する屋外塗料用樹脂組成物であって、該ポリエステル樹脂は、全ポリカルボン酸及び全ポリオール成分をそれぞれ100モル%としたとき、
全ポリカルボン酸成分および全ポリオール成分にスルホン酸金属塩基を含有せず、
全ポリカルボン酸成分の内芳香族ジカルボン酸が80モル%以上であり、
全ポリオール成分の内主鎖の炭素数が2以下であるグリコールが20モル%未満であると共に側鎖を有するグリコールおよび/または脂環族グリコールが40モル%以上の組成であり、
全ポリオール成分が2−メチル−1,3−プロパンジオールと3−メチル−1,5−ペンタンジオールからなる、
屋外塗料用ポリエステル樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種家電、建材製品に好適な屋外用の金属材料に塗装した場合に良好な耐候性、耐加水分解性を示すポリエステル樹脂とその水分散体に関する。また酸化チタンなどと共に使用することでさらに隠蔽性が向上するなどの塗膜外観を向上させることができ、しかも耐傷つき性、耐衝撃性にも優れる水系塗料用組成物とそれを塗装した金属板を提供することができる。
【背景技術】
【0002】
有機溶剤類を媒体とする塗料用樹脂に無機顔料などを配合した塗料組成物は家電、建材を中心に広く使用されている。しかし、これらは通常多量の有機溶剤で希釈する必要があり、大気汚染、省資源の面により切に水性化が求められている。
【0003】
また、近年は有機溶剤類による環境汚染や、作業環境の悪化などが顕在化してきており、更には欧米諸国における有機溶剤排出規制も年々強化されており、こうした有機溶剤類の使用を減少させることが重要な課題となっている。
【0004】
これまでに良く知られた水系樹脂としてはアクリル樹脂があるが、一般に鋼板に塗装したときの加工性に不満がある。一方ポリエステル樹脂は、アクリル樹脂に比べて加工性良好である。例えば、加工性が良好なポリエステル樹脂が過去に開示されているが、耐候性、耐加水分解性に不満があり、屋外塗料用の樹脂としては用いることが難しい(特許文献1、特許文献2参照)。
【0005】
また、一般に水分散体の溶液粘度に対する固形分濃度依存性には、溶剤系に比べてはるかに大きな関係があり、少し固形分濃度を高くするだけで溶液粘度が急激に上昇する傾向にある。また、水分散体の粒子径が小さくなっても急激に溶液粘度上昇することが知られている。
例えば特許文献1では、水分散体の粒子径(メジアン径)が0.7〜1.2μmと大きいにも関わらず、固形分濃度30%のB型粘度が1〜10poiseと高い値を示している。固形分濃度35%の水分散体に関しては33poiseにも達している。また、特許文献3においても同様であり、固形分濃度30〜35重量%で1〜5poiseを示している。
また、特許文献4の方法を用いて作製した水分散体のB型粘度について本発明者らが詳細に検討したところ、固形分濃度20%で10poiseとなり、25%まで固形分濃度を上昇させると800poiseにもなることが判明した。
水分散体の固形分濃度が低いと貯蔵や輸送の際にコスト的に不利になることはもとより、塗膜を形成する際の主成分となる樹脂固形分に対して他の添加剤(例えば顔料や硬化剤等)を添加するので、配合の自由度が少なくなることも問題であり、厚膜化が難しく、溶剤系に比べて蒸気圧の低い水を乾燥させるのに多大なエネルギーが必要になる等作業性が劣るといった問題がある。当然市場からは高固形分濃度化して欲しいとの要求があるものの、実際には上述のように固形分濃度を上げていくと溶液粘度が極度に上昇するので塗布に適した溶液粘度に設定することができず、さらには溶液の安定性等も著しく低下するので実現が難しく長い間改善が求められてきた。
【0006】
【特許文献1】特開平9−296100号公報(実施例、表2等)
【特許文献2】特開平11−61035号公報(実施例、表2等)
【特許文献3】特開2000−313793号広報(実施例、表3等)
【特許文献4】特開昭56−88454号広報(実施例)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、これら従来のアクリル樹脂やポリエステル樹脂の抱えている欠点を改善すると共に、塗膜外観、耐候性、耐加水分解性が非常に優れ、大幅に有機溶剤を減少でき、さらには水分散体の高固形分濃度化が可能であり、なおかつ耐衝撃性、耐傷つき性などが良好な塗膜を得ることができる屋外塗料用として好適なポリエステル樹脂とその水分散体提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、特定の組成を有するポリエステル樹脂を用いることで、これら従来の欠点を改善することができた。すなわち、本発明は以下のポリエステル樹脂とその水分散体である。
【0009】
(1)全ポリカルボン酸及びポリオール成分をそれぞれ100モル%としたとき、ポリカルボン酸成分の内芳香族ジカルボン酸が80モル%以上であり、ポリオール成分の内主鎖の炭素数が2以下であるグリコールが20モル%未満であると共に側鎖を有するグリコールおよび/または脂環族グリコールが40モル%以上の組成である屋外塗料用ポリエステル樹脂。
【0010】
(2)エステル基濃度が4600eq/106g以下である(1)記載の屋外塗料用ポリエステル樹脂。
【0011】
(3)数平均分子量が6000〜100000である(1)または(2)記載の屋外塗料用ポリエステル樹脂。
【0012】
(4)(1)〜(3)のいずれかに記載のポリエステルに無水カルボン酸基を有する化合物を添加して得られるポリエステル樹脂であって、添加する無水カルボン酸基を有する化合物の全添加量を100モル%としたとき、その10モル%以上が式Iで示される構造を分子内に持つ化合物であることを特徴とする屋外塗料用ポリエステル樹脂。
式I;
【化2】


(Rは芳香族、脂肪族、又は脂環族基を含む4価の連結基を示す)
【0013】
(5)樹脂酸価が150〜500eq/106gである(1)〜(4)のいずれかに記載の屋外塗料用ポリエステル樹脂。
【0014】
(6)リン化合物を添加していることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の屋外塗料用ポリエステル樹脂。
【0015】
(7)(1)〜(6)のいずれかに記載のポリエステル樹脂を水分散したことを特徴とする屋外塗料用ポリエステル樹脂水分散体。
【発明の効果】
【0016】
本発明のポリエステル樹脂を用いた水分散体は、高固形分濃度でも低溶液粘度を維持できるため、配合の自由度が上がると共に、コストダウンの効果も期待できる。また、それを用いた塗料組成物は、良好な耐候性、耐加水分解性を有し、外観を向上させることができる。また、傷つき性や耐衝撃性にも優れるため家電、建材用途等における高い要求品質にこたえることができる。また、本発明に使用するポリエステル樹脂及びその水分散体は、塗料組成物としてだけではなく、単独、あるいは公知の硬化剤と併用することにより、種々の基材、例えば、ポリエチレンテレフタレート等のプラスチックフィルム、鉄、ブリキ等の金属板などの接着剤として、または、各種ピグメントのバインダーとして使用することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明のポリエステル樹脂の全ポリカルボン酸及びポリオール成分を100モル%としたとき、共重合する芳香族ジカルボン酸は80〜100モル%、下限は85モル%以上が好ましく、90モル%以上が更に好ましい。その他のジカルボン酸が0〜20モル%である。芳香族ジカルボン酸の合計が80モル%未満では良好な硬度、耐ブロッキング性、耐アルカリ性、耐加水分解性が得られないことがある。
【0018】
本発明のポリエステル樹脂に共重合する芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などが1種又は2種以上を任意に使用できる。このうち、テレフタル酸とイソフタル酸を併用して使用することが、加工性、耐衝撃性と硬度のバランス上特に好ましく、水分散体作製時の分散性、安定性に優れる。
【0019】
本発明のポリエステル樹脂に共重合するその他のカルボン酸としては、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、アゼライン酸などの脂肪族ジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、ダイマー酸などの脂環族ジカルボン酸が挙げられるが、耐加水分解性、耐候性の面より、セバシン酸、シクロヘキサンジカルボン酸類が好ましい。また、発明の内容を損なわない範囲で、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸などの多価カルボン酸を併用しても良い。
【0020】
本発明のポリエステル樹脂に共重合する主鎖の炭素数が2以下のグリコールは20モル%未満、好ましくは15モル%未満、さらに好ましくは10モル%未満、最も好ましくは0%である。炭素数2以下のポリオールが20モル%を越えると、耐加水分解性、耐候性が低下する恐れがある。主鎖の炭素数が2以下のグリコールとしては例えば、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、2,3−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール等が挙げられる。一方主鎖の炭素数が2超のポリオールとしては、2−メチル−1,3−プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、2−メチル−1,4−ブタンジオール、2−メチル−3−メチル−1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオールなどである。脂環族グリコールとしては、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、水添ビスフェノール−A、ダイマージオールなどが挙げられる。ポリエステル樹脂中に、主鎖の炭素数が2以下のポリオールを20モル%未満で含有することが好ましく、20モル%以上では、良好な塗膜外観、耐加水分解性、加工性が得られない場合がある。
【0021】
更に本発明のポリエステル樹脂のポリオールの中で側鎖を有するグリコールおよび/または脂環族ポリオール成分を含有することが好ましい。側鎖を有するポリオールおよび/または脂環族グリコール成分40〜100モル%、好ましくは45〜100モル%、さらに好ましくは50〜100モル%である。
【0022】
側鎖を有するグリコールとしては、2−メチル−1,3−プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,4−ブタンジオール、2−メチル−3−メチル−1,4−ブタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオールなどである。脂環族ポリオールとしては、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、水添ビスフェノール−A、ダイマージオールなどが挙げられる。塗膜の物性面から特に好ましいのは、2−メチル−1,3−プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールである。これらの中でも特に2−メチル−1,3−プロパンジオール/3−メチル−1,5−ペンタンジオールの組み合わせ、ネオペンチルグリコール/側鎖のないグリコール(特に好ましくは1,4−ブタンジオール)の組み合わせがコスト面や物性面からのバランスが非常に優れた結果となる。
【0023】
また、発明の内容を損なわない範囲で、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトールなどの多価ポリオールを併用しても良い。
【0024】
本発明のポリエステル樹脂の組成及び組成比はポリエステル樹脂を重クロロホルム等の溶媒に溶解して測定する1H−NMRの積分比より計算で求めることができる。
【0025】
本発明のポリエステル樹脂は数平均分子量6000以上、好ましくは7000以上、さらに好ましくは8000以上である。分子量の上限は100000以下が好ましい。6000未満では加工性、硬度、耐衝撃性、傷つき性が低下することがある。100000以上では水分散を作製が困難である。また、好ましい水酸基価は10〜500当量/106g、さらに好ましくは20〜250当量/106gである。水酸基価が500当量/106gより高くなると、加工性、耐衝撃性が低下する場合がある。水酸基が10当量/106g未満では硬化剤との反応性が不良となり、硬度が低下する可能性がある。
【0026】
本発明のポリエステル樹脂は、ガラス転移温度が25〜100℃であることが好ましい。上限は90℃以下が好ましく、80℃以下がさらに好ましい。ガラス転移温度が25℃未満では良好な硬度、耐擦り傷性、耐汚染性、絞り加工性が得られない場合があり、100℃を超えると加工性、耐衝撃性、水分散性が低下する場合もある。
【0027】
本発明のポリエステル樹脂の比重は1.17〜1.28、好ましくは1.20〜1.26である。比重が1.17未満では良好な硬度と加工性のバランスが得られなくなる可能性がある。比重が1.30を越えると水分散性が不良となる可能性がある。
【0028】
本発明のポリエステル樹脂の屈折率は1.50〜1.60であることが好ましい。屈折率がこの範囲にあると顔料を配合したときに良好な外観を与えることができる。屈折率はアッベ屈折計を用いて測定することができる。その際、サンプルとしては厚さ40μmのポリエステル樹脂フィルムを用いて、封入剤としてジヨードメタンを用いて25℃で測定する。
【0029】
本発明のポリエステル樹脂は水に分散する必要があるが、そのためにポリエステル中に親水性のある極性基を導入することが好ましい。極性基としては、スルホン酸金属塩基、カルボキシル基、リン酸基等が挙げられるが、スルホン酸金属塩、カルボキシル基が特に好ましく、これらは単独又は併用して使用できる。
【0030】
スルホン酸金属塩基を導入する方法としては、スルホン酸基は、5−スルホイソフタル酸、4−スルホナフタレン−2,7−ジカルボン酸、5〔4−スルホフェノキシ〕イソフタル酸などの金属塩又は2−スルホ−1,4−ブタンジオ−ル、2,5−ジメチル−3−スルホ−2,5−ヘキサンジオ−ル等の金属塩などのスルホン酸金属塩基を含有するジカルボン酸又はグリコ−ルを全ポリカルボン酸または全ポリオ−ル成分の10モル%以下、好ましくは7モル%以下、更に好ましくは5モル%以下の範囲で使用でき、10モル%を超えると耐加水分解性が低下する傾向にある。
【0031】
カルボキシル基を導入する方法は、ポリエステル樹脂を重合した後に常圧、窒素雰囲気下、無水トリメリット酸、無水フタル酸、無水ピロメリット酸、無水コハク酸、無水1,8−ナフタル酸、無水1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、シクロヘキサン−1,2,3,4−テトラカルボン酸−3,4−無水物、エチレングリコールビスアンヒドロトリメリテート、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロ−3−フラニル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、ナフタレン1,8:4,5−テトラカルボン酸二無水物などから1種または2種以上を選択し、後付加して酸価を付与する方法やポリエステルを高分子量化する前のオリゴマー状態のものにこれらの酸無水物を投入し、次いで減圧下の重縮合により高分子量化することで、ポリエステルに酸価を導入する方法などがある。この場合、目標とする酸価が得られやすいとして前者の方法が好ましい。
【0032】
この際、樹脂酸価を付与する目的で、ポリエステルに無水カルボン酸基を有する化合物を添加してポリエステル樹脂を得る場合、添加する無水カルボン酸基を有する化合物の全添加量を100モル%としたとき、その10モル%以上が式Iで示される構造を分子内に持つ化合物であることが望ましい。より好ましくは20モル%以上、最も好ましくは40モル%以上である。
式I;
【化3】

(Rは芳香族、脂肪族、又は脂環族基を含む4価の連結基を示す)
式Iに示す化合物は特に限定されないが、例えば無水ピロメリット酸、シクロヘキサン−1,2,3,4−テトラカルボン酸−3,4−無水物、エチレングリコールビスアンヒドロトリメリテート、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロ−3−フラニル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、ナフタレン1,8:4,5−テトラカルボン酸二無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。ポリエステル重合終了後添加する無水カルボン酸基を有する化合物の全添加量を100モル%としたとき、その10モル%以上に式Iで示される構造を分子内に持つ化合物を使用すると、ポリエステル分子末端だけでなく、分子鎖中にもフリーのカルボキシル基が導入されることがあり、後述する水分散体を作成する際、その保存安定性が向上することがある。
【0033】
本発明のポリエステル樹脂は、水分散性、塗膜物性面から好ましくは酸価が150〜500当量/106g、さらに好ましくは200〜400当量/106gであることが望ましい。酸価が150当量/106g以下では、水分散性が低下するので好ましくない場合がある。酸価が500当量/106g以上では、塗膜とした場合の耐水性が劣る可能性がある。
【0034】
本発明のポリエステル樹脂の重合触媒は、例えばチタン化合物(テトラ−n−ブチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、チタンオキシアセチルアセトネートなど)、アンチモン化合物(トリブトキシアンチモン、三酸化アンチモンなど)、ゲルマニウム化合物(テトラ−n−ブトキシゲルマニウム、酸化ゲルマニウムなど)などを使用することができる。これらの触媒は1種又は2種以上使用してもよい。重合の反応性の面からチタン化合物が好ましい。
【0035】
本発明のポリエステル樹脂を作製する際に、重合終了後または酸無水物添加後に、リン化合物を添加し触媒を失活させることが好ましい。
【0036】
リン化合物としては、亜リン酸や次亜リン酸、そしてこれらのエステル類(例えば、ジエチルホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリスドデシルホスファイト及びトリスノニルデシルホスファイトなど)や、これらのリチウム、ナトリウム及びカリウム等の金属の塩等の3価のリン化合物が挙げられる。また、正リン酸やポリリン酸、そしてこれらのエステル類(例えば、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリ−n−ブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリス(トリエチレングリコール)ホスフェート及びエチルジエチルホスホノアセテートや、メチルアシッドホスフェート、エチルアシッドホスフェート、イソプロピルアシッドホスフェート、ブチルアシッドホスフェート、ジブチルホスフェート、モノブチルホスフェート、ジオクチルホスフェート及びトリエチレングリコールアシッドホスフェートなどの酸性リン酸エステル類等の5価のリン化合物が挙げられる。
【0037】
これらの中、亜リン酸、正リン酸、エチルアシッドホスフェート、トリス(トリエチレングリコール)ホスフェート、トリエチレングリコールアシッドホスフェート及びエチルジエチルホスホノアセテートが好ましく、また重合系内の異物生成抑制や色調の観点から、エチルアシッドホスフェート、トリス(トリエチレングリコール)ホスフェート、トリエチレングリコールアシッドホスフェート及びエチルジエチルホスホノアセテートが特に好ましい。
【0038】
リン化合物の使用量は、重合に使用した触媒に対してモル比で1〜5倍、好ましくは1〜3倍使用することが好ましい。リン化合物が触媒に配位して触媒活性が失われることにより樹脂や塗膜の耐加水分解性、耐候性を向上することができる。
【0039】
また、リン化合物と水素を除くIa族元素化合物、IIa族元素化合物及びマンガン化合物から選択される少なくとも1種の化合物を適量併用して使用しても良い。水素を除くIa族元素化合物、IIa族元素化合物、及びマンガン化合物としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム等の酸化物、水酸化物、アルコキシド、酢酸塩、炭酸塩、シュウ酸塩、及びハロゲン化物等、具体的には、例えば、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、マグネシウムアルコキシド、酢酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、酢酸カルシウム、炭酸カルシウム、酸化マンガン、水酸化マンガン、酢酸マンガン等が挙げられる。中でも、マグネシウム化合物、マンガン化合物が好ましく、マグネシウム化合物が特に好ましい。水素を除くIa族元素化合物、IIa族元素化合物、マンガン化合物の使用量としては、使用する触媒に対してモル比で1〜5倍、好ましくは1〜3倍使用することが樹脂や塗膜の耐加水分解性、耐候性を向上する点で好ましい。
【0040】
ポリエステルに使用する触媒、リン化合物は原子吸光法等公知の方法で測定、定量することが出来る。
【0041】
本発明のポリエステル樹脂は、両親媒性溶媒を用いた直接乳化法、あらかじめ有機溶剤に溶解してから水に置換する溶剤置換法など公知の方法により水分散できる。
【0042】
本発明のポリエステル樹脂水分散体には、必要により各種両親媒性溶媒を含有してもよい。両親媒性溶媒としては、n−ブタノール、イソプロピルアルコール、ジアセトンアルコール、2−エチルヘキサノール、メチルエチルケトン、アセトニトリル、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、n−メチルピロリドン、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキサン、1,3−オキソラン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、エチルカルビトールブチルカルビトール、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテルなどを用いることができる。このうちブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ブチルカルビトールが特に好ましい。樹脂固形分濃度30%の時20%以下を使用することが好ましい。有機溶剤削減の観点から、10%以下が特に好ましい。両親媒性溶媒は水分散体を作製する際の作業性が向上する、又はそれを含有した塗料は塗布性が良好になる等の効果がある。
【0043】
カルボキシル基を導入したポリエステル樹脂の水分散体を作成する場合、分散した微粒子の安定化のために、当該粒子表面のカルボキシル基などの極性基を部分的に、あるいは全面的に塩基性物質でもって中和する。
【0044】
ここで、中和に使用できる塩基性物質としては、アンモニアやトリエチルアミンなどに代表されるアミン類、あるいは水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどに代表される無機塩基類の使用が可能であるが、乾燥後の塗膜残存を無くすために、揮発性アミン化合物の使用が好ましい。
【0045】
揮発性アミン類として特に代表的なもののみを例示するにとどめれば、アンモニア、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノ−n−プロピルアミン、ジメチルn−プロピルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミンまたはトリエタノールアミンをはじめ、N−メチルエタノールアミン、N−アミノエチルエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミンまたはN,N−ジメチルプロパノールアミン等の各種のアミン類などである。特に好ましいのは、トリエチルアミン、N,N−ジメチルエタノールアミンまたはN,N−ジメチルプロパノールアミンなどである。
【0046】
また、これらの有機塩基性化合物から選ばれる2種以上の併用を、決して妨げるものではない。
【0047】
本発明に係るポリエステル樹脂水分散体の粒子径は、塗膜外観、貯蔵安定性に大きく影響するので重要である。粒子径は1〜500ナノメートル(nm)が好ましい。粒子径の上限は300nm以下が好ましく、200nm以下が特に好ましい。下限は、2nm以上が好ましく、5nm以上が特に好ましい。粒子径が500nmを越えると塗膜外観が悪化する傾向で、さらに水分散体の分散性が低下する可能性がある。1nm未満では、塗装作業性が低下する可能性がある。
【0048】
本発明のポリエステル樹脂水分散体は、高い固形分濃度においても比較的低い溶液粘度を示すため、作業性が良好であり、他の成分を加えることが容易にできる。また、ポリエステル樹脂水分散体を作製する際、出来高を高くすることができるため、コストダウンにも繋がるなどがある。たとえば、固形分濃度30〜50%の時、溶液粘度(B型粘度)0.01〜10dPa・sである。これは、ポリエステル樹脂中のポリオール成分の内、主鎖の炭素数が2以下であるグリコールを少なくすると共に側鎖を有するグリコールおよび/または脂環族グリコールを導入することにより、ポリエステル樹脂骨格を嵩高くすることにより分散粒径を適度にコントロールすることができるため、水分散体作製時の分散性を向上させることにより、高固形分化が可能になったと推測される。親水性基にスルホン酸塩を使用した場合、水分散体中の粒子の凝集により溶液粘度が上昇する傾向にあるため、カルボキシル基を親水性基として使用したほうが溶液粘度を抑えることができ好ましい。
【0049】
本発明のポリエステル樹脂水分散体は、無機顔料、硬化剤と配合することにより、水系塗料用樹脂組成物とすることが出来る。
【0050】
本発明に用いられる無機顔料は、無機顔料、着色顔料、体質顔料、防錆顔料などを示す。例えば、二酸化チタン、酸化鉄、酸化クロム、クロム酸塩、カーボンブラック、酸化ケイ素等の無機顔料、リン酸亜鉛、リン酸鉄、リン酸アルミニウム、亜リン酸亜鉛、トリポリリン酸アルミニウム等のリン酸系防錆顔料、モリブデン酸カルシウム、モリブデン酸アルミニウム、モリブデン酸バリウム、等のモリブデン酸系防錆顔料、酸化バナジウムなどのバナジウム系防錆顔料、ストロンチウムクロメート、ジンクロメートなどのクロメート顔料、カルシウムシリケートなどのシリケート系顔料、水分散シリカ、ヒュームドシリカ、等の微粒シリカなどを用いることができる。さらに、防錆性を有する導電性高分子であるポリアニリン、ポリチオフェン、ポリピロールなども使用することができる。また、フタロシアニブルー、フタロシアニングリーン、カルバゾールジオキサジンバイオレット、アントラピリミジンイエロー、イソインドリノンイエロー、インダンスレンブルー、キナクリドンレッド等の有機顔料を併用しても良い。
【0051】
水系塗料用樹脂組成物はポリエステル樹脂と反応し得る硬化剤を配合して使用する。その場合、ポリエステル樹脂(Aとする)と硬化剤(Bとする)との割合が(A)/(B)=95/5〜60/40(重量比)が好ましい。ポリエステル樹脂(A)の上限は90wt%がより好ましい。また、下限は70wt%が好ましい。ポリエステル樹脂が95wt%を超えると、塗膜硬度などが低下する場合もある。また、ポリエステル樹脂が60wt%未満であると加工性、耐衝撃性が低下する可能性がある。
【0052】
ポリエステル樹脂と反応し得る硬化剤としては、両親媒性溶剤、界面活性剤、その他親水性樹脂等と組み合わせることにより、水又は水系媒体に分散、又は溶解し得るものを用いることが出来る。すなわち、アルキルエーテル化アミノホルムアルデヒド樹脂、エポキシ化合物およびイソシアネート化合物、アルキルエーテル化フェノール樹脂、シランカップリング剤などが挙げられる。これらを水系樹脂などと組み合わせて使用するとき、アルキルエーテル化アミノホルムアルデヒド樹脂は反応性、硬度などの点で好ましい。エポキシ化合物は耐候性、耐酸性などの点で好ましい。また、ブロックイソシアネートは溶液安定性、強靭性の点で好ましい。
【0053】
アルキルエーテル化アミノホルムアルデヒド樹脂とは、たとえばメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノールなどの炭素原子数1〜4のアルコールによってアルキルエーテル化されたホルムアルデヒドあるいはパラホルムアルデヒドなどと尿素、N,N−エチレン尿素、ジシアンジアミド、アミノトリアジン等との縮合生成物であり、メトキシ化メチロール−N,N−エチレン尿素、メトキシ化メチロールジシアンジアミド、メトキシ化メチロールベンゾグアナミン、ブトキシ化メチロールベンゾグアナミン、メトキシ化メチロールメラミン、ブトキシ化メチロールメラミン、メトキシ化/ブトキシ化混合型メチロールメラミン、ブトキシ化メチロールベンゾグアナミンなどが挙げられる。
【0054】
エポキシ化合物としてはビスフェノールAのジグリシジルエーテルおよびそのオリゴマー、水素化ビスフェノールAのジグリシジルエーテルおよびそのオリゴマー、オルソフタル酸ジグリシジルエステル、イソフタル酸ジグリシジルエステル、テレフタル酸ジグリシジルエステル、p−オキシ安息香酸ジグリシジルエステル、テトラハイドロフタル酸ジグリシジルエステル、ヘキサハイドロフタル酸ジグリシジルエステル、コハク酸ジグリシジルエステル、アジピン酸ジグリシジルエステル、セバシン酸ジグリシジルエステル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、1、4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、1、6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテルおよびポリアルキレングリコールジグリシジルエーテル類、トリメリット酸トリグリシジルエステル、トリグリシジルイソシアヌレート、1、4−ジグリシジルオキシベンゼン、ジグリシジルプロピレン尿素、グリセロールトリグリシジルエーテル、トリメチロールエタントリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル、グリセロールアルキレンオキサイド付加物のトリグリシジルエーテルなどを挙げることができる。
【0055】
さらにイソシアネート化合物としては芳香族、脂肪族のジイソシアネート、3価以上のポリイソシアネートがあり、低分子化合物、高分子化合物のいずれでもよい。たとえば、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トルエンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、水素化ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水素化キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートあるいはこれらのイソシアネート化合物の3量体、およびこれらのイソシアネート化合物の過剰量と、たとえばエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチロールプロパン、グリセリン、ソルビトール、エチレンジアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどの低分子活性水素化合物または各種ポリエステルポリオール類、ポリエーテルポリオール類、ポリアミド類の高分子活性水素化合物などとを反応させて得られる末端イソシアネート基含有化合物が挙げられる。
【0056】
イソシアネート化合物としてはブロック化イソシアネートであってもよい。イソシアネートブロック化剤としては、例えばフェノール、チオフェノール、メチルチオフェノール、エチルチオフェノール、クレゾール、キシレノール、レゾルシノール、ニトロフェノール、クロロフェノールなどのフェノール類、アセトキシム、メチルエチルケトオキシム、シクロヘキサノンオキシムなどのオキシム類、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール類、エチレンクロルヒドリン、1、3−ジクロロ−2−プロパノールなどのハロゲン置換アルコール類、t−ブタノール、t−ペンタノール、などの第3級アルコール類、ε−カプロラクタム、δ−バレロラクタム、γ−ブチロラクタム、β−プロピロラクタムなどのラクタム類が挙げられ、その他にも芳香族アミン類、イミド類、アセチルアセトン、アセト酢酸エステル、マロン酸エチルエステルなどの活性メチレン化合物、メルカプタン類、イミン類、尿素類、ジアリール化合物類重亜硫酸ソーダなども挙げられる。ブロック化イソシアネートは上記イソシアネート化合物とイソシアネートブロック化剤とを従来公知の適宜の方法より付加反応させて得られる。
【0057】
シランカップリング剤としては、例えばβ−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキリシラン、β−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキリシラン、γ−グリシドキシプロピルロリメチルエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシランなどがある。
【0058】
これらの硬化剤と共に、その種類に応じて選択された公知の硬化剤あるいは促進剤を併用することもできる。
【0059】
なお、水系塗料用樹脂組成物はそれ自体だけでも充分な性能を示すが、さらに、塗膜外観、耐衝撃性、耐沸水性、硬度などを向上させることが要求される場合には、必要に応じてアクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂等を配合してもよい。その際の配合量は本発明のポリエステル樹脂の特性を損なわない範囲であれば、重量比でポリエステル100重量部に対し、1000重量部まで配合しても良い。
【0060】
水系塗料用樹脂組成物の製造にはロール練り機、ボールミル、サンドミル、ビーズミル、ブレンダーなどの混合機が用いられる。塗装に当たってはローラー塗り、ロールコーター、エアレス塗装、スプレー塗装、静電塗装などが適時選択される。
【0061】
塗装金属板は上記水系塗料用樹脂組成物を、金属板上に塗布、乾燥、硬化して作成する。焼付け又は乾燥温度や時間は鋼板の大きさ、厚さ、また焼き付け炉の能力、塗料の硬化性などにより任意に選択される。
【0062】
水系塗料用樹脂組成物は、主として、家電、建材用資材等に優れているものである。
【実施例】
【0063】
以下本発明について実施例を用いて説明する。実施例中、単に部とあるのは重量部を示す。また、各測定項目は以下の方法に従った。
【0064】
1.還元粘度ηsp/c(dl/g)
ポリエステル樹脂0.10gをフェノール/テトラクロロエタン(重量比6/4)の混合溶媒25ccに溶かし、ウベローデ粘度管を用いて30℃で測定した。
【0065】
2.数平均分子量
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)でポリスチレン標準サンプルを基準に用いて測定した。尚、溶剤はテトラヒドロフランを使用した。
【0066】
3.ガラス転移温度
示差走査熱量計(DSC)を用いて、20℃/分の昇温速度で測定した。サンプルは試料5mgをアルミニウム押え蓋型容器に入れ、クリンプして測定した。
【0067】
4.酸価
試料0.2gを精秤し20mlのクロロホルムに溶解した。ついで、0.01Nの水酸化カリウム(エタノール溶液)で滴定して求めた。指示薬には、フェノールフタレインを用いた。
【0068】
5.比重
約20%塩化カルシウム水溶液を入れた500mlメスシリンダーを30±0.05℃に調製し、この中に油気、気泡のない試料(ポリエステル)を入れ、試料がメスシリンダーの中間に留まるように塩化カルシウムの比重を調節する。この時の塩化カルシウムの比重を比重計により測定し、これを試料の比重とした。
【0069】
6.水酸基価
無水フタル酸のピリジン溶液でエステル化し、過剰の無水フタル酸を水酸化ナトリウム溶液で、フェノールフタレインを指示薬として適定し、試料106g当たりのeq(当量)相当として計算した。
【0070】
7.粒子径
水分散体にイオン交換水のみを添加して固形分濃度 0.1 重量%に調節し、レーザー光散乱粒度分布計Coulter model N4(coulter社製)により20℃で測定した。
【0071】
8.B型粘度
220ccガラス瓶に水分散体を入れ、25℃の恒温層中でB型粘度計model BL(TOKIMEC INC.)を用い、ローターNo.1、回転数60rpmにより測定した。ただし実施例3、参考例9はローターNo.1、回転数 12rpm、比較例5はローターNo.4、回転数 6rpmの条件で測定した。
【0072】
合成例(a−1)
攪拌機、コンデンサー、温度計を具備した反応容器にジメチルテレフタル酸388部、ジメチルイソフタル酸388部、2−メチル−1,3−プロパンジオー
ル554部、1,5−ペンタンジオール275部、テトラブチルチタネート0.41部を仕込み、160℃から230℃まで4時間かけてエステル交換反応を行った。次いで系内を徐々に減圧していき、20分かけて5mmHgまで減圧し、さらに0.3mmHg以下の真空下、260℃にて40分間重縮合反応を行った。窒素気流下、220℃まで冷却し、無水トリメリット酸を27部投入し、30分間反応を行った。得られた共重合ポリエステル(a−1)はNMRの組成分析の結果、酸成分がモル比でテレフタル酸/イソフタル酸/トリメリット酸=50/50/3であり、グリコール成分がモル比で2−メチル−1,3−プロパンジオール/1,5−ペンタンジオール=65/35であった。また、還元粘度を測定したところ0.43dl/gであり、ガラス転移温度30℃、酸価287当量/106g、比重1.25、数平均分子量12000であった。
【0073】
合成例(a−2)
攪拌機、コンデンサー、温度計を具備した反応容器にテレフタル酸199部、イソフタル酸465部、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール468部、1,5−ペンタンジオール156部、テトラブチルチタネート0.41部を仕込み、160℃から230℃まで4時間かけてエステル化反応を行った。次いで系内を徐々に減圧していき、20分かけて5mmHgまで減圧し、さらに0.3mmHg以下の真空下、260℃にて40分間重縮合反応を行った。窒素気流下、220℃まで冷却し、無水トリメリット酸を23部、エチレングリコールビスアンヒドロトリメリテート16部を投入し、30分間反応を行った。得られた共重合ポリエステル(a−2)はNMRの組成分析の結果、酸成分がモル比でテレフタル酸/イソフタル酸/トリメリット酸/エチレングリコールビスヒドロトリメリテート=30/70/3/1であり、グリコール成分がモル比で2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール/1,5−ペンタンジオール=70/30であった。また、還元粘度を測定したところ0.36dl/gであり、ガラス転移温度55℃、酸価350当量/106g、比重1.22、数平均分子量10000であった。
【0074】
合成例(a−3)
攪拌機、コンデンサー、温度計を具備した反応容器にテレフタル酸233部、イソフタル酸543部、2,2−ジメチル−1、3−プロパンジオール334部、1,4−ブタンジオール312部、テトラブチルチタネート0.41部を仕込み、160℃から230℃まで4時間かけてエステル化反応を行った。次いで系内を徐々に減圧していき、20分かけて5mmHgまで減圧し、さらに0.3mmHg以下の真空下、260℃にて40分間重縮合反応を行った。窒素気流下、220℃まで冷却し、ジエチルフォスフェート0.25部添加し、その後、無水トリメリット酸を15部投入し、30分間反応を行った。得られた共重合ポリエステル(a−2)はNMRの組成分析の結果、酸成分がモル比でテレフタル酸/イソフタル酸/トリメリット酸=30/70/3であり、グリコール成分がモル比で2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール/1,4−ブタンジオール=50/50であった。また、還元粘度を測定したところ0.53dl/gであり、ガラス転移温度48℃、酸価275当量/106g、比重1.24、数平均分子量15000であった。
【0075】
以下、上記合成例(a−2)に準じた方法によりポリエステル樹脂(a−4)〜(a−6)を合成した。(a−5)〜(a−6)は比較ポリエステルである。ポリエステル樹脂(a−1)〜(a−6)の結果を表1に示す。
【0076】
【表1】

【0077】
水分散体ポリエステルの合成(b−1)
合成例1で得たポリエステル樹脂(a−1)100部、ブチルセロソルブ40部、トリエチルアミン2.7部を投入した後、80℃で1時間攪拌を行い、溶解した。ついで、イオン交換水193部をゆるやかに添加し、水分散体(b−1)を得た。結果を表2に示す。粒子径50nm、固形分濃度30%であった。
【0078】
水分散体ポリエステルの合成(b−2)
合成例2で得たポリエステル樹脂(a−2)100部、ブチルセロソルブ20部、メチルエチルケトン42部を投入した後、80℃で2時間攪拌溶解を行い、イソプロピルアルコール23部、トリエチルアミン3.5部を投入し、213部のイオン交換水で水分散を行う。その後、加熱しながら溶剤を留去、200メッシュのナイロンメッシュでろ過し、水分散体(b−2)を得た。粒子径80nm、固形分濃度30%であった。
(b−3)〜(b−5)は(b−2)と同様の方法で水分散体ポリエステル樹脂を作製した。粒子径の測定結果を表1に示す。
【0079】
実施例1、比較例1〜2、参考例1〜4
水性塗料(c−1)の製造例
水分散体ポリエステル(b−1)を333部、硬化剤(住友化学(株)製M−40W)を20部、イオン交換水150部、酸化チタン(石原産業(株)製CR−93)50部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムの10%ベンジルアルコール2.5部を添加し、ガラスビーズ型高速振とう機を用いて3時間振とうすることにより均一に分散し水性塗料(c−1)を得た。
【0080】
水性塗料(c−2)〜(c−7)の製造例
水性塗料において水分散体(b−1)に替えて水分散体(b−2)〜(b−5)とアクリル樹脂(AG−200)を用いた以外は水性塗料(c−1)と同様の配合、製造にて順次水性塗料を得た。
(c−2)は(b−2)に、(c−3)は(b−3)に、(c−4)は(b−4)に相当する。(c−5)は(b−3)と(b−4)を、(c−6)は(b−5)、(c−7)はアクリル樹脂(AG−200)を用いて水性塗料を作製した。上記水性塗料(c−1)〜(c−7)を水性塗料として用いて塗膜性能試験を行った。尚塗板の作成、評価は以下の方法に従った。この結果を表2に示す。
【0081】
塗板の作成
溶融亜鉛メッキ鋼板に前記水性塗料(c−1)〜(c−7)を塗装後、80℃、10分乾燥後、予め下記の方法で作成しておいた上塗り塗料を塗装した。次いで室温度10分間放置した後、140℃で30分間焼き付けを行った。膜厚は各々5μmと15μmとした。
【0082】
上塗り塗料の作製
あらかじめ(シクロヘキサノン/ソルベッソ150=1/1(重量比)に固形分濃度40%で)溶解した東洋紡績(株)製高分子量ポリエステルバイロン300、バイロン200をそれぞれ固形分比で60/40部、メチルエーテル化メチロールメラミンであるスミマールM40S(不揮発分80%、住友化学工業(株)製)31部、p−トルエンスルホン酸の10%ベンジルアルコール溶液2.5部、酸化チタン125部を加え、ガラスビーズ型高速振とう機で5時間分散し上塗り塗料を作製した。
【0083】
評価方法
1.光沢
GLOSS METER(東京電飾社製)を用いて、60度での反射を測定した。
◎:90以上 ○:80〜90 △:50〜80 ×:50以下
【0084】
2.沸水試験
塗装鋼板を沸水中に2時間浸漬したあとの塗膜外観(ブリスター発生状況)を評価した。
◎:ブリスターなし
○:ブリスター発生面積10%以内
△:ブリスター発生面積10〜50%
×:ブリスター発生面積50%以上
【0085】
3.耐衝撃性
塗装鋼板をデュポン式耐衝撃試験機を用いて、高さ40cm、荷重500gの条件で評価した。
(○:クラックなし、△:クラック発生、×:著しくクラック発生)
【0086】
4.加工性
塗装鋼板を180度折り曲げ、屈曲部に発生する割れを10倍のルーペで観察し判定した。(○:クラックなし、△:クラック発生、×:激しくクラック発生)
【0087】
5.耐溶剤性
20℃の室内において、メチルエチルケトンをしみ込ませたガーゼにて塗面に1kg/cm2の荷重をかけ、5cmの長さの間を往復させた。下地が見えるまでの往復回数を記録した。50回の往復で下地が見えないものは>50と表示した。回数の大きいほど塗膜の硬化性が良好である。
【0088】
6.スクラッチ性
スクラッチ性塗装鋼板を10円硬貨を取り付けたスクラッチ・テスターを用いて、荷重1kgで評価した。評価基準を以下に示す。
◎:ほとんどプライマー面が見えない
○:プライマー面は見えるが金属素地は見えない
△:金属素地が見える
×:著しく金属素地が見える
【0089】
7.密着性
JISK-5400碁盤目−テープ法に準じて、試験板の塗膜表面にカッターナイフで素地に達するように、直行する縦横11本ずつの平行な直線を1mm間隔で引いて、1mm×1mmのマス目を100個作成した。その表面にセロハン粘着テープを密着させ、テープを急激に剥離した際のマス目の剥がれ程度を観察し下記基準で評価した。
◎:塗膜剥離が全く見られない。
○:塗膜がわずかに剥離したが、マス目は90個以上残存。
△:塗膜が剥離し、マス目の残存数は50個以上で90個未満。
×:塗膜が剥離し、マス目の残存数は50個未満。
【0090】
8.防錆性
耐食性 塗装鋼板を所定時間35℃で5%NaCl塩水噴霧試験を実施し、ブリスターの発生状況を目視判定した。耐食性はクロスカット部、2T加工部、端面(切断部)は500時間で実施した。評価基準を以下に示す。
2T加工部
◎:異常なし ○:ほとんどブリスターなし△:ブリスター発生 ×:著しくブリスター発生
クロスカット部(ブリスターのふくれ幅)
◎:1mm以下 ○:1〜5mm △:5〜10mm ×:10mm以上
ブリスター多数発生端面(ブリスターのふくれ幅)
◎:1mm以下 ○:1〜5mm △:5〜10mm ×:10mm以上
【0091】
9.耐候性
スーパーUVテスター(経時変化の加速試験)で48時間試験(測定条件:温度50℃、湿度50%の条件下で、UVランプ照射量100mW)を行う前後の光沢保持率により評価を行った。
◎:光沢保持率90%以上 ○:光沢保持率70%〜90% △:光沢保持率50%〜70% ×:光沢保持率50%以下
【0092】
【表2】

【0093】
実施例、比較例3〜4、参考例5〜8
水性塗料(c−8)の製造例
水分散体ポリエステル(b−1)を333部、M−40Wを20部、イオン交換水150部、酸化チタン25部、トリポリリン酸アルミニウム25部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムの10%ベンジルアルコール2.5部を添加し、均一に分散することにより水性塗料(c−8)を得た。得られた塗装鋼板の試験結果を表3に示す。ただし、塗料の配合比は固形分換算で表示した。
【0094】
水性塗料(c−9)〜(c−14)の製造例
水性塗料において水分散体(b−1)に替えて水分散体(b−2)〜(b−5)とアクリル樹脂(AG−200)を用いた以外は水性塗料(c−9)と同様の配合、製造にて順次水性塗料を得た。
(c−9)は(b−2)に、(c−10)は(b−3)に、(c−11)は(b−4)に相当する。(c−12)は(b−3)と(b−4)を、(c−13)は(b−5)を、(c−14)はアクリル樹脂(AG−200)を用いて水性塗料を作製した。上記水性塗料(c−8)〜(c−14)を水性塗料として用いて塗膜性能試験を行った。この結果を表3に示す。
【0095】
塗膜の作成
塗装鋼板(試験片)の作製0.5mm厚の亜鉛目付量60g/m2 の溶融亜鉛めっき鋼板にクロメート処理を施したものを基材とした。この基材に所定の水性塗料(c−8)〜(c−14)を乾燥膜厚が5μmになるように塗布し、150℃×10分焼付けた。ついで、上塗り塗料を乾燥膜厚が15μmになるように塗布し、230℃×50秒焼付けて塗装鋼板を作製した。
【0096】
【表3】

【0097】
表2及び表3における実施例1〜は比較例1〜4に比べて、特に耐候性、沸水性、光沢、衝撃性等あらゆる項目で優れた特性を示すことがわかる。
【0098】
実施例、比較例5、参考例9
水分散体ポリエステル(d−1)の作製
合成例1で得たポリエステル樹脂(a−1)100部、ブチルセロソルブ40部、トリエチルアミン2.7部を投入した後、80℃で1時間攪拌を行い、溶解した。ついで、イオン交換水82部をゆるやかに添加し、水分散体(d−1)を得た。粒子径35nm、固形分濃度45%、B型粘度2dPa・sであった。
【0099】
水分散体ポリエステル(d−2)の作製
(b−2)の方法で作製した水分散体から、更に加熱することにより水を留去し、200メッシュのナイロンメッシュでろ過し、水分散体(d−2)を得た。粒子径80nm、固形分濃度47%、B型粘度1dPa・sであった。
【0100】
水分散体ポリエステル(d−6)の作製
合成例1で得たポリエステル樹脂(a−6)100部、ブチルセロソルブ40部を投入した後、80℃で1時間攪拌を行い、溶解した。ついで、イオン交換水260部をゆるやかに添加し、水分散体(d−6)を得た。粒子径10nm、固形分濃度25%であった。
【0101】
【表4】

【0102】
表4より明らかなように実施例は、比較例5に比べて高固形分濃度にもかかわらず低溶液粘度が実現した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル樹脂を含有する屋外塗料用樹脂組成物であって、該ポリエステル樹脂は、全ポリカルボン酸及びポリオール成分をそれぞれ100モル%としたとき、
全ポリカルボン酸成分および全ポリオール成分にスルホン酸金属塩基を含有せず、
全ポリカルボン酸成分の内芳香族ジカルボン酸が80モル%以上であり、
全ポリオール成分の内主鎖の炭素数が2以下であるグリコールが20モル%未満であると共に側鎖を有するグリコールおよび/または脂環族グリコールが40モル%以上の組成であり、
全ポリオール成分が2−メチル−1,3−プロパンジオールと3−メチル−1,5−ペンタンジオールからなる、
屋外塗料用ポリエステル樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリエステル樹脂の数平均分子量が6000〜100000である、請求項1記載の屋外塗料用ポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】
ポリエステル樹脂を含有する屋外塗料用樹脂組成物であって、該ポリエステル樹脂は、請求項1または2いずれかに記載のポリエステル樹脂に無水カルボン酸基を有する化合物を添加して得られるポリエステル樹脂であって、添加する無水カルボン酸基を有する化合物の全添加量を100モル%としたとき、その10モル%以上が式Iで示される構造を分子内に持つ化合物であることを特徴とする屋外塗料用ポリエステル樹脂組成物。
式I;
【化1】

(Rは芳香族、脂肪族、又は脂環族基を含む4価の連結基を示す)
【請求項4】
前記ポリエステル樹脂の樹脂酸価が150〜500eq/106gである請求項1〜のいずれかに記載の屋外塗料用ポリエステル樹脂組成物。
【請求項5】
リン化合物を添加していることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の屋外塗料用ポリエステル樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の屋外塗料用ポリエステル樹脂組成物を水分散したことを特徴とする屋外塗料用ポリエステル樹脂水分散体。

【公開番号】特開2008−223039(P2008−223039A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−149246(P2008−149246)
【出願日】平成20年6月6日(2008.6.6)
【分割の表示】特願2002−371596(P2002−371596)の分割
【原出願日】平成14年12月24日(2002.12.24)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】