説明

層状マンガン酸化物の製造方法

【課題】 本発明は、層状のマンガン酸化物の間に有機第4アンモニウムイオンをインターカレートした積層物を2価のマンガン塩から、一工程で製造する方法を提案するものである。
【解決手段】 本発明は、電解酸化の手段により、2価のマンガン塩水溶液に、有機第4アンモニウムイオンを共存させ、0.8〜1.2ボルト(銀/塩化銀参照電極に対して)の電圧により陽極上にマンガン酸化物の薄層間に有機第4アンモニウムイオンをインターカレートさせた層状構造の積層体を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマンガンの電解酸化に関する。詳しくは2価のマンガン化合物を電解酸化により層状化したマンガン酸化物を形成させ、その層の間に有機アンモニウムイオンを取り込んだ積層薄膜を製造する方法である。
【背景技術】
【0002】
マンガン酸化物はさまざまな結晶構造を有し、電子・カチオンの注入によって複数の酸化状態を取りうるため、二次電池、キャパシタなどの電荷貯蔵材料として活発に研究されてきた。層状マンガン酸化物は電子移行のための連続的な酸化物層とイオン移動のための連続的な空間をあわせもち、その特異なイオン交換特性や電気化学特性がさまざまな分野で注目されている。
【0003】
金属酸化物薄膜の製造方法として、従来、まずゾルゲル法、スパッタ、CVD法等が行われていたがゾルゲル法では膜厚をコントロールすることが難しく、スパッタやCVD法では高価な装置を必要とするなどの問題があった。一方、層状マンガン酸化物は長時間の熱処理過程を含む化学的方法によって製造されており、普通、層間にはカリウム、プロトンなどの小サイズの陽イオンが取り込まれている。この陽イオンはイオン交換可能であるが、マンガン酸化物層の電荷密度が比較的高いため、嵩高い陽イオンやポリカチオンなどを通常のイオン交換反応で導入することは困難であった。そこで、特許文献1には、層状マンガン酸化物微結晶を剥離して得た二次元結晶子(マンガン酸ナノシートという)を懸濁させたコロイド溶液とカチオン性ポリマー溶液とに、基板を交互に浸漬することにより、該基板上にマンガン酸ナノシートとカチオンポリマーをそれぞれ層状に吸着させることにより、各成分ともサブミクロン乃至ミクロンオーダーの積層体を得ること及びこれを熱処理等に付し、前記ポリマー成分を除去して、サブミクロン乃至ミクロンオーダーの間隙を有するマンガン酸の層状構造物を得る方法が提案されている。
【0004】
また、特許文献2には、バーネサイトやブゼライトのような層状マンガン酸化物を水中で膨潤又は剥離させ、これにチタンやジルコニウム等のナノ粒子を付着させて再配列させる方法が示されている。
【0005】
また、非特許文献1には層状のバーネサイト型マンガン酸化物を水酸化テトラアルキルアンモニウムの水溶液中で処理して、テトラアルキルアンモニウムイオンをインターカレートする方法が開示されている。
【0006】
同様に、非特許文献2においても、「長鎖水酸化アンモニウムの存在下でのメソポーラス層状酸化マンガンの形成と再配列」と題して、ナトリウムを層間にインターカレートした層状マンガン酸化物(ナトリウムバーネサイトという)にドデシルアンモニウムイオン又はテトラブチルアンモニウムをインターカレートした層間距離2.41nm又は1.28nmの層状マンガン酸化物を作成した例が示されている。
【特許文献1】特開2003−326637号公報
【特許文献2】特開2003−201121号公報
【非特許文献3】「ラングミュア」Vol.16.NO9.4154(2000)
【非特許文献4】「ケミカルコミュニケーション」1997.1031−1032
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来、制御された酸化マンガン層状構造物を得る場合、特に有機物を層間にインターカレートした積層物を得る場合には、前駆体として層状構造を有するマンガン化合物を用いる必要があった。そのため、あらかじめ天然又は合成の層状マンガンを準備しなければならなかったこと、また多層積層体とするためには基板上にマンガン酸化物微粒子とカチオン性ポリマーとを交互に吸着させる等の煩雑なプロセスを必要とした。
【0008】
そこで、本発明において解決しようとする問題点は、上記の煩雑なプロセスを経ることなく、極めて簡単な手段により、有機物をインターカレートしたマンガン酸化物の積層体薄膜を得る方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記目的を達成する手段として、電気化学的手段により一工程でマンガン酸化物と有機カチオン物質との層状構造物を形成せしめる新規な方法を提供する。
【0010】
すなわち、本発明は以下に示す、夫々の方法である。
(1)本発明は 有機第4アンモニウムイオンの存在下で2価のマンガン化合物を電気化学的に酸化することを特徴とする層状マンガン酸化物の製造方法である。
(2)本発明は、また有機第4アンモニウムイオンの存在下で2価のマンガン化合物を電気化学的に酸化することにより、該有機第4アンモニウムイオンをインターカレートした層状マンガン酸化物薄膜を製造する方法である。
(3)本発明は、更に有機第4アンモニウムイオン層と酸化マンガン層とが交互に複数層積層されたことを特徴とする上記発明(1)及び(2)に記載の有機第4アンモニウムイオンをインターカレートした層状マンガン酸化物薄膜を製造する方法である。
(4)本発明は、更にインターカレートされる有機第4アンモニウムイオンが、テトラブチルアンモニウム等のテトラアルキルアンモニウムイオンである上記発明(1)乃至(3)に記載の層状マンガン酸化物の製造方法をも提供する。
(5)本発明は、またインターカレートされる有機第4アンモニウムイオンがポリ(ジアリルジメチル)アンモニウム等第4アンモニウム基を含む高分子である上記発明(1)乃至(3)に記載の層状マンガン酸化物の製造方法である。
(6)本発明は、有機第4アンモニウムイオンが4級化したポリエチレンイミン等高分子ポリカチオンである上記発明(1)(2)(3)及び(5)に記載の層状マンガン酸化物の製造方法である。
(7)本発明は、また2価のマンガンとして、硫酸マンガン、塩化マンガン等の2価のマンガン塩を用いる上記発明(1)乃至(6)に記載の層状マンガン酸化物の製造方法である。
(8)本発明は、また電気化学的酸化が、銀/塩化銀参照電極に対して0.8〜1.2ボルト好ましくは0.95〜1.05ボルトの範囲で電圧を印加することにより行われる上記発明(1)乃至(7)に記載の層状マンガン酸化物の製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、高い伝導性を有し、二次電池の陽極活物質などに好適なマンガン酸化物に有機第4アンモニウムイオン物質をインターカレートした各層がサブミクロン乃至ミクロンオーダーの厚さを有する積層マンガン酸化物の薄膜を一工程で得ることができる。しかも本発明にあっては電気化学的な析出の際に添加するアルキルアンモニウムあるいはカチオン性ポリマーのサイズにより層間距離をコントロールすることができる上、生成する層状マンガン酸化物は、電極上に均一な薄膜を形成し、その厚さは通過電気量によってコントロールすることができる。
【0012】
また、薄膜は電極への密着性にすぐれ、電池、電気化学キャパシタなどの電気化学的応用において導電剤やバインダーを必要としないという利点を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、電気化学的手段により、有機第4アンモニウムの共存下でMn2+イオンの陽極酸化により、サブミクロン乃至ミクロンオーダーのマンガン酸化物を電極基板上に析出させる。
【0014】
その場合、析出したマンガンはマンガン酸の形態となり負に帯電するので、これに共存する有機第4アンモニウムイオンが薄層状に付着する。かくして、有機アンモニウムカチオンで表面を被われたマンガン酸化物上に再度マンガン酸化物の析出が生じ、マンガン酸化物で被われる。
【0015】
かかる状況が繰り返されるため、本発明にあってはマンガン酸化物薄層と有機第4アンモニウムイオン薄層との繰り返し構造物、すなわち積層物が得られる。
【0016】
本発明にあっては、一般に有機第4アンモニウム層は実質的に単分子層となるため、マンガン酸化物層の間隙の間隔は、有機第4アンモニウムイオンの大きさにより一般に定まる。例えば次の表1に示す如く、テトラメチルアンモニウムでは、0.75nmであるが、テトラn‐ブチルアンモニウムでは1.26nmとなる。
【0017】
【表1】

【0018】
本発明においては、2価のマンガンを電解酸化するものであり、マンガン成分は電解液に可溶な2価のマンガン化合物であれば、特に限定されない。一般に無機酸の塩、例えば硫酸マンガン、塩化マンガン、硝酸マンガン、炭酸マンガン等であり、更に蓚酸マンガンアンモニウム、蓚酸マンガンカリウムなど有機マンガン化合物も用いることができる。なかでも硫酸マンガンが入手の容易性等から、一般的に用いられる。
【0019】
また電解質溶液中の2価のマンガンの濃度は、特に限定されないが、一般に0.1mモル乃至1モル濃度、好ましくは1mモル乃至100mモル濃度である。すなわち、0.1mモルを超え、あまりに稀薄な濃度では、電解液の電気抵抗の増大を来たし、他の成分、例えば水の電解を生ずるなど、好ましくない現象が増大する。
【0020】
また、1モルを越えて、あまりに高濃度の場合、陽極上へのマンガン酸化物の析出が均一性を欠き、好ましくない。
【0021】
次に、電解液中に共存する有機第4アンモニウムイオンとしては、水酸化物であっても良いが、塩化物や硝酸塩、或いは硫酸塩などの可溶性化合物として用いられる。
【0022】
また、有機第4アンモニウムイオンを構成する有機基は、目的とするマンガン酸化物層間の距離(層間隔)に対応して選択すればよい。すなわち、該層間隔を広くする場合には、有機物第4アンモニウムの有機基は長鎖状、分枝状のアルキル基、芳香族基、カチオンポリマー等の高分子体などの第4アンモニウム化合物を、また該間隔を小さくするには、テトラメチルアンモニウム等の分子量の小さい第4アンモニウム化合物を用いればよい。
【0023】
これらの有機第4アンモニウムを構成する基は、例えばメチル基、エチル基、n‐プロピル基、iso‐プロピル基、n‐ブチル基、tert‐ブチル基、オクチル基、ドデシル基、ノナデシル基等の直鎖又は分枝アルキル基、フェニル、トルイル、ターシャリブチルフェニル、ベンジル、ナフチル等の芳香族基などであり、これらの基は第4アンモニウムとして窒素原子に結合する場合、4個の有機基は、それぞれ同一であっても、異なっていてもよい。
【0024】
化合物の例としては、テトラメチルアンモニウムクロライド、テトラエチルアンモニウムブロマイド、トリメチルドデシルアンモニウムクロライド、塩化トリメチルアニリン、ジメチルジターシャリーブチルアンモニウムクロライドなどである。
【0025】
これらのうち、特にターシャリーブチル基や、パラターシャリーブチルフェニル基等、立体的に嵩張る基を用いることにより、得られるマンガン酸化物の層間隙は数ナノメーターまで広くすることが可能となる。
【0026】
更に、有機第4アンモニウムとして、ピリジン、ピロール、ピラゾール、イミダゾール、インドール、プリン、キノリン、アクリジン、カルバゾールなど環状アミノ化合物の4級化物も何ら制限されることなく用いることができる。勿論これらの化合物の4級化に関しては脂肪族残基との組み合わせも有効である。
【0027】
また、本発明においては、高分子第4アミン、例えばポリジアリルジメチルアンモニウム、ポリエチレンイミン、ポリアクリルアミン、ポリビニルピリジン、ポリビニルピロリドン、ポリビニルカルバゾール、ポリビニルアミンなどの一部又は全アミノ基を4級化したポリカチオン等も極めて有効に用いることができる。
【0028】
これらの第4アンモニウム類は電解液中に窒素原子濃度とに、一般に0.1mモル乃至1モル、好ましくは1mモル乃至100mモル濃度の範囲で用いられる。勿論これら以外の濃度であっても場合によっては十分有効である。
【0029】
本発明における電解酸化に用いる電解槽の形態は、特に制限されない。従来から種々の電解酸化に用いられる型の電解槽が、そのまま使用できる。
【0030】
また、電解により析出するマンガン酸化物積層薄膜をそのまま電池等の用途に供する場合には、マンガン酸化物の析出電極が目的物である電池等の電極基板としてそのまま使用することも可能であるため、あらかじめ用途に適した形状及び材質を選定することもできる。
【0031】
また、電解酸化したマンガン酸化物積層体を、該電解酸化槽の陽極から剥がして用いる場合には該電極の構造や材質は、導電性物質であれば特に問題ないが一般に白金又はニッケル電極を用いるのが好ましい。
【0032】
また、該陽極の対極(陰極)は、導電性物質であれば特に問題はなく、一般に鉄、銅、ニッケル、白金などが用いられる。
【0033】
電解液はバッチ式であっても、流通式であってもよいが、連続運転が可能であり、しかも電解酸化反応中、液濃度を一定に保つためには循環式電解槽とするのが好ましい。
【0034】
本発明の電解酸化反応において重要な点は、電解時の電圧である。本発明において、均一なマンガン酸化物の析出を得るためには、銀/塩化銀参照電極に対して、0.8〜1.2ボルト、好ましくは0.95〜1.05ボルトの電圧を保つよう定電圧制御を行う必要がある。かくして、陽極では主として次に示す反応により2価のマンガンが酸化され、3価及び4価のマンガンとして析出すると予想される。
【0035】
【化1】

(但し、Aは第4アンモニウムイオン)
【0036】
本発明の電解は、一般に常温で行うことができるが、60〜80℃の如く、電解温度を上げることによって析出速度を大きく調節することもできる。しかし電解温度をあまり高くすることは、析出マンガン酸化物の析出面が粗化する傾向となるので、好ましくは室温乃至40℃程度で電解すべきである。
【0037】
また、電解時間は、長くすることにより積層数を多くすることができるが、一般に300分程度までとすべきであり、あまりに長時間の析出では、得られたマンガン酸化物の肉厚が大きくなり、しかも積層形状が乱れる傾向を示す。
【0038】
また、本発明により得られるマンガン酸化物積層体は一般にサブミクロン乃至ミクロンオーダーであり、マンガン酸化物層間にサブナノメーター乃至ナノメーターオーダーの有機第4アンモニウムイオンをインターカレートしているが、これらの陽イオンは、マンガン酸化物との間でイオン結合により固定された状態である。
【0039】
このため、マンガン酸化物層は、一種のイオン交換体として作用し、例えばカリウムイオン等他のカチオンとイオン交換させることも可能である。
【0040】
更に本発明の有機第4アンモニウムイオンをインターカレートしたマンガン酸化物積層体は、熱処理により、有機物である該第4アンモニウムを除去することもできる。この場合、マンガン酸化物層間に任意の厚さの間隙を形成させることができ、種々の触媒又は触媒担体として活用することも可能となる。
【0041】
以下に実施例を示すが、本発明はそれらの例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0042】
テトラブチルアンモニウム塩化物((CH)NCl)50mMと硫酸マンガン(MnSO)2mMを溶解した水溶液をビーカー型電解セル(50mL)に入れて電解液とした.電解液は窒素ガスをバブリングすることによって窒素雰囲気とした。また,液温度は25℃であった。白金板(1cm×1cm×1mm厚さ)を動作電極とし、白金板に+1.0V(銀/塩化銀電極に対する電位で表される)の電位を印加した。電解時間は30分であった。なお、対極には白金板を用いた。
【0043】
この操作により、白金上に茶色の薄膜が形成された。茶色の薄膜によって被覆された白金板を電解液から取り出し、蒸留水で洗浄した後、真空乾燥した。赤外分光法(IR)、X線光電子分光法(XPS)により得られた薄膜は酸化マンガンとアルキルアンモニウムの複合物であることが分かった。なお、XPSより膜中のマンガンは3価と4価の混合原子価状態であった。また、XPSスペクトルにおいて塩素は検出されず、アルキルアンモニムが塩化物ではなく、カチオンとして存在することが判明した。つまり、3価マンガンの存在により負に帯電したマンガン酸化物層と正電荷をもつアルキルアンモニウムイオンが静電的な相互作用によりイオン対を形成している。
【0044】
図1に、白金上に形成された薄膜のX線回折(XRD)パターンを示す。基板である白金による回折ピークに加えて、2θ=7.0、14.0、21.0°に層状マンガン酸化物に特有な回折ピークが観察される。2θ=7.0°のピークは001面からの回折によるもので、Braggの式(nλ=2dsinθ)より、層間距離は1.26nmと計算された。
【0045】
以上より、テトラブチルアンモニウム存在下で2価のマンガンイオンを+1.0Vで定電位電解酸化することにより、テトラブチルアンモニウムイオンを層間に取り込んだ層状マンガン酸化物が薄膜として基板電極上に形成されることが明らかになった。
【実施例2】
【0046】
実施例1で白金上に形成された茶色の薄膜を1mMの塩化カリウム水溶液に15秒、1分、10分、60分あるいは12時間浸漬した後、水溶液から取り出し、真空乾燥してからXRDパターンを測定した。それぞれの時間で得たXRD図を図2に示す。2θ=7.0、14.0および21.2°のピークは塩化カリウム水溶液中での浸漬時間が長くなるにつれて減少し、10分でほぼ完全に消失した。代わって10分後から2θ=12.3、24.7°に新しい回折ピークが現れ、時間とともに増大した後一定になった。このXRDパターンは層間隔0.72nmに相当する。つまり、層状マンガン酸化物の層間のテトラブチルアンモニウムイオンと水溶液中のカリウムイオンとの間でイオン交換が起こり、層間隔が収縮したことを表している。
【実施例3】
【0047】
テトラブチルアンモニウム塩化物の代わりにアンモニウム、テトラエチルアンモニウムクロライド、テトラプロピルアンモニウムクロライドを用いた以外は実施例1と同じ条件で電解した。形成された薄膜のXRDパターンを図3に示す。いずれの場合も層構造に特有なXRDパターンを示している。図3中(a)はアンモニウムイオン、(b)はテトラエチルアンモニウムイオン、(c)は塩化物に対応するパターンで、(a)〜(c)において最も低角度側のピーク、すなわち001面からの回折は、それぞれ2θ=12.3、9.3、8.8°に現れた。Braggの式より、これらの回折ピークは層間隔0.72、0.96、1.03nmに対応する。図1と合わせて、電解時に使用するアルキルアンモニウムのメチレン鎖長が長くなるほど層間隔が広がることが分かった。
【0048】
以上より、種々のアンモニウムイオン存在下で2価のマンガンイオンを+1.0Vで定電位電解酸化することにより、種々のアンモニウムイオンを層間に取り込んだ層状マンガン酸化物が薄膜として基板電極上に形成されることが明らかになった。
【実施例4】
【0049】
テトラブチルアンモニウム塩化物の代わりにポリ(ジアリルジメチルアンモニウム)塩化物(分子量400,000〜500,000:(CH16ClN))を用い、そのモノマー基準での濃度を5.6mMとした以外は実施例1と同じ条件で電解した。形成された膜のXRDパターンを図4に示す。2θ=9.1、18.2、27.3°に層構造に特有な回折ピークが現れ、001面からの回折ピーク(2θ=9.1°)より層間隔は0.97nmと見積もられた。
【0050】
この層間隔はポリマー鎖がマンガン酸化物シート面に対して平行になるようにインターカレートした構造に相当する。つまり、アルキルアンモニウムモノマーだけでなく、カチオン性ポリマーを使っても層状マンガン酸化物を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、マンガン酸化物の積層物を一工程で製作する方法を提案するものであり、得られるマンガン積層薄膜が得られるため、二次電池の陽極活物質として有用であり、更に本発明はインターカレートされる有機第4アンモニウムイオンの大きさ等により、マンガン酸化物の層間隙を任意にコントロールし得るため種々の触媒や、触媒担体としても有用である。また、無機イオン交換体としても用いることも期待される。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】実施例1で白金上に形成された薄膜のX線解析(XRD)パターンである。
【図2】実施例2で白金上に形成された薄膜を塩化カリウム(1mM)に浸漬した後のXRDパターンで、浸漬時間を図中に記した。
【図3】実施例3で白金上に形成された薄膜のXRDパターン。
【図4】実施例4で白金上に形成された薄膜のXRDパターン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機第4アンモニウムイオンの存在下で2価のマンガン化合物を電気化学的に酸化することを特徴とする層状マンガン酸化物の製造方法。
【請求項2】
有機第4アンモニウムイオンの存在下で2価のマンガン化合物を電気化学的に酸化することにより、該有機第4アンモニウムイオンをインターカレートした層状マンガン酸化物薄膜を製造する方法。
【請求項3】
有機第4アンモニウムイオン層と酸化マンガン層とが交互に複数層積層されたことを特徴とする請求項2記載の有機第4アンモニウムイオンをインターカレートした層状マンガン酸化物薄膜を製造する方法。
【請求項4】
有機第4アンモニウムイオンが、テトラアルキルアンモニウムイオンである請求項1に記載の層状マンガン酸化物の製造方法。
【請求項5】
有機第4アンモニウムイオンが第4アンモニウム基を含む高分子である請求項1に記載の層状マンガン酸化物の製造方法。
【請求項6】
有機第4アンモニウムイオンが高分子ポリカチオンである請求項1記載の層状マンガン酸化物の製造方法。
【請求項7】
2価のマンガンが、2価のマンガン塩である請求項1記載の層状マンガン酸化物の製造方法。
【請求項8】
電気化学的酸化が、銀/塩化銀参照電極に対して0.8〜1.2ボルトの範囲で電圧を印加することにより行われる請求項1乃至7のいずれかに記載の層状マンガン酸化物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−76865(P2006−76865A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−265681(P2004−265681)
【出願日】平成16年9月13日(2004.9.13)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2004年5月15日 社団法人日本分析化学会主催の「第65回 分析化学討論会」において文書をもって発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2004年7月17日 化学工学会九州支部、日本化学会九州支部、日本農芸化学会西日本支部、高分子学会九州支部、日本分析化学会九州支部、電気化学会九州支部、有機合成化学協会九州山口支部、繊維学会西部支部主催の「第41回 化学関連支部合同九州大会」において文書をもって発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2004年8月18日 社団法人日本分析化学会発行の「日本分析化学会第53年会 講演要旨集」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年8月26日、27日 社団法人日本分析化学会中国四国支部主催の「第10回 中国四国支部分析化学若手セミナー」において文書をもって発表
【出願人】(304020177)国立大学法人山口大学 (579)
【Fターム(参考)】