説明

層状穀粉食品、およびその製造法

【課題】サクサクした食感を長時間保持できる層状穀粉食品およびその製造法を提供する。
【解決手段】生地に使用する油脂の量を、通常より多く、油脂が5〜16重量%とする。折り込みに使用するシート状油脂組成物の油相の融点を上昇融点(℃)から軟化点(℃)を引いた値が3〜10とする。また、折り込み用油脂組成物を生地に対して20〜40重量%折り込む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サクサクした食感を長時間保持できる層状穀粉食品の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
クロワッサンなどの層状穀粉食品においては、サクサクした食感が求められる場合がある。当該食感は、焼成直後においては多くの場合、良好であるものの、経時的に失われていく場合がある。
特許文献1においては、「水分量を5%以下に低減したシート状油脂加工食品、特に実質的に水分を含まないシート状油脂加工食品を用いて層状小麦粉膨化食品を作成することで、サックリさが良好な、従来にない食感のものが得られる。」(「要約」)との記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−321065号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、サクサクした食感を保持できる層状穀粉食品およびその製造法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は上記の課題に対して鋭意研究を重ねた。
特許文献1に記載されている方法では、使用できる油脂加工食品が限定されるし、当該「実質的に水分を含まないシート状油脂加工食品」を製造するためには加圧晶析により製造する必要があると記載されている点などから、汎用性は低いものである。本発明者は、より簡易な方法で課題を解決すべく、生地に着目して検討を行った。特に、油脂組成物を折り込み後、リタードを行わずに連続生産することが出来る方法を模索した。
【0006】
その結果、生地に用いる油脂の量を規定することで、サクサクした食感を保持できる層状穀粉食品が得られることを見出した。さらに、折り込み用油脂組成物の油相の上昇融点(℃)と軟化点(℃)の差異を規定することで、より高い効果を発現できることを見出した。そして、この方法は、油脂組成物を折り込み後、リタードを行わずに連続生産することが出来るものであった。
すなわち本発明は
(1)油脂が5〜16重量%練り込まれた生地を使用する、層状穀粉食品の製造法。
(2)油相において、上昇融点(℃)から軟化点(℃)を引いた値が3〜10である折り込み用油脂組成物を使用する、(1)記載の層状穀粉食品の製造法。
(3)折り込み用油脂組成物を生地に対して20〜40重量%折り込むことを特徴とする、(1)〜(2)いずれか1に記載の製造法。
(4)油脂組成物を折り込み後、リタードを行わず連続生産する、(1)〜(3)いずれか1に記載の、層状穀粉食品の製造法。
に関するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、長時間サクサクした食感を示す層状穀粉食品を簡易に得ることが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明で言う「層状穀粉食品」の穀粉とは、小麦粉、米粉、大豆粉、トウモロコシ由来物、芋澱粉等の穀粉から選ばれる1以上であり、より望ましくは小麦粉、米粉から選ばれる1以上であり、さらに望ましくは小麦粉である。そして「層状穀粉食品」とは、代表的には小麦粉を主体とする生地へ油脂組成物を折り込み焼成したものであり、デニッシュ、クロワッサン、パイを挙げることができる。特に、対策を行わなければ経時的にサクサクした食感が失われる傾向があるデニッシュ、クロワッサンへの適用が本発明にとっては好適である。
【0009】
本発明において、層状穀粉食品の生地の練りこみに用いられる油脂は、油脂そのものであるか、もしくは油脂組成物の状態であってもよい。油脂組成物としては、バター、マーガリン、ショートニング、ファットスプレッドを列挙できる。バター、マーガリン、ショートニング、ファットスプレッドのような油脂組成物として練り込む方が、作業性が良好である場合が多い。
【0010】
生地に含まれる油脂の量は、生地中の5〜16重量%である必要があり、より望ましくは6〜14重量%であり、さらに望ましくは7〜13重量%である。生地に含まれる油脂の量が少なすぎると、焼成1日後の段階で、サクサクした食感が得られにくくなる場合があり、また、油脂の量が多すぎると、焼成において十分なふくらみが得られにくくなる場合がある。
なお、一般的な層状穀粉食品であるクロワッサンにおいては、生地に含まれる油脂の量は、生地中の4重量%程度であり、本発明においては、このような一般的な練り込み油脂量よりも多く含むことが必要である。
なお、本発明で規定される油脂の量は、生地の調製に使用された油脂ないし油脂組成物に含まれる油脂の含有量から換算されるものである。
【0011】
生地に含まれる油脂の上昇融点は30〜42℃であることが望ましく、より望ましくは32〜40℃であり、さらに望ましくは34〜38℃である。上昇融点が低すぎると、サクサクした食感が得られない場合があり、また、上昇融点が高すぎると、口溶けが悪くなる場合がある。
なお、本発明で言う上昇融点とは、日本油化学会制定 基準油脂分析試験法(1)1996年版に記載される「上昇融点」の測定法による値であり、RPと称することがある。
【0012】
次に、本発明における折り込み用油脂組成物について詳述する。
本発明においては、使用する折り込み用油脂組成物について、その油相の融点を規定することで、本発明の効果を更に高めることが出来る。特に、上昇融点(RP)および、上昇融点から軟化点を引いた値を規定することが有用である。ここで軟化点とは日本油化学会制定 基準油脂分析試験法(1)1996年版に記載される「軟化点(環球法)」の測定法による値でありSPと称することがある。また、上昇融点から軟化点を引いた値を「RP−SP」と称することがある。
【0013】
本発明で使用する折り込み用油脂組成物の油相の上昇融点(RP)は、30〜38℃であることが望ましく、より望ましくは31〜37℃であり、さらに望ましくは32〜36℃である。折り込み用油脂組成物の油相の上昇融点が低すぎる場合は、十分な膨化が得られない場合があり、また、高すぎる場合は口溶けが悪くなる場合がある。
【0014】
本発明において使用する折り込み用油脂組成物は、その油相において、上昇融点(℃)から軟化点(℃)を引いた値(RP−SP)が3〜10であることが望ましく、より望ましくは3〜8であり、さらに望ましくは4〜7である。
上昇融点(℃)から軟化点(℃)を引いた値が小さすぎると、サクサクした食感が弱まる場合がある。また、上昇融点(℃)から軟化点(℃)を引いた値が大きすぎると、口溶けが悪く感じられる場合がある。
【0015】
上昇融点(℃)から軟化点(℃)を引いた値(RP−SP)を調整して規定値とすることは、当業者であれば、油脂組成物の配合において、使用する油脂を適宜選択することで可能である。すなわち、いわゆる縦型と呼ばれるような、口溶けの良好な油脂を多く配合することで、RP-SPを小さくすることが出来るし、いわゆる横型と称される油脂を使用すれば、RP-SPを大きくすることができる。また、わずかに極度硬化油を使用することにより、RP-SPを大きくすることも出来る。
【0016】
折り込み用油脂組成物の量は、生地に対して20〜40重量%であることが望ましく、より望ましくは25〜40重量%であり、さらに望ましくは28〜38重量%である。折り込み用油脂組成物の量が少なすぎても多すぎても、焼成時におけるふくらみが不十分となる場合がある。なお、ここで言う「生地に対して」とは、「生地の量に上乗せして」の意味であり、たとえば、「折り込み用油脂組成物の量が、生地に対して20〜40重量%である」場合、生地1kgであれば、折り込み油脂組成物の量は200〜400gであり、折り込み油脂組成物を折り込んだ後の総量は1.2〜1.4kgとなる。なお、本発明においては「生地に対して」を略して「対生地」と表記することもある。
【0017】
本発明で言う「サクサクした食感を保持できる」とは、実施例に記載する「サクサク感評価法」で評価し、合格したものである。
【0018】
本発明で言う、層状穀粉食品を連続的に生産する方法とは、たとえばレオン自動機株式会社製のHMラインと呼ばれる装置や、同CWCラインと呼ばれる装置により生産する方法をさす。これらの装置により層状穀粉食品を生産する場合、生地の状態や、折り込み用油脂組成物の物性が制限される場合がある。すなわち、機械的な展延操作にても、生地が破れるようなことなく、きれいに展延するためには、生地や折り込み用油脂組成物は、一定の強度を持ち、その強度が機械的展延操作にても維持されるような性質が求められる場合がある。そのため、使用する折り込み用油脂組成物が、低水分のタイプであったりした場合は、機械的な強度が不足して、連続生産装置に供することが出来ない場合もある。本発明は、これらの点も考慮し、このような、層状穀粉食品を連続的に生産する方法にも適用できるように考慮したものである。
【0019】
さらに本発明においては、油脂組成物を生地に折り込み後、リタードを行わず連続生産する方法の開発も課題の一つとした。すなわち、短時間で大量に層状穀粉食品を製造するためには、保持時間を出来るだけ短くする必要がある。しかし、保持時間を短くするほど、油脂組成物の折り込み時等において「破れ」が発生する場合もあり、そのようなトラブルの発生しない生地を選択する等の配慮が必要となる。
【0020】
本発明において、練り込み用及び折り込み用に使用する油脂の種類としては、ナタネ油、大豆油、ヒマワリ種子油、綿実油、落花生油、米ぬか油、コーン油、サフラワー油、オリーブ油、カポック油、ゴマ油、月見草油、パーム油、シア脂、サル脂、カカオ脂、やし油、パーム核油等の植物性油脂並びに乳脂、牛脂、ラード等の動物性油脂等、それら油脂類の単独又は混合油あるいはそれらの分別、硬化、エステル交換等を施した加工油脂が例示でき、これらを適宜混合し、必要によりマーガリン、ショートニングを調製し使用することが出来る。
【0021】
層状穀粉食品の生地の配合は、油脂以外については、本発明の効果を妨げない範囲で、適宜設定することが出来る。
生地の調製は、一般的なペストリー生地の調製法に従う。また、必要によりリタードを設定することも出来る。ここで得られた生地に折り込み用油脂組成物を折り込む。折り込み操作は、一般的なペストリー調製方法に従うが、たとえば、18〜32層、より望ましくは24〜27層となるように折り込むことで好適な結果が得られる。折り数が多すぎると、層が不明確となる場合があり、また、折り数が少なすぎると、層のはがれが起こる場合がある。
【0022】
油脂組成物を折り込んだ後は、適宜成型し、焼成する。成型は、クロワッサン成型の他、自由に選択できる。
焼成は、一般的なパン焼成用オーブンを使用し、上面200〜230℃、下面180〜200℃にて、15〜20分焼成する。焼成が不十分であると、サクサクした食感が得られない場合があり、焼成が過剰であると、こげが発生する場合がある。
【0023】
本発明は、連続生産ラインへ供することも可能である。以下にCWCライン(レオン自動機(株)製)による調製例をあげる。
CWCライン(レオン自動機(株)製)と呼ばれている連続生産ラインにおいて、クロワッサンを製造した。即ち、層状穀粉食品の生地配合にて調製した生地をホッパーに投入し、以降、生地の無圧切断、配列、連結、シートメーカーにより自動的に生地が延ばされた後、バターホールドラインによってバターポンプから、ロールイン量が対生地30重量%になるように、折り込み用油脂組成物が供給され、積層が自動的に行われた後、通常通りモールディング、プルーフィング、フリージングを行う。
【0024】
なお、本願発明は、リタードを行わない連続生産に適した製造法であるが、リタードを行うことも適宜可能である。また、連続生産ラインに供せずとも、サクサクした食感を長時間保持できる層状穀粉食品が得られる。
ここでは、バターポンプにより折り込み用油脂組成物を供給しているが、適宜シートマーガリンを人手で載せることも可能である。

以下に実施例を記載する。
【実施例】
【0025】
検討1 「練り込み油脂量の検討」
実施例1〜2、比較例1〜3
表1の配合にて、以下に示す「層状穀粉食品の調製法」に従い、層状穀粉食品の生地を調製した。
得られた生地を用い、折り込み用油脂組成物として、油相の融点34℃のシート状マーガリンを、対生地35重量%となるにように折りこんだ。折り込み操作は「層状穀粉食品の調製法 b.折り込み操作」に従った。
その後、「c.成型と焼成」に従い、成型、焼成を行った。
焼成後の結果を表2に記載した。「サクサク感」の評価は、以下に記載する「サクサク感評価法」に従い実施した。
【0026】
表1 層状穀粉食品の配合(1)

【0027】
「層状穀粉食品の調製法」
a.生地の調製
1.生地原料を全て30コートのボールに入れ、低速5分、中速6分で攪拌する。
2.得られた生地を適宜分割し、室温で10分間放置する。
3.−5℃で1時間リタードする。
【0028】
b.折り込み操作
1.「a.生地の調製」で得られた生地に、折り込み用油脂組成物を載せ、3×4×2(計24層)に折り込む。

c.成型と焼成
1.「b.折り込み操作」で、油脂組成物が折り込まれた生地を、スクエア(生地厚4mm、縦100mm、横105mm)に成型する。
2.上面 220℃、下面180℃のオーブンにて、17分間焼成する。
【0029】
「サクサク感評価法」
1.「層状穀粉食品の調製法」により調製した層状穀粉食品を、焼成後室内で1時間放熱する。
2.上記層状穀粉食品を1個ずつ、13cm×13cmのビニール袋(厚さ1mm)に密閉包装し、20℃24時間放置。
3.2のサンプルを5名のパネラーにて5点満点で評価。評価の基準は、コントロールを3点とし、コントロールよりも優位に優れる場合は4点以上、コントロールよりも劣る場合は2点以下とし、その平均を求めた。4点以上を合格とした。
(コントロールは、比較例2である)
【0030】
表2 焼成結果(1)

【0031】
考察
油脂が5〜16重量%練り込まれた生地を使用した場合、良好なサクサク感が感じられる層状穀粉食品を得ることが出来た。
【0032】
検討2「折り込み用油脂組成物の油相の上昇融点と軟化点の差異の検討」
実施例3〜7
上昇融点と軟化点の差(RP-SP)が異なる4種類のシート状マーガリン(シート状マーガリン1〜4)を準備した。
その配合は表3に示す。
これらのシート状マーガリンを、実施例1の生地に、対生地重量で35重量%折り込んだ。
折り込み方法は検討1に準じた。
その後、検討1に準じサクサク感を評価した。結果を表4に示した。
【0033】
表3 シート状マーガリンの配合

【0034】
表4 焼成結果(2)

【0035】
表4に示したとおり、試験したもの全てにおいて、良好なサクサク感を示した。しかし、RP-SPが3〜10であるものが、より好ましいサクサク感を示した。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明により、サクサクした食感を長時間保持できる層状穀粉食品を簡易に得ることが出来る。これにより、通常流通される層状穀粉食品においても、焼きたての食感に近いサクサクした食感を長時間楽しむことができ、当該層状穀粉食品の市場拡大に寄与するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂が5〜16重量%練り込まれた生地を使用する、層状穀粉食品の製造法。
【請求項2】
油相において、上昇融点(℃)から軟化点(℃)を引いた値が3〜10である折り込み用油脂組成物を使用する、請求項1記載の層状穀粉食品の製造法。
【請求項3】
折り込み用油脂組成物を生地に対して20〜40重量%折り込むことを特徴とする、請求項1〜2いずれか1項に記載の製造法。
【請求項4】
油脂組成物を折り込み後、リタードを行わず連続生産する、請求項1〜3いずれか1項に記載の、層状穀粉食品の製造法。

【公開番号】特開2012−130283(P2012−130283A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−285252(P2010−285252)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【出願人】(000236768)不二製油株式会社 (386)
【Fターム(参考)】