説明

層状食品の食感評価方法

【課題】層状食品の食感評価において、人間による官能評価ではなく、客観的な数値を指標として評価できるようにし、客観性や再現性の向上を図る。
【解決手段】レオメータのプランジャを一定速度で層状食品に押圧して針入させて、予め定めた単位時間又は単位距離毎に層状食品の押圧・破断に伴いプランジャに掛かる荷重を連続して測定し、コンピュータを用い、前記荷重の測定値を記憶し(S1)、前記荷重の測定値の合計を破断エネルギー値Eとして算出し(S2)、前記荷重の測定値の変化率を微分値として微分により計算し(S3)、当該微分値に基づいて特定される変曲点を食感上感じる1回の層の崩壊を示す破断点とし(S4)、該破断点の数Nを計算し(S5)、「破断エネルギー値E/破断点の数N」を計算して、該計算結果を食感上感じる1回の層の崩壊の平均破断エネルギー値EAとし(S6)、当該平均破断エネルギー値EAに基づいて食感を評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レオメータによる破断試験結果から得られたデータを解析して得た数値を指標として層状食品の食感を評価する層状食品の食感評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、レオメータを用いた各種食品の物性等の測定、評価方法が開発されてきている。例えば、レオメータとしての圧縮試験機を用いて、キュウリを圧縮した時の破断圧縮距離とひずみ、及び目減り率を用いるキュウリの鮮度評価方法がある(特許文献1)。また、成型米飯をレオメータによる単軸圧縮破断試験に付して、力―歪み曲線の第1変曲点を測定することによる成型米飯の崩れ測定方法がある(特許文献2)。さらには、共試食品の破断曲線を取得し、該破断曲線のパワースペクトルを得て、該パワースペクトルの所望周波数領域上での特定ピークを、共試食品の食感評価値として算出する食感の評価方法がある(特許文献3)。
【0003】
また、ベーカリー製品においても、レオメータを用いて物性を評価する方法が採用されてきた。例えば、食パンのクラム部分をレオメータの円盤型プランジャで圧縮、緩和する際にプランジャに掛かる最大荷重を測定して食パンの硬さを評価したり、さらには回復率を算出して食パンの「くちゃつき」を評価する方法が採用されてきた。
【0004】
【特許文献1】特開平5−133862号公報
【特許文献2】特開2000−39430号公報
【特許文献3】特開2001−133374号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、各種層状食品において、例えば、クロワッサン、デニッシュペストリー、パイ、その他のパン生地に油脂を折り込んで焼成し、又は油揚げしたベーカリー製品においては、形成された層が口中で崩れる食感が特徴的であり、該食感が所謂「サク」くて歯切れの良いものが良好な食感の層状食品とされている。しかしながら、前記食パン等の物性評価方法では、前記層状食品の特徴的な歯切れ感を評価することはできず、従って、層状食品の特徴的な食感の評価は、人間による官能評価試験に頼らざるを得なかった。しかし、人間による官能評価試験は、不慣れな素人によるものであると客観性や再現性に欠く。一方、熟練した官能評価試験官による評価であっても主観に頼るものであると同様に客観性や再現性に劣り、さらに熟練者の育成には長時間を要するという欠点があった。
【0006】
本発明は上記の問題点に鑑みて為されたもので、層状食品の食感評価において、人間による官能評価ではなく、客観的な数値を指標として評価できるようにし、客観性や再現性の向上を図った層状食品の食感評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような目的を達成するための本発明の層状食品の食感評価方法は、先ず、レオメータのプランジャを一定速度で層状食品に押圧して針入させて、予め定めた単位時間又は単位距離毎に層状食品の押圧・破断に伴いプランジャに掛かる荷重を連続して測定する。
そして、人間により、あるいは、コンピュータにより、あるいは、人間及びコンピュータが共同して、以下の手順で実施する。
図1に示すように、前記単位時間又は単位距離毎の荷重の測定値を確定(コンピュータによる場合は当該測定値を記憶)し(S1)、前記単位時間又は単位距離毎の荷重の測定値の合計を破断エネルギー値Eとして算出し(S2)、前記単位時間又は単位距離毎の荷重の測定値の変化率を微分値としてそれぞれの時間又は距離に対して微分により計算し(S3)、当該微分値に基づいて特定される変曲点を食感上感じる1回の層の崩壊を示す破断点とし(S4)、該破断点の数Nを計算し(S5)、「破断エネルギー値E/破断点の数N」を計算して、該計算結果を食感上感じる1回の層の崩壊の平均破断エネルギー値EAとし(S6)、
当該平均破断エネルギー値EAに基づいて、層状食品の歯切れの良好感に係る食感を評価する構成としている。即ち、(S1)→(S2)→(S3)→(S4)→(S5)→(S6)の工程を備えている。
【0008】
これにより、「破断エネルギー値E/破断点の数N」の値である平均破断エネルギー値EAは、小さければ小さいほど、少ない破断エネルギーで食感上感じる1回の層を崩壊させることができるということを意味するので、そのような層は脆く、該脆い層を有する層状食品の食感は、歯切れの良好なものであると評価することができる。逆に、「破断エネルギー値E/破断点の数N」の値である平均破断エネルギー値EAが、大きければ大きいほど、食感上感じる1回の層を崩壊させるのに大きな破断エネルギーが必要となり、従って、層は歯切れが悪く、該歯切れの悪い層を有する層状食品の食感も歯切れが悪いものと評価することができる。この場合、層状食品の食感評価において、人間による官能評価ではなく、客観的な数値を指標として評価できるので、客観性や再現性の向上が図られる。また、層毎の破断を考慮して、「破断エネルギー値E/破断点の数N」の値である平均破断エネルギー値EAを用いて評価を行なうので、それだけ、評価精度が向上させられる。
【0009】
そして、図2に示すように、必要に応じ、前記破断エネルギー値Eを計算するにあたり、
表示手段(コンピュータの場合はそのディスプレイ)に単位時間又は単位距離毎の荷重の測定値を示すグラフを作成して表示し(S2a)、当該グラフに基づいて破断エネルギー値Eを計算する構成にしている。即ち、(S1)→(S2a)→(S2)→(S3)→(S4)→(S5)→(S6)の工程にしている。
このステップ(S2a)を設けることにより、視覚により、層状態やエネルギー状態を把握でき、評価を確実に行なうことができる。
【0010】
また、図3に示すように、必要に応じ、前記微分をするにあたり、
表示手段(コンピュータの場合はそのディスプレイ)に単位時間又は単位距離毎の荷重の測定値を示すグラフを作成して表示し(S3a)、前記のステップ(S4)では、当該グラフにおいて、「負」の下降傾斜を示す部分毎に、微分により当該下降傾斜の角度が最大値を示す点を変曲点である破断点として特定する構成としている。
即ち、(S1)→(S2)→(S3)→(S3a)→(S4)→(S5)→(S6)の工程、あるいは、(S1)→(S2a)→(S2)→(S3)→(S3a)→(S4)→(S5)→(S6)の工程にしている。
【0011】
更に、図4に示すように、前記(S1)→(S2)→(S3)→(S4)→(S5)→(S6)の工程において、あるいは、前記(S1)→(S2a)→(S2)→(S3)→(S4)→(S5)→(S6)の工程において、
必要に応じ、前記のステップ(S4)では、前記微分値が「正」の値又は「0」から「負」の値に変わる点を変曲点である破断点として特定する構成としている。
【0012】
更にまた、図5に示すように、必要に応じ、前記微分することに代えて、
各単位時間又は単位距離毎に、一つ先の単位時間又は単位距離における測定値から、当該単位時間又は単位距離における測定値を控除した値が、「正」の値又は「0」から「負」の値に変わる点を変曲点である破断点として特定する構成としている(SA)。
即ち、(S1)→(S2)→(SA)→(S5)→(S6)の工程、あるいは、(S1)→(S2a)→(S2)→(SA)→(S5)→(S6)の工程にしている。
【0013】
また、図6に示すように、必要に応じ、前記微分することに代えて、
当該単位時間又は単位距離毎の荷重の測定値が「増加」から「減少」に転じる点を変曲点である破断点として特定する構成としている(SB)。
即ち、(S1)→(S2)→(SB)→(S5)→(S6)の工程、あるいは、(S1)→(S2a)→(S2)→(SB)→(S5)→(S6)の工程にしている。
【0014】
そしてまた、図7に示すように、必要に応じ、前記変曲点である破断点を特定するにあたり、
表示手段(コンピュータの場合はそのディスプレイ)に微分値グラフを作成して表示し(S3b)、
前記のステップ(S4)では、当該微分値グラフにおいて、「正」の値の領域から「負」の値の領域に下降傾斜して、再び「正」の値の領域まで上昇傾斜する範囲を変曲点である破断点とする構成としている。詳しくは、当該微分値グラフにおいて、「正」の値の領域から「負」の値の領域に下降傾斜して、再び「正」の値の領域まで上昇傾斜する「谷」(当該「谷」には、「正」の値の領域まで上昇傾斜しない、一つ又は複数の「山」をその間に挟む場合がある)を形成する部分を特定して、これを変曲点である破断点とする構成としている。
即ち、(S1)→(S2)→(S3)→(S3b)→(S4)→(S5)→(S6)の工程、あるいは、(S1)→(S2a)→(S2)→(S3)→(S3b)→(S4)→(S5)→(S6)の工程にしている。
このステップ(S3b)及び(S4)の構成により、コンピュータのディスプレイ上で視覚的に、且つ、比較的容易に「谷」を特定することができるため好ましい。
【0015】
また、必要に応じ、前記平均破断エネルギー値EAに基づいて層状食品の食感を評価するにあたり、
同一の原料配合及び工程を採用した複数の層状食品の検体についての平均破断エネルギー値EAの平均値を算出して、該平均値に基づいて、層状食品の食感の評価をする構成としている。
同一の原料配合及び工程を採用した場合であっても、検体毎に破断エネルギー値E及び破断点の数Nの値が異なる可能性があり、従って、検体毎に平均破断エネルギー値EAの値も異なる可能性があるため、それぞれの検体の平均破断エネルギー値EAの平均値を算出し、該平均値に基づいて評価することにより、より精度の高い評価を行うことができる。
【0016】
更に、必要に応じ、前記平均破断エネルギー値EAに基づいて層状食品の食感を評価するにあたり、
予め標準値を設定しておいて、
算出した層状食品の検体の平均破断エネルギー値EAが当該標準値よりも小さいときに、歯切れ感が良好であると評価する構成としている。
予め設定した標準値と比較するだけで、評価ができるので、より一層客観性や再現性の向上が図られる。
【0017】
更にまた、必要に応じ、前記平均破断エネルギー値EAに基づいて、複数の層状食品の食感を評価するにあたり、
当該複数の層状食品の検体についてそれぞれ算出した平均破断エネルギー値EAが最も小さい層状食品が、最も歯切れ感が良好であると評価する構成としている。
この場合、特に標準値を設定しなくても、当該複数の検体間で簡便に評価を行うことができる。
【0018】
また、必要に応じ、前記食感を評価する層状食品の検体をリング形状に成形する構成としている。層状食品がベーカリー製品のような場合は、その加熱時に不均一に膨張してしまうことが比較的頻繁にあるが、生地をドーナツ形状にして加熱するので、加熱時の熱が均一に層状食品生地に伝わり易くなり、このような弊害が回避される。
【0019】
更に、必要に応じ、前記レオメータのプランジャの先端部は円錐形であり、且つ当該円錐の頂点を前記層状食品に当接させて押圧する構成としている。
こうすることにより、層状食品を実際に歯で噛んで食べる場合と近似した状態でプランジャを層状食品に針入させることができ、より評価の精度を向上させることができる。
【0020】
そして、必要に応じ、前記プランジャの先端を層状食品の厚さ分だけ最後まで針入させる構成としている。層状食品を実際に食べるときには、通常、層状食品の厚さの途中で噛むのを止めることなく厚さ分だけ最後まで噛み切ることが多いので、プランジャを層状食品の厚さ分だけ最後まで針入させるようにすると、プランジャを層状食品を実際に食べる場合の歯と同様の動きをさせることができ、且つ、食品の厚さ方向全部に亘って測定でき、それだけ、より精度の高い食感の評価が行なわれ、評価精度が向上させられる。
【0021】
また、必要に応じ、前記層状食品は、クロワッサン、デニッシュペストリー、パイ、その他のパン生地に油脂を折り込んで焼成し、又は油揚げしたベーカリー製品である構成としている。
【発明の効果】
【0022】
本発明の層状食品の食感評価方法によれば、平均破断エネルギー値EAにより食感を評価するので、平均破断エネルギー値EAが小さければ、歯切れの良好な食感であると評価したり、あるいは、平均破断エネルギー値EAが大きければ、歯切れが悪い食感と評価することができ、層状食品の食感評価において、人間による官能評価ではなく、客観的な数値を指標として評価できるので、客観性や再現性の向上を図ることができる。また、層毎の破断を考慮して、「破断エネルギー値E/破断点の数N」の値である平均破断エネルギー値EAを用いて評価を行なうので、それだけ、評価精度を向上させることができる。また、本発明によれば、層状食品の製造に採用する工程条件や原料の良し悪しを判断することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、添付図面に基づいて、本発明の実施の形態に係る層状食品の食感評価方法について詳細に説明する。
図8に示すように、実施の形態に係る層状食品の食感評価方法においては、基本的に、プランジャに掛かる荷重を測定するレオメータを用い、このレオメータにより、プランジャを一定速度で層状食品に押圧して針入させて、予め定めた単位時間又は単位距離毎に層状食品の押圧・破断に伴いプランジャに掛かる荷重を連続して測定し、該測定値をコンピュータへ送り、該測定値を受け取ったコンピュータはこれを記憶し(S1)、該単位時間又は単位距離毎の押圧荷重の測定値の合計(破断エネルギー値E)を計算するとともに(S2)、該単位時間又は単位距離毎の荷重の測定値の変化率を微分値としてそれぞれの時間又は距離に対して微分により計算し(S3)、該微分値に基づいて変曲点(破断点=食感上感じる1回の層の崩壊を示す点)を特定して(S4)、その数Nを計算し(S5)、「破断エネルギー値E/破断点の数N」(食感上感じる1回の層の崩壊の平均破断エネルギー値EAを算出し(S6)、この平均破断エネルギー値EAに基づいて、層状食品の食感(歯切れの良好感)を評価する。
【0024】
実施の形態において、層状食品としては、歯で噛んだときに口中で層が崩れるような歯切れ感を呈する食品であれば、特に限定されるものではないが、クロワッサン、デニッシュペストリー、パイ、その他のパン生地に油脂を折り込んで焼成し、又は油揚げしたベーカリー製品であることが望ましい。
【0025】
また、実施の形態において、層状食品がベーカリー製品である場合には、層状食品の検体を作成するにあたり、その生地をドーナツ形状(リング形状)にしてドーナツ形状(リング形状)に加熱することが望ましい。層状ベーカリー製品は、その加熱時に縦方向に膨張するものであるが、不均一に膨張してしまうことが比較的頻繁にある。このように不均一に膨張した層状食品は、本発明の検体としては望ましくない。従って、本発明では、このような弊害を回避するために、加熱時の熱が均一に層状食品生地に伝わり易いように、該生地をドーナツ形状にして加熱することが望ましい。
【0026】
また、層状食品の厚さは、10〜100mmとすることが望ましい。層状食品の厚さを10mmよりも薄くした場合には、必然的にプランジャを針入させる距離が短くなり、その結果、単位時間又は単位距離毎の荷重の測定点数や求める破断点の数Nが少なくなるため、その後の層状食品の食感評価の精度が劣る可能性がでてきてしまう。逆に、該厚さを100mmよりも厚くすることも可能であるが、実施の形態においては前記厚さの範囲で十分である。
【0027】
実施の形態で用いるレオメータは、例えば、上下動可能に設けられた検体を載置する試料台と、該試料台の上方に上下動可能に設けられたプランジャからなる単軸圧縮破断機、その他を用いることができる。
また、使用するプランジャの形状は、特に限定されるものではないが、円錐形のものが望ましい。円錐形の形状もまた特に限定されるものではなく、円錐形の底面の直径線と円錐形の頂点との断面図において、頂部の角度が鋭角であっても鈍角であってもよく、例えば、該角度を30〜90度に設定することがより望ましい。円錐形のプランジャを使用する場合、円錐の頂点から層状食品に当接させて押圧するようにプランジャを使用する。
【0028】
プランジャの針入とは、プランジャを層状食品の層が形成されている方向と同方向から垂直に層状食品に向かって移動させて、層状食品を押圧して破断しつつ移動させることであり、また、逆に、層状食品を層状食品の層が形成されている方向と同方向に垂直にプランジャに向かって移動させて、押圧して破断させつつ移動させることをも意味する。例えば、試料台に検体となる層状食品を載置して、該載置後の試料台を固定させておいて、プランジャを一定速度で下降させることにより、プランジャを層状食品に針入させることができる。逆に、プランジャを固定させておいて、層状食品を載置した試料台を一定速度で上昇させることによりこれを行うこともできる。以下では、後者の場合について詳述する。
【0029】
また、レオメータにおいては、プランジャを層状食品の厚さ分だけ最後まで針入させることが望ましい。層状食品を実際に食べるときには、通常、層状食品の厚さの途中で噛むのを止めることなく厚さ分だけ最後まで噛み切るため、実施の形態においても、同様に、プランジャを層状食品の厚さ分だけ最後まで針入させるようにすると、より精度の高い食感の評価が行えるため望ましい。実施の形態では、レオメータにより、プランジャを一定速度で層状食品に押圧して針入させて、予め定めた単位時間又は単位距離毎に層状食品の押圧・破断に伴いプランジャに掛かる荷重を連続して測定する。
【0030】
ここで、一定速度とは、特に限定されるものではないが、例えば、1秒間毎に1mm〜10mm、より好ましくは1秒間毎に3mm〜7mm針入するようにするのが望ましい。
また、単位時間は、なるべく短くして、なるべく多くの時点での荷重を測定する方が、その後の層状食品の食感評価の精度が向上するため好ましい。具体的には、例えば、該単位時間を1/100〜1/10秒に設定するのが望ましく、1/70〜1/30秒に設定するのがより望ましい。
また、単位距離は、なるべく短くして、なるべく多くの地点での荷重を測定する方が、その後の層状食品の食感評価の精度が向上するため好ましい。具体的には、例えば、該単位距離を0.01〜1mmに設定するのが望ましく、0.05〜0.5mmに設定するのがより望ましい。
【0031】
更に詳しく説明すると、レオメータにより測定した測定値は、コンピュータへ送られ、測定値を受け取ったコンピュータは、測定値を記憶する(S1)。
そして、コンピュータは、単位時間又は単位距離毎の荷重の測定値の合計(破断エネルギー値E)を計算する(S2)。破断エネルギー値Eは、プランジャが層状食品を押圧して針入する際に受ける荷重の合計であるが、これは、即ち、人がプランジャが針入した距離と同じ厚みを有する層状食品を噛み切るのに必要な総エネルギーと見做すことができる。
【0032】
図8及び図9に示すように、破断エネルギー値Eの計算は、必要に応じ、前記測定値を受け取ったコンピュータにより、ディスプレイに単位時間又は単位距離毎の荷重の測定値を示す折れ線グラフ(図9参照)を作成して表示し(S2a)、該グラフに基づいて、破断エネルギー値Eを計算してもよい。
【0033】
次に、前記コンピュータにより、該単位時間又は単位距離毎の測定値をそれぞれ時間又は距離で微分し、即ち、該単位時間又は単位距離毎の荷重の測定値の変化率を微分値としてそれぞれの時間又は距離に対して微分により計算し(S3)、該微分値に基づいて変曲点(破断点=食感上感じる1回の層の崩壊を示す点)を特定して、その数Nを計算する。
ここで、図8及び図10に示すように、該微分値に基づく微分値グラフ(図10参照)を作成しても良い(S3b)。
【0034】
該変曲点は、破断点、即ち、食感上感じる1回の層の崩壊を示す点である。該変曲点の数Nは、層状食品の実際の層の数とは一致せず、通常、実際の層の数よりも少なくなる。即ち、図11に示すように、層状食品をプランジャで破断する場合、層状食品の層は1つずつ崩壊するとは限らず、複数の層が凝集してしなりながら該複数の層がまとまって1度に崩壊するからである。これは、層状食品を歯で噛んで食べるときも同様である。そして、層状食品の層が1つずつ、或いは比較的少ない数の層が凝集してしなりながらまとまって崩壊するときには、1回で崩壊する層のまとまりの厚みは比較的薄いものであるため、該層状食品は歯切れが良好なものと感じられるとともに、破断点の数Nは比較的多くなる。逆に、比較的多くの数の層が凝集してしなりながらまとまって崩壊する場合には、1回で崩壊する層のまとまりの厚みは比較的厚いものであるため、このような層状食品は歯切れの悪いものと感じられるとともに、変曲点の数は比較的少なくなる。
【0035】
該変曲点は、具体的には、例えば、以下の方法(1),(2)により特定することができる。
(1)前記単位時間又は単位距離毎の荷重の測定値に関し微分するにあたり、コンピュータのディスプレイに単位時間又は単位距離毎の荷重の測定値を示すグラフ(図9参照)を作成して表示し、該グラフにおいて、「負」の下降傾斜を示す部分毎に、微分により該下降傾斜の角度が最大値を示す点により変曲点(破断点=食感上感じる1回の層の崩壊を示す点)を特定することができる(図3(S4)参照)。
【0036】
この場合は、食感上感じる1回の層の崩壊毎に、層が1回崩壊しきった後で、単位時間又は単位距離毎に、一つ先の単位時間又は単位距離における荷重の測定値から、当該単位時間又は単位距離における測定値を控除した値が、「負」の値となる地点のうち、該「負」の値が最大となる地点を特定することである。また、これを前記図10の微分値グラフで示すと、該グラフにおいて、「正」の値の領域から「負」の値の領域に下降傾斜して、再び「正」の値の領域まで上昇傾斜する「谷」(当該「谷」には、「正」の値の領域まで上昇傾斜しない、一つ又は複数の「山」をその間に挟んだ「谷」が含まれる)毎に、該「谷」のうちの最も深い「底」(該「谷」のうち微分値が最も小さい地点)の地点を特定することを意味する。
【0037】
(2)または、前記微分値が「正」の値又は「0」から「負」の値に変わる点により変曲点(破断点=食感上感じる1回の層の崩壊を示す点)を特定することができる(図4(S4)参照)。この場合は、層が1回崩壊しきった地点を特定することを意味する。これを前記図9のグラフで示すと、該グラフにおいて、上昇傾斜しきって、下降傾斜を開始する、「山」毎に、該「山」の「頂点」を特定することを意味する。また、これを前記図10のグラフで示すと、該グラフにおいて、「正」の値の領域から「負」の値の領域に下降傾斜する部分毎に、「正」の値又は「0」から「負」に変わる地点を特定することを意味する。
【0038】
また、前記単位時間又は単位距離毎の荷重の測定値に関し微分する実施の形態において、変曲点の特定を、下記のようにして良い。
前記変曲点(破断点=食感上感じる1回の層の崩壊を示す点)を特定するにあたり、コンピュータのディスプレイに微分値グラフを作成して表示し、該微分値グラフにおいて、「正」の値の領域から「負」の値の領域に下降傾斜して、再び「正」の値の領域まで上昇傾斜する「谷」を形成する部分により変曲点を特定することもできる。
前記「谷」の間には、「正」の領域まで上昇傾斜しない、一つ又は複数の「山」が形成される場合があるが、このような「山」も本発明における当該1つの「谷」と見做す。
この場合は、食感上感じる1回の層の崩壊毎に、層が1回崩壊しきった後で、単位時間又は単位距離毎に、一つ先の単位時間又は単位距離における荷重の測定値から、当該単位時間又は単位距離における測定値を控除した値が、「負」の値となる地点から、該値が「正」の値になる地点までを特定することである。これを前記図9のグラフで示すと、該グラフにおいて、下降傾斜を開始して、上昇傾斜を開始する地点までを特定することを意味する。また、これを前記図10の微分値グラフで示すと、該グラフにおいて、「正」の値の領域から「負」の値の領域に下降傾斜して、再び「正」の値の領域まで上昇傾斜する「谷」(当該「谷」には、「正」の値の領域まで上昇傾斜しない、一つ又は複数の「山」をその間に挟んだ「谷」が含まれる)を特定することを意味する。
該「谷」を形成する部分を特定する実施の形態においては、コンピュータのディスプレイ上で視覚的に、且つ、比較的容易に「谷」を特定することができるため好ましい。
【0039】
該変曲点の数の計算は、人間が行うこともできるし、前記コンピュータにより行うこともできる。
【0040】
次に、「破断エネルギー値E/破断点の数N」(食感上感じる1回の層の崩壊の平均破断エネルギー値EA)に基づいて、層状食品の食感(歯切れの良好感)を評価する場合について説明する。
「破断エネルギー値E/破断点の数N」の値(平均破断エネルギー値EA)は、小さければ小さいほど、少ない破断エネルギーで食感上感じる1回の層を崩壊させることができるということを意味するので、そのような層は脆く、該脆い層を有する層状食品の食感は、歯切れの良好なものであると評価することができる。逆に、「破断エネルギー値E/破断点の数N」の値(平均破断エネルギー値EA)が、大きければ大きいほど、食感上感じる1回の層を崩壊させるのに大きな破断エネルギーが必要となり、従って、層は歯切れが悪く、該歯切れの悪い層を有する層状食品の食感も歯切れが悪いものと評価することができる。
【0041】
この場合、同一の原料配合及び工程を採用した複数の層状食品の検体について、それぞれ破断エネルギー値E及び破断点の数Nを計算し、算出したそれぞれの「破断エネルギー値E/破断点の数N」の値(平均破断エネルギー値EA)の平均値を計算して、該平均値に基づいて、層状食品の食感の評価をすることが望ましい。ここで、複数の層状食品の検体について、破断エネルギー値E及び破断点の数Nの平均値を計算しておいて、「破断エネルギー値Eの平均値/破断点の数Nの平均値」により、平均破断エネルギー値EAの平均値を計算することも当然に可能である。同一の原料配合及び工程を採用して複数の層状食品の検体を作成した場合であっても、例えば、工程中に手作業による工程が含まれるような場合等は、それぞれの検体の「破断エネルギー値E/破断点の数N」の値にズレが生じるおそれがあるため、該複数の検体の「破断エネルギー値E/破断点の数N」の値の平均値を計算して、該平均値に基づいて、層状食品の食感の評価をすることが望ましい。
【0042】
また、この場合、予め標準値を設定しておいて、算出した層状食品の検体の「破断エネルギー値E/破断点の数N」の値が該標準値よりも小さいときに、歯切れが良好であると評価することもできる。この際にも、上述したように同一の原料配合及び工程を採用した層状食品を複数作成して、該複数の層状食品の平均破断エネルギー値EAの平均値を算出し、該平均値を前記標準値と比較して評価を行うことが望ましい。
更にまた、この場合、異なる原料配合及び/又は工程を採用した複数の層状食品の検体について、それぞれ破断エネルギー値E及び破断点の数Nを計算し、算出した「破断エネルギー値E/破断点の数N」の値(平均破断エネルギー値EA)が最も小さい層状食品の検体が、最も歯切れ感が良好であると評価することができる。この際にも、上述したように異なる原料配合及び/又は工程を採用した層状食品毎に、複数の検体を作成して、「破断エネルギー値E/破断点の数N」の値の平均値を算出し、該平均値を別の原料配合及び/又は工程を採用した層状食品のそれと比較して評価を行うことが望ましい。
【0043】
次に、本発明の別の実施の形態に係る層状食品の食感評価方法について説明する。この別の実施の形態に係る層状食品の食感評価方法は、前記実施の形態とは異なり、前記単位時間又は単位距離毎の荷重の測定値に関し微分することに代えて、下記の方法(1),(2)をとる。
【0044】
(1)前記単位時間又は単位距離毎の荷重の測定値に関し微分することに代えて、各単位時間又は単位距離毎に、一つ先の単位時間又は単位距離における測定値から、該単位時間又は単位距離における測定値を控除した値が、「正」の値又は「0」から「負」の値に変わる点により変曲点(破断点=食感上感じる1回の層の崩壊を示す点)を特定する(図5(SA)参照)。即ち、この層状食品の食感評価方法は、図5に示すように、(S1)→(S2)→(SA)→(S5)→(S6)の工程、あるいは、(S1)→(S2a)→(S2)→(SA)→(S5)→(S6)の工程にしている。
【0045】
この場合は、層が1回崩壊しきった地点を特定することを意味する。これを前記図9のグラフで示すと、該グラフにおいて、上昇傾斜しきって、下降傾斜を開始する、「山」毎に、該「山」の「頂点」を特定することを意味する。また、これを前記図10のグラフで示すと、該グラフにおいて、「正」の値の領域から「負」の値の領域に下降傾斜する部分毎に、「正」の値又は「0」から「負」に変わる地点を特定することを意味する。尚、層状食品の食感(歯切れの良好感)を評価する方法は、上記と同様である。

【0046】
(2)また、前記単位時間又は単位距離毎の荷重の測定値に関し微分することに代えて、該単位時間又は単位距離毎の荷重の測定値が「増加」から「減少」に転じる点により変曲点(破断点=食感上感じる1回の層の崩壊を示す点)を特定する(図6(SB)参照)。即ち、この層状食品の食感評価方法は、図6に示すように、(S1)→(S2)→(SB)→(S5)→(S6)の工程、あるいは、(S1)→(S2a)→(S2)→(SB)→(S5)→(S6)の工程にしている。
【0047】
この場合は、層が1回崩壊しきった地点を特定することを意味する。これを前記図9のグラフで示すと、該グラフにおいて、上昇傾斜しきって、下降傾斜を開始する、「山」毎に、該「山」の「頂点」を特定することを意味する。また、これを前記図10のグラフで示すと、該グラフにおいて、「正」の値の領域から「負」の値の領域に下降傾斜する部分毎に、「正」の値又は「0」から「負」に変わる地点を特定することを意味する。尚、層状食品の食感(歯切れの良好感)を評価する方法は、上記と同様である。
【実施例】
【0048】
以下、本発明の実施例について説明する。
[実施例1]
2種類の折込油脂(折込油脂1a、1b)を用意し、それぞれの折込油脂を用いて、以下の条件にて2種類のデニッシュをそれぞれ20個ずつ作成した。いずれも、デニッシュ生地をドーナツ型の抜型によりドーナツ型に抜いて、焼成してドーナツ型のデニッシュとした。折込油脂1aを用いたデニッシュを検体1A、折込油脂1bを用いたデニッシュを検体1Bとした。
【0049】
<生地配合 (質量%)>
準強力粉 100
イースト 4
ショートニング 6
マーガリン 6
グラニュー糖 12
液卵 4
脱脂粉乳 4
塩 1.6
イーストフード 0.1
吸水 70
【0050】
<工程>
ミキシング 低速2分高速2分、ショートニング及びマーガリン添加後、低速2分高速3分
捏上温度 24℃
フロアタイム 30分
ベンチタイム なし
【0051】
<ロールイン条件>
リターダー 2℃、5時間
ロールイン方法 3つ折り→3つ折り→4つ折り(36層)
<ロールイン比率>
生地 100
折込油脂 25
【0052】
<ホイロ条件>
温度 34℃、湿度 78%、時間 70分間
<焼成条件>
210℃、13分間
【0053】
上記検体1A及び1Bの全ての検体を焼成後、30分間室温にて冷却した後、包装して室温で24時間保存し、株式会社山電製レオメータ(RE−3305S)を用いて、破断した。破断の条件は、以下のとおりである。
【0054】
<破断条件>
使用プランジャ 円錐型(φ18mm×60°)
針入速度 5mm/sec
単位時間 1/50sec
【0055】
上記破断で得られた測定値からコンピューターを用いて、全ての検体について単位時間毎の荷重の測定値を示すグラフを作成して、コンピュータのディスプレイに表示して、破断エネルギー値Eを計算した。また、さらに、このグラフから微分値グラフを作成して、コンピュータのディスプレイに表示した。それぞれ微分値グラフの「正」の値の領域から「負」の値の領域に下降傾斜して、再び「正」の値の領域まで上昇傾斜する「谷」を形成する部分を変曲点として特定し、その数を計算した。そして、それぞれ「破断エネルギー値E/破断点の数N」を計算した。以下に、検体1A及び1Bのそれぞれ1ずつの検体の単位時間毎の荷重の測定値のグラフ及び微分値グラフを図12及び図13に示す。
【0056】
以下に、それぞれ検体1A及び1Bの破断エネルギー値Eの平均値、破断点の数Nの平均値及び「破断エネルギー値E/破断点の数N」の平均破断エネルギー値EAの平均値を示す。
【0057】
検体1A・・・・E=64026,N=1.8,EA=E/N=64026/1.8=35570
検体1B・・・・E=272096,N=8.8,EA=E/N=272096/8.8=30920
【0058】
この結果から、「破断エネルギー値E/破断点の数N」の値が小さい検体1Bの方が、食感上感じる1回の層の崩壊の平均破断エネルギー値EAが小さいため、該値が小さい検体1Bの層は、検体1Aのそれと比較して、脆く歯切れの良いものであり、検体1Bの方が検体1Aと比較して歯切れの良い優れた食感を有していると評価することができる。さらには、検体1Bに使用した折込油脂1bの方が折込油脂1aと比較して、デニッシュの食感を歯切れの良好なものにする折込油脂であると判断できる。
【0059】
前記本発明の層状食品の食感評価方法の信頼性を確認するために、前記検体1A及び1Bを用いて、36名(男性27名、女性9名)の熟練官能評価試験官による7点評価(1−非常に悪い、2−悪い、3−やや悪い、4−普通、5−やや良好、6−良好、7−非常に良好)での官能評価(歯切れ識別)を行った。結果を以下に示す。
【0060】
検体1a・・・・3.8
検体1b・・・・4.5*
* 有意差検定(studentのt検定)の結果、検体1Bは、検体1Aに対して信頼度95%以上で有意差あり。
【0061】
前記官能評価試験において、検体1Bが検体1Aと比較して歯切れの良好なものであるとの結果が出た。本発明による層状食品の食感評価結果は、熟練官能評価試験官による官能評価結果と同様の傾向を示すことが確認できた。むしろ、本発明は客観的な数値に基づく評価であるため、官能評価試験による評価よりも、より有効な層状食品の食感評価方法であるといえる。
【0062】
[実施例2]
前記実施例1の検体作成条件のうち、折込油脂として折込油脂2を使用し、さらに生地配合の小麦粉として準強力粉aを100%使用(検体2A)、準強力粉a60%と中力粉b40%を組み合わせたものを使用(検体2B)、準強力粉a60%と中力粉c40%を組み合わせたものを使用(検体2C)、準強力粉a60%と薄力粉d40を組み合わせたものを使用(検体2D)した以外は、実施例1と同様の条件にて4種類のデニッシュをそれぞれ20個ずつ作成した。
【0063】
上記検体2A、2B、2C及び2Dの全ての検体を焼成後、30分間室温にて冷却した後、包装して室温で24時間保存し、株式会社山電製レオメータ(RE−3305S)を用いて、破断した。破断の条件は、以下のとおりである。
【0064】
<破断条件>
使用プランジャ 円錐型(φ18mm×60°)
針入速度 5mm/sec
単位時間 1/50sec
【0065】
上記破断で得られた測定値からコンピューターを用いて、全ての検体について単位時間毎の荷重の測定値を示すグラフを作成して、コンピュータのディスプレイに表示して、破断エネルギー値Eを計算した。また、さらに、このグラフから微分値グラフを作成して、コンピュータのディスプレイに表示した。それぞれ微分値グラフの「正」の値の領域から「負」の値の領域に下降傾斜して、再び「正」の値の領域まで上昇傾斜する「谷」を形成する部分を変曲点として特定し、その数を計算した。そして、それぞれ「破断エネルギー値E/破断点の数N」を計算した。以下に、検体2A、2B、2C及び2Dのそれぞれ1ずつの検体の単位時間毎の荷重の測定値のグラフ及び微分値グラフを図14及び図15に示す。
【0066】
以下に、それぞれ検体2A、2B、2C及び2Dの破断エネルギー値Eの平均値、破断点の数Nの平均値及び「破断エネルギー値E/破断点の数N」の平均破断エネルギー値EAの平均値を示す。
【0067】
検体2A・・・・E=134900,N=3.2,EA=E/N=134900/3.2=42156
検体2B・・・・E=97220,N=2.8,EA=E/N=97220/2.8=34721
検体2C・・・・E=190700,N=3.4,EA=E/N=190700/3.4=56088
検体2D・・・・E=111500,N=3.8,EA=E/N=111500/3.8=29342
【0068】
「破断エネルギー値E/破断点の数N」の値が最も小さい検体2Dが、食感上感じる1回の層の崩壊の平均破断エネルギー値EAがその他の検体と比較して最も小さいため、該値が最も小さい検体2Dの層は、その他の検体の層と比較して、最も脆く歯切れの良いものであり、検体2Dのデニッシュがその他の検体と比較して最も歯切れの良い優れた食感を有していると評価することができる。さらには、検体2Dに使用した小麦粉の組合せがその他の小麦粉の組合せと比較して、デニッシュの食感を最も歯切れの良好なものにする小麦粉の組合せであると判断することができる。
【0069】
さらに、「破断エネルギー値E/破断点の数N」の値が2番目に小さい検体2Bは、検体2Dより劣るものの、検体2A及び検体2Cよりも歯切れ感が良好であり、また、「破断エネルギー値E/破断点の数N」の値が3番目に小さい検体2Aは、検体2D及び検体2Bより劣るものの、検体2Cよりも歯切れ感が良好であると評価することができる。
【0070】
前記本発明の層状食品の食感評価方法の信頼性を確認するために、前記検体2A、2B、2C及び2Dを用いて、36名(男性27名、女性9名)の熟練官能評価試験官による7点評価(1−非常に悪い、2−悪い、3−やや悪い、4−普通、5−やや良好、6−良好、7−非常に良好)での官能評価(歯切れ識別)を行った。結果を以下に示す。
【0071】
検体2A・・・・4.5
検体2B・・・・4.8
検体2C・・・・3.4**
検体2D・・・・4.9
** 有意差検定(studentのt検定)の結果、検体2Aに対して信頼度99%以上で有意差あり。
【0072】
前記官能評価試験においても、検体2Dがその他の検体と比較して最も歯切れの良好なものであるとの結果が出た。さらに、「破断エネルギー値E/破断点の数N」の値が小さくなるにつれ、官能評価の評価が高く(良好)なっていく傾向が確認できた。
【0073】
また、前記官能評価識別値を横軸に、「破断エネルギー値E/破断点の数N」の値を縦軸にプロットしたグラフを図16に示す。この結果、R²=0.9483と高い相関係数が得られたことから、本発明による層状食品の食感評価結果は、熟練官能試験官による官能評価試験結果と近似する傾向を示すことが確認できた。むしろ、本発明は客観的な数値に基づく評価であるため、官能評価試験による評価よりも、より有効な層状食品の食感評価方法であるといえる。
【0074】
[実施例3]
2種類の折込油脂(折込油脂3a、3b)を用意し、それぞれの折込油脂を用いて、以下の条件にて2種類のアップルパイをそれぞれ20個ずつ作成した。折込油脂3aを用いたアップルパイを検体3A、折込油脂3bを用いたアップルパイを検体3Bとした。
【0075】
<生地配合 (質量%)>
中力粉 100
イースト 0.5
ショートニング 10
液卵 8
脱脂粉乳 2
塩 1.5
吸水 50
【0076】
<工程>
ミキシング 低速2分高速2分、ショートニング添加後、低速2分高速4分
捏上温度 20℃
フロアタイム 10分
ベンチタイム 90分
リターダー 2℃、8時間
【0077】
<ロールイン比率>
生地 100
折込油脂 45
<ロールイン条件>
ロールイン方法 3つ折り→3つ折り→4つ折り(36層)
リターダー 2℃、23時間
【0078】
<成形>
4つ折り(144層)
圧延 4.5mm
アップルフィリング45gをサンド
<ホイロ条件>
温度 32℃、湿度 78%、時間 70分間
<焼成条件>
215℃、25分間
【0079】
上記検体3A及び3Bの全ての検体を焼成後、30分間室温にて冷却した後、包装して室温で24時間保存し、株式会社山電製レオメータ(RE−3305S)を用いて、破断した。破断の条件は、以下のとおりである。
【0080】
<破断条件(検体の端の方のフィリングの無い部分を破断した。)>
使用プランジャ 円錐型(φ18mm×60°)
針入速度 5mm/sec
単位時間 1/50sec
【0081】
上記破断で得られた測定値からコンピューターを用いて、全ての検体について単位時間毎の荷重の測定値を示すグラフを作成して、コンピュータのディスプレイに表示して、破断エネルギー値Eを計算した。また、さらに、このグラフから微分値グラフを作成して、コンピュータのディスプレイに表示した。それぞれ微分値グラフの「正」の値の領域から「負」の値の領域に下降傾斜して、再び「正」の値の領域まで上昇傾斜する「谷」を形成する部分を変曲点として特定し、その数を計算した。そして、それぞれ「破断エネルギー値E/破断点の数N」を計算した。以下に、検体3A及び3Bのそれぞれ1ずつの検体の単位時間毎の荷重の測定値のグラフ及び微分値グラフを図17及び図18に示す。
【0082】
以下に、それぞれ検体3A及び3Bの破断エネルギー値Eの平均値、破断点の数Nの平均値及び「破断エネルギー値E/破断点の数N」の平均破断エネルギー値EAの平均値を示す。
【0083】
検体3A・・・・E=4007602,N=25.3,EA=E/N=4007602/25.3=158403
検体3B・・・・E=3516246,N=29.6,EA=E/N=3516246/29.6=118792
【0084】
「破断エネルギー値E/破断点の数N」の値が小さい検体3Bの方が、食感上感じる1回の層の崩壊の平均破断エネルギー値EAが小さいため、該値が小さい検体3Bの層は、検体3Aのそれと比較して、脆く歯切れの良いものであり、検体3Bの方が検体3Aと比較して歯切れの良い優れた食感を有していると評価することができる。さらには、検体3Bに使用した折込油脂3bの方が折込油脂3aと比較して、パイの食感を歯切れの良好なものにする折込油脂であると判断できる。
【0085】
前記本発明の層状食品の食感評価方法の信頼性を確認するために、前記検体3A及び3Bを用いて、36名(男性23名、女性13名)の熟練官能評価試験官による7点評価(1−非常に悪い、2−悪い、3−やや悪い、4−普通、5−やや良好、6−良好、7−非常に良好)での官能評価(歯切れ識別)を行った。結果を以下に示す。
【0086】
検体3A・・・・4.2
検体3B・・・・4.6*
* 有意差検定(studentのt検定)の結果、検体3Bは、検体3Aに対して信頼度95%以上で有意差あり。
【0087】
前記官能評価試験においても、検体3Bが検体3Aと比較して歯切れの良好なものであるとの結果が出た。本発明による層状食品の食感評価結果が熟練官能評価試験官による官能評価試験結果を同様の傾向を示すことが確認できた。むしろ、本発明は客観的な数値に基づく評価であるため、官能評価試験による評価よりも、より有効な層状食品の食感評価方法であるといえる。
【0088】
尚、上記実施の形態では、主に計算をコンピュータを用いて行なっているが、必ずしもこれに限定されるものではなく、全て、あるいは一部を人間が行なっても良く、適宜変更して差支えない。また、表示手段は、コンピュータのディスプレイに限定されるものではなく、データを印字する紙であっても良く、適宜変更して差支えない。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】本発明の請求項1に係る層状食品の食感評価方法の構成を示すフローチャートである。
【図2】本発明の請求項2に係る層状食品の食感評価方法の構成を示すフローチャートである。
【図3】本発明の請求項3に係る層状食品の食感評価方法の構成を示すフローチャートである。
【図4】本発明の請求項4に係る層状食品の食感評価方法の構成を示すフローチャートである。
【図5】本発明の請求項5に係る層状食品の食感評価方法の構成を示すフローチャートである。
【図6】本発明の請求項6に係る層状食品の食感評価方法の構成を示すフローチャートである。
【図7】本発明の請求項7に係る層状食品の食感評価方法の構成を示すフローチャートである。
【図8】本発明の実施の形態に係る層状食品の食感評価方法の構成を示すフローチャートである。
【図9】本発明の実施の形態に係る層状食品の食感評価方法において、ディスプレイに表示され単位時間又は単位距離毎の荷重の測定値の一例を示すグラフである。
【図10】本発明の実施の形態に係る層状食品の食感評価方法において、ディスプレイに表示され、図9に示した単位時間又は単位距離毎の荷重の測定値の変化率を微分値としてそれぞれの時間又は距離に対して微分により計算した微分値グラフの一例を示すグラフである。
【図11】層状食品をプランジャで破断する場合の状態を示す図である。
【図12】本発明の実施例1に係り、(a)は検体1A荷重の測定値グラフ、(b)は検体1B荷重の測定値グラフである。
【図13】本発明の実施例1に係り、(a)は検体1Aの微分値グラフ、(b)は検体1Bの微分値グラフである。
【図14】本発明の実施例2に係り、(a)検体2Aの荷重の測定値グラフ、(b)は検体2Bの荷重の測定値グラフ、(c)は検体2Cの荷重の測定値グラフ、(d)は検体2Dの荷重の測定値グラフである。
【図15】本発明の実施例2に係り、(a)は検体2Aの微分値グラフ、(b)は検体2Bの微分値グラフ、(c)は検体2Cの微分値グラフ、(d)は検体2Dの微分値グラフである。
【図16】本発明の実施例2に係り、官能評価識別値と「破断エネルギー値E/破断点の数N」の平均破断エネルギー値EAとの相関を示すグラフである。
【図17】本発明の実施例3に係り、(a)は検体3Aの荷重の測定値グラフ、(b)は検体3Bの荷重の測定値グラフである。
【図18】本発明の実施例3に係り、(a)は検体3Aの微分値グラフ、(b)は検体3Bの微分値グラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レオメータのプランジャを一定速度で層状食品に押圧して針入させて、予め定めた単位時間又は単位距離毎に層状食品の押圧・破断に伴いプランジャに掛かる荷重を連続して測定し、
前記単位時間又は単位距離毎の荷重の測定値を確定し、
前記単位時間又は単位距離毎の荷重の測定値の合計を破断エネルギー値Eとして算出し、
前記単位時間又は単位距離毎の荷重の測定値の変化率を微分値としてそれぞれの時間又は距離に対して微分により計算し、
当該微分値に基づいて特定される変曲点を食感上感じる1回の層の崩壊を示す破断点とし、
該破断点の数Nを計算し、
「破断エネルギー値E/破断点の数N」を計算して、該計算結果を食感上感じる1回の層の崩壊の平均破断エネルギー値EAとし、
当該平均破断エネルギー値EAに基づいて、層状食品の歯切れの良好感に係る食感を評価することを特徴とする層状食品の食感評価方法。
【請求項2】
前記破断エネルギー値Eを計算するにあたり、
表示手段に単位時間又は単位距離毎の荷重の測定値を示すグラフを作成して表示し、
当該グラフに基づいて破断エネルギー値Eを計算することを特徴とする請求項1に記載の層状食品の食感評価方法。
【請求項3】
前記微分をするにあたり、
表示手段に単位時間又は単位距離毎の荷重の測定値を示すグラフを作成して表示し、
当該グラフにおいて、「負」の下降傾斜を示す部分毎に、微分により当該下降傾斜の角度が最大値を示す点を変曲点である破断点として特定することを特徴とする請求項1又は2に記載の層状食品の食感評価方法。
【請求項4】
前記微分値が「正」の値又は「0」から「負」の値に変わる点を変曲点である破断点として特定することを特徴とする請求項1又は2に記載の層状食品の食感評価方法。
【請求項5】
前記微分することに代えて、
各単位時間又は単位距離毎に、一つ先の単位時間又は単位距離における測定値から、当該単位時間又は単位距離における測定値を控除した値が、「正」の値又は「0」から「負」の値に変わる点を変曲点である破断点として特定することを特徴とする請求項1又は2に記載の層状食品の食感評価方法。
【請求項6】
前記微分することに代えて、
当該単位時間又は単位距離毎の荷重の測定値が「増加」から「減少」に転じる点を変曲点である破断点として特定することを特徴とする請求項1又は2に記載の層状食品の食感評価方法。
【請求項7】
前記変曲点である破断点を特定するにあたり、
表示手段に微分値グラフを作成して表示し、
当該微分値グラフにおいて、「正」の値の領域から「負」の値の領域に下降傾斜して、再び「正」の値の領域まで上昇傾斜する範囲を変曲点である破断点とすることを特徴とする請求項1又は2に記載の層状食品の食感評価方法。
【請求項8】
前記平均破断エネルギー値EAに基づいて層状食品の食感を評価するにあたり、
同一の原料配合及び工程を採用した複数の層状食品の検体についての平均破断エネルギー値EAの平均値を算出して、該平均値を当該原料配合及び工程を採用した場合の層状食品の平均破断エネルギー値EAとして、層状食品の食感の評価をすることを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6又は7に記載の層状食品の食感評価方法。
【請求項9】
前記平均破断エネルギー値EAに基づいて層状食品の食感を評価するにあたり、
予め標準値を設定しておいて、
算出した層状食品の検体の平均破断エネルギー値EAが当該標準値よりも小さいときに、歯切れ感が良好であると評価することを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6、7又は8に記載の層状食品の食感評価方法。
【請求項10】
前記平均破断エネルギー値EAに基づいて、複数の層状食品の食感を評価するにあたり、
当該複数の層状食品の検体についてそれぞれ算出した平均破断エネルギー値EAが最も小さい層状食品が、最も歯切れ感が良好であると評価することを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6、7、8又は9に記載の層状食品の食感評価方法。
【請求項11】
前記食感を評価する層状食品の検体をリング形状に成形することを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10に記載の層状食品の食感評価方法。
【請求項12】
前記レオメータのプランジャの先端部は円錐形であり、且つ当該円錐の頂点を前記層状食品に当接させて押圧することを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10又は11に記載の層状食品の食感評価方法。
【請求項13】
前記プランジャの先端を層状食品の厚さ分だけ最後まで針入させることを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11又は12に記載の層状食品の食感評価方法。
【請求項14】
前記層状食品は、クロワッサン、デニッシュペストリー、パイ、その他のパン生地に油脂を折り込んで焼成し、又は油揚げしたベーカリー製品であることを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12又は13に記載の層状食品の食感評価方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2007−225460(P2007−225460A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−47630(P2006−47630)
【出願日】平成18年2月24日(2006.2.24)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年8月30日 社団法人日本食品科学工学会主催の「日本食品科学工学会第52会大会」において文書をもって発表
【出願人】(000178594)山崎製パン株式会社 (42)
【Fターム(参考)】