層移載方法
本発明は、ソース基板(4)からの材料層(41)を支持基板(5)上に接合して移載する際に層状の接着剤(6)を用いると同時にこの接着剤の周縁部分(62)を除去する方法に関する。この方法は、二つの基板(4と5)を硬化可能な接着剤(6)の介在層によって貼り合わせ、移載すべき材料層(41)の前面(43)に対面して延在する層状の接着剤(6)の接合領域(61)のみを硬化させ、未硬化接着剤からなる周縁部分(62)を除去し、そして移載すべき材料層(41)をソース基板の残余部分(42)から分離させることからなる点を特徴とする。本発明は、光学、電子工学又は光電子工学分野における複合基板の製造に適用可能である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学、電子工学又は光電子工学分野で用いられる複合基板を製造するためにソース基板からその材料層を支持基板上に接合して移載する際に層状の接着剤を用いると同時にこの接着剤の周縁部分を除去する層移載方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
材料層、特に付加的に処理された半導体材料の層を、第1基板、即ちソース基板から、第2基板、即ち支持基板へ移載することについては既に新規な技法が開発されている。
【0003】
ここで、処理された層なる語は、電子部品を形成するための技術的方法の幾つか又は全ての工程を経た材料層を指す。
【0004】
このような層移載技術では、例えばソース基板として、原子種の注入により脆弱化された基板、埋め込み多孔質領域を有する基板、不完全な接合となるように制御された接合エネルギーを有する接合界面によって互いにボンディングされた二層を有する基板、或いは基板特性よりも脆弱な領域を有するその他の基板などが使用される。
【0005】
このような公知技術を添付の図1〜3を参照して以下に説明する。
【0006】
ソース基板1は、該基板の移載すべき材料層11と残余部分12との境界面をなす優先的分離帯13を形成するように上述の技法の一つによって脆弱化処理されている。このソース基板は支持基板2に密着され(図1参照)た後、ソース基板1の移載すべき材料層11が例えば機械的応力によって分離帯13に沿って残余部分12から分離される。
【0007】
上記機械的応力は、一般的には引張応力、及び/又は曲げ応力、及び/又は剪断応力である。
【0008】
これらの応力は、例えば牽引具、ギロチン等の刃物、又は分離帯13において積層の側面に導入された複数の刃物、或いは分離帯に側部から当てた流体ジェット等により印加可能である。
【0009】
係る機械的応力の印加により分離帯13における割れの拡大が助長される。
【0010】
二枚の基板1及び2を互いに分子結合、即ち接着剤や接着フィルムを用いることなく貼り合わせる場合、移載すべき材料層11の移載は、ソース基板1に対する材料層11の機械的保持力を支持基板2に対する該層11の機械的保持力よりも低くすることにより可能である。
【0011】
しかしながら、接着剤を用いる場合には、接着剤の正確な付着量の制御が困難であるので、上述のような条件はもはや満たされることはない。例えば、図2に示すように接着剤3は基板1及び2の側面10及び20(又は両側面)からはみ出して突出部30(バリ)を形成することが極めて普通であり、それによりソース基板1の側面10に達している分離帯13の周縁部が接着剤で完全に或いは部分的に覆われてしまう。
【0012】
また、この接着剤は一様に硬化されるので、この硬化によって上記接着剤の突出バリ部30も固くなる。
【0013】
従って、移載すべき材料層11を機械適応力の印加によって分離することは極めて困難となる。
【0014】
また印加すべき機械的な力も極めて大きくせざるを得ず、その結果、少なくとも一方の基板、特に支持基板2が分離帯13の面内から外れて延びる破断線に沿って劈開し、その厚みが不規則且つ予測できないものとなる(図3参照)。尚、図3の支持基板2内には上記破断線が符号21で示されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の課題はこれらの諸欠点を解消することであり、特に層移載方法を改良して、ソース基板と支持基板との接合境界面に付着した過剰な接着剤が分離帯の分離作用開始端を覆ってしまうのを防止できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
この課題は、本発明によれば、光学、電子工学又は光電子工学分野で用いられる複合基板を製造するべくソース基板からその材料層を支持基板に接合して移載するに際し、ソース基板には移載すべき材料層と残余部分との間の境界をなす分離帯を設けておき、結合及び移載の工程に層状の接着剤を用いると同時にこの接着剤の周縁部領域を除去する層移載方法によって解決される。
【0017】
本発明による層移載方法は、以下の一連の工程、即ち、
a)移載すべき材料層の前面となる自由表面もしくは支持基板の前面もしくはこれら両方の前面上に層状の接着剤を被着させる工程と、
b)支持基板の前面が移載すべき材料層の前面に対面するようにソース基板と支持基板を貼り合わせる工程と、
c)移載すべき材料層の前面に対面して延在する層状の接着剤の接合領域のみをその機械的保持特性が増加するように反応させる工程と、
d)移載すべき材料層を前記分離帯に沿ってソース基板の残余部分から分離させる工程とを備えており、更に、
接合領域の周縁部に存在する層状の接着剤の周縁部領域を除去する工程も備え、この除去工程を、前記工程b)と工程c)の間、工程c)と工程d)の間、又は前記工程d)の後のいずれか1回以上の時点で実行し、複数回の時点で実行する場合には前記工程a)と工程b)の間の時点でも部分的に実行するものである。
【0018】
非限定的な単独又は組み合わせで適用される本発明の有利な特徴を列挙すれば以下の通りである。即ち、
・接着剤が露光を受けて光硬化可能な接着剤であり、支持基板とソース基板の少なくとも一方の基板が光放射に対して透光性のものであり、本質的に工程c)が層状の接着剤の接合領域を該接合領域からはみ出している周縁部領域を露光から保護するマスクを介して光線に曝すことにより、専ら接合領域をソース基板の後面又は支持基板の後面から硬化させることからなる。
・接着剤が熱硬化性接着剤であり、本質的に工程c)が局部加熱手段を用いた加熱とその後の冷却により接合領域の接着剤のみを熱硬化させることからなり、局部加熱手段が例えばレーザビームである。
・分離工程d)を機械的応力の印加により実行する。
・移載すべき材料層が少なくとも電子部品又は光電子部品の一部を含んでいる。
・分離帯が原子種の注入により形成された脆弱帯又は多孔質層により形成された脆弱帯である。
・分離帯が剥離可能な接合界面により形成されている。
・分離帯が化学的及び/又は機械的分離作用に対する障壁を構成する阻止層である。
・ソース基板の移載すべき材料層と残余の部分とが共にシリコンからなり、剥離可能な接合界面がシリコン酸化物層の内部又は表面にある。
【0019】
本発明の種々の特徴と利点を明らかにするため、添付図面を参照して本発明の好適な実施形態を説明すれば以下の通りである。
【0020】
尚、添付図面の各図においては、種々の層とその厚さは実際の寸法に対応して示されているわけではなく、幾つかの部分は明確化の目的で故意に拡大されている。
【0021】
また、以下の説明において述べている種々の基板は円板又は円柱形状のものと想定しており、これは最も頻繁に遭遇する形状だからであるが、この形状は限定を意図するものではなく、これらの基板は別の形状であってもよい。
【0022】
本発明は、光学、電子工学又は光電子工学分野で用いられる複合基板の製造工程においてソース基板4から分離される材料層41を支持基板5上に移載する方法のカテゴリーに属するものである(図4参照)。ここで「複合基板」という語は、複数の層を有する基板を意味する。
【0023】
以下の説明及び請求の範囲において、「ソース基板」(4)及び「支持基板」(5)という語は、いずれも或る与えられた材料の単一層基板及び異種材料層の積層基板の双方を包含するものとして解釈されるべきである。
【0024】
ソース基板4は、円柱外周面45と、「前面」となる面43と、その反対側の「後面」となる面44とを有している。
【0025】
また、このソース基板4は分離帯となる内部面状帯域40を有しており、この分離帯は移載すべき材料層41を該基板の残余部分42から画定している。
【0026】
移載すべき材料層41は前面側に位置している。この材料層は、例えばマイクロ電子機械システム(MEMS)やマイクロ光電子機械システム(MOEMS)等の電子部品又は光電子部品の全て又は一部を含んでいてもよい。
【0027】
ここで「分離帯」という語は、一般的な意味でその両側に存在する二層が特に応力の作用のもとに係る帯に沿って比較的容易に連続的な相互分離を起こすソース基板4内の面状帯域を意味している。
【0028】
分離帯40は、原子種の注入で得られる脆弱帯又は多孔質層で構成された脆弱帯401のいずれでもよく、或いは剥離可能な接合界面402であってもよいし、後述するように化学的又は機械的分離作用に対する阻止層であってもよく、更には実際にシリコン・オン・インシュレータ(SOI)形基板のシリコン酸化物層であってもよい。
【0029】
脆弱帯401がソース危難4内への原子種の注入で形成されている場合、基板の材料層41と残余部分42は同一材料又は異種材料で構成される。材料層41は、例えばエピタキシャル成長で得られる一層以上の層、又は同様にエピタキシャル成長で得られる緩衝層で構成可能である。
【0030】
原子種の注入は、好ましくは移載すべき材料層41の前面43側から行い、これはまたソース基板4の前面側でもある。
【0031】
ここで「原子種の注入」という語は、照射面43から或る定められた注入深さで材料層中に導入可能な原子、分子、或いはイオン核種をその濃度が注入深さ近傍で最大となるように照射する操作の全てを意味し、この注入深さは原子種の注入エネルギーによって決定される。
【0032】
原子種は、例えばイオンビーム注入装置又はプラズマ照射注入装置を用いてソース基板4内に注入可能である。
【0033】
好ましくは原子種の注入はイオン注入法で達成され、有利には注入イオン核種は水素でする。例えば希ガス(例:ヘリウム)などの他のイオン核種を単独又は水素と組み合わせて有利に使用することも可能である。
【0034】
一例として、商品名「スマート・カット(Smart Cut)」で知られている方法に関する文献を挙げることができる。
【0035】
脆弱帯401は、例えば株式会社キャノンによる商品名「ELTRAN」で知られている欧州特許出願公開第0849788号明細書に記載の方法の一工程中で得られるような多孔質層によって構成することも可能である。
【0036】
この場合、ソース基板4は、多孔質層401上にエピタキシャル成長させた少なくとも一つの材料層41を有する積層体で構成することができ、ここで上記多孔質層はソース基板の残余部分42上に設けられている。
【0037】
最後に、分離帯40が剥離可能な接合界面402で構成されている場合、この接合界面は移載すべき材料層41と一層以上からなる残余部分42との間に介在されている。
【0038】
ここで「剥離可能」とは、接合が完全ではなく、それ故に材料層41が残余部分42から連続的に剥離できることを意味する。この点に関して、例えば剥離方法を述べている仏国特許出願公開第2823599号明細書を参考に挙げることができる。
【0039】
ソース基板4について以上に述べたのと同様に、支持基板5も円柱外周面55と、前面53と、後面54とを有している。
【0040】
この支持基板5は、集積回路アッセンブリを機械的に一体に保持する機能を果たすものである。
【0041】
ソース基板4と支持基板5は本方法の後続の各工程で相互に当接されるが、その場合にこれら基板の各前面43と53が互いに対面するように配置される。
【0042】
図5に示すように、ソース基板4の前面43、即ち移載すべき材料層41の前面上には層状の接着剤6が被着されている。この接着剤6は、支持基板5の前面53上に被着されていてもよく、或いは双方の前面43及び53に被着されていてもよい。
【0043】
図6に示すように、二枚の基板4と5はそれぞれの前面43と53の間に接着剤6の層が介在するように相互に当接され、両基板4と5が互いに向けて押圧される(矢印F)。これにより接着剤6の過剰分60が両基板4及び5の外周面45及び55上に溢れ出してくる。
【0044】
図7に示すように、引き続く処理により、接着剤6の領域61、即ち移載すべき材料層41の前面43に対面して拡がる接合領域のみを反応させ、この接合領域における接着剤の機械的保持特性を増大させて、接着剤が機械的に更に高強度となるようにする。
【0045】
接着剤6は好ましくは硬化性接着剤であり、上記処理は硬化処理である。
【0046】
図4〜図9に示す実施形態において、接着剤6は光硬化性接着剤、即ち例えば紫外(UV)放射光などの光放射の作用で硬化して固まる接着剤である。
【0047】
一例として、UV硬化形接着剤としては、例えばエレコ・プロダクツ社(ELECO PRODUCTS)により商品名VITRALIT 6127Nで市販されている接着剤や所謂ネガティブ樹脂を挙げることができる。
【0048】
従って硬化処理は内径が移載すべき材料層41の直径にほぼ対応する環状マスク7を介して露光(矢印I)することにより行われる。マスクの内径は移載すべき材料層41の直径よりもやや小さくしてもよい。マスク7は、移載すべき材料層41の外周よりも外側にはみ出している接着剤6の周縁部領域62を露光から遮っている。
【0049】
マスク7は、支持基板5の後面54とほぼ同じ面内に配置されている。
【0050】
マスク7の環状部の断面幅Lは、二枚の基板の外周面45及び55上にはみ出している接着剤過剰分60の厚み(幅)よりも小さくてはならず、好ましくはそれよりも大きい寸法とする。
【0051】
マスク7の形状は当然のことながら移載すべき材料層41の外側輪郭形状に整合されている。
【0052】
露光は支持基板5の後面54側から行い、この支持基板は、接着剤の硬化に適した光放射、特に接着剤がUV硬化形のものである場合には紫外線放射に対して透光性である。
【0053】
この露光により、移載すべき材料層41の前面に対面して拡がる接着剤6の接合領域61のみが硬化されて固まる。
【0054】
尚、ソース基板4が接着剤6の硬化反応に適した光放射に対して透光性である場合は、このソース基板を介して露光を行ってもよく、この場合、マスク7はソース基板の後面44とほぼ同一面内に配置する。
【0055】
露光後はマスク7を取り外し、接着剤6の未硬化の環状周縁部領域62を除去する(図8の矢印F)が、これは、例えば払拭クロスを用いて基板4及び5の積層対の外周面45及び55を拭うか、未硬化接着剤を選択的に溶解する適切な溶剤を用いた化学的クリーニングにより行う。
【0056】
最後に、例えば機械的な応力を印加することによりソース基板4の移載すべき材料層41が残余部分42から分離される(図8の矢印D及び図9参照)。これが可能な理由は、ソース基板4の脆弱帯401と外周面45との境目に最早接着剤の残滓が存在していないからである。
【0057】
例として、機械適応力は牽引応力及び/又は曲げ応力及び/又は剪断応力であればよく、これらの応力は、例えば牽引具や、ソース基板4の外周面45から脆弱帯401へ差し込まれるギロチンなどの刃や、或いは脆弱帯401に横向きに当てられる流体(液体又は気体)のジェット流により印加することができる。
【0058】
例えば、気体(空気)ジェット流と液体(水)ジェット流による二つの層の分離法について記述した文献としては、それぞれ仏国特許出願公開第2796491号明細書及び欧州特許第0849788号明細書を挙げることができる。
【0059】
分離工程は、それぞれ単独、もしくは互いに組み合わせて、或いは機械適応力の印加による分離と組み合わせて利用可能な以下の手法、即ち、電気的な応力の印加(静電場又は電磁場の印加)、又は熱エネルギーの印加(放射、対流、伝導、微小空洞内の圧力上昇)などによって実行してもよい。
【0060】
また、未硬化接着剤からなる周縁部領域62の除去工程は、両基板4と5が互いに貼り合わされた後で且つマスク7を介して接着剤に露光を行う前、或いはこれとは異なって図9の分離工程の後に、単一工程又は複数工程として同様に良好に実行することができる点に注意すべきである。
【0061】
この除去工程を分離工程の後に行う場合、分離工程自体は、たとえ接着剤が脆弱帯401と外周面45に亘って残っていても周縁部領域62の接着剤は未硬化のままであるので例えばギロチン刃の当接の妨げとはならず、未硬化接着剤が何らかの機械的保持機能を発揮することはないから不都合なく可能である。
【0062】
尚、接着剤6の一部、例えば基板外周面にはみ出した接着剤部分を両基板4と5の貼り合わの前に除去することも可能である点に留意すべきである。
【0063】
ソース基板4の全体又は一部を構成する材料は、光学、電子工学、及び光電子工学分野での利用に適したあらゆる材料、特に半導体材料でよい。
【0064】
単なる実例として挙げれば、シリコン、シリコン・ゲルマニウム、ゲルマニウム、炭化珪素(SiC)、そしてIII-V材料、即ち一方が元素周期律表のIIIa属元素で他方がVa属元素からなる化合物、例えばガリウムヒ素(AsGa)又はリン化インジウム(InP)などの半導体材料がある。
【0065】
ソース基板を通して露光を行う場合、使用する光に対してソース基板が透光性でなければならない。例えば紫外光を用いて露光する場合、ソース基板は、ガラス、溶融石英、石英、或いはプラスチック材料で構成することができる。
【0066】
支持基板5は機械的支持を与えるものである。支持基板を通して露光する場合、支持基板は露光光に対して透光性の材料で製作される。
【0067】
図10〜図15は、図4〜図9を参照して上述した方法の変形実施形態における各工程を示しており、この場合の支持基板4は剥離可能なSOI基板として示されている。この基板において、その移載すべき材料層41と残余部分42はシリコンからなり、分離帯40は、片面又は全体が剥離可能な接合界面として機能する酸化シリコンの層402で構成されている。
【0068】
図10〜図15では、図4〜図9を参照して上述した方法と同様の工程順でその変形実施形態を示している。
【0069】
両実施形態で対応する要素には同一の符号が付されている。両者間の相違点を説明すれば以下の通りである。
【0070】
図10〜図15に示す実施形態においては、残余部分42の表面上に材料層41を接合する際に両者間の接合強度が周縁部で不充分なものとなっており、従ってほぼ環状の周縁リング領域46が残余部分42の表面上に形成されているものと想定している。従って材料層41の外径は残余部分42の外径よりも小さい。また、分離帯40は符号402で示す剥離可能な接合界面である。
【0071】
層状の接着剤6の被着工程又はSOI基板4に対する支持基板5の貼り合わせ工程の最中に、接着剤の過剰分60は基板4と5の外周面45及び55へ向かって流れるだけでなく、周縁リング領域46の上にも流れ込む(図12)。
【0072】
図13に示す露光工程の間は、周縁リング領域46を占めている接着剤(周縁部領域62)が露光されるのを回避する必要があるので、環状マスク7の内径は材料層41の直径以下であることを守らなければならない。
【0073】
露光の後、未硬化状態の接着剤の領域62を除去(図14の矢印Eを参照)すると、硬化した接着剤の接合領域61が単独で材料層41の前面43と支持基板5との間に延在していることが観察でき、それにより後続の操作による酸化物層402での分離の様子を如実に確認することが可能となる(図14の矢印D、及び図15を参照)。
【0074】
尚、図4〜9を参照して述べた上述の方法において、未硬化の接着剤の領域62は露光の前に除去しても良く、或いは図15に示した分離工程の後に除去してもよい。
【0075】
一つの変形実施形態においては、ソース基板の残余部分42はラップ研磨及び/又は化学研磨処理されて回収される。その場合、酸化物層402がラップ研磨の停止層及び/又は化学研磨又は化学機械研磨処理のための選択障壁として作用する。例えばテトラメチルヒドロキシルアミン(TMAH)を使用すれば、シリコン酸化物層402を残してシリコン層42を選択的にエッチングすることができる。
【0076】
一般的に言えば、本発明の方法は、分離可能な接合界面又は化学及び/又は機械研磨に対する停止障壁として作用する表面又は体積部分を有する中間層を提供するソース基板4に適用することができる。
【0077】
本発明の第2実施形態では、接着剤6は熱硬化性接着剤、例えばある種のワックス又はエポキシ接着剤である。
【0078】
この場合、図4〜図6を参照して述べた各工程は同じであるが、その後の工程は図16〜図19に示すように異なっている。
【0079】
例えば、余剰接着剤の領域62は初期段階で拭い去っておく(図16)。勿論、この工程は後工程で行ってもよい。
【0080】
次いで、移載すべき材料層41の前面43に面する部分の層状の接着剤6の接合領域61を局部的に加熱してから冷却する(室温へ戻す)ことにより、その部分の接着剤6を硬化させる。
【0081】
この局部加熱は、例えば支持基板5の後面54側又はソース基板4の後面44側からレーザービーム8を用いて走査する(図17及び図18参照)ことにより実行することができ、その場合の加熱部分の温度(約200〜300℃)は脆弱帯401の領域に何ら影響を与えない程度の温度とする。
【0082】
また上記局部加熱は、上述の積層体の両側部の温度が領域62の余剰接着剤の硬化温度まで上昇しないように積層体両側部を冷却しながら積層体全体を加熱することによって行ってもよい。
【0083】
これらの加熱はランプヒーターを用いて実行してもよい。分離工程(図18参照)は、先行実施形態による方法で述べたのと同様に行われる。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】従来の層移載方法の第1工程を示す模式図である。
【図2】同じく従来の層移載方法の第2工程を示す模式図である。
【図3】同じく従来の層移載方法の第3工程を示す模式図である。
【0085】
【図4】本発明の第1実施形態による層移載方法の第1工程を示す模式図である。
【図5】同じく第1実施形態による層移載方法の第2工程を示す模式図である。
【図6】同じく第1実施形態による層移載方法の第3工程を示す模式図である。
【図7】同じく第1実施形態による層移載方法の第4工程を示す模式図である。
【図8】同じく第1実施形態による層移載方法の第5工程を示す模式図である。
【図9】同じく第1実施形態による層移載方法の第6工程を示す模式図である。
【0086】
【図10】第1実施形態の変形例による第1工程を示す模式図である。
【図11】同じく上記変形例による第2工程を示す模式図である。
【図12】同じく上記変形例による第3工程を示す模式図である。
【図13】同じく上記変形例による第4工程を示す模式図である。
【図14】同じく上記変形例による第5工程を示す模式図である。
【図15】同じく上記変形例による第6工程を示す模式図である。
【0087】
【図16】本発明の第2実施形態による層移載方法の第4工程を示す模式図である。
【図17】同じく第2実施形態による層移載方法の第5工程を示す模式図である。
【図18】同じく第2実施形態による層移載方法の第6工程を示す模式図である。
【図19】同じく第2実施形態による層移載方法の第7工程を示す模式図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学、電子工学又は光電子工学分野で用いられる複合基板を製造するためにソース基板からその材料層を支持基板上に接合して移載する際に層状の接着剤を用いると同時にこの接着剤の周縁部分を除去する層移載方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
材料層、特に付加的に処理された半導体材料の層を、第1基板、即ちソース基板から、第2基板、即ち支持基板へ移載することについては既に新規な技法が開発されている。
【0003】
ここで、処理された層なる語は、電子部品を形成するための技術的方法の幾つか又は全ての工程を経た材料層を指す。
【0004】
このような層移載技術では、例えばソース基板として、原子種の注入により脆弱化された基板、埋め込み多孔質領域を有する基板、不完全な接合となるように制御された接合エネルギーを有する接合界面によって互いにボンディングされた二層を有する基板、或いは基板特性よりも脆弱な領域を有するその他の基板などが使用される。
【0005】
このような公知技術を添付の図1〜3を参照して以下に説明する。
【0006】
ソース基板1は、該基板の移載すべき材料層11と残余部分12との境界面をなす優先的分離帯13を形成するように上述の技法の一つによって脆弱化処理されている。このソース基板は支持基板2に密着され(図1参照)た後、ソース基板1の移載すべき材料層11が例えば機械的応力によって分離帯13に沿って残余部分12から分離される。
【0007】
上記機械的応力は、一般的には引張応力、及び/又は曲げ応力、及び/又は剪断応力である。
【0008】
これらの応力は、例えば牽引具、ギロチン等の刃物、又は分離帯13において積層の側面に導入された複数の刃物、或いは分離帯に側部から当てた流体ジェット等により印加可能である。
【0009】
係る機械的応力の印加により分離帯13における割れの拡大が助長される。
【0010】
二枚の基板1及び2を互いに分子結合、即ち接着剤や接着フィルムを用いることなく貼り合わせる場合、移載すべき材料層11の移載は、ソース基板1に対する材料層11の機械的保持力を支持基板2に対する該層11の機械的保持力よりも低くすることにより可能である。
【0011】
しかしながら、接着剤を用いる場合には、接着剤の正確な付着量の制御が困難であるので、上述のような条件はもはや満たされることはない。例えば、図2に示すように接着剤3は基板1及び2の側面10及び20(又は両側面)からはみ出して突出部30(バリ)を形成することが極めて普通であり、それによりソース基板1の側面10に達している分離帯13の周縁部が接着剤で完全に或いは部分的に覆われてしまう。
【0012】
また、この接着剤は一様に硬化されるので、この硬化によって上記接着剤の突出バリ部30も固くなる。
【0013】
従って、移載すべき材料層11を機械適応力の印加によって分離することは極めて困難となる。
【0014】
また印加すべき機械的な力も極めて大きくせざるを得ず、その結果、少なくとも一方の基板、特に支持基板2が分離帯13の面内から外れて延びる破断線に沿って劈開し、その厚みが不規則且つ予測できないものとなる(図3参照)。尚、図3の支持基板2内には上記破断線が符号21で示されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の課題はこれらの諸欠点を解消することであり、特に層移載方法を改良して、ソース基板と支持基板との接合境界面に付着した過剰な接着剤が分離帯の分離作用開始端を覆ってしまうのを防止できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
この課題は、本発明によれば、光学、電子工学又は光電子工学分野で用いられる複合基板を製造するべくソース基板からその材料層を支持基板に接合して移載するに際し、ソース基板には移載すべき材料層と残余部分との間の境界をなす分離帯を設けておき、結合及び移載の工程に層状の接着剤を用いると同時にこの接着剤の周縁部領域を除去する層移載方法によって解決される。
【0017】
本発明による層移載方法は、以下の一連の工程、即ち、
a)移載すべき材料層の前面となる自由表面もしくは支持基板の前面もしくはこれら両方の前面上に層状の接着剤を被着させる工程と、
b)支持基板の前面が移載すべき材料層の前面に対面するようにソース基板と支持基板を貼り合わせる工程と、
c)移載すべき材料層の前面に対面して延在する層状の接着剤の接合領域のみをその機械的保持特性が増加するように反応させる工程と、
d)移載すべき材料層を前記分離帯に沿ってソース基板の残余部分から分離させる工程とを備えており、更に、
接合領域の周縁部に存在する層状の接着剤の周縁部領域を除去する工程も備え、この除去工程を、前記工程b)と工程c)の間、工程c)と工程d)の間、又は前記工程d)の後のいずれか1回以上の時点で実行し、複数回の時点で実行する場合には前記工程a)と工程b)の間の時点でも部分的に実行するものである。
【0018】
非限定的な単独又は組み合わせで適用される本発明の有利な特徴を列挙すれば以下の通りである。即ち、
・接着剤が露光を受けて光硬化可能な接着剤であり、支持基板とソース基板の少なくとも一方の基板が光放射に対して透光性のものであり、本質的に工程c)が層状の接着剤の接合領域を該接合領域からはみ出している周縁部領域を露光から保護するマスクを介して光線に曝すことにより、専ら接合領域をソース基板の後面又は支持基板の後面から硬化させることからなる。
・接着剤が熱硬化性接着剤であり、本質的に工程c)が局部加熱手段を用いた加熱とその後の冷却により接合領域の接着剤のみを熱硬化させることからなり、局部加熱手段が例えばレーザビームである。
・分離工程d)を機械的応力の印加により実行する。
・移載すべき材料層が少なくとも電子部品又は光電子部品の一部を含んでいる。
・分離帯が原子種の注入により形成された脆弱帯又は多孔質層により形成された脆弱帯である。
・分離帯が剥離可能な接合界面により形成されている。
・分離帯が化学的及び/又は機械的分離作用に対する障壁を構成する阻止層である。
・ソース基板の移載すべき材料層と残余の部分とが共にシリコンからなり、剥離可能な接合界面がシリコン酸化物層の内部又は表面にある。
【0019】
本発明の種々の特徴と利点を明らかにするため、添付図面を参照して本発明の好適な実施形態を説明すれば以下の通りである。
【0020】
尚、添付図面の各図においては、種々の層とその厚さは実際の寸法に対応して示されているわけではなく、幾つかの部分は明確化の目的で故意に拡大されている。
【0021】
また、以下の説明において述べている種々の基板は円板又は円柱形状のものと想定しており、これは最も頻繁に遭遇する形状だからであるが、この形状は限定を意図するものではなく、これらの基板は別の形状であってもよい。
【0022】
本発明は、光学、電子工学又は光電子工学分野で用いられる複合基板の製造工程においてソース基板4から分離される材料層41を支持基板5上に移載する方法のカテゴリーに属するものである(図4参照)。ここで「複合基板」という語は、複数の層を有する基板を意味する。
【0023】
以下の説明及び請求の範囲において、「ソース基板」(4)及び「支持基板」(5)という語は、いずれも或る与えられた材料の単一層基板及び異種材料層の積層基板の双方を包含するものとして解釈されるべきである。
【0024】
ソース基板4は、円柱外周面45と、「前面」となる面43と、その反対側の「後面」となる面44とを有している。
【0025】
また、このソース基板4は分離帯となる内部面状帯域40を有しており、この分離帯は移載すべき材料層41を該基板の残余部分42から画定している。
【0026】
移載すべき材料層41は前面側に位置している。この材料層は、例えばマイクロ電子機械システム(MEMS)やマイクロ光電子機械システム(MOEMS)等の電子部品又は光電子部品の全て又は一部を含んでいてもよい。
【0027】
ここで「分離帯」という語は、一般的な意味でその両側に存在する二層が特に応力の作用のもとに係る帯に沿って比較的容易に連続的な相互分離を起こすソース基板4内の面状帯域を意味している。
【0028】
分離帯40は、原子種の注入で得られる脆弱帯又は多孔質層で構成された脆弱帯401のいずれでもよく、或いは剥離可能な接合界面402であってもよいし、後述するように化学的又は機械的分離作用に対する阻止層であってもよく、更には実際にシリコン・オン・インシュレータ(SOI)形基板のシリコン酸化物層であってもよい。
【0029】
脆弱帯401がソース危難4内への原子種の注入で形成されている場合、基板の材料層41と残余部分42は同一材料又は異種材料で構成される。材料層41は、例えばエピタキシャル成長で得られる一層以上の層、又は同様にエピタキシャル成長で得られる緩衝層で構成可能である。
【0030】
原子種の注入は、好ましくは移載すべき材料層41の前面43側から行い、これはまたソース基板4の前面側でもある。
【0031】
ここで「原子種の注入」という語は、照射面43から或る定められた注入深さで材料層中に導入可能な原子、分子、或いはイオン核種をその濃度が注入深さ近傍で最大となるように照射する操作の全てを意味し、この注入深さは原子種の注入エネルギーによって決定される。
【0032】
原子種は、例えばイオンビーム注入装置又はプラズマ照射注入装置を用いてソース基板4内に注入可能である。
【0033】
好ましくは原子種の注入はイオン注入法で達成され、有利には注入イオン核種は水素でする。例えば希ガス(例:ヘリウム)などの他のイオン核種を単独又は水素と組み合わせて有利に使用することも可能である。
【0034】
一例として、商品名「スマート・カット(Smart Cut)」で知られている方法に関する文献を挙げることができる。
【0035】
脆弱帯401は、例えば株式会社キャノンによる商品名「ELTRAN」で知られている欧州特許出願公開第0849788号明細書に記載の方法の一工程中で得られるような多孔質層によって構成することも可能である。
【0036】
この場合、ソース基板4は、多孔質層401上にエピタキシャル成長させた少なくとも一つの材料層41を有する積層体で構成することができ、ここで上記多孔質層はソース基板の残余部分42上に設けられている。
【0037】
最後に、分離帯40が剥離可能な接合界面402で構成されている場合、この接合界面は移載すべき材料層41と一層以上からなる残余部分42との間に介在されている。
【0038】
ここで「剥離可能」とは、接合が完全ではなく、それ故に材料層41が残余部分42から連続的に剥離できることを意味する。この点に関して、例えば剥離方法を述べている仏国特許出願公開第2823599号明細書を参考に挙げることができる。
【0039】
ソース基板4について以上に述べたのと同様に、支持基板5も円柱外周面55と、前面53と、後面54とを有している。
【0040】
この支持基板5は、集積回路アッセンブリを機械的に一体に保持する機能を果たすものである。
【0041】
ソース基板4と支持基板5は本方法の後続の各工程で相互に当接されるが、その場合にこれら基板の各前面43と53が互いに対面するように配置される。
【0042】
図5に示すように、ソース基板4の前面43、即ち移載すべき材料層41の前面上には層状の接着剤6が被着されている。この接着剤6は、支持基板5の前面53上に被着されていてもよく、或いは双方の前面43及び53に被着されていてもよい。
【0043】
図6に示すように、二枚の基板4と5はそれぞれの前面43と53の間に接着剤6の層が介在するように相互に当接され、両基板4と5が互いに向けて押圧される(矢印F)。これにより接着剤6の過剰分60が両基板4及び5の外周面45及び55上に溢れ出してくる。
【0044】
図7に示すように、引き続く処理により、接着剤6の領域61、即ち移載すべき材料層41の前面43に対面して拡がる接合領域のみを反応させ、この接合領域における接着剤の機械的保持特性を増大させて、接着剤が機械的に更に高強度となるようにする。
【0045】
接着剤6は好ましくは硬化性接着剤であり、上記処理は硬化処理である。
【0046】
図4〜図9に示す実施形態において、接着剤6は光硬化性接着剤、即ち例えば紫外(UV)放射光などの光放射の作用で硬化して固まる接着剤である。
【0047】
一例として、UV硬化形接着剤としては、例えばエレコ・プロダクツ社(ELECO PRODUCTS)により商品名VITRALIT 6127Nで市販されている接着剤や所謂ネガティブ樹脂を挙げることができる。
【0048】
従って硬化処理は内径が移載すべき材料層41の直径にほぼ対応する環状マスク7を介して露光(矢印I)することにより行われる。マスクの内径は移載すべき材料層41の直径よりもやや小さくしてもよい。マスク7は、移載すべき材料層41の外周よりも外側にはみ出している接着剤6の周縁部領域62を露光から遮っている。
【0049】
マスク7は、支持基板5の後面54とほぼ同じ面内に配置されている。
【0050】
マスク7の環状部の断面幅Lは、二枚の基板の外周面45及び55上にはみ出している接着剤過剰分60の厚み(幅)よりも小さくてはならず、好ましくはそれよりも大きい寸法とする。
【0051】
マスク7の形状は当然のことながら移載すべき材料層41の外側輪郭形状に整合されている。
【0052】
露光は支持基板5の後面54側から行い、この支持基板は、接着剤の硬化に適した光放射、特に接着剤がUV硬化形のものである場合には紫外線放射に対して透光性である。
【0053】
この露光により、移載すべき材料層41の前面に対面して拡がる接着剤6の接合領域61のみが硬化されて固まる。
【0054】
尚、ソース基板4が接着剤6の硬化反応に適した光放射に対して透光性である場合は、このソース基板を介して露光を行ってもよく、この場合、マスク7はソース基板の後面44とほぼ同一面内に配置する。
【0055】
露光後はマスク7を取り外し、接着剤6の未硬化の環状周縁部領域62を除去する(図8の矢印F)が、これは、例えば払拭クロスを用いて基板4及び5の積層対の外周面45及び55を拭うか、未硬化接着剤を選択的に溶解する適切な溶剤を用いた化学的クリーニングにより行う。
【0056】
最後に、例えば機械的な応力を印加することによりソース基板4の移載すべき材料層41が残余部分42から分離される(図8の矢印D及び図9参照)。これが可能な理由は、ソース基板4の脆弱帯401と外周面45との境目に最早接着剤の残滓が存在していないからである。
【0057】
例として、機械適応力は牽引応力及び/又は曲げ応力及び/又は剪断応力であればよく、これらの応力は、例えば牽引具や、ソース基板4の外周面45から脆弱帯401へ差し込まれるギロチンなどの刃や、或いは脆弱帯401に横向きに当てられる流体(液体又は気体)のジェット流により印加することができる。
【0058】
例えば、気体(空気)ジェット流と液体(水)ジェット流による二つの層の分離法について記述した文献としては、それぞれ仏国特許出願公開第2796491号明細書及び欧州特許第0849788号明細書を挙げることができる。
【0059】
分離工程は、それぞれ単独、もしくは互いに組み合わせて、或いは機械適応力の印加による分離と組み合わせて利用可能な以下の手法、即ち、電気的な応力の印加(静電場又は電磁場の印加)、又は熱エネルギーの印加(放射、対流、伝導、微小空洞内の圧力上昇)などによって実行してもよい。
【0060】
また、未硬化接着剤からなる周縁部領域62の除去工程は、両基板4と5が互いに貼り合わされた後で且つマスク7を介して接着剤に露光を行う前、或いはこれとは異なって図9の分離工程の後に、単一工程又は複数工程として同様に良好に実行することができる点に注意すべきである。
【0061】
この除去工程を分離工程の後に行う場合、分離工程自体は、たとえ接着剤が脆弱帯401と外周面45に亘って残っていても周縁部領域62の接着剤は未硬化のままであるので例えばギロチン刃の当接の妨げとはならず、未硬化接着剤が何らかの機械的保持機能を発揮することはないから不都合なく可能である。
【0062】
尚、接着剤6の一部、例えば基板外周面にはみ出した接着剤部分を両基板4と5の貼り合わの前に除去することも可能である点に留意すべきである。
【0063】
ソース基板4の全体又は一部を構成する材料は、光学、電子工学、及び光電子工学分野での利用に適したあらゆる材料、特に半導体材料でよい。
【0064】
単なる実例として挙げれば、シリコン、シリコン・ゲルマニウム、ゲルマニウム、炭化珪素(SiC)、そしてIII-V材料、即ち一方が元素周期律表のIIIa属元素で他方がVa属元素からなる化合物、例えばガリウムヒ素(AsGa)又はリン化インジウム(InP)などの半導体材料がある。
【0065】
ソース基板を通して露光を行う場合、使用する光に対してソース基板が透光性でなければならない。例えば紫外光を用いて露光する場合、ソース基板は、ガラス、溶融石英、石英、或いはプラスチック材料で構成することができる。
【0066】
支持基板5は機械的支持を与えるものである。支持基板を通して露光する場合、支持基板は露光光に対して透光性の材料で製作される。
【0067】
図10〜図15は、図4〜図9を参照して上述した方法の変形実施形態における各工程を示しており、この場合の支持基板4は剥離可能なSOI基板として示されている。この基板において、その移載すべき材料層41と残余部分42はシリコンからなり、分離帯40は、片面又は全体が剥離可能な接合界面として機能する酸化シリコンの層402で構成されている。
【0068】
図10〜図15では、図4〜図9を参照して上述した方法と同様の工程順でその変形実施形態を示している。
【0069】
両実施形態で対応する要素には同一の符号が付されている。両者間の相違点を説明すれば以下の通りである。
【0070】
図10〜図15に示す実施形態においては、残余部分42の表面上に材料層41を接合する際に両者間の接合強度が周縁部で不充分なものとなっており、従ってほぼ環状の周縁リング領域46が残余部分42の表面上に形成されているものと想定している。従って材料層41の外径は残余部分42の外径よりも小さい。また、分離帯40は符号402で示す剥離可能な接合界面である。
【0071】
層状の接着剤6の被着工程又はSOI基板4に対する支持基板5の貼り合わせ工程の最中に、接着剤の過剰分60は基板4と5の外周面45及び55へ向かって流れるだけでなく、周縁リング領域46の上にも流れ込む(図12)。
【0072】
図13に示す露光工程の間は、周縁リング領域46を占めている接着剤(周縁部領域62)が露光されるのを回避する必要があるので、環状マスク7の内径は材料層41の直径以下であることを守らなければならない。
【0073】
露光の後、未硬化状態の接着剤の領域62を除去(図14の矢印Eを参照)すると、硬化した接着剤の接合領域61が単独で材料層41の前面43と支持基板5との間に延在していることが観察でき、それにより後続の操作による酸化物層402での分離の様子を如実に確認することが可能となる(図14の矢印D、及び図15を参照)。
【0074】
尚、図4〜9を参照して述べた上述の方法において、未硬化の接着剤の領域62は露光の前に除去しても良く、或いは図15に示した分離工程の後に除去してもよい。
【0075】
一つの変形実施形態においては、ソース基板の残余部分42はラップ研磨及び/又は化学研磨処理されて回収される。その場合、酸化物層402がラップ研磨の停止層及び/又は化学研磨又は化学機械研磨処理のための選択障壁として作用する。例えばテトラメチルヒドロキシルアミン(TMAH)を使用すれば、シリコン酸化物層402を残してシリコン層42を選択的にエッチングすることができる。
【0076】
一般的に言えば、本発明の方法は、分離可能な接合界面又は化学及び/又は機械研磨に対する停止障壁として作用する表面又は体積部分を有する中間層を提供するソース基板4に適用することができる。
【0077】
本発明の第2実施形態では、接着剤6は熱硬化性接着剤、例えばある種のワックス又はエポキシ接着剤である。
【0078】
この場合、図4〜図6を参照して述べた各工程は同じであるが、その後の工程は図16〜図19に示すように異なっている。
【0079】
例えば、余剰接着剤の領域62は初期段階で拭い去っておく(図16)。勿論、この工程は後工程で行ってもよい。
【0080】
次いで、移載すべき材料層41の前面43に面する部分の層状の接着剤6の接合領域61を局部的に加熱してから冷却する(室温へ戻す)ことにより、その部分の接着剤6を硬化させる。
【0081】
この局部加熱は、例えば支持基板5の後面54側又はソース基板4の後面44側からレーザービーム8を用いて走査する(図17及び図18参照)ことにより実行することができ、その場合の加熱部分の温度(約200〜300℃)は脆弱帯401の領域に何ら影響を与えない程度の温度とする。
【0082】
また上記局部加熱は、上述の積層体の両側部の温度が領域62の余剰接着剤の硬化温度まで上昇しないように積層体両側部を冷却しながら積層体全体を加熱することによって行ってもよい。
【0083】
これらの加熱はランプヒーターを用いて実行してもよい。分離工程(図18参照)は、先行実施形態による方法で述べたのと同様に行われる。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】従来の層移載方法の第1工程を示す模式図である。
【図2】同じく従来の層移載方法の第2工程を示す模式図である。
【図3】同じく従来の層移載方法の第3工程を示す模式図である。
【0085】
【図4】本発明の第1実施形態による層移載方法の第1工程を示す模式図である。
【図5】同じく第1実施形態による層移載方法の第2工程を示す模式図である。
【図6】同じく第1実施形態による層移載方法の第3工程を示す模式図である。
【図7】同じく第1実施形態による層移載方法の第4工程を示す模式図である。
【図8】同じく第1実施形態による層移載方法の第5工程を示す模式図である。
【図9】同じく第1実施形態による層移載方法の第6工程を示す模式図である。
【0086】
【図10】第1実施形態の変形例による第1工程を示す模式図である。
【図11】同じく上記変形例による第2工程を示す模式図である。
【図12】同じく上記変形例による第3工程を示す模式図である。
【図13】同じく上記変形例による第4工程を示す模式図である。
【図14】同じく上記変形例による第5工程を示す模式図である。
【図15】同じく上記変形例による第6工程を示す模式図である。
【0087】
【図16】本発明の第2実施形態による層移載方法の第4工程を示す模式図である。
【図17】同じく第2実施形態による層移載方法の第5工程を示す模式図である。
【図18】同じく第2実施形態による層移載方法の第6工程を示す模式図である。
【図19】同じく第2実施形態による層移載方法の第7工程を示す模式図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学、電子工学又は光電子工学分野で用いられる複合基板を製造するためにソース基板(4)からその材料層(41)を支持基板(5)に接合して移載するに際し、ソース基板(4)には移載すべき材料層(41)と残余部分(42)との間の境界をなす分離帯(40、401、402)を設けておき、接合及び移載の工程に層状の接着剤(6)を用いると同時にこの接着剤の周縁部領域(62)を除去する層移載方法であって、
以下の一連の工程、即ち、
a)移載すべき材料層(41)の前面となる自由表面(43)もしくは支持基板(5)の前面(53)もしくはこれら両方の前面(43、53)上に層状の接着剤(6)を被着する工程と、
b)支持基板(5)の前面(53)が移載すべき材料層(41)の前面(43)に対面するようにソース基板(4)と支持基板(5)を貼り合わせる工程と、
c)移載すべき材料層(41)の前面(43)に対面して延在する層状の接着剤(6)の接合領域(61)のみをその機械的保持特性が増加するように反応させる工程と、
d)移載すべき材料層(41)を前記分離帯(40、401、402)に沿ってソース基板の残余部分(42)から分離させる工程とを備え、更に、
接合領域(61)の周縁部に存在する層状の接着剤(6)の周縁部領域(62)を除去する工程を備え、この除去工程を、前記工程b)と工程c)の間、工程c)と工程d)の間、又は前記工程d)の後のいずれか1回以上の時点で実行し、複数回の時点で実行する場合には前記工程a)と工程b)の間の時点でも部分的に実行することを特徴とする層移載方法。
【請求項2】
接着剤(6)が露光を受けて光硬化可能な接着剤であり、支持基板(5)とソース基板(4)の少なくとも一方の基板が光放射に対して透光性であり、本質的に工程c)が、層状の接着剤(6)の接合領域(61)を、該接合領域からはみ出している周縁部領域(62)を露光から保護するマスク(7)を介して光線に曝すことにより、専ら接合領域(61)をソース基板(4)の後面又は支持基板(5)の後面から硬化させることからなることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
接着剤(6)が熱硬化性接着剤であり、本質的に工程c)が局部加熱手段(8)を用いた加熱とその後の冷却により接合領域(61)の接着剤のみを熱硬化させることからなることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
局部加熱手段(8)がレーザビームであることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
分離工程d)を機械的応力の印加により実行することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
移載すべき材料層(41)が少なくとも電子部品又は光電子部品の一部を含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
分離帯が原子種の注入により形成された脆弱帯(401)であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
分離帯が多孔質層により形成された脆弱帯(401)であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
分離帯が剥離可能な接合界面(402)により形成されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
分離帯が化学的及び/又は機械的分離作用に対する障壁を構成する阻止層であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
ソース基板の移載すべき材料層(41)と残余の部分(42)とが共にシリコンからなり、剥離可能な接合界面(402)がシリコン酸化物層の内部又は表面にあることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項1】
光学、電子工学又は光電子工学分野で用いられる複合基板を製造するためにソース基板(4)からその材料層(41)を支持基板(5)に接合して移載するに際し、ソース基板(4)には移載すべき材料層(41)と残余部分(42)との間の境界をなす分離帯(40、401、402)を設けておき、接合及び移載の工程に層状の接着剤(6)を用いると同時にこの接着剤の周縁部領域(62)を除去する層移載方法であって、
以下の一連の工程、即ち、
a)移載すべき材料層(41)の前面となる自由表面(43)もしくは支持基板(5)の前面(53)もしくはこれら両方の前面(43、53)上に層状の接着剤(6)を被着する工程と、
b)支持基板(5)の前面(53)が移載すべき材料層(41)の前面(43)に対面するようにソース基板(4)と支持基板(5)を貼り合わせる工程と、
c)移載すべき材料層(41)の前面(43)に対面して延在する層状の接着剤(6)の接合領域(61)のみをその機械的保持特性が増加するように反応させる工程と、
d)移載すべき材料層(41)を前記分離帯(40、401、402)に沿ってソース基板の残余部分(42)から分離させる工程とを備え、更に、
接合領域(61)の周縁部に存在する層状の接着剤(6)の周縁部領域(62)を除去する工程を備え、この除去工程を、前記工程b)と工程c)の間、工程c)と工程d)の間、又は前記工程d)の後のいずれか1回以上の時点で実行し、複数回の時点で実行する場合には前記工程a)と工程b)の間の時点でも部分的に実行することを特徴とする層移載方法。
【請求項2】
接着剤(6)が露光を受けて光硬化可能な接着剤であり、支持基板(5)とソース基板(4)の少なくとも一方の基板が光放射に対して透光性であり、本質的に工程c)が、層状の接着剤(6)の接合領域(61)を、該接合領域からはみ出している周縁部領域(62)を露光から保護するマスク(7)を介して光線に曝すことにより、専ら接合領域(61)をソース基板(4)の後面又は支持基板(5)の後面から硬化させることからなることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
接着剤(6)が熱硬化性接着剤であり、本質的に工程c)が局部加熱手段(8)を用いた加熱とその後の冷却により接合領域(61)の接着剤のみを熱硬化させることからなることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
局部加熱手段(8)がレーザビームであることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
分離工程d)を機械的応力の印加により実行することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
移載すべき材料層(41)が少なくとも電子部品又は光電子部品の一部を含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
分離帯が原子種の注入により形成された脆弱帯(401)であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
分離帯が多孔質層により形成された脆弱帯(401)であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
分離帯が剥離可能な接合界面(402)により形成されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
分離帯が化学的及び/又は機械的分離作用に対する障壁を構成する阻止層であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
ソース基板の移載すべき材料層(41)と残余の部分(42)とが共にシリコンからなり、剥離可能な接合界面(402)がシリコン酸化物層の内部又は表面にあることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公表番号】特表2006−518097(P2006−518097A)
【公表日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−500014(P2006−500014)
【出願日】平成16年1月22日(2004.1.22)
【国際出願番号】PCT/EP2004/000646
【国際公開番号】WO2004/066380
【国際公開日】平成16年8月5日(2004.8.5)
【出願人】(500361216)エス オー イ テク シリコン オン インシュレータ テクノロジース (39)
【氏名又は名称原語表記】S.O.I.TEC SILICON ON INSULATOR TECHNOLOGIES
【出願人】(590000514)コミツサリア タ レネルジー アトミーク (429)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年1月22日(2004.1.22)
【国際出願番号】PCT/EP2004/000646
【国際公開番号】WO2004/066380
【国際公開日】平成16年8月5日(2004.8.5)
【出願人】(500361216)エス オー イ テク シリコン オン インシュレータ テクノロジース (39)
【氏名又は名称原語表記】S.O.I.TEC SILICON ON INSULATOR TECHNOLOGIES
【出願人】(590000514)コミツサリア タ レネルジー アトミーク (429)
【Fターム(参考)】
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