説明

嵌合型端子用Snめっき付き銅又は銅合金板材

【課題】表面めっき層としてSn被覆層が形成された銅又は銅合金板材からなる嵌合型端子において、嵌合時の摩擦係数、挿入力をさらに低減する。
【解決手段】Sn被覆層の表面に、1〜25質量%の潤滑剤を分散含有する、厚さ0.1〜0.5μmの樹脂層が形成された嵌合型端子用銅又は銅合金板材。樹脂層は、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂の1種又は2種以上からなり、潤滑剤は、ポリエチレンワックス、カルナウバワックス、マイクロクリスタリンワックス、ラノリン、フッ素樹脂ワックスの1種又は2種以上からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低摩擦係数で嵌合型接続端子用として適するSnめっき付き銅又は銅合金板材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、雄端子と雌端子の嵌合によって電気的接触を得る車載用等の嵌合型端子として、Snめっき付き銅合金板材を打抜き加工して端子に成形したものが汎用的に用いられている。
錫めっき付き銅合金板材で成形した嵌合型端子では、雄端子と雌端子を嵌合する際、錫同士の凝着が起こり、それをせん断する抵抗が非常に高い。そのため、特に小型多極化した場合の挿入力が大きく、作業者の負担が大きくなる。
【0003】
特許文献1には、銅合金板材の表面にCuめっき及びSnめっきを行った後、リフロー処理を施して、CuめっきとSnめっきからCu−Sn合金層を形成し、Cu−Sn合金被覆層及びSn被覆層からなる表面めっき層を形成することが記載されている。
特許文献2には、銅合金板材の表面にNiめっき、Cuめっき及びSnめっきを行った後、リフロー処理を施して、CuめっきとSnめっきからCu−Sn合金層を形成し、Ni被覆層、Cu−Sn合金被覆層及びSn被覆層からなる表面めっき層を形成することが記載されている。
特許文献1,2の技術は、いずれもSn被覆層の下に硬いCu−Sn合金被覆層を形成することで低挿入力化を図っている。
【0004】
特許文献3には、特許文献1,2と同様に、Cu−Sn合金被覆層及びSn被覆層からなる表面めっき層、又はNi被覆層、Cu−Sn合金被覆層及びSn被覆層からなる表面めっき層を形成するのであるが、意図的に表面を粗面化した銅合金板材を用い、部分的に(粗さ曲線の山頂部で)Cu−Sn合金被覆層を表面に露出させている。特許文献3では、これにより嵌合型端子の低挿入力化を図っている。
【0005】
特許文献4には、銅合金板材の表面に炭素粒子が分散したSnめっき層を形成し、特許文献5には、銅合金板材の表面にフッ素樹脂等の潤滑剤粒子が分散したSnめっき層を形成して、それぞれ嵌合型端子の低挿入力化を図ることが記載されている。しかし、炭素粒子や潤滑剤粒子はSnめっき層中に存在し、表面に露出するものは一部に過ぎないので、挿入力の低減効果は不充分である。また、黒鉛粒子や潤滑剤粒子を分散させた特殊なSnめっき浴が必要であり、浴管理も困難で、これがコストアップにつながるという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−60666号公報
【特許文献2】特許第4090302号公報
【特許文献3】特許第3926355号公報
【特許文献4】特開2006−97062号公報
【特許文献5】特開2008−248294号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
自動車用嵌合型端子材として使用されるSnめっき付き銅又は銅合金板材には、特にコネクタの小型多極化を目指して、嵌合時のさらなる低挿入力化(低摩擦係数)が求められている。
本発明は、上記の要求に鑑み、Snめっき付き銅又は銅合金板材からなる嵌合型端子において、嵌合時の摩擦係数、挿入力をさらに低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、表面めっき層としてSn被覆層を有する嵌合型端子用Snめっき付き銅又は銅合金板材において、前記Sn被覆層の表面に潤滑剤を分散含有する樹脂層が形成され、嵌合型端子に形成したとき相手側端子との摺動により前記樹脂層が破壊され、前記相手側端子との間で電気的接触をすることを特徴とする。なお、本発明において板は条を含む。
また、本発明は、表面めっき層としてSn被覆層を有する嵌合型端子用Snめっき付き銅又は銅合金板材において、前記Sn被覆層の表面に厚さ0.1〜0.5μmの潤滑剤を分散含有する樹脂層が形成されていることを特徴とする。前記樹脂層の厚さが0.1〜0.5μmであれば、嵌合型端子に形成したとき相手側端子との摺動により樹脂層の破壊及び相手側端子との電気的接触が容易に実現される。
【0009】
前記嵌合型端子用Snめっき付き銅又は銅合金板材において、前記樹脂層は、例えばポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂のうち1種又は2種以上からなる。また、前記樹脂層は、好ましくは1〜25質量%、さらに好ましくは5〜20質量%の潤滑剤を含有する。前記潤滑剤は、例えばポリエチレンワックス、カルナウバワックス、マイクロクリスタリンワックス、ラノリン、フッ素樹脂ワックスのうち1種又は2種以上を上記範囲で含む。
【0010】
前記嵌合型端子用Snめっき付き銅又は銅合金板材において、前記表面めっき層は、最表面にSn被覆層を有する点以外は特に限定されるものではないが、好ましくは、平均厚さ0.1〜1.0μmのCu−Sn合金被覆層と、平均厚さ0.1〜2.0μmのSn被覆層からなり、あるいは平均厚さ0.1〜1.0μmのNi層と、平均厚さ0.1〜1.0μmのCu−Sn合金被覆層と、平均厚さ0.1〜2.0μmのSn被覆層からなる。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る嵌合型端子用Snめっき付き銅又は銅合金板材からなる嵌合型端子は、表面に相手側端子との摺動により破壊される樹脂層を形成したことで、樹脂層のないSnめっき付き銅又は銅合金板材からなる嵌合型端子(従来材)に比べて、嵌合時の摩擦係数、挿入力を低減することができる。しかも、それを、Sn被覆層表面に潤滑剤を分散含有する厚さ0.1〜0.5μmの樹脂層を形成するという簡単かつ安価な手段で実現できる。
特に、5〜20質量%の潤滑剤を厚さ0.1〜0.5μmの樹脂層を形成したとき、摩擦係数、挿入力の低減と、高温環境下における接触信頼性(低接触抵抗値の維持)を両立させることができる。
なお、本発明に係るSnめっき付き銅又は銅合金板材は、湿潤・腐食環境下における耐食・耐湿性についても、従来材と同等以上の特性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】溶媒中の塗料含有量(%)と摩擦係数及び接触抵抗値の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る嵌合型端子用Snめっき付き銅又は銅合金板材についてより具体的に説明する。なお、銅又は銅合金板材(めっき基材)及び表面めっき層(Ni被覆層、Cu−Sn合金被覆層、Sn被覆層)については、それ自体、公知の技術(例えば特許文献1〜3参照)に属する。
【0014】
(銅又は銅合金板材)
銅又は銅合金板材(めっき基材)は、端子に成形して使用することができるものであれば、どのような組成、特性のものを用いても良い。例えば、黄銅、りん青銅、Cu−Ni−Si系合金、Cu−Fe−P系合金、Cu−Ni−Sn−P系合金等を用いることができる。板厚は端子の用途、板材の導電率、機械的性質などに合わせて決めれば良いが、0.1〜2.0mm程度が一般に適当である。
【0015】
(樹脂層)
樹脂層は、潤滑剤を表面めっき層の表面に固定するバインダーとしての機能を有する。樹脂層として、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂等の一般的な樹脂が使用できる。
なかでも、熱硬化性樹脂で常用耐熱温度が100℃以上であるポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂が好ましい。また、耐熱温度が高いフッ素樹脂(特にPTFE)は耐熱性に優れるため好ましい。これらの樹脂は、銅又は銅合金板の表面めっき層の表面に被覆した後、200℃付近で焼付け処理を行って表面めっき層との密着性が確保でき、自動車内の設置環境100℃〜150℃付近での耐熱性を有する。
【0016】
(樹脂層厚さ)
樹脂層の厚さが0.1μm未満では潤滑効果が劣り、摩擦係数低減への寄与が小さい。また、樹脂層の厚さが0.5μmを超えるとコネクタの摺動による絶縁破壊が行われにくく、相手側端子との金属接触が妨げられると、接触抵抗値の大幅な増大が生じる。
【0017】
(潤滑剤と潤滑剤添加量)
潤滑剤としては、ポリエチレンワックス、カルナウバワックス、マイクロクリスタリンワックス、ラノリン、フッ素樹脂(PTFE)ワックス等の潤滑性を有する潤滑ワックスが好適に利用でき、これらの1種又は2種以上からなる、又はこれらの1種又は2種以上を含むことが望ましい。本発明では樹脂層の層厚が非常に薄いことから、特に潤滑性に優れるフッ素樹脂ワックスの使用が望ましい。フッ素樹脂ワックスは他の潤滑剤と比べて潤滑性に優れており、薄く被覆させて低摩擦係数及び低接触抵抗値を確保したい場合に望ましい。他の潤滑剤を用いる場合でもフッ素樹脂ワックスを併用することが望ましい。なお、フッ素樹脂ワックスはテフロンワックス(テフロンは登録商標)とも言われる。
潤滑剤は好ましくは樹脂に対し質量%で1〜25%、さらに好ましくは5〜20%の範囲で添加する。1%以上であれば潤滑効果が現れ、さらに5%以上であれば望ましい潤滑効果が得られる。一方、25%を超えてもそれ以上の潤滑効果は得られず、逆に樹脂層とSnめっきとの密着性を確保するのが困難となる。さらに潤滑剤自体に電気伝導性が乏しいため電気伝導性が悪くなり、また、潤滑剤により潤滑性が増して、その分端子の接触面積が小さくなり、いずれにしても接触抵抗値の増大に繋がる。
【0018】
(表面めっき層)
表面めっき層は、最表面にSn被覆層を有する点以外は特に限定されるものではない。以下、本発明に適する表面めっき層の構成について説明する。
(Cu−Sn合金被覆層)
表面めっき層のうちCu−Sn合金被覆層は、Cu又はCu合金板とSn被覆層の中間層として形成されている場合は、Sn被覆層へのCu又はCu合金板からのCuの拡散を防止する。Cu−Sn合金被覆層の平均厚さが0.1μm未満では拡散防止効果が不十分であり、CuがSn被覆層の表層まで拡散して酸化物を形成し、変色と共に接触抵抗が高くなり電気信頼性が低下する。一方、1.0μmを超えると曲げ加工で割れが発生するなど、端子への成形加工性が低下する。従って、Cu−Sn合金被覆層は0.1〜1.0μmとする。好ましくは0.1〜0.5μmである。
【0019】
また、Cu−Sn合金層は、Ni被覆層、Cu−Sn合金被覆層、Sn被覆層がこの順に形成されている場合は、Sn被覆層へのNiの拡散を防止する。Cu−Sn合金被覆層の平均厚さが0.1μm未満では拡散防止効果が不十分であり、NiがSn被覆層の表層まで拡散して酸化物を形成し、変色と共に接触抵抗が高くなり電気信頼性が低下する。一方、1.0μmを超えると曲げ加工で割れが発生するなど、端子への成形加工性が低下する。
【0020】
Cu−Sn合金被覆層のCu含有量は20〜70at%であることが望ましい。Cu−Sn合金被覆層のCu含有量が20at%未満では銅合金板材からのCu又はNi被覆層からのNiの拡散防止効果が不十分であり、Cu含有量が70%を超えるとそのCuがSn被覆層の表層に拡散し、酸化物を形成し、接触抵抗が高くなり電気信頼性が低下すると共に、曲げ加工性が低下する。好ましくは45〜65at%である。Cu−Sn合金被覆層は主としてCuSnからなることが望ましいが、CuSn相が一部含まれていてもよく、銅合金板材及びSnめっき中の成分元素が含まれていてもよい。
【0021】
(Sn被覆層)
表面めっき層のうちSn被覆層は、耐食性と電気接点としての信頼性を確保するために施される。Sn被覆層はリフロー処理が施されている。Sn被覆層の平均厚さが0.1μm未満では耐食性及び電気接点としての信頼性が不十分であり、2.0μmを超えるとコストアップと同時に外観上ムラが多くなる。従って、Sn被覆層の平均厚さは0.1〜2.0μmとする。好ましくは0.5〜1.5μmである。本発明でいうSn被覆層は、純Snからなる被覆層のみでなく、Sn合金からなる被覆層を含む。このSn合金として、Cu、Ag、Ni、Fe、Co、Bi、P、Zn等の群より選んだ1種以上の元素を1〜10質量%程度含むSn合金を挙げることができる。
【0022】
(Ni被覆層)
表面めっき層のうちNi被覆層は、銅又は銅合金板材とCu−Sn合金被覆層の中間層として形成され、Cu−Sn合金被覆層及びSn被覆層への銅又は銅合金板材からのCuの拡散を防止するために施される。Ni被覆層は、Cu−Sn合金被覆層と比較すると、より高温環境下を想定した場合でも、拡散防止効果を発揮する。このNi被覆層の平均厚さが0.1μm未満では、拡散防止効果が不十分であり、CuがSnめっき層の表層まで拡散して酸化物を形成し、変色と共に接触抵抗が高くなり電気信頼性が低下する。一方、1.0μmを超えると曲げ加工で割れが発生するなど、端子への成形加工性が低下する。従って、Ni被覆層は0.1〜1.0μmとする。好ましくは0.1〜0.5μmである。本発明でいうNi被覆層は、純Niからなる被覆層のみでなく、Ni合金からなる被覆層を含む。このNi合金として、Cu、Ag、Sn、Co、P、B等の群より選んだ1種以上の元素を1〜10%程度含むNi合金を挙げることができる。
【0023】
(製造方法)
銅又は銅合金板の片面又は両面に、必要に応じてNiめっき層を形成し、続いてCuめっき層及びSnめっき層を順に形成した後、リフロー処理を行う。このリフロー処理により、Cuめっき層とSnめっき層のCuとSnが相互拡散してCu−Sn合金被覆層が形成され、Snめっき層の一部が残留してSn被覆層となる。Cuめっき層の一部が残留する場合もある。リフロー処理は、230℃〜600℃×3〜30秒間の条件で行うことができる。
【0024】
Niめっき層、Cuめっき層、Snめっき層は、いずれも電気めっきで形成するのが望ましい。無電解めっきで行う方法もあるが、還元剤がめっき皮膜中に取り込まれ、高温放置後にボイドを発生するおそれがある。Niめっきのめっき浴としてワット浴やスルファミン酸浴、Cuめっきのめっき浴として硫酸浴、Snめっきのめっき浴として硫酸浴が好ましく、いずれも公知のめっき条件で行うことができる。Niめっき層及びSnめっき層が、それぞれNi合金めっき及びSn合金めっきからなる場合、先にNi被覆層及びSn被覆層に関して説明した各合金を用いることができる。
なお、Cuめっき層とSnめっき層からCu−Sn合金めっき層を生成させる代わりに、直接Cu−Sn合金めっきを行い、その上にSnめっき層を形成することもできる。この場合も、Snめっき層はリフロー処理を行うことが望ましい。
【0025】
リフロー処理後の銅又は銅合金板の表面めっき層表面(片面又は両面)に、潤滑剤を含む樹脂被膜を形成する。例えば、先に示した樹脂中に潤滑剤を分散し、潤滑性を付与するための塗料を作製し、その塗料をアセトンやメチルエチルケトンなどの有機溶媒を用いて所定の濃度に希釈し、Snめっき上に塗布する樹脂溶液を作製する。続いて、その樹脂溶液を例えばロールコータによって塗布し、乾燥後200〜250℃の温度範囲内で30秒〜1分間焼付け処理を行うことで、銅又は銅合金板の表面に前記樹脂被膜を形成することができる。
【0026】
本発明に係るSnめっき付き銅又は銅合金板材は、潤滑剤を分散含有する樹脂層を適切な厚さで設けることで、潤滑性と接点部材として必要な電気的信頼性を確保することができる。また、この樹脂層は撥水性に優れる潤滑性皮膜であることから、耐食試験後もSnの腐食が起こりにくく、白錆を発生しにくい。
【実施例】
【0027】
(実施例1)
厚さ0.25mmのCu−Ni−P系銅合金板にNiめっき、Cuめっき、Snめっきをそれぞれ所定の厚さで施し、続いてリフロー処理を行い、前記銅合金板表面に平均厚さ0.3μmのNi被覆層、平均厚さ0.6μmのCu−Sn合金被覆層、及び平均厚さ0.4μmのSn被覆層からなる表面めっき層を形成した。Cu−Sn合金被覆層のCu含有量は55at%(CuSnの組成)であった。この表面めっき層を有する銅合金板から供試材用の銅合金板を採取した。なお、各被覆層の平均厚さは特許文献3の実施例の方法、Cu−Sn合金被覆層のCu含有量は特許文献2の実施例の方法で求めた。
【0028】
一方、ポリエチレン樹脂(バインダー)に15質量%の潤滑剤(ポリエチレンワックス及びテフロンワックス(テフロンは登録商標))を分散した塗料を作製し、メチルエチルケトン(溶媒)で種々の含有量(質量%)となるよう希釈した。
得られた樹脂溶液を、供試材用銅合金板の表面にロールコータによって塗布し、続いて200℃×30secで加熱し、樹脂層を固定した。なお、希釈率を変えることにより、種々の厚さの樹脂層を形成することができる。
得られた供試材(表面に潤滑剤を分散含有する樹脂層が形成された銅合金板)について、下記要領で摩擦係数、接触抵抗を測定した。また、下記要領で樹脂被膜の厚さを測定した。その結果を図1に示す。
【0029】
[摩擦係数の測定]
端子嵌合時の挿入力の評価として動摩擦係数を用いた。嵌合型端子の接点部の形状を想定して、供試材から切り出した板状の雄試験片を水平な台に固定し、その上に供試材を内径1.5mmで半球加工した雌試験片を置いて、錫めっき面同士を接触させ、雌試験片に荷重W(3.0N)をかけて雄試験片を押え、横型荷重測定機(アイコーエンジニアリング株式会社製Model−2152)を用いて、雄試験片を水平方向に引張り(摺動速度80mm/min)、摺動距離5mmまでの最大摩擦力Fを測定した。摩擦係数μを下記式(1)により求めた。供試材は雄試験片に適用し、雌試験片は樹脂層を有しない供試材用銅合金板を用いた。摺動時に樹脂層が破壊される。
各荷重Wにおける最大摩擦力から下記式(1)を用いて算出した値を各荷重における摩擦係数とした。
摩擦係数=F/W・・・・(1)
【0030】
[高温放置後の接触抵抗の測定]
加熱時の電気接点における信頼性の評価として、高温放置後の接触抵抗値を用いた。供試材に対し大気中にて160℃×120hrの熱処理を行った後、接触抵抗を4端子法により、開放電圧20mV、電流10mA、荷重3N、摺動の条件にて測定した。摺動時に樹脂層が破壊され端子と供試材が電気的接触をする。
[樹脂層の厚さの測定]
樹脂層の厚さは、断面をSEM観察して測定した。図1において、塗料含有量が1%のときの樹脂層厚さが0.1μm、塗料含有量が2%のときの樹脂層厚さが0.5μmであったことが横軸に示されている。
【0031】
図1の横軸は溶媒中の塗料(樹脂及び潤滑剤)の含有量(質量%)、縦軸は摩擦係数及び接触抵抗値である。
図1に示すように、樹脂層厚さ0.1〜0.5μm付近において、低い摩擦係数及び接触抵抗が得られている。
【0032】
(実施例2)
実施例1で作製した表面めっき層付き銅合金板から供試材用銅合金板を採取した。
続いて、表1のNo.1〜8に示す樹脂にそれぞれ潤滑剤を混合して分散し、有機溶媒で希釈し、潤滑剤を含む樹脂溶液を8種作成し、各供試材用銅合金板にロールコータによって塗布し、乾燥後、焼き付け処理を行い、No.1〜8の供試材とした。表1に、各供試材における樹脂層の厚さ及び潤滑剤の添加量を示す。なお、No.9は樹脂層を有しない従来例である。
【0033】
【表1】

【0034】
得られたNo.1〜9の供試材について、実施例1と同じ要領で摩擦係数、接触抵抗、及び樹脂層の厚さを測定し、その結果を表1に合わせて示す。
【0035】
表1に示すように、樹脂層を有するNo.1〜8は、樹脂層を有しないNo.9に比べて、摩擦係数が小さい。
No.1〜8を個別に見ると、樹脂層の厚さが0.1〜0.5μm、及び潤滑剤添加量が5〜20質量%の範囲内であるNo.1〜4は、摩擦係数が0.25以下、接触抵抗が1mΩ以下であり、摩擦係数が低くかつ接触信頼性が高いことが分かる。
一方、No.5は樹脂層の厚さが上記範囲を超え、接触抵抗がNo.1〜4に比べて高く、No.6は樹脂層の厚さが上記範囲に満たず、摩擦係数がNo.1〜4に比べて高く、No.7は潤滑剤の添加量が上記範囲に満たず、摩擦係数がNo.1〜4に比べて高く、No.8は潤滑剤の添加量が上記範囲を超え、密着性が低下し、接触抵抗がNo.1〜4に比べて高くなっている。しかし、No.5〜8でも、樹脂層を有しないNo.9に比べると、摩擦係数は低い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面めっき層としてSn被覆層を有する嵌合型端子用Snめっき付き銅又は銅合金板材において、前記Sn被覆層の表面に潤滑剤を分散含有する樹脂層が形成され、嵌合型端子に形成したとき相手側端子との摺動により前記樹脂層が破壊され、前記相手側端子との間で電気的接触をすることを特徴とする嵌合型端子用Snめっき付き銅又は銅合金板材。
【請求項2】
前記樹脂層の厚さが0.1〜0.5μmであることを特徴とする請求項1に記載された嵌合型端子用Snめっき付き銅又は銅合金板材。
【請求項3】
表面めっき層としてSn被覆層を有する嵌合型端子用Snめっき付き銅又は銅合金板材において、前記Sn被覆層の表面に厚さ0.1〜0.5μmの潤滑剤を分散含有する樹脂層が形成されていることを特徴とする嵌合型端子用Snめっき付き銅又は銅合金板材。
【請求項4】
前記樹脂層が1〜25質量%の潤滑剤を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載された嵌合型端子用Snめっき付き銅又は銅合金板材。
【請求項5】
前記樹脂層が、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂のうち1種又は2種以上からなることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載された嵌合型端子用Snめっき付き銅又は銅合金板材。
【請求項6】
前記潤滑剤が、ポリエチレンワックス、カルナウバワックス、マイクロクリスタリンワックス、ラノリン、フッ素樹脂ワックスのうち1種又は2種以上を含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載された嵌合型端子用Snめっき付き銅又は銅合金板材。
【請求項7】
前記表面めっき層が、平均厚さ0.1〜1.0μmのCu−Sn合金被覆層と平均厚さ0.1〜2.0μmのSn被覆層からなることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載された嵌合型端子用Snめっき付き銅又は銅合金板材。
【請求項8】
前記表面めっき層が、平均厚さ0.1〜1.0μmのNi層と、平均厚さ0.1〜1.0μmのCu−Sn合金被覆層と、平均厚さ0.1〜2.0μmのSn被覆層からなることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載された嵌合型端子用Snめっき付き銅又は銅合金板材。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載されたSnめっき付き銅又は銅合金板材からなる嵌合型端子。

【図1】
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【公開番号】特開2011−210479(P2011−210479A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−75913(P2010−75913)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】