嵩高性ポリエステル複合繊維
【課題】 良好なストレッチ性を有する嵩高性ポリエステル複合繊維において、それを用いた織編物を製作する際、バンド状斑やスジ状欠点の発生による表面品位欠点のない嵩高性ポリエステル複合繊維を提供すること。更に、織編物において良好な表面品位を有し、しかも適度なストレッチ性を呈することができる嵩高性ポリエステル複合繊維を提供すること。
【解決手段】 2種の固有粘度のポリエステルからなるサイドバイサイド型複合繊維であって、2群以上の異形度の異なる単糸群から構成されており、以下の要件を満足することを特徴とする嵩高性ポリエステル複合繊維。
(A)伸縮伸長率S 20≦S≦150(%)
(B)嵩高度B 71×10−3≦B≦200×10−3(m3/kg)
但し、異形度は次式により算出されるものである。
各単糸の異形度 = 長軸長/短軸長
長軸長:各単糸の断面の外接円の直径
短軸長:各単糸の断面複合界面と繊維表面との交点の2点間の距離
【解決手段】 2種の固有粘度のポリエステルからなるサイドバイサイド型複合繊維であって、2群以上の異形度の異なる単糸群から構成されており、以下の要件を満足することを特徴とする嵩高性ポリエステル複合繊維。
(A)伸縮伸長率S 20≦S≦150(%)
(B)嵩高度B 71×10−3≦B≦200×10−3(m3/kg)
但し、異形度は次式により算出されるものである。
各単糸の異形度 = 長軸長/短軸長
長軸長:各単糸の断面の外接円の直径
短軸長:各単糸の断面複合界面と繊維表面との交点の2点間の距離
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は織編物用途に適した嵩高性ポリエステル複合繊維に関する。更に詳しくは、編物のフロント糸及び/又はバック糸に使用した際に、バンド状斑やスジ状欠点を発生することなく、優れた品位とソフトな風合い及びストレッチ特性を発現する嵩高性ポリエステル複合繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、織編物のなかでもストレッチ性能を付与したストレッチ織編物が、その着用感から強く要望されている。かかる要望を満足するために、例えば、ポリウレタン系の繊維を混繊することにより、ストレッチ性を付与した織編物が多数用いられている。しかし、ポリウレタン系繊維は、ポリエステル系染料に染まり難いために染色工程が煩雑になることや、長時間の使用時に脆化し、性能が低下するなどの問題があり、特に水着用編物に展開した場合、水に含まれる塩素によりポリウレタン系繊維が脆化し、十分な機能を付与できていない。こうした欠点を回避する目的で、ポリウレタン系繊維の代わりに、ポリエステル系繊維の捲縮糸の応用が検討されている。
【0003】
近年ポリトリメチレンテレフタレート(以下3GTと称す)の伸長回復性に着目して、3GT系捲縮糸が提案されている。特に、2種類のポリマーをサイドバイサイド型または偏芯的に貼合わせて、熱処理後に捲縮を発現させる潜在捲縮繊維が多数提案されている。しかし、これらの3GT系複合繊維を布帛拘束力の弱い編物に使用すると個々の単糸の捲縮(クリンプ)の位相が一致してバンド状斑やスジ状欠点が発生し、ニット分野への展開が制約される問題があった。
【0004】
特許文献1には、少なくとも一方の成分に3GTを用いたサイドバイサイド型2成分系複合繊維が開示されている。この先行技術には、3GT系複合繊維の製造において、ポリマー吐出条件と冷却条件を特定することにより繊度変動値U%を飛躍的に改良する方法が開示されており、薄地織物に経糸及び/又は緯糸に使用した際に、バンド状斑やスジ状欠点を発生することなく、優れた品位とソフトな風合い及びストレッチ特性を発現させることが可能であることが開示されている。しかし、該公報に開示されている複合繊維は、マルチフィラメントを構成する単糸は実質的に丸断面であって嵩高度が低く、また単糸断面のバラツキがないことを効果としており、編物に使用した場合個々の単糸の捲縮(クリンプ)の位相の一致によるバンド状斑やスジ状欠点が発生し、良好な品位の編物を得ることができない。
【0005】
また、特許文献2には少なくとも一方の成分に3GTを用いるか、両方の成分に固有粘度の異なる3GTを用いたサイドバイサイド型2成分系複合繊維が開示されている。この3GT系複合繊維はソフトな風合いと良好な捲縮発現特性を有することが特徴である。この先行技術には、伸縮性と伸長回復性を有し、この特性を活かして種々のストレッチ織編物或いは嵩高性織編物への応用が可能であることが記載されている。沸水処理以前にも高い捲縮を有し、嵩高性に優れるPTT系複合繊維が開示されているが、しかし、該公報に開示されている複合繊維は、マルチフィラメントを構成する単糸の断面形状は同一であって、嵩高度が低く、編物においてバンド状斑やスジ状欠点が発生する。
【0006】
特許文献3、特許文献4には高粘度ポリエステル成分と低粘度ポリエステル成分をサイドバイサイド型に接合させる際に複合比率が単糸間で異なるようにすることでランダム感を付与させ、また高粘度ポリエステル成分、低粘度ポリエステル成分のみの各単糸を混在させ、適度な膨らみ感、嵩高性とハリ・コシ感を付与する方法が開示されている。しかし、該方法により得られるポリエステル複合繊維は単糸間で強伸度レベルが異なるため製糸性が不安定であり、その上、糸そのものが捲縮を有さない単糸を含むため、粗硬感が強調されるものとなる。また、低粘度ポリエステル成分の単成分フィラメントも同時紡糸されるため、製糸安定化の面から高粘度ポリエステル成分と低粘度ポリエステル成分との極限粘度差を大きくできず、捲縮発現性が乏しい膨らみ感のないフラットな風合いであった。
又、特許文献5にはポリマー特性差による収縮差からなる異形断面サイドバイサイド型ポリエステル複合繊維において、複合接合面状態が異なる2群以上の単糸群で構成することにより天然繊維ライクな膨らみ感・嵩高性と共にストレッチ性、張り腰・反発性を付与する方法が開示されている。しかし、該公報に記載された発明は、実質的に多葉断面であり、ストレッチ性が弱く嵩高度も低いため編物においてバンド状斑やスジ状欠点の発生を改善できない。
【0007】
したがって、主に編物用途に使用してバンド状やスジ状欠点の発生がなく、良好な表面平坦性と表面品位を有し、しかも適度なストレッチ性を呈することができる複合繊維の出現が強く求められていた。
【特許文献1】特開2004−323991号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2002−061031号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開平01−266220号公報(特許請求の範囲)
【特許文献4】特開平09−041233号公報(特許請求の範囲)
【特許文献5】特開2004−011067号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、良好なストレッチ性を有する嵩高性ポリエステル複合繊維において、それを用いた織編物を製作する際、バンド状斑やスジ状欠点の発生による表面品位欠点のない嵩高性ポリエステル複合繊維を提供することにある。
【0009】
更に、織編物において良好な表面品位を有し、しかも適度なストレッチ性を呈することができる嵩高性ポリエステル複合繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題を解決すべく検討した結果、ポリエステル複合繊維において、マルチフィラメントを構成する単糸の断面形状および複合繊維の嵩高度を制御することで編物布帛の表面品位が飛躍的に向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明の課題は、以下の(1)〜(5)に記載の項目を採用することにより達成される。
(1)2種の固有粘度のポリエステルからなるサイドバイサイド型複合繊維であって、2群以上の異形度の異なる単糸群から構成されており、以下の要件を満足することを特徴とする嵩高性ポリエステル複合繊維。
(A)伸縮伸長率S 20≦S≦150(%)
(B)嵩高度B 71×10−3≦B≦200×10−3(m3/kg)
但し、異形度は次式により算出されるものである。
各単糸の異形度 = 長軸長/短軸長
長軸長:各単糸の断面の外接円の直径
短軸長:各単糸の断面複合界面と繊維表面との交点の2点間の距離
(2)単糸の異形度の分散VDが以下の(C)の要件を満足することを特徴とする(1)記載の嵩高性ポリエステル複合繊維。
(C)0.4<VD<150
但し、異形度の分散VDは式1により算出されるものである。
【0012】
【数1】
【0013】
(3)単糸を構成する少なくとも一方の成分がポリトリメチレンテレフタレートであることを特徴とする(1)、または(2)記載の嵩高性ポリエステル複合繊維。
(4)少なくとも一部が(1)〜(3)のいずれかの嵩高性ポリエステル複合繊維からなる繊維製品。
(5)少なくとも一部が(1)〜(3)のいずれかの嵩高性ポリエステル複合繊維からなるニット製品。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、従来技術では達成し得なかったバンド状斑やスジ状欠点のない表面品位の良好なストレッチ性織編物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下本発明を詳細に説明する。
【0016】
本発明の複合繊維は、良好な捲縮特性を得るために、高粘度ポリエステル成分と低粘度ポリエステル成分がサイドバイサイド型に貼り合わされた形態をとる必要がある。粘度の異なるポリエスエルをサイドバイサイド型に貼り合わせることによって、紡糸、延伸時に高粘度側に応力が集中するため、各成分間で内部歪みが異なる。そのため、延伸後の弾性回復率差および布帛の熱処理工程での熱収縮差により高粘度側が大きく収縮し、単糸内で歪みが生じて3次元コイルの形態をとる。この3次元コイルの径および単位繊維長当たりのコイル数は、高粘度成分と低粘度成分との収縮差によって決まるといってもよく、ストレッチ素材として要求されるコイル捲縮特性を満足するためには、ポリエステル成分の固有粘度差が必要となってくる。
【0017】
本発明におけるポリエステル成分の固有粘度は、高粘度成分において0.7〜2.0が好ましく、固有粘度が0.7以上とすることで充分な強度と伸度を兼ね備えた繊維を製造することが容易となる。より好ましい固有粘度は0.8以上である。また固有粘度2.0以下とすることで、生産安定性が得られやすい。より好ましい固有粘度は1.8以下である。一方、低粘度側のポリエステル成分は、固有粘度を0.4以上にすることで安定した製糸性が得られ好ましい。より好ましくは0.50以上である。さらに高い捲縮特性を得るためには、0.7以下であることが好ましい。
【0018】
さらに、ポリエステル成分の高粘度成分と低粘度成分の固有粘度差を0.3以上とすることにより捲縮特性に優れた原糸となるが、0.5以上と大きくすると、さらに伸縮性の優れた原糸となるので好ましい。一方固有粘度差が1.5を越えると、得られる糸の捲縮特性は良好であるものの、紡糸糸条が高粘度成分側に過度に曲がるため、長時間にわたって安定して製糸することができず、好ましくない。したがって、安定した製糸性とストレッチ回復性の両方を満たすため、固有粘度差は0.3以上1.5以下とすることが望ましい。
【0019】
ここで、本発明のポリエステル成分は高粘度成分および低粘度成分の界面接着性が良好で、製糸性が安定している繊維形成性ポリエステルであれば特に限定されるものではない。ただし、力学的特性、化学的特性および原料価格を考慮すると、繊維形成性のあるポリエチレンテレフタレート(以下PETと称す)、3GT、ポリブチレンテレフタレート(以下PBTと称す)が好ましい。また、3GT、PET、PBTの他、ポリ乳酸(PLA)や、これらに第3成分を共重合させたもの、あるいはこれらの混合ポリマーを用いてもよい。
【0020】
本発明での3GTとは、90モル%以上がトリメチレンテレフタレートの繰り返し単位からなる3GTであり、1,3−プロパンジオールを主たるグリコール成分として得られるポリエステルである。ただし、10モル%以下の割合で他のエステル結合を形成可能な共重合成分を含むものであっても良い。共重合可能な化合物として、例えばイソフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、ダイマ酸、セバシン酸などのジカルボンサン類、一方、グリコール成分として、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどを挙げることができるが、これらに限られるものではない。また、艶消剤として、二酸化チタン、滑剤としてのシリカやアルミナの微粒子、抗酸化剤として、ヒンダードフェノール誘導体、着色顔料などを必要に応じて添加することができる。
【0021】
一方、本発明でのPETとは、テレフタル酸を主たる酸成分としエチレングリコールを主たるグリコール成分とする、90モル%以上がエチレンレンテレフタレートの繰り返し単位からなる得られるポリエステルである。ただし、10モル%以下の割合で他のエステル結合を形成可能な共重合成分を含むものであっても良い。共重合可能な化合物として、例えばイソフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、ダイマ酸、セバシン酸などのジカルボンサン類、一方、グリコール成分として、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどを挙げることができるが、これらに限られるものではない。また、艶消剤として、二酸化チタン、滑剤としてのシリカやアルミナの微粒子、抗酸化剤として、ヒンダードフェノール誘導体、着色顔料などを必要に応じて添加することができる。
【0022】
また、本発明でのPBTとは、90モル%以上がテトラメチレンテレフタレートの繰り返し単位からなるPBTであり、1,4−ブタンジオールを主たるグリコール成分として得られるポリエステルである。ただし、10モル%以下の割合で他のエステル結合を形成可能な共重合成分を含むものであっても良い。共重合可能な化合物として、例えばイソフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、ダイマ酸、セバシン酸などのジカルボンサン類、一方、グリコール成分として、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどを挙げることができるが、これらに限られるものではない。また、艶消剤として、二酸化チタン、滑剤としてのシリカやアルミナの微粒子、抗酸化剤として、ヒンダードフェノール誘導体、着色顔料などを必要に応じて添加することができる。
【0023】
また、本発明におけるPLAとは、90モル%以上が-(O-CHCH3-CO)n-)を繰り返し単位とするポリマーであり、乳酸やオリゴマーを重合したものをいう。ただし、10モル%以下の範囲で共重合成分や多官能性化合物などを添加してもよい。
【0024】
また本発明の複合繊維は、単糸を構成する少なくとも一方の成分が3GTであり、他方の成分が他のポリエステルからなる複合繊維であることが好ましい。即ち、3GTと他のポリエステルの組み合わせや、3GT同士の組み合わせが好ましい。繊維のコイル捲縮特性は、低粘度成分を支点とした高粘度成分の伸縮特性が支配的である。そのためストレッチ素材として要求されるソフト感、および嵩高性を発現させることができるような繊維のコイル捲縮特性を得るためには、高粘度成分に用いるポリマーに特に高い伸長性および回復性が要求される。3GTはPETやPBT繊維と同等の力学的特性や化学的特性を有しつつ、伸長回復性が極めて優れており、良好なストレッチ性能を発現させることができる。
【0025】
次に、本発明の嵩高性ポリエステル複合繊維は、異形度の異なる2群以上の単糸群から構成されている必要がある。ここで、本発明で定義する異形度とは、図1に示すように各単糸の断面の外接円の直径である長軸長を、各単糸の断面の複合界面と繊維表面との交点の2点間の距離である短軸長で除した値であり、値の大きいほど扁平であることを示している。異形度の異なる2群以上の単糸群とは、例えば図2に例示するように、マルチフィラメントにおいて、異形度が異なる2種類以上の単糸が混在しているような場合を指す。これにより、布帛にハリ、コシが付与されて独特な風合いを呈し、布帛の表面に極めて好ましい効果が得られる。公知のように、サイドバイサイド型貼り合わせ複合繊維糸条では、個々の単糸の捲縮(クリンプ)の位相が一致して、あたかもスパイラル状のモノフィラメントの如き強く収束した外観を呈し易く、この収束部は布帛表面にスジ状となって現れ、同時に風合いが硬くなる。そのため、マルチフィラメントを構成する単糸の断面形状を制御して、異なる異形度の単糸を混在させることにより、捲縮の位相をずらした嵩高性ポリエステル複合繊維とすることが重要となる。
【0026】
本発明におけるポリエステル複合繊維の単糸の断面形状の例を図3に図示するが、勿論図示されたものに限定されるものではない。
【0027】
ここで、本発明の嵩高性ポリエステル複合繊維の異形度の分散VDは、式1で定義されるものであり、0.4<VD<150の範囲であることが好ましい。異形度の分散が0.4<VD<150の範囲内にすることにより、捲縮の位相をずらし、捲縮発現性のランダム感と、機能性を付与することができる。
【0028】
【数2】
【0029】
本発明の嵩高性ポリエステル複合繊維は、単糸を構成する2種のポリエステル成分の複合比、および単糸繊度が同一であることが好ましい。複合比および単糸繊度が同一であることにより、単糸間の強伸度バラツキを最小限に抑えることができ、安定した製糸および良好な品質、品位を得ることができる。尚、複合比および単糸繊度が同一とは、繊維横断面において、複合比は単糸を構成する2種のポリエステル成分の断面積比率が同一であることを示し、単糸繊度においては各単糸の断面積が同一であることを示し、それぞれ断面写真の面積比率で±3%までを同一とする。複合比は、製糸性、捲縮性能の発現性および繊維長さ方向のコイルの寸法均質性の点で、高粘度成分:低粘度成分=80:20〜20:80の範囲が好ましく、70:30〜30:70の範囲がより好ましい。また、単糸繊度は特に限定されるものではないが、本発明の嵩高性ポリエステル複合繊維を布帛、特に編物にした際にソフト感が得られる点で、0.3〜5.0dtexの範囲が好ましく、0.3〜3.0dtexの範囲より好ましい。
【0030】
次に、本発明の嵩高性ポリエステル複合繊維の物性について述べる。
【0031】
本発明の嵩高性ポリエステル複合繊維において、伸縮伸長率は布帛拘束下での捲縮発現能力が重要であることに着目し、後述の式に示すように、布帛内での拘束力に相当する荷重を繊維カセに吊して熱処理することで、布帛拘束下での捲縮発現能力を繊維カセの伸縮伸長率で表せるとした。この伸縮伸長率が高いほど捲縮発現能力が高いことを示しており、適度なストレッチを与えるためには20%以上150%以下である必要がある。伸縮伸長率が20%未満では布帛のストレッチ率が小さくなり、150%を越えると捲縮が強すぎて布帛の表面品位が悪くなる。伸縮伸長率は高いほど布帛にしたときのストレッチ性能が向上するため、好ましくは40〜150%、より好ましくは50〜150%である。上記のような伸縮伸長率を達成するためには、前述したように、2種の固有粘度のポリエステルからなるサイドバイサイド型複合繊維を用いればよく、固有粘度が大きければ伸縮伸長率が高くなる。また、一方に3GTを用いることによって伸縮伸長率が高く、ソフト性に富んだ複合繊維を得ることができる。
【0032】
また、本発明の嵩高性ポリエステル複合繊維は、構成する複合繊維間で捲縮位相がずれており、複合糸の嵩高度が高いものである。嵩高度を高くすることによって適度なふくらみを与えるとともに、ソフトで反発感のある布帛とすることができる。さらには捲縮位相のずれがコイル捲縮によるトルクの分散効果を高め、高品位な布帛とすることができる。前記の効果は嵩高度71×10−3〜200×10−3m3/kgで達成されるが、好ましくは80×10−3〜200×10−3m3/kg、より好ましくは90×10−3〜200×10−3m3/kgである。上記嵩高度を達成するためには、前述したように異形度の異なる2群以上の単糸群から構成された複合繊維を用いればよい。この点が公知の技術とは異なる点であり、優れた伸縮伸長率と嵩高度を両立させることが可能となる。
【0033】
本発明の嵩高性ポリエステル複合繊維は、破断伸度が20〜50%であることが好ましい。破断伸度を20%以上にすることで延伸切れの発生を抑えることができ、工業的に安定した製造が可能となる。または破断伸度を50%以下にすることで布帛において良好な引き裂き強度を得ることができる。更に好ましい破断伸度は25〜45%である。
【0034】
また、本発明の嵩高性ポリエステル複合繊維は、糸長手方向の太さ斑の指標であるウースター斑U%(half inert)は1.2%以下であるものが好ましい。これにより、布帛の染め斑の発生を回避できるのみならず、布帛にした際の糸の収縮斑を抑制し、美しい布帛表面を得ることができる。ウースター斑U%(half inert)はより好ましくは1.0%以下、さらに好ましくは0.8%以下である。
【0035】
また、布帛拘束力に打ち勝って、安定的にコイル捲縮させるためには、収縮応力および収縮応力の極大を示す温度も重要な特性となる場合がある。収縮応力は高いほど布帛拘束下での捲縮発現性がよく、収縮応力の極大を示す温度が高いほど仕上げ工程での取り扱いが容易となる。したがって、布帛の熱処理工程で捲縮発現性を高めるためには、収縮応力の極大を示す温度は110℃以上、好ましくは120℃以上、より好ましくは125℃以上であり、収縮応力の極大値は0.15cN/dtex以上、好ましくは0.18cN/dtex以上である。
【0036】
次いで、本発明の嵩高性ポリエステル複合繊維の製造方法について説明する。本発明のポリエステル複合繊維の製造方法は、異なる2種類のポリエステル成分を、複合紡糸機を用い、所定の複合パックを用い、マルチフィラメントが2群以上の異形度の異なる単糸群から構成されるような口金を用いて、サイドバイサイド型に貼り合わせて複合紡糸し、一旦未延伸糸を巻き取った後、通常の延伸機で所定の破断伸度となるように延伸する2工程法、または一旦巻き取ることなく引き続き延伸を行う1工程法のいずれかによっても製造することができる。但し、繊維長手方向での品質安定性、生産安定性を考慮すると、直接紡糸延伸法(以下、DSD法と称する)による生産が最も優れている。
【0037】
一般的に、サイドバイサイド型複合繊維を得るためには、例えば図4(a)のような口金が挙げられる。n本の単糸(nフィラメント)から成る複合繊維を得るためには、上部プレートにてそれぞれのポリエステルの計量が行われ、下部プレートにて両ポリエステルが合流し単糸断面形状が形成される。従来の技術では、下部プレートにおける吐出孔の形状がn個すべて同一であるため、通常の生産のバラツキ以上の異形度のバラツキを持った複合繊維を得ることは不可能であった。
【0038】
本発明においては、使用される口金は、下部プレートにおいて断面積は同一であるが形状を変える、例えば図4(b)に示すように、吐出孔の形状を、吐出孔1は異形度が1.0となるような丸形状、吐出孔2は異形度3.0となるような楕円形状というようしたりすれば意図的に異形度のバラツキを持った複合繊維を作り出すことができ、異形度のバラツキを制御できる。さらには、n本の単糸からなるマルチフィラメントを、n本すべて異形度の異なる単糸から構成させることが可能となる。
【0039】
本発明の嵩高性ポリエステル複合繊維の布帛形態は、織物、編物、不織布、さらにはクッション材など目的に応じて適宜選択でき、シャツ、ブラウス、パンツ、スーツ、ブラウス等に好適に用いることができる。主に編物としてシャツや水着、インナー等のニット製品に使用するのが好ましい。これは、本発明の嵩高性ポリエステル複合繊維を布帛拘束力の弱い編物に使用した際に、個々の単糸の捲縮(クリンプ)の位相が一致することなく、バンド状斑やスジ状欠点のない表面品位の良好な布帛を提供することができるからである。また、織物においてこのまま単独で経糸、緯糸に用いてもよく、他の糸と混繊して用いてもよく、本発明の複合繊維の特長を発揮させるいかなる方法を用いても何ら差し支えない。
【実施例】
【0040】
以下、実施例を挙げて具体的に説明するが本発明は実施例に限定されるものではない。なお、実施例の測定値は以下の方法で測定した。
(1)固有粘度
定義式のηrは、3GTについては、160℃の純度98%以上のo−クロロフェノール(以下OCPと略記する)10mL中に試料ポリマーを0.8g溶かし、25℃に冷却後、オストワルド粘度計を用いて相対粘度ηrを下式により求め、IVを算出した。他のポリマーについては、25℃の純度98%以上のOCP10mL中に試料ポリマーを0.8g溶かし、25℃にてオストワルド粘度計を用いて相対粘度ηrを下式により求め、IVを算出した。
ηr=η/η0=(t×d)/(t0×d0)
IV=0.0242ηr+0.2634
ここで、η:ポリマー溶液の粘度
η0:OCPの粘度
t:溶液の落下時間(秒)
d:溶液の密度(g/cm3)
t0:OCPの落下時間(秒)
d0:OCPの密度(g/cm3)
(2)伸縮伸長率
図5に示す方法にて熱処理を行い、以下に示す式にて伸縮伸長率を定義した。
伸縮伸長率(%)=[(L1−L0)/L0]×100%
L0:カセ取り(1m×10回巻)によりサンプリングした繊維カセに処理荷重1.8×10−3cN/dtexの荷重を吊した状態で90℃熱水処理を20分間行い、温水処理後濾紙で水分を取った後、処理荷重を外し、20℃、70%RHの恒温恒湿室にて12時間乾燥する。処理したサンプルに初荷重1.8×10−3cN/dtexを吊し、30秒後のカセ長
L1:L0測定後、初荷重を取り除いて重荷重88.2×10−3cN/dtexを吊して30秒後のカセ長
(3)嵩高度
図6は嵩高度Bを測定する装置の斜視図であり、図7はこの装置による測定方法を説明するための見取り図である。試料台1の上面に2本の切り込み6を設け、その外側縁部間の間隔を6cmとし、この切り込みに巾2.5cm、厚さ5μmのPETフィルム2を掛け渡し、その下に指針付き金具3及び荷重4を結合する。金具3の指針は、試料を装着しない場合に目盛5のゼロ位を示すようにセットする。試料は周長1mの検尺機を用いて表示繊度50000dtex、糸長50cmとなるようにカセを巻き取る。次いで得られたカセ7を図7の正面図(a)及び断面図(b)に示すようにPETフィルム2と試料台1との間に差し入れ、縮んでいる試料を引っ張り、カセ長25cmになるようにカセ7を固定する。荷重4は指針付き金具3と合計して50gになるようにし、ゆっくりと荷重をかけた後、指針の示すL(cm)を読みとる。測定は3回行い、平均のL値から次式によって嵩高度Bを算出する。
B(m3/kg) = フィルム中の体積V/フィルム中の糸重量W
V(m3)=L2/π×2.5×10−6
W(kg)=50000×(0.5/0.25)×(0.025/10000)×10−3=0.25×10−3
(4)強度、伸度
JIS L1013(1999)に従い、初期荷重0.089cN/dtexとしてオリエンテックス製テンシロンUCT−100にて測定した。
(5)湿熱収縮率(沸収)
以下に示す式にて湿熱収縮率を測定した。
湿熱収縮率(%)=[(L1−L0)/L0]×100%
L0:カセ取り(1m×10回巻)によりサンプリングした繊維カセに、0.176cN/dtexの荷重を吊した状態のカセ長
L1:荷重を吊した状態で98℃の熱水に入れて15分間処理した後、濾紙で水分を取り、20℃、70%RHの恒温恒湿室にて30分乾燥後のカセ長
(6)乾熱収縮率(乾収)
以下に示す式にて乾熱収縮率を測定した。
乾熱収縮率(%)=[(L1−L0)/L0]×100%
L0:カセ取り(1m×10回巻)によりサンプリングした繊維カセに、0.176cN/dtexの荷重を吊した状態のカセ長
L1:荷重を吊した状態で160℃の高温乾燥機に入れて15分間処理し、高温乾燥機を40℃まで冷却した後取り出したときのカセ長
(7)繊度変動率(U%)
ツエルベガーウースター社製ウースターテスターUT−4CXを用い、下記の測定条件にて繊度変動チャート(Diagram Mass)を得ると同時に、U%(half inert)を測定した。
給糸速度 :200m/分
測定糸長 :200m
ツイスター :S撚 12000ターン/分
ディスクテンション強さ:10%
スケール :−10%〜+10%
(8)布帛表面品位
製品巻取後、室温にて1ヶ月保管した嵩高性ポリエステル複合繊維をフロント糸、バック糸に用い、中糸に33dtexのPET糸を用いて28ゲージの丸編ダンボール組織を編成し、染料としてテトラシールネイビーブルーSGL0.275%owf、助剤としてテトロシンPE−C5.0%owf、分散剤としてニッカサンソルト#12001.0%owfを用い、浴比1:100にて50℃15分、さらに90℃20分にて染色を行った。染色後のサンプルは染色斑、スジ状欠点の有無を総合的に官能検査し、以下の4段階で評価した。合格レベルは○以上である。
○○:非常に均質で優れた品位である
○ :出荷可能な程度の軽微な欠点が存在する
△ :出荷不可能な欠点が存在する
× :出荷不可能な重大な欠点が存在する
(9)ストレッチバック性
ストレッチバック性を主体に、適度なハリ・コシ・反発感を加味し熟練者5名による官能評価を行い、4段階判定法で評価した。合格レベルは○以上である。
○○:従来製品に比べて非常に優れている
○ :従来製品に比べて良好である
△ :従来製品と同等レベル
× :従来製品に比べて劣っている
実施例1
固有粘度1.43の3GTと固有粘度0.51のPETを、それぞれエクストルーダーを用いて285℃、260℃にて溶融後、ポンプによる計量を行い、ポリマー温度270℃にてサイドバイサイド型断面形状の異形度が2.5、2.1、1.8の3種類の異なる単糸がそれぞれ8フィラメントずつとなるよう形成すべく口金に流入させた。複合比は3GT:PET=50:50の割合となるようにポンプ計量を行った。各ポリマーの配管通過時間は、3GTが12分、PETは8分であった。口金から吐出された糸条は、図8の設備にて紡糸・延伸した。すなわち、冷却、油剤付与後、1250m/分の速度で55℃に加熱された第1ホットローラ(以下HRと称する)12に引き取られ、一旦巻き取ることなく、4200m/分の速度で155℃に加熱された第2HR13に引き回し、延伸、熱セットを行った。さらに、4000m/分にて2個のゴデットローラ(以下GRと称する)15、16に引き回した後、コンタクトローラ(以下CRと称する)17に速度3980m/分にて巻き取り、図9に示すような3種類の異形度の異なる単糸から構成された56dtex−24フィラメントの嵩高性ポリエステル複合繊維を得た。この嵩高性ポリエステル複合繊維の特性評価結果は表1の通りであり、非常に優れた布帛表面品位とストレッチバック性が得られた。
【0041】
実施例2〜11、比較例1〜5
表1、表2のとおりの製造条件でDSD法にて嵩高性ポリエステル複合繊維を得た。尚、表1、2の異形度の複合繊維は口金を適宜変更することで得ている。
【0042】
実施例2においては、サイドバイサイド型断面形状の異形度を1.8、2.3の2種類で、それぞれ14フィラメント、10フィラメントとしたが、布帛表面品位とストレッチバック性において、実施例1に一歩譲るものの優れたものが得られた。
【0043】
実施例3においては、サイドバイサイド型断面形状の異形度を2.3、2.1の2種類で、それぞれ14フィラメント、10フィラメントとしたが、布帛表面品位とストレッチバック性において、実施例1に一歩譲るものの優れたものが得られた。
【0044】
実施例4においては吐出量および口金を変更し、サイドバイサイド型断面形状の異形度を2.3、1.8、1.4の3種類のそれぞれ4フィラメントずつの33dtex−12フィラメントのポリエステル複合繊維としたが、ストレッチバック性において、実施例1に一歩譲るものの布帛表面品位に非常に優れたものが得られた。
【0045】
実施例5においてはポリマー成分をともに3GTとしたが、布帛表面品位とストレッチバック性において、実施例1に一歩譲るものの良好なものが得られた。
【0046】
実施例6においては、ポリマー成分を固有粘度がそれぞれ0.85、0.51のPETとし、断面形状の異形度を2.5、2.0、1.5の3種類のそれぞれ16フィラメントずつ56dtex−48フィラメントのポリエステル複合繊維としたが、布帛表面品位とストレッチバック性において、実施例1に一歩譲るものの合格レベルのものが得られた。
実施例7においては、断面形状の異形度を2.5、2.0、1.5の3種類のそれぞれ16フィラメントずつとしが、布帛表面品位とストレッチバック性において、実施例1と同等の非常に優れるものが得られた。
【0047】
実施例8においては、断面形状の異形度を2.0、1.9、1.8の3種類の、それぞれ4フィラメントずつとしたが、布帛表面品位とストレッチバック性において実施例1に一歩譲るものの、良好なものが得られた。
【0048】
実施例9においては、断面形状の異形度を3.0、1.0の2種類の、それぞれ12フィラメントずつとしたが、布帛表面品位とストレッチバック性において実施例1に一歩譲るものの、良好なものが得られた。
【0049】
実施例10においては、3GTの固有粘度を1.82、PETの固有粘度を0.51としたが、布帛表面品位とストレッチバック性において、実施例1と同等の非常に優れるものが得られた。
【0050】
実施例11においては、3GTの固有粘度を1.02、PETの固有粘度を0.51としたが、実施例1と対比して高収縮ポリエステルと低収縮ポリエステル成分の収縮差が小さく、布帛表面品位とストレッチバック性において実施例1に一歩譲るものの、良好なものが得られた。
【0051】
一方、比較例1においては、断面形状の異形度が1.8である単一の単糸から構成されているポリエステル複合繊維としたが、異形度の分散が小さいために捲縮位相のずれが小さく、嵩高度の低いものとなり、布帛表面品位においては実施例1に大きく及ばないものとなった。
【0052】
比較例2においては、断面形状の異形度を1.8、1.9の2種類の、それぞれ14フィラメント、10フィラメントずつとしたが、ストレッチバック性においては実施例1と同等に非常に優れたものであるものの、異形度の分散が小さいために捲縮位相のずれが小さく、嵩高度の低いものとなり、布帛表面品位においては実施例1に大きく及ばないものとなった。
【0053】
比較例3においては、特開2004−323991の実施例10を参考にし、ポリマー成分を固有粘度がそれぞれ1.90、1.20となる3GTとし、断面形状の異形度が1.1で断面積比が1.2となるような単糸から構成されているポリエステル複合繊維としたが、ストレッチバック性においては実施例1と同等に非常に優れたものであるものの、布帛表面品位においては異形度の分散が小さいために捲縮位相のずれが小さく、嵩高度の低いものとなり、実施例1より著しく劣るものとなった。
【0054】
比較例4においては断面形状の異形度を4.0、1.0の2種類の、それぞれ12フィラメントずつとしたが、異形度が極端に異なる2群であるため捲縮(クリンプ)の位相が二極化してしまい、嵩高度が上がらず、布帛表面品位において実施例1より著しく劣るものとなった。
【0055】
比較例5においては、ポリマー成分を固有粘度1.02の3GTと固有粘度0.78のPETのとしたが、実施例1と対比して高収縮ポリエステルと低収縮ポリエステル成分の収縮差が小さいため伸縮伸長率が低くなり、ストレッチ性において実施例1に一歩譲るものとなった。また布帛表面品位においてもポリエステル成分の収縮差が小さいために嵩高度が低いものとなり、実施例1に大きく及ばないものとなった。
【0056】
【表1】
【0057】
【表2】
【0058】
実施例12、比較例6〜7
表3のとおりの製造条件にて2工程法で嵩高性ポリエステル複合繊維を得た。尚、表3の異形度の複合繊維は口金を適宜変更することで得ている。
【0059】
実施例12においては、ポリマー成分を固有粘度がそれぞれ0.85と0.51のPETとした。これらをそれぞれ別々に溶融し、紡糸温度280℃で、断面形状の異形度が2.5、2.0、1.5の3種類の異なる単糸がそれぞれ16フィラメントずつとなるよう口金に流入させた。これを紡糸速度1450m/分で引取り145dtex−24フィラメントの未延伸糸を得た。該未延伸糸を図10に示す延伸機を用い、90℃に加熱した供給ローラ(以下供給Rと称する)20と引取りローラ(DR)22の間で2.6倍に延伸しながら、供給ローラと引取りローラの間に設けた150℃の熱板上を走行させて熱処理を施し、800m/分で巻き取って、56dtex−24フィラメントのポリエステル複合繊維を得た。該ポリエステル複合繊維の特性評価結果は表3の通りであり、布帛表面品位とストレッチバック性において、実施例1に一歩譲るものの合格レベルのものが得られた。
【0060】
比較例6においては、特開平01−266220の実施例1を参考にした。ポリマー成分Aに固有粘度0.68のPET、ポリマー成分Bにジカルボン酸成分に5−ナトリウムスルホイソフタル酸を2.3モル%、アジピン酸を4.8モル%共重合体成分として含む固有粘度が0.57の改質PETを用いて、単糸群が、(1)A成分とB成分の複合比率が50:50で、異形度が1.0の単糸 (2)A成分のみからなる単糸(異形度を0とする) (3)B成分のみからなる単糸(異形度を0とする) の3群からなるようなポリエステル複合繊維を得た。該ポリエステル複合繊維特性評価結果は表3の通りであり、ストレッチバック性、布帛表面品位ともに実施例1より著しく劣るものとなった。
【0061】
比較例7においては、ポリマー成分を固有粘度がそれぞれ0.78、0.51のPETとし、断面形状の異形度が1.0の、単一の単糸から構成されている56dtex−12フィラメントのポリエステル複合繊維としたが、高粘度ポリエステルと低粘度ポリエスエルの収縮差が小さいため伸縮伸長率が低くなり、ストレッチバック性において実施例1に大きく及ばないものとなった。また、布帛表面品位においては異形度の分散が小さいために捲縮位相のずれが小さく、嵩高度が低いものとなり、実施例1に著しく劣るものとなった。
【0062】
【表3】
【0063】
実施例13、比較例8
表4のとおりの製造条件にて2工程法で嵩高性ポリエステル複合繊維を得た。尚、表4の異形度の複合繊維は口金を適宜変更することで得ている。
【0064】
実施例13においては、ポリマー成分を固有粘度が1.43の3GTと0.51のPETとした。これらをそれぞれ別々に溶融し、紡糸温度270℃で、断面形状の異形度が2.5、2.1、1.8の3種類の異なる単糸がそれぞれ8フィラメントずつとなるよう口金に流入させた。これを紡糸速度1400m/分で引取り156dtex−24フィラメントのサイドサイド型複合構造未延伸糸を得た。さらに該未延伸糸を環境温度25℃×2日間エージングした後、図11に示す延伸機を用い、第1HR25温度70℃、第2HR26温度35℃、第1HR、第2HR間延伸倍率3.2倍で延伸、さらに第3HR27温度170℃で第2HR、第3HR間のリラックス率13%とし、第3HRと引取ローラ(以下DRと称す)28の間で1.02倍に延伸し、56dtex−24フィラメントのポリエステル複合繊維を得た。該ポリエステル複合繊維の特性評価結果は表4の通りであり、布帛表面品位とストレッチバック性において、実施例1と同等の非常に優れるものが得られた。
【0065】
比較例8においては特開2002−61031の実施例1を参考にした。ポリマー成分を、固有粘度が1.38の3GTと固有粘度が0.65の3GTとし、異形度が1.0の単一の単糸から成る84dtex−36フィラメントのポリエステル複合繊維を得た。該ポリエステル複合繊維の特性評価結果は表4の通りであり、ストレッチバック性においては実施例1と同等に非常に優れたものであるものの、布帛表面品位においては異形度の分散が小さいために捲縮位相のずれが小さく、嵩高度の低いものとなり、実施例1に大きく及ばないものとなった。
【0066】
【表4】
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明における単糸断面形状の異形度の定義について説明するための図を示す。
【図2】本発明におけるポリエステル複合繊維を構成する単糸群の一例を示す。
【図3】本発明におけるポリエステル複合繊維の単糸の断面形状の一例を示す。
【図4】本発明のポリエステル複合繊維を製造するために好ましく用いられる紡糸口金の縦断面図の一例を示す。
【図5】伸縮伸長率の測定方法を説明するための図を示す。
【図6】嵩高度を測定するための装置の斜視図を示す。
【図7】嵩高度の測定方法を示す見取り図を示す。
【図8】本発明の実施例で用いる直接紡糸延伸装置の概略図を示す。
【図9】本発明(実施例1)で得られたポリエステル複合繊維を構成する単糸群の断面形状を示す。
【図10】本発明の実施例で用いる延伸装置の概略図を示す。
【図11】本発明の実施例で用いる延伸装置の概略図を示す。
【符号の説明】
【0068】
1:試料台
2:PETフィルム
3:指針具付き金具
4:荷重
5:目盛
6:切り込み
7:カセ
8:口金
9:糸条冷却送風装置
10:油剤付与装置
11:交絡装置
12:第1ホットロール
13:第2ホットロール
14: 交絡装置
15:第3ゴデットローラ
16:第4ゴデットローラ
17:コンタクトローラ
18:パッケージ
19:未延伸糸
20:供給ローラ
21:熱板
22:引取ローラ
23:未延伸糸
24:供給ローラ
25:第1ホットローラ
26:第2ホットローラ
27:第3ホットローラ
28:引取ローラ
29:延伸糸
【技術分野】
【0001】
本発明は織編物用途に適した嵩高性ポリエステル複合繊維に関する。更に詳しくは、編物のフロント糸及び/又はバック糸に使用した際に、バンド状斑やスジ状欠点を発生することなく、優れた品位とソフトな風合い及びストレッチ特性を発現する嵩高性ポリエステル複合繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、織編物のなかでもストレッチ性能を付与したストレッチ織編物が、その着用感から強く要望されている。かかる要望を満足するために、例えば、ポリウレタン系の繊維を混繊することにより、ストレッチ性を付与した織編物が多数用いられている。しかし、ポリウレタン系繊維は、ポリエステル系染料に染まり難いために染色工程が煩雑になることや、長時間の使用時に脆化し、性能が低下するなどの問題があり、特に水着用編物に展開した場合、水に含まれる塩素によりポリウレタン系繊維が脆化し、十分な機能を付与できていない。こうした欠点を回避する目的で、ポリウレタン系繊維の代わりに、ポリエステル系繊維の捲縮糸の応用が検討されている。
【0003】
近年ポリトリメチレンテレフタレート(以下3GTと称す)の伸長回復性に着目して、3GT系捲縮糸が提案されている。特に、2種類のポリマーをサイドバイサイド型または偏芯的に貼合わせて、熱処理後に捲縮を発現させる潜在捲縮繊維が多数提案されている。しかし、これらの3GT系複合繊維を布帛拘束力の弱い編物に使用すると個々の単糸の捲縮(クリンプ)の位相が一致してバンド状斑やスジ状欠点が発生し、ニット分野への展開が制約される問題があった。
【0004】
特許文献1には、少なくとも一方の成分に3GTを用いたサイドバイサイド型2成分系複合繊維が開示されている。この先行技術には、3GT系複合繊維の製造において、ポリマー吐出条件と冷却条件を特定することにより繊度変動値U%を飛躍的に改良する方法が開示されており、薄地織物に経糸及び/又は緯糸に使用した際に、バンド状斑やスジ状欠点を発生することなく、優れた品位とソフトな風合い及びストレッチ特性を発現させることが可能であることが開示されている。しかし、該公報に開示されている複合繊維は、マルチフィラメントを構成する単糸は実質的に丸断面であって嵩高度が低く、また単糸断面のバラツキがないことを効果としており、編物に使用した場合個々の単糸の捲縮(クリンプ)の位相の一致によるバンド状斑やスジ状欠点が発生し、良好な品位の編物を得ることができない。
【0005】
また、特許文献2には少なくとも一方の成分に3GTを用いるか、両方の成分に固有粘度の異なる3GTを用いたサイドバイサイド型2成分系複合繊維が開示されている。この3GT系複合繊維はソフトな風合いと良好な捲縮発現特性を有することが特徴である。この先行技術には、伸縮性と伸長回復性を有し、この特性を活かして種々のストレッチ織編物或いは嵩高性織編物への応用が可能であることが記載されている。沸水処理以前にも高い捲縮を有し、嵩高性に優れるPTT系複合繊維が開示されているが、しかし、該公報に開示されている複合繊維は、マルチフィラメントを構成する単糸の断面形状は同一であって、嵩高度が低く、編物においてバンド状斑やスジ状欠点が発生する。
【0006】
特許文献3、特許文献4には高粘度ポリエステル成分と低粘度ポリエステル成分をサイドバイサイド型に接合させる際に複合比率が単糸間で異なるようにすることでランダム感を付与させ、また高粘度ポリエステル成分、低粘度ポリエステル成分のみの各単糸を混在させ、適度な膨らみ感、嵩高性とハリ・コシ感を付与する方法が開示されている。しかし、該方法により得られるポリエステル複合繊維は単糸間で強伸度レベルが異なるため製糸性が不安定であり、その上、糸そのものが捲縮を有さない単糸を含むため、粗硬感が強調されるものとなる。また、低粘度ポリエステル成分の単成分フィラメントも同時紡糸されるため、製糸安定化の面から高粘度ポリエステル成分と低粘度ポリエステル成分との極限粘度差を大きくできず、捲縮発現性が乏しい膨らみ感のないフラットな風合いであった。
又、特許文献5にはポリマー特性差による収縮差からなる異形断面サイドバイサイド型ポリエステル複合繊維において、複合接合面状態が異なる2群以上の単糸群で構成することにより天然繊維ライクな膨らみ感・嵩高性と共にストレッチ性、張り腰・反発性を付与する方法が開示されている。しかし、該公報に記載された発明は、実質的に多葉断面であり、ストレッチ性が弱く嵩高度も低いため編物においてバンド状斑やスジ状欠点の発生を改善できない。
【0007】
したがって、主に編物用途に使用してバンド状やスジ状欠点の発生がなく、良好な表面平坦性と表面品位を有し、しかも適度なストレッチ性を呈することができる複合繊維の出現が強く求められていた。
【特許文献1】特開2004−323991号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2002−061031号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開平01−266220号公報(特許請求の範囲)
【特許文献4】特開平09−041233号公報(特許請求の範囲)
【特許文献5】特開2004−011067号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、良好なストレッチ性を有する嵩高性ポリエステル複合繊維において、それを用いた織編物を製作する際、バンド状斑やスジ状欠点の発生による表面品位欠点のない嵩高性ポリエステル複合繊維を提供することにある。
【0009】
更に、織編物において良好な表面品位を有し、しかも適度なストレッチ性を呈することができる嵩高性ポリエステル複合繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題を解決すべく検討した結果、ポリエステル複合繊維において、マルチフィラメントを構成する単糸の断面形状および複合繊維の嵩高度を制御することで編物布帛の表面品位が飛躍的に向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明の課題は、以下の(1)〜(5)に記載の項目を採用することにより達成される。
(1)2種の固有粘度のポリエステルからなるサイドバイサイド型複合繊維であって、2群以上の異形度の異なる単糸群から構成されており、以下の要件を満足することを特徴とする嵩高性ポリエステル複合繊維。
(A)伸縮伸長率S 20≦S≦150(%)
(B)嵩高度B 71×10−3≦B≦200×10−3(m3/kg)
但し、異形度は次式により算出されるものである。
各単糸の異形度 = 長軸長/短軸長
長軸長:各単糸の断面の外接円の直径
短軸長:各単糸の断面複合界面と繊維表面との交点の2点間の距離
(2)単糸の異形度の分散VDが以下の(C)の要件を満足することを特徴とする(1)記載の嵩高性ポリエステル複合繊維。
(C)0.4<VD<150
但し、異形度の分散VDは式1により算出されるものである。
【0012】
【数1】
【0013】
(3)単糸を構成する少なくとも一方の成分がポリトリメチレンテレフタレートであることを特徴とする(1)、または(2)記載の嵩高性ポリエステル複合繊維。
(4)少なくとも一部が(1)〜(3)のいずれかの嵩高性ポリエステル複合繊維からなる繊維製品。
(5)少なくとも一部が(1)〜(3)のいずれかの嵩高性ポリエステル複合繊維からなるニット製品。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、従来技術では達成し得なかったバンド状斑やスジ状欠点のない表面品位の良好なストレッチ性織編物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下本発明を詳細に説明する。
【0016】
本発明の複合繊維は、良好な捲縮特性を得るために、高粘度ポリエステル成分と低粘度ポリエステル成分がサイドバイサイド型に貼り合わされた形態をとる必要がある。粘度の異なるポリエスエルをサイドバイサイド型に貼り合わせることによって、紡糸、延伸時に高粘度側に応力が集中するため、各成分間で内部歪みが異なる。そのため、延伸後の弾性回復率差および布帛の熱処理工程での熱収縮差により高粘度側が大きく収縮し、単糸内で歪みが生じて3次元コイルの形態をとる。この3次元コイルの径および単位繊維長当たりのコイル数は、高粘度成分と低粘度成分との収縮差によって決まるといってもよく、ストレッチ素材として要求されるコイル捲縮特性を満足するためには、ポリエステル成分の固有粘度差が必要となってくる。
【0017】
本発明におけるポリエステル成分の固有粘度は、高粘度成分において0.7〜2.0が好ましく、固有粘度が0.7以上とすることで充分な強度と伸度を兼ね備えた繊維を製造することが容易となる。より好ましい固有粘度は0.8以上である。また固有粘度2.0以下とすることで、生産安定性が得られやすい。より好ましい固有粘度は1.8以下である。一方、低粘度側のポリエステル成分は、固有粘度を0.4以上にすることで安定した製糸性が得られ好ましい。より好ましくは0.50以上である。さらに高い捲縮特性を得るためには、0.7以下であることが好ましい。
【0018】
さらに、ポリエステル成分の高粘度成分と低粘度成分の固有粘度差を0.3以上とすることにより捲縮特性に優れた原糸となるが、0.5以上と大きくすると、さらに伸縮性の優れた原糸となるので好ましい。一方固有粘度差が1.5を越えると、得られる糸の捲縮特性は良好であるものの、紡糸糸条が高粘度成分側に過度に曲がるため、長時間にわたって安定して製糸することができず、好ましくない。したがって、安定した製糸性とストレッチ回復性の両方を満たすため、固有粘度差は0.3以上1.5以下とすることが望ましい。
【0019】
ここで、本発明のポリエステル成分は高粘度成分および低粘度成分の界面接着性が良好で、製糸性が安定している繊維形成性ポリエステルであれば特に限定されるものではない。ただし、力学的特性、化学的特性および原料価格を考慮すると、繊維形成性のあるポリエチレンテレフタレート(以下PETと称す)、3GT、ポリブチレンテレフタレート(以下PBTと称す)が好ましい。また、3GT、PET、PBTの他、ポリ乳酸(PLA)や、これらに第3成分を共重合させたもの、あるいはこれらの混合ポリマーを用いてもよい。
【0020】
本発明での3GTとは、90モル%以上がトリメチレンテレフタレートの繰り返し単位からなる3GTであり、1,3−プロパンジオールを主たるグリコール成分として得られるポリエステルである。ただし、10モル%以下の割合で他のエステル結合を形成可能な共重合成分を含むものであっても良い。共重合可能な化合物として、例えばイソフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、ダイマ酸、セバシン酸などのジカルボンサン類、一方、グリコール成分として、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどを挙げることができるが、これらに限られるものではない。また、艶消剤として、二酸化チタン、滑剤としてのシリカやアルミナの微粒子、抗酸化剤として、ヒンダードフェノール誘導体、着色顔料などを必要に応じて添加することができる。
【0021】
一方、本発明でのPETとは、テレフタル酸を主たる酸成分としエチレングリコールを主たるグリコール成分とする、90モル%以上がエチレンレンテレフタレートの繰り返し単位からなる得られるポリエステルである。ただし、10モル%以下の割合で他のエステル結合を形成可能な共重合成分を含むものであっても良い。共重合可能な化合物として、例えばイソフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、ダイマ酸、セバシン酸などのジカルボンサン類、一方、グリコール成分として、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどを挙げることができるが、これらに限られるものではない。また、艶消剤として、二酸化チタン、滑剤としてのシリカやアルミナの微粒子、抗酸化剤として、ヒンダードフェノール誘導体、着色顔料などを必要に応じて添加することができる。
【0022】
また、本発明でのPBTとは、90モル%以上がテトラメチレンテレフタレートの繰り返し単位からなるPBTであり、1,4−ブタンジオールを主たるグリコール成分として得られるポリエステルである。ただし、10モル%以下の割合で他のエステル結合を形成可能な共重合成分を含むものであっても良い。共重合可能な化合物として、例えばイソフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、ダイマ酸、セバシン酸などのジカルボンサン類、一方、グリコール成分として、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどを挙げることができるが、これらに限られるものではない。また、艶消剤として、二酸化チタン、滑剤としてのシリカやアルミナの微粒子、抗酸化剤として、ヒンダードフェノール誘導体、着色顔料などを必要に応じて添加することができる。
【0023】
また、本発明におけるPLAとは、90モル%以上が-(O-CHCH3-CO)n-)を繰り返し単位とするポリマーであり、乳酸やオリゴマーを重合したものをいう。ただし、10モル%以下の範囲で共重合成分や多官能性化合物などを添加してもよい。
【0024】
また本発明の複合繊維は、単糸を構成する少なくとも一方の成分が3GTであり、他方の成分が他のポリエステルからなる複合繊維であることが好ましい。即ち、3GTと他のポリエステルの組み合わせや、3GT同士の組み合わせが好ましい。繊維のコイル捲縮特性は、低粘度成分を支点とした高粘度成分の伸縮特性が支配的である。そのためストレッチ素材として要求されるソフト感、および嵩高性を発現させることができるような繊維のコイル捲縮特性を得るためには、高粘度成分に用いるポリマーに特に高い伸長性および回復性が要求される。3GTはPETやPBT繊維と同等の力学的特性や化学的特性を有しつつ、伸長回復性が極めて優れており、良好なストレッチ性能を発現させることができる。
【0025】
次に、本発明の嵩高性ポリエステル複合繊維は、異形度の異なる2群以上の単糸群から構成されている必要がある。ここで、本発明で定義する異形度とは、図1に示すように各単糸の断面の外接円の直径である長軸長を、各単糸の断面の複合界面と繊維表面との交点の2点間の距離である短軸長で除した値であり、値の大きいほど扁平であることを示している。異形度の異なる2群以上の単糸群とは、例えば図2に例示するように、マルチフィラメントにおいて、異形度が異なる2種類以上の単糸が混在しているような場合を指す。これにより、布帛にハリ、コシが付与されて独特な風合いを呈し、布帛の表面に極めて好ましい効果が得られる。公知のように、サイドバイサイド型貼り合わせ複合繊維糸条では、個々の単糸の捲縮(クリンプ)の位相が一致して、あたかもスパイラル状のモノフィラメントの如き強く収束した外観を呈し易く、この収束部は布帛表面にスジ状となって現れ、同時に風合いが硬くなる。そのため、マルチフィラメントを構成する単糸の断面形状を制御して、異なる異形度の単糸を混在させることにより、捲縮の位相をずらした嵩高性ポリエステル複合繊維とすることが重要となる。
【0026】
本発明におけるポリエステル複合繊維の単糸の断面形状の例を図3に図示するが、勿論図示されたものに限定されるものではない。
【0027】
ここで、本発明の嵩高性ポリエステル複合繊維の異形度の分散VDは、式1で定義されるものであり、0.4<VD<150の範囲であることが好ましい。異形度の分散が0.4<VD<150の範囲内にすることにより、捲縮の位相をずらし、捲縮発現性のランダム感と、機能性を付与することができる。
【0028】
【数2】
【0029】
本発明の嵩高性ポリエステル複合繊維は、単糸を構成する2種のポリエステル成分の複合比、および単糸繊度が同一であることが好ましい。複合比および単糸繊度が同一であることにより、単糸間の強伸度バラツキを最小限に抑えることができ、安定した製糸および良好な品質、品位を得ることができる。尚、複合比および単糸繊度が同一とは、繊維横断面において、複合比は単糸を構成する2種のポリエステル成分の断面積比率が同一であることを示し、単糸繊度においては各単糸の断面積が同一であることを示し、それぞれ断面写真の面積比率で±3%までを同一とする。複合比は、製糸性、捲縮性能の発現性および繊維長さ方向のコイルの寸法均質性の点で、高粘度成分:低粘度成分=80:20〜20:80の範囲が好ましく、70:30〜30:70の範囲がより好ましい。また、単糸繊度は特に限定されるものではないが、本発明の嵩高性ポリエステル複合繊維を布帛、特に編物にした際にソフト感が得られる点で、0.3〜5.0dtexの範囲が好ましく、0.3〜3.0dtexの範囲より好ましい。
【0030】
次に、本発明の嵩高性ポリエステル複合繊維の物性について述べる。
【0031】
本発明の嵩高性ポリエステル複合繊維において、伸縮伸長率は布帛拘束下での捲縮発現能力が重要であることに着目し、後述の式に示すように、布帛内での拘束力に相当する荷重を繊維カセに吊して熱処理することで、布帛拘束下での捲縮発現能力を繊維カセの伸縮伸長率で表せるとした。この伸縮伸長率が高いほど捲縮発現能力が高いことを示しており、適度なストレッチを与えるためには20%以上150%以下である必要がある。伸縮伸長率が20%未満では布帛のストレッチ率が小さくなり、150%を越えると捲縮が強すぎて布帛の表面品位が悪くなる。伸縮伸長率は高いほど布帛にしたときのストレッチ性能が向上するため、好ましくは40〜150%、より好ましくは50〜150%である。上記のような伸縮伸長率を達成するためには、前述したように、2種の固有粘度のポリエステルからなるサイドバイサイド型複合繊維を用いればよく、固有粘度が大きければ伸縮伸長率が高くなる。また、一方に3GTを用いることによって伸縮伸長率が高く、ソフト性に富んだ複合繊維を得ることができる。
【0032】
また、本発明の嵩高性ポリエステル複合繊維は、構成する複合繊維間で捲縮位相がずれており、複合糸の嵩高度が高いものである。嵩高度を高くすることによって適度なふくらみを与えるとともに、ソフトで反発感のある布帛とすることができる。さらには捲縮位相のずれがコイル捲縮によるトルクの分散効果を高め、高品位な布帛とすることができる。前記の効果は嵩高度71×10−3〜200×10−3m3/kgで達成されるが、好ましくは80×10−3〜200×10−3m3/kg、より好ましくは90×10−3〜200×10−3m3/kgである。上記嵩高度を達成するためには、前述したように異形度の異なる2群以上の単糸群から構成された複合繊維を用いればよい。この点が公知の技術とは異なる点であり、優れた伸縮伸長率と嵩高度を両立させることが可能となる。
【0033】
本発明の嵩高性ポリエステル複合繊維は、破断伸度が20〜50%であることが好ましい。破断伸度を20%以上にすることで延伸切れの発生を抑えることができ、工業的に安定した製造が可能となる。または破断伸度を50%以下にすることで布帛において良好な引き裂き強度を得ることができる。更に好ましい破断伸度は25〜45%である。
【0034】
また、本発明の嵩高性ポリエステル複合繊維は、糸長手方向の太さ斑の指標であるウースター斑U%(half inert)は1.2%以下であるものが好ましい。これにより、布帛の染め斑の発生を回避できるのみならず、布帛にした際の糸の収縮斑を抑制し、美しい布帛表面を得ることができる。ウースター斑U%(half inert)はより好ましくは1.0%以下、さらに好ましくは0.8%以下である。
【0035】
また、布帛拘束力に打ち勝って、安定的にコイル捲縮させるためには、収縮応力および収縮応力の極大を示す温度も重要な特性となる場合がある。収縮応力は高いほど布帛拘束下での捲縮発現性がよく、収縮応力の極大を示す温度が高いほど仕上げ工程での取り扱いが容易となる。したがって、布帛の熱処理工程で捲縮発現性を高めるためには、収縮応力の極大を示す温度は110℃以上、好ましくは120℃以上、より好ましくは125℃以上であり、収縮応力の極大値は0.15cN/dtex以上、好ましくは0.18cN/dtex以上である。
【0036】
次いで、本発明の嵩高性ポリエステル複合繊維の製造方法について説明する。本発明のポリエステル複合繊維の製造方法は、異なる2種類のポリエステル成分を、複合紡糸機を用い、所定の複合パックを用い、マルチフィラメントが2群以上の異形度の異なる単糸群から構成されるような口金を用いて、サイドバイサイド型に貼り合わせて複合紡糸し、一旦未延伸糸を巻き取った後、通常の延伸機で所定の破断伸度となるように延伸する2工程法、または一旦巻き取ることなく引き続き延伸を行う1工程法のいずれかによっても製造することができる。但し、繊維長手方向での品質安定性、生産安定性を考慮すると、直接紡糸延伸法(以下、DSD法と称する)による生産が最も優れている。
【0037】
一般的に、サイドバイサイド型複合繊維を得るためには、例えば図4(a)のような口金が挙げられる。n本の単糸(nフィラメント)から成る複合繊維を得るためには、上部プレートにてそれぞれのポリエステルの計量が行われ、下部プレートにて両ポリエステルが合流し単糸断面形状が形成される。従来の技術では、下部プレートにおける吐出孔の形状がn個すべて同一であるため、通常の生産のバラツキ以上の異形度のバラツキを持った複合繊維を得ることは不可能であった。
【0038】
本発明においては、使用される口金は、下部プレートにおいて断面積は同一であるが形状を変える、例えば図4(b)に示すように、吐出孔の形状を、吐出孔1は異形度が1.0となるような丸形状、吐出孔2は異形度3.0となるような楕円形状というようしたりすれば意図的に異形度のバラツキを持った複合繊維を作り出すことができ、異形度のバラツキを制御できる。さらには、n本の単糸からなるマルチフィラメントを、n本すべて異形度の異なる単糸から構成させることが可能となる。
【0039】
本発明の嵩高性ポリエステル複合繊維の布帛形態は、織物、編物、不織布、さらにはクッション材など目的に応じて適宜選択でき、シャツ、ブラウス、パンツ、スーツ、ブラウス等に好適に用いることができる。主に編物としてシャツや水着、インナー等のニット製品に使用するのが好ましい。これは、本発明の嵩高性ポリエステル複合繊維を布帛拘束力の弱い編物に使用した際に、個々の単糸の捲縮(クリンプ)の位相が一致することなく、バンド状斑やスジ状欠点のない表面品位の良好な布帛を提供することができるからである。また、織物においてこのまま単独で経糸、緯糸に用いてもよく、他の糸と混繊して用いてもよく、本発明の複合繊維の特長を発揮させるいかなる方法を用いても何ら差し支えない。
【実施例】
【0040】
以下、実施例を挙げて具体的に説明するが本発明は実施例に限定されるものではない。なお、実施例の測定値は以下の方法で測定した。
(1)固有粘度
定義式のηrは、3GTについては、160℃の純度98%以上のo−クロロフェノール(以下OCPと略記する)10mL中に試料ポリマーを0.8g溶かし、25℃に冷却後、オストワルド粘度計を用いて相対粘度ηrを下式により求め、IVを算出した。他のポリマーについては、25℃の純度98%以上のOCP10mL中に試料ポリマーを0.8g溶かし、25℃にてオストワルド粘度計を用いて相対粘度ηrを下式により求め、IVを算出した。
ηr=η/η0=(t×d)/(t0×d0)
IV=0.0242ηr+0.2634
ここで、η:ポリマー溶液の粘度
η0:OCPの粘度
t:溶液の落下時間(秒)
d:溶液の密度(g/cm3)
t0:OCPの落下時間(秒)
d0:OCPの密度(g/cm3)
(2)伸縮伸長率
図5に示す方法にて熱処理を行い、以下に示す式にて伸縮伸長率を定義した。
伸縮伸長率(%)=[(L1−L0)/L0]×100%
L0:カセ取り(1m×10回巻)によりサンプリングした繊維カセに処理荷重1.8×10−3cN/dtexの荷重を吊した状態で90℃熱水処理を20分間行い、温水処理後濾紙で水分を取った後、処理荷重を外し、20℃、70%RHの恒温恒湿室にて12時間乾燥する。処理したサンプルに初荷重1.8×10−3cN/dtexを吊し、30秒後のカセ長
L1:L0測定後、初荷重を取り除いて重荷重88.2×10−3cN/dtexを吊して30秒後のカセ長
(3)嵩高度
図6は嵩高度Bを測定する装置の斜視図であり、図7はこの装置による測定方法を説明するための見取り図である。試料台1の上面に2本の切り込み6を設け、その外側縁部間の間隔を6cmとし、この切り込みに巾2.5cm、厚さ5μmのPETフィルム2を掛け渡し、その下に指針付き金具3及び荷重4を結合する。金具3の指針は、試料を装着しない場合に目盛5のゼロ位を示すようにセットする。試料は周長1mの検尺機を用いて表示繊度50000dtex、糸長50cmとなるようにカセを巻き取る。次いで得られたカセ7を図7の正面図(a)及び断面図(b)に示すようにPETフィルム2と試料台1との間に差し入れ、縮んでいる試料を引っ張り、カセ長25cmになるようにカセ7を固定する。荷重4は指針付き金具3と合計して50gになるようにし、ゆっくりと荷重をかけた後、指針の示すL(cm)を読みとる。測定は3回行い、平均のL値から次式によって嵩高度Bを算出する。
B(m3/kg) = フィルム中の体積V/フィルム中の糸重量W
V(m3)=L2/π×2.5×10−6
W(kg)=50000×(0.5/0.25)×(0.025/10000)×10−3=0.25×10−3
(4)強度、伸度
JIS L1013(1999)に従い、初期荷重0.089cN/dtexとしてオリエンテックス製テンシロンUCT−100にて測定した。
(5)湿熱収縮率(沸収)
以下に示す式にて湿熱収縮率を測定した。
湿熱収縮率(%)=[(L1−L0)/L0]×100%
L0:カセ取り(1m×10回巻)によりサンプリングした繊維カセに、0.176cN/dtexの荷重を吊した状態のカセ長
L1:荷重を吊した状態で98℃の熱水に入れて15分間処理した後、濾紙で水分を取り、20℃、70%RHの恒温恒湿室にて30分乾燥後のカセ長
(6)乾熱収縮率(乾収)
以下に示す式にて乾熱収縮率を測定した。
乾熱収縮率(%)=[(L1−L0)/L0]×100%
L0:カセ取り(1m×10回巻)によりサンプリングした繊維カセに、0.176cN/dtexの荷重を吊した状態のカセ長
L1:荷重を吊した状態で160℃の高温乾燥機に入れて15分間処理し、高温乾燥機を40℃まで冷却した後取り出したときのカセ長
(7)繊度変動率(U%)
ツエルベガーウースター社製ウースターテスターUT−4CXを用い、下記の測定条件にて繊度変動チャート(Diagram Mass)を得ると同時に、U%(half inert)を測定した。
給糸速度 :200m/分
測定糸長 :200m
ツイスター :S撚 12000ターン/分
ディスクテンション強さ:10%
スケール :−10%〜+10%
(8)布帛表面品位
製品巻取後、室温にて1ヶ月保管した嵩高性ポリエステル複合繊維をフロント糸、バック糸に用い、中糸に33dtexのPET糸を用いて28ゲージの丸編ダンボール組織を編成し、染料としてテトラシールネイビーブルーSGL0.275%owf、助剤としてテトロシンPE−C5.0%owf、分散剤としてニッカサンソルト#12001.0%owfを用い、浴比1:100にて50℃15分、さらに90℃20分にて染色を行った。染色後のサンプルは染色斑、スジ状欠点の有無を総合的に官能検査し、以下の4段階で評価した。合格レベルは○以上である。
○○:非常に均質で優れた品位である
○ :出荷可能な程度の軽微な欠点が存在する
△ :出荷不可能な欠点が存在する
× :出荷不可能な重大な欠点が存在する
(9)ストレッチバック性
ストレッチバック性を主体に、適度なハリ・コシ・反発感を加味し熟練者5名による官能評価を行い、4段階判定法で評価した。合格レベルは○以上である。
○○:従来製品に比べて非常に優れている
○ :従来製品に比べて良好である
△ :従来製品と同等レベル
× :従来製品に比べて劣っている
実施例1
固有粘度1.43の3GTと固有粘度0.51のPETを、それぞれエクストルーダーを用いて285℃、260℃にて溶融後、ポンプによる計量を行い、ポリマー温度270℃にてサイドバイサイド型断面形状の異形度が2.5、2.1、1.8の3種類の異なる単糸がそれぞれ8フィラメントずつとなるよう形成すべく口金に流入させた。複合比は3GT:PET=50:50の割合となるようにポンプ計量を行った。各ポリマーの配管通過時間は、3GTが12分、PETは8分であった。口金から吐出された糸条は、図8の設備にて紡糸・延伸した。すなわち、冷却、油剤付与後、1250m/分の速度で55℃に加熱された第1ホットローラ(以下HRと称する)12に引き取られ、一旦巻き取ることなく、4200m/分の速度で155℃に加熱された第2HR13に引き回し、延伸、熱セットを行った。さらに、4000m/分にて2個のゴデットローラ(以下GRと称する)15、16に引き回した後、コンタクトローラ(以下CRと称する)17に速度3980m/分にて巻き取り、図9に示すような3種類の異形度の異なる単糸から構成された56dtex−24フィラメントの嵩高性ポリエステル複合繊維を得た。この嵩高性ポリエステル複合繊維の特性評価結果は表1の通りであり、非常に優れた布帛表面品位とストレッチバック性が得られた。
【0041】
実施例2〜11、比較例1〜5
表1、表2のとおりの製造条件でDSD法にて嵩高性ポリエステル複合繊維を得た。尚、表1、2の異形度の複合繊維は口金を適宜変更することで得ている。
【0042】
実施例2においては、サイドバイサイド型断面形状の異形度を1.8、2.3の2種類で、それぞれ14フィラメント、10フィラメントとしたが、布帛表面品位とストレッチバック性において、実施例1に一歩譲るものの優れたものが得られた。
【0043】
実施例3においては、サイドバイサイド型断面形状の異形度を2.3、2.1の2種類で、それぞれ14フィラメント、10フィラメントとしたが、布帛表面品位とストレッチバック性において、実施例1に一歩譲るものの優れたものが得られた。
【0044】
実施例4においては吐出量および口金を変更し、サイドバイサイド型断面形状の異形度を2.3、1.8、1.4の3種類のそれぞれ4フィラメントずつの33dtex−12フィラメントのポリエステル複合繊維としたが、ストレッチバック性において、実施例1に一歩譲るものの布帛表面品位に非常に優れたものが得られた。
【0045】
実施例5においてはポリマー成分をともに3GTとしたが、布帛表面品位とストレッチバック性において、実施例1に一歩譲るものの良好なものが得られた。
【0046】
実施例6においては、ポリマー成分を固有粘度がそれぞれ0.85、0.51のPETとし、断面形状の異形度を2.5、2.0、1.5の3種類のそれぞれ16フィラメントずつ56dtex−48フィラメントのポリエステル複合繊維としたが、布帛表面品位とストレッチバック性において、実施例1に一歩譲るものの合格レベルのものが得られた。
実施例7においては、断面形状の異形度を2.5、2.0、1.5の3種類のそれぞれ16フィラメントずつとしが、布帛表面品位とストレッチバック性において、実施例1と同等の非常に優れるものが得られた。
【0047】
実施例8においては、断面形状の異形度を2.0、1.9、1.8の3種類の、それぞれ4フィラメントずつとしたが、布帛表面品位とストレッチバック性において実施例1に一歩譲るものの、良好なものが得られた。
【0048】
実施例9においては、断面形状の異形度を3.0、1.0の2種類の、それぞれ12フィラメントずつとしたが、布帛表面品位とストレッチバック性において実施例1に一歩譲るものの、良好なものが得られた。
【0049】
実施例10においては、3GTの固有粘度を1.82、PETの固有粘度を0.51としたが、布帛表面品位とストレッチバック性において、実施例1と同等の非常に優れるものが得られた。
【0050】
実施例11においては、3GTの固有粘度を1.02、PETの固有粘度を0.51としたが、実施例1と対比して高収縮ポリエステルと低収縮ポリエステル成分の収縮差が小さく、布帛表面品位とストレッチバック性において実施例1に一歩譲るものの、良好なものが得られた。
【0051】
一方、比較例1においては、断面形状の異形度が1.8である単一の単糸から構成されているポリエステル複合繊維としたが、異形度の分散が小さいために捲縮位相のずれが小さく、嵩高度の低いものとなり、布帛表面品位においては実施例1に大きく及ばないものとなった。
【0052】
比較例2においては、断面形状の異形度を1.8、1.9の2種類の、それぞれ14フィラメント、10フィラメントずつとしたが、ストレッチバック性においては実施例1と同等に非常に優れたものであるものの、異形度の分散が小さいために捲縮位相のずれが小さく、嵩高度の低いものとなり、布帛表面品位においては実施例1に大きく及ばないものとなった。
【0053】
比較例3においては、特開2004−323991の実施例10を参考にし、ポリマー成分を固有粘度がそれぞれ1.90、1.20となる3GTとし、断面形状の異形度が1.1で断面積比が1.2となるような単糸から構成されているポリエステル複合繊維としたが、ストレッチバック性においては実施例1と同等に非常に優れたものであるものの、布帛表面品位においては異形度の分散が小さいために捲縮位相のずれが小さく、嵩高度の低いものとなり、実施例1より著しく劣るものとなった。
【0054】
比較例4においては断面形状の異形度を4.0、1.0の2種類の、それぞれ12フィラメントずつとしたが、異形度が極端に異なる2群であるため捲縮(クリンプ)の位相が二極化してしまい、嵩高度が上がらず、布帛表面品位において実施例1より著しく劣るものとなった。
【0055】
比較例5においては、ポリマー成分を固有粘度1.02の3GTと固有粘度0.78のPETのとしたが、実施例1と対比して高収縮ポリエステルと低収縮ポリエステル成分の収縮差が小さいため伸縮伸長率が低くなり、ストレッチ性において実施例1に一歩譲るものとなった。また布帛表面品位においてもポリエステル成分の収縮差が小さいために嵩高度が低いものとなり、実施例1に大きく及ばないものとなった。
【0056】
【表1】
【0057】
【表2】
【0058】
実施例12、比較例6〜7
表3のとおりの製造条件にて2工程法で嵩高性ポリエステル複合繊維を得た。尚、表3の異形度の複合繊維は口金を適宜変更することで得ている。
【0059】
実施例12においては、ポリマー成分を固有粘度がそれぞれ0.85と0.51のPETとした。これらをそれぞれ別々に溶融し、紡糸温度280℃で、断面形状の異形度が2.5、2.0、1.5の3種類の異なる単糸がそれぞれ16フィラメントずつとなるよう口金に流入させた。これを紡糸速度1450m/分で引取り145dtex−24フィラメントの未延伸糸を得た。該未延伸糸を図10に示す延伸機を用い、90℃に加熱した供給ローラ(以下供給Rと称する)20と引取りローラ(DR)22の間で2.6倍に延伸しながら、供給ローラと引取りローラの間に設けた150℃の熱板上を走行させて熱処理を施し、800m/分で巻き取って、56dtex−24フィラメントのポリエステル複合繊維を得た。該ポリエステル複合繊維の特性評価結果は表3の通りであり、布帛表面品位とストレッチバック性において、実施例1に一歩譲るものの合格レベルのものが得られた。
【0060】
比較例6においては、特開平01−266220の実施例1を参考にした。ポリマー成分Aに固有粘度0.68のPET、ポリマー成分Bにジカルボン酸成分に5−ナトリウムスルホイソフタル酸を2.3モル%、アジピン酸を4.8モル%共重合体成分として含む固有粘度が0.57の改質PETを用いて、単糸群が、(1)A成分とB成分の複合比率が50:50で、異形度が1.0の単糸 (2)A成分のみからなる単糸(異形度を0とする) (3)B成分のみからなる単糸(異形度を0とする) の3群からなるようなポリエステル複合繊維を得た。該ポリエステル複合繊維特性評価結果は表3の通りであり、ストレッチバック性、布帛表面品位ともに実施例1より著しく劣るものとなった。
【0061】
比較例7においては、ポリマー成分を固有粘度がそれぞれ0.78、0.51のPETとし、断面形状の異形度が1.0の、単一の単糸から構成されている56dtex−12フィラメントのポリエステル複合繊維としたが、高粘度ポリエステルと低粘度ポリエスエルの収縮差が小さいため伸縮伸長率が低くなり、ストレッチバック性において実施例1に大きく及ばないものとなった。また、布帛表面品位においては異形度の分散が小さいために捲縮位相のずれが小さく、嵩高度が低いものとなり、実施例1に著しく劣るものとなった。
【0062】
【表3】
【0063】
実施例13、比較例8
表4のとおりの製造条件にて2工程法で嵩高性ポリエステル複合繊維を得た。尚、表4の異形度の複合繊維は口金を適宜変更することで得ている。
【0064】
実施例13においては、ポリマー成分を固有粘度が1.43の3GTと0.51のPETとした。これらをそれぞれ別々に溶融し、紡糸温度270℃で、断面形状の異形度が2.5、2.1、1.8の3種類の異なる単糸がそれぞれ8フィラメントずつとなるよう口金に流入させた。これを紡糸速度1400m/分で引取り156dtex−24フィラメントのサイドサイド型複合構造未延伸糸を得た。さらに該未延伸糸を環境温度25℃×2日間エージングした後、図11に示す延伸機を用い、第1HR25温度70℃、第2HR26温度35℃、第1HR、第2HR間延伸倍率3.2倍で延伸、さらに第3HR27温度170℃で第2HR、第3HR間のリラックス率13%とし、第3HRと引取ローラ(以下DRと称す)28の間で1.02倍に延伸し、56dtex−24フィラメントのポリエステル複合繊維を得た。該ポリエステル複合繊維の特性評価結果は表4の通りであり、布帛表面品位とストレッチバック性において、実施例1と同等の非常に優れるものが得られた。
【0065】
比較例8においては特開2002−61031の実施例1を参考にした。ポリマー成分を、固有粘度が1.38の3GTと固有粘度が0.65の3GTとし、異形度が1.0の単一の単糸から成る84dtex−36フィラメントのポリエステル複合繊維を得た。該ポリエステル複合繊維の特性評価結果は表4の通りであり、ストレッチバック性においては実施例1と同等に非常に優れたものであるものの、布帛表面品位においては異形度の分散が小さいために捲縮位相のずれが小さく、嵩高度の低いものとなり、実施例1に大きく及ばないものとなった。
【0066】
【表4】
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明における単糸断面形状の異形度の定義について説明するための図を示す。
【図2】本発明におけるポリエステル複合繊維を構成する単糸群の一例を示す。
【図3】本発明におけるポリエステル複合繊維の単糸の断面形状の一例を示す。
【図4】本発明のポリエステル複合繊維を製造するために好ましく用いられる紡糸口金の縦断面図の一例を示す。
【図5】伸縮伸長率の測定方法を説明するための図を示す。
【図6】嵩高度を測定するための装置の斜視図を示す。
【図7】嵩高度の測定方法を示す見取り図を示す。
【図8】本発明の実施例で用いる直接紡糸延伸装置の概略図を示す。
【図9】本発明(実施例1)で得られたポリエステル複合繊維を構成する単糸群の断面形状を示す。
【図10】本発明の実施例で用いる延伸装置の概略図を示す。
【図11】本発明の実施例で用いる延伸装置の概略図を示す。
【符号の説明】
【0068】
1:試料台
2:PETフィルム
3:指針具付き金具
4:荷重
5:目盛
6:切り込み
7:カセ
8:口金
9:糸条冷却送風装置
10:油剤付与装置
11:交絡装置
12:第1ホットロール
13:第2ホットロール
14: 交絡装置
15:第3ゴデットローラ
16:第4ゴデットローラ
17:コンタクトローラ
18:パッケージ
19:未延伸糸
20:供給ローラ
21:熱板
22:引取ローラ
23:未延伸糸
24:供給ローラ
25:第1ホットローラ
26:第2ホットローラ
27:第3ホットローラ
28:引取ローラ
29:延伸糸
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2種の固有粘度のポリエステルからなるサイドバイサイド型複合繊維であって、2群以上の異形度の異なる単糸群から構成されており、以下の要件を満足することを特徴とする嵩高性ポリエステル複合繊維。
(A)伸縮伸長率S 20≦S≦150(%)
(B)嵩高度B 71×10−3≦B≦200×10−3(m3/kg)
但し、異形度は次式により算出されるものである。
各単糸の異形度 = 長軸長/短軸長
長軸長:各単糸の断面の外接円の直径
短軸長:各単糸の断面複合界面と繊維表面との交点の2点間の距離
【請求項2】
単糸の異形度の分散VDが以下の(C)の要件を満足することを特徴とする請求項1記載の嵩高性ポリエステル複合繊維。
(C)0.4<VD<150
但し、異形度の分散VDは式1により算出されるものである。
【数1】
【請求項3】
単糸を構成する少なくとも一方の成分がポリトリメチレンテレフタレートであることを特徴とする請求項1、または2記載の嵩高性ポリエステル複合繊維。
【請求項4】
少なくとも一部が請求項1〜3のいずれかの嵩高性ポリエステル複合繊維からなる繊維製品。
【請求項5】
少なくとも一部が請求項1〜3のいずれかの嵩高性ポリエステル複合繊維からなるニット製品。
【請求項1】
2種の固有粘度のポリエステルからなるサイドバイサイド型複合繊維であって、2群以上の異形度の異なる単糸群から構成されており、以下の要件を満足することを特徴とする嵩高性ポリエステル複合繊維。
(A)伸縮伸長率S 20≦S≦150(%)
(B)嵩高度B 71×10−3≦B≦200×10−3(m3/kg)
但し、異形度は次式により算出されるものである。
各単糸の異形度 = 長軸長/短軸長
長軸長:各単糸の断面の外接円の直径
短軸長:各単糸の断面複合界面と繊維表面との交点の2点間の距離
【請求項2】
単糸の異形度の分散VDが以下の(C)の要件を満足することを特徴とする請求項1記載の嵩高性ポリエステル複合繊維。
(C)0.4<VD<150
但し、異形度の分散VDは式1により算出されるものである。
【数1】
【請求項3】
単糸を構成する少なくとも一方の成分がポリトリメチレンテレフタレートであることを特徴とする請求項1、または2記載の嵩高性ポリエステル複合繊維。
【請求項4】
少なくとも一部が請求項1〜3のいずれかの嵩高性ポリエステル複合繊維からなる繊維製品。
【請求項5】
少なくとも一部が請求項1〜3のいずれかの嵩高性ポリエステル複合繊維からなるニット製品。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2007−247107(P2007−247107A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−74033(P2006−74033)
【出願日】平成18年3月17日(2006.3.17)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年3月17日(2006.3.17)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】
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