説明

工作機械及び工作方法

【課題】回転速度を指定した主軸の回転指令を実行する場合に生じる待ち時間の影響を低減し、工作時間を短縮することができる工作機械及び工作方法を提供する。
【解決手段】マシニングセンタは、加工プログラムから取得した命令が回転速度を指定した主軸5Aの回転命令である場合、主軸5Aの回転を開始するが、主軸5Aの回転速度が回転速度閾値に達するのを待つことなく、加工プログラムの次の命令の取得及び実行を行う。その後、マシニングセンタは、加工プログラムから切削移動命令を取得した場合、主軸5Aの回転速度が回転速度閾値に達したか否かを判定した後に、主軸5Aをワークへ近接させる切削移動を開始する。またマシニングセンタは、回転命令にて指定された回転速度に所定割合Aを乗じた値を回転速度閾値とし、主軸5Aの回転速度を判定する場合に回転速度閾値との比較を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ユーザが作成した加工プログラムに従って種々の加工及び工具交換等を行う工作機械及び工作方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にマシニングセンタ(工作機械)は、フライス加工、ねじ立てなど種々の加工を行う。工作機械は、複数種の工具を収容しておくための収容部と、主軸に装着された工具を収容部に収容された工具に交換するための機構とを備えており、目的の加工に応じて工具を交換しながら、種々の加工を連続的に行っている。ワークに対する加工内容は予めユーザが作成した加工プログラムとして与えられる。工作機械は、加工プログラムに含まれる主軸の移動命令、主軸の回転命令、加工位置の指定及び工具交換命令等の種々の命令を順に読み出して実行することにより、ワークに対する一連の加工を実現する。
【0003】
特許文献1においては、工具が装着された主軸ヘッドを加工領域及び交換領域の間でZ軸方向に移動させてそれぞれワークの加工及び工具交換を行う工作機械が記載されている。この工作機械は、主軸ヘッドが加工領域と交換領域との間の同時動作開始位置に到達した時点で、加工位置への移動を開始する。主軸ヘッドがZ軸原点に達した時点で加工位置への移動を開始する従来の工作機械と比較して、特許文献1の工作機械は、早い時点で加工位置への移動を完了させることができる。特許文献1に記載の工作機械では、同時動作開始位置を加工プログラムにて指定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−48072号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、工作機械の加工プログラムでは、工具交換命令と共に(又は工具交換命令の後に)、主軸の回転速度(又は単位時間当たりの回転数)を指定して工具が交換された主軸を回転させる回転命令を記載することができる。工作機械は、工具交換命令に従って工具交換を行った後、回転命令に従って主軸の回転を開始する。このときに、従来の工作機械は、主軸の回転速度が回転命令にて指定された回転速度に達したことを確認した後、加工プログラムの次の命令に係る処理を行っていた。主軸の回転開始から指定された回転速度に達するまでにはある程度の時間を要するので、この待ち時間が工作時間を長期化させるという問題がある。
【0006】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、回転速度を指定した主軸の回転指令を実行する場合に生じる待ち時間の影響を低減し、工作時間を短縮することができる工作機械及び工作方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る工作機械は、工具が装着されて回転する主軸と、該主軸をワークに対して近接/離隔させる移動手段と、工作に係る命令が時系列的に並べられた命令列を記憶する記憶部と、該記憶部に記憶された命令列から時系列的に命令を取得する取得手段と、該取得手段が取得した命令に係る処理を実行する処理手段とを備え、命令列に含まれる命令に係る処理を時系列的に実行することによって、ワークに対する加工を行う工作機械において、前記取得手段が回転速度を指定した前記主軸の回転命令を取得した場合、前記処理手段は前記主軸の回転を開始し、前記取得手段は前記回転命令に続く命令の取得を継続し、前記取得手段が前記主軸をワークに対して近接させる移動命令を取得した場合、前記主軸の回転速度が前記回転命令にて指定された回転速度に達したか否かを判定する判定手段を備え、前記処理手段は、前記回転命令にて指定された回転速度に達したと前記判定手段が判定した後に、前記移動命令に係る前記主軸の移動を行うようにしてあることを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る工作機械は、前記判定手段が、前記主軸の回転速度が前記回転命令にて指定された回転速度に所定割合を乗じた回転数に達した場合に、前記回転命令にて指定された回転速度に達したと判定するようにしてあることを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る工作機械は、前記命令列には、前記所定割合を指定する割合指定命令を含むことができ、前記判定手段は、前記割合指定命令にて指定された所定割合に基づいて、回転数の判定を行うようにしてあることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る工作機械は、前記主軸をワークに対して近接させる移動命令が、切削移動命令であることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る工作方法は、工具が装着されて回転する主軸及び該主軸をワークに対して近接/離隔させる移動手段を有する工作機械に対して、工作に係る命令が時系列的に並べられた命令列から時系列的に命令を取得し、取得した命令に係る処理を実行することによって、ワークに対する加工を行う工作方法において、回転速度を指定した前記主軸の回転命令を取得した場合、前記主軸の回転を開始すると共に、前記回転命令に続く命令の取得を継続して行い、前記主軸をワークに対して近接させる移動命令を取得した場合、前記主軸の回転速度が前記回転命令にて指定された回転速度に達したか否かを判定し、前記回転命令にて指定された回転速度に達したと判定した後に、前記移動命令に係る前記主軸の移動を行うことを特徴とする。
【0012】
本発明においては、記憶部に記憶された命令列(加工プログラム)から命令を時系列的に取得し、取得した命令が回転速度を指定した主軸の回転命令である場合、工作機械は主軸の回転を開始するが、主軸の回転速度が指定された回転速度に達するのを待つことなく、次の命令の取得及び実行を継続する。その後、主軸をワークに近接させる移動命令(即ち、加工開始の命令)を取得した場合、主軸の回転速度が回転命令にて指定された回転速度に達したか否かを判定した後に、主軸をワークに近接させる移動を行う(加工を開始する)。
回転速度を指定した主軸の回転命令を取得した場合であっても、主軸の回転速度が指定された回転速度に達したか否かの判定を、主軸の移動命令の実行前まで先送りする構成とすることによって、主軸の回転命令と移動命令との間に他の命令を実行することが可能となる。このため、主軸の回転開始から指定された回転速度に達するまでの時間を有効に活用することができ、工作時間を短縮することができる。
【0013】
また、工具交換を行って加工のために主軸を移動させる場合、工具交換後の待機位置から主軸に装着された工具がワークに接触する加工位置へ移動するまでにはある程度の時間を要するため、加工のための主軸の移動開始時点において、必ずしも主軸の回転速度が指定された回転速度に達している必要はなく、工具がワークに接触する位置に主軸が移動するまでに、主軸の回転速度が指定された回転速度に達していればよい。
そこで本発明においては、主軸の移動命令を実行する前に、回転命令にて指定された回転速度に所定割合を乗じた回転数に達したか否かを判定し、所定割合を乗じた回転数に達していれば、主軸の移動を開始する。なお所定割合は、主軸の移動速度及び主軸の回転加速度等に基づいて、工作機械の設計段階などで予め決定しておくことができる。これにより、加工のための主軸の移動をより早いタイミングで開始することができるため、工作時間を更に短縮することができる。
【0014】
また、本発明においては、上記の所定割合をユーザが加工プログラムにて指定することを可能とする。工作機械は、指定された所定割合を、回転命令にて指定された回転速度に乗じた値を判定の閾値として用いる。これにより、ユーザによる加工プログラムの作成の自由度が向上する。
【0015】
また、本発明においては、主軸をワークに対して近接させる移動命令は、切削移動命令である。主軸をワークに対して近接させる移動命令が切削移動命令である場合、主軸の回転速度が回転命令にて指定された回転速度に到達せずに切削移動命令を実行すると、ワークの加工中の主軸の回転速度の変化が大きくなる。ワーク加工中に主軸の回転速度の変化が大きくなると、ワークの加工表面に加工模様が目立ち、加工不良が発生するという問題がある。
本発明はワークの加工表面に加工模様が発生しないような主軸の回転速度になるまで、切削移動命令を実行しないので、加工不良が発生しない。
【発明の効果】
【0016】
本発明による場合は、回転速度を指定した主軸の回転命令を取得した場合であっても、主軸の回転速度が指定された回転速度に達したか否かの判定を、主軸の移動命令の実行前まで先送りする構成とすることにより、主軸の回転開始から指定された回転速度に達するまでの間に他の命令を実行することができるため、工作時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】マシニングセンタ(工作機械)の外観を示す斜視図である。
【図2】マシニングセンタの主要部分の構成を示す正面図である。
【図3】マシニングセンタの電気的構成を示すブロック図である。
【図4】EEPROMに記憶された加工プログラムの一例を示す模式図である。
【図5】マシニングセンタの動作の一例を説明するためのタイミングチャートである。
【図6】マシニングセンタによる加工プログラムの処理手順を示すフローチャートである。
【図7】マシニングセンタによる加工プログラムの処理手順を示すフローチャートである。
【図8】変形例に係る加工プログラムの一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明をその実施の形態を示す図面に基づき具体的に説明する。図1は、マシニングセンタ(工作機械)の外観を示す斜視図である。また図2は、マシニングセンタの主要部分の構成を示す正面図である。本実施の形態に係るマシニングセンタは、加工対象であるワーク(図示は省略する)と工具とを相対移動させて、ワークに所望の機械加工(例えば、スライス削り、穴あけ又は切削等)を施すことができる工作機械である。マシニングセンタは金属製の基台1を備え、基台1の下部の四隅には脚部がそれぞれ設けられ、これら4つの脚部が床面などに設置されることにより、マシニングセンタが所定場所に設置される。基台1は、マシニングセンタの前後方向に長い直方体状の鋳造品である。
【0019】
マシニングセンタの基台1の後部上にはコラム座部3が設けられ、コラム座部3には鉛直上方へ延びる柱状のコラム4が立設されている。コラム4には、その前面に沿って上下移動可能に主軸ヘッド5が設けられている。主軸ヘッド5には、加工用の工具6が装着される主軸5Aと、主軸5Aに装着された工具6を他の工具6に交換するための工具交換機構7とが設けられている。また図1において図示は省略するが、コラム4の上部にはZ軸モータ44(図3参照)が設けてあり、Z軸モータ44の回転によって主軸ヘッド5を上下に移動させることができる。
【0020】
主軸ヘッド5には、加工軸に相当する主軸5Aが回転可能に装着され、主軸5Aを回転駆動するための主軸モータ41(図3参照)が上部に備えられている。主軸5Aの下端には工具6が着脱可能に装着され、主軸5Aが主軸モータ41により回転駆動されることによって工具6が回転し、テーブル8に固定したワークの加工が行われる。主軸5Aは、主軸ヘッド5の上下移動によって上方の交換位置と下方の加工位置との間を移動する。工具交換機構7は、工具6を支持する工具ホルダを複数格納する工具マガジン14と、主軸5Aに装着された工具ホルダと工具マガジン14に格納された他の工具ホルダとを把持して搬送し、工具交換を行う工具交換アーム15とを備えている。
【0021】
また基台1上には、主軸ヘッド5の下方に、ワークを着脱可能に固定することができるテーブル8が配置してある。テーブル8は、サーボモータであるX軸モータ42及びY軸モータ43(図3参照)により、X軸方向(左右方向)及びY軸方向(前後方向)へ移動制御される。詳しくは、テーブル8の下側には直方体状の支持台10が設けてあり、支持台10にはX軸方向に沿って延びる1対のX軸送りガイドを設け、1対のX軸送りガイド上にテーブル8を移動可能に支持している。また基台1の上部には、長手方向(Y軸方向)に沿って延びる1対のY軸送りガイドを設け、1対のY軸送りガイド上に支持台10を移動可能に支持している。基台1上に設けたY軸モータ43がY軸送りガイドに沿ってY軸方向に支持台10を移動駆動すると共に、支持台10上に設けたX軸モータ42がX軸送りガイドに沿ってX軸方向にテーブル8を移動駆動する。
【0022】
X軸送りガイドには、テレスコピック式に収縮するテレスコピックカバー11、12がテーブル8の左右両側に設けてある。Y軸送りガイドには、テレスコピックカバー13とY軸後カバーとが、支持台10の前後にそれぞれ設けてある。テーブル8及び支持台10がそれぞれいずれの方向に移動した場合であっても、X軸送りガイド及びY軸送りガイドは常にテレスコピックカバー11、12、13及びY軸後カバーによって覆われる。テレスコピックカバー11、12、13及びY軸後カバーは、ワークの加工領域から飛散する切粉などがX軸送りガイド及びY軸送りガイド等へ落下することを防止するためのものである。
【0023】
コラム4の背面側には、箱状の制御ボックス9が設けられており、制御ボックス9の内部にはマシニングセンタの動作を制御するための制御部20(図3参照)が収容されている。図3は、マシニングセンタの電気的構成を示すブロック図である。マシニングセンタの制御部20は、CPU21、ROM22、RAM23、EEPROM24、入力インタフェース25及び出力インタフェース26等を備えて構成されている。
【0024】
CPU21は、ROM22に記憶された制御プログラムをRAM23に読み出して実行することにより、ワークの加工処理及び工具交換処理等を行う。ROM22は、マスクROM又はEEPROM等の不揮発性のメモリ素子であり、CPU21にて実行される制御プログラム及び処理に必要な各種のデータ等が予め記憶されている。RAM23は、SRAM又はDRAM等のメモリ素子であり、ROM22から読み出した制御プログラム及び処理過程で発生した種々のデータ等を一時的に記憶する。EEPROM24は、データ書き換えが可能な不揮発性のメモリ素子であり、処理に必要な各種のデータが記憶される。特に本実施の形態においては、ワークに対する加工手順及び加工条件等が記載された加工プログラム(後述する)がEEPROM24に記憶されている。なおEEPROM24に代えて、フラッシュメモリなどの不揮発性メモリ素子を使用してもよい。
【0025】
マシニングセンタは、入力装置31、アームセンサ32、Z軸センサ33及び主軸センサ34等を備えており、これらが制御部20の入力インタフェース25に接続されている。入力装置31は、キーボード又はタッチパネル等を用いたものであり、ユーザの操作を受け付ける。アームセンサ32は、工具交換アーム15が原点(最も上側の位置)まで上昇したか否かを検出する。Z軸センサ33は、主軸5Aが工具6を交換する交換位置まで上昇したか否かを検出する。主軸センサ34は、主軸5Aの回転速度を検出する。入力インタフェース25は、入力装置31、アームセンサ32、Z軸センサ33及び主軸センサ34から出力される情報をCPU21へ与える。なお、Z軸センサ33及び主軸センサ34の代わりに、Z軸モータ44及び主軸モータ41のフィードバック情報を使用してもよい。
【0026】
マシニングセンタは、主軸モータ41、X軸モータ42、Y軸モータ43、Z軸モータ44、工具交換モータ45及び表示装置46等を備えており、これらが制御部20の出力インタフェース26に接続されている。主軸モータ41は、主軸5Aを回転させるためのものであり、これにより主軸5Aに装着された工具6を用いたワークの加工を行うことができる。X軸モータ42及びY軸モータ43は、テーブル8をX方向及びY方向へ移動させるためのモータである。Z軸モータ44は、コラム4に対して主軸ヘッド5を鉛直方向へ上下移動させるためのモータである。工具交換モータ45は、主軸5Aに対する工具6の着脱、並びに、工具交換アーム15の上下動、回転及び工具6の把持等の工具交換動作を行うためのモータである。表示装置46は、液晶パネルなどであり、マシニングセンタの動作状態又はユーザに対するメッセージ等を表示する。
【0027】
図4は、EEPROM24に記憶された加工プログラムの一例を示す模式図である。加工プログラムは、ワークに対する加工内容に応じてユーザが予め作成し、EEPROM24に予め記憶されるものである。マシニングセンタのCPU21は、加工プログラムを一行ずつ順に読みこみ、各行に記載された命令を順に処理していく。例えば図示の加工プログラムのN1行目に記載されたG100は工具交換命令を示し、T1は次に主軸5Aに装着する工具6の識別番号が1番であることを示し、Z200は工具交換後のZ軸方向の待機位置が200であることを示している。またN1行目には工具交換命令に続いて、主軸5Aの回転命令M3が記載され、S10000は主軸5Aの回転速度として10000回転/分を指定している。なお工具交換命令及び主軸の回転命令は、加工プログラムにおいて同一行に記載せず、別の行に記載してもよい。
【0028】
またN2行目に記載されたM77は、加工用の冶具をクランプ装置に固定させる命令である。N3行目に記載されたM400、N4行目に記載されたM494、及び、N5行目に記載されたM8の各命令は、クーラント(切削液)を吐出することによって切粉の排除及び冷却等を行うためのものである。マシニングセンタにはクーラントを吐出するための機構が複数備えられており、N3行目〜N5行目の命令はクーラント吐出機構を順に動作させる。なおM400はチップシャワーの吐出命令であり、M494はCTSのクーラントの吐出命令であり、M8はその他のクーラントの吐出命令である。CTSは、主軸5A内にクーラントを流通させる流路を設け、この流路と工具6に設けた流路とを接続することで、工具6の先端からクーラントを吐出するものである。チップシャワーは、マシニングセンタ内に配置したチップシャワー配管からクーラントを吐出することで、テーブル8周辺に切粉が堆積するのを防ぐものである。なお、これらのクーラント吐出機構についての詳細な説明は省略する。
【0029】
N6行目に記載されたG1は主軸5Aの切削移動命令であり、Z198はZ軸方向の加工位置が198であることを示している。この命令によって、N1行目の命令にてZ軸方向の位置200で待機していた主軸5AがZ軸方向の位置198まで下降し、主軸5Aに装着された工具6によるワークの加工が行われる。
【0030】
なお、従来のマシニングセンタは、N1行目の主軸5Aの回転命令を処理する際に、主軸モータ41を駆動して主軸5Aの回転を開始した後、指定された回転速度に達するまで待機し、その後にN2行目以降の命令を処理していた。これに対して本実施の形態に係るマシニングセンタは、主軸5Aの回転命令に対して、主軸モータ41を駆動して主軸5Aの回転を開始した後、主軸5Aの回転速度を判定することなく、次の命令(N2行目以降の命令)を読み込んで処理することができる。
【0031】
図5は、マシニングセンタの動作の一例を説明するためのタイミングチャートであり、図4に示した加工プログラムに対応する動作を示してある。また図5の上段には主軸5AのZ軸方向の座標(位置)が示してあり、下段には主軸5Aの回転速度が示してある。マシニングセンタのCPU21は、加工プログラムのN1行目にて工具交換命令を読み込むことによって、Z軸モータ44を駆動して主軸5AをZ軸方向の工具交換位置まで上昇させ(0〜t1)、工具交換モータ45を駆動して工具交換を行う(t1〜t2)。工具交換の終了後、CPU21は、工具交換命令にて指定されたZ軸方向の待機位置200へ、Z軸モータ44を駆動して主軸5Aを下降させ始める(t2)。
【0032】
マシニングセンタにおいては、工具交換位置にて主軸5Aを回転させることはできず、予め定められた回転可能位置より下方にて主軸5Aを回転させることができる。工具交換終了後に主軸5Aの下降を開始したCPU21は、主軸5AのZ軸方向の位置が回転可能位置に達した場合(t3)、加工プログラムのN1行目に記載された回転命令に従い、主軸モータ41を駆動して主軸5Aの回転を開始する。これにより主軸5Aの回転速度は、略一定の加速度で上昇する。
【0033】
主軸5AはZ軸方向へ下降を続け、加工プログラムのN1行目にて指定された待機位置に達した場合(t4)、CPU21は、加工プログラムのN2行目〜N5行目の命令を順次的に処理する(t4〜t5)。加工プログラムのN5行目の処理を終了した後、CPU21は、N6行目の切削移動命令を読み込む。このときCPU21は、主軸センサ34にて検出された主軸5Aの回転速度が、N1行目の回転命令にて指定された回転速度に所定割合A(0<A≦1)を乗じた回転速度(以下、回転速度閾値という)に達しているか否かを判定する。主軸5Aの回転速度が回転速度閾値に達していない場合、CPU21は、切削移動命令の実行を待機する。主軸5Aの回転速度が回転速度閾値に達した場合(t6)、CPU21は、Z軸モータ44を駆動して、切削移動命令にて指定されたZ軸方向の位置へ主軸5Aの下降を開始する。その後、主軸5Aの回転速度がN1行目の回転命令にて指定された回転速度に達すると共に、主軸5AのZ軸方向の位置がN6行目の切削移動命令にて指定された位置に達し、ワークに対する加工が開始される。
【0034】
なお、回転速度閾値を決定する所定割合Aは、主軸5Aの回転加速度、主軸5AのZ軸方向の移動速度、並びに、N1行目の工具交換命令にて指定された待機位置及びN6行目の切削移動命令にて指定された加工位置の間の距離に応じて算出することができる。即ち、主軸5AがZ軸方向へ移動して加工位置に達した際に(又は達する前に)、目標の回転速度に達していると推定される回転速度を逆算して回転速度閾値とし、この回転速度閾値の目標回転速度に対する割合を所定割合Aとすればよい。所定割合Aは、予め定められた値を用いてもよく、CPU21が動的に算出してもよい。
【0035】
このように、本実施の形態に係るマシニングセンタは、加工プログラムのN1行目にて回転速度を指定した主軸5Aの回転命令を読みこんだ場合であっても、主軸5Aの回転を開始のみ行い、主軸5Aの回転速度が指定された回転速度に達したか否間判定は行わずに、加工プログラムの次の命令(N2行目〜N5行目)を実行する。その後、マシニングセンタは、加工プログラムのN6行目にて切削移動命令を読み込んだ場合に、主軸5Aの回転速度が回転速度閾値に達したか否かを判定し、回転速度閾値に達した場合に主軸5Aの切削移動を開始する。これによりマシニングセンタは、指定された回転速度への主軸5Aの回転(加速)と、その他の命令(N2行目〜N5行目の命令など)とを、切削移動命令を読み込むまでの間に平行して行うことができるため、工作時間を短縮することができる。
【0036】
図6及び図7は、マシニングセンタによる加工プログラムの処理手順を示すフローチャートである。まず、マシニングセンタのCPU21は、EEPROM24に記憶された加工プログラムから1行分の命令を読み出す(ステップS1)。次いで、読み出した命令が工作を終了する命令であるか否かを判定し(ステップS2)、工作終了命令の場合(S2:YES)、CPU21は、ワークに対する工作処理を終了する。
【0037】
読み出した命令が工作終了命令でない場合(S2:NO)、CPU21は、読み出した命令が工具交換命令であるか否かを判定する(ステップS3)。読み出した命令が工具交換命令の場合(S3:YES)、CPU21は、主軸5Aを工具交換位置まで上昇させて工具を交換し、その後に主軸5Aを待機位置まで移動させる工具交換動作を行う(ステップS4)。工具交換動作の過程において、CPU21は、主軸5Aが回転可能位置に達したか否かを判定し(ステップS5)、回転可能位置に達していない場合(S5:NO)、工具交換動作を継続する。主軸5Aが回転可能位置に達した場合(S5:YES)、CPU21は、工具交換命令と同一行に主軸5Aの回転命令が含まれているか否かを更に判定する(ステップS6)。CPU21は、回転命令が含まれていない場合には(S6:NO)、工具交換動作の終了後にステップS1へ処理を戻し、また、回転命令が含まれている場合には(S6:YES)、主軸モータ41を駆動して主軸5Aの回転を開始して(ステップS7)、工具交換動作の終了後にステップS1へ処理を戻す。
【0038】
読み出した命令が工具交換命令でない場合(S3:NO)、CPU21は、読み出した命令が主軸5Aの回転命令であるか否かを判定する(ステップS8)。読み出した命令が回転命令の場合(S8:YES)、CPU21は、主軸モータ41を駆動して主軸5Aの回転を開始し(ステップS7)、ステップS1へ処理を戻す。
【0039】
読み出した命令が回転命令でない場合(S8:NO)、CPU21は、読み出した命令が切削移動命令であるか否かを判定する(ステップS9)。読み出した命令が切削移動命令の場合(S9:YES)、CPU21は、主軸センサ34が検出する主軸5Aの回転速度が回転速度閾値以上であるか否かを判定する(ステップS10)。主軸5Aの回転速度が回転速度閾値未満の場合(S10:NO)、CPU21は、主軸5Aの回転速度が回転速度閾値以上になるまで待機する。主軸5Aの回転速度が回転速度以上の場合(S10:YES)、CPU21は、Z軸モータ44を駆動して切削移動を開始し(ステップS11)、ステップS1へ処理を戻す。
【0040】
読み出した命令が切削移動命令でない場合(S9:NO)、CPU21は、読み出した命令に応じたその他の動作を行い(ステップS12)、ステップS1へ処理を戻す。マシニングセンタのCPU21は、加工プログラムの工作終了命令を読み込むまで、ステップS1〜S12の処理を繰り返し行い、加工プログラムに記載された命令を1行ずつ処理することによって、ワークに対する種々の加工を行う。
【0041】
以上の構成のマシニングセンタは、加工プログラムから取得した命令が回転速度を指定した主軸5Aの回転命令である場合、主軸5Aの回転を開始するが、主軸5Aの回転速度が回転速度閾値に達するのを待つことなく、加工プログラムの次の命令の取得及び実行を行う。その後、マシニングセンタは、加工プログラムから切削移動命令を取得した場合、主軸5Aの回転速度が回転速度閾値に達したか否かを判定した後に、主軸5Aをワークへ近接させる切削移動を開始する。このように、主軸5Aの回転命令を取得した場合であっても、主軸5Aの回転速度が回転速度閾値に達したか否かの判定を、切削移動命令の実行前まで先送りする構成とすることにより、主軸5Aの回転命令と切削移動命令との間に他の命令を実行することが可能となる。このため、主軸5Aの回転開始から回転速度が回転速度閾値に達するまでの時間を有効に活用することができ、工作時間を短縮することができる。
【0042】
またマシニングセンタは、回転命令にて指定された回転速度に所定割合Aを乗じた値を回転速度閾値とし、主軸5Aの回転速度を判定する場合に回転速度閾値との比較を行う構成とすることにより、指定された回転速度との比較を行う場合と比べて、切削移動命令をより早いタイミングで開始することができ、工作時間を更に短縮することができる。
【0043】
なお、本実施の形態においては、回転命令にて指定された回転速度に所定割合Aを乗じた値を回転速度閾値とし、主軸5Aの回転速度が回転速度閾値に達したか否かを判定する構成としたが、これに限るものではなく、主軸5Aの回転速度が回転命令にて指定された回転速度に達したか否かを判定する構成としてもよい(即ち、所定割合A=1であってよい)。また、図4に示した加工プログラムは一例であり、これに限るものではない。特に主軸5Aの回転命令と切削移動命令との間に実行する命令は、図4のN2〜N5行目に示した命令に限らず、その他の種々の命令であってよい。
【0044】
(変形例)
上述の実施の形態においては、回転速度閾値を算出するための所定割合Aは、主軸5Aの回転加速度及びZ軸方向の移動速度等の情報に基づいて動的に算出した値又は予め定められた値を用いたが、これに限るものではない。変形例に係るマシニングセンタは、所定割合Aの値をユーザが加工プログラム内で設定することができる構成である。
【0045】
図8は、変形例に係る加工プログラムの一例を示す模式図である。図示の加工プログラムでは、N1行目の工具交換命令の前に、N0行目として所定割合Aの値を設定する命令が記載されている(一例として、所定割合A=0.8に設定されている)。変形例に係るマシニングセンタのCPU21は、加工プログラムから所定割合Aの設定命令を読みこんだ場合、以後の切削移動命令前の回転速度判定において、設定命令にて指定された所定割合Aに基づく回転速度閾値を用いて判定を行う。
【0046】
このように、主軸Aの回転速度を判定するための回転速度閾値を決定する所定割合Aをユーザが加工プログラムにて指定することを可能とすることによって、ユーザによる加工プログラムの作成の自由度を向上することができる。なお、加工プログラムにて所定割合Aが設定されなかった場合には、マシニングセンタは予め定められたデフォルトの所定割合Aを用いて回転速度の判定を行えばよい。また図8においては、所定割合Aの設定命令を、回転命令が記載された行の直前に記載したが、これに限るものではなく、少なくとも切削移動命令の前に記載すればよい。
【0047】
なお本実施の形態においては、工具交換方式として工具交換アーム15を用いるマシニングセンタを例に説明を行ったが、これに限るものではなく、他の工具交換方式を採用したマシニングセンタに本発明を適用してもよい。例えば、主軸ヘッドが上昇することで主軸に装着した工具を工具マガジンに装着し、その後、工具マガジンを所定の位置に回転位置決めした後、主軸ヘッドが下降することで、主軸に工具マガジンが把持した工具を装着する工具交換方式であってもよい。
【符号の説明】
【0048】
4 コラム
5 主軸ヘッド(移動手段)
5A 主軸
6 工具
7 工具交換機構
8 テーブル
9 制御ボックス
14 工具マガジン
15 工具交換アーム
20 制御部
21 CPU(取得手段、処理手段、判定手段)
22 ROM
23 RAM
24 EEPROM(記憶部)
33 Z軸センサ
34 主軸センサ
41 主軸モータ
42 X軸モータ
43 Y軸モータ
44 Z軸モータ(移動手段)
45 工具交換モータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具が装着されて回転する主軸と、該主軸をワークに対して近接/離隔させる移動手段と、工作に係る命令が時系列的に並べられた命令列を記憶する記憶部と、該記憶部に記憶された命令列から時系列的に命令を取得する取得手段と、該取得手段が取得した命令に係る処理を実行する処理手段とを備え、命令列に含まれる命令に係る処理を時系列的に実行することによって、ワークに対する加工を行う工作機械において、
前記取得手段が回転速度を指定した前記主軸の回転命令を取得した場合、前記処理手段は前記主軸の回転を開始し、前記取得手段は前記回転命令に続く命令の取得を継続し、
前記取得手段が前記主軸をワークに対して近接させる移動命令を取得した場合、前記主軸の回転速度が前記回転命令にて指定された回転速度に達したか否かを判定する判定手段を備え、
前記処理手段は、前記回転命令にて指定された回転速度に達したと前記判定手段が判定した後に、前記移動命令に係る前記主軸の移動を行うようにしてあること
を特徴とする工作機械。
【請求項2】
前記判定手段は、前記主軸の回転速度が前記回転命令にて指定された回転速度に所定割合を乗じた回転数に達した場合に、前記回転命令にて指定された回転速度に達したと判定するようにしてあること
を特徴とする請求項1に記載の工作機械。
【請求項3】
前記命令列には、前記所定割合を指定する割合指定命令を含むことができ、
前記判定手段は、前記割合指定命令にて指定された所定割合に基づいて、回転数の判定を行うようにしてあること
を特徴とする請求項2に記載の工作機械。
【請求項4】
前記主軸をワークに対して近接させる移動命令は、切削移動命令であること
を特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1つに記載の工作機械。
【請求項5】
工具が装着されて回転する主軸及び該主軸をワークに対して近接/離隔させる移動手段を有する工作機械に対して、工作に係る命令が時系列的に並べられた命令列から時系列的に命令を取得し、取得した命令に係る処理を実行することによって、ワークに対する加工を行う工作方法において、
回転速度を指定した前記主軸の回転命令を取得した場合、前記主軸の回転を開始すると共に、前記回転命令に続く命令の取得を継続して行い、
前記主軸をワークに対して近接させる移動命令を取得した場合、前記主軸の回転速度が前記回転命令にて指定された回転速度に達したか否かを判定し、
前記回転命令にて指定された回転速度に達したと判定した後に、前記移動命令に係る前記主軸の移動を行うこと
を特徴とする工作方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−50934(P2013−50934A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−189941(P2011−189941)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】