説明

工作機械

【課題】 従来、考慮されていなかった工具ばねを考慮することで、加工品質を向上させた工作機械を提供する。
【解決手段】 磁気軸受制御手段は、制御電流から研削抵抗を算出する研削抵抗演算手段42と、工具ばね定数と研削抵抗との関係および工具ばね定数と制御定数との関係が蓄えられている工具ばね特性記憶手段43と、工具ばね特性記憶手段43に蓄えられた関係に基づいて制御定数を変更する制御定数変更手段44とを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内面研削盤などの工作機械に関する。
【背景技術】
【0002】
研削盤などの工作機械として、工具(例えば砥石)が装着される回転軸と、回転軸を非接触支持する複数組の磁気軸受と、磁気軸受を制御する磁気軸受制御手段と、工具の切込み量および送り速度を制御する加工制御手段とを備えているものが知られている(特許文献1)。
【0003】
このような工作機械では、軸方向の2箇所に配置されたラジアル磁気軸受により回転軸が支持されており、いわゆる軸受ばねが形成されている。
【特許文献1】特開平9−108991号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
工作機械では、工具でワークを加工すると、工具とワークとの間に工具ばねが形成されることになり、加工前と加工中とでばね(工具ばね、軸受ばね)−回転体系の共振周波数が変化する。しかしながら、従来、工具ばねについては考慮されておらず、ラジアル磁気軸受の制御定数は、工具ばねの無い状態で調整・設定されている。軸受ばねに対して工具ばねの寄与度は相対的に大きいものであり、加工に伴う共振周波数の変化幅が大きく、その結果、工具ばね無しで調整・設定した制御定数が最適なものでなくなり、共振が発生するなどの加工品質の低下を招く可能性がある。
【0005】
この発明の目的は、従来、考慮されていなかった工具ばねを考慮することで、加工品質を向上させた工作機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明による工作機械は、工具が装着される回転軸と、回転軸を非接触支持する複数組の磁気軸受と、磁気軸受を制御する磁気軸受制御手段とを備えている工作機械において、磁気軸受制御手段は、制御電流から加工抵抗を算出する加工抵抗演算手段と、工具ばね定数と加工抵抗との関係および工具ばね定数と制御定数との関係が蓄えられている工具ばね特性記憶手段と、工具ばね特性記憶手段に蓄えられた関係に基づいて制御定数を変更する制御定数変更手段とを有していることを特徴とするものである。
【0007】
加工品質の劣化を防ぐには、ラジアル磁気軸受の制御定数の設定の際に、工具ばねを考慮して、これを一定に保つことが好ましいが、工具ばねは、時々刻々変化し、これを直接制御することは困難である。一方、工具ばねは、加工抵抗(切削抵抗)あるいは送り速度に依存すると推定され、工具ばね定数と加工抵抗との関係および工具ばね定数と制御定数との関係は、実験やシミュレーションにより求めることができる。そして、加工抵抗(切削抵抗、研削抵抗など)の各成分(法線方向の力Fn、接線方向の力Ftおよび軸方向の力Fz)は、磁気軸受の制御電流をモニタリングして容易にかつ精度よくリアルタイムで求めることができるので、この加工抵抗に基づいて、工具ばね定数を決定し、工具ばね定数に応じて磁気軸受の制御定数(PID制御の各ゲインなど)を変更(最適化)することで、共振を発生させずに加工することが可能となる。
【0008】
例えば、研削加工が、粗工程、仕上げ工程およびスパークアウト工程を含んでいる場合、各工程ごとに制御定数が変更されるようにしてもよい。
【0009】
工作機械は、たとえば内面研削盤などのように、回転駆動される回転軸の先端に砥石(またはその他の工具)が取り付けられたスピンドル装置を備えたものとされる。スピンドル装置は、例えば、ケーシング、ケーシング内に水平または垂直に配置された回転軸、回転軸を非接触支持する1つの制御型アキシアル磁気軸受および前後または上下の2つの制御型ラジアル磁気軸受、ならびに、回転軸のアキシアル方向の位置を検出するための1つのアキシアル変位センサおよび回転軸のラジアル方向の位置を検出するための前後または上下の2つのラジアル変位センサを備えているものとされる。ここで、各磁気軸受および各変位センサは、公知のものであり、通常、各ラジアル磁気軸受は、X軸方向磁気軸受およびY軸方向磁気軸受からなるものとされ、各ラジアル変位センサは、X軸方向変位センサおよびY軸方向変位センサからなるものとされる。
【発明の効果】
【0010】
この発明の工作機械によると、工具ばね定数と加工抵抗との関係および工具ばね定数と制御定数との関係に基づいて制御定数が変更され、これにより、工具ばねの変化に起因する共振が発生しなくなるので、加工品質の劣化が防止される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
この発明の実施の形態を、以下図面を参照して説明する。
【0012】
図1は、この発明による工作機械を示している。
【0013】
この工作機械は、内面研削盤であり、ワーク(W)の内面を研削する砥石(工具)(2)が取り付けられた磁気軸受スピンドル(磁気軸受装置)(1)と、内面が被研削面であるワーク(W)を保持して回転させるワーク保持台(3)と、磁気軸受スピンドル(1)を軸方向に移動させるスピンドル移動手段(図示略)と、ワーク保持台(3)を磁気軸受スピンドル(1)に対して相対的に移動させて砥石(2)にワーク(W)に対する切込み動作を行わせるワーク保持台移動手段(図示略)とを備えている。
【0014】
磁気軸受スピンドル(1)は、鉛直円筒状のケーシング(10)の内側で鉛直軸状の回転軸(11)が回転する縦型のものである。砥石(2)は、クイル(12)を介して回転軸(11)に装着されている。以下の説明において、回転軸(11)の鉛直な軸方向(アキシアル方向)の制御軸(アキシアル制御軸)をZ軸、Z軸と直交するとともに互いに直交する2つの水平な径方向(ラジアル方向)の制御軸(ラジアル制御軸)をX軸およびY軸とする。
【0015】
磁気軸受スピンドル(1)の機械本体部分には、回転軸(11)を軸方向に非接触支持する1組の制御型アキシアル磁気軸受(13)、回転軸(11)を径方向に非接触支持する上下2組の制御型ラジアル磁気軸受(14)(15)、回転軸(11)のアキシアル方向の変位を検出するための1個のアキシアル変位センサ(16)と、回転軸(11)のラジアル方向の変位を検出するための前後2組のラジアル変位センサ(17)(18)と、回転軸(11)を高速回転させるためのビルトイン型電動モータ(19)、ならびに回転軸(11)の軸方向および径方向の可動範囲を規制して回転軸(11)を磁気軸受(13)(14)(15)で支持していないときに回転軸(11)を機械的に支持する上下2組のタッチダウン用の保護軸受(20)(21)が設けられている。
【0016】
磁気軸受スピンドル(1)のコントローラ部分(磁気軸受制御装置)には、センサ回路(22)、AD変換器(23)、DSP(ディジタル信号処理プロセッサ)(24)、DA変換器(25)、電磁石駆動回路(26)およびインバータ(27)が設けられている。
【0017】
アキシアル磁気軸受(13)は、回転軸(11)の下部に一体に形成されたフランジ部(11a)をZ軸方向の両側から挟むように配置された1対のアキシアル電磁石(13a)(13b)を備えている。
【0018】
アキシアル変位センサ(16)は、回転軸(11)の上端面にZ軸方向の上側から対向するように配置され、回転軸(11)の下端面との距離(空隙)に比例する距離信号を出力する。
【0019】
2組のラジアル磁気軸受(14)(15)は、回転軸(11)の上下端部近傍に配置されており、上側のラジアル磁気軸受(14)とアキシアル磁気軸受(13)との間にモータ(19)が配置されている。各ラジアル磁気軸受(14)(15)は、回転軸(11)をX軸方向の両側からおよびY軸方向の両側から挟むように配置された2対のラジアル電磁石(14a)(15a)を備えている。
【0020】
上側のラジアル変位センサ(17)は、上側のラジアル磁気軸受(14)の近傍上方に配置されており、下側のラジアル変位センサ(18)は、下側のラジアル磁気軸受(7)の近傍下方に配置されており、各ラジアル変位センサ(17)(18)は、回転軸(11)の外周面との距離に比例する距離信号を出力する。
【0021】
保護軸受(20)(21)はアンギュラ玉軸受などの転がり軸受よりなり、各保護軸受(20)(21)の外輪がケーシング(10)に固定され、内輪が回転軸(11)の周囲に所定の隙間をあけて配置されている。2組の保護軸受(20)(21)はいずれも径方向の支持が可能なものであり、少なくとも1組は軸方向の支持も可能なものである。運転停止あるいは停電などによって磁気軸受(13)(14)(15)が作動していない状態では、回転軸(11)は保護軸受(20)(21)に支持される。
【0022】
センサ回路(22)は、各変位センサ(16)(17)(18)を駆動し、各変位センサ(16)(17)(18)の出力に基づいて、回転軸(11)の軸方向の変位、ならびに上下のラジアル変位センサ(17)(18)の部分におけるX軸方向およびY軸方向の変位を演算し、その演算結果である変位信号をAD変換器(23)を介してDSP(24)に出力する。
【0023】
DSP(24)は、AD変換器(20)から入力する変位信号に基づいて、各磁気軸受(13)(14)(15)の各電磁石(13a)(13b)(14a)(15a)に対する制御電流値をPID制御によって求め、一定の定常電流値に制御電流値を加えた励磁電流信号をDA変換器(25)を介して電磁石駆動回路(26)に出力する。そして、駆動回路(26)は、DSP(24)からの励磁電流信号に基づく励磁電流を対応する各磁気軸受(13)(14)(15)の各電磁石(13a)(13b)(14a)(15a)に供給し、これにより、回転軸(11)が所定の目標位置に非接触される。DSP(24)は、また、モータ(19)に対する回転数指令信号をインバータ(27)に出力し、インバータ(27)は、この信号に基づいて、モータ(19)の回転数を制御する。そして、その結果、回転軸(11)が、磁気軸受(13)(14)(15)により目標位置に非接触支持された状態で、モータ(19)により高速回転させられる。
【0024】
磁気軸受スピンドル(1)では、図2に示すように、軸方向の2箇所に配置されたラジアル磁気軸受(14)(15)により回転軸(11)が支持されており、いわゆる軸受ばねが形成されている。そして、工具(砥石(2))でワーク(W)を加工すると、砥石(2)とワーク(W)との間に工具ばねが形成される。そのため、加工前と加工中とで、ばね(工具ばね、軸受ばね)−回転体系の共振周波数が変化し、共振による加工品質の低下を招く可能性がある。加工品質の劣化を防ぐには、工具ばねを考慮して、磁気軸受の制御定数を最適化することが好ましい。
【0025】
図3に、工具ばねに応じて磁気軸受の制御定数を最適化するために磁気軸受制御装置に付加されている制御手段(41)の構成を示している。
【0026】
同図において、加工時には、軸受ばね(32)および工具ばね(33)を含んだばね−回転体系(31)が形成されており、軸受ばね(32)は、PID制御の制御定数(34)によって規定され、工具ばね(33)は、研削抵抗(35)および送り速度(36)に依存する。ばね−回転体系(31)を制御する制御手段(41)は、研削抵抗演算手段(42)と、工具ばね(33)の特性に関連する関係が蓄えられている工具ばね特性記憶手段(43)と、工具ばね特性記憶手段(43)に蓄えられた関係に基づいて制御定数(34)を変更する制御定数変更手段(44)とを有している。
【0027】
研削抵抗演算手段(42)は、各磁気軸受(13)(14)(15)の制御電流をモニタリングして砥石(2)に作用する研削抵抗(35)の各成分(法線方向の力Fn、接線方向の力Ftおよび軸方向の力Fz)をリアルタイムで算出する。
【0028】
工具ばね特性記憶手段(43)には、工具ばね定数(33)と研削抵抗(35)との関係および工具ばね定数(33)と制御定数(34)との関係が蓄えられている。工具ばね定数(33)と研削抵抗(35)との関係は、研削抵抗(35)の各方向の成分(Fn、Ft、Fz)ごとに、工具ばね定数(33)と研削抵抗(35)との代表値を設定することで、その相関が予め明確化されたものとなっている。また、工具ばね定数(33)と制御定数(34)との関係は、代表値として設定した複数の工具ばね定数(33)ごとに、ばね(工具ばね、軸受ばね)−回転体系において共振が発生しないように、ラジアル磁気軸受(14)(15)の制御定数(34)が変更(最適化)されたものとなっている。
【0029】
制御定数変更手段(44)は、通常、工具ばね(33)のない状態で調整・設定されて同じワーク(W)に対しては研削加工全体で同じ値に保たれるPID制御の制御定数(34)について、これを加工途中で切り替えるものである。
【0030】
研削抵抗(Fn、FtおよびFz)(35)が、研削抵抗演算手段(42)において算出され、この値がF1であるとすると、工具ばね定数(33)と研削抵抗(35)との関係に基づいて、これに対応する工具ばね定数(33)S1が求まる。さらに、工具ばね定数(33)と制御定数(34)との関係に基づいて、工具ばね定数(33)S1に対しては、制御定数(34)C1が最適であることが求まる。こうして、研削抵抗(35)に応じてラジアル磁気軸受(14)(15)の制御定数(34)が切り替えられる。この結果、工具ばね無しで調整・設定した制御定数(34)は、実際の加工時には最適でなくなるが、研削抵抗(35)に応じてこの制御定数(34)が切り替えられることで、工具ばね(33)の変化に起因した加工品質の劣化が防止される。
【0031】
なお、上記において、磁気軸受スピンドル(1)は、内面研削盤用として説明したが、研削以外の種々の工作機械やその他の装置に適用することもできる。また、上記実施形態では、回転軸(1)を垂直軸として示しているが、回転軸は水平軸であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】図1は、この発明による工作機械の実施形態を示す主要部の概略構成図である。
【図2】図2は、加工中のばね−回転体系を模式的に示す図である。
【図3】図3は、この発明による工作機械の制御手段の主要部を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0033】
(2) 砥石(工具)
(10) ケーシング
(11) 回転軸
(13)(14)(15) 磁気軸受
(42) 研削抵抗演算手段(加工抵抗演算手段)
(43) 工具ばね特性記憶手段
(44) 制御定数変更手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具が装着される回転軸と、回転軸を非接触支持する複数組の磁気軸受と、磁気軸受を制御する磁気軸受制御手段とを備えている工作機械において、
磁気軸受制御手段は、制御電流から加工抵抗を算出する加工抵抗演算手段と、工具ばね定数と加工抵抗との関係および工具ばね定数と制御定数との関係が蓄えられている工具ばね特性記憶手段と、工具ばね特性記憶手段に蓄えられた関係に基づいて制御定数を変更する制御定数変更手段とを有していることを特徴とする工作機械。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate