説明

工具磨耗低減銅合金鋳塊及び銅合金管

【課題】銅合金管の製造における加工設備及び生産性を維持しながら、製管時の工具磨耗を低減させることによって更に生産性を向上させる銅合金鋳塊及びそれを加工して製造した銅合金管を提供する。
【解決手段】熱間押出により銅合金管を製造するための鋳塊であって、P:0.004乃至0.05質量%、Zn:0.01乃至1.0%を含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなる組成を有する。この銅合金鋳塊に、熱間押出加工、圧延加工、抽伸加工及び焼鈍加工を施して銅合金管を製作する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍空調用並びに給湯器用の熱交換器等に使用される銅合金管に加工される銅合金及びそれを加工した銅合金管に関し、特に、製管時の工具磨耗を低減した銅合金及び銅合金管に関する。
【背景技術】
【0002】
冷凍空調用の熱交換器や給湯機用の熱交換器、冷蔵庫あるいは給水給湯用の衛生配管には、りん脱酸銅管(JISH3300C1220T)が広く使用されている。
【0003】
このりん脱酸銅管は、鋳造工程、熱間押出工程、冷間圧延工程及び冷間抽伸工程によって製造され、更に必要に応じてこの銅管に焼鈍が施されて製造される。熱間押出工程において、銅原料を鋳造して製造された円筒形の鋳塊(ビレット)はダイス及び鋳塊を穿って配置されたマンドレルにより拘束されている。このビレットを拘束するダイス及びマンドレルの材質には一般的に熱間金型用合金工具鋼(SKD61、SKD62相当)が使用されている(特許文献1及び2)。また、冷間圧延工程において、銅管はリングダイス及びマンドレルにより拘束されている。この銅管を拘束するリングダイス及びマンドレルの材質には、ダイス鋼(SKD11相当)が使用されている(特許文献3)。更に、冷間抽伸工程では、銅管を拘束するダイス及びフローティングプラグの材質として超硬合金が使用されている(特許文献4)。
【0004】
冷凍空調機等の熱交換器には銅又は銅合金からなる素管の内面に溝を設け、伝熱管内面と冷媒との接触面積を増やすことによって伝熱性能を向上させた内面溝付管が広く用いられているが、この内面溝付管は、前述の冷間抽伸後の銅管に縮径加工を施した後、管内に、外面に溝が形成された溝付プラグを挿入し、この溝付プラグの位置にて銅管外面を押圧することによって管内面に溝付プラグ外面の溝形状を転造加工して製造される。この銅合金管の内面に溝を転造加工する工程では、溝付プラグの材質として超硬合金が使用されている(特許文献4)。
【0005】
一方、前述のりん脱酸銅管は、熱間押出工程、冷間圧延工程、冷間抽伸工程、縮径工程又は転造工程において、管の表面にCuの薄い酸化皮膜を生成する。熱間押出工程、冷間圧延及び冷間抽伸工程、更には縮径及び転造工程において、この銅管表面に生成したCuの酸化皮膜は、前述の如く工具と常に接触して加工されるが、昨今の高速化された製造工程においては、銅合金管と工具との間に摩擦力等が生じて工具に磨耗、欠損又は傷が発生する場合がある。工具が磨耗すると製品の寸法に相違を生じ、工具に欠損又は傷が発生すると銅管に傷を生じさせるため、内部流体が漏洩したり正規品質が得られなくなる等の問題が生じる。また、工具の磨耗、欠損又は傷の発生頻度が高いことは工具寿命の短縮となり、生産コストの上昇につながる。
【0006】
この銅合金管を製造する際に発生する工具の磨耗、欠損及び傷を防止するため、フローティングプラグや溝付プラグといった銅管の加工工具に使用されている超硬合金製の材質を別の材質に変えて工具が欠損することを防止する方法、又はプラグにCVD法やPVD法によりTiNやTiC等をコーティングして工具磨耗を低減させる方法等が提案されている。(非特許文献1)
【0007】
また、前述の特許文献4には、超硬合金母材の上にアンカー層を介して水素含有量が少ない硬質炭素膜をコーティングすることで、耐磨耗性等の摺動特性に優れ、かつ高い耐熱性、高い耐酸化性及び高い耐久性を有する超硬合金製溝付プラグが提案されている。
【0008】
他方、工具の磨耗、欠損及び傷を発生させる摩擦力を低減したり加工熱を冷却する目的で、銅管を製造する際に、管内面又は外面に粘度が数百乃至数千cStの合成油や鉱物系の潤滑油を塗布する場合があり、より効果を高めるために更に粘度の高い潤滑油が使用される場合がある。代替フロン用の冷媒を通流する銅管を製造する場合においては、冷間抽伸工程及び転造工程において銅管内面に潤滑油が塗布され、この潤滑油の一部は焼鈍炉内にて500℃程度まで加熱されて熱分解した後、ガス化して管外に排出される。しかし、管が長尺の場合は完全に管外に排出されず、冷却に伴って凝縮して残油となり、また、焼鈍時にこの残油が炭化して残渣が発生する。管内に残油又は残渣が発生すると、銅管を伝熱管として熱交換器に組み込む際にろう付け性を低下させてしまう。
【0009】
特許文献5には、銅又は銅合金からなる管に内面潤滑油としてポリブテンを使用して抽伸加工を行い、抽伸加工後の管に焼鈍を施して管の平均結晶粒径を調整し、焼鈍後の管に内面潤滑油としてポリアルキレングリコールを使用して転造加工を行った後、転造加工後の管に焼鈍を施して管の平均結晶粒径を調整する内面溝付管の製造方法が開示されている。また、コイル状に巻かれた長尺の銅又は銅合金製の内面溝付管を製造する場合でも、銅管に塗布された潤滑油が焼鈍後も管内に残留して、内面溝付管を熱交換器に組み込む際に、この残油がろう付け性を低下させることが少ないことが特許文献5に開示されている。
【0010】
前述のりん脱酸銅管(JISH3300C1220T)は、Pを0.015乃至0.040%含有する。このりん脱酸銅管に含まれるりんは、銅合金中の酸素を除去する効果を持つ。即ち、銅管の製造工程において合金中に拡散した水素が合金中で酸素と結合して水となり、合金が脆化するのを防ぐ。一方、リンの含有量を増やすと銅管表面に亀裂を生じ、水もしくは水蒸気又はアンモニア蒸気雰囲気において亀裂先端でアノード溶解を生じて割れが進行し、脆化しやすくなる。
【0011】
この耐応力腐食割れ性を向上するため、例えば特許文献6には、銅又は銅合金からなる管外部本体及びオーステナイト系ステンレス単結晶鋼からなる管内側部の複合材で構成され、放熱性及び耐食性に優れた熱交換器用伝熱管が開示されている。更に、この銅又は銅合金からなる円筒形状の管外部本体に、円筒形状である前記オーステナイト系ステンレス単結晶鋼からなる管内側部を挿入し、マンドレルミル等を管内部に挿通して加圧することによって、銅合金管とステンレス鋼管とを拡散接合する熱交換器用伝熱管の製造方法が開示されている。
【0012】
一方、特許文献7には、Te:0.01乃至2質量%、P:0.005乃至0.5質量%を含有し、更にSn及びZnの内1種又は2種:0.05乃至5質量%を含有し、残りがCu及び不可避不純物からなる組成を有する銅合金及びこの銅合金を加工した銅合金管が開示されている(請求項1、3及び5)。この銅合金及び銅合金管は、Teを含有するため耐蟻の巣状腐食性が向上し、この銅合金を熱交換器の管材として使用した場合、長期に渡って安定した性能を発揮することができることが特許文献6に開示されている。
【0013】
【特許文献1】特開2000−226635号公報
【特許文献2】特開平8−155535号公報
【特許文献3】特開平5−311334号公報
【特許文献4】特開2004−18907号公報
【特許文献5】特開2002−254129号公報
【特許文献6】特開平10−197193号公報
【特許文献7】特開平7−90427号公報
【非特許文献8】特許庁 技術分野別特許マップ(平成12年度機械16 引抜・押出による金属成形 P.286)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、前述の従来技術には以下のような問題点がある。特許文献1に記載されている熱間工具鋼、特許文献2に記載されている熱間押出製管用ダイス、特許文献3に記載されている圧延焼入ロール並びに特許文献4に記載の超硬合金性溝付プラグを用いて、加工工具の高温強度、靱性、耐磨耗性、耐熱性、耐酸化性及び耐久性を向上させることによって工具寿命の延長を図る方法、銅合金管を製造する際に発生する工具磨耗、欠損及び傷を防止するために銅合金管の加工工具に使用されている材質を別の材質に変える方法、又は非特許文献1に開示されているように、プラグにTiNやTiC等をコーティングして工具磨耗を低減させる方法は、その工具磨耗を低減する効果が不十分である場合も多い。特に近年は省エネルギー化の要望に伴い、熱交換器の性能を向上させるために、熱交換器に組み込まれる内面溝付管は高い伝熱性能を有することが求められている。内面溝付管の伝熱性能を向上させるためには、銅合金管の内面に加工されるフィンの高さを高くしたり、銅合金管の内面に加工される溝を管軸に対して大きく捻る必要があるため、管内に溝形状を加工する溝付プラグの磨耗及び欠損が発生しやすくなっている。
【0015】
また、特許文献5に開示されている、内面溝付管を製造する際の潤滑油として冷間抽伸加工用にポリブテン、転造加工用にポリアルキレングリコールを使用する内面溝付管の製造方法は、粘度の高い潤滑油を用いた場合においては潤滑油の蒸発温度が高くなって、管内残油量が低下しない場合がある。
【0016】
一方、工具磨耗及び欠損を低減するために、管材を加工する速度を抑えて管材と工具との間に発生する摩擦を低減させる方法が考えられるが、銅合金管の加工効率を低下させてしまうため、生産性の低下及び生産コストの増大につながる。
【0017】
更に、特許文献6に開示されている熱交換器用伝熱管は、銅合金管にステンレス鋼管を挿入し、マンドレルミル等を管内部に挿通して加圧することによって製造されるため、製造工程が複雑になるだけでなく、長尺の銅合金管をコイル状に巻いて製造する従来の銅管の製造工程が適用できなくなる。
【0018】
更に、特許文献7に開示されているP:0.005乃至0.5質量%を含有し、更にSn及びZnの内1種又は2種:0.05乃至5質量%を含有する組成を有する銅合金及びこの銅合金を加工した銅合金管は、耐蟻の巣状腐食性の向上を目的としてTeを含有するものである。しかし、TeはCuに殆ど固溶することがなく、TeがCuとの間に形成する金属間化合物は硬く、脆いため、特許文献7に開示されている銅合金及びこの銅合金を加工した銅合金管は、その製造工程又は加工工程において工具を磨耗させてしまい、耐工具磨耗性の向上にはつながらないものである。
【0019】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、銅合金管の製造における加工設備及び生産性を維持しながら、製管時の工具磨耗を低減させることによって更に生産性を向上させる銅合金鋳塊及びそれを加工して製造した銅合金管を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明に係る銅合金鋳塊は、熱間押出により銅合金管を製造するための鋳塊であって、P:0.004乃至0.05質量%、Zn:0.01乃至1.0%を含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなる組成を有することを特徴とする。
【0021】
本発明に係る銅合金管は、前記銅合金鋳塊に、熱間押出加工、圧延加工、抽伸加工及び焼鈍加工を施して製作されることを特徴とする。
【0022】
更に、前記銅合金管は、管の内面に転造加工を施されることによって複数の溝が形成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明の工具磨耗低減銅合金鋳塊によれば、P及びZnの含有量を最適化することによって、優れた工具磨耗低減効果が得られる。また、この銅合金鋳塊を用いて製造した銅合金管によれば、応力腐食割れ及び水素脆化が発生しにくく、更に、曲げ加工性が低下することがないため、冷凍空調用又は給湯器用の熱交換器等に用いられる銅管を効率よく、生産性よく製造し、供給することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明者等は、種々実験研究した結果、銅合金内のP含有量及びZn含有量を適切に規定することによって、優れた工具磨耗低減効果を有する銅合金鋳塊及び銅合金管を得ることができることを見出した。
【0025】
前述の如く、冷凍空調用の熱交換器や給湯機用の熱交換器、冷蔵庫あるいは給水給湯用の衛生配管に広く用いられるJISH3300C1220Tに規定されるりん脱酸銅管は、その加工工程において、管の表面にCuの薄い酸化皮膜を生成する。そしてCuの酸化皮膜とダイスやプラグ等の工具との間に摩擦が生じて、加工工具の磨耗又は欠損が発生する。
【0026】
この摩擦力を低減させるため、発明者等は、管内面又は外面に粘度が数百乃至数千cStの合成油や鉱物系の潤滑油を塗布する方法、銅合金管の加工工具に使用されている材質を別の材質に変える方法、プラグにTiNやTiC等をコーティングして工具磨耗を低減させる方法を試みたが、工具の磨耗及び欠損を十分に防止できなかった。
【0027】
そこで、工具によって加工される銅合金管の成分を最適化することにより、銅合金管と工具間の摩擦係数を低減させて、工具の磨耗及び欠損を低減する本発明を見出した。
【0028】
以下、本発明の工具磨耗低減銅合金鋳塊の成分添加理由及び組成限定理由について説明する。
【0029】
「P:0.004乃至0.05質量%」
本発明の銅合金鋳塊において、Pは銅原料の溶解及び鋳造時にCu中に溶解する酸素を除去するために有効である。銅合金鋳塊のPの含有量が0.004質量%未満であると、脱酸不足により銅合金鋳塊又は銅合金管内の酸素量が増加して、Cuの酸化物が発生し、鋳塊の健全性及び銅合金管の曲げ加工性が低下したり、合金の内部で水又は水蒸気が発生して水素脆化が生じる。銅合金鋳塊のPの含有量が0.05%を超えると、熱間押出工程において銅管が表面に割れを生じやすくなり、水若しくは水蒸気又はアンモニア蒸気雰囲気において亀裂先端でアノード溶解を生じて割れが進行して脆化する、応力腐食割れの感受性が高くなるとともに、熱伝導率の低下が大きくなる。従って、Pの含有量は0.004乃至0.05質量%である。
【0030】
「Zn:0.01乃至1.0質量%」
本発明の銅合金鋳塊又は銅合金管において、Znは工具と銅合金管との間の摩擦力を低減させ、工具の磨耗及び欠損を防ぐことに有効である。即ち、Znを添加することにより管の表面にZnの酸化皮膜が優先的に生成して、Cuの酸化皮膜と工具との摩擦による工具の磨耗及び欠損を防ぐことができる。一方、Znの含有量を増やすと管が表面に亀裂を生じ、応力腐食割れの感受性が高くなる。Zn含有量が0.01質量%未満であると、管の表面に生成するZnの酸化皮膜による工具磨耗低減の効果が十分に得られなくなり、Zn含有量が1.0質量%を超えると、応力腐食割れ感受性が高くなる。従って、Znの含有量は0.01乃至1.0質量%である。
【0031】
本実施形態の工具磨耗低減銅合金鋳塊及び銅合金管は、以下のように製造される。図1は、本実施形態に係る内面溝付管の縮径及び転造工程を示す図である。まず、原料となる電気銅をシャフト炉にて1200℃程度で溶解させ、銅が溶解した後Znを所定量添加し、Cu−15%Pの中間合金によりPを添加して脱酸する。そして、成分調整の後、半連続鋳造により例えば外径300mm、長さ7000mmの鋳塊を製造し、所定の長さに切断して銅合金鋳塊を得る。
【0032】
次に、前記銅合金鋳塊をガス焚きのビレット加熱炉で400乃至500℃まで加熱した後、インダクションヒーターで800乃至900℃程度まで加熱し、加熱されたビレットを押出機に装填する。そして、ビレットにマンドレルによるピアシング(穿孔)を施した後、ビレット外面にダイスを配置して押し出し、例えば外径93mm、肉厚10mmの管を製作する。そして、押出素管に熱間押出加工時より小径のマンドレルを挿入し、管外面において溝型のリングダイスを管の長手方向に往復させて断面減少率90%程度の圧延加工を行い、例えば外径38mm、肉厚2.25mmの圧延素管を製作する。そして、圧延素管にフローティングプラグを挿入した後、銅素管をダイスに貫通させて引き抜くことによって冷間抽伸加工を行い、所定の寸法の銅合金平滑管を得る。ここで、冷間抽伸加工は複数台の抽伸機を用いて行うが、各抽伸機による管の断面減少率は、35%以下であることが望ましい。
【0033】
そして、この抽伸加工後の銅素管内を還元性ガス又は不活性ガスによって置換後、インダクションヒーターによって還元性又は不活性雰囲気下で急速加熱及び急速冷却を行って連続的に焼鈍を行う。その後、図1に示すように、縮径プラグ3及び外面に溝が形成され、連結棒6にて縮径プラグ3と回転可能に連結された溝付プラグ6を銅素管1内に挿入する。そして、縮径プラグ3及び縮径ダイス2による縮径を行った後、溝付プラグ4の位置にて管外面を転造ボール5又は転造ロールで押圧すると、銅素管1の内面に溝付プラグ4の外面の溝が転写されて内面溝付管11が製作される。その後、更に縮径ダイス7によって縮径加工が施される。
【0034】
得られた平滑管又は内面溝付管はさらに焼鈍処理を行って、軟質材としてもよい。
【実施例】
【0035】
次に、本発明の実施例について、本発明の範囲から外れる比較例と比較して説明する。
【0036】
(応力腐食割れ評価試験)
応力腐食割れの評価は以下の方法によった。実施例及び比較例の銅合金管から長さ75mmの試験片を採取し、脱脂、乾燥した後、JISK8085に規定するアンモニア水を等量の純水で薄めた11.8%以上のアンモニア水を入れたデシケーターに液面から50mm離して入れた。このアンモニア雰囲気中に常温で2時間保持した後、試験片を元の外径の50%まで押しつぶして、割れの判定を目視で行った。試験片の割れがなかった場合を○、割れがあった場合を×とした。
【0037】
(水素脆化評価試験)
水素脆化の評価は、以下の方法によった。実施例及び比較例の銅合金管から長さ50mmの試験片を採取し、試験片を水素気流中において850℃で30分間加熱した後、研磨及びエッチングを行った。そして、試験片の粒界を顕微鏡で100倍に拡大して観察し、脆化の有無の判定を行った。脆化がなかった場合を○、あった場合を×とした。
【0038】
(第1実施例)
第1実施例は、平滑管についてのものであり、その組成と評価試験結果を表1に示す。
【0039】
本実施例及び比較例の平滑管は以下のように作製した。電気銅を溶解した溶湯に、Zn及びCu−P母合金の添加量を調整して添加することにより、所定組成の溶湯を作製し、直径300mmのビレットに鋳造した。次に、このビレットを850乃至950℃に加熱した後、ビレット中心をマンドリルによってピアシング加工し、熱間押出加工により外径93mm、肉厚10mmの押出素管を作製した。更に、押出素管を圧延加工、抽伸加工して、外径12.7mm、肉厚0.9mmの管を製作して共試材とした。そして、共試材100tを外径9.52mm、肉厚0.8mmに冷間抽伸加工して、加工前後における超硬製フローティングプラグの銅管加工部外径及び加工前後における超硬製ダイスの銅管加工部内径を測定し、プラグ外径の減少量及びダイス内径の増大量を磨耗量とした。なお、従来例とはJISH3300C1220Tに規定されるりん脱酸銅管を示す。
【0040】
【表1】

【0041】
この表1に示すように、本発明の実施例1乃至9は、いずれもダイス、プラグの工具磨耗量が従来例に比して少なく、優れた工具磨耗低減効果を示した。比較例1では、優れた工具磨耗低減効果が得られたが、水素脆化が発生した。比較例2は工具磨耗低減効果、応力腐食割れ感度及び水素脆化感度が従来品と同等の性能を示した。比較例4及び5では、優れた工具磨耗低減効果は得られたが、応力腐食割れが発生した。なお、比較例3については、熱間押出時に割れが生じて、製管できなかった。
【0042】
(第2実施例)
第2実施例は、内面溝付管についてのものであり、その組成と評価試験結果を表2に示す。第1実施例(平滑管)の押出加工後の管を内面溝付加工用の素管とした。この押出素管を圧延及び抽伸加工して、外径12.7mm、肉厚0.38mmの管を製作した後、インダクションヒーターにて中間焼鈍を行い、得られた素管を共試材とした。そしてこの共試管10tに縮径加工及び内面溝形状の転造加工を行って、外径9.52mm、底肉厚0.28mm、フィン高さ0.24mm、リード角18°、山数65の内面溝付管とした。そして、加工前後における溝付プラグ外面の銅管加工部外径の減少量を磨耗量とした。
【0043】
【表2】

【0044】
この表2に示すように、本発明の実施例1乃至9は、いずれも溝付プラグの工具磨耗量が従来例並びに本発明の範囲を満足しない比較例1、2、4及び5に比して少なく、優れた工具磨耗低減効果を示した。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の銅合金管は応力腐食割れ及び水素脆化が発生しにくいため、二酸化炭素、フロン等の冷媒を用いる冷凍空調用や給湯機用等の熱交換器の伝熱管(平滑管及び内面溝付管)、前記熱交換器の蒸発器と凝縮器を繋ぐ冷媒配管や器内配管、前記熱交換器の部品として四方弁やアキュムレーターなどに用いることができる。また、本発明の銅合金管は工具磨耗低減効果に優れており、粘度の高い潤滑油を塗布する必要がなく、残油によるろう付け性低下がないため、ろう付け部を有する伝熱管、器内配管、冷媒配管、熱交換器部材、水配管、灯油配管、ヒートパイプ、四方弁、コントロール銅管等に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本実施形態に係る内面溝付管の縮径及び転造工程を示す図である。
【符号の説明】
【0047】
1:銅素管、11:内面溝付管、2、7:縮径ダイス、3:縮径プラグ、4:溝付プラグ、5:転造ボール、6:連結棒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱間押出により銅合金管を製造するための鋳塊であって、P:0.004乃至0.05質量%、Zn:0.01乃至1.0%を含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなる組成を有することを特徴とする銅合金鋳塊。
【請求項2】
請求項1に記載の銅合金鋳塊に、熱間押出加工、圧延加工、抽伸加工及び焼鈍加工を施して製作されることを特徴とする銅合金管。
【請求項3】
管の内面に転造加工を施されることによって複数の溝が形成されていることを特徴とする請求項2に記載の銅合金管。

【図1】
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【公開番号】特開2009−242837(P2009−242837A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−88832(P2008−88832)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(504136753)株式会社コベルコ マテリアル銅管 (79)
【Fターム(参考)】