説明

差動歯車型減速機

【課題】差動歯車装置の回転制動を入力軸に連動して機械的に制御することにより、コンパクトで大きな減速比が得られる差動歯車型減速機を提供する。
【解決手段】入力軸2と出力軸3が、ギヤケース1内に配設した差動歯車装置10を介して連動連結され、入力軸2と平行する調整軸30の一端部にブレーキ35が、他端部にクラッチ36が設けられている。入力軸2に固定された1段ピニオン21が、調整軸30に回動自在に設けられた1段ギヤ22に噛合し、1段ギヤ22はクラッチ36に係脱自在に連動連結されている。差動歯車装置10のハウジング11に固定された2段ピニオン(ギヤ)24が、調整軸30に固定された2段ギヤ(ピニオン)23に噛合し、ブレーキ35とクラッチ36の切り換え操作により入力軸2に連動して調整軸30を回転・停止させ、差動歯車装置10の回転制動を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、差動歯車装置を用いた減速機に関し、詳しくは機械的な構造によってコンパクトで大きな減速比が得られる差動歯車型減速機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、差動歯車装置を用いた変速機又は減速機として、入力軸に設けたベベルギヤと、出力軸に設けたベベネギヤと、両ベベルギヤの間に動力伝達可能に介在する差動歯車装置と、該差動歯車装置のギヤ支持体(ハウジング)に連結されたウォームホイールと、これに噛合するウォームとからなるウォーム歯車機構と、該ウォーム歯車機構を介して差動歯車装置の回転制動を制御する電動モータ及びその電気的制御装置とを備えた差動歯車型無段変速機は知られている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【0003】
上記した特許文献1、特許文献2記載の差動歯車型無段変速機は、差動歯車装置の回転制動を制御するために、駆動源とは別の電動モータ及びその電気的制御装置が必要であった。また、一連の動作を連続的に無段階に減速又は変速するため、主として各種機械装置の位相調整に使用されるものであった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、差動歯車装置の回転制動を駆動源に連結する入力軸に連動して機械的に制御することにより、コンパクトで大きな減速比が得られる差動歯車型減速機を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明は、ギヤケースに軸支された入力軸と出力軸が、前記ギヤケース内に配設した差動歯車装置を介して連動連結され、前記ギヤケースに前記入力軸と平行して軸支された調整軸の一端部にブレーキが設けられ、他端部にクラッチが設けられ、前記入力軸に固定された1段ピニオンが、前記調整軸に回動自在に設けられた1段ギヤに噛合し、かつ、前記1段ギヤは前記クラッチに係脱自在に連動連結されており、前記差動歯車装置のハウジングに固定された2段ピニオン(ギヤ)が、前記調整軸に固定された2段ギヤ(ピニオン)に噛合し、前記ブレーキと前記クラッチの切り換え操作により前記入力軸に連動して前記調整軸を回転・停止させ、前記差動歯車装置の回転制動を制御することを特徴とする。
【0006】
前記差動歯車装置がベベルギヤを用いたものであり、前記入力軸と前記出力軸が同軸上に配設されている減速機が実施例として好ましい。
【発明の効果】
【0007】
本発明の差動歯車減速機は、ギヤケース内に配設した差動歯車装置の回転制動を入力軸に連動する2段の歯車列により機械的に制御するから、差動歯車装置の回転制動に別の駆動源を必要としない。しかも、コンパクトな構造で大きな減速比が得られ、省スペース化が図れる。そして、1台の減速機で運転停止せずに低速運転と高速運転の二段階に切り換えて運転が可能である。
【0008】
また、入力軸に連動する2段の歯車列の組み合わせを変えるだけで、ギヤケース、入力軸、出力軸、調整軸及び差動歯車装置はそのままで、減速比を広い範囲に亘って自由に変更することができる。
【0009】
本発明の差動歯車型減速機は、運転を停止せずに低速運転から高速運転に切り換えることができるので、各種の巻取り装置、巻戻し装置の動力伝達手段として好適であるが、その他種々の産業分野における動力伝達手段として使用できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る差動歯車型減速機の一実施例を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0012】
図1は、本発明に係る差動歯車型減速機の一実施例を示している。ギヤケース1には入力軸2と出力軸3が相対向して同軸状に軸支されている。入力軸2は、中間部位に1段ピニオン21が固定されていて、軸受4、中間軸受5によりギヤケース1に回転自在に軸支され、入力軸2の内端部にベベルギヤ8が固定されている。該ベベルギヤ8は後述する差動歯車装置10の一部分を構成するものである。出力軸3は、軸受6、7を介してギヤケース1に回転自在に軸支され、内端部にベベルギヤ9が固定されている。該ベベルギヤ9も入力軸2のベベルギヤ8と共に後述する差動歯車装置10の一部分を構成するもので、ベベルギヤ8に対向して配置される。
【0013】
ギヤケース1内にはベベルギヤを用いた差動歯車装置10が配設されている。該差動歯車装置10のハウジング11は、入力軸2のベベルギヤ8と出力軸3のベベルギヤ9を収容し、かつ、軸受12、13を介して入力軸2と出力軸3に回転自在に支持されている。該ハウジング11には、入力軸2と出力軸3に直交するスピンドル14が設けられている。該スピンドル14は両端が軸受15、16によりハウジング11に回転自在に軸支されている。スピンドル14の両端部には一対のアイドラーベベルギヤ17、18がカラー19を介して回転自在に嵌装されていて、両アイドラーベベルギヤ17、18が入力軸2のベベルギヤ8と出力軸3のべベルギヤ9に噛合して、差動歯車機構を構成している。ハウジング11の一方の側壁には入力軸2の1段ピニオン21と平行に、かつ同軸状に配設した2段ピニオン24が固定されている。
【0014】
ギヤケース1には入力軸2及び出力軸3と平行する調整軸30が配設されている。該調整軸30は、軸受31、中間軸受32及び軸受33を介してギヤケース1に軸支され、ギヤケース1から突出する一端部に電磁ブレーキ35が組み付けられ、他端部に電磁クラッチ36が組み付けられている。また、調整軸30には、1段ピニオン21に噛合する1段ギヤ22と2段ピニオン24に噛合する2段ギヤ23が設けられている。1段ギヤ22は内蔵ベアリング25を介して調整軸30に回転自在に嵌合した円筒状ボス26に固定され、該円筒状ボス26が軸受33によりギヤケース1に軸支されると共に、円筒状ボス26に固着連結した筒状継ぎ軸27を介して電磁クラッチ36に係脱自在に接続されている。一方、2段ギヤ23は、調整軸30にキー止めして固定されていて、調整軸30の回転力が2段ギヤ23に噛合する2段ピニオン24を経て差動歯車装置10のハウジング11に伝達され、該ハウジング11を入力軸2及び出力軸3の周りに回動させるようになっている。なお、上記のピニオン21,24及びギヤ22,23はいずれも、はすば歯車で、噛み合い箇所に隙間やがたつきが生じない構造にしてある。図中、37は入力軸2に連結して、回転駆動するサーボモータ(図示せず)の駆動軸である。
【0015】
次に、上記のように構成した本発明に係る差動歯車型減速機の運転動作について説明する。
【0016】
(1)運転停止状態について
【0017】
全ての電源はOFF状態で、駆動軸37は、図示しないサーボモータの内蔵ブレーキによりロックされ、入力軸2への動力伝達は停止されている。また、電磁ブレーキ35もOFF状態でロックされていて、調整軸30は回転が停止されている。電磁クラッチ36は電源OFFでフリー状態になっている。
【0018】
(2)減速運転状態について
【0019】
電源を入れると(ON状態)、前記サーボモータの駆動軸37が回転して入力軸2を回転駆動し、1段ピニオン21と1段ギヤ22に回転力が伝達される。同時に、電磁ブレーキ35が電源ONで解放状態になり、また、電磁クラッチ36が電源ONで作動状態になって、1段ギヤ22と調整軸30が電磁クラッチ36を介して接続され、1段ギヤ22に連動して調整軸30が回転する。調整軸30が回転すると、2段ギヤ23と2段ピニオン24が連動して回転し、差動歯車装置10のハウジング11を入力軸2及び出力軸3の回りに回転させる。ハウジング11が回転すると、入力軸2のベベルギヤ8と出力軸3のベベルギヤ9とに噛合しているアイドラーギヤ17,18が入力軸2及び出力軸3の軸線の周りに公転し、その結果、ベベルギヤ8の回転に連動して、かつアイドラーギヤ17,18を介して回転されるベベルギヤ9の回転数が減少し、入力軸2の回転数に対して出力軸3の回転数が減速される。このような入力軸2から出力軸3に伝達される回転数の減速比は、入力軸2に連動する2段の歯車列21,22,23,24の歯数の組み合わせにより設定される。具体的には後述する実施例1に示す。
【0020】
(3)等速運転状態について
【0021】
電源を入れたON状態で、前記サーボモータの駆動軸37が回転して入力軸2を回転駆動し、1段ピニオン21と1段ギヤ22に回転力が伝達される。一方、電磁ブレーキ35は電源OFF状態で調整軸30を制動して、回転停止状態にロックし、電磁クラッチ36も電源OFF状態でフリー状態になって、1段ギヤ22は電磁クラッチ36との接続が切れ、入力軸2の1段ピニオン21に噛合している1段ギヤ22は内蔵ベアリング25を介して調整軸30の回りに空転している状態である。また、調整軸30が回転停止状態にロックされているため、2段ギヤ23から2段ピニオン24に回転力は伝達されず、差動歯車装置10のハウジング11も固定された状態になっている。したがって、入力軸2の回転はベベルギヤ8からアイドラーギヤ17,18を経てベベルギヤ9にそのまま伝達され、出力軸3は入力軸2と等速で回転することになる。
【実施例1】
【0022】
上記した差動歯車装置10による減速比を実施例について具体的に説明する。
1段ピニオン21の歯数:32枚
1段ギヤ22の歯数:72枚
2段ギヤ23の歯数:40枚
2段ピニオン24の歯数:36枚
入力軸2の回転数:600rpmとする。
差動歯車装置10による減速比:iは、
i=(32/72)×(40/36)=1/2.025
差動歯車装置10のハウジング11の回転数:nは、
n=600×(1/2.025)■296.2962963rpm
出力軸の回転数:Nは、
N=(600×1/2−296.2962963)×2rpm
=3.7037037×2rpm
■7.4074074rpm
【0023】
上記計算式において、入力軸2の回転数600rpmを1/2にしているのは、差動歯車装置10のアイドラーギヤ17,18が公転することによって、入力軸2のベベルギヤ8と出力軸3のベベルギヤ9が互いに逆回転し、2倍の減速効果を生じるためである。
入力軸2に対する出力軸3の減速比:Iは、
I=7.4074074/600
=1/81.00000008
■1/81
したがって、入力軸2の81回転に対して、出力軸3は1回転することになり、大きな減速比が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明に係る差動歯車型減速機は、コンパクトな構成で大きな減速比が得られ、しかも運転中に直ちに減速から等速(高速)に、またその逆に切り換えることが可能であるから、各種の巻上げ装置や巻取機の動力伝達手段として効果的に利用することができる。
【符号の説明】
【0025】
1 ギヤケース
2 入力軸
3 出力軸
8 ベベルギヤ(入力軸2側)
9 ベベルギヤ(出力軸3側)
10 差動歯車装置
11 ハウジング
14 スピンドル
17,18 アイドラーベベルギヤ
21 1段ピニオン
22 1段ギヤ
23 2段ギヤ
24 2段ピニオン
25 内蔵ベアリング
26 円筒状ボス
27 筒状継ぎ軸
30 調整軸
35 電磁ブレーキ
36 電磁クラッチ
37 駆動軸
【先行技術文献】
【特許文献】
【0026】
【特許文献1】特開平4−312250号公報
【特許文献2】特開2002−327809号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ギヤケースに軸支された入力軸と出力軸が、前記ギヤケース内に配設した差動歯車装置を介して連動連結され、
前記ギヤケースに前記入力軸と平行して軸支された調整軸の一端部にブレーキが設けられ、他端部にクラッチが設けられ、
前記入力軸に固定された1段ピニオンが、前記調整軸に回動自在に設けられた1段ギヤに噛合し、かつ、前記1段ギヤは前記クラッチに係脱自在に連動連結されており、
前記差動歯車装置のハウジングに固定された2段ピニオン(ギヤ)が、前記調整軸に固定された2段ギヤ(ピニオン)に噛合し、前記ブレーキと前記クラッチの切り換え操作により前記入力軸に連動して前記調整軸を回転・停止させ、前記差動歯車装置の回転制動を制御することを特徴とする差動歯車型減速機。
【請求項2】
前記差動歯車装置がベベルギヤを用いたものであり、前記入力軸と前記出力軸が同軸状に配設されていることを特徴とする請求項1記載の差動歯車型減速機。
【請求項3】
前記ブレーキ及び前記クラッチが、電磁式である請求項1又は2記載の差動歯車型減速機。
【請求項4】
前記入力軸が、サーボモータに連結されている請求項1ないし3のいずれかに記載の差動歯車型減速機。

【図1】
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【公開番号】特開2013−2488(P2013−2488A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−131847(P2011−131847)
【出願日】平成23年6月14日(2011.6.14)
【出願人】(000131658)株式会社マキシンコー (2)
【Fターム(参考)】