説明

巻上機

【課題】使用者の主観に頼ることなく、明確な寿命推測値を表示し、また、精度良く巻上機の寿命を推測する機能を備える巻上機を提供する。
【解決手段】誘導電動機によってクレーンフックの取り付けられたワイヤーロープの巻上動作及び巻下動作を行なう誘導電動機が備えられた巻上機であって、前記誘導電機にかかる前記クレーンフックで吊り上げる吊荷の荷重を電流値により判断し荷重情報を得る荷重情報取得手段と、前記吊荷の荷重ごとの運転時間を記録する運転時間記録手段と、前記吊荷の荷重ごとの運転時間から寿命を推測する寿命推測手段と、前記吊荷の荷重ごとの運転時間及び推測した寿命を出力する出力手段と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重量物を吊り上げる巻上機に関わり、特にホイストの吊り上げる荷の質量を判別し、判別した荷の質量ごとの運転時間により、寿命を推測する機能を備える巻上機に関する。
【背景技術】
【0002】
ホイスト等の巻上機の寿命を推測する手段として、総運転時間と運搬した吊荷の質量すなわち荷重ごとの運転時間により推測する。総運転時間はカウンタ等の装置、荷重は荷重計等の装置やモータの電流値を測定することで得られるが、ホイスト等の巻上機による荷物の運搬は荷重が変化するため、荷重ごとの運転時間は使用者の主観により判断し、巻上機の寿命を推測しているのが実状である。
【0003】
荷重ごとの運転回数を保存し寿命を推測する手段として、電流値が一定の値になったら接点を開閉するメーターリレーとカウンタを使用する手段もある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2623774号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した使用者の主観による方法では、精度よく巻上機の寿命を推測することは出来ないし寿命を推測するのに手間が掛かっていた。
【0006】
また、特許文献1に開示されている技術によっては、メーターリレーとカウンタにより荷重ごとの運転回数を保存し寿命を推測することも、運転回数ではホイスト等の巻上機の寿命を精度よく推測することはできず、寿命を推測するための明確な判断値として表れてこないので、寿命を推測するのに手間が掛かるのは変わらなかった。
【0007】
本発明の目的は使用者の主観にたよることなく、明確な寿命推測値を表示し、また、精度良く巻上機の寿命を推測する装置を提供することが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、例えば、誘導電動機によってクレーンフックの取り付けられたワイヤーロープの巻上動作及び巻下動作を行なう誘導電動機が備えられた巻上機であって、前記誘導電機にかかる前記クレーンフックで吊り上げる吊荷の荷重を電流値により判断し荷重情報を得る荷重情報取得手段と、前記吊荷の荷重ごとの運転時間を記録する運転時間記録手段と、前記吊荷の荷重ごとの運転時間から寿命を推測する寿命推測手段と、前記吊荷の荷重ごとの運転時間及び推測した寿命を出力する出力手段と、を備えるという構成をとる。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、総運転時間と運搬した荷重ごとの運転時間を長期に渡り保存するので、精度良く寿命を推測できる。
【0010】
また、明確な寿命推測値を表示するので、寿命管理の効率化も図れる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】インバータ式クレーン装置の全体構成を表す斜視図である。
【図2】インバータ式クレーン装置の制御構成を表すブロック図である。
【図3】荷重ごとの運転時間の記録例である。
【図4】寿命推測に必要な荷重スペクトル係数を算出するための図である。
【図5】荷重スペクトル係数より期待寿命が決定される図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の最良の形態について図1〜図4を参照して説明する。始めに図1、図2にて、インバータ式クレーン装置1の全体構成と動作を説明する。
【0013】
インバータ式クレーン装置1はクレーンフック2に取り付けた荷物を、ワイヤーロープ3で巻き取ることでZ、−Z方向に巻上巻下する為に、巻上誘導電動機4を備えた巻上用装置5を備え、X、−X方向に移動させる為の横行誘導電動機6を備えた横行用装置7と、横行用ガーダー8を備え、Y、−Y方向に移動させるために、走行誘導電動機9を備えた走行用装置10と走行用ガーダー11を組み合わせたものである。
【0014】
巻上誘導電動機4と横行誘導電動機6は、巻上・横行用インバータ装置12に格納された図2の巻上・横行インバータ制御部13は、入力装置14からの指示を取り込み、信号を出力することで巻上用インバータ15と横行用インバータ16を制御し、巻上用インバータ15と横行用インバータ16から必要な周波数、電圧を巻上誘導電動機4と横行誘導電動機6に加え、即座に誘導電動機用ブレーキ17を解除制御することで、クレーンフック2に取り付けられた荷物が落下することなくZ、−Z方向に移動させる。横行用装置7の場合、横行用ガーダー8に沿って巻上用装置5をX、−X方向に移動させる。
【0015】
同様に走行用装置10に取り付けてある走行誘導電動機9は入力装置14からの指示を、走行用インバータ装置18に格納された図2の走行インバータ制御部19で取り込み信号を出力することで、走行用インバータ20を制御し、走行用インバータ20から必要な周波数、電圧を走行誘導電動機9に加え、即座に誘導電動機用ブレーキ17を解除制御することで、走行用ガーダー11に沿って巻上用装置5をY、−Y方向に移動させる。
【0016】
運転時間は巻上・横行インバータ制御部13に備えられている制御基板131が測定するようになっている。制御基板は例えば、2msや10msごとに実行するプログラム領域が存在するのでこの領域で運転時間のカウントを行なう。ここで、プログラムで運転時間を測定する方法だと、他プログラムの影響により正確な時間測定を行なえない可能性がある。そこで、事前にプログラムで測定した時間と、実際に時計等で測定した時間の差を、補正係数としてプログラムで測定した時間に加えることで、精度の良い時間測定が行なえる。
【0017】
制御基板131が運転時間を測定するタイミングは巻上・横行インバータ制御部13が誘導電動機用ブレーキ17を解除制御する時から、ブレーキを掛ける制御を行なうまでの時間である。
【0018】
また、制御基板131は荷重を判断するために巻上誘導電動機4の電流値を検出し、検出した電流から間接的に荷重を推定する。ここで、電流値から荷重を推定するために、事前に荷重ごとの電流値を測定しておき、その値を荷重推定のパラメータにすれば良い。
【0019】
なお、前記荷重情報を得る手段として用いる検出方法は、一般的なインバータ式クレーン装置9では、行なっていることなので特別な装置を設ける必要はない。
【0020】
寿命を推測する為に、荷重ごとの運転時間が必要になるので荷重ごとの運転時間を図3のように記録する。例えば吊り上げることのできる荷重(定格荷重)が2tの場合、0.1tごとに20分割し、それぞれの区分の運転時間を記録する。
【0021】
記録する手段としては、巻上・横行インバータ制御部21にあるCPUに搭載されている、メインメモリに保存する。また、ハードディスクやフロッピー(登録商標)ディスク等の外部記憶装置に保存しても良い。
【0022】
寿命を推測する手段を図3、図4、図5を用いて説明する。図4はISO規格の荷重スペクトルモデル図である。この図から寿命を推測するのに必要な荷重スペクトル係数を算出し、同じくISO規格の図5に示す表より期待寿命時間が決定される。
【0023】
【数1】


Km=荷重スペクトル係数
max=定格荷重
1〜P=定格荷重を所定範囲ごとに区分したもの
1〜tn=荷重P1〜Pのそれぞれの運転時間
tT=総運転時間
【0024】
例えば、図3のように測定されたとすると、図4より
【数2】


と荷重スペクトル係数Kmが算出できる。Kmの値を図5の公称荷重スペクトル係数の高い方で最も近い値に合わせることで、荷重の状態が判別できるので、算出したKm≒0.688の場合、荷重の状態が「重」にあたることが分かる。例えば等級をM5とすれば荷重の状態より総運転時間が3200時間と読み取れる。測定された総運転時間は5000時間なので図5の3200時間を超えている。ゆえに期待寿命時間を超えているので、巻上・横行インバータ制御部21にアラームを出力させる。
【0025】
アラームの出力手段は、一般的に巻上・横行インバータ制御部13に搭載されているデジタル表示器で表示させる。また、LED等のランプを用いてもよい。さらに、アラームだけではなく、図3の情報を巻上・横行インバータ制御部13に搭載されているデジタル表示器で表示させるようにすれば点検時の手助けにもなる。
【0026】
以上により、総運転時間と運搬した荷重ごとの運転時間を長期に渡り保存するので、精度良く寿命を推測できる。
【0027】
また、明確な寿命推測値を表示するので、使用者の主観にたよることなく寿命管理の効率化も図ることができる。
【0028】
さらに、特別な装置を用いることがないのでコストの低減が図れる。
【符号の説明】
【0029】
1…インバータ式クレーン装置、2…クレーンフック、3…ワイヤーロープ、4…巻上誘導電動機、5…巻上用装置、6…横行誘導電動機、7…横行用装置、8…横行用ガーダー、9…走行誘導電動機、10…走行用装置、11…走行用ガーダー、12…巻上・横行用インバータ装置、13…巻上・横行インバータ制御部、14…入力装置、15…巻上用インバータ、16…横行用インバータ、17…誘導電動機用ブレーキ、18…走行用インバータ装置、19…走行インバータ制御部、20…走行用インバータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘導電動機によってクレーンフックの取り付けられたワイヤーロープの巻上動作及び巻下動作を行なう誘導電動機が備えられた巻上機であって、
前記誘導電機にかかる前記クレーンフックで吊り上げる吊荷の荷重を電流値により判断し荷重情報を得る荷重情報取得手段と、
前記吊荷の荷重ごとの運転時間を記録する運転時間記録手段と、
前記吊荷の荷重ごとの運転時間から寿命を推測する寿命推測手段と、
前記吊荷の荷重ごとの運転時間及び推測した寿命を出力する出力手段と、
を備えることを特徴とする巻上機。
【請求項2】
前記運転時間記録手段には、吊荷の荷重毎の運転時間が記録されることを特徴とする請求項1に記載の巻上機。
【請求項3】
前記運転時間記録手段には、定格荷重を所定の範囲ごとに区分し、各区分毎に運転時間が記録されるようになっていることを特徴とする請求項1に記載の巻上機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−105470(P2011−105470A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−263470(P2009−263470)
【出願日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【出願人】(502129933)株式会社日立産機システム (1,140)
【Fターム(参考)】