説明

巻線型濾過部材およびその製造方法

【課題】 安価で、形状保持性の高い巻線型濾過部材を提供する。また、そのような巻線型濾過部材を、低コストで効率よく製造することのできる製造方法を提供する。
【解決手段】 巻線型濾過部材1は、少なくとも一本の素線10が筒状かつ網状に巻回されてなり、素線10の隣接部分同士が重なり合って形成されている複数の重なり部を備えてなる。複数の重なり部は、隣接部分同士が固定されている二つ以上の固定部11a、11bと、隣接部分同士が固定されていない非固定部12と、からなる。二つ以上の固定部11a、11bは、巻線型濾過部材1の全体に対して熱処理を施すことなく形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、エアバッグ装置のインフレータ等に用いられ、素線が筒状かつ網状に巻回されてなる巻線型濾過部材、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両には、衝突時に乗員を保護するため、エアバッグ装置が搭載されている。エアバッグ装置は、衝突を検知するセンサからの信号に基づいてガスを発生させるインフレータと、該インフレータから放出されたガスにより膨張して乗員を保護するバッグと、を備えている。ここで、インフレータには、燃焼によりガスを発生するガス発生剤と、発生したガスの冷却機能および燃焼残渣の濾過機能を備えた濾過部材と、が収容されている。この種の濾過部材としては、例えば、金属線を巻回し筒状かつ網状に編み上げた巻線型濾過部材が知られている(例えば、特許文献1、2参照)。
【特許文献1】特開平11−348712号公報
【特許文献2】特開2001−171472号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
インフレータでは、燃焼残渣を含んだ高温、高圧のガスが、濾過部材の網目を通過しながら濾過される。したがって、濾過部材には、網目形状を維持してガスの冷却、濾過性能を保持すべく、高い形状保持性が必要となる。
【0004】
巻線型濾過部材の形状保持性を向上させるため、例えば、上記特許文献1には、金属線を編み上げて筒状体とした後、該筒状体の全体を熱処理して一体化させる手法が紹介されている。また、上記特許文献2には、金属線を所定の張力で編み上げて筒状体とした後、所定の条件で該筒状体の全体を焼結する手法が紹介されている。このように、従来は、筒状体の全体を熱処理することにより、素線同士の重なり合う部分を接合させて、形状保持性を向上させていた。
【0005】
しかし、筒状体の全体に対して焼結等の熱処理を行うためには、相応の設備が必要となる。このため、製造コストが高くなる。また、熱処理を行うためには、正味の熱処理工程の他に、所定の温度への昇温、冷却等の工程も必要となる。このため、巻線型濾過部材の製造に要する工数が多くなり、生産性が低い。
【0006】
一方、全体を熱処理せず、巻回した金属線の巻き終わり端部のみを固定した筒状体のままでは、形状保持性が充分ではないため、高温、高圧のガスが通過する際の衝撃に耐えることは難しい。
【0007】
本発明は、このような実情を鑑みてなされたものであり、安価で、形状保持性の高い巻線型濾過部材を提供することを課題とする。また、そのような巻線型濾過部材を、低コストで効率よく製造することのできる製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明の巻線型濾過部材は、少なくとも一本の素線が筒状かつ網状に巻回されてなり、該素線の隣接部分同士が重なり合って形成されている複数の重なり部を備えてなる巻線型濾過部材であって、複数の前記重なり部は、前記隣接部分同士が固定されている二つ以上の固定部と、該隣接部分同士が固定されていない非固定部と、からなり、全体に対する熱処理が施されていないことを特徴とする(請求項1に対応)。
【0009】
本発明の巻線型濾過部材では、素線が所定の巻き付け角度で巻回されている。巻回された素線は径方向に隣接し、その隣接部分が互いに交差することにより網目が形成されている。つまり、本発明の巻線型濾過部材では、径方向に隣接する素線の隣接部分同士が重なり合って、複数の重なり部が形成されている。
【0010】
巻線型濾過部材を製造する場合、従来は、上述したように、編み上げられた筒状体全体に焼結等の熱処理を施して、重なり部における素線の隣接部分同士を接合していた。この場合、複数の重なり部における接合は一度に行われ、素線の隣接部分同士のほとんどが接合される。
一方、本発明の巻線型濾過部材では、全体に対して熱処理が施されていない。つまり、従来のように、筒状体全体を熱処理していない。その代わり、複数の重なり部のうち、二つ以上を局所的に固定している。但し、すべての重なり部で、素線の隣接部分同士が固定されているわけではない。すなわち、複数の重なり部は、素線の隣接部分同士の固定の有無により、固定部と非固定部とに分けられる。固定部では、隣接部分同士が固定されている。一方、非固定部では、隣接部分同士が固定されていない。このように、本発明の巻線型濾過部材では、一部の隣接部分同士のみが選択的に固定されている。
【0011】
本発明の巻線型濾過部材は、全体に対する熱処理を施さずに製造することができる。よって、本発明の巻線型濾過部材の製造において、焼結等の熱処理設備は必要ない。また、熱処理に関する一連の工程を省略することができる。このため、製造時間を短縮することができる。このように、製造効率が上がり、製造コストが低減されるため、本発明の巻線型濾過部材は安価になる。
【0012】
また、本発明の巻線型濾過部材は、素線の隣接部分同士が固定されている固定部を二つ以上備えている。したがって、例えば、従来のように、巻き終わり端部のみが固定されている態様、つまり、固定部を一つだけ備える態様と比較して、高い形状保持性を有する。
【0013】
(2)好ましくは、前記固定部の一つは、前記素線の巻き終わり端部が固定されている端部固定部である構成とするとよい(請求項2に対応)。例えば、インフレータでは、爆発的な燃焼により発生したガスが、巻線型濾過部材の軸中心から拡径方向へ通過する。素線の巻き終わり端部は、素線を編み上げる過程で、筒状体の最外周に配置される。高温、高圧のガスの通過による、ほつれ等の巻線型濾過部材の形状変形を防止するためには、少なくとも巻き終わり端部が固定されていることが望ましい。本構成によると、巻き終わり端部からのほつれが効果的に抑制されるため、形状保持性がより向上する。
【0014】
(3)好ましくは、前記固定部の少なくとも一つは、軸方向の全長を100%とした場合、該軸方向に対向する両巻端部から各々20%以内の長さの領域にある構成とするとよい(請求項3に対応)。本発明の巻線型濾過部材は筒状を呈する。ここで、軸方向に対向する両巻端部の近傍は、組み付け作業時あるいは隣接する部材との干渉等により、他の領域に比べてほつれ易い。本構成によると、両巻端部の近傍、すなわち、軸方向の全長を100%とした場合、該軸方向に対向する両巻端部から各々20%以内の長さの領域に、一つ以上の固定部がある。言い換えれば、同領域における複数の重なり部の一つ以上で、素線の隣接部分同士が固定されている。したがって、両巻端部の近傍におけるほつれを効果的に抑制することができる。
【0015】
(4)好ましくは、軸方向の全長を100%とした場合、該軸方向に対向する両巻端部から各々20%以内の長さの領域に、他の領域よりも前記素線の巻回密度が高いほつれ防止部を備える構成とするとよい(請求項4に対応)。
【0016】
ここで、巻回密度とは、巻線型濾過部材の径方向および軸方向のうち、少なくとも一方に沿った単位長さあたりの素線の巻数をいう。上記(3)において説明したように、筒状の巻線型濾過部材では、軸方向に対向する両巻端部近傍でほつれやすい。本構成によると、両巻端部の近傍、すなわち、軸方向の全長を100%とした場合、該軸方向に対向する両巻端部から各々20%以内の長さの領域に、ほつれ防止部が配置されている。ほつれ防止部は、他の領域よりも素線の巻回密度が高い。つまり、素線が密に巻回されている。したがって、両巻端部近傍のほつれが抑制され、形状保持性をより高くすることができる。
【0017】
(5)好ましくは、上記(4)の構成において、前記ほつれ防止部は、前記素線が周方向に巻回されてなる構成とするとよい(請求項5に対応)。素線が周方向に巻回されることで、両巻端部近傍では、巻回密度が高いだけでなく、他の領域とは異なる素線の重なり状態が形成される。また、例えば、本構成のほつれ防止部を最外周に配置した場合、周方向に巻回された素線が、既に巻回された素線を押圧し、ほつれ防止により効果的である。このように、本構成によると、素線を周方向に巻回するという簡単な手法で、両巻端部の近傍の形状保持性を高くすることができる。
【0018】
(6)好ましくは、前記固定部では、前記隣接部分同士が、溶接、接着、かしめ、挟み込みから選ばれる一種以上により固定されている構成とするとよい(請求項6に対応)。本構成によると、簡単かつ安価な方法で、素線の隣接部分同士を固定することができる。
【0019】
(7)本発明の巻線型濾過部材の製造方法は、少なくとも一本の素線を交差させながら軸部材に巻き付けて、該素線の隣接部分同士が重なり合う複数の重なり部を形成する重なり部形成工程と、全体に対して熱処理を施すことなく、複数の該重なり部のうち少なくとも二つ以上を固定して固定部を形成する固定部形成工程と、を有することを特徴とする(請求項7に対応)。
【0020】
本発明の巻線型濾過部材の製造方法では、まず、重なり部形成工程で、素線を交差させながら軸部材に巻き付けて、複数の重なり部を形成する。次に、固定部形成工程で、形成した複数の重なり部のうち少なくとも二つ以上を固定して固定部を形成する。製造された巻線型濾過部材は、素線の隣接部分同士が固定されている固定部を二つ以上備え、高い形状保持性を有する。
【0021】
また、本発明の巻線型濾過部材の製造方法は、素線を編み上げた筒状体の全体を熱処理する熱処理工程を含まない。したがって、焼結等を行うための熱処理設備は必要ない。また、熱処理に関する一連の工程を省略することができるため、工数を削減することができ、製造時間を短縮することができる。よって、本発明の製造方法によれば、形状保持性の高い巻線型濾過部材を効率良く、低コストに製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の巻線型濾過部材およびその製造方法の実施形態について説明する。
【0023】
〈第一実施形態〉
本実施形態の巻線型濾過部材は、本発明の巻線型濾過部材を、エアバッグ装置のインフレータ用として具現化したものである。まず、本実施形態の巻線型濾過部材(以下、単に「濾過部材」と称す。)が組み付けられたインフレータの構成について説明する。図1に、本実施形態の濾過部材が組み付けられたインフレータの断面図を示す。図1に示すように、インフレータ9は、ハウジング90と、内筒91と、濾過部材1と、点火器5と、助燃剤6と、ガス発生剤7と、を備えている。インフレータ9の外部には、図示しないエアバッグ装置のバッグが、折り畳まれた状態で配置されている。
【0024】
ハウジング90は、上部ハウジング90aと下部ハウジング90bとから構成されている。上部ハウジング90aは、鋼製であり、カップ状を呈している。上部ハウジング90aは、中央がやや盛り上がった円板状の天井部900aと、天井部900aの周縁から略垂直に下方へ伸びる側壁部901aと、側壁部901aの下端から天井部900aの拡径方向に伸びるフランジ部902aと、を備えている。側壁部901aには、インフレータ9の内部で発生したガスを外部(つまりエアバッグ装置のバッグ内部)へ吐出させるためのガス吐出孔903aが複数穿設されている。ガス吐出孔903aは、側壁部901aの内周面に貼着されたシールテープ904aにより塞がれている。
【0025】
下部ハウジング90bは、鋼製であり、カップ状を呈している。下部ハウジング90bは、中央に内筒挿入孔903bが形成された円板状の底部900bと、底部900bの外周縁から略垂直に上方へ伸びる側壁部901bと、側壁部901bの上端から底部900bの拡径方向に伸びるフランジ部902bと、を備えている。上部ハウジング90aと下部ハウジング90bとは、各々のフランジ部902a、902bとが接合されて、一体化されている。
【0026】
内筒91は、内筒挿入孔903bから上部ハウジング90a側へ挿入されている。内筒91は、ハウジング90の略中央に配置されている。内筒91の上部は、フランジ状に拡がっており、上部ハウジング90aの天井部900aと接合されている。内筒91の側壁の上方部分には、伝火孔910が穿設されている。伝火孔910は、内筒91の外周面に貼着されたシールテープ911により塞がれている。
【0027】
内筒91の内側には、点火器5と助燃剤6とが収容されている。点火器5は、内筒91の下方に配置され、図示しない加速度センサやECU(電子制御ユニット)と電気的に接続されている。助燃剤6は、点火器5の上方に配置されている。助燃剤6は、伝火孔910と径方向に対向する位置に配置されている。
【0028】
濾過部材1は、円筒状を呈している。濾過部材1は、内筒91の外側に同心円状に配置されている。濾過部材1については、後で詳しく説明する。
【0029】
ガス発生剤7は、タブレット状を呈している。ガス発生剤7は、内筒91と濾過部材1とに囲まれて形成されたガス発生剤収容部70に多数収容されている。ガス発生剤収容部70の下方には、支持部材71が配置されている。支持部材71は、上部がフランジ状に拡がった短軸円筒状を呈している。ガス発生剤7は、当該支持部材71の上部により、下方から支持されている。
【0030】
次に、インフレータの動作について説明する。加速度センサからの加速度信号が所定のしきい値を超えた場合、ECUは、車両が衝突したと判別し、点火器5に駆動指示を出す。点火器5の点火により、助燃剤6が燃焼する。助燃剤6の燃焼熱は、シールテープ911を破断し、伝火孔910を介してガス発生剤収容部70に流れ込む。この燃焼熱により、ガス発生剤7が燃焼し、大量のガスを発生させる。発生したガスは、濾過部材1を通過する。この際、濾過部材1を形成する平角線(図略)との間で熱交換が行われ、ガスは冷却される。同時に、ガス中の燃焼残渣は、濾過部材1の網目により除去される。濾過部材1を通過したガスは、シールテープ904aを破断し、ガス吐出孔903aからエアバッグ装置のバッグ内部へ流入する。流入したガスにより、折り畳まれていたバッグは速やかに展開し、車室内に膨出する。
【0031】
次に、本実施形態の濾過部材の構成について説明する。図2に、本実施形態の濾過部材の斜視図を示す。なお、図2に示すのは、インフレータに組み付ける前の状態である。図2に示すように、濾過部材1は、外径(直径)60mm、内径(直径)50mm、軸方向長さ(巻幅L)30mmの円筒状を呈している。濾過部材1は、鋼製の一本の平角線10(断面積0.2mm)が巻回されて形成されている。平角線10は、所定の巻き付け角度で、径方向に幾層にも巻回されている。径方向における平角線10の隣接部分が互いに交差することにより網目が形成されている。なお、平角線10は、本発明の素線に含まれる。
【0032】
濾過部材1は、二つの固定部、すなわち、第一固定部11aと第二固定部11bとを有している(説明の便宜上、双方の固定部をハッチングで示す)。第一固定部11aおよび第二固定部11bは、平角線10の隣接部分同士が溶接により固定されて形成されている。第一固定部11aおよび第二固定部11bは、濾過部材1の巻幅Lに対して、上側巻端部から20%以内の長さの領域L1内に配置されている。また、第二固定部11bでは、平角線10の巻き終わり端部100が固定されている。一方、第一固定部11aおよび第二固定部11b以外の、平角線10の隣接部分同士が重なり合って形成された重なり部は、該隣接部分同士が固定されていない非固定部12となっている。
【0033】
次に、本実施形態の濾過部材の製造方法について説明する。本実施形態の濾過部材の製造方法は、重なり部形成工程と固定部形成工程とを有する。図3に、濾過部材の製造方法における重なり部形成工程を示す。図3に示すように、重なり部形成工程では、円柱状のボビン2を軸方向に往復動させながら回転させて(図中、白抜き矢印で示す)、平角線10をボビン2の外周面に巻き付ける。これにより、平角線10の隣接部分同士が重なり合う複数の重なり部を形成する。ボビン2の往動時と復動時とでは、ボビン2に対する平角線10の巻き付け角度が、ちょうど逆になる。このため、径方向における平角線10の隣接部分同士は、互いに交差するように重なり部を形成する。平角線10は、所定の肉厚あるいは巻数になるまで、ボビン2に巻き付けられる。なお、ボビン2は、本発明の軸部材に含まれる。
【0034】
次に、固定部形成工程において、平角線10の巻き終わり端部100と、それより手前に形成された重なり部と、を溶接により固定する。このように、選択的に重なり部を固定することにより、前出図2に示すような、二つの固定部11a、11bが形成される。また、二つの固定部11a、11b以外の重なり部は、非固定部12となる。最後に、ボビン2を抜き取って、前出図2に示した濾過部材1となる。
【0035】
次に、本実施形態の濾過部材およびその製造方法の作用効果について説明する。本実施形態の濾過部材1は、平角線10の隣接部分同士が固定されている二つの固定部(第一固定部11a、第二固定部11b)を備えている。このうち、一方の第二固定部11bは、巻き終わり端部100が固定された端部固定部である。このように、端部固定部を含む二つの固定部を備えているため、本実施形態の濾過部材1は、高温、高圧のガスが通過した場合でも、ほつれ難く、形状保持性が高い。また、第一固定部11a、第二固定部11bは、いずれも、巻幅Lの長さを100%とした場合、上側巻端部から20%以内の長さの領域に配置されている。よって、上側巻端部の近傍におけるほつれを、効果的に抑制することができる。
【0036】
また、第一固定部11a、第二固定部11bは、いずれも、溶接により固定されている。このため、本実施形態の濾過部材1によると、固定部の形成、つまり、平角線10の隣接部分同士の固定が容易である。さらに、本実施形態の濾過部材1によると、平角線10の隣接部分同士のみを局所的に固定するため、全体に対する熱処理を行う必要がない。したがって、焼結等を行うための熱処理設備は必要ない。また、熱処理に関する一連の工程を省略することができるため、工数を削減することができ、製造時間を短縮することができる。つまり、本実施形態の濾過部材の製造方法によれば、形状保持性の高い濾過部材1を効率良く、低コストに製造することができる。
【0037】
〈第二実施形態〉
本実施形態と第一実施形態との相違点は、平角線の巻き終わり端部の固定を、溶接ではなく、かしめ(圧着)により行った点である。したがって、ここでは相違点のみを説明する。図4に、平角線の巻き終わり端部が固定された第二固定部の拡大図を示す。図4に示すように、第二固定部11bでは、平角線10の巻き終わり端部100が、同じ平角線10の径方向に隣接する部分に、C字状に巻き付けられて固定されている。
【0038】
本実施形態の濾過部材は、次のように製造される。上記第一実施形態と同様に、まず、重なり部形成工程にて、平角線10をボビン2の外周面に巻き付け、複数の重なり部を形成する(前出図3参照)。次に、固定部形成工程において、平角線10の巻き終わり端部100を、径方向に隣接する平角線10の下(縮径方向)に挟み込む。そして、巻き終わり端部100が挟み込まれた重なり部に、径方向両側から所定の圧力を加えて、重なり合う隣接部分同士を圧着する。これにより、第二固定部11bが形成される。また、もう一つの第一固定部は、上記第一実施形態と同様に、溶接により形成する。
【0039】
次に、本実施形態の濾過部材およびその製造方法の作用効果について説明する。本実施形態の濾過部材およびその製造方法は、第一実施形態の濾過部材およびその製造方法と同様の作用効果を有する。また、本実施形態によると、平角線10の巻き終わり端部100をかしめにより固定するため、より容易に、かつ低コストで濾過部材を製造することができる。
【0040】
〈第三実施形態〉
本実施形態と第一実施形態との相違点は、さらにほつれ防止部を配置した点である。したがって、ここでは相違点を中心に説明する。図5に、本実施形態の濾過部材の斜視図を示す。なお、前出図2と対応する部分については、同じ符号で示す。図5に示すように、濾過部材1は、ほつれ防止部13を備えている。ほつれ防止部13は、濾過部材1の最外周に二つ配置されている。一つは、濾過部材1の巻幅Lに対して、上側巻端部から20%以内の長さの領域L1内に配置されている。もう一つは、巻幅Lに対して、下側巻端部から20%以内の長さの領域L2内に配置されている。ほつれ防止部13は、各々、平角線10が周方向に鉢巻状に巻き付けられて形成されている。このように、ほつれ防止部13には、他の領域よりも余分に平角線10が巻き付けられている。よって、ほつれ防止部13では、他の領域よりも巻回密度が高くなっている。
【0041】
また、濾過部材1は、二つの固定部、すなわち、第一固定部11aと第二固定部11bとを有している(説明の便宜上、双方の固定部をハッチングで示す)。第一固定部11aおよび第二固定部11bは、平角線10の径方向隣接部分同士が溶接により固定されて形成されている。第一固定部11aおよび第二固定部11bは、濾過部材1の巻幅Lに対して、上側巻端部から20%以内の長さの領域L1内に配置されている。ここで、第二固定部11bは、平角線10の巻き終わり端部100が固定された端部固定部である。ほつれ防止部13は、第二固定部11bを含んで構成されている。一方、第一固定部11aおよび第二固定部11b以外の、平角線10の隣接部分同士が重なり合って形成された重なり部は、該隣接部分同士が固定されていない非固定部12となっている。
【0042】
次に、本実施形態の濾過部材の製造方法について説明する。本実施形態の濾過部材の製造方法は、重なり部形成工程と、ほつれ防止部形成工程と、固定部形成工程とを有する。上記第一実施形態と同様に、まず、重なり部形成工程にて、平角線10をボビン2の外周面に所定の巻数だけ巻き付け、複数の重なり部を形成する(前出図3参照)。続いて、ほつれ防止部形成工程にて、ボビン2の軸方向の往復動ストロークを小さくし、残りの平角線10の半分を、前出図5に示した領域L2内に相当する領域に周方向に巻き付ける。それから、同図5に示した領域L1に相当する領域と、平角線10のフィード位置と、が対向するまで、ボビン2を軸方向に移動させる。そして、ボビン2を小さく動かしながら、さらに残りの平角線10のもう半分を、同領域に周方向に巻き付ける。このようにして、最外周にほつれ防止部13を二つ形成する。次に、固定部形成工程にて、平角線10の巻き終わり端部100を溶接により固定して、第二固定部11bを形成する。また、領域L1内の別の重なり部を溶接により固定して、第一固定部11aを形成する。
【0043】
次に、本実施形態の濾過部材およびその製造方法の作用効果について説明する。本実施形態の濾過部材およびその製造方法は、第一実施形態の濾過部材およびその製造方法と同様の作用効果を有する。また、本実施形態の濾過部材によると、上、下両巻端部近傍に、各々、ほつれ防止部13が配置されている。このため、両巻端部近傍のほつれを効果的に抑制することができる。また、本実施形態の濾過部材では、平角線10を周方向に巻回して、ほつれ防止部13を形成している。よって、ほつれ防止部13では、他の領域と比較して、巻回密度が高いだけでなく、平角線10の重なり方も異なっている。さらに、ほつれ防止部13は、最外周に配置されているため、ほつれ防止部13により、その内側に巻回された平角線10が押圧されている。このように、本実施形態の濾過部材では、ほつれ防止部13によるほつれ防止効果が高い。また、本実施形態の製造方法によると、平角線10の巻き付け方を変更するだけで、ほつれ防止部13を容易に形成することができる。
【0044】
〈その他〉
以上、本発明の巻線型濾過部材およびその製造方法の実施形態について説明した。しかしながら、実施形態は上記形態に特に限定されるものではない。当業者が行いうる種々の変形的形態、改良的形態で実施することも可能である。
【0045】
例えば、上記実施形態では、巻線型濾過部材の固定部を二つとした。しかし、固定部の数は、これに限定されるものではない。固定部の数は、二つ以上、かつ、複数の重なり部の全部でない範囲で、必要に応じて決定すればよい。また、上記実施形態では、いずれの固定部も、上側巻端部から20%以内の長さの領域に配置した。しかし、固定部の位置は、特に限定されるものではない。例えば、固定部を下側巻端部から20%以内の長さの領域に配置してもよい。また、固定部のすべてを、これらの領域(上、下両巻端部近傍)以外に配置してもよい。上記実施形態では、平角線(素線)の隣接部分同士を溶接により固定して固定部とした。また、上記第二実施形態では、素線の隣接部分同士をかしめにより固定して固定部(第二固定部)とした。このように、素線の隣接部分同士の固定方法は、特に限定されるものではない。溶接、かしめの他、例えば、接着、挟み込み、結び等により固定してもよい。また、これらの方法を組み合わせて用いてもよい。例えば、素線の隣接部分同士を挟み込みにより固定した後、溶接処理を行ってもよい。
【0046】
上記第三実施形態では、巻線型濾過部材の最外周に、かつ上、下両巻端部から各々20%以内の長さの領域に、ほつれ防止部を二つ配置した。しかし、ほつれ防止部の数、配置は、特に限定されるものではない。例えば、素線をボビンに巻き付ける途中で、適宜、素線の巻き方を変更し、ほつれ防止部を内径部分に配置してもよい。また、上、下両巻端部近傍の領域に加えて、軸方向中央部分に配置してもよい。また、上記実施形態では、素線を周方向に巻回してほつれ防止部を形成した。しかし、ほつれ防止部は、他の領域よりも巻回密度が高い形態であればよく、その形態が特に限定されるものではない。周方向に沿って配置する必要もない。素線の巻き付け角度、巻き間隔(ピッチ)、巻数等を調整して、適宜形成すればよい。
【0047】
上記実施形態では、素線として、鋼製の一本の平角線を使用した。しかし、素線の材質、形状、太さ、数等は、特に限定されるものではない。素線の材質としては、例えば、ステンレス鋼、鋳鉄、ニッケル合金、銅合金等が挙げられる。また、素線の形状としては、角線、エッジがラウンド加工された角線、丸線等が挙げられる。また、上記実施形態では、素線を所定の巻き付け角度でボビンに巻き付ける、いわゆるクロス巻きを採用した。しかし、素線の巻き方、巻数等も、特に限定されるものではない。上記実施形態では、ボビンを軸方向に往復動させて素線を巻き付けたが、ボビンを往復動させずに、素線の送り出しノズルのみをボビンの軸方向に往復動させて素線を巻き付けてもよく、ボビンおよび素線の送り出しノズルの両方を往復動させて素線を巻き付けてもよい。また、一本ではなく二本以上の素線を用いて巻線型濾過部材を製造してもよい。素線の種類や巻き方等は、巻線型濾過部材の大きさ、用途等に応じて、適宜選択すればよい。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の巻線型濾過部材は、エアバッグ装置のインフレータ用フィルタ、内燃機関の燃料噴射弁に使用される燃料フィルタ、オイルフィルタ等に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】第一実施形態の濾過部材が組み付けられたインフレータの断面図である。
【図2】第一実施形態の濾過部材の斜視図である。
【図3】同濾過部材の製造方法における重なり部形成工程を示す図である。
【図4】第二実施形態の濾過部材における第二固定部の拡大図である。
【図5】第三実施形態の濾過部材の斜視図である。
【符号の説明】
【0050】
1:濾過部材(巻線型濾過部材)
10:平角線(素線) 100:巻き終わり端部
11a:第一固定部 11b:第二固定部(端部固定部)
12:非固定部 13:ほつれ防止部
2:ボビン(軸部材) 5:点火器 6:助燃剤
7:ガス発生剤 70:ガス発生剤収容部 71:支持部材
9:インフレータ 90:ハウジング
90a:上部ハウジング 900a:天井部 901a:側壁部
902a:フランジ部 903a:ガス吐出孔 904a:シールテープ
90b:下部ハウジング 900b:底部 901b:側壁部 902b:フランジ部
903b:内筒挿入孔
91:内筒 910:伝火孔 911:シールテープ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一本の素線が筒状かつ網状に巻回されてなり、該素線の隣接部分同士が重なり合って形成されている複数の重なり部を備えてなる巻線型濾過部材であって、
複数の前記重なり部は、前記隣接部分同士が固定されている二つ以上の固定部と、該隣接部分同士が固定されていない非固定部と、からなり、
全体に対する熱処理が施されていないことを特徴とする巻線型濾過部材。
【請求項2】
前記固定部の一つは、前記素線の巻き終わり端部が固定されている端部固定部である請求項1に記載の巻線型濾過部材。
【請求項3】
前記固定部の少なくとも一つは、軸方向の全長を100%とした場合、該軸方向に対向する両巻端部から各々20%以内の長さの領域にある請求項1または請求項2に記載の巻線型濾過部材。
【請求項4】
軸方向の全長を100%とした場合、該軸方向に対向する両巻端部から各々20%以内の長さの領域に、他の領域よりも前記素線の巻回密度が高いほつれ防止部を備える請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の巻線型濾過部材。
【請求項5】
前記ほつれ防止部は、前記素線が周方向に巻回されてなる請求項4に記載の巻線型濾過部材。
【請求項6】
前記固定部では、前記隣接部分同士が、溶接、接着、かしめ、挟み込みから選ばれる一種以上により固定されている請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の巻線型濾過部材。
【請求項7】
少なくとも一本の素線を交差させながら軸部材に巻き付けて、該素線の隣接部分同士が重なり合う複数の重なり部を形成する重なり部形成工程と、
全体に対して熱処理を施すことなく、複数の該重なり部のうち少なくとも二つ以上を固定して固定部を形成する固定部形成工程と、
を有する巻線型濾過部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−319781(P2007−319781A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−152974(P2006−152974)
【出願日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【出願人】(000210986)中央発條株式会社 (173)
【Fターム(参考)】