説明

巻線機と巻線方法

【課題】 複数の線材の交叉位置を制御する巻線機を提供する。
【解決手段】 線材9を繰り出す複数のノズル31a、31bを1つの巻芯7の軸回りに回転して巻芯に線材を巻回するノズル回転機構30と、このノズル回転機構を回転するスピンドル回転機構10とを備え、前記スピンドル回転機構10は、前記巻芯と同軸上に配置され、回転を拘束された第1スピンドル支持軸18と、この第1スピンドル支持軸と同軸に回転する第1スピンドル11とを備え、前記ノズル回転機構30は、前記第1スピンドルに、第1スピンドルの中心軸と平行にオフセットして回転自在に取り付けられた第1プーリ32と、この第1プーリに取り付けられた前記複数のノズルと、前記第1スピンドル支持軸に固定された第2プーリ33と、これらのプーリ間に掛け渡される連結部材34とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータのボビン等に巻線を行うための巻線機及び巻線方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ボビン等の巻芯の回りを回転して巻芯に線材を巻回する、いわゆるフライヤ型の巻線機がある(特許文献1参照)。これは、線材を挿通したノズルを巻芯中心回りに回転させて、線材を巻回する巻線機であり、ノズルが1回回転する毎に線材に捩れ部(交叉部)が生じる。
【特許文献1】特開2002−353059号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特に2本の線材を1つのノズルから同時に繰り出し、1つの巻芯に巻回する場合には、通常ノズルが巻芯回りに1回回転する毎に1回2本の線材が交叉する。このときに生ずる線材の交叉部がノズルの外に繰り出されず、ノズルの内部に留まってしまうことがある。このような留まりが累積して、一度にノズル外部に繰り出されると、ボビンの巻回に巻き乱れが生ずる。そのため、線材を整列にボビンに巻線することが出来ず、線材間に余分な隙間が生じ、線材の占積率が低下し、コイル特性が低下してしまう問題が生じていた。
【0004】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、複数の線材を1つの巻芯に巻回する時に生じる交叉部を、ノズルから繰り出された所定の位置で生じさせ、ボビンに巻線し、巻き乱れを防止する巻線機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、線材を繰り出す複数のノズルを1つの巻芯の軸回りに回転して巻芯に線材を巻回するノズル回転機構と、このノズル回転機構を回転するスピンドル回転機構とを備え、前記スピンドル回転機構は、前記巻芯と同軸上に配置され、回転を拘束された第1スピンドル支持軸と、この第1スピンドル支持軸と同軸に回転する第1スピンドルとを備え、前記ノズル回転機構は、前記第1スピンドルに、第1スピンドルの中心軸と平行にオフセットして回転自在に取り付けられた第1プーリと、この第1プーリに取り付けられた前記複数のノズルと、前記第1スピンドル支持軸に固定された第2プーリと、これらのプーリ間に掛け渡される連結部材とを備え、前記第1プーリと第2プーリの前記連結部材に対する接触径を同一とするとともに、前記第1スピンドルの回転により、前記第1プーリは前記第2プーリの周囲を公転するとともに自転し、前記第1プーリの前記複数のノズルの姿勢を一定に維持し、前記複数のノズルの1回の回転につき所定の位置で前記ノズルからそれぞれ繰り出された線材を交叉させて巻線する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によると、複数のノズルが、その姿勢を変えないように第1スピンドルの軸中心に公転と自転を行うため、一回転中に必ず線材が交叉し、かつ交叉する位置が決められるので、線材を整列にボビンに巻線することが出来、線材間に余分な隙間が生じさせることがなく、線材の占積率が低下やコイル特性の低下を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
図1は本発明の第1実施形態の巻線機1を示す斜視図である。また、図2は側断面図である。図示されるように、巻線機1は、固定された巻芯としてのボビン7の回りに線材9を繰り出すノズルを回転して線材9を自動的にボビン7に巻回するものである。
【0008】
図において、互いに直交するX、Y、Zの3軸を設定し、X軸が水平左右方向、Y軸が水平前後方向、Z軸が垂直方向に延びるものとし、以下、本発明の巻線機1の構成について説明する。
【0009】
本発明の巻線機1は、図1、図2に示すように、水平面を有するベース100上に設置されており、ボビン7に線材9を巻回する第1ノズル回転機構30を備えた第1スピンドル回転機構10と、第2ノズル回転機構40を備えた第2スピンドル回転機構20とから構成される。
【0010】
第1スピンドル回転機構10は、ベース100上に柱状のヘッド16が立設され、ヘッド16の中央部には、Y方向に貫通孔16aが形成されている。この貫通孔16aに外径部が嵌合する第1ベアリング17が備えられ、第1ベアリング17の内径部は環状の第1スピンドル11の外径部と嵌合する。さらに、第1スピンドル11の中心軸と同軸上に第1スピンドル支持軸18が、第2ベアリング19を介して第1スピンドル11に回転自在に支持される。したがって、ベース100上に固定されたヘッド16に対して、第1スピンドル11と第1スピンドル支持軸18は、回転自在に支持されている。
【0011】
第1スピンドル11の両端面11a、11bはX−Z平面に平行な平面として形成され、ボビン7側の一端面11aには後述する第1ノズル回転機構30の第1プーリ32を回転自在に支持するための位置決め部材60が固定され、他端面11bには第1スピンドル11と略同径の回転プーリ12が同軸的に固定される。この回転プーリ12は、ベルト14を介して他の回転プーリ13に接続されており、他の回転プーリ13を回転させるスピンドルモータ15が備えられ、スピンドルモータ15が回転することにより、回転プーリ12が回転する。結果として回転プーリ12が固定された第1スピンドル11も回転する。なお、回転プーリ12には、その内側を線材9が通過するための貫通孔(不図示)が形成される。
【0012】
第1スピンドル11の一端面11a側には、第1ノズル回転機構30が設置される。第1ノズル回転機構30は、位置決め部材60に回転自在に支持されたY軸方向に伸びるプーリ軸32aに固定された第1プーリ32と、第1スピンドル支持軸18に固定された第2プーリ33と、第1、第2プーリ間に掛け渡されるベルト34とから構成される。
【0013】
ここで、第1、第2プーリ32、33のベルト接触半径は、同一径として構成され、また第1プーリ32には、線材9が繰り出される2本のノズル31a、31bが並列して設置される。パイプ状のノズル31a、31bは、第1プーリ31をY方向に貫通して、例えば水平に設置される。線材9は、第1スピンドル11をY方向に貫通する貫通孔11aを経由してノズル31a、31bから繰り出され、第1スピンドル支持軸18と同軸上のボビン取付軸7aに取り付けられたボビン7に巻回される。
【0014】
ノズル31a、31bの移動軌跡について説明すると、スピンドルモータ15の作用により第1スピンドル11が回転すると、第1スピンドルに回転自在に支持された第1プーリ32もまた、第1スピンドル支持軸18および第2プーリ33回りに回転する。このとき第1、第2プーリ32、33はベルト34により接続しており、また、各プーリのベルト接触径は同じであり、また、第1スピンドル支持軸18は、後述するように回転を拘束されているので、第1プーリ32に設けられたノズル31a、31bは、その姿勢を一定にしたまま、第1スピンドル支持軸18回りを回転することになる。言い換えると、第1スピンドル支持軸18と同軸上にボビン7を設置することで、ノズル31a、31bがボビン7回りを回転することになり、ノズル31a、31bから繰り出される線材9がボビン7に巻回される。
【0015】
第1スピンドル回転機構10に対して所定の間隔を持ってヘッド26に設けられる第2スピンドル回転機構20は、第1スピンドル回転機構10とスピンドル支持軸の高さが異なるのみで、他の構成については第1スピンドル回転機構10と同じ構成である。ただし、その向きが反対に設置され、第1スピンドル回転機構10の回転プーリ12と第2スピンドル回転機構20の回転プーリ22が対面するように設置される。線材9は、第2スピンドル回転機構20に備えられた第2ノズル回転機構40のノズル41a、41bに導入され、ついで第2スピンドル21の貫通孔21a内を通過して第1スピンドル回転機構10に送られ、第1スピンドルの貫通孔11aを通過してノズル31a、31bから繰り出され、ボビン7に巻回されることとなる。ボビン7に巻回される複数の線材9は、図示されない線材源から供給され、線材源から供給された線材9は、図示されないテンション装置を介して略一定の張力が付与される。
【0016】
さらに第2スピンドル回転機構20の第2スピンドル支持軸28の中心軸が、第1スピンドル回転機構10の第1スピンドル支持軸18の中心軸とZ軸方向にオフセットして設置される。そして、相対する第1、第2スピンドル支持軸18、28の端部をジョイント50で連結する。このように第1、第2スピンドル支持軸18、28の端部をジョイント50で連結することで、第1、第2スピンドル支持軸18、28の回転が互いに拘束され、第1、第2スピンドル支持軸18、28は静止状態を維持することになる。なお、第1スピンドル支持軸18の回転を拘束する機構としては、たとえば、特願平10−299677のように、永久磁石を用いて、拘束してもよい。
【0017】
また、第1、第2スピンドル回転機構10、20のスピンドルモータ15、25は、第1、第2スピンドル11、21が同一方向に同一回転速度で同期して回転するよう運転される。
【0018】
次に、このように構成された巻線機1の巻線動作について説明する。
【0019】
まず、ボビン7を所定位置にその中心軸をY方向と平行に固定する。
【0020】
次に、ノズル31a、31bからそれぞれ繰り出される線材9の先端部をボビン7の端子(図示せず)に係止する。
【0021】
続いて、スピンドルモータ15、25を同期稼動して第1、第2スピンドル回転機構10、20の第1、第2スピンドル11、21を回転させるとともに、線材9を第2ノズル41a、41bに導入する。スピンドルの回転により、第1ノズル回転機構30のノズル31a、31bから繰り出される線材9がボビン7に巻回される。
【0022】
ここで、第1スピンドル回転機構10による巻線動作を詳しく説明すると、スピンドルモータ15が起動して、その回転がベルト14から回転プーリ12に伝達される。回転プーリ12と一体化した第1スピンドル11が回転し、この第1スピンドル11に接続する第1プーリ32が第1スピンドル支持軸18(=ボビン7)を中心として回転する。したがって、第1プーリに固定されたノズル31a、31bから繰り出された線材9が、第1スピンドル支持軸18と同軸に設置されたボビン7に巻回されることになる。このとき、第1プーリ32が第1スピンドル11に回転自在に支持されるとともに、第1プーリ32と第2プーリ33とがベルト34を介して接続され、各プーリ32、33のベルト34に対する接触径が同一に構成されているため、第1プーリ32は回転を拘束された第2プーリ33の周囲を第1スピンドル11と一体的に公転するとともに自転することになり、その時ノズル31a、31bの姿勢を一定に保ったまま公転及び自転する。
【0023】
なお、第1、第2スピンドル回転機構10、20の各スピンドル11、21は同期して回転する。ノズル31a、31bとノズル41a、41bとは同一位置関係を保ったまま、公転する。このため、ノズル41a、41bから導入される線材9は、ノズル41a、41bからノズル31a、31bまでの間で交叉することはない。そして前述の通り、線材9を繰り出すノズル31a、31bがそのノズルの姿勢を維持したまま、第1スピンドル軸中心に回転される。このため、ノズル31a、31bから繰り出された線材9は、ボビン7ヘの巻回時に、ノズル31a、31bの一回の回転につき1度、ボビン7側の所定の回転位置で交叉することになる。
【0024】
このような構成とすることにより、1対のノズル31a、31bが、例えば水平方向に配され、その姿勢を一定に保ったまま、第1スピンドル11の軸中心に回転する。この場合に、一方のノズル31aが、第1スピンドル軸11の中心からみて他方のノズル31bに対し外径側から内径側にその位置を変えるときに、ノズルから繰り出される2本の線材9が交叉することになる。このように、ノズルの一回の回転中に必ず複数の線材9が交叉し、かつその交叉する回転位置が定められるので、ボビン7に線材9を巻線する場合に、交叉位置の整った線材を整列してボビンに巻線することが出来、線材間に余分な隙間が生じさせることがなく、線材の占積率が低下やコイル特性の低下を抑制することができる。また、交叉位置を念頭において、巻線プログラムを作成することが出来るので、ボビン7ヘの巻線に対し、巻き乱れが生じないよう工夫することが出来る。
【0025】
こうしてボビン7への巻線が終了すると、線材9を図示しないカッタにより切断し、ボビン7を取り外す。
【0026】
以上のように巻線機1は、ノズル回転機構30のノズル31a、31bがボビン7の回りを回転し、ノズル回転機構30から繰り出される線材9がボビン7へと巻回される。
【0027】
したがって、本発明は、独立して設けられた複数のノズルがボビン回りに一回回転する毎にノズルから繰り出された線材を所定の位置で交叉させるので、線材を整列にボビンに巻線することが出来、線材間に余分な隙間が生じさせることがなく、線材の占積率が低下やコイル特性の低下を抑制することができる。また、ボビン7に線材を巻線する場合に交叉位置を念頭において、巻線プログラムを作成することが出来るので、ボビン7ヘの巻線に対し、巻き乱れが生じないよう工夫することが出来る。
【0028】
また、スピンドル回転機構は、第1スピンドル支持軸18と同軸方向に、かつオフセットして配置された第2スピンドル支持軸28と、この第2スピンドル支持軸回りに回転する第2スピンドル21とを備え、第1スピンドル支持軸18の回転は、第1、第2スピンドル支持軸18、28をオフセット状態で接続することにより拘束されるため、従来装置のように歯車機構や強力な永久磁石を用いることなく、ヘッド部の構造を簡素化できる。
【0029】
本発明は上記の実施形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の巻線機は、ボビンに線材を巻回する装置に限らず、種々の巻芯に線材を巻回する装置に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施形態を示す巻線機の斜視図。
【図2】同じく巻線機の断面図。
【符号の説明】
【0032】
1 巻線機
7 ボビン(巻芯)
9 線材
10 第1スピンドル回転機構
11 第1スピンドル
11a 貫通孔
18 第1スピンドル支持軸
20 第2スピンドル回転機構
21 第2スピンドル
21a 貫通孔
28 第2スピンドル支持軸
30 第1ノズル回転機構
31a ノズル
31b ノズル
32 第1プーリ
33 第2プーリ
34 ベルト
40 第2ノズル回転機構
50 ジョイント

【特許請求の範囲】
【請求項1】
線材を繰り出す複数のノズルを1つの巻芯の軸回りに回転して巻芯に線材を巻回するノズル回転機構と、
このノズル回転機構を回転するスピンドル回転機構とを備え、
前記スピンドル回転機構は、
前記巻芯と同軸上に配置され、回転を拘束された第1スピンドル支持軸と、
この第1スピンドル支持軸と同軸に回転する第1スピンドルとを備え、
前記ノズル回転機構は、
前記第1スピンドルに、第1スピンドルの中心軸と平行にオフセットして回転自在に取り付けられた第1プーリと、
この第1プーリに取り付けられた前記複数のノズルと、
前記第1スピンドル支持軸に固定された第2プーリと、
これらのプーリ間に掛け渡される連結部材とを備え、
前記第1プーリと第2プーリの前記連結部材に対する接触径を同一とするとともに、前記第1スピンドルの回転により、前記第1プーリは前記第2プーリの周囲を公転するとともに自転し、
前記第1プーリの前記複数のノズルの姿勢を一定に維持し、前記複数のノズルの1回の回転につき所定の位置で前記ノズルからそれぞれ繰り出された線材を交叉させて巻線することを特徴とする巻線機。
【請求項2】
前記第1スピンドルは、回転中心軸と平行な貫通孔を備え、
前記線材は、この貫通孔を通って、前記ノズルに送出されることを特徴とする請求項1に記載の巻線機。
【請求項3】
前記スピンドル回転機構は、
前記第1スピンドル支持軸の軸方向に、かつオフセットして配置された第2スピンドル支持軸と、
この第2スピンドル支持軸回りに回転する第2スピンドルとを備え、
前記第1スピンドル支持軸の回転は、前記第1、第2スピンドル支持軸を接続することにより拘束されることを特徴とする請求項1に記載の巻線機。
【請求項4】
前記第1、第2スピンドルは、それぞれの回転中心軸と平行な貫通孔を備え、
前記線材は、これら貫通孔を通って、前記ノズルに送出されることを特徴とする請求項1に記載の巻線機。
【請求項5】
複数の線材を繰り出すノズルを巻芯の軸回りに回転して巻線を行う巻線方法において、
それぞれの線材を繰り出す複数の前記ノズルを、その姿勢を一定に維持したまま、1つの巻芯の軸回りに回転させ、
前記複数のノズルそれぞれから繰り出される線材を前記複数のノズルの1回の回転につき所定の位置で交叉させて前記巻芯に巻線することを特徴とする巻線方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−93190(P2006−93190A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−273025(P2004−273025)
【出願日】平成16年9月21日(2004.9.21)
【出願人】(000227537)日特エンジニアリング株式会社 (106)
【Fターム(参考)】