説明

巻線装置

【課題】巻枠に巻くための線材が予め巻き貯められたリールを安定して高速回転すること。
【解決手段】巻線装置1は、巻枠2と、巻枠2の周囲に環状に配置され、巻枠2と同一の軸線L1を中心に自転可能に設けられ、巻枠2に巻くためのワイヤ7が予め巻き貯められたリール3と、リール3の外側に配置され、巻枠2の周囲を軸線L1を中心に公転可能に設けられてリール3から巻枠2へワイヤ7を案内する巻きアーム4等と、ワイヤ7を巻枠2に巻くために巻きアーム4等を公転駆動する第1モータ5等と、第1モータ5の駆動時に必要な長さのワイヤ7をリール3から引き出すためにリール3を自転駆動する第2モータ6等とを備える。リール3と巻きアーム4等とを相互独立に駆動可能に保持する保持枠9を更に備え、第1及び第2のモータ5,6等が動作することで、リール3と巻きアーム4等とが相互独立に自転駆動及び公転駆動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、巻枠に線材を巻くための巻線装置に係り、詳しくは、リールを回転させることで巻枠に線材を巻くようにした巻線装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の装置として、例えば、下記の特許文献1に記載された装置が知られている。この装置は、被巻回部材を中心として、予め巻回部材を巻き貯めたリールを公転させると共に自転させ、被巻回部材に巻回部材を巻回するようになっている。
【0003】
【特許文献1】特開2000−354354号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、特許文献1に記載の装置では、重量物であるリールを公転させるに際して、リールに遠心力が働くと共に、巻き進みにつれてリールに重量変化が生じることから、リールを安定して高速回転させることが困難であった。すなわち、リールを高速で公転及び自転させるときに、加速・減速時の慣性が問題となった。また、被巻回部材に巻回部材を巻回することで、リールの重量が変化してアンバランスを生じることとなった。これらのことは、巻回部材を線材とし、被巻回部材である巻枠の周りに、リールを公転及び自転させながら巻枠に線材を巻く場合も同様に問題となる。
【0005】
この発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、巻枠に巻くための線材が予め巻き貯められたリールを安定して高速回転させることを可能とした巻線装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、線材が巻かれる巻枠と、巻枠の周囲に環状に配置されると共に、巻枠と同一の軸線を中心に自転可能に設けられ、巻枠に巻くための線材が予め巻き貯められたリールと、リールの外側に配置され、巻枠の周囲を軸線を中心に公転可能に設けられてリールから巻枠へ線材を案内する案内部材と、線材を巻枠に巻くために案内部材を公転駆動する第1駆動手段と、第1駆動手段の駆動時に必要な長さの線材をリールから引き出すためにリールを自転駆動する第2駆動手段とを備えたことを趣旨とする。
【0007】
上記発明の構成によれば、巻枠の周囲に環状に配置されたリールは、巻枠と同一の軸線を中心に自転可能に設けられ、そのリールには巻枠に巻くための線材が予め巻き貯められている。リールから巻枠へ線材を案内する案内部材はリールの外側に配置され、巻枠の周囲を巻枠と同一の軸線を中心に公転可能に設けられる。そして、線材を巻枠に巻くために、第1駆動手段が動作することにより、案内部材が巻枠の周囲を公転駆動し、この第1駆動手段の駆動時に第2駆動手段が動作することにより、必要な長さの線材をリールから引き出すためにリールが自転駆動する。従って、線材を巻枠に巻くために、案内部材が巻枠の周囲を公転駆動すると共にリールが自転駆動することにより、リールから引き出される必要な長さの線材が巻枠に巻かれる。ここで、リールは巻枠と同一の軸線を中心に環状に配置されて巻枠の周囲を自転駆動するので、リールに残存する線材の多少にかかわらず、リールの重量バランスが保たれ、リールが安定的に自転駆動する。また、巻枠の周囲を公転駆動する案内部材は、リールから引き出される線材を自身に巻き付けることなく案内するだけなので、案内部材が軽量化する。
【0008】
上記目的を達成するために、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、リールと案内部材とを相互独立に駆動可能に保持する保持枠を更に備え、保持枠に第1駆動手段及び前記第2駆動手段が設けられ、第1駆動手段及び第2駆動手段が動作することにより、リールと案内部材とが相互独立に自転駆動及び公転駆動することを趣旨とする。
【0009】
上記発明の構成によれば、請求項1に記載の発明の作用に加え、リールと案内部材が同一の保持枠に保持され、第1駆動手段及び第2駆動手段が保持枠に設けられるので、リール、案内部材、第1駆動手段及び第2駆動手段それぞれのために個別に保持部材を設ける必要がない。また、リールと案内部材とが相互独立に自転駆動及び公転駆動するので、巻枠への線材の巻き回しと、リールからの線材の引き出しとが個別調整可能となる。
【0010】
上記目的を達成するために、請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、第1駆動手段が動作することにより、案内部材が巻枠の周囲を公転駆動して巻枠に線材が巻かれ、第1駆動手段の駆動時に第2駆動手段が動作することにより、リールが巻枠を中心に自転駆動して、巻枠に巻かれる必要な長さの線材がリールから引き出されることを趣旨とする。
【0011】
上記発明の構成によれば、請求項2に記載の発明の作用に加え、リールに巻き貯められた線材がリールから円滑に引き出されながら巻枠に円滑に巻かれる。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に記載の発明によれば、巻枠に巻くための線材が予め巻き貯められたリールを安定して高速回転させることができる。
【0013】
請求項2に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明の効果に加え、巻線装置の構成を簡略化することができ、リールからの線材の引き出し量の制御を容易化することができる。
【0014】
請求項3に記載の発明によれば、請求項2に記載の発明の効果に加え、線材を巻枠に高速で巻くことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の巻線装置を具体化した一実施形態につき図面を参照して詳細に説明する。図1に、本実施形態の巻線装置1の概略を正断面図により示す。図2に、巻線装置1を下側から見た概略を底面図により示す。この巻線装置1は、巻枠2と、リール3と、本発明の案内部材としての巻きアーム4と、第1モータ5と、第2モータ6とを備える。巻枠2は巻線装置1の中心に配置され、平行な2本の直ぐ棒により構成される。巻枠2には、本発明の線材としてのワイヤ7が巻かれる。ワイヤ7は、電動機等のステータを構成するコイルを形成するために供される。この実施形態で、ワイヤ7は並列な複数線により構成される。リール3は、巻枠2の周囲に環状に配置されると共に、巻枠2と同一の軸線L1を中心に自転可能に設けられる。リール3には、巻枠2に巻くためのワイヤ7が予め巻き貯められる。巻きアーム4は、リール3の外側に配置され、巻枠2の周囲を前記軸線L1を中心に公転可能に設けられてリール3から巻枠2へワイヤ7を案内する。巻きアーム4の下端部には、テンション発生装置8が設けられる。リール3から引き出されるワイヤ7は、このテンション発生装置8を経由してテンションが付与された状態で巻枠2に巻かれる。図2に示すように、リール3から引き出されたワイヤ7は、少し弛みが与えられた状態でテンション発生装置8に通される。第1モータ5は、ワイヤ7を巻枠2に巻くために巻きアーム4を公転駆動するために使用される。第2モータ6は、第1モータ5の駆動時に必要な長さのワイヤ7をリール3から引き出すためにリール3を自転駆動するために使用される。
【0016】
この実施形態で、ワイヤ7は、その中間が巻枠2に数回巻かれて巻枠2から引き出される。巻枠2から引き出されたワイヤ7は、所定のボビン等に巻き付けられるようになっている。この実施形態では、電動機のステータに装着されるコイルを形成するためにワイヤ7をボビン等に巻き付ける設備において、ワイヤ7の巻き方の方法で正転巻き、逆転巻きが採用される。ここで、この正転巻き及び逆転巻きに伴うワイヤ7の捩れを防止するために、リール3とボビン等との中間に巻線装置1を設け、その巻枠2にワイヤ7の途中を一旦巻くことでワイヤ7の捩れを除去するようになっている。
【0017】
巻線装置1は、リール3と巻きアーム4とを相互独立に駆動可能に保持する保持枠9を更に備える。保持枠9は、平面四角形状をなす。保持枠9には、第1モータ5及び第2モータ6がそれぞれ支持されて設けられる。保持枠9の中心孔9aには、巻枠2が貫通して配置される。保持枠9には、中心孔9aに沿って下方へ延びる内筒部9bが形成される。内筒部9bの下端には、外方へ突出するフランジ9cが形成される。このフランジ9cの上にはベアリング10を介してリール保持装置11が組み付けられる。リール保持装置11は、下方へ延びる複数のブラケット11aを含む。各ブラケット11aの下端にリール3が保持される。ブラケット11aとリール3との連結には、例えば、コレットチャックが使われる。リール保持装置11は、内筒部9bの外周に配置されたリングギア12を含み、そのリングギア12が第2モータ6の出力軸6aに設けられたギア13に駆動連結される。従って、第2モータ6が動作することにより、ギア13及びリングギア12を介してリール保持装置11が回転し、これによってリール3が巻枠2を中心に自転駆動する。この実施形態では、第2モータ6、リングギア12及びギア13により本発明の第2駆動手段が構成される。
【0018】
保持枠9には、内筒部9bの外側にて下方へ延びる外筒部9dが更に形成される。外筒部9dは、内筒部9bより短くなっている。外筒部9dの下端には、外方へ突出するフランジ9eが形成される。このフランジ9eの上にはベアリング14を介してリングギア15が組み付けられる。このリングギア15に対して前述した巻きアーム4が一体的に設けられる。このリングギア15が第1モータ5の出力軸5aに設けられたギア16に駆動連結される。従って、第1モータ5が動作することにより、ギア16を介してリングギア15が回転し、コイル巻きアーム4が巻枠2を中心に公転駆動する。この実施形態では、第1モータ5、リングギア15及びギア16により本発明の第1駆動手段が構成される。上記したように、第1モータ5及び第2モータ6が動作することにより、リール3と巻きアーム4とが相互独立に自転駆動及び公転駆動するようになっている。
【0019】
以上説明したこの実施形態の巻線装置1によれば、巻枠2の周囲に環状に配置されたリール3は、巻枠2と同一の軸線L1を中心に自転可能に設けられ、そのリール3には巻枠2に巻くためのワイヤ7が予め巻き貯められている。リール3から巻枠2へワイヤ7を案内する巻きアーム4及びテンション発生装置8は、リール3の外側に配置され、巻枠2の周囲を巻枠2と同一の軸線L1を中心に公転可能に設けられる。そして、ワイヤ7を巻枠2に巻くために、第1モータ5が動作することにより、巻きアーム4及びテンション発生装置8が、巻枠2の周囲を公転駆動し、この第1モータ5の駆動時に第2モータ6が動作することにより、必要な長さのワイヤ7をリール3から引き出すためにリール3が巻枠2の周囲を自転駆動する。
【0020】
従って、ワイヤ7を巻枠2に巻くために、巻きアーム4及びテンション発生装置8が巻枠2の周囲を公転駆動すると共に、リール3が巻枠2の周囲を自転駆動することにより、リール3から引き出される必要な長さのワイヤ7が巻枠2に巻かれる。このとき、巻枠2に巻かれるワイヤ7には、テンション発生装置8により適度なテンションが付与され、巻枠2にはワイヤ7がしっかりと巻かれる。巻枠2に巻かれたワイヤ7の先は、巻枠2から引き出されて所定のボビン等に巻き付けられる。ここで、リール3は、予め巻き貯められたワイヤ7が引き出されることで、ワイヤ7の巻き貯め量は徐々に減少することになる。この実施形態では、リール3は、巻枠2と同一の軸線L1を中心に環状に配置されて巻枠2の周囲を自転駆動するので、リール3に残存するワイヤ7の多少にかかわらず、リール3の重量バランスが保たれ、リール3は安定的に自転駆動することとなる。つまり、リール3は、その重量変化にかかわらず、巻枠2を中心に安定的に自転駆動することとなり、リール3の重量変化がリール3の自転駆動に悪影響を与えることがない。このため、巻枠2に巻くためのワイヤ7が予め巻き貯められたリール3を安定して高速回転させることができる。この意味で、コイルを形成するためのワイヤ7の巻き付けに係る工程時間を短縮することができる。また、巻枠2の周囲を公転駆動する巻きアーム4及びテンション発生装置8は、リール3から引き出されるワイヤ7を自身に巻き付けることなく案内するだけなので、巻きアーム4及びテンション発生装置8が全体として軽量化する。この意味で、巻きアーム4及びテンション発生装置8を高速で公転駆動させることができ、リール3の高速回転に合わせることができる。
【0021】
この実施形態では、リール3と、巻きアーム4が同一の保持枠9に保持され、第1モータ5及び第2モータ6等が同じ保持枠9に設けられるので、リール3、巻きアーム4、第1モータ5及び第2モータ6等それぞれのために個別に保持部材を設ける必要がない。このため、巻線装置1の構成を簡略化することができ、巻線装置1をコンパクトなものにすることができる。また、リール3と巻きアーム4とが相互独立に自転駆動及び公転駆動するので、巻枠2へのワイヤ7の巻き回しと、リール3からのワイヤ7の引き出しとが個別調整可能となる。このため、巻枠2へのワイヤ7の巻き回しの速度にかかわらず、リール3からのワイヤ7の引き出し量の制御を容易化することができる。
【0022】
この実施形態では、第1モータ5が動作することにより、巻きアーム4が巻枠2の周囲を公転駆動して巻枠2にワイヤ7が巻かれる。この第1モータ5の駆動時に第2モータ6が動作することにより、リール3が巻枠2を中心に自転駆動して、巻枠2に巻かれる必要な長さのワイヤ7がリール3から引き出される。従って、リール3に巻き貯められたワイヤ7がリール3から円滑に引き出されながら巻枠2に円滑に巻かれることとなる。この意味で、リール3から引き出されるワイヤ7を巻枠2に対して高速で巻くことができる。
【0023】
この実施形態では、上記したようにリール3が巻枠2の周囲で自転駆動するだけなので、遊星ギア等を介してリールを巻枠の周囲で公転駆動させる装置と比べ、リール3を駆動するための機構を、第2モータ6、リングギア12及びギア13という比較的簡易な構成にすることができる。
【0024】
この実施形態では、リール3にワイヤ7がなくなったときは、リール3をリール保持装置11から取り外し、ワイヤ7を予め巻き貯めた新しいリール3と交換することができる。
【0025】
尚、この発明は前記実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱することのない範囲で構成の一部を適宜変更して実施することができる。
【0026】
例えば、前記実施形態では、リール3、巻きアーム4、第1モータ5及び第2モータ6等の各構成部品を一つの保持枠9に設けたが、各構成部品を二つ以上の保持手段に別々に設けてもよい。
【0027】
また前記実施形態では、リール3と巻きアーム4とが相互独立に自転駆動及び公転駆動するように構成したが、リールの自転駆動と案内部材の公転駆動を必要に応じて互いに連動させるように構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】巻線装置の概略を示す正断面図。
【図2】巻線装置の概略を示す底面図。
【符号の説明】
【0029】
1 巻線装置
2 巻枠
3 リール
4 巻きアーム(案内部材)
5 第1モータ(第1駆動手段)
6 第2モータ(第2駆動手段
7 ワイヤ(線材)
9 保持枠
12 リングギア(第2駆動手段)
13 ギア(第2駆動手段)
15 リングギア(第1駆動手段)
16 ギア(第1駆動手段)
L1 軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
線材が巻かれる巻枠と、
前記巻枠の周囲に環状に配置されると共に、前記巻枠と同一の軸線を中心に自転可能に設けられ、前記巻枠に巻くための前記線材が予め巻き貯められたリールと、
前記リールの外側に配置され、前記巻枠の周囲を前記軸線を中心に公転可能に設けられて前記リールから前記巻枠へ前記線材を案内する案内部材と、
前記線材を前記巻枠に巻くために前記案内部材を公転駆動する第1駆動手段と、
前記第1駆動手段の駆動時に必要な長さの前記線材を前記リールから引き出すために前記リールを自転駆動する第2駆動手段と
を備えたことを特徴とする巻線装置。
【請求項2】
前記リールと前記案内部材とを相互独立に駆動可能に保持する保持枠を更に備え、前記保持枠に前記第1駆動手段及び前記第2駆動手段が設けられ、前記第1駆動手段及び前記第2駆動手段が動作することにより、前記リールと前記案内部材とが相互独立に自転駆動及び公転駆動することを特徴とする請求項1に記載の巻線装置。
【請求項3】
前記第1駆動手段が動作することにより、前記案内部材が前記巻枠の周囲を公転駆動して前記巻枠に前記線材が巻かれ、前記第1駆動手段の駆動時に前記第2駆動手段が動作することにより、前記リールが前記巻枠を中心に自転駆動して、前記巻枠に巻かれる必要な長さの前記線材が前記リールから引き出されることを特徴とする請求項2に記載の巻線装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−131740(P2008−131740A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−313836(P2006−313836)
【出願日】平成18年11月21日(2006.11.21)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】