巻鉄心、電磁部品とその製造方法および電磁機器
【課題】低鉄損・低コストとすることができる磁性薄帯から構成した巻鉄心、電磁部品とその製造方法および電磁機器を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の巻鉄心は、磁性を有する薄帯を軸方向に巻回して構成した巻鉄心であって、軸方向端部面の前記薄帯各所に切欠部が形成されると共に、切欠部は巻鉄心径方向のランダムな方向に配置されている。
【解決手段】本発明の巻鉄心は、磁性を有する薄帯を軸方向に巻回して構成した巻鉄心であって、軸方向端部面の前記薄帯各所に切欠部が形成されると共に、切欠部は巻鉄心径方向のランダムな方向に配置されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、巻鉄心、電磁部品とその製造方法および電磁機器に係り、特に鉄心全体の鉄損を低減することができる巻鉄心、電磁部品とその製造方法および電磁機器に関する。
【背景技術】
【0002】
省エネルギー、軽量化と低コスト化の観点から、モータや発電機、変圧器などの回転型或いは静止型の電磁機器には、非常に高い効率と出力密度が要求されている。このうち効率向上のためには、鉄心を構成する磁性薄帯や板が薄いほどよく、一般的に使われる電磁鋼板の厚みは0.5mmから0.1mmまで薄くされている。また、非晶質金属薄帯は、μmレベルの厚みになっている。
【0003】
板や薄帯の厚みを薄くすると、鉄損の一種類である渦電流損が低減できる。渦電流の大きさと鉄心の電気抵抗の間には、電気抵抗が大きい磁性材料は渦電流が流れにくいため、渦電流により発生する損失が低いという関係がある。また、磁性材料の薄帯(または板)の電気抵抗は、その長さと厚みに関係する。薄帯は短いほど、抵抗が大きくなる。また薄いほど、抵抗が大きくなる。そのため、低鉄損鉄心とするために、鋼板の板を積層した鉄心が最も広く採用されている。
【0004】
しかし、薄い薄帯に対し、打ち抜き加工や積層するなどの加工方法を適用することが困難である。その理由は、薄帯が薄くなると、同じ寸法の鉄心を作るための加工回数が多くなるので、コストが増えることにある。また、ほとんどの薄帯は外部応力の影響を受けやすいため、機械加工後、焼鈍などの後処理が必要となっている。また、容易に製造することが非常に困難である。
【0005】
アモルファス合金の薄帯から巻鉄心を製造することについて、特許文献1では、連続的なアモルファスリボンが巻かれた鉄心を使用している。
【0006】
特許文献2には、「リボン状のアモルファス金属間に、絶縁物を挟む」ことと、「固定子鉄心にスリットを有する」ことと、「巻回したリボン状のアモルファス金属は、径方向に切断されること」が、渦電流損を低減するのに有効であると記載されている。
【0007】
特許文献3には、変圧器用アモルファス鉄心が記載されている。「非晶質磁性合金薄帯を所定枚数積層し、かつ、これをそれぞれ所要の長さ寸法毎に順次切断して形成した複数の長さ寸法の異なる単位鉄心素板を、所要数階段状に積層して1ブロック分の鉄心素体群を形成し、これら鉄心素体群を、1ブロック毎に突き合せ接合し、かつ、前記鉄心素体群の突き合せ接合部が順次ずれるオーバーステップラップ接合方式とステップラップ接合方式とを組合せ・接合して1ターンカット方式の巻鉄心を形成する」と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−136348号公報
【特許文献2】特開2009−284578号公報
【特許文献3】特開2000−173831号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以上述べたように、アモルファス合金の薄帯から巻鉄心を製造することについて、多くのものが知られている。
【0010】
ここで、鉄心の鉄損には、渦電流損とヒステリシス損の2種類がある。このうち、ヒステリシス損は焼鈍することで、低減できる。これに対し渦電流損は、渦電流が流れるルート、磁場強度などの要素が関係しており、アモルファスリボンが長いほど、渦電流損が大きくなる関係にある。
【0011】
このため、特許文献1のアモルファスリボンが巻かれたアモルファス鉄心は、製造しやすいが、渦電流損が大きいという問題がある。特に、高速回転機に適用すると、鉄損が非常に大きくなる。
【0012】
特許文献2の渦電流損を低減させる方法では、連続的なアモルファスリボンから巻かれた鉄心の渦電流ルートをカットするようにスリット加工を取り入れているので、剥離を防止するためのモールドを必要とする。このため、鉄心の製作工程はアモルファスリボンを巻く作業、焼鈍成形作業、樹脂モールド作業とスリット加工作業が必要である。
【0013】
特許文献2に開示された手法では、製造工程が多く、かつ、アモルファス鉄心を切断する容易な方法がなく、鉄心の製造コストが高い。また、アモルファス鉄心にモールドとスリット加工をしたあと、鉄心内部にストレスがかかるため、ヒステリシス損が増加する。更に、鉄心の中心に巻冶具用の穴が残っているため、モータに適用する際空間の利用率が低下する。
【0014】
特許文献3に開示された発明も特許文献2と同じように、アモルファス積層体を切断することがある。アモルファス合金は非常に硬いものであるため、アモルファス合金から構成したブロックを切断すると、冶具を消耗し速く、切断時間が長いので、コストが非常に高くなる。
【0015】
以上のことから本発明においては、低鉄損・低コストとすることができる磁性薄帯から構成した巻鉄心、電磁部品とその製造方法および電磁機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために本発明の巻鉄心は、磁性を有する薄帯を軸方向に巻回して構成した巻鉄心であって、軸方向端部面の前記薄帯各所に切欠部が形成されると共に、切欠部は巻鉄心径方向のランダムな方向に配置されている。
【0017】
また切欠部は、前記薄帯の長手方向に直交する方向に形成された切断箇所である。
【0018】
また軸方向端部面が台形状に形成されている。
【0019】
上記課題を解決するために本発明の電磁部品は、磁性を有する薄帯を軸方向に巻回して巻き鉄心を構成し、該巻き鉄心の径方向外周に絶縁を介してコイルを巻回してなる電磁部品において、巻き鉄心の軸方向端部面の薄帯各所に切欠部が形成されると共に、切欠部は鉄心径方向のランダムな方向に配置されている。
【0020】
また、複数の台形状電磁部品を、その上底部同士と下底部同士を、絶縁物を介して複数個隣接配置して、ドーナツ状の構造物を形成し、これをモールドして構成した。
【0021】
また、円筒状に形成された電磁部品を台形状の空間を備えた金型で押圧して形成した。
【0022】
また、円筒状に形成された電磁部品を台形状の空間を備えた金型で押圧して形成したのちに、金型ごと焼鈍させる。
【0023】
上記課題を解決するために本発明の製造方法は、磁性を有する薄帯を軸方向に巻回し、軸方向端部面の前記薄帯各所に切欠部が形成されると共に、切欠部は径方向のランダムな方向に配置された巻鉄心について、その周方向にコイルを巻回して電磁部品とし、円筒状に形成された当該電磁部品を台形状の空間を備えた金型で押圧して形成したのちに、金型ごと焼鈍させる。
【0024】
上記課題を解決するために本発明の電磁機器は、磁性を有する薄帯を軸方向に巻回し、軸方向端部面の前記薄帯各所に切欠部が形成されると共に、切欠部は径方向のランダムな方向に配置された巻鉄心について、その周方向にコイルを巻回してスロットとし、スロットの前記軸方向端部面を台形状に形成し、当該台形状のスロットについて、複数の台形状スロットを、その上底部同士と下底部同士を、絶縁物を介して複数個隣接配置してドーナツ状とし、これをモールドしてステータとなし、ステータの中心部に回転軸を回転可能に保持し、ステータの回転軸に直交する面に回転軸に固定され、磁石を備えたロータを対面させて構成される。
【発明の効果】
【0025】
本発明により、鉄心を切断する必要がなくなり、製作コストが低減できる。鉄心の鉄損について、渦電流損とヒステリシス損が低減できるので、鉄損を低減できる。また、巻鉄心は円筒状が一般的であるが、本発明は他の形状を形成できる巻鉄心を提供する。それにより、回転機と静止器に適用する所望な鉄心を得られる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の鉄心の一例として円筒状巻鉄心を示す図。
【図2】切断箇所前後の接合処理について説明する図。
【図3】切断箇所前後の接合処理について説明する図。
【図4】切断に代えて切り欠部を設けた例を示す図。
【図5】円筒状巻鉄心の製造方法の一例を示す図。
【図6】円筒状巻鉄心の製造方法の他の一例を示す図。
【図7】巻鉄心の薄帯長さと、渦電流損係数の関係の実測値を示す図。
【図8】本発明の鉄心の一例として台形状巻鉄心を示す図。
【図9】台形状巻鉄心を成形するための冶具の一例を示す図。
【図10】2つの金型が嵌合により対向したときの側面を示す図。
【図11】巻鉄心の形状の一例として長方形を示す図。
【図12】モータのステータの1スロット分を示す図。
【図13】9スロットのステータを示す図。
【図14】10極ロータを示す図。
【図15】2ロータ1ステータのアキシャルギャップモータを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明に係る鉄心およびそれを用いた電磁機器の実施例について図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0028】
実施例1では、鉄心の一例として円筒状巻鉄心について説明する。
【0029】
図1は、実施例1に関わる円筒状巻鉄心の斜視図(図1左)と正面図(図1右)を示す。図1に示すように、実施例1の渦巻円筒状鉄心100は、その巻始まりから巻終わりまで、連続ではなく、数箇所で切断されている。また、切断箇所(100a,100b,100c)は径方向の同じ場所ではなく、ランダムに配置されていることを特徴とする。
【0030】
切断箇所(100a,100b,100c)前後の接合について、図2乃至図4のいずれとしてもよい。例えば図2の例では切断箇所100aについて、内周側の磁性部材(例えば磁性薄帯101)と外周側の磁性部材(例えば磁性薄帯102)は、隣接しており、非オーバーラップ方式とされている。切断箇所(100a,100b,100c)をランダムに配置することにより、非オーバーラップ方式で接合された鉄心について、鉄心の一箇所だけで突出することが避けられる。
【0031】
なお、非オーバーラップ方式の場合、内周側の磁性部材(例えば磁性薄帯101)と外周側の磁性部材(例えば磁性薄帯102)の間の距離は、問題としない。半周ほど離れた位置に置かれてもよい。あとで、この例を図6で説明する。
【0032】
図3の例では切断箇所100aについて、内周側の磁性部材(例えば磁性薄帯101)と外周側の磁性部材(例えば磁性薄帯102)は、重なっており、オーバーラップ方式とされている。オーバーラップ方式で接合された鉄心について、仮に切断が径方向の一箇所に集中すると、回転機に適用する際、磁気抵抗が増加したり、漏れ磁束が発生する。ここでは、切り口を径方向にランダムに配置することで、漏れ磁束を低減することができる。また、巻鉄心の切断された薄帯の長さは、同一の長さにする必要がない。長さが異なる薄帯の組み合わせにしてもよい。完全に分離されている薄帯から巻鉄心に構成することにしても良い。
【0033】
図2、図3の実施例では、リボン状の磁性部材を、長手方向に直交する方向に適宜の箇所で切断しているが、本発明の他の実施例では、切断して二分する(完全切断)必要はない。図4に示すように、切り欠部104が設けられている磁性薄帯から構成することにしても良い。つまり、リボン状の磁性部材の長手方向の端部の適宜の箇所に切り欠部104を設けてもよい。
【0034】
図2から図4の切断は、いずれもリボン状の磁性部材の長手方向の端部の適宜の箇所に切り欠部104を設けたものであり、切り欠部104が他端部まで達して切断の形になったものが図2、図3であるといえる。
【0035】
図5は、本実施例に関わる円筒状巻鉄心の製造方法の一例を示す。まず、長尺の磁性薄帯母材105が準備される。これはドラム状に巻回されている。他方、巻き取り機(図示せず)を設置し、長尺の磁性薄帯母材105の一端(巻始まり端)を巻き取り機の巻枠107に固定し、巻き取り機により所定長さを巻回して、カッター106により切断する。切断された磁性薄帯の端部(巻終わり端)は、巻枠107に巻いた鉄心に接着材や溶接などの接着手段で止める。ここで、巻枠107に巻いた鉄心を接着手段で止めるのは、バラけてしまうのを防止するためであり、種々の仮止め手段を適用することができる。
【0036】
次に、巻回した鉄心の所定位置に、磁性薄帯母材105の巻始まり端を再度固定し、再巻回し、所定長さで切断して、巻終わり端を固定する。上記の工程は、必要な外径になるまでに、数回を繰り返すことにより、所望サイズの巻鉄心を得ることができる。なお、巻回した鉄心の所定位置に、磁性薄帯母材105の巻始まり端を再度固定するときには、切断箇所(100a,100b,100c)が径方向の同じ場所でないように位置決めする。
【0037】
図6は、本実施例に関わる円筒状巻鉄心の製造方法の他の一例を示す。この例では、最初に所定長さの磁性薄帯から巻鉄心108を製造する。同様に磁性薄帯から巻鉄心109を製造する。巻鉄心108の外径は、巻鉄心109の内径以上とする。それぞれ個別構成された巻鉄心は、大径の巻鉄心の内部に、小径の巻鉄心を内装するように組み合わされ、巻鉄心を構成する。本製造方法は、大径巻鉄心の内径は、小径巻鉄心の外径と同じかそれ以上とすることを特徴とする。用途により、巻鉄心間に接着手段を設けても良い。
【0038】
この図6の左および中央の図示では、巻鉄心108、109はいずれも右巻きの位置にある。これに対し、同図右の重ね合わせの図では、巻鉄心109を左巻きの位置で重ねている。本発明では、切断部分があればよく、巻鉄心108、109の巻き方向はいずれでもよい。また、同図右の重ね合わせの図では、大径の巻鉄心109の巻始位置109Sと、小径の巻鉄心108の巻き終わり位置108Eが図2に比べて離れているが、本発明では、この間の距離の遠近は問題ではない。
【0039】
鉄心の製造方法は、上述した方法に限られず、本発明の鉄心の特徴を備える限りにおいて、様々の方法を用いることができる。また、鉄心の断面形状は円形を有するように以上では説明してきたが、これは、必須ではない。長方形、台形、角丸め三角形など、任意の所望の形状を有することが可能である。
【0040】
本発明では、巻方向のランダムな位置に切断部が設けられていることが重要である。また、鉄心を構成する磁性薄帯は一種類には限定されない。複数種類の磁性薄帯から一つの鉄心を構成することもできる。
【0041】
本実施例で製造された巻鉄心に、ある程度焼鈍することが好ましい。焼鈍することにより、巻鉄心の中に溜まっているストレスが開放でき、ヒステリシス損が低減できる。
【0042】
本実施例によれば、
(1)低鉄損巻鉄心を提供できる。巻鉄心を回転機に適用する際、切断箇所で渦電流を流れるループ(回路)をカットでき、渦電流損が低減できる。図7には、アモルファス合金のリボン状の薄帯を切断して構成した巻鉄心の薄帯長さ(横軸)と、渦電流損係数(縦軸)の関係の実測値を示す。巻鉄心を構成する薄帯の長さが短いほど、渦電流損が低くなることがわかる。なお、図1、図2、図3、図6の場合に薄帯の長さは、切断面の間の長手方向距離であり、図4の場合には切り欠部の間の距離に相当する。
(2)磁気特性の良い鉄心を提供することができる。本実施例により、巻鉄心の内部の切断箇所は一箇所に集中していないので、漏れ磁束を低減できる。
(3)低コストな巻鉄心を提供することができる。薄帯のブロックに切断することがなく、加工コストが低減できる。
(4)製造簡単な巻鉄心を提供することができる。本実施例によれば、巻鉄心に切断しないため、薄帯層間接着、モールドなどの剥離対策手段が必要ない。また、層間に接着材が必要ないため、鉄心の占積率も向上できる。
【実施例2】
【0043】
実施例2では、台形状巻鉄心を製造することについて、図8〜図11に基づいて説明する。図8は、第2実施例に係る台形状巻鉄心の斜視図と正面図である。図8の台形状巻鉄心を図1の円筒状巻鉄心と比較すると、断面形状が台形か、円形かという相違のみで、切り口111aが、任意の方向に設けられているという意味では同じである。
【0044】
図9は図8の台形状巻鉄心を成形するための冶具の一例を示す。成形冶具は、2つの金型20a,20bで構成される。図9では、理解を容易にするために2つの金型20a,20bの対向面20a1,20b1が見えるような位置に図示している。対向面20a1,20b1には、鉄心載置空間114a,114bと、位置合わせ用ピン112、位置あわせ用穴113が設けられている。また、2つの金型20a,20bは、外力Pにより移動し、位置合わせ用ピン112と位置あわせ用穴113が嵌合し、対向面20a1,20b1同士が対向する。
【0045】
図10は、2つの金型20a,20bが嵌合により対向したときの側面20a2,20b2を示す図であり、2つの金型20a,20bにそれぞれ形成された鉄心載置空間114a,114bにより、嵌合時には台形状の空間を構成していることがわかる。
【0046】
また、以上の説明から想起できるように、図9の嵌合開始前の状態において、鉄心載置空間114a,114bに図1に示すような1つの円筒状巻鉄心100を、巻き面を手前に配置し、その後外力Pにより対抗面20a1,20b1を嵌合状態とすれば、図8のような台形状巻鉄心111が得られる。
【0047】
また、嵌合時の鉄心載置空間の金型形状を工夫すれば、第系以外の断面形状の巻き鉄心を得ることができる。図11は巻鉄心の形状の一例として長方形を示す。この場合にも切断箇所は断面の任意の方向に形成されている。
【0048】
第2実施例に係る巻鉄心は、第1実施形態の円筒状巻鉄心と共通するところが多いので、以下、共通部分については詳しい説明は省略し、異なる部分を重点的に説明する。
【0049】
本実施例においては、実施例1により構成した円筒状鉄心を用い、他の形状を持つ鉄心を成形する。まず、成形用冶具について説明する。成形精度を向上させるため、成形冶具本体(金型)は少なくとも二つ分離されている冶具から構成される。成形冶具の中心に所望鉄心の形状としたスベース(鉄心載置空間114a,114b)を設ける。成形する時、冶具の位置を高精度に合わせるため、冶具で位置合わせるピンなどの合わせ手段が設けられる。成形冶具の材料は強度が高い材料が好ましい。
【0050】
本実施例に関する巻鉄心の製造方法は、
(a)実施例1により円筒状鉄心を構成し、
(b)構成した円筒状鉄心は成形冶具中で所定位置に配置し、金型20a,20bは位置合わせながら、外部から力をかけて、図10に示すように、金型20a,20bを合わせる。外部の力は、金型20a,20bに設けているネジ穴115を用いる、ネジで締める力やプレス機により締める力を含む。
(c)外力をかけて形成した鉄心は、金型20a,20bに収納したまま、焼鈍炉である程度焼鈍することが好ましい。それにより、外部応力により溜まっているストレスが解消でき、鉄心の磁気特性を向上できる。また、焼鈍することにより、鉄心は金型20a,20bから外した後、特に、別の固定手段がなくても、鉄心形状を維持することができる。以上の固定により、図8に示した台形状鉄心を得ることができる。
【0051】
上記方法により形成した図8の台形巻鉄心111は、角度Rが設けられていることを特徴とする。また、鉄心の中心の穴は、変形する前の巻鉄心より小さいことを特徴とする。
【0052】
上記方法では台形状鉄心について説明したが、他の形状の鉄心も同様な方法で形成できる。図11は、長方形の巻鉄心の例を示す。
【0053】
本実施例によれば、以下の効果を奏する。
【0054】
(1)成形度自由な巻鉄心を提供できる。円筒状巻鉄心に限らず、金型20a,20bの形状により、様々な形状を持つ巻鉄心を成形できる。
【0055】
(2)低鉄損な巻鉄心を提供できる。巻鉄心を構成している磁性薄帯は切断されているため、渦電流損が低減できる。また、巻鉄心に焼鈍をされているため、ヒステリシス損が低減できる。従って、鉄損を低減できる。
【0056】
(3)高占積率な巻鉄心を提供できる。磁性薄帯の各層の間に接着材や樹脂などのものを設けていないため、鉄心の占積率が向上できる。また、金型20a,20bを介して、外部力で、形状を再成形する際、切断されている薄帯は隙間に動くことができ、鉄心の隙間を解消でき、占積率が高くになる。
【0057】
(4)鉄心の磁気特性を向上できる。本実施例により、鉄心の中心部に、穴が潰すことができ、漏れ磁束が低減できるため、鉄心の磁気特性を向上できる。
【実施例3】
【0058】
本実施例では、図12〜15を用いて、実施例2で得られた台形巻鉄心を適用した回転機の一例について説明する。本実施例では、アキシャルギャップモータについて説明するが、他のタイプのモータ、例えば、ラジアルギャップモータやトロイダルモータなどにも適用できる。
【0059】
図12に、モータのステータの1スロット分を示す。ここでは、切断されている薄帯から構成した実施例2の台形状巻鉄心111の外周に、コイル116を配置して、ステータの1スロット分としている。この場合に、台形状巻鉄心111とコイル116の間は絶縁されている。なお、鉄心の断面形状が台形の例で説明したが、これは必須ではない。そのかわりに、円形、長方形、角を丸めた三角形など、任意の所望の形状とすることが可能である。角付きの鉄心は、外周のコイルの絶縁層が破れないように、角度Rを付けることが好ましい。
【0060】
図13に、9スロットのステータを示す。鉄心111とコイル116は、周方向に等間隔で配置されている。また、スロットとスロットの間には絶縁物(図示せず)を挟む。ステータ全体は、樹脂モールドで固定される。図13は、個々が図12の台形状のスロットについて、複数の台形状スロットを、その上底部同士と下底部同士を絶縁物を介して複数個隣接配置し、ドーナツ状の構造物を形成し、これをモールドして構成したステータである。
【0061】
なお、図12のモータのステータの1スロット分、あるいは図13の複数スロットのステータは、いずれも最終製品から見れば中間的な部材であることから、本明細書においてはこれらを纏めて電磁部品として取り扱うことにする。
【0062】
図14に、10極ロータを示す。磁石117は、等間隔にロータヨーク118の表面に10個配置する。磁石117は、他の磁気材料でもかまわない、場合によっては、電磁石でもよい。また、磁石117の形状も任意の適切な形状でよい。ロータヨーク118は、鉄ベースの材料または他の磁気材料から構築する。ロータヨークの鉄損、主に渦電流損を低減するため、実施例1に示した薄帯から構成したトロイダル状巻鉄心が好ましい。
【0063】
図15は、2ロータ1ステータのアキシャルギャップモータを示す。アキシャルギャップモータでは、モータハウジング120内に、図14に図示したロータ130を2組備えており、ロータ130の間に、図13に図示したステータ140を、エアギャップを介して挟む構造である。なお、ロータ130とシャフト119は固定され、ステータ140はハウジング120に固定されている。またシャフト119は、ベアリング121により、ステータ140に回転可能に保持される。またロータヨークはベアリングの内輪を押さえる構造となっている。
【0064】
また、ステータ140は、図13のように構成され、図15の位置に配置されている。つまり、9スロットのステータ140を構成する各スロットについてみると、図12の形状をしており、図12の巻き鉄心111の上下面にエアギャップを介してロータ130の磁石117が面している。また、図13のステータ140は、樹枝モールド123されている。
【0065】
このため、ロータ130側の磁石117と、ステータ140側のステータコア141は対向するように設置されている。そのため、ロータ130から発生している磁束Φは、ステータコア141の巻き鉄心111の積層方向143と垂直になって、磁性薄帯の面内には渦電流が流れない。
【0066】
この結果、磁性薄帯の厚みある面で流れている渦電流について、切り口が設けられている巻鉄心を用いることより、渦電流ループが短くできるため、鉄心全体の鉄損が低減できる。
【符号の説明】
【0067】
100:巻鉄心
101:磁性薄帯1
102:磁性薄帯2
104:切り口
105:磁性薄帯母体
106:カッター
107:巻枠
108:巻鉄心
109:巻鉄心
111:台形巻鉄心
112:位置合わせ用ピン
113:ネジ穴
114:巻き鉄心載置用空間
115:長方形鉄心
116:コイル
117:磁石
118:ロータヨーク
119:シャフト
120:モータハウジング
121:ベアリング
123:樹脂モールド
【技術分野】
【0001】
本発明は、巻鉄心、電磁部品とその製造方法および電磁機器に係り、特に鉄心全体の鉄損を低減することができる巻鉄心、電磁部品とその製造方法および電磁機器に関する。
【背景技術】
【0002】
省エネルギー、軽量化と低コスト化の観点から、モータや発電機、変圧器などの回転型或いは静止型の電磁機器には、非常に高い効率と出力密度が要求されている。このうち効率向上のためには、鉄心を構成する磁性薄帯や板が薄いほどよく、一般的に使われる電磁鋼板の厚みは0.5mmから0.1mmまで薄くされている。また、非晶質金属薄帯は、μmレベルの厚みになっている。
【0003】
板や薄帯の厚みを薄くすると、鉄損の一種類である渦電流損が低減できる。渦電流の大きさと鉄心の電気抵抗の間には、電気抵抗が大きい磁性材料は渦電流が流れにくいため、渦電流により発生する損失が低いという関係がある。また、磁性材料の薄帯(または板)の電気抵抗は、その長さと厚みに関係する。薄帯は短いほど、抵抗が大きくなる。また薄いほど、抵抗が大きくなる。そのため、低鉄損鉄心とするために、鋼板の板を積層した鉄心が最も広く採用されている。
【0004】
しかし、薄い薄帯に対し、打ち抜き加工や積層するなどの加工方法を適用することが困難である。その理由は、薄帯が薄くなると、同じ寸法の鉄心を作るための加工回数が多くなるので、コストが増えることにある。また、ほとんどの薄帯は外部応力の影響を受けやすいため、機械加工後、焼鈍などの後処理が必要となっている。また、容易に製造することが非常に困難である。
【0005】
アモルファス合金の薄帯から巻鉄心を製造することについて、特許文献1では、連続的なアモルファスリボンが巻かれた鉄心を使用している。
【0006】
特許文献2には、「リボン状のアモルファス金属間に、絶縁物を挟む」ことと、「固定子鉄心にスリットを有する」ことと、「巻回したリボン状のアモルファス金属は、径方向に切断されること」が、渦電流損を低減するのに有効であると記載されている。
【0007】
特許文献3には、変圧器用アモルファス鉄心が記載されている。「非晶質磁性合金薄帯を所定枚数積層し、かつ、これをそれぞれ所要の長さ寸法毎に順次切断して形成した複数の長さ寸法の異なる単位鉄心素板を、所要数階段状に積層して1ブロック分の鉄心素体群を形成し、これら鉄心素体群を、1ブロック毎に突き合せ接合し、かつ、前記鉄心素体群の突き合せ接合部が順次ずれるオーバーステップラップ接合方式とステップラップ接合方式とを組合せ・接合して1ターンカット方式の巻鉄心を形成する」と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−136348号公報
【特許文献2】特開2009−284578号公報
【特許文献3】特開2000−173831号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以上述べたように、アモルファス合金の薄帯から巻鉄心を製造することについて、多くのものが知られている。
【0010】
ここで、鉄心の鉄損には、渦電流損とヒステリシス損の2種類がある。このうち、ヒステリシス損は焼鈍することで、低減できる。これに対し渦電流損は、渦電流が流れるルート、磁場強度などの要素が関係しており、アモルファスリボンが長いほど、渦電流損が大きくなる関係にある。
【0011】
このため、特許文献1のアモルファスリボンが巻かれたアモルファス鉄心は、製造しやすいが、渦電流損が大きいという問題がある。特に、高速回転機に適用すると、鉄損が非常に大きくなる。
【0012】
特許文献2の渦電流損を低減させる方法では、連続的なアモルファスリボンから巻かれた鉄心の渦電流ルートをカットするようにスリット加工を取り入れているので、剥離を防止するためのモールドを必要とする。このため、鉄心の製作工程はアモルファスリボンを巻く作業、焼鈍成形作業、樹脂モールド作業とスリット加工作業が必要である。
【0013】
特許文献2に開示された手法では、製造工程が多く、かつ、アモルファス鉄心を切断する容易な方法がなく、鉄心の製造コストが高い。また、アモルファス鉄心にモールドとスリット加工をしたあと、鉄心内部にストレスがかかるため、ヒステリシス損が増加する。更に、鉄心の中心に巻冶具用の穴が残っているため、モータに適用する際空間の利用率が低下する。
【0014】
特許文献3に開示された発明も特許文献2と同じように、アモルファス積層体を切断することがある。アモルファス合金は非常に硬いものであるため、アモルファス合金から構成したブロックを切断すると、冶具を消耗し速く、切断時間が長いので、コストが非常に高くなる。
【0015】
以上のことから本発明においては、低鉄損・低コストとすることができる磁性薄帯から構成した巻鉄心、電磁部品とその製造方法および電磁機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために本発明の巻鉄心は、磁性を有する薄帯を軸方向に巻回して構成した巻鉄心であって、軸方向端部面の前記薄帯各所に切欠部が形成されると共に、切欠部は巻鉄心径方向のランダムな方向に配置されている。
【0017】
また切欠部は、前記薄帯の長手方向に直交する方向に形成された切断箇所である。
【0018】
また軸方向端部面が台形状に形成されている。
【0019】
上記課題を解決するために本発明の電磁部品は、磁性を有する薄帯を軸方向に巻回して巻き鉄心を構成し、該巻き鉄心の径方向外周に絶縁を介してコイルを巻回してなる電磁部品において、巻き鉄心の軸方向端部面の薄帯各所に切欠部が形成されると共に、切欠部は鉄心径方向のランダムな方向に配置されている。
【0020】
また、複数の台形状電磁部品を、その上底部同士と下底部同士を、絶縁物を介して複数個隣接配置して、ドーナツ状の構造物を形成し、これをモールドして構成した。
【0021】
また、円筒状に形成された電磁部品を台形状の空間を備えた金型で押圧して形成した。
【0022】
また、円筒状に形成された電磁部品を台形状の空間を備えた金型で押圧して形成したのちに、金型ごと焼鈍させる。
【0023】
上記課題を解決するために本発明の製造方法は、磁性を有する薄帯を軸方向に巻回し、軸方向端部面の前記薄帯各所に切欠部が形成されると共に、切欠部は径方向のランダムな方向に配置された巻鉄心について、その周方向にコイルを巻回して電磁部品とし、円筒状に形成された当該電磁部品を台形状の空間を備えた金型で押圧して形成したのちに、金型ごと焼鈍させる。
【0024】
上記課題を解決するために本発明の電磁機器は、磁性を有する薄帯を軸方向に巻回し、軸方向端部面の前記薄帯各所に切欠部が形成されると共に、切欠部は径方向のランダムな方向に配置された巻鉄心について、その周方向にコイルを巻回してスロットとし、スロットの前記軸方向端部面を台形状に形成し、当該台形状のスロットについて、複数の台形状スロットを、その上底部同士と下底部同士を、絶縁物を介して複数個隣接配置してドーナツ状とし、これをモールドしてステータとなし、ステータの中心部に回転軸を回転可能に保持し、ステータの回転軸に直交する面に回転軸に固定され、磁石を備えたロータを対面させて構成される。
【発明の効果】
【0025】
本発明により、鉄心を切断する必要がなくなり、製作コストが低減できる。鉄心の鉄損について、渦電流損とヒステリシス損が低減できるので、鉄損を低減できる。また、巻鉄心は円筒状が一般的であるが、本発明は他の形状を形成できる巻鉄心を提供する。それにより、回転機と静止器に適用する所望な鉄心を得られる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の鉄心の一例として円筒状巻鉄心を示す図。
【図2】切断箇所前後の接合処理について説明する図。
【図3】切断箇所前後の接合処理について説明する図。
【図4】切断に代えて切り欠部を設けた例を示す図。
【図5】円筒状巻鉄心の製造方法の一例を示す図。
【図6】円筒状巻鉄心の製造方法の他の一例を示す図。
【図7】巻鉄心の薄帯長さと、渦電流損係数の関係の実測値を示す図。
【図8】本発明の鉄心の一例として台形状巻鉄心を示す図。
【図9】台形状巻鉄心を成形するための冶具の一例を示す図。
【図10】2つの金型が嵌合により対向したときの側面を示す図。
【図11】巻鉄心の形状の一例として長方形を示す図。
【図12】モータのステータの1スロット分を示す図。
【図13】9スロットのステータを示す図。
【図14】10極ロータを示す図。
【図15】2ロータ1ステータのアキシャルギャップモータを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明に係る鉄心およびそれを用いた電磁機器の実施例について図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0028】
実施例1では、鉄心の一例として円筒状巻鉄心について説明する。
【0029】
図1は、実施例1に関わる円筒状巻鉄心の斜視図(図1左)と正面図(図1右)を示す。図1に示すように、実施例1の渦巻円筒状鉄心100は、その巻始まりから巻終わりまで、連続ではなく、数箇所で切断されている。また、切断箇所(100a,100b,100c)は径方向の同じ場所ではなく、ランダムに配置されていることを特徴とする。
【0030】
切断箇所(100a,100b,100c)前後の接合について、図2乃至図4のいずれとしてもよい。例えば図2の例では切断箇所100aについて、内周側の磁性部材(例えば磁性薄帯101)と外周側の磁性部材(例えば磁性薄帯102)は、隣接しており、非オーバーラップ方式とされている。切断箇所(100a,100b,100c)をランダムに配置することにより、非オーバーラップ方式で接合された鉄心について、鉄心の一箇所だけで突出することが避けられる。
【0031】
なお、非オーバーラップ方式の場合、内周側の磁性部材(例えば磁性薄帯101)と外周側の磁性部材(例えば磁性薄帯102)の間の距離は、問題としない。半周ほど離れた位置に置かれてもよい。あとで、この例を図6で説明する。
【0032】
図3の例では切断箇所100aについて、内周側の磁性部材(例えば磁性薄帯101)と外周側の磁性部材(例えば磁性薄帯102)は、重なっており、オーバーラップ方式とされている。オーバーラップ方式で接合された鉄心について、仮に切断が径方向の一箇所に集中すると、回転機に適用する際、磁気抵抗が増加したり、漏れ磁束が発生する。ここでは、切り口を径方向にランダムに配置することで、漏れ磁束を低減することができる。また、巻鉄心の切断された薄帯の長さは、同一の長さにする必要がない。長さが異なる薄帯の組み合わせにしてもよい。完全に分離されている薄帯から巻鉄心に構成することにしても良い。
【0033】
図2、図3の実施例では、リボン状の磁性部材を、長手方向に直交する方向に適宜の箇所で切断しているが、本発明の他の実施例では、切断して二分する(完全切断)必要はない。図4に示すように、切り欠部104が設けられている磁性薄帯から構成することにしても良い。つまり、リボン状の磁性部材の長手方向の端部の適宜の箇所に切り欠部104を設けてもよい。
【0034】
図2から図4の切断は、いずれもリボン状の磁性部材の長手方向の端部の適宜の箇所に切り欠部104を設けたものであり、切り欠部104が他端部まで達して切断の形になったものが図2、図3であるといえる。
【0035】
図5は、本実施例に関わる円筒状巻鉄心の製造方法の一例を示す。まず、長尺の磁性薄帯母材105が準備される。これはドラム状に巻回されている。他方、巻き取り機(図示せず)を設置し、長尺の磁性薄帯母材105の一端(巻始まり端)を巻き取り機の巻枠107に固定し、巻き取り機により所定長さを巻回して、カッター106により切断する。切断された磁性薄帯の端部(巻終わり端)は、巻枠107に巻いた鉄心に接着材や溶接などの接着手段で止める。ここで、巻枠107に巻いた鉄心を接着手段で止めるのは、バラけてしまうのを防止するためであり、種々の仮止め手段を適用することができる。
【0036】
次に、巻回した鉄心の所定位置に、磁性薄帯母材105の巻始まり端を再度固定し、再巻回し、所定長さで切断して、巻終わり端を固定する。上記の工程は、必要な外径になるまでに、数回を繰り返すことにより、所望サイズの巻鉄心を得ることができる。なお、巻回した鉄心の所定位置に、磁性薄帯母材105の巻始まり端を再度固定するときには、切断箇所(100a,100b,100c)が径方向の同じ場所でないように位置決めする。
【0037】
図6は、本実施例に関わる円筒状巻鉄心の製造方法の他の一例を示す。この例では、最初に所定長さの磁性薄帯から巻鉄心108を製造する。同様に磁性薄帯から巻鉄心109を製造する。巻鉄心108の外径は、巻鉄心109の内径以上とする。それぞれ個別構成された巻鉄心は、大径の巻鉄心の内部に、小径の巻鉄心を内装するように組み合わされ、巻鉄心を構成する。本製造方法は、大径巻鉄心の内径は、小径巻鉄心の外径と同じかそれ以上とすることを特徴とする。用途により、巻鉄心間に接着手段を設けても良い。
【0038】
この図6の左および中央の図示では、巻鉄心108、109はいずれも右巻きの位置にある。これに対し、同図右の重ね合わせの図では、巻鉄心109を左巻きの位置で重ねている。本発明では、切断部分があればよく、巻鉄心108、109の巻き方向はいずれでもよい。また、同図右の重ね合わせの図では、大径の巻鉄心109の巻始位置109Sと、小径の巻鉄心108の巻き終わり位置108Eが図2に比べて離れているが、本発明では、この間の距離の遠近は問題ではない。
【0039】
鉄心の製造方法は、上述した方法に限られず、本発明の鉄心の特徴を備える限りにおいて、様々の方法を用いることができる。また、鉄心の断面形状は円形を有するように以上では説明してきたが、これは、必須ではない。長方形、台形、角丸め三角形など、任意の所望の形状を有することが可能である。
【0040】
本発明では、巻方向のランダムな位置に切断部が設けられていることが重要である。また、鉄心を構成する磁性薄帯は一種類には限定されない。複数種類の磁性薄帯から一つの鉄心を構成することもできる。
【0041】
本実施例で製造された巻鉄心に、ある程度焼鈍することが好ましい。焼鈍することにより、巻鉄心の中に溜まっているストレスが開放でき、ヒステリシス損が低減できる。
【0042】
本実施例によれば、
(1)低鉄損巻鉄心を提供できる。巻鉄心を回転機に適用する際、切断箇所で渦電流を流れるループ(回路)をカットでき、渦電流損が低減できる。図7には、アモルファス合金のリボン状の薄帯を切断して構成した巻鉄心の薄帯長さ(横軸)と、渦電流損係数(縦軸)の関係の実測値を示す。巻鉄心を構成する薄帯の長さが短いほど、渦電流損が低くなることがわかる。なお、図1、図2、図3、図6の場合に薄帯の長さは、切断面の間の長手方向距離であり、図4の場合には切り欠部の間の距離に相当する。
(2)磁気特性の良い鉄心を提供することができる。本実施例により、巻鉄心の内部の切断箇所は一箇所に集中していないので、漏れ磁束を低減できる。
(3)低コストな巻鉄心を提供することができる。薄帯のブロックに切断することがなく、加工コストが低減できる。
(4)製造簡単な巻鉄心を提供することができる。本実施例によれば、巻鉄心に切断しないため、薄帯層間接着、モールドなどの剥離対策手段が必要ない。また、層間に接着材が必要ないため、鉄心の占積率も向上できる。
【実施例2】
【0043】
実施例2では、台形状巻鉄心を製造することについて、図8〜図11に基づいて説明する。図8は、第2実施例に係る台形状巻鉄心の斜視図と正面図である。図8の台形状巻鉄心を図1の円筒状巻鉄心と比較すると、断面形状が台形か、円形かという相違のみで、切り口111aが、任意の方向に設けられているという意味では同じである。
【0044】
図9は図8の台形状巻鉄心を成形するための冶具の一例を示す。成形冶具は、2つの金型20a,20bで構成される。図9では、理解を容易にするために2つの金型20a,20bの対向面20a1,20b1が見えるような位置に図示している。対向面20a1,20b1には、鉄心載置空間114a,114bと、位置合わせ用ピン112、位置あわせ用穴113が設けられている。また、2つの金型20a,20bは、外力Pにより移動し、位置合わせ用ピン112と位置あわせ用穴113が嵌合し、対向面20a1,20b1同士が対向する。
【0045】
図10は、2つの金型20a,20bが嵌合により対向したときの側面20a2,20b2を示す図であり、2つの金型20a,20bにそれぞれ形成された鉄心載置空間114a,114bにより、嵌合時には台形状の空間を構成していることがわかる。
【0046】
また、以上の説明から想起できるように、図9の嵌合開始前の状態において、鉄心載置空間114a,114bに図1に示すような1つの円筒状巻鉄心100を、巻き面を手前に配置し、その後外力Pにより対抗面20a1,20b1を嵌合状態とすれば、図8のような台形状巻鉄心111が得られる。
【0047】
また、嵌合時の鉄心載置空間の金型形状を工夫すれば、第系以外の断面形状の巻き鉄心を得ることができる。図11は巻鉄心の形状の一例として長方形を示す。この場合にも切断箇所は断面の任意の方向に形成されている。
【0048】
第2実施例に係る巻鉄心は、第1実施形態の円筒状巻鉄心と共通するところが多いので、以下、共通部分については詳しい説明は省略し、異なる部分を重点的に説明する。
【0049】
本実施例においては、実施例1により構成した円筒状鉄心を用い、他の形状を持つ鉄心を成形する。まず、成形用冶具について説明する。成形精度を向上させるため、成形冶具本体(金型)は少なくとも二つ分離されている冶具から構成される。成形冶具の中心に所望鉄心の形状としたスベース(鉄心載置空間114a,114b)を設ける。成形する時、冶具の位置を高精度に合わせるため、冶具で位置合わせるピンなどの合わせ手段が設けられる。成形冶具の材料は強度が高い材料が好ましい。
【0050】
本実施例に関する巻鉄心の製造方法は、
(a)実施例1により円筒状鉄心を構成し、
(b)構成した円筒状鉄心は成形冶具中で所定位置に配置し、金型20a,20bは位置合わせながら、外部から力をかけて、図10に示すように、金型20a,20bを合わせる。外部の力は、金型20a,20bに設けているネジ穴115を用いる、ネジで締める力やプレス機により締める力を含む。
(c)外力をかけて形成した鉄心は、金型20a,20bに収納したまま、焼鈍炉である程度焼鈍することが好ましい。それにより、外部応力により溜まっているストレスが解消でき、鉄心の磁気特性を向上できる。また、焼鈍することにより、鉄心は金型20a,20bから外した後、特に、別の固定手段がなくても、鉄心形状を維持することができる。以上の固定により、図8に示した台形状鉄心を得ることができる。
【0051】
上記方法により形成した図8の台形巻鉄心111は、角度Rが設けられていることを特徴とする。また、鉄心の中心の穴は、変形する前の巻鉄心より小さいことを特徴とする。
【0052】
上記方法では台形状鉄心について説明したが、他の形状の鉄心も同様な方法で形成できる。図11は、長方形の巻鉄心の例を示す。
【0053】
本実施例によれば、以下の効果を奏する。
【0054】
(1)成形度自由な巻鉄心を提供できる。円筒状巻鉄心に限らず、金型20a,20bの形状により、様々な形状を持つ巻鉄心を成形できる。
【0055】
(2)低鉄損な巻鉄心を提供できる。巻鉄心を構成している磁性薄帯は切断されているため、渦電流損が低減できる。また、巻鉄心に焼鈍をされているため、ヒステリシス損が低減できる。従って、鉄損を低減できる。
【0056】
(3)高占積率な巻鉄心を提供できる。磁性薄帯の各層の間に接着材や樹脂などのものを設けていないため、鉄心の占積率が向上できる。また、金型20a,20bを介して、外部力で、形状を再成形する際、切断されている薄帯は隙間に動くことができ、鉄心の隙間を解消でき、占積率が高くになる。
【0057】
(4)鉄心の磁気特性を向上できる。本実施例により、鉄心の中心部に、穴が潰すことができ、漏れ磁束が低減できるため、鉄心の磁気特性を向上できる。
【実施例3】
【0058】
本実施例では、図12〜15を用いて、実施例2で得られた台形巻鉄心を適用した回転機の一例について説明する。本実施例では、アキシャルギャップモータについて説明するが、他のタイプのモータ、例えば、ラジアルギャップモータやトロイダルモータなどにも適用できる。
【0059】
図12に、モータのステータの1スロット分を示す。ここでは、切断されている薄帯から構成した実施例2の台形状巻鉄心111の外周に、コイル116を配置して、ステータの1スロット分としている。この場合に、台形状巻鉄心111とコイル116の間は絶縁されている。なお、鉄心の断面形状が台形の例で説明したが、これは必須ではない。そのかわりに、円形、長方形、角を丸めた三角形など、任意の所望の形状とすることが可能である。角付きの鉄心は、外周のコイルの絶縁層が破れないように、角度Rを付けることが好ましい。
【0060】
図13に、9スロットのステータを示す。鉄心111とコイル116は、周方向に等間隔で配置されている。また、スロットとスロットの間には絶縁物(図示せず)を挟む。ステータ全体は、樹脂モールドで固定される。図13は、個々が図12の台形状のスロットについて、複数の台形状スロットを、その上底部同士と下底部同士を絶縁物を介して複数個隣接配置し、ドーナツ状の構造物を形成し、これをモールドして構成したステータである。
【0061】
なお、図12のモータのステータの1スロット分、あるいは図13の複数スロットのステータは、いずれも最終製品から見れば中間的な部材であることから、本明細書においてはこれらを纏めて電磁部品として取り扱うことにする。
【0062】
図14に、10極ロータを示す。磁石117は、等間隔にロータヨーク118の表面に10個配置する。磁石117は、他の磁気材料でもかまわない、場合によっては、電磁石でもよい。また、磁石117の形状も任意の適切な形状でよい。ロータヨーク118は、鉄ベースの材料または他の磁気材料から構築する。ロータヨークの鉄損、主に渦電流損を低減するため、実施例1に示した薄帯から構成したトロイダル状巻鉄心が好ましい。
【0063】
図15は、2ロータ1ステータのアキシャルギャップモータを示す。アキシャルギャップモータでは、モータハウジング120内に、図14に図示したロータ130を2組備えており、ロータ130の間に、図13に図示したステータ140を、エアギャップを介して挟む構造である。なお、ロータ130とシャフト119は固定され、ステータ140はハウジング120に固定されている。またシャフト119は、ベアリング121により、ステータ140に回転可能に保持される。またロータヨークはベアリングの内輪を押さえる構造となっている。
【0064】
また、ステータ140は、図13のように構成され、図15の位置に配置されている。つまり、9スロットのステータ140を構成する各スロットについてみると、図12の形状をしており、図12の巻き鉄心111の上下面にエアギャップを介してロータ130の磁石117が面している。また、図13のステータ140は、樹枝モールド123されている。
【0065】
このため、ロータ130側の磁石117と、ステータ140側のステータコア141は対向するように設置されている。そのため、ロータ130から発生している磁束Φは、ステータコア141の巻き鉄心111の積層方向143と垂直になって、磁性薄帯の面内には渦電流が流れない。
【0066】
この結果、磁性薄帯の厚みある面で流れている渦電流について、切り口が設けられている巻鉄心を用いることより、渦電流ループが短くできるため、鉄心全体の鉄損が低減できる。
【符号の説明】
【0067】
100:巻鉄心
101:磁性薄帯1
102:磁性薄帯2
104:切り口
105:磁性薄帯母体
106:カッター
107:巻枠
108:巻鉄心
109:巻鉄心
111:台形巻鉄心
112:位置合わせ用ピン
113:ネジ穴
114:巻き鉄心載置用空間
115:長方形鉄心
116:コイル
117:磁石
118:ロータヨーク
119:シャフト
120:モータハウジング
121:ベアリング
123:樹脂モールド
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性を有する薄帯を軸方向に巻回して構成した巻鉄心であって、
軸方向端部面の前記薄帯各所に切欠部が形成されると共に、切欠部は巻鉄心径方向のランダムな方向に配置されていることを特徴とする巻鉄心。
【請求項2】
請求項1に記載の巻鉄心において、
前記切欠部は、前記薄帯の長手方向に直交する方向に形成された切断箇所であることを特徴とする巻鉄心。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の巻鉄心において、
前記軸方向端部面が台形状に形成されていることを特徴とする巻鉄心。
【請求項4】
磁性を有する薄帯を軸方向に巻回して巻き鉄心を構成し、該巻き鉄心の径方向外周に絶縁を介してコイルを巻回してなる電磁部品において、
前記巻き鉄心の軸方向端部面の前記薄帯各所に切欠部が形成されると共に、切欠部は鉄心径方向のランダムな方向に配置されている電磁部品。
【請求項5】
請求項4に記載の電磁部品において、
前記切欠部は、前記薄帯の長手方向に直交する方向に形成された切断箇所であることを特徴とする電磁部品。
【請求項6】
請求項4または請求項5に記載の電磁部品において、
前記軸方向端部面が台形状に形成されていることを特徴とする電磁部品。
【請求項7】
請求項6に記載の台形状電磁部品について、複数の台形状電磁部品を、その上底部同士と下底部同士を、絶縁物を介して複数個隣接配置して、ドーナツ状の構造物を形成し、これをモールドして構成した電磁部品。
【請求項8】
請求項6または請求項7に記載の台形状電磁部品は、円筒状に形成された電磁部品を台形状の空間を備えた金型で押圧して形成したものであることを特徴とする電磁部品。
【請求項9】
請求項8に記載の台形状電磁部品は、円筒状に形成された電磁部品を台形状の空間を備えた金型で押圧して形成したのちに、金型ごと焼鈍させることを特徴とする電磁部品。
【請求項10】
磁性を有する薄帯を軸方向に巻回し、軸方向端部面の前記薄帯各所に切欠部が形成されると共に、切欠部は径方向のランダムな方向に配置された巻鉄心について、その周方向にコイルを巻回して電磁部品とし、円筒状に形成された当該電磁部品を台形状の空間を備えた金型で押圧して形成したのちに、金型ごと焼鈍させることを特徴とする電磁部品の製造方法。
【請求項11】
磁性を有する薄帯を軸方向に巻回し、軸方向端部面の前記薄帯各所に切欠部が形成されると共に、切欠部は径方向のランダムな方向に配置された巻鉄心について、その周方向にコイルを巻回してスロットとし、スロットの前記軸方向端部面を台形状に形成し、当該台形状のスロットについて、複数の台形状スロットを、その上底部同士と下底部同士を、絶縁物を介して複数個隣接配置してドーナツ状とし、これをモールドしてステータとなし、ステータの中心部に回転軸を回転可能に保持し、ステータの回転軸に直交する面に回転軸に固定され、磁石を備えたロータを対面させて構成された電気機器。
【請求項1】
磁性を有する薄帯を軸方向に巻回して構成した巻鉄心であって、
軸方向端部面の前記薄帯各所に切欠部が形成されると共に、切欠部は巻鉄心径方向のランダムな方向に配置されていることを特徴とする巻鉄心。
【請求項2】
請求項1に記載の巻鉄心において、
前記切欠部は、前記薄帯の長手方向に直交する方向に形成された切断箇所であることを特徴とする巻鉄心。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の巻鉄心において、
前記軸方向端部面が台形状に形成されていることを特徴とする巻鉄心。
【請求項4】
磁性を有する薄帯を軸方向に巻回して巻き鉄心を構成し、該巻き鉄心の径方向外周に絶縁を介してコイルを巻回してなる電磁部品において、
前記巻き鉄心の軸方向端部面の前記薄帯各所に切欠部が形成されると共に、切欠部は鉄心径方向のランダムな方向に配置されている電磁部品。
【請求項5】
請求項4に記載の電磁部品において、
前記切欠部は、前記薄帯の長手方向に直交する方向に形成された切断箇所であることを特徴とする電磁部品。
【請求項6】
請求項4または請求項5に記載の電磁部品において、
前記軸方向端部面が台形状に形成されていることを特徴とする電磁部品。
【請求項7】
請求項6に記載の台形状電磁部品について、複数の台形状電磁部品を、その上底部同士と下底部同士を、絶縁物を介して複数個隣接配置して、ドーナツ状の構造物を形成し、これをモールドして構成した電磁部品。
【請求項8】
請求項6または請求項7に記載の台形状電磁部品は、円筒状に形成された電磁部品を台形状の空間を備えた金型で押圧して形成したものであることを特徴とする電磁部品。
【請求項9】
請求項8に記載の台形状電磁部品は、円筒状に形成された電磁部品を台形状の空間を備えた金型で押圧して形成したのちに、金型ごと焼鈍させることを特徴とする電磁部品。
【請求項10】
磁性を有する薄帯を軸方向に巻回し、軸方向端部面の前記薄帯各所に切欠部が形成されると共に、切欠部は径方向のランダムな方向に配置された巻鉄心について、その周方向にコイルを巻回して電磁部品とし、円筒状に形成された当該電磁部品を台形状の空間を備えた金型で押圧して形成したのちに、金型ごと焼鈍させることを特徴とする電磁部品の製造方法。
【請求項11】
磁性を有する薄帯を軸方向に巻回し、軸方向端部面の前記薄帯各所に切欠部が形成されると共に、切欠部は径方向のランダムな方向に配置された巻鉄心について、その周方向にコイルを巻回してスロットとし、スロットの前記軸方向端部面を台形状に形成し、当該台形状のスロットについて、複数の台形状スロットを、その上底部同士と下底部同士を、絶縁物を介して複数個隣接配置してドーナツ状とし、これをモールドしてステータとなし、ステータの中心部に回転軸を回転可能に保持し、ステータの回転軸に直交する面に回転軸に固定され、磁石を備えたロータを対面させて構成された電気機器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
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【図4】
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【図11】
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【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2012−210106(P2012−210106A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−74800(P2011−74800)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】
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